旅鼠の厭世詩

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1:レミング◆yc:2019/09/13(金) 12:00

思い付いたときに詩を書いていきます。

詩ではなく短文に思えることもあると思いますが、
本人は詩のつもりで書いております。

乱入は可ですが、感想を添えて頂けると幸いです。
また、こちらからの感想はあまり期待しないでください。
何分、自分の意見を述べるのが苦手なもので。

160:レミング◆yc:2020/09/03(木) 16:14

「私の方が」

思わず口をついてしまいそうになる

その娘は貴方を捕らえる檻なのよと
伝えたってきっと無駄だから

その視線の先にいたくて
貴方を想う胸が痛くて

嫉妬で狂ってしまいそう
貴方を拐ってしまいそう

どうして私じゃないの
どうしてその娘が良いの

私の方が
貴方を幸せにできるのに

私の方が
貴方だけを見ていられるのに

私の方が
貴方をずっと想っているのに

いっそ壊れてしまえば良いんだわ

貴方の心も身体も
ぐちゃぐちゃになって
私がひとつひとつ直していくの

壊れた心をひとかけら
ポケットに隠して

泣いて頂戴
満たされない空虚を抱えて

縋って頂戴
情けなく涙も拭わぬままで

喚いて頂戴
お前しかいないんだと

どうか言ってよ

161:レミング◆yc:2020/09/07(月) 22:08

すっ空かんの金魚鉢
なんにもいないさ
水も入っていない

それでもね
何故か時々縁のあたりに
波紋が見えるんだ

そこに銀いろの膜が張って
まぁるい円がギロギロ広がり
そのうちふいと消えていく

僕は一体
なにを飼っているのだろうねぇ

あまり
穏やかなものじゃないのは
確かだけれど

ほら見て御覧
金魚鉢に虫が近づくと……

汚い体液を撒き散らし
捻れたように潰れてしまう

ああそうだ!
君、ちょっと手を
貸してくれないか?

何もしないさ
僕はなんにも

いきなり突っ込んで来た
“侵入者”に
“そいつ”が何をするかが
知りたいだけだよ……

162:レミング◆yc:2020/09/08(火) 16:40

僕は
「月が綺麗ですね」
と言った

女は
「死んでも良いわ」
と答えた

僕は深く失望し
女の首に手をかけた

僕は
「月が綺麗ですね」
と言った

男は
「どうでも良い」
と答えた

僕は深く憂いを湛え
男を下へ突き落とした

僕は
「月が綺麗ですね」
と言った

貴方は
「今夜は新月じゃない」
とからから笑った

僕は貴方と
生きることに決めた

163:レミング◆yc:2020/09/08(火) 17:02

霧雨が降っていた

カウンター席の真正面
愛想の良い店員に
お茶をもう一杯如何ですか
と聞かれ
緩く頭を振ってみせた

右の客は
これはまた長くなりそうだと
洟を摩った

山を流れる白靄が
蒼黒い木々の輪郭を溶かし
滑らかに線を消している

左の客は
いゝえもう直きやみますよと
珈琲を呷った

忙しなく脚を組み換え
布擦れの音がする

窓を敲く雨粒が
ぱっと拡がり散り散りなって
つうつう転がり落ちてゆく

先程右の客が鳴らした
呼び鈴の余韻が
微かに耳に残っていた

164:レミング◆yc:2020/09/08(火) 17:33

考察途中の脳が揺れた

ふと見ると
両手には何も
残っていなかった

ああこれじゃあまた
最初から

私はきっと
貴方のことを1番知らない

最前層の薄皮さえも
剥がせない

わざわざ教えてくれる
わけはないから

考えるしか
ないじゃあないの

考えて考えてまた考えて

それでも貴方が分からない

まるで万華鏡のように
見るたび色も形も変わる

本当の貴方を教えてよ
張りぼてじゃない
姿を見せてよ

貴方は本当にそこにいるの
貴方は本当に生きているの

熱を感じてはため息を吐く

貴方の鼓動さえも
聞こえてしまいそうなのに

貴方の髪の一本一本も
覚えてしまいそうなのに

それでも何も分からない
思考の一つも読めないの

ずっと昔からそうだった
貴方のことを
愛していたかも

いつか教えて頂戴よ
本当の貴方を聞かせてよ

165:レミング◆yc:2020/09/10(木) 00:59

人魚が溺れて死んだ
らしい

カラカラに乾涸びた死骸が
真夜中の海
光る洞窟に
閉じ込められていたのだ

人魚がどこでどう死のうと
変わりないだろう
とは思う

それでも不思議で堪らない
人魚は生まれて死ぬまで
ずっと泳いでいるのに

何故溺れるようなことが
あるのだろう

死んだ人魚は

最期に何を
思っていたのだろうか

最期に何を
見ていたのだろうか

人魚が溺れて死んだ
らしい

息のできない
陸という場所で

166:レミング◆yc:2020/09/12(土) 02:18

透き通るほど白い
陶器のようにうつくしい肌

それを惜しげもなく
曝け出して
貴方はベッドに縛られている

期待と緊張に潤んだ瞳で
貴方は私を見つめるの

可愛い貴方
もう少しだから
そんな捨て犬みたいな顔
しないで頂戴

もちろん縛ったのは私
今から貴方を沢山たくさん
かわいがってあげるわ

取り出したのは
一本の蝋燭

所謂趣好向けのもの
ではいけないの
あれだと温度が低いから
“痕”に残り辛いでしょう?

かしゅりと燐寸を擦ると
貴方は期待に身動ぎするの

もう少し静かにできないの
と嗜めると

貴方は動きをぴたりととめて
待ちきれないと息を荒げる

いいこね
じゃあ始めましょう

肌を指でなぞって
右手の蝋燭を傾ける

貴方の白い肌に
もっと白い蝋燭の滴が
丸くしたたる

突然の刺激に痩躯は
びくりと跳ねて
その振動で蝋がとろけていく

小さな滴はその場で冷えて
中途半端に半透明で固まった

貴方は痛みと熱さ
そして歓喜に打ち震え
喉をつまらせながら
喘いでいるの

ぽたぽたしたたる蝋燭を
見つめながら想像してみる

この丸い蝋燭が剥がれると
そこは同じくまぁるく
きれいな桃色に変色してるの

輪切りの腸詰めみたいなそこを
優しく口で吸ってあげると

そんな微かな刺激で
信じられないほど痛みが走るの

そのとき貴方は
極上の顔を
見せてくれるでしょうね

しばらく楽しめそうだわ

私が思わずくすりと笑うと
どろりと一気に蝋がこぼれて
貴方は再び嬌声を上げた

167:四月うさぎ◆w6:2020/09/13(日) 22:47

レミングさんがこのスレッドを立てて一年経ったみたいだね。おめでとうございます。
ぼくも書いてみてはいるけれど、どうしても気恥ずかしくなってしまってね…きっと読むだけの方が向いているんだね。
これからも貴方の詩を楽しみにしているよ。

168:レミング◆yc:2020/09/16(水) 00:08

>>167
ありがとうございます。
ここに来て、もうそんなに経つのですね……。私が一番はじめに詩を書き込んだのは別のスレッドなので、詩を書き出したのはもう少し前からですけれど。

四月うさぎさんは所謂“読み専”というやつですね。
主張するばかりが創作ではありませんからね。頭の中に新しい世界を作る、それだけで創作者になれます。

書きたくなったならいつでも来てください。私はいつでも待っています。

169:四月うさぎ◆w6:2020/09/17(木) 02:49

「どうせ私は愚図だもの」

少女はそっぽを向いて
吐き捨てた

どうしてそう思うのと問うと
少女はぐっと押し黙り
はらはら涙を流し始めた

どうせどうせ
私は期待なんて
されてないんだわ

誰も私を望まない
誰も私を愛さない
誰も私を見ていない

私なんて生まれない方が
良かったんだわ
死んでしまった方が
良いんだわ

そう喚いてまだ泣いている

私はもう
うんざりしていた

自分を最底辺と位置付ければ
それを下回る評価を
されることがない

自分を卑下していれば
いつか誰かが励ましてくれる
そう思い込んでいる

どうせなんて言いつつも
不相応なほどのプライドを
影に隠して
いつも必死で宥めている

こんなことを言っていても
死ぬ気なんざかけらもなくて
ただ慰めて助けてくれる人を
待っているだけなのだ

自分で動く気も無いくせに
他人ばかりを非難して

肯定の言葉を否定して
否定の言葉も否定して

自分のことなんか
誰も分かっちゃくれないと
ひたすら蛹を固めているだけ

そんなことないと声をかければ
根拠は無くてもそうなのよ
と喚く

その通りだと声をかければ
そうでしょう
どうせみんなそう言うの
と喚く

助けて欲しいと願いながら
この少女は
己の手で首の縄を引いているのだ

私はもう
うんざりしていた

なんて迷惑なんでしょう
なんて矛盾してるんでしょう

過去の私は
なんて愚かなんでしょう

170:四月うさぎ◆w6:2020/09/17(木) 02:54

………影響されてるなぁ(笑)

171:レミング◆yc:2020/09/19(土) 02:27

>>170
影響されているとは、自惚れでないなら私の詩にということでしょうか。
嬉しいですね、身に余る言葉です。けれど、私の詩もある方にとても影響を受けています。
あの方は本当に、どんな人をも虜にするのですね……。

172:レミング◆yc:2020/09/19(土) 02:33

遠い沖合の方に
大きな暗い漁船が
見える

漁船の周りは何やら
キラキラ光るものが
群がっていて
漁船はそれを
釣っているようだった

しかし今夜は
嵐が来る
ということで
船は全て
仕舞ってあるはずだ

いつの間にか
人だかりが出来ていて
がやがや騒ぐこちらを
気にもせず

得体の知れない
その漁船は
朝まで
光る何かを
釣り続けていた

173:レミング◆yc:2020/09/23(水) 22:52

蝶よ花よ
お前はほんとうに美しいね

蝶よ花よ
人目に触れてはいけないよ

蝶よ花よ
ずっとここにいれば良いんだよ

蝶よ花よ
私の言うことを聞いていれば良い

蝶よ花よ
それがお前の幸せなんだ

蝶よ花よ
どこへもやらない絶対に

蝶よ花よ
お前だけは
私の側にいておくれ……

174:レミング◆yc:2020/09/28(月) 01:03

切る

赤く細いそれは
これまでの繋がりなど
無かったように
ふらりと落ちた

嫌な人だった

自分で何もしないくせ
一丁前に他人を否定し
それだけで自分の価値を
確かめているような人

邪魔な人だった

行く先々で顔を見た
初対面にべらべら喋り
自らの思想を押し付けて
反論は絶対に認めないような人

勝手な人だった

突然喧嘩をふっかけてきて
一方的にまくしたて
こちらが一言言葉をかければ
被害者面をするような人

嫌いな人だった

全てが合わない
全てが神経を逆撫でる
全てが尺に触る
全てが嫌いな人

切った

切断面から血の滴るそれは
ずるりと醜く音を立て
尚も縋ってくるのだった

175:レミング◆yc:2020/09/30(水) 10:31

気づいていないとでも
思っているの?

私はそんなに
馬鹿でもないの

貴方が言う“君”
貴方が言う“あのこと”

全部気づいているからね
全部分かっているからね

あのときは
濡れ烏ではなく黒だった
とか

あの話は
二等辺三角形ではなく
三角形だった
とか

そんなことで
誤魔化せるわけ
ないじゃない?

私はね
貴方が思っているよりは
頭が良いの

期待されても困るけど
勝手に失望されるのは
もっと困るわ

もうやめにしましょうか
もうさよならしましょうか

きっと貴方は最後まで
私の本当が分からないんだわ

176:レミング◆yc:2020/09/30(水) 10:45

私はそいつが嫌いだった

私の何も知らないくせして
私の全てを否定して

私もいい加減飽きてきて
うざったいと距離を置けば
堪らず走って縋ってくるのだ

いやだなぁ
消してしまいたい

ずっと前からそうだった
どうして私は今の今まで
我慢を続けていたのだろう

きっとそいつが縋ってくるから
可哀想だとでも
思ってしまったのだ

さておくも
私はそいつに飽き飽きしていた

すぱんと首を切ってしまいたい
それとも脚か胴体か
手っ取り早く消し去りたい

まだ聞いていたのかい
とっとといなくなってくれ

今度は私が
そいつの全てを否定したいんだ

177:レミング◆yc:2020/09/30(水) 10:57

秋風が肌を撫でる

それは上着をすり抜けて
そのまま熱を奪っていった

思っていたより冷え込むな
乱れた髪を適当に整え
身震いをして洟をすすった

もう少し着込んでくるべき
だったなあ

寒さで震える足を
精一杯に動かして
道路の端を歩いている

ときどき真横を車が通って
新たな寒風を巻き起こす

嚔をひとつ

確か家には梨があったな
家に帰ったら炬燵も出そう

そんなことを考えながら
今日も家路に着く

178:レミング◆yc:2020/10/03(土) 16:14

忘れようにも思い出せない

忘れてしまいたい
人がいた

忘れてしまいたい
過去があった

はずだった

忘れようにも思い出せない

あの顔は覚えてない
確かとても醜かった

あの頃のことは覚えてない
確か恥ばかり気にしていた

覚える前に忘れてしまった
恥じる前に消してしまった

最初から
顔を見ようとなんて
していなかった

始めから
記憶に残そうとなんて
していなかった

忘れようにも思い出せない

忘れたかった思い出は
元よりここに存在していない

179:レミング◆yc:2020/10/04(日) 16:09

ぎゃんぎゃんと煩い
人間風情が盾突くとは
吾が天罰をくれてやろう

ほら

目が見えなくなるぞ
お前の世界は
闇に閉ざされた

ほら

口が聞けなくなるぞ
お前の意思は
亡きものとなった

ほら

立っていられなくなるぞ
お前が今更怖気づき
逃げることも敵わぬな

ほら

手足も動けなくなる
思考もできなくなる
世界もじきにお前を見捨てる

終ぞ終ぞ
お前の自由は無くなった!
お前の命は無くなった!

180:レミング◆yc:2020/10/06(火) 18:05

灰と藍が
混ざり合う空

見上げて吐くため息
乾かない瞳

一番星を見つけて
はしゃぐ君の横顔
今も鮮明に覚えていた

冷え切った空気が
頬を掠めて
流れていって

空気よりも
もっと冷たい髪が
喉元にへばりつく

君の絶叫
君の身体
君の中身

フラッシュバック
脳を侵してく

知らない奴の
下卑た笑み

永遠に奪われた
君の笑顔

あのとき消えた
私の⬛⬛

折れたヒール
べたつく手のひら
鉄の匂いのする紙切鋏

今も覚えているんだ
これからもきっと
ずっと

181:レミング◆yc:2020/10/10(土) 01:54

嫌われていると
気付いて
しまった

何が駄目だったのだろう


性格と口が
よろしくないのは
自覚がある

それでなければ

私の顔だろうか
交友関係だろうか


兎にも角にも

私は嫌われていた

嫌われているらしい

そして
何年か振りの
感情を得た

嫌われるのが嫌だ
嫌われるのが怖い


弱くなって
しまったのだろうか


あんなところに
閉じこもっていたから

傷口を塞いで
只管縮こまっていたから


弱くなったのではない

傷口が

塞いで
見ないようにしていた
傷口が

膿んで
腐って
しまっていたのだ

私は他人に恐れをなして
もう
外に出られない

戻るしか無いのだろうか
あの暗い部屋の隅へ

戻るしか無いのだろうか
あの
音に光に
怯えていた頃に

意を決して開いた
壁の外側は
どうしてこんなに恐ろしい

182:レミング◆yc:2020/10/14(水) 14:37

どうして恐れる
ことがある

その引き金を引くだけだ
さすればたちまち
鉛の弾が発射され
標的に命中
全生命活動を停止させる

それだけのことなのだ

さあ引け
指先を曲げろ

その指先ひとつで
鉛の何倍も重い
命を砕け

183:レミング◆yc:2020/10/15(木) 18:41

滴の落ちる音が
響いていた

あいつは
ぐしゃぐしゃの顔で
感謝の言葉を

君は同じく
ぐしゃぐしゃの顔で
優しい言葉を

そんな空気が大嫌いだった

僕は見せて良い顔が
分からなかったから
影の壁に背を凭れていた

僕がいない方が
良いみたいだ

そこは綺麗な空間で
不純物など無かった

それが嫌いな分際で
不純な僕は息を潜めた

自分だけが
絶対悪であれば

そんな臆病な厄介者は
当然疎ましがられ

僕はもう
いなくて良かった

雨が上がって
水たまりに写る
白々しいほど澄んだ空

赦し合って
頬に残る涙の跡と
力の抜けたような笑顔

今でも鮮明に思い出す

涙を堪えたあいつが嫌いだ
泣き笑う君が嫌いだ
ひどく醜い僕が嫌いだ

僕のことが一番嫌いだった

184:レミング◆yc:2020/10/16(金) 04:14

ねえ
もっとよく見て
僕の一番痛いところ

昔々にできた傷
気付かないうちに
膿んで腐って

それでも触れると
痛くて苦しくて
たまらない

でも君には
知って欲しいんだ

僕の弱くて深くて
触れられないところ

君の手で触って
もっと僕を知って

痛くても良い
苦しくても良い

僕の全てを知って欲しい
君のことを愛してるから

185:レミング◆yc:2020/10/21(水) 03:22

許さない
って

震えない鼓膜を
破るような

魂の絶叫

澱んだ空気に
よく響く

私はお前を許さない

たとえ神が
見過ごしたって
私だけは
お前を呪い続けると

ごめんなさい

ほら
言ってみろよ

許してやらないから

謝って
後悔して
くたばって

乾涸びた死体を
蹴ってやる

186:レミング◆yc:2020/10/22(木) 05:48

好きな人ができた

それは
恋愛だけでなく
親愛に近くもあった

何はともあれ
私は
初めて人を愛した

喜び
私は嬉しかった

次に会うときは
どんな顔を見せて
くれるのだろう

声を聞くのが楽しみだ
顔を見るのが楽しみだ
手を繋ぐのが楽しみだ

哀しみ
私は悲しかった

私が好きな人は
私のことが好きとは
限らないのだ

なんと残酷なんだろう

私は
知らないやつに恋する君を
見なくちゃいけないのかも
しれないのか

そいつは
君を愛している
などと宣うが

きっとその愛は
私の愛の
千分の一にも満たないのだ

それでも
他ならぬ君が
そいつを選ぶというのなら

きっと私は
泣いて
泣いて
泣いて
泣いて

この世界すら憎むのだ

187:レミング◆yc:2020/10/24(土) 02:31

ぎこちない夢
手足は
自由の身であった

醒める流動体
人であったもの

蛋白石のリキュール
見世物の釣り糸
となるには些か早い

世捨て人
××××



これは失礼

天から昇る漂流物
記されたもの

或いは異教徒

或いは悪夢

188:レミング◆yc:2020/10/27(火) 15:24

ついこの間まで
暑かったのに

もうすっかり
寒くなったね

まるで
秋を飛ばして
冬に入ったみたいだ


ぼんやり呟く
君の足元に

小さく揺れる
秋桜のつぼみ

189:レミング◆yc:2020/10/28(水) 13:41

悲しみで
痛みで
恐怖で

弾けて飛び立った
貴方の
心の破片

金剛石のように
きらきらと輝いている

私はそれを
大切に集める

丁寧に
丁寧に
ひと粒ずつ
宝物を拾うように

貴方の心には
ぽっかりと
穴が空いてしまっている

蹲る貴方のそこに
かけらをそっと流し込む

一度割れた心は
もう
元通りにはならない

二度と
屈託なく笑う貴方は
見られないかもしれない

それでも良いのだ

貴方を埋める何かになりたい
だけの私だ

190:レミング◆yc:2020/10/30(金) 16:57

変わりたい
変わりたかった

代わりでないもの

昨日の私

泣いていた
悲しくはなかった

ただ姉さんが
泣いていたから

今日の私

笑った
楽しくはなかった

ただ怒られたく
なかったから

明日の私
きっと変わらない

代わりから
変われない

笑っていても
泣いていても
怒っていても

それは私じゃない

私だから
だから変われない

変わりたかった

代わりでないもの
私でない誰か

191:レミング◆yc:2020/10/31(土) 23:59

腐ったカブに
ゴースト・ダンス

灯りを点けているのに
お菓子をくれないの?

そんな家は
井戸にヘドロをぶち込んで
暖炉に揮発油を撒いちゃうわ!

甘いケーキが食べたいの

カボチャのランプに
ゴースト・ダンス

私はどうせ亡者なのだもの
何をしたって許されるわ

今更我慢なんてしてあげない

死人に口無しとかいう戯言
言ったのはどこのどいつよ

砂糖漬けのドールに
ゴースト・ダンス

でっかいキャンディを
落として割ったひとかけら

それが私よ

どうせこんな世の中だもの
死んだ後くらい思うまま
楽しんだって良いじゃない

チョコレートチップを
がりりと噛んで
今宵もふわりと更けてゆく

生者のみなさまご機嫌よう!

192:なんJ民:2020/11/01(日) 23:23

おちんぽ

193:レミング◆yc:2020/11/02(月) 01:30

禁止ワードの狭さを見せつけてくれましたね……

194:レミング◆yc:2020/11/02(月) 01:34

切ってしまいましょうか

頭が良いですか?
それとも"それ"を?

わざわざこんなことしなくとも
町へ出て服を脱げば
同じ欲は満たされるでしょうに

どうしようもない変態さんですね?

195:レミング◆yc:2020/11/04(水) 23:29

天使の涙を溶いたインクで
貴方への恋文

僕の気持ちは伝わるかな
貴方への愛は届くかな

鼓膜に響く胸の高鳴り
指先に染む恋の高まり

乗せて

虹の橋に渡して
ミルクの河に流して

貴方の元に届きますように

どうか
僕の愛を

196:レミング◆yc:2020/11/09(月) 02:27

その
汚れを知らない
無垢な手で

この
一枚ぶら下がった
首を

絞めて
折って
切ってくれ


良いじゃないか
これくらいが癖になるんだ

壊して
イんだよ

愛するんじゃ
もう
足りない

終わらしてくれなきゃ
閉じきらない

痛め付けて
犯してくれよ

どうしようもないんだ
どうなったって良い

この
下らない生を
あんたにやるよ

197:レミング◆yc:2020/11/11(水) 03:45

星の数ほどあるなかで
どうして僕は
貴方を希ってしまったのだろう

貴方も貴方だ
どうして貴方は
僕を選んでしまったのだ

この激情を
閉じ込めることなんて
できやしない

喚いて縋って地を這ってでも
僕は貴方を求めてしまう

邪魔ならそうと言ってくれよ
この心と共に消えるから

けれど
魂は決して逃れられない
それほど僕は貴方の虜

いずれ水泡に帰すと
分かっていてなお
こんなにも美しい恋なのだ

198:レミング◆yc:2020/11/13(金) 03:17

亡くした昨日

何度
追いかけた

見つかり
はしなかった

追いつかれた
憂い

加齢
してゆく悲しみ


大切
だとは思えない

無いの

自分は
居ないの

心の中
身が
騒つくの

明日を拒んで
籠って
縋って
潜って
抉って
掬って
笑って

いたい

199:レミング◆yc:2020/11/19(木) 05:47

狂気とは何ぞやと自問自答し
乖離的現実逃避を模索する日々

逃げたとて追いつくものでも無く
追いかけたとて届くものでも無く
こちらから介入しなければ
その姿を見せることも無い

果たして狂気とは理解するものなのか

必然でなくとも偶然ではなく
砂に落ちる石を拾うように自ら手を伸ばしたのなら
それは果たして手にしたと言えるのか
それすら曖昧である

一介の人間ごときが得て良いものではないのだ
欲して良いものではないのだ

さしずめ神と呼ばれるその存在は
愚かにも狂気を望む人間を
嗤っているのだろう

大路を走らばとは言うものの
その狂人とて狂気を理解しているとは限らない

いくら同じ路を走ったところで
オリジナルの狂気というものに追いつけはしないのだ

ハイ・ファイのレコード式に狂人を演じようと
そこにあるのはただ狂ったふりをした凡人である

マトモではなくとも狂人でも無く
私は何と中途半端なことだろう

これは私の詩である

これは狂気になろうとしている愚か者の詩である

200:レミング◆yc:2020/11/25(水) 02:05

遠目見回り
隠れて根を張って

心臓は変形
刺激でドクドク

僕の目を見ろ
声を聞け

ぬるま湯に浸かった脳を
滅多刺しにしてやる

煌然と登場
歴史をひっくり返すのは
僕だ

201:レミング◆yc:2020/11/29(日) 02:09

愛を願って真っ逆さま
罰を食らって地獄ゆき

愛想と吐き気を振りかけて
今夜もネオンを浴びている

花束抱えて日陰の方へ
売っているのは油ばかり

そんな顔をしないでよ
他人が勝手に悲しまないで

嗚呼お願いよ触れないで

“それ”が恋しく
なってしまうから

この目が光に
冴えないうちに
さっさとどこかへ
消えて頂戴

憐んでくれるのね
でも私には必要ないの

優しい言葉に心が痛む

痛みと恥に慣れてしまえば
もう元には戻れない

202:レミング◆yc:2020/11/30(月) 20:16

たったひとしずく
川に猛毒を流した

強い強い毒を
ぽとりと落とした

岸の草は全て枯れ
魚は死んで浮いていた

水を飲んだ者の
喉は焼けた

水を被った者の
皮膚は爛れた

それをただ
じっと見つめていた

どうして苦しむのか
分からなかったが
苦しむ姿は滑稽だった

毒だと思っていなかった

だがしかし
それは善意などではなく
興味と押し付けに
よるものだった

今に罰が下る下る

たちまち喉は
焼けるだろう

そのうち皮膚も
爛れるだろう

そうしてやっと
己の罪に気付くのだな

嗚呼悪魔よ
お前のことだよ

203:レミング◆yc:2020/12/09(水) 03:53

あーそうかい
あんたもまた諦めんのかい

黙って離れんなら文句は無いさ
だがこれ以上ゴミを
増やさないでくれ

笑ってられんのも今のうちだぜ
もうじき僕が全てを変える

諦めねぇよ
下手の横好き極めてやんだ

秀才に正論で圧されて
奇才に話題掻っ攫われて
鬼才にねじ伏せられようと

知る人は好む人に敵わない
好む人は楽しむ人に敵わない

天才様のお言葉だ
そんならどうせそうなんだろよ

今に僕が証明する

正しいものじゃなくて良い
生まれ持ってなくて良い

どれだけ頑張っても
いずれ踏み躙られる
ものだとしても

それでもきっと構わないから

今ここで一番になってやる

204:レミング◆yc:2020/12/13(日) 02:12

モノクロームの銃撃戦
ぶち込む鉛
弾けろシナプス

喧嘩祭りの
お囃子が鳴る
鉄塊同士が眩んで
clash clash

頭も吹っ飛べ思想ごと
石頭どもを
均してやんの

子供みたいに
無垢なテのまま
無邪気に亡くせよ
break break

幾十幾百交えた末に
出来上がりましたは
我楽多の山

ウザいか
憎いか
虚しいか

どれもこれもが
これを望んだ
アンタのせいさ

かつての仲間を
踏んづけて

涙を呑んで
嘆いては
拳を打ち付け
敗けを噛む

次の機会があったなら
弾にソイツを
込めてみな
きっと俺が相手してやる

……マジになんなよ
遊戯のハナシだぜ?

205:レミング◆yc:2020/12/21(月) 03:41

君が心から笑えなくなって
一体どれほど経っただろう

何度も何度も同じ傷口抉られて
最初に付けた
だれかはきっと
顔すら覚えてはいないのだ

大丈夫だよって声をかけても
返ってくるのは曖昧な引き攣り

そして赤を隠す君を見るたび
どうしようもなく
苦しくなるんだ

いつか報われるなんて
無責任には言えないけれど

もう一度
あの微笑みが見たい

痛々しい傷を優しく拭って
「辛かったね」と
ひとこと言いたい

なんて
そんなお節介な願望だ

だからこの手を離さないで
今までもそうしてきたじゃないか

どんな道でも
きっとふたりで
乗り越えて

「生きてて良かった」
って思わせてみせるから

206:レミング◆yc:2020/12/24(木) 04:15

いつも通り見慣れた
灰色の雲に覆われた空

ある日突然
ひび割れのような隙間に
ほんの少しだけ差した


自由とはそれだと思った

それに気付いてしまったら
何だか急にものすごく
窮屈な気持ちになった

なんとなく
その蒼をてのひらで隠して
ぎゅっと握り込んでみた

息が止まる気がした

いつの間にか
鼓動も早くなっていて
蒼が潰されるのを
じっと待っていた

恐る恐る
手をどけてみると
先程と変わらずに
鮮やかな蒼が
そこにはあった

どれだけ無彩色に
邪魔されようと
空は

ただただ蒼く
そこに広がっていた

こんなに美しい色を
妨げるものなら
全て剥がれてしまえば良い
……とも信じ切れなかった

こんなに長く
邪魔され続けた空は
果たして蒼いままで
いられるだろうか

この分厚い雲が
全部流れて無くなったとき

空は蒼いまんまだろうか

207:レミング◆yc:2020/12/28(月) 02:54

赤い糸なんていらないの

指に絡まる糸なんて
いつ途切れてしまうか
分からないから

鉄の鎖でも足りないの

いくら頑丈な鎖でも
遠く離れた貴方に
触れることは
できないから

ほんの少しでも
離れたくない

貴方にずっと
触れていないと
怖くて怖くてたまらない

手を繋いで
抱きしめて
もっと強く繋がって

肌と内臓で触れていてなお

それでもやっぱり
足りないの

208:レミング◆yc:2021/01/01(金) 03:59

何が何やら初の朝
冷たく爽やかな空気が
頬を撫でる

薄っすら漂う雲はまるで
不透明にゆらめいて
牛の乳のように仄白く

それが遮る日の光は
紡ぐ途中の糸みたく
太陽を中心に
縒っている

曖昧な年という概念に
さほど興味はないが

初のものと思うと
なるほど
いつもより一層
美しく見える

明けるだの
初まるだの
言い方はまるで
わけがわからないが

それでもそう
目出度くはあるのだろう

209:レミング◆yc:2021/01/05(火) 17:50

天罰を
嘲笑を

惜しみない喝采を

210:レミング◆yc:2021/01/07(木) 04:08

君が死んだ

やりたいことは沢山あった
言いたいことも沢山あった

それでも君は
死んでしまった

この時世
死という言葉は軽く軽く
いのちよりも重かった

そんな憂き世で
君だけは
喪いたくなかったのに

やり足らない気持ちは
どうしたら良い?

伝えられていない言葉は
どうしたら良い?

最期の最後
たった一つ口から飛び出た
それは

無事君の耳に
届いただろうか

それとも

間に合わなかったの
だろうか

届いていて欲しい
何なら返事も
寄越して欲しい

ありきたりな
別れの言葉でも

薄っぺらな
感謝の言葉でもない

ただ
もっと君と生きたかった

211:レミング◆yc:2021/01/07(木) 23:36

金網に手を掛ける

隣の空は色づいて
モノクロの僕に
茜色を塗りたくる

風が脳に心地良い

冷えた血液を
身体中に巡らす感覚

足元に目を落とす

一歩先の空中は
人の匂いがうるさくて
僕は一瞬息を止める

下に下に下に

視線は徐々に
下界に降りて

そのうち
空と平行になる

もうじき
落ちる

……けれど
いつもすんでの所で
足がすくむ

ずるずると
重い体を引きずって

鯖まみれの取っ手を
指先で回す

また今日も
鮮やかな茜に
背を向けて

無彩色の日々に
吸い込まれていく

212:レミング◆yc:2021/01/11(月) 01:18

椅子から
立ち上がろうとして
失敗して
座り直した

この重い腰はどうにも
自立する意思は
無いようだった

誰かのように
幸せになりたかった

そんなことを
夢想するだけで
動く気なんざ
さらさら無かった

気付いた頃には
もう遅く

人に見せられる顔は
持ち合わせて
いなかった

ただ
絞り出すような
嗚咽が漏れるだけで

不安だとか後悔だとか
そんな言葉で
片付けたかった

希望に縋って
裏切られるのが
恐ろしく

絶望して
全て失ってしまうのも
恐ろしかった

何もしないで
何もできないままで

そうしてここで
腐っている

213:レミング◆yc:2021/01/12(火) 03:29

落胆に近い

灰色の道を
下を向いて歩いている

一番星にはしゃぐ気にも
なれなかった

今まで積み上げて来たものは
とか

これからも信じていたかった
とか

そんなのは所詮希望論だった

何も残らなかったわけじゃない
ここには確かに
僕らの歴史が刻まれている

だから
もう良いのだ

良いんだろう?

虚空に向けて問うてみても
かつて輝いた憧憬の抜け殻には
響くはずもなかった

214:レミング◆yc:2021/01/18(月) 20:35

「幸福とは何だと思う?」

自分とよく似た声が
反響して聞こえる

棒立ちで俯いている

足元は暗くて
透明な水面に澱が黒く沈んでいる

水面に
自分の姿は映っていない

「嫌いだ」

おそらく私が言った

長い時間喋っていなかったのか
酷く掠れた声

「幸福になりたくないのか」

何故か愉快そうに
自分とよく似た声

ようやく視線が前に向く

鏡があった

鏡の中には私が映っていた

きっと
覗き込めば
あちらの私の全身が見える

きっと
私は映っていない

「幸福は嫌いだ」
「お前が幸福になるのなら」

続けざまに私が言う

鏡の中の私は
ヒッヒッと気味の悪い
引き笑いをする

「お前は本当に馬鹿だな」

人を不快にさせる引き笑い
人を苛つかせる挑発的な視線
人を見下した言葉選び

全ては私の癖だった

私は無感情だった

「私のことが嫌いか?」

鏡の中の私が言う

私は何も答えない

鏡の中の私が
居心地悪そうに身じろぎをする

「何とか言えよ」

焦りのような
屈辱のような声色

私はやはり何も答えない

ただ
鏡の中の私を
じっと見つめている

長い静寂が流れる

    私の
鏡の中の私の口が開く

「お前なんて大嫌いだ」

215:レミング◆yc:2021/01/25(月) 03:05

返ってきた白紙にレイ点
何にも手につかないや

空想ばっかり
もしも話の繰り返し

何やったって空回って
頭は地についている

天地逆転
足は天を目指してる

突然だけど
今日から世界は
裏返しになってしまった
みたいだ

宇宙に堕ちてゆく

嗚呼

きっと僕は
間違えたから

この世界の
ことわりにさえ抗って

このまま君のもとへ
逝けたらな

216:レミング◆yc:2021/01/29(金) 00:45

私が一番でいられないのなら
玉座なんて無くて結構

見知らぬ誰かを褒め称えた
その口は
せめて蝋で固めておきなさい

失望した

言わなくても伝わるだなんて
思い上がらないで頂戴

もう二度と
私の作品を見せてなんてあげない

せいぜい後悔することね

貴方なんて大嫌いよ

217:レミング◆yc:2021/02/02(火) 03:04

群青の泡
弾けてしまえば
空に登るだけ

回る虹の表面に
映る
木の葉の陰

追いかけて
両手で掴んで
壊してしまう

ふいと強い風が吹き
屋根まで逃げた
神秘色のたま

218:レミング◆yc:2021/02/04(木) 01:25

もはや味も無い反芻を
また今日も今日とて
繰り返す

何度も何度も
追い求めたはずだ

この灰色の景色に滲むまで

次第にふやける
輪郭なぞって
剥がれる破片を
必死で集める

生傷だらけの指先を
冷え切った空気が
切り裂いてゆく

砕けた硝子も混凝土も
行く先々に散らばって
美しい記憶を写すだけ

取り戻したい
どうにもならない
知っていた

けど諦めきれない
どうにもできない

見上げた空は飽きもせず
まだ色を失っている

足元の緩衝材が
ざらつく地面を叩く音
だけ耳障りに響く

煩いくらいの雑音が
恋しく感じる時が
来るなんて

苛つく脳を掻きむしって
無駄だと分かって
いながらも

また手を伸ばす
足を踏み込む

視界の外にはいつも
彩度の高い
君の笑顔があると信じて

219:レミング◆yc:2021/02/06(土) 21:33

冬は嫌いだ
熱が恋しくなってしまうから

銀の空を舞う
白く小さな雪の粒

始めは綿のように
柔らかに積もるが

募ればそのうち
重く
かたく
痛々しく

冷えて凍える心身は
もうひとりでは暖まらない

だから
冬は嫌いだ

君が恋しくなってしまうから

220:レミング◆yc:2021/02/08(月) 03:54

現実にも満たない幻想なんか糞喰らえだ

221:レミング◆yc:2021/02/08(月) 09:23

泣きそうな歪な笑顔で

あなただけは
どこにもいかないで

って

馬鹿だなぁ
僕はとっくの昔から
君と生きると
決めているのに

いいよ
僕も一緒に落ちてあげる

喜びも苦しみも
分け合おう

病めるときも
健やかなるときも
君の隣にいると誓おう

君がこれから
どれだけ惨めな
姿になっても
僕だけは
馬鹿だねぇって
隣で笑っていてあげる

大丈夫
離れないよ

君のこと
一番想っているのは
僕なんだから

何年先も
ずっとずぅっと

222:レミング◆yc:2021/02/10(水) 22:16

私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
籠った想いを計りましょう

インクの匂いの染みついた
郵便局が私の仕事場

ほらまた今日も
紙がかさかさ
人がばたばた
手紙が届く

赤い綺麗な蝋封の
恋人同士の手紙が二通

「愛してる」
ってあつい言葉も
小さい錘がひとつ分

「また明日」
って薄味だけれど
大きい錘がみっつ分

酷い男ね
可哀想な女

お節介はご愛嬌
私も何分趣味が無くって

私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
愛の大きさを計りましょう

黴びて汚れた茶封筒
何やら錆の匂いがするわ

「必ずこんど返します」

なんて軽い言葉なの!
一番小さな錘が
ひとつ分にも
満たないじゃない

お節介も手に負えない
呆れてものも言えないわ

私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
決意の緩さを計りましょう

あら?
これは

宛先の無い
簡素な手紙

「ありがとう
 忘れない

 いつか、また」

たった
21gの手紙

……嗚呼成る程

届くはずよ
きっと、きっとよ

お節介も程々に
無力さが遣る瀬無いわ

私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
籠った想いを計りましょう

貴方からのお手紙を
心よりお待ちしてますわ

223:レミング◆yc:2021/02/11(木) 02:17

改めて気を遣るまでもない

読みかけの小説の表面を
ふらふら目線が滑っていた

意識はうわの空を向いている

言うなら今だと知っていた

それはきっと
私の望まない結果を
生むことも

貴方はこちらを見遣って
愛おしげに微笑んだ

ああやっぱり
言わない方が良い

こんな話をするときは
どうせなら貴方に
珈琲を淹れて

224:レミング◆yc:2021/02/12(金) 02:46

終わりの無い世界
がらんどうの居場所の無い街

繋いだ記憶を語り明かそう
どうせ明日も来ないのだし

2人だけの空間で
君しか見えないよ
笑えないね

濃紺から溢れた星が
煌めく
仄めく
さんざめく

つうと尾を引く
流れ星を見て

「僕らもじきにああなるんだ」

本当に冗談じゃない

憎たらしい君の顔
今にも泣きそうに笑う顔

どうにもできない
緩やかな苦しみ

矛盾した窮屈さが
胸を締め付けるから

一瞬のうちに
消え去ってしまうのも
悪くないかな

車道側を僕が歩く
意味なんて無いけど

喉に閊えた言葉
意味なんて無い

僕らだけが残された
意味なんて

225:レミング◆yc:2021/02/15(月) 21:27

淀みの無い痛覚で
ひしゃげた前足

おたまじゃくしの
泣き声は
誰の耳にも届かない

飛んで火に入る
野次馬どもが
あらあら今更
大層なこと

意味の亡いこと
叫んでは
明けに暮れる
窓越しの殺人

君に流れる鉄の鎖は
千年前の誰かの溜息

226:レミング◆yc:2021/02/21(日) 03:00

貴方はこれ以上
醜いものを
見なくて良いのよ

光の差す窓辺で
自嘲する君

僕の人生の中で
一番美しいのは君だ

どんなに汚い世界でも
君さえいれば
こんなにも
美しく見えるんだ

なんて言えたら

君はどんな顔を
するだろうか

227:レミング◆yc:2021/02/21(日) 23:05

その双眸は炎天下
慈愛のないショウに
苛立っていた

割れてゆく
人工的なダイヤモンド

慌てふためく子羊
リノリウムを滑り落ちる

気味が良いな
笑ってろよ

こうやって

色も冷め
際立つナイフの鋭さに
ただ延々と
脈動を抑え込む

役に立たない心電図
傷跡の痛々しさが
チャームポイント

衝動性の症
口角の鋭さに
ただ延々と繰り返す
無機質

診察券はお持ちですか

228:レミング◆yc:2021/02/25(木) 03:06

独り占めしたい

君の視線
君の心

聞かせて頂戴

君の声
君の鼓動
君の呼吸音

私だけが
知っている

君の過去
君の寝巻き
君の黒子の数

そばに居させて
お願い

見せて頂戴

君の本心
君のなかみ

見て頂戴

私の本心
私のなかみ

229:レミング◆yc:2021/02/25(木) 03:30

こんな現実を
生きるくらいなら
夢の世界に
閉じ籠っていたいの

ローズマリーの
花に埋もれて

有刺鉄線が
肌に食い込んで

緩やかに緩やかに
死を迎える

世界でいちばん美しい屍

鉄の匂いで満たされた
レースカーテンの内側

冷たい雨が
霧のように吹き込む

ワイン色の浴槽
夢の領域

目覚めたくはないの

この瞳を開いたものなら
すぐにでも
腐った果実のような
穢れた現実が押し寄せる

気持ち悪い
体温から逃げたい

目蓋をかたく閉じて
外側に線を引いて

世界とはもう
お別れしたい

230:レミング◆yc:2021/03/03(水) 02:38

結末は分かっていた
分からないふりをした

きっと
私は幸せになれないこと
貴方は幸せになれること

貴方の幸せに
私は必要ないこと

寂しい夜に枕濡らして
貴方の隣を夢見てみたって

薄い月に嘲笑われるだけ
満天の星が俯くだけ

それでも
貴方が幸せなら

なんて

そんな風に
思える筈もなくて

妬ましい
貴方に愛される
あの子が羨ましい

私の方がきっと
貴方のこと愛してるのに

意味もなく美しい夜空に
たったひとつのお祈りを

私は貴方の幸せを
喜べない
願えない

どうか貴方とあの子が
不幸になりますように

どうか傷を負った貴方が
私に救いを求めて
くれますように

どうか
私と貴方が
幸せになれますように

231:レミング◆yc:2021/03/05(金) 19:45

もし賢くなって
世界を楽しめなく
なるのなら

馬鹿のままで良い
幸せしか
知らないままで
この世界を
生きていたい

もし夢を手放して
希望を失くして
しまうのなら

夢追い人のままで良い
限界なんて
知らないままで
暗闇の中を
走り続けたい

もし君に告白して
心に傷を負うのなら

片想いのままで良い
優しい君を
好きなままで
ずっと君だけ
見つめていたい

もし

生きるのが辛くなって
この世を
発ってしまうのなら

本物の幸福も
心からの愛も
確かな生の実感も

全て知らぬまま
死ぬくらいなら

今はまだ
辛いままで良い

だって
癪じゃないか

せっかく世界に
生まれ落ちても

幸福も
愛も
命の重さも

なんにも知らずに
終わるだなんて

だから
今はまだ
苦しいままで
悲しいままで

いつか絶対

不幸を楽しむ無粋な神に
脳無く嘲る愚かな人に

この
未だくだらない世界に

復讐してやる

232:レミング◆yc:2021/03/07(日) 01:26

そんなに
遥か遠のいて
君はどこへ
向かってしまった

嘘だって
縋って
泣いて
抱き合った

あの夜の出来事は
忘れてあげるから

きっと
逝く笑も
知らぬまま

僕らは離れて
しまうんだろう

広げた腕を
差し伸べた手を
素知らぬ顔で
すり抜けて

もう二度と
出会えないんだね

視界を奪う
散りゆく翅も

きっと
君のもとへ
運んでくれや
しないのだ

233:レミング◆yc:2021/03/13(土) 01:45

温い風が
ぐるりと渦を巻いた

足元に俯いた頭を
目の前のベンチに向ける

古ぼけた街灯の下
腐りかけのそれの端に
女が座っていた

人を
待っているんです

手に持った花束に
顔を埋めたまま
くぐもった声で
女は言った

異様であり凡庸
返事をする気も起きず
ただ黙っていた

街灯の照らす円形に
女の当たる凹凸は無い

横切る間際
女は小さく舌打ちをした
花束は全て枯れていた

生臭い匂いに身震い
踵はとうに失くしたのだ

234:レミング◆yc:2021/03/16(火) 05:25

心の
一番柔らかいところに
誰かの声が
割れた硝子の
破片みたく
深く鋭く突き刺さる

一度痛みに
触れたなら
傷を増やすのが
怖くなって

保身ばっかり
上手くなる

歯の浮くような
臭い台詞を並べ立て
真っ黒なインクで
虚ろな表情を隠す

本心を
悟られないことだけ
考えている

それでも君は
僕に
笑いかけるんだろうな

屈託の無い笑顔で
輝くばかりの瞳で

「信じてる」なんて

こんな僕には
過ぎた言葉だ

235:レミング◆yc:2021/03/19(金) 21:46

ああやっぱり
私じゃ駄目なんだね

君は笑って泣いていた

薄紅滲む春空に
逃げ場を
塗り潰されていく

言いたいこと
伝えたいこと

きっと君に
見透かされている
だろうから

きっと今更
意味は無いから

浮かんでは消える
言の葉たちを
膨らむ蕾を眺めてた

咲ききる前に
離れてしまえば
良かったな

花はいずれ散って
地面に落ちて
汚く朽ちるだけなのに

そう言って涙を溢す
君は淡い桜いろ

236:レミング◆yc:2021/03/24(水) 02:24

そこで私は絶望した

明け方の空
夜の帳上がり切らぬ四畳半
脱色した毛先

そこで私は絶望した

旧校舎の北側
ボール紙のようにしなる床
4-4の片隅

そこで私は絶望した

通院先の花壇
アイスの棒の金魚の墓
日陰の葬式

そこで私は絶望した

コーポの404号室
冷え切った壁際の写真立て
アルコールの匂い

そこで私は絶望した

三面鏡の44番目
剥がれ掛けのアルミ箔
蝶番の断末魔

そこで私は絶望した

クレヨン塗れの両手
繊維のささくれ立つ紙粘土
こびり付いた着色料

そこで私は絶望した

そこで私は絶望した

白昼

蝉の声に似た絶叫
潰れた夏野菜
勝手口のドアノブ
中廊下前の古い振り子時計
片方の落ちた物干し竿
大広間の掛け軸
ホルマリン漬けの兜蟹
点滅する蛍光灯
衣装箪笥の四段目
勉強机の鍵付きの抽斗
羽毛の飛び出た掛け布団
埃の浮いた湯呑み
西側の窓
腹を見せたまま動かぬ錦鯉
ばねの伸びた鼠取り
乾いて間もない万年筆の先
羽の折れた扇風機
客室の穴だらけの障子
××の

そこで私は絶望した
そこで私は絶望した
そこで私は絶望した

そこで××は絶望した

そこで私は絶望した

君の後ろ

237:レミング◆yc:2021/03/26(金) 23:20

予備の予備の予備が無いと
安心できない

目覚めない朝が怖くて
眠れない

脳を侵す毒に取り憑かれて
食事ができない

噛み合わぬ会話が億劫で
声が出ない

醜悪さを直視するのが嫌で
鏡と目を合わせられない

視線の水圧が苦しくて
息ができない

拒絶ももはや頂点に達して
家から出られない

すり減る自我を捨てたくて



麻縄を首にかける

238:レミング◆yc:2021/03/28(日) 16:13

翳る眼差し
高架下に佇む

街灯に示す熱
反撃は難航

窮地に立つ学舎
井戸水に八咫烏
七並べで灯台の上

遮る眼差し
炎天下に斎く

人道に反す夏
観劇は断行

碌な言葉は無く
乞うもにべも無く
死戦の甲斐無く

散々たる通り雨
蜻蛉の二つ名
一人部屋にて

翻る眼差し
急降下に毒吐く

正答に絶えず放つ
惨劇の残響

239:レミング◆yc:2021/04/02(金) 20:55

それはまさしく
晴天の霹靂

突如
平和な世界に降り注ぎ
全てを薙ぎ倒した
その中心に君臨した

君は雷

君がふらりと右を向けば
皆も一斉
右を向く

君がひと言声を発せば
皆は一斉
耳を澄ませる

全ての争いのもと
全ての救いのもと
全ての始まり
全ての終わり

世界はまるで生まれ変わった
色も形も在り方さえも

僕の心を引っ掻き回し
声も目線も奪い攫った

僕の全てを変えてしまった

それら全ては
たった一瞬の煌めき

君は神なり

240:レミング◆yc:2021/04/04(日) 02:44

夏の空に
塗り潰された標識

寂れた駄菓子屋の前
撒いたばかりの水が
青色に滲む

サイダーの泡のような
夏だった

空中を舞う青い春に
目を凝らしていた

ふと振り返ると
君は鞄と
朝顔の鉢を抱えて
泣きそうな顔で
僕を睨んでいた

滲む汗を拭って
昔の二倍重い
登り坂を歩いた

耳を劈く
ひぐらしの聲が
煮詰まった感情を
掻き回す

水面まで上り詰めて
弾けたら
それで終わる夏だった

錆付いたベンチから
もうずっと
離れられない

蝉の鳴き声が
頭を反響している

送電塔の落とす影が
遠い遠い正義の手が
僕から君を
奪っていった

生ぬるい風が
頬を撫ぜる

届くはずのない
瓶の底のような
透き通った硝子色に
触れたくて

思い出の淵で
身悶えしている

241:レミング◆yc:2021/04/07(水) 02:32

死にかけに駆ける風
遊ぶ春の柔らかな陽射し

ハートの形の
小さなかけらが
地面も水面も
覆い尽くして
見上げてもいないのに
確かな存在を示している

いっそ僕も花弁に紛れて
跡形残さず
散ってしまいたい

ねえ愛おしい君
君の好きな春が終わるよ

連れ戻したいなんて
思っていないから
せめて君とお揃いの
白い箱に
入らせてはくれないか

春の朗らかな陽気の中
君に最期の口づけをして
そのまま
逝ってしまいたい

甘い香りが
涙を誘う

草花萌ゆる優しい季節に
世界で一番
残酷なお別れを

薄桃色が包み込む
白と黒の人の列

思い出すのは
桜舞い散る中で微笑む
君の横顔

もう二度とは見られない

242:レミング◆yc:2021/04/14(水) 02:44

ああ
と嘆息

足りない

私には
夏が足りない

何も考えずに遊ぶ時間こそ
私には一番必要なものだった

それなのに

靴を泥だらけにして
運動場を駆けた記憶も

田んぼで虫やら蛙やらを
捕まえた記憶も

なぁんにも無い

何にもないまま
大人になってしまった

あの頃
なんていうものは無い

何も

私は教室で本を読んでいた

校庭の笑い声には目もくれず
内容もほとんど覚えた本を
ただ何度も繰り返し読んだ

後悔している

もっとするべきことが
あったはずだ

本を閉じろ
そんなものはいつでも読める
驚け
その本は10年後もずっと読んでる

靴を履き替えて校庭へ出ろ
いつまでもチーム分けの
ジャンケンをしている子たちに
「仲間にいれて」
それだけで良い
みんな良い子だったろう?

夕暮れまで遊んで
疲れてくたくたで家に帰って
どろどろの服を怒られて
それで

鬼ごっこはいつも
真っ先に標的にされる
花一匁ではいつも
最後の最後まで残る
それで良いんだ
それで良かったんだ

蝉の声に
逸る気持ちを
目いっぱいに抱えて
自転車のベルを鳴らして
靴の底を焦げ付かせて
日に焼けた顔で
水道水をがぶ飲みして
道路に落書きして
空き缶を蹴っ飛ばして
汗だくで
遊んで
ふざけて
怒られて
笑って
走って

夏を

ああ

と嘆息

こんなに

感傷に浸るのが
上手くなるはずじゃなかったのに

243:レミング◆yc:2021/04/16(金) 02:55

奈落の螺旋階段は
緞帳と共に降り立った

ワイングラスを傾けて
腐臭を発す
アジのフライの
面倒を見てやる

さあ酔いも醒めぬ内に
ちり箱に頭を突っ込もう

軟膏を食器棚に
塗ったくってやろう

天使の梯子を
外したお前は
もう誰からも救われない

永遠の中を歩けよ
大地の奴隷よ

244:レミング◆yc:2021/04/21(水) 15:08

紳士淑女と
その他有象無象の皆様

今宵もどうぞご静聴ください
世にも悍ましい
大衆劇でございます

X県在住のAさん
彼は今日も草臥れた顔で
原稿に向かっております

兎にも角にもネタが欲しい
闇夜を照らす光のような
つまらない日常に紛れる
不可思議な事象

knock knock!

窓の外を
何者かが呼んでいます

「やぁ“ロマンチスト”くん
 僕と一緒に遊ぼうよ
 そんな窮屈な部屋ん中で
 一体何が思いつくのさ?」

Aさんは
ぱっと目を輝かせます

そりゃあそうだ!
こんな埃だらけの部屋で
碌なことを
思いつくはずがない!

がらりと窓を一気に開けて
夜の澄んだ空気を
タールの染みた肺
いっぱいに吸い込みます

濁った視界で見る星空は
この世のものと
思えないほど美しく
まるで煌めく大海のよう

あの光に飛び込みたい
そして泳いでみたい
あの美しい波間を縫って
藻屑にでもなってしまいたい
そうすれば
そうすれば……

Aさんは
いてもたっても居られず
机を乱暴に横に倒して
部屋の隅から助走をつけて

たった今
星空へ飛び込んで行きました

いえ
窓から飛び出して逝きました

彼が最期に会話したのは
窓に映った自分自身でした

あら

紳士淑女と
その他有象無象の皆様

どうして笑わないんです?
とびきりのジョークでしょう!

245:レミング◆yc:2021/04/23(金) 15:40

刹那の浮遊感
のち急降下

空を蹴る
宙を舞う

空気の抵抗に暴れる長い髪
背後の誰かに焼き付ける

とびきり廃れた
このどうしようもない世界に
手を振る

さらば世界
さらば青春

生憎去った後には興味が無い
この目で見ぬ色に意味は無い

揺れる
ガラス張りの高層階
手繰る見えぬ命綱

乱反射する生命の葛藤

刹那の浮遊感
のち急降下

溢れ出す丸い雫が
重力に従って落ちてゆく

さらば人生
さらば

246:レミング◆yc:2021/04/26(月) 00:33

目の前の一面の白が
空っぽな頭の中が
それが私の行く先だ

インクに浸したまま
紙の上を滑らないペン先
渇いたインクの塊を見て
やるせなさが込み上げる

指一本たりとも
動かす気が起きない
ただベッドの上で
死を待ちたい

電話口から聞こえる
締め切りを訴える
切羽詰まった声

何日も風呂に入っていない
ことによる
全身の痒みと悪臭

それが余計
生きる気力を削ぐ

もう
目を開けていることすら
億劫だ

何なら
呼吸をするのだって……

247:レミング◆yc:2021/04/28(水) 06:09

ドクドク脈打つ
君の心臓が
まだこの手のひらの中に
遺されているから

なんだか
勘違いしてしまいそうだ

君がまだ生きている
なんて

気のせいでいたかった
君のせいにしたかった

思い出したくもないのに
あの藍が
忘れさせてくれない

君の側にいたかった
君のせいで痛かった

切り取ったような
わざとらしいくらいの
快晴で

君はそうだ
泣きそうな顔で

「また明日」
って

ジクジク焦げつくような
君への執着が
まだこの胸の中でに
存在してしまうんだ

なんだか
信じられそうもないや

君がもう笑わない
なんて

248:レミング◆yc:2021/04/28(水) 06:17

それは
無意味な排気ガス

廃れた街中に
蔓延する憂鬱

吐き出されては
灰色に濁る
また吸っては
肺を蝕んでゆく

何度も繰り返し

吐いては吸って
吸っては吐いて
溶けては沈んで
登っては降りて

私の幸福を
連れてゆくもの

私の人生を
曇らせるもの

感染る
病む

所謂それは
ため息というもの

249:レミング◆yc:2021/05/04(火) 09:12

夜明け前の
透き通った空気の匂い
隣で眠る君を見て
ふと思う

君は果たして
本当に幸せなのだろうか

君の何もかもが狂った日
あの日が訪れなかったら
君はどうしていたのだろうか

きっと
たくさんの人に
愛されただろう

たくさんの努力を
たくさんの成功を
たくさんの名声を

そして
その全てを愛しただろう

世界が君から全てを奪った朝

それが来なければと
いつかの君は
思ったのだろうか

空っぽになった君が
中身を埋めるために
手にしたものは

僕と
僕に対する執着だけ

それでも君は言うんだ
貴方がいれば幸せだと
後悔など何も無いと

そして笑うのだ
嘘偽りを
疑う余地も無いような
この上なく幸せそうな顔で

何も望まない君のために
不幸になれない君のために
僕にできることは
あるんだろうか

ぬるい風が頬を撫ぜて
レースカーテンの外は
俄かに明るくなり出した

250:レミング◆yc:2021/05/04(火) 20:33

人は愚かであるかもしれない
全て無駄になるかもしれない

例えそうだとしても

そうであるからこそ
諦めたくない

ひたすら真面目に生きた
罪の無い人格者は
今朝通り魔に刺されて
死んだ

人を騙して貶した
どうしようない屑は
天寿を全う
幸せそうに逝きやがった

不平等だけが平等で
報いも救いも狂いもしない

どこまでも残酷で
やるせない世界

それでもそれを
嘆いていたい

それでもそれに
歯向かいたい

時代と共に変わりゆく
曖昧な倫理を
守っていたい

それが現実の常だとしても
バッドエンドを
憎んでいたい

来るかも分からぬ
ものだとしても
永遠の明日を願っていたい

人はいずれ朽ちて逝く

逃れられぬ定めとしても
それでもそれに抗いたい

人間風情でいたいのだ

251:レミング◆yc:2021/05/05(水) 02:36

自販機でコーラを買った
YESかNOか

虫眼鏡を踏んで割った
YESかNOか

三角コーンを裏返したら猫がいた
YESかNOか

水溜まりに落ちた洗濯物を拾った
YESかNOか

角砂糖を取り落とした
YESかNOか

油の浮いた池を眺めていた
YESかNOか

入道雲に手が届く気がしていた
YESかNOか

ビー玉をポケットにしまった
YESかNOか

リビングに死体が転がっていた
YESかNOか

冷え切ったコンビニ弁当を食べた
YESかNOか

イヤホンのコードを切った
YESかNOか

泥塗れの靴を持って立ち尽くした
YESかNOか

虫籠の中身は空だった
YESかNOか

鉛筆の芯を折った
YESかNOか

インクを倒した
YESかNOか

頁を破いた
YESかNOか

YESかNOか

私は貴方が好きだ
YESかNOか

私は貴方が嫌いだ
YESかNOか

252:レミング◆yc:2021/05/13(木) 03:32

自他の境界線が
薬のせいで潤んでいく

水に落とした墨のように
結んでは解ける思考回路
それはいずれ混ざり切る

自由の効かぬ
声帯と舌はべらべらと
出鱈目を並べ立て
その内容に気を取られて
余計に脳が溶けていく

純度の高い狂気の中で
一握りの正気を求めて
喘いでいる

感情と思考の逃げ場が欲しい

それは依存か執着か
はたまた愛か憎しみか

253:レミング◆yc:2021/05/14(金) 02:36

飴の舐めすぎで
擦り切れた口内

湿度が高く低い気温は
ひどく不快で
舌打ちをした

唇の端が切れていた

ぼんやりと街灯を眺める

鮮烈な光に目を奪われた
哀れな虫の亡骸が

光を僅かに遮って
胡麻粒のように
貼り付いていた

黴と生ゴミの匂いのする
部屋から出ても

世界はこんなにも
変わらないのだ

それに何故か安堵して
それに何故か憎悪する

洟を啜って踵を返す

用など端から無かったが
用が済んだ気がしたのだ

254:レミング◆yc:2021/05/15(土) 03:14

私はどうして生きている?
ふと我に返って思う

私のような人間が
ひとり生きたとて
世界が変わる
わけでもない

ベランダの向こうでは
思想をひけらかしたい集団が
これから襲う大惨事を
見ているだけで良いのかと
言葉にしなくて良いのかと
声を上げろと
唾を飛ばして叫んでいる

対岸の火事は楽しい

画面の向こうの非日常
止まぬ雷鳴、暴風雨
顔も知らぬ誰かの語り
それら全てが
面白くて仕方ない

意味を成さない
全てが可笑しい

言葉にならない
全てが愉しい

口角が下がらない
これが愉快という感情か

嬉しや今世
楽しや人生

255:レミング◆yc:2021/05/17(月) 03:00

僕と君の間
穏やかな凪のそれは


綺麗なのは上澄みだけで
底にはへどろのような
醜い悪意が渦巻いている

君と手を取り合ったとき
触れた温度の不快さに
思わずぎちりと
力を込める

すると君は
にこりと微笑み
余計に強く握り返す

互いに血が滲むほど
握り締め合い

振り払った手の中には
赤い鮮血と
黒く煮詰まった因縁が
べったりとへばり付く

へどろのような
君との縁は
とっくのとうに
腐り落ちて

僕の心に膿を残した

256:レミング◆yc:2021/05/18(火) 06:05

どこまでも続く晴天に
思い出さなくていいことが
ふいに脳裏に
浮かんだ気がした

まだ
諦めていないのかと
嗤う自分の首を抑え付ける

まだ
許しはしないのかと
呪いを吐く口を縫い付ける

そうして変わらない朝が来て
絶望しながら布団を這い出る

きっとまたその繰り返し
それでいい

じわじわと血溜まりを
広げるように
本心さえも押し殺して

血が吹き出すことの
無いように

その日が来た時には
もう血が尽きて
壊れてしまえるように

ああそれでも
嫌がって目を背けていても
いつかは
分からなくちゃいけない

その日はきっと今じゃない
と渋る脳に
言い聞かせて

そしてまた
ひとりの世界に閉じ籠もる

永遠に
その日が来ないことを願って

257:レミング◆yc:2021/05/22(土) 20:31

ふと捲ったページ
君の名前が目に入る
その途端に胸が高鳴る

ああ
君はなんて魅力的なんだ
君はなんて人気者なんだ

君は美しい
君は賢い
君は恐ろしい
君は可笑しい
君は強い
君はとにかく素晴らしい

こんなに魅力に溢れている
のにも関わらず

君のその不思議な雰囲気は
見る者の警戒を溶かし
芯に触れ
その全てを狂わすのだ

手を伸ばせば
届いてしまいそうな気さえする

それだから
僕みたいな人間が
一瞬でも
勘違ってしまうんだ

君のことを真に理解するのは
自分だと


全く馬鹿らしいな!

君の目は
誰も何も映しちゃいないさ

君の目に映るのも
君の心にあるのも
全て君の世界だろう

君には誰も触れられない
君には誰も近付けない

麗しき高嶺の花だ
恐るべき異常の華だ

誰も彼もが
血を流す思いで
君の気を引こうとも
君は毛ほども気にしない

それでこそ
毛高き孤高の君だ

ああ
愛おしい君よ

どうか僕から
逃げ切っておくれ

いつまでも
手の届かない君でいてくれ

258:レミング◆yc:2021/05/24(月) 01:35

やたらと喉が渇く

陽はとうに落ちきって
冷えた空気が
足元を抜けていく

最後に君を歌ったのは
いつだったか
もう覚えていない

確かあの日は
目に沁みるような
遠い遠い青空で

昔のことを
思い出していた

まだ純粋に笑えた頃
隣に君だけがいた頃

それが辛いと泣いていた頃

名前を呼びたい
君の名前を

僕の周りには
人が増えすぎた

誰かに聞かせるために
呼ぶんじゃないのに

この声に応えるのは
お前たちじゃないのに

元より
答えは求めちゃいない

ただ
音に君を感じたくて

液晶に映る君も
インクで描いた君も
僕の中の君でさえも
ほんとうの君ではないのだ

夜の空は暗くていけない
涙で滲めば星もぼやける
全てが曖昧でくだらない

青が恋しい
君が恋しい

嗚呼
今日も今日とて
君に会いたい

259:レミング◆yc:2021/05/24(月) 02:18

怒りにも嫉妬にも似た
どす黒い感情が
ぶわりと神経を逆撫でる

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

どうしてあの人は
私以外の声で
呼ばれるのだろう

どうしてあの人は
私以外の声を
耳に入れるのだろう

あいつに
あの人の何が分かる

あの人の名前を
ノートいっぱいに
書き綴ったことは?

あの人を理解するため
月夜の晩土砂降りの中
立ち尽くしたことは?

あの人への愛に悶えて
精神に異常を
きたしたことは?

私はこんなにも
あの人に恋焦がれて
いるというのに

あの人はそんなこと
微塵も興味を
持たないのだ

しかし
それは当然のこと
自然の摂理と
いっても良い

あの人は
こちらに介入しない
それで良いのだ

問題はあいつだ

そんな軽い気持ちで
あの人の名前を呼ぶな

あの人の何も
分かっていないくせに
あの人を本気で
愛したこともないくせに

声に出してふと気付く

私は
あの人の何を知っている?
私は
あの人の何なんだ?

あの人なんていないのに?


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