旅鼠の厭世詩

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1:レミング◆yc:2019/09/13(金) 12:00

思い付いたときに詩を書いていきます。

詩ではなく短文に思えることもあると思いますが、
本人は詩のつもりで書いております。

乱入は可ですが、感想を添えて頂けると幸いです。
また、こちらからの感想はあまり期待しないでください。
何分、自分の意見を述べるのが苦手なもので。

60:レミング◆yc:2019/11/27(水) 04:51

おっと……
済みません、名前を入れるのを忘れてしまいました。
>>59 は私です。

61:レミング◆yc:2019/11/27(水) 06:34

夜の幻想に
沈み込む

今日の夢は
幸福だった

白砂糖の
レイピアと
塩キャラメルの
鎖帷子

ぱっと咲いた
血飛沫は
甘いミルクの
香り付き

昨日の夢は
愉快だった

金剛石の一角獣
遊んでいたら
瞳が欠けた

仕方ないので
黒曜石を
双眸にした
黒い瞳の一角獣

一昨日の夢は
追懐的

脚を怪我した針鼠
哀れに思った
月の娘は

傷口をよく洗い
月の軟膏を
塗ってやった

泡沫の楽園から
目を覚ます

どうか
ここにいて
明日の在処

62:レミング◆yc:2019/12/02(月) 03:19

誰も教えて
くれないから
何も知らない

誰も理解って
くれないから
何も言えない

ずっと何も
聞こえない

きっといつか
声も忘れて
しまうのだ

だから僕の心は
こんなにも静かで

もうすぐ鼓動さえ
鳴り止むのだろう

63:レミング◆yc:2019/12/05(木) 01:58

化け物に逢った

其奴は俺より
頭三つ分も大きくて
赤黒くぬらぬら濡れていた

化け物は俺を見て言った

「旨そうな人の子だ
 頭からばりばり
 喰らってやろう」

俺が
「何故喰らう?」
と問うと

「喰らわねば生きて行けぬ故
 御前達人間も鳥や牛を
 殺して喰らうだろう」
と答えた

確かにそうだ
俺も今朝方
魚を焼いて食べたのだった

しかし
俺はまだ死にたくない

そこで俺は
「お前が俺たちと同じように
 殺し喰らうのだとしたら
 俺たちと同じ礼儀に倣らわねば
 ならないだろう」
と言った

化け物は
「礼儀とは何だ」
と問うので

俺は
「手を合わせ頭を下げて
 頂きますと言うのだ」
と教えてやった

すると化け物は
手を合わせ頭を下げて
頂きますと言おうとし……

その前に俺が其奴の首を斬った
化け物は動かなくなった

俺はその死骸を喰らうことも無く
蹴って谷から突き落とした

化け物は知らなかったのだ
人間が生きものを殺めるのは
腹を満たすときのみではないと

64:レミング◆yc:2019/12/05(木) 09:49

ギロギロと
血走る大きな目

ずっと昔に見ていた
景色を写し続けている

もう夜は
やって来ない

貴方は生きられない

65:レミング◆yc:2019/12/06(金) 10:06

今年も君は
来てくれなかった

嫌だな
もう一年待ち惚けだなんて

去年一昨年
よりもずっと前から
待っていたのに

やっと会えると思ったのに

「ここまでくるのも
 ただじゃないんだよ」
本心を誤魔化して独り呟く

幾つもの“再会”が
通り過ぎる中
独りぼっちで
待っていてあげる

君の好きな薄荷味の
ドロップスを舐めながら

66:レミング◆yc:2019/12/08(日) 07:50

貴方はいつでもそうだ

自分だけが
好きしていられれば

自分だけが
楽しければ

そんなのは
周りを誤魔化す為の
嘘で

自分だけが
報われなければ

自分だけが
絶対悪であれば

またそんなことを
考えているんでしょう

貴方は悪役になんて
向いてない

でも
それを分かった上で
貴方は偽悪を演じている

どうして?

後味の良い終わり方が
必ずしも正解だとは
限らない

虚しさの中死ぬ運命
だとしても

大切な人の死に嘆き
絶望するとしても

どれだけ多くのものを
失ったとしても

作者が手を止めれば
それが“お終い”なのに

いえ
だからこそ
貴方は自己犠牲を
選ぶのでしょうね

どうか
誰よりも優しくて
誰よりも不器用で
誰よりも誠実な貴方が

いつかどこかで
救われますように

67:レミング◆yc:2019/12/11(水) 05:33

かつて此処にあったもの
かつて此処に集ったもの
かつて此処に記したもの

過ぎ去った日々は
もう戻らない
貴方はそれに何を求める?

彷徨ったあとの路か?
共に歩んだ仲間か?
いつも歌った詩か?

はたまた
それら全ての記憶か

時が経って
形を亡くしていたものたちは
貴方の中に残っているか?

かつて此処にあった野原は
貴方が通る路となった

かつて此処に集った独りたちは
仲間を見つけ集団となった

かつて此処に置いた白紙には
文字を記して詩にした

過ぎ去った日々は
もう戻らない

一度紡がれた物語は
空白には戻らない

貴方は確かに此処に居たのだ

68:レミング◆yc:2019/12/12(木) 03:56

僕はまだ大丈夫だって
ペンを取って
机に向き合って

きっとそれから
動けはしない

一文字だって
書けやしない

フラッシュバック
ペンを折る音

肺が重くて息ができない
手が固まって動かせない

フラッシュバック
冷えた指先

もう何もできない

69:レミング◆yc:2019/12/14(土) 06:27

「恋の火傷に気をつけな、Baby?」

そう言って、いつも貴方は
ウィンクをするの

なんて格好良いの
私の王子様!

キザだとか
寒いだとか

そんなことを言う人も
いるけれど
気にしなくても良いの

だって貴方は世界一
格好良いんですもの!

えぇもちろん、
格好付けだっていうのは
分かっているわ

だって貴方はとても純粋な人

でも嘘を吐くのが上手いから
いつも自分を隠してしまうの

貴方の本当の心が理解るのは
貴方だけ

そんなミステリアスな
ところも素敵!

ただでさえ格好良い貴方が
格好付けたら、
どうなると思う?

それはつまり

すごくすごく
格好良いってこと!

70:詠み人知らず:2019/12/14(土) 14:55

71:レミング◆yc:2019/12/14(土) 16:21

>>70
キリ番、取られてしまいましたか。

一文字だけの詩ですか、新しくて良いですね。
「あ」というのは在であり空であり、Aでもありますね。実は「あ」はこの世の全ての始まりを表す一文字なのかもしれません。たった一文字は無限の可能性を秘めた詩でもありそうですね。

72:レミング◆yc:2019/12/17(火) 08:23

曇り空に浮かぶは
電球のような月

白く透明で
直ぐにでも消えて
しまいそうなほど薄い

水面に映れば
揺らいで散った

朝の月は憂鬱だ

73:レミング◆yc:2019/12/18(水) 03:55

真っ赤っかな
足元の花火
飛んでひゅうひゅう
散ってぱらぱら

腐肉みたいな腕
皮肉な取り柄
掴んでぎゅうぎゅう
押してびゅるびゅる

ちっちゃなおくすり
喉から指先
水をぐるぐる
頭でじゅわじゅわ

うふふ、ふふふ

74:レミング◆yc:2019/12/19(木) 16:34

まことにざんねんですが あなたのじんせいは しっぱいしました

75:レミング◆yc:2019/12/22(日) 20:03

愛だけで
世界が満たされれば
良いのにね

みんな幸せに
なっちゃえば
良いのにね

これから先ずっと
誰も死ななければ
良いのにね

全人類が
私だったら
良いのにね

76:四月うさぎ◆w6:2019/12/22(日) 21:03

素敵な詩だね。
ぼくも書いてみていいかな?

77:レミング◆yc:2019/12/23(月) 08:05

>>76
どうぞお好きに書いていってください。
私が立てたスレッドですが、私一人では埋まらない気がしてきたところです。
ふわふわした言葉の羅列は思い浮かぶのですが、どうにも詩の形にならなくて…。

それとお名前、とても可愛らしいですね。

78:レミング◆yc:2019/12/23(月) 08:14

嫌なことが
ありました

育てていた花が全て
枯れてしまいました

嫌なことが
ありました

好きな人には
好きな人が
いるそうです

嫌なことが
ありました

欲しい本が
売り切れていました

嫌なことが
ありました

友達が減って
しまいました

嫌なことが
ありました

嫌いな人が
幸せそうでした

嫌なことが
ありました

傘を盗られて
しまいました

嫌なことが
ありました

好きだった人の
好きな人は
私の嫌いな人でした

良いことが
ありました

好きだった人は
恋人を亡くしました

79:レミング◆yc:2019/12/24(火) 01:44

瓦礫に轢かれる
白花は
風と雨を
憎んでいた

80:四月うさぎ◆w6:2019/12/27(金) 02:45

血溜まりを踏みながら
虚しいなって笑った

小さな虫がそれに止まって
赤に溺れて沈んでいく
一匹の生物の死が
新たな死を生んだ

ありふれたものだった
ただ、
今ぼくが作ったものだった

ぼくにはそれが
とてもくだらないように思えて
虫の脚が見えなくなれば
血溜まりの主への興味も失せた

思い出せることなんて
ほとんどないけれど
そのどれもが灰色で

貴方への気持ちも
そんなもんだったよ

さようなら、最愛だった人

81:四月うさぎ◆w6:2019/12/27(金) 02:52

うーん?やっぱりぼくが書くと文章っぽくなってしまうな。
あなたの詩も文章に近くて、なんだか親近感を覚えてしまったんだ。
物語を読んでいるようでとても引き込まれる、素敵な詩だと思ったよ。

それと名前…可愛いかな?ありがとう。

82:レミング◆yc:2019/12/31(火) 02:37

>>81
お返事が遅くなってしまってすみません。
無機質で虚ろ、そこに仄暗い美しさが宿った、まさに“厭世”な詩ですね。

文章的になってしまうことで悩んでいるのは私だけでは無いのですね。少し安心しました。
どんな形であっても、誰かが心を込めて描いたものなら、詩足り得るのではないでしょうか。

上から目線になってしまいましたが、貴方は貴方の書きたいものを書いてください。
それでは、良いお年を。

83:レミング◆yc:2020/01/01(水) 05:17

馬鹿みたいだ

勝手に作った
年なんて区切りを
大事に守って

丁度ぴったりに
何かをするのが
当然だと思ってる

国とかいう区切りで
微妙にずれているのに

時計がなければ
意味もないのに

それでも“年”によって
全てが動いているのを
誰も疑問に思わない

なんて馬鹿馬鹿しい

まぁ
それはそうとして
新年おめでとう

84:レミング◆yc:2020/01/04(土) 04:30

【初夢】

鍵穴に指を差し込めば
絡繰人形が踊り出す

糸車が廻り
緞帳も降り始める

舌切り歌姫が絶叫
熱狂

暗転

闇に揺らめく
白い焔に
吹きかける息
マッチ箱を置く

汽笛が鳴れば
鴎が墜ちる

愛逢い遭い哀

毒蛾の群れが
疎ましい

疾患
爛れた翅は戻らない

85:レミング◆yc:2020/01/05(日) 05:44

体の芯から
冷えてしまいそうな朝

アイスキャンディをかじる
少女に見つめられている

私の吐く息は
こんなにも白いのに
彼女の口元からは
水色の雫が滴っていた

「暑いね」

妙に感情の篭っていない声で
少女が言った

そんなわけがない

雪も降らない
空が伽藍堂なこんな朝は
底冷えするほど寒い

少女は何も言わずに
ただ私を見て
外れ棒を咥えて
笑っていた

86:レミング◆yc:2020/01/07(火) 01:02

どこか遠いところで
僕を呼ぶ声が聞こえる

それはあまりにか細くて
蝶が羽ばたくみたいな
軽く美しい声だった

振り向こうにも
どこから聞こえるか
分からない

呼び返そうにも
僕はその声が誰のものか
分からない

お願い
もっと近付いて
君の名前を教えて

どうか
呼ぶのを辞めないで
そのまま声を聞かせていて

僕が君に呼びかけるまで
僕が君のもとに辿り着くまで
僕が君を思い出すまで

87:レミング◆yc:2020/01/09(木) 05:11

「杏の甘い匂いがする」

ふと立ち止まって
君が言った

ジャムにしたら
美味しいでしょうね

辺りを見回し笑む君は
この間僕が言った言葉を
覚えているだろうか

いや
覚えていない方が良いな

君を無駄に
怖がらせたくない

君はいつ気付くだろうか

こんな時期に
杏は実らないことに

こんな場所で
鼻がきくはずもないことに

君が“それ”を
見つけてしまわぬように
落ち葉を蹴って“それ”を隠した

【人の屍体は杏の匂いがする】

88:レミング◆yc:2020/01/10(金) 05:08

溢れる涙で文でも書いたら
少しは気分も
晴れるだろうか

苦しくて
虚しくて
みっともない

このどうしようもない
気持ちのまま
誰にも気付かれず
消えていけたら

ぼくじゃないぼくを
消すことができたら

愉快でも呑気でもない
こんなぼくを
誰かが
許してくれるだろうか

希望も期待も未来でさえも
今のぼくには残っていない

全てを突き放してきたぼくは
誰に縋れば良いんだろう

ぼくを愛せないぼくに
救いはあるだろうか

屈折した感情の上澄みだけが
ぼくの最後の砦なんだ

89:レミング◆yc:2020/01/11(土) 08:03

薄いレースのカーテンを引けば
この町が無数の目に
監視されていると気がつくはずだ

90:レミング◆yc:2020/01/16(木) 04:55

黒くなっていく
罪を犯した僕の手が
指先から

暗くなっていく
何度も死顔を見た僕の目が
端から

白くなっていく
無垢だったときの僕の記憶が
古いものから

知らなくなっていく
昔の僕が
消しているから

ちょっと怒ってみようかな

どうすれば良かったんだよ

ってさ

真っ黒で小さな塊になった僕は
何もできなくなった
分からなくなった
僕じゃなくなった

91:レミング◆yc:2020/01/17(金) 09:01

どろどろどろと泥

泥水啜って
生きてきたけど
結局報われは
しなかったな

どろどろどろと泥

手足を取られて
動けやしない
このままずっと
沈んでくだけ

どろどろどろと泥

重くて冷たい
悪意が蝕む
もがくのももう
やめてしまおう

どろどろどろと泥

諦めた
どうせ最初から
助かる見込みなんて
なかったんだよ

92:レミング◆yc:2020/01/20(月) 02:46

風にさらされ雨に打たれて
白骨はふわふわ
夢を見ています

ここから見えるのはもう
青緑色の葉っぱだけに
なってしまった

人の声は遥か遠く
僕の耳には届きゃしない

あとどれだけ
僕は僕でいられるのだろう

乾いて腐って風化して
中身はもう
スッカラカンになった

潤んだ朝の水滴が
僕の顔を
涙のように伝うんだ

生身であれば
知ることのなかった感触だ

ずっとこの景色を
見ていたいな
ずっとこの感覚を
味わっていたいな

願わくば魂が擦り減るまで
どうか清らかな体のままで

願わくば飽きるまで
どうか白骨のままで

93:レミング◆yc:2020/01/20(月) 02:59

手元から逃げた包丁が
硝子テーブルの上に落ちる

その刃には
小さな肉片と鮮血が
べっとりと付いていた

取り返しのつかないことを
してしまった

私は罪人だ
きっともう手遅れだ
これじゃあ地獄行きは
免れないじゃないか

死体はどうしようか
どうにもならないか

掃除はどうしようか
どうにもならないか

喉元から赤を
まるで他人事のように眺めながら
そんなことを考えていた

94:レミング◆yc:2020/01/20(月) 03:01

>>93

誤字。喉元から(吹き出す)赤を です

95:レミング◆yc:2020/01/20(月) 03:02

>>94

誤字じゃない脱字です。
こんなところまで間違えるとは情け無い…。

96:レミング◆yc:2020/01/20(月) 03:16

あの人は私のことを
見てはくれない

たとえ
天地がひっくり返っても
蛙が喋るようになったとしても

私が死んでも
あの人が死んでも

どうしたって
あの人の視界には入れない
どうしたって
あの人の心には入れない

それならば

いっそ
あの人の目の前で
死んでみてはどうだろうか?

言葉にしてみて寒気がした

我ながら
なんて恐ろしく
魅力的な考えだろう

97:レミング◆yc:2020/01/22(水) 02:00

蕗の薹が咲いている

薄緑色の葉と花は
かわいい小さな
ドレスに見える

ほんのり苦い春の味

これを着るのは
どんな娘だろう

雪はまだ残っていて
白いかけらが
固まっている

もうすぐ冬が溶ける

98:レミング◆yc:2020/01/22(水) 02:03

>>97
【ふきのはなさく】

99:レミング◆yc:2020/01/25(土) 05:20

あの時の痕が消えないんだ

こんなに赤黒く見せつけて
風が撫ぜるだけで酷く痛む

今すぐにでも忘れたいのに
一瞬後には忘れていたいのに

触れるたびに思い出す
痛むたびに思い出す
苦しそうなあの人の顔を
きっとこの痕は一生残る

忘れられない記憶と共に
忘れてしまいたい私と共に

100:レミング◆yc:2020/01/25(土) 05:22

…もう幾十も無い。
本当に、もう終わってしまうのですね。
もっと貴方の詩に沈んでいたかった。

101:レミング◆yc:2020/01/28(火) 01:12

素晴らしい詩の集まりでした。
でも、この終わりはきっと、通過点に過ぎないのでしょうね。

私はいつまでも待っております。
又、会うときまで。

102:レミング◆yc:2020/01/28(火) 06:17

【見ている】

私は貴方を見てる
貴方の目を見つめてる

貴方の一挙一動が
愛おしくて
貴方の仕草を
一つとして
見逃さないように

ずっと見てる

103:レミング◆yc:2020/01/28(火) 06:21

【見られている】

僕は君に見られている
どこかをじっと見られている

君を見つめ返そうと思っても
君の目を見ようとしても
僕が視線を向けると
君は外方を向いて
しまうじゃないか

そろそろ見ても良いかい?

104:レミング◆yc:2020/01/28(火) 08:34

【さわみずこおりつめる】

雪が降っていた

雪が降って
そのうち雨になって
霙になった

まるで
シロップに溶けかけの
かき氷みたいに半透明

掴んで潰してみると
しゃらしゅらしゃらと
冷たいきれいな音が鳴る

沢にも分厚く氷が張って
稲光りが走ったみたいな
白い筋が四方八方伸びていた

ばきりと踏んで
破ってやろうか…

靴に水が入るから
辞めておこうか…

105:レミング◆yc:2020/01/30(木) 04:03

貴方はそれに
気づいてしまった

貴方はそれを
見てしまった

貴方はそれから
逃げてしまった

貴方はそれに
気づかれてしまった

貴方はそれに
見られてしまった

貴方はそれから
逃げられなくなってしまった

106:レミング◆yc:2020/01/30(木) 04:35

君は本当はどこにいるの
本当にいるの

ときどき分からなくなるんだ
目の前にいる君は
実は僕の作った夢幻で
本当はいないような気がして

口元に手をやったら
呼吸していないかもしれない

心臓に耳を当てたら
鼓動していないかもしれない

君に触れたらその手は
すり抜けてしまうかもしれない

この夜が明けたら
君はもう
どこにもいないかもしれない

それが
怖くてたまらない

キスをしよう
君が呼吸しているのを
確かめるため

抱き締め合おう
君の心臓が動いているのを
確かめるため

触れ合っていよう
君が存在するのを
確かめるため

夜も起きていよう
君が隣にいるのを
確かめるため

ずっとこのまま
醒めない夢に浸ったまま

永遠に君を生かすように
永遠に僕をころすように

107:レミング◆yc:2020/02/02(日) 06:00

【にわとりはじめてとやにつく】

鶏が卵を生む

ごろりと転がるそれは
まん丸では無い

子供の時分に
聞いたことがある
何故鶏の卵は
まん丸では無いのかと

間違って転がっても
お母さんのところに
戻れるようによ


母親は言った

いつまで転がり続けても
親から離れられることは
無いのだと

冗談では無い

私はどうしたって
逃れられないのか

卵を生み続けるか
肉になるか

私は母親と同じ運命を
辿るのか

次は私が母親になるのか

昔は憧れた白い羽毛が
今は憎くて仕方がない

108:レミング◆yc:2020/02/05(水) 04:38

【はるかぜこおりをとく】

東から吹くぬるい風が
頬を撫ぜる

少しずつ氷がとけ
大地を覆う白が
極彩色に染まるのだろう

積もるばかりの雪は
さらさらと
樹木華に吸われるのだろう

ああ
春が始まる

109:レミング◆yc:2020/02/05(水) 04:44

愛されたいと思っていたら
こんなことには
なっていないよ

僕は別に
愛されなくて良かった
嫌われる方が本望さ

あの子は頑固で
嫌いな奴がいない限り
意見を曲げようとも
しないじゃないか

じゃあ
本当はどうしたかったのか
って?

あの子に何かを
愛してやって
欲しかっただけさ

110:深河春淵◆wc:2020/02/05(水) 12:17

百を超える詩を書けましたね
おめでとう。
本当はもう少し早く御祝いを
したかったのですが、
遅くなって仕舞いました。

深河春淵と云う名は前々から
決めていた名なのです

とある文豪の旧居に置いてある
感想ノートにもそう書き残して
きましたもので

111:レミング◆yc:2020/02/10(月) 02:14

【うぐいすなく】

けきょけきょ
けきょけきょ

嗚呼
まだ上手く鳴けない

ほーっと伸ばして
けきょと続ける

たったそれだけのことなのに
何故か酷く難しい

今年はぼくが一番手
だから
一等張り切っているんだ

けきょけきょ
ほきょ
ほきょけきょ

あと少し
もうちょっと

ほーっほけきょ

あ、鳴けた

112:詠み人知らず:2020/02/18(火) 02:39

【うおこおりをいずる】

暗く冷たい薄氷を
抜け出したいと
一匹の魚が泳いでゆく

背びれを
ザラザラ削りながら
穴だらけの水面付近を
一心不乱に進んでいく

あと少しで
暖かい空に顔を出せる

あの白色に明るいところが
自分の目指していた空だ

そう心を躍らせて
疾く疾くひれを動かす

魚は知らない

薄い薄い氷のふちは
もっともっと鋭利である
ということ

すぱっと切れておろされて
あとには魚の半身だけが
氷の上で冷えていた

113:レミング◆yc:2020/02/21(金) 04:08

【つちのしょううるおいおこる】

しとしとと
さめざめと

雨は乙女の涙ように
ただただ土に落ちてゆく

土砂降ることなく
途切れることなく
大地を目がける

哀しき雫は土に落ちる
土が湿って黒くなる

土はそのうち虫の子を
育てる柔らかな寝床となる

水が空へ還っても
乙女はまだ泣き続ける

空の乙女は救われない
健気に優しく泣き続ける

114:レミング◆yc:2020/02/21(金) 04:25

隠している
潜めている

誰にも
見つけられたくないと

騙している
欺いている

誰にも
知られたくないと

笑っている
黙っている

誰にも
気付かれたくないと

分かっている
分かっていた

誰にも
信用されていないと

115:レミング◆yc:2020/02/22(土) 03:29

深夜の憂鬱
寝惚け眼で蛇口を捻る

グラスがやけに冷たくて
水分に浮腫んだ指先が
冷えて白くなっていく

切れかけの蛍光灯が
無機質に見下ろしていた

深夜の頭痛
眠気も何処かに
消えていた

年季の入ったソファに
投げ出す四肢
冷気が手足に絡み付く

ブランケットを
引き寄せて
テレビをつける

カラーバーと
劈く機械音
補色が混じり合い
目を逸らしつつ消した

深夜の現
珍しいことなど
何にも無い……

116:レミング◆yc:2020/02/27(木) 03:13

【かすみはじめてたなびく】

嗚呼ほらお前さん
見てごらんなさい

あの蒼黒い山は
美しい霞が纏わりついて
輪郭がぼやけて
見えるでしょう

私はあの中に
幽霊がいる気がして
ならないのです

ええ
笑うでしょう
きっと貴方も笑うでしょう

けれど考えてみてください

霞というのは近くに行くと
目には見えなくなるのです

極々小さな水滴と塵が
空中に漂っている
だけなのです

目の前にあるのに見えない
けれど確かにそこにある
そんなのまるきり
幽霊じゃあないですか

遠くから見らば白い雲
近くで見らば目に映らぬ

そんな霞の幻想の中
幽霊がいないと
どうして言えましょう

117:レミング◆yc:2020/02/29(土) 04:14

どんな物事にも
いつかは終わりというのがくる

幾度となく聞いた言葉
幾度となく唱えた言葉

それでも
いざ目の前に叩きつけられると
嫌でも思い知ることになる

心のどこかで
永遠を信じていた
心のどこかで
無限を夢見ていた

忘れられないのだ
人が
居場所が
思い出が

きっといつまでも
私の心を揺さぶるから

次はどうするべきか
終わったあとは何が残るのか
今はまだ考えたくない

もう少しだけ
呆然と感傷に浸ったままで

118:レミング◆yc:2020/03/02(月) 06:03

【そうもくめばえいずる】

未だ冷たく
固い地面から
黄緑色の芽が
顔を出した

とても小さく
名前すらわからない
雑草だった

けれどもこれは
冬を耐えた
長く凍える時を
過ごしたのだ

春に萌ゆ緑色たちは
ただそれだけで
価値がある

厳しい冬を
乗り越えたのは

それは
誇るべき偉業なのだ

119:レミング◆yc:2020/03/07(土) 08:40

【すごもりむしとをひらく】

ぼりぼり
長く伸びた爪で
頬を引っ掻く

爪を指との間に
皮膚片や頭垢が
詰まっている

ずっと前から
決めていた日が
来てしまった

黴の匂いのする
毛布を蹴り上げ
陽に照らされ昇る埃を
ぼんやりと見ている

薄暗いこの角部屋に
最初に入ったのは
いつだったか

最後に出たのは
いつだったか

昼間でも暗いこの部屋で
汚い毛布に包まっている
自分はまるで
来ない春を待つ芋虫だ

そんな醜い芋虫の蛹に
もう何度目の春が
巡ってきてしまった

いい加減
目覚めなくてはいけない

これ以上
惰眠を貪る
気にもならない

ふらつく足を
引き摺りながら
寝床から這い出る芋虫

異臭のするゴミ袋を
掻き分けて

ネジの外れた
ドアノブを握ってみる

少し回すと
がたがた鳴って
胃を握り潰されるような
緊張が走った

一度出たら
もう蛹には戻れない

暗く惨めな蛹には
戻れない

この先鳥に
食い殺されるとしても

この先太陽に
焼き尽くされるとしても

それでも

錆び付いて
耳障りな音と共に

蛹の殻は破られた

120:レミング◆yc:2020/03/12(木) 05:33

【ももはじめてさく】

どこからか
咲きたての花の
甘い香りが漂ってくる

なんだか
良い香りがするね

そう言って貴方は
くるりとこちらを
振り返った

貴方は今日も
こんな私の
側にいてくれる

私と貴方では
住む世界も
見る景色も
違うというのに

私にとって貴方は
寂しく冷たい日陰に射す
柔らかく暖かい光

けれどその光は
周囲の闇を
深くするだけだった

今ではもう
あの日陰が
怖くてたまらない

どこにいても
何をしていても
貴方の光を求めてしまう

私は貴方無しでは
生きていけないの

もうすっかり春だねえ

そう言って
花が綻ぶように
咲う貴方は

間違いなく
この世で一番
輝いていた

愛おしくて
眩しくて
私は少しだけ目を細めた

121:レミング◆yc:2020/03/19(木) 00:01

【なむしちょうとなる】

制服という名の
蛹を破り
青い春の終わりが来る

初めて足を
踏み入れたときと
なんら変わりなく
桜の花びらが
ひらひらと舞う

菜っ葉に穴を開ける
芋虫ではなく
花を愛でる
蝶になるのだ

自由縛るリボンを解き
青空に髪を靡かせた

122:レミング◆yc:2020/03/21(土) 18:08

無限にジョーカーが増え続けるトランプで
終わらないババ抜きをしている

123:レミング◆yc:2020/03/21(土) 18:21

【すずめはじめてすくう】

枝を集めて
葉で縫って

大きく立派な
お家を作るの

まだ顔も見ぬ
かわいいベビーのために
ベッドはふかふかに
しておくわ

あの人は未だ
帰って来ないのね

きっと遠くまで
丈夫な枝を取りに
行っているんだわ

なんだか騒がしいわね
ここは他の家族も
たくさんいるみたい

ご近所付き合いも
大切だものね
あとで挨拶
してきましょう

木を集めて
葉で縫って

きっと素敵な
お家にするの

124:レミング◆yc:2020/03/23(月) 06:17

この世界は全部、僕の見ている夢だったりして。

125:レミング◆yc:2020/03/27(金) 04:55

【かみなりすなわちこえをはっす】

空をも割るような
轟音が響き
窓際レースのカーテンは
真白き光を映し出す

雨が空の涙なら
雷は空の号哭だろうか

泣き叫ぶ空は
一体何を
嘆いているのだろう

風に身を切られるのが
痛むのか

地が離れているのが
寂しいのか

どちらにしても
これだけ激しく泣くのなら
今年の稲は安泰だ

126:レミング◆yc:2020/03/29(日) 05:20

嫌われたくない
嫌われたくない

期待の視線が
何より怖い

裏切られたくない
裏切られたくない

笑顔の下は
考えたくない

そんな考えが
脳を揺さぶるほど
恐ろしいから

いっそ

最初から
嫌われてしまおう

僕の方から
裏切ってしまおう

幸福なんて
知らなければ
不幸も存在しないに
等しい

嫌われたくない
裏切られたくない

いつでも人に怯えてた

だって

人に好かれて
いるからこそ

失うものも
多いのだから

127:レミング◆yc:2020/04/02(木) 05:51

【つばめきたる】

冷やり、と
肌に痛いほどの寒気

冷たくなった枕を退けて
布団から這い出る

この寝床も
暖かく柔らかかったけど
また同じ
冷たく硬いものに
なってしまった

どうしてだろう
私はもっと
暖まりたかっただけなのに

灰色と紫を混ぜたような
不気味な寝床

元はもっと
素敵な色だったのに

ああ
嫌な匂いもしてきた

次の寝床を探さなくちゃ

私1人きりでは
この世界はこんなにも寒い

べたつく身体を
綺麗にしたら
また新しく探しに行こう

次もまた
暖かいところが良いな

128:レミング◆yc:2020/04/11(土) 01:05

同情なんて
されたくない

「可哀想」なんて
大きなお世話

ああ、そうだ

私以外に私のことが
分かる人間が
居てたまるか

129:レミング◆yc:2020/04/14(火) 07:43

【こうがんきたへかえる】

暑いところは嫌いだ

ふんわりと柔らかい羽は
湿気でへたり

心地よく乾いた風は
じっとりとベタつく
ようになる

温もりなんていらない
ぼくはもっと
涼しいところが良い

暖かな日差しも
誰かの体温も
気味が悪くて仕方ない

ほら
今この瞬間も
ぼくの体の温度でさえも

ああ、気持ち悪い

130:レミング◆yc:2020/04/14(火) 07:58

【にじはじめてあらわる】

雨が街を洗ったあとに
大きな大きな虹が架かった

赤に橙
黄、緑
青藍と紫

あんまり鮮やかで美しくて
わたしはそれを
描きたくなった

赤に橙
黄、緑
青藍と紫

クレヨン使って
描こうとしても

絵の具を使って
描こうとしても

あの色合いは表せない
あの美しさは表せない

赤に橙
黄、緑
青藍と紫

早くしないと
虹が消えちゃう

いじわるしないで
ちょっとだけ分けてよ

空いっぱいに広がる虹を
筆の先ですくってみる

全部なんて欲張らないから
少しで良いの
ほんの少しで

赤に橙
黄、緑
青藍と紫

いつか絶対描いてみせるよ
あの鮮やかな虹のいろ

131:レミング◆yc:2020/04/23(木) 05:08

【あしはじめてしょうず】

葦は“悪し”と捉えられて
しまうことから
よしと読む
ことがあるという

あしと読めば
それは悪しなのか?

人は考える葦である

それが悪しきものなのか
はたまた良きものなのか

言葉を鵜呑みに
することなく
ひとつずつ丁寧に
考えるべきであろう

考える葦である君たちは
あしであるかな?
よしであるかな?

132:レミング◆yc:2020/04/27(月) 19:37

何度呑み込んだ
憎悪と偽善を
また吐き戻して反芻する

くちゃくちゃ
噛んで
唾を浴びせて

「嗚呼、
 やっぱり君は間違っている」

味がしなくなって
生温くなる
無意味な妄執

喉が爛れて
新しい味は
望むべくもない

げろり

とうとう
それを消化し切って
何にも出なくなったって
まだ罵詈雑言を
浴びせ続ける

虚を咀嚼
「嗚呼、
 とっくの昔に気づいてた
 間違っていたのは⬛⬛⬛⬛」

133:レミング◆yc:2020/05/03(日) 00:41

最近身の回りが忙しいので、七十二候シリーズは一旦打ち切りにさせていただきます。
勝手ですみません…。

134:レミング◆yc:2020/05/08(金) 03:15

ざわざわと
何かが擦れ合う
音がする

確かめようと
身動ぎするも
眠気と気怠さで
目が開かない

手足は胎児のように
畳んでいて
ときどきごそりと
揺れ動く

身を包む何かは
どこか懐かしい匂いがし
相変わらずざわざわと
鳴っている

空気はきィんと
冷えていて
それが余計に眠気を誘う

ああ、きっとこれは

繭だ

135:レミング◆yc:2020/05/13(水) 11:16

モノクロに褪せて
ひび割れて

振り返るたびに
はらはらと
崩れてゆく

空っぽの断片が
足跡のように
点々と落ちる

軽い音のする頭を
重そうにもたげ
引きずる

朝か夜か分からぬ
青黒い空だけが
私に付き添う唯一の

136:レミング◆yc:2020/05/20(水) 19:46

夏が足りない

ふと
口を溢した

ああ
夏が足りない

目が眩むような
日差しと熱気

どこまでも高い空に
響き渡る
割れんばかりの
蝉の合唱

あの
胸を焦がす疾走感と
流れる青

暑くて
眩しくて
もどかしい

夏が

欲しい

137:レミング◆yc:2020/05/28(木) 02:29

ここに
君の求めているものなど
ありはしないよ

ここには何も無いんだ

『何もない寂しい場所』?
少し違うね

ここでは『何も無い』すら
『無かったこと』になる
そして『無かったこと』も
そのうちなくなる

安心しなよ
もうじき君の存在も自我も
なくなるだろうから

この言葉がここにある理由?
それは僕がいるからさ

分からないならそれで良い
分かったのならそれが答えだ

あるもの全ては
なかったことに

なかったことすら
なかったことに

それはヴォイドか
悟りの境地か

言葉なんて必要ないだろ?
だって

聞くものなんかいやしないんだ
話す言葉もないだろう

138:レミング◆yc:2020/05/28(木) 06:20

私は歩いている

かけらも知らない街並みを
どこか懐かしい街並みを

建物はどこにもない
人の姿もどこにもない

あるのは白い歩道と
赤と緑の信号機

世界はずっと白だらけで
赤と緑が点滅してる

時々ごみ袋が置いてあり
中を覗くと虫がいる

黒いごみ箱いっぱいに
白い虫が詰まってる

空は晴れて白色で
太陽は照って黒色だ

モノクロの街並みに
信号機だけが赤と緑

赤と緑が点滅して
チカチカ
脳を揺さぶった

赤と緑が点滅して
ぐにゃぐにゃ
視界が埋まってく

赤と緑が点滅して
どろどろ
思考は腐ってく

足を止める
何かがおかしい

本当に歩道は
白色だった?
本当にごみ箱は
黒色だった?

白なんてなかった!
黒なんてなかった!

白色は赤と緑だった!
黒色は赤と緑だった!

このままじゃ
気が狂れそうだ!

どこもかしこも
赤と緑でいっぱい

赤と緑しかない
ここには赤と緑しかない

赤と緑 赤と緑
赤と緑 赤と緑
赤と緑以外何もない!

私は走っている

かけらも知らない街並みを
赤と緑の街並みを!

139:レミング◆yc:2020/06/05(金) 03:40

あれが足りない
それが足りないと
強請る私を
頭の隅に追いやる

無駄なんだよ
そんな惨めな行為

どんなに欲しがろうと
望んだものは
手に入らない

疾く走ったところで
黄金のメダルは
落ちてこない

強請るだけでは駄目なのだ
努力だけでは駄目なのだ

泣き喚けばもらえるなんて
そんな時代は赤子のうちに
終わったのだ

どうすれば良いか?
そんなこと私に聞くな

それが分かっているならば
わざわざ言って
聞かせたりしない

140:レミング◆yc:2020/06/16(火) 01:26

終わりが来るのが嫌で
信じたくはなくて

いつまでも夢に
浸っていたいと
駄々をこねる

終わりに気付かないで
中間に縋っていて

最後の頁をめくれずにいる

141:レミング◆yc:2020/06/17(水) 04:55

はつかねずみなんて、こなければいいのに

142:レミング◆yc:2020/06/17(水) 06:08

残されたのは鮮烈な青

過去と未来の淵に立って
消えゆく光を
ただ見つめている

感情が追いついたら
きっと泣いてしまうから
ひたすら無心で
言の葉をなぞっている

それでもやっぱり
涙は溢れて
指先の震えが止まらない

考えなくとも涙が出るなら
このまま
直視しない方が良い


それを受け入れるには
この心はあまりに
脆すぎる

笑ってなんて
いられない

涙もずっと
止まってくれない

いざ終わりを
目の前にすると
人はこんなにも脆弱なのか

残されたのは鮮烈な青
そして沢山の思い出たち

143:レミング◆yc:2020/06/22(月) 21:15

薔薇の花が
枯れるときは
花弁が散ったり
しないものだ

色がくすんで
からからに乾いて
静かに品よく
朽ちてゆくのだ

まるで
壊れてしまった
愛のように

144:レミング◆yc:2020/06/26(金) 22:44

うるさくて眠れないとき

僕の耳を削ぎ落とすのと
君の喉を掻き切るの

どちらが早いのだろうね

145:レミング◆yc:2020/06/28(日) 04:00

君が涙を流すなら
僕はそれを拭う手巾となろう

君が黒を望むなら
僕は何色をも黒に染めよう

君が凹を嘆くなら
僕の身を千切凸としよう

君が己を傷付けるなら
僕はその刃を手前に向けよう

君が夜に怯えるなら
僕が明日を殺んでしまおう

それでも君が俯くならば
僕は

…どうすれば良いのだろう?

どうすれば
君を救えるのだろう

146:レミング◆yc:2020/07/02(木) 02:32

暗くて鬱屈とした
部屋から出たら

空を満たす深い藍が
すぐ前まで迫っていた

底抜けな明るさが
苦しくて
これじゃあ笑えないと
目を細めた

後から湧く入道雲に
思考を追い越されて
しまいそうで
懐かしい名前を呼んでみた

聞こえないだなんて
分かっていた

聞こえないから呼んだのだ

伽藍堂の胸の中
青で一杯に染まって
無彩色には少しだけ滲みた

懐かしいほどに
過ぎてしまった
あの日々をまだ追いかけていた

147:レミング◆yc:2020/07/02(木) 02:51

見えなくなった
子守唄の色
探していたら
セピア色で迷子になった

鉛筆を落とした
白い紙には
低いドの色が残った

隣の家から聞こえるのは
積んだ古本の匂い
麻色の音
冬場の古い雨漏りバケツの音

翌日外から
翡色の音と
セピア色の音

148:レミング◆yc:2020/07/12(日) 00:18

やあ
死ぬには良い夜だ
ね、ダーリン

僕はひと言呟いて
淹れたばかりの
紅茶目掛けて
髑髏印の硝子瓶を傾けた

二つのカップを持って
君の元へ行くと

君はいつもと
変わらない顔で
すっかり寝こけて
いるのだった

随分呑気だ
ね、ダーリン

賭けをしようか

こいつらのうち
どちらか一つを選んでご覧

命の保証はできないさ
けれどこうでもしないと
気が済まないんだ

君は僕から見て
右側のカップを選んだ
…気がした

僕は右側の紅茶を口に含むと
君の口に流し込んだ

そして左側の紅茶を
ぐっと飲み干し
反応の無い君に笑むのだった

死ぬには良い夜だ
ね、ダーリン

もうすぐ僕も
そっちに行くから

二度と言葉を紡ぎはしない
薄い君の唇に
再びそっと
キスを落とした

もう少しだけ待っていて
ね、ダーリン

149:レミング◆yc:2020/07/17(金) 03:49

甘酸っぱい
熟れかけの果実の香りがした

雨上がりのだるい暑さも
一瞬吹き飛ぶように瑞々しい
それは
隣に立つ少年の
腕の中から漂っていた

透き通るほど白く華奢な腕に
抱えているのは
さくらんぼの入った大きな箱

私があんまり見つめるから
少年はふとこちらに気付いて
少し戸惑ったあと

おひとついかがですか

とひと組み摘んで差し出した

悪いとは思ったけれど
興味が湧いたのも事実なので
礼を言って受け取った

ぷちっと茎を摘み取ると
ころんと口に放り込む

柔らかな皮が弾けて
果汁と果肉が溢れて開く

美味しいです

と言うと
少年はふわりとはにかんで
何も言わずにお辞儀した

その可愛らしさに
思わず見惚れてしまい
種はそのまま飲んでしまった

150:レミング◆yc:2020/07/20(月) 04:48

止め処なく流れる涙

こんなつもりじゃ
なかったのにな

気を紛らわそうと
唇を噛む
身体の痛みが加わわるだけ

どうしてこんなに
苦しいのだろう

どうして自分は
泣いているのだろう

滲む視界に君は居ない
居ないのだ

どうしてこんなに
報われないのだろう

どうしてそれが
今更悲しいのだろう

分かっていたはずじゃないか

151:レミング◆yc:2020/07/23(木) 03:35

夜更かしだって?

星が煌々と
照っていることだし

まだまだ眠る時間
ではないだろう

蒼い星が身を潜め
赤い星が顔を出したら

ひぐらしが起きて鳴き
その音で草木が
目を覚ましたら

そのときは布団に
潜ろうか

152:レミング◆yc:2020/07/25(土) 21:54

その春初めての風
雨が止んだ後架かる虹
磨いたばかり希少石の煌き
冬に眠っていた蛹から孵った蝶
愛犬の産んだ子に初めて触れた瞬間

君と目が合う
ということは、
僕にとって
これほどの価値があるのだ

153:レミング◆yc:2020/08/02(日) 07:27

灯台は自らを
照らせはしない

遠く遠くの
知らない誰かに
道を教える
ことしかできない

誰かを探して
救ったのに
遠くを明るく
照らしたのに

灯台が照らされる
ことはない

あれが報われる
ことはない

誰かあれを
照らしておくれ
誰かあれを
救っておくれ

154:レミング◆yc:2020/08/09(日) 02:44

沢山の骸と薄氷の上に
成り立つ王座

骸の中から一つ
頭蓋を抜きとって
仕舞えば

あるいは

薄氷にひと筋
白い罅を入れて
仕舞えば

お前の座る椅子は
上から転げ落ちるのだ

幾つもの犠牲を経て
やっとその位置に
居られることを

ゆめゆめ忘れぬように

155:レミング◆yc:2020/08/09(日) 02:53

きみが僕を見てくれるなら

空に金貨を降らせよう
ここら一帯を花畑にしよう
瑠璃色の水を湧かせよう
全ての人に笑顔を与えよう

きみが僕を見てくれぬなら

空に血の雨降らせよう
ここら一帯を焼野原にしよう
溝色の水を湧かせよう
全ての人から笑顔を奪おう

愛されてしまったのだから
仕方ない

逃れられはしないのだから
諦めなさい

永遠を共にすると誓おう
愛しいきみよ

156:レミング◆yc:2020/08/15(土) 16:08

深く透明を
揺蕩っている

爪先では
光の粒が舞い踊り

頭の方では
黒い影が這い回る

海草が身体に
絡み付いてくる
振り解こうにも
気力がない

地上の喧騒を隔つ
揺らめきに身を任せて
ただ揺蕩っている
波に拐われ
引きずり込まれている

ああ
何も聞こえない……
なぁんにも……

157:レミング◆yc:2020/08/19(水) 05:01

それはある日唐突に
天から降って
気づいてしまった

生きているのか
僕は生きているというのか?

掌をじっと見つめてみる

僕が手を開いている
僕が瞳を向けている

なんてことだ
僕は生きているんだ

僕は今になるまで
自分の意思で生きてきた

朝食は麺麭にするか
白飯にするか

服は白いシャツを着ようか
黒いシャツを着ようか

今日は深夜まで本を読もうか
明日に備えて閉じるべきか

休日は遠乗りに出かけるか
それとも寝てしまおうか

いつまで
ここで働くのか

いつまで
この趣味に没頭するのか

いつまで
呼吸を続けるかさえ

僕は自分で
決めなくてはならない

恐ろしい

僕はなんて
浅はかで軽率だったのだ

今の今まで
僕はどうして決めていた?

人生を大きく
変えるかもしれない
小さな選択肢たちを
どうして切り抜けてきた?

もしや僕は
他の誰かのことだとでも
思っていたのか

僕は僕を生きて
いるのではないと
思っていたのか

なんということだ
僕は僕の人生を生きていた

この顔も性格も
僕が生きた結果なのだ

あと何十年続くのだろう
あと何十年生きるのだろう

僕はいつまで
僕でいるのだろう…

158:レミング◆yc:2020/08/23(日) 05:29

ああ嫌だ
誰かに
不幸になって欲しい
わけじゃない

誰かを
突き落としたい
わけじゃない

誰かに
押し付けたい
わけじゃない

幸せにしたい
笑って欲しい

ただそれだけなのに

159:レミング◆yc:2020/08/30(日) 05:54

美しい

鏡を覗き込んでふと思う

自慢などではない
俺の顔立ち自体は
至って普通だ

そんなものではなく
人の身体というものが
酷く完成され
酷く美しく思えたのだ

ただ寝て食って
生きるだけの身体に

虹を放つ
きらきらしい眼は必要か?
石榴色に
脈打つ"中身"は必要か?

考えれば考えるほど
気味が悪い

生物として完成されている
それがこんな風に
美しさを伴うとでも言うのか

艶の輪を作る髪の毛は
しなやかで器用な指先は
赤肉の下の白くかたい骨は

全てこの身体に
生を受けたときから

何故こんなにも美しいものが
動いている
血を通わしている
熱を持っている
生きている

人間風情が生きているだけのくせに
どうしてこんなに美しい


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