もうこれ以上匿名板に創作系スレ要らないよってなれば勝手に下がるだけの、気まぐれ創作スレ
だから目障りだったら書き込まず下げてくれ
基本的にリレー小説式だけどふざけ過ぎはやめてね
(世界観のイメージはファンタジー)
以下スタート
ほい1レス目↓
目の前の水面から飛び出してきた光が、少年の目に駆け込むように入ってきた。
一瞬、彼の濃い緑の瞳が光を吸い込んで黄緑色に変化する。
少年はその眩しさに思わず目を瞑った。
上を見上げる。
太陽はすでに彼の真上にまで昇っていた。
湖の水面が強い日光を受けて、その光を反射したらしい。
少年は深い青色をたたえたそれから目を離すと、そのまま視線を固く握り締めた自分の右手に移した。
「早く帰って、これをお師匠様に見せなくっちゃ」
強い調子でそう呟きゆっくり手を開く。
先ほどの光の何倍もの輝きが、彼の右手から溢れてきた。
血のように真っ赤な、小さな宝石がそこにはあった。
強過ぎる赤の光を鎮めようとするかのように、少年は再びそっと手を握った。
道を歩き出してすぐに、少年は左を見た。
太陽は連なった山々の向こうに沈んでいる最中。
立派な夕焼けが見える。
この場所には時間が二つ存在するのだ。
「綺麗だ...」
少年の透き通った声が、何も存在していないとまで思わせる静かな世界に響いた。
風が彼の鼓膜と金髪を揺らす。
彼の頬を汗がつたった。暑すぎる。もうすぐ秋になるというのに、真夏のように暑かった。
急な強い衝撃が少年を立っていられなくした。どうやら強い力で倒されたらしい。膝から倒れ込んだ彼を、何者かがさらに押さえ込み、その綺麗な髪が地面に着いた。
「なんだ、、?!」
彼が目を細めると、その「者」が見えた。
(こども、、、?)
耳が隠れないほどの赤い短髪に、赤い瞳。綺麗な顔立ちだ。
「お前の持っている宝石、よこせ」
男の子だと思ったが、どうやら女の子らしい。声が高く、短いスカートだった。
「どうして、、」
少年は渡すまいと手を強く握った。
だが、赤髪の彼女はすごい力で少年の腕を強引に彼の頭の上に持ってこさせた。
「これを、渡せ」
「な、、っ」
湖を中心に、向こう側が日が暮れたようだ。たちまち暗くなっていく。
ただ、少年と少女のいる方では、太陽が燦々と照りつけている。
「、、チッ」
日が暮れた向こう側の世界に目をやった彼女は、小さく舌を鳴らして少年から離れた。
「日が落ちる。こんな所でグズグズしている余裕はないんだ」
少女は早口でそう言って立ち上がると、腰元の鞘からすらりと剣を抜いた。
柄の部分に散りばめられた珠は、まるでここの湖のように青く透き通った色をしている
それがあまりにも綺麗に思えて、こんな状況下にも関わらず少年は一瞬それに見惚れてしまった。
だがその切っ先が自分の喉元に向けられると、流石に我に返ったのか、慌てて口を開いた。
「待ってよ、どうして君はこんなことをするんだ?」
「それは私達の大切な宝石の一つだ。長い、長い時の間守り抜いてきた神秘のかけら」
少年よりもずっと幼いように見える少女は、彼よりもずっと落ち着いた、というよりもほとんど機械的な口調で答えた。
少年はその言葉にはっとして、恐れも忘れ聞き返す。
「じゃあ、やっぱりこれは『神秘のかけら』というものなの?」
少女がこくりと頷いた。少年は息をのむ。
「お前などには想像もつくまい。私たちがどれほど神秘のかけらを大切に集めて回っているかを」
彼女の綺麗な顔立ちが悔しそうに歪む。
「その『紅』色は、私が管理を任されていた。抜かりはなかったはずなのに...まさかお前のようなコソ泥に奪われてしまうなんて
少女が片手を伸ばして少年の喉を掴み、ギリっと締め付けた。
幼子の力とは思えない異様な腕力だ。
「力尽くで奪い返す手段に出る前に聞いてやる。なぜこれを盗んだ、言え!!」
少年は苦しそうに呻いて首を横に振った。
「僕は盗んでない、本当だ!この宝石はさっき拾ったものなんだよ...でも、今はまだこれを返すわけにはいかない。これで...お師匠様の...病気が」
息が出来なくなり、少年は言葉を止めた。
「病気?」
同時に少女の締め付ける手がふと緩くなる。
彼女は表情を曇らせて呟いた。
一瞬の呼吸の自由に、体が酸素を欲し喉がひゅーと音をたてた。咳が出ているが、少女はそんなことまったく気にせず彼を見ている。次の言葉を待っているようだ。
「お師匠様は...、呪いにかかった」
荒い息を整えながら彼は言った。
「この神秘のかけらがあれば呪いが解けるはずなんだよ。お願いだ、これを僕に少しの間預けてくれないか?」
赤い瞳が深い緑色の瞳と合う。彼女の目は、まるでこの神秘のかけらのようだ。
「まさに今会ったお前のことを信用出来るはずもない。私も一緒に行こう」
チャキッと音をたてて、彼女は剣を鞘に戻した。
「君は何者なの」
自分の後ろから数歩距離を置いて歩く少女に向かって、少年は慎重に問いかけた。
「、、プラエフェクトゥスの族だ。」
プラエフェクトゥス。ラテン語で、《守護》を意味していた。
「そうか、僕はヒーラー族なんだ。病気を治したり、癒したりする。」
そう言って、彼は手の中の宝石を見つめた。
「ヒーラー族が呪いにかかったなんて、元も子もないな。」
足も止めず、彼女は声のトーンを変えずに言う。
「マグス族だろう。そのお師匠とやらに呪いをかけたのは。私の仲間もマグス族に呪いをかけられた。お前の話を聞いて、信用は出来ないが同じ思いなのは確かだ。」
「君も……同じ思いをしてるの」
ふいに、今までの体の力がふっと楽になった気がした。自分だけじゃなかった。そう思えた。
「同じ仲間じゃないか。僕は君を信用するよ、だから、君も僕を信用してくれないか?君とこの神秘のかけらで、解決したい!」
「…わかった。ただし、お前の師匠の病気が本当だったらの話だがな。」
と少女は返した。
「、、、うん!」
彼の笑顔を見て、少女は少し息を飲んだが、少年はそれを気付く由もなかった。
「お前、私が恐ろしくはないのか」
少女は、赤い瞳を少年の深い緑色をした目にじっと合わせて尋ねた。
「えっ」
彼の方は今更かという言葉を飲み込みつつも、うん、ちょっとだけ怖いかなと返した。
「ちょっとだけ、だと?」
少女が不意に足を止める。
少年は背後からの足音が突然途絶えたことに気が付いたのか、後ろを振り向いた。
「この剣で一目瞭然だっただろう?私が宝石の守護者、プラエフェクトゥス族の一員だということは。いや、そうであるはずだ。それなのになぜもっと恐れない?」
少女はそこまで言うと、ふうっと息を吐いた。そして彼を威圧するように声を低くする。
「プラエが情けや容赦を知らない者どもである。もしや、このことが分からないわけではあるまいな」
「君の方こそ、どうして僕を見ても石を投げつけたり蹴飛ばしたりしないんだ?」
少年は彼女の脅しに少しも動じなかった。
それどころか本当に不思議なことであるかのように首を傾げてそう尋ねてくる。
「僕がこれまであって来た人達のほとんどは、僕のこの瞳の色に気付くとみんなそんな風な様子になったよ。僕が『人間業ではとても出来ないことをしているヒーラー族』だから。つまり人の病気を直してしまうことが出来るから」
少女が一瞬言葉を詰まらせた。
「僕は覚えている限り、すべての人という人から離れてお師匠様と2人で生きてきたから、普通の人が君を見てどういう反応をするかは知らない」
緑の瞳を微動だにもさせず彼は言う。
「だから本当はさっき君が教えてくれた一族の名前も知らないんだ。ごめんね、知った風に頷いてしまって」
少女が何も言えない間に言いたいことをすべて言ってしまったのか、少年は少し満足気に笑った。
二人の間の蟠りというものが少し消えた気がしたのは、少年だけではないだろう。
24:匿名:2019/07/31(水) 00:00 「名を、教えてくれないか」
切り出したのは意外にも、少女の方であった。
「なんと呼べば良いものか、分からない。」
「ヴァレンティノ」
少年はゆっくりと自分の名を口にした。
「ヴァーレでいいよ。お師匠様からはそう呼ばれてる」
それから微笑みさえ浮かべ、君は?と少女に訊ね返した。
彼女は少し俯いてから顔を上げた。
「エカラット」
「君によく合う名前だね」
「この名の意味がわかるのか?」
「わかるさ、僕は色々な国の人の病気をみてきた」
ヴァーレ、いや、ヴァレンティノはにっこりと笑った。
「『エカラットを浴びたアネモネ』っていう原料は、切り傷なんかを治したりするのによく使われる素材だからね」
それから先ほどの少女の問いかけに答える。
「夕影のことだろう?その赤い瞳に忠実な名前だよ」
その時少女の瞳に夕日が映った。
自分の住む向こう側の世界で沈む太陽。
ヴァレンティノの言葉を聞いて、なぜか夕影のその先まで見たくなり彼女は目を開こうとしたが、あまりの眩さに目は勝手に閉じてしまった。
ぎぃぃっと音をたてて大きな扉が開いた。
「入って」
ヴァレンティノが扉を片手でおさえている。黒く、少し錆びた扉にはいかにもなアラビア語の文字が彫られている。
「いい扉」
エカラットが利き手の左手で扉を触ると、ヴァレンティノが興奮した様子でおさえていた手を離した。
「そうだろ?!この扉、すごくかっこいいんだ!」
「うわっと」
扉の重さにエカラットがよろける。ヴァレンティノが片手でおさえていた扉は、エカラットが体重をかけてもしまろうとしていた。
「ご、ごめん!」
ヴァレンティノが慌てた様子で手をかけた。
力の差を見せつけられたようで、エカラットは少し眉間に皺を寄せたが、ずかずかと館のような家に入っていった。
天井が高く、埃を被ったシャンデリアが垂れ下がっていた。薄暗く、古いとはいうもののとても大きくしっかりした家だった。
こっちだよとヴァレンティノが微笑みながらエカラットを案内する。
廊下の角を一つ曲がった瞬間、二人の横を吹き抜けた突風がエカラットの赤髪を激しく上に舞い上げた。
その風に何か途轍もない力を感じた彼女が、思わず頭を少し下げたプラエフェクトゥス式の警戒を表す姿勢を取る。
廊下の奥からビュンビュン風が吹き荒れている。
家の中なのに、一体なぜ?
エカラットは目を細めて気を引き締めると、廊下の一番奥の部屋の扉を凝視した。
ヴァレンティノは吹き荒む風に慣れているといった様子で、エカラットの戸惑いにも全く気が付いていないのか、迷わずその部屋目掛けて歩みを進める。
エカラットは腰の剣の柄に手をかけて彼の後に続いた。
部屋の前までたどり着いた時には、エカラットの短髪は乱れに乱れていた。
廊下からこの部屋までは大した距離もなかったが、止まない風がそのたった2、3分にも満たない間で彼女にしたことである。
エカラットは狼狽気味に自分の髪を撫で付けると、扉を開こうとしているヴァレンティノに、待てと声をかけた。
ひいっと自分の喉がなるのがわかった。
人間と言っていいのだろうか。ベットに手かせをつけられた「それ」がブンブンと長い灰色の髪をふって呻いている。
恐らく
ヴァレンティノがいう「お師匠様」であろう。
ものすごい気迫で、手かせをガチャガチャといわせている。
「この家に入った我らが族以外のものはなんだ‥なんだなんだなんだ」と低い声が聞こえてくる。
「お師匠様、違うんです。僕の友達です。」
ヴァレンティノが左膝を床につけた。
「どうしたの?」
ヴァレンティノが横に立ったエカラットの方を向いた。
「どうしたもこうしたもない。まず説明しろ。お前の一族は病気を治す力を持つ者達だろう。この風は一体何だ」
彼女はそう言って、まだ元に戻りきっていない自分の髪を指差す。
だが、あべこべにヴァレンティノの方が驚いたようで目を見開いた。
「ああそうか、これは普通のことじゃないんだった」
独りごちて頷いた後、それはねと付け足して答える。
「僕は確かにヒーラー族の一員だよ。でもね、お師匠様には治療術を教わってるわけじゃないんだ」
>>31-33
>>35-36
ごめん、連投したせいで>>34を見てなかった
(>>37だけど、時系列的に辻褄合わせをするために>>35-36は>>34の前に起きたことってことでいいかな?「〜わけじゃないんだ」ってヴァーレが言って扉を開けた瞬間エカラットがひいってなったってことで...)
39:匿名:2019/08/01(木) 00:58(>>38👍👍👍👍👍👍)
40:匿名:2019/08/01(木) 11:20 「外に出せヴァーレ...早く私を外出せ!!」ヴァレンティノの返答を無視して「お師匠様」は低い唸り声を上げる。
きいきいと鎖が擦れる音が再び始まった。
耳を塞ぎたくなるような騒音だ。
しかしヴァレンティノは落ち着いた声で言った。
「無理です、お師匠様」
一呼吸間をおいて、目の前のベッドを悲しそうに見つめる。
「ただでさえ嫌われている僕たちヒーラー族が、お師匠様みたいな姿で人前に出たらどうなると思いますか?」
エカラットは黙ってその様子を眺めていた。
せっかく整えた彼女の髪はもう元通りになってしまっている。
廊下で吹き荒れていた風の発生源はこの部屋で間違い無いようだ。
今もなお強風が唸り、エカラットを押し出すように吹きつけてくる。
「なぜに呪いだけでこのような姿になる。私の仲間は、これよりずっとましだ。」
エカラットがやっと口を開き、回答をヴァレンティノに委ねる。風がヴァレンティノの透き通る金髪を激しく揺らす。金、、というよりは、白に近い、そう言えるようなまっすぐで美しい。
そんなヴァレンティノが目をエカラットに向けた。
「ヒーラー族だからこそだよ。色々な病気に触れてきた。少しばかりは自分にも悪いものが伝染る。弱っている体に、付け込まれたんだ。」
残酷だろう?とヴァレンティノは笑ったが、その深緑の瞳は悲しみに満ちていた。
「これは私がずっと不思議に思っていることなんだが」
エカラットは死にものぐるいで鎖から逃れようと暴れている「お師匠様」に目をやりながら静かに切り出した。
「お前達ヒーラーはなぜ治療を止めない?」
えっ、と言ってヴァレンティノが振り向く。
「他人の病気を治すことで自身が忌み嫌わるようになって、あまつさえ凄惨な呪いにかかる危険性まで増えるのなら、そんなものは止めてしまえば良いだろう?」
現に今回だって治療がお前の「お師匠様」をこんな目に合わせた原因ではないか。
その一言をエカラットは心の中で呟いた。
そしてヴァレンティノの顔に視線を移す。
彼は微笑んでいた。
「『ヒーラーの命も魂吸わずんば3日まで』。こんな言い回しを聞いたことはある?」
エカラットは唐突な質問に面食らったが、少し記憶を探ってから首を横に振った。
「これはね、時間にたっぷり余裕があるからと言って油断していると、あっという間におしまいの日が来ちゃうよっていう教訓なんだ」
ヴァレンティノはそこまで言うと自分の胸に手を当てて、緑の瞳をそっと閉じたまぶたの下に隠した。
「僕達はみんなの病気を治すよ。けれど、代わりにその人の寿命をほんの少し頂くんだ。そうしないと自分の命を長らえさせることが出来ないからね」
彼の言葉には思わず聞き入ってしまう何かがあった。
エカラットは不意に畏れを感じて動けなくなる。
「僕達は、他人の命を盗むことで生き延びている。他の人間よりもうんと長い寿命を持つヒーラー族の秘密は、実はこの治療にこそあるんだよ。好きでこんな生き方をしているんじゃない。何百年もの昔のご先祖様の時からずっと、僕達ヒーラーにはこれしか生き残る術がなかった」
そこまで言って、ヴァレンティノは目を開いた。
先ほどよりも輝きを増したように思える瞳が真っ直ぐにエカラットを見据える。
身体が彼女の意思に反して勝手に震え出した。
「言ってしまえば僕達ヒーラーは『寿命泥棒』なんだよ。神様から与えられた試練でもある病気を、勝手に治してその上寿命まで奪っていってしまうんだから」
ヴァレンティノが話すのを止めた。
震えるエカラットに、怖がらせちゃったかな、ごめんねと優しく笑いかける。
「お前も...誰かを治療して...生きているんだな?」
ようやく震えを止めたエカラットは、呼吸を整えながら途切れ途切れに口を開いた。
ヴァレンティノは何も言わない。
ただ柔らかな笑みを浮かべたままだった。
その、美しく、一切の揺らぎが見えない笑みにエカラットは恐怖をも覚えた。
52:匿名:2019/08/01(木) 17:52 「あら可愛らしいお嬢様をお連れに。」
ふいに、後ろから声がしてエカラットは本能的に鞘に手をかけた。ゆっくり振り向くと、純白の長い髪をたなびかせた綺麗な姿勢のメイド服の女が立っていた。歳的には20代前半と言ったとこだろうか。真っ白な肌が桃色の瞳によく似合っていた。
あっ、とヴァレンティノが駆け寄ってきた。
「彼女はペルマナント。僕はペルってよんでるんだけど、、、。お師匠様の昔の使いで、僕らの手伝いをしてくれているんだ。」
スカートの端を指先でそっと掴み、ペルマナントは小さく膝を曲げてお辞儀をした。
「こちらはエカラット。さっき知り合ったんだ。」そう言ってエカラットのだいたいの説明を終わらせた。エカラットはじっとペルマナントを見つめ「どうも」と一言。
どうやらペルマナントはヴァレンティノをよく好んでいるらしく、ついてまわってはにこにこしていた。まるで飼い主によく懐いた、忠実な犬のようだ。この人の為なら、自分はどうなってもいい。といった感じか。
「お茶をいれてくれる?」
ヴァレンティノの言葉にペルマナントは弾けるような笑顔を見せて駆け足で去っていった。
「エカラット。お茶の時間にしよう!」
ヴァレンティノが彼女をさあさあと部屋から出そうとすると、さっきとは別人のように落ち着いた様子の「お師匠様」が「ヴァーレ」と放った。
「…わかってます。神秘のかけら、少しお待ちください。」と、彼は微笑んでその部屋のドアを閉めた。
「神秘のかけら、見せないのか?」
エカラットが不思議そうに彼に尋ねると、ヴァレンティノは まだどうなるかわからないからね、と言い先を歩いた。
その返答に不穏なものを感じない訳ではなかったが、エカラットはひとまず先程から尋ねたかったことをヴァレンティノに聞いた。
「この家に来る途中、お前はあの『お師匠様』とやらと2人きりで、他のすべての人間から離れて生きてきたと言ったな」
ヴァレンティノが前を向いたまま頷く。
「それがどうかしたの?」
逆にこちらが尋ね返されてエカラットはため息をついた。
「では、さっきのペルマナントは何だ?3人の間違いだろう?」
すると彼女の予想に反して、ヴァレンティノは、間違えてなんかいないさと笑った。
「だってペルは人間ではないからね。あの子は」
ヴァレンティノがその先の言葉を続けようとした時だった。
ガシャンと、陶器が割れた様な音が廊下に響き渡った。
同時に人がドサっと倒れ込む音がする。
エカラットは瞬時にそれに反応し、音が聴こえた廊下の先に走ろうとしたが、前を歩いていたヴァレンティノが「ペル!!」と叫んで彼女よりも速く駆け出した。
エカラットが廊下の例の角を曲がると、既にヴァレンティノがそこにいた。
座り込んだ彼の前には、割れたティーカップの破片と放り出されたトレイ。
それからあのペルマナントがぐったりと仰向けに倒れ込んでいた。
「大丈夫がペル、しっかりしろ!」
目を閉じているペルマナントに声をかけながら、ヴァレンティノは彼女の額にそっと手を当てた。
そこからポゥッと緑の光が溢れてくる。
するとペルマナントの瞼がゆっくり開かれた。目を覚ました様だ。だがその表情は苦痛に歪んでいた。
「ヴァーレ様ごめんなさい...私、またあなたのティーカップを割ってしまいましたわ...また新しいものを...街から買ってこなくちゃ」
息も絶え絶えに言葉をつなぐ彼女に、ヴァレンティノは首を横に振る。
「いいんだ、いいんだよ。そんなこと気にしなくても...ペル、また痛むのか?」
ペルマナントが苦しそうに頷く。
「待ってろ、僕が今治すから」
ヴァレンティノはそう呟くと彼女の額から手を離した。
「今日はちゃんと道具を揃えていないから、本当に簡単な治療しか出来ないけれど」
そのまま静かに胸の前で両手を組むと、目を閉じて呪文の様なものをブツブツと唱え出す。
少なくともエカラットには全く耳に慣れない言語だった。
エカラットはぐったりしているペルマナントに視線を向け、それから仰天して目を見開いた。
ペルマナントの身体が透明になり始めている。消えかかっていたのだ。
あまりのことにエカラットは思わず後ずさりする。
その間にもヴァレンティノの呪文は止まらず、むしろその声は段々大きくなっているようだった。
「ヒーラーの名を以って此処に告ぐ。此の者の魂、今一時は神の手より我が療術に委ねよ!」
ヴァレンティノが最後に叫んだ言葉はエカラットにも聞き取ることが出来た。
彼がバッと両腕を広げると同時にキラキラとした粉のようなものが出現して、それはペルマナントの全身に降り注いだ。
粉が彼女の身体に溶け込む様に落ちて全て消えてしまうと、ペルマナントの身体は元通りに戻った。
もう透明になってはいない。激痛を訴えていた彼女自身の表情も幾分か和らぎ、今はすやすやと穏やかな寝息を立てていた。
ヴァレンティノは安堵の溜息を吐いて仰向けに倒れ込んだ。
「良かった...ひとまず上手くいった」
「人ではないのなら何だ」
エカラットはそこまで歩み寄ると、彼を見下ろしながらようやく声をあげた。
「彼女の身体は消えかかっていた...あれは一体何なのだ」
再び震えが始まりそうな自分の両肩を抱きしめ、続けて尋ねる。
「ペルマナントはそよ風の精霊だよ」
ヴァレンティノはあっさりと答えた。そして額の汗を右手で拭う。
「風っていっても階級があってね。そよ風から暴風まで。この子はその中でも一番穏やかなそよ風の精霊なんだ」
「...精霊?」
上手く飲み込めないでいるエカラットを尻目に、ヴァレンティノは話を続ける。
「でもね、ペルマナントの穏やかな性分は、この子自身の魂を追い詰める結果にも繋がった。ずっと昔、人間の作り出した兵器がもたらした瘴気が強い、ある場所に行った彼女は恐ろしい病...いや、呪いにかかってしまったんだよ」
「それが先ほどの症状をもたらしているのか?」
エカラットは目を伏せた。
「そうさ。その呪いは長い時間かけてかかった者に激痛を与えて苦しませる。そして最後には、その人はこの世界から消えて無くなってしまうんだ。跡形もなくね」
すっとヴァレンティノはペルマナントを持ち上げた。空気のように軽そうに見えたが、それは多分ヴァレンティノが余裕そうに持ち上げたからだろう。
「時間取ってごめんね、着いてきて」
ヴァレンティノはエカラットの方を見てから、歩き出した。エカラットは、あっ、と急いでついていった。
「消えて無くなる...跡形もなく」
歩いている途中、先ほどヴァレンティノが言ったことを呟く。
エカラットは改めてゾッとして小さく身震いした。
魂が天にも昇らず地にも還らず、この世界から消えて無くなるというのはどういうことなのだろう。
それはとても恐ろしいことなのではないか。
彼女はその光景をなんとか想像してみようとしたが失敗に終わった。
この世界には沢山の人々がいて、それぞれの信じる神が存在する。
そんな中で天にも地にも行くあてを失い消滅してしまうのは、神から見捨てられた命に等しいことだと思った。
廊下をいくらか進むと立派な手すりのついた階段が彼らの前に姿を現した。
72:匿名:2019/08/02(金) 21:47 ことっと音をたてて大きな分厚い机に白地に艶の入ったピンクの優雅な模様が入ったカップが置かれた。
中には黄金色の飲み物が揺れている。向かいに、ヴァレンティノが座った。ゆったりと同じカップでお茶している。エカラットがその様子をじっと見つめていると、ん?と首をかしげて笑っていた。
ヴァレンティノが座っているソファにはペルマナントが横になっていて、目を閉じている。生きていることをも疑わせるほど、美しく、何もかも真っ白だ。
ここが僕の自室だよとヴァレンティノは言ったが少年用の部屋にしては随分と広い。
74:匿名:2019/08/02(金) 23:00大きく、立派な窓から光が差し込んでくる。
75:匿名:2019/08/02(金) 23:08その光を受けて、机の上に置かれた紅い神秘のかけらがキラリと光った。
76:匿名:2019/08/03(土) 10:42 「何が起こるか分からない、とは?」
エカラットは問うたが、その間にも、今すぐにでもその宝石を引っ掴んで自分の住処に帰りたいという気持ちを抑えなければならなかった。
「僕がさっき、お師匠様には治療術を教わっているわけじゃないって言ったの覚えてる?」
またしても答えではなく質問を返されたことに中ば苛立ちつつも、エカラットはこくりと頷いた。
「では何だ、風の精霊がいるから風魔法か?」
「当たりだよ!よく分かったね」
彼女の方は投げやりに返したつもりだったが、ヴァレンティノは興奮気味に首を縦に振った。
「家の中であれほどの強風が吹き荒れていてはな」
エカラットのぼやきは耳に入らなかったようだ。
言おうか言うまいかと悩み、じっと考え込む素振りを彼は見せる。
それから、うん、と頷いて決心したように口を開いた。
「君にはここまで、僕達のことをほとんど話してしまったからね。この際だからもう教えるよ。本当は、お師匠様は純粋なヒーラー族じゃないんだ」
「まあそうだろうな」
エカラットは大した驚きもなく相槌を打った。
「あの『お師匠様』の髪は灰色だった。そしてお前は金髪。血族の繋がりが無いことは明らかだろう」
とうとう堪え切れなくなり、エカラットは叫ぶように言いかける。
「そんなことはどうでもいい!早く神秘のかけらを...」
「暴風の精霊と人間の間に生まれた怪物。それが僕のお師匠様なんだ」
しかし、次の瞬間放たれたヴァレンティノの言葉に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「...は?」
それ以上言葉が続かない。彼女は口をパクパクさせて相手を見つめた。
「そんなことあっていいものなのか?精霊とたかが人間が、、、」
「たかがじゃないよ。お師匠様のお母様はほんとに素晴らしい人だ。」
「そういう問題じゃないだろう!」
再び落ち着いた様子でカップを手にしたヴァレンティノに腹が立ってしまう。
すっかり冷静さを失って彼女は声を荒らげた。
「お前の一族の方の反応はどうだったのだ。まさか祝福など送るわけが…」
「だからお師匠様は一族から追放されたんだよ。一人前の療術士だと認められてすぐにね」
ヴァレンティノがその声に重ね合わせて言う。
「それが、お師匠様が一族から離れて生きている理由」
「僕はそれでもお師匠様と一緒にいたかった。どんなに一族に追放されても、僕の師匠はお師匠様だけだ。尊敬している。」
彼は、忠実の域を超えていた。親をも捨て、自分の師匠についてきたのだ。
「お前・・・親はこの世で1人しかいないんだぞ・・・」
だからなんだ。と、ヴァレンティノは少し低い声で言った。
「僕の師匠もこの世で1人だよ。」
伏せていた顔を上げる。エカラットは彼と目が合うとビクッと肩を揺らした。
深緑の瞳が闇のように見えたのだ。輝きがない。
そう、言うところの、
死んだ目をしていた。
「...っ、とにかく、私は今にでもその神秘のかけらを持って帰りたいんだ。はやく終わらせてくれ」
「……まぁまぁ、そう焦んないでよ。僕ら信用し合える仲間だろ」
ふふっとヴァレンティノが笑うが、その笑みがエカラットにはどうも信用出来ないのだ。
えもいえない美しさが彼女を不安にさせた。
「ヒ、ヒーラー族はみなそういう容姿をしているのか?」
「え?」
「いや、なんでもない」
しーんとなった気まずさに、ようやくカップを口に運んでその中身を飲み込んだ。爽やかなミントの香りがする。
「隠し味に、レモンを少し入れてるんだ、口に合うかな?」
「美味しい...」
身体の疲れがすっと和らぐ気がした。
気が緩むと、途端頭から追い払っていた疑問が浮かんでくる。
「あの『お師匠様』は追放されたために、一族から離れて暮らしているということは分かった」
エカラットは蘇ってきた恐怖を打ち払おうとして、逆にヴァレンティノの瞳を強く見つめ返した。
「だがお前は?まさか『お師匠様』と一緒にいたいからなどという理由だけで、一族から離れて生きる許しをもらったわけではないだろう?」
この世界には沢山の人々がいるが、ほとんどの氏族にはある共通した掟がある。
「生まれついたからには、生涯一族のもとで孝を尽くす」という大原則だ。
それは勿論、エカラットのプラエフェクトゥス族も同様に持つものであるし、他の多くの氏族でもこの掟は貫かれている。
一方でこのような掟を持たない、一部例外な氏族もある。
だがエカラットが知る限り、少なくともヒーラーはそうではないはずだ。
ヴァレンティノは微笑んでいた。
まただ。またあの不気味な笑顔だ。
エカラットはすぐに尋ねたことを後悔した。
きっとこれは安易に聞いてはいけないことだったのだ。
「知りたいかい?」
ヴァレンティノがゆっくりと口を開く。
「あっ...」
エカラットの恐怖まで射抜くようなその視線に思わず声が漏れてしまった。
なんとか誤魔化そうと、持っていたティーカップカップをガチャンと音を立てて皿に置いた。
「僕が何者なのか、本当に知りたいのかい?」
一瞬場の空気が張り詰める。
早く何か言ってくれと祈りながらエカラットはその沈黙に耐えた。
「ふふっ、あはははは!」
突然ヴァレンティノが声を上げて笑った。
その顔からは先ほどの不気味な笑みは消えている。エカラットには純粋な笑顔に見えた。
「でも駄目」
呆然としている彼女にヴァレンティノはいたずらっぽく言う。
「え?」
エカラットは首を傾げた。
「君には教えてあげられないってこと」
彼は楽しそうにふふっと笑っている。
「ど、どういうことだ!?」
がたんと椅子から立ち上がってエカラットは彼に詰め寄ったが、本当は一気に緊張が解けて安心していた。
「ごめんごめん。君の反応が面白くて、つい芝居がかかった話し方をしちゃったんだよ、カーラ」
ヴァレンティノはまだ笑いが収まりきっていないらしい。
エカラットは何?と叫んで後ずさりした。
「カーラとは何だ?」
「君のことだよ。エカラットだから真ん中を取ってカーラ。愛称は普通真ん中から取ってつけるでしょ?」
ヴァレンティノは悪びれた様子もなく答える。
「勝手に名前を名を縮めるな!いや、それよりも話をそらすな!結局お前は何なのだ?」
彼は狼狽しているエカラットを尻目に「教えてあげられないのは本当なんだけどなぁ」と肩をすくめた。
「教えないのは君のためでもあるんだよ。僕はみんなから」
「...ヴァーレ様」
ヴァレンティノは何かを言いかけていたが、彼の隣からした声にはっと顔を向けた。
ペルマナントが目を覚ましたようだ。しかしまだ意識は朦朧としているらしく、その瞼は半分しか開いていない。
「ペル!ようやく起きたんだね!どうだい身体の痛みは。吐き気はしないか?」
ヴァレンティノが嬉しそうに容態を尋ねる。
しかしよく聞き取っていないのかそれには答えず、ペルマナントは机の上で輝きを放つ神秘のかけらに目を移した。
「綺麗...なんて美しい光なの」
彼女はすっかりそれに目を奪われてしまったようで、桃色の瞳でそれを見つめていた。
しばらくの間、ペルマナントが神秘のかけらを見つめている時間があった。
「ペル」
ヴァレンティノがペルマナントの頬を両手で包んで自分の顔の方を向かせた。
「気分はどうだい」
なんて美しい2人だろう。どのくらいだって見ていられる。そのやりとりをみながら、エカラットも神秘のかけらに目を向けた。
何度見ても綺麗だ。紅色がキラキラと光っている。
「私、これと似たような輝きをした宝石を見たことがあります」
ぽつりとペルマナントが言った。
彼女の視線がまた横にそれて、紅い神秘のかけらに向けられる。
「それは驚いたな。ねえ、それは一体いつのことなんだい?」
ヴァレンティノは驚きのこもった声で目の前の相手に尋ねた。
ガシャン!!!!
大きな音が聞こえてきた。俄然、その場の空気は一変した。
「なんの音、、、?」
ペルマナントが起き上がろうとすると、ヴァレンティノが左手で彼女の肩を抑える。
「ペルとカーラはここで待ってて」
彼の行動に抵抗1つしないペルマナント。そのまま、また横になる。エカラットは身動きもしなかった。
とん、とん、とヴァレンティノが歩く音が遠ざかっていく。部屋に二人きりにされたことにより、気まずさに耐えきれずエカラットがペルマナントに話しかけた。
「えっと、何歳、、ですか」
明らかに年上の彼女に、敬語になる。といっても、離れていたとしても10ほどであろう。
「114でございます」
「は?」
予想外な答えに、エカラットはつい強い口調になる。
「、、、、ほんとに言ってるの?」
「もちろんです。嘘つくものですか」
くすくすっと彼女が笑うが、エカラットにとっては笑い事ではない。彼女が15であるから、年の差は99だ。エカラットが苦笑いしていると、ヴァレンティノの大声が聞こえてきた。