>>586
「っと、いっけねえ! また大将にどやされるとこだったぜ」
はっと我に返り、自省する。不殺を掲げるFirstにおいてこんな行為はご法度だ。
隆次は思想面であの氷華と通ずる部分もあり、度々殺人を犯しかけては桜空に大目玉を食らっている。
「お叱りから助けてくれてありがとよ、デカブツ」
皮肉混じりの感謝を述べ、再び逃走に戻る。
(けど、ホントにいいのか大将? ああいう奴まで助けるなんてのは、信念じゃなくて無節操だぜ)
胸中に靄(もや)を残しながらも、動きに淀みはない。
目の前の空間に、斜め向きのジャンプ台を形成。先程以上に大型で強力なものだ。そして迷うことなくドロップキックの要領で踏み込み、飛び上がった。
発電室までの距離が一瞬で縮んでいく。
攻撃を一切考慮せず撤退だけに注力したからこそ出来たことだ。
(この状況、存外悪くないかもしれないな……少なくとも、今は旦那達が攻められる心配はない)
まだ隆次は、桜空本人が近くにいることに気付いていない……
《ドゴオォォォォォォォォォォォッ》
巨大ムカデは中川の生成したジャンプ台も破壊し、乗用車並みの速度で通路を埋め突くするような巨体を蠢かせて迫り続ける……
巨大ムカデが行うのは突進し、進行方向にある全てを破壊する事。
単純だが、圧倒的な巨体を誇る巨大ムカデがそれをやれば、左右や上空へ逃れる事が出来ず、先に進み続ける事しか出来ない、災厄そのものとなる。
ムカデの攻撃の矛先は中川一人であるのだが、少し動くだけで通路が崩壊し、触れるモノを全て叩き潰している事から周囲へもその被害が及んでしまっている。
更に……発電室の入口は合金で中川の異能の対象外である人工の特殊合金で出来ており、ロックされてしまっている事からこれ以上逃げるのは困難だろう……
桜空《いいか?中川・・・・・どんな奴でも命は命だ、〇してはい終わりってやってたら、ただの悪人と何ら変わらねぇ・・・・・》
(中川の脳裏に、桜空のかつての忠告がよぎる・・・・・
桜空はどんな命も平等に扱う、だからこそ蚊やハエなどを潰している場面も見ないし、肉を食べる場面においては合掌をした後に合掌とは別にいただきますをするなど、どんな命であっても平等に扱うし、命への弔いの気持ちはいつでも忘れない・・・・・)
桜空「・・・・・」
(桜空は迷った、仲間達を置いて逃げる、などという選択は最初から無い、だがこの巨大蜈蚣を相手に戦うということは、どんな戦い方であってもどの道仲間を巻き込んでしまうことへと繋がり、最悪の場合死者が出る・・・・・
・・・・・が、何も出来ずに仲間を殺されるくらいなら、やるだけのことはやってから、自分も含め全滅の方がまだ後味は悪くない、そう考えた桜空は・・・・・)
桜空「おらおらどうした化け物ぉ!!!!!てめぇの相手はこっちだぁっ!!!!!」
ドゴッ!!!!!
(巨大蜈蚣の体に、渾身の一撃を入れる・・・・・)
>>592