【リレー小説】学園女王【企画?】

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172:ビーカー◆r6:2017/06/10(土) 17:57

「安倍野君、あんまり百合香を困らせるのはだね……」
「いえ、いいのよ智君……彼にだって知る権利が無い訳ではないわ、天本さんの件については」
椎也を制そうとする智の言葉を遮り、百合香は真っ直ぐに椎哉を見た。相変わらず彼女は微笑んでこそいるものの、その目はやはり目の前の相手を軽蔑し見下している様に伺える。張り詰めた空気の中で悠々と立ちすくむ女王の周囲には、無数の薔薇の棘がちらついた。
「そうね、まあ……良いでしょう……ある程度なら……」
一人呟いた後、百合香は数歩足を進めた。不敵に微笑む椎哉に近寄ると、改めて彼の瞳を覗き込む。
「では、お話ししてくださるんですか?」
優しげな筈の彼の声も、今の百合香にはどこか耳につく。その穏やかな顔の中に、一体彼は何を隠し込んでいるのか。今の百合香にそれを知る術はまだ無い。
「簡単に、だけれどね? 全部話していたら休み時間が終わってしまうわ……昔、広報部という部活がこの学園にあったのは、貴方もご存知?」
「ええ、勿論……昨年度までの予算資料もある程度拝見させていただきましたので」
「なら良かった。その部活の部長として活動していたのが、天本千明さん。彼女、とても優秀な人だったのよ? 正義感が強くて、いつも真っ直ぐな……私も彼女には期待していたの。それなのに……」
自分は無関係とでも言いたげな口振りでそこまで言うと、百合香は憂いげに溜め息を吐いた。彼女の表情の陰りは、果たして何を意味してのものなのか。
「――彼女、ちょっとしたトラブルで精神が不安定になってしまったのよ。周りにも冷たくあたる様になってしまってね? それが新聞記事にまで影響して……周りも手に負えなくなってしまったの。仕方が無いから広報部は一旦活動停止にして、彼女が落ち着いてくれるのを待つことにしたのよ。……だけど……」
やがて百合香は、白いハンカチで目元を押さえ始める。見かねた智は、百合香にゆっくりと歩み寄ると、その背中を優しく撫でた。
「まさか、あんな事に……あそこまで思いつめていたなんて……」
「大丈夫、百合香は悪くないさ……百合香は正しい事をしたんだから」
それは本当の事情を知る者からすれば、非常に滑稽な茶番劇であっただろう。その茶番劇を良く思うか悪く思うかは人それぞれではあったが。少なくとも大多数のクラスメイトは、なかなかの誤魔化し方だと考えたに違いない。
「……生徒会長、ありがとうございます……申し訳ございません、辛いことを話させてしまって。僕の配慮不足でした」
椎哉は詫びを入れ頭を下げるものの、彼の本意など周りは誰も知らなかった。当然の事だ。皆、彼があの天本千明の関係者だなど少しも考えはしないのだから。
「いえ、大丈夫……ごめんなさいね、みっともない姿見せちゃって……智君も」
「百合香がみっともないだって? 君はいつだって凛としてるじゃないか……たとえ今みたいに泣いててもね」
百合香を宥めるように言う智に、女王は涙を拭いた顔でくすりと微笑む。
「あら、智君……いつからそんなにキザになったの?」

百合香が立ち去った後の教室には、再び普段の騒がしさが戻った。


匿名:2017/07/06(木) 20:16 [返信]

>>165-170>>172の放課後、かつ>>173>>175>>177とこの話がほぼ同時と仮定しての話です)



 赤みが混ざり始めた夕暮れ空を背景に、天に向かって高々とそびえ立つ白羽学園の学び舎。その一角、音楽室から聞こえてくるのは、多数の管楽器による騒々しい音色。恐らく吹奏楽部が個人で、あるいは楽器別に各々練習をしている真っ最中なのだろう。そんなことを思案しながら、剣太郎は校舎の、音楽室がある辺りをぼんやりと見つめていた。

 かつては広報部に所属していた剣太郎だが、昨年執り行われた強制廃部によって、現在はどの部活にも所属していない。また、いたずらに学園やその周辺街を徘徊すれば、別の生徒にいちゃもんをつけられ、理不尽な恫喝や暴力を受けてしまう。学園に残る理由などなく、得られるものもなければマシな方。ゆえに終礼のホームルームが終わり次第、誰からも声をかけられないようにして速やかに逃げ帰る。それが現在、学園中から迫害されている剣太郎の、日常的な放課後だ。
 ――もしも、風花百合香が広報部を潰さなければ。あるいは部長の千明が、処刑制度や百合香に対する取材を諦めていれば。自分は今でも、部員たちと新聞を作り続けていられただろうか? 今のようなみすぼらしい思いを味わうことなく、青春の一ページを綺麗な思い出で飾れていただろうか? 溢れんばかりの後悔に塗れた仮定は、いつしか過去の情景を剣太郎に想起させていた。



◆ ◆ ◆



「部長、そろそろ深追いはやめた方がいいんじゃないですか?」

「そうですよ! このままじゃ俺ら全員、生徒会に処刑されてしまいます!」


 広報部が強制廃部となる数週間前。青ざめた顔の部員たちが必死の剣幕で、千明に詰め寄る光景が部室内で見られた。当時はまだ百合香直々の声明こそなかったものの、部活動の妨害や度重なる嫌がらせなど、明らかに広報部の動向を良く思わない存在からの脅迫をじわじわと受けていたのである。遠回しの通達とはいえ、声なき牽制をそこまで受ければ、通常の人間は身の危険を察して自らの活動を自重するものだ。だが残念なことに、千明の精神は良くも悪くも非常に丈夫であった。


「大丈夫だって! 向こうに気付かれる前に、バーっとネタ集めてガーっと記事書いてダーっと配布すればいけるいける!」

「そういう次元の問題じゃないんです! 俺たちの取材先に先回りしてくるような奴ら相手に、先手を取れるわけないでしょう? あいつらはこっちの考えを見通してるんですよ!」

「何でも調べたがる部長の悪癖は私たちも分かってます。でも、その弊害が広報部自体にも降りかかったとしたら、部長は責任を取れるんですか?」

「あー、責任かあ……。それ言われると確かに辛いな」


 生徒会側からの度重なる牽制にも負けず、処刑制度や百合香周辺の独自調査を続けてきた千明。その核心にこそ触れられてはいないが、今や彼女は百合香の目論見を、部外者の中では恐らく最も真相に近い形で知る存在となっていた。だからこそ、制度の犠牲者が強いられる処刑内容の凄惨さも十分承知している。その上で広報部を率いる者としての責務を引き合いに出されると、流石の千明も閉口する他なかった。
 言葉に詰まってそのまま数分。いつもは喧噪の中心である千明が黙り、部室内にもしんとした静寂が下りる。普段はアットホームな部活内の雰囲気に馴染み切っていた部員たちは、慣れない緊迫感に身を固くしつつ、それでも無意識に共通の期待を千明へ向けていた。彼女が自分の無謀さを自覚し、百合香の機嫌を逆なでするような取材をやめてくれると。
 それからようやく考えがまとまったのか、千明は天井を仰ぎ見ていた頭を部員たちの方に向け直す。――直後、向きを戻したばかりの頭の前方に、合掌した両の手を勢いよく差し出した。


「すまん、責任は取れない! でも取材をやめるのも無理だわ!」

「はあ!? 部長、それ正気で言ってます!?」

「うん正気。マジ正気。真っ当なたっぷりSAN値で考えた上でこの結論よ」

「じゃあ部長は、自分のせいで広報部が潰されていいとでも!?」

「まあ、ものすごく端的に言ったらそうなっちゃうな」

「ふざけんな!!」


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