『生意気な弟×姉 part2』
「おい、オリビア」
褐色の肌に、成長途中の小さな体。彼はそんな見た目に似つかわしくない言葉をわたしに投げかけた。
目をやると、そこにはいつも通りわたしを見下す弟がいる。
「……アーノルド、姉さんのことを呼び捨てるのが教え?」
「俺より無能なやつに敬意を払う必要があるのかい?」
「敬意を払えとは言ってないわ。ただね、姉さんにたいして悪い態度をとるのはやめなさいよ」
「だったらお前が俺より優秀になるんだね」
「…………この、あんたねぇ」
頭にきてアーノルドに寄ろうと試みたその間際まで、彼は笑みを崩さなかった。
──ガチャリ
「!」
扉が開いて、外から心配そうな母親が顔を出した。
母はわたしとアーノルドを交互に一瞥したあと、尋ねる。
「……どうしたの? 勉強中なのに声がするから、おかしいと思ったの」
「か、母さん、あのね──」
「お母さん」
説明しようとしたわたしの言葉を、幼い声が遮る。
「姉さんが分からない問題があると、ぼくに聞いたんです」
「は?」
「まぁ……そうだったの。ほんとうにアーノルドは賢いのね」
「ち、ちがっ──」
否定の言葉が途切れた。アーノルドは笑っていた。それは幼い少年のものではなく、下卑た蛇人間のような、……狡猾な笑みだった。
『──オリビアが馬鹿だから悪いんだよ』
『アーノルドとオリビア』
『お母さん、できました!』
『あら、満点! すごいわねえ』
満面の笑み、赤い丸だけの答案。
もう慣れた作り物の表情。それに気づきもしない母親の後ろに、姉≠ェいる。
ここからだとよく見えるんだよ。
『……』
ああ、『俺に嫉妬してるんだな』って。
なんであの子ばかり褒められるの、わたしだって頑張ってるのに、でもそんなこと言えない、だってわたしは姉さんなんだから。
……っていうさ、そういう声がいやってくらい聞こえてくる。
そうだよね、オリビア。
本当の子じゃない♂エばかり可愛がられてちゃしかたないよね。
「オリビア」
「……なによ」
「嫉妬してる?」
そう悪戯に聞いてみれば、オリビアのつり目がちな瞳が動揺で見開かれた。
「……ばっかじゃないの」
見開いたあと、すぐに細めた双眸には淡い涙が浮かんでいる。
──ああ、ほんとうに。
俺に嫉妬してしまうくらい、泣いてしまうくらい、自分を責めてしまうくらい、オリビアって馬鹿だな。
「大丈夫だよ」
泣いている彼女≠フ手をするりと取った。
「可哀想にね、無能だと誰にも見向きされなくて」
でもさ、
「俺だけがオリビアを見てやるから安心しなよ」
そういうところが、心の底から好きだって。
……気づいてる?
(>>2->>3の兄弟。こういうのが性癖すぎる)