魔法の手 【 うたの☆プリンス様っ♪ / 翔×春歌 】
「どうしましょう……」
目の前に広がる楽譜を見つめ、春歌は溜息をついた。――スランプだ。
仕事内容はCMソング。完成まであと少しということでつまづいてしまった。期限はあと1週間しかない。
(……何も、浮かばない)
今までどうやって、音楽を作っていたのか。それさえも思い出せなくなってしまう。まるで、目の前に高い壁が立ちはだかったように、その向こうが見えずにいた。
こうしていても時間は過ぎていくだけ。悩むよりも、手を動かせ、頭を回せ。そんなこと誰よりも自分がわかっている。けれど、手は一向に動かなかった。
携帯の着信音が、静かな空間に鳴り響いた。この着信音は、――。春歌は弾けたように携帯を手に取って、通話ボタンを押した。
「も、もしもし……」
《あ、春歌か?》
「翔君……っ!」
電話越しに聞こえてきたのは、1ヶ月ぶりに聞く声だった。
――来栖翔。只今世間を賑わせている期待の新人アイドルだ。その持ち前の元気の良さと、可愛らしい容姿を買われて様々な番組やCMに出演している。テレビをつけていれば、毎日その姿が見えるほどに翔は人気を集めていた。しかし、こうやって会話は出来るんは久しぶりだった。スランプのこともあってか、やや気持ちがうつむき加減になってた春歌は、少し泣きそうになる。が、翔に気づかれるわけにも行かずに、それに耐えた。
《このあとから、2日オフなんだ》
「そうなんですか?」
《ああ、……でさ。久しぶりに会えねーかなって。いや、休みはまだあるから、明日でも――》
「今日、今日がいいです!」
只今の時刻は、夜の11時。けど、時間なんて関係ない。今はただ、こんな機械越しではなくちゃんと声を聞きたかった。
言葉を遮るように告げた春歌に、翔は驚いたように息を呑んだ。しかし、そのあとにくすりと、笑う声が聞こえ、わかったと返ってくる。
《じゃ、30分ぐらいしたら着くと思うから、部屋で待っててくれ》
「はい、わかりました!」
《それじゃ》
電話が切れた。つーつーと、音を聞きながら春歌の胸は踊っていた。やっと、翔君に会える。それが心の中を占めていた。しかし、その視線が机の上に落とされたると、その気持ちはまた沈んだ。
まだ、仕事が終わっていない。――けど、この時間だけでもいい。翔君と一緒にいたい。春歌は、机に広がる楽譜を束ねる。
(まだ解決したわけじゃない。でも、きっと、翔君に会えばいい方法が思いつくかも知れない)
それは確信には程遠いもの。けれど、今までの経験から何となくそう思ったのだ。
春歌は、二人で買ったお揃いのマグカップにココアを入れ、そしれ翔の到着を待った。
【ぬらりひょんの孫】(今のところ、リクオ×夢主のみ、)
・君と共に、/ >>11-18
・新月の夜の訪問者 / ・タイトル未定(夢主姉設定) / >>22-24
・桜花爛漫 / >>29-30 ※未完
【うたの☆プリンス様っ♪】
・魔法の手 / ( 翔×春歌 )>>41、>>43 ※未完
・近くて遠いその関係 / ( 翔×夢主 )>>26