貴方に会いたくてたまらない ( 前編 )【 緋色の欠片 / 拓珠 】
「お願い……お母さん。私、あの村で生きていきたいの、大切な人のとなりで生きていきたいの……」
向かい側には、日々しい顔つきをした自分の母親が自分と同じように正座している。さっきから何度も訴えているが、母からは何も返ってこない。それがさらに不安を掻き立てた。
「お母さん!」
「……珠紀。今日はこれぐらいにしときましょう」
「でも……!」
「私は、あそこへ――あんな村へ貴方を行かせることはできません」
これから先何度も言われても、この意志は曲げない。そう言っているかのように母親はきっぱりと言い切れば、部屋を出ていった。
部屋の中が沈黙に包まれる。聞こえるのは時計が針を刻む音だけ。
「……拓磨」
珠紀はぽつり、と愛しい彼の名前を呟いた。
鬼斬丸を壊し、祖母の葬式終え、季封村から家へ帰ってきてから約2週間。珠紀は未だ、村で生きる許可を得られないでいた。
母親の気持ちも確かに分かる。季封村では何度も死にそうになった。更には身内に殺されかけたりもした。鬼斬丸がなくなったとは言え、まだ堕ちてしまったカミサマはいる。きっとそれは、玉依姫の力を持つ自分を狙ってくるに違いない。危険なのは変わらなかった。
(だけど――)
自分は出会ってしまったのだ。あの場所で、この世界で一番愛しいと思える人と。
確かに村は危険だ。自分だって何度逃げ出したいと思ったか。それでも、いつも傍には彼がいた。自分を支えてくれて、引っ張ってくれて、そして守ってくれたあの人が。
村を出る前に約束したこと、“時雨が終わるまでには戻って来い”それは、もう叶いそうにない。けれど、絶対に戻ってみせるから――。
「だから、待っててね……拓磨」
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後編に続きます!
【緋色の欠片】
▽拓磨×珠紀
・赤い糸のその先は、/ ・貴方に会いたくてたまらない / >>5-6
・眠り姫にキスを / >>7
▽真弘×夢主
・夏の夜 / >>8
・七夕の夜に / >>44