夏の夜( 前編 )【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
夏の夜。
花火に照らされ、無邪気に微笑む君に心奪われた――。
「へぇ……去年に比べて、賑わってるじゃないかい」
「お、おう……そうだな」
今日は季封村総出の夏祭り。最後には花火も上がるという村一番のイベントだ。最近はこれをもとにして、村おこしを行っているらしくここに来るまでの道でちらちらと見かけない顔の人や、家族連れを見かけた。
真弘もまた、己の彼女である黎を連れて、夏まつりへ足を運んでいたのだが。
(これは……やばいだろ)
ちらり、と隣にいる黎の姿を盗み見する。
スラリとした体型に似合う、淡い紫色をした浴衣に、茜色をした帯。普段は高く一つ括りにしている髪を今日は、簡単に団子にまとめていて、白いうなじが見える。
いつもより、さらに色気の増した黎に、真弘は胸を高鳴らせた。ここに人がいなければ、きっと今にも彼女を抱きしめ深い口づけをしていたことだろう。それを安心しているのか、それとも悔しいのか複雑な思いでいる中、やっと視線に気付いた真弘に視線を向けた。
「何さ?」
「……な、なんでもねぇ……」
「ふーん……」
黎は訝しげに真弘の顔を覗き込む。予想外の顔の近さに、真弘はふい、と視線を逸らす。
その状態で約10秒。はぁ、と軽いため息をついた黎がやっと離れる。真弘はほっ、と安堵をつくが黎の様子がおかしいことに気づく。――機嫌が悪そうだ。
「おい?」
「せっかく珠紀たちと一緒に街まで行って買ってきたってのに……褒め言葉も、一言もないのかい?」
ぶす、と少し膨れた顔でじろり、と真弘を見つめる黎。
ずるい。いつもより色気が増しているというのに、その顔で見つめられてしまえが顔が逸らせなくなってしまう。
今度は真弘の方が様子がおかしくなってしまい、それに気づいた黎が真弘へと顔を寄せる。
「どうしたのさ……――」
ぐい、と真弘は自分の頬に伸ばされた黎の手を掴み自分の方へ引き寄せる。急なことで、更にはなれない下駄のせいか簡単にバランスを崩してしまう。
自分の胸に収まった黎を軽めに抱きしめる。周りからの視線が恥ずかしいが、この際は仕方がない。コイツが可愛すぎるのが悪いんだと自己完結させた真弘は、ぼそり、と黎の耳元でつぶやいた。
「……綺麗すぎるんだよ、ばーか」
「――っ!」
ばっ、と胸を押して真弘から離れた黎の顔は、見事に赤く染まっていて、真弘は、声を上げて笑った。
夏の夜はまだ始まったばかり――。
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自分が書いてる夢小説の主人公と真弘での、短編です!
後編に続きますー!
【緋色の欠片】
▽拓磨×珠紀
・赤い糸のその先は、/ ・貴方に会いたくてたまらない / >>5-6
・眠り姫にキスを / >>7
▽真弘×夢主
・夏の夜 / >>8
・七夕の夜に / >>44