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夏休みの殺せんせー暗殺計画の際にやって来たロヴロさんの言葉が、僕の頭の中をよぎった。
ロ「最強の殺し屋、そう呼べる奴はこの世界でただ1人。それは『死神』だ」
その時に見せた、海の表情。とても厳しい、表情だった。そう、まるで二度とその名前を聞きたくないような、そんな表情をしていた。
僕は海の顔を見た。海は、奥歯をかみしめていた。
海「ねぇ、殺し屋さん。私からも1ついいかな?」
海はウェストバッグからスプーンと箸を取りだした。
それを。
渚「海っ⁉」
カルマくんが海を抑えなければ、海はその殺し屋さんに襲い掛かるところだった。
海「放してよ、カルマ」
カ「やだね」
海「殺してやる、お前なんかっ‼」
本気の、殺意……。
その殺意はカルマくんに向けられたものじゃない。
おそらく、あの殺し屋さんに向けられたものだ。
カ「じゃあ聞くけどさ、海。そのスプーンと箸、どうするつもりだった?」
海「………」
海は黙ったままだった。
カルマくんがため息をつく。
カ「先を急ごう。これじゃ埒(らち)があかない」
カルマくんは海を抑えたまま、歩きだした。
しばらく歩いたところで、カルマくんはやっと海を放した。
カ「どう? 目が覚めた……じゃなくて、頭、冷めた?」
海「……ごめん、取り乱した」
海は僕らの顔をまともに見ようとしなかった。
いったい、何があったというのだろう。
海「それから、ごめん。私のことについては何も聞かないでほしい……」
海はつらい表情をしていた。
これまで見たこともないような、つらい表情だった。
皆「………」
重苦しい空気があたりを流れた。
海「クスッ、アハハハッ。みんな、もうしっかりしてよ。私については何も聞かないままにしておいて、もう行こう! みんなが治療薬を待ってるからさ」
片「……そうね。みんな、行きましょう」
皆「おうっ!」
僕は海を見た。
海はいつも額をさらしているのだけれど、ちょうど前髪が垂れてきて、それが邪魔だったのか。ちょうどヘアピンをさすところだった。
僕は思わず、そのヘアピンに目が釘付けになってしまった。
渚「ジャン、ヌ……?」
皆「はぁ?」
今更だけど、渚と海のコンビネーションの戦いの題名。
「コンビの時間」とさせていただきます。
幼いころの経験は、それだけで人を懐かしくさせたり、運命を変えてくれるということがよくある。
テレビとかでもよく耳にする。「○○のおかげで、今の自分がある」とか。
僕にとって、とある少女との出会いがそうだった。
よく公園に入り浸っていて、着物が私服という、変な子だった。
僕は彼女によって救われた。彼女のおかげで、今の自分がある。そう断言できるくらいに、だ。
彼女が町を離れると知ったとき、僕は悲しい気持ちになった。「行かないでほしい」と言った。でも、彼女は寂しい表情を浮かべたまま「ごめんね」と言い、最後に。
「私たちの運命は、きっとつながってる。きっとまたどこかで会えるよ」
そんな保障なんてどこにあるんだと、問い詰めそうになったとき。彼女はさらに言った。
「だからさ、再会できたときの印(しるし)にさ。私が持ってるこれと、君の持ってるこれを交換しない?」
そう言って、彼女は自分がかぶっていた帽子を僕にくれた。僕はその代わり、彼女に自分が髪にさしていたヘアピンをあげた。
「きっと、会えるよ」
現在
渚「ジャン、ヌ……?」
皆「はぁ?」
僕は海のヘアピンに目が釘付けになってしまった。みんなは唖然として僕を見ている。
渚「そう、だよね……」
海「……その名前、懐かしいね」
僕は海の言葉に、目を見開いて驚いた。
やっぱり、そうだったんだ!
渚「どうして、今さら……」
海「あはは。言わなかったっけ? あの日、『私たちの運命はつながってる』ってさ」
渚「言った、けど……」
あんな言葉、信じろと言うのが不思議だよ。
カ「ねぇ、お取込みの最中悪いんだけどさ。渚くんと海ってどこかで会ったことあんの?」
海「……昔ね。小6の頃だったんだけど」
茅「それってもしかして、修学旅行のときに話してた、あれのこと⁉」
海「そう、それ」
矢「すっごーい! 運命の再会だね」
不「ここからすさまじい事件がっ‼」
渚「何言ってんの、不破さん……」
僕は思わず突っこんでから、涙があふれそうになった。
海「……その話はあとあと‼ まずは目の前の標的に集中しろっての‼」
海の言葉に、僕は我に返った。
そうだ。まずはみんなを助けるために治療薬を奪い取るのが先決だ。