>>529
ヘリポートで突然爆発音が響いた。
鷹「何故だ」
海「悪いけど、手錠。はずさせてもらったぜ? あんな安物じゃなくてもっと堅そうな奴だったらはずすのに5分はかかったろうな」
海がだしたのは、針だった。
海「スキルがあればたとえ両手を縛られていても針だけでピッキングなんか可能だぜ?」
茅野は海の顔色が悪そうなことに気づいた。
茅「カイくん、顔色が悪そう……」
鷹岡が海をにらみつけて、顔を真っ赤にしながら言った。
鷹「それ以上、いらねぇ口をたたいてみやがれっ! この薬を破壊し……」
海「あー、薬ってこれか?」
海は振袖の中から3本の試験管を取りだした。
不「治療薬‼」
海「掏りのスキル。海は無駄にスキルを極めすぎだが、たまには役に立つよな」
そう言って海は歩きだした。
海「おい赤羽。これ、お前に預けるぞ」
海が渡した治療薬をカルマは黙って預かった。海はそのまま視線を上に――渚の方へ向けた。
海「じゃあな、潮田。あとは頼んだぞ……」
そう言って海はゆっくり倒れた。
茅「海ちゃんっ‼」
渚は黙ってそれを見ると、鷹岡に向き直った。
記憶は、夏休みの暗殺計画のときにさかのぼる。
夏休み暗殺計画
渚「今のが、必殺技……?」
ロ「そうだ。と言ってもピンとこないだろう。俺は殺し屋としてピンチのとき、これを編み出すことで切り抜けた」
渚は両の手をあわせてみる。
渚「でも、ロヴロさん。これって」
ロ「そう。相撲で言う猫だましだ」
渚は息を吸って、吐いた。
渚(この技の発動条件は3つ。1つは武器を2本持っていること、2つ目は敵が手練れであること、3つ目は敵が殺される恐怖を知っていること……よかった、全部そろってる)
渚は、鷹岡を真っ直ぐ見た。
渚(鷹岡先生、実験台になってください)
鷹岡は渚の笑顔を見て、寒気が走った。
片「渚、笑ってる?」
茅野は海を近くの壁によりかかせながら、渚を見守った。
渚はゆっくりとした足取りで鷹岡に近づいた。
鷹「こんの、クソガキ……」
渚(タイミングはナイフの間合いのわずか外。接近するほど敵の意識はナイフに集まる……。その意識ごと、ナイフを空中に置くように捨て、そのまま……)
パァンッ
鷹岡は突然の柏手(かしわで)に驚き、体をのけぞらせた。
鷹「何が、起こっ……」
渚はそのまま、2本目の刃――スタンガンを鷹岡にあてた。
走る、電流っ!
寺「とどめさせ、渚。首あたりにたっぷり流しゃ気絶するっ……!」
渚はスタンガンに鷹岡のあごをのせた。
渚(殺意を、教わった。抱いちゃいけない種類の殺意があるってことを、それからその殺意から戻してくれる友達の存在も……。ひどいことをした人だけど、それとは別に授業の感謝はちゃんと伝えなきゃ)
鷹岡に、再び寒気が走った。
鷹(やめろ……。その顔で終わらせるのだけはやめてくれぇっ。もう一生、その顔が、悪夢の中から離れなくなるっ)
渚は、笑った。
にっこりと、なんの恐怖も殺意も抱かずに。
渚「鷹岡先生、ありがとうございました」
スタンガンのスイッチを押した。
木「……たお、した?」
岡野「ということは……」
菅「ぃよっしゃぁぁぁぁっ‼」
磯「ボス撃破ぁっ」
みんなの歓声が聞こえて、僕はほっとした。
海「うぅっ……」
茅「あ、海ちゃん!」
茅野が慌てて海に駆け寄っていった。僕もヘリポートから降りると、みんなと合流した。
海「あー、疲れた……」
海は頭をぶんぶん横に振ってから、僕を見た。
海「渚、お疲れ」
渚「海こそ」
僕らが笑いあっていると、カルマくんが不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
カ「ところで、海さ。さっきどうやって鷹岡から薬を奪ったの?」
海「あー、あれね。うーん、この位置から私は見えにくいのか」
海は解説を始めた。
海「……私はまず、鷹岡の足音を聞いてどのくらいのテンポで歩いているのかを考えたんだ。そこから、鷹岡の意識の隙をついて薬をくすねた。そのままヘリポートまで全員にバレないようにゆっくり降りてきたんだ。いや、落ちたかな? 梯子なかったし」
矢「ずいぶん無茶したね」
海「あはは、そうでもないよ」
海はゆっくりと立ち上がった。顔色はほぼよくなっていた。
烏「みんなはここで待機しててくれ。俺が毒使いの男をつれてくる」
皆「はい」
?「お前らに、薬なんざ必要ねぇ」
声がした方を向くと、そこにはあの殺し屋さんたちがいた。
ガ「ガキども……そのまま生きて帰れると思ったか?」
烏「やめておけ。俺は回復したし、生徒たちも充分強い。これ以上、互いに不利益を被る(こうむる)ようなことはやめにしないか」
ス「ああ、いいぜ」
⁉
いいの?
ガ「そもそも、ボスの敵討ちは契約に含まれてないからな。それに言ったろ? お前らに薬は必要ねぇってな」
海「どういう意味?」
ス「お前らに盛ったのはこっち。食中毒菌を改良したやつだ」
ビンが一つだされた。それから、もう一つのビンがでてきた。
ス「ボスに言われたのはこっちだ。これを使ったら、お前らマジでヤバかったぞ」
毒使いの殺し屋は僕らに向かって何かを放ってきた。僕は慌ててそれを受け取った。
ス「その治療薬、患者に飲ませて寝かしてやんな。毒を飲んだ時より体調がよくなったって、感謝の手紙が届くほどだぜ」
アフターケアも完璧だ。
烏「薬が効くかどうかは生徒に飲ませてからだ。それまでは防衛省でお前らを拘束させてもらうぞ」
ガ「ま、しゃあねぇな」
ヘリポートにヘリが止まった。
殺し屋さんたちがヘリに乗ろうとしたところで、カルマくんがグリップという殺し屋の前に立った。
カ「ねぇ、おじさんぬ。俺のこと、殺したいほど恨んでないのぉ?」
グ「俺は私怨で人を殺したことはないぬ。殺してほしければ、狙われるぐらいの人物になるぬ」
グリップさんはカルマくんの頭をたたくと、ヘリに乗りこんだ。
海「双子の殺し屋さん、さっきはごめんね。急に襲いかかったりして」
海?
デ「別に気にしてない」
ダ「そうね。驚きはしたけれど。でもね、かわいい殺し屋さん」
トゥイードルダムが海の顔を正面から見て言った。
ダ「私から言わせてもらうと、あなた。1人で戦うよりも大勢で戦う方が向いてると思うわ。どうして再び殺し屋の前に姿を現したかは知らないけど、あなたは周りを信じて戦いなさい」
海「むぅ……、なんかムカつく」
海は不満そうに口をとがらせた。