【>>668の続き】
「なんだと…ッ!!」
及川の手が上がる。殴られると本能的に分かった。慌ててガードする。
でも、その手が俺に当たることはなかった。
「おいかわさん?」
「!?」
「!! 飛雄!おまっ、なんでここに!?」
「母さんと父さんが家にいなくて…おてがみにここでご飯食べろって書いてました」
「おてがみ?…ああ、置き手紙ね…飛雄、及川さんの家でご飯食べよう。だから一緒に帰ろうか」
「はい!」
まるで、近所のお兄さんと小学生のやり取りを見ているようだ。
「ちょっと静かに待っててね、飛雄。このお兄さんと話してから帰るから」
「分かりました!」
及川の視線が、にこにこと笑う影山から俺に変わる。
「…残念だったね。もう君に、時間はない」
「ッ!!」
きっと、今の影山の様子を見ると及川はもちろん俺たち烏野のことも覚えてないだろう。
「それでも、お前は飛雄を想い続ける事ができるか。」
「え」
「もしも、飛雄の記憶がゼロになって、そこからまたイチ、二と飛雄の記憶は作られる。その時まで、お前は待てる?」
「…待つよ。影山の記憶が戻らなくても、俺たちの事を全部忘れて新しい記憶が塗られたとしても、俺は影山を想い続ける!!」
そう言うと、及川は少しだけ微笑んだ。
今日初めて、俺に微笑みかけた及川は影山の手を引いて、ファミレスを去って行った。
ーー
影山飛雄は、記憶が退化しながら消えていくという病気になってしまった。
入院しても治る見込みがないため、本人の希望で烏野高校の保健室で昼間は過ごす事になっている。
『俺はあいつらを忘れるけど…俺は忘れられたくないんで。自分勝手って分かってるんです。でも、初めてできた仲間で、相棒なんです。
だから俺は残り少ない時間の中、烏野で過ごしたい。』
今の影山飛雄の記憶は、小学生低学年ほどしか残っていないと言う。
続く
【>>773の続き!はやく終われ!!】
「影山ー!!」
「影山君!おはようございます!」
「影山!元気にしてた?」
「来てあげたよ、影山」
「!! みかん!やちさん!やまぐち!つきしま!」
影山の病気の事は菅原や影山の担任、武田によってすぐにバレー部や影山のクラスに知らされた。
全員が驚いたが、病気の事をすぐに受け入れた。特に一年は月島を含め、全員が毎日休み時間になると保健室に通っている。
「みかんじゃない!日向!」
「うるせぇ。お前はみかんだ」
「まあまあ、日向も影山も落ち着いて。」
「ほら影山、この前折り紙欲しいって言ってたデショ」
月島が折り紙を影山に渡す。影山はそれを受け取ると、キラキラと目を輝かせた。
「折り紙…!」
「そういえば影山って折り紙折れるのか?」
「折れねぇ」
日向の問いかけに首を振りながら答える影山。
「影山君、折って欲しいものとかありますか?良ければ私が折りますよ!」
「……つる」
「鶴かぁ…誰かにプレゼントでもするの?」
山口がそう問いかけると、影山は頬を赤らめながら持っていた折り紙で顔を少し隠した。
「…いつも、夕方に来てくれる兄ちゃん」
「…! じゃあ私と一緒に折りましょうか」
「え、でも俺…つる折った事ねぇ…」
寂しそうに答える影山を見た4人は、顔を見合わせた。
そして、日向がガシガシと影山の頭を撫でた。
「大丈夫だ!谷地さんが一緒に折ってくれるからな!!」
「うんうん。それに鶴なら俺も折れるから、谷地さんと一緒に教えるよ、折り方」
「それは心強いです!!影山君は器用だからすぐにマスターするよ!」
「それに…プレゼントなんデショ。自分で折った方が気持ちがこもっていいんじゃない」
影山は嬉しそうに笑った。
ーー
「影山、遊びに来たべ〜」
「!! 兄ちゃん!」
タタタッと影山が駆け寄る。
「これ!兄ちゃんにあげるために、やちさんとやまぐちと折ったつる!」
影山が差し出したのは黒い鶴。彼は笑顔でソレを受け取る。
「黒の鶴…俺達の色」
切なそうに影山を抱き締める彼の目は、濡れていた。
ーー
「愛してるべ、影山…でもお前はこの言葉を明日には忘れてしまうから、毎日この言葉を送るよ。」
「……もう、忘れませんよ。菅原さん」
「影山、お前…記憶が…?」
「ただいまです、菅原さん」
「かげ、やま…!かげやっ、影山ぁ…!」
「っ、苦しいっす…」
「あ、悪い…」
「菅原さん、返事していいですか」
「…!おう」
「俺も、あなたを愛してます。もう、どこにも行きません」
こんな未来が、来るかもしれない。
end
また今度、これの解説書きます。