とある街、とある路地、そんな場所にひとつ、紙が貼ってある
そこに書かれているのは、願いを叶える何でも屋の話
何でも屋『雅』
【初めまして
この貼り紙を見つけられたということは、貴方様にはなにか望むものがありますのでしょう
もしも当たっておりましたら、どうぞ『雅』に足をお運びください
不死の霊薬でも、若返りの秘薬でも、どんなものでも取り揃えております
用心棒でも、復讐代行でも、どんなものでもお受け致します
この貼り紙を見たあなたに、どうか幸せがありますように】
そしてこの貼り紙を読み終えたあなたの前には、何でも屋へ繋がる道が見えることでしょう
おや、貼り紙には、まだ続きがあるようです
『現在、アルバイト募集中』
「?はてぇ」
(学はあまりないので少し難しい例えに首を傾げる)
「どないしましたぁ?ぶつけたりでも…?」
(鈍い音に気が付き振り返る)
「 ……何でもない 」
( 少し屈んで奥の間へ入る… )
「?そぉですかぁ」
(本人がいいならいいのだろう、と部屋の奥に座る)
「それでわぁ、ごようけんをおききしますぅ」
( 正座し 一息をつく )
「 ……ふむ、まだ名も聞かない方に任せるような事ではないが…
単刀直入に言えば 私に対してとあるチケットの “ ダフ屋 ” をして欲しい 」
「…だふや、ですかぁ?おきゃくさまのおねがいやったらぁ、そりゃあ、ききますけどぉ」
(そりゃまたどないして?と、首を傾げる)
「 ………ここ、どこ? 」
( 駆け足で路地裏に飛び込んだ一人の少女が息切れをしながら看板の前で立ち止まりこてんと首をかしげる。こんな所あったっけ?なんて記憶を思い出しながらぎゅっと黒いセーラー服の裾を握る。ぐしゃぐしゃになったリボンタイを結び直して此処に入ろうか入らない方がいいが悩みながらおそるおそるドアに触れる )
「!……、おきゃくさまやぁ」
(新しい人の匂いを感じ、ポツリと呟く)
「…ふむ、星星とみことに…あぁ、でもどのみちぼくがおらへんとおねがいきけへんしなぁ」
(顎に袖で隠れた手をあてぶつぶつと考えている)
「 ……っ、 」
( ドアに手を掛けたまま数秒立ち止まったまま、悲痛な表情を浮かべドアから手を放す。何でも屋、復讐代行その他色々と書かれた文字を見つめるものもすっと瑠璃色の瞳を閉じそっとため息をつき、諦めたかのような笑顔を浮かべる。 『 助けて 』なんて誰にも言えるわけもないのに何を頼めばいいというのだろう。 )
「……………」
(ここにたどり着いたのに、扉から手を放した)
「…おむかえしよかねぇ」
(そう、声を零すと同時に、指をパチンと鳴らす、すると店の扉が誰が触るわけでもなく勝手に開く)
ここは何でも屋『雅』
ここにたどり着いた者の願いなら『なんであろうと叶える場所』である
「…おねがいですかぁ?おきゃくさまぁ」
(ペストマスクの下から、にっこりと微笑む口が見えた)
「 ……っ! えっ 」
( 立ち去ろうと再び瞳を閉じ開けた瞬間開いた扉に瑠璃色の瞳を大きく開く。店の光によって照らされた彼女の体には痣や擦り傷がついていた。頬にはまだ切られて新しいであろう傷後が一つ。それに気付いてあわてて頬を抑えて目線を地面に移すも、おねがいと聞かれてその顔をあげる。おねがい、おねがい、何を願えばいいのだろう。そんな事を考えつつも口では言葉を無意識に紡ぎだしていて )
「 ……っ! わたしの、話を……聞いて、欲しい、です! 」
「……もちろんやぁ」
(scullFaceに一礼をして少女の声の方へ向かう)
「とりあえず、ちのにおいがするんやけどぉ、…けがしとる?これのみぃや、なおるからぁ」
(そういって『修復薬』と書かれた小瓶を差し出す)
「 あっ、……ありがとう、ございます… 」
( 差し出された小瓶の中身を飲み、少しずつ治っていく傷に目をみはり。話を聞いてほしいといったものも何を話したらいいのかよく分からず、ころころと小瓶を転がす。もとからそんなに自分の話をするのは得意ではない。ほかの人の話を聞いて相槌を打つ方が得意なのだ。迷惑…だよねなんて思いつつ腕をさする。その行為をしても痛みがないことに少し驚いたように小声でつぶやく )
「 どこも痛くない……、いつぶりだろう 」
「…んふ、」
(ポツリと呟いた少女の声を聞いて、軽く微笑み、その頭に手をのせる)
「ゆっくりかんがえてええよぉ、ぼく、まつのとくいやからぁ、めいわくともちゃうしぃ」
(まるで考えを読み取ったかのように告げ、のせた手で頭を撫でる)
「なんでもやさんにまかせときぃ」
「 …っ、あなたは……私のこと、殴らない、、の? 」
( 頭の上に手を置かれた時体を震わせ目を閉じるも叩く訳でもなく、殴るわけでもない手つきに戸惑いを覚え。ゆっくりでいいと、自分の考えを読み取り頭を撫でてくれるその暖かい感触に思わず泣きそうになるのを堪え震え声で尋ねる。 )
「?なんでぇ?いたいやん」
(微笑みながら首を傾げる、痛いのは嫌だろう、自分だって嫌だ)
「それに、うちにはきみみたいなこぉも、よくくるからねぇ、だいじょぉぶ、みんなおねがいかなえとるから、おきゃくさまのおねがいもちゃあんとかなえるで」
(優しく優しく、恐怖を溶かすように撫でる、ひどくおびえて、それだけ痛かったのだろう)
「だいじょぉぶやで」
「 本当に……いいの?……私みたいな、…出来損ないのお願い、でも? 」
( ぐっと手を血が滲まないように握りしめる。そっと優しく頭を撫でられる慣れない感覚に少しずつ緊張や恐怖は薄れていき。話、どこから話せばいいのどろう。要領の悪い私には分からない。そんな考えだけがぐるぐる周り、口を開くも声にならず。口はよく口にしている言葉を紡ぐ )
「 生きてて、ごめんなさいっ……みんなが思ってるような人になれなくてごめんなさい……迷惑ばかりかけてごめんなさいっ! 」
「……………」
(撫でる手を止めず、考える、全て吐き出させて、全部全部声に出してしまえば、少しは楽になる、今までの経験上、欲望を叶えるためだけにこの店に来る者よりも、自分をおいつめて追い詰めて追い詰めて、それで限界が分からなくなったものがこの店に来る方が多いのだ)
「……………がんばったねぇ」
(だから、わかっている、分からない願いを吐き出すまでの時間が、とても辛いのはわかっている、だがどうか、少しでも楽になればいい)
(ここはなんだって叶えられる、なんにだってなれる場所だ)
『 だからっ……もう、誰も何も期待しないで……殴らないで…出来損ないで…なんにもないのはわかってるから、だから___もう、ころしてよ、楽にさせて、お願いだから 』
( 優秀な両親、兄、姉たちの顔に泥を塗らないように頑張った。要領が悪く頭も普通、特にこれといって秀でた物があるわけじゃない。いつもうじうじして言われたことが素直にできない。そんな私に失望した両親は私を居ないものとして扱った。兄は両親にバレないように日々のストレスのはけ口にした。それでも。こんな私でも皆に褒めてもらうために。 名門校にだって必死に勉強時間を削って合格した。それでも結果は変わらなかった。むしろ日に日にこの家に居場所はなくなった。あぁ、最後に名前を呼んでもらったのはいつだっけ。
ふっと過去を思い出し全てを諦めた笑顔を浮かべると今度こそ、本当の願いを口にする )
「 わたしをころして、ください……、こんな出来損ない、名前も忘れて、今まで育ててくれた家族から逃げ出す、誰の期待にも答えられないこんなわたしが生きてていいわけないから 」
『……生きててもいいと、思いますよ』
(久しぶりに沢山寝た、と無表情で考えると、自身によく似た…いや、真反対であるが故に怒りではなく悲しみに身を焦がす少女に、無責任かもしれないが、つい言葉をかけてしまう。雇われとはいえ私だって何でも屋のひとりだ。それに………)
『あなたはなにも、悪くは無いから』
「…みことぉ」
(おはよう、と声をかける、そして)
「そうやねぇ、もちろん、ほんしんからころしてほしいってねがっとるならぁ、それをかなえるのがなんでもやさんなんやけどぉ…」
(でも、だけど)
「……いきてていいわけない、は、じぶんのねがいとちゃうもんね」
(私事なんですけどもあしたちょっと採用試験なので浮上出来るか微妙です、明後日からは完全復活です、ご報告)
245:雅◆RI:2020/10/16(金) 15:02 (どどどどど緊張した、帰還)
「……星星、おいでぇ」
『 がう』
(相棒に呼ばれ、奥から駆けて相棒の周りをくるりと回る)
「ん、これでうちのこせいぞろいやぁ」
( お疲れ様にございます。…絡む時が分からず、放置してしまいました )
「 ……… 」
( する事も無い時が過ぎるのを知らないまま
おかしな薬と平気な薬の並んだ商品棚とにらめっこ )
(返答来ませんでしたからねぇ、申し訳ないですが◆jEさんが明日も帰って来れれないようでしたら今回のながれは先生のチケットのおねがいの所までリセットしようと思います)
「あ、おきゃくさまぁ、きになるもんありましたらおよびくださいねぇ」
「 …ふぅむ… 」
( 少しばかり 悩ましいようなかおをして )
「 …頼み、という形での商談があるが…
少し長くなる上、まともに店へ頼めるような事でもなくてね… 」
( 右往左往。…の末、けっきょくは )
「 ……それでも良いなら… 時間を取れないだろうか?」
「…はぁい」
(振り向き、すこしマスクを上げながら見える口元が微笑む)
「ここは、おきゃくさまのおねがいをかなえるばしょですのでぇ」
「 …幅の広い売り文句、ね… 」
( 再三のチラシ通り。… に なにも思うことはないけれど )
「んふ、まぁ、じっさいなんでもありますからぁ、おまかせくださぁい」
(な、星星、と相棒に声をかける)
『ぐるる…』
(頭を撫でる相棒に喉を鳴らしながら擦り寄る)
「 ……さて … 頼みたい事というのは…
正確にいうと商売では無いね。… とある チケットの確保、
そしてそれを私が買ったという事にして貰いたい 」
( 懐からチラシを取り出すと “ 猿人族出展 ” と…
広告の殆どを占めるくらいに おおきな美術館のイベントが紹介されていて )
「 要するにダフ屋。…という訳なのだよ 」
「だふや…ふむ、ずいぶんおおきぃいべんとみたいですねぇ…、えぇ、さんかちけっとのにゅうしゅ、にゅうしゅしゃのぎぞうですねぇ?」
(うけたまわりましたぁ、とやわらかくこえをあげる)
( 受けたことの意を示したとき、少しの間驚いた顔をする )
「 ……… このまちには警察が無いのかね?」
( 腕を組んでは、印象的な喋り方を耳にして…
ニューロンの溶けるような感覚を覚えながらも はっきりと全身を見つめる )
「あはぁ、まぁ、ぼくのおみせはねがいがあるひとかぼくと『縁』があるひとしかこれませんのでぇ」
(わるいことしてもばれへんのですぅ、と口元に人差し指を添える)
「あ、ちけっとのほうはすぐにごよういできますけどぉ、ぎぞうのほうはいまからおこなうことになりますのでぇ、すこしおまちくださいねぇ」
「 ……あぁ、頼むよ… 」
( 謎めいて、その上でベールは剥がれない。
詮索の意味は薄きと断じる事は…得策だろうと
似たような経験からそう 思い、壁に背を任せる事にした )
「 ……… …… 」
( ラーメンでも 食べようかな ... まどから差し込むあきの色 )
「〜♪」
(scullFaceの傍から離れ、見えない位置でとある箱から紙切れを取り出す)
「、…いやぁ、ぼくってけっこうめぐまれとるよなぁ」
(それは彼女が求めていた、チケット、それも正真正銘の)
「そもそもいくつもりなかったけどぉ、…んふ、きぶんてんかんにでもいけばよかったかもしれへんねぇ」
(なんて、言っても無駄なのことくらいわかっている)
「…さぁて、がんばりましょねぇ」
「おまたせしましたぁ〜」
(数分後、のんびりとした声を店内にひびかせ、scullFaceのもとへとぱたぱたと駆け寄る)
「こちらがちけっとですぅ、おきゃくさまめいきになっておりますのでぇ、ごかくにんおねがいしますぅ」
(ぴらりと彼女が求めた通りのチケットを差し出す)
「 どうも 」
( 簡単な返事。そして感嘆の出来を見て
表情は氷にように動かなくても 心の中で舌を巻く )
「 ……ふむ 何でも屋、の … 看板に嘘はない 、か …
さて 幾らの心付けが必要となっただろうか?」
「おすきにぃ、なんでもやですのでぇ」
(金目のものは好きだ、が、べつにおかねそのものが欲しい訳でもない、それに)
「ぼくがほしいのは『ご縁』ですからぁ…」
『……だふ………や??』
(なんだろ……と頭を傾けて)
「!…うーん、みことはしらんでええかなぁ、あんまりええこととちゃうし」
(ぽんぽんと頭を撫でてやる)
「ま、なんでもやさんやし、ぼくがことわるりゆうもないし、いろいろあるんやぁ」
『………手伝いたい』
(わたしだって、と少し口をとがらせて)
「…うぅん…、さすがになぁ、こういうことはぼくがやるよぉ、みことがおとなになったとき、こういうのでかせげるんやっておもわれてもこまるし…」
(アルバイトさんやしなぁ、と困ったように声をかける)
『……お、とな』
(なれるのかなぁ、と首を傾げて。というか、)
『大人ってどうやってなるの?』
「………、…………」
(少女の疑問を聞いて、撫でていた手を止める)
「………、まぁ、じかんがたてばなれるよぉ、みこと」
(……………………………時間が経てば、なんて、なんど、自分がかんがえたことだろうか)
(いや暗いのはやめよう、性にあわない、過去など捨ててしまったのだから、何を着にする必要もない)
『おとなになったらね、ィアとけっこんするの!!』
(結婚、とかよく分からないけれど、ずっと一緒の証だった気がする)
「……………は?」
(ぱちくりとめをみひらく、全く予想外の方向から殴られたような感覚、え?このこいまなんていった?????)
「…え、えぇとぉ、ま、まだその、け、けっこんとか、えっと、そ、そういうのは、…は、はやいんとちゃうかなぁって…お、おもうん、やけどぉ…」
(よそうがいすぎて語尾が小さくなっていく、子供特有のあれだろう?父親と結婚するとかそう言うべたなはなしだろうしってる、そうだといってくれ)
『けっこんしたらね〜こどもいっぱいほしい!!!』
(と、小さな手を大きく広げて…まぁ6、7さいのしょうじょの可愛らしい妄想だと受け取れもするが…)
「」
(ふらりと片手で頭を押え、倒れそうになるのを根性で耐える)
「……………」
(おかしい、おかしい、どうしてこんなにも好意を持たれているのだろうか、正直彼女のことは妹、もしくは子供のように思っていたのだ、なのにおかしい、おかしい)
「…………」
「あ、」
(そして、思い出す)
『────ィアちゃん』
(ぞわりと、全身の毛が逆立つような感覚を『思い出す』)
(おもいだすな、おもいだすな、おもいだすな、おもいだすな)
(あれは好意などではない、あれは善意なのではない、あれは)
(あれはただの、悪夢だ)
「っ、」
(冷や汗が出るのがわかる、久しく忘れていた、もう切り捨てたつもりだった、なのに、なのに)
(あいつはまだ、僕の中に居座るのか)
「…………………もうしわけありません、おきゃくさま、しょうしょう、せきをはずします」
(はやくひとりになろう、わすれてしまおう、こんなこと)
『………?』
(おかしい。喜んでくれるはずだったのに。いつも私は空回りする。どう頑張ろうと私は、 …それならいっそ)
(ちら、と見た視線の先に包丁。思い出される惨劇。自分で作りだした肉塊たち。そうだ、ぬるま湯に浸かっていて忘れていた。私の本当の願いは、)
『……………私は、生きてちゃダメなんだ』
『ガウ!!!』
(間違えたことを考える少女にむかい、これまでに無い大きさで吠える)
『ぐるるる…』
(その場から少女を動かさないよう、その大きなからだで少女の周囲を回る)
『………通して』
(今までになく冷たい声と瞳。いつしか明かりが点っていた瞳はまた漆黒を映し、まるで静かな新月の夜のような目を瞬かせ、星星に命令を下す)
「…っ…」
(後ろの様子も気にせず、自分の部屋へと駆け出す、すぐに部屋に飛び込み、鍵を後ろ手に閉める)
「〜は、…っは…」
(荒くなる息を押え、扉にもたれ掛かる)
『ィアちゃん』
「っ、うるっさいねんっ!!!!」
(その声をやめろ、その声をおもいだすな!)
(声を荒らげる、かき消すように)
(おちつこう、はやく、)
(はやくおちついて、はやく、店にいるふたりに謝らなければ)
『ぐるるる…』
(少女がかなう相手ではない、そこにいるのは猛獣である、)
(死なせる訳には行かない、ほおっておいたら、相棒はまた泣くことになる)
(己の不甲斐なさに、己の無能さに)
(少女をうしなって、今1番気づつくのは、自分の相棒だ)
(傷つくです、誤字)
279:雅◆RI:2020/10/16(金) 21:16 「…………」
(懐から、小瓶をひとつ取り出す)
『忘却』
(そう書かれた小瓶をには、少量の液体が入っている)
「っ、!」
(それを飲み干す)
(わすれよう、わすれよう)
(これでいつも通りだ)
「───?」
(あれ、なんで部屋におるんやろ、さっきまでおきゃくさまと商談中やったんやけどなぁ)
「!?しょうだんちゅうやん!??」
(なんでぬけだしているんだ!?早く戻ろう!!)
(そう思って、自分が鍵をかけたことを忘れたしまった扉を不思議に思いながら、また、店へと駆け出した)
『……………あたしは要らない、必要なんかない』
(どこにいったって、何をしたって)
『…………ねぇ、通して、星星』
(いつの間にか溢れ出した涙を止める術も知らずに)
「っはー!!!!!?もうしわけありませんおきゃくさまぁっ!!」
(店内の様子など「覚えておらず」、焦りまくった状態で店内に入り込む)
「…?あれ、みこと、星星、なにしとんのぉ?」
(そして、2人の先に包丁があるのに気がつく)
「!わーわー、あぶない、なんでこんなとこおいてんねやろ」
(そうして攻防している2人を他所に、その包丁を手に取りしまい込む)
「って!?みこと?なんでないとんの!?」
(そして振り向いてようやく、少女の方から涙の匂いがしている事に気がつく)
『…ぐる…』
「わーわー、どないしたん!?どっかいたいん?」
(すぐに少女に駆け寄って地面に膝をつき、自分の袖で涙を拭う)
『…ィアに嫌われたぁ』
(涙を拭われたことで何かが壊れたのか、とめどなく涙が溢れて止まらず)
「!?!?!?きらってないで!?!?!?」
(なんで!?!と全力で疑問符を浮かべる)
「あー、ご、ごめんなぁっ、なかんといてぇ…」
(訳が分からないが、ときかく泣き続ける少女を抱きしめ、背中と頭を撫でてやる)
「ごめんなぁ」
『…ひぐっ、あたしが要らない子だから、ダメな子だから……死ななきゃいけないの………』
(ぐす、ぐす、と鼻をすすりながら)
「??????」
(いったいどうしてそうなったのか、忘れてしまっている彼にはわからない、が)
「いらんくないよぉ、みことは、なんでしななあかんのぉ…?」
(撫でることはとめず、そのまま言葉を紡ぐ)
「ぼくは、みことといっしょにおってたのしいよぉ」
『…たのしい?ほんと?』
(少し機嫌が治ったようで目を擦りながら……しかし少女に刻まれた…"結婚"という言葉の恐怖は消えずに)
「たのしいよぉ、みことがきてからいっつもにぎやかやし…」
(落ち着いてきた少女を見て優しく頭をぽんぽんとたたく)
「やから、いらないこやなんていわんでぇ、ぼくがかなしくなってまう…」
『…ごめん、なさい』
(目が見えない彼には分からない明らかな変化…いや、その圧倒的な存在感は分かるかもしれない、体の端から侵食し始める呪詛の文字)
『!ぐるる…!』
(目の見えない彼の代わりに、少女の変化に気づいたものが1人、そして)
「?星星、な、にっ」
(そして、素手で少女に触れたかれも、その異質性の気配に気がついた)
「っみこと!」
「っ星星!じゅそや!あれもってきて!」
『がうっ!!』
(相棒の声を聞き、すぐに駆け出す)
「っみこと!みこと!!きこえとる!?」
『あたしは要らないあたしは要らないあたしは要らないあたしは要らないあたしは要らないあたしは要らない…………』
(ブツブツと唱える彼女は異質で………もはや元の人影はなく)
「……くそ、もうきこえてへんか…」
(少女から手を離す、これ以上近づけばこちらも呪詛に汚染されるだろう)
「……みせのなかは、こまるなぁ」
(おきゃくさまもいるのだ、あらごとはなるべくさけたいものだが)
「…うまくいくとええけど」
『…………"ごめんなさい"………あたしは要らないあたしは………』
(薄れる意識の中で、困っているィアを見て……微かに動く唇で謝罪をする。あたしはやっぱり……あしで、まとい…………)
『ガウ!!!』
「!…ん、星星、ありがとぉ、…ほんじゃ」
(相棒が持ってきたものを受け取る、それは──黒い、革の手袋)
(それを手にまとい、するりと相棒の背を撫でる)
「…ちゃっちゃとかたずけるで、星星」
『ガルル…』
「…じゃ、星星、ふぉろーよろしゅう」
(そう告げると、たんっと床を蹴り、少女の側へ瞬きのうちに移動する)
「…きこえとる〜?みこと」
(いまたすけるからな、とつげ、少女の肌に手袋で包まれた手を伸ばす)
『………私は要らない……"ごめんなさい……助けて"私は要らない…………』
「……『喰らえ』」
(ずるりと、触れた場所にあった呪詛が、手袋に吸い込まれる)
(彼が着けている手袋は、呪具のひとつ、何でも屋と言うだけあって、どんなものだってここにはある)
「あーあ、くろくなってまう、『あんなにまっしろやったんになぁ』」
(その手袋の色は漆黒、それをよくみると、文字が蠢いているのがわかる)
(それらはすべて、吸い込んできた呪詛、触れることで呪詛を食らう、それがこの呪具)
『ぁっ……』
(は、とした顔をしたあと…とても青い顔をして、)
『ごめん………なさい』
(深い夜の瞳を閉じて意識を手放す)
「…『喰らえ』」
(意識を手放す少女を支え、さらにそのからだを蝕む呪詛に触れる)
(ズルズルと吸い込まれるそれにより、手袋はさらに黒さを増してゆく、そして)
「………」
(顔にも出さない、こえにもださない、だがそれは彼の指先を壊していく)
(誰も気がつくことは無い、だれも、少女も、長年連れ添った相棒さえも)
「…だいじょぉぶ、つぎめざめたら、また、いつもどおりや」
(そんな優しい声をかけ、呪詛を喰らい続ける)
「……ふぅ、」
(呪詛を全て喰らい尽くし、意識のない少女を座敷に寝かせる)
「…、ちょっとごめんな、みこと」
(そして少女の口に、ひとつ薬を飲ませる、『呪詛返し』、どこぞの誰かは分からないが、この呪詛の量は異常であった)
「……………もうだいじょぉぶやからねぇ」
「………………」
誰もが寝静まったであろう夜、意識がないままの少女を寝床へ運び直し、星星を傍に布団を敷いてねかせてやった
起こさないように襖を閉め、そのまま店の外にまで出る
「…………」
そして、黒く染った手袋を剥ぎ、自分の手をみる
指の先から第一関節まで、黒く染っているそれは、只人であれば泣き喚く程の痛みを放っている
(…やっぱり、壊死しとる…でも、前よりはマシや…)
この手袋を使ったのは、これが初めてではなかった
何度も使った、その度に、己の力で『戻して』いた
何度も壊れる手先に、己の目の代わりに発達してしまった視覚を除いた4つの感覚のせいで、むしろ人より酷く強く感じるそれは、痛くて痛くてたまらない
でも
「だいじょぉぶ、ぼくは、だいじょぉぶやぁ」
己の手を握り、『戻れ』と念じながら、自分に言い聞かせるように唱える
夜は寒い、さっさと戻して、早く寝よう
『…………んぅ』
(長い眠りから覚める。しかし何か…悪夢を見ていた気がする。確か……姉が昔、私を呪っていたような……………)
『あれ、ィアさん…は……?』
「…ん、よし、」
(いつも通りに『戻った』己の手をみて、よし、と頷き、再び店の中にはいる)
「…さむ…」
(夜は冷え込むなぁ、と考えながら、入口の真正面にある店主の席に腰掛ける)
「……、ふぅ」
(今日はここで寝てしまおう、どうせ明日も早いのだから)
『…ィアさん』
(おかえりなさい、と呟く。今日はなんだか一人で寝るには寂しすぎる日だ。私の気持ちは消せばいい。…今はただ、彼の優しさに甘えたい)
「…んぅ、……?あぁ、みことかぁ、どないしたん…?」
(ただいまぁと、半分寝かけながら少女に声をかける)
「きょうそとさむいねぇ、へやんなかおらんとかぜひくよぉ…?」
『…あ、あの、一緒に……ねても、いいですか……?』
(そこまで小さい声でつぶやくと…やっぱりなんでも、と首を振って)
「!……んふ、ええよぉ、おいで、星星もいっしょにねらそ、あいつおったらあったかいねん」
(少し驚くがすぐに了承し、立ち上がる)
「ねむいやろ、ほら、ねとってええよ」
(少女に向かって両手を広げ、抱き上げる体勢をとる)
『…!!っ、ありがとう、ございます……』
(受け入れて貰えた幸せと、彼に触れる恥ずかしさから頬を紅潮させ……そっと腕の中で丸まる)
「おーしゃおしゃおしゃ、ねんねんころり〜」
(そのまま抱き上げて、うろ覚えの子守り唄を歌いながら相棒がいる寝床へ一定のリズムで背中を叩きながら運ぶ)
「…星星〜、」
『…ぐるるぅ…』
「ん、おまえもおいでぇ、いっしょにねよ」
『………ん…………』
(子供扱いにほんの少しだけ眉を寄せて…けれど子供には変わりがないので諦めて受け入れ、目を閉じる。ふわふわとした星星の毛並みが少女に安寧をもたらし、眠りへといざなう)
「…おし」
『ぐる…』
「んー?あぁ、おまえもねててええよぉ星星、ぼくもすぐねるからぁ」
『がる…』
(相棒の声を聞き、少女を包むように眠る)
「……、おやすみぃ」
「…………あ、」
(ふと声を漏らし、己が着けているペストマスクの紐を解く)
「…ふぅ、…さすがに、たにんがおるんやったら、はずさんとなぁ」
(そのままマスクをはずし、素顔を晒す、窓から差し込む月明かりに照らされ、誰もが目を奪われる光景だ)
「……、」
(ぺたりと己の顔を撫でる)
「……はぁ」
(ため息をひとつ着いて布団に潜る)
早く寝よう
…ぅ…………………がぅ…………………………
『ガウっ!!!』
「!!!!」
(相棒の声にびくりと体を震わせて目を覚ます)
『ぐるる…』
「え、あ、あぁ、もうあさなん…?ありがと、しんしん…」
(珍しく長くまで寝てしまった、いっていつも3時起きだったのが6時に目を覚ました、という、一般的にはまだ早い時間なのだが)
「…かいだし、は、まぁええかぁ、あんまなくなってへんし…」
(寝起きであるため口が回らないまま、いつも以上に舌っ足らずで話している、ほとんど頭も動いてはいない)
(__幸せとは、とつぜんにして終わりを告げる。崩れ落ちるそれに、儚いからこそ人は縋り付く。)
「貴方だけが幸せになるなんて許さない」
(この少女の幸せもまた、崩壊する。呪い、それもこの世を呪った姉からのもの。部屋に微かに勾玉が割れる音が響く。)
「貴方なんて…溶けてしまえばいいのよ」
(___世界には、"奇病"が存在する。あるものは体が木のようになったり、あるものは象のように皮膚が伸びたり。
そして幼い少女は、他の誰でもない姉のせいで【宝石病】を患ったのであった。)
【宝石病】
心臓、脳を栄養源に蝕む病。
患者が死んだ時、血液や肉がサラサラと溶け水になり、心臓が宝石になるのが特徴。
痛みなどは特になく、末期になるまで気づかないことが多い
『おはようございます……』
(星星の声にびっくりして起きる。ぺこ、と挨拶をして重くなかったか尋ねる)
「おはよぉ…」
(素顔のままで挨拶を返す、寝ぼけているせいで自分が素顔を晒していることにすらきがついていない)
「…みせ、みせ、あけてきてぇしんしん」
『ガウ…』
(動くのが億劫で、相棒に開店の準備を頼む)
「おもくないけどぉ……むしろかるすぎ…まってめしつくるわぁ…」
(のそのそと結局起き上がり、台所へ歩き出す)
「まっとってねぇ…」
(ほぼ寝かけだが手元は的確で、するすると料理ができているのがわかる)
『………おかお、きれい…………』
(こっちも寝ぼけていて…とても綺麗なその顔とその唇に唇を落として…………また寝息を立て始める)
(…??????)
(脳が覚醒していないせいで自分が何をされたか全くもってわかっていない、が)
「……………みことぉ」
(なにか、違和感を感じる)
「みことぉ…?おきてぇ…」
(違和感、『なんだか冷たかった』、それこそ、石のように、水のように)
(星星と共に眠って、あそこまで冷たいことは無いだろう、おかしい)
「……………」
(少女に触れた、そして気がついた)
(呪い、呪詛に近いが、これは別物だ)
「…みことぉ、いしきある?、おきれる?」
(そう理解した瞬間、ばちりと意識を覚醒させ、優しく、優しく声をかける)