自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください
正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ
『悪夢の始まり』
ダンッッ
100万ドルの夜景だとか、世界でも有数の絶景だとか、そんな場所を見向きもせず、ただただ祈りながら、男は次の場所へと飛び込んだ
事は数十分前、長期任務を終わらせ、本部に連絡を入れようとした時だった
俺が通知を入れようと、隠密任務ということもあり電源を落としていたインカムをつけた時、焦りを隠せない部下の声が聞こえた
『─むら─さ─!…─叢雲さん!奥様との連絡がっ…!』
嫌な予感はしていた
そしてインカムから聞こえたその言葉を聞いて、弾かれるように俺は駆け出し、己がいたビルの窓を蹴破って、街に溺れるようにその身を『転移』させた
「っ、!!」
『転移』した先の壁を蹴り、焦りにふらつきながら自分の家の前の地面に足をつけた
己の『右手』を伸ばし、玄関の扉に触れる
嫌な予感が強まっている、どうか、どうか、どうか、どうか
ガチャンッッ
「っゆき!ぶじっ!!……か…、…」
まず目にはいったのは、いつも出迎えてくれた愛しい妻ではなく、数人の、武装をした人間
『な、─なぜ─!!しに─み…─!』
『はや─る─!』
何か言っている、でも、そんなもの、次に目に入ったものを見ては、聞こえなくなった
床に滴る血
床に散らばる、剥ぎ取られた爪
服を脱がされ、あらゆる所にむち打ち跡が残された拘束された体
おかしな方向に曲がっている指
血が染み込んだ髪
いつも笑みを浮かべていた、彼女の面影を残さないほどに傷だらけにされた顔
今はもう動かない肉塊
それが愛しい妻だと気がついた時には、もう己の理性は途切れていた
気がついたら、武装した奴らはもう人間とは言えない程に切り刻まれて、床は血がないところを探すのが困難な程に流れていた
「……ゆき」
そんなものは気にせず、ちゃぷ…と血の海を鳴らしながら彼女『だった』ものにふらりと近寄る
いつだって、名前を呼べば振り向いてくれた
「……ゆき」
いつだって、名前を呼べば微笑んでくれた
「…ゆ、き」
彼女の頬に触れた
生ぬるい、べたりとした血がつく
「…ゆき」
「ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき」
ふりむいてくれない
ほほえんでくれない
なんどよんでも
なんどよんでも、めをあけてくれない
「……………………………………………」
血
温かさが奪われていく
「…ゆ、き」
答えない
「………ゆき…」
いくら抱きしめても、名前を呼んでも、広い部屋に響く声は、自分の耳にしか届かない
いつも暖かかった雪の腕は、いつまでたっても、俺を抱き返してはくれなかった
あれから時間が経った
数時間前?数日?わからない
どうやらいつまでたっても連絡が入らない俺を探しに、GPSをつたって家を探しあてた同僚が、あの惨状をみて色々としてくれたらしい
雪を病院へ運ぼうとするけど、何を言っても反応しない俺を、ボスが気絶させたらしいから、詳しくはわからない
そして、医務室で目を覚ました俺にボスがつげた
どうやら、雪は妊娠していたらしい
名前も性別も分からないわが子、おれが長期任務の際に発覚したそうだ
最後まで、腹だけはと守っていたらしいが、その我が子は生まれる前に息絶えていた
雪を拷問した敵組織は、雪から俺の情報を引き出そうと、痛めつけたらしい
そのさいに、雪が放ったことばは次の言葉だけだったそうだ
『あなた、あしたはあめだそうですよ、かさをわすれないでくださいね』
そう笑って、彼女は息絶えたそうだ
全て遠き理想郷
https://i.imgur.com/DYcbi2T.jpg
上手やんhttps://youtu.be/jyqKyyqhVE4
10:◆rDg:2020/11/04(水) 19:24 『 萩色へと染められる少年 』
「 “暇”や“退屈”なんて言うのは簡単で、実際には現実から逃げているだけ 」
何度も何度も読み直して 台詞だけでなく全文を覚えてしまい今や全ページボロボロの本を、今日も瓦礫の山の上で読み続ける。黒髪黒目の何処にでも居る感じ...服もボロボロに破れているけど。
壊れた街並み。そこに捨てられて..食べる物も生ゴミ。親と呼べる存在は生きているかも知らず。友達と呼べる存在も居らず、孤独。....熱中出来る物は本の中の嘘だと分かっている世界。
だからもし...最初に誰か友達が出来るなら、そういう有り得ない存在が良かったんだ。憧れを持っていたんだ。
『 .....よいしょっと..あ〜...“こんばんは”って言うので良いのか? ....よう、人間 』
【 彼 】は突如背後から、胡座を掻きながら手を振り、まるで最初からそこにいたかのように現れた。腰まで伸びた赤の髪(何故か束ねてる)。光を放っている赤眼。黒いマントに....サラシとパーカーとジーパンって、何だか凄く奇妙な姿。人間離れしたような姿に...興味を持っちゃったのが多分人生の転機って物だったんだと思う。
「 ......えっ...と...だ、誰......?....ぼ、僕.......に何か......? 」
『 .......あ〜〜〜〜....んーと、なんて説明すりゃ良いんだろうな?...色々言わなきゃいけないんだけど.,まぁまずは名前からだな 』
『 俺はザレッド。ザレッド・イニール。......魔王..じゃねえや、魔人だよ、手の魔人。さっき魔王って言うのは....まぁ受け継ぎ期間つーか、代理つーか..言葉の綾つーかぁ...』
いきなり目の前でそんな事を言われて簡単に信じられるだろうか?普通の人なら信じられなかったかもしれない。....ただ恐怖は無かった。何となく良い人だと感じ取った。
『 .......ちょっと此処には用事で来たんだが........なんて言うか、寂しそうなお前見てるとちょっとなって思って.........ん〜〜〜...... 』
何か考えているように見える.....その時の僕は何を考えていたのか分からないけど、今でもとても賢い選択だったと思う。
立ち上がって....腰を曲げてお願いしたんだから。
「 .......ぼ、僕と友達になって下さい!!!! 」
『 ...ん?別に良いぞ? 』
簡単に受け答え。ただそれが嬉しくて....自然に涙が出てきた。夢みたいで、孤独から解放されると知って涙が止まらなかった。
その後すぐに彼は立ち上がって此方に向かって来ては....片手にハンカチを持ちながらもう片手を差し伸べて、少し恥ずかしい様な台詞を堂々と言ってくれた。
『 ......泣くなよ人間.....お前は俺が守ってやる、だから....お前も友達として俺と接してくれよ? 』
その後の事は詳しくは覚えてない、ただたくさん泣いて、たくさん話して、たくさん呆れて、たくさん笑った。友達っていう物を始めてしっかりと感じたんだ。
その後....彼の血を分けて貰った。最初は彼も驚いていたけど強くなりたいって言ったら少し悩んだ後に受け入れてくれた。血を注射一杯取り込んでしまえば、髪色はピンクに近い赤に、目も黄緑色へと染まって....身体から力っていう物を感じた。
暫くの間稽古もつけてくれた。彼の特技である狙撃も少しだけ出来るようになった。
ゴミの中から素材を集めて頑丈な箱を作ってくれた。色々と変形をして面白くて、自分にくれた、
悪戯もされて、彼は人間らしいんだとも思った...悪質なイタズラな為何回かは怒ったが。
色々な本も読ませてもらって...その後今更何故此処まで尽くしてくれるのかと気になり聞いてみた。
『 .......ん〜.....なんつーか見過ごせないつーか、未来ある若い芽をこんな所で枯れさせたくねーんだよな...まぁ俺の霊術の師からの教えでもあるんだけど、助けられる命は助けたいって奴が....俺も出来る限りそうしようかなって思ってんの .....ていうか、お前名前は? 」
「 .... 」
『 .....え、ないのか?う〜ん....じゃあ、お前も赤に近いんだし.........【 フロッソ・チェーロ 】 って言うのは....あ〜、どうだ? 』
「 ......【フロッソ・チェーロ 】 かぁ.......わ、分かったよ、レッド....有難う 」
『 どーいたしまして.....さ、まだ色々やんぞ?俺の腕でお前は強くて賢い...そんな人間に出来る様にするからな 』
彼は何度でも来てくれたしロッソの方から来る時は城に来いよ?...なんて言ったり、本当に良い人と何度も思った。たまに彼の変な所とか駄目な所...頭を使う戦略とか色々教えたりした。......それから百数年も経てば、自分の体はその頃よりかは成長したけど 老いるって感じが全くしなかった。....多分あの血のせいと考えるも全く後悔はしていない。.....たくさん本が読めたし。ただ僕のこの性格はどうにも....アイツ以外と話さなかったから治ってないけど。....そしてあの頃より出来る事が増えて、一人でも寂しいと思ったりする事が無くなった。壊れた街並みも直って行って人も戻り始めた。....僕は隠居生活みたいに、誰も使ってない廃墟で生活してるけどね。
そんな過去とかがあって、僕は“僕”になれた。
親友でありながら師匠である.....とある魔人のお陰で。
僕は今日も本を読む “賢い人”になる為に。
『愛しいという感情』
「あの…いきていらっしゃいますか?」
「……」
初めて彼女に出会った時は、自分を迎えに来た、天使だとおもった
「…聞いていらっしゃいますか?」
「…へいへい、きこえてますよ…というか、おじょーさん」
「はい、なんでしょうか」
「…………いや、なんでしょうかじゃなくて、あんた、こんな血塗れのどう見てもカタギじゃない人間に声かけるとかどうなの?見捨てときなさいよそこは…」
そう、天使に見えた、というのは自分の現状のせいでもあった
ボスから命じられた任務の帰り、突然数名の刺客に囲われた、返り討ちにはしてやったが、人数も人数、無傷という訳にも行かず、自分の血だか返り血だか分からないものを溢れさせながら、路地裏の壁にもたれかかって居たのだ
そんななか、急に声をかけられたら、天使の幻覚でも見たかと思ってしまうのはしかたがない、……と、思う
「いえ、私がここを通って声をかけなければ、明日の朝、ゴミ収集車に人形と間違えて回収されてしまっていましたよ」
「いやねーだろ」
冷静沈着な人間なのかと思えば、急に冗談だか分からないことを言い出す、なんなんだ
「可能性は0ではありません、ですが…カタギ、堅気ですか、なるほど、やはり血糊では無いのですね」
…あぁ、そういえば
「…血なんざ見んのはダメでしょ、ほら、さっさと帰んな」
あまりにも冷静なのでわすれていたが、彼女はどうやら一般人らしい、血糊でないとわかっては…
「はい、わかりました」
「お、結構物分り、っ!?」
グイッと腕を肩に回させられる、なに、何がしたいんだこの子は
「ちょっ、はァ!?なにやってんのお前さん!」
「?家に帰ります、安心してください、私は看護師ですので、医療には精通しています」
「そういう問題じゃねーでしょ!ほっとけっつってんの!!」
「いえ、先程も言いましたが、看護師ですので、ほうってはおけません、それにカタギでは無い、というふうに思いましたので、救急車もだめでしょう?」
この女、全く話を聞かねぇ!というか力強っ!?どうなってんの!?
「とにかく、早く手当をしましょう、さぁ、歩いてください」
「怪我人だってわかってます…?」
強引にも程がある、半ば無理やり引こずられながら、俺は彼女に連れていかれた
自分を助けてくれた彼女は『天宮 雪(アマミヤ ユキ)』と言うらしい
どうみても一般人でない俺の世話を焼きながら、彼女はそう教えてくれた
「…んで、雪さん?いつになったら退院できんですかねぇ」
「あと3週間はいけません」
「………あの、俺言いましたよねぇ?マフィア、マフィアなの俺、No.2、偉い人」
「骨にヒビも入っていますし、ところどころの切り傷、銃創も深いものがあります、許しません」
「…………………………」
彼女はかなり肝が据わってる人間らしい
俺を匿えば俺を狙う刺客に狙われるかもしれない、俺があんたをころすかもしれない、と色々と脅してみても、怪我が治るまでは死んでも退院させないとの一点張り、ここは彼女の家なのに退院というのもなんだが…彼女はずっとそう言って、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた
数週間も時が流れれば、名前で呼ぶ程度には、お互いを話せるようになった
「雪さん」
「はい、叢雲さん」
「骨のヒビは完治」
「はい、お疲れ様でした」
「体の傷も完治」
「はい、お疲れ様でした」
「…退院は」
「いけません」
外傷が完治したとて、彼女は退院許可を出してはくれなかった、黙っているはずなのだが、もしかしたら内臓がすこしまだ痛むことがバレているのか…?
観察眼が凄い
許可など貰えずとも、出ようと思えば出られるものを、そんなことを考えることも無く、俺は彼女のそばに居た
「……それにしても、雪さん」
「はい、なんでしょうか」
今日も今日とて退院を拒否されたあと、ずっと考えていた疑問を口に出した
「あんたさん、なぁんで俺をここに置いてられるわけ?看護師っても、自分の身の危険くらい察知できるでしょ」
俺が彼女の家に来てから、何度もこちらを狙われた、その度に返り討ちにはしていたが、今後どうなるかなど、聡明な彼女なら予想が着くだろう
「…俺が動けるようになったら、俺がいなくなったら、長期間俺を匿った雪さんは確実に狙われる、分かってるでしょ?雪さんなら」
それなのに何故、と問いかけた
心配…だったのだと思う、その時は気がついていなかったから
でも
「一目惚れをしましたので」
彼女の一言で、自分の中の考えは全て消えてしまっていた
「───は、ぃ?」
「あの日、あなたに一目惚れというものを致しましたので、私は私の初恋を守っただけです」
平然と、そう告げられた
一目惚れ?初恋?何を言っているんだ、想像もしていなかった言葉に、頭が回らない
「あなたを見殺しにして、私は私の初恋を殺したくありませんでした、……………初めての感情でしたから、私もそれが一目惚れだと言うことには、最近まで気が付きませんでしたが…」
ふいと、顔をそむけられ、そしてようやく気がついた
表情の変化が乏しい彼女の顔の代わりに、彼女のその耳は赤く紅く染まっていた
その時、己もようやく気がついた
彼女との時間の居心地の良さ、なるほどこれが…
「雪さん」
「………なんでしょうか、むらくもさ
声をかければゆっくりと振り向く彼女の唇にひとつ、リップ音を落す
「結婚しましょうか」
そう『愛しい』彼女に微笑めば、いつもの無表情はどこへやら、その可愛らしい耳と同じように、顔は赤く赤く染まっていき
彼女は、数秒たって、首を下に動かしてくれた
神様なんて本当にこの世にいるだろうか。もしいるとしたら神様ってやつはとんでもなく捻くれているし、救いなんて与える気はさらさらないんだ。あの夜からずっとその考えは変わらない。
優しい両親に、可愛い弟。人よりも少し裕福な家庭。でもその幸せは続かなかった。あの日もいつもと変わらない当たり障りのない毎日のはずだった。
「 だから、ついてこないでってばぁ!! 」
「周りの子も一人で街を歩いてるから大丈夫!近所を一周するだけだから」そう両親に訴え作って貰えた一人の時間。それを例え可愛い弟であろうと邪魔をされるのは嫌だった。それにあの子は賢い子だからきっと両親に聞いて私の後をつけてくるだろう。そう思い駄々を捏ねる弟を無視して家を出た。それまではいつもと変わらない毎日だった。街に出るといつもは人が少ない通りも賑わっていた。不思議に思い首を傾げつつもいつもと同じ道を歩いていた。あともう少しで家に着く。そう思い少し駆け足で家に近づくと先ほど路地で見かけた数人が家の中に入っていった。
「 ……もしかしてどろぼう? 」
もし、襲われても逃げるには得意だから大丈夫。ふぅと小さく息を吐き、怪しい男の人たちの後をそっと付ける。そっとバレないように慎重に…。
そこで見たのは弟やお母さんが苦痛に表情を歪めながら私の名前を叫ぶ姿、血塗れになって動かないお父さんの姿。壁や床に散らばる無数の赤____
目がいいことをここまで呪う日はもうないだろう。地獄絵図だった。どうして、どうして
……
「 …っ!!…ぁ……っ!!! 」
逃げ、なきゃ…、誰かに助けを呼べばきっと、まだみんな助かるはず……そう思ってただひたすら走った。ただ、ひたすらに。それでも、体力の限界が来てふっと後ろを振り返ると家がある場所から炎が立っていた。
「 ……はっ、あは、あははは、ぜんぶ私のせい……だねぇ 」
あの時弟と一緒に来ていれば……。みんなと一緒にいれば。そんな後悔が頭の中をぐるぐる回る。ふっと乾いた笑いを零しながらふらふらと歩いていると大きな影とぶつかった。その人はさっき家族を殺した人と同じ服を着ていた。沸いてくるのは怒りでも悲しみでもなく、諦めだった。
「 おじさんが、私をころすの……? 」
そう、問うとおじさんは数秒固まった後、おずおずと角張った手でそっと私の頭を撫で小声で尋ねる。
「 まだ、走れるか? 」
小さく頷くと、おじさんはそれを確認し雑に脇に抱えていた大きい外套を被せ手をつないで走り出す。突然の事に少し足がもつれるが私はなんとかおじさんについていった。
いつか、家族を殺した人達に復讐してやる。そんな想いを胸に秘めながら
『今でもあなたはアタシの光』
それはアタシが14歳の冬の日のこと。
その頃のアタシは光の無い暗闇を当てもなく彷徨うような惨憺たる日々を送っていた。
サイコキネシスという特異な力を持つが故に親に捨てられ、孤児院でも学校でも嫌われ者、常に誰かがアタシをいじめている、何時しかそれが当たり前になっていた。
そんなアタシの唯一の居場所、それは海沿いの道路脇に置かれた木のベンチ。この場所で沈む夕日を眺めている時間だけが唯一の癒し。
当時のアタシは孤児院の門限ギリギリまでここで海を見て過ごしていた、帰りたくなかった――否、誰とも関わりたくなかったのだ。
その日もクラスメイトのいじめから解放されると荷物をまとめ、いつものベンチに向かった。
するとそこには見知らぬ女性が居た、その人はいつものベンチに座って海を眺めていた、とても綺麗で凛々しくて優しそうな人だった。
「キミがルチアだね? 待ってたよ。私はセラフィーナ、マフィアの幹部をやっている者だ」
セラフィーナと名乗った彼女はマフィアの幹部と言っているがとてもそうは見えなかった。
「どうしてアタシを待っていたの?」
「うん、君と話がしたくてね」
まぁ座りたまえ、とでも言うかのようにセラフィーナがベンチの端を叩く、アタシは隣に座った、ほんのりと大人の女性の香りがした。
「……髪、ずいぶん傷んでるね。せっかく綺麗なプラチナブロンドなのにもったいない」
セラフィーナはアタシの髪を優しく撫でた、こんなことされたの何時ぶりだろう、確かなのは思い出せないほど昔ということだけ。
「君の事はいろいろと調べさせてもらった、もちろん君が超能力者だってことも知ってる。それにこんなかわいい娘が超能力者なんて最高じゃないか」
「あの、怖くないんですか、アタシのこと」
「マフィアにその質問は愚問だよ、ルチアちゃん。君より怖い人はたくさん居るからね」
セラフィーナは笑って答えた、沈む夕日より眩しい笑顔だった、アタシは初対面のセラフィーナにすっかり心を許していた。
それからアタシはセラフィーナとたくさん話をした、両親に捨てられたこと、学校でも孤児院でもいじめられていること、アタシを苦しめている超能力のこと。
その全てをセラフィーナは真剣に聞いてくれた、嬉しかった、涙が出るほど嬉しかった、この人と一緒にいたいと心から思えた、だから彼女の問いに対する答えは一つだけ。
「ルチアちゃん、私の養子になってくれる?」
「はいっ!」
アタシは涙を拭って今の自分にできる精一杯の笑顔で答えた。
『全ての犠牲の先に』
--とある時代、日本--
「……死んだ、か」
夕方、男が一人。その目の前には、炎に炙られている少年少女、だったものが三名。
……まだ焼け死んでから十秒と経っていないらしく、人の形は保っていた。
これから数時間。骨へと変わっていく様子まで見届けるのが彼の最後の仕事だ。
彼は、日本の村に悪魔がいる、と聞いた『教会』――組織――の命を受けてやって来たチームの一員だった。
そして『それ』を見つけた。
二人の少女、一人の少年。体は痣だらけだった。
幸福に見えた村の中では異分子――陰気なオーラを纏っていた。
とはいえ、そこですんなり捕らえられた訳ではない。
一人目はいくら縛ってもなぜか脱出される少女だった。
更には潜伏も得意なようで、最終的には村民全員を隔離する羽目になった。
二人目は特に抵抗らしい抵抗も見せない少女だった。
楽だった、が一人目と一緒にすると逃げられるのが煩わしかった。
三人目は、『訳がわからないほど強い』少年だった。
一度捕らえるのに犠牲が数十人単位で出た。更には途中から運悪く土砂崩れで増援が来ることができず、最後は奥の手を使う羽目になった。
その奥の手というのが、『教会』が定める悪魔に、副作用を付与するという方法である。
一人目には武器を向けると卒倒するという副作用を。
二人目には平衡感覚をほぼ無くすという副作用を。
三人目には付与できなかったが、片目と片肺と男性を潰して倒れた所を捕らえた。
――――犠牲者は百人を優に越える。
そして、男は空を仰いだ。
想像を遥かに超えていた、という体で。
火が消える。いつの間にか雨が降りだしていた。
骨を拾い、ごつっ、ごつっと音を立てて砕く。
容赦などない。『教会』で授かった能力も使って粉にする。
いつしか雨は激しく、雷雨に変わっていた。
白い、薄汚れた粉が流されてゆく。
雷が直ぐ近くに落ちた。鼓膜から優に血が出る。
それでも、男は動かない。雨が止むまで。
そうして真夜中、雨が止み、雲が晴れてゆく。
男は村に戻り、馬屋で寝についた。
その村を、地獄のような業火が包んでゆく。
差別の対象が消えて一触即発の空気が流れる村民、
幸福感すら覚えて眠る男、
全ての終わりのはずの火刑場、
それら全てを呑み込んで、
歴史の表舞台から抹消してゆく。
遠くの山からそれを眺める三人がいた。
不安そうに薙刀を弄ぶ少女、ふらつきながらも何とか立つ少女、苦しい息をする隻眼の少年。
「……どうしようか」「……決まってるでしょう」「……だな。……逃げるぞ。――それにしても、悪魔、か……」
今、彼らが何処に居るのかを知る者は、どこにもいない。
【私は『プロト・アイディール(にんぎょう)』】
人形に改造される前は、いつも笑っていた、貧しい暮らしではあったが、そんなの何も苦では無かった
ある日突然、周りのものが浮き始めた、『どうしてなのか』は分からない、怖くて、怖くて、怖くて、助けを求めた
お医者様が来た、お医者様は私を見て微笑んだ
ママとパパと何か話してる、…?なぁに、どうして、なんで私を連れていくの?…ちりょう…?ママとパパは来てくれないの?…にゅういん…?後で…?……うん、わかった
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい
どうして、なんで、いたいよ、こわいよ、まま、ぱぱ
ひざをこわされた、あしくびをこわされた、あしのつけねをこわされた、ひじをこわされた、てくびをこわされた、かたをこわされた
いたいいたいいたいいたい
どうしていつまでたってもむかえにきてくれないの
どうしていつまでたってもでられないの
こわいよ、いたいよ
こわされたばしょになにかをうめこまれる
いたい
あいでぃーる?しらない、ぷろとたいぷ?しらない
わたしはうえんでい
私は人形なんかじゃない
「………ゆめ」
(疲れていたのか、酷く頭痛がする)
「…それにしても、いったい」
「今のは、『誰の』夢だったのでしょうか」
【 夜明けの流星 】
_____60年前 某国国家研究所 実験記録
1960『 人類革新種(エスパー)部門発足 』
1962『 国内に存在する革新種を拿捕 』
1965『 "超能力"の移し変えに成功 』
________________
1999 世紀末
『 世界初の"人工異能"開発 』
2002 人権問題に関する摘発が行われ
研究に関する資料も焼き捨てられた
_________2015年 3月 29日
俺が "朝焼け" になった日だ
>>19
見返した薄っぺらな資料を机に放り
ずっと世話になってる椅子へ今度は背を預ける
……傾く視線、見えるのは小さな金庫の錆びた扉__
___________
僕が物心付いた時から 親父は良い親父とは思えなかった
誰の生き方にも踏み込んで口出ししては煙たがれ
仕事帰りにはひとりで酒もよく飲んでいた
それに 夜な夜な死んだ母さんを泣きながら呼ぶのだから
僕は眠れない夜を何度も過ごした事もあった。
けど 良い親ではなくても酷い親でもなかった
飯は食わせてくれる 学費も払ってくれる 家事だって…
でも 僕の事に良いことも悪いことも口出しをしなかった
朝の挨拶だって欠けてもお互いに何も言えないほどだ
そんなだから 僕は親父を誰とも思えなかった
同じ家に住んでいても 血の繋がりを感じたことさえも…
>>20
僕が高校に通って暫く経ったある日 親父は重い病気に掛かった。
医者は 末期のガンだと言う 親父は病院に通わなかった
親父は自分で立ち上がれなくなり 僕はバイトをする事にした
___________
高校を中退してから数ヶ月 もう 録に親父は起きていない
何故か 僕は恨んでいるかもしれない親父を憎めなかった
血の繋がっていて 悪いこともされていない
それだけで 親父を憎めるもんかと 僕は1人決め付ける
_____________
高校を卒業したみんなが 思い思いの道を進むなか…
親父は 死んだ。 ……朝の よく晴れた日の事だった
>>21
親父の死を看取ったのは 勿論僕だった
誰とも思えなかった筈の親父が死んでしまったとき
何故か 何故か…涙が止まらなかった。…親父…
…そして 親父は…死ぬ前に こんなことを言った
『 お前の母さんは…"悪"に殺されたんだ 』
____________
親父が死んでから 俺は何とか学校に通い直した
皮肉なことに、金を使う奴が1人になってからは余裕もある
……今でも 親父の最後の言葉が胸の中で生きていた
働きづくめの辛い日々を産み出した"悪" が
親父との会話を奪って母さんの顔を見せなかった"悪"が
"悪が許せない"___その気持ちだけが俺の頼りになった
>>22
高校を無事卒業し 大学に入った
この時点で 俺にはある、人から見れば幼稚な目標が出来た
大学を 卒業し、試験にも受かり …俺は"悪"と
"悪"と戦える職業…即ち、警察に就職した。
忙しさに満ちた日々、だが心の中は誇らしさで一杯だった
顔も知らない母さんに…何より親父に顔向けが出来た
……親父 俺はやったよ…
___________
2015年 警察内でも名が知れた私の元に
とある手紙が届いた。…それはあの時の私にとって
人生最大の"転期"だったが
実際は 今も後悔する悪魔の誘いに他ならなかった
>>23
手紙の内容自体は同封してある資料以外
極めて簡素な物だった。…だが、記された
短い言葉は 私の心を充分に魅せる効力を秘めていた
『 悪 と戦える力を持ちませんか? 』
____________
心を魅せられつつも、当然私は悩んだ
何しろ全くの不明から届いた手紙に
こんな事が記されている、しかも同封された資料は……
結局、私は資料に記された場所へ赴くことに決めた
日々 強大になっている勢力…『グラン・ギニョール』。
…奴らが持つ不思議な力に 一般の警察では太刀打ちなど
到底出来なかった、"力"が必要だった、それも緊急に
>>24
_________忌まわしき思い出 思い出すのを拒否する___
__________
………結果 私は…"異能"を得た。…他に比べれば
弱小な物ではあったが、それは当時の私が求めた
力の基準を大きく上回るものだった。
それでも 最初はその扱いに苦労した
数ある欠点に対処できるまで何度も医者の世話になった…
復帰した私は"異能"と"経験"により
如何なる"悪"とも戦えるようになった。
強大な敵を 悪魔のような敵を 苦難を経ても
必ず私は打ち倒し、それと共に名声と地位は上がる…
______ある時_____
私は ______
子供を 殺してしまった。
>>25
………………
その日、私は『グラン・ギニョール』の構成員を追い詰め
遂に古いビルの一室で"悪"の1人の正体を暴いた……
フードの下から現れた顔は… 何と10代にも
ならないような子供だったのだ。…驚く間に
その子は"異能"を用いて私を殺そうとする
動揺から 私はその子を攻撃することが出来なかった
年端も無いような子供 まだ中学にも通わないような…
そうこう時間を食う内に 現場へ部下が到着した
異能を持たない一般の警察チームだ
子供は部下達にも激しい敵意を向け 異能により
殺傷を試みた! 砕けた椅子の破片が宙に浮かぶ…
動揺に震える手のまま 私は……
銃弾を 麻酔に変える事を忘れたまま
連帯していた銃の引き金を………
_____現場の収集に駆け回る警官達
呆然と立ち尽くす私の足元には…
『 助けて 』
そう言いながら…
間も無く息を引き取った 死体が転がっていた
>>26
______責任問題は当時の私が立てた功績でうやむやにされた
___だが___命の問題は___
_____それで 済むものなどでは無いのだ___
______________
( 回想が、終わり…資料を金庫に納め 固く扉を閉じる )
……あれから 胸の中で息づいていた"言葉"は濁った
…正義 それを振りかざした結果に、疑念以外のものはない
「 ………………なぁ、親父… 」
( 虚空を見上げ おれは腐る程言った言葉を
投げ掛ける… 此れからも、止まらないその言葉を )
"平和"… 見つからないな___
『知らない誰か』
生まれた頃から、すぐ近くにいた
兄妹というわけではなかった
幼なじみ
簡単に、可愛らしく言ってしまえば、自分たちの関係性はそう言われるもの
だけど、自分たちの家は、そんなに可愛らしいものではなかった
源ノ家、龍洞院家、どちらも昔から、名を栄えさせた一族
そこで生まれた自分達は、お互い、長男と長女で
両家のしきたりとして長子は許嫁として、契りを結ぶ
自分達は幼なじみであり、許嫁という、関係性を気づくことになった
「しおちゃん」
「らいくん」
2人だけの会話だった、2人だけの呼び方だった、幼なじみだからというのもあるが、両家が許嫁同士の仲を深めさせようと、よく合わされていたから、いつもふたりであそんでいた
この頃は、ただただ、何も知らない子供だったから、楽しくて楽しくて仕方がなかった
そして、頼が8つになった
7つまでは神の子、それまで子供は無垢なまま
もとより、頼には先祖返りの言があった
『源頼光』
とても有名な、源ノ家のご先祖様
それに加えて、その頼光の記憶を、頼は8つになった途端、全てを得ることとなった
「…らいくん?」
「………なぁに、しおちゃん」
頼が8つになってから、2人だけの会話に、何かが混じっていた
「…………」
(しらないひとが、らいくんのなかにいる)
幼い栞にも、それだけはわかった
そして、栞も8つになったとき、自分たちの生活は変わった
頼は『祓い』の修行を、栞は『巫』の修行を
時間が経つにつれ、頼には4人の弟達もでき、修行の時間に削られ、2人の会う機会は、少なくなっていた
息苦しい
当主として相応しく、嫁ぐ身として相応しく
躾と、修行と、生活
どれをとっても息苦しかった
家にいることが苦しくてたまらなかった
誰も信用出来ない、全てが嘘で、世辞で、自分たちを使い潰そうとしている
それでも
頼には弟達がいた/栞には何も無かった
時間が経った、ある日のこと
頼が、大怪我をして帰ってきた
治癒の力を持つ栞も、治療に呼ばれた
ほぼ、殺される寸前、一目でそうわかるほど、怪我は酷かった
祓いの仕事でも、こんなものは無かった
治療のために、つきっきりでそばにいた
そして、意識を失っていた頼が目を開いた
栞は喜んだ、久しぶりに感情を昂らせた
でも
「酒呑童子に会った、早く、殺さなければ」
頼が最初に言葉は、栞が何も知らない言葉だった
頼の顔で、姿で、声で
『中にいる誰か』が、そう言葉を吐いた
「……………」
(『誰が』、話してるんだろう)
額に乗せるための濡れたタオルが、ポチャンと、桶の水に水滴を落とした
高校生になった
この時点で、二人の時間はほとんど無かった
2人は分厚い、皮を被った
「優しい」「頼りになる」「かっこいい」「かわいい」
外面だけを見た周りの声に、とっくにふたりは慣れていた
誰も、信用してはいなかったけれど
今の2人だけの時間は、登下校の徒歩の時間だけだった
「らいくん、私、家出する」
「………………………………は?」
「だから、しばらくらいくんのお部屋に泊めて欲しいな」
ある日ふと、脈絡も無く、ニコリと笑いながら放たれた言葉に、驚愕を浮べる他はなかった
栞は言う、息が出来ないのだと、ただ窮屈で、息苦しくて何も無くて、そして
「信用出来ない」
そう、笑みを浮かべたまま、告げられた言葉に、頼は酷く違和感を覚えた
だって知っていたから
栞はもう、頼のことすらも信用していないと、しっていたから
「…………うん、誰も信用してない、けど、私が誰も信用してないって事知ってる人、らいくんしかしらないから」
だから、ちょっとだけ、息が吸えるの
そう、彼女は、少し悲しそうに、微笑んだ
そんな栞の表情を、頼は今まで、1度も見た事はなかった
「……………」
(だれだ、この人)
いつの間にか、僕らは
『知らない誰かになっていた』
ナツ姉様…、ナツセンパイは不思議な人だった。いつも笑っているけど、人の輪に入るのが苦手。成績、運動どちらともにトップクラスだが、その手にはお嬢様らしからぬペンだこがあったし、誰もいない体育館で様々な競技の練習をしているのを見たことがあった。
不思議な人、理解できないと思った。
−−−−−−−−−
ほたるちゃんは噂で聞いていた。孤児でありながらその優秀さでこの学院に主席入学。
苗字はないこと。授業は単位習得に必要な時間数しかでないがどのテストでも絶対1位のこと。ずっと一人な所。
真逆の人だったし、もうこの頃から彼女のその才能に嫉妬していたのかもしれません。
−−−−−−−−−
「 今日も退屈だなァ…なーにか面白いことないかなァ 」
恐らく関わることはないと考えていた相手との接触はとても簡単に出来た。ガサゴソという音がしてそっと草茂みを見るとこちらを見て驚いたように目を見開く夏空のようなの瞳…。確か、興味があったから覚えてる、努力の天才、いや秀才。
「 ……ねぇ、あなたここで白い子猫見なかった? 」
「 見てないゾ〜、それより夏葉センパイ…?であってたよナ?」
「 ……?えぇ、それがどうかしたの? 」
どうかした、面白そうだから声をかけたと言っていいのか悶々と悩んでいると、くすりと目の前にいた彼女は吹き出し、そのまま目元に浮かんだ涙を拭う。
「 あなた、天才と呼ばれているみたいだけど…国語は苦手なのね、ほたるちゃん 」
「 ……別に、あんなの問題を作った意図を理解すれば簡単、だし 」
「 ふふっ、さぁどうかしら? 」
−−−−−−−−−
「 えっ、それだけでは姉妹になった分からない……そうですね、ああ、お互い本当に猫が好きだったんです、それで仲良くなってと言ったところでしょうか? 」
「 ----------------? 」
「 卒業してから連絡ですか…いえとってません。…私は学院在籍中も卒業後もあの子の姉として何もしてあげられませんでした。……いえ、警察の方にはこの話は関係ありませんね、でも少なくともあの子は自分から死を選ぶような子ではありません。これだけは確かです 」
−−−−−−−−−
「 おっ、猫!……おっ、お前は人懐っこいのか、嫌いじゃないゾ〜 」
そっと猫の頭を撫でながら先ほどまで考えてた事を思い出す。気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす猫をみてふっと微笑みながら告げる。
「 ……ねこ〜、わたしな昔から国語が苦手でなァ〜、感想文をかけっていう宿題が出た時センパイに手伝って貰ってたんだよ、ほとんど書いて貰ってたのほうが正しいか 」
まぁ、時効だけどな!そうつぶやきつつ、ぼんやりと考える。どうしたら良かったんだろうな、まぁ今さらだけど。そのまま彼女の意識は手をすり抜けていった猫に向けられた。
「 あっ、待って!! 」
−−−−−−−−−
机に置かれたチェーンの切れたペンダントの中身を見て、そっとため息をつく。どうしたら良かったのかなんて分からなかった。それはきっと今も同じ。そっとため息をつき窓を開けて空を見上げて。そう言えば蛍がこの時期見れるんだっけ。そんな事をぼんやりと思い出してペンダントを握り締める。
「 少し、気晴らしに散歩でもしようかしら…? 」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「 夏空と蛍 」
『シャングリラ戦記 ~prequel of Lucia Bring~』
「シャングリラ、前々からいけすかない街だとは思っていたけど、まさかここまで酷いとはね」
セラフィーナから渡された報告書に目を通し、ルチア・ブリングは甚だ呆れて呟いた。
ルチアにとってシャングリラとは異能者差別の象徴、自身の昏い過去を思い出させるモノだ。
しかし報告書の記述を真に受けるなら異能者の脅威が存在しない街、という謳い文句からして真っ赤な嘘、実態はその逆、異能者の跋扈する伏魔殿に他ならないと言うのだ。
「……理解できないわね、こんなことして一体誰にメリットがあるのよ」
異能を持たざる一般人にとっては政府に裏切られたと言っていい状況、異能者にしてみれば筋金入りの異能嫌いの中に放り込まれたことになる訳で、居心地が良いとは言えないだろう。
当然政府は信用を失い、最悪暴動だって起こる。これじゃあ誰にとっての楽園(シャングリラ)か分かったもんじゃない。
「そして、流入しているのは異能者だけではないと」
再び報告書を手に取りあるページを開く、見出しには『シャングリラ流入組織及び人物の一覧』の文字。
そこに記されているのは裏世界に精通している者なら何かの冗談だろと疑うほど錚々たる顔触れ、それはつまり裏世界で五本の指に入るような剣呑な奴等が異能者と接触すると言うことに他ならない、もし彼等が何らかの手段で異能者をシャングリラから連れ出しでもしたら、あるいは彼等自身に異能が宿ったら?
それはマフィアがルチア・ブリングという異能者を有するアドバンテージを失うと言うこと、セラフィーナはそれを最も危惧していた。
そして政府が信用できない以上、いつ最悪の事態が訪れてもおかしくはない。
ならばルチアがすべきことは一つだけ、覚悟は決まった、迷いはない、後悔もきっとない。
「セラ、これでやっと貴女に恩返しができる」
──────────────────────
『シキ・アクアティーレという人物について』
[極秘資料](持ち出し禁止)
これは□□年前に起きた世界的事件【[削除済み]事件】と、その後に起きた【世界最大規模集団自殺事件】について、そしてこれら2つの事件の中心人物
『シキ・アクアティーレ』またの名を【救世主】についての情報を記したものである。
ここに記された情報が表沙汰になれば、世界中が再び混沌に晒される可能性が非常に高いため、どのような理由があろうとこの資料を外部に公開することを禁ずる。
コピーを取り政府内に配布する必要がある場合は、関係者以外に絶対に見られない場所にて配布し、配布された場で確認、確認終了後、即刻その場で用紙を燃やすこと。
以下、対象者の情報と判明している限りの事件の詳細、現在の対象者について
[対象者名]
シキ・アクアティーレ
[性別]
不明(見た目を変えている可能性が高いため断定不可)
[容姿]
事件当時の目撃情報:男性寄りの見た目、白色の瞳、左の目元に黒子、左耳に青の耳飾り、青みがかった黒髪の短髪、軍服らしき服に黒いブーツ、白衣を纏い、煙管を咥えていた
現在の目撃情報:女性寄りの見た目、白色の瞳、左の目元に黒子、両耳に青と銀の耳飾り、青系色のグラデーションがかかったインナーカラーをした黒髪の長髪、中華系等の服に白衣を纏い、左足にベルトを数本付け、ハイヒールを履いている
[異能]
痛覚遮断、超速再生、不老不死のいずれかだと思われる×
修正:天眼通(千里眼と呼ばれるものだが、彼/彼女は仏教の『六神通の一』の名でよんでいる)
修正前の予想していた不死性は、本人曰く『呪い』であるらしく異能とは別物との事(詳細は不明)
[詳細]
研究や医療に携わっていた経歴があるが、[削除済み]
異能に関する研究・実験の殆どにその名が記載されている(事件前に記されたものは[削除済み])
[削除済み]事件解決の立役者
全世界を救った【救世主】として讃えられた人物
とある場所ではあまりの情報の少なさから、彼/彼女を神の使い、もしくは神そのものだと崇める者も少なくはなく、世界中から彼/彼女を信仰しようと、数千人〜数万人規模の宗教が一時期存在していた。
世界最大規模集団自殺事件の犯人
自身を崇めていた宗教の信者達の全てに自殺を促し、実行させた。
どう言った方法を用いたかは不明だが、【救世主】が信者を死へと導いた、という事実を持って、世界を救える力を持つ者が巨大なコミュニティを破壊できると知らしめた。
『世界を救った』という偉業を成し遂げたとんでもない知名度をもつ人物がこんな非人道的な事件を起こしたと世間に広まれば、全世界が渾沌に苛まれることは間違いない。そこで、我々は『シキ・アクアティーレ』に関する全ての情報を回収し、【救世主】を知っている全当事者達に、カバーストーリー[新型ウイルスとそのワクチン]を配布し記憶処理剤を投与、【救世主】を我々政府以外の歴史から消失させた。
そして現在、『シキ・アクアティーレ』を名乗る人物が、我々の[シャングリラ]に自ら投獄されている。どうやら今は『グランギ二ョール』の幹部として動いているよう。
おそらく本人に間違いないが、上記の通り今の彼/彼女の姿は事件当時の姿とはまるで別の姿をしているため、もしこれが本当に別人でないとすれば、彼/彼女は以前とは自身の容姿を変えて生きていることとなり、シャングリラ内でまた姿を変える可能性があるため、特定には注意が必要。
彼/彼女に対しての現在の詳細は都市警察からの追加情報として別資料に記載することとする。(設定置き場での設定)
※シキ・アクアティーレには、最大限の警戒をするように務めよ、これは絶対命令である。
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さて、これが僕の極秘情報だそうだ
頑張って集めたものだねぇ、まぁ、いくつかはこちらが提供したものもあるけれど
多少の違いはあれど、一応、これが正史だとも
さて、君は僕が
『何に見えるかな』
『不死身の男』
昔、こんな小さくて辺鄙で田舎臭い村に爺さんがやってきたことがある。
そのジジイは巷で流行りの映画だかを作ってて、まだ5つか6つのガキだった自分にそれをタダで見せてくれた。
小さい俺にはてんで意味が分からなかったが、まるでサーカスのような暗いテントの中が好きで、何度も何度も見に行った。俺以外に見る人がいなかったからなのか、爺さんはいつも笑って歓迎しては俺の頭を撫でてくれた。
今や結末も何も覚えていない。夢のような日々が過ぎ、やがて映画爺さんは死んだ。
あの映画が遺作だったんだと気付いたのはそれから何年も経った後だった。
「こいつを差し出します! ですから村人の命だけは…」
窮屈な町の外に捨てられてたのを村長が拾って16年。
今まで散々コキ使われてきた俺は、突然やってきた謎の研究所とやらにいとも容易く売り飛ばされた。
「あはっ、かわいい男の子…あたしがもっと素敵にしてあげるね?」
まるで奴隷のような人生。
俺は死ぬまで幸福とやらを見つけちゃいけねえのか。
…いや、ちがう。俺ぁ『死んだ体』で見つかりもしない幸福を永遠に探し続けるんだ。
くそったれの研究所のせいでな。
なぁ、爺さん。俺ん頭を撫でてくれたのはアンタだけだったよ。
忘れちゃいねえ…忘れちゃいねえよ……
…
……
「ギャアッハハハ!! 来やがれゴミ共! オレがぶっ殺してやる!!」
こんなクソみてーな体になっても、何も考えられない頭になっても、
あのつまんねえ白黒映画と、その隣で笑うアンタの笑顔だけは忘れないでいる。
それだけでいい。それ以外いらない。俺ん『幸福』はたった一つだけだ。
泥ん中でもがいてるような人生。それでも幸せだったんだ、あの時だけは…
なぁ、返事してくれよ、爺さん……
…ザァ、降りしきる雨が俺の体を穿つ。
横たわった地面に赤い血が流れていた。
「…」
思い出したよ。血の温もりも映画の結末も。
最愛の恋人が死んじまう時、最期に…
「……幸せだった」
雨に混じって、涙が微かに流れた。
僕の名前はラック。小さな村の夢見る少年。
いつかお金を貯めて広い街で暮らす為に、毎朝新聞配達に勤しんでいます。
とはいっても、新聞配達で得られるお金が実にちっぽけなのは事実。
なので僕は村の「なんでも屋」として、朝から晩まで民家を駆け回り小遣いを稼ぎました。
そうして10年ほどが過ぎた時…ようやくお金が貯まったのです。
まあ、街に出て何をするかというと、僕の願いはただ一つ。
綺麗な女の子とイチャイチャしたい。あと金もそこそこ稼ぎたい。てかモテたい!
一つと言いながら三つになってしまいましたがどうでもいいです。
村の人達は旅立つ僕に「護身用だ」と一丁の拳銃を渡してくれました。
それを腰のベルトにしまい、準備は万端。
さあ行け、ラック! かわいい女の子が待ってるぞ!
…なんてのは束の間。僕は村を出てすぐに道に迷いました。
地図の見方が分からないせいで東西南北が分からず、右往左往。
終いには治安の悪い町にふらりと立ち寄ってしまい、そこで盗賊みたいなガラの悪い男に絡まれました。
「おいガキ、てめえ金目のもん全部出せや」
「へっ…金目のものって僕なにも…」
「しらばっくれてんじゃねえぞボケ! ちょん切られてえのかよ!!」
「ひああああああ!! それだけは! それだけはあああああ!!」
「やかましいんだよ! …ん? なんか持ってるじゃねーかお前」
盗賊は僕の腰を見つめて、いかにも悪そうな感じでにやりと笑いました。
そうです、拳銃です。村の人達から護身用だと称して貰った大切な拳銃。
それをここで奪われてはならない…僕は必死の思いで拳銃を取り出し、男に向けたのです。
「とっ、盗賊野郎! それ以上近付くなら…っう、撃つぞ!」
「はっ? おい、やめ…」
パンッ!その時、乾いた音が僕の耳朶を叩きました。
反射的につぶった目をゆっくりと開けると、銃口から仄かに漂う煙が目に入る。
はい、僕はテンパって暴発してしまいました。
「ぐあああ…いてえ…!!」
「へぁ、えっ、うあ、うああ! わっ、ごご、ごめんなさい!!」
男は負傷した腕を抑えて悶絶しました。
ああ、これはやってしまった…村の人達から貰った拳銃で他人を撃ってしまうなんて、完全ご法度案件。
これはお縄で人生オワオワリ。女の子じゃなくむさ苦しい男が煉瓦を挟んで隣に並ぶ日々が待っている。
それだけは! 嫌だ! 嫌だあああああ!!
「…では、そなたを騎士に命ずる」
「…はい?」
なんと、僕が拳銃で撃った男は国王暗殺を企てていた奴らの一味だったそうで、その男を倒した僕は一躍英雄となりました。
まあちょん切られるのが嫌でテンパって暴発したら暗殺者でした、とか言えるわけもないのでそのまま押し通し、僕は言われるがままに王城の騎士になりました。
「ぼっ、ぼく騎士じゃないんですぅぅ〜〜! うあああ!!」
けれど、現実はうまくいかないもの。
毎日敵の刃から逃げて逃げて逃げまくり、なんとか命を繋いでいます。
王城の最弱の騎士…いつか辞めるために僕は生きていく。
『血に消えた愛しい記憶』
「………ゔゔぅ……………」
「そう唸るんじゃなぁい、褒めただろう、『良い目』だと」
めのまえのおとこは、けいかいをとかないおれにたいして、そうなだめるようにわらっていた
これが、俺と家族の、最初の記憶
「………あ、の…」
「よく似合っているじゃあないか!……ん、なんだ、やっぱりまだスーツは息苦しいか?……そうだな、それはお前がもう少し大きくなってからにしておこうか」
スラムにすんでいたときとはぜんぜんちがう、キレイなふく、すこしのどがくるしくて、でもいうわけにもいかなかった俺に『あの人』はあたまをなでながらきづいてくれた
「っ………!」
「踏み込みが甘いぞ!!殺.すつもりで来い!」
次にわたされたのは『みかげ』だった、この時から、文字の読み書きと、たたかい方、何もかもをつきっきりでおしえてくれた、きびしくて、辛かったけど…でも
「だでぃ」
「ん、あぁ、帰ったか、怪我は?……よし、偉いなムラクモ、でも一応先生には見せておくんだぞ」
この時にはもう、色んな仕事を任せてくれるようになった、帰ってきたら心配してくれて、いつも頭を撫でてくれた
「ボス!」
「はっはっは!!怖いぞムラクモ!後で仕事はするから!見逃せ!」
俺がNo.2になって、ボスは抜け出し癖がまた出てきた、多分、俺が追いかけられるようになったからだ
でも仕事はして欲しい、俺が大変だから
「初めまして」
「……えーと、こちらが、天宮雪さん…デス」
「………………………………………………え」
流石に、驚いたようだ、そりゃそうだ、女に興味がまったく無かった俺が、任務から連絡が取れないと思ったら、嫁さん作って帰ってきたんだから、……でも、ちゃんと喜んでくれた、……ありがとう、ダディ
「……………………………………………………」
「……ムラクモ」
しんだよ、まもれなかった、だいじなひとだったんだ、だでぃとおなじくらい、ああ、あああ、ああああ
「ぼーすー?????」
「ムラクモ!くそ見つかったか……分かった分かった、帰るよ、……一緒に帰ろう」
長く付き合わせてしまった、でも立ち直ったよ、多分、辛いけど、でも、俺はちゃんと頑張るよ
2人だけで一緒に帰るなんて、久しぶりだなぁ、……しあわせって、こうい
しあわせだったなぁ
なぁ、ぼす
ぼす……?
どうしておきないんだ……?
みんなころした、ころしたよ、だでぃ
おれのぶかをころしたやつも、おれのどうりょうをころしたやつも、おれのいばしょをこわしたやつも、みんなころしたよ
あなたをころしたやつもころしたんだ、だからほめてよ、あたまをなでてよ、とうさん
「 るりちゃん、やくそくをきめませんか? 」
「 ……?なににたいしての? 」
「 るりちゃんがかいぶつに……ううん、おれといっしょにいれるためのやくそく 」
「 ういくんとボクが…?…ううんいいよ 」
「 ぜったいにひとをころさないこと!…いい? 」
「 うん、わかった!! 」
「 …さん、ちょっとお嬢さんってば!!こんなとこで寝てたら風邪引きますよぉ 」
「 うぁ……るさい、そんなやわな体じゃ、ない 」
その声にはっと目が覚め、呆れたいつもの顔を見てそのまま視線を時計に移し小さくため息をつく。部屋が汚いだのなんだのいう小言を無視しながらさっきまで見ていた夢を思い出す。あれはいつだっただろうか、小さい頃何も考えてなかった頃の懐かしい、夢。そういえばあの約束の期限はいつまでなんだろう。
初、ういくんとボクが一緒にいるための約束……、
ならいつかういくんが辞めてしまったら? ボクは目的のためなら人を殺してしまうのだろうか?そんな事を考えながらそばに落ちていた書類をながめそっとため息をつく。
「 初は、小さい頃の約束覚えてる? 」
「 ……あぁ!!あの約束ですか?、もちろん覚えてますよぉ……それがどうかしたんです? 」
「 期限…、あの約束の期限はいつまでなの? 」
いつの間にか目の前にいたういくんは呆れ顔を浮かべながら思いっきりデコピンをしてくる。
「 相変わらず感じなとこで馬鹿ですよねぇ、るりちゃんって 」
「 なーに言ってるんです、お嬢さんと俺どちらかが死ぬまでに決まってるじゃないですか?、まぁ?今更あの約束なしとか言っても聞きませんけどねぇ 」
得意げな笑顔を浮かべこちらを見下ろす彼の脛を蹴り痛がるういくんを見ながらそっと笑顔を浮かべる。きっと
「 欲しかったのはその言葉 」
[ 赤の魔物達 ]
昔、魔人から送られた昔話 ....其れは本当に本物なのだろうか?
_______これは正しく綴るべき“赤の魔物達”の歴史だ。
ある所に“種族不明 年齢不明 性別不明” ...そんな謎の一人の魔王が居ました。その王は悪のカリスマ、悪の正義、悪の救世主と魔族に讃えられて憧れでした。しかし..... その魔王 赤子を殺したりする事など出来ない 精神はまだ魔王の器と呼ばれる者では有りませんでした。
それでもその優しさは“本物” 困り事があれば助けて 決して無益な殺生はせず その優しさは ....所謂“強者の余裕”と誤解を招き それが魔族に伝わり 推薦されて ...結果今の立場になりました。
クリムゾン
その王渾名は【 深紅の者 】
本名は「アリス・テレス」という者でありました。
そんな魔王は困っていました。人手が足りません。部下達はとても優秀なのですが 仲間割れを起こしたり 正義の者達の襲撃により数を減らすばかり ....それでも部下の力だけで彼等を蹴散らす事が出来ていて、魔王自体が手を出す事は無く その実力が露呈する事は有りませんでしたが....。
しかしこのままではいけないと悩んでいた矢先 とある噂が舞い込みました それは....巷で問題を起こしている魔物達です。
ある魔物は盗みや悪戯 機械の解体を起こす 【 赤手 】
ある魔物は人々を無理矢理笑わせたり泣かせたり 何人かは植物人間にする 【 赤面 】
ある魔物は子供達に手術という名の治癒をしたり、夜中に霊を引き連れて子供を追いかけ回す 【 赤霊 】
ある魔物は森や家を燃やし 囚われている動物を解放した 【 赤猫 】
ある魔物は街を氷で覆い尽くし 解除させる代わりに莫大な量の酒を貰った 【 赤鬼 】
そんな魔物達に困っていた所 魔王は彼らを ....仲間にしました。部下ではなく、対等な存在として迎え入れました。
欲しい物があるならば挙げて、不満が溜まっているのならば解消させて、決闘を望むなら此方から手出しはしない代わりに相手をしてあげ ....楽しませ、満足させる事が出来ました。
魔王は気付きました。彼等は一つを除き五感が弱いと。だから彼は ....しっかり生活出来る様に戻しました。
_____それが彼の立場を更に苦しめるなんて その時は全く思わず、ただの善意で。
禍々ール ( マガマガール )
これは傷の代理者の住まう世界の中で起こった小さな物語である。
いち
窓の外は今日も白く、濁っている。
うっすらガラスに映る、自分の顔。
「目、コスりすぎちゃった」
ところで、今冬なのかな? 寒くなってきた。ちょうど目の前のノートをテキトーにめくり、ナメクジのイラストが描かれたページが目に入る。
「 はわぁあぁあ!!もーーかわいいっ! 」
思わず口に出してしまった。
自分は、ナメクジが好きだ。
どうしてナメクジが好きなのかは知らない。プルンとした形がいいから? 生きるために必死で地面を這うから? どうしてだろう? そんなことを考えているうちに、わたしにとっての大好きな時間がやってきた。
「 マイちゃん…!! 」
ヌメヌメ …………蛞蝓’
「 ゴハンよ〜〜!マイちゃん」
「 いま行く〜〜!」
目に入ったのは、机いっぱいに広がるシチューとトマトサラダとたくさんのフランスパン。それと、席につくお父さん、お兄ちゃん、お母さん。
「 すご!お母さん、今日なんか豪華だね 」
「 マイちゃん、この間、シチュー食べたいって言ってたから。いっぱい食べてね。
シチューにはマイちゃんの好きなものいっぱい入れたから、きっと美味しいはずよ」
「 おぉぉ!」
「 マイ、気にせず沢山食べるんだぞ。
俺が働くのは、おまえがうまいモン食って欲しいからなんだ」
あたたかい。シチューの香り。パチパチと鳴る暖炉。お母さんとお父さん。お兄ちゃんはいつも冷たいけど。まあいいや。
「 えぇぇ、お父さん、マイ泣きそうだよ。
シリアス苦手〜〜!とりまいただきまーす」
1 8 さいのわたしは十分幸せな日々を送っている。今のところ、生きてて楽しい。でも、そんな日々もいつか終わるに違いないだろう。今は、その終焉に怯える日々でもある。だから常に、わたしの中にいるわたしの背後はうごめいていた。
禍々ール ( マガマガール )
にぃー
夜。23時36分。寝る時間。
カチッ カチッ と時計の刻みが響く部屋。わたしは、隣のお母さんに告げられる。
「 マイちゃん?起きてる?」
「…んぇ? …なーに、お母さん 」
ベット横のランプをつけるお母さん。光に当てられたお母さんの顔は少し変だった。眉を八の字に顰めている。どこか気まずそうにして、目線はぜんぜん合わせてくれない。
「 今から話すことはとても大切なこと。
もう、アナタと暮らして5年経った 」
「 …ううん、5年と2日だよ、お母さん」
「う、うん。5年と2日。
それでね…」
イヤな予感。手汗がひどい。
「 アナタは来週で、当初の予定通り、ここを出なくてはならないの」
「 えっ………と、当初?なにそれ。
…えっえっ…と、でも、わたし家族だよ?
家族ならお互いがイヤじゃない限り、一緒にいてもおかしくないよね?お母さんは一緒にいるのがイヤなの?」
「…そういうわけでじゃなくてね、」
わたしは思わず、お母さんの手を握った。
心臓がバクバク鳴って、思考が回らない。
「ええ!やだよ…やだよっ!」
お母さんは何も言わない。
お母さんは手の力を抜いたまま。
お母さんは申し訳なさそうに目を閉じた。
ひどい。今までがんばってきたのに。わたしも、わたしの中のわたしの背後も。
「………今日はもう、寝なさい」
「ふええっ、なんで!
わたしお母さんともっといたい…… 」
親愛こそがわたしにとっての答えだと思ったのに!お母さんの手が私の手から、スルリと抜けた瞬間、わたしの中にいるわたしの背後は大きくうごめいた。
「 大丈夫。アナタは強いから。
それにみんなアナタと同じように、外の世界に出なくてはいけないの 」
お母さんが部屋から出て行ったあと。
わたしの目からは、一粒の涙が一本の筋を描いた。以降、涙がいっぱい溢れてできた。
「ぷぇえぇえぇえぇえぇえぇえん」
涙が止まらないので、素直にギャン泣きして目をコスりにコスった。血が出るまで。結局、眠れたのは朝の 3 時 から 4 時の間のみ。頭の中はぐちゃぐちゃで、わたしは、背後に任せようと決心した。
禍々ール ( マガマガール )
さんっ
「 マイちゃん…!! 」
お母さんの声。
「 マイ!!! 」
お父さんの声。
「 ……… 」
お兄ちゃん。
午前11時35分。
「わたし」の、目が覚めた。気づけば、手にしていたのは縄とナイフ。そして、目の前には、椅子にグルグルにくくり付けられたお母さんとお父さん。と、床に伏せている 赤々しい お兄ちゃん。わたしにとっての大好きな時間は いま 。
ーーナメクジが描かれたノートを閉じた。
「 マイちゃん…!! 」
お母さんの必死な声。大好きだよ、お母さん。だからこそ、もう我慢できないの。本当のわたしは、わたしの中のわたしの背後にいたの。多分、本当のわたしは止められないの。
ーーナイフをつよく握る。お母さんを見つめる。何か言ってるけど分からない。ハァハァ、自分の荒い呼吸で視界が曇りそう。大量の酸素で頭がイッちゃいそう。
ドンドンドンドン!!ァケロ !!
扉の音だ。続いて「 ウォンウォン 」と警報音も鳴った。そのあとはうるさいアナウンスが。
『 マイ!これは更生プログラムだ! 』
「はーー?なに言ってんの?」
『 マイ!
そこにいる人たちを解放してあげなさい!!』
「は?は?は?
ぜんぜん意味わかんないんですけど」
ドンッッ!!
扉が歪んだと思えば、車でも突っ込んできたのかと錯覚するぐらいの勢いで、扉そのものが木屑としてバキバキバラバラ散った。そこから、背丈の高いスーツを着た男が姿を見せた。男は大きな剣を持っていて、その剣含め、わたしはそいつをよく知っていた。記憶が生き返る。
「久しぶりだな、ナメクジの化物」
ヤバ!と思ったのは、わたしと背後、両方。
ーー男は、わたしの全てを語り出しそうだ。
そうなれば、今までの二人の努力が台無しになる!今まで、箱を開けないよう必死に演じてきたのに。わたしの性を殺してがんばってきたのに。
「 オマエは何ら更生しちゃいねぇ。
覚えてんだろ?13 歳 のときのことを。」
だめ。だめ。だめ。
開けたら、もう二度と戻れなくなっちゃう。
「 ××中学校事件」
あーーーー。
「オマエは、数名ものクラスメイトを襲い、ナイフで刺した。のみならず…」
あーーぁ。開けちゃった。パンドラパンドラ。
男は続けて、言う。
「一名の男子生徒は皮膚を剥がされ、
二名の女子生徒には生かしたままの状態でひでぇ拷問を行った。それで、他の生徒のすべての死体を弄んだのちに…」
「 弄んだのちに、
クラスメイトの生首を警察署の前に遊び半分で置いた。しっかり覚えてる。楽しかったのも覚えてる。生首の目をくり抜いたのも覚えてる。それで興奮したのも覚えてる。生首の口元に、いたずら手紙を挟んでおいたのも覚えている。そして、わたしはアンタたち、化物狩りに捕まって、こんなクソみたいなプログラム受けさせられていたのも覚えてる。ここの人たちと家族ごっこしていたのも覚えている。お母さんはお母さんじゃないのも覚えている。お父さんがお父さんじゃないのも、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないのも。ぜんぶ覚えている。そもそもわたしが、人間じゃないことも、何もかも…すべて覚えてる。」
目の前の長身の男は、「それなら」と言って大剣を振り上げ、剣先をわたしに向けた。
「オマエたちはなぜだ。なぜ、快楽に負け続けるんだ?人間と同じように暮らすチャンスはあったのに」
箱からぶぁぁぁぁー記憶が泡のように生き返る。その記憶たちが息を吹き返して、わたしにイイことをたくさん教えてくれる。あぁ、もう、ぜったいに戻れないな。
「決まってるじゃん。
それが、すんごくきもちいいから。」
>>42
[ 赤の魔物達 その2 ]
魔物達は次第に“魔物の姿から人の姿”へとなっていきました。そして精神は魔物に似つかわしくない 小さな光を持ち ....“魔王五位” と呼ばれた事もあったそうな...。
赤手は百足の様に手が無数に生えた魔物でしたが (魔物の姿については諸説有り)次第に“魔人” と呼ばれる様になり 物を持ち運びしたり 書物を纏めたり と魔王に一番近い側近でした。後の「ザレッド・イニール」である。
赤面は黒い球体に濁った色の面が多数張り付いた魔物でしたが ある仮面にその身体を取り憑かせ “付喪神”と言う存在になり 人々を喜ばせたり 何か不祥事が起きてないかと街中の監視などをしていました。後の「面皮赤仮」である。
赤霊は耳が蝙蝠の様に大きく長身で全身が白肌と恐怖の魔物で幽霊でしたが その存在が認められてからは逆に 子供達が夜更かししない様にと 少々行為が認められたり 真面目に魔人や魔王の手伝いをしたり 魔族の治療をしました。後の「ブレシュール・ルージュ」である。
赤猫は火炎が身を包みその炎の形相から百獣の王と勘違いされる程気高く そして強い魔物でしたが 実際は心が温まり癒される程可愛らしく 飯を上げれば一緒に遊んでくれる 優しい魔物であり また番犬としての役割も果たしました。後の「メラー・レギオン」である。
赤鬼は刺々しい氷の羽衣を纏い その氷は透明では無く血で濡れており とても怖いと噂されていましたが 実際には酒と強い奴が好きな鬼で 弱いもの虐めはせず 基本誰にでも均等に接しました。次第に血の氷も溶け 現在は幼い姿で 青の色にも通じる様になり 魔物達から頼られる存在になりました。後の「ヴェルメリオ」である。
そんなある日、一匹の魔物が言いました。
「 魔王って本当は何もしていない 俺達の上でただふんぞり返る “ 最低の偽物 ” なんじゃないか? 」
その噂は次々に広がり 魔王の側近にも嫌な噂は聞こえました。 そして魔人はこれに激怒し その噂を広めた張本人で有る魔物を 半殺しにしました。
しかし此れが魔王の耳に入ると、全ての魔物 そして敵対している人間達にも とある集会を開きました。
自分の弱さと言うモノを、嘘偽りなく ハッキリと伝えました そして最後に一言
「 人間達よ、我々と共存する道を歩まないか? さすれば未来は明るく そして平和な世へとなる 」
そのスピーチに 大ブーイングが巻き起こり ....その偽善者の様な発言に 魔王の思惑通り 人間と魔物は手を組みました。
_____________無能な魔王と 哀れな側近達の殺害を目的に。
>>46
[ 赤の魔物達 その3 ]
その後 直ぐに反乱が起きました。側近達は必死に弁解をしましたが聞く耳を持ちません。
魔王は 自身の罪だと受け入れて抵抗していませんでした。
( ...因みに魔王が居なくなると魔物達は統率を失うと言われていたり、人間への被害は少なくなると言われていましたが 魔物と人間が手を組んだ時は...何故か魔王が居た時よりも統率は取れていたり 被害が大きかったそうです )
そして遂に 彼等は捕らえられてしまい その鬱憤を晴らしたり 試作品の試しだったりと 魔物や人間達に 恨みを放たれて 傷付けられていきました。
魔王は例え炙られても 串刺しにされても 拷問を受けても ....耐えました。此れが自身の罰なのだと。仕方が無い事だと。
しかし側近達が衰弱し 今にも死にそうになった所で ...赤子を殺したりも出来なかった魔王は 彼等の為だけに
その場に居た魔物と人間を全員“沈めて” “溶かして” 殺しました。
皆殺しにして再び自由を手にした後 弱りきった彼等の前で魔王は土下座し一言。
「 すまなかった 」
この一言に 彼等は不思議な気持ちになりました。この謝罪は 恐らく魔王の色んな気持ちが詰まったモノだと 彼は.... 王としての器だが “魔王の器” では無いと。
そして 魔王としてこれから始まるのだと 彼の身体が黒く染まり その黒かった目が眼全体に広がり中心に深紅の瞳孔が開かれた その時から
_______彼は魔王として 生きた。
それから数年後
___________魔王は死にかけていました。
勿論襲って来た者は全員返り討ちにしましたが。
正義の者達から不意打ちを喰らい そして拷問で受けた古傷が開いた事により ...瀕死の状態になっていました。
側近の彼等は何とか魔王を救う方法を探しました。其々の持ってる治療術を試してみましたが 結果は変わらず。 側近達も ...家族 と思える様な心が芽生えていました。
魔王は死ぬ寸前まで彼等に謝罪を続けました。綺麗事と言ったらそれで終わりかもしれませんが ...彼等にとっては とても悔しく 自分達は無力だと思い知らされました。
しかし魔王は最期 ...死ぬ前に 彼等にとっての
ノロイノユイゴン
【 救いの言葉 】を放ちました。
今は無力でも仕方ない 逆に考えればまだまだ成長出来るのだよ 皆も、我も。
数百年も経てば 恐らく我も ...生き返れるかもしれない。だが決して無理はせず 自分達の出来る やれる事をするのだ。
_____________なぁ、皆よ。 約束は最後まで守り通そうじゃあ無いか。 其れはヒトらしく そしてとても 賢い者の選択なんだ。 だから約束、してくれるか?
我 を 復 活 さ せ て く れ
最期まで魔王は笑いを絶やさず 側近達の頭を撫で 1つのおまじないを掛けてから 死亡、しました。
>>47
[ 赤の魔物達 その4( 最終章 ) ]
魔王の死亡が伝われば 魔族や人間は安心して 魔族はまた次の魔王はどうするのか という話題で魔界は一杯になりました。
そこで代理として魔人が魔王を務める事になり、他の魔族達も納得をしました。
魔族達はまた城に仕える様になり 人間との共存も変わらず続けましたが ... 魔人が魔王らしい事(悪戯)をする様になった結果 人間との共存はまた難しい形になりました。
その後はそれぞれ 自由に暮らす事となり 城には魔人ただ一人。約束のその時まで ただ一人。
....偶にくる友人達を持て成しつつ 他の赤の魔物達の帰りを待ちながら 彼はただ過ごしました。
そして魔人は リストを作りました。魔王復活の為の その必要な生贄を。そして当然それは全て集め終わり ....魔人も魔王も その立場を戻りました、とさ。
これは“本史” 魔王は魔王と呼ばれる程では無い しかし 王で有る。優しく儚く ....そして家族に優しい最高の親である。
〜〜〜〜〜〜〜F I N ...?〜〜〜〜〜〜〜
[ 復活の リスト ]
・ 魂の欠片 1g
・ 魔人の指 50本
・ 感情の色 12色
・ 霊体 5体
・ 灼熱 約500℃
・ 鬼の髪 3束
・ 家臣の血 それぞれ50ML
・ 純白の鳥と純黒の鳥 1羽ずつ
・ 泥 100kg
・ 神に近い者の力 小さじ一杯分
――小さな貧民街が世界の全てだった。
誰から生まれたのか、自分の名前はなんなのか、それさえ知らずに生きてきた。
『10』までしか数えられない頭で、指折り数えたのが10回。
おれはどうやら10歳というやつだった。
それでも生活は何一つ変わらない。
埃と砂まみれの汚い市場へ行って、人から物や金を盗る毎日。
ここではそれが生きる為の正攻法で、少なくともおれはそれで生き延びていた。
単に運がよかっただけじゃない。おれには『足』がある。
どんな屈強で強靭な大人でも追い付けない、天から授かった両足が。
だからいつも追っ手から逃げ切れた。
これからもそうやって生きていく。
今日、明日と、遠い未来を生きるために小さな街で。
あの頃は世界なんて知らなかった。
そんなある日のこと。
「おい、またあのガキだ! 追え!」
背後で響く怒号が遠ざかり、耳の横で風が鳴る。懐には紙袋に包まれた肉。
「へへっ…やったぜ」
今日も生き延びられる。
おれは一目散に寝床へ走った。
煉瓦の床を裸足で。
幽霊屋敷みたいな建物を抜け、路地裏を通り――
「っ!?」
ふいに視界が揺れた。
瞬間、走る痛み。視界に広がるのは灰色の地面。
転んだ。その事実が脳に行き渡る前に、誰かがおれの頭を踏みつけた。
「おい、クソガキ」
「!」
「…捕まえてくれましたか、ボス」
「ああ。おめーの言った通りだ」
必死に目ん玉を上に向ける。
視界の端に映る煙草の煙と、黒いスーツ。
誰だか分からない。が、捕まったということは無事ですまされない。
心臓が耳の裏でバクバクと鳴った。
「クソガキよぉ、お前もよく知ってんだろ。この街で生きていくにゃあ弱肉強食が必要だってな」
「…」
「その足は確かにすげェもんだ。神からの贈り物だと言ってもいい。だが…神なんていない。この街で生きるってのはそういうことだ。どんな罪でも強さの前にゃあ正義なんだよ」
「ボス」
「ああ」
スッ、と何かが男に手渡される。
「…言ったろ、弱肉強食って。運が悪かったんだよ、クソガキ。だが誤解するな。これは『正義』だ」
「――っ」
手渡された何かを降り下ろした瞬間、おれの足には衝撃が走った。
「ぐ……ぅ、うあああああ!!!」
それはやがて激痛に変わり、脳を支配する。
膝から下の感覚がない。
流れる血の温もりも冷たさも感じない。
切られた。足を切られた!!
痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――
「そういうこった。これも運命なんだよ」
去っていく男の姿を目で捉えることはできなかった。
瞼が落ちる。痛みで頭がどうにかなりそうだ。
おれは、おれはただ…生きたいと願っただけだ。
これが運命だっていうんなら、おれはそんなものを信じない。
……でも、もうダメだ。
意識が――
「――君を救けてあげましょう」
「…?」
「ただし、契約を交わしてもらいますが」
消え入りそうな意識の中で男の声が微かに耳朶を叩く。
幻聴か…?
なんでもいい。
これも、これも運命なら、助けてみろよ。
…神とやら。
差し伸べられた手を掴み取ったその日から、おれは半神になった。
闇の中で光るヒーロー
薄汚れた駅を降りると、そこにはツノの生えた男がいた。顔はそこそこで、今流行りの黒髪マッシュで決め込んでいる。
「 前髪伸ばした?前よりかわいさが増した気がする。それじゃ、行こっか 」
男はさわやかな笑顔の表情を作った。
私は愛されていないと自覚している。愛を僅かに感じることすらできず、ただただ生きている。でも人には承認欲求がある。半端な孤独の中、満たされていないから、こうやって知らない大人の男の人に体を売る。お金はもちろん欲しい。けれどお金は二の次なんだ。私は愛が欲しい。もしも私がこの人生にテーマを与えていいなら、愛の売買と名付けたい。いや、愛の賃借でもいいかな。
ギシギシ。ベットの軋む音。つんざくような男の匂い。微かに確認できた男の必死なかお。ツノから垂れる汗。意識が遠のく四畳半。玄関から入るとすぐにキッチンがある。差し掛かったその場所で、今この瞬間愛を売る。あぁ、この人生もまた、どうせこんなクソみたいな一日だろう。
男は相変わらずと言ったところだった。いつも通り。別に私を欲しているわけではない。この男は「女子高生とセックス」したいのだ。
誰も私なんて求めていない
私のために用意したのか。一応ピルがテーブル上に置かれている。生でヤル気かよ、ド畜生が。
行為は終わった。
けれど、愛というものの終着点は分からない。SNSではこうやって男に買われて、ぞんざいに扱われることが愛だと捉える人もそこそこいる。けれど、私はそうは思わない。真っ当に、至極純粋に愛されたい。その愛は、この暗闇の世界の中でもきっと輝いて見えるだろう。
埃の着いたカーテンから夕の光が刺してきた。もうこんな時間だ。
「 帰りますね 」そう言った。男は笑顔の顔を作って、手を振った。私の全身にある痣には見向きもせず。
「 待って 」
家まで送ってくれるみたいだ。律儀だなあ、と感心する。
でも、やっぱり心残りしかない。痣に気づいてくれなかった。あえて伸ばした前髪で隠していた額の痣。膝の痣。手首を切った痕。その全部を、行為の最中、事細かに見ていたはずなのに、ぜんぶ無視された。
やっぱり私は救われない。愛が欲しい。光り輝く愛が欲しい。なのに援交している。闇に染まっている。それは事実だ。事実だけど、ただそれだけで身体を売る真似はしていない。
気づいて欲しかったんだ。助けて欲しかった。怖い。怖い。怖い。傷がどんどん増えて深まっていく。ねぇ、助けてよ。お願いだから。あぁ、もう着いてしまう。あと200メートルで着いてしまう。
あと150メートル。あと100メートル。50メートル。10メートル。0メートル。
私は今日も帰ってしまうのか。これからも、何も変わらずに痣を隠して学校に行くのか。みんなの前でお道化したフリして演じるのか。痣が増えて、殴られて、お金だけを搾取される家に私は帰るのか。真っ暗闇な世界だ。腐ったりんごみたいな人生だ。私の傷はもう修復不可能なのかもしれない。
あるいは、私を見てくれない人たちが死んでくれれば修復できるのかも。あーーもう分からない。
「 それじゃあ、また 」
車は去り、とっとと行ってしまった。
わたしは家の方へと振り向いた。
いつも通りの風景。じゃない。
目の前に立っていたのは大きな棘、針、刃。
世間でまことしやかに囁かれる「 傷の代理者 」
『 手首、腕。額に痣。
膝にも痣。足首にも耳裏にも 』
「 どうして。それを? 』
『 ド畜生が。真っ暗闇な世界。
私を見てくれない人なんて死んでしまえば修復できるかも。つらい。怖い。助けて欲しかった 』
その硬くて刺々しい存在は理解してくれていた。気づいていてくれていた。なんで?
自然と、私は内側から涙がこぼれてきた。そして私の心を理解しているからこそなのか、ガバッと、その存在は強く抱きしめてくれた。刃の一つ一つはまるで、ぬいぐるみのように柔らかく折れ曲がり、私の体をやさしく包み込む。
『 これは痛い。痛くて吐きそうだ 』
「 でしょ。だから早く助けて。
それかーー全部ぶっ壊して 」
その存在は、大きく頷いた。
私はこの時、彼が闇の中で光る天使みたいに感じた。あぁ、わたしの傷口はこれからどうなるんだろう。
羊未練
………………羊 メェメェ
こんばんは。今日こそ死にます。
なんで死にたいのかと言うと、コンプレックスが多くて死にたいからです。特にこの頭のツノがキモいので大嫌いです。このグリングリンの髪の毛も嫌いです。
なので死にます。さて今宵は、この包丁を使います。
両手でしっかり持って、自分の貧相な胸に向けて刃を構えます。貧相な胸…。死にたいです。でも痛いのは怖いです。でもがんばります。
いち
にの
さん っ
目覚めるとそこは病室でした。今回も死ぬことができませんでした。ちゃんと死にたいのに、運命が干渉してきて、ちゃんと死ぬことができません。なので、
退院した今、死にます。
今日は縄とはしごを使います。
木に縄を括りつけて、輪っかに首を通します。最後に、はしごを蹴り倒して、全身の力を抜いて。あとは死を待つだけです。
あーーーくるじ。でもこれで
羊がいっぴき…
羊がにひき…
羊が…さ
目覚めると、私は地面に倒れていました。枝が折れ、今回も死ぬことができませんでした。私はちゃんと死にたいのです。運命なんかに負けていられません。
今日という今日は死にます。
なので、部屋に油をばら撒きます。ライターをつけて、落とします。当然ぼわっと燃えます。あっという間に黒い煙に包まれ、息が苦しくなってきます。でもこれで
いっぷん
にふん
さ
私は倒れてしまいました。酸素が欠乏して、死んでいくのでしょう。ああ、短い人生だった。ああ、シンプルな人生だった…
…羊 メェメェ
「 先輩、好きです…私と付き合ってください 」
「 むり 」
「 …え…即答…
……その、どうしてですか 」
「 ごめん。俺、お前のこと女以前に人間として見れないんだよね。その悪魔みたいなツノ。そのオタクみたいなぐりんぐりんの髪質。その骨みたいな体つき。胸もないし。あとちょっと粘着質な性格とか含めてむりだわ」
雨の中。少女は決心する。
「 よし、死の 」
…………………………………羊 メェ~~~
誰ですか、窓を叩くのは。
やっと眠りかけていたのに。
もう、窓を割るのは器物損壊罪ですよ。
もう、家に入るのは住居侵入罪で……
目覚めるとそこは病室でした。
私は死ぬことができなかったようです。
おい運命、こら運命よ…
それでも私は死にますからね。
必ず死にます。私は運命に逆らいます。
だから、歩いて歩いて!
あの太宰治が自殺した場所に来ました。
今日はすごい雪です。川もすごく荒れています。
これならすぐに死ぬことができそうです。
期待を胸に、飛び込みましょう。
わあーーーーー 期待通りです。
まず、私の体は滝みたいな川の流れで泡泡の水中に押し込まれます。それで呼吸ができなくて。静かな世界の中で、納得した私は目を閉じました。
「 けほっ 」
唇に生々しい違和感。
気づかない間に息が吹き返してる。目を開けると。
「 …またですか。また貴方だ。前の自殺も妨害しましたね。……どうして私の妨害をするんですか?」
「 僕は貴方が好きだからです。
一緒に生きたいなって思ってたからです 」
『溢れさせた愛を包む』
「好きだよ、しおちゃん」
「……………………………………え」
出会い頭の告白
理解不能、理解できない、なんで?どうして?分からない
「……ら、らいく、……そ、その、……聞きまちがえちゃった、ごめんね、……え、えと……その……」
「あぁ、ごめんね、声が小さかったかな、好きだよしおちゃん、好きだ」
2回言われた
ってことは言い間違えじゃない
間違えてない
らいくんは、わたしの、ことが
す
「っ〜〜!!?」
「あ、初めて見たそんな顔」
「な、な、な」
なんで、なんでなんで、わかんない、わからない
だって、だってだって、だって
「ら、頼光様、が」
「しおちゃんを好きなのは『僕』の感情だよ、頼光様……『私』の感情じゃない」
「い、許嫁だから……」
「許嫁じゃなくても好きだよ、幼馴染だからでもない、しおちゃんだから好きだよ」
ひとつの躊躇いもなく、投げた言葉に答えが返される
どうして目の前の彼はこんなにも冷静なんだろう、いつもは自分に振り回されてばかりなのに
今は彼が主導権を握ってしまっている
だから、だから、わたし、わたしが、れいせいじゃ
「好きだよ、しおちゃん」
あ
あ、あああ、あ
「わぁあぁああぁっっ!!!」
「えっちょ、しおちゃん!?どこいくの!!」
対面で、冷静でいられるわけが無い、無意識にも遠くへ逃げたくて、かけ出す足は止まらない
冷静じゃない冷静じゃない冷静じゃない、おかしい、こんな感情、おかしいに決まってる
好きなわけない、だって、
「絶対に嘘っ、嘘だもんっ!」
「うそじゃないってば!」
信用しない、信用出来ない
だってだってだって、らいくんはもう知らない人で
昔のらいくんなんかじゃない、昔の私じゃない
「わかんないもんっ……!」
ただの『役目』として、『巫』として嫁ぐだけだった
子を孕み産んでしまえば、それだけで関係は切れる、それだけの『役目』のはずだった
いい血筋の子孫を残すためだけのただの儀式のひとつだった、歴代の誰も、恋愛感情なんてもって結婚した許嫁はいなかった
なのに、なのになのに!
「しおちゃん!ちょっ……まって!!」
「やだ!やだやだやだっ!」
しらない、わからない、どうしてらいくんは私が好きなの?
わからない、わからない、わからない
私はなんで、逃げてるの
断ればいいだけ、どうせ、感情がなくたって役目はまともに進む
むしろ、感情がある方が歯車が狂ってしまうかもしれない
断ればいい、だけなのに
「しおちゃん!!」
『断りたくない』
『これ以上』
『でも』
信用出来ない
嘘かもしれない
裏切られるかもしれない
わたし
わたし
わたし
頼くんに裏切られるのは
頼くんに裏切られるの「だけ」は
「っだーかーらっ!!」
「!わっ」
うでが、ひっぱられる、あ、あぁ、おいつかれ
「は、はなし、っ」
「はなしません!離したらまた逃げるでしょ、しおちゃん」
あたりまえ、あたりまえだ、だって
「しんよ、できないん、だもん…!」
「信用しなくていい」
え、
「信用しなくていいよ、最初からそんなこと分かってる、だから、信用しなくていい」
「でも、断るなら別の理由じゃないといやだ」
「信用出来ないのは仕方ないよ、それはしおちゃんの本質だ、でも、『それ断られるのだけは嫌だ』、有象無象と同じ理由で、僕のことまで拒絶するのはやめて欲しい、在り来りでもなんでもいい、僕の気持ちが嫌なら嫌って言って欲しい」
手首を掴む力が強まる、もう痛いくらいだ、でも
「でも、有象無象と同じ理由で、君に突き放されるのは、嫌だ」
「君にとって、だれでもいいやつなんかになりさがりたくない」
───なんで、そんなに、つらそうなかおを、するの
「しおちゃん」
だって
「僕は、」
だって
・・・・・・
わたしだって
「しおちゃ「すき」、え」
壊れた
「すき」
あふれる
「すき」
こぼれる
「すき」
もう、感情を留めていた仕切りは、壊れた
「すき、わたしだって、わたしだって」
「…しお、ちゃ」
なみだが、ことばが、あふれる、こぼれる、とまらない
「わたしだって、すき、だいすき、らいくん、らいくんが」
めをこすっても、こすっても、とまらない
「らいくんがだいすき…っ」
わたしだって、あなたにとって、だれでもいいひとになんて、なりたくない
「………」
「…っ、ふ、…ぇ、え…っ」
「…………、しおちゃん」
「…、っ!」
手を引かれる、不意のことでよろけた体は、地面に倒れることはなく
暖かいものに抱きしめられた
「好き、大好き、僕も、大好きだよ、しおちゃん」
愛を、綴る
「許嫁だからじゃない、他の誰かの感情じゃない、『僕』が『しおちゃん』を愛してる」
溢れる愛を、彼は告げる
「っ、わたし、わたしもっ、わたしも、だいすき、っ、らいくんがすき、おねがい、おねがいっ」
たとえ信用出来なくても
あなたなら
「あいしてる、うらぎらないでね」
「あいしてる、あたりまえでしょ」
ずっと昔に途切れた赤い糸が、結び直される音がした
〈失礼します!〉
遥か昔、パエスト家17代目当主『ヘスカルト・ユカミ・パエスト』が侵した禁忌から始まった二つの族...
それは人型の人形と動物の人形に自我を与えてしまった事に至る...
人型の人形は他の生物や人間に似ていて人工的に出来た魔法や武器や戦闘スタイルを素早くこなし
動物型の人形は生命エネルギーを感じとり、特殊な魔法を扱う事や予感を感じれるようになった。
だが...
ある小さな喧嘩から始まり、大きな戦へと変わった。
それは人型と動物型の食料合戦であった。
ある者は奪い奪われ、ある者は焼き払う...まさに地獄絵図であった...
そんな時に!
ヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』と
アニマル人形族の長の娘、『ウサラミア・ライド・パーク』が
慈悲と精神を民や戦士に安堵を与え、二つの族は友好条約を結んだ。
二つの族の英雄となった長同士の娘達は人々から慕われ、尊敬された。
また...
この戦が終わった5年後に二人の娘達を里巫女として毎年5月に必ず行えるようになった。
そして必ず女の子二人と慈悲と精神にとっても着いた親友二人を毎年出していた。
戦が終わった英雄の二人は何時までも仲の良い親友でありました。
...50年後の誘拐事件の事。
謎の仮面男にヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』を誘拐し行方不明となってしまった!
だが勇敢であり、戦いに優れているテオドールは針で仮面男の左腕を刺して何とか逃げ切れた。
仮面男がまだ近くにおり、光る穴を見つけ直ぐに入ってしまった。
....それから以降、『テオドール・セリマフ・トロイド』は行方知れずとなり現在も詳細は分からない。
だが、ある情報で唯一手がかりだったのが...
《夜の王の城で『テオドール・セリマフ・トロイド』に似た姿をしたメリケンと杖で戦う勇敢な少女がいた》...
というくらいであり、それ以上も以下もなかった。
『お前の顔なんて、もう覚えていないよ』
https://i.imgur.com/dDXTFqS.jpg
https://i.imgur.com/FRY0ySV.jpg
(小説じゃないけど残しておきたかったので投下しておく)
嘘とは、糸だ。
小さなほつれで始まり、そこから幾線にも絡まり、連なり、やがて一つの「縷縷」と化す。それは、やがてどこかへ引っかかり、何里もずるずると気負うようなもの。俺はそんな嘘の縁の切り方を知っている。それは文字通り、断つことだ。
始まりは小さな嘘だった。それが嘘の終わりだとも気付いた。
家無しの俺が毎夜こっそり牛舎に忍び込んでいることは、誰も知らない。そのはずだったが、ある日。別の家無しが乳牛を求めて忍び込んだ。俺は息を潜め、どうにか気配を悟られないよう牛の影に隠れ、いないふりをした。おれはいない、おれはいない、どこにもいない。そう願う内に深い眠りに落ちてしまった。そして明くる日、おれの頭に飛び込んだのは牛舎の主の一言。「おまえ誰だ」と。初めは大層驚いた。なぜなら、俺は村の厄介者だからだ。この牛舎だって、その前は鶏小屋だった。だから寝床を奪われるわけにいかなかった。牛舎の主の言葉にしばらく瞬きを繰り返していると、ふいに気付く。それはおれ自信が願ったからだと。おれは牛舎の主に「なんでもありません」と言い、牛舎を去った。その夜。再び牛舎に忍び込むと、今度は牛の影に隠れず、干し草の中で身を縮こめることもせず、牛を殺した。首は思ったより分厚く、切るのに苦労したから、途中でやめて、内蔵にした。まずありったけの肉片を懐に詰めて、血と臓物で満たし外へ逃げた。一目散に走り、転がるように坂をかけ、原っぱの感触を裸足で踏みしめ、知らない街へ行った。やがて太陽が昇りかけた時、いちばんに窓を開けたおばさんに言った。「遠くで人が殺された」と。そして、おれは騎士を引き連れ村に戻る。そこで目にした光景は忘れられない。村の人間は一人残らず死んでいた。臓物を引きずり出され、うつ伏せのままで。
信じることは、幸せだ!いつも通りの朝です。私という個体は名を持ち生命を遂行します。電波時計が6時になると肉体が目覚め、私は朝という行為を繰り返します。そのまま、生きるために栄養を摂り、やがて電子箱の時計が7時になると、私は外へ出ます。学校という、分子の管理所に行くためです。そこで私は私というものを遂行します。まず初めに、「おはよう」と言います、そして、「今日も前髪決まってんじゃん、てかさ、昨日の見た?」と言います。相手もそれに応えます。私が「マジかっこいいよね」というと、「それな」と言われます。そして、授業という、知識の授与が始まるのです。私はこの時間とても退屈に思います。しかし、私は常に最善を考える。私にとって、生命にとって、個体にとって、社会にとってなにがよいか。それは、曖昧です。半分ほどの知識を保ち、もう半分は蛇足であるのです。「まじ眠かった」と言わなければならないから。このように、私は、毎日同じ行為を反芻します。それは何故か。それは、私が社会的存在であるからです。社会で生きる我々にとって、逃げることは恥であり、愚かな兎に与えられる人匙の慈悲すらありません。だから、私は、人間を遂行するのです。理由はもう一つあります。それは、私が信じているからです。およそ3人に1人存在する人間という名の生命を遂行することには意義があり、また、その行為が生き抜くため正しいと信じています。これが、生命の連続性です。大抵の人はこの話を聞くと、おかしいと首を傾げます。そう、いわゆる、機械のようだと。私はそれでも構いません。機械でいることで真っ当な権利が与えられるなら、私は生命の終了まで連続するでしょう。しかし、時に故障もあります。
「あなたが悪いです!」
「✕✕✕✕、あんたがいなけりゃあよかった!」
「死んじまえ、死んじまえ、あなたが生きていれば私は認められない!邪魔者!」
機械やプログラムにもバグは存在するのですね。そこに意志が存在しないことは唯一の利点ですが、完全に治すのには一苦労します。なぜなら、誰も気づかないから。修復プログラムは完結し、古びていくから。つまり、どんなに些細な傷でも、積もり積もっていくのです。だから私達は、どうしようもないバグが発生した時、生命を停止するのです。私にもその終わりが近づいているかもしれません。
──精神病棟。
この場所の匂いがとても嫌いだ。
鬱憤や慢性を孕み、増長し、行き場なく漂うだけの、甘ったるい匂いだから。全ては欺瞞に溢れている。
「次の方」
爪をカチカチと鳴らす癖をやめなければ。そう思って、私は。おそらくくすんでいるであろう、己の瞳を声の方へ向ける。いつも見慣れたようで見慣れていない、けれどぼんやりと思い出す、看護師の人。すぐに忘れてしまうのは、きちんと顔を見ないから。私は鞄を肘の裏側にかけて、診察室へ向かう。一番、鬱憤が溜まる場所だ。
「薬は飲みましたか?」
「飲んでません」
「なぜですか」
「飲んだら会えないと思って」
「ちゃんと飲んでくださいね」
先生は、すぐに私から目を逸らして、書類にさらさら記載する。ああ、きっとこの人も、私の顔を覚えていないんだろなって、ふいに思って、悲しくなった。
「髪を切りましたか?」
「いいえ」
「腕は?」
YES、YES、YES!
心が、心臓が、心拍を増す。熱い血液が何度も流れて、耳の裏側まで満たし、頬へ向かう。どうかこのまま見ないでほしいと思うくらい、顔が熱い。私の口からはたった一言「はい」すら出ずに、躊躇った。
「回復は順調ですね」
「そうですね」
先生、本当の薬を知ってますか。それは愛。愛があれば人は救われる、でしょ。あのね本当は、みんな認めてもらいたい。でも、心ばかりがお喋りじゃ、乾いてしまうから。そうなるとどうなるか、私を見れば分かるはず。自分に歪な愛を供給すればいい。誰も認めてくれないなら、自分が認めてしまえばいいはずだ。それが間違った方法だと悟ってもやめられないのは、先生、あなたの方が詳しいですよね。苦しいことに常に酔って、自分を慰めていないと形を保っていられないのだから。ふとした時に、✕のうかなって思うから。ていうか、眠いな?バイバイ👋
でもね本当はなんにも眠くなくて、むしろ目ばかりが冴えていて、嘘ばかり。終わりです。
『心買い』
いつも通り、ホーム画面のネットショッピングアプリを開いて、特に興味もない商品にただ無作為に目を泳がせる。それは服や、植物、あるいはコンロでも、なんでもよかった。俺の欠点でありながら、俺という人間を形作っているのは、紛れもなく散財癖だろう。自覚してなお画面の上を滑らせる指が止まらないのは、自分でも分かっている。心の隙間を満たすには、あらゆることから現実逃避するには、散財が最も適しているからだ。そう思って、更に商品を探す。すると、見たこともないものが、画像と文字で現れた。
「私の心売ります」
歪で、赤黒く、禍々しい色をしたそれは、誰が見てもハートの形。俺は危ういそれに興味を惹かれ、まるで操られたように商品をタップした。少しの読み込みのあとに、説明が表示される。機械的な文字の羅列が連なっていた。
「私の心は、とても飽き性で、一人を愛することができません。なので、心を売りますから、どなたか買ってください。永遠の愛を手に入れましょう。」
思わず鼻で笑ってしまう。やはり、ただの悪戯だ。どこかの中年親父が暇つぶしに出品しただけの、くだらないもの。だが、その認識とは裏腹に、俺の中には非現実的な考えがあった。少なくとも、このわけの分からないハートに惹かれている。理由は分からない。愛という文字のせいか、こんなものに縋ろうなんて自分が恥ずかしい。欺瞞はある。理性もある。しかし、今だけは好奇心を裏返した意地が顔を出す。「お遊びで買ってやるか」と、己を持ち上げて購入をタップした。
数日後。俺が仕事から帰ると、古いアパートの1階、俺の部屋の前に小さな箱が置かれていた。数日の間でふざけた商品のことなんて頭から消えていたから、開いて中身を見るまでは「それ」だと気付かなかった。半分惰性で箱を開ける。すると、中にあったのは、あの日確かに見た「心」だった。思わず驚いて箱ごと地面に落としてしまう。正常な脈動を放つ心とともに、俺の心臓も拍動を増す。歪なのは、それがハートであること。心臓でも作り物でもなければ、説明に及ぶ代物でもない。その時やっと自覚した。「俺はとんでもないことをしてしまった」と。
『心買い2』
とりあえず、「心」を箱に入れたままにして、俺は眠ることにした。疲れているかもしれないからだ。そうでなければ、とても現実を受け止められそうにない。「舟を編む」のような無精ひもは、床と僅かな距離を残して垂れている。俺は布団の上に寝っ転がると、垂れた無精ひもを片手で軽く引っ張り明かりを消した。瞼を閉じて眠ろうとすればするほど、強い違和感が襲う。その内に何度も心が瞼の裏にちらついて、気付けば俺の額に汗が流れていた。やがて耐えられなくなり、布団の横にある無精ひもを引っ張ると、俺は狭い居間へ直行した。薄型で、やや古いタイプのテレビ。これもネットで購入したものだ。すっかり埃を被ってしまったリモコンを手に、電源を入れる。鮮やかな色彩が現れるまでの時間が、やけに長く感じた。心の脈動、時計の針、俺の心臓。様々な音をかき消すように、やがてテレビは映像を映し出した。それを見て、俺はいくらか安堵し、再び布団の上へ戻る。電気もつけたままで布団を頭まで被る。お笑いタレントの癖のある声だけが耳に流れ込んだ。そうして瞼を閉ざす内に、いつの間にか声から遠ざかり、俺の意識は深い眠りに落ちていった。
──翌朝、俺は時計のアラームで目を覚ます。これまたネットで購入した電波時計はしっかり6時を指している。いつもと変わらない朝の始まりだ。……一つの不安因子、心を除けば。太陽が昇りかけた暗がりの中、嫌でも視界に飛び込む心はいまだ脈動を放っている。気味が悪い。
「……ったく、なんなんだよ。マジきもいな」
俺が意図なくぽつりと呟く。すると、途端に心の脈動は激しさを増した。俺は驚いて、思わず箱に駆け寄った。溢れる俺の心拍に共鳴するかのように、心は一層強く脈打つ。ふいに、震える声が口から絞り出た。
「お、お前、生きてるのか?」
恐る恐る問うた言葉は、脈動に消える。文字通り心が跳ね上がるようだ。目の前の心は嬉しそうに跳ねる。どうやら、言葉には反応するのだと、寝起きの頭で理解した。俺はまるで子供のように食い気味になり、もっと話しかけてみる。
「お、おはよう」
「──」
「えっと……今日は、晴れだって」
「──」
「……はは」
心は脈動を返すだけ。次第に馬鹿らしくなってきて、「いつも通りの朝」を今度こそ始めるために洗面所へ向かう。顔を荒い、歯を磨き、安売りのパンを焼き、服を着替え、その中でも常に心が頭を通り過ぎていく。いつも通りの朝なんてものは、もう訪れることがないのかもしれないと悟った。
『心買い3』
いつも通り、人混みの中を規則正しく出勤する。ビルの広告塔や、揃った足並みだけが靴音を鳴らすこの時間は、早朝であることも相まって張り詰めている。俺も常に気を引き締め、今日も会社へ脚を運ぶのだ。そうして5分ほど歩くと、やがて大きな建物が姿を現す。やけに綺麗な玄関は見慣れすぎてなんとも思わない。ここが俺の会社だ。
「ねえ」
「はい?」
背まで伸びた黒髪をひっつめにしたこの女は、俺の上司だ。神経質で器が小さく、何かあればすぐ部下に当たる。だから俺はこの上司が嫌いで仕方がない。それでも社会に生きているから、胸中など吐き捨てて笑顔で答えなければいけない。
「部所、またコピー数ミスしてたけど」
「あっ、すみません……ですが、あれは新人に任せたはずで」
「それは君の監督不行届でしょ。新人のせいにしたらだめ」
「すみません……」
まただ。この女のせいで、心の奥底に黒いモヤが溜まっていく。今日もどうせネットショッピングで次の散財対象を探すのだろう。そう思ったが、ふと心を思い出して、考え直す。……しばらくは、あれのせいで散財する余裕もないかもしれない。
数時間、俺は仕事を終えて帰路につく。上京したてで借りたボロアパート。古ぼけた街灯の明かりに照らされた自分の住処を見るたび、情けなくなる。あんな狭い場所で、毎日毎日、散財でストレスを発散するだけ。虚しくて胸の奥から酸っぱいものが込み上げた。たくさんだ、もうこんな場所から抜け出して、堂々と生きてみたい。だから、助けてほしいと願うのは、間違いだろうか。ガチャリ。鍵を開けて中へ入る。街灯の明かりが扉の隙間を通り抜けて、居間まで吹き抜けると、「心」が目に飛び込んだ。つきたくなる溜息を抑えて、さっさと扉を閉めてしまう。
「……」
心は相変わらずドクドクと脈打っている。その様子をしばらく見つめていた。「言葉は通じる」、その法則を思い出して、暗闇の中で俺は床に座り込む。時計の針と、心の脈動。昨日と同じようで違う。俺はやけに落ち着いていた。
「……嫌なことがあったんだ」
「──」
「クソ上司がさ、新人のミス俺に押し付けてきた。まただよ、指示ばっかするくせに自分はなんもしねーし。そのくせ人使い荒いのがムカつく」
「──」
独り言のように告げて、小さな変化に気付いた。心が、萎縮し身を縮こめ、か細く脈打っている。まるで俺を案じるかのように。その瞬間、信じられない話だが、俺は微かに救われた気がした。誰も俺を認めない。周りに言えず封じ込めるだけの思いが、こいつによって放たれた。思っているほど、気味が悪い存在ではないのかもしれない。
『心買い4』
翌朝も電波時計で目が覚めた。体を起こし、洗面所へ向かう前に、俺の目線は「心」へ向かう。
「おはよう」
俺の挨拶に、心が脈動で返した。それを見て口角が上がる。愛おしさや、親しみのようなものを持ち始めているのは間違いない。それに、一様に不気味な存在ではないのだ。俺のためにか悲しみ、俺のために喜んでくれる。そんな存在が身近にいたことは生涯で一度だってない。だからこそ受け入れることに躊躇を持たない。
「何回同じこと言ったら分かるの?」
「すみません……」
そして今日も、くれなずむボロアパートへ帰る。クソ上司のせいで溜まった鬱憤を抱えて。
「今日もさ──」
「──」
ひたすらに話す。心は俺の一語一句に反応を示し、縮んだり跳ねたり、その様子に愛おしさすら覚えた。そうして日々を重ねる内に、俺の心拍も間隔を狭めていく。灰色の帰路ががらりと色を変えた。心に会えるのが嬉しい。俺はこの感情を知っている。
──それは、恋だ。俺は心に……彼女に恋をしている。
「心、今日は休みだ、遊園地に行こう!」
「──!」
心は跳ねた。俺は心を箱ごと手にし、遊園地へ向かう。
「あはははは! 楽しいなあ!」
「──!」
周りの奴らは俺たちを奇怪な目で見たが、そんな視線が気にならないほど、俺は心に夢中になっている。誰も俺たちの愛を分からない。だが、それでいい。寧ろ誰にも理解してほしくないのだ。
……その日から、ボロアパートのポストに手紙が投函されるようになった。
『心買い5』
『あなたを愛しています』
手紙の内容はこうだ。同じようなものが、一度に何通も投函される。時間は分からないが、俺は手紙の送り主に少し見当がついた。あのネットショッピングアプリに「心」を売った、言わば心の持ち主。それが、なぜだか分からないが、今更手紙を送り付けてきたとしたら。前なら嬉しいはずだが、俺は内心で困惑を隠せないでいる。この愛は心のために捧げ、俺に与えられるのも心の愛。そこに他人が入り込む隙はないはず。他人という言い方はずいぶんおかしいように感じるが、俺にとってはその形容が正しい。なぜなら、俺が愛しているのは肉体ではなく「心」なのだから。
何通も届く手紙、その全てを押し入れの奥にしまい込んだ。
それでも、日に日に手紙は増えていく。もう押し入れにしまい切れないほど。俺はいよいよ身の危険を覚え始めた。一種の狂気すら感じてしまう。
「もう、いらないんだ。俺には心さえいればいい」
「──」
「だから……」
深夜、玄関。靴は一足だけ。ドアアイに張り付き、手紙の送り主を確認する。誰にも気付かれずに手紙を投函するなら、深夜が最も適しているはずだ。ドキドキと逸る心拍を抑え込み、息をころす。まず相手がやって来たら扉を開け、手首を捕まえて拘束だ。それから──考えている内に、冷たいコンクリートの床を鳴らすヒールの音が響いた。来た……一瞬の躊躇を振り払い、扉を開ける。
「!」
コートを目深に被った女は驚き、踵を返す。「待て!」そう掠れかけた声で叫んで、手首に手を伸ばす。やっと捕まった。そう思った寸前、女は手を振り払い体勢を崩した。背後はコンクリートの柱。女の体は重力に従い、柱へと落ちていく。スローモーションのようなその瞬間を、俺はどうすることもできなかった。──ゴン!! 鈍い音がして、女は倒れる。心拍が耳の裏まで拍動を伝えた。
「やばい──」
ふいに、女の足元に手紙が落ちていることに気付く。俺は無意識に手紙を広い、焦る心を落ち着かせるように、震える指先で手紙を紐解いた。中の紙には達筆な字でこう書かれている。
『✕✕✕くん、今までごめんなさい。そろそろ自分の正体を明かしたいと思います。いつも自分に自信が持てなくて、こういう方法でしか伝えられませんでした。そして、いつもあなたを理不尽に叱ってごめんなさい。本当はあなたが好きだったけれど、あなたは私のことを嫌いだと思うから。だけど、これから謝りたいです。そしたら今度、二人で会いたいです。 ──***より』
「……、…………」
……
…………ゆっくり、ゆっくり目線を下に向ける。
流れる血、頭のフードが落ちて、それは顔を現した。
黒いひっつめの──
俺はそのままずっと何も言わず、手紙を握りしめていた。
箱の中の心は、もう脈動を放たなかった。
『超魔神性』
その昔、神々がいた。
神々は世に恵みを与え、悪を罰した。
やがて、その役目は各聖地の人間へと継承されることになり──
人はそれを、『超魔神性』と呼んだ。
「──はい、治ったよ」
「やった〜ありがとでゲス〜!」
手をかざせば、たちまち傷が塞がっていく。お礼を告げた「河童の子」は、健康な皿が乗った頭を下げて走り去った。その姿を最後まで見届ける、聖女のような、いわば『超魔神性』。
「……」
そして、傍観している私もまた超魔神性。……天音円と天音環、私たちは姉妹のはずだった。
まず超魔神性とはなにか。
第一に『神眼』、その者を見通す力。
第二に『神然』、恵を与え潤す力。
そして、第三に『神性』、継承の存。
妹、円は……全てにおいて秀でていた。
「姉さん!」
「……なに?」
「次の稽古、一緒にしない?」
「ごめん、無理」
「どうして?」
「嫌だから。それ以外に理由でもあんの?」
「姉さん──」
「──環!!」
ふいに、物陰から女が怒号とともに現れた。母親だ。継承で神性を失ったくせに、今でもこうして出張ってくる。
「あんた、なんてこと言うの!?」
「なにが?」
「ずっと見ていたら、河童の子も助けないで、挙句の果てに円にそんな風に言うなんて。あんたには優しさの欠片もないわね」
「母様、それは言いすぎでは……」
「円は優しいわね。でも、今日という今日は限界よ。大体……そんなだから、いつまでたっても比べられるのよ」
左耳から右耳へ、聞き飽きた言葉が通り抜けていく。ああ、本当に、苛苛する。円の偽善も、才能も、母親の冷えた扱いも、私になんの期待もしてないことも。生まれてこなければよかった。私は生まれつき『神性』が使えないから、何もかも不十分で、円に遠く及ばない。言ってしまえば残りカス。
「ごめんなさい」
言いたくもない謝罪を口にする。頭がどうにかなりそうだった。
──円さえいなければ。
私は否定されないのに。
『超魔神性2』
腕を切った。台所からくすねた果物ナイフで。刃をしっかり皮膚につけ、人差し指を添えて、ゆっくりゆっくり引けば、やがて綺麗な赤い線が現れる。この一連の動作は嫌いじゃないし、上手く切れると自分を褒めたくなる。そうすることで自分を肯定する。
「──」
「!」
ふいに、物音が聞こえた。驚いて背後を振り返ると、そこにいたのは母親だった。慌てて腕を隠す。
「あんたなにしてるの?」
「なにもしてないよ」
「腕を見せてみなさい」
「え、なんで……」
「見せなさいって言ってるの」
「嫌だって──」
嫌がる私の腕を、母親は掴んでその目でしっかり見た。あ、終わった……弁明しようと開いた口が言葉を紡ぐ前に、パチン!私の頬は勢いよく張られた。
「なに馬鹿なことしてんの!!」
「……」
「大体、こんなことして喜ぶなんて精神が弱いのよあんた!!」
頬が、ジンジンと、熱いのか痛いのか分からなくなる。その時私の中で、『何か』が切れた。
「ふざけんなよクソババア」
「!?」
無防備な母親の体に掴みかかる。
「私がこんなことしなきゃいけないの、お前と円のせいなんだよ。だったら最初から産んでんじゃねえ、私なんか恥なだけだろ。汚点だつてそう思うなら、神性が使えない子が嫌なら、今ここで殺しちまえよ!!」
涙がぽろぽろ出てくる。くそ、出てくるな、お願いだから。生まれてから17年、一度も涙なんて見せたことなかったのに。それが唯一の強さだと信じていたのに。母親は呆然としたまま、だんまり。
「円が、円さえいなければ──」
そう口にした瞬間、私の体は投げ飛ばされた。衝撃は肉体よりも精神を襲う。
「いい加減にしなさいよ!」
……殺さなければ。
少女失踪事件
13年前に起こった小さな町の小さな事件。
ある夏の日、川辺で遊んでいた✕✕✕ちゃん(当時5歳)が、見知らぬ男に声をかけられそのまま誘拐された。
この事件に関しては目撃者が一人もいない。
そのため、真実を知るのは当事者2人だけだろう。
──ピコン、ピコン
また通知が鳴る。
見慣れた青い画面と大量の通知。半ば無意識、癖のように通知を開くと表示されるのはたくさんの「いいね」。もう見飽きてしまった。
ため息をつきかけた時、ふいに扉がコンコンと叩かれた。
「✕✕✕」
「はい」
生返事。
「次はこれな」
「はい」
トビラがガチャリと開いて、外から男が現れる。太って脂ぎった顔にヒゲを生やした醜悪な姿。その手には真新しい服。サテンの派手なドレスだ。
私はそれを黙って受け取ると、男は何も言わずに扉を閉める。そして、また私の活動が始まるのだ。
『フォロワーさんが買ってくれた服着てみた!かわい〜〜😍😍 みんなほんとにありがと〜❤*.(๓´͈꒳`͈๓).*❤』
──ピコン、ピコン。
……一体いつまでこんなことを?
『✕✕✕』
『愛してる』
『こっちにおいで』
『危なくないよ』
……いつから?
──鳴りやまない通知の音を耳に、ベッドに体を埋める。短いサテンのドレスを着ているせいで足がすーすーする。
「……」
ふいに手を足に伸ばした。ふくらはぎが線に引っかかるみたいに、ザラザラした。赤い傷跡。ここでも、あの世界でも、誰も気付かない。気づいても、なにも言わない。私の商品価値は顔だから。
そんな生活を10年くらい続けてきた。フォロワーから貢がれた金はあいつへ。一度送られた服は投稿だけして売りつける。愛もなにもない。
……
…………
「お母さん……」
今どこで何をしてるの。
帰りたい。帰りたいの。もう一度ぎゅっと抱きしめて、「愛してる」って、ただ一言。それだけでいいのに──
──ピコン
またいつもの通知。でも違った。
『DM』
『幸福伝道会』
DMの送り主はそう記されていた。絵の具で塗りつぶしたような黄色の上に、刺々しい真っ赤なバラ。これがいかにも『幸福』とでも言いたげなアイコンだ。
「……」
幸福なんて曖昧な言葉の意味がよく分からない。そんなものは幼い頃、あの場所に落としてなくしてしまった。
『迷える皆様のために、幸福伝道会は幸福を授けます。お代は一切不要です。その代わり、不幸を頂きます。』
DMのやりとり欄に表示されるのは無機質な言葉の羅列。胡散臭い。そう思って、もう一度頭をベッドに伏せようとした時。新しいメッセージが更新された。
『✕✕✕さん、あなたは13年前に失踪された少女ですね。』
「──」
ほのかに薄暗い部屋の中、スマホの画面に驚く私の顔が映った。まるで覗かれているようだ。身が硬直する。
『我々、幸福伝道会はあなたのような不幸な人間をお救いいたします。』
救い、
『返事を一ついただければ、私どもは必ずあなたに幸福を授けましょう。』
幸福、
……
《愛してる》
…………
空返事。
『はい』
『( …今に始まった事ではありません
昔話をしてあげます、…ずっと昔にあった本当の話です 』)
___
AGE 19XX… "それはもう、忘れ去られた時代"
『__人は何時でも争う事を止められなかった』
(空を舞う鉄の人影__{かつての破壊音}__永く散る火花)
『例え自分たちの争いが世界を破滅させようとしても…』
『争う相手が 人から、そうでないものに変わっても』
_____人は変わろうとしなかった
___AGE 20XX
『( 実験は失敗でした )』
『( 貴方たちは、あの荒れ果てた大地に眠る
幾多の者たちと同じ )』
『( 自らを滅ぼすと知りながら
それでも争う事を止められない )』
『( 卑小で 愚かな存在 )』
『箱庭の夢』
温度も湿度も変わらない何もない真っ白部屋で眠る「元」少女。人体実験を繰り返し、遺伝子を弄られ、少女でも少年でもないあの子はどんな夢を見ているのか。そんなことを思いながら手元のタブレットに視線を移す。彼女が普段右手に着けている指輪とリンクしたデータをみて今後どうするべきかを考える。
元孤児。
元いた実験室が破壊され、ここの施設に移る。
実験には協力的で特に反抗的な素振りは見せない。リジェネを前いた施設で中途半端な形で付与される。
体温調節が難しく、主な活動時間は夜。以前昼間に活動させたが体温が上昇。そのまま熱中症のような症状ができ、回復力も下がった。
朝から夕方まで眠る。実験の副作用かは分からないが、ロングスリーパーである。回復に体力を使うのかかなりの量の食事をする。
感情の起伏が読み取りにくくいつも笑顔。
過去のことを覚えていない。軽い記憶喪失の症状あり。
タブレットから真っ白な何もない部屋に視線を向ければ、群青の瞳と目が合う。相変わらず何を考えているのか分からない表情でこちらを見つめる彼女からそっと目をそらす。
「 実験の時間だ。外へ 」
「 はぁい、了解〜 」
人間としての情はもちろん残っている。自分がしていることが間違ってることも分かってる。けど、人類の進化のためきっとこの研究は辞めることができない。
立ち去る研究者の背中を見つめながらため息を一つ落とす。
懐かしい夢を見た。まだ人間だった頃の。まぁその頃から性別がうまく判別できなくなったんだけど。怪我をしたら普通の人と同じ速度で治っていったし、まだ痛みとか感情もあった気がする。
「 まぁ、よく覚えてないけど… 」
なら今のボクは?
何回か死のうとしてもしねない。普通の人間なら死んでる傷もすぐ治る。こんなの化け物じゃないか。自分がなに考えてるかすらもよく分からない。これはもう人間の形をした何か。
「 人間、失格 」
『 もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。 』
なんてね、あーあ。退屈、だなぁ…。
今日もいつもと変わらない日々を過ごすのだろう。そんな独り言が聞こえたのか前を歩いていた研究者はまゆをよせ怪訝そうな顔でこちらを見る。
「 何か言ったか…? 」
「 んーん、なぁんにも 」
馬鹿みたい。そんな言葉は喉につっかかり、笑顔のなかに消えていった。
〈来世まで、愛を込めて〉
「……っ、ぅ、……」
めが、さめた
めがさめた…?わたしはねむっていた…?
…あたたかい、からだがゆれている、これは、…かかえられて…
「………おぼろ、く」
「喋るんじゃねぇ」
「…そ、ぅ、…やっ、ぱり」
かえってきたこえは、そうぞうしたとおり
「………ね、ぇ、…おぼ、ろ、くん」
「喋るんじゃねぇっつってんだよ」
「…いい、じゃな、い、…しゃべ、らせて」
「……チッ」
舌打ちが聞こえた、かなり、怒らせてしまっているらしい
「…せん、きょうは」
「………もう、何もせずとも勝てるぐらいだ、あんたが無茶したおかげでな」
「ふ、ふ、…そ、う…、それは」
無茶した甲斐があったわ、と、言葉を零せば、私を支える腕に力が入った、ぎしりと、彼の口から、歯を食いしばる音が聞こえる
「………おぼろ、くん、…」
「…うるせぇ、」
「…おぼろくん、…」
「黙れ、それ以上言うんじゃねぇ」
「…………おぼろくん、」
置いていきなさい
「…………」
「あなた、も、重症、でしょう」
ようやく、記憶が整理されてきた、そうだ、私達は戦場にいたのだ
全てを守るために、自分の正義を全うするために
大多数を相手に、我儘を通すために、刃を抜いたのだ
そして
──『ぁ゛、』
─────『──綴さんっ!!!』
私は、彼を守ったのだ、身を呈して
そこまで思い出して、ようやく、己の体が冷たくなってきている事に気がついた
「……なんで、庇ったりしやがった」
「…じょうし、だもの、ぶかはまもらない、と」
「…ふざけんじゃねぇよ」
ぐっと、また、腕に力が入る、感覚が薄れてきた体でも、痛みがわかるくらいに
「─おぼ、ろ」
「っづ!俺は!!あんたを…っ!」
『綴さん!』
「っあんたを守るために!おれは!」
『人間兵器と呼ばれているんです、私強いですよ?』
『…怪我の心配なんて初めてされました、…ありがとう』
『あなたなら出来るでしょう?私について来れるのだから』
『……やっぱり、君は凄いね』
『──朧くん』
「……あんたは、ずっと、独りで、でも、なんでも出来て、周りからなんて呼ばれようと、ずっと戦って」
「…、…」
「だから、おれは、俺だけは、あんたを守りたかった、庇ってでも、死んででも、じゃないと」
「あんたは、ずっと、報われない」
「……おぼろくん」
「なのに、なのに、っ、よりによって、『あんた』が『俺』を庇って、守ってっ!」
『───だいじょうぶよ、おぼろくん』
「っあんな風に、笑ってっ!!平気だって痩せ我慢して!!そのまま、無茶して戦って!!」
「おれは、あんたを、守りたかったんだ、それなのに、俺の前で、死なないで、…」
あめがふる、いや、これは
目が霞んで、よく見えない、でも
「……ふ、ふふ」
「……つづり、さ」
「なん、だ、いっしょ、だったの、ね、わたし、たち」
「…は…」
己の腕に力を入れる、まるで自分のものだと思えないような、弱々しく動くその手を、流れる雨の元へ伸ばす
「…、わたし、も、わたしも、まもりたかった、の」
「はじめて、だいじに、たいせつ、に、したいと、おもったの」
『…はぁ?人間兵器って…あんたただの人間だろ』
『っおい!怪我してんじゃねーか!何でまだ前線に出ようとしてんだ!』
『はぁ…やってやるよ、あんたがそういうならな』
『─綴さん』
「…、つづ、り」
「……わたし、こわしたり、たおしたり、しか、できなかったから」
『人間兵器とかいう名前どうにか何ねーの?もっとなんかさぁ』
『そういっても…私が名乗っているものじゃあないから…』
『それにしたって、ほら、もっとさぁ……あ!』
『夜桜、とかどうよ』
「あんな、きれいなよびかた、はじめてだった」
頬を撫でる、もう、思うように動かないけど、残った力を振り絞って
「すごく、うれしかったの」
笑えているだろうか、わらえているといいな、だって、本当に、心の底から嬉しいかったの、あなたがそうよんでくれたから、わたしはやっと
「…きみが、ずっといっしょにいてくれたから、わたし、やっとにんげんになれたの」
「つづり、さん」
「………でも、ごめんね、わたし、わたしだけだと、おもってた、きみも、わたしを、まもりたかったなんて、おもいもしなかった」
「っ!しゃ、べ、んな!」
あぁ、もう、ほとんど目も見えない、朧くんは、いつもこんな世界を見ていたのだろうか
ちからが、ぬける、頬に添えた手が滑り降ちる、それを逃さないように、暖かい手が掴み取る
「綴さん!!」
「………」
ごめんね、わたしばっかり、しあわせになってしまって、守るという願いを、叶えてしまって、でも、お願い
「お、ぼろ、く」
「っ!つづりさっ」
さいごの、さいご、全ての力を振り絞って、言葉をこぼす
「──ゆるして、ほしいなぁ…」
さいごの、我儘
「─────」
喉が引くつく音が聞こえる、死ぬ時に1番長く残るものは聴覚だと言うが、どうやら本当らしい、最後の力を使い果たして、もう、なにも
「────ゆるさ、ねぇ」
「ゆるさねぇ、許さねぇ、絶対に、絶対にっ、これからも、死んでもずっと、俺はあんたを…!」
許さない
「…………………」
あぁ、…
よかった
>>71
『 俺はそうは思わん 』
__________________
『____何時かは必ず奴らは現れる』
『どれほど喪おうと 絶えることは無い』
『__あの街に再び 人間が甦り
またこの戦いが始まるのなら__』
『 証明してみせよう 』
__________
『 …お前達になら… それが出来る筈だ 』
____AGE 20XX___
『(___人類は 再生する)』
『(___繰り返す事以外を 知らぬと言うのに)』
__________診断書
○ 今日、私は死んだ。そして生き返った。....生き返った理由は良く分からない。死んだ事に関しては分かっている ... ...事故だ。霊となって自分の肉体を見た時は吐き気を催したが吐く物が無かった。不思議な気分だ。
...取り敢えず自分の肉体を治す事に集中してみる。奇妙な事に、外傷は何も見えず心臓もハッキリと動いている様だ... ....私が今確かに生きて存在をしているからだろうか?
_____これなら、あの時挫折した夢を叶えられるかもしれない。
○ 夢を叶えるのに数十年も経った。肝試しにと夜中子供達が来るのは良いが....本当に危ない奴等も居る。だから私は心を鬼にして追いかけ回した ...決して楽しんでいない、決して。
....建てたのは、子供達の為の病院。...人間以外にも有りとあらゆる生命への治療を行える病院 ...医者は私1人だが ...大丈夫、死ぬ事も倒れる事も無い ...やれるだけやるとしよう。
○ ...偶に人が来る程度の繁盛、現実は厳しいと言う事を知る。だが悪くない、子供の笑顔を見ると忘れていた生気と言う物を感じられる。....身体を透けて見る時はやはり諸々 意識をしてしまうが。煩悩を減らさなくては___
さて、次の患者は_____________________________
○ その子には名前が無かった。世にも珍しい、身体から金を産む事が出来るゴーレムの子供だった。...まだまだ成功する確率は低く石になる事の方が多いらしいが。...報酬はいらないと言うものの頑張って金を作ろうとするのを見ては此方の胸が痛くなる ...。
....怪我の治療だけじゃ無く体内に残っていた毒も抽出しなければならない ...がこの毒、下手をすれば他の患者に感染へと導いてしまうかもしれない。他の患者達の治療を即座に行い ...暫くこの子の貸切となった。...“ルージュ”と呼ばれるのも悪くない。今までブレシュール先生と呼ばれる事が多かったから。
○どうにも、悪い大人や親に何度も虐げられたらしい ...元々孤児だった、と言うのも聞いた。...悲惨な過去、だから私は ...退院するまでこの子に良い思い出を作ってあげようと ...努力した。この子には色んな事を教えてやらないといけないと思い...先生としても頑張った。プレゼントも送ったし おままごともしたし ...流石に変な事をやらされた時には緊張したけれど ..同時に悪く無いと思う自分がいて 悔しい。...でも、楽しい時間ばかりだ。
○...朝から元気が無い。一体何故かと聞いても答えてくれない ...メンタリズムの勉強はしていなかった、どうしようか。....使っても居なかった霊術をバルーンアートの様に扱ってみた ...怖がってまともに口を開いてくれない。失敗した。
...でも何故か、急に ...欠片をくれた。金の、欠片。 ...要らないと言ったのに無理して作ったからだろうか?顔面が蒼白に ......なので少し無理矢理にだが寝かせた。...しかし本当に綺麗だ ...宝物にしようと、考えた。 ......可能ならばこの子は未来私の助手として ... .....いいや、それよりもっと幸せに生きていけるだろう。
...そろそろあの子が来て1年になる。此処は7日間も無睡眠で頑張った ...アレを見せるべきだろう。...でもその前に先ずは睡眠を______。
○窓ガラスの割れる音で目が覚めた。
○....今思い出しても自分の非力さに腹が立つ。何とかあの子を守る事には成功したが、其れでも痛い。....塩や聖なるものが私に弱い事に判明した。無敵と思われる霊体にもやはり弱点はあった。
狙いはやはりあの子だった____聞けば、あの子の親に雇われたと言う傭兵達...命を奪う事はしなかったが私も腹が立ったので何本かの骨を折る程度に収めておいた。
あの子が心配してくれている。早くこの身体を治さなくては。
○あの子が居なくなった。
○探しても探しても見つからない、何処にいった?何故、なんで?....がむしゃらに探していた所、私はあの子が描いたらしい手紙を見つけた。
『たから、だいじにしてね。ルージュ。がんばって
すこしだけれど、がんばってつくってみたから。
けれど、むりはだめだよ?いつもむちゃばっかりし
ているようにみえたから。
わたし は、すこしここからはなれてそとをみようとおもうから。ルージュがしんぱいするひつようはないよ。みっか で、もどらないとおもうから。わたしのことはわすれて。とってもたくさんあそんでくれておしえてくれてありがとう。こころ をおしえてくれてありがとう。おせわをたくさん され たから、おんがえししたいな。またどこかでであえ る はずだから。またね。 ペット・ティラミー 』
_________時間が無い。早く助けないと。
○間に合わなかった。あの子の、亡骸が。私の、腕の中に今ある。心臓の鼓動を感じない。肌の温度を感じない。
死んだ、という事を理解したく無い。でも、でも____助けられ無かったと言う事実が重く心に響く。
...犯人は分かっていた、でも、私にはもう、その ...気力が無かった。
○生きる目的を失って数年。あの後、私は禁忌を犯した。罪を犯した。...あの子を、生き返らせた。不完全な状態で。体は不完全に大きくなり、精神も濁りが混ざった。
....何処かへ行ったらしいが、もう追う気は無い。私が何をしたいのかさえも理解が出来ない。....いっそ、自分から教会へ行き二度目の死を送ろうか。あの子の魂は ...若しかしたら私の知らない未知の地獄にあるのかもしれないから。
...そう言えば、あの子の親や傭兵達が不審死を遂げたらしい。何でも彼等の家族とその家ごと、地中へと沈んでいたらしい ...物騒だ。犯人の目的は何だろうか?
○久しぶりに来客が来た。泥に塗れた____________
○_______________
○_______________
○______今日から私は ....再び魔物として生きよう。この病院にもサヨナラだ。
....生きる目的を見付けた、それだけで私は____幸せだと思える。でも、少し ...我儘を言い 願いを叶えられるのなら。
またあの子に会いたい。.....そうじゃなくとも、私はあの子の様な子供達を救いたい。
__________子供に罪は無いのだから。
________ブレシュール・ルージュ
『イレギュラー』
「………」
ふと下を見れば、死体が転がっていた
「─あ、フェイトじゃん」
「…おう、なに、邪魔した?」
「んや!暇潰してただけだし、気にすんなって!」
その死体は人間のものであり、その血の先に居たそれは、自分と同じヴィランで、そのヴィランは自分の知り合いでもあった
撒き散らされる肉塊、内臓、血
それは日常風景であり、なんの違和感も無い光景だ
「うわ、拭けよそれ」
「えー、こまねぇんだよお前、いーじゃんこのくらい」
その日常を表すように、目の前のそいつは己に絡みついているぐちゅりとした赤いような白いような塊を払おうともせず、こちらに笑いかけなんでもないように会話をしてくる
平凡、平穏、何の変哲もない『ヴィラン(俺たち)』の日常
それを異常だと、そう感じる自分は、きっとどこかがおかしかったのだ
人間の作るものや、文化が好きだった
初めて食事をした時は感動した、好んで人間の食事をとるようになった
意味もないのに
初めて芸術を真似た時は驚いた、苦戦しながらも楽しむようになった
意味もないのに
初めてスポーツをした時は爽快だった、人間の姿になって混ざり込むようになった
意味もないのに
どれもこれも『ヴィラン(俺たち)』には必要のない行為だった
やったって意味もない、真似ているだけ、わかったつもり
それでも人間の『平凡』は楽しかったのだ
血みどろの平凡など要らなかった、死臭に塗れた平穏など要らなかった
ヴィランとして、それは異常なのだということはわかっていた
──でも、だけど
「───フェイト?」
「__あれ、わかった?結構自信あったのに、擬態」
「…い、や、…近ずいてお前の匂いするまで、わからんかった…殺しそーになった」
「あ、そう、ならよかった、いやーバレバレかと思ってちょっとヒヤッとしたー」
「…いや、いやいやいや、なに、なにしてんの、
──なんで人間の格好してんだよ」
こちらに指をさしてそう告げるそいつは、動揺しているらしい、なんだ、いつも笑ってるくせに、珍しい
「あー、どうよ、似合ってんでしょ、気に入ってんだ」
「お、まっ…!気に入ってるとかじゃねーだろ!!なんでっ」
「なぁに興奮してんだよ、擬態だつってんじゃん、スパイだよスパイ」
「は…?」
「いやーなんか人間に擬態したら思った以上に上出来でな、お上に直接スパイとして人間に混じって来いって言われた、人間が使ってる…あー、なんだっけ、あびりてぃーぶれーど?とか言うのも渡されてさー、くっそだるいわけ」
ほんの少し違うけれど、嘘を言っている訳では無い
嘘は真実を絡めるのが一番いいと言うのも、確か人間の言葉だった気がする
「…す、ぱい」
「そ、だから間違えて殺したりしねーでな、ちゃんと顔覚えろよ?」
「……おれ、それきらい」
「は?」
全く想像していなかった言葉にアホみたいな声を出してしまった、嫌いってなんだよ嫌いって
「……おれ、前のカッコのお前のがすきだった」
「───そ、悪いな」
おれは大嫌いだよ、あの姿も、あの力も
『ヴィラン』という、日常も、なにもかも
「そんじゃ、また会う時は一応敵同士な、建前だけだけど、顔覚えた?」
「……たぶん」
「うわ、信用出来ね、…あー、じゃー…」
じゃらりと、金具の擦れる音がなる
「!」
「これ、つけてたら俺な、わかった?」
舌に付けたピアス、チェーンが長くぶら下がり、その先には十字架が飾られているそれを見せて、もう一度問掛ける
「……趣味悪」
「ハハッ、お前も大概だろ」
あまりいい顔をしていないそいつに、笑って答えてやれば、そいつはようやく諦めたように下を向く
「殺したらごめん」
「いーよ、わし強いし、殺そうとしたらこっちがぶっ殺してやる」
「……うん」
『いやだ、いやだいやだったすけてだれかたすけてたすっ』
『殺さないで殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!』
『いたいよぉ!たすけてよぉ!!おかあさん!!おとぉさん!!!』
「……………」
殺したらごめん、なんて
「(…なんで、人間を殺した時にも、そう思わないんだろうな)」
「───やっぱ、俺っておかしーんだろーなぁ」
___待てぇぇぇ!!
___待つかよーっ! ばばぁっ!
( 何時の時代でも馬鹿げた悪さは起きるもの。
鞄を引ったくった男と、中年の女性の鬼ごっこ )
「 はぁっ! はぁっ… ドロボーっ! 」
__平坦な道路沿い 時代錯誤の光景…道行く人も呆気に取られ
「 へへっ ざまぁみやがれってんだっ! 」
( 余所見はご法度 …此処は道路 )
[タッタッタッタッタッ…]____横道から飛び出す誰かに…
「うぅおあっ!?」「: おっ!? 」___[BAAAN!!!]
( ___もんどり打って転がる男 )
「 ってて … おいっ バカ野郎!
前見て歩きやがれってんだっ 」
___:えっ
( __倒れた男に叫ばれ、… その青年は こう答える )
「: な、なんでオレのこと知ってんだっ!? 」
「は!?」
____はぁっ お、追い付いたよっ!
「 げっ やべぇっ! 」 [ダッ]
「: いぃっ!? お、おい!お前ぇっ… 」
( 突然、また走り出す男。___慌てるだけの青年 )
____えっ …炎神くんっ!
「: あ…? お、大屋さんじゃねぇかっ やべっ… 」
「 あいつ泥棒だよっ 捕まえてーっ! 」
「:え 」
_________
「 へぇっ… へぇ… へ、へへ…手こずらせやがって… 」
( 桟橋の下に駆け込む男… 誰も、追ってきてないか
… 見渡し、ゆっくりと鞄を開く… )
「 チッ… しけてやがら… …それにしても…
なんだったんだ? あの … バ … カ 」
: ……………
やろぉぉぉぉぉぉぉいっ!?!?!?!
「: お、おぉいうるっせーぞ?
いちいちオレ見て叫ぶんじゃねぇ 」
「 な ななっ なテメッ テメッ… てて ててて 」
「: …なに言ってっかわかんねぇぞ? 」
______あゝここでひと呼吸
「 な、なんで此処が分かりやがってんでぇ!
お おれぁ走って来たんだぞっ! 」
「: おっ 奇遇だなーっ オレも走って来たんだ 」
「 あ そりゃ奇遇でハハハ… バカにすんなっ!? 」
( …呑気な笑い声が 少しだけ橋のしたで鳴る )
「: ま とにかく悪いコトは言わねぇからよ
おとなしく… えっと、なに盗んだんだ?お前ぇ 」
「 っ… (こ、コイツ馬鹿だがちょっと怖えな…)
(… 勿体ねぇが、捕まるよりゃ…マシだぜっ!) 」
( … 鞄を、泥棒が差し出す )
「: おー それだなっ! 確かに大屋さんの… 」
「 …ひっひひ、そうだ …こ〜い〜つー だっ! 」
[ブゥンッ!]____ :あぁっ!?
( 鞄が 河に投げ飛ばされる__ )
「 (いまだっ 取って来やがれバカやろ〜っ!) 」
_______[しーん]
「 ……… あり? 」
( 暫く、走った後 … 違和感を覚えて泥棒は振り向く
…馬鹿が川に飛び込む音どころか …投げた鞄の音すらない )
_____だって川の向かい側に…
「: ひ〜 あぁっっぶねぇ〜なーもー… 」
___ その 馬鹿が その鞄を抱えて立ってたからだ
「 ……… え ? 」
( … 自分がさっきまで居たところを見る …
… … 誰も …居ない。… そして向かい側に… )
「( お おれぁ悪い夢でもみてんのかっ!?)」
「: おいっ お前ぇ! 」 「!な"?」
また 自分の目の前に現れた青年
( … 泥棒は目をぱちくりさせて青年を凝視する )
「: ……そぉいや大屋さん お前ぇも捕まえろって
言ってたんだ … お前ぇ もう謝ったって許さねぇぞ! 」
____て、てめぇ…
「 なんなんだよぉ〜っ!? 」
( 破れかぶれの勢いに任せた拳が青年へと
向かっていく! … しかし、青年 …さらりと躱し )
(__握られる反撃の握り拳)
_____オレは…ジョー
「: 炎・神 ジョー だ! 」
______________[DOKAAAAAAAN!!!]
――もう諦めてもいいでしょう?
――もう終わりにしてもいいでしょう?
だって、私は一人で大切な人はもう居ない、帰る場所も無くなった、守りたいものは全て失った。
大切なものを一つ失う度に、戦う理由は磨耗していく。
もう充分足掻いたんだ、私は充分頑張った、だからここで終わっても誰も文句は言うまい。
さぁ殺せ、と私は『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員達に視線を向けた。
私の身体は傷だらけ、立っているのがやっとの有り様だ、さぁ早くこの苦しみを終わらせてくれ。
そんな私の願いが届いたのか戦闘員の一人が光の矢を放った。光の矢は夜闇を裂いて、立ち尽くす私の足を貫いた、私はそのまま地面に頽れた。
けれどまだ息はあった。
戦闘員が私に止めを刺そうと殺到する足音が響く。
――これで全てが終わるはずだった。
「そいつから離れやがれっっっ!」
そう、終わるはずだった、彼が現れるまでは。
叫びながら私と戦闘員の間に割り込んだ青年は有無を言わさず戦闘員を殴り倒した、彼が私を助けようとしていることは判った、けれどもういいんだ、あなたまで死ぬ必要はない。
「私のことは良いから、あなたは逃げて、もうじき増援がくる、一人じゃ……!」
「……判った、終わるまで生きてろよ?」
「……? それはどういう……」
その言葉の意味を問う間もなく、それは訪れた、何処からともなく大挙して押し寄せる『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員、その数は数百を優に超えているだろう。
けれど青年は臆することなくむしろ「……燃えてきたッ!! 」と闘志を燃やす。
「私のために、あなたが傷つく必要はない……!」
「女の子を見殺しにして逃げろってか? それならここであんたと討ち死にするさ、その方がカッコいいしな!」
そう言い放って、青年は再びチェルノボーグの戦闘員に殴り掛かった。
青年は烈火のごとき勢いで戦闘員達に拳を叩き込んでいく、ただの人間の動きではないことは明らかだった。
私と同じ異能者だ、だが数百の敵を相手にたった一人で何が出来る? 現に彼は無数の光の矢を受けてボロボロではないか。
「……もういいの、もう充分頑張ったの、お願い…だから逃げて」
「悪いがオレはまだ諦めちゃいねぇよ、諦めるのは死んでからでいい!」
「もう止めて」と絞り出した私の声など聞く耳持たんと言わんばかりに彼は戦い続けた。
青年は何度傷付いて倒れても、不敵に笑みを浮かべて立ち上がる。
どうして、私のためにそこまでするのか、理解不能の文字が頭の中を駆け巡る。
けれど、そんな彼の姿が、私にはどうしようもなく眩しく見えたのだ。
――そして、長い戦いは終わった。
青年はたった一人で全ての戦闘員を倒してしまったのだ。
彼が決して諦めなかったから私は今生きていて、また悪夢のような日々が続くのだ。
けれど彼ならば、彼とならば、この悪夢のような日々も乗り越えられる気がしたから。
「オレは炎神ジョー、よろしくな」
私は差し伸べられた彼の手を取り、そして誓った、私の命はこの人のために使おうと。
_____ジョ… … …目覚めるのだ ジョ ……
( ……暗い 暗い闇の中で )
( 呼び声が響く …オレの名前を呼ぶ声が )
____おまえは … おまえは…!
( … 暗い 暗い …それだけが わかる
けど … 声は響いてくる … 何処から だろう )
_____炎神 … ジョ…………!
(___)
_____目覚めるんだ …炎神くん
(___?)(…頭を打たれたような 強い感覚に…)
"___誰かの …見えない、顔が雨垂れの中に映った"
____キミは行くんだ 行かなくちゃいけない
____ 行くんだ …炎神 __ジョー… 君____
______おい、起きろ〜!
______起きろって! えんがみっ!
「 う わ あ っ っ っ ❗❗❓️ 」
___飛び起きて辺りを見回す
前に黒板
周りに友達、下にはノート
…芯が折れた鉛筆片手に
___あちゃー __あいつ、まただぁ ___ホンっト…
(___上を見上げれば…)
「 💢… え、ん、が、み くぅ〜〜〜んっっ 」
( ___南せんせー )
「 あ。 … っへ えへへ… 」
廊下に立ってなさぁぁぁぁーーーーいっ
((((バカだなぁ…))))
___これは …1人の少年が…
「 はは… またやっちまっ …たぁ… 」
_________"強くなっていく" …おはなし。
_______3年B組、放課後
今度授業中に寝てたら承知しませんからねっ!
( …学校のチャイムに見送られて
とぼとぼ歩く、路地の真ん中 )
「 … はぁ〜っ …まぁたやっちまったなぁ… 」
_____少年の名前は 炎神、ジョー。 …そう、ジョー
小学三年、好きなものは運動で嫌いなものは勉強
___授業中睡眠常習犯、…いつでも誰かが世話を焼く
「 これじゃあおばちゃんにまた怒られっぞ…?
はぁ〜あ … __……んー 」
(「…公園にでも寄って帰ろ」)
_____人は彼をバカと呼んでいる
___彼、ジョーは遊具の中でもジャングルジムが好きだ
[ト、ト、ト]____「 …っへへー! 」
( ランドセルを下ろして、足を踏み締めて…! )
[タンッ]「 とぉーっ! 」
( 掴んで、足を入れて… 昇る
掴んで、足を入れて… 昇る、昇る!
無邪気な心はそれだけの事が楽しいのだ… )
[グン]__「 よっ、と!… 」
( …けれど、彼は少しだけ )
…少しだけ、早くなったかな…
___少しだけ、"違う"ところが、あった
( ___てっぺんに登って 高い所をを座って眺める )
「 ……… 」
( _____彼は… )
____おぉーい! …えんがみーっ
「 …っお? 」
_____公園の入口から… 少年を呼ぶ声
「 やっぱここに居たなーっ おーい 」
____炎神と …同じほどの子供
「 …テントじゃんかぁ 」
( 彼を呼ぶ友達、…名前は"典都"
炎神少年とは仲が良く、色んな事で
よく、彼を呼びにくる …そんな子だ )
「 原っぱの方で鬼ごっこやるんだよーっ
あんまり集まってねーからさーっ お前もこいよーっ 」
____大きな声は 耳を塞いでても聞こえるほど
「 っぇ〜っ、オレ これから帰るトコだぞぉっ!
遅れたらおばちゃんに怒られちまうよぉっ! 」
「 ウソつけよ〜っ 公園に居るじゃねーかーっ 」
「ぎっ…」
「 …わかった、行ってやっから
おばちゃんにはヒミツだぞ! 」
「 やり〜っ! 」
_______駆けていく二人
________変わることのない日常
______穏やかな平和の風景。……
( _____夕暮れ時 )
「 ーったく… もう暗いじゃんか… テントのやろ〜…!」
_______転機、そして
「 … ん? 」
_____影は … 同時に訪れる
( …暗い筈の公園が妙に明るい
人の騒ぐような音も聞こえる )
「 …? 」
( …いつも、自分が使ってる公園でもある
その場所に 何時もはない事が起こっている
…怪しげに思った少年は、静かに公園へと近寄った )
__木が組まれて焚き火の明かりが公園を照らす
…少年よりも大きい青年が集まり、焚き火を囲って
やたらと、大きな声で騒ぎあっている
「 …(…なんだ、あれ) 」
( 妙で、異様にしか感じないその光景は、夜という
暗闇もあり 少年の心の中で小さく、恐怖に変わった
__今も 青年たちは囲う焚き火に木を投げ入れて… )
「( …あんなに…木、どっから… )」
「 おい 」
_____わ"っ⁉️
「箱庭の幸せ」
凛と美しくそれでいて冷たく。慈悲の心も必要だが上に立つにはそれ以上に冷酷にならなければいけない。それは小さい頃からずっと言い聞かせられてきた事だ。
芸事に帝王学に武術、そして毒殺されることがないように日頃から接種する致死量ぎりぎりの毒。外で能天気に遊んでる子達をみると羨ましかった。だけどそんな弱音を吐いてる暇などない。もっともっと頑張らなければいけない。お爺様や周りの期待に答えるために。「辛い」「逃げ出したい」そんな言葉を胸にしまい笑顔を作り過ごしていた。
今日は月に一度の家族での食事会。さっさと終わればいいのに。そんなことを考えながらナイフを動かし食べ物を口に含むと土のような苦い味が広がる。最初は毒でも盛られたのかと思いそっと周りを見渡すがそんな様子もない。それに毒だとしたら痺れもなにもないのはおかしい。ただ泥のような味が口いっぱいに広がるだけ。無論周りの家族は美味しそうに食べてる。最初はその日の調子が悪かったのかと考えていたがそれが1ヶ月も続くとなるとそういうわけでもない。後日、 医師から告げられた病名は味覚障害。原因はストレスらしい。治るのは難しいとも言われた。それでもその頃にはそれを周りに隠し通せるだけの笑顔が作れた。味の感想を求められたら、匂いで察すればいい。
生活も味も、ただただ灰色な日々。そんな中一人の少女と出会った。名を初鹿 柚希。お父様が多額の出資をしている実験体。たしか自己再生能力を人為的に植え付けられ、自我を保ったまま副作用は特にない珍しい個体だと食事会で言っていた。
自分の置かれた状況も分かってるなかそっと声をかけてきた彼女はこちらに手を差し出す。その手には一つのサイコロキャラメルがあった。
「これ。あなたにあげる…、そんな顔だとしあわせもにげてくよ」
「甘いのたべるときがらくになるでしょ。ほんとはダメだけど優しい先生が頑張ったからごほうびにってくれるの。ないしょだよ」
そういってにっと微笑む彼女は年相応の笑みを浮かべてわたしの手の中にあるキャラメルをじっとみる。どうせまずいあの味が広がるだけ。そう考えながらキャラメルを口に含む。
「………、あ、まい」
「でしょ、ふふっ、あんま他の子にはあげないからあなただけは特別ね」
なんで。味が。そんなことが頭の中でぐるぐる回るが目の前の少女はお構い無しに目を輝かせて私の手をとりニコニコと微笑む。まぶしすぎるその笑みにそっと目を細める。
「なんで、わたしとなかよくしようとするの?」
「おともだちになりたいから、かな…あなたは嫌?」
「そんなことない」
「…!ほんと!わたしはね、はつかゆずき、あなたのお名前は?」
「……、りょうしゅうめい」
「じゃ、しゅーめいだね!わたしのことは」
「ゆず、…ゆずきならゆず呼びでもいいでしょ」
うん!と頷いた彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら頷く。灰色の日常に色が戻ったあの日、わたしはたった一人の友だちを守ろうと決めた。たとえどんな手を使っても。それがわたしができるこの子への贖罪だから。
( 渾身の力を込めた拳が道化師の眉間にぶち当たるっ )
ギ!ぃ!! やぁアァあィァァィァーッ!!!
「 やっ た__! 」
耳にぞわりと響いて背筋を凍らせるかのように
重く …不協の連なるような悲鳴… 歌姫は"油断"する。
「 (あ 当たった…?) 」
___疑問 …しかし、炎神も "止まる"。
ァー んンンン______________
なワケなァいですよねェァッッハ!ハー!
[ひしっ]「 い"っ 」
『 ジ ョ ー カ ー ☆ マ!ジィッッックのお時間でェす!! 』
( 突然五体満足大サービスに炎神に抱き付く道化師は__ )
[ (ピ☆エ☆ロ だァ〜い爆発音!!) !!!!!! ]
______自爆!! !!
___ぇ …
「 えん…がみ…っ __! 」
絶望を焚き付けるように …彼を巻いて起こった
愉快なおかしな大爆発 …残る煙に 歌姫は放心する…が
____ぁ … ちィ…っ!
( 煙の中からあの、…元気な声が聞こえる
…何ともないような声が 安心を呼ぶ、あの声が )
「 ! …えんがみっ! だい…じょうぶ っ? 」
____そして …煙の中から出てくる
「 おぅっ… あんっ…のヤロー…っ
とんでもねぇヤツだ… … あぁ、オレは… 」
( …満面の笑みを 炎神は返す )
「 大じょ……
______…!!ウウウ夫でなァによりィィぃ〜〜〜ッッ!!! 』
____ "ジョーカー"の醜悪な笑い声
「 あ__っ? 」 ____ピィェぇ!ロ。"キィッック"!!
(__背後からの全力ドロップキックに吹っ飛ばされる炎神!!)