きみのための物語

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1:◆RI:2020/11/01(日) 20:49

自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください

正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ

47:◆rDg:2021/01/27(水) 00:34

>>46

[ 赤の魔物達 その3 ]


その後 直ぐに反乱が起きました。側近達は必死に弁解をしましたが聞く耳を持ちません。
魔王は 自身の罪だと受け入れて抵抗していませんでした。


( ...因みに魔王が居なくなると魔物達は統率を失うと言われていたり、人間への被害は少なくなると言われていましたが 魔物と人間が手を組んだ時は...何故か魔王が居た時よりも統率は取れていたり 被害が大きかったそうです )

そして遂に 彼等は捕らえられてしまい その鬱憤を晴らしたり 試作品の試しだったりと 魔物や人間達に 恨みを放たれて 傷付けられていきました。

魔王は例え炙られても 串刺しにされても 拷問を受けても ....耐えました。此れが自身の罰なのだと。仕方が無い事だと。

しかし側近達が衰弱し 今にも死にそうになった所で ...赤子を殺したりも出来なかった魔王は 彼等の為だけに


その場に居た魔物と人間を全員“沈めて” “溶かして” 殺しました。


皆殺しにして再び自由を手にした後 弱りきった彼等の前で魔王は土下座し一言。


「 すまなかった 」

この一言に 彼等は不思議な気持ちになりました。この謝罪は 恐らく魔王の色んな気持ちが詰まったモノだと 彼は.... 王としての器だが “魔王の器” では無いと。
そして 魔王としてこれから始まるのだと 彼の身体が黒く染まり その黒かった目が眼全体に広がり中心に深紅の瞳孔が開かれた その時から
_______彼は魔王として 生きた。


それから数年後


___________魔王は死にかけていました。

勿論襲って来た者は全員返り討ちにしましたが。

正義の者達から不意打ちを喰らい そして拷問で受けた古傷が開いた事により ...瀕死の状態になっていました。

側近の彼等は何とか魔王を救う方法を探しました。其々の持ってる治療術を試してみましたが 結果は変わらず。 側近達も ...家族 と思える様な心が芽生えていました。

魔王は死ぬ寸前まで彼等に謝罪を続けました。綺麗事と言ったらそれで終わりかもしれませんが ...彼等にとっては とても悔しく 自分達は無力だと思い知らされました。

しかし魔王は最期 ...死ぬ前に 彼等にとっての

ノロイノユイゴン
【 救いの言葉 】を放ちました。



今は無力でも仕方ない 逆に考えればまだまだ成長出来るのだよ 皆も、我も。
数百年も経てば 恐らく我も ...生き返れるかもしれない。だが決して無理はせず 自分達の出来る やれる事をするのだ。


_____________なぁ、皆よ。 約束は最後まで守り通そうじゃあ無いか。 其れはヒトらしく そしてとても 賢い者の選択なんだ。 だから約束、してくれるか?


 我 を 復 活 さ せ て く れ


最期まで魔王は笑いを絶やさず 側近達の頭を撫で 1つのおまじないを掛けてから 死亡、しました。

48:◆rDg:2021/01/27(水) 00:52

>>47

[ 赤の魔物達 その4( 最終章 ) ]


魔王の死亡が伝われば 魔族や人間は安心して 魔族はまた次の魔王はどうするのか という話題で魔界は一杯になりました。

そこで代理として魔人が魔王を務める事になり、他の魔族達も納得をしました。

魔族達はまた城に仕える様になり 人間との共存も変わらず続けましたが ... 魔人が魔王らしい事(悪戯)をする様になった結果 人間との共存はまた難しい形になりました。

その後はそれぞれ 自由に暮らす事となり 城には魔人ただ一人。約束のその時まで ただ一人。


....偶にくる友人達を持て成しつつ 他の赤の魔物達の帰りを待ちながら 彼はただ過ごしました。



そして魔人は リストを作りました。魔王復活の為の その必要な生贄を。そして当然それは全て集め終わり ....魔人も魔王も その立場を戻りました、とさ。

これは“本史” 魔王は魔王と呼ばれる程では無い しかし 王で有る。優しく儚く ....そして家族に優しい最高の親である。


〜〜〜〜〜〜〜F I N ...?〜〜〜〜〜〜〜







[ 復活の リスト ]

・ 魂の欠片 1g

・ 魔人の指 50本

・ 感情の色 12色

・ 霊体 5体

・ 灼熱 約500℃

・ 鬼の髪 3束

・ 家臣の血 それぞれ50ML

・ 純白の鳥と純黒の鳥 1羽ずつ

・ 泥 100kg










・ 神に近い者の力 小さじ一杯分

49:ヤマダ◆o6:2021/02/15(月) 00:28


――小さな貧民街が世界の全てだった。

誰から生まれたのか、自分の名前はなんなのか、それさえ知らずに生きてきた。
『10』までしか数えられない頭で、指折り数えたのが10回。
おれはどうやら10歳というやつだった。

それでも生活は何一つ変わらない。
埃と砂まみれの汚い市場へ行って、人から物や金を盗る毎日。
ここではそれが生きる為の正攻法で、少なくともおれはそれで生き延びていた。
単に運がよかっただけじゃない。おれには『足』がある。
どんな屈強で強靭な大人でも追い付けない、天から授かった両足が。
だからいつも追っ手から逃げ切れた。

これからもそうやって生きていく。
今日、明日と、遠い未来を生きるために小さな街で。
あの頃は世界なんて知らなかった。
そんなある日のこと。

「おい、またあのガキだ! 追え!」

背後で響く怒号が遠ざかり、耳の横で風が鳴る。懐には紙袋に包まれた肉。

「へへっ…やったぜ」

今日も生き延びられる。
おれは一目散に寝床へ走った。
煉瓦の床を裸足で。
幽霊屋敷みたいな建物を抜け、路地裏を通り――

「っ!?」

ふいに視界が揺れた。
瞬間、走る痛み。視界に広がるのは灰色の地面。
転んだ。その事実が脳に行き渡る前に、誰かがおれの頭を踏みつけた。

「おい、クソガキ」
「!」
「…捕まえてくれましたか、ボス」
「ああ。おめーの言った通りだ」

必死に目ん玉を上に向ける。
視界の端に映る煙草の煙と、黒いスーツ。
誰だか分からない。が、捕まったということは無事ですまされない。
心臓が耳の裏でバクバクと鳴った。

「クソガキよぉ、お前もよく知ってんだろ。この街で生きていくにゃあ弱肉強食が必要だってな」
「…」
「その足は確かにすげェもんだ。神からの贈り物だと言ってもいい。だが…神なんていない。この街で生きるってのはそういうことだ。どんな罪でも強さの前にゃあ正義なんだよ」
「ボス」
「ああ」

スッ、と何かが男に手渡される。

「…言ったろ、弱肉強食って。運が悪かったんだよ、クソガキ。だが誤解するな。これは『正義』だ」
「――っ」

手渡された何かを降り下ろした瞬間、おれの足には衝撃が走った。

「ぐ……ぅ、うあああああ!!!」

それはやがて激痛に変わり、脳を支配する。
膝から下の感覚がない。
流れる血の温もりも冷たさも感じない。

切られた。足を切られた!!

痛い。痛い。痛い。痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――

「そういうこった。これも運命なんだよ」

去っていく男の姿を目で捉えることはできなかった。
瞼が落ちる。痛みで頭がどうにかなりそうだ。
おれは、おれはただ…生きたいと願っただけだ。
これが運命だっていうんなら、おれはそんなものを信じない。
……でも、もうダメだ。
意識が――


「――君を救けてあげましょう」
「…?」
「ただし、契約を交わしてもらいますが」

消え入りそうな意識の中で男の声が微かに耳朶を叩く。
幻聴か…?
なんでもいい。
これも、これも運命なら、助けてみろよ。
…神とやら。

差し伸べられた手を掴み取ったその日から、おれは半神になった。

50:カミサマくん◆CQ:2021/02/20(土) 04:39

闇の中で光るヒーロー




薄汚れた駅を降りると、そこにはツノの生えた男がいた。顔はそこそこで、今流行りの黒髪マッシュで決め込んでいる。

「  前髪伸ばした?前よりかわいさが増した気がする。それじゃ、行こっか  」

男はさわやかな笑顔の表情を作った。

私は愛されていないと自覚している。愛を僅かに感じることすらできず、ただただ生きている。でも人には承認欲求がある。半端な孤独の中、満たされていないから、こうやって知らない大人の男の人に体を売る。お金はもちろん欲しい。けれどお金は二の次なんだ。私は愛が欲しい。もしも私がこの人生にテーマを与えていいなら、愛の売買と名付けたい。いや、愛の賃借でもいいかな。

ギシギシ。ベットの軋む音。つんざくような男の匂い。微かに確認できた男の必死なかお。ツノから垂れる汗。意識が遠のく四畳半。玄関から入るとすぐにキッチンがある。差し掛かったその場所で、今この瞬間愛を売る。あぁ、この人生もまた、どうせこんなクソみたいな一日だろう。

男は相変わらずと言ったところだった。いつも通り。別に私を欲しているわけではない。この男は「女子高生とセックス」したいのだ。
    誰も私なんて求めていない

私のために用意したのか。一応ピルがテーブル上に置かれている。生でヤル気かよ、ド畜生が。

    行為は終わった。
けれど、愛というものの終着点は分からない。SNSではこうやって男に買われて、ぞんざいに扱われることが愛だと捉える人もそこそこいる。けれど、私はそうは思わない。真っ当に、至極純粋に愛されたい。その愛は、この暗闇の世界の中でもきっと輝いて見えるだろう。

埃の着いたカーテンから夕の光が刺してきた。もうこんな時間だ。
「  帰りますね  」そう言った。男は笑顔の顔を作って、手を振った。私の全身にある痣には見向きもせず。

「  待って  」

家まで送ってくれるみたいだ。律儀だなあ、と感心する。
でも、やっぱり心残りしかない。痣に気づいてくれなかった。あえて伸ばした前髪で隠していた額の痣。膝の痣。手首を切った痕。その全部を、行為の最中、事細かに見ていたはずなのに、ぜんぶ無視された。
やっぱり私は救われない。愛が欲しい。光り輝く愛が欲しい。なのに援交している。闇に染まっている。それは事実だ。事実だけど、ただそれだけで身体を売る真似はしていない。
気づいて欲しかったんだ。助けて欲しかった。怖い。怖い。怖い。傷がどんどん増えて深まっていく。ねぇ、助けてよ。お願いだから。あぁ、もう着いてしまう。あと200メートルで着いてしまう。

あと150メートル。あと100メートル。50メートル。10メートル。0メートル。
私は今日も帰ってしまうのか。これからも、何も変わらずに痣を隠して学校に行くのか。みんなの前でお道化したフリして演じるのか。痣が増えて、殴られて、お金だけを搾取される家に私は帰るのか。真っ暗闇な世界だ。腐ったりんごみたいな人生だ。私の傷はもう修復不可能なのかもしれない。
あるいは、私を見てくれない人たちが死んでくれれば修復できるのかも。あーーもう分からない。

「  それじゃあ、また  」

車は去り、とっとと行ってしまった。
わたしは家の方へと振り向いた。
いつも通りの風景。じゃない。
目の前に立っていたのは大きな棘、針、刃。
世間でまことしやかに囁かれる「 傷の代理者 」

『  手首、腕。額に痣。
膝にも痣。足首にも耳裏にも  』

「  どうして。それを?  』

『  ド畜生が。真っ暗闇な世界。
私を見てくれない人なんて死んでしまえば修復できるかも。つらい。怖い。助けて欲しかった  』

その硬くて刺々しい存在は理解してくれていた。気づいていてくれていた。なんで?
自然と、私は内側から涙がこぼれてきた。そして私の心を理解しているからこそなのか、ガバッと、その存在は強く抱きしめてくれた。刃の一つ一つはまるで、ぬいぐるみのように柔らかく折れ曲がり、私の体をやさしく包み込む。

『  これは痛い。痛くて吐きそうだ  』

「  でしょ。だから早く助けて。
それかーー全部ぶっ壊して  」

その存在は、大きく頷いた。
私はこの時、彼が闇の中で光る天使みたいに感じた。あぁ、わたしの傷口はこれからどうなるんだろう。

51:名を捨てし者:2021/03/04(木) 21:39

羊未練


………………羊 メェメェ

こんばんは。今日こそ死にます。
なんで死にたいのかと言うと、コンプレックスが多くて死にたいからです。特にこの頭のツノがキモいので大嫌いです。このグリングリンの髪の毛も嫌いです。
なので死にます。さて今宵は、この包丁を使います。
両手でしっかり持って、自分の貧相な胸に向けて刃を構えます。貧相な胸…。死にたいです。でも痛いのは怖いです。でもがんばります。

  いち

  にの

  さん っ

目覚めるとそこは病室でした。今回も死ぬことができませんでした。ちゃんと死にたいのに、運命が干渉してきて、ちゃんと死ぬことができません。なので、

退院した今、死にます。
今日は縄とはしごを使います。
木に縄を括りつけて、輪っかに首を通します。最後に、はしごを蹴り倒して、全身の力を抜いて。あとは死を待つだけです。
あーーーくるじ。でもこれで

  羊がいっぴき…

  羊がにひき…

  羊が…さ

目覚めると、私は地面に倒れていました。枝が折れ、今回も死ぬことができませんでした。私はちゃんと死にたいのです。運命なんかに負けていられません。

今日という今日は死にます。
なので、部屋に油をばら撒きます。ライターをつけて、落とします。当然ぼわっと燃えます。あっという間に黒い煙に包まれ、息が苦しくなってきます。でもこれで

  いっぷん

  にふん

  さ

私は倒れてしまいました。酸素が欠乏して、死んでいくのでしょう。ああ、短い人生だった。ああ、シンプルな人生だった…



…羊 メェメェ

「 先輩、好きです…私と付き合ってください 」

「 むり 」

「 …え…即答…
……その、どうしてですか 」

「 ごめん。俺、お前のこと女以前に人間として見れないんだよね。その悪魔みたいなツノ。そのオタクみたいなぐりんぐりんの髪質。その骨みたいな体つき。胸もないし。あとちょっと粘着質な性格とか含めてむりだわ」

雨の中。少女は決心する。

「 よし、死の 」

…………………………………羊 メェ~~~



誰ですか、窓を叩くのは。
やっと眠りかけていたのに。
もう、窓を割るのは器物損壊罪ですよ。
もう、家に入るのは住居侵入罪で……

目覚めるとそこは病室でした。
私は死ぬことができなかったようです。
おい運命、こら運命よ…

それでも私は死にますからね。
必ず死にます。私は運命に逆らいます。
だから、歩いて歩いて!
あの太宰治が自殺した場所に来ました。
今日はすごい雪です。川もすごく荒れています。
これならすぐに死ぬことができそうです。
期待を胸に、飛び込みましょう。

わあーーーーー 期待通りです。
まず、私の体は滝みたいな川の流れで泡泡の水中に押し込まれます。それで呼吸ができなくて。静かな世界の中で、納得した私は目を閉じました。

「 けほっ 」

唇に生々しい違和感。
気づかない間に息が吹き返してる。目を開けると。

「 …またですか。また貴方だ。前の自殺も妨害しましたね。……どうして私の妨害をするんですか?」

「 僕は貴方が好きだからです。
一緒に生きたいなって思ってたからです 」

52:Piero*◆RI:2021/03/05(金) 21:54

『溢れさせた愛を包む』


「好きだよ、しおちゃん」
「……………………………………え」

出会い頭の告白

理解不能、理解できない、なんで?どうして?分からない

「……ら、らいく、……そ、その、……聞きまちがえちゃった、ごめんね、……え、えと……その……」
「あぁ、ごめんね、声が小さかったかな、好きだよしおちゃん、好きだ」

2回言われた

ってことは言い間違えじゃない

間違えてない

らいくんは、わたしの、ことが








「っ〜〜!!?」
「あ、初めて見たそんな顔」
「な、な、な」

なんで、なんでなんで、わかんない、わからない

だって、だってだって、だって


「ら、頼光様、が」
「しおちゃんを好きなのは『僕』の感情だよ、頼光様……『私』の感情じゃない」
「い、許嫁だから……」
「許嫁じゃなくても好きだよ、幼馴染だからでもない、しおちゃんだから好きだよ」

ひとつの躊躇いもなく、投げた言葉に答えが返される

どうして目の前の彼はこんなにも冷静なんだろう、いつもは自分に振り回されてばかりなのに

今は彼が主導権を握ってしまっている

だから、だから、わたし、わたしが、れいせいじゃ

「好きだよ、しおちゃん」





あ、あああ、あ





「わぁあぁああぁっっ!!!」
「えっちょ、しおちゃん!?どこいくの!!」

対面で、冷静でいられるわけが無い、無意識にも遠くへ逃げたくて、かけ出す足は止まらない

冷静じゃない冷静じゃない冷静じゃない、おかしい、こんな感情、おかしいに決まってる

好きなわけない、だって、


「絶対に嘘っ、嘘だもんっ!」
「うそじゃないってば!」

信用しない、信用出来ない

だってだってだって、らいくんはもう知らない人で

昔のらいくんなんかじゃない、昔の私じゃない

「わかんないもんっ……!」

ただの『役目』として、『巫』として嫁ぐだけだった
子を孕み産んでしまえば、それだけで関係は切れる、それだけの『役目』のはずだった
いい血筋の子孫を残すためだけのただの儀式のひとつだった、歴代の誰も、恋愛感情なんてもって結婚した許嫁はいなかった

なのに、なのになのに!

「しおちゃん!ちょっ……まって!!」
「やだ!やだやだやだっ!」

しらない、わからない、どうしてらいくんは私が好きなの?
わからない、わからない、わからない


私はなんで、逃げてるの

53:Piero*◆RI:2021/03/05(金) 21:56

断ればいいだけ、どうせ、感情がなくたって役目はまともに進む
むしろ、感情がある方が歯車が狂ってしまうかもしれない
断ればいい、だけなのに

「しおちゃん!!」

『断りたくない』
『これ以上』
『でも』

信用出来ない
嘘かもしれない
裏切られるかもしれない

わたし

わたし

わたし

頼くんに裏切られるのは
頼くんに裏切られるの「だけ」は

「っだーかーらっ!!」
「!わっ」

うでが、ひっぱられる、あ、あぁ、おいつかれ

「は、はなし、っ」
「はなしません!離したらまた逃げるでしょ、しおちゃん」

あたりまえ、あたりまえだ、だって

「しんよ、できないん、だもん…!」
「信用しなくていい」

え、

「信用しなくていいよ、最初からそんなこと分かってる、だから、信用しなくていい」

「でも、断るなら別の理由じゃないといやだ」

「信用出来ないのは仕方ないよ、それはしおちゃんの本質だ、でも、『それ断られるのだけは嫌だ』、有象無象と同じ理由で、僕のことまで拒絶するのはやめて欲しい、在り来りでもなんでもいい、僕の気持ちが嫌なら嫌って言って欲しい」

手首を掴む力が強まる、もう痛いくらいだ、でも

「でも、有象無象と同じ理由で、君に突き放されるのは、嫌だ」
「君にとって、だれでもいいやつなんかになりさがりたくない」

───なんで、そんなに、つらそうなかおを、するの

「しおちゃん」
だって
「僕は、」
だって

・・・・・・
わたしだって

「しおちゃ「すき」、え」

壊れた

「すき」

あふれる

「すき」

こぼれる

「すき」

もう、感情を留めていた仕切りは、壊れた


「すき、わたしだって、わたしだって」
「…しお、ちゃ」

なみだが、ことばが、あふれる、こぼれる、とまらない

「わたしだって、すき、だいすき、らいくん、らいくんが」

めをこすっても、こすっても、とまらない

「らいくんがだいすき…っ」

わたしだって、あなたにとって、だれでもいいひとになんて、なりたくない

「………」
「…っ、ふ、…ぇ、え…っ」
「…………、しおちゃん」
「…、っ!」

手を引かれる、不意のことでよろけた体は、地面に倒れることはなく
暖かいものに抱きしめられた

「好き、大好き、僕も、大好きだよ、しおちゃん」

愛を、綴る

「許嫁だからじゃない、他の誰かの感情じゃない、『僕』が『しおちゃん』を愛してる」

溢れる愛を、彼は告げる

「っ、わたし、わたしもっ、わたしも、だいすき、っ、らいくんがすき、おねがい、おねがいっ」

たとえ信用出来なくても

あなたなら

「あいしてる、うらぎらないでね」
「あいしてる、あたりまえでしょ」

ずっと昔に途切れた赤い糸が、結び直される音がした

54:マリン:2021/03/13(土) 10:39

〈失礼します!〉

遥か昔、パエスト家17代目当主『ヘスカルト・ユカミ・パエスト』が侵した禁忌から始まった二つの族...
それは人型の人形と動物の人形に自我を与えてしまった事に至る...
人型の人形は他の生物や人間に似ていて人工的に出来た魔法や武器や戦闘スタイルを素早くこなし
動物型の人形は生命エネルギーを感じとり、特殊な魔法を扱う事や予感を感じれるようになった。

だが...

ある小さな喧嘩から始まり、大きな戦へと変わった。
それは人型と動物型の食料合戦であった。
ある者は奪い奪われ、ある者は焼き払う...まさに地獄絵図であった...

そんな時に!

ヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』と
アニマル人形族の長の娘、『ウサラミア・ライド・パーク』が
慈悲と精神を民や戦士に安堵を与え、二つの族は友好条約を結んだ。
二つの族の英雄となった長同士の娘達は人々から慕われ、尊敬された。

また...

この戦が終わった5年後に二人の娘達を里巫女として毎年5月に必ず行えるようになった。
そして必ず女の子二人と慈悲と精神にとっても着いた親友二人を毎年出していた。
戦が終わった英雄の二人は何時までも仲の良い親友でありました。

55:マリン:2021/03/13(土) 10:45

...50年後の誘拐事件の事。
謎の仮面男にヒューマン人形族の長の娘、『テオドール・セリマフ・トロイド』を誘拐し行方不明となってしまった!
だが勇敢であり、戦いに優れているテオドールは針で仮面男の左腕を刺して何とか逃げ切れた。
仮面男がまだ近くにおり、光る穴を見つけ直ぐに入ってしまった。

....それから以降、『テオドール・セリマフ・トロイド』は行方知れずとなり現在も詳細は分からない。
だが、ある情報で唯一手がかりだったのが...


《夜の王の城で『テオドール・セリマフ・トロイド』に似た姿をしたメリケンと杖で戦う勇敢な少女がいた》...
というくらいであり、それ以上も以下もなかった。

56:◆RI:2021/03/13(土) 22:12

『お前の顔なんて、もう覚えていないよ』
https://i.imgur.com/dDXTFqS.jpg
https://i.imgur.com/FRY0ySV.jpg


(小説じゃないけど残しておきたかったので投下しておく)

57:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 01:04

嘘とは、糸だ。

小さなほつれで始まり、そこから幾線にも絡まり、連なり、やがて一つの「縷縷」と化す。それは、やがてどこかへ引っかかり、何里もずるずると気負うようなもの。俺はそんな嘘の縁の切り方を知っている。それは文字通り、断つことだ。

始まりは小さな嘘だった。それが嘘の終わりだとも気付いた。
家無しの俺が毎夜こっそり牛舎に忍び込んでいることは、誰も知らない。そのはずだったが、ある日。別の家無しが乳牛を求めて忍び込んだ。俺は息を潜め、どうにか気配を悟られないよう牛の影に隠れ、いないふりをした。おれはいない、おれはいない、どこにもいない。そう願う内に深い眠りに落ちてしまった。そして明くる日、おれの頭に飛び込んだのは牛舎の主の一言。「おまえ誰だ」と。初めは大層驚いた。なぜなら、俺は村の厄介者だからだ。この牛舎だって、その前は鶏小屋だった。だから寝床を奪われるわけにいかなかった。牛舎の主の言葉にしばらく瞬きを繰り返していると、ふいに気付く。それはおれ自信が願ったからだと。おれは牛舎の主に「なんでもありません」と言い、牛舎を去った。その夜。再び牛舎に忍び込むと、今度は牛の影に隠れず、干し草の中で身を縮こめることもせず、牛を殺した。首は思ったより分厚く、切るのに苦労したから、途中でやめて、内蔵にした。まずありったけの肉片を懐に詰めて、血と臓物で満たし外へ逃げた。一目散に走り、転がるように坂をかけ、原っぱの感触を裸足で踏みしめ、知らない街へ行った。やがて太陽が昇りかけた時、いちばんに窓を開けたおばさんに言った。「遠くで人が殺された」と。そして、おれは騎士を引き連れ村に戻る。そこで目にした光景は忘れられない。村の人間は一人残らず死んでいた。臓物を引きずり出され、うつ伏せのままで。

58:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 02:56

信じることは、幸せだ!いつも通りの朝です。私という個体は名を持ち生命を遂行します。電波時計が6時になると肉体が目覚め、私は朝という行為を繰り返します。そのまま、生きるために栄養を摂り、やがて電子箱の時計が7時になると、私は外へ出ます。学校という、分子の管理所に行くためです。そこで私は私というものを遂行します。まず初めに、「おはよう」と言います、そして、「今日も前髪決まってんじゃん、てかさ、昨日の見た?」と言います。相手もそれに応えます。私が「マジかっこいいよね」というと、「それな」と言われます。そして、授業という、知識の授与が始まるのです。私はこの時間とても退屈に思います。しかし、私は常に最善を考える。私にとって、生命にとって、個体にとって、社会にとってなにがよいか。それは、曖昧です。半分ほどの知識を保ち、もう半分は蛇足であるのです。「まじ眠かった」と言わなければならないから。このように、私は、毎日同じ行為を反芻します。それは何故か。それは、私が社会的存在であるからです。社会で生きる我々にとって、逃げることは恥であり、愚かな兎に与えられる人匙の慈悲すらありません。だから、私は、人間を遂行するのです。理由はもう一つあります。それは、私が信じているからです。およそ3人に1人存在する人間という名の生命を遂行することには意義があり、また、その行為が生き抜くため正しいと信じています。これが、生命の連続性です。大抵の人はこの話を聞くと、おかしいと首を傾げます。そう、いわゆる、機械のようだと。私はそれでも構いません。機械でいることで真っ当な権利が与えられるなら、私は生命の終了まで連続するでしょう。しかし、時に故障もあります。

「あなたが悪いです!」
「✕✕✕✕、あんたがいなけりゃあよかった!」
「死んじまえ、死んじまえ、あなたが生きていれば私は認められない!邪魔者!」

機械やプログラムにもバグは存在するのですね。そこに意志が存在しないことは唯一の利点ですが、完全に治すのには一苦労します。なぜなら、誰も気づかないから。修復プログラムは完結し、古びていくから。つまり、どんなに些細な傷でも、積もり積もっていくのです。だから私達は、どうしようもないバグが発生した時、生命を停止するのです。私にもその終わりが近づいているかもしれません。

59:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 03:16

──精神病棟。
この場所の匂いがとても嫌いだ。
鬱憤や慢性を孕み、増長し、行き場なく漂うだけの、甘ったるい匂いだから。全ては欺瞞に溢れている。

「次の方」

爪をカチカチと鳴らす癖をやめなければ。そう思って、私は。おそらくくすんでいるであろう、己の瞳を声の方へ向ける。いつも見慣れたようで見慣れていない、けれどぼんやりと思い出す、看護師の人。すぐに忘れてしまうのは、きちんと顔を見ないから。私は鞄を肘の裏側にかけて、診察室へ向かう。一番、鬱憤が溜まる場所だ。

「薬は飲みましたか?」
「飲んでません」
「なぜですか」
「飲んだら会えないと思って」
「ちゃんと飲んでくださいね」

先生は、すぐに私から目を逸らして、書類にさらさら記載する。ああ、きっとこの人も、私の顔を覚えていないんだろなって、ふいに思って、悲しくなった。

「髪を切りましたか?」
「いいえ」
「腕は?」

YES、YES、YES!
心が、心臓が、心拍を増す。熱い血液が何度も流れて、耳の裏側まで満たし、頬へ向かう。どうかこのまま見ないでほしいと思うくらい、顔が熱い。私の口からはたった一言「はい」すら出ずに、躊躇った。

「回復は順調ですね」
「そうですね」

先生、本当の薬を知ってますか。それは愛。愛があれば人は救われる、でしょ。あのね本当は、みんな認めてもらいたい。でも、心ばかりがお喋りじゃ、乾いてしまうから。そうなるとどうなるか、私を見れば分かるはず。自分に歪な愛を供給すればいい。誰も認めてくれないなら、自分が認めてしまえばいいはずだ。それが間違った方法だと悟ってもやめられないのは、先生、あなたの方が詳しいですよね。苦しいことに常に酔って、自分を慰めていないと形を保っていられないのだから。ふとした時に、✕のうかなって思うから。ていうか、眠いな?バイバイ👋
でもね本当はなんにも眠くなくて、むしろ目ばかりが冴えていて、嘘ばかり。終わりです。

60:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 11:15

『心買い』

いつも通り、ホーム画面のネットショッピングアプリを開いて、特に興味もない商品にただ無作為に目を泳がせる。それは服や、植物、あるいはコンロでも、なんでもよかった。俺の欠点でありながら、俺という人間を形作っているのは、紛れもなく散財癖だろう。自覚してなお画面の上を滑らせる指が止まらないのは、自分でも分かっている。心の隙間を満たすには、あらゆることから現実逃避するには、散財が最も適しているからだ。そう思って、更に商品を探す。すると、見たこともないものが、画像と文字で現れた。

「私の心売ります」

歪で、赤黒く、禍々しい色をしたそれは、誰が見てもハートの形。俺は危ういそれに興味を惹かれ、まるで操られたように商品をタップした。少しの読み込みのあとに、説明が表示される。機械的な文字の羅列が連なっていた。

「私の心は、とても飽き性で、一人を愛することができません。なので、心を売りますから、どなたか買ってください。永遠の愛を手に入れましょう。」

思わず鼻で笑ってしまう。やはり、ただの悪戯だ。どこかの中年親父が暇つぶしに出品しただけの、くだらないもの。だが、その認識とは裏腹に、俺の中には非現実的な考えがあった。少なくとも、このわけの分からないハートに惹かれている。理由は分からない。愛という文字のせいか、こんなものに縋ろうなんて自分が恥ずかしい。欺瞞はある。理性もある。しかし、今だけは好奇心を裏返した意地が顔を出す。「お遊びで買ってやるか」と、己を持ち上げて購入をタップした。

数日後。俺が仕事から帰ると、古いアパートの1階、俺の部屋の前に小さな箱が置かれていた。数日の間でふざけた商品のことなんて頭から消えていたから、開いて中身を見るまでは「それ」だと気付かなかった。半分惰性で箱を開ける。すると、中にあったのは、あの日確かに見た「心」だった。思わず驚いて箱ごと地面に落としてしまう。正常な脈動を放つ心とともに、俺の心臓も拍動を増す。歪なのは、それがハートであること。心臓でも作り物でもなければ、説明に及ぶ代物でもない。その時やっと自覚した。「俺はとんでもないことをしてしまった」と。

61:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 12:00

『心買い2』

とりあえず、「心」を箱に入れたままにして、俺は眠ることにした。疲れているかもしれないからだ。そうでなければ、とても現実を受け止められそうにない。「舟を編む」のような無精ひもは、床と僅かな距離を残して垂れている。俺は布団の上に寝っ転がると、垂れた無精ひもを片手で軽く引っ張り明かりを消した。瞼を閉じて眠ろうとすればするほど、強い違和感が襲う。その内に何度も心が瞼の裏にちらついて、気付けば俺の額に汗が流れていた。やがて耐えられなくなり、布団の横にある無精ひもを引っ張ると、俺は狭い居間へ直行した。薄型で、やや古いタイプのテレビ。これもネットで購入したものだ。すっかり埃を被ってしまったリモコンを手に、電源を入れる。鮮やかな色彩が現れるまでの時間が、やけに長く感じた。心の脈動、時計の針、俺の心臓。様々な音をかき消すように、やがてテレビは映像を映し出した。それを見て、俺はいくらか安堵し、再び布団の上へ戻る。電気もつけたままで布団を頭まで被る。お笑いタレントの癖のある声だけが耳に流れ込んだ。そうして瞼を閉ざす内に、いつの間にか声から遠ざかり、俺の意識は深い眠りに落ちていった。

──翌朝、俺は時計のアラームで目を覚ます。これまたネットで購入した電波時計はしっかり6時を指している。いつもと変わらない朝の始まりだ。……一つの不安因子、心を除けば。太陽が昇りかけた暗がりの中、嫌でも視界に飛び込む心はいまだ脈動を放っている。気味が悪い。

「……ったく、なんなんだよ。マジきもいな」

俺が意図なくぽつりと呟く。すると、途端に心の脈動は激しさを増した。俺は驚いて、思わず箱に駆け寄った。溢れる俺の心拍に共鳴するかのように、心は一層強く脈打つ。ふいに、震える声が口から絞り出た。

「お、お前、生きてるのか?」

恐る恐る問うた言葉は、脈動に消える。文字通り心が跳ね上がるようだ。目の前の心は嬉しそうに跳ねる。どうやら、言葉には反応するのだと、寝起きの頭で理解した。俺はまるで子供のように食い気味になり、もっと話しかけてみる。

「お、おはよう」
「──」
「えっと……今日は、晴れだって」
「──」
「……はは」

心は脈動を返すだけ。次第に馬鹿らしくなってきて、「いつも通りの朝」を今度こそ始めるために洗面所へ向かう。顔を荒い、歯を磨き、安売りのパンを焼き、服を着替え、その中でも常に心が頭を通り過ぎていく。いつも通りの朝なんてものは、もう訪れることがないのかもしれないと悟った。

62:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 14:09

『心買い3』

いつも通り、人混みの中を規則正しく出勤する。ビルの広告塔や、揃った足並みだけが靴音を鳴らすこの時間は、早朝であることも相まって張り詰めている。俺も常に気を引き締め、今日も会社へ脚を運ぶのだ。そうして5分ほど歩くと、やがて大きな建物が姿を現す。やけに綺麗な玄関は見慣れすぎてなんとも思わない。ここが俺の会社だ。

「ねえ」
「はい?」

背まで伸びた黒髪をひっつめにしたこの女は、俺の上司だ。神経質で器が小さく、何かあればすぐ部下に当たる。だから俺はこの上司が嫌いで仕方がない。それでも社会に生きているから、胸中など吐き捨てて笑顔で答えなければいけない。

「部所、またコピー数ミスしてたけど」
「あっ、すみません……ですが、あれは新人に任せたはずで」
「それは君の監督不行届でしょ。新人のせいにしたらだめ」
「すみません……」

まただ。この女のせいで、心の奥底に黒いモヤが溜まっていく。今日もどうせネットショッピングで次の散財対象を探すのだろう。そう思ったが、ふと心を思い出して、考え直す。……しばらくは、あれのせいで散財する余裕もないかもしれない。

数時間、俺は仕事を終えて帰路につく。上京したてで借りたボロアパート。古ぼけた街灯の明かりに照らされた自分の住処を見るたび、情けなくなる。あんな狭い場所で、毎日毎日、散財でストレスを発散するだけ。虚しくて胸の奥から酸っぱいものが込み上げた。たくさんだ、もうこんな場所から抜け出して、堂々と生きてみたい。だから、助けてほしいと願うのは、間違いだろうか。ガチャリ。鍵を開けて中へ入る。街灯の明かりが扉の隙間を通り抜けて、居間まで吹き抜けると、「心」が目に飛び込んだ。つきたくなる溜息を抑えて、さっさと扉を閉めてしまう。

「……」

心は相変わらずドクドクと脈打っている。その様子をしばらく見つめていた。「言葉は通じる」、その法則を思い出して、暗闇の中で俺は床に座り込む。時計の針と、心の脈動。昨日と同じようで違う。俺はやけに落ち着いていた。

「……嫌なことがあったんだ」
「──」
「クソ上司がさ、新人のミス俺に押し付けてきた。まただよ、指示ばっかするくせに自分はなんもしねーし。そのくせ人使い荒いのがムカつく」
「──」

独り言のように告げて、小さな変化に気付いた。心が、萎縮し身を縮こめ、か細く脈打っている。まるで俺を案じるかのように。その瞬間、信じられない話だが、俺は微かに救われた気がした。誰も俺を認めない。周りに言えず封じ込めるだけの思いが、こいつによって放たれた。思っているほど、気味が悪い存在ではないのかもしれない。

63:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 15:05

『心買い4』

翌朝も電波時計で目が覚めた。体を起こし、洗面所へ向かう前に、俺の目線は「心」へ向かう。

「おはよう」

俺の挨拶に、心が脈動で返した。それを見て口角が上がる。愛おしさや、親しみのようなものを持ち始めているのは間違いない。それに、一様に不気味な存在ではないのだ。俺のためにか悲しみ、俺のために喜んでくれる。そんな存在が身近にいたことは生涯で一度だってない。だからこそ受け入れることに躊躇を持たない。

「何回同じこと言ったら分かるの?」
「すみません……」

そして今日も、くれなずむボロアパートへ帰る。クソ上司のせいで溜まった鬱憤を抱えて。

「今日もさ──」
「──」

ひたすらに話す。心は俺の一語一句に反応を示し、縮んだり跳ねたり、その様子に愛おしさすら覚えた。そうして日々を重ねる内に、俺の心拍も間隔を狭めていく。灰色の帰路ががらりと色を変えた。心に会えるのが嬉しい。俺はこの感情を知っている。
──それは、恋だ。俺は心に……彼女に恋をしている。

「心、今日は休みだ、遊園地に行こう!」
「──!」

心は跳ねた。俺は心を箱ごと手にし、遊園地へ向かう。

「あはははは! 楽しいなあ!」
「──!」

周りの奴らは俺たちを奇怪な目で見たが、そんな視線が気にならないほど、俺は心に夢中になっている。誰も俺たちの愛を分からない。だが、それでいい。寧ろ誰にも理解してほしくないのだ。

……その日から、ボロアパートのポストに手紙が投函されるようになった。

64:ヤマダ◆o6 hoge:2021/04/01(木) 16:01

『心買い5』

『あなたを愛しています』

手紙の内容はこうだ。同じようなものが、一度に何通も投函される。時間は分からないが、俺は手紙の送り主に少し見当がついた。あのネットショッピングアプリに「心」を売った、言わば心の持ち主。それが、なぜだか分からないが、今更手紙を送り付けてきたとしたら。前なら嬉しいはずだが、俺は内心で困惑を隠せないでいる。この愛は心のために捧げ、俺に与えられるのも心の愛。そこに他人が入り込む隙はないはず。他人という言い方はずいぶんおかしいように感じるが、俺にとってはその形容が正しい。なぜなら、俺が愛しているのは肉体ではなく「心」なのだから。
何通も届く手紙、その全てを押し入れの奥にしまい込んだ。

それでも、日に日に手紙は増えていく。もう押し入れにしまい切れないほど。俺はいよいよ身の危険を覚え始めた。一種の狂気すら感じてしまう。

「もう、いらないんだ。俺には心さえいればいい」
「──」
「だから……」

深夜、玄関。靴は一足だけ。ドアアイに張り付き、手紙の送り主を確認する。誰にも気付かれずに手紙を投函するなら、深夜が最も適しているはずだ。ドキドキと逸る心拍を抑え込み、息をころす。まず相手がやって来たら扉を開け、手首を捕まえて拘束だ。それから──考えている内に、冷たいコンクリートの床を鳴らすヒールの音が響いた。来た……一瞬の躊躇を振り払い、扉を開ける。

「!」

コートを目深に被った女は驚き、踵を返す。「待て!」そう掠れかけた声で叫んで、手首に手を伸ばす。やっと捕まった。そう思った寸前、女は手を振り払い体勢を崩した。背後はコンクリートの柱。女の体は重力に従い、柱へと落ちていく。スローモーションのようなその瞬間を、俺はどうすることもできなかった。──ゴン!! 鈍い音がして、女は倒れる。心拍が耳の裏まで拍動を伝えた。

「やばい──」

ふいに、女の足元に手紙が落ちていることに気付く。俺は無意識に手紙を広い、焦る心を落ち着かせるように、震える指先で手紙を紐解いた。中の紙には達筆な字でこう書かれている。

『✕✕✕くん、今までごめんなさい。そろそろ自分の正体を明かしたいと思います。いつも自分に自信が持てなくて、こういう方法でしか伝えられませんでした。そして、いつもあなたを理不尽に叱ってごめんなさい。本当はあなたが好きだったけれど、あなたは私のことを嫌いだと思うから。だけど、これから謝りたいです。そしたら今度、二人で会いたいです。 ──***より』

「……、…………」

……
…………ゆっくり、ゆっくり目線を下に向ける。
流れる血、頭のフードが落ちて、それは顔を現した。
黒いひっつめの──

俺はそのままずっと何も言わず、手紙を握りしめていた。
箱の中の心は、もう脈動を放たなかった。

65:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 16:55

『超魔神性』

その昔、神々がいた。
神々は世に恵みを与え、悪を罰した。
やがて、その役目は各聖地の人間へと継承されることになり──
人はそれを、『超魔神性』と呼んだ。

「──はい、治ったよ」
「やった〜ありがとでゲス〜!」

手をかざせば、たちまち傷が塞がっていく。お礼を告げた「河童の子」は、健康な皿が乗った頭を下げて走り去った。その姿を最後まで見届ける、聖女のような、いわば『超魔神性』。

「……」

そして、傍観している私もまた超魔神性。……天音円と天音環、私たちは姉妹のはずだった。

まず超魔神性とはなにか。
第一に『神眼』、その者を見通す力。
第二に『神然』、恵を与え潤す力。
そして、第三に『神性』、継承の存。
妹、円は……全てにおいて秀でていた。

「姉さん!」
「……なに?」
「次の稽古、一緒にしない?」
「ごめん、無理」
「どうして?」
「嫌だから。それ以外に理由でもあんの?」
「姉さん──」
「──環!!」

ふいに、物陰から女が怒号とともに現れた。母親だ。継承で神性を失ったくせに、今でもこうして出張ってくる。

「あんた、なんてこと言うの!?」
「なにが?」
「ずっと見ていたら、河童の子も助けないで、挙句の果てに円にそんな風に言うなんて。あんたには優しさの欠片もないわね」
「母様、それは言いすぎでは……」
「円は優しいわね。でも、今日という今日は限界よ。大体……そんなだから、いつまでたっても比べられるのよ」

左耳から右耳へ、聞き飽きた言葉が通り抜けていく。ああ、本当に、苛苛する。円の偽善も、才能も、母親の冷えた扱いも、私になんの期待もしてないことも。生まれてこなければよかった。私は生まれつき『神性』が使えないから、何もかも不十分で、円に遠く及ばない。言ってしまえば残りカス。

「ごめんなさい」

言いたくもない謝罪を口にする。頭がどうにかなりそうだった。

──円さえいなければ。
私は否定されないのに。

66:ヤマダ◆o6:2021/04/01(木) 17:10

『超魔神性2』

腕を切った。台所からくすねた果物ナイフで。刃をしっかり皮膚につけ、人差し指を添えて、ゆっくりゆっくり引けば、やがて綺麗な赤い線が現れる。この一連の動作は嫌いじゃないし、上手く切れると自分を褒めたくなる。そうすることで自分を肯定する。

「──」
「!」

ふいに、物音が聞こえた。驚いて背後を振り返ると、そこにいたのは母親だった。慌てて腕を隠す。

「あんたなにしてるの?」
「なにもしてないよ」
「腕を見せてみなさい」
「え、なんで……」
「見せなさいって言ってるの」
「嫌だって──」

嫌がる私の腕を、母親は掴んでその目でしっかり見た。あ、終わった……弁明しようと開いた口が言葉を紡ぐ前に、パチン!私の頬は勢いよく張られた。

「なに馬鹿なことしてんの!!」
「……」
「大体、こんなことして喜ぶなんて精神が弱いのよあんた!!」

頬が、ジンジンと、熱いのか痛いのか分からなくなる。その時私の中で、『何か』が切れた。

「ふざけんなよクソババア」
「!?」

無防備な母親の体に掴みかかる。

「私がこんなことしなきゃいけないの、お前と円のせいなんだよ。だったら最初から産んでんじゃねえ、私なんか恥なだけだろ。汚点だつてそう思うなら、神性が使えない子が嫌なら、今ここで殺しちまえよ!!」

涙がぽろぽろ出てくる。くそ、出てくるな、お願いだから。生まれてから17年、一度も涙なんて見せたことなかったのに。それが唯一の強さだと信じていたのに。母親は呆然としたまま、だんまり。

「円が、円さえいなければ──」

そう口にした瞬間、私の体は投げ飛ばされた。衝撃は肉体よりも精神を襲う。

「いい加減にしなさいよ!」

……殺さなければ。

67:◆o6:2021/04/15(木) 20:03

少女失踪事件

13年前に起こった小さな町の小さな事件。
ある夏の日、川辺で遊んでいた✕✕✕ちゃん(当時5歳)が、見知らぬ男に声をかけられそのまま誘拐された。

この事件に関しては目撃者が一人もいない。
そのため、真実を知るのは当事者2人だけだろう。


──ピコン、ピコン

また通知が鳴る。
見慣れた青い画面と大量の通知。半ば無意識、癖のように通知を開くと表示されるのはたくさんの「いいね」。もう見飽きてしまった。

ため息をつきかけた時、ふいに扉がコンコンと叩かれた。

「✕✕✕」

「はい」

生返事。

「次はこれな」
「はい」

トビラがガチャリと開いて、外から男が現れる。太って脂ぎった顔にヒゲを生やした醜悪な姿。その手には真新しい服。サテンの派手なドレスだ。

私はそれを黙って受け取ると、男は何も言わずに扉を閉める。そして、また私の活動が始まるのだ。

『フォロワーさんが買ってくれた服着てみた!かわい〜〜😍😍 みんなほんとにありがと〜❤*.(๓´͈꒳`͈๓).*❤』

──ピコン、ピコン。

68:◆o6:2021/04/15(木) 20:13


……一体いつまでこんなことを?

『✕✕✕』
『愛してる』

『こっちにおいで』
『危なくないよ』

……いつから?


──鳴りやまない通知の音を耳に、ベッドに体を埋める。短いサテンのドレスを着ているせいで足がすーすーする。

「……」

ふいに手を足に伸ばした。ふくらはぎが線に引っかかるみたいに、ザラザラした。赤い傷跡。ここでも、あの世界でも、誰も気付かない。気づいても、なにも言わない。私の商品価値は顔だから。

そんな生活を10年くらい続けてきた。フォロワーから貢がれた金はあいつへ。一度送られた服は投稿だけして売りつける。愛もなにもない。

……
…………


「お母さん……」

今どこで何をしてるの。

帰りたい。帰りたいの。もう一度ぎゅっと抱きしめて、「愛してる」って、ただ一言。それだけでいいのに──

──ピコン

またいつもの通知。でも違った。

『DM』

69:芽殖 命:2021/04/16(金) 06:49

>>68

70:◆o6:2021/04/17(土) 14:00

『幸福伝道会』

DMの送り主はそう記されていた。絵の具で塗りつぶしたような黄色の上に、刺々しい真っ赤なバラ。これがいかにも『幸福』とでも言いたげなアイコンだ。

「……」

幸福なんて曖昧な言葉の意味がよく分からない。そんなものは幼い頃、あの場所に落としてなくしてしまった。

『迷える皆様のために、幸福伝道会は幸福を授けます。お代は一切不要です。その代わり、不幸を頂きます。』

DMのやりとり欄に表示されるのは無機質な言葉の羅列。胡散臭い。そう思って、もう一度頭をベッドに伏せようとした時。新しいメッセージが更新された。

『✕✕✕さん、あなたは13年前に失踪された少女ですね。』

「──」

ほのかに薄暗い部屋の中、スマホの画面に驚く私の顔が映った。まるで覗かれているようだ。身が硬直する。

『我々、幸福伝道会はあなたのような不幸な人間をお救いいたします。』

救い、

『返事を一ついただければ、私どもは必ずあなたに幸福を授けましょう。』

幸福、

……


《愛してる》

…………


空返事。

『はい』

71:◆.s hoge:2021/06/27(日) 04:16


『( …今に始まった事ではありません
 昔話をしてあげます、…ずっと昔にあった本当の話です 』)

___

AGE 19XX… "それはもう、忘れ去られた時代"


『__人は何時でも争う事を止められなかった』

(空を舞う鉄の人影__{かつての破壊音}__永く散る火花)

『例え自分たちの争いが世界を破滅させようとしても…』

『争う相手が 人から、そうでないものに変わっても』

_____人は変わろうとしなかった


___AGE 20XX

『( 実験は失敗でした )』

『( 貴方たちは、あの荒れ果てた大地に眠る
  幾多の者たちと同じ )』

『( 自らを滅ぼすと知りながら
 それでも争う事を止められない )』

『( 卑小で 愚かな存在 )』

72:◆cE hoge:2021/06/28(月) 19:58



『箱庭の夢』

 温度も湿度も変わらない何もない真っ白部屋で眠る「元」少女。人体実験を繰り返し、遺伝子を弄られ、少女でも少年でもないあの子はどんな夢を見ているのか。そんなことを思いながら手元のタブレットに視線を移す。彼女が普段右手に着けている指輪とリンクしたデータをみて今後どうするべきかを考える。




 元孤児。
 元いた実験室が破壊され、ここの施設に移る。
 実験には協力的で特に反抗的な素振りは見せない。リジェネを前いた施設で中途半端な形で付与される。
 体温調節が難しく、主な活動時間は夜。以前昼間に活動させたが体温が上昇。そのまま熱中症のような症状ができ、回復力も下がった。
 朝から夕方まで眠る。実験の副作用かは分からないが、ロングスリーパーである。回復に体力を使うのかかなりの量の食事をする。
 感情の起伏が読み取りにくくいつも笑顔。
 過去のことを覚えていない。軽い記憶喪失の症状あり。





 タブレットから真っ白な何もない部屋に視線を向ければ、群青の瞳と目が合う。相変わらず何を考えているのか分からない表情でこちらを見つめる彼女からそっと目をそらす。

「 実験の時間だ。外へ 」

「 はぁい、了解〜 」

 人間としての情はもちろん残っている。自分がしていることが間違ってることも分かってる。けど、人類の進化のためきっとこの研究は辞めることができない。

 立ち去る研究者の背中を見つめながらため息を一つ落とす。

 懐かしい夢を見た。まだ人間だった頃の。まぁその頃から性別がうまく判別できなくなったんだけど。怪我をしたら普通の人と同じ速度で治っていったし、まだ痛みとか感情もあった気がする。

「 まぁ、よく覚えてないけど… 」

 なら今のボクは?
 何回か死のうとしてもしねない。普通の人間なら死んでる傷もすぐ治る。こんなの化け物じゃないか。自分がなに考えてるかすらもよく分からない。これはもう人間の形をした何か。

 「 人間、失格 」

『  もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。 』

 なんてね、あーあ。退屈、だなぁ…。

 今日もいつもと変わらない日々を過ごすのだろう。そんな独り言が聞こえたのか前を歩いていた研究者はまゆをよせ怪訝そうな顔でこちらを見る。

「 何か言ったか…? 」

「 んーん、なぁんにも 」


 馬鹿みたい。そんな言葉は喉につっかかり、笑顔のなかに消えていった。

73:◆RI:2021/07/01(木) 22:35

〈来世まで、愛を込めて〉

「……っ、ぅ、……」

めが、さめた
めがさめた…?わたしはねむっていた…?
…あたたかい、からだがゆれている、これは、…かかえられて…

「………おぼろ、く」
「喋るんじゃねぇ」
「…そ、ぅ、…やっ、ぱり」

かえってきたこえは、そうぞうしたとおり

「………ね、ぇ、…おぼ、ろ、くん」
「喋るんじゃねぇっつってんだよ」
「…いい、じゃな、い、…しゃべ、らせて」
「……チッ」

舌打ちが聞こえた、かなり、怒らせてしまっているらしい

「…せん、きょうは」
「………もう、何もせずとも勝てるぐらいだ、あんたが無茶したおかげでな」
「ふ、ふ、…そ、う…、それは」

無茶した甲斐があったわ、と、言葉を零せば、私を支える腕に力が入った、ぎしりと、彼の口から、歯を食いしばる音が聞こえる

「………おぼろ、くん、…」
「…うるせぇ、」
「…おぼろくん、…」
「黙れ、それ以上言うんじゃねぇ」
「…………おぼろくん、」

置いていきなさい

「…………」
「あなた、も、重症、でしょう」

ようやく、記憶が整理されてきた、そうだ、私達は戦場にいたのだ
全てを守るために、自分の正義を全うするために
大多数を相手に、我儘を通すために、刃を抜いたのだ
そして


──『ぁ゛、』
─────『──綴さんっ!!!』

私は、彼を守ったのだ、身を呈して

そこまで思い出して、ようやく、己の体が冷たくなってきている事に気がついた

74:◆RI:2021/07/01(木) 22:36

「……なんで、庇ったりしやがった」
「…じょうし、だもの、ぶかはまもらない、と」
「…ふざけんじゃねぇよ」

ぐっと、また、腕に力が入る、感覚が薄れてきた体でも、痛みがわかるくらいに

「─おぼ、ろ」
「っづ!俺は!!あんたを…っ!」


『綴さん!』


「っあんたを守るために!おれは!」

『人間兵器と呼ばれているんです、私強いですよ?』
『…怪我の心配なんて初めてされました、…ありがとう』
『あなたなら出来るでしょう?私について来れるのだから』
『……やっぱり、君は凄いね』

『──朧くん』

「……あんたは、ずっと、独りで、でも、なんでも出来て、周りからなんて呼ばれようと、ずっと戦って」
「…、…」
「だから、おれは、俺だけは、あんたを守りたかった、庇ってでも、死んででも、じゃないと」

「あんたは、ずっと、報われない」

「……おぼろくん」
「なのに、なのに、っ、よりによって、『あんた』が『俺』を庇って、守ってっ!」

『───だいじょうぶよ、おぼろくん』

「っあんな風に、笑ってっ!!平気だって痩せ我慢して!!そのまま、無茶して戦って!!」

「おれは、あんたを、守りたかったんだ、それなのに、俺の前で、死なないで、…」

あめがふる、いや、これは
目が霞んで、よく見えない、でも

「……ふ、ふふ」
「……つづり、さ」
「なん、だ、いっしょ、だったの、ね、わたし、たち」
「…は…」

己の腕に力を入れる、まるで自分のものだと思えないような、弱々しく動くその手を、流れる雨の元へ伸ばす

「…、わたし、も、わたしも、まもりたかった、の」

「はじめて、だいじに、たいせつ、に、したいと、おもったの」

『…はぁ?人間兵器って…あんたただの人間だろ』
『っおい!怪我してんじゃねーか!何でまだ前線に出ようとしてんだ!』
『はぁ…やってやるよ、あんたがそういうならな』

『─綴さん』

「…、つづ、り」
「……わたし、こわしたり、たおしたり、しか、できなかったから」

『人間兵器とかいう名前どうにか何ねーの?もっとなんかさぁ』

『そういっても…私が名乗っているものじゃあないから…』

『それにしたって、ほら、もっとさぁ……あ!』


『夜桜、とかどうよ』


「あんな、きれいなよびかた、はじめてだった」

頬を撫でる、もう、思うように動かないけど、残った力を振り絞って

「すごく、うれしかったの」

笑えているだろうか、わらえているといいな、だって、本当に、心の底から嬉しいかったの、あなたがそうよんでくれたから、わたしはやっと

「…きみが、ずっといっしょにいてくれたから、わたし、やっとにんげんになれたの」
「つづり、さん」
「………でも、ごめんね、わたし、わたしだけだと、おもってた、きみも、わたしを、まもりたかったなんて、おもいもしなかった」
「っ!しゃ、べ、んな!」

あぁ、もう、ほとんど目も見えない、朧くんは、いつもこんな世界を見ていたのだろうか

ちからが、ぬける、頬に添えた手が滑り降ちる、それを逃さないように、暖かい手が掴み取る

「綴さん!!」
「………」

ごめんね、わたしばっかり、しあわせになってしまって、守るという願いを、叶えてしまって、でも、お願い

「お、ぼろ、く」
「っ!つづりさっ」

さいごの、さいご、全ての力を振り絞って、言葉をこぼす

「──ゆるして、ほしいなぁ…」

さいごの、我儘

「─────」

喉が引くつく音が聞こえる、死ぬ時に1番長く残るものは聴覚だと言うが、どうやら本当らしい、最後の力を使い果たして、もう、なにも

「────ゆるさ、ねぇ」

「ゆるさねぇ、許さねぇ、絶対に、絶対にっ、これからも、死んでもずっと、俺はあんたを…!」

許さない

「…………………」

あぁ、…



よかった

75:◆.s hoge:2021/07/01(木) 23:11

>>71

『 俺はそうは思わん 』

__________________





『____何時かは必ず奴らは現れる』

『どれほど喪おうと 絶えることは無い』


『__あの街に再び 人間が甦り
またこの戦いが始まるのなら__』


       『 証明してみせよう 』

__________


『 …お前達になら… それが出来る筈だ 』


____AGE 20XX___

『(___人類は 再生する)』

『(___繰り返す事以外を 知らぬと言うのに)』

76:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 00:48

__________診断書


○ 今日、私は死んだ。そして生き返った。....生き返った理由は良く分からない。死んだ事に関しては分かっている ... ...事故だ。霊となって自分の肉体を見た時は吐き気を催したが吐く物が無かった。不思議な気分だ。
...取り敢えず自分の肉体を治す事に集中してみる。奇妙な事に、外傷は何も見えず心臓もハッキリと動いている様だ... ....私が今確かに生きて存在をしているからだろうか?


   _____これなら、あの時挫折した夢を叶えられるかもしれない。



○ 夢を叶えるのに数十年も経った。肝試しにと夜中子供達が来るのは良いが....本当に危ない奴等も居る。だから私は心を鬼にして追いかけ回した ...決して楽しんでいない、決して。
....建てたのは、子供達の為の病院。...人間以外にも有りとあらゆる生命への治療を行える病院 ...医者は私1人だが ...大丈夫、死ぬ事も倒れる事も無い ...やれるだけやるとしよう。




○ ...偶に人が来る程度の繁盛、現実は厳しいと言う事を知る。だが悪くない、子供の笑顔を見ると忘れていた生気と言う物を感じられる。....身体を透けて見る時はやはり諸々 意識をしてしまうが。煩悩を減らさなくては___



さて、次の患者は_____________________________



○ その子には名前が無かった。世にも珍しい、身体から金を産む事が出来るゴーレムの子供だった。...まだまだ成功する確率は低く石になる事の方が多いらしいが。...報酬はいらないと言うものの頑張って金を作ろうとするのを見ては此方の胸が痛くなる ...。
....怪我の治療だけじゃ無く体内に残っていた毒も抽出しなければならない ...がこの毒、下手をすれば他の患者に感染へと導いてしまうかもしれない。他の患者達の治療を即座に行い ...暫くこの子の貸切となった。...“ルージュ”と呼ばれるのも悪くない。今までブレシュール先生と呼ばれる事が多かったから。



○どうにも、悪い大人や親に何度も虐げられたらしい ...元々孤児だった、と言うのも聞いた。...悲惨な過去、だから私は ...退院するまでこの子に良い思い出を作ってあげようと ...努力した。この子には色んな事を教えてやらないといけないと思い...先生としても頑張った。プレゼントも送ったし おままごともしたし ...流石に変な事をやらされた時には緊張したけれど ..同時に悪く無いと思う自分がいて 悔しい。...でも、楽しい時間ばかりだ。




○...朝から元気が無い。一体何故かと聞いても答えてくれない ...メンタリズムの勉強はしていなかった、どうしようか。....使っても居なかった霊術をバルーンアートの様に扱ってみた ...怖がってまともに口を開いてくれない。失敗した。
...でも何故か、急に ...欠片をくれた。金の、欠片。 ...要らないと言ったのに無理して作ったからだろうか?顔面が蒼白に ......なので少し無理矢理にだが寝かせた。...しかし本当に綺麗だ ...宝物にしようと、考えた。 ......可能ならばこの子は未来私の助手として ... .....いいや、それよりもっと幸せに生きていけるだろう。
...そろそろあの子が来て1年になる。此処は7日間も無睡眠で頑張った ...アレを見せるべきだろう。...でもその前に先ずは睡眠を______。





○窓ガラスの割れる音で目が覚めた。

77:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:13

○....今思い出しても自分の非力さに腹が立つ。何とかあの子を守る事には成功したが、其れでも痛い。....塩や聖なるものが私に弱い事に判明した。無敵と思われる霊体にもやはり弱点はあった。
狙いはやはりあの子だった____聞けば、あの子の親に雇われたと言う傭兵達...命を奪う事はしなかったが私も腹が立ったので何本かの骨を折る程度に収めておいた。
あの子が心配してくれている。早くこの身体を治さなくては。







○あの子が居なくなった。







○探しても探しても見つからない、何処にいった?何故、なんで?....がむしゃらに探していた所、私はあの子が描いたらしい手紙を見つけた。

『たから、だいじにしてね。ルージュ。がんばって
すこしだけれど、がんばってつくってみたから。
けれど、むりはだめだよ?いつもむちゃばっかりし
ているようにみえたから。


わたし は、すこしここからはなれてそとをみようとおもうから。ルージュがしんぱいするひつようはないよ。みっか で、もどらないとおもうから。わたしのことはわすれて。とってもたくさんあそんでくれておしえてくれてありがとう。こころ をおしえてくれてありがとう。おせわをたくさん され たから、おんがえししたいな。またどこかでであえ る はずだから。またね。          ペット・ティラミー 』



_________時間が無い。早く助けないと。

78:◆rDg hoge:2021/08/13(金) 01:24








○間に合わなかった。あの子の、亡骸が。私の、腕の中に今ある。心臓の鼓動を感じない。肌の温度を感じない。
死んだ、という事を理解したく無い。でも、でも____助けられ無かったと言う事実が重く心に響く。
...犯人は分かっていた、でも、私にはもう、その ...気力が無かった。



○生きる目的を失って数年。あの後、私は禁忌を犯した。罪を犯した。...あの子を、生き返らせた。不完全な状態で。体は不完全に大きくなり、精神も濁りが混ざった。
....何処かへ行ったらしいが、もう追う気は無い。私が何をしたいのかさえも理解が出来ない。....いっそ、自分から教会へ行き二度目の死を送ろうか。あの子の魂は ...若しかしたら私の知らない未知の地獄にあるのかもしれないから。
...そう言えば、あの子の親や傭兵達が不審死を遂げたらしい。何でも彼等の家族とその家ごと、地中へと沈んでいたらしい ...物騒だ。犯人の目的は何だろうか?




○久しぶりに来客が来た。泥に塗れた____________


○_______________


○_______________






○______今日から私は ....再び魔物として生きよう。この病院にもサヨナラだ。
....生きる目的を見付けた、それだけで私は____幸せだと思える。でも、少し ...我儘を言い 願いを叶えられるのなら。



    またあの子に会いたい。.....そうじゃなくとも、私はあの子の様な子供達を救いたい。


  __________子供に罪は無いのだから。



        ________ブレシュール・ルージュ

79:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

『イレギュラー』



「………」

ふと下を見れば、死体が転がっていた

「─あ、フェイトじゃん」
「…おう、なに、邪魔した?」
「んや!暇潰してただけだし、気にすんなって!」

その死体は人間のものであり、その血の先に居たそれは、自分と同じヴィランで、そのヴィランは自分の知り合いでもあった

撒き散らされる肉塊、内臓、血

それは日常風景であり、なんの違和感も無い光景だ

「うわ、拭けよそれ」
「えー、こまねぇんだよお前、いーじゃんこのくらい」

その日常を表すように、目の前のそいつは己に絡みついているぐちゅりとした赤いような白いような塊を払おうともせず、こちらに笑いかけなんでもないように会話をしてくる

平凡、平穏、何の変哲もない『ヴィラン(俺たち)』の日常














それを異常だと、そう感じる自分は、きっとどこかがおかしかったのだ

80:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

人間の作るものや、文化が好きだった

初めて食事をした時は感動した、好んで人間の食事をとるようになった

意味もないのに

初めて芸術を真似た時は驚いた、苦戦しながらも楽しむようになった

意味もないのに

初めてスポーツをした時は爽快だった、人間の姿になって混ざり込むようになった

意味もないのに



どれもこれも『ヴィラン(俺たち)』には必要のない行為だった

やったって意味もない、真似ているだけ、わかったつもり


それでも人間の『平凡』は楽しかったのだ


血みどろの平凡など要らなかった、死臭に塗れた平穏など要らなかった

ヴィランとして、それは異常なのだということはわかっていた


──でも、だけど

81:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:33

「───フェイト?」
「__あれ、わかった?結構自信あったのに、擬態」
「…い、や、…近ずいてお前の匂いするまで、わからんかった…殺しそーになった」
「あ、そう、ならよかった、いやーバレバレかと思ってちょっとヒヤッとしたー」
「…いや、いやいやいや、なに、なにしてんの、


──なんで人間の格好してんだよ」

こちらに指をさしてそう告げるそいつは、動揺しているらしい、なんだ、いつも笑ってるくせに、珍しい

「あー、どうよ、似合ってんでしょ、気に入ってんだ」
「お、まっ…!気に入ってるとかじゃねーだろ!!なんでっ」
「なぁに興奮してんだよ、擬態だつってんじゃん、スパイだよスパイ」
「は…?」
「いやーなんか人間に擬態したら思った以上に上出来でな、お上に直接スパイとして人間に混じって来いって言われた、人間が使ってる…あー、なんだっけ、あびりてぃーぶれーど?とか言うのも渡されてさー、くっそだるいわけ」

ほんの少し違うけれど、嘘を言っている訳では無い
嘘は真実を絡めるのが一番いいと言うのも、確か人間の言葉だった気がする

「…す、ぱい」
「そ、だから間違えて殺したりしねーでな、ちゃんと顔覚えろよ?」
「……おれ、それきらい」
「は?」

全く想像していなかった言葉にアホみたいな声を出してしまった、嫌いってなんだよ嫌いって


「……おれ、前のカッコのお前のがすきだった」
「───そ、悪いな」



おれは大嫌いだよ、あの姿も、あの力も
『ヴィラン』という、日常も、なにもかも


「そんじゃ、また会う時は一応敵同士な、建前だけだけど、顔覚えた?」
「……たぶん」
「うわ、信用出来ね、…あー、じゃー…」

じゃらりと、金具の擦れる音がなる

「!」
「これ、つけてたら俺な、わかった?」

舌に付けたピアス、チェーンが長くぶら下がり、その先には十字架が飾られているそれを見せて、もう一度問掛ける


「……趣味悪」
「ハハッ、お前も大概だろ」

あまりいい顔をしていないそいつに、笑って答えてやれば、そいつはようやく諦めたように下を向く


「殺したらごめん」
「いーよ、わし強いし、殺そうとしたらこっちがぶっ殺してやる」
「……うん」

82:フェイト◆RI:2021/10/13(水) 23:34


『いやだ、いやだいやだったすけてだれかたすけてたすっ』
『殺さないで殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!』
『いたいよぉ!たすけてよぉ!!おかあさん!!おとぉさん!!!』




「……………」


殺したらごめん、なんて




「(…なんで、人間を殺した時にも、そう思わないんだろうな)」










「───やっぱ、俺っておかしーんだろーなぁ」

83:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:34



___待てぇぇぇ!!


___待つかよーっ! ばばぁっ!


( 何時の時代でも馬鹿げた悪さは起きるもの。
鞄を引ったくった男と、中年の女性の鬼ごっこ )

「 はぁっ! はぁっ… ドロボーっ! 」


__平坦な道路沿い 時代錯誤の光景…道行く人も呆気に取られ

「 へへっ ざまぁみやがれってんだっ! 」



( 余所見はご法度 …此処は道路 )

[タッタッタッタッタッ…]____横道から飛び出す誰かに…


「うぅおあっ!?」「: おっ!? 」___[BAAAN!!!]



( ___もんどり打って転がる男 )

「 ってて … おいっ バカ野郎!
前見て歩きやがれってんだっ 」



___:えっ


( __倒れた男に叫ばれ、… その青年は こう答える )




「: な、なんでオレのこと知ってんだっ!? 」

      「は!?」

84:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:46


____はぁっ お、追い付いたよっ!

「 げっ やべぇっ! 」 [ダッ]

「: いぃっ!? お、おい!お前ぇっ… 」


( 突然、また走り出す男。___慌てるだけの青年 )

____えっ …炎神くんっ!

「: あ…? お、大屋さんじゃねぇかっ やべっ… 」


「 あいつ泥棒だよっ 捕まえてーっ! 」

「:え 」
_________



「 へぇっ… へぇ… へ、へへ…手こずらせやがって… 」

( 桟橋の下に駆け込む男… 誰も、追ってきてないか
… 見渡し、ゆっくりと鞄を開く… )


「 チッ… しけてやがら… …それにしても…
なんだったんだ? あの … バ … カ 」

: ……………


やろぉぉぉぉぉぉぉいっ!?!?!?!


「: お、おぉいうるっせーぞ?
 いちいちオレ見て叫ぶんじゃねぇ 」

85:炎神◆.s:2021/10/14(木) 01:59


「 な ななっ なテメッ テメッ… てて ててて 」

「: …なに言ってっかわかんねぇぞ? 」


______あゝここでひと呼吸


「 な、なんで此処が分かりやがってんでぇ!
お おれぁ走って来たんだぞっ! 」

「: おっ 奇遇だなーっ オレも走って来たんだ 」

「 あ そりゃ奇遇でハハハ… バカにすんなっ!? 」


( …呑気な笑い声が 少しだけ橋のしたで鳴る )


「: ま とにかく悪いコトは言わねぇからよ
 おとなしく… えっと、なに盗んだんだ?お前ぇ 」

「 っ… (こ、コイツ馬鹿だがちょっと怖えな…)
(… 勿体ねぇが、捕まるよりゃ…マシだぜっ!) 」


( … 鞄を、泥棒が差し出す )

「: おー それだなっ! 確かに大屋さんの… 」

「 …ひっひひ、そうだ …こ〜い〜つー だっ! 」


[ブゥンッ!]____ :あぁっ!?


( 鞄が 河に投げ飛ばされる__ )

86:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:10


「 (いまだっ 取って来やがれバカやろ〜っ!) 」




_______[しーん]



「 ……… あり? 」


( 暫く、走った後 … 違和感を覚えて泥棒は振り向く
…馬鹿が川に飛び込む音どころか …投げた鞄の音すらない )



_____だって川の向かい側に…



「: ひ〜 あぁっっぶねぇ〜なーもー… 」


___ その 馬鹿が その鞄を抱えて立ってたからだ




「 ……… え ? 」

( … 自分がさっきまで居たところを見る …
… … 誰も …居ない。… そして向かい側に… )


「( お おれぁ悪い夢でもみてんのかっ!?)」


「: おいっ お前ぇ! 」 「!な"?」



また 自分の目の前に現れた青年

( … 泥棒は目をぱちくりさせて青年を凝視する )



「: ……そぉいや大屋さん お前ぇも捕まえろって
 言ってたんだ … お前ぇ もう謝ったって許さねぇぞ! 」

87:炎神◆.s:2021/10/14(木) 02:31



____て、てめぇ…


「 なんなんだよぉ〜っ!? 」

( 破れかぶれの勢いに任せた拳が青年へと
向かっていく! … しかし、青年 …さらりと躱し )


(__握られる反撃の握り拳)


_____オレは…ジョー


「: 炎・神 ジョー だ! 」 

______________[DOKAAAAAAAN!!!]

88:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:06

 ――もう諦めてもいいでしょう?
 ――もう終わりにしてもいいでしょう?

 だって、私は一人で大切な人はもう居ない、帰る場所も無くなった、守りたいものは全て失った。
 大切なものを一つ失う度に、戦う理由は磨耗していく。

 もう充分足掻いたんだ、私は充分頑張った、だからここで終わっても誰も文句は言うまい。

 さぁ殺せ、と私は『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員達に視線を向けた。
 私の身体は傷だらけ、立っているのがやっとの有り様だ、さぁ早くこの苦しみを終わらせてくれ。
 
 そんな私の願いが届いたのか戦闘員の一人が光の矢を放った。光の矢は夜闇を裂いて、立ち尽くす私の足を貫いた、私はそのまま地面に頽れた。

 けれどまだ息はあった。
 
 戦闘員が私に止めを刺そうと殺到する足音が響く。


 ――これで全てが終わるはずだった。

89:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:07

「そいつから離れやがれっっっ!」


 そう、終わるはずだった、彼が現れるまでは。

 叫びながら私と戦闘員の間に割り込んだ青年は有無を言わさず戦闘員を殴り倒した、彼が私を助けようとしていることは判った、けれどもういいんだ、あなたまで死ぬ必要はない。

「私のことは良いから、あなたは逃げて、もうじき増援がくる、一人じゃ……!」

「……判った、終わるまで生きてろよ?」

「……? それはどういう……」

 その言葉の意味を問う間もなく、それは訪れた、何処からともなく大挙して押し寄せる『黒き神仙(チェルノボーグ)』の戦闘員、その数は数百を優に超えているだろう。
 けれど青年は臆することなくむしろ「……燃えてきたッ!! 」と闘志を燃やす。

「私のために、あなたが傷つく必要はない……!」

「女の子を見殺しにして逃げろってか? それならここであんたと討ち死にするさ、その方がカッコいいしな!」

 そう言い放って、青年は再びチェルノボーグの戦闘員に殴り掛かった。
 青年は烈火のごとき勢いで戦闘員達に拳を叩き込んでいく、ただの人間の動きではないことは明らかだった。
 私と同じ異能者だ、だが数百の敵を相手にたった一人で何が出来る? 現に彼は無数の光の矢を受けてボロボロではないか。
 
「……もういいの、もう充分頑張ったの、お願い…だから逃げて」

「悪いがオレはまだ諦めちゃいねぇよ、諦めるのは死んでからでいい!」

「もう止めて」と絞り出した私の声など聞く耳持たんと言わんばかりに彼は戦い続けた。
 青年は何度傷付いて倒れても、不敵に笑みを浮かべて立ち上がる。
 どうして、私のためにそこまでするのか、理解不能の文字が頭の中を駆け巡る。
 けれど、そんな彼の姿が、私にはどうしようもなく眩しく見えたのだ。

90:鷹嶺さん◆XA hoge:2021/10/16(土) 09:08

 ――そして、長い戦いは終わった。



 青年はたった一人で全ての戦闘員を倒してしまったのだ。
 彼が決して諦めなかったから私は今生きていて、また悪夢のような日々が続くのだ。
 けれど彼ならば、彼とならば、この悪夢のような日々も乗り越えられる気がしたから。

「オレは炎神ジョー、よろしくな」

 私は差し伸べられた彼の手を取り、そして誓った、私の命はこの人のために使おうと。

91:◆.s:2021/10/18(月) 20:46



  _____ジョ… … …目覚めるのだ ジョ ……


( ……暗い 暗い闇の中で )

( 呼び声が響く …オレの名前を呼ぶ声が )


  ____おまえは … おまえは…!



( … 暗い 暗い …それだけが わかる
 けど … 声は響いてくる … 何処から だろう )



_____炎神 … ジョ…………!



   (___)



_____目覚めるんだ …炎神くん


(___?)(…頭を打たれたような 強い感覚に…)



"___誰かの …見えない、顔が雨垂れの中に映った"



____キミは行くんだ 行かなくちゃいけない



____ 行くんだ …炎神 __ジョー… 君____







______おい、起きろ〜!


______起きろって! えんがみっ!

92:◆.s:2021/10/18(月) 20:55


「  う わ あ っ っ っ ❗❗❓️  」


___飛び起きて辺りを見回す


  前に黒板

 周りに友達、下にはノート

 …芯が折れた鉛筆片手に

___あちゃー __あいつ、まただぁ ___ホンっト…


(___上を見上げれば…)



「 💢… え、ん、が、み くぅ〜〜〜んっっ 」

( ___南せんせー )



「 あ。 … っへ えへへ…  」



   廊下に立ってなさぁぁぁぁーーーーいっ


      ((((バカだなぁ…))))




___これは …1人の少年が…


「 はは… またやっちまっ …たぁ… 」




_________"強くなっていく" …おはなし。

93:◆.s:2021/10/18(月) 21:06




_______3年B組、放課後




   今度授業中に寝てたら承知しませんからねっ!



( …学校のチャイムに見送られて
とぼとぼ歩く、路地の真ん中 )


「 … はぁ〜っ …まぁたやっちまったなぁ… 」


_____少年の名前は 炎神、ジョー。 …そう、ジョー



小学三年、好きなものは運動で嫌いなものは勉強

___授業中睡眠常習犯、…いつでも誰かが世話を焼く



「 これじゃあおばちゃんにまた怒られっぞ…?
はぁ〜あ … __……んー 」



(「…公園にでも寄って帰ろ」)





_____人は彼をバカと呼んでいる

94:◆.s:2021/10/18(月) 21:18



___彼、ジョーは遊具の中でもジャングルジムが好きだ



[ト、ト、ト]____「 …っへへー! 」

( ランドセルを下ろして、足を踏み締めて…! )


[タンッ]「 とぉーっ! 」

( 掴んで、足を入れて… 昇る
掴んで、足を入れて… 昇る、昇る!
無邪気な心はそれだけの事が楽しいのだ… )


[グン]__「 よっ、と!… 」 

( …けれど、彼は少しだけ )


…少しだけ、早くなったかな…



___少しだけ、"違う"ところが、あった



( ___てっぺんに登って 高い所をを座って眺める )


「 ……… 」


( _____彼は… )



____おぉーい! …えんがみーっ


「 …っお? 」

95:◆.s:2021/10/18(月) 21:26


_____公園の入口から… 少年を呼ぶ声



「 やっぱここに居たなーっ おーい 」



____炎神と …同じほどの子供



「 …テントじゃんかぁ 」


( 彼を呼ぶ友達、…名前は"典都"
炎神少年とは仲が良く、色んな事で
よく、彼を呼びにくる …そんな子だ )


「 原っぱの方で鬼ごっこやるんだよーっ
あんまり集まってねーからさーっ お前もこいよーっ 」


____大きな声は 耳を塞いでても聞こえるほど



「 っぇ〜っ、オレ これから帰るトコだぞぉっ!
遅れたらおばちゃんに怒られちまうよぉっ! 」



「 ウソつけよ〜っ 公園に居るじゃねーかーっ 」


「ぎっ…」

96:◆.s:2021/10/18(月) 21:49



「 …わかった、行ってやっから
おばちゃんにはヒミツだぞ! 」

「 やり〜っ! 」


_______駆けていく二人





________変わることのない日常

______穏やかな平和の風景。……



( _____夕暮れ時 )


「 ーったく… もう暗いじゃんか… テントのやろ〜…!」



_______転機、そして



「 … ん? 」


_____影は … 同時に訪れる

97:◆.s:2021/10/18(月) 22:09



( …暗い筈の公園が妙に明るい
人の騒ぐような音も聞こえる )


「 …? 」


( …いつも、自分が使ってる公園でもある
その場所に 何時もはない事が起こっている
…怪しげに思った少年は、静かに公園へと近寄った )



__木が組まれて焚き火の明かりが公園を照らす
…少年よりも大きい青年が集まり、焚き火を囲って
やたらと、大きな声で騒ぎあっている


「 …(…なんだ、あれ) 」



( 妙で、異様にしか感じないその光景は、夜という
暗闇もあり 少年の心の中で小さく、恐怖に変わった

__今も 青年たちは囲う焚き火に木を投げ入れて… )



「( …あんなに…木、どっから… )」


「 おい 」

_____わ"っ⁉️

98:◆cE hoge:2021/10/19(火) 22:06


「箱庭の幸せ」

 凛と美しくそれでいて冷たく。慈悲の心も必要だが上に立つにはそれ以上に冷酷にならなければいけない。それは小さい頃からずっと言い聞かせられてきた事だ。
芸事に帝王学に武術、そして毒殺されることがないように日頃から接種する致死量ぎりぎりの毒。外で能天気に遊んでる子達をみると羨ましかった。だけどそんな弱音を吐いてる暇などない。もっともっと頑張らなければいけない。お爺様や周りの期待に答えるために。「辛い」「逃げ出したい」そんな言葉を胸にしまい笑顔を作り過ごしていた。

今日は月に一度の家族での食事会。さっさと終わればいいのに。そんなことを考えながらナイフを動かし食べ物を口に含むと土のような苦い味が広がる。最初は毒でも盛られたのかと思いそっと周りを見渡すがそんな様子もない。それに毒だとしたら痺れもなにもないのはおかしい。ただ泥のような味が口いっぱいに広がるだけ。無論周りの家族は美味しそうに食べてる。最初はその日の調子が悪かったのかと考えていたがそれが1ヶ月も続くとなるとそういうわけでもない。後日、 医師から告げられた病名は味覚障害。原因はストレスらしい。治るのは難しいとも言われた。それでもその頃にはそれを周りに隠し通せるだけの笑顔が作れた。味の感想を求められたら、匂いで察すればいい。

生活も味も、ただただ灰色な日々。そんな中一人の少女と出会った。名を初鹿 柚希。お父様が多額の出資をしている実験体。たしか自己再生能力を人為的に植え付けられ、自我を保ったまま副作用は特にない珍しい個体だと食事会で言っていた。
自分の置かれた状況も分かってるなかそっと声をかけてきた彼女はこちらに手を差し出す。その手には一つのサイコロキャラメルがあった。

「これ。あなたにあげる…、そんな顔だとしあわせもにげてくよ」
「甘いのたべるときがらくになるでしょ。ほんとはダメだけど優しい先生が頑張ったからごほうびにってくれるの。ないしょだよ」

 そういってにっと微笑む彼女は年相応の笑みを浮かべてわたしの手の中にあるキャラメルをじっとみる。どうせまずいあの味が広がるだけ。そう考えながらキャラメルを口に含む。
 
「………、あ、まい」
「でしょ、ふふっ、あんま他の子にはあげないからあなただけは特別ね」

なんで。味が。そんなことが頭の中でぐるぐる回るが目の前の少女はお構い無しに目を輝かせて私の手をとりニコニコと微笑む。まぶしすぎるその笑みにそっと目を細める。

「なんで、わたしとなかよくしようとするの?」
「おともだちになりたいから、かな…あなたは嫌?」

「そんなことない」
「…!ほんと!わたしはね、はつかゆずき、あなたのお名前は?」
「……、りょうしゅうめい」
「じゃ、しゅーめいだね!わたしのことは」

「ゆず、…ゆずきならゆず呼びでもいいでしょ」

 うん!と頷いた彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら頷く。灰色の日常に色が戻ったあの日、わたしはたった一人の友だちを守ろうと決めた。たとえどんな手を使っても。それがわたしができるこの子への贖罪だから。

 

 

99:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

( 渾身の力を込めた拳が道化師の眉間にぶち当たるっ )

    ギ!ぃ!! やぁアァあィァァィァーッ!!!


「 やっ た__! 」

耳にぞわりと響いて背筋を凍らせるかのように
重く …不協の連なるような悲鳴… 歌姫は"油断"する。


「 (あ 当たった…?) 」

___疑問 …しかし、炎神も "止まる"。




ァー  んンンン______________


   なワケなァいですよねェァッッハ!ハー!


[ひしっ]「 い"っ 」

『 ジ ョ ー カ ー ☆ マ!ジィッッックのお時間でェす!! 』


( 突然五体満足大サービスに炎神に抱き付く道化師は__ )



[ (ピ☆エ☆ロ だァ〜い爆発音!!) !!!!!! ]

______自爆!! !!

100:◆.s:2021/10/22(金) 01:57

___ぇ …

「 えん…がみ…っ __! 」



絶望を焚き付けるように …彼を巻いて起こった
愉快なおかしな大爆発 …残る煙に 歌姫は放心する…が



____ぁ … ちィ…っ!




( 煙の中からあの、…元気な声が聞こえる
…何ともないような声が 安心を呼ぶ、あの声が )


「 ! …えんがみっ! だい…じょうぶ っ? 」


____そして …煙の中から出てくる


「 おぅっ… あんっ…のヤロー…っ
とんでもねぇヤツだ… … あぁ、オレは… 」

( …満面の笑みを 炎神は返す )


「 大じょ……



______…!!ウウウ夫でなァによりィィぃ〜〜〜ッッ!!! 』



    ____ "ジョーカー"の醜悪な笑い声


「 あ__っ? 」  ____ピィェぇ!ロ。"キィッック"!!


(__背後からの全力ドロップキックに吹っ飛ばされる炎神!!)

101:◆.s:2021/10/22(金) 01:58


「 …ぁ、が___っ 」

( …手足は 自由、だから "もがく" 歌姫。
__けれど、それは 鎖 …硬くて、首に巻かれて… )


____それを引き千切れる炎神も…


『 さァてェー、時にィ …エーット,ダレダッケ?
セィラフサン? あァなたナ!メちャいけませェんよ 』


『 ヒー、ロー。であァる以前に此処って何処でェすか?』


八百屋? (大根と人参両手に看板背負って)

空港? (旅行姿)

学校? (学生風)

それとも憩いの場ッッ!? (女装。)



       違ァう!!


『 "せェぇェんじょォう"でェすよ!"戦場!!" 』


_____背後に燃える炎が道化師の顔に影を作る

102:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

『 "ルール!? 安全!? モラル!? ウマイ飯!?"
 そォんなモノだァれが保証してくれるんでェすかッッ!? 』

ぱっ。

____道化師が鎖から足を退け…



[がぎゃりぃっ!] 「ぅあ"…___っ」


____地に足がつく少し前で鎖を掴んで止める

…ついでに歌姫の目の前___



『 後ィろでピーヒャラ歌ァってりゃワテシが見逃ァしてくれる…
と!でも思ォいまァしたかァ!? 残念ッッ 』

『 敵は平等なァンですよ!! …そ。
 あなたがたが好ゥきなねェアハ!ハ!ハ!ハ! 』



___っや … やめろっ…!


『 !!! !!! …ァ、"!"付けるの疲ァれる。
 ま 置いといて ォォやおや。 』

103:◆.s:2021/10/22(金) 01:58

____…脚を引き摺り …地べた這ってでも…


( 近くまで …戻って来ていた炎神が必死で声を出す )

「__っ…(ぇん… がみ…!)」



「 お… オレ… と …たたかえっ…! 」

『 まァだ起きてたんですねェ、少ゥ年クン。
… ま いィでしょ。… ネ?ネ?セィラフサン? 』


[ぎりぃっ]___鎖にナイフを刺し …固定する


『 あァなたこォんなコト …言ィってませんでした?? 』


____酸欠で視界の揺らぐ歌姫など尻目に
 軽い足取りで炎神へと道化師は脚を運ぶ


「…っぐ…!」
『 ト・モ・ダ・チ だァいじ。…なんて!
なァんて綺麗な言葉ですかねェェ… …それで 』


____っ…!


[きんっ]


『 ペチャクチャ綺麗事言ってればこの少年は救えましたか?? 』


_____炎神の真横に座り… ___ナイフを背中に向ける

104:◆.s:2021/10/22(金) 01:59

「 っ…!…ぅ…__! 」

( 精一杯に、もがく もがく…けど
鎖は固く …冷たい、現実を突き付けるように )


『 言ィっときまァすが。ワテシは正しい事ォしか
しちゃいないィんでェすよ!!ワテシは__


___っだ …だまれぇっ!  『あ?』

「 … ぉ、…オレぁまだ生きてんだぁっ
勝ったみてぇに… 言うんじゃねぇーっ!!!」




_____言葉を …炎神が遮る



『 … まァ、こォーゆー事ですねェ … あァなたは結局。
他人に頼らなァいとなァんにも出来やしないィンです 』


______…ぎりっ

(___…歌姫は強く、鎖を握る)



『 だァから教えてあァげますよ …

 こ☆の ジ ョ ー カ ー 。が 』



(__…地べたで歯を食い縛る炎神)

「 (っだ…駄目だっ…!チカラが入らねぇ…っ!) 」


『 "チカラない"…"にんげェん"の … 』


『 げェぇんじつ を _____ ねぇェッッ!!! 』






_____(セラフ 覚醒に続く)

105:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

      Canticum, haec vox in aeternum
「─────『歌よ、この声をどこまでも』」

それは声であった

鎖に繋がれ、縛り上げられていたはずの喉を無理やりに開いたその声は、ただひとつ、なんの抑揚も感情もなく、その場に落ちる雫のように響き渡った

「─ァ?」
「…せ、ら…?」

その言葉に、その場にいた2人が反応を示す、ありえない、と、違う意味を持った同じ言葉を考えながら



『──始まる、destroy、終わりの音が鳴り響いた─』


ぶわりと、空気が揺れる

歌、それは歌だった、歌のはずだった


「っぐ!?」


轟音、爆音、歌と呼ぶには、歌姫の、あの美しい歌とよぶには、それはあまりに暴力的なそれは、振動とともに地面を揺らす

カランッと、その振動によって鎖を固定していたナイフがおち、ガクンと彼女の体が崩れ落ちる

──ことはなく、ゆらりと、彼女は傾いたからだをおこし、顔を上げる

『─邪魔をしないで』

目を見開いていた、目線は1点に、うたっていた、

『異常』

それこそが、現状の彼女にあう、唯一の言葉である

106:◆RI:2021/10/22(金) 12:31

『──like an Angel─細胞の奥から、叫ぶように歌う破滅を─!』


焦点が揺らぐ、その顔に感情はなく、その瞳に色はない
ステージ上の『歌姫』とはまるで違う、ただ歌うのみの機構

『─Evil,Evil─あなたも─Evil,Evil─本当はきっと願っているんでしょ』


自身の
身体強化
状態異常回復
欠損部修復
防御力強化
攻撃力強化
リジェネ付与

対象の
身体能力低下
状態異常付与
防御力低下
攻撃力低下



「っっ──!!セラフ!!!」

ぞっと、その言葉の羅列に、あまり覚えない恐怖を感じた

たしか、セラフ入っていたはずだ、異能を発動する時のデメリットを



【わたしのいのう、うたうえばうたうほど、せいしんりょくが、なくなる、ちゅうい】


いっていた、そうだ、セラフはいっていた!
あの歌に異能が含まれているのなら、彼女の精神力は今も削られ続けている
なのに


『でも、いや、いや、嘘つきまだ、まだ』



彼女は、歌い続ける、永遠に


ガンッと、鈍い音が鳴る、それは彼女が壁にアビリティブレードを突き刺した音である、


神の純潔、そう名付けられた彼女の武器、その本質は重力操作


『足りないや─ねぇ、痛みが』






『─滅びは快感』


それを突き刺した壁が、振動によってくだけ、

─浮く

そこでようやく、彼女の人形のような無表情に口角が上がった『笑み』が見える



一瞬の隙もなく、乱れもなく、無数の瓦礫が、道化に襲いかかる


「─あ、は」


暴走
セラフ・パライバトルマリン

正常調整────────────不可

107:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

『パライバトルマリンの煌めき』




「セラフは本当に歌が上手だね」

いつだったか、──に言われた言葉だった

優しく頭を撫でながらそう告げられて、とても幸せだったことを覚えている

歌うことが好きだった、──が褒めてくれるから、いや、ほかのことだってもちろん褒めてくれるのだけれど、

でも、自分の好きな事を褒めてくれるのはほかの何を褒められることよりも嬉しかった







アイドルになれたのは、本当にただの幸運だった

街でたまたま、話しかけられて、そういう事務所のスカウトをうけた

そこでたまたま、私の歌が絶賛されて、たまたま流れにのっただけ




はじめてヴィランに遭遇したのは、少し私が人気になってきたときの、ライブだった

大勢の人、私のファン、みんながヴィランに襲われる、それは私も例外ではなく、その時の私は、まだ逃げるしかできない群衆のひとりだった

結果としては、死人が出る前に、駆けつけたヒーローによって、事件は集結した


私は何も出来なかった

みているだけ


誰も私を責めやしなかった

むしろ、この事件がトラウマになっていないかとすら心配され、精神的治療として休みをいいわたされた

あたりまえだ、相手はヴィランで、私はただの一般人なのだから

108:◆RI:2021/10/28(木) 20:08

正直に言うと、気に食わなかった

いやだって、だって、おかしいじゃないか

私のライブに乱入して、私のファンを傷つけて、あれは笑っていたのだ

ヒーローがくるまで、その状況を、今後許しておかなければならないだなんて、絶対に嫌だ



ならば、どうしたらいいかなんて、ひとつしかないのである





「っげほっ、げほ、」

初めは酷いものだった、私の異能は戦うのにはあまり向いていないから、対応できるようにするには歌い続けるしか無かったけど、そうすれば精神力を永遠と削られる

「…っ、…」
だから、はやく、なれないと

109:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「あの!私と!ヒーロー活動をしていただけませんか!」
「!」
ヒーローの真似事をし始めて、だいぶたったころの握手会で、それは起きた
いつも来てくれていた人が、私の手を撮った瞬間に、そう叫ぶように告げた言葉は、私にとっては驚愕の一言だった
一応、アイドルをしていたから、ヒーローの真似事のことは公表していなかったし、そもそも私を誘ってメリットがあるのか、なんて考えていたのだけれど

「っ…!」
「───、ふふ」


その後、オフの日に握手会で告げられた場所を覗いてみれば、私を見た途端にその人はひっくりかえっていたから久しぶりに笑ってしまった



灯莉と出会って、アビリティブレードを手に入れてからは、灯莉に教わりながらも、ヒーロー活動をするようになった
まぁさすがに大きく動くことになるから、アイドルと兼任する、と言った時には色々とあったのだけど、ファンたちもお世話になった人達も、最後には応援してくれた


「やはり、あなたの歌は素晴らしいですね、セラフさん」
「…、んふ、ともり、またほめる」
「あたりまえです、すごいものはすごいと言います、それは、ファンとしてもですが、ヒーローとしてだって、あなたの歌は本当に素晴らしい」
「………」

素晴らしい、らしい、私の歌は、あまりにまっすぐ言われるから、少し目を逸らしてしまった

歌は私にとって、生きる意味で、生きる手段

わたしの、そんざいいぎ

110:◆RI:2021/10/28(木) 20:09

「駄目だよ、セラフ」
「え」

ヒーロー活動を始めて、アイドルとしても有名になって
久しぶりに、──のところに行ってみれば、一言目にそう言われた

「…なに、が?」
「むちゃしてるでしょ?」

驚愕、なんで分かったんだろう、あかりにも、しずきにもばれてなかったのに

「聞いてるよ?ヒーロー活動してるんだってね、でも無理だけはだめ」
「…うん」

──の言葉に、素直に頷くしか無かった、頭が上がらないほどお世話になったから
しゅんとしているわたしをみて、──は少しして笑って、私の頭を撫でた

「セラフは頑張り屋さんだからね、でも大丈夫、セラフならできるから、むちゃしなくても、きっと大丈夫」

──ほんとかなぁ、できるかなぁ

「できるできる、僕が保証する、セラフはすごい子だもん」

──そうかなぁ、わたし、すごくないよ

「すごいよ、セラフは、だって今まで、ずっと頑張ってきたでしょ?それはすごい事なんだよ、なかなか真似出来ないことなんだから」


「だから、がんばって、でもむりはしないで」



「お兄ちゃんのかわりに、幸せになるんだよ、セラフ」




───うん、分かった

「まかせて、おにぃ」

111:◆RI:2021/10/28(木) 20:09


おにぃは、昔から体が弱かった
いつも病室のベッドから動けなくて、それでもいつも優しくて、いつだって、だれよりも強かった



「おうえん、してる、から、ね…せらふ」



それだけ告げて冷たくなったおにぃの手をずっと握っていた



「────うん、まかせて」






「セラフさん!あたらしい仲間ですよ!」

「セラフさん、…その、技の訓練に、お付き合いしていただきたいんですが」

「こーねこちゃん、今日も元気だなぁ」

「せらふ、今宵も良き歌であったぞ」


「セラフ!お前の歌やっぱすげえな!」

112:◆RI:2021/10/28(木) 20:10

─────────歌

それは私の存在意義、私という存在の全て



「『─いま、いま、いま、誰かの声が聞こえる─』」


歓声、喝采、それが私の証、私が生きているという証明


スピーカーから流れる音、熱い照明の光、暗闇に光るサイリウム、ファンの私を呼ぶ声、それら全てに私は目を向ける

生きている、私は生きている

身体中に認識させられる『生』という感覚

その感覚に体が、心が、声が興奮に震える



─あぁ、わたし、いま、いきてる




『おうえんしてるからね、セラフ』



どこまでもどこまでも、歌え


遠い場所にいるあなたに、届くように


「おまたせ、あんこーる!」

113:鷹嶺さん◆XA:2021/10/31(日) 11:03

『BITTER END』

 
 諸悪の根源ベテリゲイーゼとの最後の戦いから半年の時が過ぎ、世界は平穏を取り戻しつつあった。 





 今日は久しぶりの雲一つない快晴、こんな日はあの頃のように外でお弁当を食べたくなる。 
 お弁当箱におにぎりと卵焼きとジョーの好きなミートボールと他にも色々詰め込んで、新調したばかりのパーカーに袖を通し、冴月は玄関の扉を開けた。 

 外は少し風が冷たいけれど穏やかな日射しが心地良い。自然と足取りも軽くなる。 

 向かう場所はそう遠くない霊園。花と木がたくさんあって何より静か、冴月のお気に入りの場所だ、もちろんお気に入りの理由はそれだけではない。 

 30分ほど歩いて霊園に着いてみれば、緑の髪の少女が一人、陽だまりのベンチで寝息を立てている。どうやら彼女も考えることは同じらしい。 
 無防備に陽光を浴びる少女の頬、アイドルなだけあって綺麗な肌だと感心しながら指でつつく、いつかの仕返しだ。 

「ん〜……あ、さつき、おはよう〜」 

「おはよう、セラフちゃん。あなたも此処に来ていたのね」 

 横たえていた体を起こし、猫のように伸びをするセラフの隣に腰を下ろす、前から思っていたことだけどこういう仕草が本当に猫みたいだ。 

「うん、いいてんきだから。さつきは?」 

「お弁当を食べに、あなたも食べる?」 

 セラフはその問いに当然とばかりに首を縦に振る、冴月はミートボールを一つ箸で掴みセラフの口へ運んだ。 

「みためどおり、おいしい」 

 それから冴月とセラフはお弁当を食べながら、世間話に花を咲かせた。 
 横目でおにぎりを頬張るセラフを見ているともう会えないジョーのことを思い出してしまう、あぁ、あれからもう半年か。 
 こうして二人並んでお弁当を食べて、セラフが乱入して灯莉に呼び出されてスコーピオンに遅いぞと怒られて、『黒き神仙』と戦って……。 
 とても辛かったけど、それと同じくらい幸せだったあの日々はもう戻っては来ない。 

「ありがとう、セラフちゃん、ジョーのためにこんな素敵な場所を見つけてくれて」 

「じょーはせかいをすくったひーろー、これくらいとうぜん」 

 セラフは胸を張って言う、実際にあれこれしてくれたのは灯莉さんだけど、お金はほとんどセラフが出したと聞いている。 

「それに、ここならだれにもじゃまされずにひなたぼっこができる」

「そうだね」

 それだけ言って冴月は立ち上がり歩き出す、色とりどりの草花に囲まれた墓碑が立ち並ぶこの霊園は、彼には似つかわしくないくらい綺麗な場所だ。
 本当に似合わないなぁ、そんなことを思いながら、冴月は一つの墓碑の前で足を止める。


「ひどいよ、ジョー。こんな世界に私を置いていくなんて」

 冴月は墓碑の前に膝をつき、冷たい墓碑に手を当てて囁く。

「ずっと一緒だ、って言ってくれたのに」

 頬を涙が伝う。

 「私の幸せはあなたにしか守れないのに――!!」

 零れ落ちる滂沱の涙を止めることはもう誰にもできなかった。


冴月ルート完

114:◆cE:2021/11/01(月) 21:56

「箱庭の友愛」

ここは、どこ…わたしは、わたし…

「…ず、ゆず!…ゆずっ!」

そんな顔しないで、泣かないで、悲しまないで。わたしは雪梅じゃないから笑顔にすることも守ることもできないの。

「なか…ない、で……しゅ…めい」

「……っ!泣いて、ませんっ!あなたがっ、ゆずが勝手にどっか行ったりするから!怒ってるんです!」

うん。分かってるよ。ずっとずっとわたしのこと、ボクじゃない「ゆず」のこと待っていてくれてたんだもんね。

「あなた意識も不明な重体だったんですよ。また、あなたを今度こそ命がなくなるかもって……わたしの唯一の友だちをまた、なくしてしまう、かもって、」

ごめんね。そうだよね。わたしたちは小さい頃からずっとお互いを守ってきた…。わたしがわたしじゃなくなってるときだって。

「あり、が…と 」

「無理して喋らなくていいんです!今はゆっくりっ」

だめ、今じゃなきゃ駄目なんだ。ずっと待たせてきたんだから。

「 しゅう、めい…ボクとわたしと……もういちど、朋友に、なって……くれる? 」

「そんな、馬鹿げた質問もう一度したら今度はぶん殴りますからね、そんな、そんな言われなくたって当たりまえじゃない!」
「今も昔も変わらずわたしはあなたのゆずの朋友…ですよ」


もういちど、最初から

115:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:17



[____ Modifying ]



  ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハシメイヲマモル ワタシハセカイヲマモル



[____ Modifying ]



  チカラヲモチスギタオマエタチハイズレホロビル

 ダカラワタシハオマエタチヲハイジョスル ハイジョスル


   コノセカイニオマエタチハフヨウダ


[____ Modifying ]



  コノセカイカラキエロ キエロ! イレギュラー!


      キエロ ___"エンガミジョー"。


[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

[____ Modifying ]

116:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:23


 ハイジョスル ハイジョスル ハイジョスル__


[____ Modifying ]


 ハイジョ__ セヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ

     ハイジョセヨ ハイジョセヨ ハイジョセヨ!




_______歌よ




[____ Modify... ]

[____ …error ]


 __ …ジリツハンノウプログラムニイジョウヲカクニン


 "フメイナオンセイ"。__イジョウノゲンインヲトクテイ



[____…error]

117:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:30


 __サイケイサン __イジョウノゲンインハ

   アノウタゴエ アノいれぎゅらーノモノ__カ


[____…error]


[____…error]


[____…error]





 __アリえナイ タカがニんゲンノコエガ




_____この声を … 


[Error[!]]


_____ニンゲンノ … コエガ



  …ワタシハマモルタメニウミダサレタ

 ワタシハマモルタメニウミダサレタ

  ___…ソウダ … ワタしハまモるタメニうミダされタ



[___[!][!] __feed error[!] ]


[ systems checks[!]error[!]
 Modifying [!]program[!] ]

118:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:36



____…マもる __タめに うみだサれた


[____… error[!]]
[___原因を解析中]







____… そうだ まもるためにうみだされた

___…まもるためにうみだされた




__… まもるために …うみだされた


_… マチ、 … シゼン、… ニン、ゲン … ヒトビト



____ワタしハしメいヲマモル ワタシハセカイヲマモる




_____「どこまで… ___も」





…うた __ごえを



 [___[!]feed error[!]] 


[___原因を解析中 ___一時停止]





… マもり ____た… かっ__た

119:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:44



__… いつまで ___いつまでくりかえす


[___…自立反応プログラム[!]__]



_…もういい __ヒトはくりカえす ヒトはマなバナイ…!



_…だが __ それで … それをくりかえして


… __まもれなかった



__________






… いまでもワスれたこトは …なイ



… __わたしは 


____ … セラフ …


____…あなたの … ___



______… … 街並みで __…笑うあなたの…



___… かぜのおとを ___… … あなたの こえを



… … あなたのうた … もういちど ____






___ … ききたい



 … ___わたしの …てに あわせて


___ … わたしの ___はくしゅ …に __わらって




… __ … …みんなと ____いっ …しょ ___に





[ __________[ 再起動 ] ]

120:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:50


[______[ 再構築… ]]


___… …あなたの手も …随分冷たくなった


___… … みんな …みんな … 


___… … … … だから … もう


___… … … … 眠りなさい … 目を閉じろ




___… … … … …あの声がまた …聞きたい





___… … … … … あのうたが …聴きたい




________[ 再構築完了 ___起動 ]




____……荒廃した世界を 人類を再生する


____……お前たちは … 力を持ちすぎたものは




         不要だ。

121:???◆.s セラフ:2021/11/02(火) 22:52

[____ Modifying ]


___修正プログラム 最終レベル



[____ Modifying ]


____全システム チェック終了



[____ Modifying… "START" ]




       戦闘モード …起動

122:◆Qc:2021/11/13(土) 00:06

『新月』[シンゲツ]
────一度『死んだ』月族が所属する。
────彼らは元よりも強大な戦闘力を身につけている······が、再び現世に舞い戻った時、自我を擁しているかも怪しい。
────今確認されている『新月』は······ソウゲツ族の3人か······葬、想、碧······ふむ。
────心苦しい者もいるかも知れないが、他の月族にも通達する。


彼らを見つけ次第、捕縛すること。その際抵抗があれば、もう一度殺しても構わない。


──────────────────


とある街に双月はいた。······で、その彼女の目の前には、どう見ても······想月がいる。
「「······で、想月。こんな事が『カグヤ』の会議で決定されたんだけど。どうするの?」」
「······それって、議長······つまり命月さんの独断ですよね?」
「「わたしにはそう聞こえた。だから捕縛はしないよ。······それより、他の二人は?」」
「わかりません。あそこから出てきた時······いつの間にか居なくなってました」
「「そっか。······困ったな······」」
ほとんど同じタイミングで眉を寄せる双月。相変わらず不思議だな、と想月はぼんやりと考えていた。
「「······とりあえず、わたしはしばらくこの街にいる予定だから······そうだね、ここにいるといいよ。ちょっと今厄介な依頼を受けてるんだけど」」
「依頼······?」
「「雑兵を蹴散らしたり強い敵と戦う依頼······だね。もしかしたら想月にも協力してもらうかもしれないよ」」
そこで想月は自分に備わった能力を思い返した。······祈れば災害が訪れる。確かに雑魚を蹴散らすには最適かもしれない。······だが、『魂の消耗』は未だ日常を苛んでいる。ましてや戦いなどどうだろうか?······その思考を知ってか知らずか、双月は四つの目で想月を見つめる。
「「······なるべく早めに他の二人も見つける。それまで······待ってて」」
二人同時に微笑むといっそ不気味に見えた。······が、意思は伝わった。

······どれほどかかるのか想像もつかない······が、それまで。精一杯生きていこうと想月は誓うのだった。

123:◆RI:2021/11/17(水) 23:21

『いい子の秘訣』



「夢は本当にいい子だなぁ」

そう言って頭を撫でられる、その暖かい手が好きだった

「夢はいい子ね、じゃぁ今日は夢の好きな物作っちゃおうかしら」

そういって髪を梳かれる、その優しい手つきが好きだった




まま!ゆめおさらあらった!

「あら、ありがとうゆめ」

ぱぱ!ゆめテストで100点とったよ!

「お、ほんとうかい?さすが私の娘だ」





ママ、この間のコンクール、金賞だったの

「あら、そうなのねぇ」

パパ、この間の大会、優勝したんだよ

「そうかい、それで夢、今度の集まりなんだが…」




─褒められたかった、ただそれだけ

小さい頃、パパとママに褒められて、認めて貰えたことが嬉しかった


もっと頑張れば、もっと褒めてもらえるんだって思って、色んなことに目を向けた


でも、こんなのじゃだめ


パパとママ、…いや、春夏秋冬の家の人は、みんなすごい人ばっかりだった

オリンピック選手に世界的に有名なデザイナー、ハリウッドにも出る女優俳優や、政治家、社長

パパとママも、その1人

でも、私は違う

知ってる、私には、そんな才能はないって、それでも、頑張れば、努力すれば、きっと

死にものぐるいで取り組んで、死にものぐるいで努力して

そうすれば


「───え?」
「だからね?夢、私たち海外出張に行くことになったから、1人でおうちを任せたいの」

なに?それ

「本当は夢にもきて欲しいんだけど、お仕事が忙しくてね…あっちでも家に帰れそうにないの、それに海外で1人にさせるよりかは、日本にいてもらう方がまだ安全でしょう?ほら、生活だってこっちの方が慣れているし」

「一人暮らしってことになるな、安心しなさい、もちろん仕送りはするよ、たくさんね、好きなものを買うといい」

まって、まって、だってわたし、まだ

「ゆめはしっかりした子だから、きっと大丈夫よね、お料理だってお洗濯だってできるし、私の手伝いをしてくれるから、ゴミ出しなんかも分かるでしょう?」

「夢なら安心だよ、なんたって私たちの娘だからな」





「…うん、わかった、ゆめできるよ」


そう、いい子、私は2人の子供だから、できるよ


1人でご飯食べるのも寂しくないよ

1人で帰るのも寂しくないよ

1人でいるのも寂しくないよ




だから、かえってきたら、いっぱい────

124:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

『運命になった日』

「っは゛、ぁ…っ」

口から血が溢れるのを無視して、迫る攻撃をギリギリのところでよける

「っ、げほっ」

だがそれのお陰でさらに体が重くなる、まずい、まずい

雛も凛も、俺と同様自分のところに必死で他を助ける余裕はない

夢は結界のなかに閉じ込めておいたから、外から干渉されることがないのが唯一の救いか、戦闘に集中できるのはたすかる、けど

「(っこれ…絶体絶命じゃないですかね…!)」

怪我は重症、これ以上動き回れば致命傷にだってなりうる
そもそも出血の量が不安だ、致死量に到達していないことを願うしかない

敵の数は減るどころか増援によって増える一方、もう詰みだろうとしか言えない状況に、もはや笑みさえこぼれてくる

「っにぃ!/兄様っ!」
「!」

一瞬にも満たないであろう、思考の停止
その隙を、戦場が見逃すはずがなく、目の前には既に妖魔の首魁が立っていた

「(かいひ、ふか、うけながし?むり)」

絶対的な死の感覚、脳を埋め尽くす言葉、それでも、この攻撃を免れる策は浮かんでこない

必死に体を動かそうとする俺を嘲笑うかのように、そいつは俺に向かい、刃をむける





あ、し ぬ






「っ……!!」


次の瞬間、俺を襲ったのは、敵が繰り出した一陣ではなく、暖かい、水のような


「っは」


霞んだ視界をみひらく


ももいろのかみ

くろいふく


・・・・・・・・・・・
わきばらをつらぬくそれ

あか

あか

あか


「っゆめっっっ!!!!」

うしろから、ひめいのような、こえがきこえた

それが、いもうとのどちらのほうなのか、はたまたりょうほうのこえだったのかは、わからない




ずるりと、わきばらから、てきのぶきが、ひきぬかれる

あふれるあか、あか、あか


「…ぁ……ゅ……、ゆ、……め…」

りかいできない、したくない、どうして、どうして


「……す、ぃ……れ…さ…」
「っ!!」

かぼそいこえが、あのこのこえが




「……ょ、か…、た」

べしゃりと、その言の葉を吐いた瞬間、彼女の体は、自分が作り出した血溜まりへと落ちた
なおも広がる赤色は、どうみたって、もう



ぎぎぎぎぎ、と、音が鳴る
今にも事切れてしまいそうな彼女に、トドメをさそうとする、悪意


ぶちんと、奥底の、なにかが切れる音がした

125:◆RI:2021/11/18(木) 23:09

「……、」

目が覚めると、知らない天井だった


なんて、よくありがちな導入を使うことになるとは思わなかった、なんてことを考えながら、薬品の匂いと白いカーテンから、ここが病院か、それに近いどこかなのだと理解する

なにがあったんだっけ、目覚めたばかりのぼやけたあたまは、それ以上の思考をうまくまわしてくれない


どうにか思い出そうとして考えていたら、ガラリと音がしたような気がした

「おはようゆめ〜、今日は天気がいいから、カーテン、を…」

ベッドの周りに掛けられているカーテンを開けて話しかけてきたのは、わたしのともだちだった
そちらを見やる私を見て言葉をとぎらせ目をみひらくひなたんは、色んなところに包帯を巻いていて腕なんかは折れているのか、首から支え布で吊り下げられていた

「……」
名前を呼ぼうと、口を開くも、そこから出たのはかすれた空気だけで、その時ようやく自分が人工呼吸器をつけていることに気がついた

「ゆ、──っ!ゆめ!起きたのか!?意識は!!どこか変なところはっ!?」

そんな私をみて我に返ったように駆け寄り、まくし立てるように声をかける
声が出ないからがんばって首を振って応答すれば、ほっとしたように肩を下ろすのが見えた

「っ、…あと少しで、死ぬかもしれない所だったんだ、駆けつけてくれた甘音さんが、治療できる子を手配してくれたからどうにかなったけど…ほんとに、しんでたかも、しれないんだぞ…」

どんどん語尾が小さくなっていく言葉を紡ぐ彼女と、死にかけていた、というそれでようやく、自分がなにをしたのか、何があったのかを思い出した



睡蓮さんが、危なくて、気づいたら、結界から抜け出して

そう思って、自分のお腹の方を見る、服は患者服らしいものになっていて、傷は見えない

「…傷は、残らないよ、治療してくれた子が頑張ってくれた、でもほんとに致命傷くらいの傷だったから、当分は絶対安静だぞ」

私が考えたことに気づいたのか、ひなたんは安心させるように頭を撫でてくれる、暖かいその手に、さっきまで寝ていたのに、瞼が落ちそうになる

「…いいよ、ゆめ、寝よう、大丈夫、また明日も来るよ、凛にも甘音さんにも声掛けておく」

あれ、?、すいれんさんは─?









「───ごめんな、夢、今のにぃを、夢に合わせるわけにはいかないんだ」

沈んでいく意識の中、その言葉が響いた

126:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

それから、毎日色んな人が私の病室にきてくれた
ひなたんはもちろん、りんたんも、甘音さんも、私を治療してくれたらしいしおりちゃんも、

でも、睡蓮さんだけは、いつまで経っても、私の前に現れなかった



かたん、と、なにかおとがきこえた

その音に目を覚ませば、まだ夜中なのか、部屋はくらい、音の主を探そうと目線を動かす


「…ぁ、…」

そうしてみつけたのは、私の手を握りしめて、顔を伏せている彼の姿

「…………」

すいれんさん、と声を出そうとするが、寝起きだからか上手く出てこない
久しぶりに会えた彼は、暗闇のおかげで顔が見えない

「………なんで」

この無言をどうにか出来ないものかと思考していると、声が聞こえた

「…なんで、おれをかばったんですか」
「──」

その声は、今まで聞いたことがない声色だった、初めてであった時ですら、こんな声は聞かなかった

「……たのむから、もう、おれのまえで、けが、しないでください」

ぐ、と彼の震える感覚が手を伝ってわかる
ようやく暗闇に目が慣れてきて、彼の顔が見える

「い、やなん、ですよ、もう、あたまが、ぐちゃぐちゃ…に、なって」

声が、体が、震えている


「…あなた、が、うごかなくて、かたをゆらしても、よびかけて、も、…うごか、なくて、しぬかも、しれないって、そう、そうおもうと、…っなんだか、ずっと、じぶんじゃなくなるみたいで…!」

「……」

怯えているんだろうと、思った
こんなにも、こんなにも取り乱す彼は見たことがない、こんなにも弱々しい彼は、見たことがなかった

─そして、わかった

「…すぃ、れ…さ」

「っ」

ひゅ、と息を飲む音、びくりと揺れる肩が見える

「………こわ、ぃ、ん…で、すか」

「──は」



「…わた、し、が、しぬ、の、…こわい、ん…で、すか…?」

127:◆RI:2021/11/18(木) 23:10

声は聞こえない、でも、影の合間から見える瞳が、見開かれるのが見える

「…わた、し、が、……ゆめ、が…こわいん、です、ね」

握りしめられている手が強くなる

「…ゆめ、いきて、ます、よ、すいれん、さん」
「……ゆ、め」

漏れ出たような声が聞こえる

「…しんぱ、させ、て…ごめ、な、さ……でも、…だいじょ、ぶ、…だいじょうぶ、です」

固く握りしめられている手を、力が入らないながらも、それでもと必死に力を入れて、握り返す

「あなたの、ため、なら、…ゆめは、ずっと、ずっと、そばにいます…ずっと、ずっといきつづけ、ます」


「だから、あんしんして、ほしい、な

───すーたん」

ぽたぽたと、てがぬれるかんかくがする


はじめてみたなぁ、なんておもいながら、腕を動かして、あめがふるその顔に、手を伸ばした

128:◆cE:2021/11/18(木) 23:57


「……っ!」
 そのまま顔のわきすれすれに刀を突き立てる。やっと見つけた、わたしの憎い人。すべての元凶。何十年もころそうと考えてきた。でも、できなかった。だって、だって、彼は憎いけど、でも……もうあの計画を企てた人じゃない。その子孫になる。

「あなたには、罪はないものね…でもゆるせないの、ごめんなさいね」

 なにも知らずに箱庭で育てられたかわいい男の子。震えてなにも言えない彼の脇に刺さった刀を抜き、その場を去ろうとしたらそっと震える手で裾を引っ張られた。

「……先代が、あなたになにを、やったかしりません…!で、ですが、僕にできることなら、なんでもやります!ので、許してとはいいません、ですが、」

 先代とは違って根はいい子だとは、聞いていた。かわいいそうなこ、でも、でも、そんな同情なんかはいらない。父さんもわたしも、お父さんもお母さんも、弟だって、たかがこんなもんで浮かばれるはずがない。

「いらない、今日のことは忘れて平和にくらして。それだけでかまわない」

 そのままその場を後にし、月が照らす夜道を歩く。小さい頃から今までずっと生きる糧でどんな辛い訓練も乗り越えられたのは復讐をずっと考えてたから。

「これで、よかった…ん、だよね、ねぇ、」

 その声に答えてくれる家族はもう誰もいない。神様を嫌った日以来に流した涙は色々な感情が混ざっていた。やっぱりわたしは運ってものにも、神様ってものにもどうにも嫌われてるらしい。

「どうしたら、よかったんだろうねぇ……あーあ」

 その声は誰にも聞こえず夜の街に消えていった。

129:◆Qc:2021/11/23(火) 23:30

『新月』




月族にとって、死は終わりではない。······むしろ、新たな始まりとなる場合の方が多い。······十五月族の中でも人数は最大であるソウゲツ族、その長たる双月はそのように考えている。
人数が多いこと、それ即ち新月となる者も多いということである。双月が確認できている中でも、既に5人······その中には、五位だった壮月も含まれている。
······新月になった者は、強大な戦闘力を手に入れる代わりに自我を失う、という。だが、双月はそれも信じていない。想月と話してわかった────元通りの彼女だ。
何処から自我を失う云々の話が出たのかはわからないが、この際それは関係ない。
重要なのは、十五月族のトップがそれを信じており、······捕縛、拘禁を命じたということだ。
あぁ、嘆かわしくは当代の『月の巫女』がまだ見つかっていないことだ。あと1年早ければ────


いや、やるしかない。見つけ出して護るしかない。他の月族でも、新月となった者は誰でも。
トップと敵対したら双月でも瞬殺されるのは請け合いである。······しかし『天人』の協力は見込めない、『兎』も気まぐれな彼らが力を貸してくれるかはわからない。
······ただ、他に······協力してくれそうな者は······?




【Prologue─1】

130:鷹嶺さん◆XA:2021/11/27(土) 22:45

冴月の過去part1



 ある休日の昼下がり、鐡 冴月は翌日に迫った彼氏との初めてのデートに胸を踊らせていた。どこに行こう、何を食べよう、何を話そう、もしかしてキスとかされちゃたりして、そんなことばかり考えて勉強にも手がつかない。
 ついさっきも妹にたかがデートぐらいで浮かれすぎだと言われたばかりだ、彼氏すら居ない美月に何が分かると言いたいが、浮かれているのは冴月自身も自覚していた。
 ふと窓から空を見上げると、清々しいほどに青い空。

「気分転換か」

 そう思い立つと、冴月はカーディガンに袖を通し、ポケットに財布とスマホを突っ込むと階段を降りて暖かい日射しに吸い寄せられるように玄関扉を開けて外へ出た。
 ただの気分転換、何かをするわけではない、日向ぼっこをしている野良猫に出会えればラッキー程度の外出、行くあてもなく冴月は歩き出した。


 「こんな所まで来ちゃった」

 歩き始めて十分ほど、冴月はスーパーマーケットの前に辿り着いた、普段なら自転車で行く距離だ。
 ここまで来たのだから何か飲み物でも買って帰ろうか、そう思った時だった。
 突然の身体を押されるような感覚に思わずよろけてしまう、そして何かが身体の中に浸透していく気味の悪い感覚、なんだこれは?
 見れば周りの人達も一様に首をかしげていた、どうやら冴月に限ったことではないようだった。

 「空が、空が紅いっ!!」

 その感覚の正体を考察する間もなく何処からか誰かの声が響いた、冴月も周りの人達も先程の異常を忘れて空を見上げた、空が紅い。
 夕焼けにはまだ早すぎる、それになんだか気分が悪い、イライラしているような感じだ。
 さっきの気味の悪い感覚はこれのせい? でも紅い空とどんな因果関係が……

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 それは何の前触れもなく起こった、冴月の前方で空を見上げていた男が叫び声を上げた、男は振り返り冴月に異形に変化した右腕を振りかざした。
 冴月は呆然と見ていることしか出来なかった、男の異形の右腕によって冴月の身体は地面に叩き付けられた、理解不能、なんだこれは? わからない。

 「シネェェェ!」

 男の右腕が冴月の首を絞める、苦しい、やめて、どうして私がこんな目に会わなきゃいけないんだ!
 冴月の中にあった恐怖と混乱は理不尽への怒りへと変わりそれは憎悪へと変わった。

 「……死ぬのはお前の方だろ」

 身体の奥底から沸き上がる何か、それは凪いだ水面に落ちた小石が波紋を生むように、冴月の身体の隅々にまで駆け抜けた。
 全身が作り替えられていく、男は目を見開いていた、そう異形に変わったのは彼だけではなかったのだ。
 男が手を離そうとした刹那、冴月の身体から飛び出した金属質の棘は男の腕を貫いた。
 
 「――■■■■■■!!!!」

 声にならない悲鳴、男は地面にのたうつ。
 冴月は男のことなど最早どうでもいいと、重たい身体で立ち上がり歩き出した。

「――帰らなきゃ、美月が危ない」

131:◆Qc:2021/11/27(土) 23:52

『唯一の失敗』




震える手に、乾いた音が響いた。······決定打にしてはあまりにも味気ない音だった。
しかし、彼は喜べない。
水滴に塗れたスコープを覗けば、まるで触手のような手足を持つヴィランと、黒髪の女性が折り重なって倒れる様子が見えた。


「······························あぁ」

────杭のような雨が降っている。
痛い。酷く痛い。全身が痛い。心も身体も精神も自尊心も、何もかもが抉られてゆく。
それ程······敵ごと恋人を撃ち殺したという事実は、彼の全てを奈落へと叩き落とした。
土砂降りだった。空を見上げれば、一片の青空の気配すら感じられない、極限の灰色だった。黒でないだけまだマシだった。もし空まで黒かったら、彼は二度と上を向くことはできなかったであろう。

「■■■■■······」

一歩、二歩と踏み出す。······その時何を呟いたかは忘れてしまった。······忘れるくらいである。どうせ大した事ではあるまい。
無人のビルの屋上から飛び降りた。無傷で着地する。······そして、程なく現場にたどり着いた。
吐き気を催す程の血の泥濘、確かに恋人は死んでいた。
遠すぎた。最後の言葉すら聞けなかった。どんな表情をしていたのかもわからなかった。······ただ、一つ確かなことは、

「······おい、■■······」

普段の気障ったい振りをかなぐり捨てて、その顔に言葉を降らせる。
それほど······

「······なんで、そんな顔してるんだよ」

······死体となった彼女は、心底安心したような表情を浮かべていた。





あれから10年余りの年月が過ぎた。
その間、弟子を取ったことと、ヴィランと戦う『ヒーロー』の存在を知り、その集まりにしれっと交ざった事以外、彼はずっと孤独だった。······いや、孤独を望んでいるようにも思えた。
また修行を重ねるにつれ、彼の狙撃能力も向上した────それこそ10年前の状況を余裕で回避できる程まで。
······しかし。
それで、時を巻き戻せる筈がないのだ────




「······ようヒーロー。いや、王子様と言った方が良いか?まあいいか。······なぁ、大切な人との時間は宝だぞ。何があっても守り通せ」

10年後の自分に全てを託す。
誰かを護る誰かに、一人でも多く届ける為に。
弱すぎた自分と、もう向き合わないように────

132:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

『化け物と呼ばれた紛い物』

『お前は霜星、神代霜星、これから、そう名乗りなさい』

俺には、はじめ、名前が無かった

父には捨てられ母は死に、天涯孤独となっていた俺を見兼ねたように、父の姉……俺から見れば叔母となるあの人が、俺に名前を与えた

幾星霜の時を越え、生まれ落ちた神の依代

それが俺の名前の意味らしい、難しいことはよく分からないので、他にもなにか言われていたような気もするが、正直なところ覚えていない

結局のところ、どれだけ叔母が俺に目をかけてくれようと、結局は俺は一人孤独なわけで、神だの、妖だのといわれても、周りから見れば化け物には違いがなかった
まぁ間違ってはいないのだろう、確かに俺には、人の血など一滴たりとも交じってはいないのだ
それなのに、この見た目だけは妙に人間らしく、そしてその赤髪が、周りの人間には奇妙に思えたらしく、どこまでも中途半端な俺はどこまでいってもこどくなままだった

133:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

まぁ、そんなことは1ミリたりとも気にしたことがないのだが


呑気に飯を食いながら適当に過去を振り返る
正直散々な目にあったとは思う
村八分なぞ当たり前だし、汚れ仕事はこちらのほうへ、顔がいいからと慰め者にされたこともあった気がする、流石にその時はぶん殴ったが
今食べている飯だって、燃費が悪くて仕方がないというのに、「死なないから」という理由で何日も削られたことさえある、いや、削られたというかそもそもないにひとしかった

年月が流れて村が亡び、また次の村に行けば、前の村と同じようなことをする、なんとも愚かなものだと思ったが、まぁいつか死ぬという結末が決まっている奴らだと思えば、むしろ哀れみさえ覚え、抵抗も、文句の一つもつかなかった


まぁ、それから何とか生き延びてやったわけだ
俺を捨てた父には、どうだと胸を張ってやりたいし、俺を残して死んだ母には、立派だろうと自慢したい
正直、どちらの顔ももう覚えていないから、そんなことは叶わないのだけれど

134:◆RI:2021/11/28(日) 23:08

ある日のこと、おれはとある村から外れた場所で、座り込んでいた老婦人を助けた
なんでも怪我をしたらしく、背負って彼女の家へと向かえば、心配した様子で家の外をうろついていた老人…彼女の夫がこちらを見て駆け寄ってきた

老婦人を下ろしその場を去ろうとすれば、その老夫婦はなにかお礼がしたいと、そちらも貧しいくらしであろうに、俺を家へと招き入れた

初めて、ただの人からの優しさに触れた
奇妙だろう赤髪もきにすることなく、老夫婦は俺に対して感謝のみの感情を抱いていて、それがあまりにも心地よくて、



つい、そこに何日も長居をしてしまった

135:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

目を疑った

そこに生はひとつたりとも存在しなかった

かわりにそこにあったのは、変わり果てたふたつの肉塊と、血溜まり





当たり前、だった

なぜこの夫婦はこんなに遠く、村に外れた場所にいたのか、俺がいちばんわかるはずだった

村から、除け者にされていたのだ、優しいが故に、老いているが故に

それに加えて、俺という化け物が入り浸っているという事実を、村のものたちはどう見ただろう







"きっとやつらは除け者にした俺たちにあの化け物を仕向けるつもりだ"

"殺される、殺される"

"そんなのはいやだ、どうすれば、どうすれば"



"………そうだ"



"殺される前に、殺してしまおう"

136:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

「ひ、ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「たすけて、たすけてぇ!」
「ころさないで!おねがい!!ころさないでぇ!!」

うるさい、雑音が多くて、みみがいたい
うごきまわって斬りづらい、四肢をまず落とそう、その方が楽だ
こどもは……いいだろう、この村の悪意は大人たちだけだ
血がついた、汚い、醜い、あぁ、やっぱり

嫌な色だ

血の雨が降る
血の海に浸る
あれだけ白かった服が、真っ赤に染ってしまった
……もったいない、せっかく老夫婦が洗ってくれたのに



ようやく、うるさい音がやんだ
………そうだ、忘れていた、帰らなければ

137:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

山を登り、2人が眠っている家へとはいる
眠る2人を、零さないように外へ運び、優しく土で埋めてやる

すまなかった

俺が山などに行かなければ

俺がこの家に来なければ

きっと2人で、細々と、けれど幸せに───


そこまで思って、思考を辞めた、
もう戻らないことを思ったって、意味が無いのだ
2人の墓に手を合わせる、人間の真似事だが、きっと意味はあるのだろう




それからずっと、孤独に生きた

悪を斬り、善を救う、それだけの為に生きてきた

そのためだけに俺は生き、そのためだけに、俺は死ぬのだろう

何度血を被ったかわからない
俺の髪は、人を着る度に赤く染ってゆく

神になどなれない、妖になどなれない、
ましてや、人間になど、絶対に─

138:◆RI:2021/11/28(日) 23:09

幾星霜の時が流れた
時代は変わり、建物などは神秘を失った鉄の塊とかしてゆく

紛い物とはいえ、神性を少なからず持つ俺としては、なんとも生きづらい世の中へと変わっていった

まぁ死ぬことは無いのだけれど、それでも神秘が足りないのを飯で補っていたというのに、食料は底を尽き、補う物が取れない現代ではこれはかなり厄介な事柄だった

ふらりと揺れるからだをどうにか引きずりながら、少しでも神秘がある場所へと歩を進め、ふと、視界に鳥居が目に入った
長い階段にはどうにも苦戦したが、ようやく境内に踏み入れたところで─俺の体は力尽きたように地面に倒れた


ここに居る神には申し訳ないが、もう動けない、仕方がない、このまま少し神秘を受けて、動けるようになったら────








「…………………人が、倒れてる」

139:鷹嶺さん◆XA:2021/12/03(金) 23:36

冴月の過去part2

 紅い空の下、冴月は走った。
 幸運なことに一歩進むごとに重い身体にも慣れてきた、どんなに人間離れしていても自分の身体であることに変わりはない、ということだろうか。
 どうしてこんなことに、いくら考えても何も分からない、だから今は前に進むことだけを考えよう、冴月は地面を蹴った。

 街が燃えている。

 人が死んでいる。

 怪物が暴れている。

 この街に平和と呼べるものはどこにもなかった。
 それでも、自分の家族は、家族だけは助かるかも知れない。そんな淡い期待はいとも容易く打ち砕かれた。
 
「――美月、あなたもなの?」

 紅い空を見上げ立ち尽くす妹の姿。

「お姉ちゃん、助けて……」

 けれど、その姿はもはや人では無く。

「なんでこんな姿になっちゃったの……助けてよお姉ちゃん」

 背中から樹木を生やし、全身を蔦で覆われた異形であった。

「…………」

 冴月は言葉を失った、脳が凍り付いたみたいだ、こんな姿になってしまった妹に掛ける言葉など思い付くはずもなく、ただただ美月を見つめることしか出来ない。
 こんなときお父さんとお母さんなら何て声をかけるだろう、とそんなことを思った。そして冴月は気付く、両親は何処へ行った?
 最悪の事態を想像し、妹に問い掛ける。

「ねぇ美月、お父さんとお母さんは?」
 
「死んだよ」

 あぁ、想定していた返答だ、自分の家族だけは無事なんてそんな都合の良いことあるはずないか。

「そう、あなたが殺したの?」

「違うっ! わたしじゃない! わたしじゃない! わたしじゃない!」
 
 美月は狂ったように叫んだ、いや美月は狂っていた、止まらない絶叫、それに呼応するように背中に生えた樹木は枝を伸ばし、鋭く尖った槍となって吹き抜ける風のような速度で襲いかかる。人間の身体など容易く貫くだろう。
 しかし、それは相手が生身の人間ならばの話だ、身体の金属化という異能を得た冴月には掠り傷すら与えられない。

「くっ、美月やめて……」

 冴月の声は異形と化した美月には届いていない、こうなってしまえば実の姉だろうと関係ないのか。

「どうして止めてくれなかったの! お姉ちゃん! どうして!」

「お姉ちゃんのせいだ、お父さんとお母さんが死んだのは、お姉ちゃんが家に居なかったから、全部お姉ちゃんが悪いんだ」

 美月は叫ぶ、大粒の涙が頬を伝い地面を濡らす。
 冴月の元へ無数の蔦が殺到する。

「私に押し付けないでよ」

 冴月は静かに激昂していた、四肢を刃に変化させ美月の繰り出す蔦を切り裂いていく。

 もはや、美月に冴月を止める手段はなかった。
 そして怒りに身を任せ二人は激突した、金属の刃と樹木の槍が火花を散らす。

 美月の繰り出す樹木の槍は冴月の身体を貫けない、蔦の縛鎖は容易く切り裂かれる。
 けれど、冴月もまた美月を貫けない。
 冴月と美月、姉妹同士の剣戟は日が傾くまで続いた。
 しかし、その均衡は突然崩れ去った、美月の胸から鮮血が迸る、冴月は目の前にいるのが妹ということさえ理解していなかった、この時冴月はまさしく怪物であった。
 血に染まった右腕を引き抜く、美月は力無く頽れた。その姿に冴月はようやく我に帰る、けれど全てが遅かった。

「美月?」

「ごめんね、お姉ちゃん……許してくれる?」

「謝るのは私の方だよ、美月は何も悪くないんだから」

「……よかった」

 美月は微笑んでゆっくりと目を閉じた。
 
「おやすみ、美月、ごめんねダメなお姉ちゃんであなたのこと助けられなくて」

 動かなくなった美月の身体を抱き締めて、語りかける。
 

 そして、冴月は誓った、こんな私にもし次があるなら、その時は絶対に大切な人を守り抜くと。

140:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:55

ふしぎなせかい
すべてがひっくりかえり
すべてがもとどおりに
とうめいだったりにじいろだったり
あるいはきんいろだったり
なんにもみえなかったり
それでも
おかしくはない
そんなせかい
ふしぎなせかい


「──楽、決着をつけに来た」

「······へえ。また来たのか······今度こそ折れるかと思っていたのに」

「······折れない身体にしたのはそっち。今度の私は、これまでの私じゃない」

「それ······ライバルとしてまた負ける奴のセリフだぞ、お前──でも」

神はいった
なにかにきづいた

「でも、その脇差は······駄目だなぁ?」

女性におそいかかる壁
ふしぎないろをした壁
でも、それは
女性からとびでた弾によって
ひっくりかえり、もどってゆく
神はめをみひらいた
たのしそうだった


女性は脇差をぬく
下からのかべをとびこえて
女性はあの銃もマジックハンドももっていなかった
もはやひつようなかった

「これだから面白い······あぁ本当に!」

神はわらう

「人間の可能性は······やはり面白い!!」

あおい剣がうかぶ
それにたいするはしろい脇差
げきとつした

脇差がかった
一瞬あと
脇差は神のどうたいを両断した
──そう、神殺し。




麗花が脇差に付着した不思議な色の血液を払うと、途端にその空間が消えていくのを感じる。
······それと同時に、彼女の身体もゆっくりと消えていく。

「······やりやがったな」
······両断したはずの楽が、いつの間にか現れていた。
「······これでいいんだろ?」
彼は挑発的な笑みを浮かべていた。まるで麗花を誘うように。······その笑みで逆上した者は数知れない。
しかし、麗花はそれでいい。これでいいのだ。


彼女は何も言わずに消えていく。······後には真っ白な脇差が遺されていた。

「······っはー······面倒だな。まったく」
もはや残滓となった麗花に、楽は触れる。そして、神たる所以の力を行使し──
地獄に落とした。

脇差は月に投げられた。




 

141:◆Qc hoge:2021/12/06(月) 21:57

『神は死なない。』
『ただ、赦し、認めるのみである。』

142:◆Qc:2021/12/20(月) 01:50

『聖王』と『月の巫女』








今からおよそ16年前。




18代目『聖王』ベルハルト・ハーツクライン······彼は無窮の空間の中にいた。······音もなく、空気もなく、場所によっては重力もない空間······そう、宇宙である。
だが彼は生きていた。······いや、むしろ健在だった。

「驚きましたね」

その摩訶不思議な人間に相対するのは、こちらも人間に見える女性であった。彼女は『月の巫女』······月の住人達をまとめあげる存在である。

「まさか単身月に乗り込んで来るとは······本当に人間は······いや、『教会』とは不思議なものです」
「······」
「蒼月、想月、葬月······時空を歪ませ、あの子たちを葬ったのも貴方達でしょう。流石の私でも怒りますよ」
「············」

二人は静寂の原野で、互いに得物を持ちながら相対している。······月。それがこのフィールドの名称である。
ベルハルトの後ろには何も無い。······対する月の巫女の後ろには、遠く遠く、うっすらと人らしき影が見える。それだけで分かるだろう。方や庇護、方や侵略。······もしくは、献身と使命。
まるで対照的であった。

「さて、流石に予想外でしたが······貴方は我々の敵です。ここで死んで貰いましょう」
「······それは此方の台詞だ。······お前達は我が名に誓って駆逐する。悪魔に滅ぼされる筋合いなど······皆無だ」




戦いは数日の間続いた。空気が無いのにも関わらず、互いに人の域を超越した攻撃を繰り出し、相手にかすり傷程度のダメージを与える。それだけ、双方共に手練ということである。
そして決着がついた。
相討ちだった。

最後には多大なエネルギーが戦場から溢れ出し──その光は地球でも観測された。
指揮者を失った月の組織はしばらく混乱することとなる。······だが、『教会』も聖王を失ったことで月と同じように弱体化した。

あれから年月が過ぎた。月は未だに次代の巫女を見出していない。······さあ、内乱など起こしている場合ではない。
更なる災厄が迫っている。

143:◆.s hoge:2021/12/23(木) 16:23



 : 裏手より火の手が …殿!


 「 敵は最早目と鼻の先に! 」

(__戦況は、もとより総崩れ 本陣へ差し迫る
 井守門左衛門の長槍を眼にすると 欣之は遂に
 床几より腰を上げた…が)

 

 「: 今更、逃れられん …手遅れよ 」



 けたたましい蹄の音はごうごうと本陣との距離を狭め
 今にも幔幕が破られ、我が身に槍が突き入れられんと
 している中で 不思議と欣之の心は落ち着いていた

 
 

144:◆.s:2021/12/24(金) 03:34



 怒号が迫ってくる、残された時は少なく
 しかし 策を打てる余力など無かった
 …命はあるまい、余裕とも取れる落ち着きは
 欣之にとっては静観から来るものだったが
 立ち上がり しかし無様に慌てず敵の方角を
 見据える欣之の姿を、家臣たちは一歩を退かず
 守る覚悟に追いやった。___誰もが、死ぬ覚悟だ


( …欣之は今、昔の記憶に思いを馳せていた

世の広さに憧れ 村を飛び出したあの日
定盛に拾われ 死に物狂いで上を目指した城の日々
戦場以上に打ちひしがれては 何度も拳を叩いた
…それでも諦められずに労を重ねた苦難の馬回り集…)


( __不意に 巳冶姫の顔が眼に浮かんだ
  最後まで、戦場へと向かう自分を引き留め
  あまつさえ定盛に懇願さえしてみせた巳冶姫を
  …ただ、残して死ぬことになる …だというのに
  おれは 巳冶姫の愛に応えてやる事も出来なかった )


( …そこまで思うと、今更巳冶姫へ詫びたいと
切に願う気持ちが心に現れた …自分は 今日、死ぬのだ
そう理解している筈だったが …自分の気持に嘘は出来ぬ)


_______思考を遮るように轟音が響く



 破れた幔幕を越え …足軽の一隊が姿を現す
 …僅かに遅れ、欣之の前に躍り出ると
 馬を降りた一騎の武者は名乗りを上げた


「:鹿沢家家臣、井守門左衛門!
 欣之義虎殿!お覚悟召されよ! 」



_____鬼の井守が欣之を見据えていた

145:◆cE hoge:2021/12/24(金) 22:46

「それはきっとはじめての色」

 昔から、目にうつるものが嫌いだった。
 お父さんもお母さんも顔がもやがかかって見えない。その色からはお姉みたいなあったかい色は見えない。くろくて、しってるこの色は嫌いって色。ぶきみ、いらない。いらないこ、なんだね、らん…。

 三歳になった日、お姉と二人きりになった。お父さんとお母さんは遠いところにいったんだって。お姉はすき。お姉もわたしのことがすき。でもらんはらんがきらい。だから、約束した。その人はらんと同じだけど違う。守ってもらわなくてもいい。嫌いならんが消えるかもって思えるから。ほら、今日だって、黒くてもやがかかって
「……らんのかお、みえないなぁ」


 「……人が倒れてる」
 その一言というか、お姉の気まぐれで住むことになる人…なのかな。嫌な色ない。これは確か後悔の色。お姉はせらふさんとか学校で忙しくて居ないことがおおい。そういう時はそうせいらんの相手をしてくれる。色んな遊びを教えてくれるし、話さなくても気が楽。表情にはでないけど、色んな色が浮かぶから、ふふ、たのし、いな。顔を洗って鏡を見つめる。相変わらず黒くてみえないけど、きっと無表情のまま、それが気味悪がれたんだっけ…あ、なに、このあっかいいろ
「……色が、増えた?」

 そうせいが、三日ぐらい帰ってこない。お姉は仕事で帰ってこれるか怪しいって言ってた。やっぱらんの相手するの疲れちゃったのかな、そんなことを思いながら縁側にお茶をもってく。
「……あ、」
 無意識に用意した二つの湯呑みを見つめる。はやく、帰ってこないかな…。そんなふと思い浮かんだ考えを振り払うように頭をふる。そうせいはここに住んでるわけでも、家族って訳じゃないのに。波打つ水面にうつる自分の顔。相変わらずはっきりは見えないけど…。そっと浮かぶ水色。
「……らん、そうせいがいなくて、さみ、しいの?」

 最近、自分がよくわからない。寂しくもなんともなかった、はずなのに。ぐるぐるもやもや。よくわからなくなって、お姉のとこにいこうとし彼の服ををぎゅっと掴む。
「行っちゃ…いや」
 
 え、なに、これ……彼の目に移るらんは、この色は、なに

146:◆Qc:2021/12/29(水) 05:32

「······悪い、駄目だった」

彼はそう言った。······その時、何を思っていたのだろうか。······いや、彼だけではない。真っ先にそれを伝えた二人──アーミチェスとシヴァ。
二人はしばらく無言だった。
雨に濡れたスコーピオンを、放心とも失望とも希望とも歓喜とも絶望とも知れない表情で見つめていた。

「······そうか」
やがて、アーミチェスが首を振りながら言った声が聞こえる。
「タランテラの白衣は毒の繊維を用いている······それでもか」
「······初耳なんだが」
「彼女と何年の付き合いだと思っている。確かにお前は恋人だろうが······こっちは18年だぞ。おい、死体はどこだ」

スコーピオンは無言で首を振った。なぜなら、
「······教えてください」
「······」
「教えてくださいよぉ、先ぱぁい!」
「死体損壊は重罪だぞ」
「軍隊来ない限りは罪じゃないですよ。さっさと教えてください。殺しますよ?」
これである。要するに、シヴァが爆発する可能性を考慮して······信頼出来る『葬儀屋』に恋人の死体を預けたのだった。

「ちぇー」
「不貞腐れるなよ。······あいつも覚悟はできていたんだろ。やってた事がやってる事だったからな」
「······覚悟か。お前が言えることか、スコーピオン?」
「正直キツいな。······あぁ」
「だろうな。しばらく休業するといい。幸い彼女は緊急時マニュアルを遺していた。しかも更新日は4日前だ」
アーミチェスは何処からか小さなノートを取り出した。······彼の言った通り、その表紙には4日前の日付が記されている。
そしてそれを躊躇なく開いて読んでいく。遠慮も何もあったものでは無い。

「随分用意がいいんですねぇ。ひょっとして分かってたのかも?」
「それはないだろう。スコーピオンが居る以上自分が殺されるなど想定外だった筈だ······いや、責めている訳じゃない。私達も油断していた。多分何度やっても同じだろうさ」
「············」
どうやら目的のページになかなかたどり着けないらしく、ほぼサイボーグの友人は紙を捲りながら口を動かす。
口調からは分かりにくいが、恋人を喪ったスコーピオンを気遣っているのは明白であった。

「そうですか。······ところでどうします?弔い合戦でもします?」
「どうやって?我々の戦力で?流石に分が悪いだろう。············いや、待て。確かに合戦になりそうだな······」
アーミチェスが丁度開いたページ、そこになんらかの情報があったらしい。······感情は違えど、······一人の人間を慕って集まった三人を繋ぎ止めるかのように、それは存在していた。


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