それはあまりにも唐突に起こった出来事だった。
誰しもが普段と同じ日常を過ごし、明日も同様の日々を送るものであると思い、眠りについた……
だが、目を覚ましたのはごく一部の者だけだった。
里も、山も、森も……
人妖も、動物も、植物さえもが眠りについたまま目覚めることがなく、幻想郷全体を深く冥い静寂が支配していた……
これは明確な"異変"だ。
"それ"は深き夢の世界から現れる悪夢の支配者。
微睡みの中に漂う無垢な精神を貪り、安息を求める者達に恐怖を与えるおぞましき幻魔の軍勢『エファ・アルティス』
現世を救うために悪夢を支配する幻魔との戦いが幕を開ける……
>>2 時系列と注意
>>3 異変側の勢力
【悪夢の要塞】
イライザ
「随分と頑張るようだけど……貴方へ直接攻撃する事が出来ないと思っているの?」
《ドッ》
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「………う……ぅ………ぐ………ぁ………!!?」
朦朧の巫女は
だが、イライザは眠らない相手……精神体や魂魄の状態である朦朧の巫女に対して、霊夢の肉体には一切触れることすらせずとも直接攻撃をする事が可能であることを告げる。
すると、その言葉が真実であることを裏付けるように、朦朧の巫女を構成する精神体の一部が消し飛び、更にはただ単純に消し飛ばすだけではなく消し飛ばした箇所から激痛を流し込むことで朦朧の巫女の俊敏性や意識の集中の邪魔をしていく……
イライザがその気になれば何時でも朦朧の巫女を消し去ることが出来る……だが、イライザは朦朧の巫女の心を折るためにわざと精神体消滅という必殺技を使わずに戦うことにしている……
イライザ
「クスクスクス……動きが止まっているわよ?」
《バチッ》
イライザ自身は微動だにしないまま、自分の背面にある壁から巨大な腕を生成してそれを拘束で朦朧の巫女へ叩き付ける事により、痛みで動きが鈍った朦朧の巫女の体を軽々と弾き飛ばし、先程の移動距離を引き戻すかのように移動する。
朦朧の巫女は辛うじて神気を両腕に纏わせたものを盾のようにしてイライザの魔手による打撃の直撃を防ぎ、受け身を取ることで霊夢の体へのダメージを最小限に抑える……
だが、一度失われた精神体の部位は回復や再生がしない……
イライザによって消し飛ばされた精神体の部位が鈍い痛みとなって朦朧の巫女の動きや判断を鈍らせ、力や技の発動の邪魔をし始める事になる。
ただでさえイライザには攻撃が通じないにも関わらず、回避や防御をするための意思さえ阻害し始める……それも、霊夢の体そのものを消したり攻撃するのではなく、その体を借りている朦朧の巫女を直接攻撃して回復不可能なダメージを与えると言う最悪の手段で……
アンタは私の胃袋が魔界かなにかだと勘違いでもしているの?
(極限状態になるとそこら辺に生えている雑草などを貪ることはよくあることだが、流石に毒きのこを食べて平然としていられるほど化け物じみた特殊な体の構造はしていない・・・・・
しかし、魔理沙ならいつか本気で料理にうっかり混ぜそうだとも考えられる・・・・・)
魔理沙
「ははは!冗談だよ冗談。
こう見えてそれなりに料理が出来るんだ私。」
魔法の森には色んな種類の茸があるが、その殆どが食用には出来ないのだが父親に勘当されて魔法の森に住むようになってから独り暮らしをしてきた自分はちゃんとした料理を作る事も出来ると言う。
果たして世間一般的に料理と呼べるものが出来上がるかどうかだけれどね?
(霊夢ならどんなきのこでも食べられるだろうと馬鹿にされたお返しか、 霊夢は魔理沙の作る料理が果たして世間一般的に料理と呼べるようなものが出来上がるかどうかの問題だと冗談交じりに言う・・・・・
極限状態に陥った場合は変な雑草でも食べられる霊夢の場合はそう思われても仕方が無い部分があるが・・・・・)
魔理沙
「なッ……!失礼な奴だな、それならお前はプロ並みに料理を作れるのか?」
ムッと頬を膨らませながら、自分が料理をまともに作れないと小馬鹿にしたような霊夢に対し、それなら霊夢は上手に料理を作れるのかと言い返しつつ、テーブルの上に置かれていた白ワインを手に取る。
作れるか作れないか以前に、そもそもアンタの料理はプロ並みなの?
(魔理沙の問いかけに答えるより先に、そもそも魔理沙が自分で今言ったように、魔理沙の料理はプロ並みなのかどうかを苦笑いしながら逆に問いかける・・・・・
そもそも今までの会話の中にやばいきのこが出てきていることから、料理は作れたとしてもちゃんとしているものなのかどうかは確信できない・・・・・)
魔理沙
「私は魔法使いだぞ?魔法使いは器用じゃないとなれない。料理なんて朝飯前だ!」
巫女?
「…………………。」
意気揚々と料理も得意だと応える魔理沙の後ろ、紅魔館の館内にある数少ない窓越しに静かに霊夢を見下ろしている人物が見える。その人物はリボンを付けておらず、腰まで伸びた長い髪を持った大人になった霊夢のような顔をしている。
この人物についてはこれまで出会った事が無いにも関わらず、霊夢は何処かで会ったことがあるような妙な既視感が感じられる……その既視感は大人になった自分のような顔立ちをしているところ以外からも来ているように感じられる。
そりゃあそうよ、料理をしないと朝ごはんは食べられないんだか・・・・・?ねぇ、魔理沙・・・・・あそこにいるのは誰かしら・・・・・?
(霊夢は魔理沙の料理なんて朝飯前だという言葉に大して言葉を返す途中で少し沈黙し、そのまま魔理沙に謎の巫女のような人物について聞いてみる・・・・・
自分にも似ている気がするものの、普通に考えれば別人だと真っ先に思うだろう・・・・・)
【悪夢の要塞】
イライザ
「クスクスクス……私に勝てないと言うのはもう貴方自身が一番よくわかっている筈よ?」
イライザは次々と朦朧の巫女の精神体を削り取り、消失させていく……
既に朦朧の巫女の精神体の三分の二が削り取られており、神降ろしの力でさえも満足に発揮できなくなってしまっており、ただでさえ大きかった力の差が更に大きく、確固たるものとなっており、イライザはまるで無傷のまま、朦朧の巫女が繰り出す神拳を無傷で受けきり、神速で移動しようと、移動した先の空間を巨大な口や手に変化させることで常に先読みを行い、手段を一つ一つ潰していく……
もはやこの力の差は覆らない。
幾度も幻想郷を救って来た巫女であっても、イライザが支配する悪夢の世界の中ではその力は大きく制限され、消耗の激しくなる朦朧の巫女とは対称的に無限に力が増幅されていくイライザを前に戦うと言う舞台にすら立てなくなりつつある……
朦朧の巫女
「私が倒されれば……貴方はこの体を喰らい尽くして幻想郷の支配を確実なものとするでしょう……私が消えるのは構わない……だけど……この体の持ち主だけは……幻想郷だけは何があっても奪わせない……!」
朦朧の巫女
「この体の持ち主は幻想郷最後の希望……その灯火をお前なんかに奪わせてなるものか……!滅びるのはお前の方だ、歪な悪夢の中でしか存在を確立できない醜悪な魔女……!!!」
精神体が削られる度にその体には、霊夢が味わった皮膚の獣が放つ苦痛の波動とは比にならないレベルの苦痛が刻まれるのだが、それにも決して折れることも、諦めることもなく、弱音の一つも吐かず、それどころかイライザを挑発するような言葉を口にし、少しでも霊夢が覚醒するまでの時間を稼いでいる……
イライザ
「そう?それは"信頼"?"希望"?
残念だけど……それは私には理解できない感情だわ。」
【兇夢「ポノス・ブラキオラス」】
イライザには信頼や希望と言った感情を理解することが出来ない……朦朧の巫女の奮闘や、戦う理由について理解することが出来ず、朦朧の巫女自身も自分に勝つのではなく、霊夢の意識が戻ることを考えているのだと推測すると、自身の右腕を無数の牙を備えた禍々しい肉塊のような腕に変化させ、霊夢が目を覚ます前に霊夢の肉体もろとも朦朧の巫女を喰らい尽くす事を決める……
イライザは精神体や魂魄、思念体と言った実体の存在しないモノをも破壊し、滅ぼす力を持っている。このイライザの攻撃を直撃してしまえば霊夢も朦朧の巫女もまとめて滅ぼされてしまう事になるだろう……
・・・・・っ・・・・・
(まただ・・・・・さっきと同じように、頭の中にノイズが走る・・・・・
いつもなら、普段のこういう集いならば、こんな妙なことはないし、このノイズの原因が何かしらあるはずだ・・・・・
まるでこのノイズが、自分を呼びかけているようなこの妙な感覚は何なのだろうか・・・・・
なにか大事なことを忘れてしまっている気がするし、それを早く思い出さなければ大変なことになるような気がする・・・・・)
魔理沙
「………?
おい、どうしたんだよ?」
館内から覗いている人物は窓の奥へ消える中、頭を抱えて苦しんでいる霊夢を見ていた魔理沙が霊夢に安否を気遣って言う。
・・・・・ねぇ、魔理沙・・・・・私、ここへ来る前、どうしていた・・・・・?
(記憶が乱れる・・・・・
よくよく考えてみれば、紅魔館へとやってくる前の記憶がない・・・・・
そして、さっきから頭の中に度々走るノイズのような感覚・・・・・
これが、今の自分のこの妙な感覚の正体に繋がる気がしたのは、人間の本能か、それとも・・・・・)
魔理沙
「ん?何時も通り神社で掃き掃除をしていただろ?その前は知らないな。寝てたんじゃないか?」
魔理沙は突然何を言っているんだと不審そうに首を傾げながら、ここに来るまでの事について応える……
魔理沙
「なあ、具合が悪いんなら永遠亭にまで行くか?」
魔理沙としては本当に心配しているからか、手にした白ワインを飲む事無くテーブルに置くと、体調が悪いようなら永遠亭にまで運ぼうかと提案してみる。
いや、大丈夫よ・・・・・
(ここでこうして、記憶を振り返り続ければ、正しい記憶が蘇るかもしれない・・・・・
いつもなら普通にあるはずの記憶が、曖昧どころかすっぽりと抜け落ちてしまっているということは、そこに至るまでに何かしらがあったはず・・・・・
じゃあ、その何かしらとは何なのか・・・・・)
魔理沙
「そうか?それならいいんだ。
さ、お前は何を飲む?私が持ってきてやるよ。」
霊夢の様子に違和感を抱いてはいるものの、その事について言及することはなく、すぐに何事も無かったように普段の様子に戻ると、何か飲み物はいるかと問いかける。
それはまるで、優しい時の流れによって、霊夢が気付きかけた夢の世界であると言う確証を微睡みの深奥へ再び誘うかのように……
いえ、今はいいわ・・・・・
(ここで考えるのをやめたら、こうして違和感に気づけなくなってしまう、そんな気がした霊夢は飲み物を断る・・・・・
思考を止めるな、考えろ、思い出せと自冬に言い聞かせるが、やはり肝心な部分が記憶の中から抜け落ちてしまっている・・・・・
何かきっかけがあれば話は別なのだが・・・・・)
魔理沙
「具合が悪くなったら何時でも言うんだぞ?」
飲物を断る霊夢を見て、ますます心配そうに顔をしかめながらも再びテーブルに置いた白ワインを手に取ると、今度は一息にそれを飲み、テーブルの上に置かれた肉団子を器用に箸を使って取り、一口食べる。
先程視界の端に映った館内にいた人物の存在について霊夢が覚えていれば、その人物を介してこの違和感の正体がわかるかもしれない。
・・・・・ねぇ、魔理沙・・・・・一つ聞いてもいい・・・・・?
(いつも一緒に一番行動を共にする魔理沙になら、一番心を許して何でも聞ける・・・・・
霊夢は、魔理沙が何か知っていればと思い、魔理沙に一つ聞いてもいいかどうか問う・・・・・
今までのが自分の思い過ごしだと結論づけるには無理がありすぎるから、ここで聞かなければならないという気がした・・・・・)
魔理沙
「おお、今度はどうしたんだ?私にわかる事なら答えられるかもしれないな。」
肉団子を噛んだ後に飲み込むと、白ワインは入っていたグラスへ、近くの酒瓶を手に取り、今度は日本酒をワイングラスに注ぎながら霊夢の問いかけに対して、自分にわかる事なら応えられると言う。
・・・・・さっき、私に似た巫女みたいな人がいたんだけど、誰だかわかる・・・・・?
(もしかしたら自分の勘違いや、記憶違いという可能性もあるが、無関係とも思えないことから、霊夢は魔理沙に一か八かさっきの謎の人物を知っているかどうかを聞いてみる・・・・・
果たして、魔理沙は知っているのだろうか・・・・・)
魔理沙
「ん?お前に似た巫女?早苗……じゃないか?」
日本酒を注いだワイングラスを手にしたまま少し考えてみるものの、霊夢に似た=巫女服と言うことから早苗が連想されるものの、霊夢の言い方からして早苗ではなさそうだと思いつつもそう応えてみる。魔理沙は本当に知らないように見える。
いいえ、だとしたらこんなこと聞かないわ・・・・・
(確かに早苗は一番当てはまる人物かもしれないが、もし早苗だったとしたら、すぐにわかるのでわざわざ魔理沙に聞いたりはしない・・・・・
そして「見た目は私に似ていたわ、格好だけじゃなく、雰囲気とか・・・・・」と、付け足す)
魔理沙
「うーん?何かの見間違いじゃないのか?それな奴はいなかったと思うぞ?」
その謎の人物について魔理沙は知らない……
その人物の存在はこの世界において本来は存在しないイレギュラーな存在であるように思える。
いない・・・・・?そんなはずは・・・・・
(霊夢は確かに見た、自分自身に似た謎の巫女服の人物を・・・・・
証明することは出来ないし、今の自分の奇妙な状態からして、自分でも本当に見たのか少し不安になりそうになるが、それでもその人物は確かにいた・・・・・
魔理沙が気づかなかっただけなのか、それとも自分にしか見えなかったのか・・・・・)
魔理沙
「ま、今はこのパーティーを楽しもうぜ!」
魔理沙は霊夢の言っている事の意味がわからないといった様子で手にしたワイングラスを傾け、酒を飲み始める。すると、再び霊夢の脳に記憶を掻き消すようにして霞がかかり始めてしまう……
もし、このまま動くこと無くこの場に留まっていれば今度こそ霊夢から現世への記憶や、ようやく気付き始めたこの違和感さえも永遠に失われてしまうことになるだろう……
・・・・・ごめん魔理沙、すぐ戻るから、ご馳走残しておきなさいよ・・・・・?
ダッ・・・・・!
(霊夢は、すぐに戻るからご馳走は残しておくようにと告げると、急いでその場から走り出して紅魔館から出る・・・・・
霊夢の魔理沙に言った言葉は、今いるこの世界がイライザの用意した偽りの現実であると本能的にわかってのことか、それとも・・・・・
すぐ戻るから、という言葉は異変を解決したらすぐにまたいつもの日常に戻るから、という意味合いにも感じ取れる・・・・・
そして、霊夢は紅魔館へ来る前に自分がいた場所、博麗神社に向かっていた・・・・・
もしかしたら、紅魔館へ来る前の自分の記憶がハッキリと蘇るかもしれない、そんな僅かな希望を胸に・・・・・)
魔理沙
「………………。
……ああ、約束だぞ?」
魔理沙は優しく微笑みながら霊夢を見送る……
霊夢を見送る時の魔理沙からは、不思議と何の違和感も感じられない……それはまるで、イライザの支配下に置かれながらも本物の魔理沙が霊夢なら現状を打破してくれると言うことを信じ、望みを託しているかのように……
【→悪夢の世界 博麗神社】
《サアァァァァァァァァァ……》
悪夢を克服しつつある、神社に戻った霊夢ならばある感覚に気付くことが出来るだろう。最初に霊夢が訪れた時とは違う……
本堂の中に誰かがいるような……そんな気配のようなものが感じられる。
それは邪気や悪意と言ったものは無く、館内から感じられたあの懐かしいような感覚……気配であり、敵意や害意と言ったものが加えられることはないだろう。
・・・・・誰か、いるの・・・・・?
(感じた謎の違和感に、ゆっくりと本堂へと入る・・・・・
不思議と敵意のようなものは感じなく、寧ろどこか安心感さえ感じるような、そんな妙な感覚を・・・・・
もし誰かいるとするならば、紅魔館で見たあの謎の巫女のような人物だろうか、それとも・・・・・)
霊夢に似た巫女?
「………ようやく気付いたわね。」
本堂の戸を開けると、その中では霊夢に似た顔立ちをしているものの、霊夢を20歳前半にまで成長させ、頭には特徴的な髪留めやリボン等を一切付けていない、腰まで伸びた黒髪をした巫女が静かに座っており、霊夢を見て優しく微笑みながら漸く気付いたかと言う。
・・・・・あなたは誰なの?博麗の巫女・・・・・?
(紅魔館で見た時からずっと気になってたことを単刀直入に聞く・・・・・
無関係とは思えないほどに自分と近しい何かを感じるが、相手が博麗の巫女なのかどうかはわからない・・・・・
そもそも、今の代の博麗の巫女は自分だ、他にいるはずがない・・・・・)
霊夢に似た巫女
「……その呼び方をされるのは随分と懐かしいわね……
そう、私も貴方と同じ博麗の巫女……いえ、そう呼ばれていた者……よ。」
本堂の中で正座をした女は自分が博麗の巫女であると応える。
霊夢は歴代の巫女についての話はされていなかったものの、彼女が本当に博麗の巫女であるのならば、彼女から感じられる懐かしいような感覚にも説明がつく。
だが……その霊夢と瓜二つとも言えるように似た顔立ちは前任の博麗の巫女……ひいては博麗の血筋と言うだけでは説明しきれないような感覚もある。
霊夢に似た巫女
「貴方が此所に来た理由は知っている……いえ、待っていたと言うのが正しいわね。」
巫女は霊夢が此所に訪れる事も全て知っており、その上でこの場所に居るのだとも応える……その真意は定かではないものの、今のところ敵対する意思は無いように見える。
まるで私がこのタイミングでここへ戻ってくることを予め知っていたかのような口ぶりね・・・・・
(かつて博麗の巫女と呼ばれていたという謎の人物は、予めこうなる未来を知っていたかのような口ぶりで話していることに違和感を持ち、ファンタジーなどでよくあるようなタイムトラベラーなのではという疑いを持ち始める・・・・・
もしそうであったとしても、妖怪や妖精などがいるこの幻想郷においては、それもあまり驚くようなことではないかもしれないが・・・・・)
霊夢に似た巫女
「勿論……貴方が博麗の巫女であるのならは必ず気付いてここに来るとわかっていたわ……」
未来から来訪したかのように、全てを知っているような言動を取り、リボンや髪留めと言った特徴的な装飾は無く、シンプルな巫女服であるものの、非常に似た容姿をしたその巫女はゆっくりと立ち上がると、軽く指を鳴らし、自分の後ろにある映像を投影する。
その映像の中では、霊夢がたった一人で、禍々しい無数の棘を備えた触腕や、おぞましい魔蟲の大群等をあらゆる場所から生み出し操る魔女……イライザと戦っている光景が写し出されている。
・・・っ・・・・・!これ・・・・・は・・・・・
(突如として映し出される映像に、困惑を隠せずに戸惑う・・・・・
そして、同時にさっきから頭の中に走るノイズのような違和感の原因はこれだと直感で確信する・・・・・
何故今の今まで記憶から抜けていたのか、自分でもわからない・・・・・)
霊夢に似た巫女
「……これで完全に思い出した?
あの魔女……イライザは恐ろしく強力な夢幻術の使い手……
現を夢に、夢を現に変える程の力を持っている……本来なら違和感すら覚えること無くこの世界に取り込まれ、意識を失った肉体も破壊されることで脱出不可能になる技だったのよ……?」
後ろに展開した映像について巫女は振り返って確認はしていないものの、霊夢の表情を見て、戸惑いながらも違和感の原因を突き止め、理解した霊夢へ、巫女はイライザの使う夢幻術や、それを用いた必殺技の仕組みについて霊夢へ教えていく。
・・・・・これでようやく、目が覚めたわ・・・・・なるほど、あの性悪魔女、このまま私を夢の中に取り込んだまま消し去るつもりなのね・・・・・気がついてよかったわ・・・・・
(恐らく、違和感を感じることが出来たのは博麗の巫女であるかどうかが関係しているかはわからないが、奇跡だったのだろう・・・・・
もしあのまま気づかずにいれば、違和感のないあの偽りの日常に取り込まれて亡き者にされていたと思うとゾッとする・・・・・)
霊夢に似た巫女
「……ここからは貴方が決めるといいわ。」
巫女は指を鳴らすと、背後に投影された映像が消え、霊夢と向かい合ったまま、二つある道のどちらを進むのか……その選択を霊夢に迫る。
霊夢に似た巫女
「イライザは恐ろしく強く、邪悪な存在……
夢の世界の中では無敵と言ってもいい程の力を持っている……
勝機は無いに等しい……貴方が望むのなら、この夢の世界で何の苦痛も恐怖もなく一生を終えることも出来る。」
様々な神の力を宿しながらも、悪夢の世界では無限に力が増幅され、圧倒的な力を行使できる強大な力を持ったイライザと対決することを選ぶか、それともこの微睡みの世界で幸せなまま終わりを迎える……この二つのどちらの道を歩むのかと問う……
霊夢に似た巫女
「辛く苦しい現実に戻って絶望と戦うか……
この苦痛の無い微睡みの中で終わる……
どちらを選んでも私は責めたりはしない。」
痛みを伴ってこそ、平和は掴み取れる・・・・・
(今までも、この先も、きっと今回のような異変が起きることも多々あるだろう・・・・・
これからも自分は幻想郷を守らなければならない使命がある、こんな偽りの世界でのうのうと過ごすつもりは毛頭ない・・・・・
霊夢は、イライザとの決戦を選んだ・・・・・)
霊夢に似た巫女
「……それじゃ、この世界から貴方を出す事にするわ……」
巫女は今度は合掌するようにして両手を合わせる。
すると、周囲の空間が大きな渦のように歪み始め、金色に輝く光の渦が形成されていく……これを通れば再び元の肉体へ戻ることが出来るだろう……
霊夢に似た巫女
「…………ごめんなさい。」
だが、巫女の表情は嬉しいような、悲しいような……複雑な表情をしており、霊夢に対して一言謝る……何に対しての謝罪なのか……悪意も害意も無く、この巫女に何かされたような事は無いため、その真意はわからない。
何謝っているのよ?私なら大丈夫、任せなさい・・・・・
スゥッ・・・・・
(霊夢は、相手に謝られたのを「こんな命にかかわる大事を霊夢一人に任せてしまってごめんなさい」という意味合いだと受け取って、上記の言葉を返す・・・・・
それに、この状況で謝られても、状況が変わるわけでもない・・・・・
霊夢は光の渦を通って元の世界へと戻ってゆく・・・・・)
霊夢に似た巫女
「……本当なら……貴方達には何も背負わせたくはなかった……何も背負わずに貴方達には生きてほしかった……私の不始末のせいで……後の世界に生まれた貴方達に"奴ら"との戦いを……博麗の宿命を背負わせてしまった事を……謝るわ………」
巫女は光の渦を通って元の肉体にまで戻っていく霊夢に対してその真意について語る……
その言葉はイライザと対峙する、もう一人の巫女と似た考えであり、歴代の巫女達は……初代から先代まで、そのほぼ全員が後世の者達は自分達のように元悪との宿命を背負う事無く自由に生きていて欲しいと言うささやかな願いを持っていた……
だからこそ、後世に悪を残さぬよう、その命を燃やして戦い続けていたのだが……自分が理想とした幻想郷が成立し、元悪を討ってから千年以上も経ったにも関わらず、世界はまだ悪に脅かされ続けている……
その事実に対して巫女は、始まりの巫女である自分の不始末のせいで後世にまでこの宿命を背負わせてしまったと負い目を感じている……
・・・・・っ!
(イライザと対峙している状態の霊夢の体に、霊夢の意識が戻ってくる・・・・・
やはり、体のあちこちに激痛が走る・・・・・しかし、このままやられてばかりでもいられない・・・・・
霊夢は、イライザの方を睨みつける・・・・・)
イライザ
「クスクス……へぇ……?
また中身が変わったようね?」
意識の戻った霊夢の前でイライザは口許に手を当ててクスクスと不敵に微笑みながら、朦朧の巫女から霊夢へと意識が切り替わった事にいち早く察知したイライザはそれを指摘する……
朦朧の巫女
『……随分と……長かったわね……?』
霊夢へと戻った影響で、これまで霊夢の体を守っていた神々の力が失われ始めてしまう……更に、これまで霊夢の代わりに戦っていた朦朧の巫女の精神体もその大半がイライザによって抉り取られ、消滅させられており、もはや加勢する事は出来ないだろう……
・・・・・えぇ、今戻ったわ・・・・・
(霊夢のこの言葉は、自分が戻ってきたことに気づいたイライザと、随分と長かったと言葉をかけてくる朦朧の巫女の二人に向けての言葉にも聞こえる・・・・・
そして「もうアンタの好き勝手にはさせないわよ?覚悟なさい・・・・・」と、イライザに宣戦布告とも取れるような言葉を放つ・・・・・)
イライザ
「クスクスクスクスクスクス……
ただの人間ごときが何を出来ると言うのかしら?
奇跡は二度も起こらないわよ?
さあ………"おやすみなさい"。」
【悪夢「魔蝕昏倒の囁き」】
イライザは微笑みながら、自身の言葉に魔力を乗せて霊夢
どのような手段を用いて自分の夢幻術を突破して来たのかは知らない……だが、先程の神降ろしの巫女はもう死に体であり、もうまともに機能する事はないと考え、この昏倒術によって今度こそ完全に霊夢を無力化させられると考えている……
【微睡みの世界】
レミリア
「霊夢……もう頑張らなくてもいいのよ?」
魔理沙
「アイツには勝てない……もう諦めたほうがいい。」
紫
「勝ち目の無い戦いをしなくてもいい……大人しく死を受け入れる方が楽になれるのよ?」
イライザの見せる悪夢は、先程までの微睡みの世界とは違い、霊夢の知る人物達の姿と声を借りて霊夢の戦意と闘志を削り取ろうと言葉を並べていく……もっとも……本物の三人であれば、まず言わないであろう言葉ばかりであるため、夢の精度そのものは大きく劣っているように見えるが、強い信念が無ければこの微睡みを突破する事は出来ないだろう……
・・・・・アンタ、この程度の下らない技で私が屈するとでも思ってるの・・・・・?
(姿も声も、本物と何一つとして変わらないほどに精巧な悪夢・・・・・
イライザの見せる悪夢は、確かに寸分の狂いもなく人物の特徴を捉え、再現するところが厄介なところだ・・・・・
しかし、霊夢から言わせれば・・・・・)
似ても似つかない粗末な偽物ね・・・・・
イライザ
「クスクス……!
私の夢幻術は防げない……」
《ギュオッ》
イライザは自身の周囲に無数の目の無い大蛇とも、巨大な蚯蚓とも形容可能な異形の存在を生やし、それを一斉にイライザの夢幻術によって偽りの光景を見せられている霊夢に向けて襲い掛からせる……
一瞬でも動揺して動きが鈍ってしまえば瞬く間にイライザによって喰らい尽くされてしまうだろう……
学習したらどうかしら・・・・・?
(霊夢は偽りの光景などものともせずにイライザに接近してゆく・・・・・
お前だけは絶対に許さない、必ず仕留めてやると言わんばかりの、獲物を視界に捉えた猛獣のような目つきで睨むその様子は、時代や人物こそ違えど過去にヴァルターを葬り去った博麗の血筋そのものであることに間違いない・・・・・)
イライザ
「…………!!!」
《ゾワッ》
イライザは霊夢の放った鬼気迫る雰囲気を感じ取ると、誕生してから始めて感じた悪寒を感じ、少し後退りする……
だが、霊夢の五感にはイライザの見せる偽りの情景で塗り潰されているため、彼女に向けて襲い掛かる肉蛇に対処する事は出来ないとイライザは考えている。
魔理沙(夢幻)
『もう戦わなくてもいいんだぞ霊夢……』
レミリア(夢幻)
『そうよ、もう苦しまなくてもいい、戦わなくてもいい……諦めてもいいのよ?』
霊夢の眼前にはイライザの姿も、迫り来る肉蛇の音も姿も無く、あるのは戦うことを諦めるように語りかけ続ける霊夢の身近な者達の姿と声しかしない……夢幻達は霊夢に精神的な動揺や、戦意喪失させるための言葉を投げ掛け続けている。
・・・・・偽りだらけな上に暴れ回っても敵にしか被害が出ない空間だと、容赦しないで済むからいいわね・・・・・
ドダダダダダダダダダダダッ!!!!!
(霊夢は、イライザの見せてくる夢幻をまったく気にせずに、寧ろ偽りだからこそ容赦しないで済むとまで言い放ち、さらにはそのまま弾幕を放ちながら夢幻で覆い隠されて見えないはずのイライザの方向へと、確実に歩みを進めてゆく・・・・・
博麗の巫女が本気を出せば、悪夢なんかよりもよっぽど恐ろしいのかもしれない・・・・・)
イライザ
「……へえ?範囲攻撃を仕掛けて来るのね?
この程度の威力なら防ぐまでも無いのだけれど……それでは面白くない……彼女が正気に戻す前に……拭えぬ罪を背負わせてあげる。」
イライザの伸ばした肉蛇を霊夢が無差別に放った弾幕を前に撃ち抜かれて消滅していくものの、神の力を宿した攻撃を受けてもダメージを受けなかったイライザには何の脅威にもなっておらず、防御も回避もせずにその弾幕を受けながらも策略を練る……
そしてイライザは霊夢を目覚めさせる前に彼女への追い討ちをかけようと、自身の前に、最初に幻想郷に住む人妖から奪った精神を壁のようにして展開することで霊夢の手でそれを破壊させようとする。
この精神の壁そのものは何の防御力も無く、容易に破壊することが出来るのだが、これが破壊された場合、精神の壁を構築している数多くの人妖の精神も消滅し、例えイライザを倒せたとしても、幻想郷にいる多くの人妖が廃人となってしまうだろう……
っ・・・・・!!!!!
バッ・・・・・!
ダダダダダダッ!!!!!
(霊夢はイライザの卑怯な行動に、咄嗟に精神の壁の前に出て自分の弾幕を自分で受ける・・・・・
相手は悪夢を操る以前に、そもそもの戦闘力や悪知恵も含めて規格外の存在・・・・・
迂闊に攻撃ができないという点では本当に厄介な相手だ・・・・・)
イライザ
「クスクス……貴方達って本当に理解に苦しむわ。
その哀れさに免じて正気に戻してあげる。」
《パチンッ》
霊夢の放った弾幕を霊夢自身が盾となって防ぎ、自滅するのを見て、ますます楽しそうに笑い、嘲るように言葉を告げると、イライザは指を鳴らし、霊夢を包んでいた夢幻を解く……
だが、絶望的な現状は変わらない……いや、寧ろ徐々に悪化しつつある……
ここは悪夢の世界……世界の全てがイライザに味方する中、霊夢はたった一人……もう味方はいない、助けてくれる人も居ない……その絶望的な現実を突き付けることで直接霊夢の心を折ろうとする……
イライザ
「他人なんてどうだっていいじゃないの?他人が生きようと死のうと自分には興味無い、関係無い。自分さえ良ければそれでいいじゃない。わざわざ他人にために命を賭けるその理由がわからないわ。」
イライザは人間がわからない。
人間の持つ感情がわからない……特に、今の霊夢のように幻想郷を背負ってたった一人イライザと対峙し、自分の保身よりも世界を選ぶ霊夢の意思や覚悟がわからずにいる。
イライザやヴァルターには誰かを想う感情も、なにかを守りたいと言う感情も存在しない……何処まで行っても自分の保身と利益の事しか考えられない……
・・・・・でもアンタは、見下している人間にはわかるものがわからないんだから、これほど惨めなことはないわね・・・・・
(自分の弾幕を受けることで幻想郷に住まう者達の精神を守った霊夢は、哀れだと評価するイライザにむけて、アンタはその哀れんでいる人間以下だと反論する・・・・・
そして「ほんといいわよね、自分が覇権を握れる世界なら、どんなに対戦相手に恐れを抱いていようが、自分のご都合主義で進められるんだもの・・・・・」と、イライザは卑怯者なだけではなく、臆病者でもあると遠回しに言う・・・・・)
イライザ
「クスクス……何を言っているのかしらぁ?
私は別に貴方達人間に興味があるわけじゃない……ただ滑稽な言動ばかり取る貴方達を嘲笑しているだけよ?」
【弄魂「弄ばれし精神と思念」】
イライザはゆっくりと両手を広げると、それに呼応するように、幻想郷の住人達の精神が具現化した薄い膜のような壁を無数の刃に変え、それを霊夢に向けて放ち、霊夢の体をズタズタに引き裂こうとする……
この刃はその気になれば簡単に破壊や防御も出来る……だが、それをしてしまえば、霊夢が守る筈だった大勢の人妖の精神は永遠に破壊されることになってしまうだろう……
その気になればイライザは素の力だけでも霊夢を葬れるだけの実力差がありながら、まるでジワジワと獲物をなぶるかのように、霊夢が反撃できないような状況を変え始めている……
イライザ
「ここまで実体の持つ者と対峙し続けるのは、あの不死王(ヴァルター)以来かしらね?貴方は彼と同じぐらいこの私を楽しませてくれるかしら?」
イライザはかつて、レミリアとフランの父親である、かのヴァルターとも戦った事があるようで、霊夢もヴァルターと同じぐらい自分を楽しませてくれるのかと問いかける……
ザシュッ・・・・・!ザシュッ・・・・・!
・・・っ・・・・・!
(霊夢は防御したり攻撃したりすることなく・・・・・いや、しないのではなく、できないのだ・・・・・
そんな圧倒的不利な状況の中、霊夢は腕や足、頬といったなるべく急所を避けながらも切り傷を作ってしまう・・・・・
そして、ヴァルターと同じように楽しませてくれるか否かという質問に対して「アンタも十分知ってると思うけど、地位というものを一番気にする不平等の代表格のような生き物の私達人間は、全ての人間に共通する唯一のこととして、弱いということがあるわ・・・・・それは博麗の巫女だって同じよ、力があるだけで、中身はただの人間の小娘・・・・・何一つとして特別なんかじゃありゃしない・・・・・でもね、そんな弱いものを虐めることでしか快感を得られないアンタは、その弱い者以下だってことを自覚しているかしら・・・・・?」と、長々と煽り始める・・・・・)
イライザ
「クスクス……負け惜しみにしては随分とみっともわね?
そのみっともなさが更に歪むとどうなるのかを見せてもらおうかしら。」
イライザは砕けた硝子片のような幻想郷の住人達の精神の結晶を自由自在に操り、霊夢の体を切り裂きながら言葉を続けていく。
すると、そんな中でも霊夢の脳内にあの桃色の球の声が蘇る。
その声は霊夢にイライザを"倒す"のではなく"誘導する"と言うものであり、これが絶望に染まった現状を打破できる唯一の策なのかもしれない。
《・・・・・誘導・・・・・この悪魔を上手く誘導できるかどうかは別として・・・・・やるしかないわね・・・・・》
(体中、切り傷だらけになり、霊夢の巫女服の紅くない部分まで真紅の鮮血で染め上げられたゆく・・・・・
貧血になってきているのか、頭がボーッとしてきた挙句、視界がぼやける・・・・・
だが、倒すのではなく、誘導するのであれば、まだ何とかできるかもしれない・・・・・
やるしかない・・・・・)
イライザ
「クスクス……悪夢を通じて貴方の人生を覗かせてもらったのだけれど……貴方の人生も随分とちっぽけで、みすぼらしいわね?本当につまらなくて退屈な人生だわ。」
イライザは自身の夢幻術を通じて霊夢の過去や記憶を読み取る事で、反撃できないように特定の範囲の者の精神を的確に呼び寄せたり、理想の世界を再現したりと言う事が出来るのだと判明する。
この言葉は裏を返せば先程の霊夢の戦意を削るために見せていた幻達は、本物のレミリアや魔理沙達の事に殆ど興味がなく、その内面や深い部分まで再現しようと言う意志が無かったと言うように、霊夢だけでなく、幻想郷で霊夢を認めてくれている者、信じてくれている者達の事さえも馬鹿にしている事になる……
イライザは霊夢だけでなく、幻想郷にいる全ての者をちっぽけな取るに足らない存在なのだと語る。
・・・・・アンタのクソみたいな意見なんて私の人生には微塵も関係ないわ・・・・・
(イライザからすれば霊夢のすべての反論がただの人間の小娘の戯言にしか過ぎないのと同じように、霊夢からすればイライザの意見はただの化け物の哀れな戯言にしか過ぎない・・・・・
しかし、それは霊夢のみについてイライザが言っていた場合のみに限る・・・・・
他の仲間達について馬鹿にされた霊夢は、怒りの炎を静かに燃やし始める・・・・・)
イライザ
「クスクス……哀れ、その下らない理想を抱いて微睡みの中、果てていれば良かったものを……目を覚ましたばかりに悪夢よりも恐ろしい現実を見なければならなくなっただなんて悲惨じゃない?」
イライザは霊夢の言葉を意にも介さずに微睡みの中から抜けてしまった霊夢の判断を詰るように言葉を並べていく……そして、イライザは霊夢が誘導を狙っている事に気付いていないのか、そろそろ決着を付けようと、幻想郷の住人達の精神を刃に変えたものを天井全体を埋め尽くすようにして広げ、室内全域、何処に隠れようと、避けきれない程の圧倒的な数の刃で霊夢を切り刻もうとする。
この部屋から脱出する事が出来なれば死を意味するが、先程までの朦朧の巫女とイライザの戦いの影響か、部屋の一角に大穴が空いており、そこから外へ出られるようになっている。
現実も悪夢に蝕まれているのであれば、その悪夢から覚ます・・・・・それが私の役目よ・・・・・
(人間の強さというものは、決して適わないであろう相手にも怯まずに立ち向かうことでもある・・・・・
どれだけ悲惨な現実が待っていようと、目を背けないことに意味がある・・・・・
そして、霊夢は部屋の一角の大穴に気がつくと
「少なくとも、戦闘能力が高いくせしてたった一人の人間にここまでするほど、臆病者のアンタよりかはマシな人生を歩んでいるわよ・・・・・」
と言い、部屋から脱出する・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……私はね?他のヴァイスリゾームの連中と違って貴方達を心の底から愛しているのよ?だって……貴方達人間ほど壊しがいのある存在なんていないのだもの。」
《ザアァァァァァァァァァァァァァァッ》
霊夢が大穴から脱出する間際にイライザはなぜ霊夢を敢えてここまで仕留めずに生かしておいているのか、その理由……そして自分が抱く人間に歪んだ愛情や愛着について語ると、天井を覆うようにして広がっていた無数の精神の刃が嵐の雨粒のように降り注ぐ……
天井から豪雨のように降り続ける精神の刃の雨の中でもイライザは平然としており、ゆっくりと右手を霊夢が脱出した大穴に向けて翳し、自身の右腕を無数の口が付いた巨大な触手に変え、部屋の外へ逃れた霊夢に追撃しようとする。
っ・・・!!!!!ああぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁああああああっ!!!!!
(霊夢は無数の精神の刃によって体中を切り刻まれながら、悲鳴を上げる・・・・・
ただ単に切り傷で済めば、体に深々と刺さる刃もあり、逃げ場はどこにもない・・・・・
霊夢は、イライザの追撃に対応することも出来ない・・・・・)
イライザ
「」
部屋全体に向けられた精神の刃による嵐に対して部屋の外へ逃れる事で回避した霊夢だったものの、霊夢を追うようにして飛来した精神の刃の一群に切り裂かれていく中、イライザが伸ばした、無数の口が付いた触腕へと変異した右腕が断末魔をあげる霊夢を喰らおうとする。
既にその大半が再生し終えてしまっているものの、霊夢が脱出した部屋の外はカシキ・ヒェリ(悪意の手)を滅ぼした時に出来た下層へ繋がる大穴がまだ残っている。これを利用して下層へ逃げることが出来れば、この要塞から脱出するための距離を大きくショートカットする事が出来る。
イライザ
「クスクスクス……いい断末魔ね?
けれど……まだ恐怖と絶望が足りないわ。」
部屋全体に向けられた精神の刃による嵐に対して部屋の外へ逃れる事で回避した霊夢だったものの、霊夢を追うようにして飛来した精神の刃の一群に切り裂かれていく中、イライザが伸ばした、無数の口が付いた触腕へと変異した右腕が断末魔をあげる霊夢を喰らおうとする。
既にその大半が再生し終えてしまっているものの、霊夢が脱出した部屋の外はカシキ・ヒェリ(悪意の手)を滅ぼした時に出来た下層へ繋がる大穴がまだ残っている。これを利用して下層へ逃げることが出来れば、この要塞から脱出するための距離を大きくショートカットする事が出来るだろう。
・・・・・っ・・・・・
(触腕と化したイライザの右腕に追いつかれてそのまま捕食される前に、霊夢は何とかして大穴から下層へと逃げることに成功する・・・・・
しかし、それは結果的であり、正しく言えば、逃げたというよりかは朦朧とする意識の中、落ちていった、と言うのが正しいだろう・・・・・)
イライザ
「あら、どこへ行こうと言うのかしら?
此処は私の腹の中……何処にも逃げ場なんて無いわよ?」
【貪夢「凄絶なる凶夢」】
《メキメキメキメキメキッ》
《ドガガガガガガガガガガガガガガッ》
イライザは霊夢が再生途中の穴から下層へ落ちていくのを見て、イライザは周囲にある空間を脈動するおぞましい肉塊としてその身に纏い、夥しい数の口が存在する醜悪な巨大蛙のような姿の半身を得る。
そして、霊夢を追いかけるべく、床や壁、天井の悉くを圧倒的な質量を生かして破壊しながら、下層へ落ちていく霊夢を追い始める……
・・・・・
(終わりの訪れというのは、こういうことを言うのだろうか・・・・・
精神の破片が突き刺さったままの霊夢は、半開きの目と朦朧とする意識の中、抵抗する力もなく迫り来る悪夢の化身イライザの追撃に襲われるがままの状態となってしまう・・・・・
博麗の巫女も所詮は人間、限界というものがある・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……子鼠のように逃げ回っても無駄だと言うことがわかったでしょう?」
イライザは巨大な肉塊蛙のような魔物と半身を融合させた箇所の無数に存在する鋭い牙を備えた口を大きく開ける……すると、その口内には何重にも鋭利な牙が生えた口が存在しており、壁や天井を圧壊し続けながら落下する勢いに任せ、霊夢を喰らおうとする。
魔理沙?
『……む………霊夢!!』
まるで底無しであるかのように下層へ自由落下する中、霊夢の体に突き刺さった精神の刃から魔理沙の声が聞こえて来る……イライザにとっては単なる攻撃手段、牽制の一手法に過ぎないと見下していたが故に、魔理沙の精神が霊夢へ語りかけると言うことは予想できなかったと思われる。
《・・・・・魔理・・・・・沙・・・・・?》
(魔理沙の呼びかけに、霊夢はようやく少し意識を取り戻し、心の中で問いかける・・・・・
声を出すことすらもう難しいほどに、人体へのダメージが大きすぎる・・・・・
そして、霊夢は魔理沙の声をとうとう死が近くなってきたがゆえの幻聴だろうかと思えてくる・・・・・)
魔理沙
『やっと聞こえたか……どうなっているのかはわからないが、ヤバいって事だけはわかる。何か勝算はあるのか?』
巨大な肉塊のような半身を得たイライザは霊夢が通り抜けて落下することが出来る床の穴を強引に抉じ開けながら下層へ向かっているため、時間のロスが生じているものの、着実に距離を詰めており、みるみる内に霊夢に向かって来ている……
このまま自然落下に身を委ねているだけでは追い付かれてしまうだろう。本日何度目かになる絶体絶命の状況の中、霊夢の体に刺さった精神の刃の断片を介して魔理沙の声は霊夢に何か勝算はあるのかと問いかける。
《・・・・・アイツを誘導するようにとは言われているわ・・・・・でも・・・・・万が一にも、今の私に勝ち目はないでしょうね・・・・・》
(このままでは確実に追いつかれ、そしてなぶり殺しにされるのはまず間違いないだろう・・・・・
今のままでは自分には万が一にも勝ち目はないということに、霊夢は気がついていた・・・・・
それでも、もしここで命を落としたとしても、頼まれたことである誘導することを成し遂げることが出来たなら、自分の役目は終わりだとも思っている・・・・・)
魔理沙
『……誘導、すればいいんだな?
よし、それなら私の力を貸してやる。』
ここは歪められた悪夢の世界……
だが、同時に意思や精神の強さが反映される夢の世界でもあるため、それをいち早く理解していた魔理沙が自分の力も貸してやると言うと、霊夢に刺さっていた精神の刃の破片が抜け、八卦炉へと変化して霊夢の手元へ移動してくる。
現に、悪夢の処刑者を葬る際に、甲冑や剣が現れたり、異様なまでにあっさりと上層へ通じる大穴を開けることが出来たりと、多少なら霊夢でも干渉する事が出来ている事が判明している。
・・・っ・・・!ありがとう、おかげで痛みでも目が覚めたわ・・・・・
(精神の刃が抜けたことで、その際の痛みでハッキリと目が覚める・・・・・
そして、魔理沙の精神の刃が変化した八卦炉を右手に持ち、再びイライザとの対峙を決意する・・・・・
人間二人だけで悪夢の女王に挑むのなんて、到底勝ち目がないことではあるが、霊夢からしてみれば100人力も同然・・・・・)
イライザ
「クスクスクスクスクス……
さあ……これで終わりね?」
イライザの半身である、目や鼻がなく、身体中に無数の口を備えた巨大な蛙のような形の肉塊が、体表に開いた無数の口とは別の、メインである巨大な口を大きく開き、霊夢を呑み込もうとする。
開かれた口内には先述した通り、口の中に口があり、それが幾層にも連なった異様な構造になっており、呑み込まれてしまったら最期、無数の鋭利なナイフのような牙で瞬く間に噛み砕かれ、その魂もろとも貪り喰われてしまうだろう……
・・・・・マスタースパーク・・・・・
(ここまで追い詰めた上で、もう反撃はできないだろうと、ここですべてを終わらせるつもりの油断しきったイライザにミニ八卦炉を向けて、マスタースパークを至近距離で放つ・・・・・
敢えて至近距離まで引き寄せることで、致命傷には至らずとも絶対に避けることも出来ない一撃を放つ・・・・・)
イライザ
「………………!!?」
霊夢が魔理沙の力を借りて放ったマスタースパークが、大口を開けたイライザの半身の口内に直撃すると、大爆発が巻き起こり、巨大な肉塊の所々が吹き飛び、ダメージを受けて撤退するための時間稼ぎに成功する。
既に血の巨人と戦っていたエリアを抜け、カシキと戦っていた階層まで見え始めており、残り30m程落下すれば後は道なりに移動するだけでも脱出する事が出来るだろう。
やっと・・・・・アイツに一石を投じることが出来たわ・・・・・
(魔理沙の力を借りて、やっとイライザへの一石を投じることが出来た・・・・・
脱出まではもう近いが、あれを受けてもイライザはまだ追ってくるだろう・・・・・
ここからは、時間との戦いになるだろう・・・・・)
イライザ
「…………クスクスクス……
面白い……面白いわぁ……まさか悪夢の支配者であるこの私に……夢の力を使ってくるだなんてね……?」
《メキメキメキメキメキ……》
マスタースパークによって巨大な肉塊蛙の半分近くが消し飛んだ……だが、肝心のイライザ本体にはダメージすら一切通っていない……悪夢を支配するイライザを始めとした幻魔達には夢の住人の力は通じない……それを証明すると、イライザは消し飛ばされた肉塊の再生を始めながら、イライザの背中から生えた二枚の翼が霊夢に向かって伸ばされる。
イライザの翼腕には鋭利な赤い爪が備わっており、それによって落下中の霊夢を空中で切り裂こうとする……
あと10mで下に着くものの、先程と同じようなマスタースパークではイライザ本体にはダメージを与えることが出来ないため、伸ばされたイライザの翼腕を迎撃する術は無い……
・・・っ・・・!!!!!
(霊夢は必死になって脱出口まで急ぎ始める・・・・・
ここで捕まってしまえば、今までの苦労も水の泡となってしまう・・・・・
敵が支配権を握る世界では、どんなに力を持っていようと博麗の巫女も無力同然にまで至るということを改めて思い知らされる・・・・・)
魔理沙
『しかし厄介だな……
どういう原理かはわからないが、私の力の大半が奪われている状態じゃ、今の火力で撃てるのは後一回だけだ。』
イライザの伸ばした翼腕が霊夢のコンマ数秒前にいた場所の床と天井を大きく引き裂き、霊夢の服の端をも裂く中で、先程撃ったマスタースパーク(イライザ本体には通じないが、悪夢の産物を破壊可能な威力)を撃てるのはあと一度だけだと教える。
・・・・・魔理沙・・・・・その残り一回、本当に力が微塵も残らないほど、全部の力貸してくれる・・・・・?
(イライザの翼腕が迫り来る中、精神体の魔理沙に残りのあと一回を微塵も力が残らないほどに力を貸してくれるかと聞く・・・・・
改めて悟った、コイツはヤバイ、本当に死ぬ気でかからないとどうにもこうにもならない・・・・・
残りの一撃でなんとか脱出するしか方法は無い・・・・・
魔理沙
「………何か考えがあるんだな?」
今持ちうる限りの力の全てを貸してほしいと言う霊夢の言葉を聞いて、自分の力を用いてこの状況を打開する策があるのだと思い、何か考えがあっての事なのかと問いかける。
一方、イライザは肉塊の再生を終えたどころか、その体積が更に二回りも肥大化し、下層に辿り着いた霊夢達を押し潰そうと迫る。
・・・・・少しの間でも、あの化け物の動きを止められれば、あとはアイツを誘導したまま脱出するだけ・・・・・そうすればもうアイツは終わりよ・・・・・
(霊夢が頼まれたことは戦うことではなく、イライザのことを誘導すること・・・・・
誘導した上で脱出してしまえばもうこっちのものだ・・・・・
つまりは、少しの間動きを止められれば、その間に脱出に成功し、そうすればイライザは追ってくる、そうなれば自然と誘導は完了するだろうと霊夢は思っている・・・・・)
魔理沙
「ははは、何だ策と呼べるほどのものじゃないな。
だけど、お前らしいっちゃお前らしいな!
よし、ありったけの力を貸してやるよ!
その代わり……高くつくぞ?」
魔理沙の顔は見えないものの、霊夢の策とも呼べない考えを聞いて笑っているように感じたその次の瞬間、イライザの半身たる巨大な肉塊が巨大な口を開けて避けることも逃れることもせずに立ち止まっていた霊夢達を呑み込む……
安心なさい・・・・・十分承知よ・・・・・!!!!!
グォッ・・・・・!
(呑み込まれたと同時に、これ以上の至近距離もなければ、この距離からの攻撃を放てるチャンスはもう二度と訪れないであろうと思い、霊夢は魔理沙の力を借りた全身全霊の、全力のマスタースパークを放つ・・・・・
イライザ本体にダメージはなくとも、イライザはまず再生に時間を使うだろう・・・・・
その時を利用して脱出をするしかない・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……この私が何度も同じ手に引っ掛かると思う?」
《ヒュオッ》
霊夢の放ったマスタースパークがイライザの巨大な肉塊を呑み込み、イライザもろとも跡形もなく消滅する……と思いきや、次の瞬間にイライザは霊夢の背後に現れ、背中に生えた二本の翼腕の爪を用いて霊夢の体を切り刻もうとする……ここはイライザの支配空間……つまり、何処にでもイライザは瞬時に移動することが出来ると言うことを示している。
そんな絶体絶命の状況の中、消えた筈の霊夢の体に朦朧の巫女が降ろしていた神々の力の残滓が再び蘇り始める。
・・・っ・・・・・!
(霊夢は自身の体に何かが宿るような感覚を感じると、ダメかもしれないが一か八かでイライザの攻撃を避けたところ、頬をかすっただけで何とか済む・・・・・
これが正真正銘、最後のチャンスというものだろうか・・・・・)
イライザ
「あら?その力は……
……まあ、いいわ。どの道貴方の進む先は悪夢の中であるのに変わりは無い。」
イライザの振るり降ろした翼腕を霊夢が間一髪で回避するのを見て、先程の別人格の巫女の力を無意識に使い始めた霊夢を見て驚くものの、振り下ろした翼腕が激突し、爪が突き刺さった床を介して周囲の空間に干渉し、霊夢が避けた先の床に無数の牙を備えた口が瞬時に形成され、霊夢を足元から喰らおうとする。
口だけは達者な化物ね・・・・・
ダダダダダダダダダダダッ!!!!!
(霊夢は形成された口へと負けじと瞬時に弾幕を放ちながら応戦する・・・・・
ここは確かにイライザの支配する空間、例えるなら人間とアリのようなもの、それくらいの差がある・・・・・
しかし、力を得たアリは、時に人間にも対抗することが出来る・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……そう言う貴方は口も力も弱いわね?」
霊夢の挑発を聞いても、その言葉を逆手に取った言葉で挑発し返すと、床から引き抜いた右翼の爪を霊夢に向けて振るい、霊夢が攻撃した事で補食する事が阻まれ、ダメージを受けている巨大な口もろとも切り裂こうとする。
敵対するイライザは、言うなれば津波のようなものだ。
その津波を前に、蟻どころか、象や恐竜ですら成す術もなく呑み込まれ、弄ばれ、滅ぼされてしまう……抵抗や対抗をしようと言う事そのものが意味を成さない超常の存在、それがイライザを始めとする巨悪達(ヴァイスリゾーム)だ。
もっとも……その津波には明確に生命を貪ろうとする邪悪な意志が宿っているのだが……
ザシュッ・・・・・!
ぐっ・・・・・!
(イライザは悪夢そのもの、夢、及び悪夢というものは概念でもあり、物理攻撃が効かないことは霊夢自身も百も承知の上だ・・・・・
だが、霊夢もただでは転ばない・・・・・
悪夢はイライザの右翼の爪に肩を切り裂かれるが、絶えず攻撃を続ける・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……さっき貴方は夢の住人の力を使ったみたいだけど……さっきの一撃で全て使いきり、今その身に宿している神々の力もそう長く維持することは出来ないのでしょう?」
イライザは一つずつ霊夢の力や策を潰して回っている……
霊夢の右翼を切り裂いた際に爪に付着した血を舐めながら霊夢の状況を見抜き、その力はもう限界を迎え始めており、力を使えなくなればもう逃げることさえ出来なくなると言うところまでイライザは把握している。
イライザ
「踊りなさい?その命が尽きるまで……この悪夢の世界で……!!」
霊夢の放った弾幕によって巨大な口が破壊されるものの、今度は霊夢の体を包み込もうとするかのように、周囲の床から幻魔カシキのものと酷似した無数の手と仮面のような頭が生え始め、全方位から霊夢を呑み込もうとする。
・・・・・っ!!!!!
ズッ・・・・・
(肩を切り裂かれたことで動きが鈍り、反応が遅れる・・・・・
イライザのスピードに、対応しなければいけないということはわかっているのに、思うように動けない・・・・・
霊夢はイライザの思惑通り、呑み込まれてしまう・・・・・)
イライザ
「あら?もうお仕舞いなのかしら?
クスクスクス、思ったよりも呆気なかったわね?」
無限に増殖を繰り返す悪夢の手と、骨肉を噛み砕き喰い千切る悪夢の頭に呑み込まれたのを見て、イライザは妖艶かつ不敵な笑みを浮かべながら、少し力を上げただけで容易く滅びたと思われる霊夢を見て小馬鹿にする。
・・・・・
(いくら博麗の巫女といえども、手負いであり全力も出せない状態・・・・・
しかも、イライザにとって有利すぎる戦場での戦いときたものだ・・・・・
普通に考えて勝てるわけがない・・・・・)
《ブチブチブチッ》
《バキッ ゴキッ 》
霊夢を呑み込んだ廉価版の悪意の手(カシキ・ヒェリ)の塊は不気味に蠢きながら、何かを擂り潰したり砕いたり、引き千切るような音をたて、時折その塊の中から血が流れているのが見える。
霊夢の中にはまだ神々の力が残っており、あと少しで悪夢の要塞の外へ逃れる事が出来るのだが、それを成すことなく悪夢に呑み込まれてしまうのだろうか……
・・・・・
(死というものはこういうものなのか、と全身で感じる・・・・・
自分が捕食されてゆく様子を、ただただ抵抗もせずに・・・・・いや、できずに眺めるしかできないというのは、もはや悔しさを通り越して、受け入れることしか出来ないという感情が勝ってしまう・・・・・)
《ブチブチブチッ》
霊夢の実体……これは厳密には肉体を伴ったものではないのだが、その体が無数の悪意の手と頭によって貪られていくと、次第に霊夢の体も削り取られ、消滅していく……魂をも貪るその力が霊夢を完全に消滅させるのも時間の問題だ。
戦いとは常に非常かつ理不尽なもの。
その現実を前に……死や敗北を認めた者に勝利は訪れる程、命のやり取りは甘いものではない。このまま行けば幻想郷の崩壊は免れない……