それはあまりにも唐突に起こった出来事だった。
誰しもが普段と同じ日常を過ごし、明日も同様の日々を送るものであると思い、眠りについた……
だが、目を覚ましたのはごく一部の者だけだった。
里も、山も、森も……
人妖も、動物も、植物さえもが眠りについたまま目覚めることがなく、幻想郷全体を深く冥い静寂が支配していた……
これは明確な"異変"だ。
"それ"は深き夢の世界から現れる悪夢の支配者。
微睡みの中に漂う無垢な精神を貪り、安息を求める者達に恐怖を与えるおぞましき幻魔の軍勢『エファ・アルティス』
現世を救うために悪夢を支配する幻魔との戦いが幕を開ける……
>>2 時系列と注意
>>3 異変側の勢力
アンタ、本っっっ当に馬鹿ね?
ゴガガガガガガガガガ・・・・・!!!!!
(知能がさほど高くない相手だからこそ、霊夢は大体のタイミングを読むことができ、いとも簡単にカシキの攻撃を避けることに成功する・・・・・
カシキの放った光弾が壁に直撃し、そしてそのまま壁の瓦礫がカシキめがけて降り注ぐ・・・・・)
カシキ・ヒェリ
『ギイィィィィィィィィィィッ!!!』
カシキの放った魔弾が壁に激突すると大爆発を起こし、その破片が飛んで来ると、殆どダメージを受けてはいないものの、一時的にカシキの視界が封じられ、反撃のチャンスが生まれる。
これで終わらせてやるわ化け物・・・・・!
(霊夢はカシキの視界を封じることに成功すると、反撃準備に入る・・・・・
いくらカシキの知能が低いと言えど、そのままじっと大人しくその場に留まって攻撃を受けるということはまずない・・・・・
戦いを終わらせるなら、この一撃にかけるしかない・・・・・)
カシキ・ヒェリ
『ギシュッ ギシャアアァァァァァッ!!!!』
カシキはおぞましい雄叫びをあげながら、自分の周囲全方位に向けて無数の腕を伸ばして視界を封じられていながらも攻撃を行おうとする。
カシキは霊夢の放つ光弾だけでは自分を倒しきることが出来ないと考えており、更に高威力のスペルカードがある事を知らないため、先程と同じように例え自分がどれだけの攻撃を受けたとしても自分の再生力と生命力でなら耐えきり、反撃する事が出来ると考えている。
霊符「夢想封印」
(この戦いに終止符を打つべく、霊夢は今度はスペルカードを用いての攻撃手段に出る・・・・・
しかし、それだけではなく続けて弾幕も相手に放つ・・・・・
先程のように復活の隙を与えずに、今度は完全に消しにかかる・・・・・)
カシキ・ヒェリ
『………!!!
カッ……ハ………!!?』
霊夢の放った虹色に輝く巨大な光弾がカシキに直撃すると、この攻撃にも充分耐え、反撃が出来ると思っていたカシキの体が急速に浄化され、邪気や悪意の塊であったカシキの体が瞬く間に崩れ去り、これまでの戦いは何だったのかと思えるほど呆気なくカシキが消滅していく……
更に、この空間そのものが強力な邪念と邪悪な魔力によって形成されている事もあり、周囲の天井や壁、床まで浄化し、現世の距離感に換算すると、何百階層もある悪夢の要塞の中、一気に上層階層まで向かえる通路が天井の向こうから誕生し、一気にショートカットする事が出来るようになった。
・・・・・これでやっと総大将のいる場所まで行けるってわけね・・・・・
(そう言うと、霊夢は迷うことなく、怯むことなく、イライザがいるであろう上層階へと向かい飛んでゆく・・・・・
これから先は、今までの戦いは何だったのかと思えるくらいの決戦が待ち構えているであろうことは確実・・・・・
悪夢に終止符を打てるのか、それとも悪夢に取り込まれてしまうのか・・・・・
全ては霊夢の手にかかっている・・・・・)
巨大な血の巨人
『ォォォォォォォォォォォ……』
上層階まで開かれた巨大な縦穴の中を最上階目掛けて飛ぶ霊夢の体を、道中の積層から滲み出すようにして現れた巨大な血の魔神が現れ、霊夢の体を握り潰そうと手を伸ばして来る。
血の巨人は全身が血液で出来ているかのように赤黒く、通常の目や鼻、口がある箇所には大穴が空いていて、その大穴を通る風のような唸り声をあげながら、四本ある腕を使って捕縛しようと考えている。
この巨人もまた、カシキや悪夢の処刑者、キラークラウンと同じ邪悪な魔力が感じられることからイライザ配下の高等幻魔の一体なのだと言うことがわかる。
・・・・・またなの・・・・・?
(やっとイライザとの対峙かと思われたその時、またしても現れたイライザの配下に、霊夢は疲労を見せ始める・・・・・
しかも、今度は血で形成された体を持つ巨人・・・・・
物理攻撃か効くかどうかが怪しい・・・・・)
《ガッ》
突然の新手の出現を前に驚き、疲労をして回避しなかった霊夢を顔の無い血の巨人が四本ある腕の一つで霊夢を掴み、そのまま握り潰そうと力を込め始める
血の巨人は優に体長が10m以上はあり、これまで倒してきたどの高等幻魔よりも明らかに大きく、その巨体故に単純なパワーもかなり高いものとなってしまっている。
・・・っ゙・・・・・!ぁああああぁぁあぁぁああああああああぁああああぁぁぁぁあああっ!!!!!
(やっとの思いでここまで敵を倒しながら進んできたのに、こうも簡単に捕まり、こうも簡単にダメージを受ける羽目になってしまうとは、自分が情けなくなってくる・・・・・
段々と意識も遠のき始めてくる・・・・・)
《ズオォォォォォォォォ……》
血の巨人は霊夢を捕えると、そのまま霊夢を自分の顔の方へ引き寄せ始める。すると、巨人の顔にある大穴……顔を貫かれたように大穴が開いているものの、向こう側の光景は見えず、何故か何処までも漆黒の空間が広がっているように見える。
更に、巨人のその大穴を見ていると、魂が引き込まれるような謎の引力が感じられる……この高等幻魔は例え相手が夢の世界に生身の体を持ち込もうと、その魂を引き抜いて喰らう力が備わっているのだろうか。
・・・・・ぅ・・・・・ぁ・・・・・
(体には力が入らず、意識も遠のき始めたそんな時に、最悪のタイミングで霊夢は魂が血の巨人に引き込まれるような感覚に陥る・・・・・
うつろな意識の霊夢にとっては、もはや今自分の魂が体に入っているままなのか、それとも体から離れているのかすらもわからなくなってくる・・・・・)
【制止した時間】
巫女?
「当代の巫女は随分と弱くなったものね……」
霊夢の魂を奪い去ろうとしていたところ、突如として周囲の空間が色を失い静止する中、霊夢を拘束する血の巨人の腕の上に、自分で切り揃えたショートヘアーの黒髪をして、霊夢に似た紅白の巫女服を着た巫女が座り、魂を奪い取られようとしている霊夢を見て落胆したように呟く。
・・・っ・・・・・!?あ、あんた誰よ・・・・・?
(霊夢は意識が途絶えそうになっていたところ、突然時間が制止し、目の前に自分に似た謎の巫女が現れることにさすがに驚いて、意識がグンと戻るように意識を取り戻し始める・・・・・
霊夢からすれば、見ていないで早く助けてもらいたいという気持ちでいっぱいだが、謎の巫女は何のために現れたのだろうか・・・・・)
巫女?
「………あー?もしかして私の事が見えているの?」
周囲が色を失い、時間が止まったような空間の中、自分に気付いて声をかけている事が余程珍しいのか、声をかけられた巫女はキョトンとした様子で霊夢を見て、まさか自分が見えているのかと問い返す。
見え・・・・・て・・・・・いるわよっ・・・・・!アンタこそ、私のこと見えてんの・・・・・!?
(時間は止まっていても尚、握り締められていることに変わりはなく、止まっていなく意識を保っている霊夢からすれば、自分に話しかけているくせして助けようともしない目の前の相手が腹立たしくて仕方が無い・・・・・
早く助けろと言わんばかりの眼力で訴える・・・・・)
巫女?
「……今まで私に気付いていなかった事から死の間際になってイタコの素質にも開花した……って訳?まあ、いいわ。今回は力を貸せそうだから貸してあげる。」
血の巨人の腕の上に座っていた巫女が霊夢のところまで歩き、霊夢と重なるようにして憑依すると、霊夢の体の奥底から霊力が沸き出し始め、両手を合掌するようにして合わせるようにして自身の周囲にある弾幕を打ち消す"霊撃"いわゆる弾幕ごっこにおけるボムの使用が可能になる。
・・・・・!?なんかいつもと体の感覚が違う・・・・・
(霊夢は相手が自分と容姿が似ているとはいえど、能力者であろうことは予想がつくが生きている人間だと思っていること、そして意識がまだ完全にハッキリとしていなかったこともあり、何が起きたのかが瞬時に理解出来ないが、体の感覚がいつもとはなんか違う、ということだけはなんとなくわかる・・・・・)
《ズズズズズズズズズズ……》
朦朧の巫女が霊夢の中に入り、一時的に新たな力を得ると灰色の世界が無くなり、その影響で霊夢を掴んでいる巨人が再び霊夢の魂を奪うために顔の大穴から吸魂を再開し始める。
これでも吸い込んでなさい・・・・・
ポォ・・・・・
(霊夢は顔のない巨人のその圧倒的な吸う力を逆に利用して、大穴に自然に吸い込まれるようにボムを放つ・・・・・
勿論避ける避けないは相手の自由だが、これだけの至近距離+相手の巨体+魂を吸おうとする力も相まって、恐らく避けることは困難だが、もしこれを避けられたとしても今の霊夢からすればさほど気にするほどのことでもない・・・・)
血の巨人
『オォォォォォォォォォォ……』
霊夢の霊力は幻魔や悪しき存在にとってかなりの効力を発揮するのか、貌の無い四腕の巨人が身体中から赤黒い煙を出しながら苦しみ始め、霊夢を壁に向けて投げ付けようとする。
本来ならば衝撃波のようにして周囲に展開するものを、避けられないであろう至近距離から霊力の塊として放った事で、より大きなダメージとなっている。
無想封印は言うなれば博麗の巫女の奥義なのだが、その威力が高い分、消耗が激しく、元凶のイライザの元に辿り着くまでは多用せず、他の技を放つ方が消費を抑えられるだろう。
どうやら効果ありのようね?ならば・・・・・
(霊夢は更なる追撃として、今度は隙を作らずに無数のボムを放ち始める・・・・・
霊夢からすれば血の巨人や今までの敵など正直相手にしていられない、早くイライザとの一騎打ちに持ち込みたいという気持ちでいっぱいなのだ・・・・・)
血の巨人
『』
血の巨人は霊夢の放つ霊力の塊を受け続ける事でその体積が削れていくが、霊力を集中して塊にしている事からその浄化範囲は局所的であり、浄化を逃れた巨人の部位から新たに血が吹き出し、吹き出した血が凝固することで損失箇所を補っていく。
血の巨人を始めとする幻魔は実体を意のままに操ることが出来る上に脳や心臓と言った重要な臓器や身体の核と言ったものを持たないが故に高い肉体の再構築能力を獲得するに至っており、通常の弾幕だけではやはり限界が来てしまう。
血の巨人は破壊を逃れた四本の腕を伸ばして再度霊夢を捕らえようとする……元凶であるイライザはまだまだ先に潜んでいるのだが、このままでは先に戦った悪夢の巨人や無数の手と頭を持つ異形との戦いと合わせて消耗しきり、イライザのもとへ辿り着くことすら叶わなくなってしまうだろう。
加えて、霊夢が朦朧の巫女の力で覚醒した影響から、先程放った夢想封印によって出来た上層階へ通じる大穴が塞がり始めていることを感知することが出来る。
血の巨人
『オ……オォォォォォォ……!!!』
血の巨人は霊夢の放つ霊力の塊を受け続ける事でその体積が削れていくが、霊力を集中して塊にしている事からその浄化範囲は局所的であり、浄化を逃れた巨人の部位から新たに血が吹き出し、吹き出した血が凝固することで損失箇所を補っていく。
血の巨人を始めとする幻魔は実体を意のままに操ることが出来る上に脳や心臓と言った重要な臓器や身体の核と言ったものを持たないが故に高い肉体の再構築能力を獲得するに至っており、通常の弾幕だけではやはり限界が来てしまう。
血の巨人は破壊を逃れた四本の腕を伸ばして再度霊夢を捕らえようとする……元凶であるイライザはまだまだ先に潜んでいるのだが、このままでは先に戦った悪夢の巨人や無数の手と頭を持つ異形との戦いと合わせて消耗しきり、イライザのもとへ辿り着くことすら叶わなくなってしまうだろう。
加えて、霊夢が朦朧の巫女の力で覚醒した影響から、先程放った夢想封印によって出来た上層階へ通じる大穴が塞がり始めていることを感知することが出来る。
・・・・・耐久力こそ高くはないけれど、液体の体っていうのは非常に厄介ね・・・・・
(さほど強くはないものの、それを補うかのような体の作りになっていることは明らか・・・・・
)
・・・・・耐久力こそ高くはないけれど、液体の体っていうのは非常に厄介ね・・・・・
(さほど強くはないものの、それを補うかのような体の作りになっていることは明らか・・・・・
博麗の巫女程度ならそこまで頑丈な作りの部下じゃなくても倒せると思ってのイライザの過信か、それともただ単にこういう部下が偶然揃っているだけなのか・・・・・
いずれにしても、こんな前座の敵にやられるわけにはいかない・・・・・)
【途中送信すみません!】
血の巨人
『オオオ…オォォォォォォォォ……!!』
体の再構築を繰り返しながらも巨人は四本の腕を伸ばして執拗に霊夢を捕らえようとする。このまま戦っていても部分的な攻撃だけでは勝つことは出来ない、ならば攻防一体の八方龍殺陣を展開する事で霊力の消耗を抑えつつ、攻撃しようとする巨人の力を逆手にとって反撃するのがいいのかもしれない。
【神技「八方龍殺陣」】
ドォッ・・・・・!!!!!
(霊夢は、これがトドメだと言わんばかりに一気に勝負を畳み掛けにかかる・・・・・
耐久力がそこまで高くないのはわかっている、高いとするならば再生力・・・・・
ならば、その再生力も通用しないほどに猛攻撃をすればいい・・・・・)
血の巨人
『!!!?
オォォォォォォォォ………』
霊夢の展開した金色に輝き、天を貫くような光の結界によって塞がりつつあった天井が再び砕け、上層階までの道が出来ると同時に、霊夢を捕らえようとしていた血の巨人が、その結界に呑み込まれ、急速にその体が浄化され、無数の人間の怨嗟の声が混ざったようなおぞましい呻き声をあげながら消滅していく。
今度こそ、勝負あったようね・・・・・
(そう言うと、霊夢は上層階までの突き抜けた天井を睨みつけるようにして見つめながら、いよいよ始まる最終決戦に向けて覚悟を決める・・・・・
後戻りする気など毛頭ない、そんな気持ちが芽生えるくらいなら、博麗の巫女なんてやっていない・・・・・)
《コォォォォォォォォォォォォ……》
貫かれ、天高く伸びた漆黒の空間……
その奥からは遠くはなれているにも限らず、底無しの魔力、底無しの悪意がハッキリと感じられる……こんな気配を放つことが出来るのは、この幻魔達を統べる悪夢の女王、イライザしかいない……
決戦は近い、悪夢と恐怖の世界に蠢く幻魔を葬る一人の英雄の戦いが今、始まろうとしている……果たして霊夢は……幻想郷はイライザと言う脅威を打ち払うことが出来るのか……!
・・・・・
スウウゥゥ・・・・・
(霊夢は、突き抜けた漆黒の空間をゆっくりと最上階へ向けて飛び始める・・・・・
今、こうして敵と合間見えることのない瞬間でも尚、あちこちから視線を感じるような気がする・・・・・
この空間全てが霊夢に敵意をむき出しにしているかのように・・・・・)
【悪夢の要塞 最上階】
《ゴオォォォォォォォォ……》
数多の悪意の籠った視線や邪悪な波動の中を掻き分け、破壊して切り開いた天井の道を登り、遂にこの悪夢の要塞の最上階に辿り着くと、夥しい数の苦悶した人々が混ざりあって作られたようなおぞましく、巨大な門が見える。高さ10m、幅は8mもある巨大な門であり、この門の先から禍々しい悪意の波動がビリビリと感じられる……
・・・・・流石、趣味が悪いわね・・・・・
(その異様な造りの門を見れば、イライザの頭のおかしさを再認識する・・・・・
見ているだけで吐き気がしてくる上に、こっちまで頭がおかしくなりそうな気がしてきてならない・・・・・)
《ズッ》
あまりにもおぞましい形状の門を見て生理的嫌悪感を感じている霊夢の背後から音もなく、まるで周囲の闇の中から生み出されたかのように新たなる刺客にして、イライザを守る最後の障壁が錆び付いた鉈のようなものを二本手にしては霊夢の首を跳ね飛ばそうとする。
鬱陶しい・・・・・
ゴォッ・・・・・!!!!!
(霊夢は音はなくとも本能的に気配かなにかを感じ取ったのか、鬱陶しいとただ一言呟けば、そのまま相手に弾幕を放つ・・・・・
正直、今の霊夢からすれば、この異変の総大将であるイライザ以外の敵は目障りな存在でしかない・・・・・)
《ゴオォォォォォォォォ……》
霊夢の放った弾幕が全て背後にいた怪物に直撃し、大爆発を巻き起こすものの、その弾幕を受けた存在はこれまでの幻魔と違い、あまりダメージを受けていないのか、直ぐに爆煙を切り裂き、その姿を露にする。
爆煙を切り裂き現れたのは、身体中に色々な動物や人間の皮膚を雑に繋ぎ合わせて形成されたケンタウロスのような造形をした異形の怪物が錆び付いた鉈を持っている。
見たところ目や鼻、口と言ったものは見られ無いため、どのようにして霊夢の位置を感知したのかは不明だが、この異形こそがイライザを守る最後の番兵と言える存在だ。
あの気色の悪い巨人で最後かと思ってたのだけれど、まさかまだ厄介なのがいたなんてね・・・・・
(霊夢は歪なケンタウロスを睨みつけながら、怒りを露にする・・・・・
ここにきて今までよりも耐久力の強い手下を使ってくるとは、やはりイライザも博麗の巫女と直接ぶつかるのは極力避けたい、ということなのだろうか・・・・・)
《ヒュオッ》
無数の剥がされた皮膚の集合体と言う、暴虐と苦痛の化身とも言える化物……この耐久力の高さが何なのかはまだわからないが、余程その耐久力に自信があるのか、これまでどれだけの血を吸ってきたのか、夥しい血錆が付いた鉈を振りかざし、霊夢に対しても真正面から飛翔して向かう。
通すわけには行かない来客に真正面から突っ込んでくるとか、頭大丈夫?
(絶対に負けるわけには行かない戦い、霊夢の言葉にも怒りの他に煽りが見え始める・・・・・
真正面から来られて避け無いわけがなく、霊夢は飛行して相手の攻撃を避ける・・・・・
攻撃はまぁ避けられるとして、問題はなるべく自身の力を消耗しすぎずに、相手の耐久力を打破して完全に倒しきるにはどうするか・・・・・)
皮膚の獣
『オォォォ……ォォォ…………』
【悔痛「夢幻の痛苦」】
霊夢が室内でありながらかなりの広さを誇るイライザの玉座前の門から飛び上がるようにして避けた事で皮膚の獣が振るった鉈が空を斬るが、回避した霊夢へ視線を移すと、ちょうど門の真正面に獣が立つような構図になる。
そこへ、無数の統一感がまるで無い雑多な皮膚のツギハギの下で無数の目玉がギョロギョロと蠢き、霊夢を見据えると、霊夢の全身にまるで全身を針で骨まで一気に突き刺されたかのような凄まじい激痛が襲い掛かる。
・・・っ゛!?!?!?あぁぁぁあああああああぁああっ!!!!!
(突然体中に襲いかかった生き地獄とも呼べるほどのとんでもない激痛に、霊夢は悲痛な叫び声をあげる・・・・・
一体どんな技を使ったのかはわからないが、一つ確かなことが言えるとするならば、今までの敵がさほど大したことがなかったということもあってか、霊夢も心のどこかで目の前の敵を見くびっていた、ということだろうか・・・・・)
皮膚の獣
『…………………。』
《スッ》
全身を蝕む凄まじい激痛により悶える霊夢の前にまで再び異形の怪物が迫り、手にした鉈を大きく振り上げてその首を跳ねようとする。
あらゆる防御を貫いて相手に激痛を与えることでスピードや小回りを封じることで確実に相手を仕留める……それがこの皮膚の獣の戦い方だ。しかも、先程の幻魔の中でも飛び抜けて頑丈な体をしている理由は"現世の生物の皮膚を引き剥がして身体中に貼り付け"衣服のようにする事で、例え実体を持った存在が訪れたとしても対処できるようにしてあり、言うなればイライザの狡猾な策略の化身とも言える存在だ。
だが、こんな絶対絶命のチャンスの中で、これまで黙っているだけだった霊夢と同化した朦朧の巫女が霊夢の脳内に声をかける。
朦朧の巫女
『これはかなり厄介な相手ね。
アイツが身に纏っているのは幻覚や悪夢じゃなくて、現世にいる本物の人間や動物の皮膚……同じ現世の実体を用いているのなら、その応用力や、適応力による防御力は貴女を上回っている。』
霊夢が凄まじい激痛に晒されている中でも、朦朧の巫女は冷静な分析を続けており、まず最初に皮膚の獣が持つ異様な耐久力の正体について語る。
・・・っ・・・・・はぁっ・・・・・はぁっ・・・・・
(霊夢は激痛の中でも、なんとか紙一重のギリギリの状態で皮膚の獣の襲撃を避け、そして朦朧の巫女の助言に関して「この状況で・・・・・そんなのどうすればいいのよっ・・・・・!」と、皮膚の獣と激痛の二つと戦わなきゃいけない中で、なんとか出来る後継が全然浮かばない・・・・・)
朦朧の巫女
『……落ち着きなさい。
アイツは外側を現世の生物の皮膚で鎧のようにしているのなら……内側にいる本体を直接叩いてしまえば倒せる筈よ。』
皮膚の獣は両手に持った鉈を振るい、無数の血のように浅黒い斬撃を複数、連続して放ち、激痛で動きが鈍くなっているであろう霊夢を仕留めようとする中、朦朧の巫女は冷静に分析し、外部からの攻撃が通じないと言うのなら、内側から攻撃してみてはどうかと言う。
それができたら苦労しないわよ・・・・・!
(霊夢は、動きが鈍くなっているからか、腕や足といった箇所に、なんとか攻撃を避けた際にできた切り傷が複数でき始めている・・・・・
それに、内側からの攻撃と言っても、それができるほどの隙を相手が見せてくれないのだ・・・・・)
朦朧の巫女
『まあ、その通りね。
倒す可能性のある策が浮かんでもそれを実行できなければ意味がない、当代の巫女の力を見せてもらうことにするわ。』
朦朧の巫女が憑依した事で霊夢が秘めた霊力が底上げされ、全ての攻撃や技の威力が普段の倍に膨れ上がっているのだが、その技については朦朧の巫女は知らないため、倒す可能性のある方法を教えるだけで、後は任せると告げる。
あの血の巨人を討ち滅ぼした時のように、少しばかり特異な技を使用する必要が出てくるだろう。
見せてもらうって言われても・・・・・
(助言こそありがたいものの、ハッキリ言ってここまでの激痛に襲われながら、攻撃を避け続け、相手をなんとか内部から攻撃し、見事倒し切るなんて芸当は、博麗の巫女と言えども簡単ではない・・・・・)
《ズッ》
皮膚の獣は朦朧の巫女と話している霊夢に対し、最初に現れた時と同じように、周囲の闇に一度溶け込んだ後、霊夢の直ぐ目の前で、鉈を大きく振り上げた状態で現れ、手にした鉈を霊夢の脳天目掛けて振り下ろし、攻撃しようとする。
ビシュッ・・・・・!
くっ・・・・・!
(霊夢は間一髪で攻撃を避けるものの、鉈が頬を掠り、傷口から血が出る・・・・・
このままでは、自身の体に鉈をぶち込まれてしまう未来もそう遠くないと過ぎってしまう・・・・・
少しでも距離を詰めた瞬間に攻撃される前に攻撃を放つしかない・・・・・)
皮膚の獣
『オォォォォォォォォ………』
【悔痛「夢幻の痛苦」】
鉈を避けられると、再びツギハギの接合部の下にある無数の目玉がギョロギョロと霊夢を見ては、再び全身に針が突き刺さったような鋭く激しい痛みが霊夢に襲い掛かる……
そして、その痛みで動きが鈍るであろうと考えたのか、皮膚の獣は手にした二本の鉈を交差させるようにして振り上げ、X状の斬撃を放ち、霊夢を切り刻もうとする。
っぐ・・・・・!?!?!?
(再び襲いかかる悪夢のような地獄の激・・・・・
唐突に襲いくるこの激痛を避ける術は現段階ではない為、避けようがないものの、なんとか抵抗する程度ならまだできる・・・・・
相手が放った残激に向けて弾幕を放ち、なんとか攻撃を相殺しようとする・・・・・)
皮膚の獣
『ゴオォォォ…ォォォ…ォォ……!!』
霊夢の放った弾幕が複数直撃することで相殺し、当初の狙いは成功するが、それを見た皮膚の獣は霊夢の放った弾幕が次々と直撃するが、まるでダメージを受けること無く、そのまま弾幕の雨の中、鉈を大きく振り上げた状態のまま、下半身にある四本もの毛皮の無い狼のような脚を用いて駆け寄って来る。
やっぱり、まったくダメージがないようね・・・・・
(とは言うものの、霊夢は再び弾幕で応戦する・・・・・
だが、今度は皮膚の獣が持っている鉈へめがけて放つ・・・・・
こうすることで相手の手から鉈が離れれば、まだ多少は戦いやすくなるかもしれない・・・・・)
皮膚の獣
『オォォォォ……』
まるで渓谷に吹き込む風のように不気味に響く唸り声をあげながら、霊夢の放った弾幕を避けることも防御する事もなく受け続け、傷の一つも付かずに霊夢の目の前まで移動すると、右手に持った鉈を大きく振り上げるが、そこへ霊夢が鉈に向けて光弾を放ったことで獣の手から鉈が弾き飛ばされる。
朦朧の巫女
『………今よ!』
獣は鉈を弾き飛ばされた事で代わりに左手に持った鉈を横薙ぎに振るうことで霊夢の体を切り裂こうとするが、朦朧の巫女は獣に生じた刹那の隙を見逃さず、獣の内部へ浄化の力を送り込むチャンスだと教える。
これで終わりよ・・・・・!!!!!
ドォッ・・・・・!!!!!
(霊夢は皮膚の獣の体に手を当て、体内へと力を流し込み始める・・・・・
正直、皮膚の獣の謎の攻撃で全身に激痛が走る中、全力の力を出し切れない・・・・・
これで倒せるかどうかは賭けだ・・・・・)
皮膚の獣
『……………!!!?
ゴギギギギッ……ギギギギィィィィ……!!』
獣は霊夢の攻撃はどれも自分には一切通じないと思っていたからなのか、回避も防御もせずに霊夢の接触を許し、左手に持った鉈を続けて振るい、霊夢の体を切り裂こうとするものの、霊夢が霊力を流し込み始めた事で皮膚の獣の内部に霊夢の浄化作用を持った霊力が流し込まれた事で獣は体内から虹色の光を放ちながら崩壊し始める。
だが、彼もまた高等幻魔であるからか、最後の悪足掻きとして左手に持った鉈を霊夢の首筋に向けて振るい、道連れにしようとする。
あんたも往生際が悪いわねっ・・・・・!!!!!
ゴッ・・・・・!!!!!
(霊夢は霊力を流し込みながら、片手で皮膚の獣が霊夢の首へとめがけて振り上げた鉈へと弾幕を放ち、先ほどのように鉈を相手から引き離そうとする・・・・・
皮膚の獣も皮膚の獣で往生際が悪ければ、霊夢も霊夢で往生際が悪いのは通じている・・・・・)
皮膚の獣
『ゴオォォォォ……ォォォォ………』
《ザアァァァァァァァァァァァ……》
霊夢と獣による根比べの結末は直ぐに訪れた。
今度は手にした鉈を手放す事はなく、強く握りしめたまま霊夢の首筋の寸前まで迫り、薄皮を切るが、そこで獣の本体である皮膚の鎧の下にあった無数の目玉によって形成された幻魔が完全に浄化され、手にした鉈もろとも跡形もなく崩れ去り消滅していく。
獣が消滅すると、獣によって剥ぎ取られた事で作られた皮膚の塊が床に落ちる……この鎧を作るためにいったいどれだけの命が奪われたのかはわからないが、少なくともこれで新たにあの獣によって命を奪われる犠牲者を無くす事は出来たのだろう……
・・・・・や、やった・・・・・わ・・・・・
へたっ・・・・・
(霊夢は皮膚の獣との戦いを終えると、かなりの力を消耗したのか、地面に座り込む・・・・・
そして、首筋を触ると、ほんの少しではあるが血が出ていた・・・・・
あと数ミリ深ければ、命はなかったかもしれない・・・・・)
【】
皮膚の獣と言った門番が消えた事で、霊夢とイライザを隔てるものはこの門のみとなった……巫女の直感からこの門そのものには鍵や罠は無いが、その先に待ち受けている存在はこれまで戦ってきた幻魔達とは比較にならない程の不吉な予感が感じられる……
例えるのならば、巫女になったばかりの霊夢が倒した犲狼を何千倍も歪め、果てしない魔力を与えたような……そんな嫌な力と雰囲気が感じられる。
朦朧の巫女
『……この姿になってから随分と経つけど……ここまで性根が曲がった力は始めてだわ……』
霊夢に力と貸している朦朧の巫女も、ここまで性根が曲がった存在は始めてだと思わず言葉を溢しており、この先に待ち受けるイライザがどれだけ強大かつ邪悪な存在なのかがわかる。
私だって初めてよ・・・・・少なくとも、今まで戦ってきた中では一番吐き気がするわ・・・・・
(そう言うと、よろよろとした足でゆっくりと立ち上がる・・・・・
今までの敵は、強敵と呼べるのもいればそうではないのもいたが、イライザは今までのそれらとはハッキリと何もかもが違う、簡単に言えば、関わってはいけないと本能で感じ取る感じだ・・・・・)
朦朧の巫女
『絶対に油断はしないように……もし一瞬でも気を抜けば……その瞬間御陀仏になる事を覚悟した方がいいでしょうね……』
イライザが待ち受けると思われる部屋へ通じる門の前に立つ霊夢へ、これまでに感じたことの無い程の強烈かつ邪悪な雰囲気と力から本能が入ってはいけない、挑んではいけないと警鐘を鳴らしている……
霊夢達の勝利条件は一つ。
イライザを悪夢の世界の表層にまで誘き出し、そこで同じく夢を操る力を持つドレミーの策によって打ち倒すと言うものであり、そう難しい問題ではないが……イライザがどのような力を、技を使ってくるのかは完全なる未知数となっている。
わかってるわよそんなこと・・・・・
(霊夢だって言われずとも、対峙する前からそんなことは十分わかっている・・・・・
問題は、皮膚の獣との戦いでかなり力を消耗してしまったことだ・・・・・
対するイライザは、恐らくは万全な状態で、戦いにおいて有利な状態でいるのだろう・・・・・)
朦朧の巫女
『その言葉……忘れないようにね……?』
朦朧の巫女は気を抜かずに警戒を続けるようにと念を押すように言うと、門が開き始める………
【幻想郷?】
門の先にはおぞましい化物の大群も、醜悪な異空間も無く、何処までも穏やかで暖かい太陽の光が照らす自然豊かな幻想郷が広がっている……
開いた筈の門も、先程まで居た薄暗い鉄の牢獄のような空間も消失し、全てが穏やかな幻想郷の光景となっている。しかも、鳥の囀りや、髪を撫でる優しい風、周囲の木々や草花の匂いが感じられる、イライザの襲来前の平穏な幻想郷がそこにはあった。
夢であれば匂いや感覚は存在しない、それが非常識な夢の常識だ。
果たしてこれは悪夢の続きなのか……?それともイライザが幻想郷の侵攻を諦めて霊夢を幻想郷へ追い出したのだろうか……?
・・・・・ここへきてこういう演出をしてくるあたり、本当に趣味が悪いわね・・・・・吐き気がするわ・・・・・
(これが本物の幻想郷かどうかが問題ではない、門が開けばそこに平和な幻想郷が広がっている、という演出をしてくるイライザの腐りきった性根が大問題なのだ・・・・・
命をかけて必死になって幻想郷を取り戻そうとしているという時に、こういう演出が一番精神的にかなりくる・・・・・)
魔理沙
「おーい!今日も遊びに来たぜ〜。
って、そんなしかめっ面をしてどうしたんだよ?」
その声も姿も、箒から降りるときに左手で箒を支えて軸にしていたり、少し八重歯が見えるように笑っている細かい仕草や癖に至る全ての言動が本物の魔理沙と同じであり、明るく声をかけ、霊夢の肩に乗せた魔理沙の手も優しい温もりが感じられる……
これが夢や幻であるのならば、明らかに幻術の域を超え、仮想現実を顕現させると言った途方もない力であると言えるだろう……
・・・・・
(霊夢は、目の前の現実と寸分の違いもない魔理沙に内心困惑しながらも、横を通り過ぎる・・・・・
もしこの魔理沙が本物だろうと偽物だろうと、今すべきことはイライザとの決着をつけることただ一つ・・・・・
魔理沙に構っていられるほどの余裕はない・・・・・)
魔理沙
「……?
おいおい、本当にどうしたんだよ?」
魔理沙は霊夢の肩に手を置いたまま、どうしたのかと問い掛ける。
その魔理沙の優しさは、あの恐怖と苦痛のみを行動原理として動いている幻魔によるものとは思えない程に穏やかで優しい世界になっている……
・・・・・
(霊夢は魔理沙にどうしたのかと問いかけられても、無言のまま手を払い除け、歩き続ける・・・・・
もし・・・・・もし今ここにいる魔理沙が本物であったとして、自分のこの対応によって友情に亀裂が入ったとしても、幻想郷を救う為には、これは仕方が無いことだと割り切るしかない・・・・・)
レミリア
「霊夢、遊びに来たわ。」
魔理沙
「おお、レミリアか。聞いてくれよ、今日の霊夢の様子が変なんだ。
何を聞いてもずーっとしかめっ面なんだ。」
霊夢に手を払い除けられると、本当にどうしたのかと思い、払われた手を抑えたまま霊夢を見る……そんな中、咲夜が日傘を持ち、レミリアを日光から守りながら神社に訪れると、何を聞いても何も応えずに黙っているままの霊夢の事を話す。
咲夜「恐らくは、またそこら辺に生えている変な草かきのこでも食べたんでしょう、気にすることはありません・・・・・」
(霊夢の様子がおかしいと言っても、いつも食べ物に困っていたりする霊夢のことだから、きっとまた空腹の極限状態に追い込まれて変な草かきのこでも食べたのだろうと推測をする・・・・・)
霊夢「・・・・・」
(いつもの日常ならごく普通の会話であり、霊夢も反論したりして会話に交じるものの、今のこの状況は打倒イライザを誓った霊夢からすれば、イライザの仕向けた現実に近い形の悪夢でしかない・・・・・)
レミリア
「フフフ、霊夢らしいわね。
毎日は駄目だけれど、たまになら紅魔館でご馳走してもいいわよ?」
魔理沙
「おお!それじゃあ今からでも紅魔館に遊びに行こうぜ!」
変な茸でも食べて体調が良くないと言う事を聞くと、霊夢の奇行を少し笑いつつ、館へ誘うと、それに便乗した魔理沙は一緒に館に行こうと言う。
・・・・・っ・・・・・
(イライザの仕掛けた悪夢だとしても、そのあまりにもリアルすぎる日常風景に、霊夢は本当は今までのことが夢で、今が現実なのではないだろうかという錯覚に陥りそうになり、頭を押さえ始める・・・・・
だとしたら、今のこの状況は現実だということになるが・・・・・)
【紅魔館】
魔理沙
「しっかし何時見ても紅魔館はデカいなぁ……本当に家なのか?」
霊夢の苦悩をよそに、魔理沙は霊夢の手を取ってレミリアと咲夜の案内のもと、紅魔館に辿り着く……館に到着するまでの間に通った光景も、幻想郷そのもままであり、豊かな自然や平和に暮らす動物や妖精達の姿も見えた……そして、館に到着すると、見上げるように大きく紅い紅魔館を眺め、思わずそんな言葉がもれる。
【悪夢の世界】
イライザ
「クスクスクス……幸せそうな夢を見ているわね?
貴方の求める世界、何でも叶う理想の世界。
人間も妖怪も、神でさえもその幸福な世界からは抜け出せない……抜け出そうと足掻く事さえ出来ない甘美な罠。」
霊夢が開いた門の先には高密度のイライザの夢幻術が展開されており、イライザの姿を視認する間も無く、深い眠りに誘われ、床に倒れた霊夢を見て、イライザはゆっくりと歩み寄って来る……
幻想郷に住む霊夢以外の全ての者を昏睡させ、認識すらさせずに夢の中でも夢へ誘う途方もなく強大な夢の力……それこそがイライザの持つ能力であり、悪夢の世界の支配者たる由縁でもある。
イライザ
「此処は夢の世界の底。
甘美な夢に包まれながら何の苦痛も無く逝くといいわ?」
この夢の世界から自らの意思で目覚めることは不可能……ドレミーによる救援も此処までは届くことはない……まさに詰みの状態に追い込まれた霊夢へトドメを刺すべくゆっくりと右手を翳す……
・・・・・私は騙されないわよ・・・・・
(魔理沙の呟きの後に、霊夢はボソッと呟く・・・・・
こんな平和な日常も、所詮はイライザが作り出したまやかしだ・・・・・
霊夢はわかっている、わざわざ攻めてきて部下が全員やられたぐらいで手を引くような相手ではないと・・・・・
博麗の巫女と言えども所詮は人間の小娘、眠らせてしまえばこっちのもの、あとはじわじわ追い詰めて〇すだけ・・・・・
どんなに今目の前にある光景が現実だとしても、悪夢であることに代わりはない、魂胆が見え見えだ・・・・・)
【イライザの玉座】
イライザ
「それじゃあ、さようなら。ちっぽけな人間さん?」
《ドガァッ》
イライザが翳した掌から紫色の衝撃波が放たれ、霊夢がいた場所の地面が大きく穿たれ、下階まで繋がる巨大な大穴を開け、例え大妖怪クラスでも直撃すればただでは済まない程の破壊力を示すが……
朦朧の巫女
「まったく……今世の巫女は随分と世話が焼ける……!」
イライザの放った衝撃波が霊夢の体を消し飛ばす寸前で朦朧の巫女が持つ神降ろしの力を用いて、自分自身を霊夢の肉体に降ろす事で霊夢の体を動かし、回避する事に成功し、眠ったまま消し去られると言うという最悪の事態を免れることが出来た……
【優しい夢幻の世界】
美鈴
「あ、今日は霊夢さんも一緒なんですね?
貴方達なら顔パスですね!どうぞお通り下さい。」
最初はこの世界の違和感を感じることが出来ていたものの、次第に霊夢の記憶から現世での出来事について薄れ始める……少しずつ悪夢の世界と現実の世界の境界が失われ始め、霊夢にとっての現実はこの優しい夢の世界へと塗り潰され始めてしまう……
このまま時間が経てば、この夢の世界こそが現実である事を信じてやまなくなり脱出すると言う考えすら思い付かなくなるなるだろう。
・・・・・私は・・・・・騙されな・・・・・
《あれ・・・・・?騙されるって・・・・・誰に・・・・・だっけ・・・・・》
(霊夢はずっと打倒イライザを誓ってここまで来ていたものの、ここまで来て、あと少しというところで自分が誰に何のために何を目的として戦おうとしていたのか、という記憶が欠如し始める・・・・・
この仮想現実に侵食され始めている・・・・・)
萃香
「おー、霊夢ぅ。
お前も来たのか〜?」
紅魔館に到着すると、既に酒を飲んでいた萃香が顔を真っ赤にしながら両手に酒瓶を持って霊夢の前へ霧状から実体に戻しながら現れる。良くないと見ると紅魔館の敷地内ではところどころで色々な人妖達がそれぞれ思い思いに宴会を開いて楽しそうに盛り上がっている。
博麗神社よりも広く、何度かパーティーを開いたこともあり、神社での宴会の時以上に大勢の人妖が集まっていてとても賑やかになっている。
朦朧の巫女(霊夢憑依)
「(今の私に出来るのはこの肉体の意識が戻るまでの時間を稼ぐこと……意識が戻らなかったり、私が倒されればそれで幻想郷が終わると考えてもいい。幸いにも既に思念体である私には夢を見させる事は出来ない……)」
イライザによる霊夢の体の消滅に対して霊夢の体へ憑依することで肉体を動かし、回避した後、イライザの様子を見ながら、現状を把握して自分が出来る事を理解する……思念体と言う曖昧かつ概念的な存在となった自分にはイライザによる眠りの力は効かない事がアドバンテージとなっているため、これを利用することでイライザにも対抗できるだろうと考えている。
悪夢の女王 イライザ
「クスクスクス……思わぬ邪魔が入ってしまったのだけれども、それが有利に働くことにはならないわよ?だって……此処は悪夢の中枢。
夢と希望が潰え、恐怖と絶望だけが全てを支配している世界だもの……」
イライザはゆっくりと両手を広げる……
すると、イライザの背中から生えた二枚の翼に付いた巨大な目玉がギョロギョロと朦朧の巫女を見据えると、イライザの背後の床から無数の不気味な暗紫色の触手が生え始め、触手の先端部分は蛭のような吸血口と無数の牙がズラリと並んでいるのが見える。
イライザの言う通り、この悪夢の中において、イライザは空間そのものを支配しているのと同義であり、その強さや実力は間違いなく無敵と呼ぶに相応しいものとなっているだろう……
萃香ねぇ・・・・・アンタもう酔ってんの?
(到着した時点で既にもうかなり酔っている萃香に少々呆れながらも、霊夢はこの世界がイライザの作り出した虚構であるということをすっかり忘れてしまい、一緒に宴会を楽しもうとする・・・・・
博麗の巫女と言えども、所詮は人間の力ではイライザには対抗できないのだろうか・・・・・)
萃香
「あはは〜、こんなのどうって事無いよ。
私達鬼は何時でもこんな感じだからさ〜。」
全種族の中でも最上位クラスの酒豪である鬼の萃香でさえ強い酒の匂いを纏いながら顔を真っ赤にしてフラフラしている事から、かなりの量の酒を飲んだのだと思われる。
少し離れたゴザの上では酔い潰れた文とはたて、そして椛の三人が倒れていて、更にその近くには無数の酒瓶と山積みになった酒樽が見える。
《可哀想に・・・・・酒に呑まれたのね・・・・・》
(来た時点で既にダウンしている文、はたて、椛の三人を見ては、酒に呑まれてしまったのだと悟り、この鬼はある意味本当の意味で鬼だと確信する・・・・・
妖怪すらもここまでにする酒が強いのか、酒にすら勝てる妖怪が強いのか・・・・・)
文
「れ、霊夢さ……助け………」
烏天狗もまた、酒に強く、人間の酒豪程度なら匂いを嗅いだだけで酔う程に強い酒を水のように飲める文やはたて達でさえも萃香には及ばず、酔い潰れる中で、霊夢に気付いた文がピクピクと体を震わせながらうつ伏せになったまま霊夢へ手を伸ばして助けを求めている。
鬼と酒の飲み比べをすると言う無茶な事でさえ、かつて妖怪の山を支配していた上司の萃香には頭が上がらずにいる事がわかる。
文、酒臭い
(助けを求めてくる文へ向けて、霊夢はただ一言、哀れんだ冷たい眼で見ながら酒臭いと言葉を返すだけすると、御馳走の方へと向かってゆく・・・・・
そもそも、酔い潰れている妖怪をどうにかすることなんて博麗の巫女にはできない、というか、博麗の巫女の役目ではない・・・・・
酔っぱらい妖怪の相手をするよりも、今は御馳走が最優先である・・・・・)
萃香
「お!まだまだ元気そうだね!もう少し飲もう!!」
文
「いやいやいやいやいや、もう無理、もう限界ですって!
……うッ!?」
完全に酔い潰れて朦朧としている状態にあるにも関わらず、まだ喋れるだけの余裕があると思った萃香は文の元へ歩き始める。
限界を超えて酒を飲み過ぎた結果、強い吐き気が込み上がって来てしまい、慌てて口を押さえているものの、そんなのはお構い無しと言わんばかりに酒瓶を手にした萃香が再び文に酒を進めていく様子が見える。
アリス
「………あら、巫女に……野魔法使い。
貴方達も招待されて来たの?」
魔理沙
「げ、温室魔法使い。」
アリス
「都会派魔法使いよ、田舎の魔法使いさん?」
思い切りアルハラを受けている文を他所に、ご馳走の近くに移動した霊夢の傍にアリスが近付き、二人に声をかける。
後に地底での異変の時にアリスは魔理沙と協力する事になるのだが、今ではつい数日前に起きた春冬異変の時の小さな対立が少し残っているのか、互いに皮肉を言い合っている。
あんた達、やりあうんなら外でやりなさいよ?せっかくの御馳走に何かあったらタダじゃおかないからね?
(酒豪鬼の生贄になる烏天狗をよそに、霊夢は魔理沙とアリスに戦うんなら外でやれと、せっかくの御馳走にもしものことがあったらタダじゃすませないと殺意のこもった眼差しで睨みつけながら忠告する・・・・・
食べ物の恨みが絡めば、今この場にいるメンバーの中ではダントツで霊夢が恐ろしいかもしれない・・・・・)
レミリア
「クスクス、博麗の巫女は随分と短期なのね?」
時折いがみ合う魔理沙とアリスを見て二人の喧嘩になりかねない口論よりも、食べ物の方が大切だと言うその様子を見て口許に手を当ててクスクスと思わず笑ってしまう。
ふぁんふぁひいあらほいはんへほおっへほへばひいほほ、へっはふほほひほうがはふはっひゃうへほ?
(訳:あんな言い争いなんて放っておけばいいのよ、せっかくの御馳走がなくなっちゃうでしょ?)
(魔理沙とアリスのしょうもないいがみ合いを止めようとしていては、せっかくの御馳走がすぐに無くなってしまうと危惧する霊夢は、もう既に口にパンパンに食べ物を詰めた状態で、その姿はまるでリスのようになっている・・・・・
食べ物が絡むと、霊夢は色々な意味で恐ろしい・・・・・)
魔理沙
「おいおい、そんなにがっつくと喉を詰まらせちまうぞ?」
魔理沙はご馳走をリスのように口の中一杯に詰め込んでは凄い勢いで食べ始めるのを見て、そんなに焦って食べると喉を詰まらせてしまうと言う。
【悪夢の要塞 イライザの間】
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「先ずは……動きを止めさせてもらうわ……!!」
【神代「天羽槌雄神之神衣」】
イライザ
「………………!!」
朦朧の巫女は両手を合わせ、自身の神降ろしの術を用いて霊夢の体に星の神さえも封じた天羽槌雄神の力を得ると、直ぐ様強固な神布の紐を生成してそれをイライザに向けて投げ、その体を拘束する事でイライザが攻撃を発動させる前にその動きを封じる。
【神代「天之手力男神之豪腕」】
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「(コイツに反撃はさせない……
動きを封じた上で……削り切る……!!!)」
《ドガガガガガガガガガガガガッ》
朦朧の巫女はイライザが支配している悪夢の世界の中において、全てがイライザの思い通りになるこの世界では神の力を用いたとしても拘束していられるのはほんの一瞬だけであると言うことを博麗の勘から知り、一気に決着を付けるために
イライザが拘束された状態のままであるものの、反撃のために伸ばした無数の巨大な蛭のような触手を一瞬で全て打ち砕いて距離を詰めると、朦朧の巫女は両腕に天照大神を岩戸から引きずり出した程の豪腕を誇る天之手力男神の力を用いてイライザが神布を引きちぎる前に目にも止まらぬ速さでイライザの全身を連打する事で少しでもダメージを与えようとする。
何の儀式や祈祷も無く自在に神の力を自分に宿すその様子はあの依姫を思わせるものだが、その切り替えの早さや発動の速さは依姫をも上回る……ただし、依姫に比べて数多の神を何時でも降ろせるわけではなく、一日に降ろせる神は四神までになっている。
イライザに向けて繰り出された朦朧の巫女の拳は一秒間で優に100を超える速度で繰り出されており、その一撃一撃が並みの妖怪であれば容易く仕留められる程の威力を有しており、その息もつかせぬ連撃によってイライザを壁際に追い詰めると、壁を破壊してそのまま突き進んで行く。
ゴックン・・・・・!
あのねぇ?御馳走が並んでいるんだからそんな自分で自分の首を絞めるようなヘマしたりしないわよ
(こんなにも美味しい御馳走が、滅多に食べれない御馳走が目の前に並び、制限なくいくらでも食べられるバイキングとも言えるこのチャンスをしっかりと活かして食べられる限り食べ尽くす、これを掲げていた・・・・・
が、「自分で自分の首を絞める」という自身が言った言葉に、一瞬頭のなかにノイズが走るような感覚に陥り、霊夢は片手で頭を押さえる・・・・・)
魔理沙
「あはは!お前は相変わらずだなぁ!よし、それなら今度私が料理を作ってやるよ!」
現世では霊夢の体に憑依した朦朧の巫女がイライザとの激闘を繰り広げている中、幸せな夢の世界にいる霊夢は微かな違和感を感じているものの、その正体には気付くにはまだ少しきっかけが……時間が必要となってしまうかもしれない。
常人であれば、完全にこの夢の中に取り込まれ、微かな違和感さえも感じる事が出来ないのだが、霊夢に眠る潜在意識がイライザの術に抗い始めているのかもしれない。
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「(………この程度なら……まだ"見える"。
油断している内に……この一撃で仕留める……!!)」
【神代「韋駄天神之駿足」】
→【神代「天之手力男神之豪腕」】
上下左右前後から再現無く押し寄せる悪夢の手を韋駄天神の速力を降ろす事で瞬間移動するようにして巧みに全て避けきり、天狗や吸血鬼でさえも目視が困難な速さで伸びる無数の手を避けてイライザの背後に回り込むと、先程神降ろしした天之手力男神の腕力の全てを込めて渾身の一撃を放つ……が。
イライザ
「クスクスクス……捕まえた。」
《ゴオォォォォォォォォォォォォッ》
朦朧の巫女が繰り出した拳はイライザの体を捉え、イライザの体を背後から貫く……だが、それを待っていたように不敵に微笑み、首の間接を無視して背後にいる朦朧の巫女の方へ振り返ると、イライザの背中から生えた二枚の翼にある魔力瞳が朦朧の巫女を凝視した次の瞬間、朦朧の巫女の体を貫くために放たれた紫色のレーザーが魔瞳から放たれる。
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「(……やっぱり私の攻撃……いえ、神々の攻撃でさえも通じていない……それに保有している魔力は底無しで魔力の枯渇や能力切れも見込めない……)」
朦朧の巫女(霊夢に憑依)
「(……となれば、私に出来るのはただ一つ……なるべく消耗を避けつつ、この本来の持ち主が戻って来るまで避け続けること。)」
悪夢の世界においてイライザの力は無限に増大し、その魔力の保有量は無限と言っても差し支えがないレベルになっている……加えて、悪夢の世界において、イライザが神々の干渉を妨げているからか、神降ろしをした時の本来の力を出しきれていない事から打ち勝つのは不可能だと理解する。
朦朧の巫女は霊夢との記憶は共有しておらず、ドレミーが霊夢に伝えていた指定場所までの誘導と言うことを知らない……
そ、そう・・・・・?なら、お願いしようかしら・・・・・
(なんだ今の妙な感覚は、と言いたくなるような感じたことのない謎の感覚・・・・・
ほんの一瞬の感覚ではあったものの、確かに感じ取れ、そして気のせいではないということがハッキリとわかる・・・・・
なにか大切なことを忘れてしまっているような気がする・・・・・)
魔理沙
「おっと、その代わりに今度はお前も作ってくれよな?」
楽しげに笑いながら、今回は自分が作るが、次は霊夢の肩をポンポンと軽く叩きながら、今度は霊夢も料理を作ってくれと言う。
魔法の森に長いこと住んでいる魔理沙は勿論、霊夢もまた自炊している事から、それなりに料理スキルがあると思い、提案している。
あんたこそ、怪しげなきのことか使ったりしないでしょうねぇ?
(妙な感覚ではあるものの、そこまで気にするようなことではないと判断したのか、霊夢は気を取り直して、魔理沙に怪しいきのこを使った料理とかならごめんだと予め言っておく・・・・・
こうでも言っておかないと、何を食わされるかわかったものではない)
魔理沙
「ん?お前ならカエンタケやタマゴテングタケぐらいペロッといけるだろ?」
両手を頭の後ろで組んでニシシと笑いながら、最強の毒茸と名高いカエンタケやヨーロッパではその被害や毒性から"死の帽子"とまで呼ばれているタマゴテングタケでさえも、霊夢なら簡単に食べ終えてしまうだろうと少しだけからかってみる。