それはあまりにも唐突に起こった出来事だった。
誰しもが普段と同じ日常を過ごし、明日も同様の日々を送るものであると思い、眠りについた……
だが、目を覚ましたのはごく一部の者だけだった。
里も、山も、森も……
人妖も、動物も、植物さえもが眠りについたまま目覚めることがなく、幻想郷全体を深く冥い静寂が支配していた……
これは明確な"異変"だ。
"それ"は深き夢の世界から現れる悪夢の支配者。
微睡みの中に漂う無垢な精神を貪り、安息を求める者達に恐怖を与えるおぞましき幻魔の軍勢『エファ・アルティス』
現世を救うために悪夢を支配する幻魔との戦いが幕を開ける……
>>2 時系列と注意
>>3 異変側の勢力
イライザ
「クスクスクス……博麗の血筋と言うのも案外たいした事が無いわね?
千年以上前に"原初の悪意(マレヴォレンス)"を封印したと言うのも真実ではなさそうね?」
イライザは悪の源泉たる存在を口にする……
千年以上も昔に現世に現れ、その圧倒的な力によって数多の神々を滅ぼし、全世界の支配に王手をかけ、後のヴァイスリゾーム結成のきっかけともなった"原初の悪意(マレヴォレンス)"を封印した英雄の血筋……博麗の血も、時の流れにによる劣化には抗えないのだろう。
この霊夢程度の力しか無いと言うならば、もはや何も警戒する必要はない、ヴァルターが敗れたのも何かの偶然と奇跡が重なっただけであり、今となってはその偶然も奇跡も起こりはしないとイライザは勝利を確信し、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと両腕を広げて天を仰ぎ見る……
ボゴォオッ・・・・・!
(突如として、イライザの体内を、鋭利な刃物が細胞や内蔵を切り裂きながら焼き尽くしてゆくような感覚が全身に駆け巡ってゆく・・・・・
そして、イライザの体内に留まり切れずに、体外へと飛び出そうとしている・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……へぇ?まだ楽しませてくれるのかしら?」
イライザは人間のような姿をしてはいるものの、その正体は悪夢の化身であり、通常の生命体のような細胞や内臓と言うものはおろか、痛覚すら存在しないものの、霊夢の方から感じられる違和感から彼女の方へ振り返る。
ぐぐぐっ・・・・・!
ボォンッ・・・・・!
・・・・・
(霊夢はイライザの体内から抜け出すものの、体中のあちこちの骨が砕けており、霊夢の口からは吐血の跡のように血が垂れている・・・・・
どう見ても、ここから逆転できるようには見えなければ、思えない・・・・・)
イライザ
「何度立ち上がっても、その度に勝機が無いと言うことを知るだけよ?」
霊夢の体を呑み込み、全方位から噛み付いていた悪意の手と頭から成る塊から抜け出した霊夢を見てイライザは首を横に振り、呆れたように言葉を紡ぐ。
イライザ
「いいわ……それなら、きっぱりと希望を捨てることが出来るように、どうしようもない絶望を……至高の悪夢を見せてあげる。」
《ザアァァァァァァァァァァァァァァァァァ…》
イライザはゆっくりと両腕を広げると、先程と同様に、幻想郷の住人達の精神から作り出された無数の刃を自分の背後の空間を埋め尽くすように大量に呼び寄せ、それらを津波のようにして押し寄せようとし始める……
この技が放たれれば、防御や相殺を試みれば具現化された精神が破壊されることで、例え勝利したとしても幻想郷の住人達の中で精神崩壊して廃人となる者が多数生まれてしまう……かと言って受けてしまえば、度重なる戦闘によって蓄積されたダメージと合わさり、耐えきることは出来ないと思われる……
まさに、どう足掻いても絶望的な状況となってしまっている……
だが、イライザは霊夢の能力について知らない……何故なら、霊夢はこれまで、真の意味で能力を使用した事が無かったからだ。
・・・・・至高の悪夢、ねぇ・・・・・そっくりそのままその言葉、返してあげるわ・・・・・
(どこまでもイライザはクズ野郎だ・・・・・
万人の命を平気で己の好きなように弄んで、利用して、道具にする・・・・・
霊夢の顔には影がかかり、イライザの言った言葉をそっくりそのまま返すと言う・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……ばいばーい。」
イライザは不敵に微笑んだまま、横に広げた両手を霊夢に向けて伸ばし、自身の背後に展開していた無数の精神の刃から成る津波によって通路そのものを埋め尽くして逃げ場を奪うようにして霊夢を呑み込もうとする……
幻想郷の住人達の身を案じている事から防御不可、相殺不可、加えて通路を埋めて押し寄せる津波のようになっている事から回避も困難……まさに"詰み"と言う状況であり、何の策もなく呑み込まれてしまえば当然、命は助からないだろう……
・・・・・
【夢想天生】
(最後の最後、この技に賭けるしかない・・・・・
霊夢はありとあらゆるものから浮き、イライザの技が命中することがなくなる・・・・・
当たる寸前で、まるでそこだけ時が止まったかのように精神の刃の動きが止まると、霊夢はそのまま無数の精神の刃を結界を張って守り始める・・・・・
そして、イライザへは今までの行動の跳ね返りとも言わんばかりに、無数の弾幕が迫り来る・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……
……………!!?」
押し寄せる無数の凶刃、もはや王手をかけたと思っていたものの、霊夢に向けられた
自分の攻撃は、あの朦朧の巫女との戦いでも見せたように、実体の無い存在にもダメージを与えることが出来るため、体を霊体に変えたところで逃れることは出来ない筈であるにも関わらず、霊夢へ向けられた精神の刃はその全てが、霊夢の体をすり抜けていく。
更に、霊夢の貼る結界の内側に封じられた精神の刃に対する操作が出来なくなり、再度利用する事が出来なくなり、驚愕のあまり隙が生じたところへ霊夢の放った色とりどりの弾幕が次々と着弾し、眩い純白の光が暗く閉ざされた悪夢の要塞全体を包み込んで行く……
・・・・・イライザ・・・・・アンタさっき、私に至高の悪夢がどうたらこうたら言ってたわね・・・・・
(霊夢は弾幕が着弾して徐々に光に包まれて見えなくなってゆくイライザに対して、ゆっくりと歩きながら距離を詰めてゆき上記を言う・・・・・
ただ光に包まれて見えなくなっているだけであり、消滅したわけではない・・・・・
ここからが勝負だ、今の状態で、形勢逆転をしなければならない・・・・・)
イライザ
「……クスクスクス……何をしたのかは知らないけれど……勝ち誇るにはまだ早いんじゃない?」
純白の光の中からイライザが飛び出し、翼腕が伸ばし、スペルの発動後を狙った不意討ちを仕掛けようとする。
体の随所が霊夢の放った特大の虹色光弾を受けて消滅したものの、致命傷にはなっておらず、消滅した箇所からは血の代わりに不気味な紫色のヘドロのようなものが流れ、そのヘドロがイライザの傷口を埋めて肉体の再生を始めている……
イライザに致命傷を与えることは出来なかったものの、周囲は階層を丸ごと浄化した事で最下層までの道が出来ており誘導もより容易なものとなっている。
・・・・・勝ち誇ってなんかいないわ、アンタじゃあるまいし・・・・・
スゥッ・・・・・
(イライザの不意打ちの攻撃すらも、霊夢をすり抜けるかのように当たらずに不発で終わる・・・・・
そして、霊夢は敢えて戦闘ではなく、誘導することを優先し、猛スピードで最下層まで落ちてゆくように飛び始める・・・・・
落下の速度と霊夢の飛行のスピードが合わさって、とてつもないスピードとなっている・・・・・)
イライザ
「………なるほどね。
魂をも引き裂き、心を喰らう私の攻撃が一切通じていない……
これはなかなか厄介な力だわ。」
イライザは振るった翼腕が空振りし、霊夢の後方にあった建物の壁が引き裂かれるのを見て、少し思考を巡らせ、対抗策を練り始めると、即座に打開策を思い付く。
イライザ
「けれど、そうして守れるのは自分だけなのでしょう?」
《スッ》
イライザは先程展開された精神の刃が封じられた結界に向けて右手を翳し、その掌におぞましい魔力を集束させて結界もろとも幻想郷の住人達の精神を消し飛ばすそうとする。
敵は狡猾かつ悪辣なイライザだ……
その思考速度は非常に速く、霊夢の誘導にはまだ気付いていない筈だが、あと少しで悪夢の要塞から出られると言うところで次なる王手をかけようとする……
やっぱりねぇ・・・・・アンタ、本当に救いようがないクズだわ・・・・・
ガッ・・・・・!
(イライザは悪知恵が異常なまでによく働く・・・・・きっと戦いの中でいずれかのタイミングで、精神の刃を人質のように取るだろう・・・・・
霊夢はその展開を常に考えながら戦っていたのか、イライザが消し飛ばそうとした瞬間に結界を移動させると同時にイライザの目の前に目にも止まらぬ速さで移動し、そのまま首を掴む・・・・・
霊夢の眼は獲物を捉えた猛獣の如く、情けも容赦もない眼をしていた・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……本当に私の思い通りに動いてくれるわね?」
イライザは自分の首を掴む霊夢を見て、そのまま幻想郷の住人達を見捨てて逃亡すれば霊夢一人だけでも助かったものを、結界を転移させた上で自分に接近して首を掴んだ様子を見て、口角を更に吊り上げ、耳元まで大きく口を曲げて笑いながら霊夢の行動は全て予想通りだと言うと、イライザの口から蠍の尾のような異様な舌を出し、その毒針で自分の首を掴む霊夢の手を刺そうとする。
イライザは人に近い姿をしているが、イライザは人間じゃないどころか、既存の生物ですらない……イライザの配下の幻魔達と同様に、その体はいかようにでも変化させる事が出来ると言う厄介な性質を持っている……
あら、手伝ってくれるのね?
(そう言うと、霊夢は毒針を避けてイライザの舌を掴み、再び弾幕を放つ・・・・・
それも、さっき放った時にイライザの体の一部を消し飛ばしたのと同じものを、零距離で頭部へと放つ・・・・・
霊夢はイライザの考えるであろうことを先読みして戦いを続ける・・・・・
さて、次はどんな卑怯な手を使ってくるか・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……相手に直接触れるのは得策ではないわよ?
その相手が見知った生命体じゃないのなら尚更ね?」
霊夢が掴んだイライザの舌であったものの、その舌には肉眼ではほぼ確認することの出来ない微細な棘が生えており、それを握ってしまった事で霊夢の掌に無数の毒液が注入され始め、霊夢の手を介して魂そのものに激痛を走らせ、動きを封じようとする。
その激痛はあの皮膚の獣のものに近く、毒を介することで魂そのものダメージを与えようとする……また、あの威力の技を宣言無しで連発する事は難しく、加えてイライザ自身も同じ技は通じないように、再生する時に自身の身体の硬度を上げて弾幕が直撃しても顔の一部が吹き飛ぶだけに被害を抑えてしまう。
切り札とは使い道を誤れば、それだけ敵を強化することになる……迂闊な選択は自らの首を絞めることを意味してしまう……
・・・・・っ・・・・・
(霊夢は魂に走る激痛に少々表情を歪めるが、反応らしい反応はそれだけであり、そして霊夢はイライザに告げる・・・・・
「アンタは私の掌の上で踊らされたのよ、イライザ・・・・・」
霊夢はこの瞬間を待っていたと言わんばかりに見下すような笑みを浮かべたまま、イライザを掴んだままそう告げる・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……それは楽しみだわ。
必死で命をかけて色々な枷を背負って戦う貴方に対して私は踊り遊ぶだけ。そう、貴方の命の灯火が消えるまでのね?」
イライザは口から伸ばした蠍の尾のような舌を蜥蜴の尻尾のように自切すると、自分を見下す霊夢に対して、首を掴む霊夢に対して姿勢や立ち位置等の物理的に霊夢を見下す他に、言葉遊びをするように霊夢の言葉に対して比喩で返す。
すると、イライザを掴む霊夢の手から徐々に感触が失われ、その視界もボヤけ始めてしまう……単純に激痛を与えるだけでなく、注入したイライザの一部……毒そのものにも強い幻覚が含まれており、このまま行けば、やがては全身に幻毒が回り、イライザに対抗する事さえ出来なくなってしまうだろう……
毒が注入された時点で……いや、イライザの舌を握った時点でイライザの勝利は確定してしまった……タイムリミットは幻毒により意識の昏倒が起こるまで。
ぐらん・・・・・
・・・・・
(みるみるうちに視界がぼやけ、イライザの姿が歪んで見え始める・・・・・
こんな奴に、こんな下らない攻撃で敗北するなんて冗談じゃない・・・・・
そう思っていても、体に力が入らなくなってくる・・・・・)
イライザ
「どうしたのかしら?何処か具合でも悪いの?」
《ヒュッ》
イライザは悪意に満ちた笑みを浮かべながら、自身の体を少し捻り、裏拳を放つように左翼の翼腕を横へ薙ぎ払うように振るう事で視界がぼやけ、意識が朦朧とし始める霊夢の体を弾き飛ばそうとする。
・・・・・がっ・・・・・
スッ・・・・・
(霊夢はイライザの攻撃を受けてしまい、弾き飛ばされるものの、まだ抵抗しようとしているのかイライザへと向けて右手を翳す・・・・・
夢想天生状態でもここまで苦戦することになる相手なのは、イライザという存在が夢の世界だと無敵の状態・・・・・いわば、夢の一部のような存在でもあるからだろうか・・・・・
そこにあっても実態がないのと同じでは、あまり意味を成さない・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……私の思った通り、その無敵効果も長くは続かないようね?」
イライザは今の薙ぎ払いがすり抜けずに直撃し、吹き飛んだのを見て、もう夢想天生の効果が失われていると核心すると、今度は翼に付いた目玉から淡い紫色に光る槍状の魔力弾を放ち、弱った霊夢にトドメを刺そうとする。
ビッ・・・・・!
・・・・・
(イライザの非情で冷徹な攻撃が、霊夢の心臓部分を貫く・・・・・
博麗の巫女ともいえど、どんなに覚醒しようとその覚醒には時間制限がある・・・・・
所詮限界を超えることは一時しのぎでしかない、ということだ・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……踊れなくなったのなら……退場するしか無いわね?」
イライザは霊夢の体を魔槍で貫くのを目視すると、今度は確実に相手の体を捉え、仕留めたと確信すると、自身の口元に手を当てながら悪意に満ちた冷徹な笑みを浮かべ、嘲笑う……
既に霊夢の攻撃により空いた大穴はその大半が埋もれてしまっており、逃げるにはあまりにも時間がかかり過ぎた……それに加え、例えこの状況を切り抜けられたとしても、既に霊夢の体内にはイライザの毒が入り込んでいるため、それを介して干渉することで如何様にもイライザは有利に立ち回れてしまう……
絶望を乗り越えた先にあるのは……また別の絶望……
終わること無き無限の螺旋、それこそが絶望をもたらす悪夢の女王、イライザの正体だ。
スッ・・・・・
(イライザの勝利が確定したその時、イライザの攻撃が貫通した霊夢の姿がまるで幻覚だったかのように消える・・・・・)
哀れね・・・・・夢の中でなら自分をどんな風に強く作り上げられるんだもの・・・・・
(イライザの背後から、聞こえるはずのない声が聞こえてくる・・・・・
それは、紛れもなく始末したはずの、あの巫女の声・・・・・
いくら夢の中であろうと、もう聞こえてくるはずのないあの声が・・・・・)
イライザ
「………クスクスクスクス、その夢の中でも私に勝てないのは誰かしらね?」
イライザは自身の放った魔光槍が不発した事がわかると、同じような展開ばかりの現状に対して飽きが生じ始め、この戦いを強制的に自分の勝利で終えるための舞台に作り替えることを決定する。
イライザ
「でも……いい加減この戦いにも飽きて来たわ。
そろそろ本当に終わらせましょうか。」
【貪夢「幻魔の箱庭」】
《メリメリメリメリメリ……》
イライザはゆっくりと両腕と翼を広げると、イライザから紫色の波動が放たれ、それに照らされた壁や天井、床が肉々しいモノへと変質し、更にそこから無数の触手や、それで捕らえた獲物を貪るための鋭利な牙を備えた口が開き始める……
今度はこの悪夢の空間そのものがイライザの一部。
何処へ逃げようと、何処へ逃れようと、決してイライザの術中からは逃れられない。空間そのものが敵となる以上、これまでのような幻影での誤魔化しは通用しない……
・・・・・醜いわね・・・・・
(とうとう空間そのものとなって牙をむくイライザの姿を見れば、霊夢は醜いと一言ぶつける・・・・・
そして「どうやら、本当に無敵になったつもりのようね・・・・・」と、物理攻撃も意味をなさなければ、どう考えても詰みとしか考えられないこの状況で、落ち着いている・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……さあ……私と言う悪夢を前にどれだけ足掻けるのか……見せて頂戴?」
《ゴオッ》
イライザは不敵に微笑むと、イライザの背後の壁から巨大な口が現れ、イライザを呑み込む事でイライザの姿さえ完全に消えてしまう……もはや誘導は完全に失敗したと言わざるを得ない状態になってしまった。
そんな中、周囲の天井、床、壁とありとあらゆる方向から夥しい数の無数の触手が霊夢に向けて伸ばされ、先ずはその機動力を奪おうとする。
ガシッ・・・・・
・・・・・
(霊夢は特に逃げもせず抵抗もせず、イライザの触手に捕らわれる・・・・・
霊夢は何か策があるのを隠しているのか、依然として落ち着いた状態を保っている・・・・・
しかし、状況は今までの中でも最悪とも言える・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……どうして私が触手を多用するのか……その理由がわかるかしら?」
周囲の空間そのものを自身の手足として使い、霊夢の手足を巻き取ると、霊夢の近くの触手の一本に口が作られ、その口からイライザの問いかけが聞こえてくる……
イライザ
「薙ぐ、払う、叩く、潰す、巻き取る……色々な用途に使えるのもそうだけれど……一番の理由は"苦痛と恥辱を与えられる"からよ。」
イライザは淡々と自分が触手を多用する理由について語り始める……イライザはかなりのサディストだ。相手が苦痛に歪む様子を見るのが大好きで、そのためならいかなる手段も厭わない……即座に相手の命を奪うのではなく、ジワジワと相手に苦痛と恥辱を与えた末にその全てを弄ぶ……
イライザ
「さあ……服を剥いで大衆の夢に投影してあげましょうか?
媚毒で脳を焼く快楽を与えてあげましょうか?
男達の精神体に実体を与えて陵辱してあげましょうか?
どれも楽しそうね?リクエストとかがあれば聞いてあげるわよ?
クスクスクスクスクス……クスクスクスクスクス」
イライザは相手の尊厳そのものを踏みにじる行為を好む性格をしており、もはや反撃の手も打てず、例え打ったとしても空間そのものを掌握した自分にはいかなる攻撃も通じず、容易く抑え込めると考えている。
【???】
ドレミー
「イライザは悪夢の世界を介して
夢を使えば誰でも何にでもなれる……それを悪用し、他者の精神に干渉し、夢の世界だけでなく、現実世界をも牛耳ろうとしています。」
イライザと霊夢が死闘を繰り広げている最中、夢の支配者ドレミーと、"ある人物"が夢の世界の片隅にて、会談を開いている……夢の支配者であるドレミーだが、悪夢そのものを支配するイライザに干渉する事が出来ない……
小さな悪夢であればそれを食べることで消滅させることが出来るのだが、イライザはあまりにも力が強すぎる……周囲の夢にまで侵食し、自分の一部とする力を持ったイライザに対して攻めあぐねていたところ、イライザの方から大きく動いた事と、霊夢にイライザの夢幻術が効かなかった事でその停滞に終わりを告げてくれた。
ドレミー
「そうなれば……夢と現の狭間にある夢幻世界……貴方の世界にも手を伸ばしてくるでしょう……悪夢を現実のものとして現れ、直接現世を支配できるように……」
イライザの狙いは夢の世界と現の世界の双方を支配すること。
そのために、イライザは夢を介して現の世界に足掛かりを作った上で実体を持って現世に現れるために必要な夢幻世界への侵攻も狙っているのだと伝える。
イライザ単体であれば、キラークラウンのように実体を持って現世に顕現する事が出来るのだが、イライザの配下の幻魔達はそれが出来ない……かと言ってイライザとキラークラウンだけでは広大な現の世界の全てを支配するにはあまりにも手が足りない。
そこで悪夢の存在を現実の存在とするための道として夢と現の境界である夢幻世界への侵攻を狙うのは至極当然の事なのだろう。そして……ドレミーが助力を求めたのは他でもない夢幻世界の住人であり、幻想郷に住まう者……
幽香
「………貴方の言うことが本当なら……なかなか面白い事をしてくるわね。」
大妖怪にして、夢幻世界と幻想郷の狭間にある夢幻館の当主……風見幽香。
交渉が上手く進めば……夢の世界でも実体を持って動くことが出来るイライザに対抗する切り札となれるが……
霊夢が悪夢の要塞の外にまで誘導する事が出来なければ、幽香の接近に気付いたイライザは即座に悪夢の深奥へ逃げ込み、誰にも手出しすることが出来なくなってしまう。
それに……最大の問題として、幽香が素直に協力してくれるか……その確証が何処にも無い……幽香にとって幻想郷が滅びようと、夢の支配者がどうなろうと、自分にさえ関わって来なければ干渉するつもりない。
そんな彼女が、わざわざ危険を冒してまで協力してくれるのか……
・・・・・アンタはどうやら私が屈服するとでも思っているみたいだけれど、アンタ何もわかっていないわね・・・・・?アンタみたいな夢の世界の奥底でひっそりと現実に怯えて生きているような小物とは違うのよ?
(イライザは夢の世界の支配者・・・・・
しかし、夢は現実とは違う・・・・・
イライザの能力ならば夢を現実に変えることも可能だろうが、夢を現実へと作り替えたところで、所詮はまやかしに過ぎない・・・・・
そして、夢という虚構の世界で好き勝手やっているイライザは、臆病者の小物だと霊夢は言う・・・・・
人間の強さというものは、どんなに夢であってもらいたい現実にも立ち向かう部分にあると霊夢は思う・・・・・)
イライザ
「クスクスクス……そんなに怯えなくてもいいわよ?
貴方を殺しはしないわ……永遠に朽ちることも壊れる事も出来ないようにこの悪夢の世界で飼ってあげる。」
イライザは自身の邪な衝動と欲望を満たすことを何よりも優先すべき事であると考え、それを少しでも満たすために行動してきた。
そんな中で実体を持ってこの悪夢の世界に訪れる者はかなり稀有であり、ただの夢の住人や精神体であれば、触れても感触は無いし、面白味に欠けるが、相手は実体であり夢の存在とは明らかに違うし、その反応もより楽しいものになるだろう。
イライザ
「精神なんて何度でも治せる。
何度壊れても終わりなんて来させない……
実体の無いこの悪夢の世界を貴方の悲鳴と喘声で満たして頂戴?」
霊夢の四肢を拘束する触手の他に、霊夢の前に粘性の高い液体を滴らせる一本の触手が迫り、霊夢の尊厳を踏みにじろうとする……
イライザの言葉が正しければ……この悪夢の世界で、老いることも死ぬことも出来ずに、それこそ永遠に弄ばれ続けることになってしまうだろう……
・・・・・このクズ・・・・・
(諦めるつもりは無い・・・・・だが、現状を打破することも出来ない・・・・・
霊夢は、イライザを睨みつけながら、ただ罵倒することしか出来ない・・・・・
自分に腹が立つほどの無力というのは、こういうことなのか・・・・・)
イライザ
『さあ……沢山よがらせてあげ……』
《ザシュッ》
夢月
「……まったく、かつてこの私を倒した博麗の巫女がこの程度の奴を相手に翻弄されているだなんて悲劇的ね。」
イライザの操る触手が霊夢の体に触れようとした次の瞬間、不気味な紫色の肉塊に覆われたこの空間を引き裂くようにして吹き込んだ青白い光が現れると霊夢に迫る触手と、四肢を拘束していた触手が全て切り裂かれる。
そして得体の知れない触手の粘液が霊夢にかからないように、青いメイド服を着た金色の髪をした女……夢月が霊夢をお姫様抱っこするようにして抱えて避ける。
だが、夢月からはイライザにも並びうる強い闇の魔力を感じる……
・・・・・アンタ、本物・・・・・?
(イライザの見せる悪夢は、現実のものと変わらないほどのリアルさを持つ・・・・・
イライザのことだ、誰かが助けに駆けつけたと自身を傷つけてまで希望を持たせた後にまた絶望にたたき落とすという手法を使ってくることも簡単に想像できる・・・・・
相手の種族も含めて、状況が状況だからか本物なのか偽物なのか判別ができない・・・・・)
夢月
「さあ?悪夢の世界でその言葉は意味を成さないからね。
全てが幻であり、全てが現であるとも言える……
姉さん!!」
幻月
「よくわかんないけど、"アイツ"や夢月に任されたからね、やってやるわ!!」
霊夢の言葉に対して、深い意味を持っていそうではあるものの、曖昧な言葉を返すと、自分達に向かって伸びて来る触手を見て、姉の名前を呼ぶと、二人と触手の間に純白の翼を持った天使のような姿をした悪魔……幻月が現れる。
幻月もまた、一度博麗の巫女に敗れた闇の存在であるのだが、そんな彼女が今度はその血筋である霊夢を助けるべく、右手を翳し、迫り来る触手もろとも周囲の空間を侵食して生まれた分厚い肉の壁を消滅させる純白の極大光線を解き放ち、夢想天生に匹敵する大穴を開けて見せる。
・・・・・一応、信じていいみたいね・・・・・
(抱き抱えられたまま、二人は助けに来てくれたのだろうということを確信すると、霊夢はひとまずホッとする・・・・・
が、霊夢の声が若干かすれるような声になっており、しかも息も若干荒くなっている・・・・・
戦いによる疲労だろうか・・・・・)
夢月
「信じる?私達は悪魔。
悪魔を信じるだなんて巫女も随分と変わったのね?」
夢月は巧みにバラバラに引き裂かれて吹き飛ばされて来る肉片に跳び移り、そのまま幻月が開けた外へ繋がる大穴に向かって進んでいく。
自分達は悪魔であり、他種族とは決して相入れる事の無い存在であるにも関わらず、自分に対して信じると言う言葉を遣った事へ少し不思議に感じてしまう。
・・・・・真の悪魔っていうのは、誰かを助けたりはしないのよ・・・・・まさにアイツがその真の悪魔よ・・・・・
(霊夢は、巫女も随分と変わったと言う夢月に、真の悪魔というのはどういうものなのか、イライザこそが真の悪魔だということを告げる・・・・・
イライザは捕らえた獲物を時と場合によっては生かす、だがそれは慈悲からくるものではなく、獲物を弄んで自身が優越感に浸るためであり、決して優しさなどは元より微塵も持ち合わせてなどいない・・・・・)
イライザ
『目障りな小魔ごときが……この私の楽しみを奪うだなんて許さない……!!!』
《メキメキメキメキメキッ》
イライザによる空間操作がより強くなり、周囲の肉壁からおぞましい数の手と触手……今度は捕らえた相手で楽しむのではなく、明確に捕まえた相手を殺害するために、無数の手はその全てがナイフのような爪を持ち、伸ばされた触手はまるで茨のようにもなっている。
幻月
「あははは!
確かに……あんなにわかりやすい悪者はそうそういないもんね?」
押し寄せてくる無数の手と触手の全てを幻月は両手から放つ極大光線で薙ぎ払い、光線を潜り抜けて迫ってきたモノを、霊夢を抱えているため両手が塞がっている筈の夢月が切り裂いて吹き飛ばし、高速で出口である大穴の先に向かって進んでいく……
イライザ(毒干渉)
『戻りなさい……このまま私の手から逃れようと言うのなら……貴方の中に流し込んだ私の毒を介して貴方の体を内側から破壊する……!!!』
《ビキビキビキビキビキッ》
夢月と幻月の二人の出現によっていよいよ余裕が無くなって来たからなのか、博麗の巫女で弄ぶ事が余程楽しみだったからなのか、霊夢の体内へ流し込まれたイライザの一部……毒液を介して霊夢の体内の血管を通じて体の内側から霊夢の実体を崩壊させようとしている。
イライザの影響力は悪夢の世界の中であればこそであり、一度この悪夢の世界から脱出する事が出来れば、もうイライザからの干渉は直接干渉のみになり、毒液も効力を失うのだが、このまま行けば脱出する前に霊夢の体が破壊されてしまうだろう……
・・・っ・・・・・!!!!!あぁぁああああああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
(霊夢はとてつもない激痛に、思わず悲鳴を上げる・・・・・
自身の体が明確に崩壊し始めているのがわかる・・・・・
これが他の人物ではなく、自分の体で起きていること、というのがせめてもの救いか・・・・・)
イライザ(毒干渉)
『抵抗は無意味よ?逃がしはしない……脱出するより前に貴方の体を崩壊させる。そして……ここでの死は貴方の魂の死を意味する……死が怖いのなら、私の元へ戻りなさい?』
イライザは霊夢の体内にある毒液による干渉を続け、あの皮膚の獣との戦いの時をも遥かに越える激しい痛みに苛まれている中、イライザは自分の手元へ戻るように言葉を囁いていく……
イライザは魂や精神と言った実体の無いものを直接破壊することが出来る……このまま行けば脱出するよりも先に霊夢の絶命は免れないだろう……
はぁっ・・・・・!はぁっ・・・・・!
(霊夢の呼吸が徐々に乱れ始める・・・・・
本格的な命の危険というものは、こういうものなのかと激痛の中感じ始める・・・・・
しかし、霊夢も幻想郷を守るためにイライザと戦いに来た身、それに、ここでイライザの言うとおりにすれば、助けに来てくれた夢月と幻月を裏切ることになってしまう・・・・・)
イライザ(毒干渉)
『……そう、戻らないのなら……苦痛の中で果てるがいいわ……!!』
霊夢が取り込んでしまった毒液が霊夢の身体中に広がる血管を介して全身の細胞を破壊し始め、徐々にその体を激痛と共に蝕んでいく……もはやイライザは霊夢で弄ぶことをやめ、本格的に霊夢を始末することを考えていく。
がっ・・・・・!ぼっ・・・・・
(霊夢は体を震わせながら、目を見開いて吐血する・・・・・
どんなに目が渇こうと瞬きすらできず、呼吸すらできないほどの苦しみ・・・・・
博麗の巫女が鮮血に染まってゆく・・・・・)
夢月
「……どうするの?姉さん。」
幻月
「私達には対応のしようがない……ま、これにやられるようなら、その程度だったって事になるだけよ。」
苦しむ霊夢を見ても、夢月と幻月の二人は自分達には対応する事が出来ないことから、ただ自分達の役割を全うするために継続して出口に向かって進んで行く…
ぶらん・・・・・
・・・・・
(霊夢の手が力なくだらんと下がる・・・・・
言葉では表すことが出来ないほどの激痛に耐えただけでも、まだ健闘した方だろうか・・・・・
霊夢はさっきまでの苦痛による叫びから一転して、急に静かになる・・・・・)
夢月
「……あれ?動かなくなった?」
幻月
「ほんと?それじゃもういらないかな?」
霊夢の体から力が抜け、静かになったのを見て、思わず二人は顔を見合わせる。
迫るイライザの無数の腕を器用に必要最低限の動きだけで避け出口まで残り100mをきったところまで進むことが出来たのだが、本当に霊夢が死亡したのであれば、何の躊躇いもなく霊夢を捨てるだろう……
・・・・・
オオォォォオオオオ・・・・・
(霊夢の体が突然、白いオーラのようなものに包まれ始める・・・・・
それは力尽きたと思われる霊夢の再起の可能性か・・・・・
はたまた、魂の終焉か・・・・・)
夢月
「うわ!なにこれ……?」
幻月
「白い羽根を持つ私が言うのも可笑しいかもだけど……このオーラは私達にとってはあまりありがたいものじゃないわ。」
イライザ
『(たかがオーラ程度でどうこうできるものじゃない事は相手が知っているし、あの巫女の実力は既に測りおえておえてある……どの道あの二人の悪魔さえ潰せばなし崩し的に全滅させることが出来る!!!)』
霊夢を抱えていた夢月は突然、霊夢が白いオーラを纏い始めたのを見て驚き、イライザは霊夢の異常に対して警戒を抱くものの、それを意にも介さず夢月達もろとも霊夢を呑み込もうと三人が進む方向から無数のデスワーム状の触手を伸ばして正面から三人へ攻撃を仕掛けようとする。
バシュンッ・・・・・!
ボトッ・・・・・ボトッ・・・・・
(イライザの伸ばしてきた触手が、夢月も幻月も何も攻撃をしていないのに何かに突然切断され、ボトボトと落ちてゆく・・・・・
夢月と幻月の二人が何もしていないとなれば、残るは博麗の巫女ただ一人しかいないが、博麗の巫女はさっき確実にイライザの毒液によって事尽きたはず・・・・・
何か見えない力が働いているとでもいうのか、それとも・・・・・)
イライザ
『(!!?
あの2人乗り攻撃じゃない……となるとあの巫女の攻撃……?
……まあ、いいわ。まだ生きているというのなら、今度は確実に毒で仕留めてあげる……!!)』
夢月と幻月の2人が攻撃した様子は無かった事から霊夢によって切り裂かれたとわかると、イライザは先ほど霊夢を追い詰めたように、再度霊夢の体内に注入された毒液を霊夢の全身の細胞を蝕み、内部から破壊するように浸透させようとする。
できるといいわね・・・・・
(いつの間にか、イライザの背後に霊夢はいた・・・・・
時を止めたとかではなく、本当にいつの間にか背後にいた・・・・・
イライザの思惑などすべて見切っているといわんばかりに、霊夢はできるといいわね、と呟く・・・・・)
夢月
「あれ?脱出するんじゃないの?」
イライザは悪夢の空間そのものと同化しているため、背後と言うものが存在しないため、結果的に脱出口とは反対にある無数の触手と爪手が蠢く場所に向かうことになってしまう……
霊夢の体内に流し込まれた毒液が霊夢の全身を破壊するのが先か、悪夢の空間を満たすように蠢く夥しい数の魔手に引き裂かれるのが先か……
夢月と幻月は少し止まって霊夢に何か策があるのかとも考えるが、脱出用の穴は縮小を開始しており、あまり悠長にはしていられない。
イライザ
『愚かな愚かな人の子。
私の手の中へ戻ろうというのなら、その死を持って私は赦してあげるわ。』
《グアッ》
霊夢が夢月の腕から出て悪夢の深奥(こちら)へ来るのを見て、イライザは霊夢の体を蝕んでいる毒の侵食を一時的に止め、その代わりとして自身と同一化した夥しい数の魔手と触手を霊夢の全方位から掴みかからせようと伸ばす……
夢月と幻月は黙って霊夢の様子を見ているが、このままイライザに時間稼ぎをされてしまえば、自分達でさえも脱出出来ないように空間そのものを組み替えられてしまう関係上、わざわざ危険を覚悟してまで霊夢を助けに行くことはしないだろう……
脱出不可能になるまで、残り3分……
勿論脱出するわよ・・・・・ただ、まだ時間がある今の内に、コイツをできるだけ追い詰める必要があるわ・・・・・
(夢月の問いかけに対し、霊夢は勿論脱出はするが、その前にはまず目の前にいるこの悪魔をできるだけ追い詰めてからだと言い切る・・・・・
つまり、ここですべてを終わらせるわけではなくとも、脱出後にイライザを倒しやすくできるように今のこの限られた時間の中でしておく必要があると霊夢は言う・・・・・)
幻月
「へぇ?言うじゃん。
それじゃ、お手並み拝見といかせてもらおうかな?」
イライザ
『クスクスクスクス……さっきまで手も足も出なかったのに今なら勝てるとでも思っているのかしら?どうやって身体の崩壊を止めているのかは知らないけれど……あまり図には乗らないことね。』
《ザアァァァァァァァァァァァァァァァァッ》
回避する素振りさえ見せない霊夢に向けて無数の茨のような触手と鉤爪を備えた手があらゆる方向から霊夢に迫り、まるで彼女を圧砕するようにして一ヶ所へ押し寄せて行く……
何故か、霊夢の体を蝕んでいたイライザの毒による侵食が止まっており、更に霊夢の体に影響を及ぼさず、それどころか回復さえしているものの、その理由は謎に包まれている……
もし脱出が厳しいと思ったら、アンタ達だけでも先に逃げなさいよ?
ダッ・・・・・!
(霊夢はもし脱出が厳しいと判断したら、夢月と幻月の二人だけでも先に逃げるように予め伝えておく・・・・・
そして、そう言い残すと霊夢はイライザの攻撃を、あらゆる僅かな隙間から、しかし表情一つ変えることなく、むしろ余裕と言わんばかりに、もしくはイライザの攻撃を既に見切った上で行動しているかのように、猛スピードでイライザへと迫り来る・・・・・
つい先程も霊夢は一度覚醒したが、その時とはまた違ってイライザの攻撃に対する対応力が格段と上がりつつある・・・・・
今の霊夢を簡単に言い表すならば、絶対に獲物を仕留めるまでは止まることのない狩人、といったところだろうか・・・・・)
イライザ
『………!!?』
イライザ
『(動きが明らかに違う……私の攻撃は確実に最初よりも速く、数も多くなっているのに当たらない……!?)』
イライザの伸ばす夥しい数の茨と腕を巧みに掻い潜り進む霊夢の様子を見てイライザは驚愕する。それはまるで何度も倒される(コンティニュー)を繰り返す事でより強くなっていくような……
そんな感覚をイライザは覚え、周囲の肉塊のような悪夢の空間から茨のような触手や無数の腕に加え、新たに目の無い巨大な肉塊の蛙のような化物を生み出し、霊夢を呑み込もうとする。
だが、イライザは無限とも言える悪夢の世界と完全に融合しているため、その実体は何処にも存在していないため、何処を攻撃しても弱点にもダメージにもならないと思われる。
ぐちゃぁっ!!!!!
(霊夢は蛙のような化け物を避けることもなく呑み込まれるも、そのまま化け物の喉元を突き破ってイライザへと向かってくる・・・・・
霊夢自身も、イライザには攻撃が通用しないことなど今までの戦いの中で百も承知、ならば本来の目的であるイライザの誘導・・・・・いや、無理矢理にでも首根っこ掴んで連れて行くのみ・・・・・
霊夢は、イライザの真ん前、激突寸前で止まって見開いた目でイライザを見つめる・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……本当に逃げ足だけは優れていると言っても差し支えがないわね?』
《ギョロギョロギョロギョロギョロ》
通路の最奥に到着すると、そこは広間のようになっており、霊夢が入ってきた瞬間、夥しい数の子 血走った赤黒い目玉が見開き、一斉に霊夢を見ると、目から血管のような微細な触手が大量に霊夢目掛けて伸ばされる。
それはもはや弾幕と呼べるような代物ではなく、任官の体が通り抜けられるような隙間が一切無い、赤い壁のようになっており、空間そのものと同化した事で得た圧倒的な物量による波状攻撃を行おうとする。
邪魔よ・・・・・
グォアッ!!!!!
(霊夢は全身に白いオーラを纏った状態で、右手にオーラを集中させ始め、そのまま壁のようなものへと拳を全力でぶつける・・・・・
拳をぶつけるまでの過程で、触手は霊夢のオーラに弾かれるように、どんなに迫ってきても霊夢が通った空間のみ道のようにオーラの残像が見える・・・・・
そして、霊夢が拳をぶつけると、赤い壁はそのままオーラに耐えきれなくなったかのように徐々に跡形もなく崩れ始める・・・・・)
イライザ
『!!』
無数の血管状の触手から成るまともな隙間の無い逃げ場を奪う壁のような密度の弾幕と霊夢が放った白いオーラがぶつかると、ボロボロに崩れ、それ見たイライザは、まさか悪夢の体現者たる自分の力が夢に干渉する力を持っていない筈の霊夢に消されている事に驚く。
イライザ
『面白い……本当に面白いわ、貴方……!!』
《メキメキメキメキメキ……》
霊夢の周囲の悪夢の空間、広場の更に奥、霊夢から30m先にて、肉塊の壁からイライザの上半身が現れると悪意に満ちた笑みを浮かべながら、ゆっくりと両腕を広げる……
すると、それに呼応するようにイライザの周囲にある肉塊から三本指の巨大な腕が六本、イライザの周りから生える。
操作する数を六本に絞ることで、オーラによる消滅までの猶予を高めると同時に攻撃の威力と速度を引き上げる事で霊夢に対抗する事を考えている。
イライザは時間を稼ぐだけでいい。
長くこの場に霊夢を留めておくだけで霊夢は外に出ることも、外から脱出させる事も出来ない隔絶された悪夢の空間に閉じ込める出来るだろう……
アンタ、中身だけじゃなく見た目も本当に気持ち悪いわね・・・・・
(霊夢はイライザのさらなる変貌を見て、本当に気持ちが悪いと呟く・・・・・
しかも、霊夢は依然としてかかってこいと言わんばかりの表情を見せている・・・・・
無論、霊夢はイライザのなるべく時間稼ぎをしてここに留ませておくという計画なんて見通している・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……そんなに褒めても何も出ないわよ?』
肉塊から生えたイライザの半身は最初と同じ人間と遜色無い……強いて言うのならば死人のような肌色をしている以外は変わらない姿をしているものの、半身は周囲の肉壁と完全に同化している。
そんな中でもイライザはイライザの周りを取り囲むようにして生えた六本の三本指の巨腕を霊夢に向けて伸ばし、掴みかかろうとする……
伸ばされた巨腕は間接や骨と言うものが存在しないのか、まるで宙をのたうち回る大蛇のように先読みが困難な不規則な動きをしながら迫る。
イライザの策を見抜いたところで対処できなければ意味はなく、その対処方法も今となっては存在し得ないと言ってもいいだろう……相手が博麗霊夢でなければ。
今のうちに言っておいてやるわ、消滅したらもう罵倒も聞けないでしょ?
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!
(霊夢はどの段階で、どのタイミングでどれくらい先までイライザの行動パターンを読んでいるのか、イライザが巨腕を霊夢へと伸ばしたその時にはもう既に、いつの間にかイライザの目の前に移動していた上に、イライザが霊夢の接近に対応する前に拳にオーラを纏い、イライザが自身特有の物理攻撃が通用しないことや即座に対応してダメージを受けないということ、それらが通用しないほどの目にも止まらぬスピードでイライザの全身へと、人間で言うならば立て続けに巨大な鉄球を複数落とされたような威力のパンチを絶え間なく撃ち込む・・・・・
イライザが攻撃に対応する前に次の一撃を打ち込み、ダメージを受ける前に(受けるかどうかはまだ霊夢にもわからないが)また次の一撃を撃ち込む・・・・・
恐らくは、接近から攻撃、そして攻撃が終了するまではイライザがその状況に気づくことすらも難しいと思われるほどの、言わば本当の意味での目にも止まらぬ速さで霊夢は動いている・・・・・
そして、次にイライザが霊夢に気づいた時は、通用しないはずの霊夢の物理攻撃が全てのパンチの威力を一斉に全身に叩き込まれる時だろう・・・・・)
イライザ
『あら、私は一度も罵倒したつもりなんてないわよ?
だって……玩具を相手に本気で怒る阿呆なんていないでしょう?』
《ドプッ》
イライザ
『それに……貴方も学習をしないのね?』
《ヒュオッ》
速度も威力も単なるブラフに過ぎない。
イライザの狙いは相手が物理攻撃を仕掛けて来た際にその攻撃を受け、相手の動きを止めること……
鉄球をどれだけ叩き付けようと大海が吹き飛ぶことが無いように……
霊夢の繰り出した拳がイライザに腹部に突き刺さるが、それはまるでダメージにはならず、繰り出した霊夢の腕がイライザの体内にて止められ、動きを封じられた状態で、イライザは自身もろとも周囲に生えた巨腕を持って霊夢をバラバラに引き裂こうとする。
そもそも、イライザには実体と言うものは存在せず、こうして敢えて姿を見せたのも、霊夢の攻撃を誘発し、その動きを止めるためのものだ……悪夢そのものであるイライザにはどれだけの攻撃を繰り出そうと、何処からでも"本体"を生み出すことが出来る……勝機は限り無く低く、これまで夢に干渉する事が出来る夢月や幻月でさえ倒しきれずに撤退を選んだ程の相手だ……
唯一の脱出口が閉じるまで残り3分……
残念だったわね、人間は学習する生き物なのよ・・・・・?
バシィッ・・・・・!
(イライザの攻撃は、先ほど壁が霊夢のオーラによって崩れたのと同じように、イライザの巨腕を弾き飛ばす・・・・・
霊夢だってイライザに物理攻撃が通用しないことは知っている、だが、だからこそ近づいたのだ・・・・・
近づくことでやっとできる攻撃もある・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……人間は変わらないわ。
昔からずっと愚かで、脆くて……弄び甲斐がある。』
《メキメキメキメキメキ……》
イライザは六方向から迫る巨腕が全て弾き飛ばされると、今度はイライザが口を大きく開け、口内に何重にも無数のナイフのような牙を剥き出しにして霊夢を呑み込もうとする。
ほぼ零距離にある事から、その距離の近さを活かして霊夢を貪り喰らおうとするのだが、イライザの肌が死人のような肌色から、少し紫色に変色し始めており、単に喰らおうとするだけでなく、もう一つ何かを考えている。
その口閉じてくれない?臭くてかなわないわ・・・・・
(霊夢はイライザの大きく開かれた口が近づくのを見れば、口が臭いから閉じろと罵倒する・・・・・
このままじゃ十中八九食われるが、霊夢も無策で呑み込まれる訳では無い・・・・・
残り時間はわずか、イライザに少しでもダメージを与えてここから脱出するために、霊夢はタイミングを伺っている・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……易い挑発ね?』
《バグンッ》
イライザの開いた巨大な口が霊夢を呑み込むべく喰らいつく……
先程の攻撃で片腕をイライザの液状化した胴体に捕まえられた霊夢には回避する術は無い……
唯一の脱出口が閉じるまで残り1分……
《・・・・・さて、残り時間もそう長くはなさそうね・・・・・早くしないと・・・・・》
(イライザの体内、まさしく悪夢の中とも呼べるような空間・・・・・
いや、悪夢というよりかは、状況的には地獄とも呼べるだろうか・・・・・
霊夢は何か策があるのか、早くしなければと心の中で呟く・・・・・)
イライザ(分裂体)
『クスクスクスクス……時間を稼ぐまでも無かったかしら?』
《バリバリバリバリバリ……》
イライザの開いた巨大な口が霊夢を呑み込むと、バリバリと音を立てながら租借し始めると、霊夢を補食しているイライザは喋れなくなっている事から、隣にて新しいイライザの半身が現れる……
新たに出現したイライザは右手を口許に当てて微笑みながら時間を稼ぐまでもなく霊夢を仕留めたと呟く。
イライザの本体が二体に増えたように見えるが、悪夢そのものであるイライザにとって、自分の体の複製など容易い……イライザを滅ぼすためにはこの悪夢の世界そのものを消滅させる必要があるのだが、それだけの力を持った者はそうそう存在しない……
だからこそ、夢月や幻月と言う単純な戦闘力で勝る存在がいながら、これまでイライザが悪事の限りを尽くせて来たのだろう。
・・・・・
(咀嚼音の中に霊夢は消えてゆく・・・・・
当たり前だが、イライザのような化け物に捕食されたら、一溜りもない・・・・・
そう、博麗の巫女じゃなければ・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……唯一の脱出口はもう閉じた。たとえ生き残っていたり、回避できていたとしても、もう逃げられないわよ?』
イライザの視線の先では幻月が開けた脱出用の大穴が完全に閉じきり、例えこれで霊夢が生き残っていようと、タイムオーバー……つまり、もう逆転の目は残されていない……
悪夢の支配するこの世界で奇跡は起こらない……
ただただ非情なまでの必然のみがここにある……
夢月
「あーあ、完全に閉じちゃったね、姉さん。」
幻月
「人間って本当に愚かだと思うわ、あのまま逃げていればよかったのに。」
イライザの策謀により、悪夢の世界から逃れる唯一の脱出口が閉じてしまうのを見て、結局霊夢が脱出することが出来なかったと言うことを呆れながら二人は呟く。
再度幻月が攻撃すれば悪夢の世界の壁を破壊できるかもしれないが……相手はイライザだ。幻月の放った攻撃を誘導して霊夢にぶつけて潰し合わせると言うことをしてくるだろう。
迂闊に手助けしようと手を伸ばせば、それをイライザに利用されるし、かと言って自分達の危険を冒してまで助けに向かおう理由も意味も見出だしていない……ここでやられるようなら、どの道、この先の戦いで生き残ることは出来ないのだから……
その時・・・・・
スウウゥゥゥゥゥウウ・・・・・
(イライザの体が、霊夢がまとっていたものと同じと思われるオーラに包まれ始める・・・・・
霊夢を捕食したことにより霊夢の戦闘力が上乗せされた、ということか・・・・・
それとも・・・・・)
イライザ
『(…………!
これは……!?)』
イライザは自分の性質が"悪夢"である事から、例え対象を吸収したとしても、それを発動して完全に制御下に置くためには自分と同じ属性へと変換しなければならない……それをしなければ思わぬ暴発を起こしたり、放った技の影響や残滓で自分の首を絞めることになるからだ。
だからこそ、吸収した力を使用していないにも関わらず、オーラが現れたのを見て二体のイライザは驚愕する。
ズズズズズズズズズ・・・・・!
(イライザを包み込むオーラの勢いが徐々に強まってゆく・・・・・
それどころか、むしろイライザの体のみに留まらずにこの空間の四方八方へと広がりながら、オーラが徐々に勢いに加速をつけてゆく・・・・・)
イライザ
『(………触れてもダメージが無い……となると、浄化や攻撃系統ではない。となると、さしずめ私の能力の緩和による空間掌握を阻もうとしている訳ね?)』
紫色に変色したイライザが警戒し、敢えて動きを止めている中、死人のような肌色をしたイライザは代わりに周囲の肉壁から無数の腕を伸ばして白いオーラに触れるが、弾かれる訳でも消えるわけでも無い…
触れたものに干渉する力であるのならば、空間そのものがイライザの一部となったこの場においてその効果は直ぐに現れるのだが、待っていても何も起こらないどころか、こちらから触れに行っても何も起こらないことでただのこけおどしであると断定する。
イライザ
『(クスクスクスクス、私(悪夢)を包み込もうとしているようだけれど、悪夢とは元々内面に存在していたもの。内側から全てを侵食して悪夢で塗り潰してあげる)』
二体のイライザは同じタイミングで悪意に満ちた笑みを浮かべると、二体のイライザがそれぞれ触れたエネルギー体を蝕み、吸収する黒い波動……可視化された悪意を解き放つ事で周囲に広がる白いオーラを黒で塗り潰そうとし始める。
ズズズズッ・・・・・!
(霊夢の白いオーラが、イライザの黒い波動に呑み込まれ始める・・・・・
やはり、イライザの予想通り、ただのこけおどし、もしくは悪あがきだったか・・・・・
所詮、人間の力なんて小さなものだ、それがたとえ博麗の巫女であろうとも・・・・・)
夢月
「姉さんはあの巫女がイライザに勝てると思う?
私は無理だと思う……魔力的に見ても種族的に見てもイライザに優っている要素があるとは思えない。」
幻月
「……それはわからないわ、単なる身体的な強さだけが全てじゃない。
だって、此処は夢の世界。意思や想いの強さが現世以上に大きな影響を引き起こすのだから。」
イライザの放った醜悪な悪意の波動が霊夢の白いオーラを内側から蝕み、染め上げていく中、悪夢の要塞の外に脱出した夢月と幻月の二人が霊夢とイライザの戦いの結末について考察している。
夢月は純粋な戦闘力で考えた結果、勝ち目が無いと思っているのに対して幻月は夢の世界と言うこの世界の性質や、人間の未知数の可能性を考えた結果、結末を推測することが難しいと考えている……
ズオォォォォォォォォォッ・・・・・!!!!!
(イライザに呑み込まれていた霊夢の白いオーラが、再びイライザの波動を猛スピードで包み込み始める・・・・・
しかも、今度は今まで以上にイライザの波動よりも力が強くなり始めており、どんどん包み込んでゆく・・・・・
いよいよ、形勢逆転及び最終決戦の幕開けだ・・・・・)
イライザ
『(…………!!?)』
自分が支配するこの悪夢の世界では全てが自分の思い通りになると思い、事実これまでその通りになって来ていたのだが、今回の霊夢が展開した白いオーラに自身の放つどす黒い悪意のオーラが押されている事に困惑を覚えている。
二体のイライザ達は肉壁から突き出るようにして生えた上半身のみであはあるものの、予想外の出来事を前に思わず次の手を講じるまでに大きなラグが発生してしまう。
霊夢の実体は確かに紫色の皮膚色をしたイライザが喰らったばかりであり、霊夢の魂や精神体は完全に滅びた筈であるため、イライザ達の混乱はより強くなっている。
イライザ(紫体)
『目障りな濃霧ね……』
そんな中、困惑しながらも、幾分かの冷静さを取り戻した紫色の体色をしたイライザが背中から生えた翼腕を用いて白いオーラそのものを切り裂き消滅させようとする。
イライザは神降ろしの巫女との戦いの時にも見せたように、実体の無い存在にも干渉し、消滅させる事が可能な特殊能力を持っているため、白いオーラの正体が何にせよ、実体の有無に関わらず切り裂き消滅させる事が出来るだろうと考えている。
グォォォオオオオオッ!!!!!
(イライザが白いオーラを切り裂こうとすると、切り裂こうとしたイライザの体を徐々に包み込み始め、紫体のイライザを消滅させ始める・・・・・
そして、霊夢はイライザの体を突き破るかのように無傷で白いオーラを纏いながら登場する・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……なかなか面白い性質の技ね?
それも……おおよそ白からは連想しにくい外道の力……いえ、私達に近い力を感じられるわね?』
紫体のイライザが消滅し、もう片方のイライザの体を突き破り、咆哮をあげながら再び現れた霊夢に対して、肉々しい天井を覆うようにして巨大なイライザの目が現れる。
現れた巨大なイライザの目から、あの他者を見下し、小馬鹿にするイライザの特徴的な笑い声と共に、今の霊夢の力は自分達に近い邪悪な性質の力を感じられると言う……
現に今の霊夢は、おおよそこれまで異変解決の際に使ってきた力や技からあまりにもかけ離れたものであり、霊夢自身、イライザを通じて博麗の巫女から悪の存在へと変質し始めているのかもしれない……
あらそう?それはとても心外だわ・・・・・
グォオッ・・・・・!
(咆哮だとおもっていたのは、実は咆哮ではなくオーラの勢いによって生じた突風の勢いによって生まれる風の音だった・・・・・
イライザの言う通り、確かにこの力は悪に近いものがあるかもしれない、霊夢自身絶体絶命の状態からここまで這い上がれたのも不思議でしかなく、この力が何なのかは正直わからない・・・・・
だが、今するべきことは一つ・・・・・)
もう終わりよ、イライザ・・・・・
グググッ・・・・・
(霊夢は自分の能力を使って、イライザをお得意の悪夢という存在そのものから分離させ始める・・・・・)
イライザ
『クスクスクスクス……』
天井を覆うようにして出現した巨大なイライザの目は霊夢が向かって来るのを見て、不敵な笑みを溢しながら、目を大きく見開くと、尖端が鋭利に尖った無数の血管のような管を伸ばし、それで霊夢の体を刺し貫こうとする。
イライザ
『この私を悪夢から引き剥がすつもり?
だけど……貴方の触れているものが本体なのかしらね?』
更に、霊夢の向かう先にあるイライザは、本体なのかどうかと問い、その攻撃や行動は不発に終わるだろうと声をかける。
イライザの言葉も当然であり、無限に等しい悪夢の世界において、イライザの本体を正確に見つけ出して切り離すなど、砂漠に落ちた硝子……大海の塵を見付けるよりも遥かに難しい。
気配で探ろうにも、空間そのものがイライザの魔力で満たされており感知することは不可能……広範囲に能力を向けたとしても無限に等しい悪夢の世界全てに行き渡らせるなど強力な力を持った神であっても困難なものであり、とても人間の霊夢一人ではどうにも出来ない事であると断定している。
言ったでしょ?終わりだって・・・・・
(イライザの攻撃は霊夢の体を貫くことなく、霊夢はイライザに対して終わりと言ったはずだと告げる・・・・・
「アンタは自分以外の存在なんてちっぽけな下等生物にしか見えないのだろうけれど、夢を見る者が存在しなければ悪夢は生まれないのよ・・・・・?」
霊夢はイライザを見ながら、所詮イライザは夢を見る誰かがいてこそ存在できる偽りであるということを暗に告げる・・・・・)
イライザ
『………クスクスクスクス、また避けるつもり?』
イライザ
『(私の本体がある位置は感知や予知を誰にも出来ない。たかだか人間一匹ごとき私の居場所がわかる筈も無い。例え一時的に攻撃が届かなくなろうとも、攻撃が当たらない以上、私の優位性が揺らぐことは永遠に無い。次にこの能力が切れた時が終わりの時よ?)』
これまでの戦闘から、霊夢の夢想天生には時間制限があると言うことを知っていたため、伸ばした管がすり抜け、避けられるものの、最初ほど驚きはせず、継続して管を伸ばし続けることで霊夢の行動範囲を限定してその行動を先読みしやすくしようとする。
霊夢の能力維持が限界を迎えた時にそのまま跡形もなく消し飛ばせるように、巨大な目玉の瞳に魔力を集束させ、その隙を伺う。
幻想郷の住人達の精神を具現化した精神の刃は霊夢が結界で干渉できないようにしていて、霊夢の体内に流し込んだ筈の毒液も何故か効力を失っているものの、悪夢と同化しているイライザにはどれだけの攻撃や技も届かない……本体の位置を掴むことなど出来る筈がないと断言している。
《考えろ・・・・・考えるのよ、私・・・・・イライザの本体は絶対にどこかに存在する・・・・・思考を止めるな、考えろ・・・・・》
(霊夢は限られた時間の中、残り少ない中でイライザの本体を感覚を研ぎ澄ませて見つけ出そうとする・・・・・
本体が近くにいるのか、それとも今戦っているイライザをどこか遠くから操作しているのかはわからないが、憶測ではあるが言える事は一つある・・・・・
本体があるということは、その本体がある場所には一際力が強く集中しているのではなかろうか、と・・・・・)
霊夢に似た巫女
『なーにウジウジ考えてんのよ?
アンタの感じたものが正解でしょ?
それは今回も変わらない、何時もの勘が教えてくれる。』
もはや打つ手はない、どれだけ攻撃しようと、相手は無限に等しい悪夢の世界と同化しているため、力の無駄な浪費で終わってしまう……無限の力があったとしても、イライザを完全に討ち滅ぼすのは不可能だ……
だが……これまで霊夢は敵について深く考える必要はなかった。
巫女の勘が答えを教えてくれる……少し勘を研ぎ澄ませれば、イライザの本体が何処に潜んでいるのかも見抜ける。
そして……霊夢の"浮く"力を用いて悪夢の底に潜むイライザを地上まで引き摺り出してやればいい。イライザの力が悪夢によるものならば、悪夢から引き剥がせば実質的に無効化させる事も出来るだろう。
その事を、霊夢の背に現れた巫女が教えてくれる……
イライザの見せた悪夢から出してくれた存在……
何処かで会った事があるような……不思議な感覚を覚えるその巫女の導きがどのような結果を生むのかはやってみなくてはわからない。
・・・・・
(霊夢は確信した・・・・・そう、全てはそこまで深く考える必要は無い・・・・・
自分に似た謎の巫女と思われる人物の言う通り、少し勘を研ぎ澄ませれば本体がどこにあるかわかるはず・・・・・
霊夢は、瞳を開けると、イライザを見て怪しげな笑みを浮かべる・・・・・)
《コオォォォォォォォォ》
霊夢の視線の先にある見開かれた巨大な目玉のその先……
幾層にも重なった肉壁と肉塊の向こうにイライザの本体がいると言うことを勘が教えてくれる。
理論や理屈じゃない、超感知や未来予知でも無い……
第六感をも超えた博麗の巫女としての勘がハッキリとイライザの本体を把握することが出来ている。
そこよっ・・・・・!!!!!
ぼちゅっ・・・・・!
ずぶずぶずぶぶっ・・・・・!
(霊夢は、見開かれた巨大な目玉の表面を突き破り、本体を守るようにして立ちはだかる気持ちの悪い肉壁と肉塊を猛スピードで突破してゆくと、そのまま奥の方に潜んでいるイライザの本体を視界に捉える・・・・・
もう、イライザにはどこにも逃げ場はない・・・・・)
イライザ
『!!?
私が見えていると言うの……!?』
本来ならば何人にも感知できる筈の無い自分の居場所を正確に把握した上で肉塊の中を突っ込んで一直線に向かってくる霊夢を見て、イライザはまるで水中を漂うクラゲのように肉壁の中を移動して霊夢の追跡から逃れようとする。
依然としてイライザの気配や魔力は感知できていないものの、霊夢の勘はイライザが移動している事や、その移動先についても教えてくれている。
ガシッ・・・・・
どこ行くのよ・・・・・?アンタ、まだ逃げられるとでも思っているの・・・・・?
(霊夢は的確にイライザの移動場所を把握し、逃げられないように足を掴む・・・・・
夢、もといこの悪夢の世界に果てはない・・・・・無限にどこまでも広がっている、正に夢ならではのなせる世界・・・・・
だが、本体をとっ捕まえさえすれば、あとはただイライザへ終焉への引導を渡すだけだ・・・・・
霊夢の目は、確実にイライザを消し去るハンターともいうような目をしていた・・・・・)
イライザ
『!!?!?』
イライザ
『………ク……クスクスクスクス……!
私を掴まえただけで勝てるとでも思っているのかしら?
私は実体無き幻魔の女王。姿形なんて幾らでも変えられるのよ……!!』
《メキメキメキメキメキッ》
イライザは冷や汗を流しながらもまだ笑い続け、体が徐々に5mもの巨大な体へと巨大化すると同時に、自身の身体中から無数の腕を生やし、背中から生えた翼腕も二枚から四枚へ増え、変貌し始める。
それはあの悪夢の処刑者のように急速に自身の姿を変化させている。
イライザに接触する事が出来たはいいものの、このままでは無限に悪夢から力を得ることの出来るイライザを前に、最初と同じように全ての攻撃を無効化され、逆に追い詰められ、全て無駄になってしまうだろう……
傷だらけの一人の狼(霊夢)の対峙する相手は山の如く巨大な娥……
全てにおいて不利なこの状況を打破する事が出来なければ、このチャンスを活かしきることは出来ない……