幻想郷の守護者『博麗霊夢』
これはそんな彼女が博麗の巫女となり、数多の異変を解決する以前に、始めて訪れた邪悪な妖との戦いの物語。
>>1 世界観と注意
>>2 異変キャラについて
ぐ・・・・・が・・・・・
ガシッ・・・・・
(腕を切断されれば、もう片方の手で掴む・・・・・
死の寸前であるはずなのに、どこまでも抗おうとする執念深さは狂気の域に達しているのかもしれない・・・・・
意地でも霊夢のもとへは行かせないつもりらしい・・・・・)
犲狼
「ちッ!往生際が悪いぞ!!さっさとくたばりやがれ!!!」
犲狼は得たいの知れない恐怖を感じたまま、今度は刃のように変えた尾ではなく、彼女の方へ振り返り(霊夢には背を向ける形となる)、右腕を大きく挙げ、今度は二度と邪魔が出来ないようにその体を跡形もなく消し飛ばそうと右腕に妖力を集束させ始める。
だが、これによって霊夢が反撃を……魔理沙の授けたポーションによって回復し、残された大技を放つための最大のチャンスが出来る……
・・・・・
(霊夢は回復し意識を取り戻すと、すぐ様状況を理解する・・・・・
蔵蜜に気を取られ、豺狼がこちらに気づいていないということは、今この時こそ、全てを終わらせるべき最大のチャンスであると・・・・・
霊夢は気付かれないようにゆっくりと立ち上がる・・・・・)
があ・・・・・ぁ・・・・・
(蔵蜜は回復した霊夢がゆっくりと立ち上がるのを見て、もう少し自分へと気を引かせようと左腕に噛み付く・・・・・)
犲狼
「目障りだ、消えろ!!!」
犲狼は振り上げ、妖力を集中させていた右腕を勢い良く振り下ろし、その圧倒的な妖力の塊を叩き付ける事で既に瀕死に追い詰められていた蔵蜜に対して過剰なまでに強大な威力を持った一撃を繰り出し、バラバラに消し飛ばそうとする……これを受けてしまえばもはや原型すら留めることは困難であると思われる……
その時・・・・・
消えるのはアンタでしょ・・・・・?
ゴオオォォォオオオオオオ・・・・・!
(お祓い棒、大幤を持った霊夢は、次は仕留めるという勢いで全力の一撃を豺狼の背後から豺狼の心臓部辺りへと放ち、豺狼の体を、今まで守られていた体をその一撃によって貫いて外側からも内部からも焼き尽くす勢いで豺狼の体へ大ダメージを与える・・・・・
豺狼が蔵蜜へ気を取られていたこともあり、防御しようにも防御へ回れる隙すら与えない、正に豺狼との因縁に終止符を打つ、最後の一撃・・・・・)
犲狼
「!!?
ぐ……おォォォォォォォ……!?」
勝敗は喫した、もはやこの場には瀕死の巫女と犬神しかいない。
どれだけ反撃を仕掛けようと、この状態であればまともな反撃は出来ないだろう。
そんな考えの下で油断し、更に眼下の蔵蜜一人に意識を集中させていた事もあり、背後にいる霊夢の攻撃に気付けずに攻撃が直撃すると、犲狼は青白い炎に包まれて大ダメージを受ける。
もう終わりよ、その底無しの強欲と共に焼き尽くされなさい・・・・・
(青白い炎に包まれゆく豺狼の目の前には、散々見下し、今まで何人も食らってきた博麗の巫女・・・・・
己の力の足しとしてしか見ていなかった博麗の巫女の力に全身を焼き尽くされるという、何とも皮肉な状況が豺狼を襲う・・・・・
豺狼がもがけばもがくほど、炎をより一層強まり豺狼の全身を包んでゆく・・・・・)
犲狼
「く……そ……!!!」
犲狼
「こんなところで……消えてやるものか……!!どうせ……お前も俺様を他の奴らと同じ弱者だと、ただの犬コロだと思っているだろう!?俺様は強い!!俺様はこんなところで敗れ消える事はない!!」
青白い炎に包まれ、体が霊夢の放った霊力を受けて浄化されつつある中でも、自身の能力を用いてこれまで取り込んだ命を消費する事でダメージや損傷を回復し、蘇生と回復によって青白い炎を相殺しつつ、憎悪と執念に燃える目で霊夢を見る……
犲狼
「お前らのように……俺様を見下し、馬鹿にする者が居なくなるまで……俺様は死なん!!!」
犲狼は右腕を大きく振り上げ、それを横に薙ぎ払うようにして振るう事で地を割る衝撃波を放ち、霊夢を弾き飛ばそうとする……
妖怪の核は精神であり、その精神が……犲狼の場合は復讐と憎悪によって歪んだ弱肉強食の理念が犲狼の力の源となっており、霊夢もまた自分を馬鹿にしている、取るに足らない弱者なのだと見下しているのだと感じ、それが犲狼の生を支えている……
犲狼は強さだけを望み、強さ以外に何も持っていない。
蔵蜜のように誰かを守るために振るうことが出来ず、改心する機会にさえ恵まれず、修羅の世界を歩むしか無かった犲狼のもたらす暴力を前に霊夢は何を思うのか……
力を奪い続けて、他人のふんどしで相撲をとってきたアンタ自身が見下されるようなことをしているんでしょう・・・・・?どんな理由があれどアンタみたいに他人の命を弄んで己の力の足しになるか否かしか考えられないような屑は、正直死すらも生ぬるいと私は思うわ・・・・・
(弱さが仇となって力を求めるまではまだわかる、問題はその先、己の力の足しになるか否かでしか他人を見れない上に命を弄び続けるなんて言語道断だと、死でさえもまだ生ぬるいと霊夢は言い放つ・・・・・
結局はその力も、自分が弱いと一番分かっているからこそ他者から奪い続けてきた力なのに、あたかも自分の力のように言っているのが納得出来ない・・・・・)
犲狼
「ふん、強くなればそんな事は関係無い……!!強さこそが正義!強さこそが真理!強さだけが……絶対だ!!!」
《バキバキバキバキバキバキバキ……》
犲狼は霊夢の言葉を聞いてもその思念が揺らがない。
否定されると言うことは予めわかっていた。否定や拒絶されるだけで犲狼は止まれるほど楽な世界に生きてきてはいない。
犲狼は自らの強者だけが全てを得られると言う理念の下、これまで取り込んだ命達を純然たる身体能力に変え、更に溢れ出す妖力と霊力によってこれまでよりも更に強固なフォースシールドを纏い始め、死にかけていた犲狼は完全に勢いを取り戻すと、その勢いのまま、完全に青白い炎を消し去ってしまう……
そして……犲狼は次第に筋骨隆々な体へと変化し、踏み込んだだけでも地面が砕けるほどのパワーとスピードを獲得し、そのまま霊夢の体を殴り飛ばそうと飛び掛かる……
なっ・・・・・!?
(あの炎に包まれて、もう回復なんて絶望的な状況にまで追い込んだはず・・・・・
気を抜いていたわけではないものの、流石にこれは予想外と言わんばかりの表情をしながら、突然の事態に咄嗟に対処して間一髪のところで豺狼の猛攻を避ける・・・・・
が、フォースシールドも強固になり、豺狼は怒りと力に身を任せる形でより一層凶悪になってしまった・・・・・)
犲狼
「もうテメェらに勝ち目はねぇ……後の事なんざ知ったことか!!失った霊力や妖力はまた奪えばいい!!俺様は誰よりも強い!俺様はもうただの犬コロじゃねぇ!!!」
霊夢に向けて繰り出した拳が凄まじい轟音をたてて地を揺るがし、辺りの地面を砕き、余波だけでも吹き飛ばす程の尋常ならざる破壊力を発揮する……
犲狼の信念の核となっている弱肉強食の理論に対して何らかの反論をするか、その考えを理解するかなどを行い、その激情を抑え込む事が出来れば、犲狼を弱体化させられるかもしれないが、下手を打てば、後先について考えなくなった犲狼による壮絶な暴虐の嵐に呑み込まれてしまうことになってしまうだろう……
・・・・・力に執着するのは、弱者の証拠なのがわからないのかしらね・・・・・
ドォオッ!!!!!
(霊夢は全身にできる限り霊力を集中させて纏い、そのまま豺狼の放った攻撃の余波の中を泳ぐようにして豺狼へと急接近する・・・・・
こうなったら自分の体がどんなに傷つこうが体の一部が抉られようが、力と力のぶつけ合い、でも出来る限り周りへの被害は押さえつつ豺狼を食い止めるしかない・・・・)
https://i.imgur.com/qlcIDNT.jpg
http://twitter.com/clean_library
https://i.imgur.com/tYsUBKN.jpg
http://twitter.com/clean_library
https://i.imgur.com/RPqsIY2.jpg
http://twitter.com/clean_library
犲狼
「人間ごときが……!この俺様の力に対抗できるとでも思ったか!!!」
犲狼は再び拳を突き出す。
それも、今度は霊夢が避けられないように狙い済ました上の殴打。
犲狼の放った一撃に対してまともに受けてしまえば人間の体では魔術を用いたとしても再生や回復が困難なまでのダメージを受けてしまうだろう……
がっ・・・・・!?
(霊夢は再び避けようとするも、今度は完全に避け切ることは出来ずに右腕に受けてしまう・・・・・
戦闘を行う上で腕を負傷するということは、それすなわちこの先の戦いにおいて不利になるということを表す・・・・・
さっきの青白い炎に包んだ時から一転して、再び追い込まれる・・・・・)
犲狼
「既に瀕死のお前に何が出来る!!体力も霊力も突きかけの状態で倒せるほど俺様は弱くはない!!!俺様こそが"最強"だ!!!」
右腕に犲狼の爪が当たった事で腕がまるごと切り裂かれた霊夢に視界が不明瞭になり、立っていることすら困難になるほどの凄まじい激痛が走る……
更に、犲狼の爪によって付けられた傷は深く、骨をも裂いている程であり、自然に止血する事は出来ずないため、適切かつ迅速な対応を行わなければ、例え犲狼の攻撃を全て避けきったとしても、ものの数分で失血死してしまうだろう……
【記憶の断片】
妖犬
「おい、コイツ知能も力も無いくせに狼妖になったらしいぞ」
妖犬
「偶然弱っていた博麗の巫女を喰ったんだとよ、運のいいやつめ!」
妖犬
「エサもろくに取れないノロマのくせに生意気な、妖獣の恥晒しが!」
妖犬
「お前の居場所なんか無いんだよ!!」
幻想郷に訪れ、犲狼と共に妖獣となった妖犬達であったものの、博麗の巫女を喰らった事で力のある妖になった犲狼に対する妬みや僻みから、犲狼は群れから追われ、独り生きることを強いられた……
強い力と引き換えに友を、仲間を失った……
犲狼
「……俺はまだまだ強くならないといけない。誰もが認めるぐらいに強い奴に……最強の妖獣に……!!」
仲間などいらない、友などいらない、絆などいらない。俺様が手に入れるべきは"強さ"それだけだ。
お前らとは力を求める強さが違う、信念の強さが違う。漠然とした大義のみを盲目的に正義とするお前らに俺様が負けることはない。
俺様は強くなる……いや、強くならなければいけない!!こんなところで立ち止まっている気などさらさら無い!!
例え何をどれだけ犠牲にしようと、最強の存在になれればそれでいい。力こそが……強さこそが全てだ!!!
もはや引き返すことなど出来ない。
最強の妖となって自分を弱者とした人間、自分を蔑み追放した同族達を、獣と見下す妖怪を……その全てに復讐するまで犲狼は止まれない……
あぁぁああああああぁああああぁああぁぁぁあぁぁぁぁあぁあああぁっ!!!!!
(意識を保っていられるのもやっと・・・・・いや、そのやっとも駄目かもしれないほどの激痛・・・・・
負傷した右腕を、反射的に左腕で押さえて目を見開きながらしゃがみ込む・・・・・
左掌を見てみると、右腕から出た血で染まっていた・・・・・
死というものが迫っている証拠が、確かに目の前に、掌にあった・・・・・)
犲狼
「無様だなァ!卑しく地を這う走狗が!!そのまま潰れていけ!!!」
犲狼はその巨大な腕を振るい、霊夢に対してトドメを刺そうとする……
犲狼の弱点や弱さは既に公になっている。その強さの源である思念の源泉についても直感の鋭い霊夢であれば既に把握できているだろう……
活路があるとすれば、そこを突くしかない……
或いは……このまま犲狼に殺害され、受け継がれてきた想いが絶え、終わり無き闇によって世界が閉ざされ、死と絶望が支配する永遠に続く夜闇の世界となってしまうか………
【選択の時まで……残り"4"】
・・・・・ッ_________
(豺狼の動きがゆっくりに見える・・・・・が、それは霊夢自身が豺狼を超えるスピードを得た、というわけではなく、死を感じた瞬間は見える光景がゆっくりに見えるというものであり、霊夢が有利になったというわけでもなければ、寧ろ今正に死が直前にまで迫っている状況である・・・・・
霊夢の脳内では様々な思考が交差する・・・・・
人間である以上、自分が立ち向かえるのはここまでなのか、幻想郷の為に役に立つことがほとんどできなかった、など霊夢は絶望に呑まれそうになっていた・・・・・)
《ドゴオォォォォォォォォォォォォッ》
犲狼の振り下ろした爪が激突すると二人のいる森から離れた場所からも目視出来る程の土埃と爆発が巻き起こり、その凄まじい破壊力を物語る……
全てのチャンスを失った霊夢を待ち受けるのは絶望に満ちた死か、起死回生の策による生存か……
【残り"3"】
・・・・・なん・・・・・で・・・・・?
(爆煙が晴れると、辺りの木々は薙ぎ倒され、殺風景な景色へと変貌を遂げる・・・・・
が、霊夢は辛うじて無事であり、そして声を震わせる・・・・・)
・・・・・
(霊夢を守ったのは、蔵蜜だった・・・・・
蔵蜜は最後に何としてでもここで博麗の巫女の血を絶やすわけにはいかないと正真正銘最後の力を振り絞り霊夢を守った・・・・・
蔵蜜の背中は骨や内蔵が剥き出しの状態になり、蔵蜜は息絶えた・・・・・)
犲狼
「ちッ!どこまでもしぶとい奴だったな!!だが、しぶといだけじゃあ、何も残せねぇし、何も守れやしない!!それを示しただけだったなァ!!」
犲狼は蔵蜜が半ばゾンビのようになりながらも、まだ動けた事に驚きくものの、結局は力の弱い者では何も何も残せない、何も守れないのだと非常な言葉を告げる……
犲狼の言う弱肉強食こそが世界の真理であり、力の無い者は泣き寝入りし、搾取され、蹂躙されるしか無いのだろうか……
【残り"2"】
・・・・・アンタ、本当に馬鹿ね・・・・・今現に私は・・・・・あんたの「最大の敵」である博麗の巫女は・・・・・こうして守られたのよ・・・・・もう本来は動かないはずの体を必至に動かして・・・・・アンタみたいな他人の力を奪って命を弄ぶことしかできないような何もかもが弱っちい犬を倒すことも出来ない私みたいな役たたずを守って・・・・・それが弱い・・・・・?
(霊夢は切り裂かれた腕を押さえながらゆっくりと立ち上がると・・・・・
「ふざけるな、このクソ犬が・・・・・」
と、豺狼を睨みつける・・・・・
その眼はまるで夜叉のように・・・・・)
犲狼
「"最大の敵"だぁ?何を言っていやがる?博麗の巫女なんぞ所詮はこの俺様の餌でしかねぇ!!それに命を弄ぶだぁ?テメェら人間は肉を喰わねぇのか?野菜を喰わねぇのか?魚を喰わねぇのか?お前ら人間は平気で他の動植物を虐げ、居場所を奪い、ペットや家畜としてその自由さえ奪う。」
犲狼は霊夢と対峙したまま、人間の業について語る。
犲狼の考えはより直接的になれど、それは人間がもたらす独善的な活動から成る、人間を頂点とした生態系、歪な弱肉強食と共生関係について話す。
犲狼
「弱い奴は強い奴の糧でしかない、これはテメェらが教えたことだぜ!!!」
《ゴオッ》
犲狼は霊夢の言葉に正面から反発すると、再度地を蹴ってその巨大な腕を振り上げ、何時出血死してもおかしくない霊夢に向かって飛び掛かる……
ゴガッ・・・・・
(豺狼の無慈悲な襲撃は地面にヒビを入れ、人間が受ければ一溜りもないような恐ろしい威力を発揮する・・・・・
そして、もしこの一撃を霊夢が受けていれば、たとえ博麗の巫女だとしてもその体はいとも簡単にバラバラに切り裂かれていてしまってもおかしくはないのだが・・・・・)
犲狼
「ふん、所詮はそれが人間の限界だ。力のみを求めて生き続け、弱肉強食のみを正義として突き進んで来たこの俺様に、たかだか人間の、それも小娘一匹が勝てるわけが無いだろうが!!」
犲狼は自らが力のみを求めて生きて来た、それ以外の全てを切り捨てて百年もの時を突き進んできた自分に人間の霊夢が勝てるわけがないだろうと言い放つと、土埃が舞い上がる中、霊夢のいた場所から拳を引き抜いて、その場を立ち去ろうとする……
・・・・・捕った
ガッ・・・・・!!!!!
(豺狼がここで土埃が晴れてからちゃんと確認すればよかったものの、自身の絶対的な力を信じて疑わなかったからなのか、豺狼が背を向けたと同時に豺狼の頭部へ何かが激突し、焼けるような激痛が豺狼の全身に走る・・・・・
そしてその痛みが走る直前に聞こえたのは、間違いなくあの巫女の声・・・・・)
犲狼
「ふん、まだわからねぇのかァ?この俺様は常に全身に力の鎧を纏っている。人間ごときの攻撃でどうこう出来るもんじゃねぇよ!!!」
犲狼の後頭部に向けられた一撃は犲狼を守り、先程犲狼の弱肉強食の理念に対して何も応えることが出来なかったため、蔵蜜がその命を削って破壊したものよりも数段強化されたフォースシールドを身に纏っており、容易く防がれてしまう……
そして、当初からずっと展開していた犲狼の唯一にして最強の防御策であるこのフォースシールドを知らずに不意討ちを仕掛けて来る霊夢を見て、所詮は弱い人間、背後からの奇襲や不意討ちに頼らなければまともに反撃すら出来ないのだと少しの失望を抱きながら、右腕を振るい、霊夢の体を引き裂こうとする………
【スキマ空間】
紫
「………当代の巫女は何をしているの……?」
紫は漸く此方で同時進行で行っていた事柄を済ませ、作ることが出来た時間を用いて霊夢と犲狼の戦いを見る……
だが、紫はここで一つ疑問を抱く。
何故、不意討ちをしているのだろうか、何故宝具を使わないのだろうか、何故能力を使わないのだろうか、何故明らかに身体能力で勝る相手に対して素手での戦闘を持ちかけているのか。
やはり、この巫女でも……この霊夢でも幻想郷を守れるだけの実力が……機転が……能力が無いのだと言わざるを得なくなってしまう……
どうやら、早速この完成した策の一つを試してみる機会が来たようだ。
自身の背後に立ち、何も言わずに静かに犲狼と霊夢の戦いを見ている紅白の巫女を見て、そう考える。
ビンゴ・・・・・
ゴォッ!!!!!
(紫が策の一つを試そうとしたその時、霊夢は豺狼が再び自分へ攻撃を仕掛けてきた瞬間、豺狼の腕が目の前に迫ったその瞬間にさっきのように宝具を使って再び豺狼へと強力な一撃を放つ・・・・・
どうやら豺狼が絶対的な力に自信を持って至近距離で攻撃してくるのを待っていたらしく、霊夢はビンゴと呟く・・・・・)
犲狼
「………!!ふん、そんな棒切れごときでこの俺様を倒せるとでも思ったか!!!」
《ゴオッ》
霊夢の振るった宝具、大幣を見ると、後方へと飛び退くことで寸前で回避をする事で避けるものの、これまでどの攻撃も正面から防いでいたにも関わらず、わざわざ避けた事から、防御することが困難、或いは直撃すると何らかの不味い状況になるのだと思われる。
加えて、犲狼は近接攻撃をするのではなく、右腕を霊夢に向けてその掌から強力な妖力の塊をエネルギー波として解き放ち、距離を取りながら反撃を行おうとする。
ヒュォッ・・・・・!
いい加減に気づきなさい、アンタは他人の力にしがみついて自分が強くなったと思い込んでいるだけのただの薄汚い化け物・・・・・強さと傲慢は違うということすらもわからない奴に、強さを語る資格も、力を手に入れる資格もない・・・・・
(霊夢はエネルギー波の攻撃を高く飛んで避けると、豺狼を見下しながら上記を言う・・・・・
自分の力に絶対的な自信があり、自分を最強と信じて疑わない豺狼が持つ過去が過去だからこそ、一番力に自信がある分豺狼のコンプレックスを的確に突く・・・・・)
犲狼
「黙れ!俺様は強くなれるのなら誰であろうと潰す!強い奴しか価値など無いのだからな!!」
犲狼の放ったエネルギー波を避けた事で、霊夢の居た場所で大爆発が巻き起こる……爆炎に照らされるようにして犲狼を見下ろすように上昇し、力の執着について突く霊夢の言葉を聞いて、自分は強くなれるのなら誰であろうと襲うと応える……
その言葉の中には、強さしか見えておらず、それ以外の他者を守る心や、自分以外の誰かの為に力を振るえる真の強さを持った蔵蜜については見えていないことがわかる。
犲狼
「直ぐに叩き潰してや……
……………!!?」
犲狼もまた、霊夢に続いて飛び上がろうとした矢先、犲狼の体に激痛が走る……それは蔵蜜が生前に犲狼との戦いのなかで与えたダメージの蓄積であり、それが急激な覚醒の負荷と共に犲狼に重くのし掛かり、犲狼の動きが一時的に封じられる。
チャンスは今しかない、霊夢が残った渾身の力を大幣に込めて振るえば犲狼を打ち倒すことも出来るだろう!
これで終わりよ・・・・・バカ犬が・・・・・!!!!!
ゴォォッ・・・・・!!!!!
グォッ!!!!!
(動きが一時的であれ封じられたこの瞬間、全てを終わらせるには今しかないと霊夢は動きが止まっている豺狼へ猛スピードで近づくと、至近距離から大弊を使って三度目の正直と言わんばかりに再び強力な一撃を・・・・・残った力の全てを宿した正真正銘全身全霊、全力の最後の一撃を放つ・・・・・
満足に動く事も出来なければ、蔵蜜との戦いで全身にダメージが蓄積された状態ならば、この一撃は更に豺狼へとダメージを与えることだろう・・・・・)
犲狼
「!!?」
霊夢が振り下ろした全身全霊の力が込められた大幣は犲狼の体を頭から体を両断するようにして犲狼の巨体を、フォースシールドをもまとめて切り裂き、真っ二つになった犲狼の体は地面に倒れる。
犲狼
「く……そ……!!何故だ!?何故この俺様が負ける!?俺様の方が力があった筈だ!!!」
犲狼は体が両断され、塵となって肉体が消え始めても尚、その敗北が認められず、霊夢に対して何故自分が倒されているのか、何故自分が負けるのかを怒鳴るようにして問う……
結局最後の最後までそんな簡単なこともわからないなんて、可哀想ね・・・・・
(真っ二つになった豺狼を哀れむように見下しながら上記を言うと、そのまま「己の弱さを一番理解しているが故に力に執着し、強い力が全て、力が弱いものは生きる価値が無い、そんな考え方しかできない奴が本当の強さなんて得られるわけないでしょう・・・・・?アンタの理論で言うならば、アンタはとっくの昔、力を手に入れる前に殺されているはずじゃない・・・・・結局アンタのそんな浅はかな考えは、アンタの言う「弱いもの」の考え方なのよ・・・・・」と言う・・・・・
霊夢は守りたいモノがあるから力を求める、豺狼は力が全て、弱いものは消し去る為に力を求める・・・・・
真の力の差というものは、ここなのだろう・・・・・)
犲狼
「……なら……俺はどうすればよかったんだ!!弱い奴は何も残せない、何も出来ない!!俺は……俺様は……強者になって俺を馬鹿にした奴らを……俺の親兄弟を虫けらのように潰した人間共を殲滅しないといけなかった!!それが……それこそが俺様の全てだった……!!!」
両断され、地に倒れた犲狼の両手首と足首、尻尾や身体中に生えていた棘が消える中、歯軋りをしながら、自分の強さを求めた理由を、その信念を語り、自分はどうすれば良かったのかと、強い怒りがこもった左目で霊夢を睨む……
・・・・・
(霊夢の心境は複雑だった・・・・・
豺狼もまた、悲惨な過去を持っているが故に、人間へ復讐したいという気持ちが芽生えるのもわからなくはない・・・・・自分だってもし家族がいて全員が殺されたら、我を忘れて復讐の鬼と化すかもしれない・・・・・
この問いに必要なのは、誰もが納得するような正しい答えではなく、豺狼が納得する答え・・・・・
それが正しいかはわからないし、霊夢もその答えが何なのかは断言するには難しい・・・・・)
犲狼
「強さだけが正しい!強ければ……弱い奴らをねじ伏せてどんな事だって正義に出来る……!俺様はそれになりたかった……!!!」
犲狼の体の手首や尻尾等の末端部分が塵となると、今度は両手足が消滅し始め、両断された内、霊夢によって右目を潰された右半身はその大半が消える中、犲狼は呪いのようにその無念を語り続ける。
人間への復讐とそれを行うための強さへの渇望のみが犲狼の活動源となっていた……何が正しいのか、それは誰にもわからない。だが、霊夢の望む正義や理想はどのようなものであるのだろうか……
それじゃあアンタがまだただの犬だった頃、ただの犬からすれば強い奴らになる人間に家族を滅ぼされた時・・・・・アンタが言う強さこそが全てで正義であるならば、 アンタの親兄弟を葬った人間の行いも正義になるわね・・・・・?
(豺狼の言葉を聞き、霊夢は導き出した一つの答えを提示する・・・・・
生き物それぞれに正義があり、その正義は時に誰かの悪になる、正しい正義なんてものは、存在しないのかもしれない・・・・・
消えゆく豺狼に提示するに相応しい答えなのか、霊夢にはわからない・・・・・)
犲狼
「そうだ、俺様はそれを人間共から教わった……だから今度は俺様自身が更に強くなって奴らを根絶やしにしようと思ったまでだ……!!」
両手足と切断された右半身が跡形もなく消滅するものの、自分はそうやってかつて弱かった時に全てを奪われ、今の弱肉強食の思考に目覚めた事で犲狼は自分が強くなって復讐を成し、それを正義であると示そうとしていたのだと応える。
・・・・・正しい正義なんてものはわからないけど、少なくとも力と復讐心に取り憑かれたアンタは、正義なんかじゃない・・・・・
(霊夢はここで言わなければ豺狼は誤った認識のまま逝ってしまうと思ったからか、豺狼が完全に消滅してしまう前に、豺狼の考え方を正しい正義とは何なのかはわからない霊夢は、少なくともそんなものは正義とは言えないと、豺狼の今までを全否定する・・・・・
親兄弟、全てを奪われた哀しみはわかるものの、それを理由に他者の命を弄んでいいということには決してならない・・・・・)
犲狼
「だったら……俺はどうすればよかったんだ!!?大人しく屠られていろとでも言いたいのか!?」
遂に消滅は犲狼の胴体にまで及び始め、下腹部が消滅していくものの、犲狼はその強い執念だけで消滅を送らせ、少しでも多くの言葉を霊夢に向け、その考えを否定しようとしている……
・・・・・
(消滅してゆく豺狼を見て、答えを見つけ出そうとするも、豺狼も豺狼でかなり頑固な部分があり、納得するような答えが見つからない・・・・・
こればかりは、豺狼にもわからない以上、他人の霊夢も答えに困る・・・・・)
犲狼
「くそ……!!俺様は……こんな……こんな自分の正義すらも無い奴に負けるのか……!?ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょ……う……!!!」
《ザアァァァァァァァァァァ……》
犲狼の問いに対して霊夢は何の応えも……いや、何の正義や信念も示さなかった……示したのは拒絶と否定のみ……それが犲狼にとって激しい苛立ちと無念となり、完全に全身が消滅していく中でも恨みの言葉を呟きながら消えていく……
・・・・・もう遅いけど、強いて言うならば、復讐心は仇となる・・・・・長い年月をかけてやっとわかったでしょ?その身をもって・・・・・
(復讐心は何も生み出さない・・・・・己の仇となってやがて返ってくる・・・・・
それを豺狼はその身をもって経験することとなった、長い年月をかけて復讐心を原動力に多くの命を奪ってきた孤独な妖怪の哀れな最後は、復讐心の果てに破滅という答えに辿りついたのだ・・・・・)
紫
「……おめでとう。貴方は無事に犲狼を打ち倒すことが出来た……これで誰かも文句無しに巫女としての適正がある事が証明されたわね?」
塵となって消えていく犲狼に対して言葉を返した霊夢の前に、スキマが開かれ、その奥から嬉しそうに微笑んだ紫が拍手をしながらゆっくりと歩いてくる……
・・・・・おかげでボロッボロよ・・・・・身体的にも、精神的にも・・・・・
(フラフラしながら、紫に上記を述べる・・・・・
正直、なんで今現在もこうして立っていられるかが自分でも不思議で仕方が無い・・・・・
豺狼との戦いでは力だけではなく、精神も削られた気がする・・・・・)
紫
「妖との戦いは心身を共に消費する、始めての戦いでありながらあれだけ渡り合えたのだから上々よ。」
紫は開かれたスキマを跨いで地上に降り立つと、心身共に大きく削られた霊夢を見て、霊夢が独力ではなく、魔理沙や蔵蜜の協力があってようやく犲狼を打ち倒せたのだが、それを言及する様子はなく、ただ微笑みを浮かべたままそう告げる。
・・・・・違うでしょ!?アンタが今するべきことは私を褒め称えることでも、妖怪との戦いは心身ともに疲労困憊することを説明することじゃない!!!!!この戦いで命を落とした者がいるんだから手を合わせるくらいしなさいよ!!!!!
(霊夢は紫の態度が気に入らなかった・・・・・
この戦いは勝ち負けがどうとかの問題ではない、家族を失い、元々力は無かったものの妖怪に成り果てた豺狼、そして蔵蜜・・・・・
同じ境遇なのに真逆とも言える道を歩んだ二人、この決定的な違いがあるとしたら何なのかはハッキリとはわからないが、豺狼のような妖怪が今後生まれないことを祈るしかないこともあるが、今は紫が蔵蜜の遺体の前で手を合わせるのが最優先だと激昂する・・・・・)
紫
「……彼女の事は残念だったわ……彼女とは昔から共に同じ志を持った……"親友"だった。けれど、争いの絶えないこの世界で一つの理想を追求すればこうなるのは自明の理。」
紫は最早肉片のようになってしまった蔵蜜を見て、少しの沈黙の後に霊夢の言葉に対して、何時かはこうなると言うことはわかっていたと応える。その声は少し弱まってはいるものの、涙が流れることは無かった……
紫
「………ありがとう、貴方の事は忘れないわ……」
もはや原型すら留めていない蔵蜜を見て、確かに彼女であると確信し、目を閉じて感謝の言葉を呟く……
親しい者との別れを馴れたいだなんて思った事は一度も無かったのだが、こうして友を失うことに対する抵抗や後悔すら薄れて行っている事が自分でもわかる……
だが、これも全てはより良き幻想郷のため……
・・・・・
(蔵蜜の残骸が、豺狼との激闘を物語っている・・・・・
正直、元々そこまでの力もないが、病気で弱ってゆく中豺狼をあそこまで攻撃できたのは、火事場の馬鹿力にも似た、必死の抵抗だったのかもしれない・・・・・)
紫
「……"無限の幻想世界"でまた会いましょう……」
紫は蔵蜜の亡骸を見て、彼女の死は無駄にはしない。
永劫普遍の幻想世界……完全なる幻想郷の最終到達点、そこに至った時にまた会おうと、その真意が伺い知れない言葉を呟くと、霊夢へと振り返り、一言だけ言葉を口にする。
紫
「帰りましょうか、私達の神社へ……」
紫が通って来た異様な紫色の空間に無数の目玉がギョロギョロとせわしなく周囲を見渡しているスキマ空間から、博麗神社へと切り替わる。
死闘が終わりを迎えた……だが、この事が後世に語られる事はない……
紫によって失われた過去の一つとなる……
・・・・・
バタン・・・・・
(戦いの疲れとダメージもあり、神社へ着くなり倒れて眠りにつく・・・・・
巫女になって初めての戦いにしては、なかなかかなりヘビーな戦いではあったものの、これで幻想郷を守ってゆく者としての自覚は持てたはずだ・・・・・)
紫
「お疲れ様、博麗のみ……いえ、霊夢。」
紫は神社に付くなり布団も敷かずに畳の上に倒れ込んだ霊夢を見て、何も言わずに右手を霊夢に向けて差し出して霊夢が受けたダメージや外傷を治癒しながら、左手で優しく彼女の頭を撫でてお疲れ様と労う。
始めての戦いの中で、これまでの人生の中でも味わった事がないであろう緊張や怒り、悲しみと様々な感情が起こっただろう……幻想郷に巣食う悪の因子が一つ除かれたものの、その代償として尊い命が奪われた……
これから博麗の巫女として活動していれば今回のような事が何度も起こってしまうだろう……だが、今は、今だけは彼女が休めるよう、敢えて役職ではなく、彼女の名前を呼ぶ。
・・・・・
(霊夢はどこか安心したような表情で、紫が治癒してゆく中、眠りについている・・・・・
初めての戦いにして博麗の巫女の因縁の敵を倒さなければならないというのをいきなり任され、戦い方に関してもまだ未熟な彼女からすれば、正に疲労困憊という戦いだった・・・・・)
【二日後】
魔理沙
「おーい、霊夢ー!」
犲狼との死闘から二日の時が流れた。
今でこそ恒例になっているものの、当時はまだ霊夢について知っている者は極僅かであり、宴会が開かれることも無かった。
青空が広がり、平穏な空気に満ちた博麗神社に底抜けに明るい魔理沙の声が響く。
んん〜・・・・・?
(霊夢は昼寝をしていたらしく、魔理沙の声が聞こえれば目をこすりながらゆっくりと体を起こす・・・・・
また妖怪が現れたのだろうかと思いながら、豺狼の時のようにかなり苦戦するような妖怪がまた相手だったら嫌だなぁと内心思いながら・・・・・)
魔理沙
「噂で聞いたぞ?あの百年の間、人里を脅かしていた妖獣の頭目をぶっ倒したんだってな?おかげで激レアのポーションが全部無くなっちまったが、倒せたんならいい!」
魔理沙は箒に乗って境内に降り立つと、箒から降り、右手で器用にクルクルと箒を回して持ち直すと、一度犲狼に敗れ、二回目の霊夢と共に戦った時も途中から戦力外になって撤収したものの、あの犲狼を倒せたのであればそれで満足だと言う。
魔理沙
「あれ?そういやあの犬みたいな神様は此処には居ないんだな?」
ふと、辺りの様子を見て、戦線離脱した自分と入れ替わるようにして犲狼と交戦した蔵蜜の姿が無いことに対して少し不思議そうに問いかけてみる。
・・・・・戦死したわ、私を庇ってね・・・・・
(魔理沙が蔵蜜に関して聞いてくると、霊夢は自分を庇って戦死したということを明かす・・・・・
庇ってもらった結果、今こうして生きていられるというのもまた事実ではあるものの、霊夢本人からすれば、とても複雑な心境であるというのもまた事実・・・・・)
魔理沙
「………!!?」
魔理沙
「そう…だったのか……
悪いな……嫌なことを思い出させて……」
特に深い意味もなく聞いてみたのだが、まさかあの助っ人が殺害されてしまったとは思わず、蔵蜜が戦死したと知り、左手で目元を隠すように帽子で持つと、静かに謝る。
・・・・・知らなかったんでしょ?仕方ないわ・・・・・
(そう言うと「・・・・・正直、あの豺狼相手に手負いの状態であそこまで立ち向かえた彼女は、私よりも戦いに貢献したと思っているわ・・・・・正義感においても、精神力においても、とてもじゃないけど適わない・・・・・」と、話したりすることは殆どなかったものの、それでもどれほどその正義感が大きかったのかを理解していて・・・・・)
魔理沙
「……………………。」
返す言葉も無い。
自分は戦いの途中、二度も犲狼から逃げた。
村の集落で霊夢と共に戦った時は集落を守れず、逃げた犲狼を追って森の中で戦うも、蓄えた魔法道具の大半が破壊され、それどころか逆に犲狼に魔力を奪われ、リベンジとして霊夢と共に挑んだ戦いにおいても、頼みの綱であったポーションを全て使いきり、何も戦いに貢献できなかった……
その自分が自らの死をも覚悟して戦った犲狼や、死闘の末に犲狼を打ち倒した霊夢について何を言えるのだろうか……
・・・・・なんて顔してんのよ、気にすることないわ・・・・・あれだけ激しい戦いだったんだもの、負傷して離脱するのは仕方が無いことよ・・・・・
(戦いに貢献することが出来なかったことを気にしている様子の魔理沙に、霊夢は気にすることはないと励ますように言う・・・・・
豺狼の力は、魔女である魔理沙は勿論のこと、博麗の巫女である自分や同じ妖怪である蔵蜜をも圧倒的に上回るほどの驚異的なパワーだった・・・・・
いくら常人とは桁違いの力を持っていても、魔女も博麗の巫女もやはり人間、今回の戦いは勝てたのが奇跡だったのかもしれない・・・・・)
魔理沙
「……ああ……そう……だな………」
魔理沙
「空気を切り換えるために自己紹介でもしておくか!
私の名前は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだ!」
明るい様子に戻り、悲しい雰囲気になっていたところを一転させようと、これで三度目の顔合わせになるものの、まだ自己紹介もしていなかった事から、取り敢えず自分の名前について先に話し始める。
私は博麗霊夢、博麗の巫女よ・・・・・
(そう言うと「そう言えばまだだったから言っておくわ、一緒に戦ってくれてありがとう・・・・・」と、豺狼との戦いはいつ〇されてもおかしくはないほどの死闘だったのに、一緒に戦ってくれたことに対して感謝の言葉を述べる・・・・・
蔵蜜が豺狼の力を削ってくれたこともあるが、魔理沙の助けがなければ、正直豺狼に負けていただろうと霊夢は思っていて)
魔理沙
「それじゃあ、これから宜しくな、霊夢!」
"霧雨"と言えば人間の里において屈指の規模を誇る大手道具店であり、幻想郷内にて揃わぬ物無しと言われ、里の物流の一角を担っているほどの知名度を誇る"霧雨道具店"の経営一族の名前だ。
そんな名家の令嬢が魔法使いのような格好をしていたり、お供も無しで外を出歩いていたり、霧雨道具店では取り扱っていない魔法道具を使っているのか等、様々な疑問を抱く機会があるものの、霊夢は巫女になる以前の記憶が無く、その疑問にも気付かないのだろう。
魔理沙
「おっと、そういや此処に来た目的を言い忘れていたな。」
肩に箒を乗せて先程までの悲しい雰囲気を吹き飛ばすように屈託の無い心の底から楽しそうな満面の笑みで此処に来た目的について話そうとする。
えぇ、よろしく・・・・・
(まだ少しだけ眠そうな表情をしながら言うと、魔理沙の言葉を聞き「目的・・・・・?言っておくけど、この神社には賽銭なんて全然ないわよ・・・・・?」と、魔理沙の目的はひょっとしてお小遣い要求とかなのではと思い、この博麗神社には賽銭は全然ないということを告げ・・・・・)
魔理沙
「私が目的にしているのはこの神社じゃない。霊夢!この私と決闘をしろ!!」
魔理沙は左手を振り上げ、勢いを付けるようにして振り下ろした左手の人差し指で霊夢を指差すと、自分の目的は賽銭でも感謝の言葉でも無く、霊夢との決闘であると告げる。
・・・・・はぁ?
(魔理沙の目的が予想外過ぎて、思わずはぁ?と反応する・・・・・
そして「私寝起きだから、アンタの思うような力出せないと思うんだけど・・・・・」と、戦ったとしても寝起きの自分と戦う場合は魔理沙の納得できるような状態でもなければ結果にもならないはずだと助言する・・・・・)
魔理沙
「おいおい、博麗の巫女ともあろう者が随分とずぼらな生活をしているんだなぁ。」
魔理沙は霊夢が寝起きだとわかると、指差した左手をゆっくりと降ろし、ため息を一つつくと、自分は"遅寝早起き"を徹底していて早朝である今の時刻でも平気で活動出来ている(道具店の令嬢だった頃に身に付いた習慣の一つ)のに対し、ずぼらに見えてしまう。
魔理沙
「仕方がない、この私が朝御飯の用意をしてやるから、先ずは顔を洗ってこいよ。」
そのまま決闘に持ち込もうとしたものの、寝起きの状態で勝っても意味はない。万全の状態の博麗の巫女に勝ってこそ、自分の努力が報われる。
家を勘当され、居場所の無くなった自分が両親や里の連中を見返す唯一の方法だ。幻想郷の守護者にして最強の人間と言われる博麗の巫女(霊夢が数日前に巫女になったばかりとは知らない)を倒すことで自分の力を証明できる。
そのためにも、自分が神社にある食材を使って何か適当に朝御飯を作っておくから、霊夢は眠気覚ましのために顔を洗って来るようにと言う。
はーい・・・・・
(そう言うと立ち上がり、寝癖で乱れた髪、そして背中をポリポリとかきながら顔を洗いに行く・・・・・
ここまでずぼらな感じだと、あの豺狼と激闘を繰り広げた博麗の巫女と同一人物過度か疑わしくなるほどではあるが、霊夢は霊夢で今回の戦いでは心に傷を負ってしまった為、こうして気持ちの切り替え及び普通の日常生活を送ることで霊夢なりに心のケアを自己的に行っているのだ・・・・・
どんなに強い者でも、傷ついた心を修復するのは難しい・・・・・)
魔理沙
「さて、と。それじゃあ早速作るか!」
手にしていた箒を縁側近くの壁に立て掛け、顔を洗いに洗面所に向かう霊夢を見送ると、裾を肘上にまで捲って台所に向かい、食材を確認すると脳裏にこれから作れる簡単な料理を思い浮かべると、元々勘当されてから独り暮らしをしていた事からテキパキと米を研ぎ、白米を炊き魚が焼けるまでの間の時間を使って白菜や大根等の野菜を小さく切り、着々と朝飯を作っていく。
・・・・・
(顔を洗っている最中、頭の中で浮かぶのは、何気ないこういう日常が幸せというものなのだということの再認識・・・・・
そして、いきなり押しかけてきて勝負しろという魔理沙の謎の要求の真意は何なのか、ということ・・・・・
自分よりも強い相手なら、妖怪などの人外にはなるものの多くいるのにと思いながら・・・・・)
魔理沙
「よし!われながら良くできたな!」
ちゃぶ台の上には茶碗一杯分の白米と、白菜の味噌汁、鯖の焼魚と典型的ながらも比較的簡単に用意できる朝御飯を用意しており、それを綺麗に並べ、箸も一膳添えてその出来具合に対して自分でも上手く出来たと喜びながら、霊夢が戻ってくるのを待つ。
・・・・・私よりも料理が上手い・・・・・
(寝起きで結構モタモタしていたのと、魔理沙の目的の真意を考えていたからか、戻ってきた時にはもう朝ごはんが用意されていることと、自分よりも料理が上手いことに、食べる前からもう驚いている・・・・・
自然と腹の虫も鳴り始める・・・・・)
魔理沙
「…!そうだろそうだろ?何と言ってもこの私が作ったんだからな!」
物をあまり整理整頓するような几帳面な性格ではないものの、炊事選択などの最低限の家事スキルは独り暮らしをしていれば自然と身に付いて来る。
ある種当たり前に行っていた事であったものの、それを認めてもらうのは心地よく嬉しい、思わずその感情が満面の笑顔となって現れる。
いただきまーす!
(魔理沙の自慢気な言葉そっちのけな勢いで目の前の料理のいい匂いに我慢出来なくなり、物凄い勢いで食べ始める・・・・・
「うまあああぁぁぁあああーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」と言いながら物凄い勢いで料理が減ってゆく・・・・・
こういうありふれた日本の朝ごはんという感じの食事は身に染みると同時に「アンタの勝ちよ魔理沙、これは私じゃあ作れないわ!」と、無理矢理勝負の方に決着をつけさせようとする・・・・・)
魔理沙
「ははは!そんなに褒めても何も出ないぞ?」
みるみる内に料理が減っていくのを目の当たりにして、大食い選手権を開けば確実に優勝できるだろうスピードに驚くが、こうして美味しそうに食べているから作ったかいがある。
魔理沙
「おいおい、何を言っているんだ?まだ勝負は始まってもいないだろ?」
自分の勝ちだと言う霊夢の言葉を聞くと、満面の笑みをしたまままだ勝負は始まってすらいないだろうと応え、これはこれ、それはそれと少し分けたように応える。
て言ってもねぇ・・・・・勝負したいって言われても、私と勝負をしてどうしたいのよ?
(いつの間にか料理は全て霊夢の胃袋へと入っており、食べ終わった霊夢は自分と勝負をして一体どうしたいのか、と聞く・・・・・
目標はもちろん勝つことだという大体の予想はできるものの、何故自分に勝ちたいのか、その後どうしたいのかというのは全然わからずに・・・・・)
魔理沙
「………純粋に力を比べをしてみたいだけだよ。それとも、私に負けるのが怖いのか?」
「もう食べ終わったのか!?」と思わず呟くと、その後に自分に向けた問いを聞いて魔理沙は微笑んだままそう、少し挑発するように応える。だが、その笑みは何処か誤魔化そうとしているようにも見える。
・・・・・納得出来ないわね・・・・・アンタ、嘘つくの下手ね・・・・・?
(霊夢は魔理沙の誤魔化しに気づいていたらしく、嘘が下手だと呟く・・・・・
そして「ハッキリと言ったらどう・・・・・?本当は何が目的なの・・・・・?」と、魔理沙の本当の目的を聞き出そうとし始める・・・・・)
魔理沙
「……なに、本当に大した事じゃないさ。それに、それを知ったところで何も変わらない。」
これまで、他者だけでなく、自分自身さえ偽っていた、誤魔化すような笑みや言葉さえを"嘘"であると見抜かれると、ほんの少しの間だけ帽子のつばを掴んで目元を隠して黙るものの、直ぐに笑顔に戻り、自分の目的なんて大した事じゃない、霊夢が知ったところで意味の無い事だと応える。そう話す魔理沙の顔は明るい笑顔に混ざって深い悲しみが潜んでいる……
魔理沙
「食べ終わったのなら、食後の運動がてら、かるーく手合わせしようぜ!ほら、早く来いよ!」
催促するように魔理沙は縁側にかけていた箒を手に、境内に出ると、待ちきれないのか、右手を振って早く手合わせをしようと誘う。
・・・・・わかったわ、本当にちょっとした手合わせ程度よ・・・・・?
(深く探るべきか否か、相手の真意を知りたい気持ちもあるが、不必要に探ることで相手を傷つけてしまうということも十分にありえる・・・・・
霊夢はそう判断すると、本当にちょっとした手合わせ程度だと念を押す・・・・・)
【返信遅れてすみません!】
魔理沙
「ああ、勿論だ。何も命をかけた戦いをやりたい訳じゃない、どっちの方が強いのかを測るためだからな!」
手にした箒をクルクルと回して左手から右手へ持ち変え、左手のポケットから緑色の魔力が込められた小さく長方形の瓶を複数個取り出し、何時でも戦闘が可能であることと、此方から戦いを挑んだため、少しでも対等になるように先手を譲ると言う事を示す。
言っておくけど、本当にちょっとだけだからね?
(そう言うと、早速魔理沙の目の前まで瞬時に飛んでいき、霊夢の移動の勢いで起きた風が魔理沙の髪をなびかせる・・・・・
霊夢は食事直後なので、あまり激しい運動をしたくない為これでもかなり手加減はしている方ではあるが、それでもやはりかなり勢いが強い・・・・・)
魔理沙
「そらッ!」
霊夢が自分の目の前にまで移動すると、此方に向かってくる相手を正面から打ち倒そうと、右手に握る箒を霊夢に向けて薙ぎ払うようにして左から右へと振るい、迎撃しようとする。
おっととと・・・・・!
(攻撃を危うく受ける寸前で回避すると、そのまま相手の背後に回り、体当たりをする・・・・・
元々手加減前提のちょっとした手合せとしての勝負ではあるものの、霊夢は食事直後ということもあって満腹な為、思っているように動こうとしても少し難しい状況ではある・・・・・)
魔理沙
「……………?」
背後に回り込もうとする霊夢を視界に捉えると、即座に前転して相手との距離を取ると同時に左手に持っていた魔法薬の入った瓶を投げ、空中で爆発させると、その瓶の中に内包されていた魔法薬が爆煙となって広がっていく。
この爆発や爆煙そのものには大した効果は無く、殺傷力や毒性もなく、吸引しても無害だ。だが、この爆発の目的はこれじゃない。この煙は光を複雑に拡散させる効果を持たせてある。
前転から起き上がると、指先から金色に輝く魔光弾を放ち、それが緑の煙幕の中で無数に拡散し、その煙幕の中にいるであろう霊夢にとって回避困難な全方位からの同時攻撃となって襲い掛かる。
あわわわわわっ!?!?!?タ、タンマタンマ!!!!!
(そう言うと、煙の中からゲホゲホと咳き込みながらよろよろと出てくる・・・・・
攻撃は恐らく全部当たったのか、髪も乱れ服も少し敗れる程度だが、霊夢はかなり焦ったらしく、魔理沙に近付いて「豺狼との戦いじゃあ本気出せた・・・・・というか、不思議と本気が自然と出たけど、ちょっとした手合わせじゃあこれは予想外よ・・・・・大体私は博麗の巫女になってまだ日が浅いから戦いのプロじゃあないし・・・・・」と言い・・・・・)
魔理沙
「確かに、あの狼みたいな化物との戦いの時よりも格段に動きが鈍っているな。しょうがない、それじゃあ"今回は"私の勝ちだと言うことだな!」
魔理沙にとって、いやスペルカードルールの無い今の幻想郷において、手合わせとは互いに致命傷にならない程度の攻撃の応酬を行い、相手を降伏させるものとなっており、そのためならどんな手段も使っても良い。そのため今回は自分の勝利だなと嬉しそうに微笑みながら宣言する。
魔理沙
「しっかし、お前は巫女になったばかりなのか?
……うーん?そういや、前の巫女ってどんな奴だったかな……知ってるか?」
魔理沙は霊夢が巫女になったばかりだと知ると、そう言えば、霊夢の前の巫女がどんな人物だったのかを上手く思い出せず、霊夢は前任の巫女について何か知っているかと問いかける。
今回はって・・・・・
(多分この1回限りじゃあなく、これから定期的にこうした手合わせをすることになるのだろうと悟ると、次に魔理沙の言葉に対して「私も残念ながらそのあたりのことはあまり詳しくないのよねぇ・・・・・紫なら全部知っているとは思うんだけど・・・・・」と言い・・・・・)
魔理沙
「当たり前だ!私は全力のお前を倒したいんだからな!
しかも、私も魔法使いの道を歩き始めたばかりの駆け出しだからまだまだ強くなるぞ!!」
魔理沙は目を輝かせて必ず霊夢を超えてみせると宣言する。
最初こそ、自分がどれだけ手を尽くしても倒せなかった犲狼を蔵蜜の犠牲がありながらも、打ち倒した霊夢の実力を知りたい、あわよくば名を上げたいと考えていたのだが、
魔理沙もまた、魔法使いになったばかりであり、霊夢と殆ど同じ駆け出しの見習いだ。だからこそ歳も近く、同じく経験の浅い霊夢をライバルのように考え、自分の目標として、必ず全力を出した霊夢をも超えてみせると言う。
全力でなんてやったら被害が及ぶからあまり乗り気にはなれないけど・・・・・
(もしいつか全力で手合わせする形になったとしたら、周辺への戦いによる被害が気になるためからか、あまり乗り気にはなれないと言葉を漏らすも、恐らく魔理沙を説得しても聞き入れないだろうと判断し、もしいつか全力でやる場合は周りに建物や人がいない場所でやろうと心の中で思いながら)
魔理沙
「その点なら心配しなくてもいいぜ?なんてったって、被害が出る前に私が決着をつけてやるんだからな!」
魔理沙は自分の力に自信があるのと、自分は何処までも、誰よりも強くなれると信じているため、いざ本気で戦ったとしても周りに被害が出る前に霊夢を倒すと言う。
霊夢は自分と同じ駆け出しだ。
どちらがより強くなれるのか、自分の限界を試してみたい。
あの博麗の巫女と肩を並べて戦えるようになれば、自分を追い出した糞親父達もきっと見返せる。そんな期待と自信を胸に宿している。
随分な自身ね・・・・・それじゃあ、本気の手合わせの時はマジでやらせてもらおうかしら・・・・・?
(魔理沙が本気で言っているのは霊夢もわかってはいるが、霊夢は冗談交じりに上記を言う・・・・・
やはり、どんなに魔理沙が強くなろうと、幻想郷に害を及ぼす邪悪な妖怪などの討伐しなければならない相手ではない限り、霊夢は本気を出すのは博麗の巫女としてまだ完全に力は開花してはいないものの、本能が危険信号を灯しているのかもしれない・・・・・)
魔理沙
「おう、勿論だ!まあ、それでも勝つのは私だけどな!」
自分が自分であるためにも、冗談交じりに応える霊夢に対して魔理沙は例え霊夢が本気を出したとしても自分が必ず勝つと強調するように言う。負けず嫌いの自信家である彼女にとって、今回の戦いにおける勝利はその闘志を燃やす糧になっている。
魔理沙
「でもそうだな……確かに周りへの被害を抑えつつ、勝敗を決められるような決闘ルールが欲しいな。」
魔理沙は後にスペルカードルールの根底部分になるであろう箇所について、特に深い意図も無しに口にする。現在の幻想郷にはスペルカードルールは存在せず、犲狼との戦いのように命を賭けた戦いになってしまっている……