〜アタシは“城ヶ崎莉嘉”だから〜
「お姉ちゃん!」
「はいはい、莉嘉」
アタシはいつだって、お姉ちゃんの背中を追いかけてきた。
だって、お姉ちゃんはカッコよくてアタシの憧れで……何より、お姉ちゃんの事が大好きだから。
……でも、少し考え方が変わってきた。
『お姉ちゃんみたいなカッコいいカリスマJKになりたい』から、『お姉ちゃんよりも凄いアイドルになりたい』……って。
そして、自分らしさを見つけたい、見て欲しいって。
お姉ちゃんの背中を追いかけるんじゃなくて、お姉ちゃんの背中を追い越したいって思ったんだ。
つまり、お姉ちゃんを目指すのを辞めるってこと。
だけど、アタシはお姉ちゃんを目指してこれまでやってきた。
アイドルになったのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
セクシーなお仕事がしたいのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
「アタシ、お姉ちゃん目指すの辞める!」
だから、少しテイコウがあったけど、結局お姉ちゃんと二人で話せる時にそう言った。
当然、お姉ちゃんに理由を聞かれた。
「アタシね―――――」
アタシはその時、自分の思ってることをぜーんぶ言った。
そしたら、謝られた。「気づいてあげられなくてゴメンね」って。アタシが勝手に決めたことなのに。
アタシが勝手に決めたことで、お姉ちゃんに悲しい顔をさせちゃった。
でも、アタシはこれだけは譲らなかった。
みくちゃんみたいに、自分を曲げないで……っていうのはちょっと違うかな。ゴメンね、みくちゃん。
そして、呼ばれ方も。
「妹ヶ崎」じゃなくて、「莉嘉ちゃん」とか、「莉嘉」って呼ばれたい。
“お姉ちゃんを目指すアタシ”じゃなくて、“城ヶ崎莉嘉”を見て欲しかった。
……って、その時は思ってた。
ある時、お姉ちゃんが出るライブのチケットを貰った。
当然、お姉ちゃんのカッコいい姿は見たかったから、見に行った。
「美嘉ー!」
お姉ちゃんは、ファンの人達みんなに名前を呼ばれて、やっぱりキラキラしてた。
そんなお姉ちゃんを見て、「やっぱりお姉ちゃんは凄い」、「お姉ちゃんには追いつけない」って思った。
そして、「お姉ちゃんを目指す」ってもう一度思ったの。
「やっぱりお姉ちゃんを目指さないの、やめた!」
って言った日には、お姉ちゃん、すっごい安心してたなー。
……だから。
「ねえ、Pくん。アタシね、“お姉ちゃんを目指しながら”“アタシらしさ”を見つけたいの! 」
これまでは、誕生日なんて時間の無駄だとか、必要無いだとか思っていた。
かつてのあたしは、研究ばっかりしてて、時間やら何やら、色々なことに追われてたからね。
そして、昔は孤独だった。
研究室に篭ってたから、周りに誰も居なくて、いつも独り。誕生日とはまるで無縁だ。
独りだったけど、周りの大人達は……うるさかったかな、どうだったかな……どうでもいいや。
少し過去の事を思い出してしまいそうになったけど、忘れよう。
「ハッピーバースデー、 志希!」
だって、今はそういうことを考える時じゃないし。
「誕生日おめでとう、志希ちゃん!
はい、プレゼント」
「私達が選んだのよ」
事務所入口で呆然と立ち尽くすあたしに、LiPPSのメンバーが駆け寄ってくる。
美嘉ちゃんと奏ちゃんはあたしにプレゼントを渡して、フレちゃんはなんか踊ってる。
周子ちゃんは……「驚くなんてらしくないじゃーん」とか言いながら小突いてくる。
……そんなの、あたしだって知ってる。
昔はこんな事じゃ動じなかったはずなのに、なんで。
「……それは、“あなたが変わったから”よ」
あたしの考えてる事が分かったのか、奏ちゃんが不敵に笑ってそう言う。
あたしが、変わった?
……確かにそうかも。
今みたいに感情に動かされて他人に表情を読まれるなんて、昔のあたしが知ったら笑い転げるくらいだと思う。
「そうかもね」
あたしはそう言って、前へ歩く。
どこに行くかって? 勿論……
「キミに……プロデューサーに、変えられちゃったからね〜」
あたしを変えてくれた彼の元へ。
すると、周りが少しざわめく。
そうだよね、プロデューサーを狙ってるアイドルはこの事務所に何人もいる。
あたしは、プロデューサーに無意識に父性を欲していつの間にか好きになっちゃってたって感じだから、ちょっと違うかもだけど。
……ともかく。
あたしが変えられちゃったのは、プロデューサー……そして、LiPPSのメンバー、美波ちゃん、飛鳥ちゃん……沢山の仲間達が居たから。
「ね、みんな」
あたしの声に、皆が不思議そうな顔をする。
「ありがとね」
―――――18歳になった今日くらいは、心からのありがとうを言ってあげるんだ。
すまん、美波……志希が」
「はい! 行きます!」
プロデューサーが申し訳なさそうな顔でそう言いかけると、美波はすぐに察してそう言った。すっかり美波は志希のお目付け役だ。
「ったくもう……」
美波は事務所から出て、ため息をつく。
内心、「これ何度目だろ……」と思いながら。
だが、美波自身はこの事を嫌だとは思っていない。
……だから、何度も何度も引き受けてしまうのだが。
そう考えているうちに、美波は志希のラボの前に立っていた。
一ヶ月程前に志希本人から渡された合鍵を回して、家の鍵を開ける。
「志希ちゃん、いる?」
美波は家の中なら十分に響き渡ると言える声のトーンで、志希を呼んだ。
しかし、返事は返ってこなかった。
「志希ちゃん!?」
美波は悪い予感がして、部屋のあちこちを探し始める。
リビングだったはずのスペース、寝室だったはずのスペース。いつもは居るはずの場所にも、志希は居なかった。
「やっぱり、あそこかな……」
残る場所は、実験室のみ。
危険な薬品なども置いてあるのであまり入りたくなかったが、美波は仕方ないと思い、重くてがっちりとしたドアを慎重に開ける。
「ふぁー……」
……居た。
美波が必死で探していた志希は、実験室で呑気に欠伸をしていたのだ。
美波はその様子に少し呆れつつ、志希の元へ向かう。
「んにゃー……美波ちゃんなんでいるの?」
「『なんでいるの?』じゃありません。今日はレッスンでしょう?」
「あれー、そうだっけ」
とぼけたように答える志希に、美波は更に呆れる。
だが、こうしている時間もない。
レッスンまで、残り一時間程度。志希のラボから事務所まではそう遠くないから急いでいけば間に合うはずだが……
「志希ちゃん、着替えて」
「えー、めんどくさーい。美波ちゃん着替えさせてー」
「はあ……」
見ての通り、志希は全く動きたがらないのだ。
美波は仕方なく、志希の持っている服の中で一番健全なものを選んで、着せる。
当の本人が「ばんざーい」などと言いながら着せられることに抵抗を持っていないのが問題だ。
「朝ごはんは?」
「あ、冷蔵庫の中空っぽだった」
「はあ……」
本日何度目のため息だろうか。
だが、美波は呆れつつもこの回答をなんとなく予想していた。
「これでも食べてなさい」
「はーい」
バックの中から菓子パンを取り出して、志希に押し付ける。
数分経って、志希がパンを食べ終えたので、歯磨きをさせて事務所へ行く準備をする。
「志希ちゃん、行くよ」
「美波ちゃん手繋いで〜」
……全く、この子は。
美波は志希の言葉に対し、そう思う。
いつもは小生意気なくせに、甘えてくる時はたっぷり甘えてくるのがずるい。
美波は志希のラボの戸締りを終えて、志希の手を引きながら事務所へと向かった。
「美波ちゃんの手、あったかーい♪」
「……そう」
「うわ、美波ちゃんがまた保護者してる」
「流石ね」
事務所に着き、プロデューサーの元へ向かう途中に、周子と奏からからかわれる美波。
勿論、これももう何度目か分からないほど経験しているので、慣れている。
「プロデューサーさん、志希ちゃん連れてきました!」
「お、おう……お疲れ様」
必死に志希を押し付ける美波の様子に、プロデューサーは戸惑い気味にそう答えた。
「キミー、乱暴だよー」
「うっさい。何度も何度も美波を困らせんな」
志希はプロデューサーに引っ張られながらレッスン室に向かう。
……これでひと仕事終えた。
美波はソファに座って脱力する。
志希がプロデューサーに引っ張られてレッスン室に向かってから、少し経った。
美波が今度主演で出るドラマの台本を捲っていると、携帯が振動する。
美波は携帯の電源を入れて、確認する。そこには……
『美波ちゃん、また今度もよろしくね〜♪』
と、手のかかる猫からのメッセージが来ていた。
この下から少し長い志希小説を書きます
一話じゃ終わりません
志希が13歳の時(留学する直前)からの物語
ー1ー
「一ノ瀬が―――――」
「志希ちゃんってさ―――――」
みんながあたしの話をしてる。
内容は、わかんない。
あたし、聞きたくない話は聞こえない都合のいい耳を持ってるから。
あたしに向けられてるのは、好意なのかもしれない。もしくは、殺意かもしれない。
でも、どうだっていい。あたしはここで何も求めてないから。友情とか、絆とか、そういうのは……いらない。
勉強のレベルだって低い、存在する人間の知能だって低い。自由になれない。
そんな所に“楽しさ”を求めるのは、場違いだと思うの。
「……一ノ瀬!」
「先生! 志希ちゃんが!」
―――――だから、あたしはそんなつまらない世界から失踪する。
ー2ー
そんな風に人生に退屈していた時、『アメリカへ来ないか?』と父から誘われた。
アメリカへ行けば、もっとレベルの高いことを学べるのかもしれない。
アメリカへ行けば、あたし以上の曲者と出会えるのかもしれない。
そんな小さな希望を持って、あたしは父からの誘いを受けることにした。
誘いを受けてから、一ヶ月後。
あたしはアメリカへと旅立った。
空港内で父が待っているとの事だったので、あたしは空港内を探し回る。
「……志希」
「パパ。久しぶり」
父は比較的分かり易い所に居た。
「……日本語で会話するのも久しぶりだ」
父は、相変わらずの無表情でそう言う。
まあ、そうだろう。父は何年も前からアメリカに居たのだから。
……それでも、日本語を問題なく使えていることに驚愕してしまう。
『じゃあ、行くぞ』
すると、父は突然話す言語を英語に切り替える。
『分かった』
あたしもそれに対応する。
『……そうでなければ俺の娘ではない』
父は、英語のままそう言って、あたしの頭をくしゃりと撫でる。
そういう訳で、あたしは父に連れられ、父の住んでいる所……ラボに向かった。
『』は英語です
8:Rika◆ok アニバ志希に向けてガシャ禁:2018/07/04(水) 21:30 ID:bSk ちょっと予定から外れてしきみなみ書きます。百合要素注意です
診断メーカーのお題の、「真夜中の電話/みんな消えちゃえばいい/横顔/気持ち悪いよね」というもので書いているので、不自然な部分が結構あります
トゥルルル、トゥルルル、と鳴る電話の音で、私は目を覚ました。
今は真夜中2時。普通、こんな時間に電話なんて書けないと思うけど……
そう思いつつ、私は隣で眠る志希ちゃんを起こさないようにして、ベッドから身体を起こそうとした。
「んー……なにー?」
すると、志希ちゃんが目を覚まして、自分の服のポケットから携帯を取り出し、布団から出ようとする。
てっきり私の携帯から電話が鳴ったのかと思っていたけど、志希ちゃんの携帯から鳴っていた。
私は安心して、布団に深く潜る。
「I don't want to do that anymore! Insistent!」
もう一度寝ようと目を閉じた時、隣からそんな声が聞こえてきた。
英語ってことは、日本に戻る前の知り合いなのかな。
普段は耳慣れない英語……それも、かなり発音の良いものだったからかよく分からなかったけど、声の調子から喧嘩をしているような様子が読み取れる。
私は少し心配になって、眠ろうとしても眠れなかった。
「―――――I hate you」
暫く言い合いが続いて、志希ちゃんのそんな言葉で会話が終わった。
そう言えば、志希ちゃんが最後に言ったこの言葉、聞いたことあるような……
……あ、分かった。確か「私はあなたが大嫌い」だったはず。
志希ちゃんがそこまで言うって、電話の相手はどんな人なんだろう。
「……みんな消えちゃえばいいのに」
シーンとした部屋の中、志希ちゃんはそう呟いた。
その言葉に色々な意味で耐えられなくなって、私は目を開く。
目の前に見えた志希ちゃんの横顔は、少し……いや、とても寂しそうに見えた。
そんな志希ちゃんの表情を見ていると、志希ちゃんがちらりとこちらを見て、目が合ってしまった。
「……美波ちゃん、起きてたの?」
焦っていると、冷たい声でそう言われて、私はドキリとした。
「う、うん……ごめんね、何か盗み聞きしたみたいで」
「……べっつにー」
慌てて謝罪すると、志希ちゃんはそう言って目をそらすだけ。
怒っているみたいではなかったから、安心した。
「……電話の内容ね、教授からだった」
さっきのことで少し気まずくなって黙っていると、志希ちゃんの方から話し出した。
教授……外国の大学の先生かな。
「『やっぱりお前は必要だ、戻ってきてくれ!』……だって。帰国するって伝えた時はあんなに喜んでたのに」
志希ちゃんは、長い睫毛を伏せながら続ける。
心の底から失望した、と言ったような感じで。
志希ちゃんのその表情を見て、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「こういうの、気持ち悪いよね」
そして、消え入りそうな声で志希ちゃんは言う。
口調こそは鋭いけれど、声には全く鋭さが無くて、脆く見えて。
私は放っておけなくなって、志希ちゃんを抱きしめた。
「美波ちゃん……?」
「大丈夫、大丈夫だから」
困ったような表情をする志希ちゃんに、私はその言葉を繰り返す。
志希ちゃんの過去に何があったのかは分からないけれど、私にはそうすることしか出来ないと思ったから。
「にゃはは、やっぱり美波ちゃんって面白い」
志希ちゃんは、そう言って笑う。
……良かった。少しは元気づけてあげられたみたい。
私は、少しだけ安心した。
「ね、」
暫くそうしていると、志希ちゃんが私の目を見て言う。
「今日は、このまま寝てもいい? えっと……ヘンな夢、見ちゃいそうだから」
そして、不安そうな表情でお願いしてくる。
もちろん、断るなんて事は出来ずに、私は彼女を抱きしめる力を強めた。
「うん、いいよ」
「ありがと。じゃ、おやすみー」
そうして、志希ちゃんは、目を閉じてすやすやと規則正しい寝息を立て始めた。
……明日はオフ。どこか痛めても支障はないと思うから……
私も、このまま寝てしまうことにした。
――――これは、とある真夜中のお話。
>>1 城ヶ崎莉嘉
>>2 一ノ瀬志希誕生日記念
>>3 しきみなみ(百合注意)
>>9 しきみなみ2本目(百合注意)
まとめておきます
――――昔は病弱で、ずっと病院に入院してた。
そのときの私が見ていた世界は、真っ白い壁、真っ白いベッド……とにかく、これでもかってほど真っ白ですっからかんだった。
『次は、竜宮小町の皆さんです』
『はーい、竜宮小町の三浦あずさです〜』
『こんにちは、水瀬伊織でーす』
『双海亜美だよー! よろしくちょーん!』
「…………」
そんな私が夢見ていたのは、アイドル。最初はアイドルに対して「何この人たち、バカみたい」なんて思っていたけど、病室のテレビで見る度に顔と名前を覚えて、曲も覚えて、いつの間にかステージで歌って踊る姿がキラキラして見えて。「私もこんな風になりたい」なんて思って。
『加蓮は可愛いからアイドルになれるわよ』
たまに見舞いに来ていたお母さんはそう言っていたけど、私の病気は結構重くて退院すらできるかも分からないくらいだったからそんなの夢世界でしかなかった。
……だから、今こうしてアイドルとして歌って踊っているのも、少し実感が湧いてない。
そんなアイドルとは縁があるようで無縁な私の生活は、病気の状態が少し良くなった頃に変わって行った―――
「加蓮!」
いつも通り病室で真っ白な一日を過ごしているとき、お母さんが大急ぎで病室に駆け込んできた。
「何?」
「もうすぐ退院できるって!」
私がそう尋ねると、お母さんは嬉しそうな顔をして答えた。
……退院? 私が?
「ほ、ホント!? 冗談とかじゃないよね!?」
私は、大声でお母さんに尋ねた。
「嘘じゃないわよ。状態が良くなってるって」
「アタシが、退院……」
この時は、嬉しすぎて泣きそうになった。……だって、病室から出られるんだよ? 真っ白で、何にもなくて。そして、私を縛った病室から。
「お父さんも喜んでるのよ。……本当に、本当に良かった……加蓮……」
「……お母さん」
お母さんも嬉しかったみたい。耐えきれなくなったのか、話してる途中で泣き出しちゃった。
昔は「あんまり見舞いに来てくれないし、お母さん私のことなんてどうでもいいのかな」なんて思ってたよ。でも、この時実感した。お母さんは私を愛してくれてるんだって。
そうして私は最後に1回診察を受けて、それから退院したのだった――――
それからは、高校にも通いだして、少し浮いてたけど普通に過ごしていた。友達がいなくても平気だったのは、普通に過ごせてるだけでも嬉しかったからだと思う。
「……あっ」
ある日の夕方。
学校から帰っている途中、私は財布を落とした。
「……落としましたよ」
「えっ? ……ありがとう、ございます」
私が拾おうとするより先に、スーツ姿の男性が屈んで拾ってくれた。私は、とりあえず感謝の言葉だけを伝えた。
そのまま立ち去ろうとすると、その男性が私の方を見て鞄から何かを探し出した。
「私は、こういう者です」
そして、その男性は私に紙……名刺を差し出してきた。
私はそれを受け取って、中身を確認する。そこには、『346プロダクション プロデューサー』等と書かれていた。
「プロデューサー……?」
「はい、私はアイドル部署にてプロデューサーを務めております」
「アイドル……」
アイドル。私がずっと夢見ていたもの。
「……それで、アタシに何の用?」
私は驚いていて、思わず素の口調になってしまっていた。それで慌てて口を塞いだけど、男性は気にしてないようだった。
「単刀直入に言います。アイドルになりませんか?」
――――結論から言うと、私はアイドルになった。
あの日、私はあの場でアイドルになることを決めて、それから親に許可を得たあと、数日後に書類を送った。だから、もう正式にこの事務所のアイドルになったのだ。
「加蓮、今日は初レッスンだぞ」
「分かってるって、プロデューサー」
そして、早い段階でもうレッスンと。
正直、気乗りはしなかった。だって、私はずっと入院していて体力が全くなかったから。
「頑張ってこいよ」
「……はいはい」
だけど、初日からサボるわけにはいかないし、私は渋々とトレーニングルームに向かった。
レッスンルームに着いて中に入ると、そこには一人の女の人と二人の女の子がいた。女の子達――まあ、凛と奈緒なんだけど――は両方私と同い年ぐらいだったから、私は少し安心した。
「北条さんですね。話は聞いています」
「……トレーナーさん、ですか?」
「はい、そうですよ」
そこにいた女の人は、どうやらトレーナーさんだったみたい。私は、「厳しそうな人じゃなくて良かった」なんて思っていた。
「じゃあ、北条さんは軽い柔軟から始めましょうか。渋谷さん、神谷さん、一旦休憩で」
「はい!」
トレーナーさんがそう言うと、凛と奈緒は大きい声で同時に返事をして、室内の端っこの方に歩いて行っていた。
そんな二人をみて、私はは「やる気のある子達だな」って思っていた。
「じゃあ、始めましょうか」
「はい」
ともかく、そんなわけでレッスンが始まった。
「はぁ……はぁ……」
レッスン開始からしばらく経って。私は軽い運動で完全に疲れ果てていた。
「だ、大丈夫ですか? そんなに激しくは無かったはずなのですが……」
「えっと、アタシ体力ないんです。すみません」
「大丈夫ですよ。体力はこれからつければいいんですから」
困ったように言うトレーナーさんに軽く謝罪をすると、笑って許してくれた。
そして、それから私は休憩するように指示されて、壁の方に行った。
「……はい」
「……え? あ、ありがとう……」
座り込んでいると、隣から飲み物を差し出された。飲み物を受け取ってその方向を見ると、黒髪の美人な女の子……凛が澄ました顔で立っていた。
「渋谷凛。よろしく」
「……北条加蓮。よろしく」
その女の子は私と目が合うと自己紹介をした。何も言わないのは失礼だと思ったので、私も自己紹介を返す。
「よろしく、北条さん」
「……加蓮、でいいよ」
気付けば、私はそんなことを口走っていた。……なんか、この子とは仲良くなれそうな気がしたから。
「分かった、加蓮。私は凛でいいよ」
「凛ね、オッケー。よろしく」
これまでほとんど人と関わることは無かったから友達を作るのは苦手だったけど、今回はすんなりと行った。今思えば凛と相性が良かったからなんだろうけど、この時はそれが不思議で仕方が無かった。
「おいおい、あたしを置いていつの間に仲良く……」
すると、今度はもじゃもじゃ髪の女の子……奈緒が話しかけてきた。
「あ、あたしは神谷奈緒。よろしくな、えーっと……」
「北条加蓮。奈緒って呼んでいい?」
「いいよ。じゃ、こっちも加蓮って呼ぶからな」
こっちも呼び捨てで呼ぶことにした。なんか、この子はなんて言っても大丈夫そうな気がしたから。まあ、今そんな事言ったら間違いなく奈緒に怒られそうだけど。
そんなわけで、一応そのトレーニングルームにいた二人とは仲良くなることが出来た。学校の友達なんて2、3人ぐらいしか居なかったからこんなに早く話すことが出来るようになるなんて思わなかった。
「はい、そろそろ休憩終わりですよ。レッスンを再開しましょう」
そして、二人と話したことによって少し良い気分でレッスンを受けることが出来た。
それから、二人と連絡先を交換して、事務所から出て行ったのだった。
それから、私は暫くレッスンを重ねていた。
体力が持たなくて出来なかった振り付け。呼吸が持たなくて歌えなかった曲。それでも、二週間も練習していれば流石に人並みにはできるようになっていた。
「加蓮、ユニットを組まないか」
「……え?」
そして、そろそろデビューという時期。
私は、プロデューサーにそんな話を持ちかけられていた。
「だ、誰と?」
私がそう尋ねると、プロデューサーは待ってましたといったような顔になった。
これは相当だな。って、この時思った。
「凛と奈緒。ユニット名は……Triad Primus(トライアドプリムス)だ」
「凛と……奈緒?」
……本当に驚いた。
だって、ユニットを組む相手が初めて出来た友達の2人だったんだよ? すごい偶然じゃん。
「二週間後にライブ。それまで、新曲をしっかりとレッスンしてくれ」
「……分かった」
ソロデビューなら、半端な気持ちでやってたのかもしれない。
でも、これは私だけじゃなく、凛と奈緒のアイドル生活にもかかっていた。その頃、凛はもう“Never say never”でデビューしてたけど、奈緒は私と同じで新人だった。
だから、ちゃんとやらなきゃって思ってた。
……そんな風に気負ってたから、あんな事になっちゃったんだよね。
「はい、ステップ、ターン、そこで決めポーズ!」
Triad Primusのライブに向けてレッスンが始まった。
私と奈緒の初デビューになるからか、レッスンの内容は普段よりかなりハードになっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「加蓮……大丈夫?」
段々バテていく私に、凛が心配する。
「……大丈夫。やり切るから」
「……無理は程々にな」
「次、お願いします」、私は奈緒の言葉を聞き流しつつ、そう言う。心配してくれるのはいいけど、その時の私は必死だったのだ。
「おいおい、大丈夫かあいつ」
「……どうだろ」
そして、2人が休んでいる時も私は体を動かす。
呼吸が荒い。意識が遠くなってくる。体が動かない―――――
「―――加蓮!!」
ああ、私、情けない……。
「ん……」
目が覚めると、見慣れた……いや、見飽きた病室の天井が見えた。
「加蓮」
「凛……」
真っ先に、凛が声をかけてくる。
凛はこの時から優しかった。まだ、15歳なのにしっかりとしてて、素っ気なさそうに見えてよく気を遣ってくれて。
「お願い、見ないで……帰って……」
「加蓮……」
……でも、この時の私にはその優しさが辛かった。
「お前、病弱だったんだな。……なんで、無理したんだよ」
凛の隣で、奈緒が泣きそうな顔をしながら言ってくる。
「帰って」って言葉すら出てこなかった。私が勝手に倒れただけなのに、泣きそうになるまで心配してくれたことが嬉しかったから。
「……情けないとこ、見せたくなかった、から」
なんとか声を振り絞って、そう言う。
「情けなくなんかない!」
すると、奈緒は涙を流しながら言った。
……どうして? やり切らなきゃいけないのに力不足で倒れるなんて、情けないでしょ?
「そうやって努力してる奴の、どこが情けないんだよ!」
「……っ」
奈緒が叫んだ言葉が、胸に刺さった。
そうか、私努力してるんだなって。努力とかいう柄じゃないし、努力してるつもりも無かったけど……周りからそう見られてるんだ。
「私も……加蓮は凄いって思うよ。でも、無理のし過ぎは良くない」
「で、でもアタシが失敗したら凛達が……」
凛の窘めるような言葉に、私はすぐに反論した。
迷惑をかけるのが怖いって気持ちが、大きかったから。
……でも、このあとの二人の言葉で私の気持ちは変わった。
「確かに、誰か一人失敗したら迷惑はかかるよ。そこは否定できない。でも、加蓮なら出来る。最初らへん出来てなかったダンスだって歌だって、今は出来てる」
「ああ、そうだ。加蓮は出来る。だからさ、あたしらを信じてくれ。もう、一人でやりきろうと思わないでくれ……!」
……それなら、無理をせずに二人を信じてみよう。
そんな、前向きな気持ちになったんだ。
「北条さん、もう大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
それから2日くらい休んで、レッスン再開。
本気なのは変わらないけど、この前みたいに無理はせずに、休憩も挟む。
「ね、レッスン終わったらポテト食べにいこーよ」
「お前、極端だな……」
……ちょっと、気を抜きすぎかもしれないけどね。
「お前達、いよいよ明日はライブだな」
それからしばらく経って。
いよいよ、ライブは翌日に迫ったので、私たちはセリフ等色々なことのリハーサルを行った。
曲は勿論、レッスン中にセリフも練習したし、そこそこ上手くいった。
「―――よし、リハは終了。本番も、その調子で頑張ってくれ」
「はい!」
まあそこそこの出来だったらしく、あの厳しいベテラントレーナーさんにも褒めてもらえた。
……いよいよ、明日は本番か。
「ねえ、凛、奈緒」
「ん?」
私の呼びかけに、2人は不思議そうな顔をして振り返る。
「最高のライブにしようね」
二人とも、最初は驚いていたけど……
「……うん」
「ああ!」
ニッコリ笑って、そう返してくれた―――
「今日のライブ……ま、お前達ならやり切ってくれるから何も言わないよ。ただ、精一杯の力を出してこい」
舞台裏。私たちのライブまで残り10分。
プロデューサーが、真剣な表情でそう言った。
「勿論、任せて」
プロデューサーに対し、凛はそう言う。……さっすが、トライアドのリーダー。
『では、Triad Primusの皆さんです!』
絶対、最高のライブにしてみせるから―――
――――ステージの上に立った。
病室に置いてあったテレビの前で夢見てた、キラキラと輝くステージ。
「みんな、今日は来てくれてありがとう! Triad Primusの渋谷凛だよ!」
凛はそう言いながら、お客さん達に手を振る。
お客さん達は、「凛ちゃーん!」と言いながら、手を振り返した。
……流石、凛。ソロデビューの経験があるから、ライブの盛り上げ方が分かっている。
「Triad Primusの北条加蓮です。初デビューなので、知らない人が多いと思うけど、頑張るから!」
私も負けてられない。
そう思い、私も自己紹介をして、本当の気持ちを伝えた。
そして、お客さんの反応は良かったのか、拍手が聞こえてくる。……安心した。
「Triad Primusの神谷奈緒だ。みんな、見ててくれよな!」
奈緒の方も、堂々としている。
それから、私の時と同じように拍手が聞こえてきた。
「新曲、『Trancing Pulse』。私達の歌、聞いて!」
凛の声で新曲のイントロが流れる。
―――さあ、ライブを楽しもう!
その日のライブは大盛況。
デビューしてなかったアイドルが二人いる中では、かなり良かったらしい。
「……ライブ、凄かったな」
「……うん。お客さん達、アタシの名前呼んでくれた」
暫く時間が経っても、熱が冷めない。まるで、今も夢を見ているような感じだった。
「本当に、良かったよ。あの日、病院で夢見てた……」
「おいおい、最終回みたいにするなよ」
「冗談だってば」
軽くふざけ合いながら、笑う。
それから、いつもはクールな凛も珍しく笑っていた。
「みんな、お疲れ様」
「あ、プロデューサー」
すると、控え室にプロデューサーが入ってきた。
「良いライブだったよ。でも」
「まだまだ、って言いたいんでしょ?」
何となくプロデューサーの言いたいことがわかって、私はセリフを先取りした。
「……その通り」
プロデューサーが「やられた」って顔で苦笑いをする。
「わかった。じゃあ、私達、いつかプロデューサーが満足するほどの最高のライブ見せるから。ね、凛、奈緒?」
私は、自信満々な感じで言う。「まだまだ」なんて言われるのは、負けず嫌いな私的に結構悔しかったからね。
「……勿論」
「ああ! 見てろよ、プロデューサー!」
二人も、火がついたように答える。
「……待ってるよ、その時を」
そう答えたプロデューサーの顔は、とても期待に満ち溢れているように見えた、
―――そう、いつかあの時の思い出が消えてしまうくらいに素晴らしいライブを、凛と奈緒と一緒に……!
―――END
『志希なら出来る。出来るのが当たり前』
当たり前だから、褒めてもらえなかった。
「シキちゃん、レッスンにちゃんと来てえらいね〜」
当たり前だけど、褒めてくれた。
『志希ちゃんって私たちとは違うもんね』
同じじゃないから、避けられてた。
「あなたがどんな才能をもっていようと私たちは同じ道を目指す仲間よ」
同じじゃないけど、一緒にいてくれた。
今までにあたしに無かったものを満たしてくれる。それが、あたしにとってのアイドル。
友情、努力、苦悩……今まで縁のなかった事だって経験した。
フレちゃんを始めとしたLiPPSのメンバー、飛鳥ちゃん、美波ちゃん、響子ちゃん……たくさんの仲間がいたから“友情”を知ることが出来て、『つぼみ』の躓きで“努力”と“苦悩”を知ることが出来た。
「プロデューサー、ここでもんだーい。あたしがアイドルになってまだ貰ってないものは?」
さあ、この質問に答えることができるかな〜?
……家事スキル? シ、シキチャンチャントオソウジスルモン。
……愛情? 近いけど、違うよ。愛情ならフレちゃんにちゅーにゅーされちゃったから、ダイタンに。
「せいかいは〜」
アイドルになるためにあたしが欲するもの、でもある。
「パパとママに、ステージを見てもらうこと」
にゃはは、そんなに口開けて驚かなくても。……ううん、そんなに複雑じゃないよ。ただね……。
「とりあえず、このライブで夢への第一歩、ってところかな。……なんか普通の女の子みたいな響き。非科学的〜」
叶うには時間がかかるかもしれないけど……あたしが私でもアタシでも拙者でも吾輩でも、“志希”としてパパとママが見てくれてるのを待つ。
……ねえ、ママ。それがあたしに志して欲しかった“希望”なんでしょ?
だから
「はーい、一ノ瀬志希ちゃんでーす」
―――――あたしは、ステージの上で歌って踊る。
しきフレ(少し長い)
22:Rika◆ck:2018/08/01(水) 21:22 ID:9x2 あたしは一ノ瀬志希、18歳の高校三年生。
346プロのアイドルで、デビューしたばっかりだからまだソロ。よく分かんないけど、女子人気が高いらしい。
「志希。ユニットを組んでくれないか?」
……このまま、ずっとソロだったら良かったんだけどね。
「いやいや。プロデューサーもあたしがそういうの向いてないの知ってるでしょ?」
「ああ、十分に分かってるさ。だが、これは事務所側からの依頼だから……頼んだ」
げっ、プロデューサーが組ませようとしたんじゃないの? プロデューサーが組ませようとしたのなら断れたんだけど……
「……はいはい、りょーかい」
断ったらどうなるか分からないし、承諾するしかなかった。
「ありがとう。ちなみに、ユニット相手と顔合わせは明日だ」
「早くない? で、それ誰?」
「内緒」
ケチだなー。
ま、これは明日のお楽しみってやつかな。気は乗らないけど、ちょっと気になるし明日は時間通りに来てやろう。
「急に呼び止めてすまなかった。じゃ、気をつけて帰れよ」
「はーい」
……相手、どんな子かな。
「アタシ宮本フレデリカ! よろしくシルブプレ!」
これでもかと言うほど輝いている金髪が揺れた。
「……一ノ瀬志希。よろしくー」
対して、若干引き気味なあたし。
だってさ、普通思わないでしょ。まさか相手がこんなにキャラ濃い子だったなんて。
流石のあたしでも、ちょっと面食らってしまった。
「アタシはねー、19歳! 短大生! ……シキちゃんはー?」
「えっと、18歳。高校三年生」
いきなり自己紹介をしたかと思えば、年齢を言ってあたしに尋ねてくる。
表情も行動も、面白いほどに変わる子だ。
……でも、まさか年上だとは思わなかったな。
「わー、JKだ! JK!」
楽しそうな表情をしながら彼女は言う。正直、あたしには何がそこまで楽しいのかが理解できない。
……ま、これも彼女の性質なんだろうけど。
ともかく、そんなふうに仲良く? 話していると、プロデューサーに資料みたいなのを配られた。
「ユニット名は……レイジー・レイジー?」
フレデリカちゃんが紙とにらめっこしながら尋ねる。
「ああ、そうだ。意味は……」
「だらけている、とかそのへんでしょ?」
あたしはプロデューサーの説明に口を挟む。
普通に話聞いてるだけって、なんか面白くないし。
「……正解」
プロデューサーは「やられた」って顔をしながら言う。
「わーお、シキちゃん頭いい〜」
「そーでもないよ」
フレデリカちゃんが褒めてくる。なんかむず痒い。
「……お前達、仲いいな
「でしょでしょ? ねー、シキちゃん」
「ぐえっ」
プロデューサーが言うと、フレデリカちゃんがあたしの首に手を回しながら言う。首しまるって……
ていうか、どう見たって一方的なやり取りだけど、プロデューサーにはこれが仲良く見えるんだ。
「とにかく、上手く行きそうで良かったよ。明日からレッスン、よろしくな」
「はーい」
「……はいはい」
なんか全く上手くいく気がしないんだけど。……何日目になるのかな。あたしがこの子の顔から笑顔を消してしまうのは。
「シキちゃん考え中?」
「んーん、違うよー」
想像していたことが顔にも出てたみたいで、フレデリカちゃんに気を遣われてしまった。……あたしも、まだ落ちぶれてないんだな。表情に出るなんて。
「じゃ、話し終わったっぽいしあたし帰っていい?」
「ああ、いいぞ」
なんか居づらかったから、あたしはプロデューサーから許可をもらってその場をあとにした。
……このままこの子といたら、調子狂いそう。
「失礼しまーす……」
「おお一ノ瀬。珍しいな、お前が時間通りにここに来るなんて」
げっ、今日ベテラントレーナーさんなんだ……。
「まあ、うん……」
何となく遅刻しちゃいけないような匂いがして、珍しく時間通りにレッスンルームに来た。
「シキちゃん今日からよろしく〜」
「……よろしく」
どうせ、振り付けとか歌とかすぐ覚えちゃうし……面倒臭いけど、どうにか乗り切ろう。
あたしはそう思いつつ、配られた振り付け表を見ながらお手本通りのダンスを踊る。
「一ノ瀬は相変わらずだな。宮本も線は悪くないし、その調子でいけ」
「はぁい……」
「はーい♪」
レッスン中も、フレデリカちゃんはテンションが高かった。あたしからしたら、なんでこんな面倒臭いことを楽しそうにできるのかが理解できない。
なんて失礼なことを思いつつ、あたしは今日のレッスンをこなした。
「はぁ……はぁ……」
技術は高いとはいえ、あたしはアイドルになる前までずっと部屋に篭もって研究していた。運動なんて無縁だったから、体力がない。
「一ノ瀬は技術は十分だが、体力をつける必要があるな。宮本は……とりあえず、オリジナルの振り付け考えるのやめろ」
「え〜、いいと思ったんだけどな。まあ、いいや!」
……うん、もう最早振り付けの原型留めてなかったしね。でも、これもいい個性なのかもしれない。多分。
「じゃ、レッスン終了だ。水分補給忘れるなよ」
そして、ベテラントレーナーさんはそう言ってからレッスンルームを出た。
「疲れた〜……」
あたしは疲労のあまりその場にへたり込む。レッスン真面目に受けるの、久しぶりだったから。
「はい、シキちゃん。ドリンク!」
すると、フレデリカちゃんがあたしにドリンクを差し出しながら話しかけてきた。
……優しい。
「ありがと。……フレデリカちゃん」
「フレちゃんでいいよ〜」
一応礼を言うと、そんな言葉が返ってきた。
「フレ、ちゃん?」
「うん、フレちゃん♪」
フレちゃんね。フレちゃん……悪くは無い、かも。
「じゃ、帰ろ?」
「……うん」
体を起こされて、あたしはフレちゃんと一緒にレッスンルームを出る。
……その時、気付いた。
フレちゃんの匂いが、あたしのママに似てる、いい香りだったことに。
ママの香りは心地よかった。安心した。大好きだった。……なのに、あたしは無意識に拒否してた。
その理由は……もう、戻ってこないものだったから。ママはもういない。ママの匂いはない。どれだけ似た匂いがあろうと、ママは存在しない。
ないものに変な快感を味わうくらいだったら、もう忘れたかったの。
……だから。
「シキちゃん、なんでそんなにフレちゃんから離れるの?」
「……べーつに」
レッスン前。
事務所の中で、あたし達はそんなやり取りをする。
……ママの匂いを発してるこの子には、近づけない。
離れてたら嫌われる。この子に嫌われるのは嫌だったけど、ママの匂いを思い出しちゃうのはもっと嫌だったから。
「……ねえ、シキちゃんアタシの事嫌い?」
なのに
「アタシ、なんか悪いことをしちゃった?」
……なのに
「えっとごめ……」
「フレちゃんには関係ない!」
「シキ……ちゃん?」
なんでこの子は、こんなにあたしに寄り添ってくれるのだろうか。
それで勝手にイライラしちゃって、あたしは思わずフレちゃんに大声で怒鳴ってしまった。
ああ、あたしバカだ。友達なんてどうだって良かったのに、独りだって平気だったのに、なんで。なんでこんなにこの子に対して必死になってるの。
「……ごめん」
フレちゃんが悲しそうな顔をした所で、あたしは我に返った。……その悲しそうな表情見て、心が痛くなった。いたたまれなくなった。
「あっ、シキちゃん……」
「……頭、冷やしてくる」
困惑したような表情のフレちゃんに、あたしは一言そう告げて事務所から出た。
……失踪、かな。久しぶりの。
―――――雨が降っていた。
ぺトリコールの匂いが鼻を突く。それと同時に感じたのは、雨の冷たさと虚しさ。「なんでこんなとこにいるんだろ」って感じ。
「ヤバいよあの子」
「傘もささないでさ……」
コンビニの前でフラフラしてると、そんな声が聞こえてくる。
……雨に濡れたから、今のあたしの髪はまるで海藻。だから、驚くのも無理はないよね。
「…………」
ああ、居心地が悪い。かと言って事務所に戻るのもなんかばつが悪い。
そんな時だった。
「シキちゃーん!」
「フレちゃん……?」
彼女が、あたしの元へ来たのは。
「なん、で……」
「もー傘もささないでこんなとこに! 風邪ひくよ!」
フレちゃんはちょっと怒ったような表情をしながらあたしの頭を拭く。優しい手つきとタオルの感触が心地よい。
「さ、戻ろ?」
「……ん」
そして、彼女はあたしの手を引いて、歩き出した。
……さっきまで拒絶していた筈なのに、あたしはそれを黙って受け入れていた。
「志希! ったくレッスン前に突然失踪なんて……」
げっ、プロデューサー……
「トレーナーさん達カンカンだぞ」
「にゃ、にゃははー、そうなんだー」
プロデューサーの言葉に、あたしはふざけながら答える。
そんなあたしの様子を見て、プロデューサーは更にため息をついた。
「シキちゃん、アタシも着いていくからトレーナーさんに謝りに行こ?」
「……はーい」
適当に流そうと思ってたのに。
やっぱり、フレちゃんに言われると、断ることは出来ない。
「一ノ瀬! 急にレッスンをサボるんじゃない!」
……そして、あたしはたっぷりと叱られたのであった。
「あの、フレちゃん……」
「シキちゃん、なぁに?」
それから説教が終わって、事務所の中。
あたしは、フレちゃんにしなきゃいけないことがあった。
「……ごめんなさい」
そう、それは謝罪。あんなに一方的に怒鳴っちゃって、しかも失踪した時に探す手間をかけちゃって、もう謝ることしかなくて。
「……アタシは大丈夫だよ」
本来なら絶交されてもおかしくないのに、フレちゃんは笑って許してくれる。
……なんで、そんなに優しいの。なんで、あたしの傍にいてくれるの。なんで、なんで……
“君は、ママみたいにいい匂いなの”
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
色んな感情が溢れ出して、あたしは涙を流しながら同じ言葉を繰り返す。
「大丈夫……大丈夫だよ、シキちゃん」
そんなあたしを、フレちゃんは優しく抱きしめてくれる。
―――ああ、これが愛なんだ。
ダッドの傍に居たかったから留学して、それでも貰えなかったもの。
幼い頃にママが病気で亡くなって、貰えなくなったもの。
それが、今あたしの心を包み込んでいる。
周りと同じじゃない、そんなあたしはいつも独りであたしの方も人を信用しようとしていなかった。……だっていい匂いがしなかったから。
それでも、働いていい匂いを出してるプロデューサー。ママみたいないい匂いを出してるフレちゃん。二人がいたから。二人となら……
『高垣楓さんの“こいかぜ”、でしたー』
ステージ裏。そんな声と、沢山の人の歓声が聞こえてくる。
……こんなステージで、あたしは歌うんだ。
「緊張、してる?」
隣からそんな声が聞こえてくる。
あたしは、何も言わずにその方向を見た。
「アタシはしてるよ〜、シキちゃんは?」
……緊張、してる。トラブルがあって震えちゃってた、初めてのライブの時みたいに。
だけど、何となくそう言いたくなくて、あたしは黙っていた。
「シキちゃんってホント顔に出ないね〜」
すると、フレちゃんはそう言いながら笑った。
「……別に」
あたしは目を逸らしながら言う。
その時、あたしの手にふわりとした感触がした。
「大丈夫、いっしょだよ」
そして、フレちゃんはまるで太陽のような笑顔で言った。
「……ありがと」
その時、感じた。あたしの心に触れていくのを。あたしの心からあたたかいものが広がって行くのを。
「出番、だね」
「うん」
もうすぐ、か。
あたしが少し表情を強ばらせると、フレちゃんの手を握る力が強まる。
まるで、「大丈夫だよ」と語りかけるように。
『レイジー・レイジーの二人です!』
司会の人の声が聞こえる。
ステージの歓声も、ここまで聞こえてくる。
「シキちゃん、行こ?」
「……うん」
お互い、またぎゅっと手を握る力を強めながら歩き出す。
大丈夫、フレちゃんとなら……
「はーい、一ノ瀬志希でーす♪」
「宮本フレデリカ! らびゅー♪」
最高のステージに、出来るから―――――
訂正
>>22-31
しきフレ
ジリリ、ジリリ。うるさい目覚ましの音が鳴る。アタシは、目が開いてない状態のまま手を動かし、目覚まし時計を探す。……あった。
「ん……」
目覚ましの音を止めて、重たいまぶたを何とか開き、身体を起こす。これが、いつもの朝だ。
こうして、今日も一日が始まる―――
ママが焼いたトーストを胃の中に押し込み、制服に着替えた。それから、持ち物も確認する。スマホ、財布、メイク道具……と、教科書。忘れ物はない。
さあ学校へ行こう。そう思った時、肩を控えめに叩かれる。
「莉嘉、はい。お弁当」
「……はあ。作んなくていいってアタシ言わなかったっけ?」
「言ったけど……購買のじゃ体に悪いじゃん。アンタはまだ15歳なんだから」
「はいはい分かった。ありがと。おね……美嘉」
お姉ちゃん、と言いかけたのをのみこんで、慌てて言い換える。お姉ちゃんの事は呼び捨てって中3の時に決めたんだから、しっかりしてよ。と、自分に言いたくなった。
「気をつけて行きなよー。行ってらっしゃい」
「……分かってるって」
お節介な事を言いながらアタシを見送ったお姉ちゃんの顔は何だか寂しそうに見えた。……まあ、アタシがこんなのになっちゃったから、ね。
「おはよー、莉嘉」
「おはよ」
学校について教室に入ると、友達の由奈が挨拶をしてきたのでアタシも挨拶を返す。自分でもちょっと無愛想だと思うけど、アタシと友達の距離感はそんな感じだから。昔のアタシがみりあちゃんにしてたみたいに、ベタベタすることはない。
「そういえばさ」
「何?」
「莉嘉って、美嘉ちゃんの話全然しなくなったよね」
何だ、そんなこと。改めて言うから、もっと大事な話だと思ったじゃん。
「まあね。いつまでもガキじゃないんだから」
「でも私知ってるよ?」
……知ってる? 何を?
「莉嘉の弁当、美嘉ちゃんが毎日作ってるらしいじゃん」
「……は? それどこ情報?」
「美嘉ちゃんがインタビューの時言ってたよ」
「はあああ!?」
お姉ちゃん、何余計なこと言ってんの!
そんな思いでアタシは思わず叫ぶ。……当然、アタシに視線が集まる。アタシは「ごめーん、ちょっと驚いてさー」と言いながら誤魔化した。視線が逸れていくのを確認して、アタシはため息をつく。
「おはよー」
先生が入ってきた。話は終わり。由奈はアタシの机から離れて、自分の席に座る。
ああ、今日も眠気との戦い……授業が始まる。
午前の授業は終わり、昼休み。アタシは由奈と机を合わせて一緒に弁当を食べていた。……お姉ちゃんが作った、弁当を。
「莉嘉、お姉ちゃん大好きだったのにねえ」
「またその話?」
「中学生の時は純粋だったよねえ」
由奈はそう言いながらスマホを取り出す。
「こーんな歌も歌ってたよねえ」
「え? ……ちょ、ちょっとそれ禁止! 禁止だから!」
ニヤニヤした顔で由奈はアタシにスマホを向ける。
―――えとえと前からずーっと それからそれから……好きです!
……DOKIDOKIリズム。アタシが12歳の時に出したデビュー曲。ガキみたいでバカらしい曲。当時のアタシはこれを元気に歌って踊ってたけど、今思うと恥ずかしい。
「こーんなに可愛かったのにねえ」
由奈が愉快そうに笑う。頬が熱い。多分、アタシ今顔真っ赤。
「城ヶ崎さん、うるさい」
「ゴ、ゴメンゴメン」
ほら、由奈のせいで前田さんに怒られちゃったじゃん!
そんな気持ちを込めて由奈を睨むけど、由奈は笑うだけ。ホント、憎たらしい。……ったく、どうして今日はこんな昔のことばっかり……
まるで、「お姉ちゃんに素直になれ」って言われてるみたいでイライラした。
「じゃあね、部活頑張って」
「莉嘉、バイバイ」
友達と別れて学校を出た。アタシはアイドルもあって部活に入ってないから、学校が終わったら寄り道するか家に真っ直ぐ帰るだけ。
今日はもう家に帰ってしまおうかな、なんて思いながら、歩く。
「……あ」
その時、大人っぽい感じの店がアタシの目に入った。確か、最近オープンしたばっかりのカフェ。……最近、お姉ちゃんもアタシもゆっくり休むことが出来てなかったから、誘ってみようかな。でも、なんか恥ずかしいし……
『お姉ちゃん大好きだったのにねえ』
由奈の言葉が頭に浮かぶ。……違う。大好き“だった”んじゃなくて、今も大好き。ただ、ちょっと素直になれなくて、それで当たっちゃうだけで……
「……よし」
……そろそろ、素直になろう。
アタシは決意した。お姉ちゃんを誘ってこのカフェに行くって。もう高校生だから、なんて意地張ってたけど、たまにはいいよね。……おかしい事じゃ、ないよね。
―――だから、素直になる!
「莉嘉、おかえり」
「あ……ただいま」
玄関を開けて中に入り、リビングに向かうと、お姉ちゃんがソファに座っていた。
よし、言おう。そう思っても、全然言葉が出てこないし、何か悪いことをした訳でもないのに、お姉ちゃんと目を合わせることすら出来ない。
「……莉嘉、なんか言いたいことある?」
「えっ」
タイミングを考えている時、お姉ちゃんが言った。……やっぱり、お姉ちゃんはアタシのお姉ちゃん。アタシがいつもと違うことなんて、お見通し。
「あ、あのね……」
「うん」
お姉ちゃんが真剣な表情でアタシの顔を見る。余計言いにくいけど、素直にならないと。
「最近オープンしたカフェがあるんだけど……」
「あ、知ってる。それで、そのカフェが?」
「うん。その……美嘉……ううん、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんがびっくりしたような顔をする。そうだよね。アタシがお姉ちゃんの事をお姉ちゃんって呼ぶの、1年ぶりだもん。
「今度の土曜日、一緒に行こ?」
恥ずかしさで思わず下を向く。お姉ちゃんは何も言わないし、アタシが顔を下げてるから表情も分からない。なんて言われるんだろ、断られないかな、そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
「……なんだ、そんなこと。
もちろん。可愛い妹の頼みを断るなんて、アタシ出来ないし!」
「お姉ちゃん……ありがと!」
甘えるのが恥ずかしくなって、お姉ちゃん離れをしようとした。でもやっぱりお姉ちゃんが大好きだから離れられなくて、そして強く当たっちゃって。そんなアタシだけど……今日、素直になれたんだ。
>>34-35
3年後城ヶ崎姉妹。年齢操作に注意
「シキちゃん、空を飛ぶってどんな感じだろ」
いつものように美しい髪を揺らす彼女が言った。
空を飛ぶ、ね。物理的に飛ぶのか、或いは……なんて無粋な思考を巡らし始めたところで、やめた。シャンデリアに轢かれてハッピーエンドなあたしはあそこで終わったんだ。
「気持ちいいんじゃない」
とは答えたものの、正直あたしにも分かんない。だって空を飛んだことなんてないし。例えあっちであってもね。
そんなあたしの確かではない言葉に、彼女はちょっとだけ腑に落ちないをしたものの、「そっか」と言って話を終わらせた。そうやって切り替えが出来るところは、あたしより大人なのかもしれない。
「もし気持ちいいなら……アタシ、シキちゃんと空飛びたい」
「……ん?」
前言撤回、話は続いていた。
それに、気持ちいいなら空飛びたい? 何を言ってるんだ、この子は。もしかして、おかしくなっちゃったのだろうか。
「……フレちゃん、おかしくなっちゃった?」
「そうかもねー。なんでだろー♪」
本当に、フレちゃんは読めない。……でも、そんな所が面白い。面白くて、あたしは好きだ。この子とならなんだって出来そう。それから、理解できない所へだっていけそうだもの。
「ねえシキちゃん」
「なに、フレちゃん」
「朝になっちゃったね」
窓の外を見る。真っ暗だった空は少しだけ明るくなっていて、ラボの前を通る車の数も増えてきていた。多分、5時くらいだろうか。
「アタシ達、夜更かしさんだね」
「ねー、フレちゃん。お仕事、あったっけ?」
「確かオフだったよー」
そっか。そう言いながら、あたしは彼女の顔を見つめる。
綺麗な緑色の瞳の下には、ちょっとだけクマが出来ていて、フレちゃんらしくない顔だった。こうしたのはあたしか、それとも彼女自身か。そう尋ねれば、彼女はきっと自分がしたと言うだろう。何故なら……とっても優しいから。
「あたし、寝てもいい?」
正直、眠気なんてなかった。なんでこんな事を言ったのか分かんなかった。でも、あたしはいつの間にかそう言っていた。多分、彼女のクマを見るのが嫌だったからだろう。あたしが目をつぶれば見えないし、彼女も寝てくれれば消えるはず。
そんな幼くてバカらしい思考に、あたしは自分でも呆れたくなった。
「いいよー」
その返事を聞いて、あたしは直ぐに目を閉じた。ベッドに移動するのはめんどくさいから、ソファに寝転んで。
目を閉じていたから、その後彼女がどんな行動を起こしたのかは分からない。だけど、目を開けたら身体にはタオルケットが掛けられていて、彼女自身は何故か料理を作っていた。
……やっぱり、フレちゃんって面白いよ。あたしの負け。
>>37
しきフレ。キャラ掴めてなかったら虚しい
「おねーさん、誰?」
「え、ええと……」
―――正直な所、私は困惑していた。
人通りの多い廊下であるのにも関わらず、ぐいぐいと近付いてくる女の子は、一ノ瀬志希ちゃん。同じ岩手出身だけど、私よりも一回り近く年下で、普段は全くと言う程関わりがない。
だからこそ、接し方が分からなかった。
「三船美優……です」
ふうん。そう言いながら、私を見詰めてくる志希ちゃん。
大きくて猫のような瞳は、まるで私を逃がさないと言わんばかりにぎらりと光っていた。
私が消極的でなかったら、上手く接してあげられるのに……なんてマイナス思考になってまうのは、いつもの事。
「なんか単純っていうか、淡々としてる匂い」
「……どう捉えたらいいのかしら?」
「面白くはないね」
私が何も言えずにいると、志希ちゃんが口を開いた。
本人に悪気は無いのだろうけど、こうもはっきり言われてしまうと傷付く。かと言って、別に貶されているわけでも無いみたい。
要するに、志希ちゃんは私を“つまらない人間”だと捉えている。そう、ただつまらないだけの人間だって。
「アイドル、楽しい?」
一方的に色々言われたと思えば、志希ちゃんは唐突にそう尋ねてきた。
拍子抜けしてしまって、思わず目を丸くしてしまったけれど、どうにか頷くことは出来たと思う。
話がコロコロ変わる子、私の志希ちゃんに対する印象は、大体そんな感じだった。
「あたしも楽しい。だって、アイドルになって、今まで無かった事ばっかり! 新しくて、刺激的で」
アイドルについて語る志希ちゃんの目は好奇心に満ち溢れてて、キラキラしていた。
私には無い輝き。それが、今のこの子にはあるんだって、その目を見て思った。
……だから、志希ちゃんには私がつまらない人間に見えるのかな。
「美優さんは、アイドルのどんな所が楽しいの?」
「ええと……」
何と返すべきか分からなくて、必死に考えていた時。
遠くから足音が聞こえてきて、その音が段々と廊下に近付いてくるのが分かった。
「あちゃー、バレちゃった。美優さん、次会った時は答えを聞かせて。じゃあねー」
志希ちゃんは楽しそうに笑いながら周りを見渡し、走り去ってしまった。
そんな志希ちゃんを追いかけていく城ヶ崎美嘉ちゃんの背中を見ながら、私は考える。
「志希ちゃん、か」
少しだけだけど、志希ちゃんと話した時間は嫌じゃなくて。それどころか……ちょっと楽しかったな、なんて思って。
また会える事も、彼女が私を覚えているのかすらも分からないのに―――出された問題の、答えを探していた。
>>39
しきみゆ初挑戦
しきみゆどころか美優さんにすら初挑戦なのに下調べ無しはまずかった。ていうか文章が色々とおかしい