小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦
201:なかやっち:2020/04/14(火) 20:24
「…代償のせいで、私は異世界に来れたの…同時に元の世界の……を失ってしまった。自分の名前、…、誕生日…自分のこ…わかるの…、……世…に関する……を思い出そうとすると……が途…れてしまう。…の名前や…は思い浮かぶの…、どこで……合ったのか…から…い。これからどうすれば…いのだ…う。改めて自分の愚かさを………」
ここから先はまたかすれて読めなくなっていた。
魔耶「あら…しっかり読めたのは一部だけだったね。これじゃあ内容がよく分からないわ…。代償について記されているんだろうけど…」
カルセナ「そこが知りたいんだってのに。なんで大事なことが分からないのかね〜…」
魔耶「自分で探せ、ってこととか?」
カルセナ「そうなのかな…」
いまいち納得いかないが、考えても分からないのなら考えたって仕方がない。
ため息をついて本を閉じる。閉じた拍子に本のページの間から埃がブワッと舞った。
カルセナ「…分かったことは『私』は魔女と交渉し、異世界に行けたはいいものの代償をはらうことになった…って感じか」
魔耶「そういうことだーね。まぁ代償を払えば鍵を探さなくてもいいってことが一番大きな発見かな。…払うつもりはないけど」
ぼそりと小さな声で付け加える。
ページがかすれていて代償の具体的なことは分からないけど、『私』はそれを失ってすごく後悔しているように書かれている。そんなに大事なものをやすやすと渡すわけにはいかない。
カルセナ「うーん、じゃあ特に重要なことは見つからなかったな。代償なんて払うつもりもないから関係ないし…」
カルセナの言葉に同意してうんうんと頷く。
魔耶「とりあえず…今の私達の課題は、鍵のある場所を探すことだね」
カルセナ「そういうことになるね。あと、ギルドランク昇格試験に無事合格することだ。いや、無事に生きて帰ること、かな」
そういってカルセナはにやりと笑った。
魔耶「あー、そう言えばそうだ!昇格試験あったなぁ....帰る方法ばっかに囚われてたわ〜。んで、いつだっけ....」
カルセナ「えーと確か.....」
ひまり「明後日くらいに、月一回の昇格試験があるんだけど二人共参加してみない?」
魔耶「ひまりが提案して、私達が受け入れたのが昨日だから....昨日で言う明後日は....」
魔耶カル「「 明日!? 」」
声を揃えて、明日が試験当日だと言う事を改めて感じさせられた。
カルセナ「うわー、近いって事は覚えてたけど、明日だったとは....」
魔耶「うまく行くと良いねぇ。死なない程度に頑張ろ」
カルセナ「せやな.....頑張ろう。」
時計を見ると、もう少しで正午だった。外は沢山の人々が出歩き、朝よりも遥かに賑わっていた。
カルセナ「お腹空いてない?お昼だし、取り敢えずご飯でも行きませんか」
魔耶「おぉ行こう行こう。普通にお腹空いたわ〜」
そうして本をまとめて机の上に置き、飲食店へと向かうべく再び宿を出発した。
お昼時故に、街にはそこら中に美味しそうな匂いが漂っていた。
魔耶「わ〜、良い匂い〜」
カルセナ「この街の食べ物美味しいよね.....良いなぁ....」
暫く歩くと、いたって平凡な飲食店を発見したのでそこに入る事にした。席もまだ余裕がある。
魔耶カル「お邪魔しまーす」
店員「いらっしゃいませー!!奥のお席どうぞ〜」
店員に勧められた席まで移動し、ふぅ....と椅子に腰を降ろした。
魔耶「メニュー発見。カルセナはなにがいいー?」
ミニテーブルの横にあったメニューを開き、カルセナが見えるように寝かせて置いた。
二人でメニューを覗きこむ。
カルセナ「知らないメニューばっかなんだが…ん〜…じゃあ、パスタにチーズをのせたみたいなやつにする」
魔耶「あ、これか。普通に美味しそうだわ〜。私は何にしようか…あ、これでいいや」
美味しそうな料理を見つけた。まぁ美味しければなんでもいいんだけど。
早速近くにいた店員に声をかける。
店員「はい、ご注文は?」
魔耶「これとこれお願いしまーす」
店員「かしこまりました。少々お待ちください!」
3分ほどたち、頼んだ料理が運ばれてきた。
カルセナ「おお、美味しそうじゃないか…!」
魔耶「うむ、この世界の食べ物は美味しいからな…きっとこれも美味しいよね…!んじゃあ手を合わせて…」
カル魔耶「いただきまーす!」
思っていた通り、料理はとても美味しかった。
元の世界とはまったく異なる料理なので新鮮に感じれる。
カルセナ「うまっ!やっぱうまいわ!元の世界でも食べれたらなぁ…」
魔耶「この料理のレシピでも覚えて帰りたいけど、多分食材とか根本的に違うんだろうなぁ」
カルセナ「あ、確かに。じゃあ料理はこの世界限定か…残念…」
少しガッカリとしながらも美味しい料理を食べ、ぺろりと平らげた。
魔耶「ふぅ〜.....めっちゃ美味しかったぁ〜」
カルセナ「うんうん、また絶対食うわ....ごちそうさまー」
席を立ち、勘定を済ませて外に出た。大通りにはまだ沢山の人が歩いていた。
カルセナ「いやー、本当に絶品だったねぇ。.....やっぱご飯食べた後はスイーツ食べたくないっすか....?」
魔耶「うん?スイーツだって?」
カルセナ「お願いしますよ魔耶さーん、んじゃせめてお菓子で....」
魔耶「んー、まぁ良いよ〜。ついでに何か買い溜めしとこっかね」
カルセナ「さっすが、話が早いわ〜」
こうして二人は、元居た飲食店から少し離れたお店へ向かう事にした。そこはこの前、沢山のお菓子が売ってるんだよ〜と、ひまりからオススメされた店だった。
魔耶「おっと....やっぱ子供連れが多いね」
カルセナ「ここのお菓子人気っすね〜。お菓子買いに来たかどうかは知らんけど」
雑談をしながらゆっくりお菓子売場へ向かった。通路に並ぶ長い棚には、ジャンルが色とりどりのお菓子が並べられている。
カルセナ「おおー!めっちゃ多いじゃん!!テンション上がるわ〜♪」
魔耶「どんくらいお菓子いる?」
カルセナ「めっちゃ。」
魔耶「具体的に言え。」
カルセナ「うぅーん、まぁ、それっぽい量買っときましょ」
魔耶「はいはい、んじゃ好きなの買いましょ」
他にもお菓子を買いに来ている子供達に気を付けながら物色した。まるでそのブースは、一軒の駄菓子屋かの様な大きさであった。
大きなお菓子ブースにところ狭しと並べられたカラフルなお菓子のパッケージを順にみていくと…
魔耶「はっ!」
魔耶があるお菓子に注目した。
カルセナ「…なんかあった…?」
魔耶のいきなりの反応に驚いて、質問してみる。
魔耶「はい…これほしいっす…!」
魔耶が見せてきたのは美味しそうな梅のグミだった。
だが袋には『激すっぱい‼』と書かれていて、すっぱさメーター80とも書いてある。…そうとうすっぱそうだ。
カルセナ「…ほんとにこれでいいの…?激すっぱいって書いてあるけど…?」
魔耶「それがいいんじゃないか〜。…私、すっぱいお菓子が大好きで…」
少し照れたように魔耶が赤面する。
カルセナ「へぇ〜。意外だなぁ。魔耶は辛いのとか苦いのとかはダメなのに、すっぱいのはいけるんだ?」
魔耶「自分でもよく分からないけど、そうみたい」
カルセナ「ふーん…」
まぁそういう私も、よく分からないけど好きなものとかあるからなぁ。魔耶の気持ちも分からなくない。
カルセナ(…さて、魔耶は欲しいものを見つけたんだし、私もなにかお菓子を…)
そう考えあたりを見回してみる。
カラフルなお菓子は見ているだけでも楽しかったが、私もなにか買いたい。
カルセナ「…!あ、これ…!」
あるお菓子を手に取って、魔耶に見せた。
魔耶「何それ....クランチチョコ?」
カルセナ「そうそう!これめっちゃ好きなんだよね〜。ドライフルーツ入りは勘弁だけど....いくらか買っとこ〜。魔耶も食ってみなよ」
さらっと魔耶に勧めながら、近くにあった籠にぽいぽいと投げ入れる。
カルセナ「さ、他にも何か探してみよー」
魔耶「キャラメルとか無いかなぁ.....」
一通り見回り、籠の中も、二人分のまぁまぁな量のお菓子で埋め尽くされた。
会計に向かい、ぱぱっと勘定を済ませて店から出た。
カルセナ「う〜....ん、良い買い物をしたわぁ」
魔耶「早く宿戻って、お菓子食べながら本読も〜」
カルセナ「良いねぇ、それなら飽きずに解読出来そうだわ」
宿へ帰る為、そこから歩き出した。午後の北街は買い物客が多く、店員の呼び掛けや街の人々の話し声で、わいわいと賑わっている。
カルセナ「おっ、林檎が安いっ」
魔耶「主婦か。てかもう買わんからなー」
カルセナ「分かってますわよ〜」
魔耶「いやだから主婦か。」
下らない会話をするのは時間の無駄。そう思われるが、それは意外にも無意識に、親しい友との仲をちょっとだけ深めてくれるものだった。
カルセナ「…なんか、いいね〜。平和にお買い物ができるって」
カルセナの言葉に同意し、うんうんと頷く。
魔耶「だよねぇ。まぁこの世界に来てからずっとデンジャラスすぎたからなぁ…。そう思うのも無理はない…」
そう、今まで平和に買い物なんてしていなかった。いや、できなかった、か。
一昨日まで1つの組織と戦っていたくらいだし…。
魔耶「それに、元の世界ではあまりこういうことしなかったからな。新鮮だぁ。…いや、160年前にしたっけか…」
カルセナ「年厚よ。…へぇ、魔耶元の世界でボッチだったり…?」
魔耶「いやいや!ちゃんと親友とかいるから!……まぁ、その子は仕事で忙しいからね。私と違って暇がないのさ〜!」
最後の一言を発しながらどや顔をする魔耶。
カルセナ「なんでドヤってるのよ…まぁいいけど」
魔耶の態度に少しあきれを感じながらもクスリと笑うカルセナ。
魔耶「む、笑ったな〜。そういうカルセナこそ、友達とかいるの?」
カルセナ「む〜ん......そりゃ人間ですもの、居たには居たけど.....大体は姉妹と遊んでたからな〜」
魔耶「へー、友達と遊ばんの?」
カルセナ「学校とかでは遊んでたけど、休日とかはずっと家に居たわ....」
魔耶「半、引きこもりやないか」
カルセナ「ばっか、これでも小さい時は死ぬ程外で遊んでたんだからなー!」
魔耶「昔は昔、今は今ってのを知ってるか〜?」
カルセナ「うぐぅ......」
そんなこんなで宿に到着した。外には他の宿客が出て話したり、自分の時間を満喫したりしていた。
受付の前をささっと通り、自分達の部屋にやっと戻ってきた。
魔耶「ふぅー、ただいま〜」
カルセナ「んじゃ、本解読しますか。お菓子食べながら」
魔耶「手ぇ洗えよ〜」
カルセナ「はーい」
暫くして、漸く、元の世界へ帰る方法を探すための読書が始まった。
魔耶「いやー、それにしても本の一冊一冊が分厚過ぎる....」
カルセナ「ご飯食べたばっかで寝落ちするかもしれん....」
魔耶「お菓子でも食って気分紛らわせば良いんじゃね?」
カルセナ「せやなー。お菓子の袋.....えーと、これは魔耶のか。はいよ」
店の袋の中に入っていた、魔耶の梅のグミを本人に渡した。
魔耶「やったぜ。定期的にすっぱいお菓子が食べたくなるのよ〜。あ、カルセナもいる?」
カルセナ「いいの?じゃあいただくわ〜」
魔耶からグミを1つ手渡され口に運んでみる。
すっぱいものはそこまで得意でもないが、お菓子なら大丈夫だろう……そんな考えでした行動だった。
カルセナ「モグモグ…………」
魔耶「うま〜い…このすっぱさがたまらないわ〜。…どう?カルセナ?」
カルセナ「…」
魔耶の言葉に返事を返さず、無言で俯くカルセナ。
魔耶「…カルセナ?」
カルセナ「……すっっっっぱぁぁ!!?」
魔耶「わっ!?」
カルセナが大声を出してすっぱそうに顔をしかめた。
カルセナのいきなりの大声に思わず驚いてしまう。
カルセナ「めっちゃすっぱいんだけど!?よくこんなの食べれるね…」
魔耶「え、そんなにすっぱいかなぁ??ちょうどいいくらいだと思うけど」
カルセナ「ち、ちょうどいい…?」
魔耶の言葉に驚きながら口直しのクランチチョコを開け、口に放り込む。
カルセナ「うぅ、やっぱこれだわ……いやぁ、すっぱかった…」
魔耶「あはは、そんなにか。ごめんごめん☆」
カルセナ「笑い事じゃないっての」
魔耶はその酸っぱいグミに夢中になりながら話をした。
魔耶「いや〜、この酸っぱさがクセになる〜」
カルセナ「......そうか?」
魔耶「うん、何かこう....言葉では表せない何かがあるよね.....」
カルセナ「分からんなー.....それ」
魔耶「分かると50倍美味しくなるぞ」
カルセナ「ははーん、そうなのか.........で、何の話だ?」
魔耶「.....へ?」
ずっと手元に向けられていた魔耶の視線がカルセナに向けられた。
カルセナ「いやだから、何か知らねーけど美味いのか?そのグミ」
さっきまで話していたカルセナとは明らかに雰囲気が違う。
イメージカラーを黒と言っても過言で無いような外見。そして、少し荒い言葉使い。間違い無い。
魔耶「違う....カルセナ......!?」
先日の戦いで対面した、もう一人のカルセナだった。だが今は戦闘などしていない。至って平凡な状況だった筈だが.....。
魔耶「え....な、何で今??」
カルセナ「知らねーよ.....急に、外に引っ張り出されちまってな.....私は寝てたってのに....」
魔耶「うーん......はっ、まさか酸っぱいグミのせいか!!?それともそのチョコのせい!?」
再び手元のグミに視線を落としたと思えば、すぐさまクランチチョコに視線を移した。
カルセナ「うーん、そうなのか....?まぁ何だって別に良いんだけどよ.....」
魔耶「ふーん…まぁ、君とも話しをしたいと思ってたのよ。あなたはカルセナ…ってことでいいのかな?」
カルセナ「カルセナではあるが、お前の知っているこいつ(本体)と混ざりそうだな…」
…そうか。どっちもカルセナだし、呼び方は統一しない方がいいのだろうか。じゃあ…
魔耶「うーん…黒い…カルセナ……ブラック……ブラッカルってどう?」
カルセナ「へぇ……まぁ呼び方はお前の勝手にしろ」
魔耶「了解〜。じゃあ君はブラッカルね。ブラッカルは、私のこと…彩色魔耶のことがわかるの?」
戦闘中に何度か名前で呼ばれていたし、誰だお前とかも言われなかった。それがずっと気になっていたのだ。
ブラッカル「あぁ。お前の事はこいつから聞かされたからな。『大切な仲間』....ってな」
魔耶「そうだったのかー.....てか何で二人共分離してんの?普通は一人だよね」
ブラッカル「そんな事言われても.....知らねーよ。こいつの感情の上下が激しいから別れちまったんじゃねーの?」
説明出来なさそうな質問の為、適当に答える。
魔耶「うーん....不思議だなぁ。まとめると.....二重人格って感じかな?」
ブラッカル「そんな感じか......あー、てかこれ、いつ戻れるんだよ....」
だるそうに帽子を脱いで机に置く。
魔耶「さぁー....君達の体の事なんて知らないもん。....明日には戻れるんじゃない?」
ブラッカル「あー....明日戻るかねぇ」
魔耶「あ、そー言えば明日試験やん」
壁に掛かっているカレンダーを見て魔耶が気付く。
ブラッカル「試験?」
魔耶「うん、ギルドの昇格昇試験。モンスターがうじゃうじゃ出てくるとか何とか....」
ブラッカル「ふぅ....ん。面白そうじゃねぇか。是非とも参加したいもんだ」
魔耶「戻ったらご愁傷様って感じだねぇ」
ブラッカル「はは、無理矢理外に出てやるよ」
魔耶「もとには戻れなくても外に出ることはできるのか…謎だなぁ」
ブラッカル「そうか?」
ブラッカルはガサガサとお菓子の入った袋をあさり、クランチチョコを取り出した。
ブラッカル「モグモグ……そういえば、お前のあの…角が生えてた状態。あれはなんだったんだよ。戦ってる最中だったから聞けなかった」
角が生えてた状態……
魔耶「…あぁ、悪魔状態のことかな…?私の切り札みたいなものだよ」
ブラッカル「悪魔状態…?それが正式名称なのか?」
魔耶「いや、適当に考えた名前だから正式名称ではないかも…」
あの姿にはあまりならないからちゃんとした名前考えてなかったな、そういえば。悪魔状態ってそのまんまだし。
魔耶「じゃあさ、悪魔状態をいい感じにネーミングしてよ。私がブラッカルって考えたみたいに」
ブラッカル「ほう、面白そうじゃねえか。悪魔状態ねぇ…」
そういって、ブラッカルは腕を組んで考え始めた。
ブラッカル「うーん....悪魔耶......とか」
魔耶「なーんじゃそりゃ。」
ブラッカル「なーんじゃそりゃって言われても、今はこれしか思い浮かばねぇんだよ.....くっそ、こいつのセンスの無さが移ったか....」
悩んだブラッカルは、髪を手でぐしゃぐしゃと掻き乱した。
魔耶「いやまぁ、ブラッカルみたいに呼びやすければ何でも良いけどさ....」
ブラッカル「て言うか、悪魔耶の時の変身も良く良く考えるとすげーよな」
魔耶「そうか?」
ブラッカル「だって、あんなに力が爆上がりするのなんて見たことねーから....魔力も相当のモンだったしよ。あんな能力を、魔族は全員持ってんのか?」
自分の事より魔耶の力に興味を持ち始め、問い掛ける。その目は本来表に出ているカルセナと似て、キラキラと目を輝かせているものだった。
魔耶「うーん…どうだろう?他の魔族の人にあったことがないからなぁ…。魔族って一口に言ってもいろんな魔族がいるし、できる人は少ないかもね?」
よくわからないので適当に返す。あれはもう…なんというか…感覚だからなぁ。
ブラッカル「へぇ、そうなのか。あれはどういう仕組みになってんだ?私達みたいに他の人格が出てきてるわけではないんだろ?」
魔耶「うん。私の人格はこれだけだよ。悪魔耶状態はねぇ…ちょっと説明が難しいな……まぁ、感覚って言えばいいかな?」
ブラッカル「感覚…?どういう感じなんだ?」
あらためてどういう感じかと聞かれると分からない。
どう答えればいいか解答に迷う。
魔耶「んっと……私の中には、人間に近い細胞と悪魔に近い細胞があるのよ」
ブラッカル「ほうほう」
魔耶「いつもは悪魔に近い細胞は静めてるんだけど…悪魔耶状態にするときは、悪魔に近い細胞を活性化させて、一時的に悪魔みたいな姿と力ができる、みたいな」
ブラッカル「ふーん…面白い仕組みなんだな。なんで反動とかがあるんだ?」
魔耶「よく分からないから予想だけど…いつもは静まっている悪魔の細胞を活性化させるから、すぐにその細胞を静めることができないんだと思う。だから角が残ったりするんじゃないかな」
この予想もあながち間違ってはいないと思う。
悪魔と人間では悪魔の方が強いように、細胞も悪魔に近いやつの方が強い。だから一度活性化すると、人間に近い細胞では静めるのが大変なんだろう。
ブラッカル「ほんとに面白い体してんな、お前。あの幹部達がお前を実験材料にしようとしてた理由がわかった気がする」
魔耶「君も相当…下手したら私より面白い体してると思うけどね?その言葉そっくりそのまま返すよ…」
ブラッカル「んなこたぁねーよ。だって私からこいつに切り替わっても、魔耶程戦闘力は変わらねぇし.....さすが魔族って感じだな」
机の上に肘を置いて顎を支え、やる気が無さそうに、でも感心する気持ちだけは持って応えた。
魔耶「そうかねぇ〜」
ブラッカル「ああ、今度お前ろ手合わせしてみてぇな」
魔耶「暇があったら出来るかもね。まぁ今は暇なんて無いけど......って、そう言えば忘れてた!」
急に姿勢をピンッと張ると、机の上に積まれた本に視線を向けた。
魔耶「本の解読.....ついうっかり話してしまった....」
ブラッカル「本....?そういやずっと分厚い本あんなぁ、って思ってだんだが、何だこれ?」
積まれている一冊の本を手に取って、まじまじと観察した。
魔耶「その事は知らんのね....えっと、何かこれらの本に、元の世界に帰れる方法の情報が載ってそうなんだよね」
ブラッカル「へぇー。そうだ、こいつ違う世界に来てたんだったっけな。何か分かった事あったのか?」
魔耶「ある童話によると、3つの鍵が必要だとか何とか....」
めぐみから読み聞かせられた童話を思い出して、情報を伝える。
ブラッカル「鍵だぁ?どっかに扉でもあるって言いたいのか?そんなら強行突破でも......」
魔耶「いやあの、物理的な話では無いような気がするのよね......」
ブラッカルの言う事に少し戸惑いつつ返答する。
ブラッカル「ふーん....そこらに関しては、少し面倒臭そうだな....」
魔耶「そうなのよ〜…だからもっと情報を集めようと思ってたんだけど、すっかり忘れてたわ…」
机の上に置いてある分厚い本を手に取り、パラパラとめくってみる。
ブラッカル「でも明日試験ってやつがあるんだろ?そのことについてはいいのか?」
魔耶「あぁ…」
確かに、明日試験があるのになにもしていないなぁ。必要なものとかはあるのだろうか…
魔耶「そうだね。なんかいるのかも知れないし、やらなきゃいけないこともあるかも……ひまりに詳しく聞いてこようかな。本は試験のあとでも大丈夫だし」
ブラッカル「ひまり……あぁ、あいつか。私も暇だし、一緒にいくよ」
魔耶「ひまりのこともしってんのね。んじゃあ、二人でひまりを探しますか〜」
そうして二人は再び宿を出て、ひまりを探しに街に出た。
大通りを歩いていると、周りの町人からちらちらと視線を向けられた。いつも魔耶と一緒に居る相方の姿が何かおかしいからであろう。
ブラッカル「.....何か周りの奴ら見てくんな.......何なんだよ」
少し不満気に、一人で愚痴を溢す。
魔耶「恐らく貴女だと思いますが........」
ブラッカル「なーんか言ったか?」
魔耶「いやなーんも。ひまりどこかなぁ〜」
時計台の近くまでやって来たが、ひまりの姿は未だに見かけていない。
ブラッカル「あれじゃね?家でだらだらしてんじゃねぇの?」
魔耶「そうかなー....家と言っても、どこにあるか知らないし.....」
その時、とある人物が不意に目に入った。
魔耶「あっ.......!!」
ブラッカル「ん、どうした?」
とことこと向こう側を歩いている少女。買い物に来たのだろうか、片手には可愛らしいデザインのバッグを提げている。
ブラッカル「.....あいつの事か?」
魔耶「みおだ.....みおなら案内してくれるかも」
ブラッカル「えーっと.......確かひまりの妹だっけか?それなら名案だ」
みおにひまりの居場所を教えて貰うべく、向こう側へと駆けていった。
魔耶「みお〜!」
みお「あれ…魔耶さんと…カルセナさん、ですかね…?どうしたんですか?」
魔耶「いきなりごめんね。実は…」
みおに、明日の試験のことについて知るためにひまりを探しているのだと簡単に説明をする。
魔耶「…そういうわけで、ひまりがどこにいるか知らない?」
みお「なるほど…姉なら家にいますよ。案内しましょう。私についてきてください」
ブラッカル「…悪いな、わざわざ」
みお「いえ、ちょうど買い物を終えて家に帰るところだったので…」
みおが手に持っている可愛らしいバッグに視線をうつす。遠くからではよく見えなかったが、バッグの中には夕飯に使うのであろう食材が入っていた。
みお「家はここからそう遠くないので」
魔耶「そっかぁ。ありがとうね。ちょうどみおがいてくれてよかったよ…」
みおが歩き始めたので、みおを先頭に二人も着いていく。
みお「お礼なんていいですよ。ついでですし。……ところで、あなたはカルセナさん…なんですか?」
みおが振り返り、ブラッカルをじっと見つめた。
ブラッカル「カルセナっちゃあカルセナだが…お前らの知ってるカルセナではねぇ。別の人格だからな…ブラッカルとでも呼んでくれ」
みお「別の人格…カルセナさんは第二人格をお持ちなんですね。わかりました。よろしくお願いします、ブラッカルさん」
みおが案外すんなりブラッカルを受け入れたため、かえって驚く魔耶。
魔耶「あれ、意外とすんなり受け入れるんだね…?別の人格だよ?もっとリアクションあるのかと…」
みお「…魔耶さんは魔族。カルセナさんは幽霊。これを知ってるのでもうなんでもありかな、と」
魔耶「…姉と同じく肝が据わってますぜ…」
話しながらしばらく歩いて、みおが立ち止まった。
みお「お待たせしました、ここが私達の家です。さ、中へどうぞ」
外見は洋風で、二人で暮らす分には十分な大きさの家だった。
魔耶「お邪魔しまーす」
ブラッカル「邪魔するぜ〜」
みお「だだいまー。ねぇ、お客さんだよー」
中に入って荷物を置くと、二階に居ると思われるひまりに声を掛けた。
少ししてドアの開く音が響き、階段をトタトタと降りてくる音がした。
ひまり「なぁに〜?今次のイベントの内容考えてたんだけど.....って、何だ魔耶達かぁ」
魔耶「忙しいときにごめんね、色々聞きたい事があってさ....」
ひまり「いやいや、大丈夫よ。みおが案内したのね。立ち話も何だし、そこの椅子にでも座ってよ。今紅茶を淹れるね」
4人掛けの椅子と机を指差し、紅茶を淹れる為かキッチンへと向かった。
魔耶「お構い無く〜」
紅茶の、透き通る様な香りが漂ってくると共に、ひまりとみおも席に着いた。
ひまり「そんで?わざわざこんな所まで来て何聞きたかったの?何でも言って」
魔耶「いやぁ、明日の試験のこと詳しく聞きたいなと思って…」
ひまり「あぁ、明日だもんね〜…わかった。具体的になにを聞きたいの?」
ブラッカル「持ち物とか、ルールとか、集合時間とか、場所とか…細かいことを聞いておきてぇな」
ひまり「そっか。じゃあ持ち物から説明…したいんだけど、その前に…」
ひまりがチラリとブラッカルの方を見る。カルセナの様子がいつもと違うことに気がついたんだろう。
ブラッカル「…ん?あぁ、私か?また説明すんのめんどくせぇなぁ。…私はこいつ(本体)とは別の人格の…まぁブラッカルと呼んでくれ」
めんどくさかったのかだいぶ説明を省いて自己紹介するブラッカル。自分のことを何度も説明するのは大変そうだなぁ…なんて他人事として考える。
ひまり「別の人格…ふーん…イメチェンでもしたのかと思ったよ」
魔耶「口調までイメチェンする人はなかなかいないと思うけどね…。んで、試験について教えてくれる?」
ひまり「了解〜。持ち物は…戦うときに使う武器とかだね。背番号も必要なんだけど、それは試験が始まる前に係の人が配ってくれるから用意する必要はないよ。細かいルールも試験が始まる前に説明があるからそこは省くね」
魔耶「武器かぁ…私は自分でつくるから問題ないかな。ブラッカルは武器いる?素手?必要だったら君の分もつくるけど…」
ブラッカル「あー、いや大丈夫だ。私は素手でいく」
魔耶に武器が要らない事を伝える。
魔耶「そう?なら良いか。えーと、集合時間とかは?」
ひまり「ギルドの前に、午前9:00に集合だった筈。そこから係の人が別の場所に案内してくれるから」
魔耶「成る程、確かに街の中で行う様なものじゃないもんね。9:00に集合....寝坊したらヤバイなぁ」
ブラッカル「遅くまで起きてなきゃ良い話だろ?」
魔耶「それはそうだ。」
正論に対して、うんうんと頷く。
ひまり「それで、ルールね。えーっと、どうだったっけな〜.....」
椅子から立ち上がり、近くの引き出しを開ける。中には資料と思われる、沢山の色々な紙が詰め込まれていた。
ひまり「近々のイベントだから、上の方に入ってる筈.....あ、あったあった」
そこから一枚の紙を取り出して魔耶とブラッカルに見せた。
魔耶「これがルール?結構書いてあるけど....」
ひまり「上のランクに昇格する試験だからね。規則とか、何かと多いのよ。一番上のこれを見て」
指差した文は、参加者の死においては一切の責任を負う事は出来ない。と書いてあった。
魔耶「あ、これ申込書にも書いてあったわ〜.....」
ひまり「そうだったの?貴女達よく即行で申し込めたわね.....」
ブラッカル「ふーん.....死なねぇように、せいぜい足掻けって事だな」
ひまり「えっと他には.....制限時間は10:00〜14:00の4時間。それまでにゴールまで辿り着けなかった参加者は、失格とみなす」
先程指差した忠告文の下の文を読み上げた。
魔耶「ふーん…4時間もかかるとは思えないけど、そんなに長い道のりなの?」
ひまり「だいたい2〜3kmくらいだからそこまで長くないよ。ただモンスターに足止めされるから…」
ブラッカル「ふん、モンスターなんか全部ぶったおしてやるよ」
…流石ブラッカルさん。心強い。この人なら本当にモンスターを全部倒してしまいそうな気がするから不思議だ。
ひまり「…あと、多分飛ぶのはなしじゃないかなぁ。今まで飛べる人なんていなかったから分かんないけど、失格とみなされるかもしれないから飛ばないほうがいいよ」
確かに、飛んでいくのは近道をするのと同じだし、フェアではないか…
魔耶「わかった。飛ばないようにするよ。…他のルールは?」
ひまり「えっとね、他の参加者を故意に攻撃するのは禁止…だって。参加者が参加者に怪我をおわせた場合、反則と見なされる」
ブラッカル「なんだ、そうなのか?他のやつらもぶったおしていけば楽だと思ってたのによ」
ひまり「その役目はモンスターが担っているから…。昔は攻撃しても大丈夫だったらしいんだけど、そのせいで死者が増えるから禁止になったんだって。かすり傷を負わされたせいでモンスターから逃げられず、死んじゃった人とかもいるから…」
ひまりの言葉に身震いする。ほんの少しの妨害が、その人の命を奪うことにも繋がるってことか。
魔耶「な、なるほどね…怖いわ…」
ひまり「試験だから…そういうものよ。あとは特に大事ではないかな…」
重要なことは伝え終わったらしく、読んでいた紙をたたんでテーブルにおいた。
ひまり「他に質問は?」
魔耶「はいはーい。毎回の試験で、参加者と死者はどれくらいでるんですか?」
これは自分がやられるかもしれないという恐怖からではなく、純粋に試験がどれほど難しいのかを知るためにした質問だった。正直、ちょっと凶暴な動物くらいに負ける気はしない。ブラッカルもいるし。
ひまり「そうねぇ…参加者はだいたい60人前後。死者はそこまででないわ。参加者の死…とか書いてあるけど、そこまでギルド側も無責任じゃない。ちゃんと役員の人やマスターが参加者が死んでしまう前に助けに入るわ。まぁ、助けに入られた時点で失格になっちゃうけど…」
ブラッカル「意外と参加者少ないんだな?軽く150人くらいはいるのかと…」
ひまり「危険だからねぇ。Eランクでも結構いい仕事はあるだろうし…」
そういってひまりは席を立ち、私達に声をかけた。
ひまり「そろそろ夕飯の時間だから支度するわ。あなた達も食べていきなさいよ」
魔耶「まじですか!?ありがたい…」
ブラッカル「おぅ、せっかくだしいただいていくか」
ひまり「その代わり、しっかり手伝ってね」
カル魔耶「頑張りまーす」
二人で皿を運んでいる途中、いいことを思い付いた。
魔耶「いでよ!くまさん!」
手のひらの上にくまさんをつくりだす。
ブラッカル「…?なにをするんだ?」
魔耶「いやぁ、明日試験だから特訓しようかと…。昨日今日じゃ変わらないかもしれないけど」
そういってくまさんにお皿を持たせ、操ってテーブルまでお皿を運ばせる。
魔耶「細かい動作をさせれるようになれば、それだけ細かくくまさんを操れるようになるってことだからね。技の精度が上がるよ。修行修行」
ブラッカル「なるほどな。便利そうな能力だ……あ、そういえば」
ブラッカルが思い出したように言う。
ブラッカル「試験中、能力は使っても大丈夫なのか?」
ひまり「うーん、能力と言えど、その人自身の実力だからねぇ.....良いんじゃないかしら?それで失格になるのはおかしい話だしね」
魔耶「おー良かったぁ〜....能力無しだったら流石にキツイからさー」
ブラッカル「んー、まぁお前なら行けんじゃね?」
魔耶「んな無責任な.......」
魔耶のくまさんの分の働きもあって、夕飯の準備は手っ取り早く終わらせる事が出来た。
テーブルの準備をしていた間に、ひまりとみおが二人で料理を作ってくれていた。段々と、美味しそうな匂いが漂ってきた。
ブラッカル「あー、腹減った」
魔耶「あっれ?何か、宿でめっちゃチョコ食べてなかった.....?」
ブラッカル「それはそうだが.....別腹ってモンがあんだろ」
魔耶「分からんでもないけどさ....」
雑談していると、キッチンからひまりが出て来た。
ひまり「はいはいお待たせ〜!!いっぱい作っちゃったから、遠慮せずに沢山食べてね!」
両手に、先程の匂いの根源と思われる料理を持っている。それをテーブルの上にゴトッと置いて勧めた。
魔耶「うわ〜、めっちゃ美味しそう!!」
ひまり「ふふん、さ、冷めないうちにどうぞ!!」
魔耶カル「いただきまーす!!」
用意しておいた皿に料理を盛り付ける。
ブラッカル「あ、お前ちょっと多いぞ。よこせ」
魔耶「量そんなに変わらんでしょ!!てか取るなー!自分で盛れ!」
ひまり「まだキッチンにあるから喧嘩しないでよ〜」
変な事でギャーギャー騒いでる二人を止める。その表情は、少し困って、でもとても嬉しそうなものだった。
魔耶「…はぁ〜!美味しかったぁ…ごちそうさまでした!」
ひまり「お口に合ったようでよかったよ。…それに、いつもよりもにぎやかで楽しかったし♪」
ひまりがチラリとブラッカルの方を向く。
ブラッカル「はは、魔耶が意外と頑固だったぜ」
魔耶「君が私のご飯をとろうとするからでしょうが。かと思えば私のご飯を大盛りにしたりするし」
思い出しただけで吐きそうになるほど大盛りにされたご飯を思い出す。少し目を離したスキにやられるとは…
ブラッカル「あれ全部平らげたのはすごかったわ」
魔耶「お陰さまで…腹がはち切れそうですよ…」
ひまり「あはは!面白かったよ☆」
魔耶「面白さは求めてないんだよなぁ…少し食いざまししてから帰っていいですか…?」
ひまり「うんうん、しょうがないよね。たっぷりくつろぎな〜」
ひまりの言葉に甘え、ゴロンと床に寝転がる。
ブラッカル「ご飯のあとにすぐ寝たら太るぞ〜」
魔耶「誰のせいで寝たくなったのかわかりますか〜?…それに、私の能力は魔力をたくさん使うから。魔力使ってればめっちゃカロリー使うから。つまり太らない」
視線を手洗い場に向ける。そこではお皿を洗っているくまさんの姿が見えた。
魔耶「あー…くまさん増やすか。集中するから話しかけないでね〜」
新たなくまさんを2匹召喚し、お皿洗いをさせる。
3匹操るのは相当な集中力が必要なようで、起き上がって目を瞑っていた。
ブラッカル「同時に3匹が最高なのか?」
魔耶「そうだよー」
集中しているため、魔耶の返事はどこか投げやりな感じがした。
ブラッカル「ふーん…大変そうだなぁ」
ひまり「そうね〜。…聞きそびれていたけど、魔耶の能力はどんな能力なの?」
ブラッカル「魔力を形にして物をつくり、操る…って能力だったかな」
ひまり「へぇ…便利ね…私も能力がほしいわ〜。ブラッカルはどんな能力なの?」
ブラッカル「私か?まぁ....相手の戦闘能力を見極める....みてーな力は持ってるが.....」
ひまり「へー、それはそれで便利そうだけどねぇ。因みに、いつものカルセナの方は?」
ブラッカル「あぁ、こいつは未来を読む事が出来るって感じだ」
ひまり「皆すごい能力持ってるんだねぇ.....人間じゃなくなればそう言う能力手に入れられるのかしら」
そう言って、ソファーの背もたれにぐたっともたれ掛かる。
ブラッカル「.....いや、何だかんだ言って、やっぱり人間が一番良いと思うけどな」
ひまり「そう?うー....それなら良いんだけどね〜」
くまさんを操る為、集中している魔耶を見る。ブラッカルに人間が一番楽と言われても、やはり魔耶達の種族や能力が羨ましい様子だった。
魔耶「ッはぁあ.......っ!!」
目を閉じていた魔耶が急に動き出し、再び床にドテッと寝転んだ。
ブラッカル「どうした?何かあったのか?」
魔耶「.......もー疲れた。」
ブラッカル「あー大丈夫そうだな」
魔耶「馬鹿やろー、どんだけの魔力使うと思ってんだー。しかも今お腹いっぱいだしよぉー.....」
本当に疲れて来ているのか、気力無さげに返事をした。だが、くまさんを量産したお蔭で殆ど皿洗いは終わっていた。
ひまり「手伝ってくれてありがとう、残ったのは私達に任せて」
魔耶「りょーか〜い.....うおー....また疲労骨折するわ〜」
ブラッカル「何だまたって......まぁ確かに、表の方では色々あったらしいな」
魔耶「そうなんです〜。色々あったんです〜。飛べなくなったりして大変だったんだから…」
ブラッカル「飛べなくなるなんてことがあるんだな?」
魔耶「私は羽を使わないと飛べないから…羽に傷がついたり背中になんかあったりすると飛べないのよ。カルセナは羽なしで飛べるから羨ましいわ…」
ブラッカル「ふーん…羽があったほうがかっこいいと思うけどな?飛んでるって感じがするだろ」
私達の会話を聞きながら皿洗いをしていたひまりが振りかえる。
ひまり「私にしたらどっちも羨ましいけどね?空を飛んだり、能力を使ったり…あーあ、私も別の種族だったらなぁ〜」
魔耶「…私は普通がよかったけど…」
ひまり「…?どうして?」
魔耶「シンプル イズ ベスト!」
ブラッカル「普通が一番ってことだな」
…あれ?ボケたのに、ツッコミいれてくれないの…?なんかすんなり受け流された…
魔耶「そういうことっす…。いじめとか恐れられたりとかしないから、昔は私も人間だったらなって思ってたよ。今もね」
ひまり「ふーん…無い物ねだりってやつかな?」
魔耶「そうだねぇ」
三人でクスクスと笑い合う。
ブラッカル「さて、長居しちまったな。そろそろ帰ろう。明日の試験に遅れるといけねぇ」
魔耶「そうだね。了解〜。んじゃあひまり、みお、また明日ね〜!」
ひまり「もう帰るの?分かったわ。また明日、会場で会いましょう!」
ひまりとみおに見送られて家を出た。
外は日が落ちて薄暗くなっており、すでに星と月が出始めていた。
魔耶「ふぅ…やっぱりあの二人は優しいな…天使かな……そういえば、まだもとに戻らないね?」
ブラッカルに話しかける。もうそろそろ5時間近くたつのに、まだもとのカルセナに戻っていなかった。
ブラッカル「私に言われてもよ……まぁ、明日の試験とやらが終わるまでもとに戻る気はねぇが」
魔耶「あ、そっすか.....うわ〜、明日か.....改めて確認すると、ちょっと緊張するなぁ」
歩きながら、星がちらついている空を見上げる。
ブラッカル「どんな怪物が出てくんだろうな......ははっ、楽しみだ」
明日の試験、出てくるモンスターを想像して、軽く身震いした。
魔耶「楽しみ、ねぇ.....」
ブラッカル「....何だよ?」
魔耶「いやぁ、楽しみっちゃあ楽しみではあるけど....命を掛ける様なものだからさー」
ブラッカル「そーやって弱気になるからホントに死んじまうんだよ。ひまりが言ってたろ、危なくなったらギルドの奴らが助けに入るって.....強気になれ強気に」
フォローしつつ、魔耶の背中をバシバシと叩く。
魔耶「げふっ!ちょ、止め....!!吐くぞっ!!」
ブラッカル「あっはっは、そんだけの元気がありゃあ、明日は大丈夫だな!」
咳払いをして、魔耶は声を調えた。
魔耶「ゲホッ、ゲホッ.....ふぅ、全く....ホントに吐くかと思ったわ!!」
隙をついて、ブラッカルの背中にお返しする。良い音が大通りに響く。
ブラッカル「ってぇ〜.....怖えーなお前....」
魔耶「今日は解読やめて、さっさと寝よっかー。明日に備えて!」
痛がるブラッカルを他所に、元気に声を発する。
ブラッカル「....ふぅ。はいはい、早く寝ましょうね〜」
日が完全に落ちた頃、やっと部屋まで戻って来た。
テーブルの上には放置してある分厚い本と、お菓子が置いてあった。
魔耶「おー。帰ってきたぁ」
ブラッカル「背中いてぇなぁ……私はシャワー浴びてくる」
そういい残して、ブラッカルはシャワールームに入っていった。
魔耶「いってら〜…うー、お腹一杯すぎて吐きそう…」
チラリと散乱したお菓子を見つめる。
魔耶「こういうときは………すっぱいお菓子食べるしかないよね!」
元気いっぱいにそういい、ベッドの上であぐらをかきながら自分のお菓子を食べ始めた。
はち切れそうなはずだったお腹が簡単にすっぱいお菓子を受け入れる。
魔耶「やっぱすっぱいのは別腹だよ…」
すっぱいお菓子を受け入れるお腹を感じて、そう呟いた。
ブラッカルが言ってた別腹は本当にあるんだろうな…なんて考えてしまう。
もぐもぐと梅グミを食べながら、これからどうしようかと考え始める。
魔耶「うーむ…ブラックカルはシャワー浴びにいったから、暇だなぁ。ずっとこうやってお菓子食べてるのはつまんないし、本は読む気にならないし…」
そこで、明日の試験に向けて準備をすることにした。
宿に置いてあった紙とペンを取りだし、テーブルの上に置く。
魔耶「武器を考えよう!」
魔耶の能力は想像、創造しなければならない能力だ。頭の中でつくりたいものを想像し、それを創造する。ゆえに、ある程度武器などの構想を練っておいたほうが簡単につくれる。
…正直、あまりデザインセンスはないのだが。
魔耶「んっと…まずは双剣のデザインでも考えようかな…持ち手は持ちやすさ重視で、ここらへんはちょっと工夫でもいれてみようかな……」
魔耶は戦闘中に様々な武器をつくっては消しているので、それぞれの武器のデザインや使いやすさなどを考えなければならなかった。だが、彼女はそれを考えるのが好きだった。
魔耶「実際につくってもいいんだけど、魔力を使いすぎると大変だからなぁ…今日は皿洗いして疲れたし、構想だけにしておこうかな…」
そうして、ブラッカルがシャワーからあがるまで時間を潰して過ごした。
[うわぁ、一部ブラックカルになってる…wブラッカルです。ごめんなカルさん…w]
231:多々良:2020/04/19(日) 20:55 ブラッカル「ふぅ〜......上がったぞー」
バスローブに着替えたブラッカルが、髪を拭きながら出て来た。
ブラッカル「......ん、何してんだ?」
テーブルに向かっている魔耶の側に近寄り、ちらっと様子を伺う。
魔耶「おぉ上がったかー、いやさ、明日つくる武器のデザインを考えてて....こう言うのは事前に構想練っといた方がやりやすいのよ」
ブラッカル「ほーん.....流石魔耶だ。こいつとは頭の出来が違ぇな」
笑いながら、ベッドに腰掛ける。一度テーブルの上にあるクランチチョコに手を伸ばそうとしたが、今日はまぁまぁ食べた、と言う事でもう食べない事にした。
魔耶「そんな事無いよ〜。あ、んじゃあ私も一回シャワー浴びて来よっかなー」
シャワールームに向かう、少し照れ気味な表情の魔耶が頭に残った。
少しして、シャワールームの戸が閉まる音がした。
ブラッカル「......さてと、いつまでこのままで居れるかね....」
ブラッカル「ーーおい、起きろ」
カルセナ「.......うぅん....まだ眠い......え、何?」
ブラッカル「お前に言いてぇ事がある」
カルセナ「....は?え?....何で私が『こっち側』に居るの....!?ちょっと!?」
ブラッカル「明日は昇格試験だ。それに伴って、明日の昼頃までお前の表面を借りる事にする」
カルセナ「いや話聞けって!!私が試験出たいんだけど!!?」
ブラッカル「んじゃあ、それだけだ。暫くそこで大人しくしてろ。心配すんな、魔耶には迷惑掛けねぇからよ」
カルセナ「ねぇ待って!?おーい!!出してーー.....」
ブラッカル「.....ま、こんくらい言っときゃあ良いだろ。....私も何かして時間潰すか」
そう言って、宿の備品である本を読んだりして時間を潰した。
魔耶「ふぅ。あがったで〜。…あれ?本読んでるの?」
ブラッカル「あぁ。暇潰しだよ」
魔耶があがったのを確認し、読みかけの本を閉じる。
ブラッカル「じゃあ寝るか?」
魔耶「ん〜…先寝てていいよ。もう少しだけ武器考えるから」
魔耶は再びテーブルに向かい、書きかけだった武器の構想を書き始めた。
ブラッカル「そうか…試験は明日なんだからな。夜更かししたら寝坊するぞ」
魔耶「なんか親みたいだな…わかってるって、すぐに終わるよ。…多分」
ブラッカル「なんか不安になるような言葉が聞こえたんだが…?…しょうがない、私も起きていよう」
魔耶「えぇ、寝てていいよ…?」
ブラッカル「お前が夜更かししないか見張ってるんだよ」
魔耶「むぅ…じゃあさっさと終わらせますかね…」
魔耶「…そういえばさ」
作業を始めて10分ほどたったころ、魔耶が話しかけてきた。
魔耶「ブラックカルって苦手なものとかないの?私は虫が苦手だったり、お子様舌だったりで弱点はたくさんあるけど…」
ブラッカル「んー........これといって特に......」
魔耶「えー、そんなことある?流石に苦手なものの一つや二つはあるでしょー」
ブラッカル「苦手なものねぇ........計算.....とか」
魔耶「計算?」
ブラッカル「基本的に頭使うみてーなのは嫌いなんだよ」
魔耶「あぁ、成る程......(脳筋だからなぁ....)」
ブラッカル「ま、簡単なやつなら解けない事もないけどな」
魔耶「ほほーん.....じゃ、問題でーす。7の4乗はいくつでしょーか?」
ブラッカル「な....7の4乗....?えーと、7×7=49で.....49×7が.....えー....」
出された問題を、頭を抱えて必死に考える。
魔耶「....もしかして分からん系のやつですか?わりきし簡単な方だと思うけど....」
ブラッカル「う、うっせぇ黙れ!!これだから頭を使うのは嫌なんだ.....」
魔耶「はっはっはー、頑張れ〜」
魔耶「.....ん〜、こんなもんかな〜?」
納得のいくデザインになったのか、大きく背伸びをする。
ブラッカル「おー、お疲れちゃん」
先程出された問題をすっぽかしてゴロゴロしている様子だった。
魔耶「はぁ…もう疲れたわ〜。寝よ寝よ〜…」
ブラッカル「あぁ、もう私も眠くなってきたからな…」
二人そろって大きなあくびをし、それぞれのベッドに潜り込む。
ブラッカル「電気消すぞ〜」
ブラッカルの一言で部屋の明りが消された。窓からさし込む月明りだけがわずかな光となる。
魔耶「…ブラッカルはさ」
魔耶が口を開く。
魔耶「…寝たら、もとに戻るんじゃない?」
ブラッカルが表に出てきてた時、いつも『まだ眠い』とか『寝たりない』とか言っていた気がする。つまり、寝てしまえばもとに戻るのではないかと考えたゆえの発言だった。
ブラッカル「…いつもはそうかもな。でも、今夜は大丈夫だと思うぞ」
魔耶「…?なんで?」
ブラッカル「あいつにしっかり言っておいたからな」
魔耶「あぁ…ちゃんと言ったのね〜…カルセナ残念がっただろうな〜」
特に感情を込めて言った訳ではないが、あのカルセナなら試験に出たかっただろうな、と予想できた。
ブラッカル「ははっ、ああ。出たがってたぞ。…まぁ私があいつの助けを求めなければならない状況になったら出してやるよ」
魔耶「そんな状況できるの?」
ブラッカル「さぁな。…でも、意外とあるかもしれねぇぞ。あの蛇幹部の神経毒にやられたときだって、あいつがなんとかやったから動けたんだ」
魔耶「へぇ…協力プレイだねぇ…」
ブラッカル「同じ『カルセナ』だからな。協力くらいするさ。…そろそろ寝よう。明日寝坊したら困る」
魔耶「了解で〜す。おやすみ〜」
ブラックカル「おやすみ〜…」
魔耶「.......う〜ん.....」
ぱちりと目を開ける。カーテンを閉めた筈の窓からは何故かさんさんと日が照っていて、小鳥の囀りもいつも通り聞こえてきていた。魔耶が目を覚ましたのは、それらのせいだった。
ブラッカル「よぉ、魔耶」
ゆっくりとテーブルの方向を向くと、ホットコーヒーを飲んでいるブラッカルが見えた。起きてはいるが、まだ着替えてもいない様子だった。
魔耶「うん....?あぁおはよー....起きるの早くね?」
時計が示している時刻は、まだ朝の7:40くらいだった。集合時間に間に合うには、8:00くらいに起きれば良いのだが....。
ブラッカル「まぁな......良く分からねぇけど、昨日何か魘されてあんま寝れなくてよ.....」
魔耶「ほへぇ〜......それは大変でしたねぇ......あ〜、疲れは取れたかな....?」
ベッドの上で背伸びと欠伸をする。
ブラッカル「私はちっと眠ぃけどな.....ま、仕方無ぇか......」
魔耶「ふぅ〜、今日がいよいよ試験か〜......今の内に体力温存しとこっと」
そう言って、またベッドに寝転がった。
ブラッカル「....?何するつもりだ?」
魔耶「二度寝して体力温存......」
ブラッカル「すんな。そしたらお前、寝坊すんぞ....」
魔耶「むぅ....そうかな.....」
ブラッカルに言われ、仕方なく体を起こす。
魔耶「私もコーヒーでも飲むかな。砂糖ドバドバ入れてめっちゃ甘ったるくしてやる…」
ブラッカル「甘すぎて目が覚めそうだな…そういえば苦いもの苦手なんだっけか?」
魔耶「だ〜いせーいかーい…お子様舌で悪かったね…」
少し暗い顔をしながらコーヒーを淹れ始める魔耶。「…ココアにすればよかったか…?いや、逆に眠くなりそう」なんてブツブツと呟きながらコーヒーに砂糖と牛乳を入れて甘さを調節している。
ブラッカル「ははっ、本当にお子様だなぁ。何年生きてるんだよ?」
魔耶「…かれこれ300年は生きてますねぇ…。言わないでよ。自覚してるから…」
ちょうどいい甘さに調節したコーヒーをテーブルに置く。
お子様舌を治したほうがいいのだろうか?…いや、あと500年あっても無理だろうな。…というか、そもそも努力をしないというのが目に見えている。
ブラッカル「そんなんじゃ大人になれないぞ」
魔耶「…もう人間の大人より長生きしてるわ」
淹れたコーヒーを口に運んでみた。
…うん、我ながら最高のできだと思う。苦さ控えめ、甘ったるすぎない甘み。いっそコーヒー職人にでもなろうかしら。
…なんて、朝だからか変なことを考えてしまう。
ブラッカル「…さて、どうする?まだ9時までには時間があるぞ?」
魔耶「そうねぇ…朝ごはんでも買いに行くか〜。朝の空気を吸えば眠気も覚めるだろうし」
ブラッカル「そうだな。んじゃ、少ししたら着替えるか」
飲み物を飲んで少しゆっくりした後、各々の私服に着替えて宿を出た。
朝の空気は昼間より少し冷たかったが、今はその方が心地良く思えた。
魔耶「うおぉ〜、朝の空気〜」
ブラッカル「天気も良いし、今日は絶好の試験日和だな」
魔耶「確かに、今日で良かったわ〜.....てか結構晴れるねこの世界」
ブラッカル「さーね。たまたまなんじゃねぇの?」
魔耶「もしくは晴れ女だったり.....」
ブラッカル「はは、有り得るかもな」
まだ完全に目覚めていない脳で考えた雑談をしている内に、大通りに位置する商店街までやって来た。
きっと仕事が朝早い人々の為だろう。朝早くにも関わらず、まぁまぁな店が営業を開始していた。
魔耶「うーん、朝ごはん何が良いかな〜?」
ブラッカル「腹は満たしておきてぇな.....ちょい多めに食うか」
魔耶「朝からそんな食えんの?」
ブラッカル「気合いで食えるだろ」
魔耶「(流石脳筋......)んー、取り敢えず歩いてってみるかー」
ブラッカル「だな。ちょうど良いの無ぇかな....」
二人は朝ごはんを調達する為、商店街を歩き始めた。朝も早いと言う事で家族連れの影は無く、一人で歩いている人が大半を占めている様だった。
魔耶「久し振りに早く起きたなぁ....こんなに朝と昼で違うんだなー」
ブラッカル「何が?」
魔耶「いやー、人口密度がさ」
ブラッカル「そうだなぁ....この街の奴ら皆、お前みたいな寝坊助なんじゃないか?」
冗談紛れで魔耶をからかう。
魔耶「む、言っておくけどねぇ、カルセナも同じ様なもんだったからね?知ってるかもしれんけど。あ、てかブラッカル、いつもはずっと寝てるって聞いたぞー。ブーメランだからなその言葉!」
ブラッカル「な.....こいつ言いやがったのか?!」
魔耶「ふっふっふ、自分の事は棚に上げるんじゃないぞー」
ブラッカル「くそ......」
二人で冗談を言い合っているうちに、とあるパン屋さんの前にたどり着いた。
魔耶「おぉ、パン屋さんじゃん。なんか買っていこうよ」
ブラッカル「そうだな。パンだけだと足りねぇかも知れねぇけど」
魔耶「ほんと、どんだけ食べるつもりなのよ…」
木製のドアをぐっとおす。そのひょうしにドアについていた小さなベルがからんからーんと音を上げた。
店員「いらっしゃいませー!」
店員のはりのある声が店の奥から響いてきた。
お店の中はところ狭しとパンが並べられ、パンの甘い良い匂いが漂ってくる。
ブラッカル「うまそうだな。魔耶はどれにする?」
魔耶「うん、めっちゃ美味しそう!どうしよっかな〜」
パンは色々な種類があって、どれも美味しそうに見えた。
美味しそうな匂いが魔耶の嗅覚を刺激し、自分を食べてとパンが自己主張しているように感じた。
魔耶「さて、それぞれ好きなの買いますか〜」
入り口に近くに置いてあるトングとトレーを持ち、店内のパンを選び歩く。
ブラッカル「....お、これ良いな」
そう言ってトレーに乗っけたものは、一般的にチョコロールと呼ばれるものだった。
魔耶「またチョコか....好きすぎでしょ」
ブラッカル「良いだろ、これが私の力の源だ」
冗談紛れn聞こえるが、本当はそうなのかもしれない。このブラッカルが出てきたのは、クランチチョコを食べた直後だったからだ。
魔耶「ふぅ〜ん....私は何にしよっかなー」
朝早くなので全てが焼きたてだったらしく、全部の種類のパンを食べたくなる程に香ばしい匂いを放っていた。
魔耶「んー....え、ブラッカル選ぶの早くね?」
ブラッカルのトレーには、数種類のパンが既に乗せられていた。
ブラッカル「いや、お前が遅いんじゃね?」
魔耶「そうかなぁ.....あ、これ美味しそう」
魔耶が見つけたのはクロワッサンだった。
ブラッカル「…お前はシンプルだよな」
魔耶「シンプルイズベストなんだって。…あ、ハチミツトーストだって!めっちゃ美味しそう…入れちゃえ」
魔耶は魔耶らしく、甘いパンをたくさん入れはじめた。…もう朝ごはんというよりおやつのようだ。
ブラッカル「…私も適当に選ぼう…」
二人がお会計をするころには、トレーは甘いパンとチョコのパンで埋め尽くされた。
魔耶「はぁ。いい買い物したぜ〜」
パンの入った袋を持ち、上機嫌そうな魔耶。
ブラッカル「ずいぶん嬉しそうだな?」
魔耶「いやぁ、もとの世界ではあんまりパンとか食べなくて…。だからこんなに自由にパンを選んで買えるってうれしいのよ〜」
ブラッカル「ふーん…あ、あとでお前のパンも味見させろ」
魔耶「え〜自分のあるじゃ〜ん」
ブラッカル「一口くらいいいじゃねえか」
魔耶「じゃあブラッカルのも貰うからね」
ブラッカル「しょうがねぇな〜」
魔耶「なによそれー」
ブラッカル「さーて、もうちょっと買いに行くかな〜」
魔耶「え、まだ買うの!?」
ブラッカル「ちょっとだけ買いに行かせてくれよ、パンだけじゃ足りねぇ」
魔耶「もう、しょうがないなぁ.....お好きにどーぞ」
ブラッカル「サンキュー、あっちの方見に行こうぜ」
そうして色んな店を回って、朝ごはんを食べに宿に戻る事にした。
ブラッカル「.....うん、こんだけありゃあ十分か」
魔耶「十分にも程がある....つられてちょっと買っちゃったじゃん」
ブラッカル「食えなかったら私が食ってやるよ」
魔耶「....いや、自分で食べますよー」
店を回り終えて時間が経ったお蔭で、街の人々の姿も増えてきた。大通りに面している店は、暖簾や看板を出したり掃除をしたり....と、それぞれ準備を進めている。
ブラッカル「.....お、あいつ強そうだな....」
ふと目に入ったその者は、ぱっと見ギルドのハンターだった。今日の昇格試験にきっと参加するのだろう。
魔耶「何、そうなの?」
ブラッカル「あーゆーのは大体で分かる。まぁ、負ける気はしないけどな」
少しドヤ顔を魔耶に見せる。
魔耶「ふ〜ん....もしかしたら負けちゃうとかあるんじゃないの〜?」
ブラッカル「馬鹿言え、私が負けるかっての」
魔耶「…ワースゴイジシーン(脳筋だからか…)」
ブラッカル「…なんか今失礼なことを考えなかったか?」
魔耶「いやまったく」
さらっとブラッカルの疑いをかわし、話題をすり替える。
魔耶「きっと、参加者はみんな腕に自信があるような人ばっかなんだろうね?」
ブラッカル「…そうだろうな。腕に自信がないのに参加するなんてただの死にたがりだろ」
魔耶「そうだねぇ…。やっぱ男の人が多かったりするんだろうなぁ。私達みたいな見た目15、6歳くらいの女の子なんて参加しないだろうね〜」
ブラッカル「はは、男ばっかだろうな。それも背が高くてムキムキだったり。…お前小さいからな〜。迷子になるなよ?」
ブラッカルの言葉にぴくりと体を反応させる。
魔耶「……」
ブラッカル「ん?どうした?」
魔耶「…なんでもない。…いこう」
急に魔耶のテンションが下がった。
…一見特に様子は変わっていないように見えたが、目だけは違った。いつもの暖かい目ではなく、氷のように冷たい目をしている。
ブラッカル「背のこと…き、気にしてんのか…?」
魔耶「…次その言葉を発したら全力で貴様を潰す」
ブラッカル「…」
いつもの温厚な魔耶とは声の高さも口調も違う。
本気で気にしてるんだな、とブラッカルは悟った。
ブラッカル「…良い勝負にはなりそうだがな…殺意満々で来られるのは流石に怖いからもう言わないよ」
魔耶「それならよろしい」
それから宿に着くまでは魔耶は普通に接してくれた。若干言葉にトゲはあるものの、ほとんどいつもの魔耶と変わらなかった。
…背が低い。これは禁止ワードなのだと学んだブラッカルだった。
ブラッカル「ふぅ…着いたな〜。よし、メシにしようぜ」
魔耶「うん。色々まわってお腹空いたよ…」
ちょうど魔耶のお腹がグーと音を鳴らした。
さっそく買ってきたパンの袋からクロワッサンを取り出す。
魔耶カル「いただきまーす」
二人共、各々のパンにかぶり付く。
魔耶「うんうん、やっぱ美味しいわ〜」
ブラッカル「やっぱシンプルイズベストってか?」
魔耶「そうですよー」
ブラッカル「ふーん.....こっちも中々いけるな」
魔耶「そりゃあ、美味しそうだもんなー.....ちょっとジュースジュース....ブラッカルいる?」
椅子から立ち上がり、冷蔵庫に入っているジュースを取りに行った。
ブラッカル「いや、いらねぇ。私食事中にあんま飲み物飲まない主義だからな」
魔耶「どんな主義持ってんの....?詰まっても知らんぞ〜」
ブラッカル「詰まらねぇよ」
硝子のコップにジュースを注ぐと、コポコポという音と共に爽やかな香りが漂ってきた。
魔耶「やっぱこれだね〜、このジュース好きなんだよな〜」
ブラッカル「そうなのか.....私はどっちかと言うと炭酸の方が好きなんだよなぁ」
魔耶「冷蔵庫にあったよ?炭酸」
ブラッカル「うーん、今はいらねぇな....」
食事をしながら雑談をしていたら、いつの間にかまぁまぁな時間が経っていた。
魔耶「あ、もうこんな時間じゃん!」
ブラッカル「んー?本当だ....んじゃ準備始めるか〜」
魔耶「そうだね…まぁ準備といっても、ただギルドに向かうだけなんだけど…」
ブラッカル「今のうちに武器つくっておけばいいんじゃねぇか?」
魔耶「重いから嫌。戦ってる最中につくればいいのよ〜そんなもの〜」
ブラッカル「まぁそうか…?」
残りのパンを急ぎ目に食べ終え、再び宿から出発した。
魔耶「ふぅ。お腹いっぱいパン食べたし、魔力も満タン!天気もいいし…最高のコンディションだね〜」
ブラッカル「そうだな。さっさとモンスターをぶっ倒して、ぶっちぎりの1位になってやるよ」
魔耶「…置いていかないでね…」
ブラッカル「はは、置いていくわけねぇだろ。もし魔耶が歩けなくなったとしても、おぶってゴールまで連れていってやるよ」
魔耶「…流石に歩けなくはならないかな…でも、頼もしいぜブラッカルさんよ。頼むね〜」
ブラッカル「任せとけ。…お、ギルドが見えてきたな」
ギルドの入口にたくさんの人だかりができているのがみえた。話しながら歩いているうちに、もうギルドの近くまで来てしまったようだ。…あの人だかりは、きっと参加者だろう。
ブラッカル「いよいよって感じだな。腕が鳴るぜ…!」
魔耶「こっちは心臓バックンバックンだよ…」
少し急ぎ足になってギルド前の人だかりへと向かう。近くまで寄ると、服装的にギルドの係員だろうか。その人に背番号を渡された。
魔耶「53か.....てことはブラッカルは?」
ブラッカル「54だ。つまり、今のところこんくらいの参加者が居るってことだな」
魔耶「もっと何百人とか居ると思ったんだけど.....以外と少ないねぇ」
ブラッカル「まぁ、街の一角レベルのギルドだからこんなもんなんじゃねぇの?」
魔耶「確かに、どこかにもっと大きくて専門っぽい所もあるのかな....」
ブラッカル「ま、それがなきゃこの世界の化物を倒す奴が居なくなるからな....多分あるだろ」
背番号を付けながら話す。と、そこへ一人の少女....お馴染みのひまりがやって来た。
ひまり「やっほー二人共!!」
魔耶「あ、ひまりおはよー。どうしたの?」
ひまり「いやー、今日は試験だからね〜。友をお見送りしようと思いまして」
ブラッカル「つまり応援か。サンキュー」
ひまり「いやいや〜、それにしても、やっぱ緊張してる....?」
二人の顔を覗いて問いただした。
魔耶「もうさっきから心臓がヤバいよ〜....破裂しそう」
ブラッカル「緊張てか.....ワクワクはしてっかな」
ひまり「ふふ、大体そう言うものだよね〜。でも緊張くらいなら全然大丈夫よ〜」
魔耶「....?何で?」
ひまり「毎年毎年、開始直前に怖くなってリタイアする人も少なくないからね」
ブラッカル「ふーん....とんだ腰抜けだな」
魔耶「うん…。参加するのは『腕に自信がありすぎて、もう勝てる自信しかない!』って感じの人ばっかだと思ってたのに…」
ひまり「見栄を張って参加したり、自慢するために参加したりっていう人もいるからねー」
ひまりが人だかりに視線を向ける。…参加者の中には、青白い顔をした人が数名見えた。緊張からなのか怖さからなのかは分からないが、その顔はまるで病人のように青白い。
ブラッカル「ははっ、怖いならでなけりゃいいのによ」
魔耶「人間には見栄ってものがあるんだよ、きっと。よくわからんけど」
ひまり「うんうん、人間ってそういうものだよ〜。…あ、そろそろ始まるかな?」
時計を見ると、9時になる1分前だった。
…しばらく見ていると、カチリと音がして長い針が9時を示した。
[間違えたぁぁぁ!!!長い針じゃない!短い針です!]
248:多々良 hoge:2020/04/23(木) 07:09【ドンマイw】
249:多々良:2020/04/23(木) 17:22 係員「皆さん、9時になりました。では、只今をもって受付時間を終了と致します」
時計台の鐘が鳴り終わると同時に、係員の案内が入る。人だかりの話し声が一気に静かになった。
係員「では、これから会場となる場所まで移動します。移動する際には、少し離れた所に機関車が用意されておりますのでそちらを使うことになります。ご理解の程宜しくお願いします」
一通り説明が終わると、一同が移動を始めた。
ひまり「あ、それじゃあ頑張ってね!武運を祈ってるわ」
見送るひまりを後に、係員に着いていく事にした。
魔耶「へぇ〜、機関車なんてあったんだ....中々ハイテクだなぁ」
ブラッカル「この世界は時代で言うとどんくらいなんだろうな」
魔耶「さぁ〜....でも機関車があるくらいだからね。結構発展してそう....」
暫く歩くと、小さな倉庫の様な所に到着した。
係員「はい皆さん、ここからは機関車に乗って頂きます。前の方から順番にお願いしまーす」
ぞろぞろと機関車に乗り込む。魔耶達も、空いている座席に座る事が出来た。
ブラッカル「ふぅ、一段落だな」
魔耶「そうだねぇ。ちゃんと体力温存しとかないと」
ほっと一息ついて窓の外を眺める。
これからモンスター達と戦うなんてとても考えられないくらいきれいな青空だった。
ブラッカル「しっかし、会場まではどれくらいかかるんだよ?ずっとこうやって窓の外を眺めてるなんて暇じゃねぇか」
魔耶「そうだよねぇ…」
機関車が動きだし、まわりの景色が動き始める。気がつけばもといた倉庫のような建物は見えなくなってしまっていた。
魔耶「体力温存っていったのにあれだけど…」
魔耶もずっとこうやっているのは退屈だと思った。せっかくの自由時間をボーッとしてすごすのなんてつまらないではないか。
…そう考え、手のひらの上にあるものをつくった。
魔耶「…トランプ、しようぜ!」
魔耶はついさっきつくった特製トランプを扇状に広げ、ブラッカルに見せた。
ブラッカル「おぉ!いいな!…だが、試験前に能力使ってて大丈夫なのか?魔力けっこう使うんだろ?」
魔耶「いやまぁ…そうなんだけど…会場までまぁまぁかかるだろうし、このくらいの大きさのならそこまで魔力使わないから大丈夫よ〜」
ブラッカル「ふぅん…まぁいいや。これでなにする?」
魔耶「なんでも。…別にトランプじゃなくてもいいけどね?小さいものならなんでもつくれるし」
ブラッカル「じゃあ……」
そうして、私達は会場に着くまで色々な遊びをして時間を潰した。楽しすぎて試験のことを忘れてしまいそうだったが、会場に到着して一気に現実に引き戻された気がした。
係員「到着しました。参加者の皆さん、機関車から降りてください。足元にはお気をつけて……」
ブラッカル「やっと着いたな。待ちくたびれたよ」
魔耶「うん…思ったよりも長かったねぇ……。でもそのお陰で魔力もほとんど変わってないし、これでよかった…のか…?」
係員「それでは皆さん、私に着いてきて下さい。会場までご案内します」
機関車から降りると、そこは広大な草原だった。成る程、ここら辺なら確かに戦うのにピッタリなロケーションだ。近くには岩山なども見える。
と、その時、遠くから何かの遠吠えが聞こえた。
魔耶「わっ、何だ何だ....?」
係員「申し遅れましたが、ここは、モンスターの巣窟とも呼ばれるかの様な危険な場所です。近いとは言え、もしかしたら、案内されている道中に襲われると言う事も覚悟しておいて下さい。その際には、私達係員も救助に務めますので....では、こちらです」
魔耶「うわ〜.....確かに、こんな所で固まってたら襲われそうだもんねぇ.....」
ブラッカル「ふん、良いじゃねぇか.....ワクワクしてくんな」
移動している最中、至る所から遠吠えが聞こえた。岩山の奥には、モンスターと思われるかの様な影も確認出来た。
魔耶「....これって試験受けてる時に、ギルドが配置したモンスター以外に襲われる事あんのかな....」
ブラッカル「さーな....ま、そこはちゃんとしてんじゃね?分からんけど」
魔耶「流石に対処くらいしてるかな....たくさん来られたらキリがないからなぁ....」
ブラッカル「んな事あっても、臨機応変に行こうぜ。でないと一瞬で餌にされちまいそうだ」
魔耶「想像しただけで怖いわ.....頑張ろか〜.....」
それからしばらく歩き、ある場所で係員が立ち止まった。それにあわせて参加者も立ち止まる。
係員「…到着しました。ここからのスタートとなります。12時からとなっておりますので、もうしばらくお待ちください」
案内されたのは、広大な草原の中にポツンと置いてある木製のゲートの近くだった。ゲートは横に長く、参加者が全員一列に並べるようになっているのだろうと勝手に想像する。
…このゲートをくぐったらスタートというわけか…
魔耶「ふぅ。緊張するなぁ…」
ブラッカル「いよいよだな。楽しみだ…」
魔耶「…ブラッカルって戦闘狂…?」
ブラッカル「なっ…!そ、そんなことねぇよ!ただ戦うのが面白そうってだけで…」
魔耶「それが戦闘狂なんだよなぁ〜」
ブラッカル「いや違うからな!私は…」
なんだかんだと必死に否定するブラッカルを見るのは面白かった。この調子なら緊張もある程度ほぐれるだろう。
その後2、3分ほどブラッカルをからかってみる。
係員「…あと一分で12時です。皆さん、このゲートに一列に並んで下さい」
係員の指示通り参加者がゲートの前で一列に並ぶ。
ブラッカル「一番で突っ走るぞ、魔耶!」
魔耶「了解!」
背を低くし、左腕と右足を前に突きだして走る準備をする。
係員「…5……4……3……2……1………スタート‼」
魔耶カル「行けーーッ!!!」
開始の合図と共に思いっきり地面を蹴る。空を飛べない分、思いっきり蹴った。参加者達が一斉に走り出した。
係員「ゴールはそのまま真っ直ぐ行った所にあります!方向感覚を失わない様お気を付け下さーい!!」
ブラッカル「成る程、強いだけじゃ立派なハンターになれねぇってか....魔耶、道は頼んだぞ」
魔耶「りょ〜かいよー」
二人は集団の先頭を走る事が出来ていた。まだ、モンスターの影は見えなかった。
....1km程走っただろうか。草原の奥に何やら沢山の影が見えた。
魔耶「....うん?何だ、あれ....」
目を凝らして見ると、それは牛や豚などの動物だった。
ブラッカル「ん?あんなの楽勝じゃねーの?そもそも倒さなくても....」
走って行くに連れ、群れに近づいて来た。動物達は、ゆっくりと参加者の姿を確認したその途端、こちらに向かって猛突進してきた。
ブラッカル「ッ.....んな訳無ぇか.....やるか、魔耶?」
魔耶「おうよ!…ただ全部倒すのは大変だし、後ろの参加者がすぐ通れるようになっちゃうから…避けれる奴は避けていこう!」
ブラッカル「…そうだな。了解!」
魔耶は双剣を、ブラッカルは拳をかまえ動物の群れに突っ込んでいった。
魔耶カル「おりゃあ‼」
道を塞ぐ動物だけ片付ける。横で威嚇している動物などは無視し、ただただまっすぐに突き進んでいった。
双剣と拳によって動物達の群れが真っ二つに別れる。
魔耶「結構いるなぁ…カル!ちょっと高くジャンプしてみて!」
ブラッカル「…?お、おう!」
ブラッカルが上にジャンプしたため、動物達がブラッカルの動きを目で追う。
魔耶はその隙を狙い、自分の背丈ほどありそうな大きなオノをつくって振り回した。
ブラッカル「おぉ!」
魔耶のまわりにいた動物が空中へと投げ飛ばされる。彼女のまわりに円形のスペースができた。
魔耶「はぁ…はぁ…ははっ、やっぱりこの技は疲れるわぁ…」
ブラッカル「あんな大きいオノ振り回してたんだもんな。そりやぁ疲れるわ…とにかくナイスだ!先を急ぐぞ!」
魔耶「おっけー!」
動物の群れを抜け、二人はさらに先へと駆けていった。
魔耶「後ろ、参加者が見えないね…?」
ブラッカル「あの動物達に苦戦してるんだろうな。能力を持ってない人間ならあいつらは大変だろうよ」
魔耶「そっかぁ〜。そろそろ半分くらいはいったかなぁ?」
…と、話していると、またもや前方に黒い影が見えた。動物だろうか。動いているように見える…
魔耶「ん?またモンスターかな?」
先程の動物達とは違い、群れでは無さそうだ。どうやら個体らしい。
ブラッカル「どれどれ....?って、おいおい、これ本当にここの昇格試験かよ....?」
二人の前に立ちはだかった「それ」の正体は。
まだ少し幼くとも、立派な羽や牙を備えたドラゴンであった。
魔耶「うえぇ!?あ、でもちょっと小さい....」
どうやら向こうはこちらに気が付いたのか、尻尾を振るわせてこちらに近づいて、大きな雄叫びをあげた。
魔耶「ぐぅ〜、五月蝿い〜っ....あれは倒さないと前行けないのかなぁ....?避けてくのは....」
ブラッカル「どっちかが囮になりゃあ良いけどな」
魔耶「やだわそんなん。仕方ない....やるか」
走っている途中に消した双剣を再びぽんっと出す。昨夜デザインしたかいがあったものだ。
ブラッカル「おい魔耶!!こいつは軽く失神させる程度で良いだろ!?」
魔耶「ん!?何で?......あ、そっか」
まだ後ろに沢山の参加者が居ることを思い出した。妨害として、後に残すつもりだ。
魔耶「良いよー!!」
ブラッカル「よっし、んじゃあそうだな.....あいつの足元、崩せるか?」
魔耶「…やるだけやってみるわ」
ドラゴンは、まだ幼いといえどもどっしりとした手足を持ち、簡単には体勢を崩せなそうだった。
それでもやってみるしかない。ブラッカルがわざわざ頼んできたんだ、なにかしらの作戦があるのだろう…
魔耶「いくぞ!」
双剣を手にドラゴンへと向かっていった。
それに反応しドラゴンもこちらの動きを目で追う。流石ドラゴンというだけあって、あまり隙がない。
魔耶(どうしようかな…双剣が効けばいいけど、ドラゴンの鱗って硬いらしいからな…攻撃が通らないかも。悪魔耶になるのは時間かかるし…)
考え事をしていると、ドラゴンの短くも太いしっぽが向かってきた。ジャンプして空中に逃げる。
魔耶(…攻撃を避けて不意をつく。んで転ばす。うん、この作戦しかないかな)
空中で一回転して地面に着地しドラゴンに向き直る。ドラゴンはすっかり戦闘モードのようで、鋭い爪と牙を剥き出していた。
魔耶「まだ幼くとも、ドラゴンはドラゴンか…」
ドラゴンの二回目の攻撃がきた。こんどはブレスのようだ。口から赤い炎を吐き出し、炎はこちらに向かってくる。
勿論今度も華麗にかわす…が、考え事などをして油断していたのがいけなかった。
魔耶「よっと、あぶな…………ッ‼‼」
炎を避けたと思ったら、避けた先にドラゴンが先回りをしていた。…見た目に騙されていた。このドラゴン、物凄く素早い…!
この隙を逃すまいとドラゴンの鋭い爪が降り下ろされた。
爪は私の左肩に直撃した。
魔耶「うぐっ...!!!」
ブラッカル「魔耶ッ!!」
攻撃を受けた魔耶が怯む。そんな魔耶に情を移す素振りも無く、ドラゴンは魔耶を仕留めようと再び爪を振りかざそうとしていた。
ブラッカル「チッ、くそっ.....!!」
走っていた足に急ブレーキを掛け、魔耶に向かって全力で地面を蹴って飛び立った。
魔耶程のスピードは無いが、普段のカルセナより脚力は強くなっていた。この速さなら魔耶を助けられる筈。そう思ってした事だった。
ブラッカル「間に合えッ!!」
容赦無く、ドラゴンの爪は魔耶に振りかざされた。
流石のブラッカルの脚力でも、ドラゴンのスピードには敵わなかった。
ーーそんな展開を誰が予想したのだろうか。
ブラッカル「....っと!!間一髪.....セーフだったな」
鋭い爪が振りかざされる直前に、見事に魔耶を抱えて回避する事が出来た。魔耶の安否を確認するべく、ドラゴンから少し離れる。
ブラッカル「おい、魔耶!!大丈夫か!?」
魔耶「っ……なんとか…生きてはいるよ。危なかったけどね…」
魔耶の左肩を見ると、青いはずの服が血で赤く染まっていた。爪がクリーンヒットしてしまったようだ…傷口が爪によって深く抉られている。
魔耶「いっ…!」
魔耶が左肩をおさえ、痛そうに顔を歪ませた。
ブラッカル「大丈夫…じゃねぇな…生きてはいるが、その傷の深さだと…」
左腕がもう使えない。…もしかしたら、一生…そう続けたかったが、それを言葉にする勇気はブラッカルにはなかった。
魔耶「っぅ……カルはドラゴンの相手して……応急処置くらいできるから…」
ブラッカル「でも…もし私が戦っている最中に、他のモンスターが現れたりしたら…」
魔耶「大丈夫だから…!…なんともないからっ…!私のせいでブラッカルまで怪我したら、試験クリアできないかもしれないから…!」
ブラッカル「っ…!」
魔耶のその瞳は真剣そのものだった。本当は怪我が痛くてたまらないだろうに。大怪我を負っていながら一人でいるなんて不安しかないだろうに。
ブラッカル「……わかった…!すぐにぶっ倒してやるから待ってろよ!」
魔耶を少し離れた木の下におっかからせ、ブラッカルは再びドラゴンと向き合った。
魔耶「っ…いたたっ…‼」
魔耶はブラッカルが少し遠くで戦っているのを見ながら応急処置を施していた。
布をつくり、近くにあった太い木の棒を拾い、腕に巻き付けて固定する。痛みは消えないが、腕を固定して動かないようにしたぶん先程よりましだ。
魔耶(…思ったより傷が深いなぁ…これは治るのに時間が掛かりそうだな…)
ブラッカル「....さて、どうするかな」
先程まで確認出来たドラゴンの攻撃パターンは2つ。爪とブレスだ。しかし、2パターンしかない訳が無い。きっと尻尾を俊敏に動かしたり、動物達の様に突進してきたりと、まだ色々あるのだろう。
ブラッカル「このまま突っ込んでってもやられるだけか.....出来れば一発でノックアウトさせてぇけど」
相手がもっと獰猛になる場合も考え、そうしたかった。その為には頭を狙わないといけない。だが何の考えも無しに頭へ攻撃しに行ってもダメそうだった。
ブラッカル「うーん、そうだな......ッおっと危ねぇ!!」
別の事をしながら考え事をしていると、反射神経が鈍ってしまう。
そのせいで、幸いにも体に傷は付かなかったが、爪が帽子に掠り地面に落ちてしまった。
ブラッカル「帽子.....今は仕方無ぇか。拾いに行ってる暇なんて.....」
???「「帽子ーーーっ!!」」
ブラッカル「......?」
魔耶「.......え....今の声の感じ.....」
???「早く拾いに行かんと〜!!大切なんだから!」
ブラッカル「な.......!!何だテメェ、何で出てこれた!?つーか出てくんな!!」
陽気な声の正体。それは紛れもなく、カルセナだった。体はまだブラッカルのものだが、口調などは出たり入ったり出来る様な状態であった。
カルセナ「良いだろ別に!!....って、ドラゴン!!?あれ、魔耶は!?」
ブラッカル「黙って大人しくしてろ!!今は試験中だし、魔耶はあのドラゴンに傷付けられて休んでんだよ!」
カルセナ「ちょ、魔耶大丈夫なの!?てか試験中!?んじゃあ取り敢えず、早くこのドラゴン倒してよ!!」
ブラッカル「だからそれを考えてた時に、お前が邪魔しに来たんだろーが!!」
魔耶「....何か一人で喋ってんな.....いや、二人か....?」
遠くから見ている魔耶にとっては、ブラッカルが一人で言い争いをしているかの様に聞こえた。
だが、確かにカルセナの声も聞き取れた。それを考えると二人と言う表現は間違っていないのだろう。
魔耶(あの帽子を落としちゃったから、それに反応してカルセナがでてきたのか…?)
ふと、カルセナと初めて会ったときのことを思い出した。森の中までカルセナを運んで、カルセナが目覚めたとき…一番に帽子を気にしていた。…そんなに大切なものなのだろうか…
魔耶(助けてくれたのはブラッカルだけど、まぁどっちもカルセナだしね。恩は返さなきゃ…)
カルセナ「…でも、帽子は取り返してよね!大事なものなの!」
ブラッカル「そんな余裕あるかよ!あの帽子がどんなものかなんて知らねぇが、無理だから諦めろ!」
カルセナ「えぇ〜!?あなたならなにかあるでしょ!必殺技とか!作戦とか!なんか思い付かないの!?」
ブラッカル「ずっと考えてるわ!……っと!」
ドラゴンのいきなりの攻撃をスレスレでよける。
ブラッカル「とにかく、もう出てくんじゃねぇ!おとなしく寝てろ‼」
カルセナ「えぇ!ちょっと待ってよ!状況とか魔耶のこととか色々教えてよ!」
ブラッカル「そんなの試験が終わってからでいいだろ!いいからさっさと………うん??」
カルセナ「…ん?」
二人でギャーギャー言い争っていると、あるものが目に入った。小さくて、茶色で、真っ黒な翼をもったかわいいぬいぐるみ…
ブラ&カル「あれは…」
二人はそのぬいぐるみに見覚えがあった。
ドラゴンは自分の方に向かってくる小さな物体をはたきおとしてやろうと鋭い爪を振り回すが、ぬいぐるみはドラゴンの攻撃をすいすいと避け、落ちているカルセナの帽子を奪い取った。
カルセナ「魔耶の人形だ!!」
ブラッカル「....ふん、良かったな。後でちゃんと礼言っとけ」
やがてぬいぐるみが持っている帽子は、カルセナの元へ届けられた。
ブラッカル「ありがとよ」
帽子を渡したぬいぐるみは、ささっと魔耶がいる方向へ帰って行った。
カルセナ「わぁい、やった〜!!」
ブラッカル「ん、やっぱ傷付いちまってんじゃねーか」
カルセナ「へぇ?....あっ、本当だあぁ!!!」
鋭いドラゴンの爪で、帽子の鍔に切れ込みが入ってしまっていた。
ブラッカル「あーあ、どうする?」
けらけらとカルセナを笑う。
カルセナ「......許せん、ドラゴンぶっ倒して!!」
ブラッカル「ま、そうなるわな。んじゃあテメェは大人しくしてろ」
カルセナ「む....分かった.....」
ブラッカル「....あ、そうそう。右足に力込めとけ」
カルセナ「何で??」
ブラッカル「良いから、私の言う通りにしときゃあ良いんだよ!早くしろ!!」
カルセナ「うわ怖っ.....分かりましたよ......」
少しして、カルセナの面影が完全に無くなった。
ブラッカル「ふぅ.....さてと、待たせたな。すぐ楽にしてやる」
そう言うと、ドラゴンの周りを飛び回り始めた。勿論、ドラゴンはその影を追うのに夢中になった。暫く影を目で追っていると、ブラッカルの動きが一瞬遅くなった。その隙を見逃す筈も無く、目の前の影に爪を振りかざす。
だが、その影はブラッカルでは無く、ブラッカルが脱ぎ捨てた左足のブーツだったのだ。本体はと言うと、ドラゴンの頭部に移動していた。
ブラッカル「へへ、判別能力は無かった様だな!食らいやがれっ!!」
ドラゴンの頭部に、全力の踵落としを食らわせた。
ドラゴン「グゥォオオオ‼」
ドラゴンはそのまま地面に倒れふし、白目をむいた。気絶してしまったのが遠目でもわかった。
ブラッカル「ーーっよっしゃあ!」
よろこんでガッツポーズをするブラッカル。そこにカルセナの面影はなかった。…帽子を取り返せたから寝てしまったのだろうか。
と、ブラッカルは急に私の方を向き、大きな声で叫んだ。
ブラッカル「魔耶ー!生きてるか〜!」
彼女の言葉にあははっと笑いながら返事を返す。
魔耶「…生きてるよ〜!」
ブラッカルは私の返事に笑顔を返し、とことこ歩いて私の近くまで来た。
ブラッカル「ふぅ。なかなか大変な相手だったよ。子供でもドラゴンはドラゴンだな」
魔耶「そのドラゴンに勝つあなたが怖いよ。…お疲れ様。ありがとね」
ブラッカル「ははっ、礼なんかいいさ。怪我大丈夫か?」
魔耶「あ〜…」
自分の左腕を見つめる。いまや木の棒を固定するための布まで赤く染まっていた。
魔耶「…まぁ大丈夫…だよ、うん。歩くのに支障はないし、能力も使えるし」
ブラッカル「そういう問題じゃないんだが…ま、歩けるなら大丈夫か。よし、いくぞ。辛くなったら言えよ」
魔耶「…うん」
二人でまた走り出した。腕は少し動かすだけで痛みが走るが、こんなことで音をあげていては試験に合格できない。我慢して走り続ける。
ブラッカル「まぁまぁ時間食っちまったな....後ろの連中がすぐそこまで来てなきゃ良いが」
魔耶「....多分大丈夫だよ。その為にドラゴンも残して来たし....」
ブラッカル「そうか.......おい、お前の傷、本当に大丈夫なんだろうな?」
少し腕を気にしながら走る魔耶を不信に思った。
魔耶「.....うん、大丈夫だって!ほら、今走れてるし.....ッ」
そうは言いつつも、やはり血で赤く染まった腕が痛々しく見えた。
ブラッカル「......無理すんなよ。....お前が倒れたら、またこいつが出てきて心配しちまうからな.....」
流石のブラッカルも、少し心配気に魔耶の様子を伺った。
魔耶「.....うん、分かってる」
それから、少しだけペースを落として走る事にした。それでも魔耶の腕は痛々しさを強調し続けた。だが、これで少しでも傷への負担が減ってくれたら.....そう思った。
ーーどれくらい走ったのだろう。二人共、色々な考え事をして走っていた為時間の感覚が良く分からなかったが、多分もう後半辺りには入っているだろう。
ブラッカル「.....ふぅ、一体どこまで走らせる気だ......」
魔耶「…道間違えたかなぁ…?」
ブラッカル「いやぁ、そんなこと…ねぇな」
ブラッカルがやけにはっきり否定したので、不思議に思う。
魔耶「…?なんでそんなはっきり言えるの?」
ブラッカル「あそこに看板があるからな」
彼女の視線の先には、木でできた看板がたっていた。
『この先ゴール地点。あと500m』
魔耶「あれかぁ。よくこの距離で見つけられたねぇ…」
ブラッカル「目はいいほうだからな。…あと500mか…もう少しだな」
魔耶「そうだね………ッ!」
ブラッカルの言葉にうなずいたとたん、軽く目眩がした。
グラリとバランスを崩して地面に座る。
ブラッカル「お、おい!どうした!?」
魔耶「いや…ちょっと目眩がしただけ…」
なんでいきなり目眩なんか……視線を落とすと、固定された左腕が目に入った。それを見てハッとする。
魔耶「まさか…血液不足…??」
ブラッカル「おいおい嘘だろ....!?」
改めて、魔耶の傷付いた左肩を観察する。
傷付けられた当初よりも血が溢れ出ている事はないが、それでも深い傷だった為、まだ血は止まっている様子はなかった。
ブラッカル「魔耶、立てるか....!?」
魔耶「う....ん...ちょっと....キツイかも.....」
意識がぐらついているのか、下を向いたまま話す。
ブラッカル「くそっ....!!....もう少し耐えろ、魔耶!!」
そう言うと、魔耶を背中にひょいと担いだ。
魔耶「ブラッカル....」
ブラッカル「直ぐに医者見っけてやるからよ....!!」
とは言え、参加者と共にここへ来ているのはギルドの役員だけ。出来ても、簡単な応急措置だけだろう。
魔耶「う....頭が....」
ブラッカル「しっかりしろ!!何とか意識保て!!」
魔耶「うん.....頑張る.....」
ブラッカル「もう少しでゴール出来っからよ!」
魔耶「....ありがとう」
ブラッカル「.....礼を言うのはこっちだ。....ありがとよ、魔耶.....中々こっち側の生活も楽しかったぞ」
「....後は頼んだぜ、私」
「....了解。」
魔耶「......え?」
ブラッカルの面影はいつの間にかすっかり消え、普段通りのカルセナの姿へと変わっていた。
カルセナ「絶対に助けるからね、魔耶!!」
魔耶「カル....セナ.....」
薄れて行く意識の中、似た様な光景が魔耶の頭を過った。
魔耶「なんか…助けられてばっか、だなぁ…」
意識をなんとか保とうとカルセナに話しかける。それで少しでも意識がもてばいいな…そう思った。
魔耶「虫のときも、背中怪我したときも…筋肉痛になったときも…」
カルセナ「私だって、魔耶にたくさん助けられてるんだから!帽子だって取り返してくれたし、今度は私の番なんだよ!」
魔耶「そ…っかぁ…ごめんね、いつも迷惑かけて…」
カルセナがはぁはぁと荒い息をしているのがわかった。私をおぶりながら全力疾走してるんだもんな、そりゃそうだ。
カルセナ「いってるでしょ、今度は私の番だって!迷惑かけてるのはお互い様なんだから!」
魔耶「ははっ……うぐぅ……そろそろ限界かも…。すごく眠い。…血液が足りないと、人は眠くなるのかぁ…あ、魔族か…」
視界が霞み、頭がどんどん重くなっていく。頭を起こしているのも辛くなって、カルセナの肩に頭をのせた。
カルセナ「待って‼あとちょっとだから…あっ!見えた!ゴールだよ、魔耶!しっかり‼」
ようやくゴールらしきゲートが見えたらしい。カルセナの言葉を聞いて、もう少し意識を保とうと努力した。
魔耶「う〜…はぁ…はぁ……!」
魔耶(…カルセナが私のために頑張ってくれてるんだ…!私が頑張らないでどうする!意識をしっかり保て!起きろ‼)
自分に心のなかで言い聞かせる。
カルセナ「あと…少し…‼」
重くなった足を引きずるようにして、カルセナの足がゴールのゲートを越えた。試験合格だ…!
だが、今はそれを喜んでいる場合ではない。魔耶を医者に見せなくては!
係員「おめでとうございます!一位でゴールしましたので、見事Cランクに…」
そこまでいいかけて、係員はカルセナの背中に傷を負った魔耶の姿があるのを見つけた。
係員「っ…!大変…!今医者を‼その人をこちらに‼」
カルセナは係員の言う通りに魔耶を預けた。魔耶はもう意識がないようで、目をつぶってぐったりとしている。
カルセナ「お願いします!!どうか....絶対助けてください!!」
係員「分かりました、安心して待っていて下さい!」
他数名の係員は、カルセナの姿がスタート時と変わっている事に気が付いていた。だが、今はそれどころじゃなかった。幸いにも、ギルドに医者が着いて来ていたらしい。血を調べた後、予め用意された血が、すぐに魔耶に輸血された。
意識のない魔耶の隣で、カルセナは心配そうに佇んでいた。近くには大きな火が焚かれていた為、モンスターは寄ってこなさそうだが.....いつ様態が変化するかなんて分からなかったからだ。
カルセナ「魔耶.......」
医者「そんなに心配しなくても大丈夫です。簡易的な応急措置がされていたお蔭でこの程度で済みました。.....この措置は、貴女が?」
カルセナ「....いや、魔耶が自分でやったものだと思います。私は何も.....」
医者「.....そうでしたか。....目覚めるまで、側に居てあげて下さい。それが今、貴女に出来る事です」
カルセナ「......はい」
黙って魔耶の顔をじっと見た。もっと他に何か出来る事はなかったのだろうか。そんな事ばかり考えてしまっていた。
魔耶「っう…ん…?」
カルセナ「…!魔耶っ!」
小1時間はたっただろうか。魔耶が目を覚ました。
魔耶「…あれ、カル…?えっと?なにがあったんだっけ?」
カルセナ「忘れたの?」
魔耶「ちょっとこんがらがってて……試験してて、ドラゴンに腕やられて、看板みて…そのあとは……えーっと〜…」
カルセナ「魔耶が血液不足になったから私がゴールまで運んで、今に至るって感じかな。…あぁ、よかったぁ…魔耶が死んじゃうのかと…」
魔耶「そうだったのね〜。あはは、大袈裟だなぁ。そんな簡単に死なないよ、魔耶さんは。私が死ぬのは…世界からキャラメルが消えたときだ」
カルセナ「なんだそれ…?」
思わず二人で笑う。
こういうやり取りができてよかったと、心の底から安堵した。
魔耶「カルセナ…ありがとう」
カルセナ「お礼なんていいって。帽子の恩を返しただけだから」
魔耶「うーん、そうか……っていうか、そんなにその帽子大事なのね。なにか理由でもあるの?」
カルセナ「あぁ、これね.....昔、お母さんから貰った帽子なんだ〜。私が小さいときに、病気で亡くなっちゃったけどね....」
頭から帽子を取って、それを見つめる。鍔にはドラゴンに付けられた、少し大きな切れ込みが入っていた。
魔耶「そうなんだ.....だからあんなに.....」
カルセナ「うん、まぁこれが無いと死ぬみたいな事は無いんだけどね....」
魔耶「その帽子の傷....」
カルセナ「.......大丈夫!!これも仕方無いよ!」
くるっと帽子を一回転させてから、再び頭に帽子を乗せた。
そのときの表情は、怪我をしている魔耶の前だからか、無理矢理笑顔を作っているかの様に見えた。
魔耶「カルセナ.....」
カルセナ「街に帰ったら何とかして直して貰う事にするよ!....はぁ、所で、もう一人の私は何でこの帽子大切に思わないんだろうな〜.....同じ自分なのにさ」
魔耶「さぁ....何でだろうね?聞いてみれば?」
カルセナ「.......何も返事返って来ないわ。んー、よく考えればこの状態が普通なのか....魔耶にも私みたいに、もう一人の魔耶がいるのかな?」
魔耶「あはは、もしかしたら居るかもね。カルセナみたいに簡単に飛び出しては来ないと思うけど」
帽子の話題から逸れ、他にも色んな話をした。
暫くして、他の参加者の姿が見えてきた。ここの試験を乗り越えた者達である。
魔耶「うわぁ…痛々しい…」
思わず呟いてしまった。
帰ってきた参加者の中には、魔耶と同じように怪我をしている人、火傷を負っている人(多分ドラゴンにやられたのだろう)がたくさんいた。
カルセナ「魔耶もそうとうな深手じゃない…痛々しいよ…」
魔耶「…そう?でももう処置されてるから大丈夫よ。こんな傷4日くらいあれば治るって!」
カルセナ「普通ならそんなに早く治らないって…魔族すげぇ〜」
魔耶「人間の基準で考えてるからでしょ〜。悪魔の基準にしたら、4日なんて遅いってなるよ」
カルセナ「はぁ…な、なるほど?」
人間の基準だと早いけど、悪魔の基準だと遅いのか…
カルセナ「そう考えればそうか…無意識に人間の基準として判断してたわ…」
魔耶「元人間だもんね。そういうものよ」
カルセナ「そういうものかぁ〜。…魔耶には、悪魔に近い細胞と人間に近い細胞があるっていってたよね」
魔耶「うん。そうだよ?」
カルセナ「魔族ってみんなそうなの?」
魔族って、もっとこう、魔族の細胞があるのかと思っていた。人間には人間の細胞、悪魔には悪魔の細胞、魔族には魔族の細胞…って感じで。実際のところどうなのだろう?
魔耶「あ〜…ちょっと秘密打ち明けてもいい?」
カルセナ「…?秘密?」
魔耶「うん。実はね、私…」
そこまでいいかけたとき、係員が大声で叫んだ。
係員「無事試験に合格できた参加者の皆さん、おめでとうございます。これより再び機関車にお乗りいただきます。私に着いてきてください!」
魔耶「…また今度にしようか。んじゃあいこう!」
カルセナ「う、うん…」
魔耶の秘密がどんなものか知りたかったが、しぶしぶ係員のあとに続いた。
係員「お疲れ様でした!それではお乗り込み下さい!治療が必要な場合、最前列のギルドの係員にお申し付け下さいね!」
行きと同じように、機関車にぞろぞろと参加者達が乗り込む。二人も後に続いて空いている席に座って一段落ついた。
カルセナ「ふぅ、やっと終わったのかな.....?フルで参加したかったなぁ〜....」
魔耶「そうだね、次回からは参加出来るんじゃない?」
全員が乗ったのか、機関車が動き出した感覚がした。
緊張感が抜けた車内は、参加者達の体験談や武勇伝を語る声でがやがやとしていた。
魔耶「はぁ〜.....無事に帰れたって、ひまりに報告だね....」
左肩を押さえながら、溜め息を吐く。
カルセナ「そうだね〜.....そう言えば、さっき話そうとした秘密って、何?」
心に残るモヤモヤを解決しようと、魔耶に問う。
魔耶「あぁ…」
あまり他の人に聞かれたくないため、少し声を潜めて言う。
魔耶「私ね、魔族って言ってるけど、実は悪魔と人間のハーフなんだぁ〜」
カルセナ「…!?え、えぇっ!?」
魔耶「ちょっちょ!声大きいから!」
カルセナ「いやだって、魔族…えぇ!?」
魔耶「落ち着け!」
カルセナの声によって少しだけ注目を浴びてしまったため、カルセナをなだめて落ち着かせる。
魔耶「普通魔族っていうのは、人間や妖怪が悪魔から力をもらって変化したものなんだよ。それが代を重ねていって、いろんな進化を遂げて、悪魔と人間や妖怪の中間くらいの種族ができる。悪魔との直接的な血のつながりはない。…はずなんだけど、私はちょっと違ってね〜…悪魔と人間が結婚してできちゃったって感じ☆」
カルセナ「できちゃったって感じ☆じゃないよ…。なるほど、だから細胞に偏りがあるの?」
魔耶「そうなんじゃない?普通の魔族だったら魔族の細胞があるんじゃないかなぁ。悪魔耶になれるのも、悪魔の血をもってるからなんだよ。ブラッカルには嘘をついちゃった。本当は、普通の魔族だとできないと思う。」
それを聞いてはぁ〜納得する。
カルセナ「なんで魔族って言ってるの?本当は少し違うじゃない」
魔耶「え〜?…悪魔と人間のハーフでーすなんて言うのめんどくさいじゃん。そこまで大きな違いはないし、容姿もそこまで変わらないしね」
カルセナ「あぁ、それだけの理由なのね…」
魔耶らしいな、と思った。
魔耶「…とまぁそんなわけで、私はそういうよくわからない種族なんですよ」
カルセナ「よく分からない.....成る程〜....そうだったんだねぇ」
魔耶「まぁそんなおっきい秘密でも無いんだけどさ」
カルセナ「いやいや、タメになりましたよ〜」
それから二人は色々な話をして、挙げ句の果てに疲れて眠ってしまっていた。
係員「皆様、到着致しました!!それでは降車して、ここから、北街に戻ります!」
魔耶「.....ん、到着....?」
カルセナ「ふぇ....?あ、駅まで帰って来た感じ....?」
二人して大きな欠伸をした。
窓の外では、燃えている様な大きな夕陽が沈もうとしていた。
魔耶「うぅ〜.....疲れた....」
カルセナ「今日は安静にして、宿でゆっくり休みましょ」
魔耶「そうだね〜....」
参加者達に紛れて機関車を降り、北街へとことこと歩いて帰った。
ギルドに着くと、そこには見慣れた二人の姿があった。
みお「おねぇちゃん!みて!」
ひまり「…?………ッ!カルセナ!魔耶!」
ひまりは私達の姿を確認し、こちらに走ってきた。
魔耶「はは、ただいま〜っ……!?」
ただ二人にお帰りと言うのかと思ったら、ひまりは走ってきた勢いのまま二人を抱き締めた。
カルセナ「うぇ!?ひ、ひまり!?」
ひまり「よかった…無事で…今回の試験はかなり難しいって聞いたから心配だったの…」
魔耶「ちょ、私、怪我人…痛い痛い…はーなーしーて〜…」
ひまりは魔耶の言葉を聞いて驚き、二人をはなした。
ひまり「怪我したの!?大丈夫!?」
しっかりと魔耶の姿を見て、その左腕に包帯が巻き付けてあるのを発見した。
魔耶「いろいろあってね…まぁ、それはまた今度話そう…」
ひまり「うわぁ…けっこうな深手じゃない…でも、無事で本当によかったわ…!」
カルセナ「そんなに心配してくれてたんだね…ありがと、ひまり。カルセナと魔耶、ただいま帰還しました!」
ひまり「あははっ!…お帰りなさい、二人とも!」
みお「無事でなにより…です」
魔耶「えへへ〜。左腕は無事じゃないけどね〜」
はにかんだ笑いを浮かべながら、四人でギルドに入っていった。
係員「…それでは、これから閉会式を行います。1位〜3位までにゴールした方々!前へどうぞ!」
カルセナ「えっと…うちらかな…?」
二人でおずおずと前にでた。
おそらく3位に入ったのであろう、巨漢な男の人も前に出てきた。
係員「今回、より難易度の高い昇格試験だった中、見事上位に入賞した三人にCランクバッチをお渡ししたいと思います!」
そういって金属でできた三角形のバッチを渡された。バッチの中央には大きくCと刻まれている。…Cランクの証みたいなものだろうか。
係員「これよりあなた方はCランクです。おめでとうございます!」
係員の言葉が言われると同時に、まわりから大きな拍手が起こった。ひまりとみおもにっこりと笑いながら拍手をしている。
係員「これで閉会式を終わります。皆様、今日は本当にお疲れ様でした!」
魔耶「....ふぅ、疲れた〜」
閉会式を終え、のそのそと宿に戻っている途中だった。
ひまり「うふふ、今日はゆっくり休みなね」
カルセナ「そうしようそうしよう」
ひまり「ところで....カルセナ、元に戻ったのね?」
カルセナ「え?あぁ、知ってんの?」
魔耶「昨日の昼過ぎくらいからずっとブラッカルのままだったからねぇ」
カルセナ「そうだったのか〜....うちの奴がご迷惑おかけしました〜」
ひまり「いやいや、楽しませて貰ったわよ」
昨夜の事を思い出し、くすくすと笑う。
カルセナ「何で入れ替わったのか覚えてないんだよね....」
魔耶「さぁ?きっと試験受けたすぎて飛び出てきちゃったんじゃない?」
カルセナには本当の事を言わない事にした。その方が少し面白そうだったからだ。
ひまり「....さ、二人共お疲れ様!!また明日から依頼頑張ってね!!」
魔耶「ありがとひまり、みお。そっちもね〜」
カルセナ「ばいばーい」
宿の前で二人と別れた。暫く遠ざかっていくひまりとみおを眺めていた。
魔耶「…ふぅ、部屋行こうか?」
カルセナ「そうだね〜。ベッドにぼふってしたい…」
カルセナの謎の願望に笑いながら部屋に入った。
魔耶「1日もたってないのに、なんか久しぶりに感じるわ…」
カルセナ「だね〜。よっしゃ‼ベッドだぁ‼」
先程の言葉通りベッドに勢いよく飛び乗るカルセナ。
魔耶「埃がたつからやめい…」
カルセナ「え〜。ふかふかなベッドがあったらぼふってしたくなるじゃんか〜」
魔耶「分からんでもないけどさ」
昨日のお菓子がまだ残っているのを見つけ、ひとつだけ取り出して食べる。うん、美味しい。
カルセナ「あ〜!魔耶ばっかりずるい〜!私のお菓子は?」
魔耶「はいはい、ここにあるから食べ……あっ」
カルセナ「…?どうしたの?」
魔耶「いや…」
カルセナのクランチチョコを見て、昨日の出来事を思い出した。カルセナがチョコを食べたら、またブラッカルがでてくるのかもしれない。…あげないほうがいいのだろうか…。ブラッカルも疲れているかもしれない。
魔耶「お、おやつよりご飯だよ!お昼食べてないからお腹空いてるでしょ?夕御飯買いにいこうよ!」
カルセナ「あぁ…そういえば…じゃあもう少しやすんでから行こうか」
魔耶「うん、そうしようそうしよう(ほっ…)」
カルセナ「....ん?何これ?」
テーブルの上に置いてある、剣のイラストが目に入った。
魔耶「これ魔耶が描いたやつ?」
魔耶「んー?あぁ、そうだけど....」
カルセナ「....めっちゃ上手いじゃん!!流石だなぁ〜....私もこんな風に描けたら良いのに」
魔耶「そんな事無いって、ただの剣のデザインだよ」
カルセナ「私ほんとに何の才能もないからさー。羨ましい.....」
冷蔵庫から出した飲料水をちびちび飲みながら話す。
カルセナ「私の才能、全部こいつに取られたんじゃないか....?」
首を傾げ、もう一人の自分、ブラッカルを疑う。
魔耶「流石にそれはどうなのかねぇ.....ま、戦闘で言ったらあっちかもしれないけど....」
カルセナ「ですよねぇ〜、ちょっとくれないかな....あ」
だらだらと話している内に、六時を知らせる鐘が時計台の方から鳴り響いた。
魔耶「良い時間帯かな?」
カルセナ「んだね、買い出し行きますか」
宿から出て街中をぶらぶら歩く。
魔耶「…うーん…」
カルセナ「ん?どうかしたの?」
魔耶「いや…この世界に来て、自炊したことないなって。買ったもの食べてるか、だれかから奢ってもらってるかだから…」
カルセナ「あぁ〜…確かに…」
料理をしようとしたときもあったけど、そのときは私が変なキノコ食べちゃってできなかったしなぁ…
カルセナ「…じゃあ、今日の夕飯は自分たちで作ろう!材料買って!」
魔耶「お、いいっすねぇ。なに作る?」
カルセナ「うーむ…シンプルにハンバーグとか…?」
魔耶「いいねハンバーグ!よし、今日の晩御飯はハンバーグに決定!」
カルセナ「…え?適当に言ったんだけど…採用しちゃうの?」
魔耶「だってハンバーグ食べたいし…あとはご飯とお味噌汁があれば最高」
肉汁たっぷりのハンバーグと白いご飯を思い浮かべて、空腹のお腹がぐぅと鳴る。
カルセナ「…んじゃあ、ハンバーグの材料買おうか。なにがいるんだろ…」
魔耶「ふっふっふ、私、これでも元居た世界では自炊してましたからね....大体は分かりますよ?」
カルセナの横でふんっ、と胸を張る。
カルセナ「おお!んじゃ、お店向かいながら何が必要なのか教えてよ〜」
魔耶「良いですとも。ま、まずはやっぱりお肉だよね。.....pork or beef?」
カルセナ「I like a pork.」
魔耶「だったら豚肉のミンチかな。あと、玉葱とかパン粉、卵と....あ、にんにくもちょっと入れると美味しいけど....」
カルセナ「なら入れときましょ」
魔耶「えーと、後はまぁもろもろ、お店に行って買い足せばいっかな....」
カルセナ「成る程成る程....お味噌汁何にする?」
魔耶「うーん、何が良いかな〜.....」
カルセナ「スープって言う手もありだよね」
魔耶「確かに、それでも良いかも....どーしよっか〜」
いつもの飲食店通りを過ぎ、八百屋や精肉店の建ち並ぶ大通りにやってきた。
少し時間は遅いものの、沢山の買い物客で賑わっている。
魔耶「んっと…手分けしたほうがいいかな?」
カルセナ「そのほうが早く買い物終わるか…そうしよう。必要なものを教えてくれ〜」
魔耶「じゃあ、カルセナはお肉買ってきて〜。私は八百屋いってくるから」
カルセナ「りょーかい!」
魔耶は八百屋、カルセナは精肉店に別れて行動することにした。
魔耶「玉ねぎは必要不可欠だよね〜。でも玉ねぎ切ると涙がでるからなぁ…そこは頑張るか。あ、人参も欲しいなぁ。あとはにんにく…」
軽く呟きながら食材を買いそろえる魔耶。なるべく艶があって、色の濃いいい感じの食材を選ぶ。
魔耶「…なんか懐かしい感じがするわ、こういうの。まだこの世界にきてそんなにたってないのに…不思議だなぁ〜」
左手が使えないためくまさんにカゴを持たせ、右手を使って食材を選ぶ。
魔耶「ふぅ。必要なものはこのくらいかなぁ…?」
カルセナ「えーと精肉店、精肉店.....あそこでいっかな?」
魔耶と別れた場所から一番近い店を選んだ。人にぶつからないように、少し小走りで向かう。
店主「はぃ、いらっしゃい!!」
カルセナ「えーと、豚肉のミンチだったよね....?それください」
店主「はいよ、何g必要なんだ?」
カルセナ「え?あ、えーと.....」
そう言えば魔耶に聞いたのは材料だけで、何g必要だとか、そう言うのを聞いておくのを忘れていた。
店主「....?もしかして分からないのかい?」
カルセナ「あのー....2人分のハンバーグ作ろうとしてるんですけど....」
少し申し訳無さそうに言う。
店主「あぁ、そう言う事なら....粗びきで200g位が妥当だよ」
カルセナ「おぉ!じゃあそのまんまの量ください!」
店主「そうかい、ありがとね!」
代金を払い終わったとき、不意に大きな音でお腹がなる。
カルセナ「(やっべ、恥ずかし....)」
店主「なぁあんた、もう100gおまけしてやろうか?」
ニコニコと笑いながら問い掛けてくる。
カルセナ「えっ、良いんすか?」
店主「あんたみたいな育ち盛りはいっぱい食べなきゃいけないからね!ほら持ってきな!」
気前良く、プラス100gの豚ミンチを差し出してくれた。
カルセナ「ありがとうございます!!(まぁもう育たないけど....)」
魔耶「疲れた疲れた〜。右手だけだと大変だね〜」
と言いつつ、つくったくまさんに買ったものを持たせ、自分は手ぶらで歩く魔耶。
…と、歩いている途中でアクセサリーショップの前を通りかかった。ウィンドウに飾られた綺麗なアクセサリーに目を奪われる。
魔耶「わ、綺麗……。…そういえば、カルセナになにかプレゼント買ってやろうとか思ってたんだっけ。いや、まぁ自分でつくればいい話か。…あの人が欲しがりそうなもの…?」
お店のウィンドウに飾られたアクセサリーを睨みながらカルセナが欲しそうなものを考えるが、まったく思い付かない。
魔耶「…あの人の好きな色とか好みとかまったくわからないからなぁ…あれ?私ばっかり情報晒してない…?」
お子さま舌とか、キノコが苦手とか、おにぎりの具は鮭が好きとか…私のことは晒しているけど、カルセナのことはまったくわからない。
魔耶「むぅ…それはちょっとずるいよな…会ったら問い詰めてやる…」
子供「お母さん!みてみて!ぬいぐるみが動いてる!」
魔耶「…ん?」
子供の指は私のつくったくまさんを指していた。
…そうだ、普通にいつもの感覚でくまさん使ってたけど、ここ別の世界だったぁ…急いでくまさんを消し、荷物を右手で持つ。
母親「…?ぬいぐるみが動くわけないでしょう?早くお家に帰ってご飯にするわよ」
子供「ほんとだって!そこに…あれ?いなくなってる…」
母親「変な子ねぇ…」
子供「ほんとにほんとにさっきはいたんだもん!」
母親「はいはい。早く帰りましょ。今日はからあげよ〜」
子供「え!?やったぁ!」
そんな親子の会話を聞きつつ、胸をドキドキさせながらそそくさと立ち去った。
近くにあったベンチに座り、安心のため息をつく。
魔耶「そうだ…完全に元の世界の感覚だった…。ただでさえ魔族だってしれわたってるのに、ぬいぐるみを操れるなんて知られたら…」
想像して身震いする。ただ凄いと思われるだけならまだしも、珍しいということでなにかしらのトラブルに合う可能性がある。
魔耶「…自重しよう。うん」
カルセナ「ふぃー、良い買い物したわぁ〜....えーと、魔耶は.....」
300gの挽き肉が入った袋を持ち、買い物をしている、あるいは既に買い物を終わらせ、先に待っているであろう魔耶の姿を探す。
カルセナ「えー....あ、居た居た。魔耶ー!!」
ベンチに座っている魔耶に手を振る。
魔耶「お、来た来た....何だか随分ご機嫌そうだなぁ....買えたー?」
カルセナ「勿論!ついでにおまけしてもらったよ〜♪」
魔耶「おお!!それはありがたい!....んじゃ、帰りますか」
ゆっくりとベンチから立ち上がり、宿に帰る事にした。
魔耶「ふぅ、疲れた〜」
カルセナ「試験終わった後だもんね.....それ持とっか?」
魔耶「いえいえ、そんなに貧弱じゃないですよ〜....あ、そうだ」
歩いている途中で、カルセナに色々問い詰めようとしたのを思い出した。
カルセナ「ん?どった?」
魔耶「好きな色、食べ物、その他もろもろ!教えてください」
カルセナ「んんん?いきなりなにを言うかと思えば…なにそれ…?」
魔耶「いやぁ…私の情報は晒してるのに、カルセナのことはまったく知らないなぁ〜って思って」
まぁ本当はプレゼントの参考にしたいだけなんだけど。
カルセナ「なんだそんなことか。いや、私もそこまで魔耶について知らないと思うんだけど…」
魔耶「そう?色々話したくね?」
カルセナ「まぁ色々知ってるけど…誕生日とか好きな食べ物とか、そういうことは知らないよ」
魔耶「あれ、言ってなかったっけ…?じゃあ二人で個人情報公開し合うか」
カルセナ「言い方よ…w」
というわけで買い物は少し休憩して、二人で情報交換をし合うことにした。
魔耶「言い出したのは私だから私からいこうかな。
彩色魔耶っす。魔族(悪魔と人間のハーフ)で、かれこれ300年は生きてますね〜。能力はつくる程度の能力、誕生日は5月8日で牡牛座、血液型はA型です!好きな食べ物は甘いもの、鶏肉とかかな。嫌いなもの…はもう知ってるからいいか。好きな色は緑と青の中間色です。…こんな感じでいいよね?」
カルセナ「おぉ〜、いいと思う。…本当はこういうことって初めて会ったときにやるものだと思うけどね」
魔耶「うちらが初めて会ったときはドラゴンに襲われてたから…それどころじゃなかったでしょ。…んじゃあ、こんどはカルセナの番ね」
(あれ、違うわ…買い物はもう終わったんだぁっ!ってことで、[というわけで買い物は少し休憩して]じゃなくて[というわけで宿に向かいながら]にします。ちゃんと読まないからこんなことになるんですよまったく…⬅誰やん)
286:多々良:2020/04/28(火) 18:53 カルセナ「おうよ。えーと、カルセナ=シルカバゼイションです。元々は人間だったけど、訳あって浮幽霊になっちまいました。アメリカ生まれだけど、日本語は得意中の得意だよ〜。物語を先読みする能力を持ってまーす」
魔耶「何かややこしい能力名だねぇ」
カルセナ「こっちの方が....何か格好いいじゃん?えー、誕生日は1月21日の水瓶座。年は.....うーん、多分110歳くらいだと思う.....好きな色は水色系かな。好きな食べ物は....お菓子?特にチョコ系が好きでーす」
魔耶「成る程成る程、良いじゃ〜ん?」
カルセナ「そっか、なら良かった....あ、因みにもう一人の方は.....えーと名前....」
魔耶「ブラッカルで。」
カルセナ「ぶ、ブラッカル??んまぁ良いか....こいつは何か良く分かりません」
魔耶「分かんないのに紹介しようとしたんかい....」
カルセナ「むぅ....あ、魔耶さ、こいつとちょっと位一緒に過ごしたでしょ?何か分からんかった?」
魔耶「え?あ、うーんと.....」
そう言われて、ブラッカルと過ごした時間を思い返す。
魔耶「うーんと....カルセナと同じで、チョコが好きそうだったかな?あと、肉弾戦が強いのと.....あー、あとね、ちょっと性格悪いかもしんない」
苦笑しながら、記憶の中にある情報をカルセナに話す。
カルセナ「あー.....性格悪いのは私も分かる。そんなもんかな、私についての大まかな情報は」
魔耶「うんうん、何かと知れたから良かったわ」
カルセナ「いやいやこっちこそ、情報提供ありがとうございます」
魔耶(うーん…水色系が好き、か…じゃあ水色にするとして〜…形どうしよ)
カルセナ「なに魔耶?考え事?」
魔耶「うん…」
カルセナ「どんなこと考えてたのさ?教えてよ〜」
魔耶「ちょっと教えられないかな〜。今度教えてあげるよ」
せっかく物を渡すんだ、サプライズにしておきたい。そのほうが面白いしね。
カルセナ「え〜。今度教えてくれるなら、今教えてくれたっていいじゃん」
魔耶「今はダメなの〜。…ほら、宿についたよ」
ちょうどいいタイミングで宿に着いたため、話題をそらす。
話題をそらされてカルセナは少し不満そうな顔をしたが、私の後に続いて宿に入った。
魔耶「んじゃあ、レッツクッキング!」
カルセナ「イエーイ!」
時計を見ると6時30分になっていた。うまくいけば8時前に食べられるであろう。
宿にある料理台と調理器具を借りる。
カルセナ「…魔耶、左手使えなくね?」
魔耶「…あっ。…くまさんしょうかーん」
自分の左手変わりとしてくまさんを召喚する。
魔耶「これでよし、と。よし、料理しようか〜」
カルセナ「ハンバーグとその他でじゃんけんしない?」
魔耶「うん?別に良いけど....負けた人がその他でね」
カルセナ「んじゃ行くぞ!!最初はグー、」
魔耶カル「じゃんけん、ぽんっ!!」
結果は、魔耶がチョキ、カルセナがパーだった。
カルセナ「あぁくっそー!!最近じゃんけん弱いんだよなぁ.....」
魔耶「あっはっは、じゃあよろしくね〜」
カルセナ「は〜い....」
負けた理由を考察しながら、宿に常備してあった炊飯器の釜に買ってきた米を入れてとぎ始めた。
カルセナ「お米、硬めで良い?柔らかい方が良い?」
魔耶「うーん、特に硬くしろとか柔らかくしろとかは無いかな.....お任せするわ」
カルセナ「おっけー」
魔耶「さてと、私も下準備するかな〜....」
店の袋の中から野菜を取り出し、くまさんを操りながら切り始める。
魔耶「むむ....ちょっと難しい.....」
カルセナ「....大丈夫?」
ちらちらと魔耶の様子を伺う。
魔耶「親じゃないんだし、大丈夫。その内慣れるでしょ」
カルセナ「ほーん....なら良いけど」
少しして、とぎ終わった米入りの釜を炊飯器にセットし、ボタンを押す。ピッ、と言う音がして、炊飯器は自分の仕事を始めた。
【「親じゃないんだし、大丈夫。」←日本語おかしくね....?「親じゃないんだし、心配しないで。」に変えるわ。】
290:なかやっち:2020/04/28(火) 22:18 魔耶「…ふぅ。左手が使えないと不便だなぁ。聞き手じゃないだけましだけど…」
少々戸惑いながらも、野菜を切り終わることに成功した。
カルセナ「お疲れ様〜。大変そうねぇ…」
魔耶「おう…。ドラゴンにやられたのが悪かったな、うん。…さて、お肉お肉〜」
袋から豚のひき肉を取り出す。思っていたよりズシリとしていたので少し驚いた。
魔耶「おぉ…こんなにたくさん買ったの…?」
カルセナ「いったでしょ、オマケしてもらったって。最初は200gだったんだけど…店主さんが『育ち盛りなんだからたくさん食べな!』っていって、100gオマケしてくれたのよ〜」
魔耶「なるほどなるほど……カルセナ浮幽霊なんだからもう育たないじゃん」
カルセナ「いやまぁそうなんだけど…言いづらいやん…。せっかくオマケしてくれたのに…」
魔耶「まぁそうか…ありがたくいただこうか〜。………私の育ち盛りっていつだろう…」
カルセナ「いきなりどうしたのよ…」
魔耶「いや…私は今300歳じゃない。人間でいうと15歳なんだけど…そうすると、今が成長期ってことになるのかなぁ」
カルセナ「どうなんだろうね…?魔族のことなんてわからんよ…」
魔耶「私もわからん」
カルセナ「まぁ、魔耶は死んでないしちょっとくらい成長するんじゃない?」
魔耶「成長するように祈るか〜....」
挽き肉ボウルに入れ、こね始める。これが思ったより重労働だ。
魔耶「あ〜....じゃん負けがハンバーグにすれば良かったかなぁ〜」
カルセナ「もう遅い遅い。頑張ってこねろ〜」
魔耶を軽く励ましながら味噌汁の下準備をする。
カルセナ「そう言えば、味噌汁ってあんま飲んだ事無いなぁー....」
魔耶「そうなの?....あ、そっか」
カルセナ「アメリカでは馴染みが無いからさ」
魔耶「じゃあ、逆に何飲んでたの?」
カルセナ「うーん.....飲んでてもスープ系かなー.....お米はちょっと食べてたけどね」
魔耶「へぇー.....食文化やっぱ違うんだなぁ」
カルセナ「そう言う魔耶こそ、そっちの世界では何か普通と違う食べ物とかあったりしたの?美味しいものとか」
目を輝かせながら、魔耶の顔を覗き込む。
魔耶「え〜?うーん.....」
少々悩む。私が普通だと思っているものが珍しかったりするかも知れないからなぁ…っていうか、前の世界ではあまり外食しなかったし。
魔耶「ん〜…あ、そうだ」
カルセナ「?」
魔耶「私の世界では色んな国が存在してるんだけど…年に2回くらい?すべての国の料理人が一ヶ所に集まって料理大会みたいなのをしてるのよ。個々に屋体をだして、お客さんは食べ比べをして、どの料理が一番美味しいかを評価する」
カルセナ「ふんふん。国ごとに料理が違うの?」
魔耶「そうそう、自分の国の料理を出すの。だから知らない料理がたくさんでるんだよ。みんな美味しかったなぁ…」
過去に食べた美味しい料理の味を思い出す。
カルセナ「すご…そんなのがあるんだ…魔耶の世界行ってみたいわ」
魔耶「はは、頑張ればこられるかもね?私はカルセナの世界に行ってみたいけど…あ、英語話せないわ」
魔耶の言葉に二人で笑い合う。
…そうこうしているうちに40分が経過した。あたりにハンバーグの美味しそうな匂いが漂っている。
魔耶「…よっしゃあ!完成っ!」
カルセナ「お疲れ〜」
一足先に料理を作り終えたカルセナが、ソファにおっかかりながら言葉を掛けてきた。
魔耶「うむ。なかなかの重労働だったわ…。左手の大切さがよくわかりました」
カルセナ「あはは、そんなにか…w」
魔耶「そんなにだよ〜。体力と精神力どっちも使ったんだから。…よし、良い感じにお腹も空いたから早く食べよう!」
カルセナ「そうだね〜。さっさと盛り付けて運んじゃお〜」
各々好きな分だけ自分の皿に盛り、余った分も調節して盛り切った。
あっという間に、テーブルの上に美味しそうな料理が並んだ。
魔耶「よし、んじゃあ....」
魔耶カル「いただきますっ!!」
手を合わせて、この食事を待ち望んでいたかの様に大きな声を出した。二人共、最初に手を付けたのはハンバーグだった。
カルセナ「もぐもぐ.....うん!美味しい〜!!」
魔耶「我ながら、中々良い出来栄えだわ〜....もぐもぐ....」
カルセナ「それにしても、ハンバーグ久し振りに食べたなぁ」
魔耶「それは私もだよ、こっちに来てからは全然違うもの食べてたからね」
カルセナ「うんうん、北街の料理も美味しいけど、やっぱ馴染みがある料理も美味しいよねぇ」
挽き肉を多めに貰えた事もあって、1人につき2つのハンバーグを作る事が出来た。
がつがつと食べ進める。
魔耶「ご飯との配分むずいな....美味しいから良いや」
カルセナ「美味しいと、ついそれに夢中になっちゃって後のご飯忘れちゃうんだよね....」
魔耶「そしておかず全部食べたあとにご飯だけが残るっていうね…」
カルセナ「そうそう。ご飯だけで食べるのちょっとキツいよね」
魔耶「めっちゃ分かる」
久しぶりに食べたハンバーグがとても美味しくて、二人ともペロリと平らげてしまった。
魔耶「あぁ美味しかったぁ〜…ご馳走さまでした!」
カルセナ「ご馳走さま〜」
いっぱいになったお腹に満足感を感じながら、ベッドにゴロンと寝転がる。
カルセナ「魔耶、ご飯食べたあとにすぐ寝たら太るよ〜」
魔耶「能力使うとカロリーがめっちゃ消費されるからいいの〜…って、この流れ昨日もやったな」
カルセナ「え?やったっけ?」
魔耶「やったじゃん。ほら、ひまりん家で…って、あれブラッカルだったわ」
カルセナ「ブラッカル…あぁ、もう一人の私ね」
お皿を洗いながら、カルセナが納得したように言う。
魔耶「そうそう。…やっぱりどっちもカルセナなんだねぇ…。あ、皿洗いくらいやるのに〜」
カルセナ「え〜…じゃあ交代でやろうよ。自分のお皿は自分で洗うって感じで」
魔耶「はーい」
返事を返しながら自分の左手を見つめる。もうほとんど痛みはなくなっていて、触ると痛いなくらいの感覚だった。
…あれ?普通だったらまだズキズキと痛みがあるはずなのに。治るの早すぎないか?
魔耶「…?」
カルセナ「魔耶〜。こうたーい」
魔耶「あっ、はーい」
…気のせいか。魔族だからな、少しくらい回復が早くたって不思議じゃないよね。
自分の変な考えを振り払うように、皿洗いに集中した。
カルセナ「そう言えばさ〜」
魔耶「ん、何?」
カルセナ「どっちもあんま驚かなかったけど....この世界って凄い不思議じゃない?ドラゴンみたいなモンスターはいるし、変な事件は起こるし....」
魔耶「そうだね〜」
洗い物中の手をカチャカチャと動かしながら応える。
カルセナ「ドラゴンなんて本でしか見た事ないし....怖いけど、そう言うのって、何だかワクワクするんだよね」
魔耶「それは....私もだよ。こんな世界生まれて初めて見たもん」
カルセナ「それもあるかもだけど......私の場合多分あれだな」
魔耶「....あれ?」
そう言うとカルセナは、魔耶の方向を向いて、
カルセナ「魔耶がいる事っ!」
にこりと笑い掛けた。洗い物をしている魔耶の手が一瞬止まった。
魔耶「な...何?いきなり.....」
カルセナ「こんな世界に1人で来ても、今ほど楽しくないと思うんだよね〜。やっぱ最初に魔耶に会えて、良かったなって感じ」
魔耶「それは....ありがとね」
率直に自分の気持ちを放つカルセナに、魔耶も笑みを返した。
カルセナ「今度ご飯でも奢ってあげるわー」
魔耶「ほんと?んじゃあお言葉に甘えちゃおうかな〜....」
くすくすと笑いながら話し続ける。気が付くと、自分の食器を全て洗い終わっていた。
カルセナ「ふぅ....ん、あれ?魔耶、もう左手使えるの?早くね?....あ、でも魔族だからって言うのもあるのかな.....」
魔耶「!……さ、さぁね。よし、疲れたから早く寝ようよ。あ、先にシャワー浴びなきゃか?んじゃあ行ってくる〜」
自分の思っていたことを言われ、少し焦りながら…逃げるようにシャワールームに入っていった。
魔耶「…はぁ」
一人きりになった空間でため息をつく。
魔耶(ちょっとカルセナから逃げるように来ちゃって申し訳ないなぁ。………左手使っちゃってたけど…やっぱりおかしいよね?回復が早すぎると思うんだけど)
あらためて怪我をした左手を見つめる。包帯をしているため、怪我の状態はよくわからない。
…スルスルと包帯をとって左肩を見てみた。
魔耶「…っ…‼?」
怪我をしたはずの左肩は、まだ少しのキズはあるものの…今日怪我をしたとは思えないくらい回復していた。
魔耶「はぁ…!?な、なにこれ…いくら魔族でも、これは…あり得ない、でしょ…」
何度か瞬きをして確認するが、やはり怪我の状態は変わらない。
魔耶(こんなに回復してるなんて…この回復力は、悪魔くらいなんじゃないか?)
魔耶「……あれ、私悪魔だっけ…?…いやいや、ハーフハーフ。私はハーフなんだから。回復力は悪魔と人間の中間くらい、のはず…」
でも、やはりこの回復量はおかしかった。いくら魔族であろうとも、これは…
魔耶「…なんなんだよ〜…」
訳が分からなくて、思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。
カルセナ「...?まぁ、良いか....」
一息ついて、ベッドに寝転ぶ。薄暗い天井をじっと見ながらボーッとしていた。
カルセナ「疲れた....お腹いっぱいになると、何でか眠くなっちゃうね。ちょっと寝ようかな....ちょっと、ね.....」
殆ど参加していないとはいえ、試験で出た疲れも多少あったが為に、すぐ深い眠りに落ちてしまった。
???「.....おかしい」
カルセナ「....うん.....ん?ここは.....あれ、今日は起きてたの....?」
眠い目を擦りながら確認したその者の姿は、魔耶がブラッカル、と呼んでいる人物だった。
ブラッカル「....今目ェ覚めたばっかだけどな」
カルセナ「....で、何かおかしいとか言ってなかった?何が?」
『向こう側』でブラッカルが溜め息を吐く。
ブラッカル「.....魔耶だ」
カルセナ「....え?ま、魔耶....?」
じわじわと溢れ出る動揺を、カルセナは隠しきれなかった。
カルセナ「で、でも今さっきまで、魔耶は何の変わりも無かったよ....??」
ブラッカル「外見はな。だが、さっき魔耶から感じたのは違った。あんなの魔耶じゃねぇよ」
カルセナ「......どう言う事?」
ブラッカル「は?」
パッと投げ掛けられた言葉に、疑問の表情が浮かぶ。
カルセナ「魔耶は魔耶でしょ」
ブラッカル「まぁそれはそうだが.....あいつは違ぇっての。だから今の内に、あいつをどうにかした方が良いと思うぜ。親友であれな」
その言葉を聞いた瞬間、カルセナの表情が曇った。
カルセナ「.....それこそ、おかしいでしょ?」
ブラッカル「.....あぁ?」
魔耶「あがったよ、カル……って、あら?」
部屋に戻ると、カルセナがベッドの上でスースーと寝息をたてていた。寝てしまっているようだ。
魔耶「カルセナ〜、あがったよ〜。カル〜?………まぁいっか」
カルセナを起こすことは諦めて、隣のベッドで自分もゴロリと横になる。
魔耶(……)
一人になれたんだ、この傷のことについて冷静に考えてみよう。…今日はなにをしたかをまず振り返ろう。
魔耶(今日したことは…甘めのコーヒー飲んで、試験で怪我して、輸血してもらって、ハンバーグつくって、お風呂入って…)
…当たり前だが、怪我が早く治るような行動なんてしてない。
魔耶(本当なら怪我が早く治るのは良いことだけど…こんなに早いと流石に怖いというか…)
普通に考えて不気味だ。
魔耶「…あーあ…訳わから〜ん…寝るか」
とうとう考えることを放棄し、寝ることにした。考えてもわからないし、怪我が早く治るのは不気味だけど悪いことではないし。
魔耶「今日は色々あって疲れたし。おやすみ〜……」
??「……だめだよ…。もう、これ以上は…」
魔耶「…?」
知らない声が聞こえる。
??「これ以上したら…戻れないよ。変わっちゃうよ」
魔耶「…なにをしたらだめなの?なにが変わっちゃうの?」
知らない声に向かって疑問を問いかける。が、??には声が聞こえていないのだろうか。私のした問いかけに答える様子はなかった。
??「だめだよ。これ以上やったらだめだよ…」
魔耶「だからなにが?…私のあの傷のことと関係があるの?」
??「…だめだよ…変わっちゃうから…君が君じゃなくなっちゃうかも…」
魔耶「聞いてる〜?聞こえてないの〜?」
??「……もう戻れないから…」
意味が分からないことを言う声に少しイライラした。
魔耶「ねぇ!なんのことをいってるの?」
少し大声で言ってみる。すると、ようやくまともな答えが帰ってきた。
??「君のことをいってるよ」
魔耶「私がなにをしたらだめなの?」
??「悪魔に関わること」
魔耶「え…?悪魔になんて関わってないよ。っていうか私が悪魔と人間のハーフなんだから…」
??「悪魔状態にならないで。もうならないで」
魔耶「悪魔耶のこと?なんで?」
??「君の細胞が変わっちゃう。性格が変わっちゃう。今の君がいなくなっちゃう」
魔耶「…??私がいなくなる…?」
??「君の人間の細胞はどんどん悪魔の細胞によって侵食されてる。また悪魔状態になったら、君は悪魔になっちゃうよ」
魔耶「あ、悪魔になる…の?悪魔になったらどうなっちゃうの?」
??「君がいなくなるよ」
…訳が分からない。悪魔耶になると、私が私じゃなくなる…?
魔耶「もう何度かなっているじゃない。どうして今更?」
??「もう分かってるでしょ。今日わかったでしょ。もう君が人間でいられる時間は少ないよ」
また会話が噛み合わなくなった。
魔耶「どういうことなの?私は人間じゃないじゃん」
??「僕は君に変わらないでほしい。でも、もう一人の君は外に出たくてしょうがない。暴れてる。もし友達のことを大切に思うなら…もうなっちゃだめだよ」
魔耶「友達…?カルセナのこと?もう一人の私…??」
??「君が悪魔になりたいなら、僕は止めないけどね…」
ブラッカル「....何だ?私の言っている事が不満なのか?」
カルセナ「当たり前でしょ。魔耶をどうにかした方が良い....って、魔耶の事どう思ってんの?」
ブラッカル「....良いか、魔耶は確かに大切な仲間だ。但し、お前にとっては、な」
カルセナ「私にとって...は....?」
ブラッカル「私が魔耶を守ってやったり、一緒に協力してやってる理由が分かるか?」
カルセナ「それは....仲間だから」
ブラッカル「魔耶の事を大事に思ってる、お前のご機嫌を取る為だよ」
カルセナ「......ッ!!」
背中がざわっとするのを感じた。驚きのあまりか、言葉が出てこない。
ブラッカル「私の力は、本体の活力がメインとなってつくられる。だから私は、その活力を切らさない為に、お前の大事な存在である魔耶と協力してやってる。つまり、だ。お前が魔耶の事を大事に思ってなければ、私にとって魔耶はどうでも....」
カルセナ「「 魔耶を馬鹿にするなよッ!!! 」」
台詞を言い終わる前に、カルセナが怒鳴った。
ブラッカル「....ったく、ゴチャゴチャうるせぇな....テメェは黙って私の言う事を聞いてりゃ良いんだよ!」
カルセナ「やだね!!誰が聞くもんか!!」
ブラッカル「テメェが私の言う事を聞いて損した事あったか!?幹部にやられそうになったときも、試験で一発決め落とす前も!!つーか、まずそれらの場面で私が出てなかったら、どうせテメェはもうここには居なかったんだよ!!分かったか!?」
カルセナ「それとこれとは訳が違う!!それら場合の話と、今の、魔耶の状況をどうするかなんて話は関係ないじゃん!!魔耶は私の大事な仲間なんだから!!ちゃんと守ってよ!!」
ブラッカル「そうか、1つ言い忘れてたけどな、大事なものと命だったら私は後者を優先するからな!!こっちはテメェの事を考えて言ってやってんだ!!この話を聞かねぇんだったら、もう窮地に追い込まれたって助けてなんかやんねーからな!!」
カルセナ「ふん、助けて貰わなくたってどうにかするよ!!魔耶の事は自分で考える!!」
ブラッカル「ッ....あーそーかよ!!じゃあ勝手にしろ!!」
激しい言い争いの末、ブラッカルは舌打ちし、背を向けて喋る事を止めた。
カルセナも同じく背を向けて、この夢から覚める事を決めた。
カルセナ「....う.....ん、魔耶....もうあがってたのか....」
ベッドで寝息をたてて寝ている魔耶が視界に入る。窓の外は暗闇に包まれていた。
カルセナ「....私も、シャワー浴びて来るか」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、バスルームに向かった。
魔耶「っ…うーん…?」
謎の夢から覚め、現実に戻ってきた。体を起こす。
魔耶「……なんだったんだろ、あの夢…なんか…すごく大事なことを言われた気がする…」
??の言っていることは意味が分からなかったが、辛うじてわかったことはすごく重要なことだった。
魔耶「確か…悪魔耶になると私は悪魔になっちゃって、別の私になる。…ブラッカルみたいな感じになるのかなぁ…」
もう一人のカルセナを思い浮かべる。私の中にも、もう一人の私が存在しているのだろうか…。
魔耶(とにかく、これから先は悪魔耶にならないほうがいいのかな。…細胞が悪魔に侵食されちゃう、か…)
…ようやく、この傷の疑問が解けた。私の体は今…悪魔に近づいていってるんだ。そう考えれば辻褄が合う。あの夢は真実を語っていたんだろう。
魔耶(じゃあ本当に…私が悪魔になっちゃったら、私はいなくなるの…?他の誰かが私になるの…?)
…不意に、涙がボロリとこぼれた。…その涙は、怖さと不安からの涙であった。
魔耶「私…いなくなっちゃうの?まだカルセナと冒険したいのに…いつか、この世界から消えちゃうの?カルセナと会えなくなる時が来るの?」
涙は次から次へと溢れてきて、止めようと思っても止めることができなかった。