小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦
501:なかやっち:2020/05/29(金) 22:52 魔耶「…んじゃ、いくぞ…」
自身の背丈もありそうな大きなハンマーを振りかざし、勢いよく降り下ろす。
カルセナ「いけー!」
巨大なハンマーが空気を切り裂き、岩に当たり、そして…
カル魔耶「……‼」
なんと、二人の目の前で固そうな岩は大きな亀裂を入れ、砕けちってしまった。これには思わず目を見張る。
魔耶「嘘………え、私がやったんだよね…?」
カルセナ「…そうだよ!魔耶すごい‼こんなおっきな岩を…」
魔耶「……はは」
信じられないという思いと悪魔化が深刻だと認識したのとが同時だったため、魔耶はどんなリアクションをとればいいのか分からなくなってきた。
カルセナ「うーん、でもこの岩の下には何にも無いね〜....」
魔耶「きっと他の所にあるんじゃないかな?」
カルセナ「じゃあ、お願い出来ますか....?」
魔耶「りょーか〜い」
取り敢えず手当たり次第に岩を壊してみる事にした。モンスターには申し訳無いが、そうでもしないと見つけられないのだ。
どんどんと岩を壊して行く。そうして、4つ目の岩をたった今破壊した。
魔耶「ふぅ.....どうだ....?」
カルセナ「.....わぁ!!魔耶、大きい穴が空いてるよ!!」
魔耶「ほんとだ....て事は、ここが入り口....?」
カルセナ「そうかもね…行ってみようよ!」
魔耶「了解でーす。待ってくださーい……明日筋肉痛だなこれ…」
ずっと持っていた重たいハンマーを消し、カルセナに続いて暗い穴の中へと入って行った。
魔耶「…わ、思ってたより広い…」
中に入ってみて、思わず呟いてしまう魔耶。
穴の中は意外にもスペースがあり、二人で並んで歩けるほどだった。
カルセナ「そうねぇ…怪鳥はこのぐらい大きいってことか…?」
魔耶「たしかに…え、じゃあすごく大きいじゃない」
カルセナ「いやまぁ、怪鳥が広めにつくっただけでそこまでは大きくないって言う線もあるけど…」
魔耶「そうだったらいいけどな〜…」
カルセナ「....あのさ....」
魔耶「ん?」
カルセナ「仮に鉢合わせしちゃって、戦うとするじゃん?」
魔耶「まぁ、戦いは避けられないかもね....」
カルセナ「でも、ここで戦っちゃったらめっちゃ危険じゃない....?」
通路の天井を見て不安を胸に抱く。当然、通路は土で出来ていた。もし崩れて来たらと思うと、心配せずにはいられない。
魔耶「確かに......んーじゃあ、モンスターと出会うか、盗品を見つけたらすぐ穴から出る?」
カルセナ「モンスターを1匹ずつ対処するのは面倒臭いけど、仕方無いね....」
魔耶「モンスターも仲間を呼ぶかもしれないし、思ってるよりは面倒臭くないんじゃない?」
カルセナ「そうだね、頑張るか〜.....」
少しずつ奥へ進んで行くと、段々と暗くなってきた。地中の穴の中なのだから、そうなるのは当たり前の事だった。
カルセナ「......うー、暗いなぁ.....私全然奥の方見えないんだけど....魔耶は見える?」
魔耶「私も全くみえないよ〜…明かりを持ってくるべきだったな…」
目を細めて先の様子を伺うが、やはりなにも見えなかった。これでは依頼の貴重品とやらも見つからないかもしれない…怪鳥に鉢合わせしないうちにさっさと帰りたいのだが…
カルセナ「能力で明かりつくれたりしないの?ぱぱっと!」
魔耶「おいおい、私の能力はそこまで有能じゃないぞ…この能力は魔力を形にしてものをつくるだけで、個体じゃないものとか細かい部品が必要なものはつくれないの〜」
カルセナ「なるほど…つまり、炎をつくるとか懐中電灯をつくるとかはできないってことか」
魔耶「そゆことそゆこと。この能力、一見便利そうでもできないこととか弱点とかはいっぱいあるんだから」
カルセナ「ほう、弱点なんてあるの?例えば?」
魔耶「うーん…結構大きな弱点といえば………って、いくらカルセナでも自分の弱点は教えられないわ」
カルセナ「むーケチ〜」
魔耶「はは、私にだって秘密の一つや二つありますよー。…っと、ここ分かれ道だねぇ…」
二人の目の前に、二つに別れた道が現れた。
カルセナ「あ、本当だ....どうしよう、明かりも無いし....」
魔耶「流石に二手に別れるのは危険だと思うんだよね.....どっちかに行くしかないかな」
カルセナ「うーん、どっちが正解なのかな.....」
魔耶「分からない....あ、そうだ」
カルセナ「うん?何か思い付いた?」
魔耶「こう言うときこそカルセナの出番でしょ?」
カルセナ「....?私に何か出来るかなぁ....?」
魔耶「右に行った場合の未来と左に行った場合の未来、読んでみてよ!」
カルセナ「え、えぇ....?やってみるわ.....」
多少戸惑いながらも、目をつぶって集中するカルセナ。
…彼女は自分の能力をローリスクローリターンなんて言っていたけど、私はカルセナの能力がとても便利だと思う。使いようによっては、日常でも戦闘でも役に立つハイリターンな能力だ。…カルセナはそのことに気づいていないようだが。
魔耶「…どう?見えた?」
カルセナ「ん〜と…今左いった場合の未来見てる……あ、途中で行き止まりだわ。広いスペースがあるだけで、他にはなんもないな」
魔耶「ほうほう…んじゃあ右行こっか。行き止まりのとこに行ったってしょうがないし」
カルセナ「はーい」
そうして、右へ向かって歩き始める。奥へ進むにつれ、どんどんと光が届かない世界へと変わっていく。
魔耶「ほんとに居るのかな〜....まだ出会ってないし....鳴き声もしなくなったしさ」
反響するにも関わらず、耳を澄ましてもあの奇妙な鳴き声は殆ど聞こえない。
カルセナ「うーん、警戒してるのかな..........あ、ここからもう全然見えないや....」
これから進もうとしていた道は完全に光がシャットアウトされ、何も見えない宵闇が広がるだけだった。
魔耶「む、ほんとだ....でも、盗品を探さないといけないし......どうしよう」
カルセナ「んー......おびき出してみる....とか」
魔耶「え?モンスターを....?」
カルセナ「う、うん....怖いけど....」
魔耶「モンスターをおびき出したって、盗品が見つからないと意味は無いんじゃない?」
カルセナ「そうだけど....その前に、本当にここにいるのか確かめるにはそうするしかないんじゃないかなって....もしここが巣だったら、後で明かりを持ってくるとか出来るし....」
魔耶「…まぁ、それもそうか…怖いけど、やるしかないか…」
カルセナの案に少々不安を抱きながらも承諾し、右の手を前につきだした。
カルセナ「…?なにする気?」
魔耶「いやぁ、楽器でもつくって鳴らせば出てくるんじゃないかなーって…いいかな?」
カルセナ「あぁ、そういうことね…いいと思う」
魔耶「あざーす。…んじゃ、ベルでもつくりますかね…」
頭の中で描いたベルの輪郭を魔力をつかって現実に出す。魔耶の右手に大きめのベルが握られた。
カルセナ「…んじゃあ…鳴らす…?」
カルセナ「う、うん....」
ゆっくりとベルを振り上げ、そして振りかざした。
ベルは、カランカラン....と暗い穴全体に光を灯すかの様な綺麗な音色を立てた。大きなベルだった故に、音も大きかった。
魔耶「......どうかな....」
カルセナ「....すぐには来ないのかな?もうちょっと鳴らしてみれば?」
魔耶「そうだね....よっと」
立て続けにベルを鳴らした。
魔耶「....うーん、まだ来ないなぁ....腕疲れた〜」
カルセナ「お疲れ〜、頑張れー。.......?」
魔耶「いくら警戒してると言えども、流石に来なさすぎじゃ.....ん?どうかした?」
穴の奥を見つめながらボーッとしていたカルセナに声を掛ける。恐らく、細かい未来をちまちまと読んでいたのだろう。
カルセナ「......ヤバい....かも......」
魔耶「えっ....?何が....」
カルセナ「....ッ、一旦出よう魔耶!!ここにいちゃ危ないっ!!...気がする!」
魔耶の腕をがしっと掴んで出入口に向かった。魔耶の持っていたベルが、乾いた音を立てた。
魔耶「なに…?な、なんなの…⁉」
ガラガラと音を鳴らしていたベルを消し、カルセナに問いかけた。
カルセナ「いいから、今はとにかく走って!早く出口に…!」
魔耶「……わ、わかった…」
いきなりこんな状況となり混乱している頭でも、カルセナはなにかヤバイ未来をみてしまった…ということだけはわかった。どんな未来がみえたのかはわからないが、カルセナのこの慌てようは普通じゃない。今はカルセナについてここを出ることが得策であろう。
魔耶「…ど、どんな未来がみえたの…?」
カルセナ「えっとね....」
魔耶に説明しようと喋り始めた途端、後ろから聞き覚えのある、おかしな鳴き声がした。その声は、二人を追いかけているかの様に近付き、どんどんと大きくなってきている。
魔耶「この鳴き声.....まさか....!!」
何かを察し、魔耶も全力で出入口に向かう。少し先には、仄かな光が見える。二人が入って来た出入口から差し込んで来ている日光だ。
カルセナ「もうちょっと....間に合え〜っ!!」
足の力を振り絞り、光を目指した。
そうして、目の前が眩しい光に覆われた。
魔耶「うっ......外だ!!」
カルセナ「やった.....出れた....」
一息つこうとした瞬間、後ろの穴から何かが真上に飛び出した。バッと振り替えるとそこには、写真よりも恐ろしく、鋭い嘴を持った大きな鳥型のモンスターが空中で羽ばたき、こちらに警戒の眼差しを向けていた。
魔耶「ッ…!こ、こいつが…」
カルセナ「…写真よりも怖いね…」
二人で怪鳥に向き直る。怪鳥のランランとした鋭い瞳孔で睨み付けられ、完全に自分達のことを敵対視してるのだと理解できた。…勝手に巣にはいったのだから当たり前といえば当たり前だが。
魔耶「…流石に逃がしてくれるなんてこと、ないよね…」
カルセナ「そりゃそうでしょ…あの目を見ればわかるよ。殺意しかこもってないもん」
魔耶「…うん、殺る気満々だな……戦わなきゃダメかぁ…」
はぁとため息をつく。なんとなくクエストを受けたときから平和的には終わらないだろうなと予想していたけど、やはりこうなってしまうのか…。
カルセナ「今の魔耶なら大丈夫だって!気絶させる程度まで攻撃して、ゆっくり貴重品ってやつ探そう!」
魔耶「今の私でもどうだろうねぇ…まぁ、やれるだけのことはやってみようじゃないか。早くクエストクリアして、悪魔の問題を解決しなきゃな」
カルセナ「うむ、それでこそ魔耶だ」
魔耶は双剣を、カルセナは拳を構えて怪鳥と向き合う。怪鳥はこちらの出方を伺っているようで、攻撃する様子もなく彼女らの動きを観察していた。勝手に巣に入られて怒っている割には冷静な判断だ。…一筋縄ではいかないであろう。
魔耶「....さて、どう行こうか....」
巣から出てきたときの身のこなしを考えると、こちらから攻め落とすと言うのは難しいだろう。
何故ギルド側は、こんなにも凶暴そうな怪鳥を相手にした依頼をランクDに設定したのだろうか。自分達の基準が甘いのか、はたまた相手が団体でないからなのか....だが、今はランクなど関係ない。目の前の敵に集中する。
相変わらず様子を伺っている様だったが、二人がこのまま動かない事を察したならば、襲ってくる確率は大いにあるだろう。
カルセナ「む〜.....未来読むの難しいよ〜.......」
怪鳥や自分達が行える動作など、星の数程ある。その全ての未来を読み、攻略法を探すのはとてつもなく難しい事だった。
魔耶「取り敢えず真っ正面から突っ込んでも負けるよね.....」
カルセナ「うん、未来読まなくても分かるわ.....どうする....?」
魔耶「どうするっていっても…どうしよう…」
正面から行ったら確実にやられてしまう。かといってここでじっとしていたら襲ってくるかもしれない。やはり様子見をしている隙にこちらから行くべきなのだろうが…どう攻めたらいいのであろう?
カルセナ「……未来も読みきれないし、どうしたらいいんだろ…」
頑張って未来を読もうとしてるカルセナだが、やはり未来を読むのは難しいようだった。カルセナの能力に頼ることはできないめあろう。
魔耶は必死に頭を回転させ、策を練る。
魔耶(正面から行ったらやられちゃうだろうし、やみくもに突っ込むのは危険だよなぁ…こっちの動きを観察してるから攻撃しても避けられる確率が高い。…なんとか隙をつくれれば…)
魔耶「……二手に分かれて攻撃するか…能力で人形をつくって不意をつく…今考えられるのはこの二つかな…」
とりあえず思い付いた作戦をカルセナに伝える。魔耶とカルセナで別方向から攻撃し一人に集中できないようにするか、能力でつくった人形を動かして隙をつくる…今思い付くのはこの二つだ。
『できないであろう』です。さーせん…w
517:多々良:2020/06/05(金) 22:26 カルセナ「前者は良いと思うけど.....後者は大丈夫なの?今もそうだけど、能力たくさん使っちゃったら悪魔化が進行しちゃったりとか......」
魔耶「まぁ、可能性は無くないけど......」
カルセナ「じゃあ、二手に別れようよ。纏まってやられたら大変だしさ」
魔耶「うん、りょーかい」
少しだけ話し合って、改めて怪鳥の方を向く。二人がわずかながら動いたりしていたので、怪鳥はまだ警戒しながら飛んでいるだけだった。
カルセナ「.....じゃあ魔耶、私が頑張って隙をつくるからね!」
魔耶「さっきも聞きましたよ〜....よーし.......行けっ!!」
合図を聞き、二人同時に地面を蹴った。
魔耶(あんまり能力使わないほうがいいのか…なるべく双剣だけで戦って、カルセナの援護をしよう)
走りながら自分のやるべきことを考える魔耶。カルセナが攻撃に集中できるように、自分はできるだけ怪鳥を引き付けよう。そう考えカルセナとは逆の方向に走っていく。
怪鳥は相変わらず空中でバサバサと羽を上下に動かしているが、目は二人を交互に追っていた。
魔耶(うんうん、意識が分散してるね。作戦通りだ)
魔耶「私はカルセナに合わせて援護するから!どんどん攻撃して、隙つくって!」
カルセナ「うんっ、ありがと!!」
魔耶が怪鳥の意識を逸らしてくれている隙に、出来るだけそれに近付くように飛ぶ。
カルセナ(ただのパンチやキックじゃあ効かないよなぁ.....どうしよう.....)
今の状況下において、攻撃方法を考えている時間でさえ勿体無く思えた。また、あいつに頼るしかないのだろうか.....。
カルセナ「.......ねぇ、起きてる?」
ブラッカル「....?...ん〜....何だよ.....」
カルセナ「また力貸してくれない....?」
ブラッカル「はぁ....私はテメェの道具じゃねぇんだぞ」
カルセナ「ごめん!お願いだからさ、今は.....」
ブラッカル「......ったく、分かったよ.....今だけな....」
怪鳥の狙いをカルセナに向けさせまいと走っていた魔耶だったが、途中でカルセナの様子が変わったことに気づく。
魔耶「…?カルセナ…?いや、あれは…」
魔耶の視界に入ったのは、髪と肌以外が真っ黒になったカルセナ…いつものカルセナとは違うが、見覚えのある姿だった。
魔耶「ブラッカル…?」
ブラッカル「…よぉ、魔耶とは久しぶりだな。…つっても数日くらいか?」
名前をボソリと呟くと、真逆の方向にいるブラッカルに話しかけられた。
…いつも見ている顔なのに久しぶりと言われるのは変な気分だ。中身は違うけども…
ブラッカル「....んで、出たは良いもののどういう状況だ?」
魔耶「え....それは分かんないのね....」
周りの景色などを見て、大体を把握する。
ブラッカル「んー....取り敢えず、こいつぶっ飛ばせば良いのか?」
カルセナからブラッカルになった事で、違和感を感じ取り更に警戒している怪鳥を指差し、魔耶に確認する。
魔耶「そゆこと、私が気を引くから攻撃して!」
ブラッカル「よし....んじゃあ、ちょっと体動かすか!」
軽く体を伸ばすと、隙を窺うかの様に怪鳥の周りを飛び始めた。カルセナであったときよりも素早い動きだった。
ブラッカル(狙うんなら頭が良いが.....入り込めるかどうかだな)
と、ようやく怪鳥が地面に降り立った。様子見は止めた、ということだろうか…だとすると、怪鳥はこれから攻撃を始めるのだろうか。
ブラッカルが攻撃に集中できるように、怪鳥の注意は自分に向けなければいけない。どうすれば怪鳥の注意が自分に向くだろうか?
魔耶(能力使えば簡単なんだけどな…)
ここは大声でもだそうか…それとも、能力を使ってしまおうか…
魔耶(でも今悪魔になったら困るしなぁ…ブラッカルなら悪魔に勝てるかもしれないけど、まだ悪魔の苦手なものとか見つけてないし…でも、くまさんで怪鳥を引き付けられれば…)
…あまり気は進まないが、能力を使うとしかないか…。大きなものをつくるわけではないし、きっと大丈夫だろう…と思いたい。
掌に意識を集中させ、可愛らしいくまのぬいぐるみを思い浮かべる。
ブラッカル「....ん?何やってんだ....?」
魔耶が手先を気にしている様に見えたかと思えば、そこに、ぽんっと少々小ぶりなぬいぐるみが現れた。
ブラッカル(成る程な、あれで気を引くつもりか.....あいつは能力使って大丈夫なのか?)
地上近くまで下降したブラッカルは、魔耶の動きを見守る。怪鳥の気があっちに向いたら、一気に片を付けるつもりだ。
魔耶「さて....こっち見て貰えるかな?」
ぬいぐるみを、怪鳥にやられない程度の所まで移動させ、少し鬱陶しい位に動かす。予想通り、怪鳥はぬいぐるみを気にしている様だ。
ブラッカル「ふぅん....何かちょろい鳥だな....そろそろやっちまうか?」
出来れば一発で終わらせたいが、前の試験のときみたいに、そう易々と出来るものでもない。だから、それを達成する為、あらゆる神経を張り巡らせる。
魔耶(…能力使っちゃったけど、大丈夫そうだな…特になんの違和感もないし)
くまさんを操り、怪鳥の目の前で右へ左へと移動させる。怪鳥が攻撃してきてもヒョイと軽々避けさせるため、怪鳥が怒ったように嘴をカチカチと鳴らした。
魔耶「よしよし、完全にくまさんに夢中になってるね」
これでブラッカルは簡単に攻撃することができる筈だ。
…肝心のブラッカルはというと、怪鳥を一発で仕留める気なのか集中している様子が見受けられた。
ブラッカル「……よし、いくぞ…」
足に力を入れ、怪鳥に向かって一直線に飛ぶ。魔耶が操るぬいぐるみに夢中で、ブラッカルの気配には気付いていない様だった。
一瞬にして、怪鳥の頭部へと近付く。ようやく殺意か何かを感じ取ったのか、怪鳥がブラッカルの方に振り返った。
ブラッカル「今気付いたって遅いぜ!!喰らえッッ!!!」
全ての力を足に込めて、怪鳥の硬そうな頭部を横から蹴った。
魔耶「えっ!?横!!?」
踵落としをするのだろうと思っていた魔耶は、驚きの声をあげる。
怪鳥「「 ギャアァァァ!!! 」」
かなりの衝撃が加わったせいで怪鳥は蹴られた方向に大きく飛び、そこにあった岩に激突してしまった。どうやら今は、衝撃で目を回してしまっている様だ。
ブラッカル「....っしゃあ!!見たか!!おーい魔耶、お前は何とも無ぇか?」
魔耶「うん、大丈夫………ッ?」
ブラッカル「…?どうかしたのか?」
魔耶「…なんか、右目が…痛いんだけど…」
右手で目を押さえる。ズキズキとした痛みが走っていて、思わず顔をしかめた。
そんな私の様子を見て首を傾げるブラッカル。
ブラッカル「ゴミでも入ったんじゃねぇか?」
魔耶「ん〜…どうだろ…」
ブラッカル「ちょっと見せてみろよ」
魔耶「…はい…」
痛みをこらえ、閉ざしていた右目を開く。
ブラッカル「どれど…れ…って、あれ…?」
魔耶「ん…どうかした…?」
ブラッカルは少し混乱したように考え込んだあと、私にある質問をしてきた。
ブラッカル「…お前の目って…両方赤かった、のか…?」
魔耶「…えぇ?右目は青だよ?」
ブラッカルは何を言っているのであろう。カルセナより少ないとはいえ、カルセナの次に長く私と一緒に過ごしているのだ。そのくらい質問しなくてもわかるのではないだろうか?
魔耶「いきなりなんでそんな質問するのさ?」
ブラッカル「いや、だって…お前の右目…」
ブラッカル「赤くなってるぞ…?」
魔耶「......えっ?」
自分に無い情報を告げられ、一瞬頭の整理が追い付かなくなる。
魔耶「な、何で.....?」
ブラッカル「何でって言われても.....知らねぇよ」
魔耶「嘘でしょ.....まさか....」
能力を使う事で悪魔化が進行する可能性は大いにあったが、まさかこんなにも分かりやすい変化が訪れるなんて....。
ブラッカル「.....?まぁ良い、怪鳥はぶっ飛ばしたし、後はお前らで考えた方が良いだろ。....私は寝る、じゃあな」
そう言って、ブラッカルの面影は徐々に消え失せていった。そうして、いつも通りのカルセナが魔耶の目の前に現れた。
カルセナ「....ん、モンスターはもう居ないのか....?」
魔耶「....あ、あぁ、ブラッカルがあっちに蹴り飛ばしてくれたよ....」
カルセナ「そっかー。じゃあ、手っ取り早く貴重品を見っけて.......あれ?何か魔耶....目の色変わってない....?」
魔耶「........そうみたい....」
カルセナ「....それも、もしかして....悪魔化してる証拠...なの....?」
魔耶「そう…なのかも…」
自分の右目を押さえる。もう痛みはないが、悪魔化が進んでしまったという精神的ダメージがあった。
カルセナ「魔耶……大丈夫…?」
魔耶「…うん。さっきは右目が痛かったけど、今はなんともないよ。まだ時間はあるみたいだね」
カルセナを安心させるために、自分に言い聞かせるために言葉を発し、軽く笑い掛けた。
カルセナ「……そういうのじゃ……いや、やっぱなんでもない。なにかあったら言ってよ?」
魔耶「?…うん、ありがと。……じゃあ、怪鳥が気絶しているうちに灯り取ってこないとね」
カルセナ「ん……あぁ、そうね。…でも、片方は怪鳥を見張ってた方がいいんじゃない?灯りを取ってきているすきに怪鳥が復活してて、また戦うことになったりしたら嫌だよ?」
魔耶「確かにね…んじゃ、そうしましょうか。どっちが灯り取りに行く?」
カルセナ「うーん....」
双方の状況を考えて、決断を下す。
カルセナ「....私が怪鳥を見張ってるよ。魔耶は灯りを持ってきて」
魔耶「分かった。でも、見張り大丈夫....?ずっと怖がってたりしたから.....」
カルセナ「うん、大丈夫。いざとなったらまたあいつが出てきてくれるかもだし、魔耶にあまり....その....能力を使わせちゃう事が無いようにさ」
両方とも赤く染まってしまった魔耶の目を見つめる。
魔耶「....ん、ありがと。じゃあ、すぐ持ってくるからここはよろしくね?」
カルセナ「了解!!」
そう言って、怪鳥が倒れている側にある岩の上に座った。魔耶が灯りを取りに飛んで行ったのを見送りながらーー。
魔耶「……ッは〜…」
カルセナと別れて10分くらいはたっただろうか…魔耶は一人、空中でため息をついた。
魔耶「…また悪魔化進んじゃったなぁ…これじゃあ、悪魔になるのがちょっと早まるかも…」
魔耶が言っているのは、先程の右目の件についてだ。
まさかほんの少し能力を使っただけでこんなことになるなんて…自分の考えが甘かったことを後悔する。…が、今さら遅い。時間を巻き戻すことなんて出来ないのだから。
魔耶(後悔先にたたずってやつか…もっと慎重に行動すべきだったなぁ…。カルセナにも心配かけちゃったし、気を使わせちゃったし…申し訳ない……)
後先考えずそのときの直感で行動する。やはりこういうところが自分の悪いところだろうな…。
もう過ぎてしまったことはしょうがないと諦めるしかない。…でも、反省してまた同じ過ちを繰り返さないようにすることはできる。これからはもう少し先のことを考えて行動することにしよう…そう思った。
魔耶「…さて、早くカルセナのところに行かなきゃいけないんだから。さっさと灯り取ってこないとね」
カルセナ「....流石にまだ起きないかな.....?」
時折倒れている怪鳥の様子を窺いながら、ほっと空を見上げる。多少の雲はあるが、今の天気は世間で言う晴れであった。もうすぐ日が落ちて夕暮れになると思うと、今過ごしている全ての時間がとても憂鬱に感じられた。
そう思うのも無理はない。時間が進むと言う事は、着実に魔耶の悪魔化が進んでしまうと言う事なのだから。
カルセナ「はぁ.....どうすれば悪魔化を止める事が出来るのかなぁ.....ねぇ、どう思う....?」
先程怪鳥を蹴り飛ばしたブラッカルに語り掛ける。が、返事は無い。いつもそうである。本体が危険な状態、または戦闘体制になっていないときは、元々居なかったかの様に存在を薄め、ずっと寝ている。
カルセナ「....そんなに寝る必要あるかね....でも、本来は封印されてる奴っぽいから、これが正常なんだろうけどさ....」
伸ばしていた背中と首が疲れたので、仰向けでごろんと岩の上に寝転がり、頭を支える為に後頭部付近で両手を組む。
カルセナ「......私にもっと、出来る事があったら良かったのに....」
それから一時間半後、魔耶はカルセナのもとに向かって飛んでいた。その手にはオレンジ色の暖かい光を放つランタンが握られている。ギルドの係員に頼んでみたところ、快く貸してくれたのだ。
魔耶「買わなきゃいけないかな〜なんて思ってたけど、ギルドで借りられてラッキーだったなー。もうお金がなかったからありがたい…」
ほっと一息つき、ギルドの職員に感謝した。…まぁ、本当はこういう道具を持っていってからクエストに向かうべきなんだろうけども…生憎、魔耶達はまだ数回程度しかクエストを受けていなかったため、そういうことは知らなかった。これからは気を付けるとしよう…。
魔耶「ん、ここら辺だったっけ…」
それからしばらく進み、見覚えのある地点まで来ることができた。出発したところはこの辺りだったはず…。
カルセナと合流するため、降下してスタッと地面に降りたった。辺りを見回して彼女の面影を探す。
魔耶「なんか目印でも付けるべきだったなぁ…カルセナ〜?どこ〜?」
カルセナ「.....ん?」
何処からか、名前を呼ぶ声が聞こえる。横になっていた自分の体を起こす。幸いにも、怪鳥はまだ起きていない様だ。これだけ大きな怪鳥が、これだけの時間気絶しているなんて、もう死んでしまっているのではないか....などと思ってしまう。もしくは、ブラッカルがそれだけ強力な蹴りを放ったのか....。そんな考えを片隅に置き、声の主を探す。
???「.......〜」
カルセナ「うーん....?どこかな....あっ!おーい、ここだよ〜」
遠くに見えたのは、紛れもなく魔耶だった。ここからではよく見えないが、魔耶の手に何かが握られていた。
魔耶「.....お、いたいた。ごめーん、お待たせ〜」
小走りになってカルセナの元へ駆け寄る。カルセナも岩から降り、魔耶の元へ向かう。
カルセナ「いやいや大丈夫だよー。灯り持って来れて良かったね!」
魔耶「これであの巣の奥まで探しに行けるね〜。そっちこそ、怪鳥は起きたりしなかった?」
カルセナ「うん、ずっとあそこで寝てたよ〜」
魔耶「それは何より.....んじゃ、ぱぱっと探しに行っちゃいましょっか」
カルセナ「りょーかーい」
二人で再び巣のなかに潜り、貴重品を探し始める。仄かな明かりを放つランタンを持っているというだけでも、先程とは安心感が違った。
カルセナ「…あ、そういえば、そのランタンどうしたの?買うお金なんてなかっただろうし…」
魔耶「あぁ、うん。最初は買うしかないかな〜なんて思ってたけど、ギルドに行ったら職員さんが貸してくれてね。お金なかったからありがたかったよ」
カルセナ「へぇ…ギルドで借りられるんだ〜。便利だねぇ」
魔耶「ねー。流石ギルド…」
北街の中では大きい方に分類される建物だし、きっとあの街の中心的存在なんだろうなぁ…なんて思う。…実際、ギルドがなかったら街の人は狂暴なモンスターを恐れて暮らす日々だっただろうしね…。
魔耶「....さてと、戻って来ましたね〜」
少し前に危険を察知し、探索を断念した場所まで帰って来た。
カルセナ「こっから先にあるのかな?早く見つけて帰ろ〜、魔耶〜」
魔耶「うんうん、暗くなっちゃうしね」
洞窟を照らす頼もしいランタンを片手に、行けなかった洞窟の奥の探索を始める。
カルセナ「こう言うのは、一番奥に置いてあるって言うのがオチだよなぁ....」
魔耶「そうじゃなかったらどうする?」
カルセナ「そうじゃなかったらって.....例えば?」
魔耶「意外と手前の方にあったり....もしくは、そもそもここじゃなくて違うところにあるとかね」
カルセナ「前者はありがたいけど.....後者は嫌だなぁ.....わざわざ怪鳥を倒したって言うのに....」
魔耶「そうだねぇ…ま、不吉なこと言っちゃったけど、きっと奥にあるよ。パパッと探しちゃいましょ〜」
カルセナ「はーい」
魔耶「…あ、カルセナ〜!なんか穴があるよ〜?」
それからしばらく歩き、そろそろ長い道のりの終盤に差し掛かっていたであろう…というときに、魔耶がカルセナに話しかけた。
カルセナ「ん〜?…あ、ホントだ。通路の横に穴があいてる…」
魔耶が見つけたのは、通路の途中にあった横穴だった。分かれ道があったり通路の途中に穴があったり…なんだか蟻の巣のようだ。
魔耶「穴の中はよく見えないねぇ…行ってみる…?」
カルセナ「うーむ、そうだねぇ…貴重品とやらがあるかもしれないし…行ってみようか」
魔耶「了解でーす」
魔耶が見つけた横穴へと入る。少し道が続いたが、やがて目の前に広い空間が現れた。
魔耶「うわぁっ....なにこれ....」
そこには、声を出して驚いてしまう程の、大量の貴重品と思われるものが乱雑に落ちていた。
カルセナ「うわ〜.....ここにたくさん貴重品があるって事は、探してるやつもここにあるかもね....」
魔耶「て事は.....この中からそれを探し出せってことだよね....」
カルセナ「うん....大変だけど、そういう事だね....」
改めて辺りを見回す。ランタンの光が届く範囲内に見える貴重品だけでも、数え切れない。
魔耶「うう.....仕方無い、やるか....」
カルセナ「いつ見つかる事やら....」
そうして二人は、1つのランタンを頼りに大量の貴重品を漁り始めた。
魔耶「ん、これは…いや違うな…」
乱雑に置かれた物の中を漁る二人。
この大量の貴重品の中からたった1つの依頼品を探すなんて…地道すぎる作業だ。似ている品も多いし……自然とため息がこぼれる。
カルセナ「……こんなにたくさんある物の中から依頼品を探すなんて…日がくれちゃうよ…」
魔耶「ほんとにね〜…。あの怪鳥、貴重品を盗む習性でもあるのかな?」
カルセナ「うーむ…鳥は、綺麗なものとか光る物とかを集めるって聞いたことあるから…そうなんじゃないかな。…っていうか、そうじゃなかったらこんなに集めてないでしょ…」
魔耶「まぁ、そうか…迷惑な鳥だなぁ…」
カルセナ「ほんとにね〜。いつかギルドに討伐依頼がきたりして」
魔耶「そしたらランクDではすまないだろうね」
カルセナ「C,Bはいくだろうね…。そもそも、なんでこのクエストはDランクなんだろ?結構苦労するクエストなのに」
魔耶「さぁねぇ…。ギルドの考えてることはよくわからん」
なんて雑談をしながら、貴重品の山を漁るカルセナと魔耶。目当ての品はなかなか見つからない。
カルセナ「うぅ〜.....何かめんどくなってきた〜....」
あまりにも量が多い為、不満を溢す。
魔耶「まぁまぁ、頑張れよー。ここで諦めたら怪鳥を倒した事も水の泡だぞ?」
カルセナ「む、確かに.........頑張れるだけ頑張ってみるかぁ....」
それから、かなりの時間が経過した様に感じた。
魔耶「これでも無い.....えっと....違うなぁ....」
カルセナ「うーん.....ここら辺はもう無いかな.....」
疲れはかなり出てきているものの、貴重品を真剣に探していた。
カルセナ「うわぁ〜、やっぱ見つかんないよ〜」
魔耶「ね....そろっとこの部屋全部見終わるし......さて、ここは...と」
今まで探していた場所とは別のところを見る。
魔耶「ここにあってくれ〜.....!!でないともうキツイ....」
ジャラジャラと貴重品の山を漁る。
カルセナ「…ん…?あ、これ…!」
カルセナの声に反応して振り返ってみると、彼女の視線がある物に注がれているのが見えた。作業していた手を止めて彼女の方を向く。
カルセナ「依頼品と似てない…?」
魔耶「え、本当…!?見せて見せて!」
カルセナに近づいていき、その手の中にある金属の貴重品を見せてもらった。
魔耶「わ、ほんとだ…。特徴は一致してる、と思う…」
カルセナ「だよね…これなのかな?」
魔耶「いやでも似てるだけってこともあるだろうし…依頼品だけにしかない特徴とかないのかな…?」
カルセナ「うーんとね....これにはイニシャルが彫られてるけど....どう?」
魔耶「どれどれ....えーっと....」
カルセナが持っている貴重品と、写真の貴重品を見比べる。
魔耶「.....あっ、ある!!同じ部分に同じ文字が!」
カルセナ「て事は.....」
魔耶カル「「 やったーー!!! 」」
外まで聞こえてしまう位の大きな声を出して喜ぶ。
魔耶「長かった〜......やっと見つけられたね!」
カルセナ「魔耶の言った通り、諦めなくて良かった〜」
魔耶「いや〜お手柄だったねぇ。....んじゃ、早く帰ろ!きっともう暗くなってるだろうしさ」
カルセナ「おー!」
魔耶「…はーぁ、見つかってよかった〜」
帰りの飛行中、ため息混じりに…そして嬉しそうに呟く魔耶。
カルセナ「ねー。大変な依頼だったけど、その分達成感がすごいわ…」
魔耶「うんうん。今日のご飯が美味しく感じられそうだ」
カルセナ「そうだねぇ…。あ、今日のご飯はどうしようか?自炊?」
魔耶「あ〜……疲れたから…買いたいな…」
カルセナ「はは、そっか。じゃあ買ってこないとね…今度こそ麺類が残ってればいいけど…」
どうやら、カルセナは前にお店に行ったときに麺類が無かったことを引きずっているようだ。
そんなに麺類が好きなのか…流石外国人。
魔耶「どうだろうね〜。依頼品見つけられたから、そこで運を使い果たしちゃったかもよ?」
カルセナ「嫌なこと言わないでよ〜…」
魔耶「えへへ、冗談だって。まだそんなに遅い時間じゃないし、きっと残ってるよ」
カルセナ「…だといいけどねぇ…」
雑談していると、ようやく北街の大きな壁が見えてきた。
魔耶「お、戻って来た」
カルセナ「何か久し振りに感じる....」
魔耶「真剣に長時間探してたからねぇ....その分久し振りに感じるのかもね」
カルセナ「うんうん.....あ、そう言えばこの貴重品ってどうすれば良いんだっけ?」
胸ポケットに入れていた貴重品を取り出し、暗くなった空に翳す。
魔耶「確か、ギルドの人に渡せば届けてくれるんじゃなかったっけ?」
カルセナ「あぁ、そうだったか〜」
何て事を話している内に正門へたどり着き、そこから街へと入る。
魔耶「ただいまぁ〜.....よし、じゃあ取り敢えず、ギルドに向かおっか」
カルセナ「だねー、報酬金しっかり貰わないとな」
魔耶「ほんとだよ〜。じゃないと餓死しちゃう…」
カルセナ「でも魔族(悪魔)なら食べ物なくてもしばらくは生きていけそうじゃない?」
魔耶「えー…どうだろ…実験なんてしたことないし…」
カルセナ「やってみればー?」
魔耶「私に生死をさまよえと言っているのか…?」
カルセナ「はは、冗談に決まってんじゃ〜ん」
魔耶「ほんとかなぁ…」
と、雑談していたとき、不意に後ろから声が聞こえた。
??「ーー魔耶!カルセナ!」
カル魔耶「「わっ⁉」」
??「あはは、脅かし大成功!」
いきなり聞こえた声に振り返り、声の主を探す。…といっても、大体の見当はついていたのだが。
魔耶「ひまり…いきなりやめてよ…」
カルセナ「ほんとに…心臓に悪いわ…」
二人がそう言うと、いつも通りの明るい笑顔で謝る彼女。
ひまり「えへへ、ごめんごめん!偶然二人が歩いてたのを見かけたからさ〜。何してたの?」
カルセナ「クエストクリアして、今ギルドに帰るとこ。ひまりは?」
ひまり「私は夕飯の買い物の帰りだよ〜。そっか、二人ともクエスト受けてたんだ?大変だねぇ…」
魔耶「お金なくてね…」
ひまり「そっか〜」
流れで自然とひまりが会話に加わり、三人でギルドに向かいながら話し始めた。
ひまり「二人とも、なんか最近忙しそうだね?あんまり会わないし…」
ひまりの何気無い一言を聞いて、少しドキッとする。
魔耶「!....そ、そうかな?確かに、最近は話したりしてなかったね〜」
ひまり「何か特別な用事でもあったりするの?」
魔耶「いやいや、会わなかったりしてたのは多分偶然だよー....」
それは、真実をあまり隠しきれていない、見え透いた嘘だった。
カルセナ「そんな毎日会うものでもないしさ....ね〜」
ひまり「....ふーん、そっか....ま、何であろうと頑張ってね!」
魔耶「あ、うん、ありがと....」
上手く誤魔化せた....そう思い、一息吐いたところで、ギルドが見えてきた。
カルセナ「あ、ギルド見えた〜」
魔耶「ほんとだ、ささっと返して、早く晩御飯買いに行こっか」
カルセナ「そうだねぇ、もうお腹ペコペコだわ.....」
ひまり「はは、お疲れさま〜。…じゃあ、私ここで待ってるね。二人で行ってきて〜」
カルセナ「ん、そう?…じゃ、ささっと行ってきますね〜」
ひまり「うん。いってらっしゃーい…」
小走りでギルドに向かっていった二人を見送り、一人ため息をつくひまり。
ひまり「…嘘が下手だなぁ。友達なんだから、もっと色々話してくれてもいいのに…」
ひまりが言っているのは、先程の魔耶達のことであった。あの二人は明らかに何かを隠している様子だった。流石のひまりもそれが分からないほど鈍感ではない。
それは、誰にでも1つや2つの隠し事はあるであろう。でも、ひまりは二人のことを大切な友達だと思っているのだ。なにかあるなら話してほしい。
ひまり「…それに、魔耶の様子が明らかに変わってるじゃん。あんなので誤魔化せると思ってるのかしら…。はぁ、全く…」
自分から聞こうとは思わない。…きっと、自分には話したくないほど重要で大切なことなのだろうから。だから、今の自分は彼女らのことを見守るしかないのだ。
ひまり「…こういうときに、能力とかがあったら…人間じゃなかったら…その秘密を知ることが出来るのかな…」
カルセナ「....危なかったねぇ〜....」
魔耶「うーん....あれで誤魔化せたかは分からないけどね....」
多少の不安を抱きつつも、ギルドのカウンターまで歩き、受付の係員にクエストの事を伝える。
魔耶「あの〜....盗まれた貴重品を取り戻すっていうクエストを受けたんですけど....」
係員「はい!えーと....こちらですね?では、盗品は手元にありますか?」
カルセナ「えっと.....これでーす」
ポケットから、怪鳥から取り戻した貴重品を取り出し、受付に提出する。
係員「ご確認致しますので、少々お待ちください!」
係員「......お待たせしました、確かに盗品だったものですね!ではこれは、依頼人の方にギルドからお返し致します!」
魔耶カル「お願いしまーす」
係員「....それでは今回の報酬金です、しっかりご確認下さい!お疲れ様でした!!」
そうして、報酬金の入っているであろう封筒を受け取った。
魔耶「…うん、これで当分はもつんじゃないかな?」
カルセナ「うんうん。じゃあ、これからは魔耶の問題に集中できるね!」
魔耶「そうだね。さっさと悪魔の嫌いなものとやらを見つけなきゃ」
お金の問題がひとまず解決できたこと、今日で有力な情報と封印方法を知れたことで二人の心にはゆとりができていた。
あとは悪魔の苦手なものを見つけるだけで問題が解決する。…悪魔を弱らせることができるかどうかは別だが。
カルセナ「もう一息、頑張ろう!」
魔耶「うむうむ。…あ、そうだ。この世界には温泉とかってあるのかな?」
カルセナ「??……ありそうっちゃありそうだけど…いきなりどうしたの?」
魔耶の突然の問いかけに首を傾げる。
魔耶「いやぁ、この世界に来てからシャワー生活ばっかりじゃない」
カルセナ「そういえばそうね」
魔耶「だからさ、もしこの問題が解決できたら…温泉入りたい!」
カルセナ「おおー!!行きたい行きたい!」
温泉に入った回数がとても少なかった為、大きく喜ぶ。
魔耶「じゃあ決まり!また目標が増えたね!」
カルセナ「そうだね、楽しみにしとくわ〜」
何て雑談をしながらギルドの出入口付近に向かう。そこでは、笑顔のひまりが待っていた。
カルセナ「あっ......」
魔耶「....ん?どうかした?」
カルセナ「あえ....いや、何でも?」
悪魔化の件が終わった後の話をしていたのに加え、ひまりを見て思い出した。魔耶の好きなご飯がありそうな飲食店を探す予定だったのだ。最近ひまりと会って居なかった為、忘れかけてしまっていた。後でこっそりと聞き出してみようか....
魔耶「ふーん....ま、いっか。ひまりお待たせ〜」
ひまり「ん、早かったね?」
魔耶「まぁ確認と報酬貰っただけだしね〜。……それじゃあ、これから買い出しに行かないと…」
疲れた体の毒をだすようにため息をつく。
ひまり「私も家に帰らないとだな〜。……二人とはここでお別れかな?」
魔耶「そうだねぇ。じゃあ、早速買い出しに……」
カルセナ「……あ、魔耶。私ひまりに聞きたいことがあるからさ。先に買い出しに行っててくれない?」
自分の言葉を遮るようにカルセナに言われて、少し驚く魔耶。
魔耶「え?あ、うん…いいけど……あとで追い付ける?」
カルセナ「うん、大丈夫大丈夫。たいした用事じゃないからさ、すぐに追い付くよ」
魔耶「…そっか。じゃあひまり、またね〜」
ひまり「えぇ、また。………で、カルセナ?何の用なの?」
カルセナ「あ、あのね....前に、魔耶にプレゼント貰ったんだよね」
帽子に輝くブローチを指差す。
ひまり「へぇ〜、良かったじゃない!可愛いねぇ」
カルセナ「で、このお返しと言うか....感謝を込めてと言うか....そのー、魔耶に美味しいご飯奢ってあげたくてさ....何か美味しいお店無いかな?」
ひまり「そう言う事ね。魔耶の好きな食べ物とかって分かる?」
カルセナ「確か.....鶏肉が好きって言ってたよ」
ひまり「鶏肉....そうねぇ.....」
暫く顎を支えて考える。
ひまり「.......あっ!そうだ!良いところがあるわよ!」
カルセナ「本当!?どこどこ?」
カルセナ「.......成る程〜、ありがとうひまり!!」
ひまり「いやいや、それよりも、早く魔耶に追い付きなね?」
カルセナ「ん、分かった!それじゃあね〜!!」
ひまりに大きく手を降りながら、魔耶の歩いていった方向へ走って向かった。
魔耶「カルセナがひまりと二人で話したいって…私、カルセナになんかしたっけ…」
わざわざ自分を先に行かせたのだ。私に聞かれたくないこと、ということだろう。…なら、話しのテーマは自分に関することなのではないかと推測できる。
魔耶「うーーん…」
ここ数日で自分がカルセナに対してやらかしてしまったことはあっただろうか。…もしかしたら自分が自覚していないだけで…ということも考えられる。
魔耶「わざわざ二人で話してるんだしな…私、カルセナに何やらかしたんだよ〜…」
カルセナ「……なんもやらかしてないけど…」
魔耶「いやぁ、もしかしたら私が気づいてないだけかも…………って、うん…?」
違和感に気づいて、素早く後ろを振り向く。
魔耶「か、カル…⁉早かったね…」
カルセナ「…気づくの遅くない?」
魔耶「いやぁ、考え事してたからさ……」
後ろには、綺麗な金髪に水色と黄色の帽子を被った浮幽霊……カルセナの姿があった。…いつの間に……
カルセナ「……で、なんかやらかしたがどーのこーの言ってなかった?」
魔耶「あー…えと、その……カルセナがひまりと二人で話してたから……私がカルセナになにかやらかしちゃったのかな〜…と……」
カルセナ「そう言う事ね.....別に何もやらかされて無いから安心しなさいな」
魔耶「そうか....なら良かったわ」
カルセナ「それよりも、早くご飯買いに行こー」
魔耶「だねー。まぁまぁ遅い時間だしね....」
二人が向かう店は長時間の営業をしているので問題は無いが、その他の小さな商店等は早く閉まってしまう所もあるそうだ。
魔耶「うぅ〜ん.....疲れた〜....」
カルセナ「そうだね〜....何か、前の魔耶程じゃ無いけど、足が痛いわ.....筋肉痛かな」
魔耶「そうなの?.....あー...」
そのとき、ブラッカルが怪鳥に喰らわせた強い蹴りを思い出した。
魔耶「....多分筋肉痛だね」
カルセナ「やだわー....早く治れ〜っと......魔耶は今日何食べたいの?」
カルセナに言われて少々考える。
魔耶「うーん…別に食べれればなんでもいいけども……強いて言うなら、そば…?」
カルセナ「おぉ、和風だな…」
魔耶「私はうどんよりそば派ですからね〜。今はあっさり系が食べたい気分だし」
カルセナ「魔耶のことだから、またおにぎりかと思ったのに」
魔耶「いや、まぁおにぎりがダメというわけじゃないけどさ…今はそばの気分なの!」
カルセナ「ほうほう…」
別におにぎりが食べたくないわけではない。でも、今はおにぎりよりそばが食べたい気分なのだった。我ながら気分屋だと思う。
魔耶「……ん、でもこの世界にそばなんてあるのかな…?」
カルセナ「あ〜……あるかな…」
魔耶「……まぁ、なかったらおにぎりでいいや」
カルセナ「結局おにぎりか」
魔耶「いやいや、なかったら、だからね。カルセナは何食べたいの?」
カルセナ「そりゃあ勿論パスタ!!あれは美味しい。体力満タンになるよ〜」
魔耶「そんなにか....じゃあ、そっちこそパスタ無かったらどうする?」
カルセナ「むぅ.....パスタが無かったら....麺類かな。麺類だったら何でも受け付けるぞ」
魔耶「そっかー、お互い目的のご飯があると良いね」
暫く歩き続けると、見慣れた店が二人の前に姿を現した。
時刻は夕方、やはり多くの買い物客がその店を訪れている様だった。
魔耶「わ、お客さんいっぱいいるなぁ....」
カルセナ「ほんとだ〜.....ま、大丈夫っしょー」
他の客を気にしながらも、店内へと足を進める。目的のコーナーにも、そこそこの人数がいた。
魔耶「あのくらいだったら、売り切れるなんて事はそうそう無いかな?」
カルセナ「前に、結構遅く来たときもいくつかあったしね〜」
魔耶「そういえばそうだったね。まぁほとんど売り切れてたけども…」
カルセナ「それでもあの時間帯にあれだけ残ってればいいほうでしょ」
魔耶「そう…なのかな…?」
多少の疑問を抱きつつも、そういうものなのかと割りきって納得しようとする。…向こうの世界では遅い時間に買い物にいくことなんてほとんどなかったからな…
魔耶「…よし、じゃあ各々の食べたいやつ探しますか〜。まぁまぁ人がいるから、別れたほうが動きやすいでしょ」
カルセナ「あー、確かにそうね…じゃ、そうしましょうか。パスタ探しの旅に出てきます」
魔耶「おう…あ、選び終わったらお菓子コーナー行っててね。お菓子買いたいし、ここで待ち合わせても他の人の邪魔になりそうだから」
カルセナ「なるほど…了解でーす。…じゃ、またあとでね〜」
そう言うと、カルセナはパスタを探しに目的のコーナーへと向かっていった。
魔耶「はーい……んじゃ、私もそば探しに行きましょうかね〜。そばあるといいけど…」
カルセナ「.....えーと、パスタパスタ〜....」
この街には麺類が好きな人が多いのか、たまたまだったのかは分からないが、カルセナが向かったコーナーにもたくさんの人がいた。
カルセナ「わぁ....これ取れるかな....」
取り敢えず、人が退くまで待とうと思い、他の客の邪魔にならない程度に辺りをうろうろし出した。コーナーの端から端まで歩いてみたりもした。
そうして、少しずつ人が少なくなってきた。
カルセナ「ふぅ、お目当てのものは残ってるかな〜....」
商品が並んでいる棚の前に軽く屈んで物色する。
カルセナ「う〜ん.....あっ!」
左から商品を見ていたら、あるものに目が留まった。
カルセナ「カルボナーラだぁ!!」
魔耶「…やっぱり、ないのかな…」
魔耶は今、そばを探して色々なコーナーを歩き回っていた…のだが、そばの姿は見当たらなかった。
この世界にそばは存在しないのだろうか…それとも、単に売り切れてしまっただけなのだろうか。異世界から来た魔耶にそれを知るすべはなかった。
魔耶「ぐむむ…おにぎりとかはあるくせに、そばがないのは痛いぞ……まぁ、ないならしょうがないか…別の探そ…」
そばが食べたかったが、ないなら我慢するしかない。そう思い、そばへの未練を断ち切る。
魔耶「…おにぎり探すか…」
カルセナ「良かった〜、前無かった分嬉しさがあるなぁ....」
喜びを声に出しながら、カルボナーラを手に取る。
カルセナ「さて......えっと、お菓子のコーナーに行ってれば良いんだよね」
主食のコーナーを一人離れ、反対側のお菓子コーナーへと向かう事にした。
カルセナ「(....それにしても、悪魔の嫌いなものって何なんだろうなぁ)」
悪魔を封じ込める事が可能なものは見つかった。しかし、苦手なものの見当が未だにつかない。タイムリミットも刻々と近付いている。少しでも良いから、何か見つからないだろうか。
カルセナ「(悪魔ねぇ.......まず、悪魔ってどんなやつなんだっけ....)」
昔、好んで読み漁っていた書籍を思い出しながら考える。
カルセナ「(....魔耶の中の悪魔ってのは、私が思ってるものとは違うのかな?)」
悪魔に侵食されているのは自分ではなく、魔耶。きっと、本人にしか分からない恐ろしさや脅威、情報等があるのだろう。
カルセナ「(私じゃ、完全に助ける事は無理なんだろうな....せめて支えになるようなものが思い付けば....)」
魔耶「…あ、おにぎり」
ため息をつきながらウロウロしていると、おにぎりのあるコーナーに着いた。
魔耶「ここで偶然出会うとは…今晩はおにぎりで決まりだな。何にしようかしら」
おにぎりは前に来たときよりも色々な種類が売れ残っていた。少し屈んで、梅、鮭、昆布、ツナマヨ…と順番に物色していく。
魔耶(前は鮭だったっけ…今日は何の具がいいかな…)
……数分悩んだあげく、今日はあっさりしたものが食べたいからと梅おにぎりに決めた。ヒョイとおにぎりを手に取る。
魔耶「よしよし。…ん、でもこれだけじゃ足りないかな…?お味噌汁とか探してみよっと」
カルセナ「.....あ、ここかな?魔耶の言ってたお菓子コーナーは」
考え事をしている内に、いつの間にか到着していた。
多少数は減っているが、それでも色々なお菓子がずらっと並べられていた。
カルセナ「チョコ大好きだからな〜....何か良いのあるかな」
....そう言えば、カルセナはチョコが大好きで、辛いものなどは嫌いだ。それはもう一人のカルセナ、ブラッカルにも言える事だった。
カルセナ「(....魔耶が嫌いなものと、魔耶の中の悪魔が嫌いなものは一致して無いのかな....それだったら簡単なんだけど....)」
だが、そう言う訳にもいかないだろう。カルセナとブラッカルの好き嫌いが一致しているのは、体も心も共に共存出来ているからだと思われる。しかし、魔耶と魔耶の中の悪魔は真逆の関係。一致している確率はかなり低い。
カルセナ「やっぱり、悪魔が本能的に嫌がるものを探さないとなのかなぁ」
魔耶「…よし、これくらいあれば足りるでしょ」
ようやく今夜の晩ごはんを選び終え、お菓子コーナーに向かう魔耶。その手には梅おにぎりとお味噌汁、お茶が握られていた。
魔耶「そばがなかったのは残念だ……さて、カルセナはもうお菓子コーナーにいるのかな?」
色々なコーナーを歩いていたが、カルセナの姿は見ていなかった。きっと魔耶がそのコーナーに行くより早く選び終えたのであろう…と予想する。
魔耶「もうお菓子選んでるのかもね……ん、あそこの金髪はカルセナじゃないか?」
お菓子コーナーが見えてきたとき、お菓子が並ぶ棚の前にいる金髪の人の姿が視界に入った。考え事をしているのか、ボーッとしている。魔耶の視線にも気づいていないようだ。
カルセナがいるお菓子コーナーへ足を進め、そっとカルセナに話しかける。
魔耶「....カルセナ?」
カルセナ「えっ、うわっ!!な、何だ魔耶か....」
魔耶「どうしたの?やけに不注意だったけど」
カルセナ「あー......悪魔の事について考えてた」
魔耶「そう言う事か....何か思い付いた?」
カルセナ「うーん....悪いけど、何にも....」
魔耶「そっか....まぁ、着実に探し当てていこっか。それより、お菓子どーしよっかな〜」
カルセナ「.....?」
魔耶「.....ん、だからどうしたのよ」
カルセナ「いや.....何にも思い付かなかった事に対しての反応薄いなぁって思って....」
魔耶「ネガティブに考えちゃったらマイナスになっちゃうからね....あんまり深く考え込まない様にしてるの」
カルセナ「なるほどね〜....」
魔耶「…さーて、そんなことよりキャラメル探ししなきゃ!前はなかったからね…」
カルセナの前に並んだお菓子を覗きこみ、目当ての物はないかとキョロキョロする。
カルセナ「…そうだね。私もチョコ欲しい」
魔耶「チョコねぇ…君も私と同じくらいの甘党だな〜」
カルセナ「魔耶の場合キャラメル党でしょ?」
魔耶「ひっくるめて甘党でいいの!甘いのは大体好きだし!」
カルセナ「…大分お菓子買っちゃったね…」
買い物を終えて宿に帰っている途中、カルセナがボソリと呟いた。カルセナの言葉を聞いて、魔耶は右手に持っている袋に視線を移す。
魔耶「そうかな?…まぁ、買いだめってやつだよ」
カルセナ「そうか〜?一杯お金使っちゃうと、今度の........」
流れ出て来るかの様に発していた言葉を詰まらせる。
魔耶「ん?今度の....何さ」
カルセナ「あっ、いや、今度のご飯買えなくなっちゃうよ〜って言うね.....」
魔耶「ふぅ〜ん.....まぁそうだねぇ」
少し何かを誤魔化したかの様な話し方だったが、魔耶は特別気にしない事にした。
カルセナ「うん、そうだよ.....」
少々の間をおいて、空を見上げる。ラメを散りばめたかの様な点々とした星の間に、小さな半月が顔を覗かせていた。どこからか、夜行性の動物であろう声がする。風に乗って、良い匂いが漂って来る。辺りは本格的な夜に向けて静まろうとしていた。
魔耶「.....はぁ。私達、どのくらいこの世界に居るんだろうね」
カルセナ「さぁ....?でも、あの日から結構経ったよね」
魔耶「あの日?.....あぁ、あの日ね」
カルセナ「そうそう、私達が出会った日」
魔耶「何だか昔に感じちゃうなぁ.....魔族にとってはちょっとの時間、に該当するのに」
カルセナ「色々あったからね.....今だって、問題解決し終わってないしさ」
魔耶「そうだね……まぁ、すぐ解決するよ、きっと。この世界で安定した暮らしを送れるようになれば、日々の流れも早く感じるようになるよね」
カルセナ「……」
魔耶「…カルセナ?」
カルセナの口数が少なくなったように感じ、後ろを振り向く。魔耶の視界に入った彼女は帽子で顔を隠していて、表情が分からなかった。その状態のまま、彼女が言葉を発する。
カルセナ「…魔耶…なんて言ったらいいか分かんないけど…私、今すごく不安なんだよ…」
魔耶「…不安…?」
カルセナ「うん。…もしだけど、魔耶がいなくなっちゃったらって…なんか…考えちゃって…」
魔耶「…」
カルセナ「魔耶が一番不安なのはわかってるけどさ…もっと私にできることがあったらいいのに…って、いつも考えちゃって…魔耶の支えになるようなものとか、あったらいいのに…って…」
魔耶「………なにいってんの」
カルセナに言われて、自然とそれに反応した言葉が口から出た。魔耶はその言葉を止めようとはせず、そのまま喋り続ける。
魔耶「カルセナにできることなんてたくさんあるし、たくさんしてもらってる。それに、支えになるようなもの…なんて、もうあるよ」
カルセナ「……もうある…?どこに…」
魔耶「私を支えてくれてるのは…カルセナだよ」
カルセナ「え…?わ、私…?」
魔耶「うん。君」
魔耶はカルセナを指差すと、にこりと笑いかけた。
魔耶「私も不安なんてない…って言ったら、嘘になる。本当は不安でいっぱいで、今すぐ泣きたいくらい。そんな私がさ、なんで笑顔をつくれるか分かる?」
カルセナ「……わかんない…」
魔耶「…君がいるからだよ。君との思い出があるから頑張れるし、君がいるから笑顔でいようと思える。カルセナがいてくれるだけで、十分なんだよ、私にとっては」
カルセナ「.....魔耶....」
並べられた言葉は、体を悪魔に犯されているとは思えない様な温かさを感じた。
カルセナ「......ありがと」
魔耶「そっちがお礼言ってどうするのよ。むしろこっちが言いたいくらい。ありがとう....ってね」
カルセナ「うん.....」
俯いた顔を大きく上げて、魔耶を見る。
カルセナ「...私、頑張るよ!この世界にいる間、魔耶と沢山の思い出を作れるように!!」
魔耶「そうだね、一緒に頑張ろ。....さ、もうお腹の減りが限界だよ、早く帰ろう!」
そう言って、魔耶が宿に向かって駆け出した。
カルセナ「あっ!待ってよー!!」
魔耶「.......ふぅ、良い運動をした」
カルセナ「もう今日の依頼で運動し終わってるのよね....はぁ、はぁ...」
魔耶「んじゃあ手洗って、それぞれのご飯食べよっか」
カルセナ「はーい。…あ、魔耶は何買ったの?」
魔耶「ん?…あぁ、おにぎりだよ。そばなかった〜」
そばが見当たらなかったことを思いだし、ため息をつく。
カルセナ「あらら…それは…ドンマイ」
魔耶「うーむ…まぁしょうがないっちゃあしょうがないよね。別の世界なんだし」
カルセナ「それもそうか…」
二人とも手を洗い終わり、テーブルに向かい合わせになる形で座った。二人の前にはそれぞれの選んだ美味しそうな晩ごはんが並んでいる。
カルセナ「あー、お腹すいた〜」
魔耶「そうだねぇ…んじゃ、早速食べましょうか。手を合わせて〜…」
カル魔耶「「いただきまーす!」」
魔耶がおにぎりに食いつき、カルセナはパスタを啜る。
魔耶「うん.....美味いわ。疲れた体に染み渡る」
カルセナ「だね〜.....美味しすぎて一瞬で食べ終わっちゃいそう」
魔耶「ちゃんと噛めよ〜」
カルセナ「私なりに味わってますよ....所でさ」
少し言い出しづらそうに話す。
魔耶「....ん、何?」
カルセナ「魔耶のタイムリミットって、あとどのくらいかな....」
能力を使ってしまった事などを考え、予測し直す。
魔耶「......あと2日弱くらいかな」
カルセナ「明日どこに行って情報収集する?図書館はもう探し尽くしたし.....」
魔耶「そうだなぁ.....うーんと.....」
魔耶「……聞き込み、とか…?」
唯一頭に思い浮かんだ案を発する。
カルセナ「あぁ、なるほど…でも誰に聞き込みするの?街の人が悪魔のことを知ってるなんて思えないよ」
魔耶「そうなんだよねぇ…情報を持ってそうで、まだ訪ねてない人いるかな?」
カルセナ「うーん…ニティさんにはもう聞いたし…幹部にはいろんな情報もらえたし…」
モグモグと晩ごはんを食べ進めながら、考え込む二人。
情報を持ってそうな人で、関わりのある人…誰かいただろうか…
…あの人ならば、どうであろう?
幹部達をまとめあげ、街の人をさらい、前に異変を起こしたあの人…
魔耶「…蓬さんは…?」
あの人は魔族と関わりがあるようだった。もしかしたら悪魔についてもなにか知ってるかもしれない…そう思った故の発言だった。
カルセナ「あぁー、確かにまだ聞いてなかったね」
魔耶「色んな事知ってそうだしさ....結構良いんじゃないかなって」
カルセナ「てことは、明日またあそこに行く感じ?」
魔耶「そうなるね....まぁまぁ遠い道のりだけど、それでも良い?」
カルセナ「うん、情報がありそうならばどこだってOK!」
魔耶「よし、それじゃあそうしよっか」
暫くして、食事に終符止を打つ二人の言葉が聞こえた。
魔耶カル「ごちそうさまー」
魔耶「美味しかったわ〜」
カルセナ「うむ、満足満足」
後始末をして、カルセナがソファにぐだっと座り込む。
魔耶「食後に寝ると牛になるんじゃなかったのかー?」
カルセナ「寝転んでないからセーフ」
魔耶「そう言うものなのかねぇ....」
カルセナ「うんうん。....今日のお風呂、魔耶さん先に入ります?それとも後が良い?」
魔耶「あー…どっちでもいいけど…じゃ、先に入らせてもらおうかな。いい?」
カルセナ「いっすよ〜。ごゆっくり〜」
魔耶「ありがと。ササッと入ってきまーす」
カルセナ「うん……うん?」
『ごゆっくり』という言葉をかけたはずなのに『ササッと入ってくる』…という矛盾した言葉を受け取って変な反応をするカルセナ。そんな彼女の反応を横目に、魔耶はクスリと笑ってシャワールームに向かった。
そうして、シャワールームの扉の閉まる音がした。
カルセナ「.....ふぅ〜。どうしたものかねぇ....」
いかなるときも、ずっと魔耶の悪魔化について考えていたカルセナ。依頼を達成し終わった後だからか、どっと疲れが出てきた。
カルセナ「ぜんっぜん思い付かないなぁー.....だからと言って、ブラッカルに頼ったら何か怒られるからな....」
ソファから立ち上がり、自分のベッドに寝転ぶ。前に魔耶に言った警告を忘れているかのようだった。
帽子を脱ぎ、仰向けになった自分の顔の上にそっと乗せ、暗闇を作る。活動等をしているときの暗闇は恐ろしいが、考え事をしているときの暗闇はとても落ち着くものだ。
カルセナ「...........」
特に独り言も言わず、黙って考える。端から見たら、眠っている様にも見えるだろう。
カルセナ「(はぁ........早くこの事件を解決して、魔耶と温泉行きたいな......)」
『ザァアアア…』
魔耶「…はぁ〜…シャワー浴びてるだけで疲れまで流されちゃうよ…」
シャワーを浴びながら満足げに呟く魔耶。
温かいお湯が、泡と今日一日の疲れを流してくれているようでとても心地がよかった。
魔耶「…でも、やっぱりたまにはお湯に浸かりたいよね…この世界にきてからシャワーばっかだし…」
確かにシャワーも気持ちいい。だが、魔耶は前の世界ではお風呂に入ることが多かった。だからか、シャワーよりお湯に浸かるほうが好きなのだった。
魔耶「あーぁ、早く温泉行ってみたいな」
自分の今おかれている状況を解決することができたら…そしたら、カルセナと一緒に温泉に行くと決めたのだ。今は解決まであと一歩というところだが、きっと解決できると信じている。だから、温泉にもきっと行ける。
魔耶「…じゃあ、頑張るしかないよね」
訂正…
魔耶「…じゃあ、頑張るしかないよね」
↓
魔耶「…そのためには、頑張るしかないよね」
どのくらい経っただろうか。ゆっくりと体を起こしたかと思えば、近くの窓から外を眺める。
月には少し雲がかかっている様だったが、本来の輝きを失っていると言う事はなかった。
カルセナ「綺麗だなー......」
この世界で、あの月を眺める事が出来るのはあと何回くらいなのだろうか。
二人してずっとこの世界に居続ける訳にもいかない。お互い、それぞれの事情がある筈だ。しかし、仮に元の世界に帰る事が出来るようになったとしても、今のままではきっと離れられない。未練を残しすぎている。
今すぐに帰らないともう戻れない。そう言う状況に陥ったとしても、今は別れ方を知らない。きっと、何て言えば良いのか、分からず仕舞いになってしまうだろう。
そんな事が無い様に、二人で冒険をしている。思い出を未練として残すのではなく、一筋の輝きとして忘れない様にするために。この世界の、煌々と輝く月よりも輝かしい思い出をつくる為に。
カルセナ「.......あれ?流れ星かな.....?」
空の奥で、二筋の光が見えた。流れ星に祈ると願いが叶う。子供の頃に教えられた事を信じて、カルセナは強く祈った。
カルセナ「どんな壁だって、乗り越えられますように」
魔耶「ふぅ、すっきりしたぁ。カルセナ〜、あがったよ……って、なにしてんの?」
ドアの取っ手を回すと、カルセナが両手を組んで夜空を見上げている光景が目に入ってきた。
魔耶の質問が聞こえたのか、カルセナがゆっくりこちらを振り返る。
カルセナ「…あぁ、魔耶。空見てたら流れ星があってさ、願い事してたの」
魔耶「ほう…そういうことね。…なんてお願いしたの?」
カルセナ「…これからどんな困難の壁がきても、乗り越えられますように…ってね」
魔耶「はは、なるほどね。カルセナらしいよ」
困難を乗り越えられるように…か…
魔耶「…じゃあ、せっかくだし、私もお祈りしてみようかな」
そそくさとカルセナの隣に移動し、夜空を見上げる。
うっすら雲があるが、むしろそれが風情を感じさせてくれるようだった。絵のように綺麗な、素晴らしい星空であった。
カルセナ「いいね。流れ星がきたら、願い事を祈るんだよ」
魔耶「はーい」
魔耶「よし、お願い完了!」
カルセナ「うんうん。……ちなみに、魔耶はなにをお願いしたの?」
魔耶「……これからの生活が、楽しくて、かけがえのない大切なものになりますように…ってね」
魔耶は少し照れくさそうに笑い、そう言った。
カルセナ「あはは、それこそ魔耶っぽいよ〜。.....そんじゃ、私浴びてくるね」
魔耶「はーい、ごゆっくり〜」
着替えやタオルを持って魔耶の元から離れ、シャワールームへと向かった。
カルセナ「.......あ〜、良いお湯ですな」
頭の天辺からシャワーを浴びる。疲れがほぐれていくかの様で、とても気持ちが良かった。
カルセナ「.....そういや修行って、どんな事すんのかな」
依頼を受けている最中に、今の事件が無事に解決したら強くなる為に修行をしないか、と魔耶に誘われた。
カルセナ「アス姉(カルセナの姉)が修行だの特訓だの言って鉄棒振り回してたけど....あんな感じの事すんのか.....?」
何はともあれ、自身が強くなれればそれで良い。今はそう思っていた。
魔耶「…さーて、なにしよっかなー…」
カルセナがシャワーを浴びに行ってしまったため、魔耶は一人部屋の中で呟いた。
いつもなら能力を使って暇潰しでもするところだが、今は能力を使うことができない。つまり、今魔耶は暇をもて余しているのだ。
魔耶「能力が使えないとこんなに不便だなぁ…ほんと、なにしてよう?これじゃあくまさんをつくって遊ぶこともできないよ〜…」
暇を潰せるものはないかと、部屋をグルリと見渡してみる。だが、目にはいるのは、買ったものが乱雑に置かれたテーブルとベッドくらいだった。
魔耶「…おやつでも食べてましょうかね…」
訂正
「能力が使えないとこんなに不便だなぁ」
↓
「能力が使えないとこんなに不便なんだなぁ」
(最近ミスが多いぜてへぺろ)
カルセナ「......あ、また無意識に出ちゃった」
シャワーを浴びながら、自然と鼻唄を歌っていた。心地が良いと、ついついそうなってしまう。
カルセナ「....はぁ〜、今頃家族は何してんのかな....悪霊に取り憑かれたりしてないかね....」
日にちが経てば経つほど、元の世界に残っている家族の事が心配になってしまう。自分が居た頃は、ずっと家族の側で見守っていた。だから、いざ離れるとなるとやはり寂しさが胸に残る。
カルセナ「.........よっと」
蛇口を捻り、シャワーを止める。脱衣場に手を伸ばし、バスタオルを取って頭を拭き始めた。バサバサという音と共に、溜め息が混じって聞こえた。
魔耶「キャラメル美味し……ん、おかえりカルセナ〜」
小腹を満たすためにキャラメルを食べていると、ドアの影からカルセナの姿が現れた。風呂上がりだから、いつもよりも髪の毛がしんなりしてる。
カルセナ「うん…あ、おやつ食べてたのね」
魔耶「そうなのよ〜。能力使えないと暇潰しができなくて…普通の人って、こんなに暇な時間をもってるんだね」
カルセナ「なんか上から目線だな……まぁいいや。私にもなんかちょうだい」
魔耶「ん〜」
袋を漁り、カルセナのおやつと思われるチョコをヒョイと投げてよこした。
カルセナ「ちょ、ちょ…うおっと」
魔耶「ナイスキャッチ〜」
カルセナ「全く…人に投げるなって言いながら、魔耶だって投げてるじゃん…」
魔耶「あはは、ごめんごめん…」
悪戯っぽく笑いながら、カルセナに視線を向ける……と、魔耶の顔からいきなり笑顔が消えた。カルセナの目を見たせいであった。
魔耶「……カルセナ、勘違いだったら悪いんだけど…」
少々躊躇いがちに問いかけてみる。
カルセナ「……?なに?」
魔耶「なんか、いつもよりも悲しそうだね…?なにかあった?」
カルセナ「.......えっ」
魔耶にそう問われ、心の中で慌てて答えを探る。しかし、「答え」と言う言葉は上辺だけで、正しく言い表すのだとしたら「言い訳」に値するものだったかもしれない。
カルセナ「べ、別に何も......疲れたのかな....?」
魔耶「ふぅん.....まぁいっか」
何とか誤魔化せた。疲れが溜まっているのと言うのも事実だった為、嘘は吐いていない筈であった。もう少し髪を良く拭こうと、魔耶の横を通り過ぎてベッドに腰掛けた瞬間、再び魔耶の声が聞こえた。
魔耶「なんて、なる訳ないでしょ」
その言葉を聞き、瞬時に魔耶の方向へ振り向く。
魔耶「いつもの疲れてる顔じゃないよ。カルセナが良いなら、何かあったのなら、何でも話して」
カルセナ「.......そんなに重大な話でもないんだけどね.....ちょっと、家族の事を思い出して、恋しくなっちゃって....」
魔耶「....そう言う事だったのね」
カルセナ「うん......私なんて、もう皆からは見えないのに....何でこんな気持ちになっちゃうんだろ」
肩に掛けていたバスタオルを、両手でぎゅっと握りしめる。
魔耶「……それは、君が家族を愛していて、大切に思ってるから、だよ」
悲しそうな表情を浮かべたカルセナに、ポツリと言う。
魔耶「じゃなきゃ、そんなこと思わないもん。カルセナは、家族を心の中でずっと大切に思ってるんだよ」
カルセナ「…大切に…?」
魔耶「うん、そうだよ。………死んでも家族を思ってるなんて…優しいな、カルセナは。きっと家族もカルセナみたいな人に見守ってもらえてて、幸せだよ」
そう言ったあと、「私にはよくわかんないけどね」と付け足しておいた。
魔耶は生まれてすぐに親を亡くし、親の友人であった閻魔様達に育てられた。唯一血の繋がった家族も、魔耶を置いて居なくなってしまった。だから魔耶にはよくわからなかった。そう感じることのできるカルセナが少しだけ羨ましい…そう感じたのもあったかもしれない。
魔耶はカルセナに言葉を伝えたあと、自分の状況を思いだし、少しだけ寂しそうな顔をした。
魔耶「……ごめんね、私の問題なんかに付き合わせちゃって…そのせいで元の世界に帰るのが遅くなってるよね…。君は、大切な家族がいるんだもんね。家族のことを想うのは当たり前だよ」
カルセナは見守らなきゃいけない家族がいる。なのに、私にはそんな人いない。一人暮らしだし、友人や閻魔様にも毎日会うわけじゃない。だから、例え数年家を空けていたって、心配されることも心配することもない。
だから、私は、この世界でゆっくり過ごしてしまっていた。あわよくば、ずっとカルセナと一緒にいたいなんて…なんておこがましかったんだろう?カルセナには大事な家族がいるのに、自分の都合ばかり考えてた。もしかしたら、カルセナはずっと帰りたいと思っていて、私に無理矢理付き合わされる形になっていたのかも…
魔耶「…ほんと、ごめんね…」
今の私は、ただカルセナに謝ることしか出来なかった。
カルセナ「っ.......!」
痛かった。魔耶の、たった一言の謝罪が。今一番苦労しているのは魔耶なのに、謝らせてどうするのだろう。寂しさと申し訳無さで頭の中がぐらついた。
カルセナ「...謝らないでよ.......また魔耶と、離れたくなくなっちゃうじゃん......ッ!」
少し濁ったその言葉は、元の世界に戻りたい気持ちとまだ魔耶と一緒にいたい気持ちが混ざり、矛盾しているかの様に読み取れた。
魔耶「カルセナ.........」
顔はこちらを向いているが、カルセナの目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。
カルセナ「そんな顔しないでさ........もっといつもみたいに元気な魔耶で居てよ.....!....謝らないでよ.....ッ」
それ以上魔耶の顔をじっと見ている事が出来ず、俯いてしまった。目に溜まった涙が一粒、カルセナの手にポツッと落ちた。
魔耶にこんな顔、もう見せない様にしようとしていたのに。弱いメンタルは卒業しようと決めていたのに。いざ向き合うと、やっぱり難しかった。
魔耶「…カルセナ…」
泣かせるつもりはなかったのに…カルセナの涙なんて見たくないのに…自分の軽はずみな発言を恨んだ。カルセナを泣かせてしまったのは、自分の言葉なのだ。
カルセナは帰りたい気持ちと帰りたくない気持ちの間で揺れているようで、辛そうな表情を浮かべながら涙をこぼしていた。そんなカルセナの顔を見て、魔耶も心が締め付けられたような感覚に陥った。
魔耶「そう、だよね…ごめん…いきなり変なこと言って…」
魔耶もカルセナから視線を外し、俯いた。
カルセナ「だから、謝らなくてもいいってば…魔耶には、いつもの魔耶でいてほしいの…!」
魔耶「……」
私は、いつもそんなに笑っていただろうか。自分だと分からないが、きっと、カルセナから見たら私はたくさん笑っていたのだろう。前の世界ではそんなに笑うこともなかったのに…
魔耶「…私はさ、カルセナが羨ましいよ。見守るべき…大切にするべき家族がいて。私には、そんな人いないから…。だから、勝手に、ずっとカルセナとこの世界で過ごしたい、なんて思ってて…カルセナには大切な家族がいるのにさ…」
カルセナ「.......魔耶だって....」
俯いたまま話そうとしたが一旦区切り、タオルで涙を拭う。そして、再び魔耶の方を向いた。
カルセナ「魔耶だって、元の世界での大切な人.....いるでしょ....?」
魔耶「....私は長い間一人で暮らしてたし、カルセナ程じゃ.....」
カルセナ「...........嘘」
魔耶「......?」
カルセナ「魔耶を育ててくれた閻魔様とか....お姉さんとか.........一緒に暮らしてなくたって、大切な人でしょ....?」
魔耶「......そう....だけど」
カルセナ「だったら.....立場はおんなじだよ.....それぞれ想ってる人がいるじゃん」
魔耶「.........うん」
俯かせていた顔を少しだけ上げる。
続けていた会話に間が空き、もう一度顔を落とそうとした。しかし、カルセナの言葉がそれを止めた。
カルセナ「......魔耶は今大変なのに...タイムリミットがもうすぐ迫ってるのに、こんな話にさせちゃった。....いつもの魔耶で居てって言ってる割に、私が出来てなかった.......私こそ、ごめんね」
先程と違った、はっきりとした口調で謝罪の言葉を述べる。魔耶を見る目は涙で多少腫れていたが、その顔は暗く落ち込んだものではなく、まるで大事な約束を守ろうとしている子供の様な、キリッとした顔だった。
魔耶「…ううん、大丈夫だよ。…これで、仲直り、だね」
ようやく魔耶もしっかりと顔をあげ、カルセナと二人で微笑み合った。
カルセナ「喧嘩してた訳じゃないけどね」
魔耶「はは、まぁそうなんだけどさ〜?」
魔耶の言葉に自然と笑みがこぼれ、二人で大きな声で笑った。暗闇が広がる街の中に、二人の少女達の暖かな笑い声が響く。
笑い合いながら、魔耶はこう考えた。「今は、元の世界に帰ることとかそんなことよりも、カルセナと一緒に笑っていられる…今を大切にしよう」…と。もしかしたら、元の世界に帰るのはすぐの未来かもしれない。遠い未来かもしれない。でも、どちらにしても別れはやってくるのだ。だから、今は別れを惜しむよりも今を楽しみたいな…
カルセナ「.....はぁ〜、ちょっとタオル置いて来るねー」
魔耶「うん、行ってらっしゃーい」
ベッドから立ち上がり、脱衣場の籠に濡れたタオルを置きに行く。
カルセナ「(....やっぱり、こうやって笑ってる方が楽しいに決まってるよね)」
そんな事を考えながら、魔耶のいる部屋へと戻る。
カルセナ「ただいまー」
魔耶「おかえりー」
カルセナ「うーん.....まだ眠くなるまで時間あるかな.....」
一秒刻みで針がカチコチと音を立てている、壁掛けの時計を見る。
魔耶「そうだね.....私も、もうちょっと起きてても良いかも」
カルセナ「何しよっかな.....何か調べる?それとも違う事する?」
魔耶「うーん…調べるっていっても、資料とかなにもないし…能力も使えないからカードゲームとかもできないし…」
改めて、能力が使えないことを不便だと感じる魔耶。早くこの問題を解決できれば能力も使えるのに…と、ため息をつく。
カルセナ「そうだよねぇ…じゃあなにしよう…」
魔耶「うーん…………雑談?」
散々悩んだわりに、普通の答えを出す魔耶。そんな魔耶の意見にカルセナも賛成する。
カルセナ「お、いいねぇ。お菓子食べながら雑談しよっか」
魔耶「うんうん。あ、カルセナにお菓子渡したよね?」
カルセナ「うん、貰ったよ〜」
魔耶「よしよし。んじゃ、どんなこと話そっか?」
カルセナ「う〜む......何がいっかねぇ」
話題を二人で考える。話すことがないのは少し困るが、良い意味で捉えれば、それはこれまで沢山話してきたという証にもなっているだろう。
魔耶「.....何か、美味しいお店とか....?」
カルセナ「お店.....あ、そう言えば、うちら北街でしかご飯食べたことなくない?」
魔耶「確かに、他の街のご飯食べたこと無いかもねー」
カルセナ「ここと他の街はご飯の種類違うのかなぁ?」
魔耶「もしかしたら、この街にはないご飯屋さんがあるかも....!?」
カルセナ「あったとしたら、是非とも食べてみたいなぁ〜。この世界のご飯めちゃくちゃ美味しいから」
魔耶「だよねー、元の世界のご飯だって勿論美味しかったけど、この世界のご飯も格別だったな」
カルセナ「お土産に持って帰りたいくらいだわ〜」
魔耶「何も持って帰れないかもよ〜?移動手段とか代償みたいなのによっては」
カルセナ「うーん、そうだったら残念だな.......」
魔耶「まぁ…もしそうだったら、ここでたくさん食べていけばいいんだよ〜。そして、その味を覚えて帰る」
カルセナ「なるほど…そういう策もあるね」
魔耶「うんうん。ここの世界の料理はほんとに美味しいから、今のうちにしっかり堪能しとかないと!」
もしこの世界にまだまだ色々な料理があるのであれば、元の世界に帰る前にしっかりと食べていきたい。でないと、あとで後悔してしまいそう。そのくらいここの料理は美味しいのだ。
カルセナ「そうだねぇ…。どうせだから、この世界の料理全部食べて帰ろっか」
魔耶「お、この世界でグルメ旅でもします?」
カルセナ「そんな感じのことしたいね〜。それなら、まずはこの街の料理を制覇しなきゃだ」
魔耶「じゃあ、制覇目指してがんばりましょうか!お金もコツコツ稼がなきゃね」
カルセナ「だね〜。いつかまた、昇格試験も受けたいね」
魔耶「お金稼ぐには報酬が高いやつやんないとだもんね....修行したりしたら、受けてみるのもありかもよ?」
カルセナ「あー、そう言えば修行とか言ってたな〜。私が続けられるかね.....」
魔耶「そんな根気ないか....?ま、内容によるか」
カルセナ「頑張りまーす.....強くなって帰ってやる〜」
魔耶「そうそう、その意気だ」
結構な時間話していたせいか、二人とも話の間に欠伸を挟む様になった。
魔耶「ふわぁ〜.....」
カルセナ「....そろそろ寝ます?」
魔耶「うん.....私はもう眠いな....」
カルセナ「んじゃあ、電気消しちゃいますか」
魔耶「ありがと〜。じゃ、おやすみ、カルセナ…」
カルセナ「うん、おやすみ…」
暗くなった部屋で目を閉じると、クエストの疲れからであろう、どっと眠気が押し寄せてきた。魔耶はその眠気に身を任せるまま、夢の中へと落ちていった。
魔耶「…ここに来るのも慣れてきたな…」
いつもの見慣れた空間。あたり一面真っ白で、壁と床の境界線も分からない部屋のような場所。そこにポツンと座っている、自分とよく似た姿の悪魔。自分と違うところは、黒くて長細い角が生えていること、羽が少し大きいこと、目が赤黒いこと、鎖に繋がれていることくらいだろうか。
悪魔耶「…いらっしゃい。君も、もう時間が少なくなってきたんじゃないかな?だってほら、鎖がこんなに少なくなったもん。前はこの倍以上はあったのにさ」
魔耶「…!そんなに減ってるの…?」
悪魔耶「うん。最初よりも全然少ないね」
魔耶「…もう時間が少ないみたいだね…」
悪魔耶「そーだねぇ。そろそろ、諦めてもいいんじゃない?なにか企んでるみたいだけどさ、どうせ無駄だと思うよ?」
思いがけない悪魔耶の言葉に驚き、信じられないという顔で彼女を見つめる。
魔耶「き、気づいてたの…?っていうか、そんなのやってみないと分からないじゃん‼」
悪魔耶「気づいてたっていうか…君の行動は大体伝わるからね〜。君が何処にいってどんなことをしたかくらいは把握してるよ。あと、そんなのやってみないと分からない、だっけ?そんなの分かるよ。だって、ただの人間や神が悪魔を倒せると思ってるの?たとえ私と同じくらい強くたって、あっちに殺意はない…私を弱らせようとするだけでしょ?そんなの全力じゃないじゃん。こっちは心おきなく全力でいけるのに」
魔耶「……ッ…」
悪魔耶「人を救おうとする覚悟と、私の本気。果たしてどちらが強いかな?」
そういって、悪魔耶は私と全く同じ笑顔で微笑んだ。
カルセナ「....おはよ」
影すら見えない程の真っ暗闇の中、カルセナは声を掛けた。相手はここの住人、ブラッカルだ。
ブラッカル「.....よぉ。....魔耶の様子はどうだ」
カルセナ「第一声が心配って、やっぱり魔耶の事好きなんじゃ〜ん」
ブラッカル「う、うるせぇな!!それよりどうだって聞いてんだろ!」
照れた様に顔を帽子の鍔で隠す。帽子には、以前魔耶から貰ったブローチが、光の差さない真っ暗闇の中で唯一の輝きを放っていた。
カルセナ「あぁ....大まかな変化は、目の色が変わった事くらいだと思う.....私達が気付いてないだけで、他にもあるのかもしれないけど」
ブラッカル「ふーん......タイムリミットってのは...何時だ」
カルセナ「......あと2日くらい....?」
ブラッカル「......本当か?....能力使っちまったりしたんだ、最初に魔耶に言われた日数だけで計算するもんじゃねーぜ」
カルセナ「て、ことは.......」
ブラッカル「.....もって1日半くらいだろうな」
カルセナ「そんなに....短いの....!?」
まるで余命を聞いたかの様な気分になり、一瞬目眩が生じる。悪魔化の日まで、本当に時間が無いのだ。
ブラッカル「いよいよ後はねぇぞ。明日には、どうするか決心しねぇと手遅れになるだろうな」
魔耶「…そんなの、人を救おうとする覚悟の方が強いに決まってんじゃん…!」
悪魔耶「…ふぅん?なんでそう思うの?」
魔耶「だって…人を傷つけるよりも、救おうとする覚悟をもつほうが難しいじゃん…!カルセナは、自分の危険を承知で私を助けようとしてくれてる…!そんなカルセナが、人を傷つけることしか考えてない君に負けるわけないよ!」
悪魔耶にはっきりと自分の考えを伝え、睨み付ける。
すると、悪魔耶は、魔耶がさっき言ったことなど意に介していないかのようににっこりと笑った。てっきり怒るか不機嫌になるかなんて考えていた魔耶は少々面食らった。
悪魔耶「…なんだ、そんなのただの精神論じゃん。なにかすごい作戦があるのかなんて期待しちゃったのに〜。どんなことを考えてるか、なんて関係ないよ?強さと結果、これが戦いにおいて全てでしょ。だから、強い私のほうが勝つ。これだけのことじゃない?」
魔耶「……!」
悪魔耶「君も半悪魔なんだからさ、そんな人間みたいな考え捨てなよ。人間特有の『愛』とか『絆』とか…そういうの聞くと、苛々するんだ。いざ自分が危険に晒されたら、そんな綺麗事言えないのにさ」
魔耶「……じゃあ、君とは分かりあえそうにないね…。私は、『愛』とか『絆』は本当に存在すると思ってる。確かにそれは綺麗事なのかもしれいけど…でも、私は、その綺麗事に何度も救われたんだよ!」
魔耶の言葉は本当だった。カルセナとの『絆』のお陰で私は今生きているし、カルセナのお陰で今の私でいられている。カルセナだけじゃない、閻魔様や、親友の満空…色んな人との『絆』で、私はここにいるのだから。だから、悪魔耶の考えは間違っている。
そう伝えると、悪魔耶は変わらぬ笑顔で微笑んだ。
悪魔耶「…そっか。じゃあ、私は早く外に出なきゃね。君のその価値観がどれだけくだらない戯れ言だったか、早く教えてあげたいよ。…んじゃ、もう時間だから、またね」
悪魔耶の変わらぬ笑顔…つまりそれは、悪魔耶の考えは変わっていない、私の言葉が全く届いていないということだと気づいた。同じ自分なのに、どうしてこんなに考え方が違うのだろう?…視界がぼやけていくなかで、そんなことを考えていた。
カルセナ「.....そっか....そうだよね...」
拳をぎゅっと握り締め、震えた声を出す。その声は泣いているのではなく、怯えていた。魔耶が悪魔になるのが怖くて、魔耶が戻ってこられなかったらどうしようと思ってしまって。
ブラッカル「.........」
暫く無言のブラッカルだったが、おもむろに立ち上がってカルセナと面を合わせる。
そして、目にも止まらぬ速さで右手をカルセナの頬に打ち付けた。
カルセナ「「 ......いったぁあッ!!!? 」」
数秒経って、やっと叩かれた事に気付く。
カルセナ「な.....何すんの!?」
ブラッカル「「 しっかりしろ!! 」」
カルセナ「.....え?」
ブラッカル「くよくよすんじゃねぇ!気を強く持て!!そんな心構えじゃ、魔耶を救える筈がねぇだろ!ったく、声を聞いて一瞬で分かったぜ」
カルセナ「.........」
叩かれて赤くなった頬をそっと手で覆う。まだ鮮明に、ピリピリとした痛みが残っていた。
ブラッカル「さっきのはお祓いだ。テメェの馬鹿みてぇな心の弱さのな」
背伸びをした後、再び地面に座り込んで大きな欠伸を見せた。
ブラッカル「あーあ、これでエネルギー使っちまった。もう寝る。体力温存する」
そうして、あっという間に眠りに着いてしまった。頭をだらしなく垂らして寝息を立てている。
カルセナ「.......ありがと」
魔耶「…ん…毎回、目覚めが悪いなぁ…」
さっきまで横たわっていた体を起こし、いつも見るあの夢(?)に対してため息をつく。あの夢は、悪魔耶は、毎回歯切れの悪いところでいなくなってしまうのだ。もっと言いたいことや聞きたいことがあったのに…
憂鬱な気分を抱えながらも、寝起きの体をグッと伸ばす。まだ外は暗く、朝には見えなかった。
魔耶(…時間で言うと、夜中の1時か2時くらいかな…?)
チラリと横に視線を移すと、カルセナがすぅすぅと寝息をたてながら気持ち良さそうに寝ていた。流石に今起こすのは悪いだろう。
魔耶「…しょうがない、一人で夜散歩といきますか…。考えたいこともいっぱいあるしね」
魔耶は今目覚めたばかりにも関わらず、眠気を感じていなかった。今は夜中だし、カルセナもまだ起きないだろう。少しくらい散歩に抜け出したって問題ない筈だ。
魔耶「…じゃ、いってきますか…」
カルセナ「........う..ん...」
ブラッカルと別れ、現実世界でゆっくりと目を開ける。まだ外は真っ暗な状態だった。
カルセナ「(あれ.....魔耶は......?)」
気付くと、隣で寝ていた筈の魔耶が見当たらなかった。
カルセナ「(......トイレかな...)」
一度目が覚めたとはいえ、時間帯で言えば深夜。もう一眠りしようと、カルセナは再び目を閉じた。
カルセナ「...また......?」
今日一度会ったのに、しかもあいつは寝ている筈なのに、また同じ空間に立っていた。少し遠くに見えるブラッカルは相変わらず寝ている様だ。
カルセナ「...来てもする事ないんだよな....」
この空間に来させられるには何か理由がある筈。と言うか、そうでないと意味がない。
カルセナ「......そう言えば、この空間って他にも何かあったりしないのかなぁ.........ちょっと歩いてみよ」
行けど行けど真っ暗闇が続く可能性が高いが、他にやる事も無いので取り敢えず探索してみる事にした。
魔耶「…あー…涼しい」
宿をそっと抜け出すと、涼しい夜風が頬に触れた。少し寒いくらいの風に触れ、寝起きの頭と体が冷やされた。
宿を離れ、考えごとをしながらブラブラと暗い街中を歩き始める。
魔耶「……はぁ…まったく、悪魔の私にも困ったものだよ…」
誰もいない道の真ん中で呟く魔耶。
魔耶「同じ私なのに…なんであんなに考え方が違うんだろ?私が人間に近いから…?それとも、悪魔特有の考え方なのかな?あれは…」
人間がよく言う『愛』『絆』が綺麗事だと、聞いてて苛々すると悪魔耶は言っていた。私はそうは思わない。『愛』や『絆』が綺麗事なのだったら…存在しないものだったら、私は今ここにいないはずだ。カルセナが私を何度も助けようとしてくれていたのだから。それを『愛』『絆』と言わないなら、なんと言えよう。
魔耶「…そういえば、悪魔って悪事を働いたり、人の不幸を見たりするのが好きだとか聞いたことあるなぁ…。じゃあ逆に、親切にしたりとか、人の幸福を見たりするのは嫌いなのかな」
それなら考え方が違うのにも納得がいく。同じ自分でも、悪魔耶は悪魔の本能的にそれが嫌いで、私は人間に近いからそれが好きなのかも…
魔耶「…ま、ただの憶測だから、あいつのことなんて知らないけどさ」