小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦
301:多々良:2020/04/30(木) 07:15
シャワーの水音が響き、湯気の立ち上るバスルームの中で一人考え事をする。
カルセナ「(あいつの言ってる事はおかしい.....だから、これで良かったよね....)」
「あんなの魔耶じゃねぇよ」
ブラッカルに言われた事を思い返す。魔耶が魔耶でない....?どう言う事なのかさっぱり分からない。魔耶の身体に何か起こっているとでも言うのだろうか。外見では分からない、何かがーー。
「お前が魔耶の事を大事に思ってなければ、私にとって魔耶はどうでも....」
思い返しただけでも、自分の事しか考えてないかの様な発言にいらっとする。だが、大事なものを守ってくれるという点に関しては、どうも引っ掛かる部分がある。試験中、大事な帽子を落としたときには真っ先に拾いに行ってくれなかった。私にとっては、命より大事な帽子であると言うのに。
カルセナ「.......」
蛇口をキュッと捻り、シャワーを止める。常備してあるタオルを手に取り、髪の毛を拭き始める。
カルセナ「(....魔耶をどうにかしろなんて言われたって、今の私には何も出来ないし......)」
ネガティブな考えばかり頭に浮かんでくる。
いや、駄目だ。まだ何も事件は起こってないし魔耶も普段通りだ。こんな顔をしていたら不審に思われる。いつも通り、笑顔でいよう。
嫌な思考を無理矢理振りほどき、気持ちを整える。ささっと寝間着に着替え、魔耶のいる部屋へと戻った。
魔耶「…どうすれば、いいんだろ…」
??は、日々私の細胞が悪魔の細胞によって侵食されていると言っていた。つまり…悪魔耶にならなくても、いずれは悪魔になってしまうということだ。
悪魔耶になるとその時期が早まってしまうというだけで、いずれは…
魔耶「っ……」
友達のことを大切に思うなら……カルセナのことを大切に思っているなら…変わってはいけない。つまり、私が変わるとカルセナになにかしらの被害があるということだろうか。
魔耶(…いつ変わるかも分からない…ずっとカルセナと過ごしていれば、いやでもそのときはやってくるはず…。カルセナを、傷つけてしまうかもしれない…)
確かに私はカルセナと一緒に過ごしていたいと思ってる。でも、そのせいでカルセナが傷ついてしまうのは…私の願っていることではない。不本意だ。
…ここから、離れるべきだろうか。カルセナから離れて、北街から離れて…。
魔耶「………」
カルセナ「ーーあがったよ〜」
魔耶「…‼」
急に聞こえたカルセナの声に驚く。色々なことを考えていた頭が、一気に現実に引き戻されていった感じがした。
カルセナ「魔耶?起きてたんだ…って涙目じゃん‼なになにどうしたの!?」
魔耶「…カルセナ……」
また涙が溢れてきた。
カルセナにこのことを打ち明けるべきだろうか……。本当は、全部話してしまいたい。全部話して、二人で解決策を探して、この気持ちをすっきりさせてしまいたい。
…でも、心配させてしまうだろうか。私から離れていってしまうかもしれない。私のことを恐れてしまうかもしれない…。それは、自分から別れを切り出すよりももっと辛い。
魔耶「…なんでも、ないよ」
私は自分でも分かるくらい無理矢理な笑顔をつくった。
カルセナ「魔耶......?」
魔耶「ほんとに、何でもないから....!ッ」
何でもない筈が無い。普段通りならば、魔耶が理由なく泣いている事はないといっても良いのに。
気持ちを振りほどいた頭の中に、又もや嫌な考えが入ってくる。
カルセナ「......話して」
魔耶「....え?」
ブラッカルから言われた事を脳裏で再生し、魔耶の状況を理解する為に話を聞く事を求めた。
それに、安易なものだったが、確かに誓ったのだ。魔耶の事は自分で考える、と。
カルセナ「なんかあるんじゃないの?....魔耶が良ければ、話して欲しいな...」
近くの椅子に座って、魔耶を見る。
話をするかどうかは魔耶の勝手だ。ただ、出来るだけ魔耶の情報が欲しかった。今はこの世界を出る情報よりも大事なものに思えたのだ。
私はカルセナのまっすぐな瞳を見つめた。彼女の瞳は、私がどんなことを話しても受け入れてくれそうな目だった。
…その瞳を見て、カルセナには話そうと思った。ゆっくりと話しだす。
魔耶「……私、今日怪我したじゃない」
カルセナ「…?…うん、ドラゴンにやられたやつ?」
魔耶「それ。……その傷の回復がすごく早かったのよ」
カルセナ「そうだね。皿洗いのときにはもう使えるようになってたね。…でも、それって魔族だったからじゃないの?」
魔耶「確かに私は魔族だけど…それでも、異常に早かったの。悪魔と同じくらい早かったの」
カルセナ「…それで?」
カルセナはその続きが知りたくて、話を先へと促した。
魔耶「おかしいなって思ってたんだ。そしたら、夢を見た」
カルセナ「どんな夢?」
魔耶「知らない声が、私に言うの。『君の細胞は悪魔の細胞に侵食されてる。このままだと、君は悪魔になっちゃう。別の君になっちゃう』って…。傷の治りが早かったのも、きっと私の体が悪魔に近くなっていってるからなんだよ。私が完全に悪魔になったら、今の私の人格はいなくなっちゃうんだ。…いつか、私はこの世界から消えちゃうんだよ…。別の私になっちゃうんだよ…ッ」
絶え絶えな声で、魔耶は真実を話してくれた。その目には、溢れんばかりの大量の涙が溜まっていた。
魔耶「もうどうしたら良いのかな、私......ッ」
カルセナ「.........」
ブラッカルの言っていた事は本当だったらしい。だが、言われた通りにしようとは思わなかった。
魔耶「......こんな事言ったって、何の役にも立たないよね.......ごめん...」
謝られることなんか無い。むしろ何も考えれていない、私が謝りたいくらいだった。
カルセナ「....ッ、大丈夫!!」
魔耶「....?」
何が大丈夫なのだろう。自分で言った事が一瞬、良く分からなくなった。魔耶の泣いてる顔を見たくない。恐らく、そういう思いから出た言葉だった。
カルセナ「きっとどうにかなるよ!私達がこの世界に来て、乗り越えられなかった事は無いんだからさ!だから、大丈夫.....ッ」
確信も無かった。言葉を並べていく程、自分の言った事の無責任さがじわじわと伝わってくる。でも今は、これが最善の策だ。ここで黙り込んでも、否定しても結果は悪くなる一方なのだから、そう考えた。もう一人の自分に何と言われようとーー
.....ブラッカルも、今の私と同じ気持ちだった?
同じ様に、自分が思う『最善』を貫きたかった?
....でも、魔耶の事はどうでも良いと言わんばかりの発言をしていた。
.....やっぱり向こうが間違っている筈だ。私は魔耶を、そうとは思ってないんだから。
カルセナ「だから....泣かないでいて、魔耶....」
魔耶「……ありがとう、カルセナ……。そうだよね。きっと、大丈夫だよね…」
カルセナのその言葉から、本気で私を心配してくれているのだとわかった。…これ以上カルセナを不安にさせたくない。そう思って、この言葉を放ったのだった。…本当は大丈夫なはずがないと分かっているのに…。
魔耶「まだ時間はあるだろうからね…この世界なら解決策も見つかるかもしれないし…」
思っていることとは裏腹の言葉が自分の口から出てくる。もしかしたら、私は強がりなのかもしれない。
時間がどれくらい残されているかなんて自分でも分からないし、私の特殊なケースを救う方法がこの世界にある確立は0に等しいだろう。
カルセナ「そうだよ。きっとなにかしらの方法はあるよ。諦めたらおしまいなんだから、希望を持っていようよ…!」
魔耶「…うん」
彼女が私を勇気づけようとしてくれているのがわかった。
魔耶「カルセナがいてくれて良かったよ。…出会えて良かった。ほんとに、ありがとう……」
カルセナ「はは、泣かないでよ」
魔耶「いいじゃん。これは嬉し泣きなんだから…」
…確立は0に近いかもしれないが、足掻けるだけ足掻いてみよう。今の私が私でいられる時間を…カルセナと過ごせる時間を大切にしよう。そう思った。
カルセナ「取り敢えず、今日のところは寝て、また明日にしよう」
魔耶「そうだね、もう良い時間だもんね」
少し安心感出た途端、考え疲れた体が大きな欠伸をした。
二人とも今日は良く眠れるか心配だったが、気持ちを落ち着かせて寝る事にした。
魔耶「おやすみー」
カルセナ「ん、また明日」
部屋の電気が、パチッと消えた。
カルセナ「....またここか」
いつもブラッカルと話をしていた場所。『向こう』には、いつもなら居る筈のブラッカルの姿は見えなかった。無理もない。あんな喧嘩をしたのだから。
カルセナ「それにしても、喧嘩して話すことないってのに....何でここに来させられるんだろ」
何か理由があるのだろうか。あったとしたら、何をさせようとしているのだろうか。
カルセナ「相変わらず、私の夢は意味分からないのばっかだなぁ....一回目ぇ覚めるのは嫌だけど、早く抜けよっと....」
「......して」
カルセナ「....ん?何か聞こえた様な......まさかね。ここに私とあいつ以外居るわけないし」
念のためもう一度耳を澄ますが、やはり何も聞こえやしなかった。
カルセナ「空耳かぁ....」
何も無い事を確認して、この夢から覚める事にした。
カルセナ「.......ふぅ(....まだこれだけしか経ってないのか....)」
枕元の時計を見て、まだ数十分しか経っていない事に気付く。
カルセナ「(そりゃそうか、あんだけしか滞在しなかったしね)」
隣のベッドには、疲れきった顔でスヤスヤと寝ている魔耶がいた。
カルセナ「(......もっかい寝るか)」
再び布団を肩まで掛け、眠りに就いた。
気がつくと自分は真っ白な空間の中にたっていた。白すぎて床も壁も分からないくらい真っ白な部屋に、たった一人で。
…私は確かに眠ったはず。宿にいたはず。ではこれは…
魔耶「……夢?」
でも夢にしてはずいぶんはっきりとしているし、自分の考えがあやふやではない。ここはどこであろう?
??「…こんにちは〜」
不意に後ろから声をかけられた。反応して振り向く。
??「初めまして、かな?私は君のことを知ってるけど、君は私のこと知らないよね〜」
魔耶の後ろにいたのは、鋭い角と大きい漆黒の翼を持った…自分だった。その体は複数の鎖で繋がれている。
魔耶「…わ、私…?」
??「そう。私は君だよ。君は私。…まぁ、私は君の悪魔の部分なんだけどね」
口調といい、声の高さといい、鎖に繋がれた私は自分とまったく同じだった。
魔耶「あなたが悪魔の…私…?」
??「そーそー。まぁ悪魔耶とでも呼んでよ」
魔耶「悪魔耶…」
悪魔耶「うんうん。自分と話すのって変な感じだね〜?」
魔耶「…」
私の沈黙は気にしていないのか、悪魔耶はそのまま言葉を続けた。
悪魔耶「やったぁ。君に会えたってことは、もうすぐ私が外にでられるってことだよね。君と私の立場が変わって、君は鎖に繋がれる。あぁ、楽しみ〜」
魔耶「っ…!」
立場が変わる…私が、鎖に繋がれる…?
魔耶「な、なにそれ!なんで私が繋がれるの?なんで君が外に出られるようになるの!?」
悪魔耶「え〜。簡単なことじゃない?人間の君がいままで外にいたから、今度は私の番!ってこと!」
魔耶「なっ…!……外にでて、なにをする気なの…?」
悪魔耶「うーん…色々やりたいことはあるけど、まずはね〜…あっ!」
いきなり悪魔耶が驚いたような声を出した。
悪魔耶「もう朝だよ。続きはまた今度ね〜」
悪魔耶がそう言うと、あたりの景色が歪みだした。
魔耶「まってよ!まだ聞きたいこと…が………?」
目覚めたばかりの体に朝日が眩しかった。
魔耶「......はっ!!...もう、何なんだよ.....」
夢の様な空間から目覚め、少し溜め息を吐く。
カルセナ「....あ、魔耶。おはよー」
魔耶「え、あぁ、おはよ....」
キッチンからひょっと顔を出したカルセナに挨拶を返す。それでも魔耶は、昨日の夢の事が気になって仕方がなかった。
カルセナ「何か悪い夢でも見てたん?」
魔耶「え?」
カルセナ「いや、何かちょっと魘されてたから」
魘される程の夢では無かった気がするが、現実の魔耶はどうやら少し苦しんでいたらしい。
魔耶「うん、まぁねー.....てかカルセナ、起きるの早いね」
カルセナ「あー....何か良く眠れなくってさ....」
魔耶「そっちこそ、何か悪い夢見たんじゃないの?」
カルセナ「別に悪い夢、ではないんだけどね〜......まぁ、取り敢えずご飯食べれば?何故かパンとか買い溜めしてあるし」
ブラッカルが出ているときに沢山買ったものだ。その中の1つを頬張りながら魔耶に朝食を勧める。
魔耶「んー、そうだね.....んじゃ食べるわ」
寝起きの体を起こして、キッチンへと向かう。
窓からは木々を萎えさせるかの様な、冷たい風が吹いていた。
カルセナ「…んで、今日はなにする?」
魔耶「…なに、って…?」
パンを頬張りながら、質問を質問で返す。
カルセナ「今日やることだよ。やらなきゃいけないことたくさんあるじゃん?」
魔耶「あぁ…そうだね。元の世界に帰る方法を探す、私の状況を解決する。大きく分けて2つだけど、どっちを優先するかだね」
カルセナ「優先順位は魔耶のことだけど…。元の世界に戻る方法はその次でいいよ」
カルセナが私にむかって笑いかけてきた。それに反応して私も微笑みを返す。
魔耶「ありがとう。…んで、私の状況を良くするために、今日なにをするか考えなくちゃか…」
カルセナ「そゆことそゆこと。今日なにをするかっていうのは、そーゆー意味」
魔耶「あ、そういう意味ね。うーん…図書館に行くか…誰かに情報を聞き出すか…」
カルセナ「誰かに聞く………あ、はいはーい!良い案がありまーす!」
その場でカルセナが勢いよく手を挙げた。
魔耶「んー?なんか思いついた?」
カルセナ「うん!…ニティさんのところ、行ってみない?」
魔耶「あぁ〜....確かに、あの人なら色々知ってるかもだしね」
カルセナ「ね!だから、準備終わったら行ってみよう!!ほら、多分まだ岩場にいるだろうからさ」
魔耶「んじゃあそうしよっかー」
朝食を食べ終わった後、いつもの通り、歯磨きや着替えを済ませ、宿の外に出た。
カルセナ「...よし、行こ!」
魔耶「おー、確か向こうの方だったよね」
北街方面とは真逆の、南を指して確認した。
カルセナ「自分で言ってなんだけど、居るといいなぁ.....何か心配性発生しちゃう....」
魔耶「大丈夫なんじゃない?きっと居るよ」
そうして二人は飛び立ち、ニティが居るであろう岩場へと向かった。
魔耶「.....何か懐かしいなぁ、こっち方面」
冷たい風を翼で切りながら、この世界に来たばかりの時を思い出す。
カルセナ「あんまり日にち経ってるような感じもしないのにね〜」
魔耶「色々あったから、自然と懐かしくなっちゃうのかな」
気分良く空を飛んでいる内に、目的の岩場が見えてきた。
カルセナ「あっ、あそこじゃない?」
魔耶「ホントだ〜、意外と早く着いたね」
二人でスタっと地面に降り立ち、岩場に向かって歩いていく。
魔耶「カルセナが変なキノコ食べちゃって、ニティさんに助けてもらったんだよね。あのときは本気で心配したなぁ〜」
カルセナ「……これからは、気を付けます」
魔耶「あはは、ほんとだよ〜。………って、あれ?」
魔耶が驚いたような、不思議がっているような声を出した。
カルセナ「…?どしたの?」
魔耶「いや、なんか羽がしまえな…あっ、しまえた」
魔耶の漆黒の翼がシュッと小さな音をたてて消えた。
カルセナ「……」
魔耶「……」
魔耶が翼をしまってみせてくれたときのことを思い出す。彼女は『悪魔は翼をしまえないけど、魔族の私はこの通りよ』なんて言っていた。…つまり、翼がしまいにくくなっているってことは…
魔耶「…急いで情報を集めたほうがいいのかもね」
カルセナ「そうみたいだねぇ…」
ニティさんがいた岩場に到着し、覗き込んでみる。
カルセナ「ニティさ〜ん?いらっしゃいますか〜?」
すると、奥から懐かしい声が聞こえた。
??「誰だ?…いや、声を聞けば分かる。久しいな。なにか用か?」
この口調…声の高さ…間違えようがない。いてくれて良かった。
魔耶「ニティさん!」
ニティ「二人でここに来たのか。立ち話もなんだ、入れ」
岩場の奥からニティさんが顔を見せた。一週間程度会っていなかっただけなのに、彼女をみるのがとても久しぶりに思えたのだった。
見慣れた岩場の、洞窟内の地面に座る。
ニティ「....うむ、二人共、少しは成長している様じゃないか」
魔耶「見ただけで分かるの?」
ニティ「勿論、それ程おおっぴらに気をさらけ出していれば、見抜くのは容易い事だ」
そう言うニティからは、これっぽっちも覇気がしなかった。きっと自分の実力を相手に見抜かれない様、隠しているのだろう。
ニティ「互いに、仲間に対する執念が強くなっているな」
カルセナ「そりゃ、色々あったからねぇ.....」
ニティ「カルセナよ」
カルセナ「へ、はい?」
ニティ「お前の執念は人一倍だな。それ程思いが強くなっているのだろう」
カルセナ「あ、そうなんすか.....」
きっとそれには、ブラッカルの分の気持ちも入っている。でないと人一倍になんてそうそうならないだろう。
ニティ「そして魔耶」
魔耶「はい....?」
ニティ「お前もカルセナと同じ様な成長を遂げている....が」
魔耶「が.....?」
ニティは、少し顔を歪めて魔耶に伝えた。
ニティ「何か....自分で自身の異変などに気付いた事はないか?」
魔耶はドキッとした。そこまで見抜かれる程、侵食されて来ていると言う事なのか。
魔耶「…分かります?」
ニティ「あぁ。前にはなかった邪悪な気がかすかに感じられる」
やっぱりそうなのか。あの夢は本当で、私は…。
もしかしたらという小さな希望を持っていたが、あの夢は真実を語っていたんだ。
カルセナ「…今日はそのことについて相談しに来たんだ」
ニティ「なるほどな…。確かにこれは簡単な問題じゃなさそうだ。詳しく教えてくれ」
魔耶「……はい。実は…」
それから私は語り続けた。昨日の試験のこと。傷の治りがおかしかったこと。夢をみたこと。このままだと悪魔になってしまうこと。…たまに辛くなって声が止まることもあったが、分かっていることは全て語った。
ニティ「…魔耶は悪魔と人間のハーフだったのか…。そんな種族は初めて知った」
カルセナ「神様なのに?」
ニティ「あぁ。神様なのに、だ。普通なら悪魔と人間が結婚するなんてありえない。悪魔は人間のことを下に見ているからな。…それに、たとえ結婚したとしても子供ができるなんて……確立はとても低いだろう」
魔耶「……」
私はニティさんとカルセナの会話をぼんやりと聞いていた。…やっぱり、こんな種族…普通じゃないんだ。
カルセナ「…魔耶?」
私の様子をおかしいと感じたのであろう。カルセナが声をかけてきた。
魔耶「……が…った」
カルセナ「…え?」
魔耶「普通が…よかった…」
つい、思っていたことを口に出してしまった。
魔耶「私も普通の種族だったら…こんな状況にならなかったのに。なんで私は…普通になれないの…?どうして私は、生まれたの…?」
なんで、なんでばかりが浮かんでくる。
辛かった。苦しかった。訳の分からない状況に追い込まれた自分の心はもう修復できないほどにボロボロになっていて。自分のおかれている状況を脳みそは理解したくなくて。
魔耶「どうして…?私は、ただ普通でいたいのに……普通でいたいだけなのに……ッ」
カルセナ「…魔耶……」
魔耶「…っ…………ごめん、ちょっと…外の空気吸ってくるね……」
この場にいるのが気まずくなって、私は外に出た。じゃないと、このやり場のない怒りと悲しみを二人にぶつけてしまいそうで怖かったから。溢れてくる感情を抑えられそうになかったから。
ニティ「....やはり、重要な問題だったな」
カルセナ「.......」
ニティ「....もし」
カルセナ「....?」
ニティ「仮に、もし魔耶の体が全て悪魔の細胞で覆われてしまったら、恐らく後戻りすることは出来ないだろう....」
深刻な顔でカルセナに伝える。
カルセナ「....それは分かってるけど...」
ニティ「....私の神としての役割は、今いる地を見守る事だ。魔耶が悪魔になってしまった場合、私が対象せざる負えない状況になる。だから出来るだけ、そんな事にしたくはないが....あの様な形は初めてだからな....どうしたものか」
目の前で燃え盛る焚き火に、薪を放り込む。その薪を取り込んで少し炎が強くなる様子を、カルセナはじっと見ていた。
カルセナ「.....悪魔の細胞と、うまく合わさる事は出来ないのかな.....」
自分の意識の中で暮らす、ブラッカルの様に。
ニティ「....それは難しいだろう。真逆の関係である種族の細胞と調和出来る事はほぼ有り得ない」
カルセナ「そっか......」
暫く沈黙が続き、洞窟内に聞こえるのは森の動物達の鳴き声と、焚き火の燃える音だけだった。
その沈黙を破るかの様に、ニティが軽く溜め息を吐いた。
ニティ「.....仕方が無い、何百年も戻ってなかったがな....」
カルセナ「?」
ニティ「私が.....天界へ向かい、情報を探しに行こう」
魔耶「っ……はぁ…」
嫌なことばかりが頭に浮かぶ。…だめだなぁ…私。
魔耶(…感情を抑えないと…。落ち着け、自分…)
自分は悪魔と人間のハーフだと知らされたときも、人間の子供に恐れられたときも…ここまでの動揺はなかった。こんなに気持ちが落ち着かない時間は生まれて初めてだろう。
魔耶(…自分が消えちゃうから…?いや、それもあるけど…)
なぜここまで動揺してしまうのか。原因はわかっていた。
…カルセナともう会えないということだ。カルセナはいつも私と一緒にいてくれて、どんなときも私を見捨てようとなんてしなくて……命の恩人であり、大切な親友だった。
魔耶「…やだなぁ。まだこの世界でカルセナと過ごしてたいのに…」
まだ消えたくない。300年も生きててワガママかもしれないけど、もう少しだけ生きていたい。
魔耶「っ……」
涙が頬を伝うのが分かった。
…心が弱くなっているからだろうか?最近の私は、泣き虫だな…。
カルセナ「....天界に?」
ニティ「あぁ、上には私より博識な賢者が沢山居る。特に、私の師匠とかがな」
カルセナ「師匠なんて居たんだ....」
ニティ「勿論。その他にも私の古き友や、天界の主である大天使様がいらっしゃる。それだけの人材があれば、何か必ず有力な情報が得られる筈だ。情報だけあっても、行動には起こせぬ確率が高いと見込まれるが....」
カルセナ「いや大丈夫、ありがとう。...あ、じゃあ魔耶に.....」
ふと、外の空気を吸いに行ったときの魔耶の表情を思い出した。
きっと、一人になりたいが為に外に出た。気持ちを冷ます為に、外に出たのだ。
そんな今、魔耶を呼びに行ってしまって良いのだろうか......。
ニティ「.......どうするかは、お前次第であるぞ。無論、私は口を出す事は無い」
少し姿勢を崩すと、壁に掛けている槍の様な武器を手に取り、先を指でそっと撫でる。
しかし、鋭くも温かい視線はしっかりとカルセナに向けられていた。
カルセナ「.......私は....」
そう言い残してスッと立ち上がり、洞窟の外へ魔耶を探しに向かった。
その背中を、先程と変わらない目で見送った。
ニティ「......良い仲間だ。もしかしたら彼奴等には、確率など関係無いのかも知れないな....」
魔耶「…!」
…後ろから誰かの足音が聞こえてきた。カルセナだろうか…?
急いで涙を拭い、気持ちを整える。カルセナにこれ以上心配をかけさせたくない。
カルセナ「…魔耶〜?」
やはり、カルセナだ。カルセナの声だ。
魔耶「…カルセナ…?ここだよ」
カルセナ「ん〜?あ、ここか」
木々の葉の間からカルセナが顔を出した。
カルセナ「ふう。結構遠くまで行ってたのね〜。………落ち着いた…?」
魔耶「…なんとかね。ごめん、急にいなくなって…」
カルセナ「いやいや、昨日今日で色々あったもんね。そうなるのは当たり前だよ。むしろそうやって感情を抑えられるのがすごいと思うけどね〜?私だったら怒鳴り散らしてたかも…」
魔耶「それはないでしょ…。…ニティさんは?」
カルセナ「ニティさんはね、天界に戻って情報を集めてくれるって。神様達に聞いて回ってくれるんだよ。きっと悪魔にならない方法だって見つかるよ!」
魔耶「…!」
ニティさんが、私のために…。
天界なら有力な情報が得られるだろうか。私は、元に戻れるのだろうか…?
魔耶「…そっか。お礼言わないとなぁ。…少しだけ希望が見えたような気がするよ」
カルセナ「取り敢えず、あっちに戻ろ」
魔耶「うん....そうだね」
カルセナは魔耶を引き連れ、ニティが居る洞窟へと戻った。
魔耶「あの、カルセナから聞いたよ。....ありがとう、ニティさん」
ペコリと頭を下げる。
ニティ「いやいや、別に良い。まぁ、その代わり少し時間が掛かってしまうが....出来るだけ早く戻って来れる様にはする。その間、お前は絶対に悪魔状態にはなるでないぞ。良いか?」
魔耶「....分かった」
ニティ「カルセナ、お前もしっかりと見守っておけ」
カルセナ「はーい」
ニティ「......それでは、私は直ぐ様天界へと向かう事にしよう」
武器の先端で焚き火を指すと、微かな青い光と共にシュウッという音がして、何も無かったかの様に火が消えた。
洞窟の外で、一時的な別れの言葉を交わした。
魔耶「じゃあ、気を付けて」
ニティ「うむ、行ってくる。....お前等の拠点は、北街で合っているか?」
カルセナ「そうだけど....」
ニティ「ならば、情報を集め終わり次第そちらに向かおう。その方が効率も良いだろう」
魔耶「ありがとう」
ニティ「......安心しろ、お前等に乗り越えられない壁は無い筈だ」
そう言って二人に会釈をすると、天界へと向かって行った。
魔耶「…じゃあ、北街に帰ろうか」
カルセナ「そうだね。こっちもできるだけ情報をあつめよう!」
魔耶「うん。頑張ろう…!」
まだ少しの不安はあったが、ニティさんの『お前達に乗り越えられない壁はない』という言葉をもらって少し元気がでた。
魔耶(そうだよね。私一人だと無理でも、二人なら…まだ希望はあるんだ。きっとまだ時間もある。私が諦めてどうするんだ…!)
少しでも諦めていた自分を情けないと思った。私の為に頑張ってくれている人がいるのに、私が諦めたらその人達に申し訳ない。
カルセナ「魔耶?行くよ〜?」
魔耶「あ、はーい」
二人で再び北街に戻るべく飛び立った。まだ朝の空気はひんやりとしていたが、その冷たさは魔耶の頭を目覚めさせてくれているような気がした。
街へ戻っている最中、少し話をした。
カルセナ「で、私達はこれからどうする?」
魔耶「何もしない訳にもいかないしね〜....この事について自分でも調べてみたいな」
カルセナ「そうだねー....んじゃ、また図書館にでも行ってみる?」
魔耶「最初はやっぱりそこだよね....情報は限りなく少ないだろうけど....」
カルセナ「じゃあ、そうしますか〜」
図書館と聞いてふと、借りた本の事を思い出した。
魔耶「....前に借りた本って、貸出期間いつまでだっけ?」
カルセナ「あー、そう言えば色々あって忘れてた....」
魔耶「もうそろそろじゃない?」
カルセナ「でもまだ解読しきって無いよね.....でも、今の件の方が先だもんな」
魔耶「....それなら、ついでに返しとこ?」
カルセナ「だね〜」
そんなこんなで北街が目前となった。図書館に向かう前に、二人は宿へ本を取りに行くこ事にした。
魔耶「本、本…あ、あった」
本は宿のテーブルに置いたままだった。本を手にとって宿から出る。
魔耶「カルセナー。取ってきたよ〜」
カルセナ「お、ありがとう。早速返しに行こうかー」
魔耶「はーい」
二人で図書館に向かって歩きだした。宿からそう遠くないので、そこまで時間もかからないだろうと予想する。
図書館までの短い道のりで二人は会話を始めた。
魔耶「う〜…最近色々あって疲れたなぁ…。こういう時は糖分が欲しくなるんだよね」
カルセナ「わかるわかる。考え疲れた時は糖分だよね〜。まだ宿にチョコが残ってるよ?いる?」
魔耶「チョコもいいけど、私がいま欲しいのはキャラメルなんだよ〜」
カルセナ「ほう?理由は?」
魔耶「キャラメルを食べるとなんか…元気が出るんだよね。どんな時でもキャラメルがあれば生きていける」
カルセナ「ふーん…魔耶そんなにキャラメル好きなのね〜」
魔耶「カルセナの力の源がチョコなら、私の力の源はキャラメルだよ」
カルセナ「…私の力の源ってチョコなの…?」
魔耶「え、前に自分で…あ、それブラッカルだった〜」
ふと、ブラッカルは自分の状況を知っているのかどうかが気になってカルセナに尋ねてみる。
魔耶「ねえ、ブラッカルは私の今の状況知ってるの…?」
もし私が悪魔になってカルセナに危険が迫っても、ブラッカルならなんとかしてくれるかもしれない。もしブラッカルが知らないのなら、知らせておいてほしいが…。
カルセナ「あー、知ってると思うよ?」
魔耶「そっか、それは良かった....」
カルセナ「でも、あいつ酷いんだよ!!魔耶の事を変に言いやがって〜....だから今絶賛喧嘩中!」
魔耶「え....そうだったの?てか話したんだ...」
カルセナ「うん。あいつが言った事に私が口出ししたら何か怒って、もう助けてやらないみたいな事言われたからさ〜....本当に、短気で嫌なやつ!!」
昨夜の出来事を思い出しながら、不満気に愚痴を溢す。
カルセナ「....ところで、魔耶が会ったもう一人の自分?との関係はどんな感じなの?流石に協力出来る、なんて事はないかもだけど....」
自分の状況と重ね合わせて、魔耶に問い掛ける。
魔耶「うーん…カルセナとブラッカルみたいに口調が違ったりはしてなかったな。性格はよくわからんけど、ほとんど私だったね」
カルセナ「え〜…じゃあ協力できたりしないかなぁ?あいつ(ブラッカル)みたいに嫌な奴じゃないかもしれないじゃん」
魔耶「それは…どうだろうね」
魔耶は彼女が言っていた言葉を思い出した。外に出るのが楽しみだとかなんとか言ってたのに、そのチャンスを不意にするなんて嫌だと思うだろう。まだよく性格も分かんないし…
魔耶「…まあ次会ったら説得してみるよ。期待はできないけど…」
カルセナ「うんうん。…あ、着いたね」
前と変わらない綺麗さを保った、大きな図書館に到着した。
魔耶「はぁ〜....何かしらがあるといいけどな....」
カルセナ「ま、探してみよっか」
魔耶「だね〜」
中に入り、受付の人に借りた本を返した。
魔耶「....そういうジャンルの文献は、どこにあるんだろうねぇ」
広い図書館の中、限りなく近いものを求めて探し回る。
カルセナ「こんだけ広いんだもん、どっかにあるでしょ」
魔耶「てか、ジャンル的にはどーゆー風なものなのかな」
カルセナ「う〜ん......魔術系統?」
魔耶「そんなんあるかなぁ〜....取り敢えず全部回ってみるか....」
手分けをして、ありとあらゆる本棚を端からチェックする事にした。
カルセナ「....あ、お菓子の本だ〜。美味しそう....いやいや、こんな事してる暇じゃないわ」
魔耶「....今んとこ無いか....そりゃ、そんな簡単に見つかったら苦労しないよね」
ふと先ほど返した本を見つけた時のことを思い出した。
…確か、カルセナが適当に選んだ本がそれだったんだよね…
魔耶「頑張れカルセナ、君にかかってる」
カルセナ「まって一人で勝手に考えて勝手に自己解決しないで。どういうことよそれ…?」
魔耶「いやぁ、さっき返した本はカルセナが偶然見つけた本だったじゃん。だから今回もカルセナが適当に選べば見つかるんじゃないかな〜って」
カルセナ「あれは偶然だったんだよ…?今回もそんなことが起こったら、私超ラッキーガールじゃない。偶然の意味わかってる…?」
魔耶「むう…それもそうか…。でも私運がないからな〜。見つけられる可能性が高いのはカルセナだと思うよ」
カルセナ「私もそこまで運があるわけじゃないと思うけどなあ…」
魔耶「私よりはあるよ、きっと」
カルセナ「むしろ最近色々な目にあってる魔耶のほうが見つけられるんじゃない?」
魔耶「そうかな…。プラマイゼロ?」
カルセナ「プラマイゼロ」
....まぁまぁな時間が経っただろうか。二人はまだ、需要がありそうな書籍を見つける事が出来ていなかった。
カルセナ「うおぉ〜.....無いなぁ.....」
魔耶「今回ばかりはちょっと大変かもね....」
しかし、諦める訳にもいかない。この間にも、魔耶の悪魔化は僅かながらも進んでしまっているのだろうから。
カルセナ「....何かそれっぽいもの見っけた〜?」
魔耶「う〜んとねぇ.........この妖怪辞典と〜」
カルセナ「ほぉ....」
魔耶「あと、黒魔術の本的なやつ」
二冊の本をテーブルにドサッと置く。これまた、どちらも分厚い本だった。
カルセナ「あっち側は無さそうだったよ」
魔耶「本当に無いんだねぇ、こーゆーの....黒魔術の本とかに、何かの情報とか載ってたりしないかな」
カルセナ「黒魔術って、どんなの?」
魔耶「見る限りはねー.....悪魔召喚とか、呪術とかかな?」
カルセナ「当たり前だけど、怖い系ばっかですね.....悪魔召喚ねぇ.....。悪魔召喚してみて、どうすれば良いか聞き出せば?」
冗談混じりで魔耶に提案する。
魔耶「普通、侵食されてる相手に聞くもんかねこれ....」
魔耶「…っていうか、そもそも私魔法なんて使えないし…」
カルセナ「え、使えないの?魔耶ならなんやかんやでできそうだと思ってたんだけどな〜」
魔耶「私をどんな奴だと思ってたのよ…。私は魔力をものに変える、これだけ」
カルセナ「魔力を使ってものをつくってるんでしょ?そんな感じで魔法も使えないの?」
魔耶「…」
カルセナ「…魔耶?」
…カルセナの言葉で嫌な記憶が蘇ってきた。
魔耶「…私の魔法を習おうとしたときの失敗談、聞きたい?」
カルセナ「え、なにそれ?聞きたい聞きたい!」
私は軽くため息を吐きながら話し始めた。
魔耶「私を育ててくれた人は魔法をよく使っててね。それを見て私も魔法使いたいって思ったのよ。それで、特訓をすることになった」
カルセナ「育ててくれた人…?親?」
魔耶「いや、親の知人だった人。私の親は私が生まれてすぐに死んじゃったらしくてね、覚えてないや。…んで、特訓してときに私はすごいことに気がついちゃったのよ」
カルセナ「どんなこと?」
魔耶「私に魔法の才能が全くないってこと」
カルセナ「え、なんでそう思ったの…?」
魔耶「私は幼い頃から能力が使えてたみたいでね。魔法を使うために…例えば炎をイメージして、それを出そうとするじゃない?でも私は魔法より能力を無意識に使っちゃってて…何度やっても、固形の炎をつくっちゃうのよ」
カルセナ「それは…能力の才能がありすぎるのかな…?w」
魔耶「そうかも…wどうやってもできなくて、仕方なく魔法を諦めました。…カルセナは、魔法使えたりしないの?」
カルセナ「使える訳ないじゃないっすか〜。ただの人間から転生?した、ただの浮幽霊なんですから。未来を読む事しか出来ません」
魔耶「そっかー....」
少し休憩しようと図書館内にある休憩所まで向かい、そこにあったソファに腰掛けた。
魔耶「カルセナの能力って、人間の頃からあったものなの?」
カルセナ「いんや、能力は無かったけど....人間だった頃は展開を予想すんのが得意だったからなぁ....」
魔耶「ふーん、じゃあ浮幽霊になって初めて、そう言う能力を手に入れたって感じか〜」
カルセナ「そんな感じ。何か、自分の年の分だけ未来を読めるっぽい。内容は忘れたけどこの前、めっちゃ限界まで未来を読んでみたことがあってさ」
魔耶「て事は.....110年先まで読めるって事?」
カルセナ「そゆこと。ま、滅多にこの能力使わないけどね〜」
魔耶「そりゃまた何でさ」
カルセナ「えーだって、先の事分かっちゃったら生き甲斐無いじゃん。まぁ既に死んでるから生き甲斐って言わないけど」
魔耶「確かに....それはそうだなー」
話しながら、窓の外をちらっと見た。近くにある公園では、小さな子供達がはしゃいでいる姿が見えた。
魔耶「うーん....中々重労働だなぁ」
カルセナ「そうだねぇ〜......魔耶って、元の世界に居たときは何して過ごしてたの?」
魔耶「ゴロゴロしてたよ、うん」
キッパリと言い放つ。
カルセナ「ええ…なんかやることなかったの?」
そんな私に少し呆れながらも、カルセナが質問してきた。
魔耶「お金は欲しかったから月一くらいでつくったもの売ったりしたかな。丈夫だから結構売れたのよ〜?」
カルセナ「お店をもってたの?」
魔耶「いやいや、知り合いのお店を月に一回借りてただけよ。…まあほとんど自給自足生活みたいなものだったからそこまでお金は必要じゃなかったかな。料理道具とか必要なものは自分でつくれたし…たまーに街に降りていって食材買ったりしてたけどね」
カルセナ「ふーん…他に何かやってた?」
魔耶「あとは〜…うーん……あ、たまーにお仕事のお手伝いをしてましたよ」
カルセナ「なんの仕事?」
魔耶「街のパトロール…みたいなの。私を育ててくれた人は結構偉い人でね〜。風紀の管理?を任されてて、ちょっとでも街でトラブルが起こったらすぐ駆けつけられるように街でパトロールしてるの。たまに私もそれを手伝う」
「ほとんどはひったくりを捕まえたりとかだからつまんないけどね」と付け足しておいた。
カルセナ「へえ…すごいことしてるんだねえ…警察みたいなかんじか」
魔耶「そんな感じ。…でもほとんどの時間は家で能力を使った遊びとか、散歩とか、ゴロゴロしたりだとか…そんな生活だったからさ。この世界でカルセナと冒険できて、今とっても楽しいんだ〜」
カルセナ「あはは。私も楽しいよ」
魔耶「ありがと〜。…カルセナはどんなことしてたの?」
カルセナ「えーとねぇ.....そう言われると、浮幽霊になってからは魔耶と同じような生活をしてたかも....」
魔耶「ゴロゴロしたりとかって事?」
カルセナ「そうそう、マンションの屋上とかでさ。あと.....家族見守ったり?」
魔耶「へぇ〜、良いことしてんじゃん」
カルセナ「少なからず、悪霊ってもんがいたからねぇ.....でも、良いことだけしてたとは言い切れんな」
腕を組んで考える。
魔耶「....何してたのさ」
カルセナ「うーん......悪戯したり、ちょっと食べ物盗ったり....あ、でも家族からだから!店からは盗ってないからね!?」
少し慌てながら魔耶に強調する。
魔耶「ほぉ.....まぁ、家族からなら百歩譲って許そう」
その言葉に、ほっと安堵の溜め息を吐く。
カルセナ「....てか、何で私はそのまま成仏しなかったんだろうね〜」
魔耶「あれじゃない?まだこの世界に残りたいって気持ちが強かったとか....」
カルセナ「あー、ありそう....ま、あのまま成仏したら魔耶と冒険は出来なかったって事で。別にいっか〜」
ソファにずるずるともたれ掛かって時計を見ると、図書館に入って本を探し始めた時間から2時間程経っていた。
魔耶「…そろそろ2時間くらいか…お腹すいた。なんか食べない?」
カルセナ「食べてる場合じゃないと思うけどね〜」
魔耶「お腹空いてたら脳みそも働かないよ。腹が減っては戦はできぬ!ってね」
その言葉を聞いて、カルセナが私に質問する。
カルセナ「…なんか最初と比べて危機感薄れてない?自分が消えるかもしれないってときに…」
魔耶「え、そうかな…?…カルセナと話して気持ちが楽になったからかなぁ。あとは、二ティさんが解決方法を探してくれてるってのもあるけど。…も、もう泣いたりしないから!今思い返せば恥ずかしいことを…」
あんなに大泣きしていた自分を思い出して赤くなる魔耶。
元の世界では滅多に泣かなかったのに…この世界に来てもう何度も泣いてるなあ。なんか恥ずかしい言葉も言ってたし、すっごく恥ずかしい。
カルセナ「あはは。恥ずかしがれるってことは元気になったってことだね。よかった〜」
魔耶「たしかに元気は元気だけど…そ、それよりご飯だよ〜。なんか食べに行こ!」
カルセナ「はいはい。ちょっと疲れたし、なんか食べて回復しよう」
二人は図書館から出て、二時間ぶりに外に来た。新鮮な空気を肺いっぱいに吸えて心地よかった。
二人して、大きな深呼吸をして落ち着いた。
カルセナ「ふぅ〜......んで、何食べに行きます?」
魔耶「いつもの所で良いんじゃない?あそこなら何でもあるし」
カルセナ「そうしよっかー」
お昼と言う事もあり、大通りは沢山の人が歩いていた。恐らく、家族連れが多いだろう。
魔耶「いっつも賑わってて、良いねぇ〜」
カルセナ「人混みはあんま得意じゃあ無いんだけどね....ま、すごい静かっていうのよりは良いけど」
魔耶「だよねー....あれ?さっきの図書館、いつも私達が行ってるお店と近いんだー」
カルセナ「え?あ、ホントだ〜。ラッキーだったね」
そう喜びながら、店に入る。
店員「あ、二人共、いらっしゃいませー!!」
聞き慣れた店員の声が店に響く。何度もこの店に通っているおかげで、店員に顔を覚えられていた。空いている席は、まだあった。
魔耶「あー、お腹空いてきた〜」
カルセナ「今日はどうしよう....」
メニューを見ながら、注文を考える。
カルセナ「.....んじゃ、日替わり定食にしよっかな。魔耶はどーする?」
魔耶「…じゃあ私もそれでー。苦手な食材が入ってたらカルセナにあげるわ」
カルセナ「好き嫌いしてると大きくなれないぞ」
魔耶「…それは身長のことを言ってるのかな?つまり私が小さいと…?」
魔耶がいつもとは違う笑顔を見せる。なんというか…顔は笑っているのに、本当は笑ってないような…私に圧をかけてるような…そんな笑顔。
カルセナ「い、いや別にそういうわけじゃ…っていうか、気にしてんの…?」
魔耶「別に気にしてなんかいないし〜」
少し不機嫌そうな顔をしながらも、クスリと笑って店員を呼ぶ魔耶。
店員「ご注文をどうぞ!」
魔耶「日替わり定食二つお願いしまーす」
店員「日替わり定食二つですね、かしこまりました。少々お待ちください!」
カルセナ「…デザートも欲しいねぇ…」
魔耶「私も…キャラメルが足りない…。またお菓子買いに行くか」
カルセナ「お、いいねえ。チョコ買いだめしてやろー」
店員さんが料理を運んで来てくれるまでの待ち時間ができたので、二人で会話を始めた。
魔耶「買いだめしすぎると全部食べれなくて、消費期限切れちゃうぞ」
カルセナ「程々によ、程々に」
魔耶「ま、程々って人それぞれだもんなぁ.....」
カルセナ「そうそう。....あ、そう言えばさー、今日の新聞の広告にあったんだけど、何かこの北街に新しいお菓子屋さんがオープンしたらしいよ〜。知ってた?」
魔耶「そうなの?知らんかったー。今日の朝新聞見るの忘れてたからなぁ....」
カルセナ「後で行ってみない?デザート調達も兼ねてさ」
魔耶「よし、行こう」
カルセナ「やった〜、良かった割引券持って来といて」
魔耶「....て事は、どっちにしろ行こうとしてたのね」
カルセナ「そうでーす」
すぐ近くの厨房からは、二人の会話を押し退けるかの様な声や物音が聞こえる。とても活気があった。
魔耶「....元気だねぇ、このお店は」
カルセナ「何もかも、元気が一番だよ。うんうん....」
独り言の様に魔耶に言い、自分で頷いた。
魔耶「…元気が一番、か…。そうだよね、どんなときにでも元気は大事だよね……よし!」
カルセナ「ん?なになに、どしたの?」
魔耶「えへへ。さっきも言ったけど、より気持ちを奮い立たせるためにカルセナの前で今誓います。私、もう泣かないようにします!」
元気よく手をあげて、少し語尾を強調する魔耶。
カルセナ「…それはいいことかもしれないけど…無理して辛いのを我慢しないでよ?そっちのほうが魔耶が泣いてるよりももっと辛いから」
魔耶「分かってるよ。無理するつもりはない。…ただ、後ろ向きに考えて泣いてるよりは前向きに…ポジティブにいこうかと思ってね。カルセナをこれ以上心配させたくないし、泣いてる暇があったらそれを解決できないかを考えないと」
カルセナ「…なるほどね。ほどほどに頑張って」
魔耶「ほどほどに頑張ります」
カルセナと話していて、心が朝よりも強くなったような気がする。でなければこんな発言はできなかったであろう。
…もう泣かない。明るく、前向きに生きる。たとえ悪魔になる一秒前になったって、笑っててやる。
店員「お待たせしました!」
店員の元気な声とともに料理が運ばれてきた。
魔耶カル「あ、ありがとうございまーす」
店員「ごゆっくりどうぞ〜」
腹ペコだった自分の目の前にたった今、温かい料理が並んだ。
魔耶「お、今日は生姜焼きかな?美味しそう!」
カルセナ「だねー、早速食べましょうか」
魔耶カル「いただきまーす!!」
手を合わせ、元気良くいただきますの挨拶をした。
ほかほかのご飯と、肉汁が染み出ている生姜焼きを頬張る。
カルセナ「もぐもぐ.........あー、うまぁ〜い.....」
魔耶「活力沸いてくるねぇ〜、このメニューなら.......もぐもぐ....後半も頑張ろう!」
カルセナ「おぅよ!!絶対に見つけてやる!」
空っぽの胃にご飯が入った事で、やる気がどんどん満ち溢れてくるのが分かった。魔耶の言っていた、『腹が減っては戦は出来ぬ』と言う言葉は本当なのかもしれない。
カルセナ「....所でさ〜」
魔耶「ん?どうしたの?」
カルセナ「図書館は全部探すつもりではあるけど.....何も手掛かりなかったらどーする?次はどこに頼る?」
少し頭を傾げながら、飲んでいた水の入ったコップを置く。
魔耶「あー.....どうしよっか.......ま、その時考えれば良いんじゃないかな?ニティさんにも頼む事は頼んであるし」
カルセナ「そっかー、だったら別に良いか....」
魔耶「とにかく、食べ終わったらまた図書館に行かないとね。…あの図書館だけで何日…何週間かかるか…」
カルセナ「そんなにかからないでしょ。そういうジャンルのところだけ探せばいいんだから…全部の本を見ていくわけじゃないんだよ?」
魔耶「あ、確かに」
カルセナ「あー美味しかったぁ〜」
お店から出て、カルセナが満足そうに息をはいた。
魔耶「ね〜。常連になっちゃうわ……。…さて、図書館行こうか?」
カルセナ「ストップ!その前に、なにか忘れていないかね?」
カルセナの突然の言葉に首をかしげる。なにかあったっけ…
魔耶「ん〜?なにが…あ、デザート?」
カルセナ「うむうむ。図書館の後だといいやつが売り切れてるかもしれないし…」
魔耶「…たしかにそうだねぇ。じゃあちょっと行ってみよっか〜。場所分かるの?」
カルセナ「えーっと、時計台のすぐ近くだった筈....新しいお店だから、多分見れば分かるよ」
魔耶「へぇ、じゃあ行こっか〜」
書籍探しは少し休憩し、新しいお菓子屋へと足を進めた。
魔耶「カルセナはどんなスイーツが好きなの?」
カルセナ「うんとねー、私チーズケーキがめちゃくちゃ大好きなんですよ〜。あとチーズタルトとか.....」
魔耶「ほうほう、チーズ系か〜。逆に嫌い....と言うか苦手なものとかある?」
カルセナ「苦手なもの.....生クリームを使ってるお菓子かなぁ....ドライフルーツもあんま好きじゃないな」
魔耶「ふ〜ん、意外と好き嫌いあるんだね」
カルセナ「生クリーム食べると気持ち悪くなっちゃって......」
魔耶「成る程ね.....チーズ系のお菓子あると良いね」
カルセナ「まぁ流石にあると思うけど.....そう言う魔耶はどんなのが好みなの?やっぱりキャラメルとか?」
魔耶「キャラメルは好きだけど、スイーツとなると…チョコケーキとかが好きかなぁ…」
カルセナ「お、なんで?」
魔耶「キャラメルは固形のほうが好き…というか、ドロッとしたやつはなんかやなんだよね。…嫌いなものはカルセナと同じくドライフルーツ系。あとは…モンブランかなぁ」
カルセナ「ほうほう。チーズケーキは?」
魔耶「チーズケーキも好きよ。生クリームは大好きです☆」
カルセナ「えー、生クリーム食べたら気持ち悪くならない?」
魔耶「ちょっとそれはよくわかんない…」
二人で好みのスイーツを話し合っていると、いつのまにか時計台の近くまでやってきていた。
魔耶「あ、ここら辺じゃない?時計台近くって言ったら.....」
カルセナ「だよねぇ、えーと....」
目的の店を探すため、キョロキョロと辺りを見回す。
カルセナ「....あっ、あれだ!!」
指差した店の外見は洋風で小綺麗な建物、そして入り口に『新オープン!!』と貼り紙が貼られていた。
魔耶「あ、ほんとだ。それっぽいね」
カルセナ「早速行きましょぜ〜」
軽快に店内へと足を進める。ドアを開けると、カランという小さな鐘の音が鳴った。
正面から奥へと続く硝子のケースの中には、ずらっと色とりどりなスイーツが並べられている。そのケースの上には、ケーキなどの生菓子だけでなくクッキーやラスクの様なお菓子も並べられていた。新しくオープンしたからか、まぁまぁな人数の客が買いに来ている様だった。
魔耶「おぉ〜!綺麗なお店!」
カルセナ「甘い匂いがして最高だ〜......全部美味しそうだし」
魔耶「だね〜、じゃあ各自好きなの見定めますか〜」
カルセナ「そうだね…あ、チーズケーキ!買っちゃお〜」
自分の好物を見つけ、嬉しそうにチーズケーキを取りに行くカルセナ。
魔耶「早速お目当てのものを見つけたか…私はどうしよっかな〜?色々あるから迷うわ〜」
順番にケースを覗いていく。抹茶ケーキに、ロールケーキに、ミルクレープに…どれもきれいで美味しそうだった。
魔耶「うーん……あ、あった!チョコケーキ〜♪…ん、ショートケーキもある…。」
チョコケーキの隣にはショートケーキが置いてあった。…どっちも好きだからなぁ…。魔耶の心がふたつのケーキの間で揺れる。
魔耶(チョコケーキの隣にショートケーキを置くとは…私を迷わせる気満々な配置。…まさか、両方買わせようというお店の魂胆か…!?)
カルセナ「…魔耶、なんか変なこと考えてる…?」
いつのまにか戻ってきていたカルセナが、私の表情を見て呆れたような声を出す。
魔耶「いんやまったく。チョコかショートかで迷ってて…どっちがいいかなぁ?」
カルセナ「どっちも買えば?」
魔耶「ん〜…ケーキは賞味期限あんまりもたないから一つに絞りたいんだよね…そんなに食べきれないし…」
カルセナ「ふーん……あ、これにすればいいじゃん」
カルセナが指を指したのは、普通のケーキの半分しかない小さなケーキだった。値段も半分だ。
カルセナ「これのチョコとショート買っちゃえばどっちも食べれるじゃん?」
魔耶「……天才っ…!」
カルセナ「ふっふっふ、選択の神と呼んでくれたま..」
魔耶「あとは何か美味しそうなものあるかな〜♪」
カルセナ「おいっ!」
魔耶「ん?何よ?」
カルセナ「.....何でもないっす。」
先程のやり取りは忘れ、他のお菓子も見ることにした。
カルセナ「何か、シェア出来るようなお菓子とか欲しいなぁ....」
魔耶「ケースの上のお菓子とかどう?クッキーとかあるし」
カルセナ「そうだねぇ....あ、これとか?」
目をつけたものは、角砂糖の様に四角い形をしているクッキーだった。一口サイズで食べやすそうだ。
カルセナ「うーん、プレーンとチョコ.....どっちが良いかなぁ」
魔耶「........あ、ねぇねぇ、こっちにそのミックスがあるよ〜?」
魔耶が、少しずれた所に置いてある籠を指差して教えてくれた。
カルセナ「え?ほんと?じゃあそっちの方が良いな....それにするわ」
魔耶「お買い上げありがとうございま〜す」
カルセナ「何か、借りを返された気分だわ.....」
楽しそうに他の商品を見ている魔耶の顔を見て、カルセナも笑う。
カルセナ「.....うん、私はもう良いかな〜。魔耶どーする?」
魔耶「私ももういいや〜。早く食べたい…」
カルセナ「せっかちだなあ…じゃあ魔耶の分もまとめて買ってきてあげよう。二人で並ぶよりも効率がいいじゃない」
魔耶「感謝感激…んじゃあ外で待ってるわ〜。よろしくね〜」
カルセナ「おう」
魔耶「どっか座れるところないかなあ〜」
お店から出た魔耶は休憩できる場所を探していた。ベンチか何かはないかとあたりを見回す。
…すると、見慣れた影が視界の端に映った。
魔耶「ん?…あれは…」
少し小さめの帽子に、赤と白の服装…
魔耶「ひまり〜!」
ひまり「…あら、魔耶?」
時計台から少し離れたところにひまりがいた。
魔耶「......〜!」
カルセナ「(....ん?何か言ったか?)」
店の外で魔耶が何かを口にし、手を降っている様子が見えた。
カルセナ「(....あぁ、誰かいたのかな)」
店員が、白く小さな紙の箱でケーキを梱包してくれている間、ボーッと色々な事を考えていた。
1つは、魔耶の事。
自分で魔耶に大丈夫、などと言ってはいる。ニティさんも情報を集めに行ってくれている。それでも、心の中に不安という文字が残ってしまっていた。これまで出会った事もない異変。簡単に解決も出来ないであろうものに、不安感など消せる筈が無かった。....でも、今は全力を尽くすしかないのだ。魔耶を助ける為に。
そしてもう1つは、ブラッカルの事。
もう考えたくもない。仲直りなんて、あいつと出来る訳がない。そう思って思い出さないようにしているのに、頭の中で考えてしまっている。何故だろうか....今の自分には分からなかった。だから、これからも出来るだけ思い出さないようにするだけだ。
店員「....お待たせしました〜!」
カルセナ「....あ、はい、ありがとうございます」
ケーキの梱包が終わった様だった。
小走りをしてひまりの元に行く。
ひまり「今日は一人?カルセナはいないの?」
魔耶「カルセナはスイーツ買ってくれてるよ。ほら、そこの新しくオープンしたお店で」
カルセナがケーキを買っているであろうお店を指で指す。
ひまり「…あぁ、あそこね。私もこれからいこうと思ってたのよ。………ところで、魔耶?」
魔耶「ん?なに?」
ひまり「今日の朝宿まで迎えに行ったのに、なんでいなかったのよ?そのあとギルドにも行ったけどいなかったし…。どこにいってたの?」
魔耶「…!」
ひまりからジーッと見つめられて焦る魔耶。
どうしよう…ひまりに伝えるべきだろうか……でも、ひまりとみおまで巻き込みたくないなぁ…
魔耶「え、えっと、あの〜…」
なんとかひまりを納得させる答えを発しようとしていると…
カルセナ「…魔耶〜買ってきたよ〜?…あ、ひまりじゃん」
いいタイミングでカルセナが来てくれた。ケーキを買い終わったようだ。そのお陰で話をそらすことに成功する。
魔耶「つ、ついさっき見かけたから声をかけたのよ」
カルセナ「そうなん?偶然だね〜。ひまりもケーキ買いに来たの?」
ひまり「そうそう。私甘いものが大好きなのよね〜。あ、じゃあ私も今から買ってこようかな。一緒に食べようよ」
カルセナ「オーケーオーケー。そこら辺で待ってるね」
ひまり「うん。じゃあササッと買ってくるから〜」
ひまりがお店に向かっていき、私とカルセナがその場に残された。
カルセナ「いってら〜.....ふぅ、何話してたの?」
魔耶「いや、別に何も.....今の私の状況知られたくなくて、つい話逸らしちゃった」
カルセナ「?むしろ知られた方が良いんじゃないの?あわよくば協力も....」
魔耶「いやさ、ひまりとかみおとか巻き込みたくないなぁって思って....」
その顔からは、ひまり達を想う意識が滲み出ていた。
カルセナ「成る程....そーゆー事ね。まぁ、魔耶が言うならそれは合ってるな」
魔耶「どうだかねぇ.....所で、どこで食べよっか」
カルセナ「ここら辺に何かそう言う休憩スペースがあったっけ?あるならそこらで良いとは思うけど」
魔耶「そう言うのに関してはひまりの方が詳しそうだし、戻ってきたら聞いてみよ」
カルセナ「だね〜」
のほほんと雑談をしている内に、店の出入口からひまりが顔を覗かせた。
ひまり「ごめんごめん、お待たせ〜!!」
魔耶「おかえり、早かったねぇ。急かしちゃった?」
ひまり「ううん、買うものはとっくに決めてたから〜」
カルセナ「ほう…なに買ったの?」
ひまり「えへへ、これこれ〜」
ひまりが袋から取り出したのは、カップの中に入ったかわいらしいイチゴタルトだった。
魔耶「わ、美味しそう…!」
ひまり「でしょでしょ!?私いちご好きなんだー。チラシに載ってて、ひとめぼれ☆」
カルセナ「へー、ひまりいちごが好きなんだ?たしかにそんな感じするわ〜。…んで、どこ座りましょう?」
ひまり「んーと…あ、時計台の後ろにベンチがあるからそこで食べよっか」
カル魔耶「はーい」
(あれ、カップに入ったいちごタルトってなんやねん…。最初カップケーキかアイスかにしようと思ってたから間違えちゃった…w
『ひまりが袋から取り出したのは、かわいらしいイチゴタルトだった』に訂正。暑さで頭がショートしたか…w)
三人で時計台の後ろへと移動する。
見ると、丁度良く影が出来ていて、燦々と降り注ぐ日光が直に当たる事はなかった。
腰を降ろし、ふぅと息を吐く。
魔耶「あ〜.....この場所気持ち良いね」
ひまり「でしょ?中々オススメの隠れスポットよ。....さ、悪くならない内に食べよ!」
一同「いだだきまーす」
カルセナ「はい魔耶、これ」
魔耶が選んだ2つの小さなケーキを箱から出し、手渡す。
魔耶「ありがとー。2つも違う種類が食べれるなんて贅沢だわ〜」
ひまり「ふふふ、欲張りじゃん?」
魔耶「違いますー、悩んだの!そしたら丁度良いのをカルセナに見っけて貰ったからさ」
美味しそうにチーズケーキを食べているカルセナの顔の方を向く。
カルセナ「もぐもぐ.....うまぁ〜!!もぅほんと最高......Thank you チーズケーキ....」
ひまり「大好きなんだねぇ、チーズケーキ」
カルセナ「ケーキの中で一番美味しい。Best。Best of cake に輝いて良いよこれは....」
魔耶「あはは、何か英語飛び出してるし....」
カルセナ「あぁ、美味しすぎてつい.....二人のも美味しそうだね....お味はどうですか?」
ひまり「超美味しいよ!イチゴタルト大正解だったなぁ〜♪」
魔耶「うん、チョコとショートも美味しい…!甘すぎない生クリームが絶妙…最高ですね…」
カルセナ「…魔耶は感動すると敬語になるのかな?」
カルセナに言われて今までの言動を振り返ってみる。初めてキャラメルを食べたとき…梅グミを食べたとき…
魔耶「…たしかにそうかも…」
そんな私達を見て笑うひまり。
ひまり「あははっ!二人とも普通にリアクションできないの?」
カルセナ「私一応外国人だから…しょうがないね」
魔耶「…無理っすね。感動すると敬語になるくせがあるのかな〜」
ひまり「二人とも面白いわ〜。こういうの何て言うんだっけ…あ、そうそう、似た者同士!」
魔耶「ん〜…?似てるかなぁ?」
カルセナ「まぁたまに意見が一致することもあるけど…」
ひまり「ずっと一緒にいたから性格が似ちゃったんじゃない?結構似てるとこ多いと思うよ、二人とも。第三者の目じゃないと分からないかもだけど」
魔耶「そうかねぇ…」
カルセナ「まぁほら、ペットは飼い主に似るって言うもんねー?」
魔耶「はっはー、どっちがペットだと言いたいんだ?」
目以外が笑っている顔でカルセナを見る。
カルセナ「う....別にまだ何も言ってないっす....」
魔耶の視線に一瞬たじろぐ。こんなやり取りをもう何回しているのか....。
ひまり「あははっ!!あーあ、面白いなぁ。二人が来てから、笑う事が更に増えたわ」
魔耶「そりゃどうも。もぐもぐ.....」
顔を直して、再びケーキを頬張る魔耶。その左隣で、口に気を付けるのを忘れていた事を少し悔やむカルセナ。右隣で、笑顔を絶やさずに二人を見るひまり。
この世界にいる間、この光景がずっと続けば良いのに。それなら平和でいられるのに。日常茶飯事である当たり前の出来事でも、色々な考えが浮かんでくるものだった。
そんな考えを遮るかの様に、時計台の、午後2時を知らせる鐘が北街に鳴り響いた。
魔耶「.....う〜、ここは中々大音量だねぇ....鐘が」
ひまり「そりゃあ、この時計台から鳴ってるからね。....そう言えば、この時計台の中ってどうなってるのかな〜」
カルセナ「あれ、ひまり知らないの?」
ひまり「うん、多分だけど....かなり長い間、この時計台に出入りした人はいないと思うわよ」
魔耶「へぇ〜......手入れとかしないのかな」
ひまり「こうして動いてるから、問題はないだろうけどね」
カルセナ「ふーん......ふぅ、ごちそうさま〜」
あっという間に、ぺろりとチーズケーキを平らげた。
魔耶「私もごちそうさま〜。満足満足」
続いて魔耶もケーキを平らげ、満足そうな顔をする。
ひまり「あ、二人ともはやーい。もっと味わって食べなよ〜?」
魔耶「え…結構味わって食べたつもりだったんだけど…」
ひまり「ほんとに〜?」
カルセナ「ほんとに〜。……さて、図書館に戻ろう…」
魔耶「あっ」
カルセナ「あっ」
ひまり「…図書館…?」
カルセナがうっかり図書館というワードを口にしてしまった。…なにをするのかと聞かれる前にごまかさないと…
魔耶「そ、そうそう!図書館で料理本借りてこなきゃね!」
カルセナを横目で見て、話しを合わせろと目で訴える。それに気づいてかカルセナもあわてて話しにのっかった。
カルセナ「う、うんうん!最近料理にはまっちゃってさ〜」
ひまり「へぇ…そうなの…あ、だから今日の朝いなかったの?料理本探しに図書館へ行ってたの?」
魔耶「実はそうなんだ〜。なんかもう朝一番に探しにいきたいくらい料理にはまっちゃって〜」
カルセナ「そーゆーこと〜。…んじゃ魔耶、行こっか〜?」
魔耶「そーだねー。じ、じゃあひまり〜またね〜!」
ひまり「え、えぇ…」
いきなり様子がおかしくなった二人の姿を見送りながら、ひまりは一人ベンチで首をかしげたのだった。
カルセナ「....ふぅ〜、危ない所だったぁ〜」
魔耶「全く、気を付けて欲しいわ....ま、あれで誤魔化せたなら良いけどね....」
小走りで時計台から離れ、頃合いを見計らって歩き始めた。
カルセナ「いやー、ナイスフォローだったよ魔耶」
魔耶「いえいえ、どういたしまして」
ずっと時計台の後ろにいたから気付かなかった。午後になると、太陽がより強く日光を浴びせてくる。加えて街の活気もあったせいで、まぁまぁ蒸し暑い。
カルセナ「あ〜......ちょい暑いなぁ....」
帽子を脱いで、それで自分を扇ぐ。
魔耶「そうだねー、さっさと図書館に入っちゃお」
少し早歩きで図書館に向かう。小走りした分もあって、結構早く図書館に着いた。
図書館内で一息つく。
魔耶「.....はぁ、ここなら外よりは良いねぇ」
カルセナ「だねぇ、んじゃあ本探し再開しますか〜」
魔耶「………眠い…」
本を探し初めて1時間ほどたった頃、魔耶がぼそりと呟いた。
カルセナ「うーむ、ご飯食べたばっかだもんねぇ…」
魔耶「うん、ご飯食べたあとにずっと座ってるんだもん。眠くもなるよ〜……。…カルセナ、なんか眠気を吹き飛ばすくらい面白いことして」
カルセナ「むちゃ言うなよ〜」
…眠いなぁ…瞼を閉じたらすぐ寝れちゃいそうなくらい眠い…。軽く頬を叩いて眠気を覚まそうとする。
魔耶「寝てる場合じゃないってのに〜。むー…」
カルセナ「コーヒーでも買ってこようか?」
魔耶「…苦いのは嫌い」
カルセナ「小さい子供みたいなこと言ってんなよ〜」
魔耶「だって嫌いなんだもの〜。あと小さいは禁句」
軽くカルセナを睨む。
カルセナ「あ、ごめん。…ん〜……眠気を覚ます方法…あっ」
魔耶「…?なに?」
カルセナ「お化け図鑑見つけた〜。怖いのみれば眠気も覚めるんじゃない?」
カルセナが手に持っているお化け図鑑の表紙にはカラーのお化け達がたくさん描いてあり、少しリアルということも相まってとても怖そうだった。
魔耶「……もうお化け…幽霊は見飽きてるよ。っていうか、カルセナお化け苦手じゃなかったっけ」
カルセナ「う…うん、苦手ですけど…イインジャナイカナーと…」
魔耶「ははっ、お化けが苦手な幽霊にお化け図鑑を読むことを薦められるとは…人生って面白いわ」
カルセナ「いきなり人生の面白さを説く、彩色魔耶(魔族)」
魔耶「べつに魔族が人生の面白さを説いたっていいじゃない。100年そこらしか生きていない人間に説かれるより信憑性があると思うんだけど〜」
カルセナ「…まぁたしかにそうだけど…元人間の前でそれ言う?」
魔耶「あ、ごめん…」
…やっぱり楽しいな、カルセナとのこういうやり取り。なんの心配もなく、下らない話しをずっとしていたい。昨日みたいにシリアスな話しなんてもうしなくていい。…なんて、少し考えてしまった。
魔耶「…変なこと話してて眠気も覚めた気がするよ」
カルセナ「そう?それは良かった〜」
魔耶「あと2時間くらいは粘ろうか」
カルセナ「了解でーす」
(『100年そこらしか生きていない人間』じゃなくて、『100年そこらしか生きられない人間』の方がいいか。訂正)
357:多々良:2020/05/06(水) 13:36
約2時間後....
魔耶「.....うぅ〜、疲れた....」
カルセナ「ね.....何かそれっぽいものあった?」
二人共、疲労困憊した様子で結果発表をする。
魔耶「あっちの棚にありそうだったから探したんだけど......有力な情報が載っている本は一切無し」
カルセナ「そうか〜....こっち側も、そう言う感じの本は無かったよ」
魔耶「やっぱ難しいなぁ....悔しいけど、今の所はニティさんの情報を待つしかないのかなぁ....」
カルセナ「....取り敢えず、宿に帰る?」
魔耶「....そうだね」
のそのそと図書館を後にする。空に浮かぶ太陽は、既に傾きかけていた。
カルセナ「あーあ、何か特別なとことかじゃないと、情報という情報は無いのかな〜....」
魔耶「特別なとこって?」
カルセナ「例えば、ニティさんが向かった天界とか....あと....うーん...あの人達に聞く....?」
魔耶「あの人達......あー。いや〜、難しいんじゃない?それは....」
二人が思い浮かべたのは、前に事件を起こした蓬達の事であった。
カルセナ「そっかー。確かに、遠いしなぁ....もっと身近に良い情報落ってないか〜」
魔耶「はは....そうだったらこんな苦労してないよ」
カルセナ「うん、そだねぇ....」
魔耶「…ギルドマスターに聞くっていう手もあるけど…」
カルセナ「あー…いや、めぐみさんにはもとの世界に帰るための情報を探してもらってるからなぁ〜」
魔耶「そっかぁ。流石にちょっと頼りすぎか…」
二人で情報を持っていそうな人を考えたが、やはり思い浮かばなかった。
魔耶「ねぇ、実はピンチだったりする?」
カルセナ「あれ今更??」
魔耶「いやぁ…なんか危機感薄れちゃって〜。自分が消えちゃうなんて、現実味がない話というか…」
…少しだけうつむいてカルセナの視線から顔を外す。
カルセナ「…そうだろうね…私も、明日自分が消えるってなったって実感わかないだろうなぁ〜…」
魔耶「…」
せめて、いつ私が消えてしまうのかくらい知っておきたい。余計に不安になってしまう。…いつ自分が消えるか分からない恐怖と不安が重なって………
魔耶「っ!」
自分の両の頬を思いっきり手で叩く。
カルセナ「わ!なに、どうしたの!?」
魔耶「…ポジティブにいくって決めたのに、なんか嫌なこと考えちゃって…リセット‼」
カルセナ「……はは、魔耶らしいや」
半分呆れたように、半分面白そうにカルセナが呟いた。
魔耶「嫌な事は忘れちゃわないとね!あ、着いたじゃん」
時間の流れは早い。話している内、あっという間に宿に着いた。
ささっと自分達の部屋へと向かう。
カルセナ「....たっだいまぁ〜」
魔耶「ただいま〜。帰ってきたぁ〜」
そう言って、魔耶はベットに転がり込む。疲れ果てた体がほぐされるかの様な気分になった。
魔耶「ベットこそ真の我が家って感じ....」
カルセナ「疲れたときはそうだよねー。まだ夕飯時まで時間あるし、私も休もっかな....」
魔耶「そうしろそうしろー。私は寝るぞー」
がばっと掛け布団を顔の位置まで掛けた。かなり疲れている様だ。
魔耶「お休みー」
カルセナ「ん、お休み〜......私も魔耶に続くか」
帽子をテーブルの上に置いてから自分のベットに座り、そのまま倒れ込む。
カルセナ「.....お休みっと」
掛け布団を掛けずに、眠りに就く事にした。
悪魔耶「また会ったね。いらっしゃ〜い」
再び目を開けたとき、見えたのは鎖に繋がれた悪魔耶の姿だった。心なしか前よりも鎖の数が減っているように思える。
魔耶「…またここかぁ…。私は眠るとここへ来ちゃうの?」
悪魔耶「そうなんじゃない?まぁ今だけだろうけどね〜」
悪魔耶がニコニコと笑いながら問いかけに答える。
魔耶「ふぅん……あのさ、私の体を浸食するの、やめる気ない?」
今度会ったら説得してみようとカルセナに約束したのだ。それを今、口にしてみる。
魔耶「私まだ消えたくないし…君はなんで外に出たいの?」
悪魔耶「…」
悪魔耶が考え事をしているような表情を見せる。
悪魔耶「こんなところに私がずっといたいと思う?外の方が楽しそうじゃん。だから私は外にでたい。…外に出て……いや、やめとこう。とにかく、私は君を浸食するのをやめる気はないよ」
魔耶「……」
カルセナ「....またかぁ」
感じ慣れた空気、いつもの空間。行きたくなくとも、一度はここへ来てしまうようだった。
カルセナ「もう来る必要無いと思うんだけどなぁ......あっ」
遠くを見て、思わず口に出る。そこで背を向けていたのは、紛れもなくブラッカルだった。
声は向こう側に聞こえている筈だが、こちらを向く素振りを一切見せない。
カルセナ「....そりゃそうか。だって喧嘩してるもん....」
「...お願い........り....して」
カルセナ「.....え?何....?」
前にも聞いた事がある様な声だ。もう一度耳を澄ます。
「.....仲直り....して」
今回は空耳なんかじゃない。はっきりと聞こえる。
カルセナ「....仲直り?あいつと....?....と言うか、誰?」
声は、正体を現すことは無さそうだった。質問をしても黙られてしまう。
カルセナ「......無理でしょ...だってあいつは、魔耶の事....」
「......早まっちゃっただけ」
カルセナ「....え?」
魔耶「」
363:なかやっち hoge:2020/05/07(木) 09:16(間違えて書き込む押しちゃいましたあああ!!超スーパーミラクルダイナチックウルトラ土下座)
364:なかやっち:2020/05/07(木) 09:43 魔耶「…まあそうだろうとは思ってたけど…ほんとに、君は何をしようとしてるの?何が目的…?」
悪魔耶「うーん…今言うとダメだから言わなーい。昨日言おうとしてたんだけど…やっぱりやめとくよ。君が鎖に繋がれる直前になったら教えてあげる」
魔耶「…」
悪魔耶「…まあ、一つだけ君に言っておくなら」
魔耶「…?」
悪魔耶「私が死んだら君は死ぬ。君が死んだら私は死ぬよ」
魔耶「っ…‼」
当然の衝撃告白に瞳孔が大きく開かれる。
…だから、私は消えるんじゃなくて鎖に繋がれなきゃいけないのか…?私を生かしておかないと自分の命が危ういから…??…なぜか驚きと衝撃の中でそんなことを考えた。
悪魔耶「…だから、私をどうにかしようとしてるなら私だけを封じなきゃいけないよ。そんなことできないだろうけど」
魔耶「…な、なんで…そんなこと…こんなタイミングで…?っていうか、君をどうにかしなきゃって…私がやっていること、わかってたの…?」
悪魔耶「早めにいっておかないといけないことだったからさ。私を止める方法として、この空間で私を…なんてことにされたらたまんないし…。あと君がやってること知ってるのかって?うん、知ってるよ。君の外の世界での様子は全部伝わってきてる。…君が大事に思ってる人のことも、ね」
魔耶「…!……カルセナに手を出したら…許さないから…!」
悪魔耶「はは、どうだろうねえ。私が外に出たら君と私が会うことなんて二度とないんだから、君が私の行動を止めることなんてできないと思うけど。……ん?」
魔耶「な、なに…?」
悪魔耶「現実で、君のところにお客さんが来たみたいだよ?…んじゃあまたね。もう会う回数は少ないだろうけどー」
魔耶「わ!ちょ、まだ…」
昨日と同じように空間が歪み、私は夢の世界から現実に放り出された。
魔耶「むう…悪魔耶と別れるときはいつも歯切れが悪い……」
声は、少し間を空けて会話してくる。
カルセナ「....何が?早まっちゃっただけって言われても.....」
「....魔耶ちゃんの事、大切でしょ?」
カルセナ「うん」
「....だから、気持ちが入りすぎちゃって、こんな風になっちゃったんだよ」
カルセナ「何?どっちが....?」
「....どっちも。二人は一心同体だからね。気持ちも同じになるんだよ」
カルセナ「....それが分かった所で、仲直りなんて出来ないって....」
「....何で二人は喧嘩出来ているの?」
カルセナ「え?それは....あいつが魔耶を悪く言ったから....」
「....それは違う。聞いているのは、何で『出来ているのか』だよ」
カルセナ「.....分からない」
「....感情があるからだよ」
カルセナ「感情....?」
「....感情があるから喧嘩出来る。だから、仲直りだって出来る筈。過去の嫌な発言は一旦忘れて、仲直りしてみなよ」
カルセナ「.....うん」
そう簡単に出来るものなのだろうか。多少の疑問と不安を持ちながら、ブラッカルの方を向く。
独り言のようにポツリと呟く。…すると、それに反応するかのように玄関口からトントンという音が聞こえた。
魔耶「わっ!…な、なんというタイミング…誰だろ」
玄関へ歩いて向かっていく。その間もトントンというノックの音が絶え間なく続いていた。
玄関の扉を開け、ノックをしている人物を確認する。
魔耶「はーい…どちら様…………ッ」
??「…夕飯時にすまないな。あと遅くなってすまない。…まだ悪魔化はそこまで進んでないようだな。安心したぞ」
魔耶「…に、ニティさん‼」
そこにいたのは今朝天界に行ってしまったはずのニティさんだった。少し安心したような、それでいて険しさもある不思議な表情を浮かべている。
魔耶「早かったねぇ……なにか分かったの…?」
ニティ「……分かったには分かったが…とりあえず中に入れてくれるか?部屋の中で話そう」
魔耶「あ、はい…」
ニティさんの表情からはなにも読み取れない。この問題が解決できるのか、できないのか……不安を抱きながら魔耶はニティを部屋に招き入れた。
カルセナ「.....あのさ」
そっと声を掛ける。
カルセナ「ねぇ、ちょっと、聞いてくんない....?」
そう促すと、ブラッカルは嫌々こちらを見た。
カルセナ「.....昨日の事なんだけど....あの.....何とか和解出来ないかな....」
暫く沈黙を貫いていたブラッカルだが、漸く口を開いた。
ブラッカル「.....よく分からねぇ声に唆されて、適当な事ほざいてんじゃねぇ。何が和解だ」
カルセナ「えっ......そっちも声が....聞こえるの?」
この質問に応えず、話を進める。
ブラッカル「....私とテメェは一心同体。声の言ってる事は、あらかた間違っちゃあいねぇ」
カルセナ「そう、だから私は、仲直りしようと....」
ブラッカル「さっきの言葉の意味が分かるか?」
カルセナ「....え?」
ブラッカル「一心同体って事はだ。まだ、私達は駄目って事だ。私も、今はお前が嫌いだ」
言っている意味が良く分からない。まだ、駄目....?今は嫌い....?
カルセナ「....何で?どういう事....?」
ブラッカル「言われた事をそのままやるだけじゃ、何も解決しねぇんだ。....本当に和解してぇんだったら、自分を変えてからもう一度来やがれ」
カルセナ「え?ちょ、ちょっと、何か教えてよ!!」
ブラッカル「うるせぇ、聞いて楽しようとすんじゃねぇよ!こんくらい自分で考えられんだろ!.....じゃあな」
何の前触れも無く、強い眠気が襲って来た。また対応を間違えたのかなぁ.....。それとも、今回は大丈夫なのかな.....分からない.....な。
カルセナ「....うぅ....ん」
ニティ「…カルセナは…?」
部屋に向かっているとき、ニティさんが質問してきた。
魔耶「あ、夕飯まで少し時間があったからついさっきまで二人で寝てて…カルセナはまだ起きてないよ」
ニティ「…そうか。あやつはお前の相方だからな、できれば二人で聞いてほしい」
魔耶「…分かった。部屋に行ったら起こす」
ニティ「あぁ。そうしてくれ」
カルセナ「…うぅ…ん」
魔耶「ん?あ、カルセナ。いいタイミングで起きたね」
ちょうど部屋に入ったとき、カルセナがゆっくりと体を起こすのが見えた。
カルセナ「…いいタイミング…?あれ、ニティさん…?」
ニティ「寝起きのところ悪いな」
カルセナ「いや、それは別にいいけど……なんでニティさんが部屋に…?まだ夢の中…?」
魔耶「寝ぼけてんの?朝のこと忘れた…?」
カルセナ「朝…今日の…あっ!な、なにかわかったの?」
ニティ「…あぁ…まぁな。とりあえず座れ」
ニティさんに言われ、ニティさんと向かい合うように二人で並んで座る。
魔耶「…じゃあ、お願いします」
ニティ「あぁ。収集してきた情報を理解して貰う為、取り敢えずは天界の仕組みについて話そう......この世には、この世界以外にも様々な世界がある事を知っているか?」
魔耶「うん、聞いた事はあるよ」
ニティ「天界は、その多種多様な世界が全て繋がっている。つまり、他の世界に行く事や、他の世界の情報を集める事も容易な環境....と言う訳だ」
カルセナ「成る程成る程....」
ニティ「さて、本題はここからだ。私はそれを利用し、非人間的なもの....言わば悪魔や妖怪などの生物がさ迷っている世界で噂されている、微かな情報を入手してくる事が出来た」
魔耶「え、本当!?」
いかにも、今までで一番有力そうな発言を聞き、一瞬目を輝かせた。
ニティ「まぁ待て。それが本当の話かどうか、信じるのはお前達次第だが.....信憑性はあると思われる」
カルセナ「へぇ〜.....早速、話してちょうだい」
ニティ「分かった。....これは、魔耶....お前に関係深いものだ」
魔耶「わ、私に....?」
今からされる話と自分が関係深いとは....魔耶は驚いた様子で、静かに息を呑んだ。
ニティ「…お前は、親に育てられたわけではないようだな。育て親のことを聞いてもよいか?」
魔耶「……?」
なぜ今そんなことを聞くのだろう。…理由は分からないが、とりあえずなにかしら言ったほうがいいのだろうか。
魔耶「…私の育て親は、族に言う閻魔様…だね。地上と地獄の管理、魂の管理が主な仕事だよ。私の親とは知り合いだったらしくて、親が死んで身寄りがなかった私を育ててくれた」
カルセナ「え、閻魔様…!?魔耶、閻魔様に育てられたの!?」
魔耶「そうだよ?あ、言ってなかったっけ…ごめんごめん。……それで、それとこれとなんの関係が…?」
ニティ「その閻魔が悪魔と人間のハーフの子を育てているって噂があったんだ。…やはりお前のことのようだな」
…別の世界で…?私のことが噂に…?
魔耶「…噂の内容を詳しく聞いてもいい…?」
ニティ「あぁ。それを話すために私はここへ来たのだからな。…その噂では、閻魔がその子供の中にいる悪魔を封じ、子供は人間と悪魔のハーフとして存在できている、と」
魔耶「……え、閻魔様が…私の中の悪魔を、封じていた…??」
そんな素振り、見せたことなんて…
ニティ「…お前の中の悪魔が出てきたのは、この世界に来てからだろう?」
魔耶「た、確かにそうだけど…。…ってことは、悪魔がでてきた理由って…!」
ニティ「…お前がこの世界に来て、閻魔と離れてしまったからだろうな。封印が弱まってしまったのだろう」
…辻褄は合う。私がこの世界に来て悪魔状態になってしまったから封印が弱まった…。私が幼い頃に悪魔状態にならなかったのは、閻魔様が封じ込めていてくれたから…
カルセナ「…魔耶を育ててくれた閻魔様が魔耶の中の悪魔を封じていた…ってことは、封印する方法があるってこと?」
ニティ「勿論だ。しかし、そう簡単に出来るものでは無い。再び封印するとなれば悪魔の方も学習し、何とかして封印されぬ様に足掻くだろう。....たとえ、宿主の体がどうなろうとな」
嫌な光景が頭の中に浮かぶ。表情がつい堅くなる。
ニティ「....すまぬ、恐怖を与えるつもりは無かったのだが....表現が悪かったな」
魔耶「....いや、それが正しいと思う......あの、その封印の手順とかって分かる?もしかしたら、出来るものかもしれないし....」
ニティ「残念だが、手順までは聞き出す事は出来なかった....大天使様にもお伺いしたのだが、詳しくはご存知無かったのだ」
魔耶「そっか......」
カルセナ「どうしようね.....何か、違う種類の封印とかは出来ないのかなぁ?」
魔耶「うーん、例えば?何か思い付くものでもある?」
カルセナ「いやー、封印っていうのか分からないんだけど....ブラッカルいるじゃん?」
ニティ「ぶらっかる....とは何だ?」
カルセナ「魔耶がつけた、もう一人の私の名前っす」
ニティ「二重人格....なのか?まぁ良い、話を進めてくれ」
カルセナ「んで、通常モード?今の私ね。これの時は、あいつは何か違うスペースで格子みたいなの張られてて、出てこれないようになってるんだよねー....」
魔耶「試験の時はまぁ出てたけどね....」
カルセナ「あれは、あれじゃん.....チョコ食ったから.....いやその原理知らんけどさ。だから、魔耶もそんな感じに出来ないのかなーって。キャラメル食ったら出てきちゃうかもしんないけど.....」
苦笑しながら、二人に案を出す。
魔耶「…好物で出てきちゃうなら、苦手なもので封印ってことか…?」
ニティ「ふむ…悪魔の苦手なものを使って出てこないようにする、というのはいい案かもしれんな」
魔耶の言葉にうんうんと頷くニティ。
カルセナ「…でも、悪魔の苦手なものってなに?魔耶の苦手なものだったら知ってるけど…」
魔耶「私に無理矢理キノコを食わせる気か!?」
カルセナ「そんなことしないわ…。でも、悪魔の苦手なものがわからなきゃこの案は使えないよ。本人が教えてくれるわけないし」
魔耶「むぅ…閻魔様に聞けたらいいけど、今別の世界にいるし…あ、でもその封印方法はもう効かないかもしれないのか…だったら意味ないな」
二人で頭を悩ませる。吸血鬼は十字架やにんにくが苦手とか聞くけど、悪魔は分からないなぁ…。
魔耶「…でも、私と好物が同じだったら、キャラメル食べたときにブラッカルみたいに出てきてたはずだよね?」
カルセナ「…確かに…」
ニティ「…食べ物より悪魔が本能的に苦手だと感じるものが効果的だと思うぞ。それか封印できる能力の持ち主を探す、とかな」
魔耶「成る程.....悪魔が本能的に苦手なものって....何なんだろうねぇ」
カルセナ「うーん、パッと見つけるのは難しそうだね〜」
魔耶「あと、能力者を見つける.....この世界に、そんな事出来る人いるかなぁ?」
カルセナ「まー多分、全くいない事はないんじゃない?どっちが良いかな....」
ニティ「この二つの選択肢に限られている訳では無い。己で新たな選択を切り出すのもありだぞ」
魔耶「ニティさんは何か思い当たるものとか、人物とかっていたりしない?」
問い掛けに、腕を組んで考え始める。
ニティ「ふむ、そうだな.....天界には封印術たるものが無くは無かったが....それで封印出来るのかは不明であると共に、実際に使用している者を見た事が無い。私の師匠も封印術専門ではないし....」
魔耶「そっか.....」
ニティ「役に立てなくてすまないな」
魔耶「ううん、色々教えてくれてありがとう。前進する事は出来たよ」
カルセナ「後は私達で解決出来たらしよう」
ニティ「....そうか。それなら良かった。ではまた、何かしらの情報を手に入れたら伝えに来るとしよう」
テーブルに手を付き、立ち上がる。
魔耶「お願いしまーす」
そうして、ニティは宿を出て元居た岩場へと帰っていった。
魔耶「…うーむ…」
カルセナ「…困ったねぇ。情報はもらえたけど、その肝心の封印方法が分からないからなぁ…」
魔耶「どうしようね…また図書館かな」
カルセナ「また図書館だね〜」
二人で今日の図書館での疲れを思いだし、はぁとため息をつく。
魔耶「…夕飯にしよう。考え疲れた」
カルセナ「そだね。…また自炊?」
魔耶「気力がおきないからなんか買ってこよ〜。これからつくったら9時になっちゃうよ〜」
ちらりと時計を見ると、今は8時前だった。そうとう長く話し込んでしまったらしい。
カルセナ「それもそうね。なに買ってくる〜?」
魔耶「食えればなんでも〜。あ、苦手なものはなしで」
カルセナ「それじゃあ大きくなれ…おっと。じゃあ外行くか」
魔耶「…そうね」
靴を履き、外へ出た。大通りの街灯がつき、暗い夜道を仄かに照らしてくれていた。
カルセナ「スーパー....と言うか、あっちの商店で良い?」
魔耶「うん、良いんじゃない?何でもあるしね」
そこへ向かう為、とことこ歩き始めた。
カルセナ「はぁ、早く解決策が見つかると良いねぇ〜」
魔耶「ねー、いつ悪魔化するか分からないし....頑張らないと」
カルセナ「出来る限りはやりたいよね.....店行ったら、何買いたい?」
魔耶「んー、今はどうだろうなぁ....取り敢えず、手軽に済ませれるやつが良いかな。カルセナは?」
カルセナ「私はあっさりした麺類が食べたい」
魔耶「麺好きだねぇ....つけ麺とか、冷麺とかならあっさりしてるんじゃない?」
カルセナ「それ良いな....あったらそうしよっと。あと、お菓子の買い足しも....」
魔耶「また?十分食べてたような....」
カルセナ「う、まぁそうですけど.....てか、そろそろ金銭的にやばいんじゃない?依頼受けないと....」
魔耶「そうねぇ…もしかしたらクエスト中にいい情報が得られるかもしれないし」
カルセナ「そうそう。Cランクになったんだし、一回くらい受けておきたいじゃん」
魔耶「危険な仕事が多そうだね〜」
カルセナ「まぁそうだろうけど…うちらなら大丈夫だって!」
魔耶「その自信はどこからくるのよ〜。ブラッカルには頼れないんでしょ?私も悪魔耶になれないし…」
…まぁ、もしカルセナの身に危険が迫ったら…自分のことよりもカルセナの身を優先したいけど。
カルセナ「…そっかぁ…。…ブラッカル…」
魔耶「…ん?どうかしたの?」
カルセナ「あ、いや.....まだ駄目だとか、今は嫌いだとか、また変な事言われちゃってさー....もう訳分からんのよ」
魔耶「ふぅん....考えるのが難しいの?」
カルセナ「うん....次来るときは、自分を変えてから来いって....何か違うのかなぁ、今の私....」
魔耶「んー、何だろうね....他には何て言われた?」
カルセナ「えっと.....最初に言ったのはブラッカルじゃないんだけど、私とあいつは一心同体って事かな?」
魔耶「成る程.....二人は一心同体で、ブラッカルはカルセナの事が今は嫌い....と」
カルセナ「まぁ、そう言う事だね〜.....何でかな?....って、そうだ。自分で考えろって言われたんだった.....聞かないでおくわ」
魔耶「あ、そうなの....?ならまぁ良いけど......お店見えてきたよ」
明かりがついているその商店は時間帯が遅いせいで殆ど人気は無かったが、まだ開店している様だ。
カルセナ「ほんとだ。さーて、ご飯選びますかね〜」
中に入ると閉店間際なのか、惣菜コーナーなどに値下げした貼り紙で値段が記されていた。
だが、その中の殆どが売り切れている状況だった。
魔耶「えーと、私達が欲しいのはこっちの方かな....?」
おにぎりやお弁当などが売られているコーナーに行ってみる。こちらも売り切れているものが多く、商品がまばらに置いてあった。
カルセナ「…少ないね」
魔耶「少ないねぇ…。ま、私はおにぎりでいーや」
あまり人気がなく売れ残ったのであろう具材のおにぎり達を眺める。その中に一つだけ梅があり、ひょいと手にとってカゴに入れた。
魔耶「梅がいた!ラッキ〜。…カルセナは麺類がいいんだっけ?」
カルセナ「うん。適当に探してくるわ〜」
魔耶「お〜。じゃあ私はおやつコーナーでお菓子を漁ってきまーす」
カルセナ「…魔耶もお菓子買うんじゃん」
少し前にした会話を思いだし、反応するカルセナ。
魔耶「まぁついでってやつよ。…もしかしたらもう来れないかも知れないんだからさ?」
カルセナ「縁起でもないこと言うなよ〜」
魔耶「あはは、冗談冗談。そんなことこれっぽっちも思ってないから〜。んじゃ、行ってきまーす」
カルセナ「チョコあったら教えて〜」
魔耶「了解でーす」
棚に並べられている数少ない商品を見て回る。
カルセナ「うーん.....こんなに売り切れてたら、麺類なんてもう残ってないかもなぁ....ま、念には念を、ちゃんと見ておきますか」
商品がどう並べられているか、曖昧な記憶を頼りに目当ての物を探す。しかし、一周回って見てもやはり売り切れていたのか、見当たらなかった。
カルセナ「ちぇ.....んじゃあどうしよっかな....いざここの場所で決めるとなると、結構迷うタイプなんだよなー私....」
食べたいご飯を考えようとしても、他の商品に目が行ってしまって考えが逸れてしまうのだ。
カルセナ「こう言う時に、ビシッと決められる人羨ましい....どうすれば迷わずに決める事が出来るんだろうなぁ....」
ご飯を決めるごときで少々時間を食ってしまう。悩んだ挙げ句決めたのは、売れ残ったパンとスープだった。
カルセナ「最近パンばっか食べてる様な気もするけど....こればっかりは仕方ないよねぇ.....」
それらを手に取って、魔耶の所へ向かう事にした。
魔耶「……お菓子が、少ないっ…!」
やはり他の商品と同様、お菓子も売り切れているものが多かった。特に王道のチョコやグミはほとんどない。
魔耶「…キャラメル…いてくれ…梅グミでもいい……!」
神に祈りながら目当てのお菓子を探し始める。半分悪魔の私が神頼みをするなんて変な話だが…。
…しかしその神頼みもむなしく、10分ほどたっても目当てのお菓子は見つけることができなかった。きっともう売り切れてしまったんだろう。
魔耶「…私の力の源〜…キャラメル…売り切れちゃったのかなぁ…」
カルセナ「……魔耶〜、お待たせ…って、お菓子少なっ‼」
パンとスープを手に持ったカルセナが戻ってきた。売れ残ったお菓子の量に驚いている。
魔耶「カルぅ…キャラメルがない…」
カルセナ「あらら…売り切れちゃったんだろうね…。ドンマイ」
魔耶「むぐぅ…明日の糖分がないではないか…」
カルセナ「一日くらいなら大丈夫でしょ…チョコあった?」
魔耶「ほとんどないよ…」
カルセナ「えぇ…チョコもかぁ…とりあえず美味しそうなお菓子探そう。売れ残ったお菓子の中にいいのがあるかもよ」
魔耶「あるかねぇ…」
目を凝らしながらゆっくり棚を物色する。
カルセナ「残り物には福があるって言う言葉を聞いた事があるし....うーん」
魔耶「せめて酸っぱいお菓子が欲しい....」
カルセナ「....あ、ラムネ。....でも別にいらんな....」
魔耶「ちっちゃいスナック菓子とかは?」
カルセナ「口の水分奪われるからあんまりいらん。うー、何か目ぼしいものないか〜」
棚の横を通りすがったとき、あるものに目が行った。
食べると口の中に爽快感が溢れる、タブレット的なお菓子だった。
カルセナ「お!!私これにしよっかな〜、ミントは好物なんだよねぇ」
魔耶「そうだったのか〜、そこ酸っぱそうなのある?」
カルセナ「うーん、ミントはあるけど、酸っぱそうなのはないなぁ....酸っぱいの人気なんじゃない?」
魔耶「そうかぁ....」
それからまた少しお菓子を探す。
カルセナ「....あ、魔耶ー、これはこれは?」
そう言って魔耶に見せたものは、個包装になって種が抜かれている、梅だった。
カルセナ「おにぎりも梅だったからどうなのかって感じだけど....それとも、お菓子の梅は嫌いですか?」
魔耶「いや、好きよ。梅系は大好き〜。…カルセナさん、ナイス!」
カルセナ「あ、気に入ってもらえたならよかったです…。んじゃあ買おうか」
魔耶「はーい。お腹空いた〜」
カルセナ「もう少し我慢しなさい」
魔耶「お母さんみたいだなぁ…」
カルセナ「魔耶が子供っぽいこと言ってるからでしょ」
魔耶「これでも300歳でーす」
会計を終え、お店から出てきた二人。その手には買ったばかりの夕飯が入った袋が握られていた。
魔耶「…お母さん、ねぇ…」
カルセナ「…どうかした?」
魔耶「いや…私お母さんのこと覚えてないからさ、母ってどんな感じなんだろうな〜って。さっきは何となくでふざけて言ったけど…カルセナは人間のとき家族がいたんでしょ?どんな感じの家族だったの?」
カルセナ「うーんとねぇ....至って平凡な家族かな。上から最強、怠慢、鬼才、鳥好き、ギャンブラー、SNSな姉達がいたよ。あと私の下に妹が一人」
魔耶「それ平凡なのか....?てか姉妹多いな〜、両親は?」
カルセナ「お父さんは優しい人だったよ。めっちゃ強いけど。お母さんはね〜、色んな所に連れてってくれてたなぁ....妹が産まれてから暫くして、持病が悪化しちゃったみたいで....それから5年も経たない内に亡くなっちゃった」
家族の事を思い出しながら憂鬱に浸る。身内の事を想うと、心が満たされていく様な感覚になった。
魔耶「どっちも優しい人だったんだね〜....良いなぁ」
カルセナ「えへへ、この帽子もお母さんから貰ったやつなんだよね〜」
魔耶「あぁ、だからあんなに大事にしてたんだ....」
カルセナ「忘れてたけど、この帽子も早く修復してくれる所見っけないと....どこかにそーゆーお店あるのかな?」
試験で、ドラゴンに付けられた帽子の傷を触りながら考える。
魔耶「そうだね、今度探してみよ」
カルセナ「うん。......そう言えば、魔耶ってお姉ちゃん居るとか言ってなかったっけ?お姉ちゃんはどんな人柄してるの?」
魔耶「……イジワル。ドがつくほどのS」
カルセナ「…わぉ…」
魔耶「…あの人は私が小さい頃にはもう一人で暮らしててね。滅多に顔を合わせたりしなかったんだけど…たまーに会ったときには私のつくったくまさんを消したり、いたずらしてきたり…最悪の人柄デスネ」
姉が過去にしてきたいたずらを思い出して嫌な顔をする魔耶。
カルセナ「へぇ…ちょっと会ってみたいかも…」
魔耶「止めといた方がいいと思うけどね…。まぁあの人が今どこにいるかなんて知らないけど」
カルセナ「姉妹なのに?」
魔耶「姉妹なのに。ときどき閻魔様のところに来たりしてるけど、私から姉に会いに行ったことなんてないし…っていうか会いになんて行きたくない」
カルセナ「そんなにか…仲よくないの?」
魔耶「さぁね。少なくとも私はあの人のこと嫌いだよ。あの人が私をどう思ってるかなんて分かんないけど…旗から見たら仲良し姉妹ではなさそうだね〜」
カルセナ「ふぅん…それはそれで楽しそうだけどね」
魔耶「いたずらされてる側は楽しくないよ…。…カルセナは姉妹とどんな感じなの?仲はいいの?」
カルセナ「基本的に仲悪くないかな。逆に私、姉妹に甘やかされて育ったし....」
魔耶「じゃあ喧嘩とかは全然しなかったって事かー....」
カルセナ「うーん、実際そう言う訳でも無いんだよね....ルファ姉とは全然仲良くなかったし。....私がちっちゃい頃、ルファ姉の私物にちょっかい出してたからだけど」
魔耶「ルファ姉....名前?」
カルセナ「あ、うん。本当はルファイって言うんだけどね。ルファイ姉って呼ぶの面倒臭いから略して呼んでる。私も、魔耶がたまに呼ぶような呼び方されてたし」
魔耶「んー?何か違う呼び方してたっけ.....」
これまでカルセナの名前を呼んだときの事を思い出す。が、名前を呼びすぎて来たからか、無意識に出ているものだからか中々思い出せない。
カルセナ「最近それで呼んでないからねぇ。ほら確か、カルって言ってたじゃん」
魔耶「あぁ〜、それかぁ。微妙に名前長いからね....」
カルセナ「まぁ何とでも呼んでくれ。そんな感じでした、うちの8人姉妹は」
魔耶「へぇ〜、平和なお家だったのねぇ」
カルセナ「だから私は、平和ボケしすぎて死んじゃったのかもしれん」
けらけらと笑いながら魔耶に言う。
魔耶「どんな死に方したのかはあんま触れないけどさ....人間として生きてたかった気持ちもあるんじゃないの?」
カルセナ「それもあるけど....浮幽霊になってなかったら今はなかったと思うよ?ほんと、この旅が出来て良かったわ....」
ぐんっ、と背伸びをしながら魔耶を見る。
魔耶「....そうだね」
カルセナ「今まで何回か言っちゃってるけどね.....あー、お腹空いた〜」
魔耶「私も〜。さっさと宿に…あっ」
…カルセナは帽子が大事、か…
カルセナ「…?どした?」
魔耶「いーいのが思いつきました〜。カルセナ、ちょっとだけ目をつぶっててもらっていい?」
カルセナ「なにさいきなり…いたずらとかしないよね?」
魔耶「しないしない。いいからつぶって〜」
カルセナ「…わかったよ…」
前々から考えていたカルセナへのプレゼント…先程思い付いたものを頭の中で思い浮かべ、手の中で形にする。
…どんな反応するかな。センスがなくてちょっと申し訳ないけど…
魔耶「…いいよ、目開けて〜」
20秒ほどたっただろうか。魔耶の声が聞こえ、ゆっくりと目を開けた。
カルセナ「いきなりなんなのよ〜。なにが……」
目を開けてまず目に入ったのは魔耶のニコニコとした笑顔だった。そして次に見えたのは…
魔耶「いつもありがとね、カルセナ。これからもよろしく」
魔耶の手のなかには小さなブローチがあった。黄色と水色を基調とした帽子を型どった…私の帽子のブローチだ。帽子の上にはちょこんと魔耶のくまさんが乗っていて可愛らしい。
魔耶「えへへ、前からカルセナになにか渡そうと思ってたんだけどなかなか思い付かなくて…今思い付いたからつくってみた。…どうかな…?」
カルセナ「うわぁ.....ありがとう....!」
魔耶の手からそっと小さなブローチを受け取る。金属の冷たい感触が手のひらを通して伝わってきたが、そこには間違いなく、誰かを想う温かさも入り交じっていた。
カルセナ「....あ、あれ?」
小さな熱い水滴が不意に頬を伝う。自然と目から涙がポロッと溢れ、次から次へと止まらなかった。ブローチが視界の奥で歪む。
魔耶「わ、もう、いきなり泣かないでよ〜」
カルセナ「泣こうとして...泣いてる訳じゃないよ.....」
確かにこのまま泣きっぱなしな訳にもいかない。涙を腕で拭い、込み上げる感情を何とか抑え、笑顔をつくる。
カルセナ「....へへ、本当にありがと。魔耶....こちらこそよろしく」
魔耶「うん、喜んで貰えて良かった〜」
カルセナ「可愛いデザインだね....魔耶だと思って大事にするよ!」
魔耶「そうして下さいな」
カルセナ「これは.....そうだな〜。帽子にでも付けておこうかな?」
キラキラと光る星空にブローチを翳す。
魔耶「帽子に帽子のブローチ付けるの?」
カルセナ「良いじゃないか別に〜」
二人でクスクスと笑いながら宿に帰る。その姿を、街灯と月明かりがずっと照らし続けていた。
魔耶「…梅うまいっすね〜」
カルセナ「うむ、パンもなかなか…スープが体に染み渡ります」
魔耶「食レポ…!?」
カルセナ「ちゃうわ」
宿でいつもより遅めの夕食をとるカルセナと魔耶。ちょっとした会話をしながらご飯を食べ進めた。
魔耶「パンとスープって…外国人って感じするわ〜。麺類なかったの?」
カルセナ「外国人ですからねぇ…麺類なかったのよ〜」
魔耶「それはドンマイって感じだねぇ…。私だったらおにぎりと味噌汁を選んでいたな」
カルセナ「和風…」
魔耶「味噌汁は美味しいんだぞ〜。最近になって味噌汁の良さに目覚めてさ〜」
カルセナ「ふーん…外国人はスープだからなぁ…」
魔耶「もうそれは…人生の5割損してる」
カルセナ「味噌汁を飲まないというだけで人生の半分も…!?」
魔耶「まぁ冗談だけど」
カルセナ「知ってる」
二人で笑い合いながらなんてことのない会話をする楽しい時間。…魔耶はこの時間が好きだった。ずっとこの時間が続けばいいのに…なんて思うほどに。
魔耶「ごちそうさまでした〜」
カルセナ「おにぎりだけで足りた?」
魔耶「うむ。まぁまぁかな…。あとはお菓子で補う」
カルセナ「体に悪いんじゃないか?それ…」
魔耶「どうだろうねぇ。さーて、皿洗いだ〜。くまさんしょーか〜ん」
いつものようにくまさんをつくり、皿洗いをさせる。今日は二匹を操るつもりだ。
カルセナ「…今思ったんだけどさ、その能力があれば永遠にこたつで過ごすことも可能なのでは…?」
魔耶「…今さら気づいたか…そう、この能力があれば永遠にこたつで過ごすことも可能なのだよ」
カルセナ「すげぇ〜」
魔耶「でしょ〜?自分でもいい能力だと思うわ〜。魔力がすぐになくなるのがマイナスな点だけど……カルセナの能力はなにか使ったりしないの?魔力とか…精神力とか…?」
カルセナ「魔力は使わないけど....精神力はまぁ使うよ。集中したりしないといけないからね〜」
魔耶「へぇー、でも軽い方じゃない?良いなぁ〜」
カルセナ「魔耶はハイリスクハイリターンだけど、私はローリスクローリターンなんですね」
魔耶「ほんとにローリターンなのか?だって未来読めるんだよ?」
カルセナ「それはそうだけど....先の事が分かっても対処出来る様な力は持ってないし....魔耶の能力の方が素早く対処出来たりして良いと思うけどなぁ....」
魔耶「そうか〜....?ま、お互い様って感じだね」
ぬいぐるみを操りながら話す。
カルセナ「.....そう言えば、魔耶の能力ってつくった物に命を宿す事は出来ないの?操れるだけ?」
魔耶「命なんて宿せないよ〜。操るだけだね。命宿せてたらわざわざつくったもの消したりしないよ〜」
カルセナ「まぁそうか……っていうか、なんで戦うときとかなんかするときとかにくまさんなの?」
魔耶「可愛いから」
カルセナ「…それだけ?」
魔耶「や、もう少し理由はある」
カルセナ「ほう?その理由とは?」
魔耶「んっとねぇ…まず可愛いものが好きだから、手足があるやつのほうが操るときに便利だから、可愛いからかな」
カルセナ「3分の2可愛いじゃないですか…」
魔耶「ま、そう言いなさんな.....よーし、終わった〜」
キッチンでは聞こえていた水音が途絶え、魔耶が操っていたぬいぐるみが消えた。
カルセナ「お疲れ〜」
魔耶「良い仕事したわぁ〜。よっ、と」
ベッドに腰掛ける。ごろんと転がろうか迷ったが、取り敢えず座るだけにしておいた。
カルセナ「今日はゴロゴロしないのね」
魔耶「なんとなくね。取り敢えず座った」
カルセナ「その方が良いぞ。多分」
魔耶「確信はないだろうに....」
カルセナ「食後にすぐ寝たらステーキになるって言うじゃん」
魔耶「何で既に調理済みなのよ....牛じゃない?」
カルセナ「あ、そっか。まぁ似たようなもの.....だよ」
魔耶「どうだかねぇ〜」
端から思えば下らない会話に聞こえるが、この何気ない会話は、二人にとっては大事なコミュニケーションの一環であった。
カルセナ「今日はシャワーどっちが先に使う?じゃんけんでもしますか?」
魔耶「んじゃあそうしようか。勝ったほうが先に入れる、ね」
カルセナ「了解!いくよ〜?さーいしょーはグー!」
カル魔耶「じゃーんけーんポンッ!」
結果、魔耶がグーでカルセナがパーだった。カルセナの勝ちだ。
魔耶「負けちゃったぁ。じゃあカルセナ先ね」
カルセナ「意外…普通言い出しっぺが負けるのに…」
魔耶「私じゃんけん弱いから…そのせいかな?」
カルセナ「へぇ…まぁいいや。さっさと入ってきまーす」
魔耶「行ってらっしゃーい」
カルセナがシャワーを浴びにいき、魔耶は一人になった部屋の中で考え事をしていた。
魔耶(…悪魔耶だけを封印する方法、か…)
悪魔耶は夢の中で「私だけを封印するなんて無理だ」と言っていた。自分自身もそう思う。私ごと封印するのならまだしも、一つの体の意識の内の一つを封印するなんて…
魔耶「…私はどうなるのかねぇ…」
蛇口を捻り、適温なシャワーを頭から浴びる。
カルセナ「....ふぅ〜、体に染み渡るわぁ〜.....にしても、どうしたらブラッカルは許してくれるのかな.....」
考えても考えても、今の脳じゃ答えは出てこなかった。いや、そもそも正確な答えがあるのかすらも分からない。
カルセナ「....ええい、今夜もっかい行ってみて、どう言われるかでまた考えよう」
頭をわしわしと洗っているとき、ふと戸の奥の、帽子がある脱衣場を見る。
カルセナ「....あのプレゼントは嬉しかったなぁ。すごい感動しちゃった」
受け取った瞬間、心の中に魔耶の優しさや温かさが流れ込んできた様な感覚に陥ったのだ。今日は何か、心が満たされるような事が多かった気がする。
カルセナ「されてばっかじゃ申し訳ないなぁ.....私も今度、魔耶にお返ししよっかな。ご飯とか」
北街の飲食店で、良い店があるか考える。今度ひまりでにも聞いてみようか。魔耶が喜ぶ様な、美味しいお店があるかを。
魔耶「…先のことなんて考えたって仕方ないか。私の能力じゃ未来なんて分かんないんだし…」
…カルセナの能力があれば、私の未来は分かるのだろうか。私が悪魔になっているのか、なっていないのか…
魔耶(…いや、そもそも私にそれを知る勇気なんてないか…)
私には未来を知る勇気なんてない。そう考えると、カルセナのほうが私なんかよりよっぽど勇気があるのかもしれない。未来を見る覚悟を持つことができるのだから。
魔耶(幽霊を怖がるのに、未来は怖くないのか…へんなの〜)
だが、自分はそのカルセナを最も信頼しているのだ。
[やっべ、途中であげちゃった…まぁいいや(雑)]
396:なかやっち hoge:2020/05/09(土) 17:46[変なとこで切れてるけど気にしないでくださーい]
397:多々良:2020/05/09(土) 19:17 体の泡を流しているときに、ある事に気付く。
カルセナ「ん?そう言えば魔耶の好きなご飯系って何なんだろう....お菓子とかは知ってるけど.....後でさりげなく聞いてみようかな〜....」
暫くして全て流しきったので、再び蛇口を捻って温水を止め、脱衣場に手を伸ばしてバスタオルを取る。そして、頭からしっかりと拭く。髪の毛を拭いているときに顔に掛かる水は、今日流した涙よりは全く熱くはなかった。
カルセナ「....ふぅ、上がったら何か飲み物でも飲もうかな.....まだ炭酸飲料あったっけ」
冷蔵庫の中身を思い出しながら寝間着を着る。
カルセナ「お待たせ〜」
こう声に出しながら、魔耶のいる部屋へと戻る。
魔耶「…あ、あがった?意外と早かったじゃない」
カルセナがあがったのを確認し、寝かせていた体を起こす。
カルセナ「結局寝てたのね…早かったかな?…まぁシャワーだし…」
魔耶「シャワーだから…なのか…?なるほどわからん」
カルセナ「そのくらい理解できないと立派な大人になれませんよ!」
魔耶「もう人間の大人より長生きー…って、これ前もやったなぁ」
カルセナ「もっとバリエーションを増やしてみなさいよ」
魔耶「バリエーションっていったって…なかなか思い付かないわ〜。んじゃあ私も入ってきまーす」
カルセナ「おー、いってらー」
魔耶がシャワールームに行ったのを確認すると、キッチンにある冷蔵庫を開ける。
炭酸飲料があるのか、目でくまなく探す。すると、他の飲料の中に紛れて1本だけ未開封のまま残っているものを発見した。
カルセナ「ラッキー。また依頼受け終わったら買い足したいなぁ」
それを手に取り、冷蔵庫を閉める。蓋を開けるとプシュッという爽快感のある音が鳴った。一口ぐいっと飲む。
カルセナ「これこれ、やっぱシャワーの後は炭酸ですわ〜」
そのままベッドの方に向かい、腰掛ける。ふと、近くにある窓の奥を見る。
すっかり闇に包まれ、仄かな街灯の灯りにしか頼る事の出来ない北街の大通りには、当たり前かの様に人の気配は無かった。
その更に奥、北街の外壁の奥を見る。小さな三日月が顔を覗かせているが、生命の存在は感じられない。飛竜でさえも静まる時間帯なのだろうか。
カルセナ「....そう言えば最近飛竜をプライベートで見てないなぁ....危機感薄れてきちゃう。....そもそもそう言う化物がいなけりゃあ、危機感なんて持つ必要ないのにねぇ」
そのとき、魔耶と初めて出会ったときの事を思い出した。あれは、私が飛竜を前にして叫んだから起きた出来事である。この世界に来るとき、もしあそこで目が覚めなかったら、叫ぶ必要が無い状況だったら、魔耶とは出会えなかったのかもしれない。
カルセナ「.....未来って些細な事で大きく変わっちゃうもんな....そこんとこは、飛竜に感謝って感じか。攻撃してきたのは許さんけど....」
外を見ながら、大きく息を吐いた。遠くで、飛竜か何かの遠吠えが聞こえた様な気がした。
脱衣場で上着を脱いだとき、ふと左肩の包帯が目に入った。包帯をしているといっても左肩を固定するためにしていたものなのだが。
魔耶(…今どんな感じになってるんだろ…)
気になって肩に巻かれた包帯を取ってみる。スルスルととっていき、ほどかれた包帯が床の上で山をつくった。
包帯を取り終え、怪我の状態を視認する。
魔耶「…!」
…傷はきれいさっぱり消えてしまっていた。まるで最初から怪我なんてしていなかったかのようにきれいな自分の肌だった。
魔耶「…2日で治るなんて…悪魔ってすごいなぁ…」
自分の中にいる悪魔に対する少し皮肉をこめた発言だったが、それに反応する者はいなかった。
…自分の中の悪魔はいつ出てくるのだろうか。いっそのこと、ブラッカルのようにONOFFが切り替えられたらよかったのに。
魔耶「……まぁいいや。さっさとシャワー浴びてすっきりしよう」