小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦
701:多々良:2020/10/17(土) 06:45 カルセナ「あーあれね....う〜ん....よく分かんない」
背中の上で首を傾げる。
魔耶「えぇ...?私はてっきりカルセナが意図して変身したものかと.....」
カルセナ「いや...確かにあの状態にしたのは私なんだろうけどさ。何て言うんだろ.....強制的に変身させられたって言うか....知らない声が聞こえて...それで、その声に導かれて.....」
あやふやな説明が魔耶の疑問を更に深める。
魔耶「知らない声....?ほんとに、聞き覚えなかったの?」
カルセナ「んー.....知ってるような知らないような....多分、女の人の声だと思うけど。で、言われるがままに白い光を触ったらあんなんになった......のかな?」
魔耶「ふ〜ん....ま、私はカルセナが無事ならそれで良いんだけどね」
カルセナ「ほんとほんと....ギリギリなところがいっぱいあったんですからね〜....」
小さな不満を溢すその顔は、喜びと嬉しさに満ち溢れていた。
魔耶「あはは、ありがと。お疲れ様」
それからしばらく歩くと、見覚えのある大きな壁が見えてきた。辺りの草木がすっかり日の光を浴び、緑々しい色に染まった頃だった。
魔耶「…ふぅ、やっと着いた…」
安堵と疲れのため息を一つ溢し、ようやく見えてきた北街に向かってサクサクと進んでいく。
カルセナ「ごめん、お疲れさま…」
魔耶「はは、いーのいーの。カルセナには命救ってもらったんだから、これくらいはさせてもらわないと」
カルセナ「命救ったって…そんな大袈裟な…」
魔耶「大袈裟かな…?少なくとも私という人格は守ってもらえたんだから、命の恩人ですよカルセナさんは」
カルセナ「そ、そうかな…?よくわかんないや」
自分の背中にいるカルセナがなんとなく赤面したんじゃないかと思った魔耶だったが、さすがに後ろを振り返るのは野暮だと思い、先を急いだ。北街に帰ったら、まずは休むべきだろうか、病院に行ってみるべきだろうか、ご飯を食べるべきだろうか……選択肢が多すぎて、最初に何をすればいいか分からないな、なんて考えながら。
門番A「....ん?あれは...」
二人いる門番の内の一人が、カルセナを背負う魔耶に気が付いた。それに続き、もう一人も目を凝らして気が付いたようだった。
門番B「あー....この前話題になってた二人だな。こんな朝っぱらに帰ってくるなんて....依頼でもこなしに行ってたのか...?」
暫くして、魔耶が大きく開く門の前まで辿り着いた。
魔耶「おはようございます」
門番A「あぁ、おはよう。どうしたんだ、朝帰りなんて」
魔耶「えっと....まぁ、二人でクエストみたいなものを...」
チラッとカルセナの顔を覗く。疲労からか、いつの間にかすやすやと寝息を立てて眠っていた。
門番B「...見る限り二人とも怪我を負ってるな。病院にでも行った方が良いんじゃないか?」
魔耶「そうですね....検討しときます」
門番A「そうしときな。んじゃあ、お疲れ。良く休めよ」
そう言って門の奥へと通してくれた。大して時間は経っていないのにどこか懐かしく感じる北街は、まだ早い時間だったからか人気が少なかった。魔耶は大きく息を吸い、カルセナを背負い直した。
魔耶「....さて、どうしよっかな」
とりあえず、病院に行くにしてもご飯を買うにしても今はお金を持っていないため、まずは宿屋に向かったほうがいいだろう。それから先については宿屋に着いてから考えよう…
そう思った魔耶はいつも通り宿屋に行く道を歩き出した。行き慣れた道なので、意識しなくても勝手に足がその方向へと導いてくれる。
魔耶「……もうこの街にもすっかり慣れたね…」
宿屋に向かいながら、ふとそんなことを思う魔耶。
……今はこの世界にきてどのくらいたったのであろう…なんだか、生まれたときからずっとこの世界で暮らしているような気持ちだ。でも、ちゃんと自分の世界の記憶もあるのだから、なんだか故郷が二つになったような変な気分だ。
きっと、この世界で色んなことが起こり過ぎて、時間の感覚が麻痺してしまっているのだろう…
魔耶「…問題も解決できたし、あとは帰る方法を探すだけ…だね」
…そう呟いた自分の声が、どこか寂しげに聞こえたのはきっと気のせいだろう…
人々が着々と開店準備を進める商店街を通り、途中に差し掛かるまだ子供たちのいない広場を横目に見ながら歩き、ようやく宿へと戻って来る事が出来た。
自分たちの部屋へ向かい、鍵が開いたままの無用心なドアをそっと開けた。
魔耶「ただいま〜.....」
中には当然返事をするものは居らず、前の世界で一人暮らしをしていた頃を思い出した。
魔耶「とりあえずカルセナは....ベッドでいいかな」
何とか靴を脱ぎ、安眠しているカルセナの帽子を取りベッドに寝かせた。帽子はそのすぐ側、枕元に置いておくことにした。
疲弊した体を伸ばし、ベッドに仰向けに倒れ込む。薄く降り注ぐ日の光が僅かに反射した天井を見ていると、事が一段落した安心感がどっと押し寄せてきた。
魔耶「ふぅ......私も、眠くなってきたな....」
内側にいたものの、一夜漬けで戦ったのだ。眠くない筈がなく、今目を閉じたら一瞬で眠りに落ちてしまいそうだった。
魔耶「…でも、先に病院に行って怪我を治してもらわないと……」
そう思い直し、疲弊しきった体に鞭を打って体を起こす。スヤスヤと寝ているカルセナを少し羨ましく思った。
愛しいベッドから体を浮かせ、病院にいくためにお金の入った財布を探す。…案の定、いつもと同じテーブルの上に置いてあった。一応のため中身も確認しておく。
魔耶「……うん、このくらいあれば多分大丈夫だね。ちょっと休みたいところだけど……怪我が化膿なんかしたら大変だし、早く行かなきゃ……」
これ以上の事態を防ぐため、まず病院にいくことが優先だ。カルセナがたくさん戦ってくれたんだし、もう少しくらいは私が頑張らないと……
魔耶「よいしょ.....っ」
財布をポケットに入れ、寝ているカルセナを再び背負う。そのままふらふらと覚束ない足取りで宿を出た。
朝の気温の移り変わりは早いもので、帰って来ているときよりもいくらか暖かくなっていた。人々が活動を始めようとする中、魔耶は最寄りの病院へと足を運び始めた。
魔耶「はぁ.....はぁ........」
夜間を通して戦い、北街までの長い距離を歩いた魔耶は今にも倒れてしまいそうな程疲労困憊しきっていた。どんどん足が重くなっていくのを感じる度に自分を奮い立たせ、一歩一歩をしっかりと踏みしめるように歩いた。
ーーしかし、そう長く持つものではなかった。
倦怠感と眠気、足の痛みに段々耐えられなくなってきたのだ。その証拠に、冷や汗が体を伝っているのが分かる。
魔耶「う.....こんな所で...倒れる訳には.....」
あと数歩歩いたら倒れるかもしれない。そんなことを感じてしまっている。もう駄目かもしれない.....そう思って立ち止まったとき、近くに慣れたような気配を感じた。
???「....魔耶?」
魔耶「...ひま..り....!?」
ひまり「魔耶…ッ!」
限界だった足の力が抜けてフラリと前に倒れこみ、ひまりにもたれかかる形になった。
魔耶「…ひまり……なんで、ここに…」
ひまり「イベントの打ち合わせがあって、これから行くとこだったんだけど……そしたら、カルセナを背負ってる魔耶が見えて…なにがあったの、魔耶…?」
明らかに疲れきった魔耶と、後ろのカルセナをみてうろたえるひまり。
なにかあったのかと魔耶に質問をするが、今の魔耶には質問に答えられるだけの体力が残っていなかった。なので、今最も伝えるべき重要な事柄をひまりに伝える。
魔耶「……ひまり、お願い…カルセナを病院に連れていってくれない……?私、ちょっと……疲れちゃって…」
ひまり「病院………べ、別に構わないけれど…魔耶は…?」
魔耶「私は…ちょっと休めば大丈夫…だから、先にカルセナを…」
ひまり「大丈夫って……でも、魔耶を置いてったりなんて…」
カルセナを病院に連れていけと言われても、流石にこのまま魔耶を置いていくわけにはいかない。しかし、ひまりが二人を同時に背負うことなんてできない…。
ひまりが選択肢に迷っていると、不意に少女の声が聞こえてきた。
??「…魔耶さんも病院に行くべきですよ。私がカルセナさんを運びます。お姉ちゃんは魔耶さんをお願いします」
ひまりとは違う声に驚いた矢先、フッと背中が軽くなった。
ひまり「みお……!ありがと、助かったわ。早く病院に連れていきましょう‼」
魔耶「......ありがとう....」
担がれた矢先体の力が抜け、眠りに落ちるように次第に意識も闇に沈んでいった。
魔耶「........」
最初に見えたものは少し薄暗い世界だった。しかし段々と視界にかかっていた靄が晴れ、見えているものが橙色の光を浴びた天井だという事が分かった。何故橙の光が反射しているのか....カチコチと音が聞こえる方向へ、ゆっくり顔を傾けた先にあった壁掛け時計でその理由が判明する。二人が北街に帰ってきた時間帯からおよそ半日過ぎた、夕刻だからであった。
ひまり「...魔耶!!」
隣で椅子に座り、眠たげに首を傾げていたひまりが跳ね起きる。
魔耶「ひまり......」
ひまり「良かった〜.....ずっと寝てるから心配してたのよ!ね、カルセナ!魔耶が起きたよ!!」
魔耶の奥の方面に視線を合わせ、そう嬉しがる。
カルセナ「魔耶...!ほんとに起きてる....!?」
左隣から聞こえた声に思わず目が冴える。ぐるっと首を動かして見た隣のベッドには、体をピクリとも動かしていなかったが確かにカルセナがいた。意識はしっかりあるようだった。
魔耶「…!…うん、起きてるよ」
動かずとも元気そうな声を発するカルセナを見て安堵した魔耶。その拍子に自然と表情がほころぶ。
カルセナ「よかった…ごめん、無理させちゃったかな…」
魔耶「いやいや、カルセナは動けなかったんだし、私がやるって言ってやったんだから…カルセナが謝ることじゃないよ」
そう告げると、ふっと表情を和らげるカルセナ。
カルセナ「…そう言ってもらえると安心できるよ」
魔耶「…どういたしまして。まぁ、ほんとのことなんだからカルセナが気にすることでもないけど……」
ボソリと付け加えたあと、「それに…」と言葉を足す。
魔耶「結局、病院まで連れていってくれたのはひまりだよ。……ひまり、ほんとに助かった……ありがとう」
カルセナ「え、そうだったの?んー、だけど、どっちもありがとうね」
二人に素直にお礼を言われ、少し照れた素振りをひまりが見せる。
ひまり「いやいや、別に良いのよあんな簡単な事で....でも、何であんなになってたかは、後できっちり聞かせて貰おうかな〜....なんて」
魔耶「あはは...考えとこうかな。.....でも、助かったのは本当だからね」
ひまり「お役に立てて何よりでーす。...っと、そろそろ夕飯の準備しないとかな?じゃあ、私は帰るからお大事にね」
魔耶「うん、じゃあね」
壁掛け時計を見るなり、照れ隠しをするかのようにそそくさと病室から帰っていった。
魔耶「....ふぅ、いつ退院出来るのかな〜」
カルセナ「魔耶ならすぐ退院出来るよ。だって、魔族の回復速度は尋常じゃないんでしょ?」
魔耶「まぁ...でも、悪魔戦の直後で疲労もかなり溜まってるし.....いつもよりは時間かかるかも」
溜め息を一つ吐いて、薄暗くなった天井を見上げる。そろそろ照明をつけようか...そう思い、枕元のリモコンを取ろうとしたとき、カルセナが口を開いた。
カルセナ「.....温泉」
魔耶「ん?」
カルセナ「退院したら、温泉行きたいなぁ....この街にあるかは分からないけど....」
魔耶「…そうだね」
前にした会話を思い浮かべ、微笑みながらうなずく。
魔耶「今度ひまり達が来たら、温泉のこと聞いてみよっか」
カルセナ「うん!……あ、でも…温泉って何?とか言われないかな…?」
魔耶「え、そんなことあるかな…………まぁ、きっと大丈夫でしょ。今のところ、前の世界とそんなに違いはないし」
カルセナ「そういえばそうだね…なら大丈夫か」
魔耶の言葉に安堵したような表情を浮かべるカルセナだったが、ふと何かに気付いたようにこちらを見る。
カルセナ「…言われてみれば、この世界って前の世界とほとんど同じって言ってもいいくらい似てるよね。もちろん文化とか環境とかの違いはあるけどさ」
その言葉に、魔耶も今までの生活を思い返す。
魔耶「…確かに…ちょっと古いけど、乗り物とかは同じだったよね」
カルセナ「うんうん。…もしかしてだけど、私達の世界とちょっとした関わりがあったり…?」
魔耶「うむむ……そうだったらいいけどねぇ…」