カルとマヤの異世界記録

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1:なかやっち:2020/03/26(木) 12:56

小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦

683:多々良:2020/09/20(日) 07:42

ブラッカル「(魔耶....?まさか、内側にいる魔耶が直接肉体を制御したのか?そんな事....)」
顔を強張らせる悪魔耶から距離を取って考える。
ブラッカル「......まぁいい、よく分からねぇけど助かったぜ」
悪魔耶「全く、根性だけは強くて困るよ....人の戦いに手を出さないでほしいね」
愚痴を溢しながら肩をグルグルと回し、体を解す。
ブラッカル「....そうか。お前は一人で戦う派の奴なんだな。....ま、当然っちゃ当然か」
何かを思い付いたかのように間を開けた後、言葉を続ける。
悪魔耶「...?まぁ、一緒に戦う人もいないしね」
ブラッカル「可哀想な奴だな」
悪魔耶「そりゃどうも。...でも、君だって一人じゃない」
ブラッカル「あぁ、これまではな。....お前、攻撃を魔耶に止められたんだよな。魔耶は内側に居るってのに....つまり、人によっちゃ内側とコンタクトを取ることも可能って事になる」
悪魔耶「確かにね....それがどうしたの?今更君になす術があるとは思えないけど」
そう言うと、ブラッカルは悪魔耶と同じような薄ら笑いを浮かべた。
ブラッカル「....戦ってるとき、何でいちいち距離を取ってたか分かるか?」
悪魔耶「さぁ?私は反撃に備えてたように見えたけど」
ブラッカル「それもある。.....私はその間、あいつを起こしてたんだ」
悪魔耶「.....あいつ?」
ブラッカル「...もう一人の、私をな....!」
言葉を言い放った瞬間、ブラッカルの両手両足が黒い炎のような、光のようなものに包まれた。これまで受けた傷もじわじわと癒えていっているように見えた。
ブラッカル「外と中の役割を交代するんじゃなくて、協力しねぇと意味がねぇ。お前の考えが間違ってること、思い知らせてやるぜ」
悪魔耶「へぇ.....協力なんてもので、そんな大きく変わるとは思えないけどね」
ブラッカル「戦ってみれば分かるだろ」

684:なかやっち:2020/09/20(日) 12:39


??「ーー攻撃を、阻止…できた…‼」
壁と床の境界線も分からないような、果てしない空間……その中で、「やったぁ!」と嬉しそうに叫ぶ少女の声が響いた。
少女は鎖によって身体の自由を奪われており、身動き一つできそうにない状態であった。
??「つまり、まだ完璧に身体の主導権を奪われたってわけじゃない…ってことだよね…!頑張れば内側からブラッカルの援護が出来るかも……!」
そんな状況下でも、少女……いや、彩色魔耶は前向きになっていた。なぜなら、彼女は、先程自分の身体の自由を奪った犯人である悪魔耶の動きをとめ、ブラッカルへの攻撃を一瞬だけ中断させてみせたのだ。そしてその結果、悪魔耶の攻撃は不発に終わった。
魔耶自信もそんなことが可能とは思っていなかったので、成功したときは大きく驚いた。そして、同時に喜んだ。
この空間では、外界の様子は大体伝わってくるものの、そこに内側から干渉する術がなかった。しかし、外側からは干渉できるようで、ブラッカルが悪魔耶を攻撃したときには、魔耶にも多少のダメージがあった。そこで、魔耶は「外側のダメージがこっちにもくるなら、私がなにかをすれば悪魔耶にも影響が出るハズ」と思い、悪魔耶の攻撃がブラッカルに届こうとしたその瞬間、身を強張らせてみたのだ。それが項をなしたのだろう、悪魔耶の動きを止めることに成功した。
魔耶「…でも、今身体を強張らせてもなんも起きないなぁ……悪魔耶の意識が薄れるとき…ダメージを食らったあととかじゃないとダメなのかな…?」

魔耶「ーーま、なんにせよ、私もサポートができそうなことは分かった‼カルセナ、ブラッカル…頑張れッ‼」

685:多々良:2020/09/23(水) 20:25


悪魔耶「.....ッ!」
鎌での強烈な一撃が拳で弾かれ、大きく逸れた。
ブラッカル「食らえっ!!」
隙が出来た悪魔耶の脇に蹴りを入れる。倒れることはなかったが、パワーアップしたブラッカルに思いの外圧倒されているようだった。
悪魔耶「ケホッ....驚いたよ...まさか本当にパワーアップしてるなんてね」
ブラッカル「悪魔に嘘なんか吐いても意味ねぇだろうしな。しっかり注意しただろ?」
悪魔耶「...うん、そう言えばそうだったね」
ブラッカル「このままテメェを追い込んで、ちゃちゃっと封印してやるよ!」
悪魔耶に殴りかかろうと走ったそのとき、悪魔耶が言葉を発した。
悪魔耶「あ、そうそう。君は知らないだろうけど....君が私に与えたダメージは魔耶にも行くシステムになってるんだ。さっきの蹴りもそう。....これは私の命乞いなんかじゃない。....『注意』かな」
しかしブラッカルは勢いを止めず、そのまま悪魔耶を殴った。悪魔耶は腕で庇い、結局この攻撃は失敗に終わった。
ブラッカル「チッ、入らなかったか....まぁいい、次は殴る」
悪魔耶「....魔耶の事を想って止まるかと思ったよ、君なら」
ブラッカル「バーカ、想ってるから止まらねぇんだ。あいつの為だったら、私は何発でも殴ってやるぜ」
右手をパキパキと鳴らしながら悪魔耶を睨んだ。

686:なかやっち:2020/09/23(水) 22:44

悪魔耶「…へぇ…仲間想いだねぇ…」
ブラッカル「当たり前だろ。魔耶とは少しの間だったが一緒に過ごしてきたんだ。たとえこれが魔耶を傷つけることでも、それで結果的に魔耶を救えるんだったら、別にいい。迷って救えずに終わるよりかはましだろ?」
悪魔耶「…思ってたより利口だね」
ブラッカル「そりゃどーも」
悪魔耶は苦虫を噛み潰したような顔で、負けじとブラッカルを睨み返す。
ブラッカル「…あぁ、そういやお前、そういうの嫌いなんだっけ?明らかに嫌そうな顔だな?」
悪魔耶「……うん。大っ嫌いだよ」
吐き捨てるように言い放つと、悪魔耶は自分の回りに剣をつくりだした。その数は…3本だ。
ブラッカル「…なにをしてるんだ?」
悪魔耶「…攻撃の準備。…覚えてるかな?私は、能力でつくったものを操れる。それがぬいぐるみだろうが、剣だろうが関係ない」
ブラッカル「………まさか…」
悪魔耶「ふふ、そのまさかだよ。これから、この剣達で君に攻撃する。いくら君でも、この量をかわしながら私を攻撃するのは難しいんじゃないかな?」

悪魔耶「「さぁ、切り刻まれてしまえ‼」」
悪魔耶がそう言い放つと同時に、3本の剣がブラッカル目掛けて飛んできた。

687:多々良:2020/09/24(木) 23:26

ブラッカル「ッ...!!こんなもの....!」
始めに飛んできた剣を手で弾き、残りの2本を何事もなくかわして悪魔耶の元へ向かう。しかし、避けきった筈の剣が全て立ち直り、再びブラッカルに刃先を向けて飛んできていた。
悪魔耶「つくったものは自由自在。どんなに逃げても弾いても、逃がさないよ」
剣に対する反応が僅かに遅れたのが悪かったのか、3本の内の1本がブラッカルの左足をかすってしまった。
ブラッカル「....くそっ」
剣の切れ味は抜群で、少しかすっただけでも鮮血がじわりと滲み出てくる。だが怯むブラッカルに容赦などなく、剣はまた向かってきた。
ブラッカル「(....ここからあいつまで大した距離はねぇ...あの操れる剣に隙が出来れば....!)」
頭の中で大雑把な作戦を考え、向かってくる剣に立ちはだかる。
悪魔耶「ずっと追いかけっこしても意味ないよ。...さ、どうするつもりかな?」
頭を一瞬だけ冷やすため、大きく息を吸う。
ブラッカル「そんなに怪我して欲しいんだったら...この体くれてやるよ!!」
勢いよく飛んできた剣に突っ込み、なんと全ての剣を左半身に食らった....いや、食らわせたのだ。
悪魔耶「!?何を...!!」
ブラッカル「〜〜ッ....!!へへ...これで隙が出来ただろ!」
剣が貫通した体を走らせ、悪魔耶を渾身の一撃と言えるくらいの力で殴った。その結果、悪魔耶は大きく後ろに吹き飛ばされた。
悪魔耶「ぐっ....!!」
ブラッカル「ハァ、ハァ....う...くっそ....やっぱ痛ぇ.....もっとやり方あったかもな」
激痛が走る腹部や左足に刺さった剣を抜く。地面に放った血塗れの剣は悪魔耶がかなり怯んだせいか、フッと消えてしまった。

688:なかやっち:2020/09/25(金) 18:45

悪魔耶「…ッ…」
吹き飛ばされた悪魔耶は、そのまま後ろにバク転して威力を殺し、なんとか体制を立て直す。…しかし、相当ブラッカルの一撃が効いたようで、フラフラとおぼつかない足取りだった。
先程よりも弱々しい声で、ブラッカルに話しかける。
悪魔耶「…ゲホッ…今のは、だいぶ効いたよ…」
ブラッカル「……はは、効いてないなんて言われたらショックだったよ…ここまでしたんだもんな…」
悪魔耶「……なんで、そこまでして…自分を犠牲にしてまで……?」
ブラッカル「お前を殴るために決まってんだろ…?こうでもしなきゃ、殴れなかったもんな…」
悪魔耶「……違う」
ブラッカルの返事を聞くと、悪魔耶はうつむいてブラッカルの言葉を否定した。
悪魔耶「なんでそこまでして……魔耶を救おうとするの…?」
ブラッカル「はぁ…?」
悪魔耶「だって……君達人間は、いっつも自分の損得しか考えてないじゃない…!自分のために、他人を平気で裏切るような、そんな愚かな種族……のハズなのに…君は、文字通り自分を犠牲にしてまで魔耶を救おうとしてる…‼なんでそこまでするの⁉人間なのに…!人間なら、人間らしくさっさと見捨てちゃえばいいじゃない!」
声を荒げ、そんな言葉を言う悪魔耶。
悪魔耶は、ブラッカルが自分を犠牲にしてまで魔耶を救おうとする行動が納得できないらしい。…きっと、悪魔としての本能と自分の見た光景が矛盾しているからであろう。

689:多々良 くっそ遅れてすまぬ。:2020/09/28(月) 21:16

ブラッカル「....うるっせえなぁ。...もしかしてお前..そんな奴らしか見てこなかったのか....?」
悪魔耶「.....!」
図星を突かれたかのように、ブラッカルの言葉に反応する。
ブラッカル「人間をそう評価するって事はそう言う事だよな....確かに、そう言うモンだよな。人間は...」
血が止まることのない痛む腹を押さえながら話を続ける。
ブラッカル「実質私だって、こんな状況に置かれたら見捨てて逃げるに決まってんだろ....あんな約束しなけりゃ」
悪魔耶「....約束...」
ブラッカル「あぁ。....『必ず魔耶を救おう』って、あいつに言われた。....言っちまえばあいつの強い意志が、私の体を動かしてる...のかもな」
悪魔耶「...だから.....何で、そんなに....」
拳をぎゅっと握り締め、大きな疑問を投げかける。
ブラッカル「そう言えばそんな質問だったな.....寂しいんだろ。あいつも」
悪魔耶「寂しい...?そんな事で、ここまで出来る訳ないじゃない....!」
ブラッカル「.....知らねぇよ、あいつの本当の気持ちなんか。...でも、あいつからしたら正真正銘最後の命よりも....魔耶を見捨てたときの後悔の方が大きいんだろ。.....一人で寂しく暮らす生活を知ってるからこそ、な...」
悪魔耶「......」
目を細め、睨むような表情でじっと前を見る。相変わらず拳は握られたままだった。
ブラッカル「....ま、お前を説得でねじ伏せる事なんて考えてねぇ...体をあいつに動かされてようが、私は私のやり方でやってやる....!」
曲げていた背を伸ばし、悪魔耶と対面する。

690:なかやっち 大丈夫よ〜。暇なときに書いてくれればオケオケ:2020/09/28(月) 22:29

悪魔耶「……ッ…そんな体で、まだやる気満々みたいだけど…流石にそれじゃあ、心はよくても体がついていけないんじゃない…?」
ブラッカル「…そんなの、今は気にしたってしょうがねぇだろ。やらなきゃやられる、だからお前を殴る!それだけだ!」
そう言って、斬りつけられて痛む左半体に鞭をいれ、悪魔耶に向かっていくブラッカル。
一歩地面に足をつけるたびに、重力によって傷に負担がかかり、新たな鮮血が滲み出る。しかし、ブラッカルはそれを気にも留めなかった。
悪魔耶「ッ…」
悪魔耶「(いくら戦闘中でアドレナリンが出てるっていっても、流石に少しくらいは痛み感じるでしょ…⁉こんなに深手なのに…なのに、まるで傷なんて負ってないかのようにこっちに向かってくるなんて……無茶しすぎ……)」
ブラッカル「考え事してる余裕があんのか?」
悪魔耶「‼」
ブラッカルは棒立ちになっていた悪魔耶に、思いっきりパンチを繰り出した。ハッとした悪魔耶は、それを右手で受け止める。両者共に衝撃で後ろに下がったが、目はしっかりと相手を見すえていた。
悪魔耶「……ははっ…君は、ほんとに末恐ろしいよ…。約束したなんていったって、そんな無茶をしてたら果たせる約束も果たせないんじゃない…?深手なんだし、もう少しセーブしないと、ほんとに死ぬよ…?」

691:多々良:2020/10/02(金) 19:12

ブラッカル「うるせぇ!!私は私のやりてぇようにやる!...邪魔すんじゃねぇ....!!」
退いてもなお、再び悪魔耶に向かって攻撃を繰り出す。その言動からは、勢いで痛みを吹き飛ばしているかのように思えた。
悪魔耶「邪魔...勢いを止めるなってこと?じゃあ、君のその気力はやっぱり無茶なんだね」
攻撃を受け止めながら核心をつく言葉を放つ。ブラッカルが戦闘を重ねていくにつれ、息遣いが荒くなっている事にも気付いていた。双方が再び後ろに下がる。土埃が舞うその戦場には深手を負い、血が足りず意識朦朧とするブラッカルと、多少の攻撃は食らったもののまだ余裕がありそうな悪魔耶が立っていた。
悪魔耶「....もう随分弱ってきてるみたいだね」
ブラッカル「ハァ......ハァ....ッくそっ...!!」
重傷とも言える傷がブラッカルの動きに着いていける筈がなく、もはや勢いだけでは悪化を食い止めることが出来なくなっていた。
悪魔耶「そりゃあそうだよ。君が耐えられると言っても、体のベースはもう一人の方でしょ?...そんなんじゃ、耐えられる訳がない」
ブラッカル「......」
悪魔耶「...魔耶だって、君が傷付くことなんか期待してない筈だよ?そんなの、ある意味約束を守れてないんじゃない?」
言い返す言葉が思い当たらず、ただただズキズキと痛む傷を押さえる。特に足は既に限界を超えていたようでガクガクと震えていた。

692:なかやっち:2020/10/02(金) 20:16

悪魔耶「…辛そうだね………ブラッカル、カルセナ。…そろそろ、終わらせてあげる」
ブラッカル「…‼」
悪魔耶はニヤリと笑うと、大きな翼をはためかせて宙に浮いた。
満月をバックにし、真っ暗な夜空に向けて右手を上げる。
悪魔耶「楽しい一時だったよ。ありがとう。…お礼に、とっておきを見せてあげるね」
そう言い放つと、悪魔耶は右手から光の玉のようなものを出した。最初はピンポン玉くらいの大きさだったが、徐々に、しかし確実にだんだんと大きくなっていく。
初めて見る技に、ブラッカルが警戒を示す。
ブラッカル「……なんだそれ」
悪魔耶「これは、私の魔力をエネルギーに変換したもの…とでもいうのかな。ま、エネルギー弾だね。私の残りの全魔力を入れたから威力は凄いだろうね」
ブラッカル「……いいのか…?全魔力なんか使っちまって…私がこれを避けたら、お前はもうなんもできない…ぞ?」
悪魔耶「ははっ、そうだねぇ。……でも、君が避けれるとは到底思えないなぁ。今は立つこともままならないような状況でしょ?そんな人が、この攻撃を避けて、しかも私を攻撃するなんて出来るわけないだろうし」
クスクスと笑いながら大きなエネルギー弾を持つ悪魔耶。それは、もうすでにバックの月を覆い隠すほどの大きさになっていた。
悪魔耶「……さよなら、ブラッカル、カルセナ」
そして、エネルギー弾は真っ直ぐにブラッカルの元へと投げられた。

693:多々良:2020/10/05(月) 20:48


『...て....早く...』
カルセナ「...!!?な、なに...!?」
ブラッカルの戦いをサポートしていたカルセナは、自分に何かを呼びかける声に気が付いた。
『早く....走って...!!』
カルセナ「走って....?だ、誰なの?どこに走れば良いの!?」
『真っ直ぐ....早く....』
カルセナ「で、でも今は手が離せないよ....!」

『『 ーー走れッ!! 』』

ふと気が付くと、真っ正面に向かって一目散に走る自分がいた。止まろうとしても、別の意志に勝手に体が動かされているかのように止まることは出来なかった。息を切らし辿り着いた場所には、前に見た覚えのある白い光の玉が微動だにせず浮いていた。
カルセナ「ハァ...ハァ.....!これって....」
それを見た瞬間、ブラッカルの忠告と表情を思い出した。「絶対に触るな」と、焦っているかのような表情でそう言われたのだ。
『触れて....早く...!』
聞き覚えのあるような声がかの脳内に響く。
カルセナ「ッ....!!だけど、触っちゃいけないって....きっと、いけないものだよね...!?だから....」
『早く!!!』
カルセナ「...!!?うぁっ...!!」
瞬間、のたうち回るような強い頭痛が走り、無意識の内に手を伸ばし、その白い光に触れていた。

悪魔耶「.....ふぅ...流石に起き上がって来ないよね」
先程放ったエネルギー弾は物凄い爆風と共に地面を抉り、景色を一変させた。硬い地盤には大きな穴が空いてしまっていた。
悪魔耶「.......ちょっと休まないと...私も過労死しちゃうね.....」
地面に降り立ち、その場に座り込もうとしたそのとき、何かを感じ取り再び視線を穴に向けた。
悪魔耶「...そんな馬鹿な...!?あの弾を受けて生きてる筈が......ッ!!」
夜空に吹く冷たい風で、少しずつ土埃が晴れて行く。その中に感じる強い気配の主は、紛れもなくカルセナーーいや、その姿は土埃の中に居ようとも汚れることのない、髪まで真っ白なカルセナだった。悪魔耶を見るなり、カルセナとブラッカルが混じったような声で宣戦布告した。
カルセナ「....まだまだやってやんよ!!」

694:なかやっち:2020/10/05(月) 22:17

悪魔耶「ど、どういうこと…⁉私の全魔力を喰らったのにまだ生きてるなんて……それに、姿が変わってる…⁉」
自分の予想していた結末の遥か上をいく事実に混乱する悪魔耶。

…それは悪魔耶だけでなく、中にいる魔耶も同様だった。

魔耶「ーーッ⁉………か…カル、セナ…?」
悪魔耶を制御することができず、エネルギー玉を飛ばされたときはもうだめだと思った。なのに、カルセナは吹き飛ぶことはおろか、怪我一つさえおっていない。それに、カルセナのあんな姿は見たことがない。
いつものカルセナの姿、黒くなったブラッカルの姿が脳裏に浮かぶが、それともまた違う姿。
…もしかしてまた別の人格…⁉突拍子もない考えだが、あり得なくもないな…なんて、混乱した頭で考えを巡らせる。
魔耶「…カル…」

695:多々良:2020/10/08(木) 20:48

カルセナ「本当はこの姿になりたくなかったけどなぁ....こればっかりは仕方無いか」
真っ直ぐな瞳で視線を悪魔耶に向ける。
悪魔耶「...これは油断したよ、まだ手段があるなんてね。...でも、それも『完璧』ではない。何か欠点があるでしょ?」
カルセナ「ありゃ、バレたか....そうなんだよね〜....まぁ、ハイリスクハイリターンなんで!」
そう言って隙のない構えを見せる。
悪魔耶「そっか....だけど、いくらパワーアップしようと私に...本物の悪魔に敵う筈がない!」
大きく羽を広げ、僅かに残っていた本当の最後の力を振り絞る。
カルセナ「うげ、まだ戦えるの....?..よし、上等だ!」
意気込んだ直後、悪魔耶がカルセナに向かって一直線に飛んできた。右手には魔力の節約の為なのか、小型のナイフが光っている。その刃をかわし、右手首を掴んで悪魔耶の顔を狙う。しかし、悪魔耶もそれをもう片方の腕で防ぐ。
そんな攻防が暫く続いた後、戦いに変化が現れた。魔力を全て使いきったと言っても過言ではなかった状態の悪魔耶が、パワーアップした白いカルセナを圧倒し始めていた。
悪魔耶「...かなり息が乱れて来てるけど、最後のパワーアップはそんな温いものなの?」
カルセナ「ッ....!!..まだまだ....!」
戦いの土壇場で、悪魔の本性を見せつけられている気がしてならなかった。そのとき、腕での防御が弾かれたカルセナの真上にナイフの刃が光った。
悪魔耶「今度こそ、さよならッ....!!」
カルセナ「....!!....まだまだって言ったでしょ!」
咄嗟に胸ポケットに手を突っ込み、そこに入っていた小さな紙包みの中身を悪魔耶めがけて放った。

696:なかやっち:2020/10/08(木) 22:43

悪魔耶「…ッ⁉こ、粉…⁉」
驚いた悪魔耶は後ろに後退し、自分の状態を伺う。
悪魔耶「……これ…塩、みたいだけど……目眩まし…?」
カルセナ「どうだと思う?」
悪魔耶「は?何をいって…………ッ⁉」
カルセナの言葉に嘲笑しようとしたその時、悪魔耶がガクンと崩れるように地面に膝をついた。
急に自分の身体に力が入らなくなり、困惑する。
悪魔耶「………な…力が、抜ける…」
カルセナ「清めの塩だよ。君と戦うまでに私と魔耶で色々準備したんだよ」
悪魔耶「……ぐッ…」
カルセナ「…形勢逆転、だね」
悪魔耶は負けるものかと無理矢理立ち上がるが、もう戦うどころか歩くことも辛そうな状態になってしまっていた。
これは塩の効果もあるだろうが、なにより今までの疲労や魔力切れの反動なども重なっているだろう。

697:多々良:2020/10/09(金) 23:40

カルセナは塩を仕舞っていた胸ポケットに再び手を突っ込むと、今度は深紅に輝くペンダントを取り出した。
悪魔耶「....!!それは.....」
カルセナ「...魔耶の大事なペンダントだよ」
弱々しく立つ悪魔耶に近づくと、肩を下に押した。すると悪魔耶は力が抜けたかのように呆気なく地面に膝をついた。その顔にペンダントを向ける。
悪魔耶「ぐっ.....こんな所で...封印なんか....!」
伸ばされたカルセナの腕を掴み、有り余る僅かな力を込める。しかし魔力を消費し切ってしまった悪魔耶にカルセナの腕を痛める力はなかった。
悪魔耶「........ッ」
カルセナ「....もう、終わりにしよ。私ももうすぐしたら...動けなくなっちゃうから....」
悪魔耶「....君を...君たちを勝たせたのは.....一体何なの...?」
額にペンダントを当てようとしているカルセナに、消え入りそうな声で問い掛ける。
カルセナ「......『絆』だよ。魔耶と私...ううん、もっと色んな絆。...悪魔に言っても、そんなの信じないだろうけど...」
悪魔耶「.....絆....か...相変わらず...意味が分からないなぁ.....」
カルセナ「いいよ、まだ分からなくて。きっと、そのうち....ね、魔耶....」
そう呟いて、ペンダントを額に当てる。大きく広げられていた羽は縮み、頭から生えていた角は跡形もなく消え始める。悪魔耶の体は眩く光を放ち、悪気のような暗い光がペンダントに吸い込まれていった。その光景は悪魔から感じられる悪意とは裏腹に、心が清められるくらい輝かしいものだった。

カルセナ「......終わっ...たのか...な....」
頭をガクンと垂らしている魔耶を前に、悪魔を封印したからか、更に深紅に染まったように見えるペンダントを地面に転がす。それとほぼ同時に、カルセナは眠りに就いたかのように地面に倒れ込んだ。

698:なかやっち:2020/10/10(土) 13:13


悪魔耶の封印が終わったと同時に、魔耶のいた空間にも変化が起きていた。
魔耶「…あっ!鎖が…」
魔耶を頑丈に封じていた鎖が、次の瞬間『パリン』と音を立てて崩れ去り、ほぼ同時に鎖に繋がれた悪魔耶がこの空間に連れてこられた。
魔耶「…!悪魔耶…」
悪魔耶「……」
魔耶「……また会ったね」
魔耶が多少の皮肉を込めて言うと、悪魔耶はゆっくりと視線をこちらに向けた。
悪魔耶「…そうだね。もう会わないと思ってたのに…残念だなぁ」
魔耶「誰かさんが封印されちゃったからね」
悪魔耶「……ほんと、最悪だよもう………」
そういって項垂れる。魔耶はその様子を伺っていたが、ふと悪魔耶は言葉を続けた。
悪魔耶「…だけど、なんでだろ…ちょっと、楽しかったな」
魔耶「…そっか…」
悪魔耶「……君は、きっとまた戦うよね。この世界から出るために」
魔耶「うん。そのつもりだけど…」
悪魔耶のいきなりの質問に首をかしげる。
悪魔耶「…そしたら、きっと高い壁も待ち受ける。私より強い奴等だっているかもしれない」
魔耶「…だから?」
悪魔耶「……カルセナと、二人で…頑張ってね、魔耶」
魔耶「!………言われなくたって、二人で頑張るよ」
悪戯っぽくニヤリと笑って返すと、彼女はうんうんと頷いた。
悪魔耶「ふふっ、そうだろうね。……じゃあ、早く行ってあげなよ。カルセナのところへ」
魔耶「…うん」
魔耶が返事を返すと、いつものように空間が歪みはじめた。白い空間と悪魔耶の青や茶色、色んな色が混ざって、濁って、黒くなっていって…

そして、魔耶は目を開けた。

699:多々良:2020/10/13(火) 19:53

魔耶「......」
意識が現実へ引き戻されたばかりだったからか、暫く空間を見つめながら上の空でいた。その内意識が段々はっきりとしてきて、視界に入る景色はより鮮明に映し出された。
魔耶「....!!カルセナ!」
ふと地面に視線を移すと、さっきまで一生懸命戦ってくれていたカルセナが紅く輝くペンダントの隣で倒れていた。急いで側に寄り、意識があるかを確認する。
魔耶「ねぇ、カルセナ!大丈夫!?」
カルセナ「......う〜ん...」
寝起きを思わせるような重たい声を出すカルセナに、一安心した。
カルセナ「...あっ、魔耶......?」
魔耶「...うん。そうだよ、私だよ...!」
自分が自分であることを噛み締めるかのように、カルセナに訴えかける。
カルセナ「...!!お帰り、魔耶....」
魔耶「...ただいま、カルセナ.........ありがとう」
双方とも瞼が熱くなり、思わず零れそうになった涙を堪えて笑った。月は沈みかけて東の空は青碧色になり、間もなく夜明けを迎えようとしていた。
魔耶「....帰ろ、カルセナ。...立てる?」
北街へ帰ろうとカルセナに促す。が、カルセナは1ミリも動く気配がない。
カルセナ「いやーそれが....」

ブラッカル「だから触んなって言ったんだ....!これじゃあ体は1日使い物にならねぇし...私も丸1日寝ないといけねぇし.....」

カルセナ「....って言われて...つまり全然動けないの.....」
申し訳なさそうに言葉だけを発する。

700:なかやっち:2020/10/15(木) 18:13

魔耶「そっか…ま、あんな力を使っておいてまだ全然動けたらそれはそれで怖いしね。…よっと」
カルセナ「わっ」
魔耶はカルセナをヒョイと背負い、北街まで戻ろうとする。
カルセナ「ちょ、魔耶……魔耶、大丈夫?歩けるの…?」
魔耶「一応……まぁ調子がいいとは言えないけど、人一人背負うくらいなら大丈夫」
カルセナ「う、うぅむ……でも、体動かないしなぁ……重くない…?」
魔耶「魔族をなめないでほしいね。このくらい余裕よ余裕」
カルセナ「…なら、いいけど…」
そうして、二人は街に向かって進み始めた。
魔耶達が街への道を歩いているうちに大陽がだんだんと昇り始め、薄暗かった空が光を纏う。

魔耶「…そういえば、あの白いカルセナ…?はなんだったの?…また別の人格とかではなさそうだったけど…」

701:多々良:2020/10/17(土) 06:45

カルセナ「あーあれね....う〜ん....よく分かんない」
背中の上で首を傾げる。
魔耶「えぇ...?私はてっきりカルセナが意図して変身したものかと.....」
カルセナ「いや...確かにあの状態にしたのは私なんだろうけどさ。何て言うんだろ.....強制的に変身させられたって言うか....知らない声が聞こえて...それで、その声に導かれて.....」
あやふやな説明が魔耶の疑問を更に深める。
魔耶「知らない声....?ほんとに、聞き覚えなかったの?」
カルセナ「んー.....知ってるような知らないような....多分、女の人の声だと思うけど。で、言われるがままに白い光を触ったらあんなんになった......のかな?」
魔耶「ふ〜ん....ま、私はカルセナが無事ならそれで良いんだけどね」
カルセナ「ほんとほんと....ギリギリなところがいっぱいあったんですからね〜....」
小さな不満を溢すその顔は、喜びと嬉しさに満ち溢れていた。
魔耶「あはは、ありがと。お疲れ様」

702:なかやっち:2020/10/17(土) 08:51



それからしばらく歩くと、見覚えのある大きな壁が見えてきた。辺りの草木がすっかり日の光を浴び、緑々しい色に染まった頃だった。
魔耶「…ふぅ、やっと着いた…」
安堵と疲れのため息を一つ溢し、ようやく見えてきた北街に向かってサクサクと進んでいく。
カルセナ「ごめん、お疲れさま…」
魔耶「はは、いーのいーの。カルセナには命救ってもらったんだから、これくらいはさせてもらわないと」
カルセナ「命救ったって…そんな大袈裟な…」
魔耶「大袈裟かな…?少なくとも私という人格は守ってもらえたんだから、命の恩人ですよカルセナさんは」
カルセナ「そ、そうかな…?よくわかんないや」
自分の背中にいるカルセナがなんとなく赤面したんじゃないかと思った魔耶だったが、さすがに後ろを振り返るのは野暮だと思い、先を急いだ。北街に帰ったら、まずは休むべきだろうか、病院に行ってみるべきだろうか、ご飯を食べるべきだろうか……選択肢が多すぎて、最初に何をすればいいか分からないな、なんて考えながら。

703:多々良:2020/10/18(日) 20:00

門番A「....ん?あれは...」
二人いる門番の内の一人が、カルセナを背負う魔耶に気が付いた。それに続き、もう一人も目を凝らして気が付いたようだった。
門番B「あー....この前話題になってた二人だな。こんな朝っぱらに帰ってくるなんて....依頼でもこなしに行ってたのか...?」
暫くして、魔耶が大きく開く門の前まで辿り着いた。
魔耶「おはようございます」
門番A「あぁ、おはよう。どうしたんだ、朝帰りなんて」
魔耶「えっと....まぁ、二人でクエストみたいなものを...」
チラッとカルセナの顔を覗く。疲労からか、いつの間にかすやすやと寝息を立てて眠っていた。
門番B「...見る限り二人とも怪我を負ってるな。病院にでも行った方が良いんじゃないか?」
魔耶「そうですね....検討しときます」
門番A「そうしときな。んじゃあ、お疲れ。良く休めよ」
そう言って門の奥へと通してくれた。大して時間は経っていないのにどこか懐かしく感じる北街は、まだ早い時間だったからか人気が少なかった。魔耶は大きく息を吸い、カルセナを背負い直した。
魔耶「....さて、どうしよっかな」

704:なかやっち:2020/10/19(月) 22:33

とりあえず、病院に行くにしてもご飯を買うにしても今はお金を持っていないため、まずは宿屋に向かったほうがいいだろう。それから先については宿屋に着いてから考えよう…
そう思った魔耶はいつも通り宿屋に行く道を歩き出した。行き慣れた道なので、意識しなくても勝手に足がその方向へと導いてくれる。

魔耶「……もうこの街にもすっかり慣れたね…」
宿屋に向かいながら、ふとそんなことを思う魔耶。
……今はこの世界にきてどのくらいたったのであろう…なんだか、生まれたときからずっとこの世界で暮らしているような気持ちだ。でも、ちゃんと自分の世界の記憶もあるのだから、なんだか故郷が二つになったような変な気分だ。
きっと、この世界で色んなことが起こり過ぎて、時間の感覚が麻痺してしまっているのだろう…
魔耶「…問題も解決できたし、あとは帰る方法を探すだけ…だね」
…そう呟いた自分の声が、どこか寂しげに聞こえたのはきっと気のせいだろう…

705:多々良:2020/10/21(水) 20:31

人々が着々と開店準備を進める商店街を通り、途中に差し掛かるまだ子供たちのいない広場を横目に見ながら歩き、ようやく宿へと戻って来る事が出来た。
自分たちの部屋へ向かい、鍵が開いたままの無用心なドアをそっと開けた。
魔耶「ただいま〜.....」
中には当然返事をするものは居らず、前の世界で一人暮らしをしていた頃を思い出した。
魔耶「とりあえずカルセナは....ベッドでいいかな」
何とか靴を脱ぎ、安眠しているカルセナの帽子を取りベッドに寝かせた。帽子はそのすぐ側、枕元に置いておくことにした。
疲弊した体を伸ばし、ベッドに仰向けに倒れ込む。薄く降り注ぐ日の光が僅かに反射した天井を見ていると、事が一段落した安心感がどっと押し寄せてきた。
魔耶「ふぅ......私も、眠くなってきたな....」
内側にいたものの、一夜漬けで戦ったのだ。眠くない筈がなく、今目を閉じたら一瞬で眠りに落ちてしまいそうだった。

706:なかやっち:2020/10/21(水) 22:10

魔耶「…でも、先に病院に行って怪我を治してもらわないと……」
そう思い直し、疲弊しきった体に鞭を打って体を起こす。スヤスヤと寝ているカルセナを少し羨ましく思った。
愛しいベッドから体を浮かせ、病院にいくためにお金の入った財布を探す。…案の定、いつもと同じテーブルの上に置いてあった。一応のため中身も確認しておく。
魔耶「……うん、このくらいあれば多分大丈夫だね。ちょっと休みたいところだけど……怪我が化膿なんかしたら大変だし、早く行かなきゃ……」
これ以上の事態を防ぐため、まず病院にいくことが優先だ。カルセナがたくさん戦ってくれたんだし、もう少しくらいは私が頑張らないと……

707:多々良:2020/10/25(日) 08:34

魔耶「よいしょ.....っ」
財布をポケットに入れ、寝ているカルセナを再び背負う。そのままふらふらと覚束ない足取りで宿を出た。
朝の気温の移り変わりは早いもので、帰って来ているときよりもいくらか暖かくなっていた。人々が活動を始めようとする中、魔耶は最寄りの病院へと足を運び始めた。
魔耶「はぁ.....はぁ........」
夜間を通して戦い、北街までの長い距離を歩いた魔耶は今にも倒れてしまいそうな程疲労困憊しきっていた。どんどん足が重くなっていくのを感じる度に自分を奮い立たせ、一歩一歩をしっかりと踏みしめるように歩いた。

ーーしかし、そう長く持つものではなかった。
倦怠感と眠気、足の痛みに段々耐えられなくなってきたのだ。その証拠に、冷や汗が体を伝っているのが分かる。
魔耶「う.....こんな所で...倒れる訳には.....」
あと数歩歩いたら倒れるかもしれない。そんなことを感じてしまっている。もう駄目かもしれない.....そう思って立ち止まったとき、近くに慣れたような気配を感じた。
???「....魔耶?」
魔耶「...ひま..り....!?」

708:なかやっち:2020/10/25(日) 12:55

ひまり「魔耶…ッ!」
限界だった足の力が抜けてフラリと前に倒れこみ、ひまりにもたれかかる形になった。
魔耶「…ひまり……なんで、ここに…」
ひまり「イベントの打ち合わせがあって、これから行くとこだったんだけど……そしたら、カルセナを背負ってる魔耶が見えて…なにがあったの、魔耶…?」
明らかに疲れきった魔耶と、後ろのカルセナをみてうろたえるひまり。
なにかあったのかと魔耶に質問をするが、今の魔耶には質問に答えられるだけの体力が残っていなかった。なので、今最も伝えるべき重要な事柄をひまりに伝える。
魔耶「……ひまり、お願い…カルセナを病院に連れていってくれない……?私、ちょっと……疲れちゃって…」
ひまり「病院………べ、別に構わないけれど…魔耶は…?」
魔耶「私は…ちょっと休めば大丈夫…だから、先にカルセナを…」
ひまり「大丈夫って……でも、魔耶を置いてったりなんて…」
カルセナを病院に連れていけと言われても、流石にこのまま魔耶を置いていくわけにはいかない。しかし、ひまりが二人を同時に背負うことなんてできない…。
ひまりが選択肢に迷っていると、不意に少女の声が聞こえてきた。
??「…魔耶さんも病院に行くべきですよ。私がカルセナさんを運びます。お姉ちゃんは魔耶さんをお願いします」
ひまりとは違う声に驚いた矢先、フッと背中が軽くなった。
ひまり「みお……!ありがと、助かったわ。早く病院に連れていきましょう‼」

709:多々良:2020/10/30(金) 20:35

魔耶「......ありがとう....」
担がれた矢先体の力が抜け、眠りに落ちるように次第に意識も闇に沈んでいった。



魔耶「........」
最初に見えたものは少し薄暗い世界だった。しかし段々と視界にかかっていた靄が晴れ、見えているものが橙色の光を浴びた天井だという事が分かった。何故橙の光が反射しているのか....カチコチと音が聞こえる方向へ、ゆっくり顔を傾けた先にあった壁掛け時計でその理由が判明する。二人が北街に帰ってきた時間帯からおよそ半日過ぎた、夕刻だからであった。
ひまり「...魔耶!!」
隣で椅子に座り、眠たげに首を傾げていたひまりが跳ね起きる。
魔耶「ひまり......」
ひまり「良かった〜.....ずっと寝てるから心配してたのよ!ね、カルセナ!魔耶が起きたよ!!」
魔耶の奥の方面に視線を合わせ、そう嬉しがる。
カルセナ「魔耶...!ほんとに起きてる....!?」
左隣から聞こえた声に思わず目が冴える。ぐるっと首を動かして見た隣のベッドには、体をピクリとも動かしていなかったが確かにカルセナがいた。意識はしっかりあるようだった。

710:なかやっち:2020/10/30(金) 22:14

魔耶「…!…うん、起きてるよ」
動かずとも元気そうな声を発するカルセナを見て安堵した魔耶。その拍子に自然と表情がほころぶ。
カルセナ「よかった…ごめん、無理させちゃったかな…」
魔耶「いやいや、カルセナは動けなかったんだし、私がやるって言ってやったんだから…カルセナが謝ることじゃないよ」
そう告げると、ふっと表情を和らげるカルセナ。
カルセナ「…そう言ってもらえると安心できるよ」
魔耶「…どういたしまして。まぁ、ほんとのことなんだからカルセナが気にすることでもないけど……」
ボソリと付け加えたあと、「それに…」と言葉を足す。
魔耶「結局、病院まで連れていってくれたのはひまりだよ。……ひまり、ほんとに助かった……ありがとう」

711:多々良:2020/11/05(木) 20:42

カルセナ「え、そうだったの?んー、だけど、どっちもありがとうね」
二人に素直にお礼を言われ、少し照れた素振りをひまりが見せる。
ひまり「いやいや、別に良いのよあんな簡単な事で....でも、何であんなになってたかは、後できっちり聞かせて貰おうかな〜....なんて」
魔耶「あはは...考えとこうかな。.....でも、助かったのは本当だからね」
ひまり「お役に立てて何よりでーす。...っと、そろそろ夕飯の準備しないとかな?じゃあ、私は帰るからお大事にね」
魔耶「うん、じゃあね」
壁掛け時計を見るなり、照れ隠しをするかのようにそそくさと病室から帰っていった。

魔耶「....ふぅ、いつ退院出来るのかな〜」
カルセナ「魔耶ならすぐ退院出来るよ。だって、魔族の回復速度は尋常じゃないんでしょ?」
魔耶「まぁ...でも、悪魔戦の直後で疲労もかなり溜まってるし.....いつもよりは時間かかるかも」
溜め息を一つ吐いて、薄暗くなった天井を見上げる。そろそろ照明をつけようか...そう思い、枕元のリモコンを取ろうとしたとき、カルセナが口を開いた。
カルセナ「.....温泉」
魔耶「ん?」
カルセナ「退院したら、温泉行きたいなぁ....この街にあるかは分からないけど....」

712:なかやっち:2020/11/05(木) 21:46

魔耶「…そうだね」
前にした会話を思い浮かべ、微笑みながらうなずく。
魔耶「今度ひまり達が来たら、温泉のこと聞いてみよっか」
カルセナ「うん!……あ、でも…温泉って何?とか言われないかな…?」
魔耶「え、そんなことあるかな…………まぁ、きっと大丈夫でしょ。今のところ、前の世界とそんなに違いはないし」
カルセナ「そういえばそうだね…なら大丈夫か」
魔耶の言葉に安堵したような表情を浮かべるカルセナだったが、ふと何かに気付いたようにこちらを見る。
カルセナ「…言われてみれば、この世界って前の世界とほとんど同じって言ってもいいくらい似てるよね。もちろん文化とか環境とかの違いはあるけどさ」
その言葉に、魔耶も今までの生活を思い返す。
魔耶「…確かに…ちょっと古いけど、乗り物とかは同じだったよね」
カルセナ「うんうん。…もしかしてだけど、私達の世界とちょっとした関わりがあったり…?」
魔耶「うむむ……そうだったらいいけどねぇ…」


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