小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦
401:多々良:2020/05/10(日) 12:37
カルセナ「さーて、寝るまでの間何しよっかな〜....」
取り敢えず、部屋の中をうろつく。元の世界ならば遊び道具が沢山あって暇を潰す事が出来たのだが....生憎この世界にはそう言う物があるのかすらも分からない。
カルセナ「むー....本当に暇だなぁ....歌でも歌うか〜....?」
自分に提案しつつ、どんな歌があったか思い出す。
カルセナ「そう言えば、良く歌ってたやつあったなぁ....懐かしい.....」
そっと歌を口ずさむ。よく家族の誰かしらと、2パート合わせて歌っていた。こうやって歌っているときは、自然と自分の意識の中に入る事が出来る。
カルセナ「(あいつはこの歌知ってるのかな....同じ私だし、思い入れある歌だから知ってて欲しいけどな〜)」
そんな事を一瞬、心の中で思った。続けて歌っていたそのとき、頭の中に自分が歌っているパートとは違う、もう1つのパートが流れ込んできた。
カルセナ「....あれ?」
驚いて歌を止める。
カルセナ「......今のは...?」
シャワーを終え寝間に着替えていたとき、どこからか綺麗な歌声が聞こえてきた。
魔耶「…カルセナ…?」
聞こえてくる声はカルセナの声のように聞こえる。聞いたことのない歌だったが、なんだか懐かしく感じるような…暖かいような…いい歌だった。
魔耶「いい歌…ってか、カルセナ歌うまいな〜…」
寝間着に着替え終え部屋に入ろうとしたとき、カルセナの歌が突然途切れた。聞いていたのがばれてしまったのだろうか…?
部屋の扉を開け、中を覗きこむ。
魔耶「カルセナ〜?ただいまあがりましたー…」
カルセナ「わっ!?魔耶!?」
扉からひょこっと現れた魔耶に驚く。歌を聞かれるのが恥ずかしかったからだ。
魔耶「何故そんな驚くのよ....」
カルセナ「あ、あぁ....別に何も....いきなり来たからちょっとビックリしちゃいまして....」
魔耶「ふ〜ん、そっかー」
魔耶には何となくの理由が分かっていたが、あえて言わなかった。
カルセナ「(....何だったんだろう、また空耳みたいなものなのか....?)」
その声は自分とそっくりだけどちょっぴり低い、聞き覚えがある声だったのだが....。
カルセナ「(....まぁ、いっか)」
魔耶「さてと、ジュースジュース〜」
先程のカルセナの様に、キッチンへ向かい冷蔵庫を開ける魔耶。1本のジュースを取り出してゴクゴクと飲んでいた。
カルセナ「よっ、良い飲みっぷり〜」
魔耶「飲み会かっての。美味しいわー、これ」
カルセナ「あんまり普通のジュース飲まないからな〜。炭酸ばっかりで」
魔耶「1つのものに集中しすぎるなよ〜」
カルセナ「分かりましたよ〜」
魔耶「…まぁ、炭酸をたくさん飲みたくなる気持ちはわからんでもないけどね」
カルセナ「…え?魔耶、炭酸飲めたの?」
魔耶「逆に飲めないと思ってたの!?」
カルセナ「だって魔耶が炭酸飲んでるの見たことなかったし…」
…確かにこの世界で炭酸飲んでなかったような…じゃあそう思われるのも仕方ないか…?
魔耶「炭酸くらい飲めるわ。むしろ強炭酸大好きだわ」
カルセナ「ほぇ〜。炭酸に強いんだねぇ」
魔耶「強い…のかな?…でも飲みすぎるとお腹がふくれるからあんまり飲まないんだ。ご飯が食べれなくなったら困るし」
カルセナ「あー。炭酸ってお腹ふくれるよね〜」
魔耶「うむうむ。カルセナは炭酸の中でもなにがいいの?私はサイダーが好きです。あとジンジャーエールとか」
カルセナ「すっきりしたやつだったら何でも好きだよ〜、あと果物系とか。....ただ、ジンジャーエールは前に飲み過ぎて胸焼けした事があったんだよね....」
魔耶「ええ?そんな事あんの?」
カルセナ「ほら、あの....あんまジンジャー得意じゃないから....喉にきましてね」
魔耶「そう言う事ね....じゃあやっぱ私がさっき言った事は間違ってないね」
カルセナ「ごもっともですわ」
飲んでいた炭酸飲料を近くの棚の上に置き、ベッドにうつ伏せになる。
カルセナ「あぁ〜、頭が疲れた〜....」
魔耶「文字ばっか見てたもんね、今日は....明日は何をしよっか」
カルセナ「本格的に、魔耶の悪魔化を止める方法でも探します?苦手なものとかを....」
魔耶「まぁそう言っても、ジャンルが広すぎるからなぁ....何かに絞れれば良いんだけどさ」
カルセナ「確かに....それをどうするかだね」
魔耶「…それに、もうお金がない」
机に置いてあった財布を手に取り、軽く振ってみる。チャラチャラと小銭の音がした。
カルセナ「それはやばい…食べていけないじゃないの…」
魔耶「うむ…悪魔になる前に餓死するかもしれん…だからクエストも受けないといけないぞ」
カルセナ「やること盛りだくさんだ〜」
魔耶「ほんとにね…」
ため息をついて財布を机の上に戻す。
カルセナ「まぁ食料問題は外でなにかしら採ってくればなんとかなるし…申し訳ないけど、ひまりとかに頼るって手もあるしね」
魔耶「なるほどね。あとはまぁ…私がなんかつくって売るか…」
カルセナ「でもお店がないぞ〜」
魔耶「うーむ…確かに…それに、一日でつくれる量には限度があるからな〜」
カルセナ「魔力だもんね。やっぱりつくりすぎると疲れるの?」
魔耶「うん。魔力を使いすぎると体力がなくなる。あと疲れすぎて動けなくなる」
カルセナ「一日にどのくらいの量をつくれるの?」
魔耶「ん〜…ベッド一個分くらい」
カルセナ「…多いのか少ないのかわかんないな」
魔耶「まぁ、思ってるよりは多いよきっと」
カルセナ「ふーん、中々大変なんだね〜......ふあ〜ぁあっ、欠伸が....」
ご飯を食べて、二人共シャワーを浴び終わったら少し遅い時間になってしまっていた。
魔耶「本当だー、明日に備えてもう寝る?」
カルセナ「うん....私はもう眠いし、寝るよ〜」
魔耶「んじゃあ私も寝よっかな....部屋は暗い方が良いしね。あ、炭酸ちゃんと冷蔵庫に仕舞っときなよ?」
カルセナ「へいへーい....」
ベッドから立ち上がり、飲みかけの炭酸飲料を持ってキッチンへ向かう。冷蔵庫の右側に入れパタンと戸を閉めた後、すぐにベッドに戻り寝転ぶ。
魔耶「んじゃ、お休み。また明日〜」
カルセナ「はい、お休み〜.......」
部屋の照明が消え、一気に闇に包まれる。掛け布団を被り、カルセナは、今日あった色々な出来事を思い浮かべた。そして、魔耶がシャワーを浴びているときに歌った懐かしい歌を頭の中でゆっくり再生しながら眠りに就いた。
魔耶「…寝ちゃえば、一日に何回でもこれるのか?」
悪魔耶「そうみたいだねぇ。いらっしゃい」
いつものように、目の前には鎖に繋がれた悪魔の自分がいた。ニコニコと愛想よく笑っている悪魔耶も相変わらずだ。
魔耶「…やっぱり、鎖…減ってるよね?」
悪魔を封じている鎖を指差し、問いかけてみる。
悪魔耶「あ〜、気づいちゃった?そうそう、最近鎖が外れてきててね。つまり封印が解けかけてるって証拠だよ」
魔耶「…」
封印が解けかけている…つまり、それは魔耶にとってタイムリミットが少なくなっていることを意味している。
悪魔耶「はは、君と私が入れ替わるのもあとちょっと、かな。もって五日ってところ?」
魔耶「あと、五日…?」
悪魔耶「まぁあくまで私の勝手な推測だよ。もっと早いかもしれないし、もっと遅いかもしれない。…あ、また鎖がとれた」
魔耶の見ている前で、悪魔耶の翼を封じていた鎖がガチャンとはでな音をたてて落ちていった。すると…
魔耶「……ッ!?あぐぅっ…‼いっ……!?」
いきなり魔耶の背中に痛みが走った。ギシギシと背中が軋む。まるで背中の骨を無理矢理変形させられているみたいな痛み。
…そんな私の様子を顔色ひとつ変えずに見つめ、声を発するもう一人の自分。
悪魔耶「…翼が自由に動かせるようになったから、君にも影響がでちゃったんだね。起きたときを楽しみにしてなよ」
カルセナ「.....?まただ....」
今は自分は歌っていないにも関わらず、どこからともなく、あの歌の下パートが聞こえてくる。
まぁ、そんな事はどうだって良い。今はブラッカルに用があるのだ。早足でブラッカルが居るであろう方向へと向かう。それに伴い、歌声も近くなってきていた。
カルセナ「....あっ....!?」
闇の中に光る金髪を見つけた。それは確認するまでもなく、ブラッカルの姿だった。これまで背中を向けていた筈だが、今日は何故か正面を向いて座っている。そして何より驚いた事。
カルセナが大好きで、懐かしい、あの歌の下パートを上機嫌そうに歌っていたのだ。
カルセナ「......知ってたんだ、その歌....」
ブラッカルは、カルセナの姿を確認した途端、ぴたりと歌を止めた。
ブラッカル「....当たり前だろ。前に言った事を覚えてねぇのか」
カルセナ「....私達は、一心同体.......」
その言葉を言った瞬間、唐突に色々な気持ちが込み上げてきた。ブラッカルと喧嘩した時の怒り、魔耶と過ごし、プレゼントを貰った時の喜び、いつ魔耶が悪魔化するのかが分からない時の不安、家族を思い出し、歌を歌った時の少しの哀しみと懐かしさ。そして、自分の目の前に立ちはだかる壁を乗り越える辛さ。その壁を打ち破るには、ブラッカルと仲直りするにはーー。
ブラッカル「....で、どうしたってんだ。何か思い付いた....」
カルセナ「「 ごめんっ!!! 」」
頭の中で考えるよりも先に、この言葉が声に出てきた。
魔耶「ぐっ……お、きた…とき…?」
痛む背中に苦痛を感じながら、悪魔耶の言葉を繰り返す。
悪魔耶「そう。起きたとき。この空間の中で君が痛みを感じてるってことは、現実でもなにかしらの変化が起きてるってことだろうからね」
魔耶「…っ…現実で…」
悪魔耶「うんうん。早速起きて、見てみなよ。自分にどんな変化が表れてるかさ」
悪魔耶がそういい放った瞬間、また空間が歪み出した。空間の白色と悪魔耶の黒色が混ざりあって渦をつくる。
悪魔耶「…またね。君の反応が楽しみだよ」
ブラッカル「........」
話す事を止めて、カルセナをじっと見始めた。
カルセナ「ごめん!!....最初からこう言えば良かった....!!」
少し俯きながら、それでも目線はブラッカルへと向けながら話す。
カルセナ「....ブラッカルの言った事は間違ってる。絶対に間違ってる筈だけど.....もっと詳しく質問すれば良かったかな....」
相変わらず、ブラッカルの視線はカルセナから外されていなかった。
カルセナ「.......ごめん」
完全に足元に視線を落とす。
ブラッカル「.......お前」
カルセナ「.....?」
ブラッカル「...魔耶から何か貰ったみてぇだな」
カルセナ「...あぁ、これ....?」
帽子を指差す。そこには、魔耶から貰ったブローチが輝いていた。それに視線を向ける。
カルセナ「.....そう言えば、ブラッカルは私と一心同体なんだよね......なのに、帽子は大事じゃないの....好きじゃないの?」
ブラッカル「......好きじゃねぇ。私はその、帽子に籠る念みてぇなのに封印されてる様なもんだ」
カルセナ「....そう...か.....」
ブラッカル「....でも、ちょっとだけ嫌いじゃなくなった」
その言葉を聞いて、足元に向けてた顔を上げる。ブラッカルが何故か照れ臭そうに視線を反らす。良く見ると、ブラッカルの帽子にも色は違うがブローチらしきものがついていた。
ブラッカル「...ふん、中々良い奴っぽいな.....魔耶って奴は。.....こっちこそ、早とちりして悪かった....」
瞬間、ぱぁっとカルセナの顔が明るくなる。涙ぐむのを堪えて、笑顔をつくる。
カルセナ「ッ.........でしょ!!もっと語ってあげようか!魔耶の事!!どうでも良くなんかないんだからな!」
ブラッカル「ッ...う、うるせぇこっち来んな!!用件が済んだんだから終わりだ!!まだ、完全に信じれるなんて言ってねぇんだからな!」
照れ顔を見られたくないからか、夢から早く覚めさせる為か、全力で突き飛ばされた様な気がした。
魔耶「…っ‼…はぁ…はぁ…」
夢の空間から放り出され、痛みと驚きで飛び起きる。どうやら現実の私も痛みに悶えていたらしく、汗びっしょりになってしまっていた。
魔耶「…はぁ……はぁ………な、なんだったの…?」
あらい呼吸をしながら夢の中でいきなり起こった出来事を思い返す。夢の中では耐えきれないほど痛かった背中の痛みは現実に戻ってきたと同時に消えてしまったらしく、もう痛みはなかった。
…が、代わりになにか違和感のようなものを感じた。いつもとは違う…なにかが違う感覚がある。
…なんだろう、この違和感は。痛みとは違う、慣れないような…落ち着かないような…そんな感じがする。
おそるおそる後ろを振り返り、自分の背中を確認してみた。
魔耶「……翼…?」
違和感の正体は自分の翼だった。
…なぜ、違和感を感じるのだろう?翼なんて生まれてからずっとついてるし、特になにか変化があるわけではないのに…?
魔耶「…?………っ‼」
…寝ぼけていた頭がようやく違和感に気づいた。自分に問うように違和感の正体を口に出してみる。
魔耶「…私、寝るときは翼しまってる…よね…?」
そう。私はいつも寝るときに翼はしまっている。翼をだしていると寝返りがうちづらく、寝にくいからだ。
…どうして翼が出てしまっているのだろう?先程の痛みと関係があるのだろうか…?
カルセナ「.......ん....」
重い瞼をゆっくりと上げる。壁側に寝返りをうっていたせいか、目が覚めて一番最初に視界に飛び込んできたのは壁だった。
カルセナ「(ちゃんと仲直り.....出来たよね....)」
夢でした事は幻ではない。そんな事を実感し、不思議と嬉しくなった。昨日まではずっと喧嘩していたと言うのに。
壁にそりながらのそっと体を起こす。振り向くと、魔耶が体を起こしている様子が見えた。どうやら魔耶も目が覚めているらしい。
カルセナ「....おはよぉ〜、魔耶」
魔耶「あぁカルセナ....おはよう」
少したじろいでいるかの様な挨拶だった。少し違和感を覚え、魔耶の様子を観察する。
沢山の汗をかいているが、嫌な夢でも見たかの様に思えた。あとは翼がちゃんと生えていてーー。
カルセナ「......あれ?魔耶って......」
魔耶「ん....何....?」
カルセナ「.....いや、何でもない.....」
こう言う事も、たまにはあるのか....?そう思って、いつも寝るときにはしまっている筈である、翼の事は別に聞かなくても良いと判断した。
魔耶「はぁ…なんか夢の中でいきなり背中が痛くなってね…そのせいで汗かいちゃった」
カルセナに説明しながら額の汗を拭う。
カルセナ「へぇ…だからそんなに汗かいてるのね。今は背中大丈夫なの?」
魔耶「うん。痛くはない…けど…」
カルセナ「…けど?」
魔耶「…なんか…いや、やっぱりいいや」
翼のことを言おうと思ったが、もしかしたら今日は翼をしまい忘れていたかもしれない。それか、痛みで翼がでてきてしまったのかもしれない。そう思って言わないことにした。
魔耶「…あー、汗がひどいわ…ちょっとシャワー浴びてきていい?」
カルセナ「…ん。いってきなさい」
魔耶「ありがとう。いってまいりまーす」
そう言い、部屋に置いてあるタオルと着替えを持ってこの部屋を出て行った。
カルセナ「.....うーん、やっぱり何かおかしいよね.....まさか、悪魔化が進んでるとかは....無いかなぁ.....」
魔耶の事を考えながら、ベッドから降りようとする。
カルセナ「......うん?頭が......ッ」
突如、まるで夜通し起きていた時の様な眠気に襲われた。瞬きをすればするほど眠気は増していく。そうして謎の睡魔に負け、再びベッドに仰向けで倒れ込んだ。
ブラッカル「.....おい、起きろ」
カルセナ「......うぅ....あれ、何でまたここに....?」
目を覚ました場所は、ブラッカルが居るいつもの空間。
ブラッカル「私が呼び戻したんだよ。寝起きだったから出来た事だ....それよりも」
カルセナ「うん....?なぁに?」
眠い目を擦りながらブラッカルと視線を合わせる。
ブラッカル「....魔耶の悪魔化が急に深刻化している。もってあと3、4日程にな」
カルセナ「......えっ?....う、嘘ッ......だって、今はあんなに普通に....」
普通にしている。果たしてそうなのだろうか。もしかしたら、自分が気付いていないだけかもしれない。魔耶がそれを隠しているのかもしれない。実際、自分もついさっき悪魔化を疑ったばかりだ。
ブラッカル「いよいよ平和ボケしてらんねーぞ。どうするかは、もうお前に託した。私がやれる事っつったら、お前のやりてぇ事を手伝ってやるだけだ」
カルセナ「........魔耶....」
一人シャワーを浴びながら考え事をする。シャワーから出るお湯が魔耶の髪を濡らし、前髪から水が滴った。
魔耶(…あと、4日…か…)
…この4日という数字は悪魔耶が私と入れ替わるまでの日数だ。もっと言うなら、私がこの世から消えるまでのタイムリミット…
魔耶(…あと、4日しかない…ほんとに解決策なんて見つかるの…?)
魔耶の心の中は不安でいっぱいだった。
確かに、カルセナとはどんな困難も乗り越えてきた。ドラゴンだって異変だって乗り越えてきたんだ。今度の壁も乗り越えられる…そう思ってた。昨日までは。
…でも、いざちゃんとした数字が分かると考えが変わってしまう。
魔耶(…あと4日で解決策を探して、実行して、元の自分に戻れる…?もしその解決策にたくさんの準備が必要だったら?貴重な植物を取りに行かなければならなかったら?…4日で、足りるわけないじゃん…)
…だから、本当はずっと言いたくなかったけど…それを頼みたくなかったけど…カルセナに、あの話をしよう。今話さないといけないことだから。手遅れになってしまう前に対策を打たなければいけない。
魔耶「…やだなぁ。自分から言わなきゃいけないなんてね…」
…覚悟は、出来ている。悪魔化していると知った日からうすうす感じてはいたのだから。
カルセナ「....ねぇ」
ブラッカル「何だよ」
カルセナ「魔耶は、一回悪魔になったら本当にもう戻れなくなるの....?」
ブラッカル「あぁ、そうなる可能性が高いな。だから何だ、分かりきった事だろ」
カルセナ「いや、その.....悪魔だけを倒せば、魔耶が戻ってくるんじゃないかなって.....」
ブラッカル「.....それは無理だ」
一度溜め息を吐いて、説明する。
ブラッカル「魔耶の中の悪魔っつーやつは、魔耶が生まれた頃から居るんだろ?」
カルセナ「うん、だからその悪魔を、閻魔様が封印してたって言ってた」
ブラッカル「閻魔程の力を持った奴が、わざわざ悪魔を倒さなかった理由が分かるか?」
カルセナ「......何?」
ブラッカル「....本体のバランスが崩れるからだ。きっと、魔耶が生まれつきで持っていた悪魔の力を閻魔は無くしたくなかったんだろ」
カルセナ「....魔耶の事を想って?」
ブラッカル「多分な。何れにせよ、悪魔を倒しちまったら倒しちまったでまた厄介な事が起きかねねぇ。それ以外の方法を考えるしかねぇよ」
カルセナ「.....そうか....封印も出来るか分からないしなぁ....ブラッカルみたいに出来れば良いのに....」
ブラッカル「私は封印術なんてもんは使われてねぇ。あいつの強い念があって....」
その瞬間、うっかり口を滑らしてしまったかの様な目付きをし、そのまま口を閉じた。
カルセナ「.....ん?....あいつって?....気になる、はぐらかさないでよ」
ブラッカル「.......チッ、仕方無ぇな....あいつってのは....」
魔耶「…ん?」
服を着ようとしたとき、翼を出しっぱにしていたことを思い出した。このままでは翼が引っ掛かってしまって服を着れない。
魔耶「はぁ…そうだった。…なんで翼でちゃったんだろ…痛みで出てきちゃったのかなぁ?」
服を着るために翼をしまおうとする。
魔耶「…よいしょ……って…あれ…?」
いつものように翼をしまいこんだ…はずだったのだが、なにかに妨害されているかのように翼がしまえなかった。
…なんとか翼をしまおうとするが、しまえない。
魔耶「……えぇ…?なんで翼がしまえないの…?昨日まではしまえてたのに…」
……私の悪魔化は、もうそこまで…?
魔耶(…もしかして…夜の背中の痛みの原因は、これ…?)
ブラッカル「私達、つーか.....テメェの母親の事だよ」
カルセナ「えっ.....?お母さん?....お母さんが、ブラッカルを封印してるって事??」
ブラッカル「....正確には少し違ぇが....ま、そんな所だ。お前の中に残る親の念が、私を邪悪な存在と認識してここに閉じ込めてんだろうな。良く言うだろ、死んだとしてもずっと心の中に居るとか」
カルセナ「そうだったんだ....じゃあもしかして、あの声も.......いや、そんな事言ってる場合じゃないよ!魔耶の悪魔化、どうやって止めよう....」
そう言うと、ブラッカルがきょとんとした顔でカルセナを見た。
ブラッカル「お?珍しいな。お前が執着せずに、気持ちを切り替えるなんて」
カルセナ「だって......大事な人を二人も失いたくないもん....」
ブラッカル「....成る程な、そりゃそうだ。ま、さっきも言ったように、私はお前のやる事をやるだけだからな」
カルセナ「何か情報収集とか手伝ってくんないのー?」
ブラッカル「無理だろ....こっからあんま出れねぇんだから。二人で考えろ、私は知らねぇ」
そんな事を言うブラッカルに、少しムスッとした顔を見せる。
カルセナ「もー、こんなとこで性格の悪さ出してくんなよー!!何か考えといてよ?私も全力で考えますからー!!」
ブラッカル「へーへー。分かったよ......ん、そろっと魔耶が来んな。お前、起きてた方が良いんじゃねぇか?」
カルセナ「呼んだのはそっちの癖に.....んじゃあ行くね、バイバイ」
ブラッカル「あー、何か思い付いたらまた言うから。それと.....」
カルセナ「....?」
ブラッカル「........いや、やっぱ良い。早く行け、早くしねーと来るかもしれねーぞ」
カルセナ「もう、何なん....」
呆れた様に言い返して戻るカルセナの背中を、ブラッカルはずっと見ていた。
ブラッカル「........頑張れよ。死んでも、負けんじゃねぇぞ....」
カルセナ「......ふぁ〜......まだ魔耶は来てない....か」
魔耶「…悪魔耶の鎖がとれて、それと同時に背中が痛くなったんだよね……。…じゃあ、悪魔耶がどこかの部位を動かせるようになったら…その部位が痛くなるのかな…」
…でも、それで悪魔化の進行状態が分かるかもしれない。痛いのは嫌だけど、それで今の状態が分かるなら…
魔耶「…はぁ。これもカルセナに報告しなきゃ。あの話と一緒に話しちゃおう…」
深いため息をつき、能力で服をつくった。いつも上着の下に着ている白シャツの背中に翼を出すための穴を開けたデザインだ。この服なら着やすいであろう。
魔耶「上着は着れないけど…まぁしょうがないか」
カルセナがいるであろう部屋の扉のドアノブに手をかけ、ガチャリと開ける。
魔耶「…カルセナ〜、あがったよ。…待たせちゃった…?」
カルセナ「あっ、魔耶....全然大丈夫だよー」
魔耶「そう、なら良いけど.....」
ゆっくりとベッドに腰掛ける。シャワーを浴びた後にも関わらず、魔耶の背中から翼が出たままになっているのを見て、本当に悪魔化が進んでいるんだという事が実感出来た。
カルセナ「魔耶さ.....悪魔化の件、大丈夫....?」
大丈夫な訳が無い。しかし、どんな言葉を言えば良いのか良く分からず、少しまどろっこしい質問をしてしまった。単刀直入に問い掛けるのも、ちょっと気が引けた。
魔耶「あー.....それね......」
座ったまま、斜め上らへんの空間を見ながらふぅ、と小さな溜め息を吐いた。
カルセナ「まぁまぁ時間経っちゃってるし.....どうなのかなって....」
本当は知っている。魔耶の悪魔化が進行している事も、魔耶が魔耶でいられるタイムリミットも。自分とは違う、魔耶の表現が聞きたかっただけなのかもしれない。
魔耶「…ちょっと、まずいかな…羽もしまえなくなっちゃった」
苦笑いを浮かべて自分の足元をみる。
カルセナ「…だから、ずっと羽出してたのね。いつから…?」
魔耶「気づいてたのね。…昨日の夜からかな。気づいたのはさっきだけど。…それに、私が悪魔になるまで、あと4日くらいだって…もう一人の自分に言われた」
カルセナ「…そっか…」
魔耶「……だからさ、カルセナに言わなきゃいけないことがあるの」
下へと向けていた視線を上げ、カルセナの瞳を見つめた。
カルセナ「....な、何.....?」
これまでとはうって変わった魔耶の真剣な眼差しに、ごくりと息を呑む。
魔耶「ずっと言わないとって思ってたけど、すぐには言い出せなかった....大事な事」
魔耶は、視線をカルセナから外すかの様な素振りは全く見せなかった。今までこんな魔耶を見たことが無い。それ程重大で、言い出しにくい事なのだろうか。
カルセナ「.....うん、分かった。聞くよ.....」
そう言うと魔耶は、一呼吸置いてから話し始めた。
魔耶「ありがとう......あのね」
魔耶「…単刀直入に言おうかな。…今日から三日後の夜、カルセナには私をこの世から消してほしい」
カルセナ「…え…?」
カルセナが混乱したような、私の言葉を理解できないような表情を浮かべた。…もちろんそんな反応になるだろうなとは思っていたが。
カルセナ「…な、なんで…なんで私が、魔耶を…」
魔耶「はは、ざっくり言い過ぎたね。詳しく説明するから聞いて」
魔耶「…さっき、あと4日くらいがタイムリミットだって言ったの、覚えてる?」
カルセナ「もちろん…」
魔耶「…もし私が悪魔になったら…カルセナを傷つけるかもしれない。もちろんならないように解決策を探すけど……もし、だよ。解決策が見つからなかったら?…そしたら、手遅れになる前に対策をうたなきゃでしょ」
カルセナ「…」
カルセナは魔耶の言おうとしていることがなんとなく分かった。…でも、それを考えたくなかった。
そんなカルセナの思いを知らない魔耶は、話を続ける。
魔耶「私の中の悪魔がどんなやつかなんてよくわからない。どんなことを企てているかなんてわからないでしょ。…だから、私が悪魔になって罪を重ねる前に…この命を摘み取ってほしい。……もちろん、無理にカルセナがやる必要はないよ。カルセナが無理そうだったら私がそこらへんのモンスターの巣にでもいくか、ニティさんに任せるかすればいい」
魔耶はまるで他人事のように淡々と話しを続けた。…感情的になってしまったら、また泣いてしまいそうだったから…。
魔耶「まだはっきりとはわからないけど、きっとあと4日に近い数字で私はいなくなる。どっちにしても私は消えるんだよ?だったら、私は人間に近い…今の状態のまま消えたいから…」
カルセナ「.......やだ......そんなの、おかしいよ........」
魔耶だって、苦渋の決断だったのだろう。そうするしかないのだろう。でも、そんな事、少しも考えられなかった。
沢山協力し、笑い合い、これまで触れ合ってきた魔耶を、今までの時間を、全て闇に葬るなんてーー。
魔耶「.....ごめん。でも、カルセナやひまり達....皆が傷付かない様にする為には、そうするしかないの....」
カルセナ「...............から」
小さな、消え入りそうな声でボソッと呟く。
カルセナ「...諦めないから......絶対、助かる方法を見つけるから.........だから......」
言葉を重ねて行く内に感情がこもる。瞼がじんと熱くなるのが分かる。
カルセナ「.......もっと一緒に居ようよ、魔耶....お願い......大事な人をまた失っちゃうなんて、もう嫌だよ.....」
勝手に涙がこぼれ落ちる。泣こうと思ってないのに、泣きたくなんてないのに。これは、魔耶を不安にさせてしまう悪い涙なのに。それに加え、どこまでも勝手な自分を、懲らしめてやりたかった。こんな事を言ったって、解決には繋がる筈が無い。それなのに言葉に出してしまう自分は、前に比べ全く成長していない。泣きたいのは、魔耶の方であるだろうに。本当に情けない。
魔耶「........カルセナ......」
カルセナ「.......こっちこそ、勝手に泣いちゃってごめん.....我儘だって事は、分かってる........」
窓の外では、この世界に来てからは見たことが無い、雨が降っていた。それも寂しそうな、しとしととした雨だった。
魔耶「……本当は、この話を最期までしたくなかったんだよ…カルセナが嫌がるだろうと思ってたから…」
再びカルセナから視線を反らし、申し訳なさそうに顔を背けた。
魔耶「私だってもっとカルセナと一緒にいたいよ…。それに、三日の夜までに解決策が見つかればこんな話は忘れていい。……でも、これから私がどうなるかわからないから…今言わなきゃいけなかったんだよ…。…ごめんね、辛い話して…」
カルセナ「…魔耶…」
魔耶「…ありがとう。大事な人に泣いてもらえて、私は今とっても幸せだよ」
カルセナ「っ…あたりまえ、じゃん…親友が死んじゃうのに泣かない人なんて…いないでしょ…」
魔耶「…そっか」
幼い頃から化け物扱いされていた自分のために、涙を流してくれる人がいる。昔では考えられなかったことだなぁ。
魔耶「…辛いけど、もし三日目の夜までに解決策が見つからなかったら…私は消える。それはもう決めたことだから…カルセナがいくら嫌がっても、私はやるから」
決意するように言い放ったあと、カルセナの涙で濡れた瞳を見つめて軽く微笑みかけた。
魔耶「私にとっては自分の命なんかより…カルセナの、皆の命が大切なんだ」
魔耶の小さな笑みを見て、少し気が楽になった様な気がした。このままではいけない。魔耶より悲しんでいて、どうするんだ。
カルセナ「........うん、ごめん....ありがとう.....」
鼻を啜りながら袖で涙を拭った。こんな姿、あいつに見られたらなんて言われるだろう。....いや、そんな事、今は気にしなくて良い。
カルセナ「......私、魔耶よりも、もっともっと頑張るから....!だから魔耶も、悪魔になっちゃう日までは一緒に頑張ろ....!!」
魔耶「......そうだね、一緒に頑張ろっか....」
期間をいつまで延ばせるか、はたまた延ばせないかもしれない。でも、出来る限りこの体で居れるよう、自分のままで居れるように努力しよう。そう決心した。
魔耶「.......話は終わり、朝ごはん食べよ!」
カルセナ「.....うん、そうしよう!....今日は雨降っちゃってるし、買ってあるもの食べよー」
先程の話を今は忘れようとしているかの様に、ベッドから素早く立ち上がってキッチンへと足を進める。
カルセナ「なんやかんやでお腹空いたわ…」
戸棚を漁り、なにを食べようかと悩んでいるカルセナ。
魔耶「そうね〜。昨日今日で色々あったし…考え疲れたし…糖分が必要ですねこれは」
カルセナ「チョコパンならあるぜ?」
魔耶「お、ナイスチョコパン。じゃあそれいただきます」
カルセナ「あいよ〜」
魔耶「ありがと〜。……む、これは牛乳が必要だな」
席を立ち、冷蔵庫の中に入っている牛乳を取りに行く。ハンバーグをつくったときに使った牛乳がまだ残っていたはずだ。
カルセナ「魔耶牛乳なんて飲むの?」
魔耶「なんてとはなによ。私牛乳大好きなんだからね〜。甘いもの×牛乳は相性バッチリなんだからな〜。特にこういうチョコパンとかは牛乳が必須アイテム」
カルセナ「そうなのか〜....パン食べるときも私は飲み物あんま飲まないんだよねぇ」
魔耶「よくそれで詰まらないな....」
カルセナ「気合いで押し込んでるからね....私は何にしよっかなー....」
続けて戸棚の中身を漁る。
魔耶「クリームパンは?生クリームじゃないし、いけんじゃない?」
カルセナ「確かに....丁度良い量だな.....んじゃ、これにしよっと」
クリームパンを掴んで戸棚を閉め、テーブルまで向かう。キッチン側の椅子を引いてそこに座った。
魔耶「よーし、これで完璧〜....」
片手に牛乳、もう片手にチョコパンを持った魔耶が、カルセナが引いた椅子と向かい合っている椅子に座る。
魔耶カル「いただきまーす」
魔耶「…うまいわ…糖分大事」
カルセナ「魔耶…さっきから糖分しか言ってないよ…」
魔耶「む、そんなことない…はず…」
言葉を言いながら前の発言を振り替える。
魔耶「……気のせい気のせい」
カルセナ「間があったように感じましたけど」
魔耶「む〜…しょうがないじゃーん。私の源は糖分なんだからさ〜」
カルセナ「ふーん…じゃあ、もし世界から糖分が消えたらどうなる?」
魔耶「生きていけなくなる」
カルセナからの問いかけに即答する。…我ながら最低の答えだなぁ…
カルセナ「…はは…そんなにか…」
魔耶「そんなにだ。カルセナだって、この世からチョコが消えるってなったらそうならない?」
カルセナ「流石に生きてけなくなるって事は無いけど....もう死んでるし。でも、無くなったら最悪だな」
魔耶「でしょー、どうか無くならないで欲しいわ」
カルセナ「まず無くなる事はないんじゃない?」
魔耶「まぁ、そうか〜」
甘いチョコパンをもぐもぐと頬張る。
魔耶「ん〜....牛乳牛乳.....」
喉に詰まる前に、即座に牛乳を流し込む。
魔耶「ぷはぁ〜....やっぱ合うね〜」
カルセナ「牛乳流し込んじゃったら、パンの味消えない?」
魔耶「その前にちゃんと味わってますし....詰まるよりかはマシだよ」
カルセナ「ふーん....ちゃんと歯磨きしとけよー?それは歯磨きをしないと確実に虫歯になるぞ」
魔耶「勿論ですとも」
カルセナ「....そういや魔耶って、牙とかあんの?魔族ってどうなのかな....」
魔耶「うーむ、普通の人間よりは鋭いかな。悪魔になったらもっと鋭くなるかもね」
軽く口を『いー』の形にする。魔耶の人間よりは鋭めな牙が見えた。
カルセナ「へぇ〜。流石魔族って感じだねぇ」
魔耶「そうかな〜…そういうカルセナの、幽霊らしいところはないの?」
カルセナ「…幽霊らしいところ…?」
魔耶「そうそう。カルセナは幽霊なのに実体もってるし…幽霊怖がるし…そんなカルセナに幽霊らしいところはあるのかな〜って」
カルセナ「馬鹿言え、あるわ!まず、空飛べるでしょ?それと、人に気付かれないでしょ?あと、暗いとこでも良く見える....」
魔耶「ちょいちょい、2つ目は怪しくないか?と言うより、既に見えてるし....」
カルセナ「前の世界では気付かれなかったんだけどなぁ〜....実体はあるけど見えない透明人間みたいな感じでさ。....てか、この世界に来てから何か色々変わっちゃったんだけど.....本当は他にも、お腹空かなかったり、いつも少しだけ浮いてたりしたのよ?」
魔耶「そうなんだ....じゃあ結構不便になっちゃった感じ?」
カルセナ「不便....では無い。むしろ人間時代を思い出せて、楽しいっちゃ楽しいかな....そう言えば、何で私実体あっちゃってんだろう.....普通、ゴーストって実体無いよね?」
魔耶「うん、カルセナは何か違うよね....」
カルセナ「何が原因なんだろうか....そもそも、良く成仏しなかったなぁ私....」
魔耶「未練があると、成仏出来ないって話は聞いた事あるけど」
カルセナ「多分それだなー。でも、また元の世界に戻っても、未練増えちゃったから更に成仏出来なくなるな」
魔耶「未練増えたの?」
カルセナ「魔耶が恋しくなるかもしんない....分からんけど」
魔耶「何じゃそりゃ」
カルセナ「中々消えないもんだよ?そう言う体験ない?」
魔耶「ん〜…死んだことないからわかんないかな〜」
カルセナ「えー…いきなりなにかが恋しくなることないの?」
魔耶「キャラメルは常に恋しいけど?」
カルセナ「そういうことじゃないんだよなぁ…」
カルセナのあきれたような反応を見てクスリと笑う魔耶。
魔耶「はは、冗談だよ冗談。…私ももとの世界に帰ったらカルセナとこの世界が恋しくなるかもね〜。カルセナの気持ち、わかるよ」
カルセナ「そう…ありがとね。……キャラメルはほんとに冗談か?」
魔耶「…二割くらいは冗談…」
カルセナ「流石キャラメル好き.....もぐもぐ...ごちそうさま〜」
食べ終わると、パンの包装紙を備え付けのゴミ箱に捨てに行った。
魔耶「ごちそうさま。朝にしては丁度良い量だったかな〜.....」
空のコップを流し台に持って行くと、今回は自分で洗い始めた。
カルセナ「あ、自分で洗ってる」
魔耶「コップ1つだけですから〜....流石にこれだけにくまさんを召喚するのは魔力の無駄遣い!」
カルセナ「まぁそっか〜....さて、今日はどうします?解決策真剣に探さないと、そろそろやばいし....」
魔耶「うーん....図書館以外にどこか当たれる場所はあるのかな....」
カルセナ「んー....詳しい人のところとか?でもなー.....あんまり思い浮かばない....かなぁ....」
二人で頭を悩ませる。部屋に響き渡るのは、流し台の水音だけとなっていた。
魔耶「ゆうてここの世界で出会った人少ないしね…」
いままで出会ったことのある、接点の深い人物を思い出してみる。
カルセナ「確かに…んっと、まずはニティさんでしょ?次にひまり、みお、めぐみさん、あとはあの異変メンバー…くらいか」
魔耶「一番情報をもってそうなのはニティさんとめぐみさん、異変メンバーだけど…異変メンバーに協力なんてしてもられるのかねぇ…」
カルセナ「かってに敷地に入って暴れたもんね」
魔耶「その言いかたはやめてよ。仕方なかったんだから〜。…んでも、まぁ…間違ってはいない、けど…」
カルセナ「挙げ句のはてに暴力を…」
魔耶「ぐっ…せ、正当防衛だからセーフセーフ。…んでも、流石にそんな人達には頼れないか…?」
カルセナ「昨日の敵は今日の友みたいな展開にならないかなぁ…いくだけ行ってみようよ。なにかしら情報がもらえるかもしれないじゃない」
魔耶「…そうね。じゃあ行ってみるか。まだあの基地にいるのかなぁ?」
カルセナ「そんなコロコロ変えるようなもんじゃないでしょ〜。きっと居るよ」
魔耶「そっか、じゃあ手っ取り早く準備して向かいますか」
その後、素早く各々の準備を済ませて基地へと向かう事にした。
宿の外へ出ると、先程より小雨になってくれていた。これなら飛び立てそうだ。
魔耶「えーっと......確かあっちだったかな」
カルセナ「魔耶が言うなら大丈夫よ」
魔耶「さぁ、どうだか。途中で雨がどしゃ降りにならない事を祈ろう....」
いつもの調子で軽く地を蹴り、ふわっと空へ飛び立った。僅かに顔に当たる小さな水滴が、考え事をして熱くなった頬を冷ましてくれる。カルセナは、バサバサと羽ばたく魔耶の翼を見ながら問い掛けた。
カルセナ「....普通に飛べる?悪魔化が進んで来てて、もしかしたら....って思ったんだけど....」
魔耶「…うん。特に飛びにくいとかそういうことはないかな」
カルセナ「そっかぁ…ならいいけど…」
魔耶「…飛べなくなることはないと思うよ…?悪魔だって飛べるんだから。悪魔ができないことは出来なくなるかもしれないけど、悪魔でもできることはできると思う」
カルセナ「ふーん…じゃあさほど大きな変化はしないのか…?」
魔耶「…ちょっと角が生えるくらいじゃないかな?」
カルセナ「充分大きな変化じゃないですかヤダー」
なんて軽く会話をしながら、前に基地があったはずの方向へと飛んでいく。少しずつ見覚えのある景色が見えてきて、やはりこの方向であってるんだと安心した。
魔耶「....こーやって飛んでると、気持ち良いねぇ」
少し肌寒くはあるが、上空から周りの景色を眺めるのは悪いものではない。
カルセナ「そうだね〜、もう少し天気良くあって欲しかったけど」
魔耶「まぁ、飛ぶと暑くなるし丁度良いかもよ?」
カルセナ「確かに....後の事を考えると今の方が良いかもな〜」
魔耶「そうだよ〜」
ゆっくりと雑談をしながら、それでも速度は落とさずに目的地へと向かう。
魔耶「....はぁ、何かしらの有力情報あると良いなぁ....」
カルセナ「あれだけの組織だし、少しくらいあると思うけど....今の私達には、祈る事しか出来ないからね」
魔耶「もしくは別の解決策を考える....かな。と言っても、あんまり思い付かないもんな〜」
カルセナ「取り敢えず、聞いてみるだけ聞いてみよ」
その後、暫く飛んでいると、見覚えのある建造物が顔を覗かせた。
魔耶「.....あっ!あれだ!」
カルセナ「うん?....あっ、ほんとだー」
魔耶「流石にこのまま入るのはあれかな.....」
カルセナ「だからと言って侵入も....どうする?」
魔耶「周りに誰か居たら良いんだけど....そんな事ないかなぁ」
カルセナ「うーん......」
魔耶「……まぁ…とりあえず降りてみよっか。誰かいるかもしれないし…」
魔耶の言葉で、二人は蓬達がいるであろう建物に向かって降りていった。建物の入り口が近づいてくる。
カルセナ「…ん、また見張りの人がいるじゃん」
魔耶「え…あ、ほんとだ。事情話せば入れてくれるかな…」
前に来たときと同様、入り口には見張りが立っていた。…ひとつ前と違うことをあげるとすれば、見張りが一人から二人に増えていることくらいだ。
魔耶「…なんか増えてない?」
カルセナ「だね……」
…もしかして、私達が簡単に進入してしまったから見張りを強化したのだろうか…いや、これ以上深く考えるのはやめておこう。私達のせいなんかじゃない…はず。
カルセナ「じゃあちょっと行ってみようか.....?」
魔耶「うん......」
そっと見張りの前に姿を現す。当然、警戒されている様だ。
魔耶「あの〜、すみませ〜ん.....」
見張りA「何だ、お前等は」
魔耶「少し急用があって、あの.....柚季さんや逸霊さんとかに聞きたい事があるんですけど....」
見張りA「.....!?何故お前等が幹部の名を知っている!!何者なのか答えろ!!」
構えていた剣の切っ先を二人に向ける。
見張りB「...!!待て......こいつらまさか、あの時の......ッ」
見張りA「.....何だ?」
見張りB「幹部達が負けた話を聞いただろ!!その時に居た侵入者だよ!!」
見張りA「な....何だと!!?じゃあどうしろってんだ....」
二人の見張りが私達をどうするかで相談している。それを私達は黙って見ていたが、不意に後ろから、何者かに声を掛けられた。
???「あれ?もしかしてそこに居るのは、魔耶さんとカルセナさんじゃないですか〜?」
聞いた事のある、天然口調でほわっとした声。気配もしなかった後ろを振り向く。そこに居たのは紛れも無く、幹部の1人である柚季であった。
カル魔耶「…柚季‼」
柚季「お久し振りですね〜。わざわざこんなところまで来るなんて…なにかお困り事でもあるのでしょうか?」
…流石幹部というだけあって、鋭い。瞬時に見抜かれるとは…
魔耶「……まぁそんな感じなんだけど…中に入ってもいいかな?他の幹部達にも相談と情報収集したいからさ」
今事情を話すよりもいっぺんに話したほうが楽だし都合が良い。見張りの前であんな話したくないし。
柚季「?……わかりました〜。見張りさん達、カルセナさんと魔耶さんを入れてあげてくれませんか〜?」
見張りA「っ…し、しかし…」
もちろん戸惑う見張り達。当たり前だ。前に基地を荒らした侵入者を招き入れるなど、見張りの意味がない。しかしわざわざ幹部にお願いされてしまっている。普通なら幹部が私達を追い払おうとする立場であるのに…
見張りとしてのプライド。絶対な幹部の発言。この二つの間で彼らの心が揺れているのが透けて見えるようだ。
柚季「大丈夫ですよ〜責任は私がとりますから〜」
見張りA「……本当に大丈夫なんですか?こいつらは前にここに来て基地を荒らした、侵入者なんですよ」
見張りB「また今回もなにを企んでいるのやら…」
見張りの視線が私達に向けられる。なんにも企んでないんだけどな…まぁそう思われるのも無理はない行動しちゃったからしょうがないっちゃあしょうがないんだけど。
柚季「大丈夫ですって〜。なにかあったら私が対処しますから。…それに、私の友人らを疑うのはやめてほしいですね」
珍しく、柚季が怒ったようにしかめ面をした。いつもニコニコした表情を浮かべている柚季の初めて見せた顔だ。
流石にこれ以上はやばいと感じたのか、ついに見張りも折れた。
見張りA「…わかりました。失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません。お通りください」
柚季「それでいいのですよ。さぁカルセナさん、魔耶さん、どうぞ中に」
カルセナ「…初めて柚季さんの幹部らしいところを見た気がするよ」
魔耶「…ね…」
https://www.youtube.com/watch?v=bQvoT3roxFI
鬼滅の刃の声真似動画です! !
似てますか??
柚季に案内され、建物の中へと入る。前に来た頃とは何も変わっていなかった。
柚季「こちらへどうぞ〜。どうせなら、幹部達がいる所が近い方が良いでしょう」
そう言って地下へと誘導する。二人はそれに従順に従い、階段を降りていく。
柚季「.....さ、どこかしらにでも座って下さい」
カルセナ「じゃあ、お言葉に甘えて....よっと」
機械の一部だろうか、何もなく丈夫そうな場所だったので、そこに腰を下ろした。
柚季「さて、今回はどんなご用件ですか?」
朗らかな笑顔を向けながら、こちらの用件を聞いてきた。
魔耶「えっと....どう話せば良いかな.....まぁ、まずは....」
細々と、余す所なく魔耶の悪魔化について説明する。それを聞いている柚季の表情はころころと変わっていたが、話し終わる頃には元の笑顔へと戻っていた。
魔耶「.......と言う訳で、悪魔化を鎮める為の解決策を探していて.....何か思い当たるものありませんかね....」
柚季「うーん…すみませんが、私はあまりそういうことに詳しくはないので…。そういう人体のことは雅さんのほうが詳しいと思います」
魔耶「…そう、ですよね…自分で言うのもなんですが、こんなのレアケースだと思うので。ありがとうございました」
柚季の回答に少しガッカリしたが、いい情報も得られた。雅なら詳しいかも、と。
柚季「お力になれず申し訳ないです…。その代わり、というわけではありませんが私にできることならなんでもしますよ」
カルセナ「ありがとう。…んじゃあ、雅が今どこにいるか分かる…?」
柚季「雅さんなら、恐らくいつもの.....地下3階で実験でもしてると思いますよ〜。行ってみたらどうです?」
カルセナ「今行っても大丈夫なんすかね......」
柚季「うーん、まぁ大丈夫でしょうけど.....何なら着いていきましょうか〜?」
魔耶「ん〜.......んじゃあ、よろしくお願いします」
二人だけで行ったら、何らかの理由を付けられて相手にされない可能性もある。だが、同じ幹部に着いてきて貰っていれば少しでも違いはあるだろう。そう考えた。
柚季「了解でーす。早速行きましょうか」
再び柚季の後に続く事となった。地下2階を通り越して、地下3階へと降りる。
前にも嗅いだ事のあるおかしな匂い、言わば薬の強い匂いが漂ってきた。
カルセナ「う.....ここはやっぱ変な匂いだねぇ.....」
魔耶「慣れるしかないよ、こればっかりは....」
奥に見える部屋に向かって柚季が呼び掛ける。
柚季「えーっと....雅さ〜ん?お客さんですよ〜」
すると、聞き覚えのある少し低めの声が部屋から聞こえてきた。
雅「………客?あとにしてくれないか。私は今忙しいんだ」
柚季「まぁまぁ…そんなこと言わないでくださいよ〜。せっかく二人が訪ねてきてくれたんですし…それに、後じゃだめです。大事なことのようなので〜」
雅「…二人…?客とは誰なんだ?」
柚季「カルセナさんと魔耶さんです。…それに、これは雅さんにとって興味深いことかもしれませんよ?」
雅「……ちっ、入れ」
柚季の言葉に興味をそそられたのか、雅が部屋に入ることを許可してくれた。三人で部屋の中に入る。
…部屋は相変わらず薬品のにおいが漂い、色々な生物が緑色の液体に浮いていて薄気味悪かった。だがこの際そんなこと言ってられない。っていうかそんなこと言ったら追い出されてしまいそう。
魔耶「お邪魔しまーす。お久し振りです…」
雅「できれば二度と会いたくなかったがな。…で、何の用だ。さっさと用件を言え」
カルセナ「…ひどい言い種ですなぁ…」
雅「私はお前らに構っているほどの暇がないんだ。…わざわざ私の実験を中断させたんだ、さぞかし興味深い話なんだろうな?」
魔耶「…はは、どうですかね。少なくとも簡単には解決できないような話ですが。……じつは…」
柚季にした様に、雅にも同じ事を話した。
魔耶「....と言う事なんですけど......」
雅「....ふん、どんな酷い話が来るかと期待していたものだが....少しは調べがいがありそうだな」
顎に手を掛けて、魔耶の話を聞く。
魔耶「この事について、何か知っている事とかありますかね.....何でも良いので」
雅「....どうだろうかな。過去にその様な事例があったのならば、覚えている筈だが....生憎そんなものは、記憶には無い」
魔耶「....そうですかー......」
がっくりと肩を落とし、項垂れている様に見えた。
柚季「....ほんとに初めて見たんですかー?何か似たような事とかは無かったんです?」
雅「私の記憶に無いだけ、と言う可能性は極めて低い.....が」
元居た部屋をちらっと見る。
雅「私の部屋には、実験を記録したもの以外にも様々な文献がある。もしかしたら、その文献の中に1ページくらい有力情報が混ざっている事も、無くは無いだろう」
カル魔耶「……!」
雅のような研究者が持っている本なら図書館の本よりも有力な情報が見つかりそうだ。それに、ある程度のジャンルに絞られているだろうから探しやすいかもしれない。
魔耶「そ、その文献を見させてくれませんか?お願いします!」
雅「……別に見させてやってもいいが……そのかわり、私の研究の邪魔になるようなことはするな。あと文献は丁重に扱え。ほんの少しでも汚したりしたら…どうなるかはわかっているな?」
魔耶「は…はい…」
カルセナ「…は、はーい…やっぱ怖いわ、この人…」
雅「…ふん、じゃあ私は研究に戻るぞ。邪魔するなよ」
そういって雅はまたもといた場所に戻ってしまった。
柚季「愛想ってやつがないですねぇ、雅さんは。…さて、それじゃあ文献とやらを漁ってみますか」
柚季が先導してそっと部屋に入る。部屋の中の棚には、様々な薬品が並べられていた。その隣に、沢山の文献があった。殆どのものは保存状態があまり良くなかったが、それでもギリギリ読めそうだった。
3人で静かに情報を探す。それっぽいものを見つけて、手に取っては読み、情報が得られなかったら再び棚に戻す。そんな作業を続けた。
カルセナ「.....あった〜?それっぽいの....」
ひそひそ声で問い掛ける。
魔耶「うーん、今のところ無いかなぁ.....惜しい様なのはあるんだけど....」
カルセナ「そうかー....」
やはり難しいものか....そう思い、情報探しを再開しようとしたそのとき、柚季が話し掛けてきた。
柚季「魔耶さーん、こんなのはどうですかね〜?」
1冊の本....と言うより、書類を纏めただけの様なものを持っていた。どうやら雅の研究報告書らしきものだった。
魔耶「えっ....?どれどれ.......」
柚季が指を栞代わりにして挟んでいるページを見る。そこには、悪魔についての色々な事が書き留められていた。
魔耶「…!悪魔について、色々書いてある…」
カルセナ「えっ!本当!?見せて見せて!」
カルセナと一緒に研究報告書を覗きこむ。
文字が小さくて読みづらかったが、やはり悪魔のことを記してあるようだ。
内容を声にだして読んでみる。
魔耶「タイトル…『人ならざるもの、悪魔について』」
カルセナ「ほんとに悪魔についての内容なんだね…悪魔について、ならなにかいい情報が載ってるかも!」
魔耶「うん…そうかもしれない…!…続き読んでみるね…」
少しだけ胸に期待を抱きながら続きを読み進めた。
魔耶「悪魔とは.....人間の恐怖心、邪心などから生まれたものと推測される....悪事を好んで行う.......これはまぁ、良いかな....」
次の項目を探す。見つけた所には、雅が実際に悪魔関連の何かを体験したかの様に、色々と書いてあった。
魔耶「えっと....再び悪魔が解き放たれたときの為、まだ付け焼き刃ではあるが、自己流の対処法をここに記す....」
カルセナ「それ、何か凄い有力そうじゃない....?」
魔耶「うん、そうだね.....悪魔を閉じ込める為には、何かの物体へと封印する事が有効だと考察した。その悪魔が、もしも自分と関係深いものであったなら、自身が思い入れのある物体が良い。それなら、自分自身の思い入れで、より強靭となった封印で悪魔を閉じ込められるだろう...」
カルセナ「封印ってワードが出てきたね....どこかに封印方法書いてあるかな....」
魔耶「分かりやすいのがあると良いけど....」
ペラッと次のページを捲る。
魔耶「悪魔の封印手順....あった!えーと.....封印するとは言っても、悪魔は悪魔。身を封じられる事を安易に受け入れる筈がない。封印する手始めに、どうにかして悪魔を弱らせる必要がある....だって」
カルセナ「弱らせるって言ったって....魔耶の悪魔は魔耶の中にいるんでしょ?どうすれば良いのかな....」
魔耶「…ちょっと危険すぎる方法なんだけど…一回、悪魔を外に出してみる…とか…?」
真っ先に頭に思い浮かんだ案を口に出してみる。案の定カルセナにはとてもショックを受けたような顔をされた。
カルセナ「えっ…で、でもそんなことしたら…魔耶がもとにもどれなくなるんじゃ…!?」
魔耶「…まだ入れ替わったばかりの頃だったら、早めに悪魔を封印すれば戻れるんじゃないかなぁ…根拠はないけど」
カルセナ「…流石にその案は危険だって…。どうなるか分からないんだよ?…それに、そうしたら私が悪魔を攻撃して弱らせなきゃいけないじゃん」
魔耶「いやいや、悪魔の相手をカルセナ一人に任せたりしないよ。いざとなったら戦えそうな人におねがいしてまわればいいし。…柚季さんはどう思う?この案」
魔耶からの問い掛けに少し首を傾げて考える。
柚季「うーん....まぁ、魔耶さん本人が言ってるのであれば良いと思いますよ。ご本人の意思を尊重するのは大事な事ですし」
魔耶「ありがとう。....だってさ。だから、大丈夫だよ」
カルセナ「うー.....心配だけど......時間がないし、それくらいしか無いのなら仕方無いのか.....分かったよ」
魔耶「....うん、じゃあお願いね。えーと....肝心な封印方法は.....抵抗が殆ど出来ないくらいに弱らす事が出来たら、私が作り出した『あれ』を使って、物体に封印する。保存場所と用途は、もし、この書を何者かに読まれてしまったときの為、記さない事とする.....って」
カルセナ「えっ....んじゃあどうするの....?」
魔耶「うーん....これはもう、あの人に....」
柚季「雅さんに頼んでみれば良いんじゃないですか〜?」
話を割るかの様に、今まさに魔耶が言おうとしていた事を提案してきた。
魔耶「うん、だから....そうするしか無いのかな〜って....」
柚季「一回言ってみれば、もしかしたら教えてくれるかもしれませんよ?」
カルセナ「.....じゃあ、ちょっと怖いけど....言ってみる?」
魔耶「だね......」
魔耶「…えーと…雅さん…?ち、ちょっと聞きたいことがあるんですけど〜…」
恐る恐る実験中の雅に近づき、声をかけてみる。実験の邪魔をするなと言われていたため、どんな反応をされるかと内心ドキドキしていた。
雅「……またお前らか。なんだ?」
実験をまたもや中断されたためだろうか、少し不機嫌そうに魔耶達の方向を向く。
カルセナ「…この研究報告書をみたら、悪魔のことについて色々と書かれてたんです。でも肝心なことが記されていなくて…だから、これを書いた雅さんに直接お尋ねしたいな〜と…思いまして…」
引きぎみの魔耶達からそう聞かれ、少し時間をおいて応える。
雅「....それか......新たな情報入手の為ならば仕方が無い、特別に教えてやる。....柚季、お前は聞くんじゃない。離れていろ」
二人の後ろから距離をとって見ていた柚季に注意する。
柚季「別に聞いたって、悪用なんかしませんよ〜。もしかして私の事、そう言う風に思ってたんですか?それに、離れたって、私には全部聞こえちゃいますけどね」
雅「...はぁ.....」
大きな溜め息を1つ吐いて、部屋のある壁をグッと押した。するとその壁は、金属音が混じった様な、少し不快な音を立てながら180°回転した。何やら小さな引き出しが出てきた様だ。雅がそこから取り出したものは、無色透明でキラキラと光る水晶の欠片の様な、とても綺麗なものだった。
魔耶「それは......」
雅「これがそこに書いてある、私が作ったものだ。封印結晶と言い、一切の穢れを持たない物質から出来ている。どう作ったかは企業秘密だ」
カルセナ「へぇ.....綺麗....それで、どうやって使うんですか.....?」
雅「…封印するには物質が必要だと書いてあったろう?この封印結晶をその物質と触れさせればいい。そうすればその物質は悪魔を封印するためのよりしろとなる」
魔耶「なるほどなるほど…その物質って、なんでもいいんですか?」
雅「物質ならなんでもいいぞ。まぁ、その研究報告書にも書いてある通り、思い出深い物の方がいいだろう。なんせお前の体の中にいる悪魔らしいからな、よっぽど思い出深い物じゃないと封印できないかもしれん」
カルセナ「…ふーん…魔耶、そういう思い出深い物ある?」
魔耶「………うーん…」
腕を組んで少々考えてみる。思い出深い『場所』とか『思い出』とかならすぐに思い付きそうだが…物となるとすぐには思い付かない。
視線をさげ、しっかり考えようとしたとき。
魔耶「んーと……あっ、ペンダント……」
うつむいたときに目に入ったのは、いつも身に付けている赤いペンダントだった。
魔耶「…このペンダントなら、いけるかもしれない」
カルセナ「…あぁ、そういえばいつもそのペンダント着けてるよね。思い出深いものなの?」
魔耶「うん。このペンダント、私が初めてつくった物なんだよね〜。まだ幼い頃だったからつくったあとは魔力切れで倒れちゃったらしいんだけど…閻魔様にも友達にもたくさん誉めてもらえて、嬉しかった記憶がある」
カルセナ「へぇ〜....それならいけそうだね」
魔耶「だね....じゃあ、これにします」
ペンダントを手のひらに乗せ、雅に見せる。
雅「....ならばこれを、先程私が言った様に使ってみろ」
封印結晶を魔耶に手渡す。魔耶は、雅から言われた様に、ペンダントに封印結晶を触れさせた。すると、結晶が砕け散り目を刺すかの様な眩い光となってペンダントに吸い込まれて行った。
魔耶「わぁ.....!!す、凄い.....」
カルセナ「眩しかった〜.....」
雅「これで、封印する物体の準備は整った。封印方法についてはだな.....」
魔耶「....やっぱり、悪魔を封印するものだから難しかったりするんですかね......?」
雅「聞いてからでないと分からないだろう。難しいかどうかは、聞いてから考えろ」
雅「…で、肝心の封印方法だ。始めに、悪魔を動けなくなるくらいにまで弱らせる」
魔耶「…それって、物理的に攻撃するんだよね?悪魔は回復力が高いし、全ステータスも高いから…まずそこで苦労しそう」
自分が悪魔状態になったときを思い出しながら意見を述べる。
魔耶が悪魔状態になったときは全ステータスが飛躍的に上がっていた。もし悪魔が外に出たとしたら、その悪魔は悪魔状態のときと同じくらい…もしくはそれ以上の力をもっているだろう。
雅「…そうだな。もしかしたら精神的な攻撃も必要になるかもしれん。悪魔の体力は多いからな、真っ正面から戦えば先にこっちの体力がなくなるだろう」
カルセナ「えぇ…精神的な攻撃ってなによ…罵倒を浴びせればいいの?」
雅「そうだな…悪魔が嫌がる物を使うとか、だろうか。罵倒なんぞ浴びせたって意味ないと思うぞ」
魔耶「ふーん…ここでも、悪魔の苦手なもの問題か…それは後でじっくり調べなきゃな。……それで、次の手順は?」
雅「弱らせる事が出来たら悪魔の額に、悪魔を入れる物体を触れさせる。....それで終わりだ」
意外と呆気ない説明に、二人できょとんとした顔を見合わせる。
カルセナ「あ、え...それだけ?」
雅「あぁ、そうすれば悪魔は自然と物体に吸い込まれ、封印されるだろう」
魔耶「弱らせた後は思ったより...簡単そうなんだけど.......」
雅「まぁ、悪魔が本当に何も抵抗出来ない状態ならばな」
その一言に、何らかの疑問を抱く様に再び前を向く。
雅「悪魔は悪魔.....だ。何が起こるか分からん。封印される直後に突然変異し、更に凶暴化しても何もおかしくはない」
魔耶カル「........」
悪魔を封印するシーンを思い描き、ごくりと息を呑む。再び封印する事は決して甘くないという事実を、改めて悟った。
雅「…封印の手順はわかったか?」
雅の言葉で、頭に思い浮かべていたシーンが振り払われる。
魔耶「あ、うん…ありがとうございました」
カルセナ「ありがとうございました…。いい情報が得られたよ」
雅「そうか…まだ調べものがあるんだろう?さっさと調べてこい。私は大切な実験を早く再開したいんだ」
柚季「…雅さん、ほんとはこういうこと知ってたんじゃないですか〜。なんでさっき教えてくれなかったんです?意地悪ですよ〜?」
少々不機嫌そうに、でも面白そうに柚季が質問する。
雅「……ただ忘れていただけだ。そんな研究したのは何百年も昔だからな」
魔耶「そんな昔に…なぜ悪魔の研究なんかしたんですか?もしかして…昔悪魔関連でなにかあったとか?」
雅「.....ある....が、お前達3人に話す義理は無い。用が済んだならば、早く去れ」
魔耶カル「....はーい.....」
雅が話を止めて実験を再開し始めたので、仕方無くここを去る事にした。
柚季「....うちの雅さんが、すみませんね〜」
魔耶「いやいや、かなり良い情報や封印方法が得られたから良かったです」
カルセナ「戻るんなら早く戻って、今度は悪魔を倒す情報集めでもしないとね」
魔耶「そうだねー」
柚季「頑張って下さいねー、何かあったらまた協力しますよ」
魔耶「うん、そのときはよろしくお願いしまーす」
柚季「はーい、それじゃあ....」
魔耶カル「さよならー」
二人が飛び立って暫くした後、柚季は再び雅の元に戻った。
柚季「...なーんで話さなかったんですか?話したって良い内容でしょうに」
雅「....何だ、またお前か。他人にペラペラと話す様なものじゃない....ただそれだけだ」
柚季「....もしかして、話してる暇があったら少しでも有力な情報を集めに行って欲しい....とか、そんな感じでした?」
雅「......五月蝿いな、実験の邪魔だ。暇なら見張りでもしていろ」
柚季「....ふふ、素直じゃないですね〜....」
少しご機嫌そうに、雅に聞こえない様に笑いながら地下3階から上がった。
魔耶「ふぅ…。いい情報が得られたから、ちょっとだけ心にゆとりができたよ」
空中でほっと安心したようなため息をつく魔耶。その首には、悪魔を封印するためのよりしろとなったペンダントがかけられていた。
カルセナ「うん、よかったぁ…。なんの情報もなかったらどうしようかと…」
魔耶「そうだね〜…まだ100%悪魔を封印できるってなったわけじゃないけど…それでも、確率は格段にあがったよね?」
カルセナ「うんうん。この調子でいけばもっと良い情報が得られるよ!」
…励ましてくれてるんだろうな。カルセナの明るくて前向きな言葉を聞いて、自然と微笑みがこぼれる。
魔耶「そうかもね……ありがとう、カルセナ」
カルセナ「なにを今さら〜。毎日感謝されてる気がするよ?」
魔耶「だって〜…カルセナがいなかったら、私は一人で途方に暮れてたかもしれないじゃん。こんな良い情報は見つからなかったかもしれない。…だから、ありがと」
そう言うと、カルセナは照れくさそうに魔耶から顔を背けた。
カルセナ「そんなことないって…それに、まだまだこれからなんだから!魔耶が絶対悪魔にならないってなるまではお礼なんか言わないでよ〜」
魔耶「あはは、ごめんなさーい」
カルセナのお陰で光明が見えてきた気がする。…彼女には感謝してもしきれないなぁ。
カルセナ「街に戻ったら....お昼過ぎくらいかなー?」
魔耶「どうだろうねー....てか、今何時かも見てきてなかったわ」
いつの間にか雨は止み、太陽が顔を出していたので、それを見る限りはカルセナの言う通りかと思われる。
カルセナ「時間に困ったときは腹時計活用すると良いよ〜」
魔耶「腹時計ねぇ....日に寄って結構なズレがあるけどね」
カルセナ「まぁ、大体こんくらいって思うときで良いんじゃない?」
魔耶「適当か。....時間分かんなくて困る事なんて、最近はあんま無い気が....」
カルセナ「損は無いですよ」
魔耶「それはそうですね....てか、凄い蒸し蒸しする......」
雨が上がった後直ぐに気温が上がり始めた為、コンディションはあまり良くなかった。
カルセナ「それは分かる〜.....背中すんごい汗かいてるもん。街に着くまで耐えますか....」
魔耶「はーい…。もう半袖でいいかも…」
それから暫く飛び続け、ようやく北街の大きな壁が見えてきた。出入り口の近くに着陸する。
カルセナ「あー…ようやく着いたって感じだねぇ…」
魔耶「うん…。冷たいものとか食べたい」
カルセナ「…アイス、とか?」
魔耶「いいねぇ…お金ないけど」
もうすっかり顔馴染みの兵隊さんと挨拶を交わして門を通り抜ける。
中の街はいつもと同じく活気があって、まるで一人一人が蒸し暑さを無理矢理吹き飛ばそうとしているかのようだった。
魔耶「うー…到着…」
カルセナ「あちぃー.....お腹空いたなぁ.....」
魔耶「ね....ご飯食べに行こう....って言っても、お金あんま無いし、暑いから....取り敢えず宿戻らん?」
カルセナ「そうだね、賛成でーす」
パタパタと手で顔を扇ぎながら、早足で宿に戻る事にした。
魔耶「普段雨降らないせいか、この人混みのせいか....雨降った後に晴れると、めちゃめちゃ暑いねぇ」
カルセナ「本当にねー.....暑いって言ったら暑く感じるから、言わん事にしない?」
魔耶「それが果たして効果あると良いけど....分かった〜」
だるそうに歩き続け、やっとの事宿に到着した。
魔耶「早く入っちゃお〜」
そそくさと、日が当たらない空間へ移動する。外に居るよりかは、大分マシであった。
カルセナ「おー…外よりはマシって感じだね…」
魔耶「うむうむ。流石我が家だね」
カルセナ「勝手に宿を家にするんじゃない。…んで、これからどうしようか?」
カルセナに言われ、少し考える。やりたいこと、やらなくてはならないことがたくさんあった。
魔耶「うーむ…とりあえずお昼ご飯は食べたいなぁ。宿になにか残ってたっけ?」
カルセナ「パンがあとちょっとだけあったはず」
魔耶「パン食べてばっかだな〜…。またお金稼がないとね」
カルセナ「そうねぇ…餓死する前にクエスト受けないと」
魔耶「ね〜。危険すぎないけど報酬は高い!みたいなクエストないかな〜」
カルセナ「何か、レアなもの探す依頼とかあったら良いけどね〜。それなら、危険すぎず、報酬は安すぎずって感じなんじゃない?」
魔耶「確かに〜....ご飯食べ終わった後、依頼のボード見に行ってみる?」
カルセナ「そうしよっかー」
昼食後にやる事を決め、戸棚を開ける。そこには、3種類のパンがあっただけだった。
カルセナ「....ほんとに餓死しない様にしないとね........どーする?どれ食べたい?」
3種類のパンを両手に持ち、魔耶に見せる。
魔耶「うーん....微妙なラインナップですね....んじゃあ、私から見て右のやつー」
カルセナ「はいはい....はいよっ」
一番右、メロンパンを選んだ魔耶にそれを投げ付ける。
魔耶「わっ、また投げやがったなー。落としてたらどーすんだ」
カルセナ「まぁまぁ、魔耶なら取ると思ってたし....取れたからオッケー?だよ〜」
魔耶「むぅ…食べ物は大事にしなさいよ〜。私だってキャッチ失敗することくらいあるんだからね」
カルセナ「あはは、気をつけまーす」
カルセナの軽い態度に苦笑しながら、メロンパンと一緒にいただくために牛乳を取りに行く。
魔耶「牛乳ももうないなぁ…買ってこなきゃ…」
カルセナ「飲み物なくても食べれるようになれば?私みたいに〜」
魔耶「無理だよ〜。絶対喉に詰まる」
カルセナ「意外といけるかもよー」
魔耶「いやいや、無理だからね。……んで、カルセナはなににするの?」
残った2つのパンを見て考える。
カルセナ「どーしよっかな〜....このバターパンにしよっかな」
そう言いながら残りの1つを戸棚に仕舞う。
魔耶は中身が少なくなった牛乳の容器を冷蔵庫に入れ、いつもより少ない量の牛乳が入ったコップを持って、カルセナと共にテーブルへ向かった。お互い、椅子を引いて向かい合って座る。
魔耶「んじゃあ....いただきまーす」
カルセナ「いただきまーす」
パンをもぐもぐと頬張る。この光景も、何度見ただろうか。
魔耶「うん、美味しいわ〜」
カルセナ「流石にこれだけじゃあ足りなくなってきたかも....お店の定食とかが恋しいなぁ。魔耶はそれで足りるの?」
魔耶「まぁ、うん。私そんなに大食いじゃないし。どっちかというと少食…っていうか、お腹いっぱい食べることが少ないかな?」
カルセナ「…??どゆこと…?」
彼女の頭にはてなマークが浮かぶ。
魔耶「えっと…たくさん食べれるっちゃあ食べれるけど、そこまで無理をして食べたりしないってこと。腹八分目で留める感じ」
カルセナ「ほぇ〜…まぁお腹いっぱい食べると、運動したときに色々トラブルが起こるからね」
魔耶「そゆことそゆこと。食べるときは食べるけど、今はこれで足りるかなぁ…。カルセナはどっちかというと大食い…?」
カルセナ「うん。沢山食べないと大きくなれないぞ〜って言われて、凄い食べさせられてたから....そのせいで大食いになっちゃったんだろうなぁ」
魔耶「もう十分大きくなってる様な....」
カルセナ「そうかな?それだったら、昔の努力は無駄じゃ無かったって事になるな〜」
魔耶「今努力する必要は無くなったけどね....」
カルセナ「まぁ、あれだよ.....癖?大食いの癖が付いちゃったって感じ?」
魔耶「成る程納得〜」
雑談をしながらちまちまとパンを食べていたが、遂に食べ終わった。
魔耶「ふぅ〜、ごちそうさま〜」
カルセナ「ごちそうさまー....あー、やっぱ足りないなぁ。ま、仕方無いか」
魔耶「まだ食べ物があるだけマシだろ〜。早く仕事しないとね」
カルセナ「そうだねぇ…あっ」
この流れなら、魔耶の好きな食べ物が聞けるかもしれない…そう思ったカルセナは、魔耶に質問してみることにした。
魔耶「…?なに?」
カルセナ「いや…魔耶はお金が手に入ったらなにか食べたいものある?」
魔耶「えー…キャラメルとか食べたいけど…」
カルセナ「そういうのじゃなくて…料理?」
魔耶「あー、料理かぁ。…んっと…とり肉…?」
カルセナ「料理じゃないやん…」
魔耶「とり肉を使った料理なら全部好きよ。特に唐揚げとか。…カルセナはどんな料理が好きなの?」
カルセナ「私も鶏肉系は大好きだよー。あと、やっぱりパスタかな」
魔耶は鶏肉が好き、という良い情報を聞けた。これを元に美味しいお店を探すとしよう。
魔耶「カルセナっぽいねぇ〜。....そんじゃあ、行こっか」
カルセナ「おー」
各々の準備を済ませ玄関へ向かい、ガチャッと扉を開けた。外に漂う蒸し暑さは一向に退いてくれる気配が無い。
魔耶「むー、今日いっぱいはもうこんな感じなのかな〜....」
カルセナ「そうかもしれないねぇ....早く見に行っちゃお」
午後になって人通りが更に増えた大通りをてくてくと歩く。
魔耶「お願いします〜、何か良いクエストありますように....」
カルセナ「取られてる可能性も無くはない.....」
魔耶「それもありそう....どうかな〜?」
ギルドの広場が姿を覗かせた。ボードには、相変わらず沢山の依頼が貼り付けられている。
魔耶「うわぁ…相変わらずびっしりじゃないですか…」
ほとんど隙間がないクエストボードを見て苦笑いを浮かべる。
カルセナ「探すのも大変そうだねぇ…。今はE,D,Cランクのクエストが受けられるんだっけ?」
魔耶「そうそう。その中で簡単&報酬の多いクエストを探さなきゃね」
クエストを一枚一枚見ていき、条件に合ったクエストを探す。やはりこれが大変だった。
魔耶「…ランクごとに分けちゃえばいいのに。そうすれば簡単に見つけられるじゃん…」
カルセナ「確かにねぇ…。まぁ今そんなこと言ったってしょうがないけどさ。………ん?」
魔耶「…?いいのあった?」
ある依頼状に目が留まった。
カルセナ「この、『遠方宅配依頼 ランクD』とか.....」
魔耶「遠方宅配....?宅配系の依頼結構あるのね....字からして、遠い所に荷物を届けたりすんのかな?でも、何で1つ高いランクなんだろう」
カルセナ「んー....遠いから....とか?」
魔耶「あるいはモンスターが大量にいる所に届けるとか.....ま、そんなとこに届け物がある人なんてあんまり居ないだろうけど」
カルセナ「うん....この依頼は、クエスト内容がそこそこ楽だから報酬金は微妙だなぁ....もっと良いのがないか探してみない?まだまだいっぱいあるし」
魔耶「了解、もう少しだけ探してみるかー。出来れば近場が良いけどね....」
カルセナが、がさがさと手で依頼状を掻き回す。探している内に、ポロッとピンが外れ、1枚の依頼状がボードから離れた。
カルセナ「あっ、落ちちゃった」
意思を持っているかの様に、魔耶の足元までひらひらと舞い落ちた依頼状を魔耶が手に取る。
魔耶「取れる程掻き回すなよ〜?」
カルセナ「ごめんごめん、ありがとー。....あ、因みにそれはどんなクエスト?」
魔耶「んっと…」
カルセナに向けていた視線を手の中の紙切れに移し、内容を声に出して読み上げる。
魔耶「『貴重品を取り返せ ランクD』…これもDランクだね」
カルセナ「…貴重品を取り返す…?どゆこと?」
魔耶「えーっと…大事な物をモンスターに取られちゃったから取り返してほしいってことみたい。簡単…ではないけど難しくもないかな?報酬はそこそこだね」
カルセナ「ふーん…それは相手にするモンスターにもよるかな…モンスターの情報は書いてある?」
魔耶「うん。ちょっと大きめな鳥型のモンスターだって。貴重品が金属だったから、盗られちゃったみたい」
カルセナ「へぇ〜....それとか良いんじゃない?モンスターはちょっと怖いけど.....」
魔耶「さっきのやつよりも報酬金は高いしね....じゃあ、これやってみよっか」
手に取った依頼状をボードに戻さず、カウンターに持っていく事にした。受付嬢らしき人に申し出ると、例の取られた貴重品の写真と、一部に赤ペンで丸が付けられた地図を渡された。どうやらそこら辺が、モンスターが居ると思われる場所らしかった。
カルセナ「....ちゃんとした場所は言われなかったね〜。何か、何とかの洞窟〜だとか....」
魔耶「多分、情報収集とか観察とかして見っけろってことじゃない?」
カルセナ「こっちも情報収集忙しいんだけどなぁ....」
魔耶「今日は良い情報が手に入ったから良しとするよ....そうと決まれば、もう向かっちゃう?」
カルセナ「そうだね、早い方がお互い良いだろうし.....えっと、ここはあっち方面かな....?」
地図を見ながら北西を指差す。
魔耶「うんうん、あってるあってる。それじゃあ…早速、レッツゴー!」
大きな翼をはためかせ、勢いよく空中に飛び立つ。
カルセナ「わ、ちょっと…待ってよ〜」
続いてカルセナも空中に飛び立ち、魔耶の隣に並んだ。
カルセナ「もう…そんなに焦らなくてもクエストは逃げないぞ?」
魔耶「善は急げってやつだよ、カルセナさん。それにもう午後だから…急がないと帰りが遅くなっちゃうし」
カルセナ「まぁそうか…?んでも、帰り急いで来れば大丈夫でしょ。歩いて帰る訳じゃないし」
魔耶「いやいや、もしかしたら飛んでる最中に幽霊やらモンスターやらでるかもよ〜?」
カルセナ「ひっ......幽霊だけは本当に勘弁.....」
魔耶「仲間を怖がるなよ〜」
カルセナ「怖いものは怖いんです.....うぅ、こっちが鳥になっちゃうわ......」
少し鳥肌が立ってしまった腕を擦る。
魔耶「そういや、どんな感じのモンスターなんだっけ?私達が討伐....と言うか、探しているのは」
カルセナ「さー....どんなんだろう....モンスターの写真とかも、くれても良かったのにね」
魔耶「ほんとにねー......あれ?」
ふと、見ていた地図が風で捲れ、裏側が見えた。そこには、怪鳥らしきモンスターの写真が貼り付いている。羽を広げ、鋭く尖った嘴が何よりも際立っていた。
魔耶「もしかして、これじゃない....?」
カルセナ「ん、どれどれ〜?......あー、ほんとだ!そうかも......」
魔耶「…思ってた以上に怖いんだけど…」
カルセナ「…うん、怖い。こんな嘴につつかれたらひとたまりもないね」
魔耶「怖いこと言うなよ〜…こいつを相手にしなくちゃいけないのか…」
怪鳥と向き合っている自分の姿を想像して身震いする。情報によればそこそこ大きいらしいし、できれば対峙したくない。
カルセナ「…まぁ、無理矢理戦うこともないでしょ?盗られたものを取り返したらいいだけなんだし」
魔耶「そっかぁ…出会ったら即襲われそうだけどな…。出会わないように祈るわ」
カルセナ「そうだね〜.....上手く行くと良いね」
それから暫く飛び続け、目的地周辺くらいの場所まで行けた。
魔耶「んー、地図によるとこの辺かな〜」
カルセナ「あ、あのぅ....」
魔耶「うん?」
カルセナ「何かさっきからずっと変な鳴き声してるよね.....」
実は、目的地周辺に着く前から、ギャーギャーとおかしな鳴き声が聞こえてきていた。
魔耶「うん、そうだねぇ....多分、ここらはたくさんモンスターいるのかもね....てかカルセナ、さっきよりビビってる....?」
カルセナ「被害妄想が凄いんです....襲われたらと思うと、怖くてね....」
魔耶「もっと怖いドラゴンとかと立ち向かった事あったじゃん.....まぁ怖いのは分かるけど....」
カルセナ「うぅ〜、でも幽霊の方が怖いから....大丈夫....うん....」
少しビクビクしながらも、自分を奮い立たせた。
魔耶「…ほんとに大丈夫か〜?手繋ぐ?」
カルセナ「大丈夫だって…手繋ぐとか子供扱いしてる?」
魔耶「ソンナコトナイヨ〜…んじゃ、降りよっか」
ずっと空中を飛んでいたはいいものの、木が生い茂っていて下の様子がわからなかったため下に降りることを提案する。
カルセナ「わ、わかった…。…魔耶、いきなりどっか行ったりしないでね…?」
魔耶「カルセナを置いていくなんてことしないよ…じゃ、降下開始…」
顔に緊張を浮かべているカルセナと共にゆっくりと下へ降りていく。ギャーギャーという声が近くなっているような気がして、魔耶の顔にも緊張と警戒の色が浮かんだ。
カルセナ「ち....近くなってる....鳴き声が....」
魔耶「でも、真下にいるって訳では無さそうだから.....まだ大丈夫かな」
カルセナ「て言うか私、武器という武器が無いんですけどどうすれば良いんですかね.....」
魔耶「何かつくってあげよっか?まぁいざとなったらブラッカル出てきてくれるんじゃない?」
カルセナ「んー、今のところ良いけど.....出てきてくれるかねぇ....あいつ。気まぐれだからな〜......」
二人でそっと地面に足を着く。回りには何も居ない。
魔耶「.......さて、どうしようか....」
少しトーンを抑えて話す。
カルセナ「もしその鳥モンスターがいても、盗られたものを持ってる確率は低い....よね」
魔耶「確かに....巣とかに行けばあるかも。じゃあ、もしそのモンスターが居ても持ってなかったら、追いかけてみる?」
カルセナ「うん.....そうするしか無いよね....」
魔耶「とりあえず…武器は構えておいても損はないかな」
いつものように双剣をつくりだし、握り締める。怪鳥を見つける前に他のモンスターに襲われたりしたら…という慎重な考えからだった。
カルセナ「…魔耶って、色んな武器使うよね」
魔耶「…え?あ…うん。色々使えれば便利だし、攻撃に色んなパターンができるからね。基本は双剣だけど」
カルセナ「へぇ…その武器の使い方?戦い方とかって、独学なの?」
魔耶「…まぁ半分はそうかな。もう半分は他の人に習ったりして身につけたって感じ」
カルセナ「ほうほう」
魔耶「…カルセナは使える武器とかあるの?ブラッカルは素手で戦ってたけど、カルセナもそんな感じ?」
カルセナ「うーん....そんな感じと言われればそんな感じなんだけれど....」
魔耶「けれど....?」
カルセナ「私は素手で戦える様な身体能力は持ってないからさ....魔耶みたいに武器をつくる事だって出来ないし、魔法だって使えないし.....ただ未来を読めるだけ」
魔耶「そうなのか.....でも、未来読めるならまだ良いじゃん?」
カルセナ「前にも言った事あるかもしれないけど、私には未来は読めても、それを瞬時に活用する力がないからあんまり意味が無いんだよね.........はーぁ、どうしたものか〜....」
内心では、もっと1人で戦える様になりたい。魔耶やブラッカルの力を借りずとも、自分で対処出来る様になりたいと思っている。だが、今はそれを実現する事が出来ない。そんな事は分かりきっていた。だからこそ悩んでいた。
魔耶「うーむ…でも、能力は人それぞれじゃない。戦い向けの能力もあれば生活に便利な能力だってある。私の能力はグレーゾーンだったけど、ちょっとだけ工夫をして今の形に落ち着いた。…だからさ、カルセナの能力だからこそできるようなことがきっとあるよ」
落ち込んでいるような、悩んでいるような顔をしたカルセナに笑いかける。だが、それでもまだカルセナの心は晴れていないようだった。
カルセナ「そうかもしれないけど…でも、戦いが出来なくちゃ意味ないじゃん。いつも魔耶とブラッカルに頼ってなんかいられないし…」
魔耶「無理に戦うことなんてないと思うけどなぁ…」
カルセナに聞こえる程度の小さな声で呟くが、そんなことを言ってもカルセナの表情は変わらなかった。私達に任せっきりなのは嫌なようだ。
…そこで、カルセナにある提案をしてみる。
魔耶「…じゃあさ、今度修業でもする?一緒に」
カルセナ「修業…?」
魔耶「そう、修業。能力を使った戦い方を研究したり、実践してみたりするの。私だって修業もなしにこんなんなった訳じゃないからね〜」
カルセナ「でも、魔耶に迷惑なんじゃ…?」
魔耶「そんなことないよ〜。むしろ、私もそろそろ修業して新しい技とかを研究しないとって思ってたんだ〜。この世界は危険が多いからね。……どう?」
予想の斜め上を行く魔耶の意見に少したじろぐ。だが、魔耶がそう言ってくれている。ここはひとつ、努力してみる価値はあるだろうと思わせてくれた。
カルセナ「....うん!!賛成....!」
魔耶「....ふふ、じゃあ、私が無事で居られたらそうしよっか」
カルセナ「そんな縁起でも無い事言わないでいてくれ.....」
魔耶「だいじょぶだいじょぶ、悪魔になんか絶対飲み込まれないから!.....それにしても、中々姿が見えないね〜」
会話をしながらも、着々と足を進めていた。鳴き声は聞こえてくるのだが、一向に姿が見えないのだ。
カルセナ「うう〜ん.....でも、鳴き声は近くなっている様な.....」
魔耶「もうちょっと先なのかな、居る場所は....」
カルセナ「そうかもね.....」
…それから5分ほど散策してみたが、やはり怪鳥の巣どころか姿さえ見えなかった。
カルセナ「見当たらないねぇ…」
魔耶「ね…。声は聞こえるのに…警戒してるのかな?」
カルセナ「それか油断したところをパクっと…?」
魔耶「怖いこと言わないでよ〜。…まぁ、ありえなくもないけどさ…」
雑談しながら棒で藪を突き、覗き込んでみる。やはり怪鳥の姿は見えない。
魔耶「声は近くなってるような気がするのに…どこにいるんだろ〜…」
カルセナ「ね〜。………って、うん…?」
魔耶「…?どうかした?」
カルセナ「いや…あそこ、なにか落ちてない…?」
少し遠くに見える、フワフワとしていて軽そうな物体を指差す。
魔耶「ん〜?何だろ....ちょっと見に行ってみよっか」
カルセナ「うん....」
とことこと近寄ると、それは大きな1枚の羽根だった。
魔耶「羽根....?何の鳥の羽根だろう.....あ、もしかして!」
地図の裏にある怪鳥の写真と、その羽根を見比べる。
カルセナ「どうしたの〜?...まさか.....」
魔耶「この羽根と目的のモンスターの羽の特徴が一致してる....!!」
細かい模様などもしっかり見たので、間違いは無いだろう。しかも、その周辺には2つ3つ程度の足跡らしきものもある。
カルセナ「えー!?やった!!遂に手掛かり見っけた!!」
魔耶「でも、ここに羽根が落ちてるって事は、近くにいるって事だよね....」
カルセナ「わっ....そうじゃん......」
歓喜が零れ出た口を慌てて押さえる。
魔耶「んっと…足跡はこっちがわ向いてるから、多分この先にいるよね…そこまで古くもなさそうだし…近くにいるかもしれないから、慎重にね」
足跡から怪鳥が行ったであろう方向を探り、指を指す。指の先には獣道のような通路があった。…おそらく、長年の間、モンスターや動物達の通路として使われているんだろう。
カルセナ「う、うん…気を付けます…」
魔耶「おう。……それじゃ、行きましょうか」
木々の影で薄暗くなっている獣道に足を踏み入れる。この先に怪鳥がいるのか、巣があるのか、はたまた何もないのか…期待と不安を胸に、二人は進みだした。
カルセナ「うわー....圧倒的大自然....って感じ」
足に触る草や、じっとりとした空気に少し戸惑いを表す。
魔耶「そりゃあそうだろうな....生前は都会にでも住んでたのか?」
カルセナ「都会っちゃ都会の方に住んでましたよ....でも逆に、普段都会暮らしだったからこういう所に来ると何か楽しいわ....怖いけど」
魔耶「はっはー、今の内に堪能しておけー」
カルセナ「堪能出来る様な環境でも無いわ.....」
そのまま前へ進んでいると、また抜け落ちた羽根が落ちていた。
魔耶「あ、まただ。やっぱこの辺にいるんだな〜....」
カルセナ「いやぁー、近くなってるって事か....?うぅ、鳥肌が.....ヤバい、こっちが鳥になっちゃう....」
魔耶「さっきも言ってたぞそれ…」
カルセナ「だってぇ…鳥肌止まんないんだもん…」
魔耶「だからって……あれ、なんか広いところにでたね」
会話の最中に、獣道を抜けて草原に出れた。急な景色の移り変わりに少し混乱する。
カルセナ「え、獣道の先は草原…?なんもなかったじゃん…!じゃあ怪鳥はどこにいるのさ?」
魔耶「…私に聞かれても困るんだけど……ここらへんに巣でもあんのかな…」
キョロキョロと辺りを見回して巣を探そうと試みていたとき、またあの声が聞こえた。
魔耶「.....あっ、またこの声....ほんとに、どこから聞こえてるんだよ〜....」
構わずに巣を探す。
カルセナ「それっぽいものは無いねー....てかさっきの声、めちゃくちゃ近かった様な気がするんだけど....」
魔耶「確かに、これまでも近かったけどさっきのは特にね....」
ギャーギャーと声がする。まるで、すぐ側に居るのでは無いか、と思える程の声の大きさだ。
カルセナ「はぁ〜....声の発生源探ってみる?」
魔耶「だね....えーっと........ん?」
耳を澄ませていると、にわかに信じがたいある異常に気付いた。
カルセナ「どうしたの?」
魔耶「何か....地面から聞こえる様な......」
カルセナ「えぇ?だってモンスターは鳥でしょ?んな馬鹿な〜」
魔耶「この世界では常識は通用しないんだぞ、もしかしたらっていう可能性も.....」
カルセナ「鳥が地中に住むって可能性?む〜、想像がつかん....」
魔耶「いやまぁ、私も想像つかないけど…虫がハーブ食べる世界だし、あり得なくもないかな〜と…」
しっかりと確認するために、地面に耳を当ててみる。やはり地中から怪鳥と思われる声が聞こえてきていた。
魔耶「うん、やっぱり…土のなかにいるわ」
カルセナ「マジかぁ…ほんっとーに、この世界では私達の常識が通用しないねぇ」
魔耶「そうねぇ…いや、そういう鳥もいたっけ……?…まぁいいや。多分ここら辺に入り口があるんだろうし、探してみようよ」
カルセナ「…いや、それより地面掘ってみた方が早くない?」
名案と言うようにカルセナが帽子をピンッと指で弾く。
魔耶「まぁそれでもいいけど…着いた瞬間鳥が待ち構えてるかもよ?」
カルセナ「入り口探しましょうぜ」
魔耶「切り替え早いな…」
魔耶「ま、早速それっぽいとこ探しますか。地中に居るって事だし、どこかに穴でも空いてるのかな....」
カルセナ「だとしたら分かる気がするけど.....何かで隠したりしてんのかもね」
広い草原を見渡す。見当たるものは、大きな岩の数々と、背の高い雑草だけだ。
魔耶「うーん....岩の下....とかありそう....」
カルセナ「隠し場所にしては最適ですね.....入り口がそこだとして、そんな重い岩動かせるかな〜」
魔耶「道具を使う事は出来るけど....力が足りるかは分からない....」
カルセナ「んー、どうしよっかー....こう言うのに至っては、すんごい頭硬いからな私.....」
大きな岩を動かす方法を必死に考える。しかし、普通に持ち上げる、ずらす等の考えしか浮かんでこなかった。
魔耶「うーん…キツいけど、岩の斜め下を掘って傾かせてみる、とか?」
カルセナ「あぁなるほど…そんなことできるのかな…?」
魔耶「やってみるしかないよ〜…今はこれくらいしか思い付かないし…」
魔耶も必死に知恵を絞るが、やはりそれ以外の方法は思い付かなかった。
魔耶「…あとは岩の下を掘ってみるとかか…?」
カルセナ「なるほどねぇ…でも、その両方の案、掘ってる最中に私達が岩に潰されちゃうんじゃない…?」
魔耶「え?…あ…」
カルセナ「考えてなかったのね…」
魔耶「うぐ…やっぱり私の頭じゃいい案が思い付かないわ…カルセナ、なんかいい方法ない〜?」
魔耶にそう言われ、腕を組み直して再び考える。
カルセナ「うえ〜....??そうだなぁ〜........」
岩を退ける方法、岩を無くす方法.....。ここで、とある事を思い付いた。実現は難しいが.....。
カルセナ「....岩を壊す....とか.....?」
魔耶「大胆な方法だね.....でも、安全性はそれが一番かも」
うんうんと魔耶が頷く。
カルセナ「そうだとしても、出来るかどうかって言う話だよね.....どうしよう、魔耶どうにか出来たりする?」
魔耶「岩を壊せるかって事?うーん.....」
魔耶「…流石に無理!」
カルセナ「まぁ、そりゃそうか…」
いくら魔族であるといっても、流石にこんなに大きな岩を壊すことは不可能だと思われる。能力を使ったとしても、こんな岩を壊せるほどの威力のあるものなんて思い付かないしつくれない。
魔耶「ブラッカルが壊せたりしないかな…」
カルセナ「いやいや、あいつでもこれは無理でしょ…」
魔耶「そりゃそうか…素手だしね…岩の前に拳が壊れちゃうか…」
他になにかいい案はないだろうか…二人で腕組みをし、脳みそを振り絞る。
……と、そのとき、カルセナから無茶ぶりを言われた。
カルセナ「…一回でいいからさ、頑張って壊そうとしてみてよ」
魔耶「え、えぇ…?無理だって〜…」
カルセナ「もしかしたら意外といけるかもよ?」
魔耶「流石にキツいって…武器作っても、壊すには自分の力でやんなきゃいけないんだからな〜。こんなか弱い少女一人で壊せると思ってんの…?」
カルセナ「いやぁ、今悪魔に近い状態なんでしょ?ならいけるかな〜って…」
魔耶「む…確かに…いやでも、いくら悪魔でも…」
カルセナ「まぁまぁ、やってみるだけやってみてよ。ね?」
魔耶「うー、分かった〜....」
そう言うと、岩を壊すのに最適な武器を考え始めた。
魔耶「やっぱりハンマーかな〜....でも、重いから持てるかどうか....取り敢えずつくってみるか」
いつもの様に頭の中で武器の大体の形を描き、魔力を使ってハンマーをつくりあげた。
カルセナ「おー、格好いい〜」
魔耶「さ、持てるかな.....せーの、よっと!!」
全力で力を込める。やはりかなりの重量があるハンマー、そう簡単には持ち上がらない。いつもならそうだったのだが......。魔耶が思った程の重量は無く、意外と簡単に持ち上げる事が出来た。
カルセナ「すご!!力持ちすぎるなー!」
魔耶「う、うん.....」
岩を壊す第一歩が完了し、安堵の溜め息をを吐いた。だがその溜め息は、悪魔化が進行している証を、この目で見る事が出来てしまった事に対しての溜め息でもあった。