「嫉蛇妬犬」(しじゃたくいぬ)
私は今日も我慢した
今日も良い子でした
なのに
報われないのは何故なのか
自分の欲しい物は
皆心に秘めた
家に帰れば
直ぐに家事もしている
なのに
何故彼奴ばかりが
報われる
何故彼奴ばかりが
幸になる
嫉ましい
妬ましい
私は刄を
心に突き立て
欲の木に降り下ろす
ぐしゃりと音立て落ちて
足元は赤と紫に
染まる
これで良いんだ
これで私は
もっと良い子に
なれる
良い子であれば
報われる
我慢をすれば
幸が来る筈
なのに来ない
他を困らせる貴様が
幸を手に入れられる
何故貴様なのだ
私は刄を
貴様に突き立てる
嫉みを鞘に
妬みを刀身に
貴様の心に
降り下ろす
今の私は蛇だ
嫉に狂いた
今の私は犬でもある
妬みて吼える
答えろ
貴様は如何やって
幸を手に入れた
首を足蹴に
私は問ふ
第拾部
『兎に思ひ 角も人』
>>85
『洗い髪のヴイナス』
>>87
『桜花の正腐虫』
>>88
『泥壺』
>>89
『大正明暗混々』
>>91
『惰する操人ノ形』
>>92
『嫉蛇妬犬』
>>116
『金満虚心』
>>117
『王は故に である』
>>118
『喜亡生叫』
>>119
『人形が遊ぶ』