自分のキャラの過去話、裏話
スレッドにかけない小説のような話をどこかにあげたい人はここに書き込んでみてください
正直スレ主が欲しかっただけですがご自由にどうぞ
: 川が広く見渡せる、ランチ向けのスポット
____________________________________
…チュン チュン
___ん
( 冬の気候を 僅かに含んだ、肌に冷たさの残る空の下
彼は気まぐれに目を開けて …明るくなる雲の合間を見た
__春を告げる鳥が陽光に照らされながらやって来る )
「 あー、寝そびれた …まったく
なんだってわしの近くで鳴いてくれてんの 」
( …何処かへ飛んで行くいたずらな鳥を意味なく咎めて
眠るきも失せた土手から体を起こし、彼は川を見渡す )
___今は午前過ぎを経たばかり
昼食スポットとして人気のこの場所に…
__今日は珍しく誰も居ない、…彼好みの空気
「 …ふぁ 」
___静かな場所 …見渡せる川に、…遠くを飛ぶ鳥達
さっき、起こされた眠気が心地好さに戻るのを感じ
「 …… … 今度は起こすなー … 」
( 雀に、…ひとつ挨拶をして また土手に寝転がる… )
____________ぉーぃ
___ぉーーいっ
( …眠れない… 一回目で、…僅かに聞き間違いを期待して
続いて、近付いてくる二回目で __心地のよい眠気を諦め
… 三回目が聞こえる前に、まぶたを擦って体を上げる…
____本っ当に大きな声だ …馬鹿らしくすら思う )
「 おーーいっ! …ふぇーとだろーっ! 」
「 あーうっさ… …聞こえてるって 」
___生きた目覚まし時計みたいなヤツが来た
「 よっ、また寝てたんか? 」
「 …分かるんだったら起こすな ジョー …だる 」
( どかどかと土手の静けさを破りながら、…現れたのは
炎神、…炎神 ジョー。良い意味でも、悪い意味でも、
とにかく声が大きいんで、眠い時は会いたくなかった )
___今も「わりぃ」と軽口に笑いながら
手に下げた籠から、包み紙を取り出した…
「 しっかし、おめぇいっつもここに居るよな 」
「 …うるさ、… そんなのわしの勝手じゃん なんか悪い?」
「 いやー、よく飽きねえっなって! 」
( …話の途中で、包み紙の下から現れた
黄色いシェルに肉や野菜やチーズを挟んだ
サンドイッチ?…を齧り、ぱりぱり音を立てる… )
「 おめーこそいっつもわしに声掛けてるだろ
…おかげで最近はぜんっぜん眠れね、ばか 」
____で
「 それ、なに?… じゃんくふーど? 」
(ぱり …小気味のいい音を鳴らして、…口についた
ソースを拭い 炎神はにかっと笑ってそれを見せる)
「 "タコス"ってんだ!うめーぞこれ。
…あと、ふぁすとふーどっつーらしい 」
(「冴月から聞いた」と、…取り出す二つ目の包み紙 )
[じー]
「 へー… ワシにもちょっとくれ 」
「 んぁ いーよ?ほれ 」
( …その "タコス" は大部分が欠けた状態。
シェルも、ミートも… 満足する量は無いもの
___たべかけ。 )
「 …ぶっとばすぞ 」
「 ははっ わりぃ。」
( 剥いた包み紙の下からは、…玉蜀黍色で素焼きのシェル
シーズニングが効いた香りの濃いミートに、トマトと
レタス、…からい匂いのソースと ぱら撒かれたチーズ )
「 …なんっか、… はんばーがーみたい 」
_____ばりっ …
( …珍しく、炎神は黙ってフェイトの反応を待っていた
自分のシェルを残さず食べきり、…感想を待つその表情は
味に対するレスポンスを確信したような様子がある … )
( …けれど、あんまり反応が良さそうにないフェイトの
…表情に不思議な顔をした、…何処か辛そうな表情 )
「 …たべづら、… ハンバーガーのほうがいーな。これ 」
「 …ぇー、… 味はどーだ?」
( 取り繕うようにティッシュを渡そうとする炎神、…
だが、フェイトは受け取りつつもまだ嫌そうな顔 )
「 …からい、あとチーズも味薄い
肉もなんだこれ 歯ごたえわっる… 」
「 ……… 」
( __炎神は考えるヒトの仕草… )
「 …なに、… 気にしてんの? 」
「 あぁ… これな 」
「 オレが作ったんだ 」
妖怪変劇
時は明治。源 芹生 (ミナモト セリフ)といふ、とある演劇少女が、演技の臺詞創りをきつかけに、創作活動に魅せられた。
ちょうど少女には敬愛する物書きがいた。一つ年上の幼馴染Aである。Aは顏も頭も惡く、ぶっきらばうで、友も戀人もおらず、醜い人閧ニして嘲け避けられた。
しかし、救いやうがないわけではない。Aには、ただひとつ創作の才だけはあつた。Aは世閧ェ需要する物語を數多く産み出し、おかげで人竝みより幸bノ生きていた。
不思議なことに、演劇少女は、Aと對照に、顏はよく、學もあり、友もおり、戀人もいるといふのにも関わらず、Aの作品に嫉妬していた。この少女には、ただ一つ、創作における文才だけが、無かつたのである。演劇少女は、自分のステイタスなんかよりも、創作だけがしたかつた。
そんな演劇少女は、ある日、Aが最高傑作だと言う作品を見せてもらうことになった。作品を拜見すると、少女は瞳を煌びやかせて、嘆息する。
「はあ… Aくん、超すごい……」
その作品は、極めて創造性に富み、多くの創作者が目指すであらう頂きに、見事辿り着いていたのだ。誰もが書きたいものをAは軽々、書いているように見えた。
「なんでうちには、才能無いんやろか…」
しかし、それ故に、少女は嘆いた。かようなものが一たび野に放たれたのならば、己を含む多くの創作者が居場所を失つてしまうと。創作大恐慌が起こつてしまうと。
その日、演劇少女はAの傑作を盜み出でて、十日閧ルど讀んだ後、焚書した。
Aは、最高傑作の紛失に即座に気づいた。しかし、いつも自室を掃除させている母のせいだと憎んだ。まさか幼馴染の可憐な少女が、しかも毎晩お世話になつている、あの少女が傑作を盜んだとは、Aの童貞拐~が思はせなかつたからである。
しかし、一月經っても傑作を再現できないAは、我武沙羅に筆を振るふ。憎い母には拳を振るふ。かく日々を過ごし、一年が經つ。結局Aは傑作を書けず、生氣を失つていた。
そんなAの心情と對照的に、世閧ナは一つの小説が大流行していた。Aは半ば無關心で、試み程度に小説を拜見すると、見覺えある文體、見覺えあるシナリヲ、見覚えあるセリフ。恐る恐る著書名を確認する。
_____源 芹生
そういうことか。そういうことだつたのか。つひにつひに、あの演劇少女が傑作を盜作したのだと最悪の理解に及ぶ。
理解の次にやつてきたのは少女への憎惡。
世閧ェAを忘れるうちに、Aにはその憎しみが殺意とゐふ名前である事を自覺し始める。
Aは一本の斧で殺意を実行することにした。ある日の夜が更ける頃、まずは、少女の家族を慘殺。Aは、次に、部屋の隅で怯える演劇少女を犯した。さて殺そう。Aが手に取つた斧。演劇少女は、流石本職が演劇なだけあつて、Aに渾身の涙に、渾身の台詞で持つて、渾身の懇願をして、許しを乞う。しかし、Aは許さない。
かくして、殺意を完遂させたA。立ち上がると鏡に映つたのは、醜惡を極めた化物、俗に言ふ立派な妖怪だつた。
>>181
うーんおもろい 天才やね
『輪廻族』のコミュニティ。
この世界に転生してきた輪廻族に対して、円滑な順応を行いやすくする為の集まり。······と言っても、その人数は3人。
どのような世界でも輪廻族の捜索が難しい中、よくこんなに集まったなとニルは思った。
「······で、リナちゃんは······相変わらず酒場開くのかな?」
「はい!せっかくまた人間に転生できましたし!」
「······ちなみに前世は?」
「珍しく人だったんですよ!でもその前はー······犬でしたね。その前はたんぽぽで······」
「その特性まだ消えてなかったんだ······はぁ。まあ過労死しない程度にね······と言ってもこの世界じゃそれも無理な相談かぁ······」
ここは寂れた廃屋の中。ニル、エルの二人はもう一人の輪廻族と集まって色々と話をしていた。
どうやらそのもう一人の話によると、ここをどうにかリフォームして酒場にする、という。この少女にして珍しいことではなかった。
「あ、でも今回は前世で出会った人とまた会えましたから······」
「······なんで?」
「なんでも次元の隙間に落っこちた、らしいです。今寝てますけど······起こしてきますか?」
「いや、いいかな······ところで前の世界っていうのは?」
「凄い剣豪達がいる世界でしたね······あの人もその一人だったんですよ。向こうでも変わらず寝てましたけど······」
「······相変わらずリナの経験談は飽きないなぁ。植物とか動物とかに転生することがあっても······それで釣り合いが取れてるんだから」
ニルの呟きに、相手は苦笑しただけで何も言わなかった。
「······じゃあ、そろそろ私は行くね。これからオペが三つ入ってるんだよね」
「エルさんの方が過労死しませんか······?」
「自信ないかも······」
とだけ言って、エルはさっさと出ていった。
事実彼女は恐ろしく有能で、多忙だった。適当に散歩に出たり面会時間を確保できるのも、彼女の能力と切り詰めた睡眠時間の賜物だった。
「(······どうもこの世界はきな臭いなぁ······他の輪廻族と出会える日は······来るのかな······?)」
しかし。その数時間後、彼女は思いがけない対面をすることになる。
勿論それは、『四人目』の輪廻族であった。
>>183
病院に戻ったエルは、救急車からの電話が入ってきたのを見ると即座に受け取った。······しかしその内容が地獄であった。
というのも、
「······穿通性······頭部外傷······だって······?」
『それだけではありません、心臓付近の胸部にも銃創が······』
「······嘘でしょ························患者の名前は」
『夜村夢花。何やらアイドルっぽい女性みたいですが······流石の先生でも、これは······』
「じゃあなんで搬送してるのさ?」
『············低音処理は施してあります。爆速でかっ飛ばしていますので······あと5分で到着します。準備を』
その声を残して電話は切れた。近くの窓を開けて耳を澄ませば、風に乗って救急車のサイレンの音が聞こえる気がする。
──エルは振り向き、ただならぬ雰囲気に怯える他の医者に向けて高らかに呼びかけた。
「最近暇だったでしょ?」
「どうして生きてるんだこの患者······」
「トラウマになりそうです」
「揺らすな!中央オペ室に運ぶ時間はない!緊急オペ室に運べ!」
「CT室には!?」
「そんな時間あると思うか!?ゴッドハンドが何とかしてくれる!急げ!」
一階が急激に騒がしくなった。と思えば超高速で通り過ぎていく真っ赤なストレッチャー。
珍しく静かな時間帯に、この病院始まって以来の危篤患者が運ばれてきたのは幸いだったろう。
「前口上とかいいからさっさと始めちゃおうか。私は脳の方の処理するからみんなは胸部の方お願い······」
『わかりました』
「あ、この子救急隊員さんによると身寄り居ないみたいだから、皆が最善と思った施術をマッハでやって」
そう言いながらも高速で手を動かしていくエルに対し、何かを言おうと思った壮年の医者が口を開く。
「······見捨てる、というのは?どう考えても患者の体力保ちませんよ······」
「あなたは······うん、もう医者やめていいよ。体力尽きる前に、全部終わらせれば、良いんだよ······!」
カラン、と音がした。······脳内に入り込んだ銃弾が取り除かれ、器に落とされた音である。
それを聞いては他の医者も一言もなかった。ただ眼前の作業に集中するだけである。
「心停止しました······!」
「こっちは大丈夫直接マッサージして!人工血管の移植は!?」
「既に縫合も済ませてあります!」
「よし!拍動安定したら教えて」
頭部は既におおよその処置を終えているようだった。エルは患者の頭部を見ながら、どこからか持ってきたメモ帳に何かを書いている。
「損傷部位は······こことここかぁ······深くなくて良かった。これならリハビリさえすれば多分日常生活に支障は出ないはず······後は脳ヘルニア起きても良いように薬はこんな感じで······感染症誘発したらこうすればよし······と」
「拍動再開しました!」
「おっけー······耐えてくれたね。輸血絶やさないように。あと人工呼吸器も持ってこよう。あとは──」
と、言いかけたときだった。
今まで整っていたエルの姿勢が、大きく揺らいだ。
そのまま彼女の身体は、何の抵抗もなく横に倒れていく。
>>184
まるで泥に沈んだかのような眠りだった。
言おうとしていた、叫ぼうとしていた言葉は言えずに、逆に喉に何か空気とは違うものが挟まるのを感じた。
言おうとしていた言葉。何だったっけ?
ああ、そうだ。
あとは、
あとは、あとは──
「······状態に、······っ!ゴホっ······!」
······休憩室の最奥。まるで戦場のような病院の中、一番上等なベッドや布団があるというのは専らの噂である。
そこにエルは横たわっていた。······どうやら倒れた時にここまで運ばれたらしい。
患者はどうなっただろうか。······丁度メモ帳を手に持っている時に倒れた為、気の利いた医者が居れば何とかなるだろう。
それよりも問題なのはあの後に控えていた3件のオペだが······と、そこまで思考を回した時、研修医が入ってきた。
「あ。ちょっといい?」
先程の手術の時には当然居なかった顔である。
「は······はい、なんでしょうか」
少々怯える彼の様子を無視して、エルは質問を始めた。
「私がここに運ばれてきたのは何時くらい?」
「分かりませんが······19時に僕が来た時······休憩室に沢山の先生が詰めかけていたのは覚えてます」
エルは時計を見た。······現在時刻は4時。つまりざっと9時間くらいは寝た、というより気絶していたことになる。
「そっか······オペはどうなったかわかる?」
「えっと······先生含めて院内総出で行った緊急オペのことですか?」
「そうそれ。穿通性頭部外傷の方」
「先生が倒れた後、シマダ先生が他の方々をまとめて無事に完了させたそうです。いつ容態が急変してもおかしくないので今はICUに入れてるみたいです」
その報告を聞くと、エルはほっとしたような表情を浮かべた。ただそれも一瞬のことで、次には不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ、シマダ先生がねぇ······他のオペは?」
「移植手術でもないですし······どれも緊急性はないので保留にしてありますが」
「患者に説明は?」
「しました。エル先生が過労で倒れたと言ったらどなたも口を揃えて『待ちます』と······」
「······結局私がやるんだね。まあいいけど······」
布団を整えながらエルは呟く。······9時間も眠ったおかげか、目の奥に油汚れのようにこびりついていた疲労が多少消えた気がする。
「報告ありがとね。オペは明日中に全部やるから······今はあの患者に集中するよ」
「わかりました。伝えておきますね」
そう言って研修医は駆け出していく。
その後ろ姿を見送りながら、エルは『輪廻族』としての記憶を少しずつ紐解いていく。
······彼女が今まで出会ったことのある輪廻族は10人を優に越している。······が、同じ世界に、同じタイミングで転生した人数はこの世界の3人より多かったことはない。
勿論一つの人生で出会える人の数から言って、そんなものはほとんど参考にならないことは承知している。
だが──どうしても信じられなかった。
あの重症を負った患者──夜村夢花といった──が、輪廻族であるらしいということが。
『プリクエル/流れる水の魔法少女』
【プロローグ】
三日月邸の門扉が夏の日射しに焼かれている、金属製かつ黒い重厚な門扉は迂闊に触れれば火傷しかねない。
七月の頭だが気温はすでに三十度を超えていた、私は麦わら帽子に白いワンピース、それにサンダルという出で立ちだが、暑いことには変わらない、もはや服装で調節出来る範疇を超えている。
私は垂れる汗を拭い三日月と書かれた表札の下にあるインターホンのボタンを押した、すぐにインターホンのスピーカーから少年の声が響いた。
「雨流様ですね、どうぞお入りください、姉がお待ちしております」
声の主は三日月獅王(みかづき れお)、私を招待した三日月織姫の弟だ。
獅王が言い終えると門がゆっくりと開いた、私は言われるまま玄関扉へと進む、門から玄関扉までの距離は天櫻路家と比べて十歩ほど遠い、さすがは天下の三日月だ。
私がこんな金持ちの豪邸に呼ばれる理由は一つしかない、先日の一件についてだろう、あの時三日月織姫は改めてお礼がしたいと言っていた。
「雨流様、暑い中お越しくださりありがとうございます」
扉を開けると獅王が深々と頭を下げて出迎えてくれた。
「私に頭は下げなくて良いよ、あと様付けも無し、私の事はアイナって呼んでくれ、君のお姉さんもそう呼んでいるよ」
「は、はい分かりました」
三日月邸に入ると玄関にまで冷房が効いていた、汗が一気に引いていく。月々の電気代が気になるのは私が庶民だからだろう。
「あ、それからこれ二人で食べて」
私は獅王に紙袋を渡す、中身は五百円分の駄菓子の詰め合わせ。
「これは……!」
中身を一瞥するなり少年の目がキラリと輝く、頬も僅かに緩んでいる、嬉しさを隠しきれていないようだ。やっぱりかわいいなぁ獅王は。
そんなかわいい獅王に案内され私は応接室に通された、高級そうなカーペットが敷かれ、これまた高級そうなソファーとテーブル、窓際には花瓶台が一つ置かれその上には向日葵の生けられた花瓶が乗っている、いかにも金持ちの屋敷の応接室と言った部屋だ、この部屋の物だけでちょっとした車くらい買えてしまいそうだ。
私はソファーに腰を降ろし三日月織姫の登場を待った、真実の魔法少女三日月織姫が応接室に姿を見せたのはそれから一分ほど経ってからだった。
「待たせてすまない、アイナ先輩」
「いや、私も今来たところだよ」
織姫は私の向かいに腰を降ろし、話したくてうずうずしていたのかすぐさま口を開いた。
「それじゃあ早速だが先日の」
「あの時お礼は要らないって言ったんだけど」
人を襲う怪物であるナイトメアと戦う魔法少女の世界で助け助けられはよくあることだ、毎回お礼なんてもらっていられない。
「まぁ、最後まで話を聞いてくれたまえ、先輩。今日アイナ先輩を招待した理由はお礼がしたいからだけではないんだ、情報共有がしたくてね」
織姫の言葉が真剣味を帯びる、情報共有、魔法少女(わたしたち)の間で共有するような情報なんてそう多くはない。
「クラウン?」
「あぁ」
「そう、詳しく聞かせて」
織姫の肯定に私は身を乗り出していた、クラウン・ナイトメア、大勢の人間を食らい成長した上位個体、クラウンの出現は魔法少女にとって死活問題に他ならない。
「あの夜、あの場所には二体ナイトメアが居たんだ」
織姫はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「一つは先輩も知ってる奴、もう一つは蛸みたいな触手のある奴だ、そうだな順を追って話そうか。あの夜、私は触手のナイトメアと戦っていた、その時はまだクラウンではなかった、例えるなら羽化寸前のサナギかな、で、触手のナイトメアなんだが奴は確実に一人は魔法少女を食ってる、クラウンに進化するのも時間の問題だよ」
「決戦の刻は近いってことね」
私の呟いた言葉に織姫は静かに頷く、真実の魔法少女である彼女の言葉なら信用に値する。
「間違っても一人で、なんて考えるなよ、先輩?」
「分かってる、紅姫と撫子も連れていくさ」
「……あぁ、そうしてくれ、クラウンとの戦いに戦力の出し惜しみなんて不要だからね」
私は首肯し、前回のクラウン戦を回想する、あの時は私と織姫を含む四人掛かりでなんとか撃破することが出来た、辛勝だった。
今回はどうだろう、紅姫と撫子は魔法少女一年目、当人は強くなったと思っているようだが、私から見ればまだまだ未熟だ、不安は残る。
「織姫、今の私達でクラウンに勝てると思う?」
「勝つ、それに紅姫も撫子も先輩が思っているより強い」
織姫は自信たっぷりに即答した、満面の笑みを浮かべている、どうやら負けるとは微塵も思っていないようだ。
私も強気に行きたいけれど、どうしても脳裏に最悪の情景が浮かび上がる、それだけ後輩達を失うのが怖いということなのだろう。
「……ねぇ織姫。もし私に何かあった時は、後輩達のこと任せていいかな?」
「どうした、最強の魔法少女らしくないよ、アイナ先輩?」
「もしもの話、こういうのって予め決めておいた方が良いだろ」
「わかった、もしそうなった時は私が責任を持って面倒を見ようじゃないか」
「ありがとう」
三日月家に支えてもらえるなら何も心配は要らないはず、頼りにしているよ織姫。
「ところで、せっかく来たんだしプールで泳いでいかないか?」
織姫は突然立ち上がり言った、水着なんて持って来ている訳ないし、何より。
「私、泳げない」
「大丈夫、足の着く深さだし、それに水着も二人分ある」
どうやら向こうは準備万端のようだ、ここまでされたら断る理由もない。
「わかった、どこで着替えれば良い?」
それから私達は夕暮れまでプールで遊んだのだった。
【プロローグ完】
『黄泉比良坂を上るまで』
「ヘーイ!!」
「えっ!?あっうそ!!!」
「え〜この勝負、命の勝利〜」
「くっっそ…!!!あともうちょいだったのに…!」
「あい変わらず雑魚w」
「は?殺そ」
夕方、生暖かい風が窓を通してカーテンを揺らす、自分たち以外にはもう誰もいない教室の中、笑い声とカードを切る音が聞こえる
「次何やるよ、ババ抜きは景雑魚いし」
「は〜〜〜????潰しますけど、俺ハンデしてただけだし、ボコしてやるよ」
「やってみろ〜〜!!!上等迎え撃ってやるぞ!!!」
「カードもまともに切れない雑魚どもがなんかゆーとりますわ」
「「は??????」」
喧嘩腰に言い合いながらも、所々に笑い声が零れでる
とうの昔に下校チャイムはなり終わり、静まり返った校舎に響く自分たちの声はどこか寂しさを覚える
こんな時間まで教室にいるのは久しぶりだ、なんたっていつもはみんな部活でさっさと放課後は教室を出ていく、そういえば、こんな風に3人集まって遊ぶのも久しぶりなのかもしれない、気にしたこともなかったから、忘れていたけれど
「(でも)」
でも、今日集まれてよかったと思う、だって、もう終わるのだから
また明日、そう言って別れて、明日会う日はもう終わる
明日は、俺たちの、卒業式なのだから
ガラガラッ
「おい!長谷川!夕彩月!春夏秋冬!まだいたのか!」
「うおっ!やっべみっちゃんじゃん!」
「やべーみっかった」
「みっちゃんいうな!先生だつってんだろ!、…、まぁ、帰りたくない気持ちもわかるが、下校時間もすぎてるんだ、暗くなる前に帰れ、ほら」
「うえ〜い…」
「みっちゃんタイミングさぁ…」
「みっちゃんいうな!ほらほら、帰れ!」
「けち〜!」
担任が声をかけてきたことによって、ようやく時計が18時を回っていたことに気がついた、怒る担任をからかいながらもトランプを片付ける
くっつけていた机を離し、背もたれにひっかけていた上着を着て、気だるげに荷物を背負う
「あーやだやだ、かえりたくね〜、最後だしとめてよみっちゃん」
「何言うとるか、さっさと帰れ、明日はしゃんとしろよまじで」
「てぃーぴーおーはわきまえてますぅ〜〜」
「嘘じゃん」
「は?嘘じゃないし」
その場の流れで教室を出て、職員室に戻る担任も一緒に軽口を叩きながら廊下を歩く、夕焼けは橙色に世界を染め、自分たちの影は奥へと伸びる
「…にしても、お前らも卒業か」
担任が呟く
「…、え、なにみっちゃん」
「感傷にひたってんの?ようやく俺たちの大切さわかった?」
「可愛くねぇなお前らは、問題児共」
「ひっでぇ」
「そりゃねぇよ」
日差しが眩しくて、担任の顔は見えない
「でも、お前らの騒がしさが無くなるのは、たしかに寂しくなるかもな」
──────、
「なんかみっちゃん、しんみりしてたな」
手を振って校門を出る俺たちを見送る担任を後ろ目に、景が告げる
「……明日、卒業式かぁ…」
足元を見下ろし、そのへんにある小石を蹴り飛ばす、それは思っていたよりも強くはね、あらぬ方向へ飛んで、ポチャンと音を立てて溝に落ちてしまった
「……」
少しの沈黙が冷たい、騒がしい自分たちが、こんなにも静かになったことはあまり無い、と思う
今歩いている夕暮れの帰り道を、もう3人で歩くことはないのだろう
懐かしさを覚える景色が、本当に「思い出」になってしまう
「なぁんか」
頭の後ろに両手を回し、命が口を開く
「─────ずっと高校生だったらいいのにな!」
「…、命?」
「…ずっとそうだったら、みっちゃんまたからかえるし、……お前らとも、また、帰れるし」
「………」
口元を書きながら目を泳がせる命は、照れたようにむぐむぐとくちをうごかしている
「……デレ期?」
「ちっげぇ」
「デレ期遅くない?もう高校生活終わんのに」
「うるさいなおまえら!!!今のナシ!!前言撤回!!」
「大体さ」
「また3人で集まればいいじゃん」
詩弦の言葉に、ぎゃーっと荒ぶっていた命が固まり、目を見開く
そんな様子を見ても詩弦は素知らぬ顔でそのまま言葉を続ける
「二度と会えないわけじゃないんだから、また適当に集まってここにまた来ようよ」
「…詩弦」
「それはそうだな、大学みんなバラバラだけど、どーせ集まってるだろうし、いつものおばちゃんのコロッケ食いながら散歩しよ」
「…景」
「それともなに?お前はもう合わないつもりだったの?命」
「─────」
わざと言わせようとしているのだろう、ニヤニヤとした2人の目線が命にへと集中する
「……ん、なわけないだろ、っ全員無理やり連れてきてやるからな!!!時間無視していくからな!!!」
「それはちょっと」
「プライベートとかあるし」
「はぁあーー????お前らなぁ??????」
「んはははっ」
「んふふふっ、はーっ、ほんと笑う」
「この野郎ども……!……っふふ、っははは!」
人通りもある帰り道に笑い声が響く、微笑ましそうに自分たちを見る周りの目にも気が付かず、つつきあいながらも足を進める
「また明日」と言えなくなっても、「また今度」に変わるだけ
「あ、そうだ、明日の卒業式!誰が1番でかい声で返事できるか競お!!」
「お、サッカー部なめんなよ命!声出しとかよゆーだからまじ」
「運動部全体声出ししてるから俺らにも全然分があるんで、舐めてかかると負けるぞ景」
「そうだぞけーい!さっきもババ抜き負けたんだから絶対次も負ける」
「はあ〜ん?殴り合いか??いいぜやってやんよ!!」
どれだけたっても、自分たちは変わらず、馬鹿をする
「じゃ!最下位は明日、卒業式の後にコロッケ奢りな!!」
「上等!」
「絶対負けないからな!!」
また明日、そしてその後も、また
「あー!」
きっと3人で
「明日が楽しみだな〜っ!!」
きっと
キキーーッッッ!!!
ガゴンッッッッ!!!!
「──は?」
きっと
俺たちは、ずっと、一緒なのだから
「─────、─」
あかい、まばたきをする
橙色しか映さなかった視界に、異質な赤が流れている
「──、は、…?」
あかい、まばたきをする
鉄の匂いがむせ返る、誰かの悲鳴が聞こえる
「な、…、は……、?」
あかい、まばたきをする
何度も瞬きをしているはずの瞳が霞む、目の前の景色が何も見えない
あかい、まばたきをする
そこに命はいない
あるのは、命だったはずのそれをつぶすトラックと、そこから流れる赤、赤、赤
「みこ、」
「み、こ、…と…?」
脳が理解を拒む
言葉にしようが、自分たちは信じられない、信じたくない
でも、でも、むせ返る血の匂いが、叫び続ける有象無象が、朱くてらす夕暮れが、それを、その光景を、現実だと知らしめる
すべて、見えていた
「え」という驚愕の顔を浮かべた命の体が、ぐしゃりと嫌な音を立てて吹き飛ぶ様を
飛沫を上げる血、折れた四肢、見るに堪えない潰れた体、飛び散るガラス、血、血、血、血、──即死であるのは、明らかだった
そう、正しく認識した瞬間、日常の情景が、一瞬にして地獄に変わる
ついさっきまで生きていたものが、友人だったものが、また明日と、声をかけあったものが、あまりにも無惨な姿で目の前に転がる
周りの声も、ざわめきも、もう耳には届かない
届くものは唯一、動かなくなった命を嗤うかのように早まる、己の鼓動だけ
先程まで話をしていた友人が、無慈悲にも、世界に潰された
ひゅっ、と、喉の奥から、隙間風のような歪な呼吸音がきこえる
どんどんと高鳴る胸の鼓動と連動するように呼吸もどんどんと荒くなり、正しい呼吸の仕方をもう思い出せない
その代わりにというように混み上がってくる気持ち悪さに、頭がクラクラとする、酸欠のせいもあるのだろうが、そんな事を考えるほどの脳は、もう残ってはいない
「み、こと、みこと、みことっ」
となりで、みことの名前を呼ぶ声が聞こえる
「みこと、なんで、しんだ?みことが、なんで、なんで、しんだ?しんだしんだしんだ、みことが、みことがしんだ?なんで、なんでなんでなんで、またあしたってなんでみことなんでしんで、しんだ、しんだ、みことが、─みことがしんだ」
もはや文章とは言い難い言葉の羅列は、狂気のように彼の声をうわずらせる、片手で目を押え、見えるもうひとつの瞳は目を見開いたまま、友だった肉塊に釘付けにされ、ぼろぼろと雫を流している
「──────、」
あぁ、と思う
なぜ自分は今、ここにいるのだろうと、そう思う
数分前には同じ道を歩いていたのに、どうして、どうして命だけ?
どうして命だけがしんだ?どうして命だけが死ななければならない?どうして?
『明日が楽しみだな』
「─────────」
あぁ、と思う
そうだな、命
明日は、卒業式、だったものな
ひとりだけ、先に行ってしまうのは、さびしいものな
かちゃりと、赤い海にひたった鋭い硝子の破片を手に取る
「それならおれが、あいにいってやろうな、…ずっといっしょと、やくそく、したものなぁ、?」
尖った部分を喉に突きつけ、ガラスをにぎりしめる、持つ手が斬れ血がでようとも、一欠片も痛みなど感じない
自然と、そして歪に口角が上がることが分かる、だんだんとぼやける視界と流れる暖かいものが、酷い現実を隠してゆく
「まっていろ、みこと、すぐにそちらにいくからな」
そういって、もう、何も見ないように瞳を閉じて、硝子を喉に─────
目を覚ました
「───────」
・・・・・・・・・・
────目を覚ましてしまった
結局、自分は死ぬ事は出来なかった
周りの大人たちに取り押さえられて、残った友人と共に、命とは別で呼ばれた救急車にのせられた
何かを叫んだような、酷く暴れてしまったのだろうと、痛む喉と関節で察する
そして2人して気絶してしまったのだろう、薬品の匂いと白いカーテンの先に友人が、同じように、そしてぼうっとしながら、起き上がっていた
「…………し、づる」
「………うん」
「…、み、……っ、…」
声が出ない、あいつの名前を呼べなかった
「…、…まだ、」
「……?」
「……………まだ、日付、変わってないって」
「……え、」
「………明日、そつぎょう、しき」
卒業式
あいつがいない卒業式
『誰が1番デカい声で返事できるか競お!』
「っ…!!」
唇を噛む、歯を食いしばる、何が競うだ、何が卒業式だ、どうして、どうして、どうして!
「なんで、命だけっ!!」
怒りを向ける矛先は自分しかいない、勢いのままに自身の足を殴っても、なにが晴れる訳では無い、ギリギリと軋む歯がかけてしまったとしても、気にする気にも慣れそうにない
ただあるのは失意と、後悔と、怒りと、悲しみだけ
「…………おれ、」
隣からくぐもった声が聞こえる、ハッとそちらを見やれば、ベッドの上で、足を引き寄せ、三角座りのようにして顔を膝に疼くめる友
「おれ、もう、いやだ…」
「……し、づ」
「……そつぎょうしきも、だいがくも、このさきのぜんぶ、もう、いやだ」
「────おれは、ずっと、さんにんで、ずっと、いっしょにいられればよかったのに」
顔は見えない、でも、声色で、その言葉が本心なのだと、はっきりとわかる、なにより、なにより、そんなことは自分だって一緒だった
「…………あした、そつぎょうしき、けいはいく?」
「……………」
「……おれ、でかいこえで、へんじ、できそうにないや…」
「……、…おれ、いきたくない」
「……おれも」
『は?なにいってんのお前ら』
「「─は?」」
なん
こえ、
こえ、こえ
しってるこえ、ききたいこえ、いま、いま、いま、
ききたかったこえ
『お前らがやんなかったら僕1人で虚空に叫ぶことになっちゃうだろ!!!行けよ卒業式!!叫べ!!』
「な、ん」
「は、?」
ふわふわ、ふわふわ
りかいふのう、りかいできない
ふわふわ、ふわふわ、浮いている
『……、よ、なんか…幽霊になったっぽい、僕』
いつもの声、命の声、聞きたかった声、取り戻せないはずの声
見た目はいつも通り、ちょっとふわふわ浮いていて、ちょっと体が透けている
でも
『!?おい!?おいちょっ!!!』
考える時間など惜しいほどに、体は真っ先に、愛おしい友に手を伸ばしていた
『……いやいやいや、幽霊なんだから透けるに決まってんじゃん、馬鹿なの?そりゃあベッドから落ちるよ』
「「…………」」
ほんとうに、せめて、抱きしめさせてくれ
「さぁ……終わらせよう、僕達の滅びを。始めよう、僕達の裁きを」
「了解、祝福者の接続の許可をマザー」
「アーカイブより返答……『ようやく終わるのですね』接続権限を付与、対象範囲―全ての滅亡因子―」
「パニッシュメント・イブ……いいえ、『ミライ』接続開始」
「―語られる幻想の有象無象
騒がしい都会の喧騒
影に潜み爪を研ぎ、今宵も命を喰らう―」
「……接続『狂う夜の獣の王(ルナティック・クラウン)』
「―嘆きの音色を奏でて、破滅の言葉を唱えて
放たれた鉄矢をその身に受けても、歌姫はなお謡う
憎しみさえもあなたが教えてくれた心だから―」
「……接続『ただ一人に捧げる子守唄(ディープナイトメア)』」
「―飛び交う鉛の殺意
汚される命、空、光
失い、奪い、そして枯渇する
絶望した生者が死神を気取る―」
「……接続『鉄の鴉は骸をつつかない(アームドクラウズ)』」
「―如何なる者も彼を理解せず
如何なる神も彼を救済せず
如何なる時も彼を罰さず
乾いた土に咲く花に、降り注ぐのはそれらの血
己が虚無でないと教えておくれ―」
「……接続『妖刀―現(うつつ)』」
「世界の滅びを望む意思(テツクズ)よ、継承者はここにいる!!
無限の火種よ喜べ、僕らはおまえが望むよりずっと愚かだぞ!!」
「さぁ、叫んで。終わりゆく世界とこれから始まる世界の神の名を……!!」
『機械仕掛けの継承者―デウス・ネクス・マキナ』
「うぅ.....」
また俺は魘される。
一番見たくないあの光景が何万年経っても
頭から永遠に離れない
「幸せだったわ...ありがとう、マリn」
ザシュ(斬られた音)
「ラ...ラナ....ラナイザ!!!!」
一番人生でショックだった過去の記憶
妻が目の前から、産まれる筈だった子供達が
目の前から消された事
「ラナイザっ!!!!はぁ!はぁ!....はぁ...はぁ...」
見たくないのに強制的に見される悪夢
どうして俺だけが大切な人ほど、目の前から
消え去れるのだろう。
何故、俺だけ....愛を与えてくれないんだ
そしてまた俺は眠りに堕ちる、抵抗出来ない過去の
記憶に縋りながら
「あ、あであ、アデアの、へや、片付けようと思ったら、ベッドの下に隠し扉があって…」
そこからこれが、と、アルクが出してきたのは
「…はこ…?しかも鍵ついとるやん」
桃色の、小さな鍵穴が着いた箱、こんなものは見た事がなかった
「鍵は見つかんなかったんだけど…ユースなら開けられるかなと思って…」
「…あー、うん、ちょおまって」
そう言うとユースは服の中からピッキング用の針金を取りだし、カチャカチャと鍵穴に差し込む、数分後、かちゃんという音が小さく鳴り響いた
「─あいた」
そういうと、皆がゴクリと喉を鳴らし、その様子を見たユースが、恐る恐る蓋を開く、中身は
「────────え」
中身は、
「…こ、れ」
中に入っていたものは、
「……これ、俺があげた、栞…」
「これ…俺があいつに渡したペンやん…」
箱の中に、綺麗に整頓され、丁寧にしまい込まれていたのは、どれもこれも、俺たちが彼に贈ったものばかりだった
大切に保管されているそれは、まるで宝物のようで
手に取る度にその時の情景を思い出す
「──あ」
皆が思い思いの物を手に取る中、俺もまた、1つ目を引かれるものを見つけた
黒い手帳
「これは…」
そうだ、これは、俺が、アデアの幹部就任時に渡した手帳だった
渡してから1度も持っているところを見た事がなかったから、とっくに捨てているものだと思ったが…
「……」
ぱら…とページをめくれば、そこには日付と、お世辞にも上手いとは言えない字の羅列が刻まれていた
その日付は、俺が、アデアに、この手帳を渡した日のものだった
7/6
あるでぃあからてちょうをもろうた
なにかけばいいかわからんっていうたら、にっきでもかけっていわれたから、かいてみる
じのれんしゅうにもなるやろやって
つづけれるようにがんばる
「────」
日記、それは日記だった
それは、今までのあであの全てが描かれていた
7/7
きょうはたなばたなんやって、あるくがいうてた
おねがいをかみにかいてささにつるすんやって
そんなんでかなうんやろか
おりひめとひこぼし?とかいうんはよくわからんかったけど、またしりたくなったらきいていいって
やさしいなぁ
7/8
きょうはなるとめれるがたたかっとった
ふたりともけがしとるくせにやめへんからいしすがとめにはいってた
めっちゃおこられとる、おもろ
7/9
きょうはサイドとじのべんきょうした
じかくのむずかしいねん、でもとりあえずみんなのなまえはちゃんとかけるようになった
おれえらすぎ、サイドにもほめられた、やったー
そういえばアデアはここに来た当初は、話すことや読むことは出来るが、文字を書くことが得意ではなかった、手帳を渡したのだって、練習にちょうどいいだろうと考えたからだ
最近ではこの頃の拙い文など感じさせないほどに上達し、彼の報告書にはほとんどミスがなかったことを思い出す
パラパラとページをめくって行けば、その成長過程がはっきりとわかり、彼の努力をひしひしと感じさせた
ある日には新しく就任した仲間の話を
ある日にはいつものような喧嘩の話を
ある日には己が参加した戦争の話を
ある日には、他愛もない、日常の話を
この手帳には、アデアが在ったという痕跡が、これでもかと詰め込まれていた、
そして
XX/XX
くにがおれたちをうらぎろうとしている
じかんがない、どうにかしなければ
せんそうをはじめるにはあいてがみがるすぎる
アルディアをころすなんざぜったいさせへん
あいつらをつぶすなんざぜったいさせへん
ぜったいに、おれが、あいつらを
前日までの、綺麗になった字に比べ、殴り書きのような荒々しい文字
怒りの籠ったそれは、あいつがこの日、全てを決意したであろうことを物語っていた
XX/XX
今日
これが、俺があいつらの仲間でいられる最後
ぜったいにやりとげる、ぜったいに、ぜったいに
ちょっとくるしいけど、でも、それでも
「なん、やねん、これ」
誰がそういったのだろうか、その声は、あまりにも悲痛で
読み進めていけば行くほど、この手帳には愛が溢れていて
全てが俺たちのために仕組まれて、
奴は己を裏切り者として犠牲にして、俺達を救ったのだと、理解せざるを得なかった
04/01
そういえば、そろそろ建国記念日やったっけ?
ホンマにあのクソども、アルディアの嫌がることばっかしおってからに、よりによって処刑日と重ねんなやボケ
まぁ、俺は死ぬ、日記もここまでや思うとしみじみ感じるなぁ
正直、貫徹して裏切り者として死ぬのはいやだけど、まぁ、しゃあない
最後にわざわざ嘘まで大声で叫ぶ予定やし、ちゃんと殺してくれるといいんやけど
ユースには悪い事したなぁ、まさか処刑人なんかでてくるとはおもわんかったし、あいつは優しいから、ホントのことを知ってしまったら、泣いてしまうだろう、絶対にバレないようにしなければ
まぁ、俺が完璧に演じればいい話やし、そのためにもがんばらんとなぁ
建国記念日おめでとう、俺は、お前達を、ずっと、ずっと愛してる
そう、最後にそう締めくくられ、この日記は終わっていた
まだ白紙が余っているというのに、もうそれ以上先を、彼が刻むことは二度と無い
全てを知った瞬間に、気づけば涙が溢れていた
泣くのなんていつぶりだろう、止まらないそれに引き摺られ、ひくりと小さく喉がなる
周りを見れば、みな同様に泣いていた
イシスは己のマフラーを握りしめ、唇を噛んでいた
サイドはただ目を見張り、呆然と涙を零していた
アルクは、しゃがみこんで、悔しそうに顔をゆがめていた、拳を握りしめ、そこから血が滴っていた
メレルは、しゃがんで蹲り、アデアの服を抱き込んで泣き叫んでいた
ユースは絶望した顔持ちで、持っていた顔布を震える手で握りしめていた
ルティアは、ただ泣いていた、何も音は発することはなく、ただ静かに声を押しころすように泣いていた
ショートは、もう既に治っていた殴られた頬に、呆然とした顔で触れ、ひとつおいて顔を歪めた、ずっと、嘘だと呟いて、そんなわけが無いと、すがりついていた
あいつは、何を考えていたのだろう
俺たちが罵倒したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが拷問したとき、何を考えていたのだろう
俺たちが処刑したとき、何を考えていたのだろう
なぜ、死に際に、あいつは、幸せそうに、笑っていたのだろう
そう、ずっと疑問だったことが、すべて、すべて、まるでパズルのピースが埋まるように、理解出来てしまって
その日、俺たちの涙腺は枯れ果てた
『受け継がれるお面の呪い』
僕はこの赤般若(お面)を手にしたあの日から変わった。
両親を早く亡くして、親戚には引き取っては貰えずに
亡き父方の祖父の家で住んだ。
廃墟化していたその家で生き残り続けていた。
僕は月見里 双一。
学校は行ってない、自力で食べ物を探しているからそんな暇はない。
僕は、この赤般若と一緒に生きている。
話せられないけど...時より勝手に僕の身体を使って、お金を集めてくれる。木の壁に彫られた文字で赤般若のことを理解した。
『俺は、五百頭旗 牙竜だ。お前の爺さんから見てきた
武士であり霊だがな....ここでのたばり4ぬなよ? 』
『銭が少なくなってきたから知り合いから借りてきた。
安心しろ、お前の爺さんの仲間だからな。』
『そろそろ、体力つかないとな.....お前の親父みたいに強くなれよな。小僧、俺は弱者が一番嫌いだからな』
とこの赤般若は口はとても悪いが優しい霊
僕のお爺ちゃんやお父さんを知ってる事には驚いた。
何でも、僕の家系は陰陽師でよく般若の面で戦った人らしい。その赤般若をいつも見てきたのが、この霊だった。
僕にはさっぱりだけど、お爺ちゃんとお父さんもこのお面を着けて戦った強い人だと言った。
それを聞いた僕は初めて『強くなりたい』と思った。
その時だけ、赤般若から一瞬だけ...
誰も知らないだろう、とても優しい顔をした
綺麗な牙竜の表情が見えた気がした。
ユース視点
任務が終わったあと、気まぐれで、ふと、街を出歩いた
別に何が欲しいわけでも、何が見たいわけでもなかったけれど、久しぶりにしっかりと見る街並みは、前世と同じように賑わっていて、懐かしさを感じた
ぼーっとそのまま歩いていけば、いつの間にか、大きく拡がった広場に出ていて
人が多く歩いているそこは、前世では、あいつの最後の場所だった
ふっと蘇ってくる記憶に唇をかみしめ、頭をガシガシとかく、気づかないうちに、嫌なところに来てしまった
ただの気まぐれだったし、用もない、さっさと帰ろうと足をかえそうと、した、とき
「─────」
広場の真ん中、あいつの処刑場があった場所
そこに、ポツンとたっていた奴がいて、
なぜか、目が引かれてしまって
よく見てみれば、そいつは、あの日見た相棒と同じ背丈で、
「────あであ」
そう、こえをもらしてしまった
そんなはずがない、と思っていても言葉がこぼれるのがとめられなかった
でも
そいつは、それに答えるように、こちらに振り向いて
「─────え」
風が吹いて、そいつが被っているフードがとれて
「─ゆ、す」
そいつは俺を見て、あいつと同じ桃色の目を見開いて、あいつと同じ声で、俺の名前を呼んだ
「……っ──!!!」
ぶわりと身体中におかしな感覚が襲う
アデアだ
間違いなかった、あのひ、あのひ、俺が殺してしまった相棒が、目の前にたっていた
「───」
何かを言おうとしても、喉がひきつって、掠れた呼吸音しか出てこない、
ききたいことも言いたいことも、沢山あるのに
「……っ!!」
俺がそうやって固まっていると、呆然と俺を見ていたアデアは、思い出したかのように息を飲んで
───────逆方向を向いて走り出した
「は、…っ!!?まっ、あであっ!!」
いきなりのことに反応が遅れるが、前世で彼が俺たちの前から消える光景が、走りさろうとするアデアとかさなり、ゾッとして急いで後を追う
もう二度と、あいつを、逃がしてはダメだと思った
人混みに紛れながら走る分には、小さな体の彼は俺なんかよりも動きやすいのだろう、見失いかけることがあって必死でそれを見つけて
ひたすらに逃げていくあいつは、多分捕まる気は無い、でも、もう手放したくなくて
おれはインカムの電源を入れた
ピピッと、インカムが起動する音が鳴る
ユースからの通知であったから、任務の報告かと思って、いつものように話しかける
「はぁいこちらルティアですぅ、ユースさんどないし『あ、ああああであっ、あであがっアデアがおった!!!!!』──は?」
流れてきた声はあまりに慌てていて、かすかに聞こえる音から走っているような振動を感じる
いや、それより今なんといった?
『アデアっ、アデアが街におった!!俺の名前呼んでたから多分あいつも『覚えとる』!!!やけど俺見た瞬間に逃げて…っ、今追いかけとるからっ先生サポートしてくれ!!』
「は、はぁ!?」
まてまてまて、頭が混乱している
アデアが?この街に?というか今世に?
『っ、ルティア!!』
「っ〜〜!!!あーもう!!分かった!!何がなんでも追跡したるわ!!!」
考えても考えても思考はまとまらないから、もう放り投げてしまう、
考えるのは、あいつが帰ってきてからでいい
「あるちゃん!!あるちゃんきこえとる!?」
ユースのGPSを伝って居場所を割り出しながら、我らが総統にインカムを繋ぐ
『なんやルティア、うるさいぞ』
冷静な低い声に窘められるが、それどころでは無いと叫ぶ
「ユースさんから連絡がきて…っっおった!!」
繋がったインカムに報告をしながらユースの周辺をモニターで探せば、何度も見たあいつの姿を見つける
『は?なんやねん、なにがおったんや』
「っアデア!!!!アデアがおった!!!」
『は』
息を飲む音がインカムから聞こえてくる
『……本気で言っとるのか』
「まじもまじ大まじやボケ!こないな嘘つかへんわ!!いまユースが追いかけとるしおれもモニターで捕捉しとる!!!」
珍しく震えている声に大声で答える、縦横無尽に逃げるあいつを必死に追いかければ追いかけるほど、懐かしい姿に目がかすみそうになる
『…ルティアとユースはそのまま追跡を!それ以外を会議室に至急集めろ!!全員のインカムを繋げ!!』
「っつ、了解っ!!」
1つ沈黙を置いた後、いつものように命令を下してきたアルディアに答えて、急いで仲間たちのインカムに手を出して、俺は声を上げた
「っ…!」
まずい、まずい、まずい!!
ユースがおった!!うわぁまじで、まじで!?
街になんか来るんじゃなかった!
いや転生したのは知っていた、軍の噂であいつらっぽい奴らがいるということはわかっていた!でもまさかこの街にいるなんて知らなかった!!
しかもなんかルティアとか聞こえてきたし!!まさか全員おんの!?!?全員!?
必死で人混みを利用して逃げ出しながら、ぐるぐると思考を巡らせる
今世では、のんびりと1人で過ごして、平和に死んでやろうと思っていた矢先にこれだ、そう言う星の元に生まれているのか?と思うほどに、俺の運命はどうかしていると思う
アイツらにとって、俺は裏切り者である、殺したくなるのもわかるが、こちらはもう関わる気は無いし、そもそも前世で処刑されているのだ!許して欲しい!無理?ですよね!!
広場から抜け出して路地裏へ逃げる、壁をけって行き止まりを登り、錯乱させるように必死に逃げるが、相手はユースだ、寄りにもよってあいつらの中で1番動ける奴だ、しかも恐らくルティアも俺の捕捉にかんでいる、あれ、これ逃げるの不可能では????
余裕なんかないくせに無駄に回る頭に少し嫌気がさしながらも駆け出すあしを早める
遠くで、俺の名を呼ぶ声が聞こえた
「っアデア!!!!」
それはあまりに、あまりに悲痛な叫びのようで、懇願するような、縋るような声で、裏切り者に向けるべきでは無い声で
「っ、え」
想像もしていなかったその声に、つい、後ろを振り向いてしまった
「───」
そこにいたのは、さっきも見た、俺の元相棒であった、あったのだが、
その顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた
───なんで?
なんで、なんで?なんでユース泣きそうなん?追いかけてくるものだから、殺意にまみれているか怒りにまみれているか、そんな顔をしているものだと、怖いから後ろを振り向かないでおこうと思っていたのに
「あ、で、あであ、あであっ」
何度も名前を呼ばれる、その声色に、俺の喉がひくりとなったきがする
「アデア、アデア、やんな、ま、まちがってないよな…?」
いつの間にか、俺の足も、ユースの足も止まっていて、俺はその問いかけに、どう答えていいかわからなかった
「いきて、い、いきてるん、よな、おまえも、おまえも、おぼえてるん、っやんな」
必死に走っておってきたのだろう、彼は息が上がっていて、荒く呼吸をしながら、話を続けている
俺は走っていたせいであがっていた息とは別に、どんどん大きくなっていく鼓動に、は、と息を漏らす
「おっ、おれ、!……お、れ…っ…」
必死に言葉を紡いでいたユースは、何かを話出そうとして、言葉を詰まらせた、はくはくと口を動かしているが、言葉がそこから出ることはなく、酷くつらそうに顔をゆがめていた
そしてようやく、どうしてユースがそんな顔を、そんな声をしているのかを理解した
バレたのだ、俺がやったこと、その真実全て
正直ゾッとした、何がきっかけで気づいたのかはわからなかった、いやでもこいつらの事だ、何かしら俺が見落としたものでも見つけたのだろう、あぁ、ルティアをバカにできない、己のガバガバさに嫌気がさす
そして、あのとき、俺を殺したのは、ユースであったことも思い出して
ひゅ、と喉がなった
酷く残酷なことをしたのだと、忘れていた訳では無いのだけれど、どうせバレることは無いとたかをくくって、わざと目を逸らしたその事実が、いま、目の前のユースを苦しめているのだと、わかってしまった
ずっと、真実に気づいた時からずっと、きっと彼は、苦しんだのだろう、己を責めたのだろう、今言葉が詰まっている理由だって、優しい彼は謝ろうとして、そして、謝る資格があるのか、などと考えているのだろうということも、なにもかも、手に取るようにわかってしまった
いや、彼だけではない
かつての仲間たち、俺が裏切った仲間たち
みんな、みんな
だとしたら
・・・・・
だとしても
────────────────────────
「ユース」
あいつの声が、俺の名前を呼ぶ
「…ぁ…」
その、懐かしい声に、愛おしい声に、もう呼んでもらえるはずのなかった声に、言葉を紡げなかった俺は、顔を上げて─目を見開いた
「───」
アデアは、困ったような、でも、幸せそうな、愛おしそうに、眉をひそめながら、目を顰め、それでもくちは歪にも、歪んでいながらも、微笑んでいて
「………あで、あ」
俺は名前を呼んだ、それしか出来なかった、それしか言えなかった
「──ごめんな」
「は…?」
そう、目の前の彼は、謝った
意味がわからなかった
なんで、なんでお前が謝んねん
謝らあかんのは俺やろが、俺たちやろうが
おまえは、なんもわるくないやん
「…ばれちゃったんやんな、おれがやったこと」
そう、告げられた言葉の意味を理解するのには、少し時間がかかってしまって
それが、あの時、俺達を守るために裏切った事、その真実についてだと、やっと理解した
「あで」
「ごめんなぁ、お前優しいから、絶対にバレへんようにしたのに、俺の詰めが甘いから、そないに苦しめてもうて」
ちがう、ちがうよ、そんなの、おまえをしんじられなかったおれのせいだ
あいぼうだなんてのたまったくせに、おまえをしんじてやれなかった、おれの、
それに、くるしんだのは、おまえのほうじゃないか
おれたちにばとうされて、ごうもんされて、じんもんされて、そんげんをこわされて、ころされて
おまえのほうが、ずっとずっと、くるしかったはずだろう
「─いやー、でもほんましくじってもうたわ!なんでわかったん?バレへんように証拠隠滅頑張ってんけどなぁ」
がしがしとあたまをかきながら、問いかけてくる
さっきまでの歪んでいた顔はどこへ行ったのか、昔見た、へらへらとわらって、ただ世間話をするように
「俺嘘つくん得意やったんにさぁ、ほんまがばがばやわ、無能やなぁ」
ほんの少し下を向いて、自虐をする、口は笑っているが、その綺麗な目は、髪に隠れてわからない
「でもなぁ?ゆーす」
なまえを、よばれる
嫌な予感がした
ひどくいやなよかんがした
やめろと、こえがでた
やめてくれ
それいじょういうな、それだけは、
それだけは
「おれのことなんか、わすれてええんやで」
・・・・・
そんなことにしばられなくていい
と、そう、そうやって、
アデアは、死に際にみせた、あの顔と、そっくりな表情で、わらった
そのことばに、おれは、あたま、あたまが、まっしろになって
気づけば、アデアを押し倒していて、逃がさないように両の手首を、己の両手で地面に縫い付けていて
「ふ、ざ、けんな、や…っ、っ!ふざけんなや!!」
驚いた顔をするアデアにむかって、ボロボロと泣きながら、叫んでいた
「ゆ、…ゆーす…?」
「ふ、ざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!」
ただ叫んだ、感情任せに捲し立てる
驚いた顔をする彼に、酷く腹が立った
「なに、な、なにが、なにがっわすれろや!!なんでそんなこというんやボケ!!!忘れられるわけないやろが!!!」
わすれられるわけがない
すてられるわけがない
「おれはっ、おれは、お前が裏切ったと思った!!俺らのことなんか捨てて、ずっと俺らのことを騙したんやと思った!!最後まで信じたかったなんて口先だけの綺麗事吐いて、最後、お前の最後の嘘も見抜けんで!!怒りに任せて!!お前の首を斬った!!俺が!!お前を殺した!!」
さけぶ、さけぶ、忘れられるわけがなかった、すべて、あの時の全て、ひとつだって忘れることは無かった、忘れていいわけがなかった
「俺はお前をころすとき!苦しんでしねばええと思った!!わざと下手に首を切って…!!苦しんで苦しんで苦しんでっ俺達を裏切ったことを後悔すればええと思った!!」
そうだ、俺はそう思ってこいつを殺した
信じていたいだなんて口走ったくせに、最後は憎しみだけで、こいつを殺した
「で、でも、でもっ、おまえ、おまえがっ!裏切ったんちゃうって知って、ぜんぶ、全部俺らの為にしたことやってわかって…っ!お前がっ俺たちを守ってくれてたって知って!おれは、お、おれはっ」
己を、殺したくて、たまらなかった
喉がきゅうとしまる、泣いているせいで、しゃくり上げるおとが、酷く忌々しくて、止まらない涙が、アデアをかすれさせるのが、はらただしくて
「ゆ…す…」
「──なんで、なんで、あのとき、わらったん、あであ」
「え…っ…」
彼の最後、俺が、剣を振り下ろした瞬間
彼は心底満足そうに、わらっていた
「……なん、で」
「…………」
アデアは答えない、沈黙が流れて、答えてくれる気がないのだろうとおもった
だけど、
「……お前らを」
口が開かれて、愛おしそうに告げられた言葉に、息を飲んだ
「おまえらを、まもれて、よかったとおもったから」
アデアの表情は、さっきの苦しそうなほほ笑みではなく、ただ、俺を見て、穏やかに笑っていた
ほんのすこし、俺が押さえつけている手をはなさせようとしていた軽い抵抗も、まるでなかったように力を抜いて
もう逃げ出す気は無いように思えた、だけれど、なぜだか、力を抜いてはいけない気がして
今手を緩めれば、すべて、消えてしまう気がして
そしてアデアは、俺と違って、止まることなく言葉を紡ぐ
「おまえらに、ばとうされたときは、まぁ、しゃあないなっておもった、うらぎったんやったらそんくらいはあたりまえやって、というかちょっとでもしんじてくれるとおもわへんかったから、しんじたいっておまえらがいうたとき、ちょっとあせった」
しんじられたら作戦失敗してまうからな、と、わらった
「ごうもんは…ちょっといたかった、いや、ちょっとやないな、めっちゃいたかった、あたりまえやんなぁみんなおこっとったし、おれもなーんもしゃべらへんし、じんもんもこわかった、うっかりほんとのことしゃべりそうになってまった」
あぶなかったわぁ、サイドもイシスもおっかないねん、と、わらった
「しょけいのときは、──うれしかった、お前らを守り通せて、だましぬけて、さいごにアルディアが言い残すこととか聞いてくるから、一瞬、全部言いそうになった、けど、そこで言うたら全部台無しやから、徹底してやろうと思って、嘘をひたすら叫んだ、あと」
「ゆーす、ゆーすに、首切らせるん、ほんまにゆるせへんかった」
「おまえはやさしいから、そんな役割押し付けやがった国の奴ら、ぶち殺してやりたいと思って、まぁ、お前らがおるからそんなん無理なんやけど、やから、絶対バレへんように、おまえらが、おまえが、それに気づいて苦しまんように、叫んだ」
「それで、みんな怒ってくれたから、あー上手くいったってまんぞくして、───ゆだんして、くちからほんねがでたのにきづかへんかった」
「口を止める暇はなかった、しくじったと思ったけど、まぁ、それ以外は完璧なつもりやったし、もうどうにもならへんから、あきらめて、そんでしんだ」
「やから、やから、お前らは悪くないねん、ぜぇんぶ俺に操られとっただけ、俺の自殺につかわれただけ」
「ぜぇんぶ俺の、ただの、エゴやん」
歌うように、懐かしむように、それでいて諦めるように告げる
お前たちは悪くないよと、まるで子供に言い聞かせるように
「お、ま、…!まだそんなことっ」
「だってほんまやん」
微笑みながら俺の否定をかき消す
「…ほんまのことや」
俺の目を見て、はっきりと、その顔は優しく、窘めるように
「やから、お前が泣く必要はないねんて、ユース、お前は正しかった、お前は間違ってない、お前は…お前らは裏切り者を断罪しただけや、なぁんも間違ってへんよ」
「…ふざけんな、や、…間違っとるに決まっとるやろ!!!なんで、…なんでおまえはそこまでっ…!」
アデアは笑って、微笑んで、俺を、俺たちを突き放そうとする、どうして、どうして
「おれは、うらぎりものでええねん、もうおまえらに、かかわるつもりもない」
「……は…?」
いま、なんて
「…おれはもう、おまえらのところにはもどらん、おまえらがどれだけおれをゆるしても、ぜったいに」
笑っていたその顔は、その笑みをかき消し、決意を埋め込んだような顔をして
おれはその言葉に、その拒絶に、気を取られてしまって
「……おやすみ、ばいばい、ゆーす」
「あで」
アデアが持っていたそれに気が付かないまま、俺の意識は暗転した
「………」
気を失ったユースの体を、自分の体を起こすのと同時に持ち上げ、側の壁にもたれかからせる
両手を掴まれていたから、仕掛けはあったとはいえ取り出すのに苦労したけど、護身用に持っていた仕込みの睡眠薬が役に立った、ユースが動揺していなければ気づかれていただろう、
『もうおまえらに、かかわるつもりはない』
「……」
『おまえらがおれをどれだけゆるしても、ぜったいに』
「……」
『ふざけんなや…っ!』
「………ごめん」
その場にゆっくりとしゃがんで、ユースの頬に両手を伸ばし、呟く
「ごめん、ごめん、ごめん、なぁ」
頬を撫でる、さっきまで泣いていた彼の目元は赤くなってしまっている、
おれのせいで
「っ……」
唇を噛む、少しすると、口の中に血の味が広がる、
苦しませたく、なかった、なかったからおれは、頑張ったのに、なのに、結局
「……」
「……あ、で……」
「!……」
ビクリと、聞こえてきた声に肩を揺らす、急いで顔を上げて彼の方を見る
「っ………」
「……」
ほ、と安堵の息を零す、起きた訳では無い様だ、だけど、相手はユースだ、こんな薬なんて耐性がない訳が無い、いつ目覚めるか分からない
「……」
はやく、ここから立ち去ろう、ユースの場所は、多分ルティアが見ているはずだから大丈夫、それで、それで
「………」
もっと、とおくに
────────────────────────
─!──す!─ゆ─!
「ユース!!!」
「……っ」
聞こえてきた自分の名前を叫ぶ声に、意識が段々と覚醒してくる
あれ、自分は今まで何をしていたんだっけ、なんで眠って─!
「っあであっ!!!」
「うぉ!?」
全てを思い出してがばりと体を起き上がらせれば、近くから驚いたような声が聞こえてくる、そちらに目線を向ければ、メレルが尻餅をつくように地面に座り込んで驚いた顔でこちらを見ていた
でも、でも、それどころでは無い、急いでメレルの肩を掴み、問いただす
「め、れる、…っ!あ、あであっ!!アデアは!!!」
「い、や、まだみつかってへん、でもそんな遠くに行ってないやろうからルティアとショートがいま調べて」
見つかっていない、そう告げられた言葉に頭が真っ白になる
「っあか、あかんっ、あであっ、あであは、だめや、いま、います、いますぐおいかけっ、おいかけなっ」
「っユースちょっと落ち着け!焦りすぎや!呼吸出来てへんやろ!!」
「っ…」
そうやってメレルに肩を掴み返され叫ばれてようやく、己が過呼吸気味になっていることに気がついて、ようやく酸素を吸う、やっと回ってきた酸素のおかげで、真っ白だった脳は思考をまた開始する
「っ、は…、はっ…」
「…っなぁ、なにがあったんやユース、アデアとなにをはなしてん」
「っ…え」
そしてそう問いかけられて、疑問が浮かぶ、インカムは繋げていたはずだ、繋げていたルティアから聞いていないのか?
そう考えながらインカムに触れればその感触に違和感を覚えた
「っ…!?」
「…その様子やと気づいてへんかったんやな…俺らもインカムの通信は聞いとったんやけど、途中からなんも聞こえんなって…」
急いで取り外したインカムは、いつの間にかヒビが入っていた、どうして、いつのまに
そういえば追いかける途中でアデアが逃げるために路地裏の物を倒したり投げてよけたりしたものがたまにこちらに飛んできていた
「あんときか…!」
もう使い物にならないインカムを持った手を力強く握りしめる、バキャリと手の中で音がなり、破片が刺さったのだろう、少量の血が流れてくる
「お、おい、ユース…「もう俺たちと関わる気がないって」───は?」
ぶるぶると、握りしめた手を額にちかづけ、歯を食いしばりながら告げる
「もう、俺らのところには戻らんって、ユースが、言うた」
「……、な、ん、や、…それ」
辺り一面が火に包まれて、絶叫や悲鳴や嗚咽が嫌でもこの耳に入って来る。目の前に広がる光景は死屍累々。正に地獄と呼ぶに相応しかった。
...認めたくない、あいつらの死は無駄じゃなかったって。だって、認めてしまったら。
ゼッタイアク
目の前の全ての元凶がもっと笑ってしまうだろうから。
ふと、剣を握る手が震えている事に気付く。俺は、アイツに恐怖をしてる?怒りよりも、先に?
「 そう、君は弱い。僕は知っているよ。君は色んな人を助けて、助けられて、そんな風に生きて来た。仲間にも九死に一生を救われたりしたね。でも、逆に言えば………君は、一人では生きて行けないんだ。だから、その為に!僕がいるんだ!はは!綺麗さっぱり!ねぇねぇ、知っているかい?君ってさ、自分を強いって思ってたろ?
____黙れ
現実を見なよ、君は何一つ守れやしないんだ!…あぁ、そんな所が本当に可愛いね! 」
____黙れよ
「 大丈夫!僕は君の一番の理解者で!親友で!そひて倒すべき悪役なんだ!さぁ、ホップステップで踊ろうよ!!この終末感を楽しんでいこう! 」
_____絶対に、殺してやる
「 ふふふ、あぁ ...本当に君は ...一体何処まで僕の性癖に刺さるんだろうね!その髪型!その目!その口元!そのカリスマ!その服装!本当僕が夢見た英雄だ!!!さぁ!!!楽しもう! 」
______メアズ・アルマァッ!!!!
「 主人公君! ...いいや、ヒーロー!! 」
愛しい君に、美しい恋を捧げよう
https://note.com/joyous_holly145/n/n76238f46ab9d
この後友成に抱き抱えられながら外に出た白菊が見たものは、半壊した西園寺の屋敷とこちらを見て駆け寄ってくる友の姿
幼なじみの兄弟は自分の腕と顔を見てそれぞれ近くの物を破壊してそのまま屋敷を半壊から全壊させに行こうとし、源ノがそれを死んだ目で止めに行き
土御門や安倍はそれぞれ安否や傷を気にかけてくれた
あたたかい空間、いつもの私が知っている空間、私が居てもいいと許してくれた、私を望んでくれた場所
「おかえり、白菊」
「─ただいま、皆」
その時、なんの不安も遺憾もなく、私ははじめて笑えたのだと思う
『お前と僕は』
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8 https://i.imgur.com/ay6EPCK.jpg
『とある場所』
「······いやぁ、なかなか面白い狂言だね······あそこの連中は絶対ここの存在に気付くことはない······か。我ながら良く出来てると思うよ······そう思わない?」
「思いませんが。······悪趣味ですよ。ヴラデク監視長の方が無干渉なだけもっとマシかも知れません」
「手厳しいなぁ。······でも、こうするしかなかったんだよね。わかるでしょ?」
「······納得はいきませんが」
「だよね。······私もそう思うよ。······まあ、あそこのお陰で『月の王』が成り立ってるから存在意義はあるでしょ」
「本当に大丈夫なんですかね······?」
「大丈夫大丈夫。何度も言うけど内部からは絶対干渉できないようにしてる。······問題なのは外世界から乗り込んでくる規格外だけ」
「規格外というと······」
「確か片方はタナトスとか言ったかな······?そいつは多分内部には干渉してこないとは思うけど······『月の王』に守られてる場所が怖いかな」
「あぁ······確か魂を布に変えるとか何とかいう存在でしたっけ······?」
「······そうだっけ?······まあともかく、まだそっちはマシなんだよ。······もう一つある。こっちは本当に何やってくるか分からない」
「タナトスと相打つ可能性はありますか?」
「相打つ可能性というか現在進行形で何かやってるみたいだよ。それでもどうにもならないみたい」
「ふむ······難儀なものですね。······まるで異民族から攻められる漢帝国みたいです」
「漢?」
「······え、ご存知でない?」
「············あぁいやわかるよわかる。とりあえず言いたいことは分かった。でもこればっかりはどうにも出来ないから······内側を中心にセキュリティ強化しようかな」
「了解しました。ではそのように伝えておきますね。······あ、『月の王』への影響はどのくらいになりそうですか?」
「え?えーっと······とりあえず大丈夫。通常通りでいいって上に言っておいて」
『妖幻の月族-1』
────月。
4代目の月の巫女が死んでから、時は経っていない。そう、丁度斬月が行動を起こす前の時である。
「······来客?」
『月族』の族長の一人である徊月は、『兎』による報告に首を傾げた。
「そうです。何でも『自分のことを覚えている奴が居るはず』とか言って······それ以外の事は何も喋りません」
「敵意は······ない?」
「少なくとも、表面上は」
「······そうか。ありがとう。とりあえず会ってみよう」
忙しいのにも関わらず、不思議な来客と会うという徊月。······これには、この月という場所にも関係している。
当然ながら空気もない、その上ここにある月族の建物には外部からは視認を含めた一切の干渉が出来ないようになっているのだ。どの道、それらを突破してここに来るというのは尋常ではない。
『月面大結界』維持の応援に行っている者や、地球に降りて次代の『月の巫女』を探し回っている者が粗方出払っている今、月族の地区はほとんど無人と言っても良かった。
今ここに残っている者は、待機することを命月から強制された者────徊月とその他数名しかいない。
やがて徊月は簡素な建物に足を踏み入れた。そこは、普段は『天人』や『兎』の有力者が会議前に待機をする場所として使われているのである。
たが今────ここは異質な女性の為に占領されていた。
「······」
灰色の髪をした彼女は目を閉じている。瞑想でもしているのかと思い、少しだけ動くのを躊躇われた徊月。
······しかし、ふと彼の脳裏に電流が走った。この女性の存在を、記憶の大海から拾い上げたからである。
「······張月。久しぶりだな」
女性はそこで初めて目を開いた。暗い、くすんだ目であったが······目許が少しだけ笑っていた。
「ほら、やっぱり覚えてたか······と言ってもお前だけだろうな。······徊月」
女性の名前は張月といった。そこから分かる通り、月族の一員である。
「何年ぶりだ······?月族が体系化された時に一回顔を出して以来だよな。思えばその時も······それまでの話を聞きそびれてた」
「はは······何せその時代は中国より日本が面白そうだったから」
張月は他の月族とは違い中国に行っていたらしいのである。そう言われてみれば、その格好も道家的な趣がある。
「······古参の特権だよな」
「そうだな。徊月······流石にお前には劣るが。······あぁ、折角だし土産話をしてやろう。······三国志は好きか?」
>>219
『妖幻の月族-2』
「······三国志?······まあ一般教養の範疇なら」
「なら流石に黄巾は知ってるか。······さて、なぞなぞだ。私は『張月』。何か気付くことは?」
張、という字を机になぞってまで強調する彼女であった。向かい合う徊月はしばらく悩んでいたようだったが、改めて張月の格好を眺めてようやく思い至る。
「張······って、黄巾の首謀者の苗字も同じ······何かやっただろ」
「ご明察。······って程でもないがまあいいさ。つまりだな······まあ何というか······儒家思想を道教思想、というか単純な欲望で破壊するのは楽しかったよ」
「··················うわぁ」
ようやく察した徊月である。
「それにしても弟達も凄かったが張角は凄い奴だったな。本当に幻術とか妖術使いこなしてるし······率いた物にもう少し頭があれば天下狙えただろうに」
「会ったのか······頭、というと?」
そう言われると色々と聞いてみたい徊月。しかし相手を優先し、最低限の相槌に留めていた。
「やっぱり賊だからか頭脳は弱いな。首領は悪くないが下が悪すぎる······お陰で簡単に取り入ることが出来た。父親の忘れ形見とか何とか言ってな」
「······で、そこで何を······?」
「幻術とか妖術とかを習った」
「は?え、陰謀とかは?」
「期待してたのか?」
純粋な興味だけで動いている人間とは恐ろしいものである。張月は確かに時代の証人にはなったようだが······時代は動かさなかったようである。
「······で、結局は?」
「どうもこうも。本拠地陥落したから雷雨に乗じて逃げてやった」
「その雷雨は······ってそれはともかく。······それだけじゃなさそうだな」
「ああ。五斗米道は知ってるか?」
「何となく。今でも続いているらしいから嫌でも耳に入る······ってまさかここでも何かやったのか······?」
一、二回で慣れる、ということはない。暫くはこのままの驚きが続くであろう。
「いや。ある役人に賄賂を払って取り入った辺りで漢中が落ちた。······まあ別にその後もついて行っても良かったんだが」
徊月は頭を抱えるのと同時に、畏怖に似た感情を覚えた。
幻や妖の術に精通するとなると、時間が無限に近い月族の身でも苦労は多い。ましてやそのような異能を持っていないのであれば。
ともかく、彼はその後の話は聞き飛ばした。道教発展に一枚噛んだとか、一時期日本に渡って陰陽道を学んだとか、その辺の話は脳が受け付けなかったのである。
「······とりあえずこれからはしばらく月でのんびりしようと思うよ。この時代でも今まで学んできた術が機能するか試してみたいんだ」
「······まぁ、気取られないようにな」
結局徊月はそれしか言えなかった。ただ、唯一彼が冷静だったのは、起こった事を命月に報告することを忘れなかった事である。
このお陰で、張月の特異性は、月中に有名となるのであった。
『無題』
今日も今日とて怠惰な生活を送っている女性、御伽華。教職をすごい早さで解雇されたのが原因ではあるが、何故解雇されたかについてはわからない。
手元には数年は遊んで暮らせる程の退職金だけが残っている。そして生憎、華は遊んで暮らすような性格をしていない。
···そこにあるのは、虚無。色も形も何もない虚無である。
「···先生?」
そんな彼女にも、辛うじて交流はあった。
「···石鎚さ······篝ちゃん。ノックくらいしてよ」
「事前に手紙送っておいた方が良かったですかね······?」
「いや···寝かけてたからむしろよかった。おかげで目が覚めたよ」
虚空から前触れなく現れた少女が、華の意識を急速に鮮明にさせていく。冗談が通じなかった所はご愛嬌である。
······彼女の名前は石鎚篝。未だに華を『先生』と呼んでいることからも、その親愛······尊敬の情がわかる。
「······で、今日は何しに?」
「···特に用事はないですが······家に一人になったので······」
躊躇はするものの、ここに来た理由を包み隠さず言う篝。特に何もないのに来るというあたり、完全に慣れている。
「そっか。···最近どう?」
「ぼちぼち······ですね。あ、そういえばこれ······この問題分からないんですけど······」
「ぼちぼちかぁ······それで質問?嬉しいなぁ。······これはこうやってこうすれば······」
座りながらテーブルにノートを置く篝と、そのノートを見て解答例を赤ペンで書いていく華。······何となく距離が近い感じがする。
「この式が共通してるでしょ?これを文字に置き換えてコンパクトにして、因数分解した後に文字を元の式に戻せば簡単で確実だよ。時間はかかるかもしれないけどね」
「なるほど······こんな感じに······ありがとうございます」
篝はそう言った後も、そのままその場所を動かない。会話はなかった。
「······そういえば、最近冴月ちゃん達はどうしてる?」
先に空気に耐えきれなくなったのは華の方だった。大人の威厳などあったものではない。
「どうって······最近来てないんですか?」
「来てないね。······まあ、こんなになってる私に会いに来てくれる人なんて······よっぽどの物好きだよ」
「······」
華が教鞭を取っていたのは1年程度である。しかも、転任ならともかく······謎の解雇によって教員生命が中断されたのだ。ただでさえそのような文化が薄いのに、生徒が会いに来よう筈もない。
······篝と、先程話題に上った冴月を除いては。
「······篝ちゃん、無理に会いに来なくてもいいからね······?」
華はのんびりと言った。そこまで軽い調子で言える事柄ではないのは重々承知している。しかし彼女はこの生活でかなりネガティブになっていた。······少なくとも篝にとっては、今にも消えてしまいそうに見えたに違いない。
「······いえ。私は来たいから来てるんです。話をしたいから手紙を送ったり会いに来てるんです。一緒にいたいから······」
「······」
そこまで言って口を噤んだ篝に対して、華の反応はというと······赤面していた。
「······そこまで言われると、嬉しいを通り越して······恥ずかしくなってくるんだけど」
「······っ」
直後、華に負けず劣らず顔を赤くした篝は、すぐに手紙に自分を添付させ帰っていった。
······後には、僅かにかき混ぜられた空気と、珍しく頭を抱える華が残されていた。
「魔女」
おとなは、みんな嘘ばっか。うそつき、みんな嘘つき、だからもう
「だれも、しんじない。あおい、いがい、もうだれも」
頭から血を流す妹を抱きしめながら、そっと頬を寄せる。誰も助けが来ない業火の中、片割れを背中に抱え割れた硝子の破片に映った自分を踏みつけた。
訓練終わり、汗を拭い湯浴みを済ませたあとお茶を啜りながらにこにこと周りを見渡す。ここも随分と人が増えたものだ。子どもから大人まで、昔は二人だけだった訓練も今では大勢ですることも多くなった。随分と日が長くなった。そんなことを考えて目を瞑る。今日は朝から嫌にあの日のことを思い出す。
昔から、私たちは一族に疎まれていた。一つは、双子で産まれたからという理由。二つは、二人が揃うといつも妖達が寄ってくるから。三つは、二人とも女であったから。
父は私たちに目を向けず義務だけ果たすようにといい姿を現さない。母は、忌み子達を産んだから、そんな理由で安倍の権威を失墜しようとする者たちに私刑を下された。
そんな中、味方となってくれる大人が一人だけいた。棗、彼はそう名乗り、なにか困ったことがあれば私たちに手を貸し、その変わりに私たちが妖達を退治した。人見知りで気が弱い葵も彼には心を許していた、それは私も同じだった。
夏の暑い日だった。今日は朝から家が騒がしく、陽炎が燃えていた。二人で手を繋いで書物庫に籠っていると、突然父が現れ私たちの両手を力強く引っ張り外へと連れ出した。それを私たちをようやく見てくれた、必要としてくれたと勘違いし、二人ではしゃいでいると突然頬を叩かれる。
「なにを浮かれている。同じ顔で気味が悪い。この騒動を片付けろ。命を落としても」
そういい、父は去っていった。なにを彼に期待していたのだろう。涙を堪えながら、二人で現れた敵を倒して、倒して、倒して、倒して、どれくらいたっただろうか。お互い体力も、霊力も限界を尽きた。六歳の二人が闘ったところで、鷹が知れている。そんな余計な考えが頭によぎった時だった。
今までよりも大きい妖が現れた。
幼い私たちはそれが今回の騒動の原因だなんて気付きもしなかった。葵の方をみて油断をしていた、その時だった。
「おねえちゃん!!!」
「…っ、あお、い?、あお…っ!」
敵の攻撃を庇った妹が頭から大量の血を流し倒れていた。う、そ…うそ、死んじゃいや、嫌だ。
「あれ、まだ生きてたの?てっきり死んだかと」
「なつめさん、あおい、あおいが!」
「分かってるよ、死にそうなんでしょ。でもね、こっちも精一杯なんだ、強く生きなよ、じゃないとこの世界では生き残れないんだからさ、利用されて終わりだよ」
「…え、あ…いっ、いや、いやいやいやいやいやいやぁぁぁぁ!」
そこからのことは覚えていない、気付いたらあの妖はこの手で潰していたらしい。周りには大量の瓦礫とボロボロになった刀があった。周りは業火に焼かれており、妹の息も弱まっていた。
強くなければ、意味がない。
弱いものは、淘汰される。
その考えは良くも悪くも私たちを変えた。
後から確認したが、棗はそもそも私たちをよく思っていなかったらしい。そして彼はあの騒動で命を落とした。笑える話だ。もしかしたら私が手にかけたのしれないが、記憶にないのだからなんとも言えない。
妖達が寄り付く体質も、あの後術式と性格ごと入れ換えたあの日以来収まった。
「そんなことも、つい最近のことのように思えましたのに…。それにしてもなにも言わずに背後に立つなんて、御前でなければ許されませんわ」
思い出した苦い感情にぐっと蓋をして、いつものように優しく笑顔を携える。これもあの後身に付いた生き残りの術だ。
「なにもせずとも、流れるものなのだから許しておくれ」
思考を覗かれるのは慣れないが、そういうものだから仕方ない。どうせその他の情報に流される。
「ふふ、今師範や御前に向けている信頼は本当です。ですから心配せずとも…これで、裏切られたら、それこそ半狂乱の魔女にでもなるやもしれませんけれど」
「そんなことは起こり得ないはずだ、そのように目を配ってるのだから」
「私も、そうならないことを強く望みますわ」
そっと視線を下げた先の湯呑みに映った自分の顔はあの日は違い、少しの笑みを携えていた。
とある狂信者の独白
嗚呼、私はなんと罪深いのか。この世でもっとも高貴でやんごとないお方に恋をしてしまった。貴女に近づく、いいえ、側にいるためにはなんだっていたしましょう。この想いが決して報われなくとも。
初めてあったとき、貴女はたしか10歳に近いお年頃でした。その完成されたお姿と言ったらなんと筆をしたためるのが正解か。すらりと伸びた手足にまだ肩くらいの髪、そして全てを見透かすかのような黄金色の瞳。鈴をならすような声。そしてまだ幼い妹君を思いやるお心。その全てに心を奪われ、私はこのお方に出会うために生まれてきたに違いないそう思っていました。ある出来事があるまでは、このお方も私に出会うために生まれてきたに違いないと烏滸がましい勘違いをしていたのです。
貴女と出会い春が7回回ったとき、冬になっても決して枯れることなく咲き続ける神櫻の下、貴女は初めて友達と呼べる存在に出会われました。名はセラフ、アイドル兼ヒーローだそうです。争い事が嫌いな貴女はヒーローと呼べる方々との交流を持ち始めました。その頃からでしょうか。妹君の交流や初恋が始まり、貴女は安堵を浮かべる表情、そうして死ぬ時に備えた動きをし始めたのは。その時、私は恥も知らず貴女を救うため医者になろうと決心したのです。貴女のためなら何も辛くはありませんでした。
そうしてまた6回春が巡ったある日、親友の膝の上で貴女は息を引き取りました。その後の瞳孔確認は私がしたのですから間違いありません。悲しみよりも先にこれからどすればという不安にかられました。妹君はまだ12歳、私が彼女を…あわよくば貴女の変わりをなどと思っていたのです。
「茜、先ほど言った通りもう姉はいない、それでも私についてきて欲しい」
貴女の妹君は私の目をまっすぐ見ながらそう伝えました。あぁ、この小さい女の子に私のこの濁った感情は全てばれていたのか。私は何て烏滸がましい生き物なのか。そうして貴女に似てる彼女に強く引かれてしまうのも。頷きつつ心の中にはどす黒い感情が渦巻いてしました。貴女も、貴女も…私の手の届かない所にいて、一番になれぬのならせめて二番手にそう努力しました。妹君の番様には気付かれ、手を出さないのならと見逃していただけました。
そうして私は、夫と出会い子どもをこさえ幸せな生涯を送ってきました。あぁ、最後に…
「しづ、きさま、らんさま…どうかこの私をその目でみとどけて…くださいまし」
その黄金色の目に移ることが何よりも私の幸せだったのです。