カズマのいる病室へとつながる扉を開けて、クロノは思わず息を飲んだ。
カズマは、半身を起こして窓の外を見ていた。
窓からの風で、ふわふわとした涼やかな色の髪がなびいている。
なんだか、儚くて。それでも、凛とした強さがそこには確かにあった。
クロノは金縛りにあったかのように、動くことができずにいた。
そこにちゃんといるんだ。
俺たちは、東海林カズマを取り戻したんだ。
急にカズマが、当たり前に目の前にいるという事実を実感し、なんというか胸がいっぱいいっぱいになってくる。涙だって出そうだ。
クロノの気配に気がついたんだか、カズマはゆっくりと振り向いた。
「いたんならなんか言えよな。・・・クロノ。」
【クロノ】
その呼び方は、ずいぶんカズマと親密になったんだな、と感じさせるもので、なんだか非常にやばい。にやけてくる。
いつのまにやら、病室の一角に置かれていた紫色のアネモネがはらりと落ちる。
それを期に、やっとクロノは口を開いた。
「わりぃ。・・・あ、そうそう。今日は物理を教えてもらいにきたんだ。」
「またかよ。」なんてカズマは言うが、その顔はまんざらでもなさそうだ。
【物理を教えてもらいに来た】なんていうのは、口実だ。本当は、ただ会いたいだけ。口が裂けても本人にはこんなことは言えないが。
本人がそれを知ったらどんな顔をするだろうか。意地悪く笑うか。ドン引くだろうか。それとも意外と照れたりするのだろうか。
そんなことを考えながら、ベットに近づいていき、すぐそばのイスに、腰をかけたその瞬間だった。
ガラリ
扉が、開けられた。
「あ、鬼丸さん。」
そこにいたのはカズミだった。別に驚くこともない。心配性のカズミは逆に来ない日の方が少ないくらいだったのだ。
カズミは、カズマの元気そうな顔を見て、顔をほころばせた。でもすぐにきりっとした顔つきに戻し、ツカツカとこちらに向かって早歩きしてくる。
それから、カズマと目線を合わせるように腰を落とし、ぎゅっとカズマの片手を握った。
「に、にいさん!?」
慌てふためくカズマなど、全く気にしない様子で、カズミはカズマの耳に顔を近づけた。内緒話をするかのように、そっと囁く。
「・・・・お父様が来てる。」
【今のところまとめ】
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【その言葉に意味があるなら】
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