【それでは会議を始めます....】
そんな声が遠くの方で聞こえた。どうやら始まったらしい。
「間一髪だったな....」
クロノが囁く。
「そうだな。」と小声で返してやる。
幸い、この部屋自体が大きすぎるせいか割とうるさくしても大丈夫なようだ。
「それにしても.....」
クロノが緊迫した雰囲気を醸し出す。
「....狭いな。」
「....ああ。」
....いや、狭かった。本当に。だがまだ一般家庭の押入れよりは大きい。とりあえずこうして人二人が入っているからだ。
高さがそうないのが厳しかった。腰を下ろして頭がしきりに、つくかつかないかの高さだ。
この押入れは、二段に横に仕切られている。どちらか一人が上に入れば寝転ぶこともできたかもしれないが、気が動転していて、二人して下の方に入ってしまった。
「とりあえずバレたら大変なことになるし、黙っとくか。」
クロノにそう言われ、小さく頷く。
そこからは、ただ静かに時間がすぎた。
遠くの方で、お偉いさんのしわがれた声が時折聞こえた。クロノはだんだんとこの状況に慣れてきたのか、うつらうつらとし始めた。
......そして。
カズマは、時間がすぎていくと同時に、自分の身に異変を感じ始めた。
身体が、冷たい闇に侵食されていくような。どうしようもなく、この押入れから出たくなったりというような感覚だ。
最初の方は、その感覚を気にしないように意識の奥へ押しやっていた。
しかし、いよいよ呼吸が浅くなってくると、無視し続けることもできなくなってきた。
やばい。
やっぱりまだ駄目だったか。
カズマは、妙にうるさい心臓を抑えるように、襟元をぐしゃりと握り締めながら思った。
カズマは、狭いところが苦手だった。閉所恐怖症というやつだ。
というのも、この家に住んでいたころ、一族に戒めの意味を込めて、どこか狭いところに閉じ込められた記憶があるのだ。
自分が何をやらかしたかは、覚えていない。しかし、割と頻繁に閉じ込められていたことを思い出す。
【....お父様!出して!】
幼少期の自分の声が蘇った。悲痛な叫び声だ。
【ごめんなさい....!もうしないから!!】
そんな自分の声が脳内で反芻した。その瞬間心臓が一際大きく、どくりと鳴った。
「......っ!!」
おもわず咳き込みそうになった。
....やばい。本格的にやばい。
過去のことを思い出したのが悪かったんだろうか。症状が悪化しつつある。
薄暗い中で、自分の手を見る。その手はみっともなく震えている。震えを抑えようと、手をぎゅっと握りこんでも意味はない。
クロノの方を見た。こんな状態のカズマとは対照的に落ち着いている。しかし、助けを求めようにもこの状況ではどうしようもない。
......やはり、どうにかしてやり過ごすしかない。
深呼吸をし、浅くなってしまった呼吸を整えようにも、状況は変わらない。
......怖い。
【死ぬんじゃないか】というほどの不安感に頭の中が支配される。
死ぬはずがないのに。わかっているのに、そんな思考を止められない。
はーっと吐いた息が狭い押入れに響いて、確実に体調が悪くなっているという事実を再認識させられる。その事実にさらに精神が追い詰められる。
怖い。
怖い。
息が吸えない。
どうしようか。
駄目だとわかっているのに、思考が負のスパイラルに陥っている。
空気の循環不足で、目の前が滲み始める。
頭が回らなくなってきたせいだろうか。無意識に手をクロノの方に伸ばしていた。
その手をぐいと力強く掴まれた。それからクロノの方へ引き寄せられる。
ふらついて、クロノの方へ倒れ込む。
「大丈夫か!?」
大丈夫に見えるかよ....そう自嘲気味に笑ってやりたいのにうまくいかない。
【その言葉に意味があるなら】
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