カズマは凍ったようにその場から動かなかった。その首筋を冷や汗がつうと伝った。
カズマは怯えているのだろうか。それでも、自分自身を落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐く。
クロノはそんなカズマの姿を見て、なんだか胸が苦しくなった。抱きしめてやりたい。そんな欲望が頭に浮かんだ。
カズマに触れようと、手を伸ばす。
しかし、間一髪のところで思いとどまり、空中でさ迷わせた手を、カズマの肩に添えた。
「....カズマ。」
こういう時、なんと言葉をかけてやればいいのかクロノにはよくわからなかった。
だから、ただただ名前を呼んだ。
「....大丈夫。行こう。」
何気なくカズマは、クロノの手を取って歩きだした。
その手は異様に冷たくて、クロノは少しでも自分の熱が移るようにと、ぎゅっと握り返した。
先ほどの女中についていく。
しばらく歩くと玄関に入った。雰囲気に圧倒されつつも、とりあえず「お邪魔します....」とだけ言葉を発する。
「うわ...玄関なのに俺の部屋より広い....」
絶句して、きょろきょろとあたりを見渡していると、「置いてかれるぞ。」と呆れ返ったような様子のカズマに、ぐいと手を引かれた。
その横顔をちらりと見る。カズマは先ほどよりも、顔色は良くなったようだ。
ほっと息をつきつつ、カズマに引きずられるように歩く。
それにしても、本当にどこもかしこも広い。それに床が木のおかげか、辺りは木の香りが漂っていてすごく高級感が出ている。
「今日はここでお過ごしになってください。」
クロノは急に止まった女中に追突しそうになりつつも、「あ、はい。ありがとうございます。」としどろもどろになって言った。
「それでは」と立ち去った女中の後ろ姿を、ぼんやりと見送り、しばらくして用意されていた部屋に入る。
畳が床に敷き詰められ、丸い机が中央に置かれている。この部屋も二人で使うにはもったいないくらいに広い。
クロノはふすまをそっとしめて、大きくため息をついた。
「鬼丸さんはこんな家にずっと住んでんのか....。やっぱすげぇな。」
ぽつりと感想をもらすと、カズマは鞄を机の上においてから「ほんと。すげー神経してるよな」と乾いた笑いをこぼした。
やがて、カズマは鞄の中から、保健のノートを取り出し「ん」とクロノに差し出した。
「あ、そうか。そういえば写しに来たんだよな。」
「忘れてたのかよ。」
微笑を浮かべながら、カズマは腰を下ろした。
「しょうがねーだろ。こんなすげー家見せられたら。」
ぶつぶつ文句を言いながら、クロノも腰を下ろす。
クロノが筆箱を取り出したりと、ごそごそしているとカズマは不意に言った。
「....終わったらファイトでもするか。」
その言葉に、クロノは即「よっしゃ!!」との反応を返し、保健に取り掛かった。
そんな反応に、カズマはやれやれとため息をもらした。
「単純なヤツ....」
【その言葉に意味があるなら】
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