――この学園は、女王に支配されている。
【主な内容】
生徒会長によって支配されカースト、いじめなど様々な問題が多発した白羽学園(しらばねがくえん)。生徒会長を倒し、元の学園を取り戻す為に生徒達が立ち上がった……という話です。
【参加の際は】
好きなキャラを作成し、ストーリーに加えていただいて構いません。
ただし、
・チートキャラ(学園一〇〇、超〇〇)
・犯罪者系
・許可なしに恋愛関係や血縁関係をほかのキャラと結ばせる
は×。
また、キャラは「生徒会長派」か「学園復活派」のどちらかをはっきりさせてください。中立派もダメとは言いませんが程々にお願いします。
キャラシートは必要であれば作成して下さい。
【執筆の際は】
・場面を変える際はその事を明記して下さい。
・自分のキャラに都合の良い様に物事を進めないように。
・キャラ同士の絡みはOKです。ただし絡みだけで話が進まないということの無いように。
・展開については↑のあらすじだけ守ってくださればあとは自由です。
・周りの人を不快にさせないように。
(前回から時間が前後してすみません。晃くんが真凛ちゃんと千明にメールを送った少し後になります)
藤野真凛と天本千明にメールを送ってから数十分後。パソコン画面の前で、晃は唸りながら首を傾げていた。
「どうしたの晃くん? もしかしてさっきのメール、無視されて……」
「いや、天本先輩から返信は来た。来たんだが……これがなあ」
そう言って、晃はパソコンの画面を麻衣に見せる。表示されている受信メールの送信先は確かに天本千明のものだ。しかしその本文に目を通すと、晃に続いて麻衣も首を傾げたのだった。
--------
その是非を答える前に、あなたたちに質問があります。
風花百合香が行っている独裁政治について、おかしいと思う点はありませんか?
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「うーん……なにこれ?」
「な? アイツの独裁が徹頭徹尾イカれてるのは今更だろ。なのにどうしてこんなことを聞くんだろうな」
校長をも凌駕する権力を持つ風花百合香。そんな女王を盲目的に崇める生徒たち。そして彼女に楯突く者への徹底的な処刑。
これらのどこが異常だと問われれば、全てとしか答えようがない。故に晃はこの質問の意図が分からず、千明宛ての返信を送るに送れなかったのだ。
「独裁、独裁……関係ないかもしれないけど、風花百合香の処刑制度が始まったのっていつだっけ?」
「確かアイツが副会長になってからだから、俺たちが入学した頃……大体一年前だな」
「うええ、一年でここまで汚染されたのかあ。しかもこれが来年も続くんじゃ……ん?」
落胆と共にこぼした自分の言葉に、麻衣はふと違和感を覚えた。違和感は彼女の脳内で瞬く間に展開され、やがてそれは一つの新たな答えに、そして新たな疑問となる。
「……天本さんの言う通りだ。この独裁はおかしい」
「は? おかしいのは今更だって、ついさっき」
「そこじゃなくて! 風花百合香は三年生でしょ? 来年にはもう卒業して、学園からいなくなるのよ」
「お、おう」
思い付いたひらめきが薄れないうちにと、捲し立てるように早口で喋る麻衣。そんな彼女の剣幕に圧され、晃は麻衣の推理を黙って聞くことにした。
「卒業すればアイツは生徒会長じゃなくなって、それまでみたいな権力は振るえなくなるはず。つまり、風花百合香が学園を支配できるのはたったの二年間。そんな短い期間のためだけに、あんな独裁政治を普通やると思う?」
「言われてみれば……確かに『おかしい』ぜ」
生徒会長という肩書きには期限がある。その権力を最大限に拡大して学園を都合の良いように作り替えたところで、卒業を迎えればそれらは全てリセットされてしまう。すなわち百合香は高校生活の大半を、たった二年の独裁のためだけに無為にしていることになるのだ。
尤もあの生徒会長だ。もしかすると何かしらの策を講じて、卒業後も何らかの形で支配を続行してくる可能性も否めないが。
「じゃあどうして、そんな普通じゃないことをアイツは実行したんだ?」
「そこまでは分からないけど……。とにかくこれで、千明さんへの返信は書けるんじゃない?」
「そうだな。果たして正解だといいが」
自分たちが至った推測をメール本文に打ち、千明宛てに送信する。すると、程なくして返信がメールボックスに届いた。本文を早速開封した麻衣と晃は、その内容に目を丸くすることになる。
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あなたたちも気づいたようですね。
なぜ風花百合香は二年しかない独裁政治を実行したのか。その理由はこちらも分かりませんでしたが、ある程度の推測はつけています。
彼女にとって白羽学園の支配は下準備でしかない。風花百合香は白羽学園を土台にして、もっと巨大な組織を作り上げようとしているのではないかと思うのです。
話が飛躍しすぎだと思うのなら、そう思ってもらって結構です。しかしそうでなければ、あのような無意味でふざけた独裁を平然と行うでしょうか?
どちらにせよ、風花百合香が強大な力を持った狂人であることは間違いありません。そんな途方もない存在と最後まで戦い抜く覚悟が、あなたたちにはありますか?
ほんの僅かでも躊躇いがあるのなら、革命など諦めなさい。
(諦めなさいとは言ってますが、フリのようなものだと思っていただければ……)
「巨大な組織…。」
「風花百合香は何で組織を作り上げる必要があるのか?」
(長らく更新がないようなので、テコ入れ的な話を挟みます。時間は晃君がメールのやり取りをしている辺りです)
(>>59の続きはかおりさんか蒼月空太さんの投稿を想定していますが、お二人を含む皆さんからの続きが今週末くらいまで投稿されなかった場合、自分で続きを書こうと思います。すみません)
大路伏翼は非常に面白くなかった。昨日の松葉邸襲撃を、安部野に邪魔された逆恨みが尾を引いていたのである。その鬱憤は彼に咎められる元凶となった拓也を私刑に処しても、本日ようやく登校した麻衣と晃の処刑に加勢してもほとんど晴れることがない。故に翼はいつも侍らせている友人たちと離れ、夕暮れの街を一人で徘徊していたのであった。
「くっそー、転校生のくせに生意気なんだよ、あの書記野郎は」
だが徘徊の成果は芳しくなく、いくら気を紛らわせようとしても、昨日の安部野の言葉と顔が翼の脳内でしつこく再生されてしまう。自分の意思に反する無意識に、翼は荒々しい溜め息を吐いた。
「……しかもあいつ、あのアマの仲間にしてはなんか臭えんだよな」
風紀向上のための処刑は立派なことだ。
しかし、処刑が学園の外で通用するとは限らない。
学園と生徒会長に汚名を被せることは許されない。
これらは昨日の安部野が発言した台詞の要約だ。いずれも生徒会役員の台詞としては間違っていない。
しかしそれでも、翼は一度抱いた懐疑を手放すことができなかった。その一因には彼への私怨もあるのだろうが、それとはまた違う、何か違和感めいたものを感じていたのである。
と、そんな折。視界の端が見覚えのある影を捉える。翼は影の姿を確認すると、咄嗟に建物に身を隠した。
「……病院? あいつがあんなところに何の用だ?」
噂をすればなんとやら。翼が見定めた影というのは、病院を後にする安部野の姿だった。安部野は自らを偵察する目線には気付かず、スマホを操作しながら人混みの中へ消えていく。
翼は彼に怨念を込めた睨みを飛ばしつつ、しかしそれ以上は何もせずに彼の背中を見送った。そうしてから安部野が出てきた病院を見上げると、にやりと酷薄な笑みを浮かべる。
「病院って言やあ、弱ってる奴が集まる場所だよなあ?」
安部野が何かしらの病を患っているという話は聞いたことがない。彼自身が病気を隠していることもあり得るが、その可能性を無視するなら、健康な人間が病院を訪れる理由はほぼ一つ。
安部野にとって相応に大切な人物が、あの病院に入院しているに違いない。
弱者を庇護する人間は、得てしてその存在が枷になる。安部野が見舞う人物の詳細を今のうちに調べておけば、有事のときに彼にとって有効な人質になるかもしれない。もしくは逆にその人物と交流を深めて安部野の秘密を聞き出す穴としても良いし、虚言を吹き込んで安部野の敵に転じさせるのも面白い。
「……ま、一先ず今は裏取りが先だよな。どう料理してやるかはそれからだ」
思いがけず拾った安部野の弱味となりそうな種は、僅かながら翼の不機嫌を癒した。もっとも、そこから収穫できるものが期待通りである保証はないのだが。
そんな可能性も視野に入れたつもりの翼は、安部野の見舞い相手にどうやって接触するかの算段を立て始めたのだった。
「お前さぁ、暗いし気持ち悪いし目障りなんだけど」
昨年のことだった。
当時クラスでリーダー格として権力のあった女子。
彼女は軽蔑した目で、そう言い放つ。
突然そんな事を言われた相手の方は、ただ縮こまって目をぱちくりとさせていた。同じ長さに切り揃えられた長い黒髪まで、おどおどと震えているかの様だ。
「……だから、そういうとこがウザいんだってば」
一方で堂々と立っている少女、木嶋京子はそう言って荒々しい溜息をついた。
それに野次をかける様に、静まっていたクラスは動き出す。
「京子の言う通りだよね〜、あいつ暗い上に何考えてるかわかんない」
「普通に気持ち悪いっていうかさ……前髪長すぎて表情見えないし」
「どうせブスなんだろ、あんな顔まじまじと見たくねぇよ」
クラスがざわつく中、黒髪の少女はただ黙って俯いていた。それがより一層、周りの心無い発言に拍車をかける。
「ほら、何か言えないのかよ?」
「見ててイラつくわぁ、木嶋さんに同意」
「やっぱあいつ邪魔だよな」
その日からだ。クラスメイトが彼女をいじめ出したのは。
教科書や私物は次々となくなり、体育着はズタズタに切り裂かれた。弁当はトイレに捨てられ、いかがわしい写真が生徒間に流出した。それはいじめのほんの一部に過ぎず、毎日クラスメイト達はあの手この手で彼女の精神をすり減らしていく。顔もアザに塗れ、制服は汚れが目立っていった。
彼女は何も言わなかった。逆らえば面倒なことになるのは分かっている。誰に助けを求めることもなく、ただただ黙っている。
「貴方達、何をしているの!」
そんな惨めな彼女に、手を差し伸べる存在がいた。
リンチに参加していた生徒達は散り散りになって逃げていき、後には床でうずくまる少女だけが残された。
「ねえ、大丈夫?」
暖かな微笑み。白く美しい手。彼女の様に長いが、美しく整った髪。
「結城璃々愛さん」
「……かいちょーに……手出しはさせないんだから」
放課後の教室で、璃々愛は1人呟いた。
彼女は自分がやられた事と、同じこと……それ以上のことをしてやった。
今まで処刑されてきた人間から、悪魔となじられたのも無理はない程に。
http://ha10.net/sou/1487500416.html
こちらにおいて、ABNさんがこれまでの流れや時系列表を書いて下さいました。ありがとうございます。
(亜衣と別れた下校中の恵里目線)
一緒に帰っていた私と亜衣。信号のないとある十字路で亜衣は左に曲がり住宅地へ。私はそのまま進み、自分の住むアパートへ。
ここからあと………10分位。
それなりに人通りのある道路を歩くと、右に病院が見えてくる。
いったことはないが、ここを通る度に思う。
「やっぱりおっきいなーここ。………って、あの人、翼さん……だっけ?」
その入ロ近くに、B組の翼さんがいた。なぜ名前を知っているかというと、裏で有名だから。勿論、悪い意味で。
言っちゃ悪いかもしれないけど……彼は、その、猫かぶり。
よく噂になってる。教師の前ではあんな良い顔してるけど、すっごい不良だって。
私は彼のことをよく知ってる訳ではないけど、あんまり関わりたくはないかな。それにしても………
「何してるんだろう……?」
お見舞いでもなさそうだし、なんか笑ってるし。
う―ん、ま、いいか。
すぐ諦めるのは私の悪いクセ。直しようがない。
「………?」
コンクリート製の歩道の隅に何か、黒の………手帳?
このままにしておくのもアレなので、持ち主の電話番号でもないかとページをめくる。
うわ、この人すごい几帳面だ。
なんていうか、物凄く細かい。定例会議の時間とか、生徒総会の段取りとか、変更した日程とか。
っていうかこの手帳の持ち主、学園の人?行事とか全部同じなんですけど……。
「ぁ、わ……」
カサリ、と音をたててカバーが落ちる。手帳本体に書かれている文字は……
独裁女王 風花百合香 絶対に許さない
え、革命派の人?
どうしよう。持ち主にかえしにくくなっちゃった。
とりあえず、カバーを拾ってかけ直す。
「お前、誰?」
「ッ!!?」
いつのまにか目の前に、翼さんがいた。
「てかさ、その手帳どこで手に入れたんだよ」
「さっき、ここに、落ちてた………」
「ハア?なわけあるか。それ、書記の阿部野のやつだぞ」
「ぇ……で、でも、これ……」
私はカバーをはずし、翼さんに見せる。あの、書き殴られたような赤い文字を。
「……へえ、表向きは生徒会長派でも実は……ってとこか。何考えてるんだか」
生徒会書記の人が、革命派?そんな……。
生徒会の人に言った方がいいのかな。でも、そうしたらあの人はきっと、処刑されちゃう。
「ぁ、あの、これ」
「ああ、悪いけど返しといて。俺帰るわ」
そのまま翼さんは小走りで去っていく。
って、ちょっと、やめてよ。
私が返せるわけないじゃん。生徒会の人はみんなA組なのに………。
あ、そうだ。あの先輩に頼もう。
3年A組の笹川先輩。すごくかっこいいお姉さんって感じの人。
清楚でお嬢様な生徒会長も人気だけど、私は頼れる姉貴な笹川先輩が好き。キリッとしていても頭のなかでは空想のオンパレードってとこも好き。
ああ、とにかく帰ろう。笹川先輩に頼むのは明日だ。
黒いカバーの手帳をカバンに入れ、私は自宅アパートへの道を急いだ。
(>>61で言ってた続きを想定している方の名前、かおりさんではなく奏さんでした。間違えてしまい本当に申し訳ありません;)
(今回は今までで一番の長文になってしまいました。更に皆さんのキャラがかなりぶれているかもしれません。すみません)
「なるほど、巨大組織……! いかにもあの生徒会長が考えそうな計画ね」
「いやいや待てよ! 組織とか流石に妄想が過ぎねえか!?」
千明による突飛な陰謀論は、中二病的なものを好む麻衣には好感触だったようだ。そんな彼女の高揚を晃は慌てて抑えようとするが、なまじ説得力のある推理に麻衣の目の輝きは収まらない。
「でも実際、今の学園は風花百合香の帝国って言っても過言じゃない状態でしょ? 今の時点でも十分異常なんだし、これが組織を立ち上げる計画の一部って言われてもおかしくはないわ!」
「確かにそうだけどよ……。じゃあ天本先輩の仮説が合ってたとして、あいつはどういう組織を何のために立ち上げようとしてるんだ?」
「それは分からないけど……悪徳企業か、新興宗教か、はたまた本当に帝国でも作る気かしら? みんなに自分を崇め奉らせてる時点で、ろくな組織にはならないでしょうけど」
敵側ながら中々興味深い、風花百合香が目指していると思われる独裁集団の最終形態。ある種の浪漫に満ちたその予想図をあれやこれやと考えていた麻衣の顔色は、しかししばらくすると何かを悟ったようにさっと青ざめた。
「……そうか。私たち、そんな狂った組織に立ち向かおうとしてるのよね。たった数人で」
方や真凛や千明を誘おうとしているとはいえ、現時点での同志は二人しかいない自分たち。方や全校生徒のほとんどを味方につけ、将来的には巨大な組織をも立ち上げかねない生徒会長。その絶望的な戦力差を改めて実感した麻衣の体は、次第に小刻みに震え始めた。
臆病風に吹かれた心が倒れそうになったそのとき、くぐもったバイブレーションの音が静まっていた部屋に響く。反射的に麻衣は自分のスマホを取り出すが、画面にはいつもの待ち受け画像が映っているのみ。連絡があったのは麻衣ではなく、晃のスマホのようだ。
「ああ、俺の方か。……なんだこの番号?」
未だに震え続ける彼のスマホには、見覚えがない電話番号からの着信画面が表示されている。晃は確認を取るように麻衣へ目配せを送ると、音声をスピーカーに切り替えてから、慎重に画面の通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
「さっきのメール、読んだわよ。二年D組……いえ、E組の松葉晃」
「うっわ、そこまで知ってるのかよ!? ってかメール読んだってことは、藤野先輩なんだな?」
「正解。私にかかれば、メール一通で身元や電話番号を割り出すなんて簡単なんだから。そんなことよりあなた、よくも素晴らしいことを考えついてくれたじゃない!」
電話の主は、先ほどメールを送ったもう一人、藤野真凛だった。スピーカーから聞こえてくる彼女の声は、興奮のせいかやや上擦って聞こえる。
「生徒会長さんは順風満帆だった私の人生を、それはもう滅茶苦茶の台無しにしてくれたわ! それ以来ずっと復讐の機会を窺ってたけど、信者という名の盾の前には流石の私のハッキングもぬかに釘だったのよ。でもあなたたちが力を貸してくれるなら、勝機は見えたも同然ね! 喜んで協力してあげるから、一緒にあの女を死ぬより辛い地獄に叩き落としましょう! で、具体的な反逆の内容や決行日はもう決まってるのかしら? というか今の人員はあなた以外に誰がいるの?」
「わ、分かった分かった! 協力してくれるのはありがたいけど、ちょっと落ち着いてくれ!」
余程多くのフラストレーションを溜め込んでいたのだろうか。マシンガンのように百合香への恨み辛みを吐き出す真凛の迫力に、麻衣と晃は気圧されそうになった。そんな彼女をどうにかなだめ、晃は真凛の質問に答える。
(続く)
(続き)
「具体的な内容っつっても、まだメンバーが俺と麻衣……同じ二年の板橋麻衣ってやつしかいなくてな。今のところは学園掲示板を立てるくらいしかできてねえんだ」
「掲示板なら私も見たわ。でもあの狂信者共が、あんなありきたりな学園掲示板程度で変わるかしらねえ。私以外に声をかけた人はいないの?」
「ありきたりで悪かったな。一応あんたに送ったのと同じメールを、天本千明ってやつにも送ったんだが……」
「ああ、あの広報部長さんね。電子機器だけに頼らない彼女の情報収集能力は、私から見ても目を見張るものがあるわ。味方に選んだのは正解ね。それで、部長さんからの返事は?」
「それがなあ、『生徒会長は巨大な組織を立ち上げるかもしれないから、覚悟がないなら諦めろ』って返信が」
「なんですって!?」
来たんだよ。と晃が言い切ろうとした所で、叫びに近い真凛の大声がスピーカーから発される。あまりにも高いデシベルに耐え兼ね、晃は自分の耳元からスマホを遠ざけた。
「巨大組織の可能性については否定しないわ。でも、だからって諦めろ? そんな仮説にビビって風花百合香に被せられた汚名を放置しろってわけ? ふざけないでよ! その天本千明、腰抜けの成り済ましとかじゃないでしょうね!?」
「そ、そんなはずはねえよ! 確かな筋から手に入れたアドレスだ、間違ってるなんてことは……」
「大体組織云々が本当だっていうなら、それこそ反逆のチャンスは今しかないじゃない! あの女が生徒会長の枠で済んでる今のうちに潰さなきゃ、近い将来にはあの狂った女王独裁が日本中、下手したら世界中に蔓延してしまうわ!」
復讐のチャンスをみすみす逃せという意見が、真凛の逆鱗に触れたらしい。先ほどやっと落ち着いた言葉のマシンガンが、再びスマホから立て続けに流れ続けた。
しかし言いたいことを言い尽くしたのか、今度は晃の制止なく自分からクールダウンする。
「……松葉晃、天本千明のアドレスを送ってちょうだい。彼女の説得ついでに、そいつが本物がどうか調べてあげるわ」
「わ、分かった」
真凛の言う通り、ハッキングのプロである彼女なら、より確実な裏付けが取れるはずだ。晃は言われた通りに、千明のアドレスを真凛宛のメールに貼り付けて送信した。
しばらくすると、スピーカーからカチャカチャとキーボードのタイプ音が聞こえ始める。千明へのメール作成とアドレスの調査を始めたのだろう。晃はスマホの通話を繋げたまま、マイク部分を指で押さえてから麻衣の方を向いた。
「なんつーか、想像してた以上にすごい奴だったな……」
「そ、そうね……。あそこまで我を忘れちゃうくらい、風花百合香のことを恨んでたのね、ずっと」
「でも、よく考えりゃあ当然だよなあ。俺たちと違って、藤野先輩は既に処刑を受けて追放された後なんだからよ」
恐らくは処刑されたときから今までの約一年間、自分一人では訪れるかどうかも分からない復讐の機会をずっと待っていたのだろう。自らの気がふれてしまうほどの、百合香への怨恨を抱き続けながら。
巨大組織説を聞いても消沈しないほどの強い負の感情を持っているなら、革命の味方としては心強いし途中で裏切るということもないだろう。しかしそれならば、半ばその場の流れで革命を決めたような自分たちが、彼女の憎しみに果たしてついていけるのだろうか?
そんな期待と不安が入り交じった二律背反が麻衣の心中を占め始めたころ。スマホから真凛の声が聞こえてきた。晃はスマホのマイクから指を退けて通話に戻る。
「疑って悪かったわね。あのアドレスは確かに、天本千明のスマホのものよ」
「マジか、ありがとうな! これで安心してメールを送れるぜ」
「……いいえ、まだ気をつけた方がいいわ。彼女、なんだか怪しいから」
「は? どういうことだ?」
晃が疑問符を浮かべたのと同時に、パソコンが千明のアドレスからのメールを受信する。真凛にも送られたであろうその本文は彼女の言う通り、確かに警戒を解ききれない内容だった。
--------
あなたたちの覚悟は分かりました。
それでは今週土曜の午後3時、白羽病院のコインロッカー前に来てください。そこでこちらの事情と意見を伝えます。
翌日。
「おっはよー、板橋ちゃんに松葉クン!」
昨夜のメールの件に頭を悩ませていた晃と麻衣を迎え入れたのは、小生意気な幼い声だった。処刑を中心となって進める璃々愛は、相変わらずの調子で2人を煽る。
「……」
昨日の様な騒動は起こすまいと、2人は何を言われても無視しようと心に決めていた。藤野真凛が味方に加わったとはいえ、学園の現状は何も変わらない。生徒達の刺さる様な冷たい目線と理不尽な暴力に、暫くの間は耐えなければならないのだ。
「あっれー、無視ぃ? ちょっと、酷くなーい? せっかく処刑対象にも優しくしてあげてんのにさぁ」
クスクスという周りの嘲笑が耳に入る。それでも2人は璃々愛と目も合わせずに教室へと向かった。
教室に行けば待ち受けるのは落書きに塗れた机と無慈悲なクラスメイトだが、璃々愛の相手をするよりかはマシだろう。
しかし今日、璃々愛は少しばかり苛立っていた。
愛する会長は昨日顔も知らない女子生徒と2人で帰っていき、何を話したのかも教えてくれない。掲示板を探ってみても、有効な手がかりはありはしない。そして安倍野という、会長に付き纏う不穏な存在。
そういった小さな物が、璃々愛の脳に鬱陶しく絡み付いていたのだ。
その鬱憤を晴らす相手は、目の前の反逆者に決まっている。
「挨拶のやり方……教えてあげよっかぁ?」
懐から出した銀色の裁ち鋏を右手に持つ。生徒達の期待の目。空いた左手で麻衣の髪を引こうとした瞬間――。
「やめなさいよ。くだらない」
冷ややかな声が、3人の後ろでずっしりと響いた。
振り返った視線の先にいたのは、すらりと背の高い大人びた少女。彼女のひたすらに黒い髪の中で、紫のカチューシャがきらりと光る。
璃々愛は彼女の姿を確認すると、あからさまに不満そうな顔をして舌打ちした。
「……なんで邪魔するの」
「また面倒事を起こされたくないからよ。風紀委員長として止める権限が私にはあるわ」
麻衣ははっとして、もう一度彼女の顔を凝視する。その凍りついた眼は、しっかりと璃々愛を捉えて離さなかった。
「……月乃宮……先輩?」
堂々と、しかし優雅に立つ彼女こそ、風紀委員長。
月乃宮いばらであった。
(えっと、64の続きで67と同じ時間です。ややこしいですかね……)
朝。いつもより少しだけ急いで家を出る。
私の所属する文芸部は基本的に平日の午後と休日のみの活動だが、物語を書きたくてたまらない笹川先輩は朝早くからいるはず……。
「おはよ恵里ちゃん、珍しいね。締切前でもないのに」
「おはようございます、先輩。いえ、ちょっと頼みたいことがあって……」
やっぱり、いた。A組であっても全く威張らない、綺麗でカッコイイ文芸部の部長。
「なになに?ひょっとして恋愛相談?」
「ち、違います!その、渡してほしいものがあるんです、阿部野先輩に」
「ラブレター……はないか。あんなのはちょっとねえ。聞いたことはないかな」
だから違いますって……。
じゃない、手帳だ、手帳。
「これなんですけど……」
私はカバンの中からあの手帳を取り出した。勿論、カバーはつけたままで。
「わ、アイツの手帳じゃん。どこで手に入れたの?」
「下校中、落ちていたんです」
「ふーん……ま、わかったよ。後で渡しとく」
「ありがとうございます!」
あー。
……よかった、本当に。
ほっとしながら部室の扉を閉め廊下を歩く。すると、見慣れない光景が、窓の外では繰り広げられていた。
なにあれ……。好奇心を見事にくすぐられた私は、速足でギャラリーの中に紛れ込んだ。
「やめなさいよ。くだらない」
あ、あのカチューシャ見覚えがある。あの人はきっと……月乃宮風紀委員長だ。
「……なんで邪魔するの」
あの人は、結城先輩。
そして、処刑された二人の生徒。
ええと……板橋さんをいじめた結城先輩と、それを止める月乃宮先輩って感じかな。
処刑されたあの人たちを見るたびに、罪悪感が私を蝕む。あの二人は、私の身代わり……。
やっぱり、こんな制度おかしいよ……。
私なんかよりずっと勇気のある人を、こんな……。
革命に、参加したいな。
それは、前から思っていたことだった。こんな私じゃ力になれないのは分かってるけど、でも……‼
とにかく、今日一日考えよう……。
小さな決心をした私は、野次馬の中からそっと抜け出した。
(月乃宮いばらについての設定を深めるため、連続になりますが書き込ませていただきます)
「……いばらねぇ、何でアンタが見逃されてるのか分かってんの?」
「ええ、私は見逃されている身よ。だったらその立場、存分に活用させていただくわ。大体、貴方の校則違反を見逃してあげているのは私よ?」
いばらが歯切れの良い言葉でそう告げると、璃々愛は途端に黙ってしまう。流石風紀委員長ともあり、その佇まいは堂々たるものであった。
「あまり調子に乗りすぎないことね、結城さん……私がそっち側につくとなんて思わないで」
先程から周りは彼女の気迫に圧倒されてしまい、誰一人としていばらに異論を唱えることはしない。璃々愛の方も言い返す言葉をすっかり失ってしまっていた。
今は不利だと悟ったのか、璃々愛は何も言わずに不満げな様子で去っていく。その後ろ姿を見届けると、いばらは2人に向き合う。
「貴方達ね、噂の処刑対象とやらは」
「……あーっと……月乃宮先輩、でしたっけ? ありがとうございます」
気さくな晃と堅いいばらという対照的な組み合わせ。だが少なくともいばらは、そんな晃に味方した様だった。
「いいのよ、別に……前々からあの人達はあまり好きではなかったし」
「あの、月乃宮先輩……いいんですか?私達に味方したら……」
共犯者として処刑される。
それは白羽学園の暗黙のルールであり、誰もが理解している筈の事実。ましてや処刑の邪魔などしたらただでは済まない。現にたった一度反逆者に味方し、自殺に追い込まれた生徒が過去にいたのだった。
たとえ相手が風紀委員長であろうが、生徒達は容赦しないだろう。
しかしいばらは冷静に言う。
「私の父が白羽学園に多大な寄付金を出していてね。私がいなくなると寄付金は半減する事になる。そうなればこの学園は一気に崩壊するわ。学園にとっても風花さんにとっても私の存在は必要不可欠なの」
「……お金持ちなんですね、月乃宮先輩のお宅」
なるほど、確かによく見るとそのカチューシャにも高級感溢れる細かい装飾がなされていた。近くの雑貨屋に売っている数百円の安物とは幾分違っている。
「……で、月乃宮先輩」
2人の間に入り込むように、晃が口を挟む。
「アンタはこっちの味方なんですか」
いばらは少し考え込むような素振りをし、2人を交互に見据える。表情が少しも変わらないおかげで、若干の不気味さが醸し出される。
「……そうね。貴方達の味方と考えてもらっていいわ」
(今回全文の七割くらいが恵里さんの自問自答です。読み辛かったらすみません)
拾った手帳を信頼できる部長に預けるミッションをクリアしてから、恵里はずっと考え事に没頭していた。
女王の自己都合が横行するこの学園で、自らの意志で彼女に反抗した麻衣と晃。通常なら居丈高を戒めたと称賛されるはずの二人は、ここでは反逆者だと定義され、非難と侮辱の嵐を浴びている。
こんな理不尽をひっくり返すことができるなら、是非ともその手段を選びたい。しかし、その選択において枷となる二つの懸念を、恵里は手放せずにいた。
一つは革命に参加しても、自分にできることが思いつかないこと。頭の良さは学園内では平均以下、運動は体育の成績に響かない程度。何かしらの専門知識を持っている訳でもなく、強いて言えば小説執筆に役立つ文法や表現などを覚えているのみ。そんな物書きの端くれである自分に、どんな助力ができるだろうか?
自分の無力を思い返すあまり、恵里の思考はネガティブな方向に転がり出す。それに伴い、先日聞いた剣太郎からの忠告が想起された。
『この学園は成績と評判が全てを決める。必要以上のお節介は自分の身を滅ぼすだけだ』
彼の言う通り、処刑対象の麻衣たちは、現在進行形で生徒会公認のいじめを受けている。ジュースを浴びせられたり、机を落書きで汚されたり、晃の自宅を不良が襲撃したとも聞く。
もし自分も革命に参加して、そのことが他の生徒たちにバレたとき、あのような心ない悪意に自分は耐えられるのだろうか? それが恵里が抱えるもう一つの懸念であった。
以上の自問自答を、納得のいく答えが出ないままぐるぐると考え続ける。そんな堂々巡りは授業中や休み時間にも止まることはなく――。
「白野恵里さん、少しよろしいですか?」
「は、はい!?」
教室移動の途中、背後からかけられた声に必要以上に驚いてしまった。痛くなるほど跳ねた心臓を鎮めながら後ろを振り向くと、そこには今朝、部長経由で手帳を渡したはずの安部野が立っていた。
(続く)
(続き)
「驚かせてしまいすみません。先ほど、僕と同じクラスの笹川さんから手帳を受け取りまして。彼女に聞いたところ、あなたが拾って届けてくれたと仰っていたので、お礼に参りました」
「あっ、はい、その通りです! ええと……手帳、無事に届いて良かったです」
「ええ。落としたことに気付いたときには、どうしようかと困り果ててしまいましたよ。本当にありがとうございます」
心から安堵した様子で頭を下げる安部野。そんな彼に倣って恵里も笑顔を作るが、内心は動揺を表に出さないようにすることで精一杯だった。
あの手帳の中表紙に書かれているのは生徒会長への恨み節。そしてその持ち主である安部野は、恐らく麻衣たちと同じ反逆者。
もし中表紙についてここで言及すれば、あわよくば安部野の革命を手伝うことができるだろうか? 同じ思想を持つ同志の中では恐らく生徒会に一番近い彼だ。上手く行けば、革命の心強い味方になるかもしれない。
だが逆にその目論見が外れ、中表紙を見てしまったことを問い詰められた場合。口封じとして生徒会役員の権限を利用され、自分が新たな処刑対象に選ばれてしまう可能性も否めない。
そもそも革命に参加する決心も固まっていないのに、今ここであの文字について言及してもいいのだろうか?
恵里のそんな葛藤を知った様子もなく、安部野は頭を上げると、一つの提案をした。
「もし白野さんのご都合が良ければ、明日にでも改めて、ちゃんとしたお礼をさせてください」
「えっ、そんな! そこまで大したことしたわけじゃありませんし、大丈夫ですよ!」
「いいえ。白野さんのおかげで、大事な手帳を無くさずに済んだのです。さもなくば僕の気が済みません」
「うーん……分かりました。そこまで言うなら、お言葉に甘えます。明日は特に予定もないですし……」
一度は反射的に遠慮したものの、安部野の押しに負けた恵里は、大人しく彼の礼を受け取ることを決めた。
よく考えれば安部野の礼に付き合うということは、彼と落ち着いて話せる機会を得るということだ。あの中表紙について聞くなら、そのときにすればいいだろう。
恵里の快諾を受け、満足げな笑みを浮かべた安部野は。続けて希望の待ち合わせ時間を述べた。
「それでは明日土曜日の午後二時半、白羽病院内にある喫茶店で落ち合いましょう」
(生存確認がしたいので、この書き込みを見た方は2週間以内に続きを書く、報告するなどで生存を知らせて下さると助かります。
確認がとれない場合、その方のキャラクターは今後自由に使用できるキャラとして扱わせていただきます。)
一応生きてますよ?ただ・・・ネタが浮かばないんですよ。例え浮かんでも、それでいいんだろうか・・・となるので
74:ABN:2017/03/15(水) 19:22(展開に悩むようでしたら、創作の方の設定スレで相談してもいいのではないかと思います…)
75:奏:2017/03/16(木) 13:17 >>72
(いますが…せっかくの素晴らしい小説が幼稚な分しかかけない私のせいでダメになるのは嫌なので…)
(わ、私も生きてますからね!次の話で恵里を革命軍?に入れるつもりですよー!)
77:かおり:2017/03/16(木) 18:01(あ、書記さんの手帳についてはしばらく恵里の心の中で保存(保留)とするつもりです)
78:ビーカー◆r6:2017/03/17(金) 12:07 皆様ありがとうございます。
ネタの相談については創作板を使って頂いて大丈夫ですし、創作板でABN様も仰っていた通り文の出来や話の流れの出来について気にすることはありません!遠慮なく続きを作って頂いて大丈夫です、むしろ皆様の続きを楽しみに待っております!
あまり深く考えず、お気軽にどうぞ(^^)
「もー…っ…、ムカつくムカつくムカつくムーカーつーくーっ!!」
放課後の生徒会室でそう叫ぶのは、幼い駄々っ子の様に床で暴れ回る璃々愛だった。彼女はいつも会長の雑務が終わるのを待つ為、この部屋に居座っている。会長の仕事が終われば会長を家までしっかり見送り、会長が玄関の扉を閉めるのを見届けてから帰路につく。はたから見ればストーカーの域に達しているが、会長本人も特に悪い気はしていなかった。
「何よあの態度!? 超ムカつくんだけど!? 風紀委員長だからって調子乗ってぇ……!!」
彼女の怒りは収まる所を知らず、次から次へと溢れ出ては暴言となって撒き散らされる。そんな彼女の様子を、くすりと笑いながら見つめる百合香。
「まあまあ、落ち着いて璃々愛ちゃん。もう少しの辛抱よ」
「……でもぉ〜……早いうち、何とかした方がいいよ、かいちょー……風紀委員の奴らもまとめて」
相変わらず不満は垂れるものの、会長が一言宥めれば璃々愛は途端に大人しくなる。やがてすくりと立ち上がり、髪を整え始めさえする。璃々愛をここまでコントロールできるのは、やはり百合香くらいなものだろう。
「父親は雪羽広告の取締役、母親は元白羽病院の看護師、そしてお姉さんはその白羽病院の現役看護師……そりゃあお金持ちよねえ」
百合香はそう言って、確認の終わった資料を引き出しにしまった。
「もうっ、感心してる場合じゃ……」
「それより、璃々愛ちゃん。良いニュースよ」
璃々愛に微笑みかけると、百合香はスマートフォンの画面を彼女に見せる。白羽学園では授業中以外ならスマートフォンの使用が許可されており、放課後にもスマートフォンを使用しながら部活動にのぞむ生徒は多い。もっともそれは、主に個人主義の強い文化部でしか行われていないが。
画面上のニュースサイトには、ゴシック体の見出しがでかでかと書かれている。
『木嶋一家失踪事件 長女衰弱状態で発見』
「!!」
璃々愛の目に光が灯ったのが見える。
『昨年末突如姿を消し長らく捜索が続いていた木嶋(きしま)一家の長女、木嶋京子(- きょうこ)さん(17)が、Y県の山林から衰弱状態で発見された。京子さんは市内の病院に搬送され、経過観察中だ。父の富博(とみひろ)さん(39)、母の雪(ゆき)さん(35)、次女の沙織(さおり)さん(15)も発見されたものの、死亡が確認された。
一家は昨年12月7日…………』
「市内の病院って……白羽病院、だよねー?」
「ええ、あそこくらいしか受け入れ場所はないもの……おいたはダメよ、璃々愛ちゃん」
『Lily.
行方不明の子、見つかって良かった。
メディアとかは病院名とか明かすよりまず、その子の様態とか家族問題とかを優先して伝えてあげるべきだと思うなあ。その子がどんな思いして生き延びたのかもっと報道してもいいのに。
13,568 RT 16,928 いいね』
(遅くなってすみません!そんなにこれないので使ってもいいですよ!だけど、近いうちに下校中のは書きます!月曜日(明日)くらいには、書けるようにします!今ちょっと考えてます!)
81:かおり:2017/03/20(月) 12:46 土曜日、午後二時五分。私、白野恵里は喫茶店への道を急いでいた。家から喫茶店まで十分くらいで、待ち合わせは二時半。早すぎるかもしれないけれど、相手は最上級生でA組で生徒会なのだ。遅刻が許されるわけがない。
病院の大きさに感心しながら喫茶店へ歩く。腕時計をみると時刻は二時十二分だった。まだいないよね、と心の中でつぶやいたけれど……
「こんにちは、白野さん」
「こ、こんにちは」
奥のテーブル席には既に安部野さんがいた。
「お早いですね、先輩」
「いえ、少し用があったので。注文どうします?」
「えっと、コーヒーを」
「分かりました」
店のロゴが入ったエプロン姿の女性店員さんにコーヒーを二つ頼む。頑張れ、という意味ありげな目配せは首を横に振って否定する。安部野さんは気付かなかったようだ。
先ほどとは別の女性店員さんからコーヒーを受け取り、話を再開する。
私が一番知りたいのは、あの手帳に関すること。本当に革命派なのか。でもそんなこと、直接聞けるはずがない。そこで私はこんな質問を投げかける。
「……先輩は、あの二人について、どう思いますか?」
革命に肯定的とも否定的ともとれる聞き方。これが吉と出るか凶と出るか……。
「何故そんなことを?」
「……学園の中でもいろんな意見があるので。強いて言えば、生徒会の方の考えをお聞きしたいな、と」
まさか質問を返されるとは思わなかった。うまく誤魔化せただろうか。
「そうですね……生徒会としては厄介と言わざるを得ません。今まで守られてきた制度に反対されたのですからね」
「そうですか……」
うぅ、私が聞きたかったのは生徒会としての意見ではなく安部野さん個人の意見なのに。
あーあ、失敗。
冷めてしまったコーヒーを飲み、小さくため息をついた。
「ああ、すっかり忘れていました」
「?」
「あなたとお会いした本来の目的ですよ」
あ、手帳のお礼か。別にいいのに。
「本当にありがとうございます。助かりました」
「いいんです、そんなたいしたことではないですし!」
だから頭をあげてくださいよー!
「いえ、新しいものにしようとも、難しいので。どうしようかと思いました」
「……あぁ、たくさん書き込んでありましたもんね。確かに、あれをもう一度書き直すのは大変そうです」
「……ええ、まあ」
なんだろう、気になる沈黙だな。何か変なこと言ったっけ?
私は先ほどの発言を振り返り、大きな失態に気づいた。
「っ!」
たくさん書き込んであった、と。
言ってしまった。
それが分かるのは、手帳の中を見たひとのみ。そして……。
「いつも、手帳からカバーが外れないように折り込んでいるのですが、笹川さんから受け取ったときはそうなっていなかったんですよ。もしかして、とは思いましたが、まさか……」
「……」
ごめんなさいと素直に謝りたいけれど、出来ない。
どうしよう……。
(ABNさん、お願いします!私じゃ無理‼)
〜下校中〜
「会長、あの……」
「?何ですか?」
「璃々愛さんのこともあるんですが、その前に処刑制度のことについていっていいですか?」
「いいですよ」
「処刑制度を…その…少し緩くしたほうがいいと思うのですが…」
ストレートに言いたいけど、処刑されるのは嫌ですからねぇ…我慢しますか。
「何故そう思うのですか?」
「それは…厳しく処刑するとその…一部の生徒にはいいことだと思いますけど、ほかの生徒には悪いことだと思うからです。例えば…悪いことをしたら処刑する、それはいいんです。だけど、悪いことをしていないのに濡れ衣を着せられて処刑されるのはかわいそうだと思います。それに、璃々愛さん、会長が処刑しているのを見て処刑人を見て、いじめて、すごく楽しんでいるように見えるんです。」
本当は、もっと言いたいけど…後で氷雪(ひゆき)に話すことにしますか…。
「そうですか?厳しくしているつもりはないし、璃々愛は楽しんでいるように見えませんけど。」
……本当に百合香の頭はどうにかしてますよ。イライラします。
「でも、濡れ衣を着せられるのはかわいそうなのでそこは何とかしてくださいっ!」
「濡れ衣を着せてません。なので何もしません」
本当にそう思っているのか…もう無理だ。早く分かれないとこいつに怒りそうだ。
「すみません。余計なことを言いました。付き合っていただきありがとうございました。さようなら」
「さようなら。また明日」
もう嫌だ。本当にこいつはやばい。
〜美雪の部屋〜
私はパソコンを立ち上げた。いつものことだ。イラついたら、パソコンに打ち込む。
『何なんだ。あいつは‼何であいつが会長なんだ‼あんな奴が生徒会でいいのか‼頭がおかしい‼おかしい。あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼むかつくむかつく💢』
「氷雪に来てもらおぉ…はぁ」
『氷雪、今家に来てくれる?できたら今すぐ来て』
『はーい。今から行きます』
(ちょっと保留します)
(続き)
『あのさぁ、あえかと愛夏(まなか)連れて行っていい?』
『愛夏?』
『美術部の子。友達になったの。復活派だから大丈夫。多重人格だけど…』
『いいよ』
「美雪、あいつのこと?」
「うん」
「あのぉ、あいつって誰ですか?」
「あっ、そっか。愛夏、今日が初めてだもんね」
「今更だけど私、あえか。で、あいつって言うのは生徒会長のこと」
「えっと、この方ですか?」
そう言って、愛夏はアイツの似顔絵を見せてきました。流石、美術部。
「そうそう。美雪、早く教えてよ!小説のネタにするから」
「うんうん。アイツが自分のことってわからないように崩すし」
「氷雪さんとあえかさんって文芸部ですか?」
「うん、そうだよ。氷雪ちゃんと一緒。ついでに言うと、小説家」
「えっ!いつなったの!」
「美雪……びっくりしすぎ…」
「氷雪さん、あえかさん、小説の挿絵、私書きたいです!」
「いいよ。美雪、早く話して」
私は下校中のことを話しました。感情的にならないように、客観的になるように。
「本当にどうにかならないかな…」
「あえかぁ、ネタにはなるけどこれはねぇ…」
「会長さん、ある意味、すごいですよねぇ」
(またまた保留します。すみません)
(いきなり違う場面から始まりますが、一応>>81の続きとなっております)
(創作板の方でも予告した通り、今回は今まで張っていた伏線を一気に回収するので、今まで以上の長文かつ粗削りの文章になります。すみません;)
白羽病院の入り口付近にある、来客専用のコインロッカー。千明からのメールで集合場所として指定されたそこに、麻衣、晃、真凛の三人は集まっていた。
「あー……天本先輩、遅くね?」
「遅いって言っても、まだ三時にはなってないわよ。もう少しで来るんじゃない?」
「それはそうだけど、日時を指定してきたのは向こうでしょ? だったらそれよりも先に待ってるのが、言い出しっぺの礼儀ってものじゃないの」
「だよなー。一体何やってんだろうなあ、天本先輩」
三人が集合したのは午後二時四十分頃。そして現在時刻は午後二時五十八分。未だに姿を見せない相手に、麻衣はそわそわと落ち着かない様子を見せ、晃は待ちぼうけによる疲労でだらけ、真凛は待ち人の無礼に憤っていた。
「ってか、どうして集合場所が病院なんだろうな? 折角待ち合わせるなら、もっと他にも場所があっただろうに……」
「あら、知らないの? 処刑された天本千明の末路」
「ま、末路?」
「彼女は歴代の処刑対象の中でも、相当メンタルが強い人だったらしいの。けれど、そんな彼女も全校生徒ぐるみの処刑には耐えられなかったのか、最後には学園の屋上から飛び降りた……って聞いているわ」
「飛び降りって、じゃあ、天本さんは……!?」
「あんなメールが届いてる以上、少なくとも命と頭は大丈夫そうね。でも、他の五体も無事で済んでるかどうかは……」
蒼天にそびえ立つ白羽学園の学舎。その屋上から見える地面の遠さを想像して、麻衣と晃は顔から血の気が引いた。
あの高さから身を投げれば、命どころか体が原型を留めるかどうかすら怪しい。にも関わらず、詳細不明とはいえ一命を取り留めたのは奇跡としか言い様がない。
しかしそれと合わせて今回の集合場所を踏まえると、恐らく千明は、未だに病院から動くことができないほどの大怪我を負ってしまったのだろう。
麻衣の思考が千明の様態を想像するにまで至ったそのとき、午後三時を告げるチャイムが病院内に響く。それと同時に、麻衣たちに声をかける者がいた。
「あ、あの……二年の板橋先輩、ですよね?」
「はい、あなたは……っ!?」
どこかで聞き覚えのあるその声色に、麻衣は何気なく返事をする。吊られて晃と真凛も声の方に振り向き、直後、三人は息を飲んだ。
麻衣たちに話しかけたのは、自分たちと同じ白羽学園の一年生、白野恵里。そこまでは想定通りなのだが、彼女のすぐ背後には、黒いフードを目深に被った人物がぴったりと接するようにして立っていた。よく聞けば恵里の声は上擦っており、体はびくびくと震えている。傍目から見ても、彼女がフードの人物に対して怯えているのは明らかだ。
「おい、誰だよお前!? うちの後輩がビビってるじゃ」
「刺激しないで! あの人……危ないわ」
フードの人物に威嚇しようとした晃を、真凛が素早く制止する。彼女の目配せに従って黒フードの手元を見ると、その手には不恰好で無機質な機械が握られていた。ドラマなどのフィクションでしか見たことがないあの先端の形は、恐らくスタンガンだろう。
もしあれが本物で、自分たちが黒フードの機嫌を損ねるようなことをすれば、目の前にいる罪なき後輩の身は――。
麻衣たち三人がそう悟ったのを見計らったように、フードの人物は小声で恵里に何かを耳打ちする。ひっ、と小さな悲鳴こそ上げたものの、彼女は抵抗せずにその言葉を最後まで聞くと、三人の方に顔を上げた。
「ええと……皆さんが持ってる荷物、全てコインロッカーに預けてください。スマホも、上着も、ポケットの中味も、手放せるものは全部……」
「ど、どうして? 白野さん、この人の目的は何なの?」
「それは、その……きゃっ!」
バチッ、とスタンガンから火花が弾ける。幸い恵里が感電した様子はないが、今の電撃でスタンガンがハッタリ用の偽物である可能性は潰えてしまった。つまりこのフードの人物は、やろうと思えば本当に恵里を害することができてしまうのだ。
(続く)
(続き)
目の前の凶器が本物であるというショックで呆然とする麻衣。そんな彼女に、真凛はそっと声をかけた。
「麻衣、ここは言う通りにしましょう。あのスタンガンが、私たちに向けられる可能性もゼロじゃないし」
「は……はい」
フードの人物の機嫌を損ねないよう用心し、三人は指示された通り、預けられるだけの荷物を全てロッカーに収納した。それが終わると、黒フードはもう一度恵里に耳打ちをする。
「ええと、今度はエレベーターまで行って、上りのボタンを押してください。階のボタンは、この人が押す……とのことです」
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺たち、これから待ち合わせが……」
「仕方ないわよ。千明には後で、理由を話して納得してもらいましょう。……最も、向こうがそれを許してくれるかは分からないけど」
後輩の身の安全が保証されない以上、自分たちに不都合があっても口答えをするのは危険だ。そう判断して晃を説得する真凛の表情は、彼と同じく歯噛みするほどの苦々しさに満ちていたのだった。
恵里を人質に取るフードの人物をしんがりに置き、麻衣たちはエレベーターに向かう。そして指示通り、上りのエレベーターに乗り込み、扉が閉まるのを待つ。それを確認した黒フードは、個室の病室がある階のボタンを押してから、ようやく自ら口を開いた。
「お疲れ様でした、白野さん。ご協力感謝いたします」
「あ……も、もう大丈夫ですか……?」
「はい。お三方も、騙し討ちのような真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
その言葉に恵里は腰を抜かして安心し、麻衣たち三人は突然しおらしくなった黒フードの変化に目を点にする。そんな彼女たちの様子にフードの人物はクスリと微笑すると、今まで被っていた頭巾部分の布を外してみせた。その下から表れた顔に、麻衣と晃はにわかに身を固くする。
「お、お前は……安部野椎哉!?」
「あべの? あなたたちの知り合い?」
「知り合いというか……新学期から転入してきた、学園の生徒会書記の人ですよ」
「板橋さんの仰る通りです。出席停止となっていたのなら、ご存じなくても無理はありませんね。藤野真凛さん」
「! どうして私の名を……!」
学園における彼の立ち位置を知っている麻衣と晃は元より、転入生であれば知らないはずの自分の存在を認知された真凛も、安部野に強い不信感を向けた。そもそも秘密裏に打ち合わせた反逆者たちの集いが、なぜ生徒会の人間にバレてしまったのか?
エレベーター内の空気が麻衣たちの警戒心で侵食され、一触即発となりそうなそのときだった。
「ま、待ってください! 安部野先輩は、私たちの敵じゃありません!」
「何言ってるのよ! 生徒会長に仕えてるあいつが、どうして私たちの味方になるわけ!?」
「そ、それは……」
恵里が躊躇いがちに口を開こうとすると、チャイムと同時にエレベーターの上昇が止まる。目的の階に到着したのを確認すると、安部野は床にへたりこんだままの恵里に手を差し伸べた。
「その説明は追々させていただきます。ですがその前に、白野さんへの誤解を解いておきましょうか」
◆ ◆ ◆
それは恵里の失言から始まる。本来は安部野の手帳の中表紙に書いてあった、文字の真偽を問う予定だったのだが、逆に自分が中表紙を見てしまったと彼に感づかれてしまったのだ。
気まずいでは済まない沈黙の中、目の前のにこやかな笑みは崩れない。それがなおのこと、恵里の不安感を一層募らせていた。
「では、僕もお尋ねしましょう。現在執行されている処刑制度について、白野さんはどのようにお考えですか?」
「!」
安部野からの思わぬ問いに、恵里は思わず俯きがちだった頭を上げた。
質問の答えは決まっている。だがこの状況で彼相手に、馬鹿正直な回答が通用するのだろうか? いや、どちらにせよ先ほどの失言で、安部野からの信頼は無くなってしまっただろう。それならいっそのこと――。
(続く)
(続き)
「私は……あの処刑制度は、理不尽だと思います。学園の平和と言えば聞こえはいいですが、その定義は生徒会長の独断同然じゃないですか。それに処刑によって、体や心を傷つけられている人もたくさんいます。そんな人たちを無視して平和を謳うなんて、あまりにも矛盾していると思います」
「……なるほど、なるほど」
ああ、とうとう言ってしまった。これで晴れて(?)私も、処刑対象の仲間入りだろう。革命への参加を考えていたときから分かっていたことだが、果たしての残り約三年間、私は生徒たちからの心ない処刑に耐え続けることができるのだろうか。
一度口に出した本心からの意見を、遅まきながら後悔しだした恵里。しかしそんな彼女とは対照的に、安部野はやはり変わらない笑みを浮かべたままだ。彼は恵里の意見を反芻するように二、三頷くと、おもむろに自分の鞄を開けた。
「白野さん。この後、お時間の余裕はまだございますか?」
「えっ? あ、はい」
「それは良かった。実はこの後、もう一件待ち合わせの予定があるのですが、その際に僕の指示に従って欲しいのです」
「指示?」
言いながら、安部野は鞄の中から黒いフードを取り出して羽織る。そして再び鞄から、今度は黒く不恰好な機械を取りだした。
「簡単な伝言ゲームですよ。僕が適宜お伝えする言葉を、待ち合わせ相手の方々に話していただくだけですので。ただし余計な真似をするようであれば、少々身の安全は保証できかねますがね」
彼が取りだした機械の正体がスタンガンであること。そして恐らく、これから自分はあれを使われ、待ち合わせ相手の人質にされるということ。それらを悟った恵里の後悔はとうとう限界を極めたのか、くらりと目眩を呼び起こしたのだった。
◆ ◆ ◆
「……なるほどな。とりあえず、お前がここに呼び出された理由は分かったぜ」
「なんと言うか……災難だったわね、白野さん」
「あ、あはは……」
安部野を先頭にして、一行は個室用フロアの廊下を歩く。その道中で説明された恵里の経緯に麻衣たちは同情を覚え、当の恵里は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「それにしたって、あんな脅しみたいな真似をする必要ありました? 不審者かと思いましたよ」
「承知しております。しかし何分、僕は生徒会に属する身。同じ役員の目を誤魔化し、かつ盗聴の可能性を排除するためには、あのような方法しかなかったのです」
「盗聴……あっ! じゃあ、俺たちの鞄についてた盗聴機って」
ほんの数日前に、安部野の提言で発見した盗聴機。彼がこのように言うということは、やはりあれは会長側の人物によるものだったのだろう。つまり安部野の一連の行動は、反逆者である麻衣たちを会長派の監視から逃すためのものだったのだ。
「待ってよ。それじゃあ、千明のメールの内容を知ってることについては、どう説明するの?」
「……その答えは、彼女に直接会えば分かると思いますよ」
そう言うと同時に、安部野はある個室の前で足を止める。名札の部分書かれている名前は「天本千明」。彼はその病室の扉を開けると、先に中へ入るよう麻衣たちを促した。
誘導されるまま、彼女たちは部屋の中へと進む。通常の病室よりも広い、真っ白な部屋の中央に備えられたベッド。その上にいたのは――。
「……おい、マジかよ」
「この人が、天本先輩……?」
何本もの管で医療用の機械に繋がれ、血の気のない顔で昏々と眠っている女子。予想だにしなかったその姿に麻衣たちはざわめくが、その騒がしい音にも彼女は一切反応しない。
そんな彼女たちの合間を縫って、病室の扉を閉めた安部野がベッドの側まで歩み寄る。
「……そうですね。初対面の方もいらっしゃいますし、改めて紹介させていただきましょう」
微動だにしない千明の寝顔に、安部野はそっと手を添える。しかしすぐにその手を離すと、麻衣たちの方に体を向け直した。
「彼女は天本千明。昨年度に処刑対象となった広報部部長です。そして僕は彼女の弟、安部野椎哉……改め、『天本椎哉』と申します」
「マジっ・・・かよ!?」
病院の中で声をあげるのはご法度。だというのに、一番最初に声をあげたのは晃。彼は数歩後ずさって、そのまま千明と安部野・・・椎哉の顔を交互に比べる。似ているところは見つからない。しかし、晃は納得が出来た。今ここに千明が入院してるのならば。椎哉がパソコンなどを操作して見つけることも。秘密裏に打ち合わせていたことも。全てつじつまがあったことを。
「じゃあ、私達が秘密裏に打ち合わせていたことも。」
「あんな風な強大な力だとか組織だとか言っていたのも・・・」
「はい。全て僕が言った事ですよ。姉はこのような状態です。いえるはずもありませんからね。僕は姉をここまで追いやった生徒会長を・・・一生許さないのですから。それでも立ち向かう貴方方の覚悟を少し知りたいと思ったのですよ。姉のように被害に会う人を止めたかったので、その覚悟を。」
「かーっ。回りくどいことする上に、生徒会長派に見えた復活派、なんというか、お前顔がありすぎだろ。」
頭をガリガリとかきながら言う晃に、笑顔で椎哉は答えた。
「言われるだろうとは思っていました。」
「じゃあ、復活派だってことならよろしく。」
麻衣は笑顔で手を差し出した。
(間を置かずしての投稿となりますが、補足しておきたいことがあったので、また少し書かせていただきます)
「『復活派』、ですか」
同志であることを認められ、差し出された麻衣の手。だが椎哉は彼女の台詞を少し反芻しただけで、その手を取ろうとはしない。
「……あの、椎哉さん?」
まさかここまで手の込んだお膳立てをしておきながら実はやはり会長派だった、なんてことを言い出したりしないだろうか?
中々真意の読めない椎哉にそんな不安感を覚えながら、麻衣はおずおずと声をかけた。
「そうですね。後々すれ違いが起こっても面倒ですし、ここで一つはっきりさせておきましょう」
「なんだよ。まさか、まだ何か裏の顔があるってのか? 一体何面相だよお前」
「いいえ、僕は怪人じゃありませんよ」
かの有名な少年向け推理小説の悪役を引き合いに出しつつ、クスクスと笑う椎哉。しかしその笑みをすぐに引っ込めると、今度は真面目な表情で四人の顔を見た。
「麻衣さんは『復活派』と仰りましたが、それはつまり『学園の復活』が最終目的ということでよろしいですか?」
「は、はい。会長に支配される前の、平和な学園を取り戻すために……」
「でしたら生憎ですが、皆さんと僕が全面的に協力するのは難しいでしょうね」
「どうしてですか? 先輩も、生徒会長を倒そうとしているんでしょう?」
「ええ、その通りです。僕の最終目的は『風花百合香への復讐』。その過程で必要とあらば、何を犠牲にしても構わないと思っています。僕自身の尊厳や、ここにいる皆さんを含む全校生徒。あるいは白羽学園そのものであっても、ね」
「……!」
誰が飲んだかも分からない息の音が部屋に響いた。
麻衣たちにとって百合香の打倒は、平和な学園を取り戻すための「手段」だ。しかし椎哉にとっては百合香の打倒そのものが「目的」であり、その悲願を叶える為なら敵味方問わず何を贄にしてでも、文字通り彼は手段を選ばないのだという。
一見は復活派の味方のようで、その実は自分たちはおろか、学園全体の敵に転じる可能性もある厄介者。それが復讐者、天本椎哉という男だった。
「まあ、飽くまでそれが最善手であればの話ですので、好き好んで破壊活動を行うわけではありませんがね。それを踏まえた上で僕を味方に引き込むかどうか、今一度よく考えてください」
そう言うと椎哉は今一度、四人の顔をゆっくりと見渡す。深淵のように黒いその目に、白羽学園の未来は一切映っていなかった。
しばらくの間、沈黙は続いた。
この安部野、いや、天本椎哉という復讐鬼に対して、一体何と言葉をかければ良いのか誰1人として答えを導けないのである。誰も口を開こうとせず、ただ無機質な心電図の音が白い病室に響くだけであった。
果たしてこの男を味方に引き入れて良いのだろうか。
もし天本を味方にすれば、革命軍の心強いサポーターになってくれる事は確実だろう。その賢明さと情報収集能力はあの会長も褒め称える程なのだから。それに加えて藤野真凛のハッキングがあれば、学園内のあらゆる情報は網羅できてしまうかもしれない。
しかし……彼の眼中にあるのは、風花百合香への復讐ただ一つ。学園の再興など『転入生の安部野』にしてはそこまで重要視する話ではない。ましてや学園からの生徒達の解放なんざ極端な話、彼にしては心底どうでもいい話なのだろう。
『打倒、風花百合香』という目的こそ共通しているが、彼にしてはそれこそが唯一であり最終の目的なのだ。その為に彼はあらゆる手段を使い、あらゆる犠牲を払う気でいる。何としてでも女王を玉座から引きずり下ろす。そこから先は勝手にすればいい、というのが天本の考えだろう。
その長い沈黙を破ったのは、病室の扉の開く音だった。一瞬肩を跳ねさせた彼等の視線が、一斉に扉の方に集まる。
扉の向こうには二人の女性が佇んでいたに。そのうち一人は誰もが見覚えのある……。
「……月乃宮先輩!?」
「あら貴方達、皆揃ってどうしてこんなところに……特に安部野君。もしかしてその患者さん、誰だかご存知ないのかしら? 貴方、転入生だものね」
そう饒舌に語ると、ちらりと安部野に視線をやる。彼女は不快感を露骨に表すタイプではないものの、黒い瞳は普段より幾分冷たかった。
安部野の方は特に何も言わずにいる。この月乃宮いばらが果たして信頼のおける相手なのか、それを判断するにはまだ早い。今全てを打ち明けるのは彼等にとってリスクが高過ぎた。周りもそれを察したのか、自分から説明をしようとする人間はいない。というより、この状況を赤の他人に説明するにはまだ頭の整理がついていないだけかもしれないが。
だがただ黙っている訳にもいかず、麻衣は話題を逸らしてしまおうと話し出す。
「せ、先輩こそ……どうして病院に?」
「姉がそちらの患者さんの回診を頼まれてるから、付いてきただけよ……一応彼女とは知り合いだったしね」
「えっ、じゃあ隣にいるのは……」
いばらの隣にいる、背の高いすらりとした女性。ナース服に身を包んだ彼女の髪にはよく見ると、紫色のバレッタが留めてある。
女性は若干照れくさそうに微笑むと、深々と頭を下げて丁寧に言う。
「初めまして、いつもいばらがお世話になってます……月乃宮すみれです」
その声はいばらの突き刺さる声とは正反対に、どこかふわりとした優しい声だった。
「あら、貴方がいばらの言っていた安部野君? 生徒会のお仕事、いつもお疲れ様……大変でしょう? あんな大きな学校の生徒会なんて。無理はしないで、たまにはゆっくり休んでね」
そう言うと安部野にそっと微笑みかけるすみれ。
彼女はどうやら、学園で何が起きているかも知らない様だった。
「……いえ。御心配ありがとうございます。苦労する事も多々ありますが、やはりその分やり甲斐も大きいので」
そう言うと安部野も笑みを浮かべる。その笑顔は先程からその場にいた人間にすれば、酷く貼り付けたものに見えたに違いない。
「ふふ、立派ねえ……天本さんが面会中なら、先に木嶋さんから見ちゃいましょうか」
「……木嶋?」
その名前に、1年生の恵里を除いた四人が反応する。
(場面が変わります。保留してた話しの続きです)
「あっそーだ!愛夏、多重人格じゃん!だから―」
「あぁっ!!そうゆうことぉ〜。いいねぇ」
「?でも、多重人格のときは、自分が知りたい事しか記憶にないですよー」
「でも、いいと思います」
「じゃあ、もう時間だから。今日は解散でーす」
〜みんながいなくなった美雪の部屋〜
これで少しは楽になります…。…安部野先輩に言ってみましょうか。私の情報収取力をなめないでいただきたいですよねぇ…。いつにしましょうか。
(ちょっと、考え中……。近いうちに)
>>90
本人ではないのですが、安部野さんの今回の秘密についてはストーリーの核心に関わる重要な設定だとも思いますので、1度ABN様に問い合せた方が良いかもしれません…!
土曜日の午後2時頃。病院から徒歩5分ほどの小さな公園にて。
自販機のレモン炭酸水を片手にベンチに座り、1人落ち込む私……戸塚亜衣。
あー……………。
どうしよう………。
「喧嘩、しちゃった……」
笑顔で走り回る小学生の声をBGMに、ポツリと呟く。
そう、何を隠そう、この私は……。
姉・彩美(あやみ)と喧嘩してしまったのである。
専門学校に通いながら事務系のバイトをし、作家としても名をあげてきた姉と。
朝。私が起きたのは6時頃。本来朝に弱い私がこんな時間に目を覚ましたのには訳がある。
忙しい姉が久し振りに休みを取り、外出しようと言ってくれたのだ。
私はすぐに答えた。
「行く!映画みたい!!」
「はーいはい。りょうかーい。あ、費用は自己負担ね」
「えー、ケチィ」
「当たり前でしょ。折角バイトでかせいだんだもの」
最近はあまり話せなかったけど、別に、仲が悪いわけじゃない。むしろ良好だ。
お気に入りの若草色のワンピースを着て小さな飾り付きのヘアピンをつけ、私は姉の後を追いかけた。
楽しい休日になるはずだったのに。
「あのシーン最高!!」
「演じてる人がいいんだってば」
「あー、あの人引っ張りだこだもんねえ」
「次はコレみたいな……」
小説が原作となる映画を堪能した後、有名なファストフード店で食事していた私と姉。
話題は映画から姉ののろけ話、面白かった小説、そして……。
「亜衣、学園生活はどう?慣れた?」
学園にも移った。
「えーっと、まあ、それなりに?」
うう、革命のこととか話したいけど言えない。
姉は……
白羽学園の卒業生で、元生徒会副会長なんだ。
そんな人に対して、あんな独裁を報告できるような強さを持つ私じゃない。
でもやっぱり、長年一緒にいた姉は騙せない。
「ふーん……。じゃあ、コレはなんなの?」
姉はあるものを私に向けた。ブラウンとクリーム色のケースがついた、スマートフォン。その画面には……。
「彩姉……なんで知ってるの……?」
「真帆ちゃんに教えてもらったの。いろいろと関わってるから。……で、コレは本当なの?」
「それは……」
あーもう……笹川先輩、やめてよ……。
ど、どうしよう……。
知られちゃった……。
(喧嘩の原因はまだ明かしてませんが、続きは後日……♪)
「聞いた名ですね。確か去年に失踪し、つい最近発見されたという一家の名前がそれだったような」
木嶋という名字の話題に、一足先に触れたのは安部野。「〜ような」とは言っているが、一瞬前の反応からして、恐らく彼も事件の概要は既に知っているのだろう。にも関わらず飽くまで無知を演じる安部野の様は、彼の正体と「木嶋」という人物を知る者の目には滑稽に映った。
そんな演技を見通す手掛かりを持たないすみれは安部野に疑いを持つことなく、振られた話題を展開する。
「あら、やっぱりご存じなんですね。確かにああも大々的に報道されれば、記憶にも残りやすいでしょうし」
「ということは、今この病院には『木嶋京子』が入院しているのね?」
「ええ、まあ」
他の患者についてみだりに話すのははばかられるのか、返ってきたのはやや歯切れの悪い返事。それでも肯定の意味合いであることには変わりなく、つまりは百合香の被害者がもう一人この病院に存在するということになる。これはチャンスとばかりに晃は早速、木嶋京子とのアポイントを取ろうとした。
「なあ、月乃宮先輩の姉ちゃん! 木嶋がここにいるなら聞きたい話がたくさんあるんだけどよ、今って面会できるか?」
「無理に決まってるでしょう」
「即答か! ってか先輩が言うのかよ!」
しかし彼の試みは、いばらの一言ですぐさま却下された。自分の案を一切の間を置かず否定された晃は、不満げな目でいばらを睨み付ける。だが当の彼女は、呆れたような顔をするとそのまま首を横に振った。
「松葉さん、ニュースを見てなかったの? 木嶋さんは今、体が衰弱してて経過観察中なの。それに家族を亡くしたショックも大きいでしょうし、どう考えても人と話せる状態じゃないわ」
「あっ、そうか……」
失踪した木嶋一家の身に何があったのかは分からない。それでも家族のうち三人が死亡し、残り一人の生き残りも酷く弱っていたとなれば、余程壮絶な目に遭ったのだろうと予想がつく。
折角の目論見が尤もな理由で外れ、晃はがっくりと肩を落とした。そんな彼の様子を気にかけつつ、今度は恵里がおずおずと挙手をする。
「あの……すみません。私、木嶋さんという方について、ほとんど知らないんですが……」
「そっか。白野さんは一年だから、彼女のことを知らなくても無理はないわよね」
ここにいる白羽学園生の中で、唯一京子についての前知識を持たない恵里。周囲が彼女の情報を持った体(てい)で話を進めていたため、どうしても話の流れから放置されてしまっていた。
「椎哉先輩と同じくニュースで名前は見たんですが、あの人も白羽学園の人だってことは、今初めて知ったので……」
「ええ。まさかあんな痛ましい事件の被害者が学園の生徒だったとは。その木嶋さんに何があったのか、よろしければお教え願えますか? 白野さんはともかく、僕も実質的には一年生のようなものですから」
恵里の無知に便乗し、安部野も京子についての説明を求める。復讐者という先入観が無ければその真摯な姿勢は、同じ学園の一員である京子の安否を心配する、若輩者ながら献身的な生徒会役員に見えただろう。
「……そうね。分かったわ、話してあげる。姉さんは仕事に戻ってて。あまり時間も無いでしょう?」
「ええ、そうね……じゃあ後はよろしくね、いばら」
そう言って一礼すると、すみれは病室を出てその扉を閉めた。
いばらがすみれを病室から出したのは、時間の都合という理由だけではないのだろう。恐らくすみれは、事件の詳細も今の白羽学園で何が起こっているのかも知らない。彼女に余計な心配をかけるまいといういばらの配慮がそこには垣間見えた。
すみれの足音が遠のいていくのを確認すると、いばらは一息ついて近場の椅子に腰掛ける。五人の顔と横たわる天本千明を見据えると、口を開いて静かに話し出した。
「一年生の白野さんも、結城璃々愛はご存知よね? 生徒会の」
「は、はい……見た目がかなり派手なので、印象には強く残っています」
「そう。なら、早速本題に入らせてもらうわ」
かつて結城璃々愛は、どの学校にも一人はいるような、話下手の地味な生徒だった。特に目立った事もせず、何かに進んで立候補することもなく、ただ周囲の目を伺うようにおどおどとしていた。そうやって俯いていると長い黒髪が顔を隠してしまい、薄暗い雰囲気が一層強まる。そんな彼女に好んで近寄ろうとする人間はなかなかいない。流行の話も話題作りも出来ない彼女は友達の一人も出来ず、クラスでも部活でも常に孤立していた。
そんな彼女に目を付けたのが、木嶋京子だった。
京子は当時、クラスの中心的存在となっていた生徒だった。気が強くハッキリとしていて、言いたい事は躊躇せずに言う。彼女は入学当初から徐々にその地位を確立していき、秋頃にはクラスメイトのほとんどが彼女の言うことを聞いていた。
彼女はクラスメイト全員の前で、璃々愛を標的にすると宣言した。
生徒達がそれに従ったのは京子に逆らえなかった、という理由ではない。勿論逆らえば面倒な事になるのは分かりきっているが、それが主な理由になったのではないだろう。
単純に、璃々愛はクラスの邪魔者だったのだ。
その日から璃々愛へのいじめが始まっていく。
京子を中心としたグループが彼女に直接手を下し、お調子者の男子達がそれに便乗して彼女をからかい、両者にも入らない生徒達はいじめの光景をクスクスと嘲り笑いながら見ていた。手を差し伸べられもしない無力な璃々愛は、何も言わずにただただ耐えしのぐのみである。それが京子の気に触ったのかいじめは余計に酷くなり、生傷の耐えない日々を璃々愛は送っていた。
哀れな彼女を救い出したのが、当時の副生徒会長。風花百合香だったのだ。
風花百合香は独裁者であったが、決して悪の味方ではない。自分の正義を貫き、自分の悪を許しはしなかった。
処刑以外のいじめ行為というのは、彼女にとって許されない悪であったのだ。
百合香は彼女を好いた。彼女は自分を愛す人間にはそれ以上の愛を与え、自分を嫌う人間にはそれ以上の嫌悪と制裁を与えるのだろう。
璃々愛もまた、百合香を愛した。最初は警戒こそした。だが、毎日の様に自分を気遣う百合香を気にかけずにはいられなかったのだ。その感情は徐々におぞましい執着へと変わり始める。
愛されず受け入れられなかった自分を認めてくれた、初めての存在。自分に手を差し伸べ笑いかけた、唯一の存在。 百合香の存在は、彼女にとってどれだけ大きかったのだろうか。
彼女になら、自分の人生を捧げても良いと思った。地獄から自分を引きずり出した天使とも言えるべき百合香になら、自分の全てを差し出すことすら喜ばしい。たとえ彼女がどれだけ残虐で非道であろうが構わない。
彼女に救われ気に入られた璃々愛は、地位と彼女への執着を我が物としたのだ。
髪を目も冴えるピンク色に染め上げた時、璃々愛に逆らう人間はもう誰もいなかった。
いじめに加わった人間は処刑が下ることを恐れた。虐げていた璃々愛が会長側の人間となった以上、報復は避けられない。誰もがそれを理解していた。あの強気な京子さえも、口数が異常に少なくなる程の不安感を覚えていた。
しかし、いつになっても処刑の宣言はなされない。会長直々に開かれる集会すらない。それどころか毎朝、C組の生徒達にも会長は微笑みを振りまくのだ。
初めこそ大きかったこの状況に対する違和感が徐々に忘れ去られてきた頃。12月7日の朝、木嶋京子は家族と共に姿を消した。
警察の捜査は大規模に行われた。木嶋一家失踪事件は大々的にニュースに取り上げられ、連日特集が組まれた。情報提供もあちこちで求められたが、それでも木嶋一家は見つからない。友人からの連絡も一切つかず、警察が入った自宅は火がつけられ全焼した後だった。近隣はまだ開拓の進んでいない住宅地で、幸い周りへの被害はなかったのだが。
分かっていたのはただ一つ。木嶋京子が失踪する前日、結城璃々愛が彼女を呼び出していた事。その事を警察に口にする者は誰もいなかった。それは根も葉もない噂として片付けられていたからだ。
璃々愛は事件当日、普段の様に笑っていたという。
「……これが、私の知っている全てよ」
再び沈黙が病室に訪れる。
同学年の晃や麻衣さえ、ここまで詳しい事実は知らなかったのだ。その場にいる者の受けた衝撃は余程大きかったのか、誰もが言葉を見失う。
「私はどちらにも味方出来ないわ。だっていじめは良くないから。木嶋さんにも当然罪はあった。ただ……」
息をもう一度、いばらは深く吸い直す。
「関係ない人間を巻き込むのは、その上命まで奪うのは許された事ではないわ」
〜麻衣目線〜
う…そ… そんな…
私は驚きで声も出なかった。結城璃々愛がいじめに…
確かにこのいばら先輩の話を聞くとどちらにも味方になれない。
私の安易な考えから始まったこの革命。もっと深刻なものだった。
晃も真凛もうつむき考えている。
こんな私に比べたらみんなすごい人ばかり…
私は一旦この混沌とした状況を整理したかった。
「…ひとまず、解散しませんか?一人一人考えたいこともあるだろうし。」
「ええ、何かあったら連絡を」「僕はまだ少し居ます。皆さんお気をつけて。」と安倍野…いや天本椎哉を残し
みんな病室から出て解散した。
帰り道、私と真凛は同じ方面であったので一緒に帰ったが会話が交わされることはなかった。
そして真凛の豪邸の前に差し掛かった時真凛が口を開いた。
「…私、今日で実は出席停止期間終わるの。明日学校行くから。その時はよろしく…」
「あ、うん…」
きっと今このどんよりとした空の下、みんな考えているのだろう。
(久しぶりに書いてみました。あ、無理やり帰らしてしまいましたが嫌だったらキャラをみんながいなくなった後病室
に一人戻る…という風にでもしてください。真凛の出席停止が解けました。)
晃視点
俺は病院の帰り道を、ただ一人歩いている。麻衣は家に帰るそうだし、俺は一人だ。この先何を思って進んでいけばいいか。それを考えながら歩いている。
「晃ッ!」
「ッ、拓也かよ・・・」
「今日こそお前を処刑してっ・・・生徒会長に認めてもらうッ!」
拓也は血走った目で走って殴りかかってきた。あぶねっ。と俺は避ける。こいつ、完全に犯罪を起こす気だ。恐ろしい。あー恐ろしい。
「処刑処刑言うけどなっ・・・お前のやってることは、犯罪だ!」
俺は拓也の蹴りをジャンプして避けて、着地した瞬間に飛び込んで拓也の腹を殴る。ドシロートの攻撃だけど、一応は通じる。
「うるせえええっ!お前が!お前が!邪魔をするから!俺は!誰からも!見放された!ああああああああ!」
ダメだコイツ。もう完全に俺と友達だった頃の拓也じゃあない。だったらもう、こいつをどうにかするしか・・・でも、コイツは生徒会長、風花 百合香に洗脳されただけの人間だ。コイツを傷つけても、意味はない!
「あああああ!」
拓也はもう発狂してるレベルで襲い掛かってくる。殴りや蹴りが大降りになっている。生徒会長への忠義というか、なんというかもうアホだ。怪しい宗教の信者かってもんだ。
「そこまでですよ」
と、声がした。後ろには、安部野・・・いやちがった。天本椎哉がいた。
「貴方にはもう既に学校外での処刑はダメだ。と言いましたね?それなのにまた処刑者、松葉さんを殴るような」
「またお前かあああああああああああああああ!うるっせえええええええええええええ!」
拓也は。椎哉を殴った。裏では復活派、もとい生徒会長を倒すような奴だというのに、表では生徒会長の駒だ。つまりそれを殴ったってことは、生徒会長に背くことだ。
「拓也ッ!お前明らかにっ・・・生徒会長派を殴ってるぞ!?生徒会長の命令に背いていることと同じだぞ!?」
「黙れええええええええええええええ!」
もうダメだ。天本椎哉と協力してコイツを退けるしかない。仕方ない。もう手加減はやめだ。全力で完膚なきまで潰すしかない。
―法正視点
ククク、松葉 晃、安部野 椎哉、片腹 拓也・・・奴らの喧嘩か・・・奴への報復に復讐に・・・松葉 晃は取り入れるべきだな・・・ククククククククク・・・
(えーと、なんか変になっちゃいましたけど、拓也の末路は自由にしてくだされ。法正が倒すもよし、生徒会長に裁きを下されるもよし、晃と椎哉にやられるのもよし。)
けたたましい咆哮を上げ、烈火のような憤怒をあらわにした拓也。己の激情を八つ当たりも同然に、目の前の邪魔者にぶつけるその様は、理性を失った獣でしかない。
ここまで狂った彼を止めるには、負傷の一つ二つは覚悟しなければならないだろう。晃は改めて自分を奮い立たせると、過去に見た漫画やゲームの記憶を頼りに構えのポーズを取ろうとした。のだが。
「……この程度ですか? あなたの生徒会長への忠誠というのは」
拓也の拳で真っ赤に腫れた椎哉の左頬。にも関わらず、当の本人は殴られても直立不動のまま、痛がる様子が全くない。それどころかいつもと変わらない冷静な態度で、拓也を挑発するような言葉を投げ掛けた。
「お、おい! なに煽って……」
「舐めんじゃねえ! この書記風情がああ!!」
案の定いとも簡単に挑発に乗った拓也は、癇癪を猛攻に載せて椎哉に何度も叩き込む。晃を処刑するという当初の目的はどこへやら。すっかり目の前が真っ赤になった今の拓也の視界には、最早椎哉しか映っていない。
対する椎哉はその攻撃を避けることも防ぐこともせず、辛うじて二本の足で地面に踏ん張りながら、浴びせられる暴力にただ身を委ねている。防戦とすら言えないやられ試合を見せられ、我慢ならなくなった晃は拓也を止めようと足を踏み出した。
「……!」
だが、彼の足はすぐに止まる。拓也の視界から見えない自分の背後で、椎哉は晃に手のひらを向けたのだ。続けてその手で指を立てる仕草を二回、輪を作る仕草を一回見せ、最後に今度は手の甲を向けて、下から上に払う。
椎哉のサインの意味を汲み取った晃は、しかしそれが最善手なのかと躊躇った。確かに彼が提案した手段は、今の拓也にとって効果的な灸になるだろう。だがその方法を取れば、十中八九椎哉は無事では済まない。もっと他にリスクが少なくて住む方法はないだろうか――?
「反撃もしないで余裕こいてるつもりか!? 調子乗ってんじゃねえぞ!!」
「ぐっ……!」
振りかぶった拓也の拳が鳩尾にめり込む。素人の攻撃でも急所に入れば流石に堪えたのか、苦しげな呻きを上げて椎哉は膝を折った。それでも拓也の激情は鎮まることを知らず、むしろ攻撃しやすい姿勢になったのをいいことにタコ殴りを続ける。
――椎哉だけが犠牲になる選択を取るのは良心が痛む。しかし自分が最善手を考えている間にも、ああして彼の傷は増えていく。ならば椎哉のダメージが少なくて済むうちに、彼の意図を叶えてやるのがベターな選択なのだろう。
今にでも拓也に反撃したい憤りを歯噛みで堪え、晃は走ってその場を後にした。
一方拓也は、第一目標であった晃が消えたことにも気づかぬまま、ひたすら拳や蹴りを椎哉に振るい続けた。そうして端正だったその顔が痣と血で塗れた頃、肉体的疲労を覚えてきた拓也はようやく暴力を止める。だが彼の憤怒はまだ払拭されたわけではないようで、今度は椎哉の胸ぐらを掴むと罵倒による攻撃を始めた。
「書記ってことで上辺だけでも慕ってやってきたけどなあ? 安部野、お前のことは最初からずっと気に食わなかったんだよ!」
「……」
「去年から会長を崇め続けてきた俺でさえ、役員の一人止まりだってのに! ぽっと出のお前は生意気にも書記の座に就きやがって!」
「……」
「シカトしてんじゃねえぞ!! お前が転校してこなけりゃ、今頃は俺が書記になって会長の近くにいられたかもしれねえんだ! いや、今からでも遅くねえ、ここでお前を再起不能にすりゃあ」
「……ふふ。興味深いスピーチ、どうもありがとうございます」
現在の空気に全く相応しくない、心の底から楽しそうな笑い声。あまりにも唐突なその感情に、拓也は思わず罵倒を止めた。
この笑みには既視感がある。日頃から浮かべている、人の良さそうな微笑みではない。数日前に晃の家を襲撃したとき、肩に手を置かれて振り返った先にあったものと同質の表情だ。
既知の狂気を再び目の当たりにし、思わず怯んで言葉を詰まらせる拓也。その一瞬の静寂をついて、今度は椎哉の方から喋り始めた。
(続く)
(続き)
「『生徒会長に認めてもらう』と先ほどのあなたは仰っていましたが……それでは、会長が認めるもの、目指すものが何なのか。あなたは理解していますか?」
「そ、それは……!」
「会長を信奉するのは構いません。しかし、あなたは彼女の意思をまるで理解しようとしていない。そうやって自分の感情を一方的に押し付けている限り、あなたは永遠に一介の下っ端のままでしょうね」
「う……うるせえうるせえうるせえ!! お前に何が分かるってんだよ!! 俺が一番会長を慕ってるんだ! 一番会長を信じてるんだ! 一番会長を愛してるんだ! この俺が! 会長の一番なんだよおおおお!!」
百合香への想いを全否定されたと思い込み、やっと治まったばかりの憤怒が再び噴火する。溢れたての憎悪を右手で握りしめて、拓也はもう一度拳を振り下ろそうとし――。
「君! 何をやっているんだ!」
「げっ……警察!?」
辺りに突如割り込んだ第三者の声。その主が着ている制服には、警察であることを現す紋章がつけられていた。顔から血の気が引いていく感覚を覚えつつ、拓也は掴んでいた椎哉の胸ぐらを投げ捨てるようにして手離すと、警官がいる方向とは反対の道に逃げ出す。しかしその先にも既に別の警官が待ち構えており、あえなくして拓也は身柄を確保されたのだった。
「離せ! 離せよ!! 俺が安部野を、あいつらを、処刑しなきゃいけないんだああああ!!」
日が落ち始めた仄暗い街の中。女王を盲信する獣の悲痛な、しかし同情の余地はない独善的な吠え声は、アスファルトに僅かに反響してから跡形もなく消えていった。
◆ ◆ ◆
拓也が警察の御用になってからしばらくして。既に帰路に着いていた晃は、千明名義で送られた椎哉からのメールに目を通していた。
「……全く、椎哉先輩も無茶するよな。『110番して逃げろ』だなんて」
あのとき晃に向けて示した椎哉のサイン。あれは警察を呼ぶことで拓也を合法的に連行してもらうこと。また、晃がその場から消えることにより「拓也が理不尽な理由で、椎哉に一方的な暴力を振るう」という図式を完成させることが目的だったのだ。
椎哉からのメールには、以上の目論見が上手く進んだという報告と、その協力の礼が書かれていた。彼が想定した通りに物事が進んだことに、晃は一先ず安堵しながら返信のメールを打つ。
『拓也が捕まったのはいいが、怪我は大丈夫なのか? 結構派手にボコられてただろ』
『お気遣いありがとうございます。骨折などはありませんし、元より体の怪我は時間が経てば治りますので、心配には及びません。
それより、先ほどから続けざまで申し訳ないのですが、また一つ頼みがあります。今回の片原役員の一件を、学園の内外を問わずネット上に拡散していただけませんか?』
『別に構わねえけど、なんでだ?』
(続く)
(続き)
確かにここで拓也を世間の晒し者にすれば、暴力的な人物というレッテルを彼に貼り付けられる。加えてそんな荒くれ者が白羽学園の生徒だと周知されれば、あわよくば学園や百合香の評判が揺らぐ可能性もあるだろう。
だが、椎哉の目的は飽くまで生徒会長への復讐。拓也の評判を貶めるのは筋違いであるし、誘発される評判の揺らぎも、百合香の失墜を期待できるほどのものではないはずだ。晃はそこが納得行かなかったのである。
そんな彼の疑問は、次の返信メールですぐさま解消されたのだが。
『風花百合香の権力がどれほどのものなのかを調査するためです。本日お聞きした木嶋さんの一件で、もしかすると警察や報道機関などへの介入も可能なのかもしれないと予想しました。
ですので、拡散といってもそこまで力を入れる必要はありません。要は風花百合香が情報隠蔽の手段を有しているのか、それがどこまで通用するのかを判断できれば十分です。
尤も、木嶋さんのときとは事態の深刻さが違うので、今回の一件自体が無視される可能性もあります。しかしそれはそれで、風花百合香の価値観を測る材料になるでしょう』
「よくもまあ……売られた喧嘩一つで、そこまで考えつけるもんだな」
椎哉自身の負傷というリスクこそ支払ったものの、その結果として自分たちが得たものは多かった。――いや、得られるものを椎哉が余すことなく根こそぎ集めてきた。と言うのが正解だろうか。
千明の病室で聞いた、「あらゆるものを犠牲にしてでも復讐を果たす」という椎哉の宣言。その代償候補に挙げられたうちの、少なくとも一つが紛れもなく真実であることをまざまざと実感した晃は、彼に感嘆と若干の恐怖を抱いた。
「『了解。とりあえず、今週末はもう大人しくしとけよ』……っと」
情報拡散に了承する旨に労いの言葉を添えて、返信用の文章を作る。それを送信しようとしたとき、再び椎哉からのメールが届いた。その文面に目を通した晃は、不覚にも勢いよく失笑してしまったのだった。
『余談ですが、片原役員による風花百合香への熱い想いを録音しておきました。入り用になることがありましたらお使いください。
【添付:katahara_profession.mp3】』
(折角法正くん出てたのに、介入させる余地を作れませんでした、すみません;)
(音声ファイルの中には、拓也くんが罵倒を始めてから警官に捕まるまでの音声が入っています)
〜恵里視点〜
今日1日いろんなことがあったな……。
私は自宅アパートの一室で、またため息をついていた。
「なんかスタンガンあてられたし、手帳のことばれちゃったし、先輩の正体知っちゃったし、月乃宮先輩のお姉さんは綺麗だったけどあの人達の話は意味わかんないし、私1人だけ1年だし……」
愚痴は次から次へと出てくる。こればっかりはどうしようもない。
こんなときは、ちょっと気分転換しないとね。
っていっても亜衣は予定があるらしいから無理。小説は読みきっちゃったし。文芸部の原稿はもう提出済み。インドアのため外出は嫌。
あーあ、やることない。つまんない。このまま1人でいたらどんどんマイナス思考になりそう。
何気なく見た机に、自分のスマートフォンを見つけた。
学園掲示板でも見ようと手を伸ばす。
『白羽学園掲示板
1生徒会反逆者に対して語る 62
2学園祭何したいか話そー 158
3文化部雑談スレ 214
4いろんなあるある教えてください 163
5好きな教師、嫌いな教師。 147
もっとみる 新スレ作成 書き込む 』
相変わらずかな……。特に新着はなさそう。
ちなみに、『いろんなあるある教えてください』のスレ主は私だったりする。文芸部の活動時に重宝するんだ、これが。
何か面白そうなスレないかなー、と探していると、スマートフォンが着信音を鳴らした。亜衣からだった。
『今ってヒマ?』
用事があるんじゃなかったっけ。ま、今はいいか。
『超ヒマー』
亜衣に返信するとすぐさまメールが返ってくる。
『病院近くの公園、来れる?』
『はーい、10分で着くと思う』
『待ってるー』
『はいはーい』
……さて。行きますか。
少し早足で公園へ。
その途中、ふとあることに気づいた。
「……もしかして、亜衣、悩み事?」
メールにいつもの元気が無い気がする。普段なら !! だの ♪ だの (o^−^o) だの、賑やかなメールなのに。
さりげなく聞き出そうと心に決めた私だった。
(>>97 拓也可哀想w)
(伏線です。しばらくしてから回収しますね)
白羽学園から少し離れたとある寺の中。
1つの墓を前に手を合わせる人影があった。
「お父さんお母さん、お兄ちゃん……」
墓に印された名は、男性のものが2つ、女性のものが1つ。
その墓に供えられている花のなかに、鮮やかな山吹色の花があった。
「キンセンカだよ、この花。……覚えてる?」
その時。こちらへ向かってくる足音が聞こえた。見れば、礼服を着込んだ男女10人ほどの集団が涙を拭きながら歩いてくる。
「あ……私、もう帰るね。また来るから」
そう言い残し、人影は寺の中から消えた。
山吹色の花は、風に揺られながら人影を見送った。
《花言葉・キンセンカ 別れの悲しみ 孤独》
(保留してた話の続きです)
でも、止めときましょう。会長に言われたら嫌ですからね…。………また4人でやりますか。その方が安全です。多重人格をどう使いますか……。ふふふ…おもしろくなりそうです。多重人格、結構使えますね…いいこと思いつきましたよ……。アイツ、どうゆう反応を知るのでしょうか…今から楽しみですよ…。
(保留します。すみません)
「……もしもし、久しぶり。元気にしてた?」
携帯機器の普及により、今や街中で見かけること自体が珍しくなった公衆電話。その無骨で大きな受話器を片手に、椎哉はどこかに電話をかけていた。
「こっちは上手くやってる。信頼できるかはまだ分からないけど、一応の仲間もできたしね。四人くらい」
「うーん、一応もう二人はいるんだけど……片方は頑固そうだし、片方は再起不能かもしれないし」
「……あはは、相変わらず心配性だな。大丈夫だよ。僕はもう、昔とは違うんだから」
いつものよそよそしい敬語を解き、時折朗らかに笑ってさえいるところを見ると、通話相手は椎哉にとって余程親しい間柄のようだ。
そうやって、ひとしきりの談笑を終えると、今度はやや声を潜めて通話口に口元を近づける。
「そういえば今日は『例の日』だけど、頼んでおいた『いつものやつ』はやってくれてるよね?」
「うん、じゃあ安心だね。いつもありがとう」
「そうだなあ、だったら夏休みにでも行こうかな。そっちも気をつけて。またね」
回線の向こう側に一時の別れを告げると、重い受話器をフックにかけて通話を終える。そうしてから自分の鞄を持って電話の前から離れようとしたとき、通りすがりの警察官と目が会った。
「おや、君はさっきの。怪我は大丈夫かい?」
「お疲れ様です。皆さんが適切な処置をしてくださったおかげで、痛みも多少引きました」
通りすがったのは、先ほど拓也を捕まえたあの警官だ。彼は心配そうな表情で、手当ての跡で痛々しくなった椎哉の顔を見る。顔に貼られたガーゼに軽く触れながら、椎哉は愛想笑いを作った。
拓也が警察の御用になったあの後。暴徒化した本人は勿論、彼の被害者である椎哉も参考人として任意同行に応じ、警察署を訪れていたのだ。傷の応急手当を受け、事情聴取が終わり、署内に設置されていた公衆電話をで所用を済ませてから帰路に着こうとしたところ、先ほどの警察官に声をかけられたのであった。
「しかし珍しいねえ。君くらいの高校生といえばスマホだってのに、わざわざ公衆電話を使うとは」
「そうですね。しかし最近の携帯端末は、便利すぎて疲れてしまうことがあるんですよ。そんなときはこの電話のような、多少不便でも風情が残っているものを使いたくなります」
「……君、歳の割には結構渋いこと言うね」
高校生くらいの若者といえば、新しいものに興味を引かれ、それを追いかけるエネルギーを秘めているもの。だがこの現役男子高校生が言うことはまるで、文明の近代化に着いていけなくなった老人の嘆きのようだ。今時珍しい感性の若者だなと、警官は苦笑いを浮かべる。
そんな彼に、廊下の向こう側からおおい、と呼び声がかかった。拓也の件の続きななのか別件なのかは分からないが、とにかく彼にもまだ仕事があるのだろう。
「呼び止めて悪かったね。外も暗くなってきたし、気をつけて帰りなさい」
「はい。本日はお世話になりました」
椎哉は警官に深々と一礼すると、出入り口の方向に向かった。そうして警察署を後にし、その保有地を一足越えたところで、首だけで後ろを振り替える。その顔に、いつもの柔らかい愛想笑いは浮かんでいなかった。
「……勘弁してくれよ。権力に屈する警察なんて、フィクションの中だけで十分だ」
(少々中途半端な終わり方ですが、椎哉の土曜日の行動はこれで以上です)
白羽学園掲示板にはとてもありがたいところがある。
それは、生徒用と卒業生用で分かれていること。一見なんの意味も持たないように思えるが、この学園に通う私達にとっては本当によかった。
卒業生は生徒用の板を見ることができない。つまり、女王の独裁や処刑制度について書き込んでも外部に漏れることはない。
なのに……。
「彩姉……なんで知ってるの……?」
学園の卒業生である彩姉のスマートフォンには 生徒用の 学園掲示板が。
なんで、どうして。今の学園の状況は、何があっても広める訳にはいかないと、それが学園での暗黙の了解になっていたのに。
「真帆ちゃんに教えてもらったの。いろいろと関わってるから。……で、コレは本当なの?」
「それは……」
笹川先輩、なんで教えちゃうかなあ。この状況をあたしにどうしろと?
疑問を見つけた彩姉が引き下がることは絶対に無い。でも、伝えてしまったらただじゃ済まないのは分かりきっている。
でもさ……。
『白羽学園掲示板
1生徒会反逆者に対して語る(62)
57 バカ、アホとしか言えないね
58 あの会長に勝てるとでも思ってんの?
59 本当にそうだったらひく。
60 もしかして反抗期?うわ、ないわー。
61 E組になってまでやりたいとは…
62 確かに 根性ありますねーあの方々
もっとみる 書き込む 新スレ作成 』
本当に、なんで見れるんだろう。
「なんであたしがコレを見れるのかって?言ったでしょ、真帆ちゃんとは仲間なの。いろんな意味でね」
文芸部長仲間、生徒会副会長仲間、''学園の姉貴''仲間。それから……?
「先に言っておくよ。あたしは百合香ちゃんに味方する。ちなみに真帆ちゃんもそう」
「っ、なんで!?あんな学園だよ!彩姉がいた頃も、あの制度はあったでしょう?あれがもっと酷くなってるの!!あたしは
「少し落ち着きなさい、亜衣」
「でもっ」
「黙って、頭を冷やしなさい」
「……っ」
ヤバい。彩姉が敬語だ。敬語嫌いの彩姉がこうなるのは余程の時か、冗談か、もしくは……。
彩姉が、本気で怒った時。
でもさ。あんな学園を許せると思う?不可能でしょ。
なんで彩姉や笹川先輩は会長に味方するわけ?おかしいでしょ。意味が分かんない。理解できないよ。
こんな状態で一生に一度の青春を終わらせるなんて、こっちから願い下げなの。
うん、決めた。
あたし、板橋先輩達の仲間になる。おかしくなってしまった学園を、もとに戻すんだから。
「亜衣、本当に何なの」
「……彩姉には、言えない」
「は?」
「事後報告はするつもり。あたしが正しいって証明してみせる」
実の姉に宣戦布告?やってやろうじゃないの。当たり前でしょ!
人生を楽しく生きるために必要なのは、美味しい食事に適度な運動・睡眠・恋愛・それから友情。あとは、自分自身を信じること。頼りになる姉に逆らってでもね!
あっけにとられる彩姉を尻目に、あたしはファストフード店から出た。
残念ながら料金は支払い済み。勿論自腹。あーあ、彩姉に払ってもらいたかったのに。後で請求しようかな。
っと、駄目だ。女王の独裁政治を終わらせるまで彩姉とあまり話すのは良くない。質問攻めになる。
でも、口止めはしなくちゃ。
急いで彩姉にメールを送る。彩姉の弱点は……コレだ!
『その掲示板、誰にも言わないでよね もし言ったら……この間のこと、ばらしちゃうから 調べるのも禁止』
多分、これで大丈夫。
仲の良い姉妹って大変だよね。
他人に知られちゃったら死にたくなるくらいの秘密を知ってるんだから。
あーあ。どうしよう。板橋先輩達の仲間になるのは決定だけど、今すぐは無理。
一言で言うと、ヒマ。
……恵里と会おう。愚痴を聞いてもらいたい。恵里は聞き上手だから。
早速あたしは恵里にメールを送る。
『今ってヒマ?』
『超ヒマー』
よかった。じゃあ集合場所はここからも恵里の家からも近い、あの公園。
『病院近くの公園、来れる?』
『はーい、10分で着くと思う』
『待ってるー』
『はいはーい』
「……ふふっ、恵里らしいや」
主に、伸びる口調が。あの子はしっかりしているようで少しふわふわしたイメージなんだよね。ま、文芸部に入っていればそんなもんか。
駆け足で、さあ公園へ。
女王より大切な、可愛い友人のもとへ。
〜日曜日 麻衣視点〜
朝、窓から光が差し込みその眩しさに起きる。
「ふぅ〜…昨日はよく眠れなかったな… 」
まああんなことがあったから仕方ないか… っさて、 今日の予定は何もない。じゃあ情報収集しに行こうかな。
もう革命を起こしてしまったのだから、私が責任を持ってリードしていかないと。
早速洋服に着替えて出かける準備をした。玄関で靴を履いていると親に「麻衣、どこ行くの?」「あー…ちょっと散歩。」
もちろん親は私が革命なんか起こしたことは知らない。こんなことを言ったら親はぶっ倒れるだろうな…
ちょっと私は気になることがあってある場所へ行った。 直接対決。 ある人の家のインターホンを押すと
《ピーンポーン》
『はい。立花です。…板橋さんね?』
『…はい。ちょっとお話しさせていただけますか?立花生徒会長。』
『…いいわ、どうぞ入って』
〜 立花邸 〜
「お邪魔します」
生徒会長の家は清潔で整理されておりいかにも敷居が高い家、というイメージがぴったりの家であった。
「さあ、二階へ。私の部屋で話しましょう、私はお茶を持ってくるから待っていてくださる?いくら反逆者でも最低限のもてなしは、ね?」
「…そうですね」 敵相手にもてなされるとはすごく変な気分だ。
さて、百合香の部屋に入るとトロフィーや賞状、メダルなどが飾られており机の上には百合の花が飾られていた。
まじまじと物色していると百合香が入って来て
「待たせてごめんなさいね、さあ座って。」
「ありがとうございます」
「あとローズヒップティーも入れてみたの、どうぞ飲んで」
百合香がこう優しいのは珍しいことではないが警戒心が解けない。囚われるも覚悟で来たのに…
「ありがとう…ございます」
その後10分間沈黙が続いた。
「…さて、そろそろ何を話したいか教えてくださるかしら?」
「聞きます。あなたは…何がしたいんですか?あなたの目には何が写っているんですか?」
私は薄々気づいていた。風花百合香の眼中にこの革命など映ってもいないこと、百合香の脳内ではほんの小さなことでしかないこと… わかってはいたけど聞いてみたくなった。 すると
「さあ? 何が写っていると思う?」と百合香は笑む。 ああ、やはり写っていないな…彼女の目はもっと先を見据えている。 そんな奴に見てもらうには…
その後会話は交わされることなく私は立花邸を去った。
【なんか意味わかんないですよね…】
「あら、いらっしゃい。遅刻なんて珍しいわね?」
「遅れて申し訳ございませんでした……面倒事の処理が長引いてしまって」
「いいのよ、別に。さあ座って、今紅茶を淹れてあげるから。今日はお客様が多いのね、紅茶がもう無くなってしまいそうだわ」
暖かな日曜日の昼間。碧い風が吹き抜け、木々は時折さわさわと揺れる。エメラルドグリーンの木々に包まれる様にして高級住宅地が潜む。そこに風花百合香の自宅は建っていた。周りの住宅より大きいという訳ではないが、普通のそれらに比べれば充分な広さがある。そして何より美しく清潔感のある外観は、住宅地の中でも一際目立っていた。白く塗られた壁は汚れの一つもなく、深い青色の屋根とよく合っている。庭には色とりどりの花々が育っており、その隙間から黄緑色の芝生が顔を覗かせた。花の状態を見る限り、手入れは日頃から欠かさず行っていることが分かる。
家のリビングには現在、百合香とその来客の姿がある。来客は本来なら午後12時きっかりに彼女の自宅を訪れる予定だったのだが、時計が今指している時刻は12時32分。およそ30分の遅刻である。
百合香の発言からも伺えるが、彼女は普段なら時間にも厳しい几帳面な生徒なのだろう。実際彼女が遅刻する事は滅多に無いが、今回ばかりは少し厄介な用事が入ったらしかった。最も、百合香に彼女を咎める気はたとえ事情があろうが無かろうが微塵もなかったのであるが。
「わざわざありがとうございます」
「もう、敬語じゃなくたっていいのに……私達、友達じゃないの」
「お気持ちは嬉しいです。しかし立場上、そういう訳にはいかないのですよ」
会話をしながらも、キッチンでアールグレイの茶葉をティーポットに入れる百合香。沸騰したお湯をその中に注ぐと、部屋に紅茶の上品な香りが広がっていく。
「お堅いんだから……せめて卒業後くらいは普通にお話しましょうね?」
「それが出来れば良いのですが」
こうして見ると、今の百合香にあの暴君女王としての面影は少しも無い。いるのは美しく優しくお淑やかな、優等生の少女でしかないのだ。そんな彼女を客人は、一体どんな目で見ていたのだろうか。
数分経った後に百合香は二人分の紅茶を運んできた。煌びやかな細かい模様が描かれたティーカップの傍らには、銀のスプーンに乗せられてローズジャムが添えてある。机の上のクッキーの缶を開けると、百合香は客人の向かい側に腰掛けた。
「それで……どうだった? 文芸部のこと」
客人に改めて向き合うと、百合香は話題を切り出した。客人はその声を聞きながら紅茶を一口飲んだ後に、小さなメモ帳をポケットから取り出す。百合香の声には落ち着きこそあったものの、その奥底では重く不穏なものが感じられる。だが客人はそれを気に留めることもなく、彼女に返答した。
「一年生の白野恵里はあちら側の人間だと確定しました。また会長が仰っていた同じく一年生の伊藤美雪も怪しいですね、会長にわざわざあの様な事を言うからには何かしら不満を抱えている事には間違いありません」
「ありがとう。そうね、白野さんはまだ放っておいても問題ないでしょう。あの子は多分、直接私を攻撃はしないだろうから」
そこまで言うと、百合香は一度紅茶に口をつける。少しの間考え込むと、角砂糖を一つカップに入れた。
「それにしても……。本当、美雪ちゃんの自信過剰は何とかならないのかしら。自分こそが正しい、自分なら何でもできるんだという考えが抜けないわね」
優しい口調で冷たい毒を吐くと、会長は相変わらずの笑顔を見せる。その笑顔はやはり汚れ一つ無い。
「従姉妹と言えども仲はよろしくないのですか? 白羽学園に彼女をお誘いになるくらいでしたのに」
「昔からあの子は嫌いなのよ、私。見ていて見苦しいのよね、ああいう人間は……私は全部お見通しだっていうのに。従順な人とそうでない人の違いなんてすぐ分かってしまうに決まっているでしょう?」
言い終わると百合香はクッキーの缶に手を伸ばす。くすんだピンク色の苺クッキーを指先で摘むと、半分ほど齧った。
「さて……どうしましょうかね、文芸部は」
そう言いかけた時、スマートフォンに通知が入る。失礼、と一度断ってから、百合香はMINEアプリを開いた。
画面見て若干小首を傾げると、百合香は客人にもその画面を見せる。
神狩美紀から送られてきたのは、数個の掲示板やRTwitter(大手SNS。世界中で利用されており、システムは現代の某SNSとあまり変わらない)のスクリーンショットだった。
『白羽学園の生徒、暴力で警察沙汰に!!』
『「会長への愛」語り出す暴力生徒』
『三角関係? 白羽学園生徒会長との関係は?』
「これは……」
「誰がこんな事広めてしまったのかしら。片原君も、後先考えずに行動しちゃって……あとで誰かにお説教でもしてもらわないと」
スクリーンショットには、これらの情報が既に十数回程度拡散されている事が示されている。美紀からは新たに会長の身を案じるメッセージが送られていた。客人は百合香の方を若干心配そうに見ている。
百合香はしばらくスクリーンショットを見つめていたが、急に顔を上げにっこりと微笑んで言った。
「ねえ、こんな『デマ』を『故意的に』流したのは誰だと思う? 『学園の評判を下げて生徒達を困らせようとした』のは誰だと思う?」
「え? ……誰と言われましても…………あっ」
客人は何かを理解した様だった。
この2つの問題を処理する方法を。
「これを流したのは文芸部の一年生達、そしてそんな事をする部は活動停止……最悪、廃部にするしかないでしょう? 『大変心苦しいけれど、校長からの命令で仕方なく』。誰が拡散したかという証拠もない、もし文芸部を庇って犯人が名乗りを上げれば一石二鳥! 犯人も、そのお仲間である文芸部が反逆者の集まりだということも、どちらも確定するわ。我ながら良い案だと思わない?」
「流石です、会長……彼女達以外の部員も、矛先はまず一年生に向けるでしょうし。一年生を擁護したところで自らが周りの標的になるだけですから」
「ふふ、私も張り切って演説しないとね。さて後は……『デマ』を消してしまうだけ。またお願い出来るかしら、××××?」
「勿論です。璃々愛さんにも協力してもらえると良いのですが」
夕方、どこを探しても書き込みは見つからなかったという。
(またまた長文すみません…!
あと百合香の苗字は風花でございますー)
(続きです)
《亜衣視点》
恵里って、本当にすごい。
改めてそう思った。
おそらくかなりしつこいであろうあたしの話に付き合ってくれるし、大抵の人と早く打ち解けてしまう。話題が豊富で飽きない。反応も良いし、とっても優しい。
成績こそD組だけど、白羽学園は進学校。全国平均からすれば上だ。外見も普通に可愛いと思うし、なにより面倒見が良いから、ついつい甘えたくなるんだよね。恥ずかしがってあたふたするのも意外性があるし、イジりがいがあって可愛い。
どうして今更こう思っているかというと、時は戻り先ほどの話へ。
少し急いで病院近くの公園まで。2,3分ほど時間をおいて恵里が来た。
「ごめーん亜衣」
「ううん、大丈夫。あたしも来たばっかだし」
「そう?」
ならよかったー、と微笑む恵里。……今日も可愛いですね。白い肌が眩しいよ。
「恵里ってさ、日焼けしないの?」
「え、私?」
「うん。将来シミができなさそう」
「インドアだからだよー。それに、日焼けせずに真っ赤になっちゃうんだよね」
それは大変そう。でも羨ましい。
「そういえば!ね、あの小説が映画化したって!」
「え、本当!?」
「でもねー、なーんか雰囲気がちがうの」
「あるある。原作ではショートカットなのにロングになってたり!」
「優しい少年がタラシっぽくなってたり!」
「やっぱり小説が一番だね」
「ねー。コミカライズするとちょっと省略されるし」
「確かに。そこはギャグシーンじゃないって感じ」
「そーそー」
こんな感じの、何気ない会話が一番好きかもしれない。
(ごめんなさい、まだ続けます)
>>111
まだ更新の途中でしたか!申し訳ないです…!
(>>112 いえ、全然大丈夫ですよ!
っていうか、うわあああああ!!文芸部がなくなるううう!犯人名乗り出ろ!
ここは笹川先輩と彩姉……学園の姉貴コンビに守ってもらわねば!!
ということで次の展開を心から待ってます!)
(すいません…大切なキャラクターの名前を間違えてしまうなんて…不覚ですね)
115:蒼月 空太◆eko:2017/03/28(火) 10:10 法正視点
片腹 拓也の書き込みが消されたか・・・まったく、報復する側の手口を読めてないと見えるな。
高度なハッキングが出来るのが藤野だけだと思ったか?まったく、一度破った手口はもう聞かないと見せしめするのはいいが、それ以上の技術への報復を受けきれないのは、下策しか考えられない証拠だな。
俺は左手に巻いている赤い布から、スマートフォンを取り出した。操作して、電話をある人物にかけて、言う。
「俺だ」
『ああ、アンタか』
「助けて欲しいんだろ?だったら条件を飲め」
『なんだよ?』
「お前が生徒会長に脅されてやったという報を流す。」
『会長を愛している俺なのにか?』
「行き過ぎた愛、それから生まれてしまった事件、それに気づき真の愛を取り戻す生徒会長と精神が崩壊した少年・・・彼女たちは真の愛を築き上げ、無事に幸せとなった。めでたしめでたし。生徒会長にも、お前にも悪くない条件だろう?」
『まったく、隠れ生徒会派ってのは・・・つくづく嬉しいもんだ。条件を飲むぜ。それに、安部野にも復讐はしてくれるよなぁ?』
「もちろんだ。アイツは生きているだけで邪魔だからな・・・じゃあな」
俺は不適に笑いながら、スマートフォンの電源を切り、赤い布にスマートフォンをしまう。そして左手に巻きなおす。その前に、左手の傷を見る。酷く裂傷した傷だ。俺は鮮明に覚えているトラウマを思い出しながら言った。
「この左手に込めた恨み・・・晴らす・・・」
俺はそこから、片腹 拓也の売名を始めた。
悪名としての。勝手だが経歴などを変えさせてもらった。風花 百合香のストーカー行為などな・・・いや、これは元々か。
法正視点
そう・・・俺は忘れたことがない。悪夢となり、トラウマとなった。あの頃を。
一年前―
「俺は一葉 法正だ。よろしくな」
俺は、クラスが違っても、片腹 拓也、松葉 晃と仲がよくなった。三人で笑いあった日もあった。
俺はずっと続くと思っていた。この日々が。
ある日。
「なぁ一葉、風花 百合香先輩って知ってるか?美人なんだよ!」
「確かに・・・美人だな。」
「確かに美人だよなー」
俺と松葉も、片腹の意見と同じだった。
「俺はあの人見ててよー、なんつーか、神様だと思ったぜ!」
「処刑制度がなけりゃな」
だが片腹の言っていることに、松葉は顔をしかめていた。
「俺も生徒会役員だからよ、あわよくばパンツの一枚でも・・・」
「お前首飛ばされるぞ」
二人の漫才的なやり取りに、俺も笑ってはいた。ただ。
「でも、処刑制度ってのは、独裁者みたいなものだよな・・・女王気取りなんだろうかな・・・」
この一言だった。俺が言う必要がなかった一言だった。次の瞬間、片腹はカッターナイフを取り出して、俺の左手に刺した。
「っつ・・・」
「テメエ!生徒会長を愚弄するのか?!」
「い、いやただ少し口が滑っただけで・・・」
「うるせえ!許さねえぞ!」
「拓也!押さえろって一葉も悪気があったんじゃないだろうからよ!」
松葉は片腹を押さえた。だが、俺はカッターナイフで刺された傷を押さえながら、帰宅した。そして病院に行った。医者からの一言は、無情な言葉だった。
「傷は残るよ」
「え・・」
「こんだけ深く刺されたら傷だって残るさ」
ふざけるな。何故こうなる?片腹はなんであんなクズを神様だとか言う?ふざけるな。意見の違いだけで人を殺す気か?あいつは。松葉 晃。あいつはあいつでわからない。だから放っておく。だが、俺は決めた。片腹 拓也に忠誠を誓う・・・・フリをして生徒会を滅亡させる。表向きはただの生徒、裏は隠れ生徒会・・・同時に、風花 百合香と、片腹 拓也の滅亡だ。
俺はしばらくしてから、片腹に謝罪し、その後隠れ生徒会となった。しかし片腹への報復は絶対にする。俺は左手の傷を隠すために、赤い布をまいた。そしてそこにスマートフォンを入れた。隠し武器だ。
「いずれ・・・報復する」
俺が誓った、過去の話だ。今更思い出すのは何故か。まぁいい。奴の悪名を徹底的にやってやる。
(時間が戻りまして>>111の続きになります。土曜日の午後です)
やっぱり今日の亜衣は元気がない。私・白野恵里はそう思った。
笑顔がぎこちないし、時折寂しそうな顔をするのだ。
気になるけど、むやみに聞くことは出来ない。少し待つか。
気晴らしになるような話をしたい。他人からすればどうでもいい、でも私達にとっては重要な、そんな類の話。
となると話題は―――。
学園関連はだめ。
家族についても注意が必要。
じゃあ、それ以外のこと。例えば、共通趣味である小説とか。
私の予想はあっていたのか、これといって亜衣が悲しそうな顔をすることはなかった。とりあえず一安心。
それでも浮かない顔をしていた亜衣。私に言いたくないのかもしれないし、もしかして私に迷惑をかけたくないのかもしれないけどね。それでも―――。
私は困っていそうなひとを見ると、何かしたいと思うんだよ。お節介とか、しつこいとか言われるかもしれないけど、それでも何かしてあげたいんだ。
私なんかじゃ力になれない。分かってる。でも、愚痴を聞くことぐらいならできるよ?
元E組をなめないでほしいね。聞き役なら自信あるんだから。
「……亜衣。どうかしたの?元気ないよ?」
「ちょっと、いろいろとあって……」
「学園関連のこと?それとも家族?」
「恵里はすごいね。両方、正解」
「……?」
「喧嘩、しちゃったんだ。彩姉と」
あれ、亜衣のお姉さんって、よく文芸部に来る人だよね。すごく仲が良さそうに見えたけど……。
「ねえ恵里。板橋先輩達について、どう思う?」
亜衣の眼はいつになく真剣で、ああ、亜衣の悩みはそういうことかと、私は思った。
「亜衣は、板橋先輩達の仲間になりたいの?」
「……うん」
うつむいたまま、消え入りそうなか細い声で答えた。やっぱり、ね。
「私は、いいと思うよ?」
「本当に、そう思う?」
「勿論。月曜日になったら、会おうと思ってたんだ」
これは、本当。本当にそうするつもり。
「でも、彩姉はやめろって」
「……このまま女王に従っていろ、というわけ」
「そう。あとね、笹川先輩も会長の味方」
え……笹川先輩が、女王の⁉ありえない。なんで?
私と亜衣の話は、それから数時間続いた。
私と亜衣は、学園復活派に入ることにした。月曜日に会いに行く。
E組のお二人と違い、私達にはある程度の自由がきく。それを利用するんだ。
学園を元に戻すために。
「はぁ……」
百合香の自宅から帰路につく途中、麻衣は小さな公園のベンチに腰掛けていた。子供達が活き活きとして公園中を駆け回っている中、溜息をつく麻衣の表情は重く暗い。
百合香と直接話したは良いものの、結局は何の成果も得られなかった。彼女が何を考えているのかも、何をしようとしているのかも分からない。彼女はただ闇の奥底の様な瞳でこちらを見つめては、時々微笑みを浮かべるだけ。その微笑みは何に向けられているのかさえ知る由もない。
あの女王は果たして、本当に人間なのだろうか?――麻衣はそんな事すら考えた。
人間とは思えない美貌。そして、人間とは思えない残虐性。
その姿はまるで、白い羽をもつ神の様にも、黒い瞳をもつ悪魔の様にも……。
「あの……板橋さん、ですよね?」
不意に声を掛けられ、麻衣の思考はそこで一旦途切れた。声に向かって顔を上げると、一人の少女が目の前に立っていた。彼女の姿を見ると、麻衣は一瞬拍子抜けする。大きな青い瞳、編まれた金色の髪に雪の如く白い肌。整った顔立ちの中心に見えるそばかすも、すっかり馴染んだチャームポイントになっている。
流暢な日本語は話すものの、十中八九、彼女は外国人だった。そして麻衣は同時に、この外国人に見覚えがあることに気付いた。
「……アデラ……さん?」
「はい……B組の、アデラ・ヴァレンタインです」
アデラ・ヴァレンタイン。
入学当初、イギリス生まれという事でそれなりに話題になった少女。日本生まれの周りの生徒より背丈は幾分高く、雰囲気も大人びていた。中学入学と共に日本に越してきたらしく、以前から日本語も学んでいたため白羽学園に入るまでにはほとんどの日本語を完璧に話してしまうまでになったのだ。彼女がコミュニケーションに困ることもなく、むしろ英語も話せるバイリンガルとして人気を集めた。
しかし麻衣とは、特に接点は無い筈だった。二人共クラスは違うし、委員会や部活で一緒になるという事も今まで無かったのだ。あえて言うなら掃除場所が近かったくらいか。
「少し、お話よろしいかしら?」
そんなアデラが、麻衣に話しかけたのは……やはり、あの出来事が原因だろうか。
「……良い、けど……何を?」
「……板橋さん、反逆者の貴方にお尋ねします。昨日生徒会の片原君が暴力事件を起こして……それがネットに拡散されたのは知っていますか?」
「えっ?」
突然の質問と知らない事件の内容。そして反逆者という言葉を投げかけられ、麻衣は少し困惑した。アデラがどちらの派閥かも分からない内だったというのが、それに余計煽りをかけたのかもしれない。現時点で彼女が会長に賛成しているのか反対しているかの情報はまだ無いのだ。
数秒間頭を整理させ、なるべく当たり障りのない回答を考え出した麻衣は遅れた返事をする。
「し、知らないわ……どうしてそんな事を?」
「……やはり。知らないのも無理もありません……麻衣さん。この事件の情報が、数時間経ったら綺麗に消えてしまっていたんです。私が見た時には既にある程度拡散されていましたから、麻衣さんの目にも普通なら届く筈でした。でもその前に、不自然なくらいの勢いで情報は消えてしまったんです」
流れる様に話す、敵か味方かも分からぬアデラ。だがこの様な事をわざわざ口にする彼女は、少なくとも敵ではないのだろうか?麻衣は頭をしきりに回転させつつも、アデラの話に少しずつ対応していく。
「……つまり、生徒会に不利になる情報は消されているって事ね? 何故貴方がそんな事を私に言うの? それに、どうやってそんな荒業が出来るのかしら……」
「はい、その通りだと思われます。……私が貴方にこの事を言った理由は二つです。まず一つ――私が貴方に味方する反逆者であるからです」
「……味方?」
改めてアデラの顔を見据える。その表情は極めて強く真剣なものであった。
アデラは再び話し出す。
「私は貴方の味方ですから、貴方に有利になる情報は与えなければと思ったのです。信じてもらえないかもしれませんが、私は本気です。……生徒が同じ生徒を傷付けるなんて、絶対にあってはなりません」
彼女の青い目には、確かな決意と正義の炎が宿っていた。思わず麻衣はその熱さに圧倒されかける。彼女の心で煌々と燃えていたのは、復讐心でも反逆心でもなんでもなく、ただ純粋な正義なのだろう。
「じゃあ……私達に協力してくれるの?」
「板橋さん達が受け入れて下さるのなら、是非そうしたいと思っています」
麻衣はしばらく間を置き、やがて微笑む。義心に燃えるアデラに手を差し出し、言った。
「……なら、これからよろしくね。アデラさん」
そう言われたアデラは、差し出された手を見ると太陽の様に明るく微笑む。麻衣の手を強く握り、しっかりと頷いた。
「……それで、二つ目の理由って?」
麻衣は手を離し、再び話を戻す。その問いかけに、アデラの笑顔へ影が差す。
「……貴方が月乃宮先輩の関係者だからです」
「月乃宮先輩?」
「……板橋さん……月乃宮先輩の家が裕福なのはご存知ですよね? 月乃宮先輩には財力があります……もし、その財力を使って警察に手回ししていたとしたら?」
麻衣の手に震えが走る。月乃宮いばらの顔が脳裏に浮かぶ。
「……え……? ……まさか……」
紫色のカチューシャが、きらりと輝く。
「……あんな風に情報を完全に消してしまうことが出来るのは、警察くらいなものです。風花さんにはとても出来ません……ハッキングでもすれば出来る可能性はありますが、それはただの犯罪です。……正当な、罪に問われない、ただのデマへの対処として……月乃宮先輩が、警察を使った。そう、私は考えているのです」
その晩、麻衣は少しばかり寝不足であったという。
週末が明けた、五月四週目の月曜日。休暇中の思い出話や、休み明けの気だるさによる喧騒の中、白羽学園内ではある噂が囁かれていた。
曰く、二年D組の生徒会役員である片原拓也が、生徒会長の風花百合香に抱いていた恋慕を暴走させ、同じ生徒会の書記である安部野椎哉に暴力を振るったのだという。
その噂は、共同戦線を一時張っていた翼と彼の友人たちの耳にも届いていた。言づてでも十分伝わる彼の狂気的な感情に、名状しがたい不快感を翼は覚えたのである。
「松葉の家に行ったときも十分アレだったけどよ、まさかそこまでのマジキチだったとはな……」
「しかも追加情報によりゃあ、会長のことストーカーしてたって話だぜ?」
「うっわ、マジかよ! とうとう精神異常者じゃね?」
「だよなー。独裁云々を差し引いても、あんな面白みのない完璧超人を好き好むとかあり得ねえし」
「馬鹿か。問題はそこじゃねえよ」
いつもの空き教室でぐだぐだと駄弁る友人たち。その途中に差し込まれた検討違いの回答に、翼はぴしゃりと指摘を入れた。水を差された一人は不満げに口先を尖らすが、他の友人は「当たり前だろ」「お前の好みなんざ誰も聞いてねえ」と口々に彼を茶化す。だが、そんな彼らの反応にも、翼は否定的な態度を取った。
「あのなあ。お前らの目は節穴か? この書き込みの投稿時間をよく見てみろ」
「何々? ……月曜、午前3時。それがどうかしたのか?」
「どうもこうも、最初に俺たちがこの話を知ったのは、土曜の夜の掲示板でだろ? だが今はいくら探しても、最古の書き込みがこいつしかない」
「えっ、マジで?」
驚いた友人の一人が掲示板内検索を使い、同様の書き込みを探しだそうとした。しかし翼が言った通り、拓也についての投稿は月曜の夜中から早朝以降のものしかヒットしない。つまり翼たちが見た、土曜の夜に投稿されたはずの最古の投稿が、何者かによって削除されているのだ。
「土曜に投稿された拓也の記事を、日曜に見た誰かがわざわざ削除した。そして月曜の真夜中にまた誰かが投稿し直したんだろうな」
「なるほどな。削除したのは、やっぱ会長側の奴か?」
「多分な。他の書き込みも綺麗さっぱり消えてたし、こんな大規模な削除ができるのは会長派くらいだろ。月曜の書き込みは土曜と同じ奴か、それとも別の第三者かは分かんねえけど」
机の上に足を乗せ、椅子に浅く座りながら、翼は大きく溜め息をついた。
書き込みの削除というのは通常、その掲示板を管理する者の承認が必要になる。そのため、投稿削除というものは本来そこまで積極的に行われるものではないのだ。
だが今回は違う。土曜日の時点で拓也についての書き込みは、学園掲示板以外にも、大型掲示板や有名SNSなどで発表されていた。しかしそれらも、日曜の時点で既に削除されている。
常識的には考えられない、複数の掲示板やSNSでの投稿一斉削除。こんな真似ができる何者かを味方に持つ生徒会長は、実質ネット界隈を掌握しているといっても過言ではないだろう。
「……この世はいつだって、力を持ったもん勝ちだ。そうじゃない奴は理不尽を強いられても文句を垂れることすら」
「言い掛かりはやめてください!!」
唾棄するように吐き捨てた、翼の独り言。しかしそれは、廊下からの大声によってかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
突然の怒号に、なんだなんだと翼たちは空き教室を後にする。彼らが見た廊下の先にいたのは、女生徒二人と、彼女たちの前に立ちふさがる桃色ツインテールだった。
(続く)
(続き)
◆ ◆ ◆
「だから、私たちはデマなんて流してませんって!」
「そ、そうですよ……! 片原先輩って人のことだって、今知ったばかりですし」
「そんなこと言われても、確かに聞いたんだよねえ。『一年の文芸部員が片原クンに濡れ衣を着せて、悪質なデマを広めようとした』って!」
遠くから見てもはっきりと分かる髪色の主、璃々愛が通行の邪魔をしているのは、一年生の恵里と亜依。二人は身に覚えのない言い掛かりで、糾弾を受けている真っ最中だった。
亜依ははっきりとした物言いで、恵里はやや弱々しくではあるが、それでも物怖じせずに自分たちの無罪を主張する。しかし当の璃々愛は暖簾に腕押しといったように、二人の言い分を受け流すことしかしなかった。
「大体、私たちがデマを流したっていう証拠はあるんですか!?」
「じゃあ逆に聞くけど、アンタたちが『デマを流してない』って証拠はあんの?」
「はあ? そんなの……」
「証拠が出せないなら、デマを流したって大人しく認めれば? かいちょーは優しいから、早めに観念すれば情状酌量は考えてくれるかもよ」
「ふざけないで! 誰が冤罪なんか認めるもんですか!」
「あっそう。飽くまでしらを切るってなら、アンタたちの文芸部が広報部の二の舞になっちゃっても文句は言えないよね?」
「そんな……!」
璃々愛は得意の減らず口で反論の余地を奪い、「デマを流した」と繰り返し口にすることで周囲の注目を集める。その作戦は上手く働き、集まってきたギャラリーは既に恵里と麻衣をデマの首謀者だと見なし始めていた。
このままでは自分たちが濡れ衣を着せられるか、文芸部が強制廃部となってしまう。どちらにせよそれらが実現してしまえば、以降の学園生活は周囲から苦汁を強いられ、革命に参加するどころではなくなってしまうだろう。
璃々愛からの糾弾は終わることがなく、ギャラリーからの目線は冷たくなっていく。恵里と亜依のみではにっちもさっちも行かなくなった、そのときだった。
「異端審問が悪魔の証明を振りかざしては本末転倒でしょう。結城役員」
「なに? 邪魔しないで……って、うわっ!」
不機嫌な顔をして後方を振り向いた璃々愛は、そのしかめっ面を直ちに伸ばして驚愕する。恵里と亜依、そしてギャラリーの生徒たちも同じく、目を丸くして彼女と同じ方向を見た。
璃々愛の背後にあったのは、痣とガーゼが痛々しいほど目立つ、椎哉の変わり果てたの顔だった。
(今回はやや勢いに任せて書いたので、展開が無理矢理だったり滅茶苦茶だったりするかもしれません。また、璃々愛さんの言動がチンピラみたいになってしまいすみません;)
(この後の椎哉や翼の動きで質問がありましたらお気兼ねなくお聞きください)
(>>121と同じくらいの時間です)
「ちょっと美紀!説明してもらおうか!」
3−Aの教室に響き渡る大声。生徒達は何事かと目を向けたが、聞こえてくる声から内容を理解し、それぞれ雑談や予習に励むことにしたようだった。
言い争っているのは生徒会副会長と会計。下手に仲裁したりのぞき込んだりすると後が大変になるに違いない。
「説明と言われても、私は会長の決定をそのまま真帆に伝えただけ。一年生には結城さんが、二年生には月乃宮さんが、そして三年生には私が伝えることになったから」
「違う!廃部の理由よ!」
「会長の判断」
「あ、り、え、な、いって言ってるでしょ!恵里ちゃん達がそんなことをするわけがないの‼」
「私はなにも白野さんや戸塚さんだと言っている訳じゃない」
「全員含めて、ありえない!」
ここまで聞いているとほとんどの事情がわかってくる。
要約すれば……文芸部員の一年が何か会長に背くことをやらかし、文芸部は廃部になった。それを美紀が部長である真帆に伝えたところ真帆がきれた、という感じだろう。
それにしても珍しい。真帆が感情的になっている。それ程文芸部を守りたいということだ。
「真帆、今あなたが何をしても変わらない。わかっているでしょう?」
「……そういえばさ、どうして廃部にしたの?そこまで大事ではなかったよね」
「何が言いたいの」
「いや。生徒会と文芸部、どちらも納得できそうな案を思いついただけ♪」
(でたぞ、屁理屈上手の笹川だ)
(真帆ちゃんの正論は言い返せないもんね)
(会計がどこまで反論できるか……)
(無理よ、賭けにすらならない)
生徒たちの意見は満場一致。何かしらのペナルティーは下されるだろうが、廃部にはならない。それだけ、真帆との口喧嘩は無謀なものなのだ。
「美紀、あなたはどうして会計になったんだっけ?」
「……そういうことね。でも、私一人の判断じゃ無理。会長に許可をもらわないと」
真帆は小さくガッツポーズをつくった。
こめかみを抑えながら百合香のもとへ向かう美紀のあとを意気揚々とついてゆく。
「神狩のやつ、相当ストレス溜まったな。俺生徒会入らなくて正解だったわー」
能天気な男子生徒の発言に、クラスメイト達は激しく同意したのだった。
「それで、私のところへ来たというのかしら」
「そ。簡潔にいうと―――文芸部を存続させてほしいんだ」
生徒会室では、会長と副会長の争いが繰り広げられていた。勿論話題は、文芸部の今後について。
自身の要望をきっぱり言い張った真帆に対し、
「駄目よ。あんなことが起こった以上、生徒会は対応しなければならないわ」
百合香は即刻要望を拒否する。
しかし、真帆には真帆なりの案がある。真帆は、勝利を確信したような笑顔でこう言った。
「その代わりとしてね、こちらから提案があるのさ。聞いてもらっていいい?」
自信をもつその表情に疑問を感じた百合香。提案を聞くくらいならいいだろうと思った。
「……その提案とは、どんなもの?」
「簡単だよ。百合香が許可して、美紀が書類をつくればいいだけ。生徒会と学園のメリットもある」
「参考までに、それをお聞かせ願えるかしら」
それに答える真帆の返答は、とんでもないものだった。
「……そうね。それならいいかもしれません。でも、あなた達文芸部はそれで大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるでしょ。あたしたちをなめないでよね。ほかの学校の文芸部とは格が違うんだから」
「そう。ならいいわ。美紀、私は真帆の提案をとろうと思うの」
「……問題ないよ。まだ一学期だから、つくった書類は少ないの。あとは百合香と真帆の署名、ここの二ヶ所」
風花百合香、笹川真帆と、二人はそれに署名した。
文芸部存続と、真帆の勝利が確定した瞬間だった。
「璃々愛ちゃんたちに知らせてくるわ。あとは美紀に頼みます」
「わかった。書類は提出しちゃうよ」
女王が進むところには、きっと大勢の生徒が並んでいることだろう。
「安心した?美紀」
「……別に」
「そう?」
女王が去った後の部屋では、美紀をからかう真帆の姿が見られたという。
「はっ!? ちょい、安部野にぃ……それ……!」
「ああ、この怪我ですか? いえ、先日ちょっとした揉め事に巻き込まれましてね……」
片原拓也が暴力事件を起こした、というデマである筈の噂。しかし、生徒達の目の前にいるのは正に暴力の被害を受けたのであろう安部野。この矛盾した状況に、生徒達は困惑していた。一方、罪を擦り付けられた文芸部の二人も目を丸くし、驚きを隠せないという様子だ。
「……と、というか……何? アンタ私の邪魔すんの?」
「邪魔という訳ではありませんが、その様な尋問は如何なものかと。容疑者の言い分も聞かないというのは少し横暴ではありませんか?」
璃々愛は少々分の悪そうな顔をする。これでは文芸部を葬り去ってしまおうという会長の意向が台無しになってしまうではないか。何とかしてこの厄介な男を先ずは退けなければならない……。
璃々愛が思考を巡らせていた時、生徒達が一斉に道を開けた。コツ、コツという足音が廊下に響き渡る。黒く長い髪が艶目かしくゆらりと揺れた。
「あらあら、何の騒ぎかしら?」
「……! かいちょー……」
そう、女王のお通りだ。
「安部野君、怪我は大丈夫だった? 大変だったわね、まさか交通事故に遭うなんて」
「……えぇ。まあ」
百合香は安部野の顔を覗き込み、いかにも心配そうに声をかける。だがその言動一つ一つには、余計な事を言うなという強い牽制の意味が込められていた。
安部野も今、全てを打ち明けようとする事はなかった。ここで会長の怒りを買っても何一つメリットは無い。まだ焦る必要はないのだから、あくまで自分は誠実な生徒会の一員として行動しておくべきなのだ。少なくとも今は。
「あまり無理はしないで、早く治すのよ。……それで、璃々愛ちゃん。ちょっと良いかしら?」
璃々愛は相変わらず居心地の悪そうな様子だった。それでも下を向かまいと、周囲を睨み付けるかのように強く見る。百合香はそんな璃々愛の方に歩み寄ると、小さく耳打ちをした。
璃々愛の表情は途端に変貌する。何か言いたそうにする璃々愛に向け、百合香は人差し指を口元で立てた。その「静かに」という合図を受け取った璃々愛は、急に俯き大人しくなってしまう。
彼女は一度周りに軽く礼をすると、璃々愛を連れて廊下の奥へと歩いていった。璃々愛は文芸部員達を一瞥すると、会長に着いて歩き出す。
辺りはしばらく静まり返っていた。
少なくともこの一件で文芸部員達への疑いが晴れた訳ではない。いや、疑いというのは語弊がある。彼女達に向けられたのは既に『反逆者』を見る目であったのだ。
「……余計な事考えるからこうなるんだよ。大人しくしてりゃ平和に暮らせるのに」
「白野さん、戸塚さん!」
誰かのその声に被せるかの様に、大人びた声が響き渡る。二人が声の方に視線をやると、アデラ・ヴァレンタインが駆け寄ってくるのが見えた。
廊下を歩きながら、会長と璃々愛は若干抑え気味の声で話をしていた。会長から事情を聞いた璃々愛は、複雑そうな顔をしている。
「……で、それを飲んじゃったの……」
「ごめんなさいね。せっかく用意してもらったのに……それにしてもあの子、頭高くない?」
「どうする会長、処す? 処す?」
どこぞの将軍の様なやりとりを繰り広げる会長と璃々愛。会長はにこやかに微笑んではいるものの、表情には珍しく疲弊が見え隠れしていた。資料の作成の為に印刷室へと入ると、百合香は溜息をついて椅子に座り込む。憂い気な会長の姿に、璃々愛まで元気を無くしていく。
「……気に入らないわ……これじゃあ私の計画が台無しよ。せっかくあの文芸部を潰してしまうチャンスだったのに」
百合香が弱音を吐くのは久しい事であった。というよりも、百合香の計画が邪魔されるという事自体が滅多になかったのである。
璃々愛はそんな百合香の顔をしばらく見つめると、やがて出来る限り明るく振舞って言う。空元気に過ぎないものだったが、それでもその声は華やかに響いた。
「大丈夫だよ、かいちょー!」
百合香の手を強く握ると、その目をしっかりと見つめる。
「このまま文芸部の好きにはさせない。アタシがいずれちゃんと潰してあげるし! かいちょーに逆らう奴らは、みーんなアタシが始末してあげるんだから!」
璃々愛の笑顔を会長はしばらく自信の無さそうに見つめていたが、やがてゆっくりと微笑み返すと言った。
「ありがとう、璃々愛ちゃん。……神狩さんも璃々愛ちゃんも××××も味方してくれて、私は幸せね」
明るい笑顔から一変、璃々愛は怪訝そうな顔をした。
「かいちょー、またそいつの話?」
百合香はくすくすと笑い、立ち上がって印刷機に向き合う。
「役に立つのよ、あの子? ……そうね、そろそろ活躍してもらおうかしら」
一方、学園掲示板は。
片腹 拓也(マヌケ)について語るスレ
1:名無しのエリート
片腹 拓也のせいで生徒会長の面目丸潰れだわ。
何が会長を理解してるだよ。氏ね。
会長のゴミ漁ってるとかありえんわ。夜道をついてくとか馬鹿かよ。
っつーか片腹生きてる意味ある?
2:名無し様だぞあがめてろついでにパスタよこせ
>>1
確かにwwwwアイツの親の顔見てえわwww
3:アホです
>>1マジキチだからなー。(ーдー)会長のパンツ欲しいって言ってるくらいの変態だからなー。
さっさと氏ねばいいのにー
ってことで殺ってみた
. ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(;´Д`)< お片づけお方付け
-=≡ / ヽ \______________
. /| | |. | ←俺氏
-=≡ /. \ヽ/\\_
/ ヽ⌒)==ヽ_)= ∧_∧
-= / /⌒\.\ || || (´・ω・`) ←片腹 拓也
/ / > ) || || ( つ旦O
/ / / /_||_ || と_)_) _.
し' (_つ ̄(_)) ̄ (.)) ̄ (_)) ̄(.))
oノ
| 三
_,,..-―'"⌒"~⌒"~ ゙゙̄"'''ョ ミ
゙~,,,....-=-‐√"゙゙T"~ ̄Y"゙=ミ L____
T | l,_,,/\ ,,/l | ゚ ゚
,.-r '"l\,,j / |/ L,,,/
,,/|,/\,/ _,|\_,i_,,,/ /
_V\ ,,/\,| ,,∧,,|_/
4:皆のアイドルではない何か
>>3マジか。アイツもう犯罪者予備軍・・・っつーか犯罪者だったわ。
5:生きてる人
>>4それな
6:匿名でしかない人
>>4マジか。片腹ってアイツ偽善者じゃん。
7:もっさもさな毛
片腹「会長をwww理解してるのはwww俺wwww」
やべえ書いてて笑ったわ
このように、悪口が飛び交う一方で。笑みを浮かべるものが二人。
「いいぞ・・・どんどん広がれ・・・」
不適な笑みを浮かべる一葉 法正。
「っしゃ!拓也の奴これ見てどうなるかなー・・結果が楽しみだぜ!」
喜びの笑みを浮かべる松葉 晃。片腹 拓也は、学園掲示板を見る気にすらならない状況。しかし、後一歩まで追い詰めれば、拓也をどん底へ落とせる。お互い知らなくとも、考えがまったく同じ晃と、法正は。更なる追撃に出た。
8:座布団です座らないでください、立ってください
俺今日片腹 拓也の様子覗かせてもらったら会長って連呼してたwwwwワwロwスw
9:報復マン絶対マン
片腹 拓也きっと会長のこと想像してくっだらねえ夢見てんだろうなwwww思ったら授業集中できないwwww助けてwwww
10:座布団です座らないでください、立ってください
>>9しwるwかwwwwwふぁーwww
8と10が晃、9が法正。彼らは更なる追撃をかけ、レスを上げていく。完全に拓也を潰すために。生徒会の面目を潰すために。風花 百合香へと泥を塗るために。
そうして彼らは、スマートフォンをタップする。このスレッドを上げて行き、反逆者を優先するよりも。
晃は、管理者の権限を使い、スレッドを固定かつ、削除不可の設定を施した。
(なんつーか、笑えない冗談になったけれど、こうして行く・・・というのになってしまったのです。不満があったらすみません。)
(放課後、自室の晃くん視点です)
(椎哉の考えを伝えたかっただけなので、字の文とメール本文のバランスがおかしなことになっています、ご了解ください)
掲示板をリロードすれば、分単位でレスが増えていく。時折煽動するようなレスを落とせば、面白いくらいに同調者が集る。すっかり大盛況となった拓也に対しての罵声スレッドを前に、晃は満足げな笑みを浮かべていた。
「はっはっはっ、ざまあ見やがれってんだ! 真の裏切り者め!」
かつて拓也は、友人だったはずの晃に裏切り者だと吐き捨てた。しかし今度は、とても友人相手にはしない所業を、晃が拓也に平気で行っている。これが友情をないがしろにした拓也の因果応報か、あるいは晃が彼の二の轍を踏んでいるだけなのか。二者の区別は晃本人には判断できなかった。
炎上の燃料となるようなレスをいくつか投稿し、そのネタが尽きて晃の気も済んだ頃。傍らに置いていたスマホが震えながら机を這う。スマホを捕まえて画面を見ると、表情されているのは千明名義の椎哉のメール。
『情報拡散のご協力、ありがとうございます。つきましては残っている片原役員についての書き込みを、現在炎上している片原役員についてのスレッドと共に、可能な限り全て削除してください』
『なんでだよ? あんただって拓也に散々ボコられてただろ。病院のときはあんだけ意気込んでたのにビビってんのか?』
反逆者となった自分をあっさり見捨て、自宅の玄関も破壊し、果てには自分に本気の殺意を向けた。そんな元友人のクズを、コテンパンに打ちのめせる折角のチャンスだというのに。
すっかり気が大きくなったところに水を刺され、不貞腐れた晃は否定的な疑問符をつけて返信する。椎哉の回答は、それからやや長い時間を置いた後に届いた。
『協力していただいた調査の結果、本日未明に再投稿されたものを除く、片原役員についての書き込みが数時間以内に全て削除されていました。ネット上の掲示板やSNSは、ほぼ全て風花百合香のテリトリーだと言っても過言ではありません。
そんな場所で犯罪同然の行いをすれば、風花百合香側の人間に「処刑に値する正当な理由」を与えることになります。反論材料をたった一つでも向こうに渡してしまえば、狡猾な彼女たちはそれを最大限に利用し、あなたたちを徹底的に追い詰めることでしょう。
争いとは、先に手を出した方が悪となり、やり返せば両成敗となるものです。革命を成功させたいのなら、今は「処刑制度の被害者」でいることをお勧めします。「こんな人間は処刑されても仕方ない」と判断されないよう、清廉潔白な無実の犠牲者であるように努めるのです。
追伸:これは感情論になりますが、折角復讐を行うのなら、与えるダメージはより大きい方がいいと思います。複数回に分けて少しずつ追い詰めるより、一度で奈落に突き落とした方が受けるショックは強いですし、何よりその方が復讐の達成感も大きくなるのではありませんか?』
「…………はあ」
椎哉のメールが長文であるのは今更な話ではあるが、それを差し引いても今回のメールは長文だ。加えて自分の感情的な行いを否定するような内容と、文面だけからでもありありと伝わる復讐への執着心に、晃は胸焼けのような不快感を覚えたのであった。
(椎哉のメールの内容に従うかどうかは晃くんにおまかせします)
(放課後、文芸部にて)
白羽学園、文芸部室。ワープロソフトの入ったパソコンや資料となる本が並べられた部屋の中で。
月に一度の話し合いのために、部員全員が集まっていた。
普段通りなら進み具合を報告し、一年間の見通しをたて、次の締切を確認して終わりになるのだが、この日は違った。それは、部長である真帆の発言のせいだろう。
「さて、これにて終了!と言いたいところだけど、ちょっと時間もらうね。我らが文芸部の今後に関わる重大発表なのでしっかり聞くこと」
『文芸部の今後に関わる重大発表』。部員達には心当たりがあった。
二年女子がそれについて質問した。
「笹川先輩。今朝月乃宮先輩から聞きました。文芸部は廃部になってしまうのですか?」
彼女の発言を合図としたように、部員達は不安と疑問を口にする。
「せっかく仲良くやってたのに……。そんなの嫌」
「私も聞いたよ。でも理由は教えてくれなくて」
「結城先輩は、誰かがデマを流したからって言ってました」
「なんか、会長の判断らしいよ」
「そんな!」
「じゃあ、もう……」
その声は次第に収まっていき、部員の視線は真帆に集まっていく。
真帆は暗い表情のまま、口を開いた。
それは、この話の一部始終。
時間も無いし簡潔に話したいけど、それじゃあんまりだろうからきちんと話すね。
片原ってやつ知ってる?三年なんだけど。知らない人が多いだろうね。
デマを流したってのは本当だよ。そいつの悪評を流した犯人が文芸部の一年生だっていうんだ。
こんなのあたしは信じてないからね。文芸部の子達がするわけない。みんなも、信じないでよね。大切な仲間なんだから。
でもさ、それを理由に文芸部は廃部にされたわけ。
ああ、ここで終わりじゃないよ。
それで、会長と会計に直談判したのね。文芸部を存続させてくれって。やっぱり駄目だったけど。
だからあたしね、条件をつけたの。廃部の次に厳しくて、でもあたしたちなら大丈夫なやつ。
そうしたらなんとね、文芸部は存続させていいって!一安心!
暗い表情を一転させ、屈託のない笑顔でそう言った真帆。
しかし、部員達はその表情に嫌な予感しか抱けない。
「真帆、その条件ってなに?」
「え、簡単だよ?ただ―――」
「―――学園から文芸部に与えられる資金がゼロになるダケ♪」
部員達の思考が停止した。
(続きます)
(続きです)
「……は?」
「え、ちょ、本気ですか?」
「真帆、なんてことを……」
部員達はいっせいにまくしたて始める。真帆は手を打ち鳴らしてそれを無理矢理止めた。
「確かにね、大変なことだよ。それは分かる。でも、もう後戻りできない。書類は作成済みだよ」
「でもっ、ゼロにしなくてもいいじゃないですか!」
「そうよ。半分なら黙って受け入れるのに」
「廃部のかわりだよ。半分じゃあ認められない」
「……っ」
「これに異論がある人は退部していいよ。誰かいる?」
真帆はそう言ったものの、名乗り出る者はいなかった。
当たり前だろう。真帆がここまでして守ったのだし、何よりも、部員達は文芸部に誇りを持っていた。
「……いないのね。じゃあ最後に、あたしからのお願い」
「みんな、もう分かったよね。生徒会に逆らったら、周りにも迷惑がかかるんだよ。いまこの白羽学園には、革命とか言ってる反逆者がいるよね。間違ってもあんなことをしないように。そりゃあ、不平不満はあるだろうさ。でも、生徒会に反逆するのはやめて。それが、あたしからのお願い。―――じゃ、話し合いはここまで!お疲れ様!」
「お、お疲れ様でした?」
真帆はそう言うと、文芸部室を後にした。
残ったのは、混乱したままの部員達。ざわつく彼女らをまとめたのは、副部長の三年だった。
「えっと、解散しよっか!あとから詳しく話すね!」
部員達はそれぞれ帰宅の準備を始めた。その顔には不安の色がででいる。
「亜衣……」
小さな声で亜衣に呼びかけた恵里にいたっては、泣き出しそうになっている。真帆の『お願い』と自分の決断の板挟みになっているのだろう。
笑って励ましたいが、亜衣はそこまで器用な人ではなかった。
「笹川先輩が大丈夫って言ってるし、きっとそうなんだよ」
「でも、資金がゼロになっちゃうんだよ?」
「それは……頑張るしかないよ」
「あはは……。そう、だね」
恵里はなんとか笑みを浮かべるが、すぐに落ち込んだ表情に戻ってしまった。
「大丈夫……だよね?」
そんなつぶやきが、文芸部室全体から聞こえていた。
「ったく、百合香に反逆とか意味わかんないし。ま、処刑制度はおかしいけどね。でもさ―――」
廊下を歩きながら愚痴をこぼすのは真帆だった。
「―――百合香を守る人がどんな思いで守ってんのか知っちゃったら、反逆なんかしようと思わないよ。それぐらいの覚悟は見せてもらわないと、ね……」
スマートフォンを取り出し操作すると、戸塚彩美からのメッセージを見た。
『from:彩美さん
亜衣は反逆者に味方するらしいよ 気をつけてね(^ ^♪
オマケ情報 文芸部を守りたいなら美紀ちゃんに協力してもらうとイイよ
いくら百合香ちゃんの決定といっても、あの子は文芸部を捨てることは絶対にしないから』
今朝登校している時に届いたものだ。なぜこのことを知っているのかは定かではないが、とりあえず利用させてもらった。文芸部は守れたので、お礼のメールを送る。すると、すぐに返事がきた。
『to:彩美さん
謎の情報ありがとうございます 文芸部は無事です
美紀が文芸部を……ってことは、やっぱりアレですか?』
『from:彩美さん
ん、まあそんな感じ?ただ、文芸部以外だと百合香ちゃんが全てだからね
アレを考えると納得だけどさ
じゃあまたね(*^ ^)』
『to:彩美さん
はい
またなにかあったらよろしくお願いします』
「確かに、美紀はすごいなー」
そう呟き、スマートフォンをしまった。
(今回は場面を分けて書かせていただきます。長文となり読みにくいかもしれません…申し訳ございません)
「しっつれいしまーすっ!」
夕日の光が差し込む病室に、ピンク色のツインテールを揺らしながら立ち入る少女。白い部屋を優しい橙色の光が淡く彩り、その中に黒いシルエットを映し出す。両手で造花の(匂いが不快になるといけないから、と百合香が買わせたのだった)花束を抱えた彼女は、目先の患者に元気よく笑いかけた。
機械のコードと点滴のチューブに縛られ、刻刻と眠り続ける患者に。
「やっほー、お久しぶり。元気にしてた? ってしてるワケないか」
まるで子供の様な声は、無機質な電子音に重なって患者の、千明の耳をすり抜ける。彼女には何も聞こえていないのだ、それがたとえ愛する家族の嘆きであれ。ましてや小生意気な後輩の声などが彼女の思考を再び動かすはずもない。
「全く、かいちょーに逆らうとか……何なの? 馬鹿なの? 自分の平和を自分から壊しておいて自殺? 後処理大変だったんだからさぁ、どうせなら跡形もなく蒸発すれば良かったのに。ムカつくわぁ……あんまり迷惑かけないでくんない?」
それにも関わらず、璃々愛は横たわる少女に語り続ける。というより、少女を嘲笑い見下したという方が正しい。現に璃々愛の口元は可愛らしい顔に似つかない程歪んでいるのだった。
「ま、かいちょーがお見舞いしてあげてなんて言うから来てあげたけどー。感謝してよね、アタシにもかいちょーにも。かいちょーってばマジ優しいよねっ、神すぎ!」
花束を机に置くと、ちいさなメッセージカードがはらりと落ちた。落ちたカードを拾い上げて花束に添えると、璃々愛は改めて患者に向き合う。
「……かいちょーの言う事大人しく聞いてたら、助けてあげたのにさ」
ただ眠っているだけの様だった。ほんの少しうたた寝をしているだけで、数十分もすれば目を覚ましてしまうのではないだろうか。そして机の上の花束を見て……。
「私さ、千明ねぇって嫌いじゃなかったんだよ。意外と」
煌々と輝く夕日が、建物に沈んでいくのが見える。電灯がまだ灯らない病室が、徐々に暗く染まっていく。
「中学の時の千明ねぇ、ちょっと好きだったし。アンタはアタシなんて知らなかったんだろうけどさー、アタシは密かに憧れてたんだから」
千明の心拍に合わせて刻まれる電子音は、ごく無機質に、ごく機械的に響いていた。刻まれる音の一つ一つが、彼女の生きている証であった。
璃々愛は一度言葉を切った。いくらギャルと呼ばれる璃々愛であれ、彼女もまた進学校の生徒なのだ。自分の意思を明確に伝えられるほどの語彙力は持っている。
「あんな風になれたらなって思ってた。芯が強くってしっかりしてる、千明ねぇみたいになりたいとか考えてた。せめて人前で顔上げて話せるくらいになって、そしたら千明ねぇとちょっとでも話してみようとか。卒業する前に挨拶くらいはしてみようとか。できたら仲良くしてみようとか……結局卒業式の日にお祝い言っただけだったけど。面識ないアタシに笑って返してくれた辺り、親切なんだなって思ったよ。白羽学園に行くって聞いて、ついそっちに惹かれちゃった。頑張ってるんだろうなって期待してたのに、さ」
白から黒へと移り変わった病室で、その悪魔は妖しく微笑んだ。桃色の髪がふわりと揺れ、幼い瞳は哀れな一人の少女を映し出す。少女はただただ、眠り続ける。
「――こんな身の程知らずの偽善者だとは思わなかった」
璃々愛が立ち去った後の病室には、赤黒いクロユリの花束とカードが残された。白いカードの周りには、ご丁寧に黒い装飾がなされている。
『どうぞ安らかなお眠りを 白羽学園生徒会一同』
クロユリ 花言葉:呪い
「花井さんは、モンテ・クリスト伯をご存知かしら?」
放課後の生徒会室へ訪れた生徒に、百合香は問いかけ言葉を投げかけた。彼女の身体は本棚の方に、彼女の視線は完全に自分の手元の本へと向いている。
「モンテ・クリスト伯、またの名を巌窟王ことエドモン・ダンテスはね――元は優秀な船乗りだったの。美しい婚約者と結婚して、船長になるはずだった……のに、そんな彼を疎ましく思う人間によって、無実の罪を着せられてしまうのよ。彼はモンテ・クリスト島の監獄島に投獄され、14年間の月日と婚約者を奪われた」
パラパラと百合香はページを捲りながら語り出す。相手の生徒、花井愛夏……の、『もう一人の方』は、黙ってその話を聞いていた。
「彼は同じ塔に監禁された神父と話す内に、自分が嵌められた事を知る。ダンテスは復讐に燃え、本来なら生涯幽閉されていたであろう牢獄……シャトー・ディフから脱獄し、モンテ・クリスト島の財宝を手に入れてパリの社交界に現れたわ。自分に手を差し伸べた人間に恩返しをしながら、嵌められた経緯の調査を始めた。そして遂に、自分を陥れた人間達に九年間かけて復讐を成し遂げたの」
ざっくりとあらすじを説明すると、百合香は本を木製の本棚に戻した。
「私はこの話が大好きでね。数年前から何度読み返したことか……今の日本ではなかなかお目にかかれない、あの独特な文章スタイルはとても興味深く魅力的だったわ。そして」
愛夏の鞄ではスマートフォンのアプリがその音声を録音していた。今のところまだ核心に迫るような情報は得られていない様だが。
「彼の復讐の在り方に、私は強く惹かれたのよ」
愛夏の眼が見開く。
振り向いた百合香は、相変わらずの笑みを浮かべている。
「ダンテスは復讐鬼となりながらも愛を忘れることはなかった。恩も仇も全てきっちりと返して、最後には娘の様に可愛がっていた元貴族の奴隷のエデと結ばれた。これこそ正に理想の復讐というものだと思ったの。年月を犠牲にし緻密な計画を立てて、それでも人間の心は捨てきれない。なんて素晴らしいと思わない?」
「つまりさ、生徒会長……あんたは復讐鬼になりたいわけ?」
愛夏がそこで口を挟む。
「あら、そうじゃないわ。ただね……私に刃向かう人間の半数が自分は『復讐をしている』のだ、と訴えかけたのよ。笑っちゃうわ……そんな薄っぺらい行為で復讐の名を穢してもらってはたまらない。彼らは復讐の言葉だけを借りて感情任せに行動しているだけだもの。現に板橋さんも松葉君も、ただ感情に縛られているとしか言えないじゃない。あの二人は何が目的だか知らないけど……そういう人達が復讐だと叫ぶのを見てると、どうしても滑稽に見えてしまうのよ」
「ふーん……で、結局何が目的なのさ?」
席についた百合香は、両肘を机に付けて手を組み微笑んだ。
「ふふ、教えると思って?」
生徒会長と多重人格女子の片面が、かの有名な復讐者について語らっている頃。校長室へ至る廊下を、美紀はため息をつきながら歩いていた。文芸部の部費に関わる書類に、校長からの判を押してもらうためである。百合香が学園一の権力者であるとはいえ、それでも彼女は一介の生徒。校則や校費など、学園の根底に関わる決定事項は、今でも校長の許可をもらう必要があるのだ。
「手続き上必要なこととはいえ……。はあ、やっぱり煩わしいわね」
自分にも降りかかりかねない処刑を恐れ、今や百合香の言いなりになっている校長だ。どうせ二つ返事で判を押すのだから、わざわざこちらから出向いて許可をもらいに行く必要性を感じられない。いっそ校長が持つ権限も百合香のものになれば、このような面倒な手続きは発生しないだろうに。そもそも百合香はこの学園で既に絶対的な存在なのだから、近い将来にでも是非そうなるべきだ。
そんな現実味を帯びた美紀の仮定的空想は、ガラッという窓の開閉音と共に立ち込めた刺激臭によって中断されたのであった。
「おおう、びっくりしたわー! 美紀ちゃんか!」
「倉敷さん……。また換気しないで油絵描いてたの? 酷いわよ、絵具のにおい」
「ホンマか? 堪忍なあ、集中してまうとついつい忘れてまうねん」
廊下に面する美術室の窓から身を乗り出してきたのは、三年C組に籍を置く美術部員「倉敷良」。暇さえあれば、あるいは暇がなくとも美術室に籠り、感性の赴くまま筆を走らせ続けるという根っからの芸術家だ。彼の才能はプロも目を見張るほどのもので、実際に彼の作品はあらゆる絵画コンクールで高い評価を得ている。尤も、学力第一の進学校で芸術的功績が評価される機会はあまりないのだが。
シンナーのような悪臭に顔をしかめる美紀をよそに、良は廊下側の新鮮な空気を肺いっぱいに溜めた。その動作の途中、美紀が腕に抱える書類に彼の目が留まる。
「何や? そのシンプルイズ重要そうな紙」
「文芸部の部費についての書類よ。学園の評判を貶めるデマを流した責任として、活動資金を取り上げたの」
「うっわあ、えげつないことするなあ。でもそのデマって確か、二年坊が会長をストーキングしたって話やろ? 百合香ちゃんの決定にしては温(ぬる)ない?」
「勿論、最初は強制廃部にする予定だったわ。でも部長の懇願と会長の慈悲のおかげで、部費なしという条件で存続を認めることにしたの。部費を取り上げれば、その分の金額を他に有効利用できるメリットもあるしね」
「そうかいな? 字並べて部誌作るだけの文化部にかかる資金なんぞ、ぶっちゃけ高が知れとるけどなあ。その程度の金をケチケチするくらいやったら、潔く強制廃部にしたった方が処刑制度的にも良かったと思うで?」
「簡単そうに言わないで。こっちにも事情があるのよ」
(続く)
(続き)
文芸部の強制廃部が最も理想的な処分であることは、美紀にもよく分かっていた。しかし生徒会の一因ではなく個人として、幼馴染の百合香にも打ち明けていない妥協の理由が彼女にはあったのである。そんな複雑な心境も露知らず、理想論を口だけで言ってのける良を美紀は睨みつけた。容赦ない彼女のきつい目線に良は僅かにおののくも、確かにそれは仕方ないという風に肩を竦めてみせる。
「まあ、部費ゼロが最善手っちゅうんなら、是非ともその方向で頑張ってほしいわ。俺がこうして作品作れんのも、一重に百合香ちゃんのおかげみたいなもんやし!」
「会長を応援してくれるのは構わないけど、絵ばかり描いてないで少しは自分の心配もしたら?」
「俺、実は『一日十枚は絵描かんと画力とセンスが衰える病』を患っとってな……」
「話はそれだけ? じゃあ私、これから校長室に行かなきゃいけないから」
「あー待って! ごめんて! もうちょいだけ聞いて!」
つまらない良のジョークをばっさり切り捨て、美紀はその場を後にしようとする。無慈悲にもその場に置き去りにされそうになった良は、慌てて彼女を引き留めた。彼の無様な呼びかけに、あからさまにうんざりしたような顔を向けながら、それでも美紀は立ち止まった。
「百合香ちゃんに伝えてくれへん? 『俺の絵のモデルになってくれんか』って! 構図ラフができ次第になるから、実際に見て描かせてもらうんがいつになるかは分からんけどな」
「伝えるだけなら別に構わないわ。でも、どうして会長の絵を?」
「さっきも言うたけど、百合香ちゃんのおかげで俺は絵が描けるねんて。せやから、そのお礼みたいなもんとしてな? それに……」
――女王なら、肖像画の一つくらい描いてもらうんが嗜みやろ?
そう言って良は、垂れ目の目尻をさらに下げてにっと笑う。彼の笑顔は、女王の繁栄を願う者のそれであった。
(>>132のその後)
「失礼します、学校長」
そう言って、校長室の扉を閉める。その思考は様々な愚痴のオンパレード。
……ほんと笑えるわ、なんなの、あの校長の表情。表面上とはいえ大切な生徒っだっていうのに。しかも、この書類。まとめにくいったらありゃしない。普通箇条書きなんてないでしょ。今度百合香に頼んで改訂してもらおうかしら。
文芸部は廃部、と百合香に聞いた時。危うく百合香に反論しそうになった。
いくら百合香の決定とはいえ、文芸部だけは譲れない。真帆の奇想天外な提案は、美紀にとって渡りに船だった。
『美紀、あなたはどうして会計になったんだっけ?』
真帆の質問が蘇る。
『ねえねえ、美紀ってさあ、どうして会計になったの?百合香の傍にいたいなら副会長の方が良くない?』
これは、美紀が会計になった直後に言われたことだった。
「私が会計になった理由、ね……」
人通りのない廊下で一人、つぶやいた。
「そういうことが得意なのもあったけど、それよりも……会計になれば学園の資金はほぼ私―――ひいては百合香のものになるから、かな……」
美紀が文芸部を守りたいと思っていることは誰も知らない。
幼馴染の百合香でさえも。
幼馴染。
たしかに美紀と百合香は、まだ言葉を知らない頃から知り合いではあった。でも友人ではなかった。百合香は風花家の令嬢で、美紀は―――。
(中途半端でごめんなさい!本日の美紀はこれでしゅうりょーです)
(ハンドルネームまちがえましたああああ)
135:文月かおり:2017/04/15(土) 23:08 (同時刻)
「っあー、詰んだ詰んだ、今日は無理」
握りしめていたシャープペンシルを机に投げ出す。
文字のないノートに一本の黒線が書かれる。そのままシャープペンシルは勢いよく床に落ちた。
それを気にも留めず、ある写真を見つめるのは戸塚彩美。
「……樹の、バカ野郎。なんで置き去りにしちゃうの。」
樹、と呼ばれたその写真の人物。
今はもういない、大切な人。
「駄目だ。あんたの顔見ると泣きそうになる」
目を覆ったけど、それでも涙は一筋頬をつたう。いささか乱暴にそれを拭い、椅子に座りなおした。
その顔は、いいことを思いついたという笑顔。
落ちたシャープペンシルは無視して、別のものを取り出す。無造作に持ったそれは、白い花の絵があるペン。
彩美は顔をゆがめた。
「しつこいって、もうやめてよ……」
『誕生日、いつなの?』
『10月12日。前も言ったよ』
『あれ、そうだっけ。ごめん』
『あやまんのテキトーすぎ。許すけど』
なんでもないように思えた会話。今になってみればその意味が分かった。
「10月12日は、ガーベラの日。2月15日はスイートピーの日。9月28日は……」
知らないうちに、花に詳しくなっていたのだろうか。そういえば、一ヶ月ほど前に書き上げた小説にもそんなことがあったかもしれない。
「……あーあ、こうなったらもうやけくそね。あんたとあたしたちを題材にしてやる。勿論、感動の再会はナシね。あたしの物語は現実的なんだから」
シャープペンシルの線がついたままのノートに、ネタを書き込んでいく。
樹と、彩美と、真帆と、美紀と、百合香。
当事者も知らない、もう一つの物語。
刊行されたら驚くだろうなあ、と。
思い浮かべたのは誰なのか。
「ったく………しゃーね。」
晃は、早速掲示板の書き込みを消し始めた。
自身へのセーブか。それとも正気になったのか。
「拓也………俺ってなんで空いたと友達になったんだろ………」
友達。そのワードに、晃は、ハッ、と気づいた。
一年間忘れていた友達。
「アイツ今でも元気かな………よし、駄目元だけど…」
晃は早速MINEを操作し、ある友達を、公園に呼び出した。
「何のようですか、松葉 晃」
一葉 法正。左手に赤い布を巻いている男。
「本当にすまねえ!俺が………ちゃんと拓也を止めていたら!」
晃は頭を下げた。
その行動に法正は驚いたが。
「貴方は風花に復讐をするんですか」
法正の問い。晃は。
「あったり前だ!」
法正は。
「そうか………なら、貴方に協力しますよ」
学園復活派。一葉 法正の誕生。
>>130の続き
「じゃあ…会長にとって『復讐』は長い年月をかけて、大規模……ってこと?だから、二人のしていることは『復讐』ではない、ってこと?」
「そうですね」
「会長、どうやって処刑制度を作ったの?」
〔ごめんなさい。一回保留します〕
(>>123の直後、>>124と同時期くらいの話です)
「白野さん、戸塚さん! お二人とも大丈夫ですか!?」
「はい、大丈夫です。ええと……アデラ先輩、でしたっけ」
デマの真偽とその出所は曖昧にしたまま、百合香が璃々愛を連れて消えた後。未だに緊張冷めやらぬ恵里と亜衣の元に駆け寄ってきたのは、黒や茶ばかりの人混みでは一層目立つ天然の金。英国からの留学生アデラ・ヴァレンタインの名は、別学年の生徒の間でも有名だった。
アデラは二人の体や顔色を観察し、怪我や精神的ダメージが見受けられないことを確認すると、ほっと安堵の息をつく。それから未だに騒々しい周囲を見渡してから、パンパンと手を叩いた。恵里と亜衣に侮蔑的な目線を向けていた生徒たちの注目がアデラに移る。
「皆さん。学園が貶められるような情報が流れてお怒りなのは分かります。しかし感情に任せて、何の根拠もなしにお二人を責めるのはおやめください」
「で、でもアデラちゃん! 確かに文芸部の一年がデマを流したって、生徒会が……」
「生徒会の証言なら全て鵜呑みにすると? いくら信頼しているからといって、彼女たち名義の情報が常に正しいと判断するのは軽薄ですよ!」
「はあ? お前、会長が嘘ついてるっていうのか!?」
「そのような色眼鏡がいけないと言うんです。風花先輩が嘘つきかどうかは今の論点ではありません」
飽くまで問題は生徒たちの先入観であり、百合香を悪者に仕立て上げる意図はない。アデラが置いた前提は、しかし無意識下で百合香を妄信している生徒たちにはぬかに釘であった。彼女がいばら率いる風紀委員会の一員であるため炎上こそしないものの、彼らとアデラの間に剣呑な空気が漂い始める。そんな一触即発な二者の間に、挟まれる口があった。
「残念ですね、ヴァレンタインさん。僕たちがあなたの信頼に値しない存在だったとは」
「安部野先輩まで何を言っているんですか? 問題はそこではないと言っているでしょう。それにあなた……」
「ええ、存じております。全面的な信用を置いていただけないのは生徒会として非常に遺憾ですが、それはそれ。他者からの情報を頭から信じ切ることの是非については、僕も同意しましょう」
生徒会である椎哉が口にしたのは、不敬に対する叱責ではなく、意見の限定的な賛同。アデラの言動を反逆だと定義するものとばかり思っていた生徒たちは、彼の予想外な対応に思わず耳を疑った。一斉にどよめく生徒たちを一瞥し、椎哉は言葉を続ける。
「進学校の生徒である以上、皆さんは利発な方々であるはずです。それなら得た情報の信憑性を自分の力で調べ直すことなど、造作もないでしょう。まさか事実確認なんて初歩的なことを怠るなど、白羽学園生として恥ずかしい真似はいたしませんよね?」
学園の名前を引き合いに出され、生徒たちの大多数が言葉を詰まらせた。自分たちに反抗的なアデラの言い分を支持したのは気に喰わない。しかしここで彼に反論すれば、自分が事実確認もできない愚者だと主張することになる。そうなれば白羽学園に、延いてはその生徒会長である百合香に恥をかかせかねない存在だと、他の生徒に見なされてしまうだろう。
剣呑な様相が鳴りを潜め、気まずい静寂がその場に満ちる。やがて椎哉の論破は不可能だと断念した生徒たちは、一人また一人と人混みから離れていった。悪意に満ちた視線から解放され、恵里と亜衣はようやく緊張を解く。だが一方アデラは椎哉に、傍からでも分かるほどの疑いの目を向けていた。
「安部野先輩。あなたは一体何がしたかったんですか」
「何が、といいますと?」
「風花先輩と文芸部一年のみなさん、どちらを支持するつもりだったのかということですよ。風花先輩の味方であれば、そんな怪我だらけの顔で結城さんを止めなければ良かった。文芸部の味方であれば、その怪我が片原さんによるものだと説明すればよかった。なのにあなたはそのどちらも行わず、曖昧な物言いでその場しのぎをしているようにしか見えませんでした」
(続く)
(続き)
アデラの正義感は、学園内でも話題になることがあるほど強い。そんな彼女にとって椎哉の付和雷同さは、百合香の独裁政治と同等に許容できないものだった。どちらの味方とも明言しない彼の態度が、アデラの目には不愉快に映ったのである。対して当の椎哉は、相変わらず感情が見えない笑顔をアデラに向けるだけ。そんな彼を問いただそうとしたアデラを、恵里が慌てて止めた。
「待ってくださいアデラ先輩! 安部野先輩を責めないでください!」
「ですが、白野さん……!」
「だ、大丈夫ですよ。本当だったらあのまま結城先輩に丸め込まれて、そのまま反逆者にされてたかもしれないのに、それを少しでも庇ってくれただけで十分助かりましたから……」
椎哉の事情を把握している恵里は、どもりながらも必死に弁解を紡ぐ。学園では会長派を名乗っているとはいえ、彼も自分たちと同じ復活派(一切の犠牲を厭わないという相違こそあるが)なのだ。アデラは知り得ていないとはいえ同じ派閥同士が争うのは無意味であるし、彼女によって学園における椎哉の心証が悪くなってしまえば、自分たちも不利な状況に陥ってしまうだろう。
あまりにも必死な恵里の弁解に、このまま椎哉を問い詰めるべきかアデラが躊躇ったとき、見計らったように朝礼の予鈴が校舎に響き渡った。
「おや、もうこんな時間ですか。それではこの話は、また別の機会ということで」
アデラと恵里、亜衣に一礼し、椎哉は踵を返してその場を後にする。恵里と亜衣は同じく一礼して彼の背中を見送るが、アデラはやはり最後まで懐疑心を外すことはなかった。
「……全く。彼は本当に困ったコウモリ男ですね」
◆ ◆ ◆
「コウモリ男……。留学生とは思えない語彙だね」
去り際にアデラが呟いた独り言は、椎哉の耳にしかと届いていた。学園では会長派を名乗っているとはいえ、ただ生徒会に従属しているだけでは意味がない。真の会長派の目を盗みつつ、自分や他の復活派の人間が少しでも有利になるよう、密やかに行動する必要があるのだ。そのような言動の境界を何も知らない者が見れば、彼が軽佻浮薄な人物に映るのは当然のことだろう。だが椎哉はその批判的な比喩表現に憤ることはなく、むしろ自分に似合いの言葉だと感嘆した。
「まあ、万が一彼女一人が騒いだとしても、大多数の人たちは僕を信用してくれているからね。だから心配はいらないよ、姉さん」
とうに日も暮れた真っ暗な病室の中。街灯の明かりが窓から差し込み、真っ白な千明の腕を照らし出す。椎哉はその手を取ると、おもむろに自分の頬へ触れされた。死体のように一切の力が込められない彼女の手は、それでも辛うじて体温を滲ませている。この温もりが椎哉にとって、千明を生者たらしめている唯一の証だった。もし、この温度が失われることがあれば――。
「あら、しいちゃん! こんな真っ暗な中でなにやってるの?」
「!」
陽気な中年女性の声とともに、病室が真っ白な明かりで照らされる。慌てて顔から手を離し扉のほうに振り返ると、そこにいたのはふくよかな看護師だった。突然の第三者の介入に、彼にしては珍しく驚いた様子を見せるが、看護師は彼の挙動を訝しむことはせず、代わりにサイドテーブルに置かれた黒い花束を見て顔を顰めた。
(続く)
(続き)
「やだこれ、黒百合じゃないの。冗談でもお見舞いに持ってくるような花じゃないわよ」
「すみません。一緒に贈られていたメッセージカードによると、どうやら僕と同じ学園の生徒が持ってきたもののようですね」
「ああ、そういえばうちの同僚が言ってたわね。白羽の制服を着た派手なピンク髪の子が、真っ黒な花を持って歩いてたって。まさかとは思うけど、その子が?」
「なるほど。そんな派手な色の人を見間違えるとは思いませんし、おそらく彼女が届けてきたもので間違いないでしょう」
「いやあねえ。いくら進学校の生徒でも、こういう一般常識を弁えてないのは最近の都会っ子って感じだわ」
「あまり酷い物言いはいけませんよ。その女子生徒が偶然、花に対しての知識がなかっただけかも知れません」
この看護師は、良くも悪くも正直な性分なのだろう。椎哉が嗜めるのも構わずに、彼女は花束の贈り主への嫌悪感を隠そうともしなかった。もしここが白羽学園の真ん中であれば、会長派の生徒たちによって容赦ない処刑が下されていたかもしれない。そんな白羽の暗黒面を知ってか知らずか、看護師は花束を手に取ると自分の小脇に抱える。
「どちらにせよこんなものが置いてあるなんて縁起が悪いし、私が片付けておいてあげるわよ。もしピンクの子がまた来たら、あたしが適当言っておいてあげるから」
「……ありがとうございます。実は僕も心苦しかったので、助かります」
心苦しいのは、贈り主の好意を無碍にすることか。それとも姉の病室に悪意の花を放置することか。椎哉は明言しなかったが、彼の意思を汲み取った看護師は、自分に任せろと言いたげな笑みを見せる。
「さーて。面会時間もそろそろ終わりだから、さっさと帰ってご飯食べて寝なさい。明日も学校でしょう?」
「ふふ、まるで母親みたいな物言いですね。それでは、千明をよろしくお願いします」
「やっだあ、どうせまたすぐに来るくせに何言ってんのよ!」
堅苦しい椎哉の挨拶を、うるさいくらいの声量で笑い飛ばす看護師。彼女の言葉に彼は苦笑じみた表情を浮かべるも、二人の様子は中睦まじい親子のようであった。
(今回出てきた看護師には少々伏線を仕掛けているので、登場させることがあればABNに一声かけていただけると助かります)
翌朝。8時に始まる朝学習の10分前の昇降口には、生徒達がわらわらと集まっていた。
この時間帯だと、A組の生徒達は既に席に着いて授業の予習や先日の復習に励んでいる。しかしC組やD組の生徒達は、彼等の様にそこまで厳しいスケジュールを送っていない者が大半だ。
恵里と亜衣もまた、例外ではなかった。彼女達も他の生徒と同じ様に、会話に花を咲かせながらのんびりと靴を履き替えている。
「おはようございます、白野さんに戸塚さん」
不意に後ろから声をかけられ、雑談に興じていた二人は思わず肩を跳ね上げた。慌てて上履きにしっかりと足を入れると、顔を上げて声の主を見返す。
「あっ……ば……ヴァレンタイン先輩?」
「アデラで構いませんよ、皆そう呼びますから」
そう言って、二人の前でアデラは微笑んだ。
「昨日はごめんなさい、余計なことをしてしまったみたいで……大丈夫でしたか、お二人共?」
「いえ、気にしないでください! 先輩が庇ってくださったおかげで、あたしも恵里も処刑されずに済んだんですし……」
昨日のあの一騒動の後、アデラは周囲をもう一度説得し直しなんとかその場を収めたのだった。勿論不満気な生徒達も少なからずいたのだが、風紀委員長が例の月乃宮いばらだという事もあり、彼等は渋々身を引いたのだ。
「そうですか……なら良かった」
「そ、それより先輩……確か、B組でしたよね? 朝の学習は……」
「ああ、それなら。私は生憎夜型でして、朝はどうしても早起きできず……夜に必要な勉強は全て済ましてしまうのです、暗記には夜の方が向くと言いますし」
彼女の言葉の流暢さは、やはりとても英国人とは思えない程のものだった。口を開けばすらすらと言葉が流れていくその様は、アナウンサーでも志望しているのかと思わせてしまう。
「そうだったんですか! ご立派ですね、ちゃんと夜に」
「ちょっと失礼」
亜衣の言葉を、一人の男子生徒の声が遮った。聞き覚えのない静かな声に、三人は振り返る。
ひょろっとした痩せ型の男子生徒が、こちらを見据えて微かに微笑んでいた。日に焼けていない肌とその体型が、いかにも病弱という雰囲気を醸し出す。その顔を見るなり、アデラは青い目を大きく見開いた。
「ぶ、部長……!? あの、お身体は……」
「もうすっかり大丈夫だよ。華道部の方はどう? 昨年から皆に任せっきりだったけれど」
「はい、お陰様で……」
部長と呼ばれたその生徒は、一年生の恵里と亜衣にとっては見覚えのない人物だった。だが周りを見廻すと、辺りがやけにざわついている。恐らく彼は上の学年の間では有名人なのだろう。
「なら良かった。ところで、安部野君はいるかな」
「私は今日は見ていませんが……何かご用事が?」
「いや」
そこまで言うと生徒は一旦顔を背け、コホコホと咳をする。弱々しい咳がますます彼の病弱な雰囲気を強めた。ある程度呼吸を落ち着けてから、再びアデラに向き直った。そして若干声を潜めて言う。
「怪我したって百合香から聞いたから。ちょっと心配でさ」
「あの、アデラ先輩……あの方は?」
生徒が去った後に、恵里はアデラに問う。
「……彼は私の部の先輩なんです。元々お身体が弱かったのですが、昨年の2月に体調を崩してしまって……しばらく休学されていたのですよ。彼こそが華道部の部長、北条智さんです」
「へえ、華道部の……その、北条先輩は生徒会長とお知り合いなんですか?」
「百合香」という単語に反応した亜衣が、アデラに問いかける。
アデラは少し困った様な表情を浮かべた。しばらく頬に片手を当てた後、微かに溜息を吐いて話し出す。
「そうでした……一年生のお二人は彼を知らないんでしたね。彼はこの学園の……生徒会長に恋心を燃やす、副生徒会長なんです」
アデラの発言に、同時に「えっ!?」と声を出す二人。
入学当初から密かに語られていた謎の副生徒会長の存在。その正体は、つい先程まで自分達の目の前にいた男子生徒だったのだ。
まさか、彼が噂の副生徒会長だったとは――。
アデラはやはり重苦しそうな表情をしていた。それに気付いた二人は最初こそ頭に疑問符を浮かべていたものの、徐々にその理由を察し始める。
副生徒会長、ましてや会長に恋する人物。となれば、自分達に協力するという事はまず有り得ないだろう。百合香と連絡も取り合っていれば、当然反逆者の事も知っている筈だ。彼が復活派の敵となる未来は、とても避けられそうにもない。
「……生徒会の中でも、彼はかなり穏和な人物です。直接処刑に加わることもほとんど無いようですし……ただ、協力はしてもらえないでしょうね。彼はいつも言っていますから……『百合香の為なら何だってするよ』、と」
SHRの始まりを告げるチャイムが鳴る。
だが三人は、しばらくその場を離れはしなかった。
(>>142の朝から)
『はーい、彩美さんどうされましたー?原稿なら受け取りましたよー』
「ふみちゃんオハヨー。いや、次の打ち合わせしたいなぁと」
『……えええ、早くないですか⁉もう⁉』
「アハハ。今日できる?」
『今日は……あ、大丈夫です。10時から第二会議室でお願いしますー』
「りょーかい、じゃあバイバイ」
『失礼しまーす』
「さて、準備するとしよう」
自室で一人呟いたのは彩美だった。
打ち合わせは10時からなのでまだ時間はあるが、もう少し構想を練っておきたかった。なんの構想かというと、勿論次の小説について。
樹という人物に関する実話を基に書こうと決めたのが数日前。当事者であったおかげでネタはすぐにまとまってしまった。
そういうわけで出版社の担当さんに連絡した訳だが……。
「……さすがにアレをそのまま書くわけにはいかないなー」
問題が一つあるのだ。
あれこれ自問自答しながら時間を浪費していると、いつの間にか家を出る時間。
担当さんにも聞いてみようと思い、とりあえず出かけることにした。
「物語にはハッピーエンドを入れるべきか、ですかー……」
「そーなのよ。ふみちゃんどう思う?」
「えええ、私ですかー?」
ここはとある出版社の三階。第二会議室という立派な名前こそあるものの、収容人数は多くて6人の小さな部屋だった。
そこにいるのは彩美と、ふわふわの茶髪とパステルカラーの服を着た女性。文香という名の彼女は、愛らしい見た目や緩く伸びる口調とは裏腹に、手際の良い仕事ぶりで評判だ。……どうやら彼女が担当した作家は締切を破れなくなるらしい。
「んー……今の段階ではちょっと分からないですねー。ストーリーやジャンルによります」
「そっかー、ちなみにどんな感じ?」
「……恋愛小説なら十中八九必要です。青春小説はある程度あった方がいいですねー。推理小説は解決がハッピーエンドだから置いといてー。えっと、ホラーはどちらでもアリじゃないでしょうかー?」
彩美は腕を組んで頷いた。そのまま自分の世界に入り込んでいく―――
(あー、彩美さん思考中?集中力すごいからしばらく待つかー)
文香は彩美を見てそう考えた。こんな時は他に手段がないのだ。
手元にあるのはあらすじと登場人物のリスト。
(男の子と父、母、妹、その友達と……女の人?あ、成長した男の子のカノジョ!ま、まさかの恋愛系ですかあ、彩美さん⁉文香さんは聞いてませんよー‼あらすじ読まないとー!)
慌てて紙をめくると、ライトグリーンのメモが挟まっていた。
一応これ、実体験なんでよろしくねー♪ 彩美
(な、なななんですとー⁉彩美さんの実体験‼超レアですー!)
文香は物凄い勢いであらすじを頭に入れていくのだった。
晃が法正と仲を取り戻してから翌日。
晃は、白羽学園のB組の前の廊下に呼ばれた。
そのために、朝時間から晃はB組前の廊下に法正と対面する。
「で・・・法正、用ってなんだ」
晃の一言に、法正は。
「別に・・・貴方にとってはどうでもいいかもしれませんがね・・・ただ、俺的には伝えたいから伝えるだけです」
「なんだよ?」
「実は俺と貴方・・・種違いの子ですよ」
・・・。
晃は一瞬固まった。
顔も違う、似ているところなど何もない。
しかし、一つだけ共通していた。
法正はやられたらやりかえす。
もちろん、晃もその精神を持っている。
つまり。
”負けず嫌い”
が一致していたのだ。
母親が同じというところが、負けず嫌いが同じで、昔は親近感の沸くような性格だったのだ。
「おいおいおいおい・・・・どういうことだよ!?」
「俺の父親は姓が一葉です。貴方の姓は松葉。しかしですね、母の旧姓は俺も貴方も、全て一致しています。名前に誕生日、身長に体重も。全て一致しています」
法正の一言に、晃は目がくらんでいた。
「おいおい、そりゃあないだろ・・・?」
「まぁ、なんにせよ、義理の兄弟です。だから、仲良くやっていきましょう―」
法正の一言に、晃は。
「ったく・・・友人どころか、それ以上じゃねーかよ・・・」
と言いながら、E組の教室へ向った。
―その影では。
「見つけたぁ・・・反逆者の弱点。」
そう呟きながら、スマートフォンの録音アプリを閉じる、一人の駒。
ピンク色の悪魔―。
>>137の続き
「ふふ、教えるわけないでしょう?
「…あっそう」
「他の人には言ッたノ?」
「いえ、言ってませんよ」
「フ〜ん、ジゃあモウいいヤ」
そう言って、出ていった。しなしなになったオダマキを置いて…。
≪花言葉≫
オダマキ 愚か
看護師という職業は多忙である。必要とされる知識や経験は膨大で、人命を預かる仕事である以上一切のミスは許されない。加えて緊急の呼び出しや患者の都合に振り回されることもしばしばあり、規則的な生活リズムを保つことさえ難しい。そんな看護師たちにとって、休憩時間というのは非常に貴重な憩いの時だ。
廊下からは見えづらいナースステーションの死角。備え付けのエスプレッソマシンで作られたコーヒーを啜りながら、中年看護師は全体重を椅子に預けてくつろいでいた。一端の女性としては流石にだらしない姿勢の彼女に、苦笑を浮かべながらすみれは声をかける。
「お疲れ様です、島江(しまえ)さん」
「あら月乃宮さん、お疲れ様。悪いんだけど、ちょっと聞くだけ聞いてくれる?」
「はい、なんでしょう?」
すみれの姿を認めるなり、空いている近くの椅子を引き寄せて手招きをする。島江に勧められた通り、彼女はその椅子にそっと腰かけた。
島江がこういう言い方をするときの話題は、決まって仕事や対人関係の愚痴だ。その話の内容自体に益はないが、心の中に溜まった鬱憤を他者に発散し同意してもらう行為は良いストレス発散になる。医療知識の一環としてそれを理解しているすみれは、二つ返事で島江の愚痴に付き合うことにしたのだ。
「月乃宮さんも知ってるでしょう? 意識不明の天本千明って子。あの子にお見舞いの花を持ってきた子がいたんだけど、その花がよりによってクロユリだったのよ!」
「そうなんですか。クロユリを持ってきた子の話は聞いていましたが、天本さん宛てだったんですね」
「酷いと思わない? 花の知識に疎い人でも、普通患者に黒い花を贈ろうだなんて思わないわ! しかもその子、白羽学園の生徒だっていうじゃない。それほど賢い頭の持ち主ならなおさら分かることだろうし、あのクロユリは絶対に確信犯よ!」
「白羽の生徒さんが? まさか、あんな立派な学園の子が……」
「学校の名前なんて関係ないわよ。あの年頃の子供って言うのは大体、何の力もないくせに自尊心だけは一丁前で、それなのに他者を敬うってことをしない。だからあんな不吉な贈り物だって、平気な顔で届けられたんでしょうね。そういう生意気で非情な生き物なのよ、あいつらは!」
「は、はあ……」
(続く)
(続き)
表情はにこやかな笑顔を保ちつつ、すみれは内心で「またか」と密かに溜め息を吐いた。
島江の子供嫌いの話はこれが初回ではない。というのも、彼女はどういうわけか子供、特に十代の少年少女を理不尽に嫌悪しているのだ。島江自身は常に朗らかで精神的にも丈夫という中々の人格者であるだけに、その致命的な一点だけを周囲は非常に残念がっていた。尤も職務上、患者たちの前で若者嫌いをひけらかすことはしていないため、仕事を妨げるような問題にはなっていないのだが。
けれども自分には、丁度十代の妹がいる。本人にその意図はないだろうが、大切な家族の一員を「あの年頃の子供」というカテゴリで一括りにして非難されるというのは、とても気持ちのいいものではない。島江の愚痴を否定するわけではないが、せめて妹の人柄だけは弁解したい。そう思って反論を紡ぎかけたすみれの言葉を、しかし島江は食い気味に阻止した。
「それに今は私が片付けちゃったけど、花にはメッセージカードがついてたの。その内容がね……」
「……えっ?」
――どうぞ安らかなお眠りを。白羽学園生徒会一同。
声量を絞った声で伝えられた言葉に、すみれは耳を疑った。喪中のような白黒デザインのカードに書かれていたという文章は、明らかに白羽学園の生徒会が千明の死を期待、祝福しているような内容。それが重体患者に相応しくない色の花に添えられていたとなれば、贈り主の悪意を疑う余地などない。
だがすみれは、その意図を理解はしても納得はできなかった。名門進学校と名高い、しかも自分の妹が通っている学園の生徒会が、いじめにも等しい所業を行っているという事実を彼女は飲み込めなかったのである。半ば呆然とするすみれに構わず、島江は思い出したように話題を続ける。
「そういえば月乃宮さん、あなたの妹さんも白羽学園の生徒だったわよね?」
「は、はい」
「生徒会が直々にあんな嫌がらせみたいな真似をしてるんだったら、その学園の風紀も高が知れてるはずだわ。そこんところどうなの? 学園について、妹さん何か言ってたりしない?」
「え……ええと……」
あの白羽学園が、実は生徒会ぐるみのいじめを黙認している問題校かもしれない。衝撃の推論で混乱冷めやらぬ頭を抱えながら、すみれは島江の回答に対する言葉を必死に模索するのだった。
燃えている
わたしのいえ
燃えていく
わたしのかぞく
燃えて、燃えて、燃えつづける
おねがい
わたしをおいていかないで……
行かないで
逝かないでよ
なんでいっちゃうの……
今からもう、ずっとずっと前。
私の両親は燃えきって、灰と煙と、焦げた骨になりました。
その時はまだ、私は独りじゃなかった。
兄がいた。私にとって唯一の、最後の家族。
花に詳しくて、勉強はできるけど運動はダメで。
いつも、何があっても笑ってて、とても優しくて。
あのヒトが大好きで、話しているとすごく嬉しそうで。
そんな兄も、死にました。
これで私は、独りです。
なんででしょう。
何か、悪いことをしてしまったのでしょうか。
なら、悪いのは誰ですか。
お母さんですか。 いいえ、お母さんはとてもいい人でした。わたしの憧れる、強い人でした。
お父さんですか。 いいえ、お父さんはとてもいい人でした。わたしの頼れる、大きな背中でした。
ならどうして、吹けば舞い散る燃えかすになってしまったのでしょう。
教えてくれますか。
わたしの大好きなお兄ちゃん。
すると、兄は言いました。
きっと、あっちで元気にしてるよ。
違います。わたしが求めるのは、お母さんとお父さんが死んでしまった理由です。
なのに、兄は答えてくれませんでした。
そうですか。ならいいです。
悪いのは、わたしなんだ。
そういうことにしておきましょう。
誰にも言わず、ひっそりと。
私は独り、決めました。
そして、兄は死にました。
『ブルースターの日に死んだお兄ちゃん。』序章より
「……実体験を他者目線で、か。うん、いいかもしれない」
戸塚彩美、執筆開始。
7月下旬、刊行予定。
「私は、特に……いばらも、学園のことはとても楽しそうに話してくれますし」
「楽しそうに?」
「え、ええ……風紀委員長として頑張ってるみたいですよ? 『皆仲が良いし仕事もやりやすい』って喜んでましたわ。生徒会の会長さん……百合香さん、だったかしら? 彼女とも仲が良いみたいでしてね。一度家に遊びに来たのだけど、美人で穏やかだし礼儀正しくて。とても悪い人には……いばらも付き合う友人はかなり選ぶタイプですしね」
あの妹さんが楽しそうにねえ、という言葉を島江は飲み込んだ。
すみれの妹、いばらとは彼女も面識がある。
しかし姉妹ながらその性格は正反対。愛想の良く優しげなすみれとは反対に、いばらは常に冷たく刺々しい雰囲気を醸し出していた。
決して態度が悪いことはなかったのだが、彼女の立ち振る舞いはどこか距離を感じさせるものがある。院内でもその姉妹の差は度々看護師達の話の種になっていた。
あのいばらが楽しそうに話すということは、学園や生徒会を相当気に入っているのであろう。……だがあのクロユリとカードを見た島江は、いばらもまたその類の人間だと疑わずにはいられない。ましてや彼女は風紀委員長。その様な立場の人間が生徒達の非常識な行いを見逃すとは考えにくい。彼女自身が生徒会ぐるみのいじめに加担している可能性も充分にあったのだ。
更に彼女が仲良くしているという生徒会長。あんな事をする学園の、しかも生徒会の会長と仲良くするなどとても考えられなかった。当の会長は一体何をしているのだろう。自分達と同じ学園の生徒があんな目にあっているというのに、心が痛まないのだろうか? この件に対して怒りを抱きはしないのだろうか?
「……いじめとか、本当に起きてないの? そこまで行かなくともトラブルとか」
「いえ、何も……大丈夫だと思いますよ。多分ただの悪戯でしょう、大方喧嘩でもした生徒がいたんじゃないでしょうか? いばらに注意するよう私からも言っておきますから」
そう言ってすみれは軽く微笑んだ。
悪戯で済まされる話じゃない、と言いかけた時、別の看護師が駆け込んでくる。
「月乃宮さん、電話……学校の生徒さんからみたいだけど」
「あら、妹かしら……ありがとうございます。すみません、失礼致しますね」
島江に申し訳なさそうに告げると、すみれはその場を後にする。紫色のバレッタが、照明の光を反射してきらりと光った。
「……やっぱり、妹さんも好きになれそうにないわ……月乃宮さん」
残された島江は、一人呟く。
「もしもし、姉さん? ごめんなさいね、仕事中に呼び出して」
「いえ、休憩時間だったから良いのだけど……どうしたの? わざわざ学校から電話するなんて。忘れ物?」
昼休みの学園は、いつも少し騒がしい。
一コマ65分の窮屈な授業から一時的に解放された生徒達は、背を伸ばし思い思いに自由時間を楽しんでいるのだ。ある者は会話に花を咲かせ、ある者は職員室に質問へ行き、ある者は何をするまでもなくぶらぶらとうろついている。
そんな中、月乃宮いばらは公衆電話の前に立ち、姉のすみれと話していた。携帯電話を使うという手を選ばなかったのは、あくまで風紀委員長としての立場の為だ。校則で一応は許されているとはいえ、校地内でスマートフォンを使うのはやり抵抗がある。その声は普段通り、非常に落ち着いていて冷たく静かだ。
「いえ、ちょっとね。……北条君、学校に来たわよ。もう大丈夫なの? 一応元気そうだったけれど」
「ああ、智くんなら……もう安心していいわ。大分調子も戻ったし、流石に体育とかはまだ見学してもらうことになるけれどね。風花さんとはどうだった? 会うのも久々でしょう」
「お互い嬉しそうだったわよ……安部野君とも挨拶したみたいだし。今年は副生徒会長を二人にして正解だったわね、北条君の身体の負担も大きいだろうから……まあ、風花さんにとっては北条君相手の方がやりやすいのだろうけど。あの人、風花さんの言うことには従うしね。自分の部が潰されたって何とも思わないんじゃないかしら」
「うふふ……確かにそうかもしれないわね。北条君、風花さんのことあれほど大好きなんだもの」
いばらの片手の十円玉は、次から次へと減っていく。最初は山積みになっていた小銭は、気付けば十枚程を消費してしまっていた。もっとも、普段から財布に万札が数枚入っている様な彼女にとって、こんな金額ははした金でしかないのだが。
すみれの声に若干微笑んだ後、いばらは一度周りを見渡した。顔付きを変えるとより声を潜めて言う。
「……クロユリの件、大丈夫だったの? 何か言われなかった?」
「……一応、ね。大丈夫、私が場を収めておいたから。貴方は何も心配しないで……面会なら私に言うように伝えておいてちょうだいな」
「そう……なら良かった」
いばらはそう言った後、軽く息を吸い込んだ。覚悟を決めた様な顔をすると、重い口ぶりで告げる。
「姉さん――そろそろ、花瓶の水の入れ替え時よ」
「……あれ?………ここは…ま、まさか…!?」
何で!私さっきまで自分の部屋にいたよ!?何でこんな所にいるの!?私が一番嫌いな所……。
「さぁ、今から裁判を始めます!」
あぁ、『今日』も始まった。『裁判』という名の処刑が……。今日……裁かれるのは、誰?
「うふふ…貴方は何をしたのか、分かってる?」
……また、濡れ衣を着せられたのか。どんどん排除する、自分にとって『邪魔な存在』を……。
全員参加の狂った『裁判』。また、生徒が、先生が―――
狂いだしたのはいつだろう?
学校で『裁判』が始まったのはいつだろう?
あの狂った人が会長になった日だろうか?
それともあの『事件』が起きた時からだろうか?
それとも―――。
『狂いだしたのは、いつ?』プロローグより
華藤 美咲、今月の最新作登場。
氷ノ宮 氷雪の最新作。
朝。上履きに履き替えながら雑談するD組の生徒たち。
なんでもない日常のワンシーン。
誰もが一度は耳にしたことのあるチャイム音が響く。
『文芸部員にお知らせー。本日放課後、部員会議を開くので、どんなに忙しくとも顔を出すことー。
繰り返し連絡しまーす。文芸部員は本日放課後、必ず会議に参加してくださーい。以上、文芸部長からー』
「……だってさー、亜衣」
「ん、りょーかい。一緒にいこ」
「はいはーい」
のんきに会話する部員。
これからの学園生活がどうなるのかも知らずに―――
白野恵里―――私と亜衣が部室に来た時は、既にほとんどの部員が集まっていた。
正面にホワイトボード、部員会議の大きな文字。
ざわつく室内、部員たち。議題はもう、分かっている。
今後の課題
どうすればいいのかなんて、誰も知らない。
部費をゼロにされたのに、焦ってなかった私達が悪いのだろう。
怒涛の五月はもう過ぎ去ろうとしている。
「全員、集まった?始めるよ」
笹川先輩が雑談を遮り口を開く。
「分かってるよね、今回のテーマはこれからどうやっていくか、について」
「……あ、あの。部費がストップするのは六月分から、ですよね?いいんですか?なんか、いつも通りなんですが……」
私と同じ一年生の人が質問を投げかけた。
「あ、それアタシも思ってた!」
「ああ、そういうのは全然大丈夫。三ヶ月くらいなら余裕だよ」
「……はあ?三ヶ月も?」
「意味わかんないし」
「いくらなんでもそれは……」
「奇想天外どころの話じゃないです」
「事実は小説より奇なり……」
「それな。さすが真帆ちゃん」
いっせいに始まるブーイングの嵐。うん、まあ……
私も、ソレはないと思った。
三ヶ月分て、どこから来たんですかそんなお金。
みんなの反応からみて、誰も知らなかったらしいし……。
「いやコレ本当だからね?嘘はつかないよ?とりあえずさ、落ち着いてって。ちゃんと話すから」
そう言って、笹川先輩は立ち上がった。マーカーペンを持ちホワイトボードに向かう。
部員たちはひとまず黙り、笹川先輩のことを見つめる。勿論、私も亜衣も。
「六月から三月まで、学園からの支給停止。他生徒及びその保護者、もしくは外部からの寄付も禁止。つまり、これからの活動費は自分たちで手に入れろ。これが生徒会長から言い渡されたことね。
ああ、廃部を防いだだけマシよ。あの百合香相手にね。
でさっきの話だけど、私が稼いだ今までのバイト代でしばらくはやっていける。だからその間に、資金稼ぎ頑張ってもらうからねっ!勿論、全員で!」
「……」
「笹川ちゃん無謀だねえ」
「ちょっと無理があるかな、と」
「うちらで稼ぐって、どーすんのよ」
「努力はしますが……」
そんなので、やっていけるわけがないと。
だれもが、そう考えてた。
……いや、正確には、笹川先輩と―――あともう一人を除いて。
「なーに?随分と暗い雰囲気じゃない。せっかくの里帰りだっていうのにさー」
初めて聞く、女の人の声。聞こえた先は、奥のドア。
「あ、彩美さんっ⁉」
「リアルでは久しぶりー真帆ちゃん。話は聞いたよ、協力しよっか?」
彩美さん……て、まさか?
思い当たることがあり、私は隣の亜衣にささやきかける。
「……ねえ亜衣。もしかしてさあ、あの人」
「……そのまさかだよ恵里。なんで来るんだし」
やっぱり。
突然現れたあの方は、私の親友と冷戦中のお姉さんでした。
「彩美さんお久しぶりです!」
「見たよーあの新刊。面白かった」
「次は七月の下旬だっけ?」
「相変わらず早いですねえ先輩」
三年生の先輩方が親しげに集まっていく。以前の部長とは聞いていたけど、ここまでとは……。
「えーっと、センセイ?なぜこちらに?」
先輩の一人が疑問をぶつける。すると、彩美さんはこう答えた。
「そんなの、可愛い後輩をヘルプしに来たに決まってるでしょ」
「「「「「ヤッタ―――――‼‼‼」」」」」
「ね、先輩たちなんであんな喜んでるの?」
「さあ?」
「強力な助っ人とか」
「だといいね!」
騒然となる部室。あとで確実に文句を言われるだろう。
っと、それは置いといて。
「……亜衣、大丈夫?」
沈んでいる亜衣に話しかける。そりゃあビックリだろうなあ。冷戦中のお姉さんが、部活に来たんだから。
「おおい、あーいーさーん?」
「今日はツイてないわ……」
「……じゃ、続きをドーゾ、現部長さん」
「はいはい了解しましたっと。
ゴメンねみんな。そこの人はあとで説明するから、会議に戻るよ。座ってー」
「「「はーい」」」
よくわからないが、とりあえず笹川先輩のほうに注目する。
ホワイトボードに書かれた、活動費調達の大きな文字。
「みんながそれぞれバイトするのもアリだけど、それじゃあ効率が悪いので。
文芸部らしい調達方法でいこう!」
「それって、つまり?」
「色々なコンクールに小説を応募したり、部誌の制作を拡大したり」
【いったんストップします】
「まずは確認から。
この中で、応募経験のある人は挙手」
笹川先輩に言われ、私は右手を挙げる。うなだれたままの亜衣も。
「……八割ってとこかな。よし、じゃあ次。
一次選考を通過した人?」
その後は二次選考、最終選考と続き、挙がる手の数はどんどん減っていく。
私は最終選考まで、亜衣は二次選考までで手を降ろす。
【またまたストップ】