スレタイ適当、笑。
えーと、ここは私が様々なジャンルの小説を書くところになりますね、
公式cpだったり、伽羅の独白だったり、夢だったり…。
まあ、暇つぶし程度に寄ってくれたならと思います。
・ 荒らしや、迷惑行為はお断りです。
・ 感想は大募集しております!
・ 更新は亀さんです、笑。
それでは、よろしくお願いしますね!
先輩に抱きしめられるがまま、私は胸の中でじっとしていた。そうしてどれぐらいの時間が過ぎただろうか、先輩がぽつり、と語り始めた。
「なぁ、珠紀、俺はな。……お前が思っている以上にお前のことを好いてる」
「先輩……」
「だからこそ、不安になったんだ」
「え?」
一瞬だけ緩みかけた気がまた引き締まる。それってどういうこと?、続きを促すように胸から顔を上げて真弘先輩を見つめた。先輩は、私を少し切なげに見つめ返してくる。ねぇ、どうしてそんなに悲しげなの。胸がひどく締め付けられた。
「お前は、すごいお人好しだ。この戦いの中でいやってほど思い知らされた。……だから、つい思っちまったんだ。お前が、俺のことを好きだと言ってくれたのは、俺を生かすためだったんじゃねぇかって」
先輩の言葉に思わず呆然とする。先輩、ずっとそう思ってたの?
「そ、そんなわけないじゃないですか……!! 私は、本当に先輩のことが……」
「まあ待て。落ち着けよ」
思わずカッとなって、先輩に迫る。けれど、先輩は動じるどころか少し困ったような笑みを浮かべて、私の頭を撫でる。それはまるで、私の気持ちを落ち着かせるようなものですごく優しいものだった。
ずるい。いつもは子供っぽいくせに、時々大人びたような言動を取る先輩が、すごくずるい。でも、そう不満に思いながらも、結局はそれに甘えてしまっているんだ。いつも、私は。
「もし、そうだったなら俺はお前から距離を置いたほうがいいと思ったんだ。お前のおかげで、俺は生きている。もし、お前が使命感とかで俺と付き合ってるなら、俺が開放しなきゃいけないって思ってた」
優しく私の頭を撫でながら、先輩は言葉を続ける。漸く、先輩が私から逃げていた理由がわかった。結局は、私のためだったんだね。本当に、どこまで行っても先輩は優しい。優しすぎるから、不安になる。
「先輩、それは全部、先輩が思っていたことでしょう? 本当にそうだとは限らないよ」
「珠紀……」
「私は、先輩が好きだよ。玉依姫とか守護者とか……そんなの全部なしにして好き。もしも、この宿命がなくて私たちが普通の人間だったとしても、私は先輩を好きになる」
それは紛れもない自信からくるものだった。きっと、生まれ変わっても私は何度も先輩を好きになる。私は、守護者じゃない、優しくて、時々子供っぽくて、でもかっこいい先輩を好きになったんだから。だから、ね?と、先輩を見つめると、私を見つめる双眼が一瞬驚いたように大きくなり、そして、優しげに細められた。
「ほんと、お前ってさー……」
「なんですか?」
「……いや、なんでもねー」
ぽんぽん、と軽く私の頭を撫でて、先輩は私から離れる。無くなっていく熱が寂しくて、私は先輩が完全に離れる前にぎゅ、と抱きついた。
お、おい、珠紀!?、と焦る先輩の声を聞きながら、ぎゅうぎゅう、とその体をさらに強く抱きしめる。
「先輩」
「あん、どうした」
「好きって、言ってくれませんか?」
先輩の胸から顔を上げて、真っ直ぐに見つめて告げる。先輩は、きょとんとしたあと、しょうがねぇな、と言いたげな顔をしていたけれどその顔は嬉しげに笑っている。
先輩は、また私の体を抱き抱える。今度は、私も背中に手を回す。とくん、とくんといつもよりも早い胸の音が心地いい。
「珠紀、好きだ。……愛してる」
「私も好きです、先輩」
お互いを見つめて、どちらかじゃなく同時に顔を寄せる。そして、私たちは3度目のキスをした。密かに目を開けて、近くに有る先輩の顔を眺めて、あぁ、幸せだなと実感し、私は再び目を閉じた――。
---
今私の中で、真弘先輩ブームが起きている。やばいかもしれない。愛ではちきれてしまいそうだ、()
強くなりたい。その理由 【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
先輩の、その宿命を知ったとき。どうしてと思った。どうしてそんなことを、教えてくれなかったのかと。でも、先輩は言いたくなかったんじゃない、言えなかったんだ――。
私たちの、私の中の先輩はいつも笑っていた。偉そうで、俺様で、自分勝手で。絶対にあきらめない強さを持っている人だと私は勝手に決めつけていた。先輩が隠していたことなど知らずに。それが、先輩の枷になってしまっていたのかもしれない。
あの人は、優しくて、頼りになる私の先輩だったから、先輩は、言えなかったのかもしれない。そんな人が、守るべき人に弱さを見せることなんてできなかったから。
でも、先輩は、確かに私に助けを求めていたんだ。時折見せた、あの寂しげな表情、後ろ姿。気づいていたはずなのに、言えばいいのに、私はそれを見て見ぬふりをしていたのだ。確かに、嫌な予感はしていた、でも、先輩に限ってそんなことはない、見間違いだ。そう思っていた。
そう、何も言えなかった先輩のせいじゃない。何も気づくことができなかった、弱かった私のせいだ――。
だからね、先輩。私は、強くなりたいよ。貴方から何もかもを奪おうとする全てのものから守りたいよ。……ううん、私は強くなるよ。誰よりも、何よりも大切で大好きな先輩だから。
「だから、先輩……待っててね。すぐに行くから」
ひとつ深呼吸をしたあと、私は、部屋に貼られているその結界へ、手を伸ばした。
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珠紀のモノローグ。時間的に、真弘先輩が蔵に閉じ込められて、それを助けるために珠紀ちゃんが救いに行くところぐらい。
原作では、蒼黒の楔は、前作の緋色の欠片の幻の大団円エンドの後となっておりますが、個人ルートエンドでは怒鳴るだろうという妄s((ゲフンゲフン、想像の賜物です。
真弘先輩エンドの後だとして、個人的に書きたいシーンを書いてみました。気が向いたら、最初から書くかも…?
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みんなが寝静まったあと、一人、水車小屋の外に出る。外は相変わらず真っ暗で、それが、貼れることのない闇のように見えてしまう。小屋からだいぶ離れたところで、私は、ナイフを取り出した。これは、護身ように誰もいない民家から拝借したものだ。自分の身を守るために持ってきたこれが、まさか、自分の命を絶つために使われるなど、あの時の私は想像もしていなかっただろう。
(……これでいい)
私は、不意な事故で、鏡の契約者になってしまった。みんなは、まだ方法があるとは言っていた。私も表面上はそれに同意していた。でも、どうしようもないと、内面は思っている。だって、もうこんなギリギリな状態で、私が生きる方法なんて見つかるはずがない。時間の無駄だ。ならば、この世界を救うために私が死ぬしかない。
「おーちゃん」
ぽつりと、呟くようにその名前を呼ぶ。するり、と私の影から白い何かが出てきて、私の体をよじ登り、肩へとやって来る。にー、と私がしようとしていることを知ってるように寂しげに鳴くおーちゃんの額をそっと撫でた。おーちゃんには、辛いだろうけれど、私が死んでしまったあとの遺言替わりになってもらおうと思う。祐一先輩がいるから、きっと、伝わると思う。
「みんなに伝えてくれる?……最後まで、こんな私についてきてくれてありがとうございました。そして、弱い私ですみませんでした、って」
おーちゃんは、悲しげな表情で私を見つめたあと、にっ、と鳴いて私から飛び降りて小屋の方へ駆け出す。そう、それでいいんだよ。おーちゃん。辛い役目を任せてごめんね?
その白い白い後ろ姿が見えなくなったあと、私は、ナイフを首筋に当てた。かたかたとナイフを持つ手が震えるのを、柄をしっかり持って抑える。死ぬって、どんな感じなんだろう。と思う。今まで、死と背中合わせの戦いをしてきたけれど、粗めてそんな事を思うのは、私をみんなが必死に守ってきてくれたからなんだろうか。ふと、みんなの顔が浮かんだ、拓磨、遼、祐一先輩、卓さん、慎司君、美鶴ちゃん、清乃ちゃん、芦屋さん、アリア、フィーア――そして、真弘先輩。
(真弘先輩、ごめんね……)
半年前の頃。生きることを諦めていた先輩に私は、何度も言った。生きることをあきらめないでと、でも、そんな事を言っている私が、今、生きることをやめようとしている。ほんと、笑えちゃうよね。ひっそりと苦笑する。
ここに来て初めて知る。生きることを選ぶのはどんなに苦しくて、辛いことなんだろうと。でも、今の私と同じような状況だった先輩は、最後はその流れに逆らって、生きることを選択したんだ。本当に強い人だと思う。私は、そんな人と今まで一緒にいられて、良かったと思っている。
「さよなら、みんな、真弘先輩……」
押し当てたナイフにぐっと力を入れる。これで、全部終わる――。頬に温かいものが伝うのを感じながら、私は死ぬその瞬間を迎えようとした、でも、その次の瞬間、すごい力で私の手の中からナイフが離れていくのを感じる。何かに、弾き飛ばされた?
ゆっくりと目を開けた先に見えたのは、強い光を宿した瞳。それは、私を睨みつけている。
「さよならじゃ、ねーよ。何やってんだ、お前……」
いつにない低い声が、怒っているのだということを示している。そこには、――真空の刃を手にした、真弘先輩がいた。
ぺたりと、その場に座り込む。相変わらず先輩は私を睨んだまま。私は震える声で言葉を紡ぐ。
「真弘先輩、なんで……」
「なにやってんだって聞いてんだよ!!」
私の問い掛けには答えず、さっきよりも声を張って先輩が叫ぶ。先輩の表情は険しく、でも、どこか悲しげな、切なげな表情をしている。それをさせているのが私だとわかれば、それからそらすように顔を俯かせた。
「全てを、終わらせようとしていました」
「自分の命を絶ってか」
「だって、それしか方法がないじゃないですか。今の状況は、本当にぎりぎり。残された時間で、私が助かる方法が見つかるだなんてありえない」
私は顔を上げる。先輩の表情は、さっきの険しさはない。ただ、切なさしか含んでいなかった。
「ならば、どうするべきか――。私が、死ぬしかないじゃないですか」
声が震えている。あぁ、改めて自分で言葉にすると現実味が増す。そこまで、本当にギリギリの状況なのだと、思い知らされた気がした。
私を見つめる、先輩の目は、ただ、私を優しく見つめるだけだった。
「――半年前、お前は言ったな。諦めないで、生きて、とその言葉……お前が今、一番必要としてるんじゃないか?」
「それは……。……私には先輩のような、強さはないです。死ぬ選択しかない中で、生きることを選ぶなんて、そんな強さは持ってない」
再び顔が下に向く。自分が不甲斐ないせいで、こんなことになってしまっている現状から目をそらしたかった。ふと、先輩がつぶやいた。
「俺は、強くなんかない」
弾かれたように顔を上げる。そこには、さっきと変わらず優しげな表情を浮かべる先輩しかいない。
「俺は強くなんかないさ。……だけど、俺が、お前の目からそう見えたのであれば、それは、お前がいたからだ」
先輩が、私から目線をそらし、私の背中が向けられている方を見る。重い体をひねってみてみれば、そこにはみんないた。
「珠紀」
「拓磨、みんな……どうして」
「オサキ狐が教えてくれたんだ」
その言葉と同時に、祐一先輩の方からおーちゃんが降りてくる。そして、地面に座り込んだままの私に駆け寄って、にー、と鳴く。その瞳は、強い光がある。おーちゃんは、遺言を伝えてない。そんな事を思う。きっと、私を助けるために呼びに行ってくれたんだ。そう思えば、たまらず、おーちゃんを抱きしめた。
「珠紀、俺はな、お前がいてくれたから、生きたいと思えるようになった」
先輩の声が聞こえてきて、おーちゃんを抱きしめる腕を緩めて顔を上げる。
「人間は、一人じゃ強くなんてなれねーよ。――もし、今、お前が、諦めようとしているのならば俺たちがお前を支える。一人で抱え込むな。俺たちは、ひとりじゃない。……そう教えてくれたのも、お前だったはずだろ?」
先輩から目を離して、みんなを見つめる。私を見つめる目は、優しく、そうだというように互いに頷いている。私は、もう一度先輩を見つめる。
「私は、これからも生き続けていいんですか……?」
「当たり前だ。俺らにゃ、お前が必要なんだよ」
「先輩……っ」
堰を切ったように、涙が次から次へと溢れ出す。涙腺が壊れてしまったんじゃないかと思うほど、流れていく。そんな私を、先輩はその場に膝をついて抱きしめてくれた。強く、でも優しく。私を包み込んでくれる。それが暖かくて、私の涙はいつまでたっても止まりそうにない。
「私、生きていたいよ。みんなと、先輩と……。ずっと、先輩の隣にいたい」
「俺もだ。絶対に、お前を死なせたりなんかしない」
その言葉が、力強くて。まるで、暗闇を払う光のようで。私は、先輩の胸に顔を押し付けて、今までの文をすべて吐き出すかのような勢いで泣き続けた。
---
緋色では、先輩だったけど、蒼黒では珠紀ちゃんが命を絶たなきゃいけないことになってた。もし、お話が続いてたなら、こんな展開もありえたんじゃないだろうか?、と、ふと思う。
それより、真弘先輩ルートのアニメ化はまだですか、((
魔法の手 【 うたの☆プリンス様っ♪ / 翔×春歌 】
「どうしましょう……」
目の前に広がる楽譜を見つめ、春歌は溜息をついた。――スランプだ。
仕事内容はCMソング。完成まであと少しということでつまづいてしまった。期限はあと1週間しかない。
(……何も、浮かばない)
今までどうやって、音楽を作っていたのか。それさえも思い出せなくなってしまう。まるで、目の前に高い壁が立ちはだかったように、その向こうが見えずにいた。
こうしていても時間は過ぎていくだけ。悩むよりも、手を動かせ、頭を回せ。そんなこと誰よりも自分がわかっている。けれど、手は一向に動かなかった。
携帯の着信音が、静かな空間に鳴り響いた。この着信音は、――。春歌は弾けたように携帯を手に取って、通話ボタンを押した。
「も、もしもし……」
《あ、春歌か?》
「翔君……っ!」
電話越しに聞こえてきたのは、1ヶ月ぶりに聞く声だった。
――来栖翔。只今世間を賑わせている期待の新人アイドルだ。その持ち前の元気の良さと、可愛らしい容姿を買われて様々な番組やCMに出演している。テレビをつけていれば、毎日その姿が見えるほどに翔は人気を集めていた。しかし、こうやって会話は出来るんは久しぶりだった。スランプのこともあってか、やや気持ちがうつむき加減になってた春歌は、少し泣きそうになる。が、翔に気づかれるわけにも行かずに、それに耐えた。
《このあとから、2日オフなんだ》
「そうなんですか?」
《ああ、……でさ。久しぶりに会えねーかなって。いや、休みはまだあるから、明日でも――》
「今日、今日がいいです!」
只今の時刻は、夜の11時。けど、時間なんて関係ない。今はただ、こんな機械越しではなくちゃんと声を聞きたかった。
言葉を遮るように告げた春歌に、翔は驚いたように息を呑んだ。しかし、そのあとにくすりと、笑う声が聞こえ、わかったと返ってくる。
《じゃ、30分ぐらいしたら着くと思うから、部屋で待っててくれ》
「はい、わかりました!」
《それじゃ》
電話が切れた。つーつーと、音を聞きながら春歌の胸は踊っていた。やっと、翔君に会える。それが心の中を占めていた。しかし、その視線が机の上に落とされたると、その気持ちはまた沈んだ。
まだ、仕事が終わっていない。――けど、この時間だけでもいい。翔君と一緒にいたい。春歌は、机に広がる楽譜を束ねる。
(まだ解決したわけじゃない。でも、きっと、翔君に会えばいい方法が思いつくかも知れない)
それは確信には程遠いもの。けれど、今までの経験から何となくそう思ったのだ。
春歌は、二人で買ったお揃いのマグカップにココアを入れ、そしれ翔の到着を待った。
前回のが終わってないんだけど…、今は後回し。
これは、今日誕生日であるリア友への贈り物です!…ま、ちゃんとしたプレゼントはやるよ、笑
---
優しく頭を撫でる感触がした。それは、何度も何度も繰り返される。
誰がとか考えたりもしたが、心地よさの方が勝り思考を捨てる。今はただ、この心地よさに身をゆだねていたかった――。
ふと、頭から手が離れていく気配がして、無我夢中でその手を取った。
「……グリーン?」
少し驚いたようにびくりと体を揺らしたのがわかった。起きてるの?、と続いた声。それに合わせて目を開けると、澄んだ青色と目があった。
ブルーの後ろに見えるのは天井。どうやらここは、ジムにある一室の様子だった。
「いつから起きてたのよ」
「今さっきだ」
「嘘」
「本当だ」
どこか不機嫌そうに顔を歪めるブルーから目を背けるように顔を傾けると頬に柔らかい感触が当たった、これは――。
「膝枕、か?」
「そ。ジムにきたのはいいけれど、全く姿が見当たらなくって……。で、手当たり次第に部屋を探してたら、この部屋でソファにもたれかかって寝てたあんたを見つけたのよ」
「そうか、……それで、どうやったらこの体制になるんだ」
「あたしのせいじゃないわよ。隣に座ったら、あんたの方から倒れてきたのよ」
「じゃあ、どかせばいいだろ」
「それは――、……てへ?」
いたずらっ子のように、ちょん、と舌を出したブルーを見上げる。
グリーンが推測するに、ただ、自分の驚いた顔が見たかったからこの状態のまま放置していたに違いない。だが、結局驚きはしなかったので、ブルーは不満げにしている。
にしても、相変わらず突拍子もない行動を取る。ため息を付けば、なぜか睨まれた。
「それより!」
「なんだ」
「また徹夜したでしょ! 隈、できてるわよ」
ちょんと、隈が出来ているあたりをブルーの細い指がつつく。
実際、昨夜徹夜していたのは事実なため、グリーンは何も言えずに押し黙っていた。変に言い訳をすれば、目の前の女が騒ぐのは目に見えていたからだ。
「全く……。働くのはいいことだけど、働き過ぎも良くないわよ」
「はぁ……うるさい女だ」
「と、いう訳で。今日は、ブルーちゃんサービスして、膝を貸したげるからもうしばらく寝てなさい!」
そんな声とともに、視界が真っ暗になる。どうやら、ブルーがグリーンの目を手で覆ってしまったようだ。
そこまでして寝かせたいのかと呆れてしまう。時折、ブルーは妙に過保護なところがある。そうなってしまった原因もすぐに思いつくが。
「倒れて、一番に困るのはあんたなんだから。休める時に休んどきなさいよ」
再び、優しく頭を撫でられる。声色からして、照れてるのだろうか。そんな顔が見れないのは残念だが、それは眠りの後から拝んでもいいかも知れないとグリーンはようやく瞼を閉じた。
優しく頭を撫でる感触が、夢の世界へいざなう子守唄のようで。
頭の片隅で、こんな日もあっていいかもしれないと思いながらグリーンは眠りに就いた。
---
こんなもので悪いな。
…ま、改めて誕生日おめでとう。来年からは、高校生だし。学校離れるし。ちゃんとお祝いできないと思うからね。今年は特別サービスってことで。
ちゃんと、プレゼントは用意するから、来週楽しみにしてて、
最後になるけど。…お前が、一番の親友で良かったって、思ってる。
(…なーんて、普段言えない台詞をここで言ってみたり。あー、恥ずかし、)
うたプリのやつの続きー、
---
ぴんぽーん。無機質な機械音が鳴った。春歌は持っていたマグカップを机の上において、ソファから立ち上がる。その時に、机にあたってしまい上に重ねていた楽譜が床に散らばってしまった。しかし、そんなことが気にならないほど春歌は翔に会いたかった。
誰なのかなんて確かめずに、ドアを開く。見えた、金色の髪、青色の双眼。そして久しぶり、という機械で阻かれていないその声に、春歌はたまらずその人物に抱きついた。
「翔君っ!!」
「は、春歌!?」
勢いよく抱きついた春歌を、咄嗟に受け止めた翔。背が小さくとも、体つきはいいためか少しバランスを崩した程度で済んだ。
春歌は、顔を上げ、そしてニッコリと笑った。
「おかえりなさい、翔君!」
「ああ、ただいま」
そう言って、翔は優しく春歌の頭を撫でた。春歌は、くすぐったそうに笑い声を零す。それを、いとおしげに見つめていた翔であったが、ふと春歌の顔を見て、撫でていた手をとめた。そして、空いている手で扉を閉めて、部屋の中へとはいる。
「なぁ、春歌」
「なんですか?」
「目の下の隈、どうしたんだ?……眠れてないのか」
翔に指摘され、春歌はようやく気づいた。スランプのせいで、作品が仕上がらず、それが悩みとなり最近寝れていなかったのだ。今だけは、仕事の話をしたくなかったのに、春歌は慌てて、翔から顔を隠すように背を向ける。
「春歌?」
「な……なんでもないです、大丈夫ですよ!」
「隈作っといて、大丈夫じゃないだろ……、ん、これは?」
春歌の方に歩み寄った翔は、床の上に散らばっているものに気づいた。あ、と声を上げて静止をかける春歌を無視して、それを拾い上げる。それは、先ほど春歌が落とした楽譜だった。
「春歌、これって……」
「……仕事です。でも、大丈夫ですよ、もうすぐで終わりますから」
自分がスランプであること。仕事に行き詰っていることを翔に知られたくない春歌は、それだけを伝えると翔の手から楽譜を抜き取る。そして、ほかの楽譜も拾い上げてばまたまとめて机の隅に置いた。
「何にもない、のか?……本当に?」
背後から聞こえてきた声は、先程とは違う。低く、怒りが込められているように聞こえた。怒らせてしまったのだろうか。怖くて、春歌は振り返ることができない。
「俺は、そんなに頼りないか?」
「そんなことありませんっ!! 翔君は素敵で、かっこよくて……ただ、これは私の問題だから。私が解決すべきことだから」
「そんなこというなよ。俺とお前は、パートナーで、恋人だろ? パートナーってのは、支えあうもんじゃないのか?」
後ろから伸びてきた腕が、春歌の腰を捉えて引き寄せる。あっという間に、春歌は後ろから抱きしめられていた。
久しぶりに再会して、嬉しいはずなのに。なんでこんなにも悲しいの、寂しいんだろうか。春歌は、腰に回された手に自分の手を置いた。
「学園時代、隠し事してた俺が言えることじゃないかもしれない。でも、お願いだ。何かあるなら言ってくれ。俺の知らないところで苦しむ春歌は、見たくない」
春歌を抱きしめる腕が震えている。
――学園時代、翔は心臓病という病を抱え、それでも無茶を繰り返していた。それを春歌は、いつも不安に見ていた。止めることはできない、それは彼の夢を否定してしまうから。今ではそんなことないけれど、もしかしたら翔は今の自分と同じ気持ちなんだろうか。
(……不安、だよね)
大切な人の苦しむ姿を見てきた春歌にはその気持ちが分かる。だから、――春歌は話すことにした。
七夕の夜に 【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
学校からの帰り道、不意に空を見上げた。しかし、都会の光のせいか見えるのは僅かな星たちだけ。昔、満天の星空を見たことがあるせいか、黎は今目の前に広がる空がひどく寂しそうに見えた。
しばらく眺めたあと、空から視線を外して歩き出す。すると、とある民家に飾られた笹が見えた。そこには折り紙で作った飾りや、短冊が掛かっている。
(そうか、今日は七夕か……)
――七夕。空の上にいる彦星と織姫が、年に一度天の川を超えて出会える日。そういえば、村の頃は大きな笹の葉に願いを書いた短冊を飾って、飾りも作ってたっけと思い出す。そうすると、どこか1年に一度しか会えない彦星と織姫が。自分と、村に残してきた少年に重なった。
(……真弘)
村から離れて数年。優しい祖父母のもとで育てられていたおかげで、何一つ不自由なく暮らしてきた。学校でも、友達は男女共に多い。とても幸せだった。しかし、ふとした瞬間に寂しさを感じるのだ。――そう、あの元気な笑い声がないことに。その心情はまるで、曇りひとつないけれど星がない、今の夜空のようだった。
(まだ、彦星たちのほうがましかもねぇ)
彼らはまだ、1年に一度。しかし自分たちは、もう一生会えないかもしれないのだ。
さらりと風が、黎の長い髪を揺らす。
(短冊、かぁ)
いつの時だったか。短冊に、「ずっと一緒にいられますように」と書いたことがある。その時にまだ、こんなふうになっているとは当時の自分も知らなかったが。
(……書いてみようか)
無理でも、叶わなくても。それでもいいから、自分の願いを形として残しておきたかった。
家に帰って祖父に笹をたのもう。それで、祖母と飾りを作ろう。
黎は早まる気持ちを抑えて、帰路を先程よりも早足に駆け抜けた。
――その願いが叶うのは、その翌々年。
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くっ…間に合わなかった!!
今回は、村に戻る前の黎ちゃんと真弘先輩をイメージ。…あ、この本編は別サイトにて連載中です。
この辺のお話も、今度しっかり書きたいなぁ。(ってか、真弘先輩×黎ちゃんのcpのくせして、真弘先輩が出てきてない…、)
目次のようなもの。
今まで書いたのがバラバラだからちょっとまとめてみた。
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【ルーンファクトリー4】
・朝。 / ( ダグ×フレイ )>>25
【ポケモン(アニポケ、ポケスペ混合)】
・お姫様、迎えに来たよ。/ ( サトシ×夢主 )>>9
・タイトル未定(友人へと誕プレ小説) / ( グリーン×ブルー )>>42
【学園アリス】
・名前を、/ ( 棗×蜜柑 ) >>2
【らくだい魔女】
・お姫様と、その騎士 / ( チトセ×フウカ )>>20
【ぬらりひょんの孫】(今のところ、リクオ×夢主のみ、)
・君と共に、/ >>11-18
・新月の夜の訪問者 / >>21
・タイトル未定(夢主姉設定) / >>22-24
・桜花爛漫 / >>29-30 ※未完
【うたの☆プリンス様っ♪】
・魔法の手 / ( 翔×春歌 )>>41、>>43 ※未完
・近くて遠いその関係 / ( 翔×夢主 )>>26
【緋色の欠片】
▽拓磨×珠紀
・赤い糸のその先は、/ >>3
・貴方に会いたくてたまらない / >>5-6
・眠り姫にキスを / >>7
▽真弘×夢主
・夏の夜 / >>8
・七夕の夜に / >>44
▽真弘×珠紀
・膝枕 / >>4
・闇に差し込んだ光 / >>31-32
・君の愛が欲しい / >>33-36
・強くなりたい。その理由 / >>37
・タイトル未定(無印真弘ルートで、蒼黒) / >>38-40
・タイトル未定(転生パロ) / >>27-28 ※未完
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アンカーってつけすぎはよくないのね…、もうしないわ
無題。【 らくだい魔女 / チトセ×フウカ 】
目を開ければ、抉れた地面が見えた。体が汚れるのも気にせずにごろりと横にしていた体を仰向けにすると、周りにあったはずの建物はほとんど倒壊していた。所々からモノが焼けたような煙臭い臭いが漂ってくる。――ここであった戦いのひどさを改めて感じた。
体は鉛のように重たい。少しでも動かせば体のいろんなところが悲鳴を上げそうなほどの痛み。それを我慢して、地面から体を起こした。
目の前には半分崩れ落ちた壁に、背中をもたれさせ、膝を立てて座る姿がある。青色をしたその目を閉じ、大きく肩で息をしている。
生きていることに、ほっと安心して息をついた。でも真っ白な制服は、所々赤くなっていて、あたしよりも怪我がひどいことを物語っていた。腕や足の、火傷のような後にあたしは顔をしかめた。
「チトセ……」
随分と水分を取っていないからか喉が張り付いている。そのせいでかすれた声で名前を呼ぶ。声は小さくて、きっと聞こえてない。でも、呼ばずにはいられなかった。
じっと、見つめていればチトセはうっすらと目を開けた。本当に小さな声だったから聞こえているはずないのにと驚く。チトセは暫く視線を彷徨わせたあと、その群青色の瞳であたしを捉えた。その時、顔が緩んだように見えたのは気のせい?
「ふう、か」
同じようにかすれた声。でもしっかりと耳に届いた。いや、正確には頭の中に響くような声。チトセとよく交わしていたテレパシーのような感じだった。もしかしたら、あたしは無意識にテレパシーで千歳を読んでいたのかもしれないとうまく働かない頭を動かして考える。
チトセは、意識が朦朧としてるのかな。瞳がしっかりと開いていない、目は虚ろっていた。それでも、チトセは穏やかに笑みを浮かべた。
「大丈夫、か?」
今度ははっきりと聞こえた言葉に、目を見開いた。
――大丈夫、なんてあんたが一番大丈夫じゃないじゃない。いつものように、憎まれ口で言い返そうと声を出そうとする。でも出てきたのは嗚咽だった。
そのあとから、次から次へと涙が頬を伝っていくのを感じる。冷たい。暑い中にいたからか、その涙は妙に気持ちよかった。
涙を拭うことも忘れ、呆然としていればチトセは手をついて立ち上がろうとする仕草を見せた。それを見てあたしは、涙をぬぐい慌てて口を開いた。
「動かないで! あたしが行くから!」
思いのほか大きな声が出た。あたしも驚いたし、勿論チトセも、驚いたように体をびくりとさせる。そして、大人しく地面に座り直した。頑固なチトセが直ぐに引き下がったんだから、見た目以上に体は辛いのかもしれない。
……あたしも人のことは言えないんだけれどね。でも、チトセ以上にこの体はまだ動くはずだから。あたしは、ほとんど焼けた芝生に手をついて、立ち上がった。
---
なんか、もう…無理やね←
一応続く予定。……なんだこれは。
某イラストサイトに載せるべく…、下書きしますー。
勿論、真弘先輩の誕生日祝いで、笑。
一旦ここに書いて、サイトに移すとき少し訂正する感じになるかな?、それじゃいってみよー。
---
それは、すごく些細なことだったと思う。
何度も悩んだ末に、聞いた質問だったのに先輩は、まるで他人事のように受け流してしまって。先輩の今までのことを思い返せば仕方がないことだったのかもしれない。先輩がそんな態度をしてしまったのも変じゃない。 でも、例えそれが先輩にとって大事じゃなくても、私にとっては大切なことで。だから、私は――。
そらいろ。
家の縁側に座ってぼーっと、外を眺める。
聴こえてくる蝉の音。いつもは煩いなぁ程度にしか思わないそれが、あんな事があった後だからなのか、いつも以上にうるさく聞こえる。けど、そんな苛立ちを当てる相手も、そもそも苛立っているのは私が原因であるからこの胸にくすぶっている気持ちはどうにもできない。重くため息をついて、そのまま仰向けに寝転がる。
もし、この現場を美鶴ちゃんにでも見られてしまえば、はしたないですよ、なんて言われそうなんだけれど、体が動かない。まるで、今の私の頭の中のよう。
寝返りを打つと、頬に木の床が触れる。暑くてたまらない体には、冷たくて気持ちよかった。
その状態のまままた、ぼーっと廊下の先を見つめていればふと、暗くなる。誰かの影だ。美鶴ちゃんよりも少し大きいその影を辿って目線を上へ向ける。
「何やってんだ、お前」
「拓磨こそ。ここで何してるのよ」
そこは、涼しげな私服姿の拓磨がいた。私を呆れたような顔で見下ろしている。その顔が妙に憎々しく見えて、質問を質問で返す。すると拓磨は怪訝そうに片眉を上げて、その後全てを理解したようにため息をこぼしす。……何よもう。ため息を一番こぼしたいのは私なのに。
そんな私の気持ちを知らずか、拓磨は私の隣に腰を下ろした。私も、床に手をついて体を起こす。
「お前、知ってるか?、来週の――」
「来週の水曜日は真弘先輩の誕生日……でしょ?」
「誰から聞いたんだよ?」
「美鶴ちゃんに聞いた……っていうか、教えてもらった。ちょうど、1か月前ぐらいにね」
「そうか」
私も何か話したいこととか何もなかったからそこで、会話は途切れた。
その後は、ただ二人で外を眺めるだけ。拓磨は、ずっと私の傍にいるだけ。
(……というよりも、なんで拓磨はここにいるんだろう)
今日は別に、約束も何もしてないはずなのに。――でも、なんだろう。誰かがいてくれるだけで、本当に少しだけれどもくすぶっていた気持ちが晴れたような気がした。
(……、あぁ、そういえば)
去年の秋もそうだった。真弘先輩が蔵にいることを知りながら、結界から出れなかった私の背中を拓磨は押してくれた。何気ない言葉で。でも確かに元気をもらった。
拓磨は不器用だ。でも、すごく優しいことを私は知っている。もしかしたら、今ここにいてくれるのは具体的な目的があってだからとかじゃないんだろう。ただ、私の傍にいるためにここにいるのかもしれない。
(そうなら、もしそうならば……拓磨になら話せるかも知れない)
この気持ちをどうにかできるのは私自身しかいない。拓磨に打ち明けることでどうにかなることでもない。でも、なんとなく元気をもらいたかった。あの時のように。
「ねぇ、拓磨。今から話すこと……聞いてくれる?」
「……ようやく喋ったな。ほら、さっさと言えよ」
――そのために俺は今ここにいるんだから。
聞こえないはずの言葉が、夏風とともに聞こえた気がした。
---
雰囲気からして拓珠…、違いますよ!真珠ですからね!!
無題。【 RF4 / ダグ×フレイ 】
「せいっ……はぁっ!!」
モンスターに最後の一撃を叩き込む。力をなくしたモンスターはそのまま地面へと倒れ、その姿を消した。辺りを見渡すと、ほかのモンスターの姿はないことからこれでここのモンスターはすべてはじまりの森へ返すことができたようだった。
背後唐草を踏みしめる音が聞こえた。振り返れば、片手剣を鞘に収めながら私の方へ歩いてくるダグの姿があった。
ダグは私の姿を見つければ、にっ、と口角を上げる。
「お疲れさン」
「ダグこそ。仕事手伝わせちゃってごめんね」
「気にすんなヨ。忙しい時に、誘ったのは俺なんだシ。でも、今え思えば声をかけといて良かったゼ。こんなにもモンスターが多いとはナ……」
「うん。ゲートもいつもより多く開いてた」
今日私が受けた依頼――何が原因かはわからない。けれど、セルフィアの近くの森で、モンスターが大量発生しているようで、危険なのだそう。現状、旅人が何人も怪我を負っているらしい。そこで、その話を聞いたアーサーさんが、私に頼んだけれども……来てみれば思いのほか多くのモンスターがいた。
いくら私の武器が強く、技術的にも上でもこれぐらいの量では間違いなくすぐに病院送りにされていたかもしれない。本当に、今日の朝ダグが冒険を誘いに来てくれてよかったと思う。正直申し訳ない部分もあるけれど。
「あとは、これをアーサーに報告すればいいんだナ?」
「うん。アーサーさんなら原因を突き止めてくれると思うから」
「確かにナ。……あ、そうダ。今さっき、モンスターを倒してた時にサ、横道見つけたんだワ」
「横道?」
「こっちダ」
ダグに案内され、今の場所より少し深いところに着く。すると、木の陰に隠れているけれど横道らしき通路があった。
「もしかしたら、この先に何かあるのかな」
「かもナ。気をつけていこうゼ」
「うん……」
ダグも私も、それぞれに武器を片手に通路の奥へ進む。そしてその先には開けた場所があった。けれど、中央にぽつんと宝箱があるくらいで、ほかには何もない。変なところに道があったから警戒してたけど、表抜けしてしまった。
「宝箱だけかぁ……」
剣を鞘の中にしまいながら、宝箱を取るべく近づく。そして、箱をあげようと手を伸ばして――。
「フレイっ!!」
名前を呼ばれて、宝箱を開こうとした手が一瞬止まった。次の瞬間後ろからすごい力で片手を引っ張られる。急すぎて、声を上げるまもなく横からダグの片手剣が突き出し、見事に宝箱に突き刺さった。
なにするの、と言いかけてダグの剣が刺さった宝箱が、タダのたからばこではないことに気づいた。なぜなら、宝箱の蓋の部分に目が二つついていたのだから。
「モンスターボックス……」
私は呆然と、そのモンスターの名前を呟く。
モンスターボックスは完全に化けるのをやめたのか、箱を開かせ獰猛な牙と舌を出す。――もしも、ダグが呼ぶのが一瞬遅れたらと思うと、牙を見て背筋が凍った。
モンスターボックスは、剣から逃れようと左右に動き始める。そこをダグは一気に剣を引き抜いて、上から下ろした。大ダメージが入ったのか、そのままモンスターボックスははじまりの森へ帰っていった。
剣を鞘に収める独特の音がそばから聞こえた。その音に我に返った私は、慌ててダグの顔がある方に向こうとして、逆に怒号を受けてしまった。
「馬鹿カ!! 水の遺跡の時にも言ったはずだゼ。モンスターがいる場所で気を抜くんじゃねぇっテ!」
「ご、ごめん……」
ダグの顔は正しく怒りそのもの。私は申し訳なさの気持ちから、か細く言葉を絞り出すようにつぶやいた。顔を俯かせば、ため息が聞こえた。呆れられたのかな。そう思うとさらに気持ちが沈んだ。けれども、次の瞬間に頭に重みを感じた。頭を撫でるような感覚も。
慌てて顔を上げると、銀灰色の双眼と目が合う。ダグどこか困ったような顔をして微笑んでいた。
「ホントに……しっかりとしているように見えて、どこか抜けてんだよなァ……」
「ごめんね……」
「謝んナ。その分、オレが守ってやればいいことだシ」
自然の流れで告げられた言葉に驚いてしまう。しかし、ダグは自分が発した言葉に気づいていないのか無邪気な笑みを浮かべたあと私から離れていった。頭から離れていった体温がどこか寂しかった。
「それじゃ、帰ろうゼ」
「あ、う、うん!」
先に歩き出すダグの背中がどこか大きく見えた気がした。またそのままボーっとしてしまっていたけれど、聞こえてきたフレイ!、という声がどこか苛立ちを含んでいた気がしたから慌てて駆け寄った。
――私は、普段守るという立場にいるから守られるという立場に慣れてない。でも、もしわたしを守ってくれると言うならば、ダグがいいな。なんて考えた私は、密かに笑みを浮かべた。
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これがちです、笑。まぁ、ダグじゃなくてその時連れてたのは、ディラスとレオンさんだったのですが…。
畑ダンジョンに潜った際に、ほら、宝箱だけの部屋があるじゃないですか?、とある部屋に入ると宝箱が3つありまして、奥に二つ、手前に1つといった感じにね。
で、手前のを取ろうとしたときディラスが奥の宝箱の一つに向かって走り出したんですね。で、そのまま攻撃してたんで「なにやっとんじゃーっ」と言おうとして、その攻撃した宝箱がなんと、モンスターだったんですね…、いやー、あれはホントびっくりした、笑。
そういう経緯で、今回のお話が出来上がったわけですが、今回CP要素は薄いかな?って感じですね。
無題。【 歌王子 / 翔×夢主 】
舞台袖で深呼吸を繰り返す。どうしてこんなにも緊張してしまうのか。これから舞台に立って歌うのは私だけではなく彼なのに。
これほど私が緊張しているのだから、じゃあその彼は大丈夫だろうかと後方へ振り返ろうとしたとき、観客席から、たくさんの歓声と拍手が響き渡る。それは、私たちに次の出番が回ってきたということなのだろう。それを裏付けるかのように私たちの出番を告げるアナウンスが流れた。
「出番……だな」
後ろから私のそばへ歩いてきて、ぽつりと呟いた翔の声はわずかに震えていた。私の予想通り、翔の顔はどこか強ばっている。
私の方を一回も見ず顔はステージの方へ向けられたままだった。舞台の雰囲気に呑まれている、そんな感じに見えた。――そんなに不安にならずとも、いつも通りでいればいいのに。いつもの翔だったら、寧ろ自分の世界に引っ張り込んでいくのに。
でも、いくら私がそう思ったって、不安になるのも仕方がないのかもしれない。私は、どうしても彼を勇気づけたくて、あの笑顔が見たくて――私は翔の右手をとり両手で包み込むように握った。
「……! 澪――」
「翔、頑張って」
ばっと、勢いをつけて振り返った顔。私を見つめる瞳は、元の大きさよりも一回り大きく見開かれている。それに反して、私は瞳を細めた。自らの震える手を無視して、翔の手を強く握る。どうか、この想いが届くようにと。
ふと翔は、何かに気づくようにはっとした。そして、気を緩めるかのように笑みを浮かべた。
「……ああ、言われなくてもわかってる。……大丈夫だ。俺が歌うのはお前の曲なんだから、絶対に優勝してみせるぜ」
「……うん、そうだね」
力を入れていた手が自然と緩む。そこから、翔の手がするりと抜けた。なくなった暖かさに物寂しくなった。でも、帽子のつばを持つ翔の手は、もう震えてなどいない。再びステージを見る翔の瞳はその先にある何かを見つめているように見える。もう、彼は大丈夫だと私は確信した。
音楽の前奏が流れ始める。ピアノとヴァイオリンで紡がれる曲は私が、翔に送ったもの。――私たちがパートナーを組むきっかけとなったもの。
「それじゃ、行ってきます。……お前への気持ちを、全力で歌ってくる!」
「行ってらっしゃい――ちゃんと、ここで聴いてるから」
私の方を振り向いた翔は、太陽のように眩しい笑みを浮かべる。くるりと振り返ったかと思えば、勢いよくステージへと走り出した。
見送った背中は、小柄な背中に反してとても大きかった。
いくぜーっ!、と声が響いたかと思えばその次に聞こえてきた翔の歌声へ耳を傾ける。
可愛らしくて、でも元気あふれる声。あの時から変わらないそれに、私はふと今までのことを思い出した――。
---
これから書く予定の歌王子の夢。翔君落ちのやつで、序章の部分。
生存確認のためと、推敲のために載せてみました。一応某占いサイトで連載予定。もしかしたら、こっちでやることになるかもだけど。
えーと、遅ればせながら緋色の公式CP+aでポッキーゲームネタ()
ただ書きたかっただけなので、クオリティは期待しないでね。
それではいってみよー。
拓磨と珠紀の場合。
「……」
「……」
「……」
「……あのさ、珠紀。何してんだ」
「見ればわかるでしょ。ポッキーを咥えてるの」
「じゃあ、なんで俺の方を見てんだよ」
「そりゃ、ポッキーゲームをするためだよ」
……。あ、拓磨が頭を抱えて座り込んだ。
今日は、11月11日。世間では、ポッキーの日と呼ばれていて、世の恋人たちはポッキーゲームというものをする日……なんだと思う。
だから、鬼崎拓磨という恋人が居る私は、こうしてポッキーを咥えて待っていたのだけれど。
「……拓磨? おーい、拓磨ってば」
「聞こえてるから大丈夫だ。だから、離れてくれ」
……うーん。みるからに動揺してるな。
拓磨って、以外にもよくいろんな雑誌とか見てるから、ポッキーの日とか、ポッキーゲームとは知っててもおかしくないんだけど。や、この反応を見る限り知ってはいるんだろうけど。
「お前、ポッキーゲームって何をするのかわかってるんだろうな?」
「知ってるよ? 両端を咥えて、食べていって……最終的にはキスするんでしょ?」
「……恥ずかしくないのかよ」
まぁ、そう言われてしまえば。
「恥ずかしいよ。……でも、こういう恋人っぽいこともしたいなって」
決して、不満があるわけじゃない。みんなのいない場所で、手を繋いで登下校して。商店街で買い食いして。ちょっと喧嘩したりして。そんな拓磨との日々はすごく楽しい。でも、時々ほかのカップルを見て羨ましく思うときがある。
拓磨は、不器用で照れ屋で、だからなのかキス、とかそういうのをあまりしてくれない。……だから、イベントに乗っかってでもいいから恋人らしいことをしてみたいと思うのは――。
「……やっぱり、我儘だよね」
無理して関係を進めたいわけじゃない。拓磨が嫌だって言うのならば、素直に身を引こうと思う。
手に持っていたポッキーの箱を鞄にしまおうとして――、手首を掴まれた。
「拓磨?」
いつの間にか立ち上がっていた拓磨は、無言のまま箱の中からポッキーを抜き取る。そして、そのまま私の口の中にその先を突っ込む。
いきなりの展開に驚いて、拓磨と呼ぼうとして――拓磨は、その反対側を口に含んだ。
「――っ!?」
さっきの恥ずかしがっていた姿はどこに行ったのか、遠慮もなしにポッキーを食べ進める拓磨。校内ではそれなりに人気のある顔が近づいてきて、私は思わず目をつぶった。
真っ暗の中、口の中には加え続けていたせいで溶けてしまったチョコの味が広がっていて、そして、唇に柔らかいものが触れた。
一度、二度と優しく重ねられたあとそれはゆっくりと離れていく。
「……あのな。なら、そういうのはちゃんと言ってくれたほうがいい」
目を開けると、窓から差し込む夕日に照らされている拓磨の顔が近くにあった。頬が少し赤いのは、夕日のせいじゃないと自惚れたい。
「こんなゲームしなくても、ちゃんとキスしてやるから」
照れくさげに、視線を横へずらしながら告げる拓磨に、頬に熱が集まるのを感じる。
そんな私の頭を拓磨はぽんと軽く撫でたあと、鞄を片手に早足に教室を出ていく。
さっき拓磨の熱が触れていた、自分の唇に触れて、少しだけ余韻に浸って。
「待ってよ、拓磨!」
鞄をひったくる様に持てば駆け足で拓磨の後を追いかける。
帰り道、二人でポッキーを食べながら帰るために。
――――
思いのほか、長くなって吃驚。
拓磨はね、ほんと男の子だなと思う。うん。可愛い←
悟った。これ、残るの6つのCP全部書くの結構時間がかかるわ。
名前。【 緋色の欠片 / 真弘×夢主←祐一 】
まだ暖かい春の日に、真弘がいつもの遊び場へ、黒髪のショートの少女を連れてきた。
よろしくと、笑いかける彼女は間違いなく自分たちとは違う、れっきとした人間。
祐一は、それが自然なことであるように、少女に対して苦手意識を抱いた。彼女は、薄汚れている獣である自分とは違う、暖かな日差しのような子供であったから。
幼い頃から祐一は、自分は人とは違う存在だということに半ば気づいていた。守護者という役目がなければ、人間たちから迫害されてしまうのだということも。
真弘とその少女がどういう経緯で知り合ったのかは知らない。けれど、彼女も本当の己らを知れば直ぐに手のひらを返して逃げるのだろう。祐一はそう思っていた。――あの時までは。
夕日が照らす帰り道。真弘と少女がはしゃぎながら帰る様子を祐一は後ろに付いて歩きながら見つめていた。時に怒り、時に笑い。ころころと表情を変えていく少女をぼんやりと見ていた祐一は、足元の段差に気づかずに転んでしまった。
不格好な転げ方。ついでに音も聞こえたのか真弘と少女はすぐに気がついた。
「なーにやってんだよ祐一」
けらけらと馬鹿にしながら近づいてくる真弘だが、さほど祐一は気にしない。いつも優位に立ってからかっているのは自分であるし、真弘もそんなつもりはないということもわかっていたから。けれど、背後から追いかけてきた少女がぽかりと真弘を殴った。
「ばかっ。ちょっとは心配してあげなさいよ」
「っい……。おいこら、スゲェ力で殴ったろ今」
後頭部に手を当てて、目を潤ませながら睨む真弘に少女は鼻を鳴らしてあしらい、座り込んだままの祐一の目の前にしゃがみこむ。
「大丈夫?」
「平気だ。こんな傷……」
「え、……っあ」
少女は、視線を落として声を上げた。視線の先にあるのは、地面で擦って滲んだ祐一の膝。しかし、今では出血はほとんど収まっており、もう直ぐで塞がりそうだった。
――人間とは違う血を持っているという証拠。自分が獣である証明。
「俺たちは人間とは違う。直ぐに治る」
少女は、黙り込んだままだった。
ありえない現状を目の前にして、何思っているのだろうと顔色を伺うように祐一は下から覗き込む。驚きか、怯えか。けれど祐一が一瞬だけ見えた少女が浮かべていた表情は、祐一の予想をはるかに上回るものだった。
(泣い、て……)
少女は少しつり上がった形をした大きな目に、涙を溜めていた。初めての反応に祐一はいつもの冷静さを忘れて表情に焦りを見せる。
「そんなこと、言わないでよ……」
少女がポケットから取り出したのは白いハンカチ。それを、すっかり傷跡のない祐一の膝へ巻きつける。見えない傷があるかのように優しく締めた。
ぽたりと涙が地面に落ちる
「あんたはちゃんした人間だよ。あたしが言うんだもん。絶対だよ!」
涙を拭うことも忘れて、一直線に見つめてくる暗い青色の瞳に祐一は言葉をなくした。
流れる沈黙に、砂を踏みしめる音が聞こえた。気付けば真弘が少女の後ろに立っていた。真弘がそっと艶やかな髪を撫でると少女は弾かれたように立ち上がって真弘に抱きつく。
勢いが良かったせいか、少しバランスを崩す真弘だが直ぐに体制を直ししっかりと受け止める。
真弘の腕の中にいる少女の体は、嗚咽こそないが小さく震えていた。
「……な? びっくりしたろ」
まるで自分でそうであったかのように、真弘は苦笑いを浮かべながら告げた。
その合間にも子供をあやすように、少女の頭を真弘は優しく撫でる。
「まっすぐに見てくれるんだ、俺たちのこと。こんな奴、早々いねーよ」
少女に寄せていた視線を祐一に向け、口を弧の形にする。そうして、漸く祐一は理解する。真弘が何故少女を、玉依に関係のない人間の女の子を連れてきたのかを。
祐一は、何も言わずにその場に立ち上がる。膝に巻かれたハンカチが暖かい。
真弘の方へ近づいて、少女の傍に立つ。撫で続けていた真弘の手が少女の頭から退いたのと同時に代わりに祐一の手が少女の髪に触れた。優しく、壊れやすいものに触れるかのように。
僅かに頭を撫でる感触が変わったことに気づいたのか、真弘の胸から顔を上げる少女。目の下は痛々しく腫れていて、顔を伏せていた真弘の服の箇所は濃い色に変わっていた。
自分のために、こんなにも泣いてくれたのかと祐一は不謹慎だと思いながらも嬉しくなる。こんなこと、初めてだった。
「……どうしたの」
ぽつりと問いかけられて、祐一はなにを話そうか決めていなかったことを思い出す。僅かに顔を伏せて考え込んでいると、少女からの視線を感じた。
ふと、大事なことを思い出す。
(……あぁ、そういえば)
――名前を聞いていなかったな。
祐一は、必要最低限の人間の名前しか覚えない。だから、彼女も初めて会った時に名前を教えてくれていたのだろうが、祐一の頭の中には止められていない。
けれど、今度は必ず記憶にとどめておこうと祐一は決める。この、他人のために泣く優しき少女の名前を。
「お前の、名前はなんだ?」
覚えていないということを不快に感じたのではないかと、祐一は少し不安に思う。けれど少女は、そんなこと気にしていない様子で、むしろ驚いたように目を見開き、やがて笑顔を浮かべた。――それは、祐一にだけに向けてくれた初めての笑み。
「あたしの名前は、黎っ!」
先ほど泣いていた時の雰囲気を吹き飛ばすように元気よく告げられた名前。とくりと、祐一の胸が微かになった気がした。
思えば、あの時は初めての連続だった。
初めて、自分のために泣いてくれる存在が居ることを知った。
初めて、自分たちとは何の関係もない人間の名前を知りたいと思った。
初めて、誰かと――この少女と一緒にいたいと思った。
祐一が、少女を好きになるのに時間はかからなかった。けれど、惹かれていくたびに祐一は気づく。少女は、自分ではなく別の誰かに惹かれているのだということを。それが、――自分の無二の親友であり、彼女に想いを寄せている真弘だということを。
けれど、祐一はそれで構わなかった。何よりも大切なふたりが幸せでいるのならば、それで十分だと。――ただ、欲を言うのであればいつまでも、この先ずっと。彼女の幸せを守っていたい。彼女の隣で。
「黎」
「ん、何さ。祐一」
振り向くと同時に揺れる黒髪。あの頃とは違い、腰まで伸びている綺麗な髪。それを束ねているの緑色の結紐。
これだけでも、彼女が自分でない相手を好きなことが分かる。
「黎」
「だーから、何さって聞いてるじゃないかい」
むくれる頬。思わず祐一は笑みをこぼす。
――愛しい。愛しい。だから、守りたい。
「ただ呼んでみただけだ」
「なにそれ」
目の前の少女はぷっと吹き出した。それを、祐一は目を細めて見つめる。
――黎。
愛しい存在を、祐一は今日も呼ぶ。
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某サイトに載せている本編の、番外編の番外編()
ポッキーゲーム?…知りませんよそんなの。
彼女を綺麗にする魔法。【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
窓際の自分の席で、頬杖をついて黒色のケースから覗く、薄紅色のそれを見て溜息をつく。先ほどクラスメイトから、間違えて買ってしまったからと譲り受けた口紅だ。本当、正直に言えば、自分に口紅など洒落たものは似合わないと自覚している。憧れる気持ちもないわけではないけれど、まだ自分には早いような気もするから。
でも、付けてみたいという気持ちがないわけではなくて。幸い、どキツイ赤色だとかそんな色ではなく淡いピンク色だからつけてもそんなに目立ちはしないだろう。
(それに――)
ふと、ある顔が頭の中に浮かぶ。背丈に反して、ガキ大将のような尊大な態度。それでも、常には私たちを大切に思ってくれる私の彼氏。
……して、恋人になる前から気づいていたけれど、あの人はどうやら、大人の女性、というものが好みらしい。時折、観光でやってくるそんな女性たちに見とれていることを彼女である私は知っている。鼻の下を伸ばして見つめる彼を、私が妬ましい目で見つめていることには気づいていないだろうけれど。
(私なんて、まだまだだし。……先輩から見れば子供なんだろうな)
でも。もし、この口紅をつければ先輩が好きな大人の女性とやらに近づけるのだろうか。
そんなわけ無いというマイナスな気持ちと、もしかしたらというプラスの気持ちが私の中で反発し合って――。
……結局、長い戦いの末、期待の気持ちが勝ってしまったようで鞄の中から、いつも持ち歩いている手鏡を出して自分の顔を移す。慣れない手つきで危なっかしくしながらも唇に薄紅色を載せ終わる。
一瞬、鏡に映る自分が大人になったような気がしたけれど、改めてみればお世辞にもすごく可愛いとは言えない自分の顔があった。綺麗になったなんて、人には言えない恥ずかしいことを考えてしまった自分に私は苦笑いを零した。
これがまた出てくることはないんだろうなと思いながら口紅に蓋をしてポーチにしまう。結構人気の会社から出たものらしいけど、私にはやっぱり早すぎたようだ。少しもったないと思ったけれど、似合わないものは仕方がないと思う。
こんな姿を誰かに見られたくなくて、誰かに見つかる前にと早々に教室に後にする私。でも、そう上手く誰にも合わずに下校できるわけも無くて――。
「お、珠紀。まーだ、残ってたのかよ」
「……真弘、先輩」
階段を下りたところで、遭遇してしまった。一番会いたくないと思っていた真弘先輩に。
彼のことだから、ストレートに似合ってないとか言われるだろうなとは思っている。でも、やっぱり本当に言われるのと予想するのとは全く違って。だからこそ、傷つく前にと思っていたんだけど……。目線がどんどん下がっていくのが分かる。
「なんだよその、会いたくなかったのに的な顔は」
「いえ、なんでもないです」
本当にそう思っていただけであって、ストレートに言い当てられてしまえば居心地が悪くなるのは当たり前で。この人、意外に鋭いんだよねと思いながら口元を隠すために顔を背けた。
正面に立っている偉そうな先輩様は、この場からいなくなる気配はなく、どういう訳か視線を送り続けている。
(……もしかして、口紅、バレてる?)
これでも淡い色のものだし、よく見られない限りは大丈夫だとは思うんだけど。……ここは、平然を装って逃げるしかない。
「それじゃ先輩。さようなら」
顔を戻して、ペコリと頭を下げて颯爽と靴箱の方向へ一直線向かう。
けれど、すれ違い際に腕を掴まれたせいで足がぴたりと強制的に止まる。
「……なんですか?」
「お前、口になにかつけてるか?」
びくりと肩が揺れた。動揺しているのがバレバレだ。こんなの、そうですと肯定しているようなものでしょっ、と相変わらず演技下手な自分に腹が立ってくる。
でも、もしかしたら気づかれていない可能性もあるし……私は、そのまま覚えのないふりを装うことに決める。
これ以上、顔を背け続けても違和感有り余るだけだろうから思い切って顔を真弘先輩の方に向けた。
「そうですか? 先輩の気のせいじゃないんですか?」
にっこりと、頬を上に上げることを意識する。上手く笑えているかどうかは、鏡を見ないとわからないけれど。
正面から受けるのは、探るような目線。ここは、すぐ逃げるのが一番!……なんだろうけど、用心を越してか私の腕は先輩の手に掴まれたままだ。
「あの、先輩。離してもらえませんか」
「嫌だ」
「え」
「嫌だ」
容易く離してもらえるとは思ってなかったけど、そう断言されては逆に私のほうが吃驚だ。というよりも、先輩の眉間にシワが寄っているような気がするのは気のせい?なんだか、不機嫌そうな……。と、冷静に観察していれば先輩の右手が私の顔に伸ばされる。
「!?」
伸ばされた手が、何処に向かうのわからないまま反射的に目を閉じる。それが、一番不安を煽るものだと気づくのは目を閉じたあとだ。すぐに目を開けるのもなんだか変だし。本当に、私馬鹿と内心で叱咤する。もう頭のなかはぐるぐるだ。
ふに。何かが唇に触れた。そして、何かを拭き取るように動いたあとそれは直ぐに離れた。恐る恐る目を開けると、先輩は目の前で自分の親指を見つめていた。
「あっ……」
先輩の指は、淡いピンク色で色づいている。もしも、さっき唇に触れたのが先輩の指ならば――と、そこまで推理してさっと血の気が引いた気がした。もう、完全にバレてしまった。
「やっぱ、つけてるじゃねーか」
親指を見つめて、何を思ったのかひとつ溜息をつく。そして、上げていた腕をもう片方の腕と一緒に胸の前で組み直す。
「さっさと白状すりゃよかったじゃねーか。……それともあれか、先生にバレそうだったからか?」
いつ、あの言葉が飛び出してくるのかドキドキしながら待ち構える。でも、いくら身構えたってあの言葉が耳に届けば私はきっとこの場を駆け出していってしまうような気もした。
下で組んだ手が震えている。
「別に告げ口なんて、真似は俺はしねぇよ。……じゃあ、なんでお前黙ってたんだよ」
けど、その言葉はいつまで経ってもやってこない。先輩は本気で分からないという態度をとり続けている。――なんで。いつも鋭い時は鋭いくせに、どうしてこの人はこんな時だけ鈍いのだろう。
不安や、焦りの気持ちがだんだんと怒りにへと変わっていく。
先輩が、また口を開こうとして、それにかぶせるように私は言った。
「先輩にっ、似合わないって言われると思ったから……っ」
スカートを掴む手が震えているのが分かる。目の前で、先輩が驚く気配がした。
一度出した本音は、止まることを知らずに私の気持ちに反して口は動き続ける。
「友達からリップを貰って……、これをつけたら先輩好みの大人な女性になれるかなって思って。でも現実は、そうじゃなくって。……中途半端な私を、見られたくなかった」
口紅は、子供を大人に変えてくれる魔法の道具だと思い込んで。でも、結局はそんなことはないわけで。大人になりたくて背伸びして、結果不格好になってしまった私。そんな時に、似合わないって言われたらどうだろう。きっと私は泣いてしまうに違いなかった。
「――――お前ってやつは、……本当に」
うっすらと目に涙が浮かぶ。滲んだ視界で、先輩が額に手を当てて溜息をついているのが見えた。呆れられてしまったかもしれない。こんな小さな問題に悩む私を。視線が下に向く。こらえていた涙が頬に落ちそうになって――くしゃりと頭に触れる温もりがあった。
「せん、ぱい」
顔を上げると、そこには呆れた表情、ではなく困ったようなそんな笑みを浮かべる先輩がいた。何度も優しく頭を撫でるから、涙腺がどんどん緩んでいって目からこぼれた涙が頬を伝っていくのを感じる。
「あのな。俺がお前に惚れたのは容姿が好みだったから、だとか思ってんのか? お前は、容姿が好みだから俺を選んだのかよ?」
慌てて首を横に振る。そんなわけない。そりゃ、私としては身長が高いほうが好みだけれど……真弘先輩を好きになったのは、私が彼の強さに憧れて惹かれたから。そして、見え隠れする弱さを支えたいと思ったから。
「違うだろ?……俺も同じだ。まぁ、気になるようになったきっかけは容姿が、とかそういうのだったかもしれねぇけど……俺は、お前の真っ直ぐなところか諦めないところとか。そういうところを好きになったんだよ」
いつもは聞けない先輩の本音に目を丸くさせる。そして、安心した。先輩はちゃんと私を見てくれてるんだとわかったから。
「だから、大人っぽくなくって子供でも。化粧が似合わなくっても俺は気にしねぇ。だって俺は、そのままの珠紀に惚れたから」
胸の中にあった不安が溶けていく感覚がする。この人はいつもそうなんだ。いざという時には、すごく頼りになって私を支えてくれる。だから、そんな彼に見合う人になりたいと私はずっと思っていたんだ。
「……っ、おら、帰るぞ!」
今更、顔を赤くさせた先輩はくるりと背中を向ける。ちらりと見えた耳まで赤くなっていることに私は気づく。
(あぁ、もう、好きだな)
知らず知らずに頬が緩む。
「先輩っ!」
「ちょ、まて、抱きついてくんな馬鹿!」
嬉しくなって背中に抱きつくと、照れ隠しか大声を上げる先輩。それも構わず、私はぎゅっと抱きしめた。
「あー……言い忘れてたが」
「はい? なんでしょう」
雪の積もる道を二人肩を並べて歩く。
ずっと静かだった空気に、先輩の声が溶け込む。
「さっきの、……似合ってたと思う」
「え」
頬を赤くさせながら言うものだから、伝染して私の頬も熱くなるのを感じる。
さっきの、とはリップのことだろうか。
「けど! 俺以外の前で付けんなよ」
――……それ以上、美人になられたら俺が困る。
「せん、ぱ……」
それ以降、帰り道が無言になったことは仕方がない。でも、その沈黙は今まで以上に穏やかなものだったと私は思う。
彼女を綺麗にする魔法。―another―【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
「珠紀。綺麗になったな」
「……おいこら、彼氏様のまえでなんつーこと言い出すんだお前」
屋上で、おかずの取り合いの戦いを繰り広げる後輩をぼんやりと眺めていればとなりから聞こえてきた淡々とした声に、真弘は口の中の牛乳を吹き出しそうになる。それをなんとかとどめて、顔を向けると当の本人は涼しい顔で屋上の中央に目を向けていた。
「俺は、本当のことを言っただけだ」
「そーかよ」
その裏は何を思っているのか。この幼馴染は中々顔に出さないのが非常に厄介だと真弘はつくづく思う。
(……綺麗、ねぇ)
胡座をかいた膝の上に頬杖を付いて話の中心人物を見つめた。
(確かに、綺麗になった気はするな……)
風が吹くたびに流れる茶の糸。顔立ちは元々いい方だけれど、最近はもっと綺麗になったと思う。それに、ころころと変わる表情はすごく――。
(って、俺は何を考えてんだ)
見とれかけていたことに、はっと我に返って気づく。全ての思考を追い払うように首を振る真弘に、祐一はただじっと目線を寄せる。
「知ってるか、真弘」
「あん?」
「女性というものは、恋をすると美しくなるのだそうだ」
「それって、どういう――」
はたと、動かしていた口を止める。漸く祐一の言おうとしているモノを理解した真弘の頬はあっという間に色づいた。
「……そういうことだ。よかった真弘」
「うっせー。黙ってろ、馬鹿」
そう言い捨てると祐一は、本当に黙り込む。続いて寝息が聞こえてきたから昼寝に入ったのだろうと真弘は推測した。
(恋をすると、か)
それは、つまり。彼女が綺麗になっているのは己という存在があるからということ。
正直に言えば、もとより人気のある彼女がこれ以上綺麗になると狙う男も比例して多くなっていく。その分、真弘の気苦労も増えていくのだが。
(……まぁ、悪い気はしねぇな)
ふと、内心微笑んだ。
リップ騒動を終えた帰り道。いつもだったら学校でのことを楽しそうに話す珠紀だか今日に限って黙りこくっている。真弘としては、一緒にいられるのならばそれで満足なのだが……ちらりと、珠紀の口元を盗み見する。その唇は、淡いピンクで色づいている。
(……こんなもんつけた日には、俺の苦労が増えるって事になんで気づかねぇんだコイツ)
でも、それは彼女が鈍いからだろうと疑問自答をする。
(リップなんてもん、お前にはまだ必要ねぇだろ)
――恋は、女をキレイにする。
そうであるならば――。
(お前には、俺がいりゃ十分だろーが)
口紅だなんて、魔法の道具がなくっても。自分自身が魔法をかけてやればいい。
けど、本人にそのまま伝えられるほど真弘に度胸があるわけでもなく。でも、ひとつだけ言っておくとすれば――。
――あー……言い忘れてたが。
――さっきの、……似合ってたと思う。
――けど! 俺以外の前で付けんなよ。
――……それ以上、美人になられたら俺が困る。
おまけ。
リップ騒動後のある日の屋上。
「そうだ。ひとついいことを教えてやろう珠紀」
「なんですか。祐一先輩?」
「実は、今日――」
『二年にさ、春日珠紀っていう女子いるの知ってるか?』
『知ってる知ってる。すげー美人だよな』
『彼氏いんのかな。いなかったら俺が貰っちゃおーかな』
がたんっ。
『お、おい鴉取?』
『珠紀は、俺のもんだ!! 奪いたけりゃ、俺様を倒してからにしろっ!!』
「という感じにな」
「……私、もう3年の教室に行けません」
「けれど、あの照れ屋な真弘がああまで言ったんだぞ」
「それもそうですけど――」
「おーすっ。真弘先輩様の登場だぜ。……って、どうした、珠紀」
「先輩のばかっ!」
「え、ちょま、どうした。たま――」
はっ。
「お前か。お前だな、祐一!」
「俺は何も言っていない。いったとするならば、今朝の教室での出来事を――」
「言ってるじゃねぇかっ!!」
一週間ほど、真弘を避け続ける珠紀の姿と、それを生暖かい目で見つめる3年生がいたとかいなかったとか。
(俺のもの、って。……なに、公の場所で言ってるんですか! 先輩のばかっ!)
実は、珠紀も嬉しがってたりとか。
――
口紅という簡単なお題をもらい、短編にするつもりがこんなことに…。
支部にあげるときは、珠紀目線の方をもう少し題名に関連するように推敲します。でも、今のところは満足です。
Difference 【 緋色の欠片 / 拓磨×珠紀 】
例えば。
風になびく茶色の髪であったり、
大粒の輝いている瞳であったり、
止まることなくしゃべり続ける口だったり、
コロコロと変わり続ける表情だったり、
自分よりも、頭一つ分小さい身長だったり、
小さい歩幅で自分についてくる足だったり。
ふとした瞬間に、隣にいる人物を異性だと感じる。
異性である分、考え方もそれぞれ違ってそれに困ることはあるけれど――。
「あ、見てみて拓磨。粉雪降り始めたよ!」
足を止めて空から舞い落ちる雪を見上げる珠紀。嬉しそうに、楽しそうに緩められる頬。どきりと胸の鼓動が一段と強く鳴る。
「…っ冷た」
「そりゃ、顔を上に向けているからだろ」
「だって、雪なんて滅多に見たことなかったから」
雪が顔に触れてその冷たさに驚いて顔を戻す珠紀をくすくすと小さく声を立てて拓磨は笑う。不機嫌そうにうがめられた顔には、雪が溶けて水になったものがついている。それを指で拭いてやると、一瞬だけ動きを止めて顔を横に逸らしてしまう。
戦いのさなかでは、あんなにも強く凛々しかったのに。今、拓磨の目の前にいるのは頬を僅かに赤らめて恥ずかしがるひとりの女の子。
可愛くて、愛しくて、どうしようもなく――。
「――好きだ」
「……え?」
「……あ」
思わず呟いてしまった。
逸らされていた顔は真っ直ぐに拓磨の顔を見つめて、その表情は驚きに満ちていると言わんばかりに瞳は大きく開かれていた。
(な、……何言ってんだよ俺!!)
声に出そうとは思っていなかった本心が口の中から飛び出したことに拓磨の頭の中は一瞬にして真っ白になる。
熱の感じる顔を、今度は拓磨がおもいっきり背けた。横からはじっと見つめる視線があるが拓磨はそれにさえ気づかないほど頭の中でいろいろな考えを巡らせる。
(大体、付き合ってもないやつにいきなりこんなこと言って――。まぁ、いつかは言うつもりだったけど、なんでこんなタイミングで――)
「ねぇ、拓磨」
額を抑えて、怪しげにぶつぶつと呟き続ける拓磨の裾を細い指が軽く引っ張った。思考の海から浮上した拓磨は、ゆっくりと珠紀の方に顔を向けて呆然とする。
珠紀の表情は、幸せに満ち溢れているような、そんな笑みを浮かべていたから。
「私も、拓磨のこと好きだよ。大好き」
僅かに桃色のマフラーに顔をうずめさせて、寒さのせいかはたまた別のことが原因なのか、頬を赤らめる少女はどうしようもなく――。
「……ほんと、お前には敵わない」
「え、拓磨どうしたの!?」
再び額に手を当てる拓磨に今度こそ珠紀は驚く。視線を地面に向けている間、隣からは失敗しちゃったかなと、不安げな呟きが聴こえてくる。
本当は、振られるとしてもちゃんとした告白をしようと思っていたのに自分の不注意で思わぬ場面で本音を暴露することになりどうしたものかと悩んでいたはずなのに。
『私も、拓磨のこと好きだよ。大好き』
さっきの一言で、そんなもの一瞬にして吹き飛んでしまった。代わりに胸の中からじんわりとした温かいものが上がってくるのを感じる。
「お前ってやつは……」
「拓磨……?」
「ほら、帰るぞ。このままじゃ風邪引く」
顔を上げた拓磨は、そう言って促する。以前と一つ違うのは、言葉とともに差し出された左手。
珠紀も気づいたのか、不安そうな顔から一変してふわりとした笑みに返る。
右手でその手を取って、序でに指を絡めて所謂恋人つなぎというものをすれば、隣の顔は僅かに赤らんでいた。
二人で手をつないで帰る何時ものとは違う帰り道。
雪で気温が下がって寒い中、つないだ手だけが暖かかった。
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…あ、あれ?書きたかったものとなんか違う。
本当は、「ふと瞬間に恋に落ちるふたり」みたいなやつを書きたかったんだけど、途中で路線変更されたわ。←
まぁいいや、また挑戦しよう。いつか。
拓磨と珠紀ちゃんのCPはこういう、初々しい恋愛がにあっていると思う。唯一の同世代だし。(遼は…まぁ、留年してなかったらひとつ先輩だから)
慎司君と珠紀ちゃんのCPも似てるけど…こっちは、どっちかが引っ張って――みたいなイメージ。
だから、拓珠は同等っていうのかな。いい仲間であり、恋人であり。…言いたいことわかる?笑。
小さな願い。【 緋色の欠片 / 珠紀←おーちゃん 】
「……どうしたらいいんだろうね、私。……どうすれば、いいんだろう」
僕の体に顔をうずめる珠紀。ちょっとくすぐったくて抜け出そうとしたけれど、冷たいものを感じて動きを止めた。また、泣いてる。
「にー……」
泣かないで。言葉にしようとしても、耳に聞こえるのは弱々しい鳴き声。
珠紀は顔を上げた。痛々しく目元は腫れていて、涙がまだ頬に残っている。でも、「何、おーちゃん」と僕に心配をかけないように笑みを作る。
ちろりと涙が残る頬を舌で舐める。くすぐったそうに聞こえる声がするけれどやめなかった。
泣かないで。笑って。僕は、貴方の笑顔が好きだから。
僕の舐める動作は、珠紀が僕を抱き上げたところで止まった。また見たその顔はさっきよりかは元気があった。
「ありがと、おーちゃん」
小さく聞こえてきた言葉に胸が熱くなる。言葉にしなくても届いたものに、嬉しくなった。
珠紀は、僕のご主人様だ。けど、それ以上に守りたい人。ほかの人が、役目なんかなんか関係なく珠紀を守りたいと思うのと同じように。
力になりたい。僕の体は小さくて、弱々しくて。頼りにならないかもしれない。置いて行かれたのもわかってる。
でも、貴方が好きなんだ。その証に、おーちゃんと呼ばれるたびに胸が暖かくなるをいつも感じるんだ。
この気持ちを届けることはない。僕が願うのは、あなたが幸せそうに笑う顔。だから――。
『貴方に忠誠を玉依姫。貴方に、僕の力を』
どうか。自分の力で、僕の力で。貴方の幸せを、貴方の大切な人との未来を掴み取って欲しい。
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緋色の欠片ドラマCD発売だぜ、ふぅぅぅぅぅっう!!←
早く聞きたいけど、一応クリスマスプレゼントとして買ってもらったので、25日まで聞けない。(´・ω・`)
…まぁ、その間に発売おめでとう小説をつらつら書こうと思います。
今回のは突発的なおーちゃん視点のやつ。初めてだよ、おーちゃん視点なんて…おーちゃん可愛い、可愛いよ。
実は、人型より妖姿の方が好きだったり。
天然小悪魔とクリスマス【 緋色の欠片 / 真弘×珠紀 】
頬に落ちた冷たい感触。赤いマフラーに埋めていた顔を上げれば空からちらちらと雪が舞い降りていた。
「雪降ってきましたね」
「だな。この調子だと、明日になりゃまた積もってるだろ」
少しずつ量を増していく雪を見上げて、雪かき面倒くせー、とネギの覗くビニール袋をがさりと鳴らし真弘先輩が愚痴をこぼす。雪掻きの大変さは、数日前に身を持って知っため私は苦笑いを返すしかない。
「でも、ホワイトクリスマスですよ。素敵じゃないですか」
「ホワイトクリスマスー? んなもん、毎年雪が必ず降る季封村だからなー。クリスマスの日に雪降るのはいつものことなんだよ。お前も、いつしか雪なんて嫌だーとか思うようになるぜ?」
ほとんど都会ぐらしだった私にとって、ホワイトクリスマスなんて数年に一回しか経験がない。だからこそ、今日は雪が降って良かったと思うのだが、先輩はそんなこと微塵も感じていない様子だった。
ロマンチックのロの字もない発言に、む、と唇を尖らせる。
(……そりゃ、ずっと住んでたんだから仕方がないと思うけど。恋人ができて初めてのクリスマスなんだから、少しくらい浮かれてもいいじゃない)
真弘先輩と敢えて目線を合わせないようにして、ブーツで雪を蹴り上げるように歩きを進める。――少しぼんやりしていたのが、ダメだったのかもしれない。雪の中に突き刺さったブーツのつま先をそのまま上に上げようとしたけれど、上がらず、勢い余って後ろに体が傾いた。
「あっ……」
気づいたときにはもう遅かった。後ろは雪とは言えども、新雪ではない。多少の痛みを覚悟して、ぎゅと目をつぶった。
一秒、二秒。覚悟した痛みはいつまでたっても訪れない。三秒、四秒経ってようやく異変に気がついて目を開けた。
「ったく、ほんっとに危なっかしいな。お前は」
目の前に広がるのは、真弘先輩の呆れ顔。状況が頭に追いつかず、私は瞬きするしかない。
時間が経つにつれて、ようやく頭も回るようになってきた。
感触ではあるが、背中に先輩の腕らしきものがあるというところから、後ろにひっくり返りそうなところを先輩が助けてくれたんだろう。
「足、捻ってねーな」
「は、はい」
「それじゃ、起こすぞ」
ゆっくりと先輩の腕が私の体を起こす。私の両足がしっかりと地面についたのを確認して、先輩の腕は背中から離れていった。
「だから言ったろ。ぼーっとしてんなって。ただでさえ、お前は雪道になれてねぇんだから」
「す、すみません……」
先輩の口からこぼれた溜息に、体を縮ませる。考えていた事の中心が、真弘先輩だったとは言えども今のは完全に私の不注意だった。申し訳なさやら、情けないやらで視線がどんどん下の方向へ向いた。
「……ごめんなさい」
顔が下の方向へと向き、私の口から謝罪の言葉が再度飛び出す。横からまた溜息のような息の音が聞こえて――次の瞬間、頭に何かが置かれた感覚があった。
(え?)
それは、二、三度私の頭を優しくなでる。慌てて顔を上げれば、先輩の手が私の頭の上に置かれていた。
私を見つめる、二つの緑の瞳は優しく細められている。
(……あぁ、そんな目をしないで欲しい)
真弘先輩は、子供っぽくて、全然年上らしくなくて、俺様で、わがままで。そんな人じゃないといけないのに。
たまにこうやって、慈しむような、そんな顔をされたら私は急に自分が子どもっぽく思えてしまう。どう反応すればわからなくなる。
「ほんと、お前は目が離せない。……きっと、これから先。毎年のように、転びかけて。俺が助けて。それの繰り返しなんだろうな」
「先輩?」
頭を撫でていた手が、ゆっくりと頬に下りてくる。手袋をしていなかったせいで冷たくなった手が頬に触れるものだから肩が跳ねた。
優しく撫でる少し骨ばった手に、段々と頬が熱を帯びるのを感じる。
いつもと違う雰囲気に、恥ずかしくなる。
「せ、せんぱ――」
「どーせ、恋人と過ごす初めてのクリスマス……なんて考えてたんだろ?」
「う……」
「図星かよ。ほんっとに、わかりやすいな。お前は」
見事に言い当てられて、反撃もできずに言葉を詰まらせる私を先輩はケタケタと笑う。
確かに、その通りだけど先輩に笑われるのがなんか気に入らなくって、頬の手を避けようと手を挙げたところで、先輩のもう片方の手がそれを阻止する。
「初めてだから、何かがあるとか。んなこと考えなくってもいーだろ。これからずっと一緒のクリスマス過ごすんだから」
優しく絡められた手。頬に添えられた手。私を見つめる瞳は、微かに熱を含んでいるようにも見える。
いくら周りから鈍いだの、天然だのと言われた私でも、今どうすべきなのかはちゃんとわかってる。
先輩の顔が近づいてくると同時に、瞼をゆっくり締めようとして――。
「珠紀、真弘」
「う、うぉぉぉぉおおおっ」
「きゃぁぁあああっ!」
先輩の声に合わせて、思わず声を上げる。いつの間にか、私に触れていた手は離れていて、そこだけ暖かかった。
「ゆ、祐一っ!? なんでお前がここに……」
「買い物にいったふたりの帰りが遅いと美鶴に言われてな、迎えに来た。みんなで」
「みんなで? でも、祐一先輩しか――」
「あ、せんぱーい! 迎えに来ましたよー!」
私の声にかぶせるように、男の子にしては少し高めの声が響いた。少しだけ体をずらすとこっちに向かって手を振る慎司君。更には、拓磨や、卓さん、遼の姿まである。
「な、なんでお前らが……。つーか、全員で迎えに来る必要性はなかっただろ!」
「もしものことを考えてですよ、鴉取くん?」
「お、大蛇、さん……」
先輩の反論も、見事に大蛇さんに言いくるめられてしまった。
――結局。二人での買い物のはずが、全員で帰宅することになってしまった。
「ったく、いいところだったってのに……」
「いいところって、なんのことスか?」
「っ、なんでもねーよ。拓磨、一発殴らせろ。なんなら狗谷でもいい」
「な、理不尽っすよ!」
「俺を巻き込むんじゃねぇ!」
前方で、夜だというのに騒ぎ立てる三人組。右隣では、ひっそりと苦笑する慎司君が。左隣では、近所迷惑ですよ、と注意をする卓さん。さらにその横では、何も言わずに傍観する祐一先輩。
(……なんだかなぁ)
せっかくいい雰囲気だったのに、みんなが来たことで甘いものが一気に拡散した感じがした。
滅多にない甘さ。今日のようなイベント日だからこそ――と期待していた分、堪能できなかった分の落胆は大きい。――でも、だからって簡単に終われはしない。
荷物のない、身軽な体で雪道を駆けた。
拓磨に拳を受け止められて、不機嫌そうに吠える真弘先輩の横に立つ。
「先輩」
「あ、珠紀。な――」
ちゅ。
「―――!?」
「な……」
それは、一瞬のことだったと思う。私が、こっちに向いた先輩の唇に自分のを重ねた途端、周りの動きが停止した。
顔を離すと先輩の顔は林檎に負けないくらい真っ赤だった。
「な、ななな、お、おまっ……」
「確かに、クリスマスは毎年まりますし、きっと先輩とずっと一緒に過ごしていくんでしょうけど。今の私たちで過ごすクリスマスは今年だけなので、今感じられることを精一杯感じていたいんです」
言っている傍から、だんだん恥ずかしくなる。クリスマスだからということで、いつもは絶対にしないような、みんなの前でキスをするということをやってみたけれど、頭が冷えてみればすごくとんでもないことだったような気もしてくる。
「えぇっと、だから……その。め、メリークリスマス、です。先輩」
それを言うわけでも一杯一杯になってしまった私は、その場を駆け出し、一足先に家の方向に向かう。
(うぅ、恥ずかしい……。でも、できた)
恥ずかしさのほうが大きいのは確かだけど、満足感もある。少し機嫌をよくして足のスピードを緩めた私は、その後ろで、何が起こっていたのか予想することもできなかった。
―――
メリークリスマス!ってなわけで、久々な真珠。真弘先輩がリードしているようで、最終的には、珠紀ちゃんに振り回してもらいました!
天然小悪魔な珠紀ちゃんいいよね!そして、誰が相手だろうと珠紀ちゃん至上主義な守護者様たちも大好きです。
ともあれ、よかったね。真弘先輩。寸止め終わりじゃなくって、笑。
1/2マフラー。【 緋色の欠片/真弘×夢主 】
※診断メーカー「寒いね、と言うと○○されったー」より。
「うぅ、寒い……」
校舎から出ると、北風が一気に体の体温をかっさらう。コートも、手袋も、マフラーさえも家に置いてきたあたしは、あまりの寒さに腕で自分の体を抱きしめた。
「だから、何かつけてこいって言っただろーが」
「平気だと思ったんだよ」
後ろから付いてくるように出てきた真弘の首には、浅葱色をした暖かそうなマフラーが巻かれている。
羨ましそうに見ていれば、大げさにため息をつかれた。
「何が原因かわからねぇが、この2年は冬にしては暖かかったし、お前は、6年も都会の方にいたから忘れてたかも知んねーけど。これが季封村本来の寒さだぞ」
「そうは言ってもさー」
頭に残るかすかな記憶によれば、幼い頃の自分は雪の中だろうが防寒具一つ付けずに走り回っていたような気がする。だから、今日も大丈夫なのだと思っていたけれど、予想は大外れ。
もしかして成長したせいで体の中で熱が作られなくなってしまったのかもしれない。
(……年取ったねぇ)
我ながら、年寄りじみたことを考えるなと思った。
「猫は寒さに弱いんじゃなかったか?」
「……そのせいもあるのかね」
今年の秋に覚醒した、あたしの中に眠る猫又の血。
最近、妙に肌寒く感じるのも、温かいお茶がすぐに飲めなくなったのも、それのせいなのだろうか。
一瞬、そんな馬鹿なと考え直すけれど、遼のあの本能に従順なところを思い出して、やっぱりそうなのかと、結論づけた。
「にしても、あー寒い。早く家に帰りたい……」
スカートにポケットがないことが恨めしい。指先が赤くなってしまった両手をすり合わさせる。けど、いつまでたっても暖かくならず、いい加減諦めてさっさと帰ろうと思ったとき、ふわりと首元に暖かさが戻った。
驚いて首元を見れば見慣れた浅葱色が。続いて真弘のほうを見ると、首元にあったはずのマフラーは手の中にあった。
「ちょ、あんた、なにして――」
「ちょーっと黙ってろ。すぐ終わる」
本当に煩そうに言うものだから文句言わずに素直に黙り込む。
真弘は、長めのマフラーを何回かあたしの首に巻きつけたあと、少しだけあたしとの距離を縮めて今度は自分の首にマフラーを巻き始めた。
思わぬ展開に目を丸くしている間にマフラーは巻き終わり、仕舞いにはあたしの右手を左手で掴んでそのまま自分のポケットに突っ込んだ。
「これでよし」
「これでよし、じゃないって!」
達成感あふれる真弘の言葉に突っ込みを入れながら、ポケットから手を抜き取ると一気に手が風によって冷やされた。その冷たさに、手を動かせずにいれば真弘は笑いながらあたしの手を掴んでまたポケットの中に入れた。
「これなら寒くねーだろ」
「だからって……」
「俺様がいいって言ったんだから、いいんだよ! おら、早く帰るぞ」
半ば強引に歩き出す真弘。マフラーと手によって繋がっているあたしもそれについていくしかない。
家に帰るまでこの近距離なのかと、目線を外してため息をつく。誰かに見られた時には、死ぬなと思いながら横の方に向いたとき、真弘の赤い耳が目に入った。それは決して、寒さからではないとはひと目で分かった。
先程、手馴れた様子でマフラーを巻きつけて手を握った真弘だったけれど。あたし同様に恥ずかしさがあったのだとわかった途端、くすりと笑いが溢れてしまった。
「なんだよ」
「なーんでもない」
じとりと見つめてくる視線を受け流して前を向く。
さっきのような恥ずかしさもない。寒くもない。
ただ、首元とポケットの中で絡めるようにして繋がれた手がすごく暖かかった。
―――
タイトルは、「にぶんのいちマフラー」と読みます。(
診断結果は、「黎が真弘に寒いね、と言うとマフラーで一緒にぐるぐるに巻かれました。」だったんですけど、プラスして手もつないでもらいました。彼氏のコートのポケットの中で手をつなぐっていいよね!…この場合、ズボンのポケットになってるけど。
なんとか、真弘×黎の番外編みたいなやつがかけたから満足。
無題。【 緋色の欠片 / 真弘×夢主 】
守護者の力を封じていた結界は壊した。あとは、我らが姫のもとに集うだけだと守護者たちは夜の世界を駆け抜ける。
「……何か、音が聞こえますね。まるで――」
「誰かが戦ってるような感じの音、だな」
その方向へと足を運べば、そこには大勢の薬師衆と戦う遼の姿があった。本来の力は取り戻しているはずではあったが、気づいていたいのか、はたまたそれ以上に疲労しているのか体はボロボロでふらついてもいる。
真弘は、颯爽と薬師衆と遼の間に割って入り、風の力で薬師衆を吹き飛ばす。体勢を崩した薬師衆を、残りの守護者が沈めていく。あっという間に、その場は静まり返った。
「おい、狗谷。黎はどこだ」
「知らねぇよ。逃がすために俺が薬師衆の囮になって、それっきりだ」
探し求める姿がないことに、真弘は遼に問いかける。
遼は、疲れ果てた体を休めるように地面の上に腰を下ろし、そして首を振る。
「何とか匂いで感じ取れねぇのかよ」
「どれだけ離れてるのかもわからないってのに、探し当てられねぇよ。――……でも、早く見つけてやれ。泣いてたぞ。あいつ」
遼の言葉に答えず、真弘はぐっと拳を握り締めた。爪が皮膚に食い込んで血が出るのではないかというぐらいに強く。
黎を泣かせた。この事実は、この中で真弘が一番理解している。だから――。
(だから、早くあいつのもとへ……!!)
黎は強い。だからこそ弱い。そして、そんな彼女を支えられるのは自分しかいない。
沢山心配させた。その分、あの細い肩を思いっきり抱きしめてやりたかった。
――ふいに一陣の風が吹いた。
遼が、僅かに視線を向けて、そして呟いた。
「あいつの匂いがする」
「! どこだ」
「あっちだ。あの山を越えた先。それ以上はわからねぇ」
遼の指し示す一点を真弘は穴が開くほど見つめる。この方向。山を越えた先。黎がいると思われる場所は、たったひとつしか思い浮かばない。
(あそこか、あそこに黎が――!!)
仮定ではない。真弘は、確信してた。必ずその場所に黎がいることを。なぜならその場所は、黎と己しか知らない秘密の場所だから。
「大蛇さん、先に言っててくれ。直ぐに追いつく」
「……わかりました。必ず、黎さんと共に来てくださいね」
「ああ、わかってる」
有無を言わせない力強い口調に、卓は仕方がなさそうにため息をつく。
結界を壊すために動いている間も、真弘は黎のことしか考えていなかったことを知っているから。だから、卓は真弘の背中を押す。
「待ってますよ、鴉取君」
「おう」
「頼んだぞ、真弘」
「任せとけ」
いまいち感情の読めない顔にに、と笑い返せば真弘はその場を駆け出した。途中、己の力である風で後押ししながら、ただあの場所を目指して走り抜く。
どれだけ経ったのだろうか。服の中が汗だくになった頃、真弘はたどり着いた。そして、探していた姿があった。満天の星空の元、青々と茂る草原に座り込み、体を縮めさせてなく背中。
「真弘……」
名前を呼ぶ声は、どれだけ泣いたのかわかるほど痛々しく枯れていた。
真弘は、抑えきれない感情に静かに後ろへ歩み寄り、そして抱きしめた――。
―――
今、下書き中のやつの幕間として入れる予定のやつ。多分、変わる。絶対変わる←
最近書くのが楽しくて仕方がない。
次、真珠、拓珠以外を書いてみたい。
君を護る者。【 緋色の欠片 / 守護者×珠紀 】
屋根の上で跳ねる雨の音に珠紀は重たい瞼を開けた。最初に目の前に映ったのは真っ暗な空間だった。いつも見ている自室とは違う景色に珠紀は自分は何処にいるのかと混乱に陥った。
(ここ、どこだろう)
体を起こして首をひねる。見渡せば書物がぎっしり詰まった棚が幾つも並んでいる。そこでここが神社にある蔵の中だということを思い出す。同時に先程の出来事も頭の中で一瞬でフラッシュバックした。
――珠紀が己の祖母に告げられたのは、まさしく死の宣告だった。
最初は、玉依の歴史の裏側で密かに行われていた贄の儀式と言うものの真実を確かめるためにここにやってきたはずだった。けれど、祖母は人の命を犠牲にすることは普通のことだと言わん限りの表情で珠紀の贄の儀は本当にあるのかという質問に淡々と答えた。
そして告げられたのは、自身は目覚めかけている鬼斬丸を封印するために死ななければならないのだということだった。
頭が真っ白になった。約数週間前は自分は普通の女子高校生だったはず。なぜという言葉で頭の中は敷き詰められた。
呆然とする珠紀に、先代玉依姫に一言二言なにか告げたあと美鶴、芦屋を引き連れて出て行ってしまった。
ひとり暗い中に取り残された珠紀は、まるで目の前の事実から目をそらすように気を失ったのだ。
それが、これまでに起こった出来事の全てだった――。
珠紀は、ふらふらとした足取りで蔵の扉の前に立つ。しかし押しても引いても扉は動きもしない。小さな先輩から教えられた呪文を唱えても開く気配はない。静かに扉に掌を押し付ければ微かに祖母の気配を感じだ。
(おばあちゃん、結界をはったのかな……私が逃げられないように)
その事実は、珠紀を本当に犠牲にしようとしているということが伺えた。
体を反転して背中を扉に預けるように経てば、珠紀はそのままずるずると床に座り込んだ。
蔵の中は寒かった。雨のせいもあるのかもしれない。珠紀はその名前を呼ぼうとして、途中で止めた。
(そっか、おーちゃんもいないんだよね……)
この村に来たその日。美鶴から渡された玉依の者を守るというオサキ狐という妖し。おーちゃんと名づけられた妖狐は、珠紀を時に癒して、時に助けてくれた。
しかし、そのオサキ狐も祖母らがさる時に珠紀の影から飛び出して蔵の扉の隙間から外へ飛び出してしまったのだった。その小さな白い姿を、珠紀は追うことはできなかった。
(だって、仕方がないよ。私、死ぬんだもん)
膝の上で組んだ腕に珠紀は顔をうずめた。
――頭の中に浮かんだのは、守護者たちの顔だった。
鬼斬丸が解放されたあの夜。彼らは、ロゴスとの戦いで深い傷を負ってしまった。珠紀はそれ以来、まだ顔を合わせていない。
「……もしかして、私が犠牲になればみんな解放されるのかな」
顔を少し上げて呟いた珠紀の言葉は、沈黙の中に掻き消えた。
(みんな苦しんでた。でも、私の命で解放されるんだったら――)
何も知らない、何もできない無力で泣き虫な余所者の自分を守護者たちは守ってくれた。その中には、使命だからとそんな思いもあったのかもしれない。けれど、珠紀は彼らとともに過ごす中で本当に自分を気遣ってくれていたということを感じ始めていた。
――強くて、優しい私の守護者たち。もしも、この命で恩返しができるんだったら。
(怖くはないかな……)
世界のためだと言われても実感はわかない。けれど、身近な大切な人達を守れるのだったら自分は死のう。
珠紀は、ひとり暗闇の中で決心をする。自分の命を封印に捧げることを。
「……ごめんね、みんな」
役立たずな玉依姫で。こんな形でしかみんなを助けることができなくって。
「でも、大丈夫。…これで、終わるから。私が自分の命を使って、みんなを守るから。だから――」
許してね。それで、お別れをするつもりだった珠紀の耳にひとつの声が飛び込んだ。
「――ふざけんなよ、珠紀!」
それは、あの夜の日から聞いていない声。ずっと恋しかった声の一つ。
「たく、ま……?」
扉越しに聞こえてきたのは、守護者の一人――拓磨の声だった。
「嘘……拓磨、なの?」
「ああ、俺だ」
幻聴なのではないかと疑いを持って問いかけた言葉に帰ってきた言葉。弾けたように珠紀は腰を浮かせて扉と向き合った。膝立ちになれば、扉に手をついて額を押し付ける。
閉じた瞼からは、涙が溢れていた。
「どうして……」
「……ったく、どーしようもねぇお姫様だな。」
やれやれと溜息を混じらせながら聞こえてきた呆れ声に珠紀は驚いて顔を上げた。この場にいるのが拓磨だけではなかったことに珠紀は目を見張る。
「真弘先輩……」
「お前の命犠牲にして、幸せになんかなれねぇよ」
「なんで、どうしてここが……」
「オサキ狐が教えてくれた」
戸惑う珠紀を落ち着かせるかのように穏やかな声が響く。珠紀は言葉にならない声で、祐一先輩、と呟いた。
「成長しているな。自身が見たものを映像として伝えられるほど力をつけている」
「……――おー、ちゃん?」
震える声で名前を呼べば、扉の向こうから微かにあの白狐が泣いた声を聞いた気がした。じわりと、珠紀の視界がまた曇ってしまう。
「珠紀先輩、泣かないでください」
「わ、私、泣いてなんか……」
「泣いてますよ。僕、嘘を見破るの得意なんです。それに、どれだけ一緒にいると思ってるんですか?」
「慎司君……」
優しく、労わるようにかけられる言葉に、珠紀にまた一筋涙を流させる。
「我らが姫。迎えに来ましたよ。さ、ここから出ましょう」
柔らかな低いトーンの声。卓さんと言おうとしたが嗚咽で珠紀は声を出すことができなかった。
扉の向こうから感じる頼もしい己の守護者たちの存在に珠紀は必死に涙を拭う。かけられる言葉が優しい。何よりも彼らが無事だったということが嬉しくて涙が止まらなかった。
優しくて、自分を包み込んでくれる彼ら。だからこそ珠紀は――迷惑などかけられる筈がなかった。
「私は、大丈夫だから。安心して。これで全部が終わる。今まで守ってもらったぶん、私が――」
「……っ強がるなよ!!」
どん、と扉が振動し、珠紀は驚いて扉に触れていた手を離した。聞こえてきた声で、珠紀は拓磨が扉を叩いたのだということに気づく。
「俺たちは、お前の、春日珠紀だけの守護者だ。だから言え。お前がどうしたいのか。全部、叶えてやるよ」
聞こえてきた声は、何時ものようにぶっきらぼうだった。けれど秘められている思いに珠紀はだそうとした言葉がつっかえた。
(大丈夫じゃ、ないよ)
最初から、平気なわけがなかった。突然死ななければならないことを告げられた。こうして冷静を装わないとおかしくなってしまいそうだった。
これから先も生きていたい。叶うのならば、この仲間たちとともにくだらない平和な日々を過ごしてみたかった。
(けど……)
世界を救うには自分が犠牲になるしかない。珠紀は喉元まで出かけた本音をグッと飲み込んで。再び平気だよと口に出そうとして――。
「諦めなければ希望はある。前を向け」
聞き覚えのある言葉に珠紀の口が止まった。それは、かつて珠紀が口にしていた言葉だった。
敵に敗れ、戦意を完全になくした彼らをなんとか勇気づけたくて。珠紀は涙を流しながら必死に訴えた。
「お前が言っていた言葉だ。けど、今はお前に必要なんじゃないのか」
それっきり拓磨の言葉は途絶えた。さっきまで微塵も意識していなかった雨の音が今は少しうるさく感じる。
珠紀は、顔を伏せて扉に手を寄せる。
「生きて、いたいよ」
掌を扉につける。
「まだ、死にたくない……」
吐息のように珠紀の口から小さくこぼれ落ちる言葉は紛れもなく彼女の本音。
「助けて……っ」
ぽろぽろと両目から涙をこぼれさせ、珠紀は脱力するように床に座り込んだ。
あいつと私。【 ポケスペ/ゴールド×夢主 】※ゴールド出番なし!
「……私ができることって、すごく少なくて、すごく小さなことなんです」
手の持つコップをきゅと強く握る。コップの中のオレンジ色の水面が僅かに揺れた。
「私は、アイツのためにご飯を作ったり、ポケモンたちのケアをしてあげたり、あいつの帰りを待ってあげたり……そんなことしかできないんです」
見つめていたてから顔を上げると、透き通った青の瞳と目が交差する。僅かに細められた目と下げされた眉に私は頑張って作り笑いをする。
「私は、ブルーさんたちのように図鑑所有者じゃないし、大して強くもない。……そんな私が、あいつのそばにいる資格なんてないでしょう?」
僅かに首をかしげて問いかけるように告げる。目の前の整った唇は未だに言葉を発しない。だってきっと図星だと思うから、何も言えないんだ。その事実に僅かに胸を痛めながらコップを机の上に置いた。横に置いていたカバンを持って立ち上がり、その場を後にしようとして――手を取られた。
「確かに、あんたはアタシたちよりも弱いかも知れない。でも、あんたがあいつにしてあげられることって、あたしたちにはできないことなのよ」
私の手を、綺麗な手が包む込むようにして握られる。暖かい温度に頬がゆるんだ。優しい言葉に涙が出そうだった。
「ご飯を食べてもらえるのも、ポケモンたちを任せられるのも、あいつがあんたのもとへ帰っていくのも。全部、あいつがあんたのことを信用しているから、信頼しているからでしょう?」
私の手から離れた彼女の手が、優しく私の頬を撫でた。それを機に私の両目からは涙がこぼれ始める。
「資格が無いとか言わないで。あんたしかいないんだからね? あの爆発頭任せられるの」
少し冗談めいた言葉に思わず笑ってしまった。けど、涙は止まらない。ブルーさんはしょうがないわねぇと私の涙を拭ってそのまま抱きしめてくれた。
柔らかな温度に包まれていれば、糸が切れたようにまぶたが重くなり始める。
(……あぁ、会いたいなぁ)
なんだか、どうしようもなくあいつに会いたくなってきた。けどその気持ちに反して眠気が私を襲いにかかる。
「――――」
気を失う直前につぶやいたものは何だったか。でも、傍らで彼女がくすりと笑った気がした。
―――
お相手、レッドさんだと思った?、残念ゴールドでした。←
確かに、ブルー姉さん相手だったら相手レッドさんだと思うよねー。私も、後から気づいたわ。
あー、ゴールドオチの長編夢小説書きたいなぁ。
「あたしのモノ」 【 うたの☆プリンスさまっ♪/唯(翔)×春歌 】
※翔君の女装注意!
「ええと、すみません。人を待っているので……」
「いーじゃん、別に。俺たちと一緒に来る方が楽しいよ」
「そーそー」
困りました……。
今日は、翔君――いえ、唯ちゃんと行ったほうがいいのでしょうか――と、デートの予定だったのですが、今朝突然翔君に仕事が入ってしまい、デートする駅前に現地集合ということに。だから、こうして私は10分前からずっと待っていたのですが、突然男性二人に絡まれてしまいました……。
「お、お断りさせてもらいます。大切な約束なので――」
「強情だなー」
「えぇ? 俺、結構タイプだけどな」
少しずつ後退していく。距離をとったら、その場から逃げ出そうと思った。でも男性の一人に気づかれたのか、腕を取られて逆に引き寄せられてしまう。
「っは、離してください!」
「君が俺たちと付いてきてくれるならね」
もう片方の手で、巻き付いた手を外そうとする。込められるだけ力を入れるけれど、びくともしない…。男の人ってこんなに力が強いの……?
そうしているうちに、空いていた左でも別の男性に掴まれてしまう。
「い、嫌です。離してくださいっ!!」
「そんなこと言わずにさー」
まともな抵抗もできないまま、ずるずると引きずられるように進んでいく。じわりと目元が熱くなる。ぎゅ、と目を瞑った中で心の中で叫んだ名前は――。
「――ちょっと、あたしの連れになにやってるの?」
耳に届いたのは女性にしては少し低い声。目を開けて、霞んだ視界の先に見えたのは黒いマニキュアを塗った手が私の腕を捕まえている男性の腕を、握っているところだった。
「離さないと、この腕このままへし折るよ」
ぐっと、力を入れたのが男性の顔が僅かに歪んだ。腕が離されると、男性と私の間を離すように誰かが割って入ってきた。さらりと揺れる金髪。偽物のはずなのに、すごく綺麗に見えた。
「大丈夫? 春歌」
「しょ――ゆ、唯ちゃん」
僅かに向けてくれた顔、それは唯ちゃん――翔君だった。
頬が僅かに赤らんでいるし、呼吸も少し上がっている。ここまで走ってきたということが一目瞭然だった。それが自分のためだと思うと、状況が状況なのに嬉しくなってしまう。
「へぇー、君も可愛いじゃん。ちょっと男の子っぽいけど」
「後ろの子も、この子と一緒なら付いてくるんじゃないの?」
反省の色ひとつ見えない男性二人。寄せられる目線が、体を舐めとるようなもので怖い。翔君の背中に隠れるように体を寄せる。それでも目線が向けられているような気がして、翔君の服の裾を掴んだ。
「……悪いけど行くつもりはないよ。こいつを渡す気もない」
服の裾を掴んでいた手を外されて、代わりに男の子らしい骨ばった手が入り込んでくる。指を絡めるように繋げられれば、強く握られた。
「こいつは、あたしのモノだから」
聞こえてきた声に、驚いて顔を上げると横から見えた翔君の顔は、女の子の格好をしているはずなのに凄くかっこよかった。
なんとか男ふたりを撒いて、デートをせずに寮へと戻ってくる。翔君の部屋へ入れば、二人してソファに脱力するように座り込んだ。
隣で息をついた翔君は、被っていたウィッグを外して顔を覗き込んでくる。
「春歌、平気か?」
「うん、大丈夫。翔君が来てくれたから」
「でも、悪い……。やっぱり、一緒に行ったほうがよかったな。……怖かっただろ」
顔を覗くように、本心を探すように合わせられるスカイブルーの瞳。思い出したのは、さっき感じた恐怖。必死に抑えようとするけれど、やっぱりダメで目から熱いものがこぼれていくのを感じる。
「こ、怖かっ、た……っ」
「うん」
「もし、翔君が来てくれなかったらって思うと……っ」
「うん」
「……っ怖かったよ」
翔君が、私の頭を引き寄せる。翔君の大きな胸の中に収まった私は、子供のように泣きじゃくった。心の中に住む恐怖を洗い流すように。感じたものすべてを、彼の温もりで塗り替えるように。ただ泣いた。
翔君は、服が涙で濡れていくのも構わず私の頭を撫で続けてくれた。時折、「大丈夫だ」とか「俺がいる」とか、優しく囁いてくれた。それが一層、私を泣かせた。
どれほど経ったのか、ようやく涙が引いた。きっと、目は真っ赤に腫れていることだろう。今日一日は、外に出ることもできなさそうだった。けれど、先程まで感じていた恐怖はもうない。その代わりに、今日は翔君と一緒にいたいという気持ちが強くなる。
「ごめんね……服、濡れちゃった」
「気にすんな。春歌の涙を拭けるなら、構わねぇよ」
顔を上げると、変わることのない笑顔がそこにあった。翔君は、優しい。私にはもったいないくらい素敵な彼氏。改めて、この人が私の恋人であることを嬉しく思う。
ふと表情を緩めさせた翔君は、私の頬に手を添える。何をするのかと思えば、そのまま目尻へとキスを落とす。
「しょ、翔君!?」
「春歌は、俺のモノだ。俺がずっと守る。これは絶対だ」
女の子の格好をしていたから、翔君の顔には微かに化粧が施されている。でもそれを感じさせないほど翔君は男らしくって、かっこよかった。きっと、翔君のカッコよさは見た目なんかじゃない。生き方とか、考え方とか、言葉とか。そういうものなのだと初めて知る。
「だから、お前も俺の傍にいろ」
「うん、ずっと翔君の傍にいます」
どちらからでもなく、二人で同時に顔を寄せて重ねた唇は僅かにしょっぱい味がした。それでも、何度か合わせていくうちのその塩辛さは、甘いものへと変わった。
――――
女装してても、翔君はかっこいいんだよ!…というのをぶつけてみた。
なんで女装しているのかは、こうした方が来栖翔だとはばれずにデートできるからです。紛らわしくてごめんね。
ふわり。遮る物何一つ無い草原に風が吹く。草木の独特な匂いが珠紀の鼻を擽った。
靡く髪を抑えながら珠紀は膝下へと視線を落とす。自身の太ももを枕にし、規則正しく息を立てて寝る顔がそこにはあった。
風の悪戯で額に落ちる彼の前髪を、指でそっと退ける。夏の森林の色を思わせる翡翠色は瞼の裏に隠され、代わりに何時ものガキ大将のような一面から想像できないほどの幼い寝顔を覗かせる。
こんな顔をしていれば可愛いのにな、と思うも珠紀はそれを口に出すことはない。今は寝ているこの彼が、大きく開いた口で怒鳴り散らす様、もしくは唇を尖らせ顔を背けヘソを曲げる様子が目に浮かぶから。だから、珠紀は何も言わずに心の中にしまっておくのだ。
珠紀は顔を上げた。一面に広がる緑色。その向こうにはもっと深い緑をした山と、雲一つない空が広がっている。耳に届くのは、時折強く吹く風の音と草木の揺れる音、そして彼の寝息のみ。穏やかな日が差す、緩やかな昼頃――数年前の出来事と比べ物にならないぐらいの平和な風景があった。
鬼斬丸、鏡を巡る戦い。己を玉依姫としてではなく、春日珠紀として守ってくれる守護者の面々はこの平和を珠紀が居たおかげだからだと言う。決して諦めず前を向く珠紀がいたからだと。けれど珠紀はそれを否定した。前向きだなんてただの表向きのもの。本当は後ろ向きで、泣き虫な強がりは自分。あの戦いを乗り越えられたのは間違いなく仲間の――この、彼のおかげだと。
普段は子供っぽくて、騒がしくて、ちょっと馬鹿で。けど小さな背中はとても頼もしく、力強い言葉は珠紀に勇気をくれた。でも、彼の一面はそれだけではなくて、本当は怖がりで、強がりな彼。それでも自分を守ってくれる姿に珠紀は彼を支えたいと思った、そして――ずっと傍に居たいと思った。
「んん、……」
「先輩?」
下から聞こえた声に目線を落とす。隠れていた緑色が僅かに見えた。けれど寝ぼけているのかまだぼんやりとしたままだ。普段とのギャップの差に珠紀は思わずくすくすと声を立てて笑ってしまった。
どうやらその声で完全に目を覚ましたのだろうか。彼はぼけっとした表情から不満げな顔へと一転させる。
「なーに笑ってんだ?ばーか」
「何でもないですよ。……ただ平和だなと」
気持ちいいひだまりの下、大好きな人とのんびりと時間を過ごす。この村に来るまではなんとも感じなかったこの時が今ではどうしようもなく愛おしい。
全て言葉にせずとも、意外なところで鋭い彼には分かってしまったようで、今度は柔らかな笑みへと顔を変化させる。
「たーまき」
「なんですか?」
伸ばされた手の甲が、優しく珠紀の頬を撫でる。珠紀はその上から自分の手で覆う。
「たまき」
「だから、何ですか?」
目元が優しく緩められ、瞳は眩しそうに目を細められる。その視線の意味に気づいて珠紀の頬は僅かに赤くなる。
「珠紀」
「……まひろ、先輩?」
彼の名前を紡ぐと、向けられていた顔は嬉しそうに笑った。子供のような無邪気な笑みに心が暖かくなる。
「珠紀、好きだ」
ストレートな言葉に瞬きを繰り返す。照れ屋な彼からは想像できないほど、真っ直ぐな言葉。不意打ちだったからか再び頬は朱に染まる。それを見て、けらけらと笑い返されてしまった。
「笑わないでくださいよ」
「……平和だなと思ってよ」
不満げに唇を尖らせ文句を言えば、返ってきたのは同じ言葉。何気ないのになんだか面白くて、楽しくて。珠紀も笑ってしまった。
草原に、青い空のもとにふたりの笑う声が響く。
「……ね、真弘先輩」
「ん?」
「好きですよ」
お返しにと呟いた言葉。少し呆然とした表情の後、彼は――真弘は、静かに微笑んだ。
―――――
リハビリです。んでお久しぶりです。
こんなに沢山小説を一人で書いて凄いですね♪(#^.^#)
79:遥姫 ◆ml2:2017/07/27(木) 22:01 ID:eIk
>>78様
お返事遅くなってしまって申し訳ないです…(;´∀`)
自分を妄想を小説に書き起こすのが好きなので、あとは分力を上げたいのでひたすら小説を書いてまして…。
すごいだなんて、…ありがとうございます。そういうお言葉が励みになります!(´∀`*)
○登場人物
鬼崎拓磨( オニザキ タクマ ) / 高校二年 / 身長178cm
/ 鬼崎家の守護者。鬼の力を宿す。不器用ではあるもののその内はとても優しい。若干ヘタレで心配性な面をもつ。先輩である真弘に思いを寄せる。
鴉取真弘( アトリ マヒロ )/ 高校三年 / 身長157cm
/ 鴉取家の守護者。鴉の力を宿し、自由自在に風を操れる。常に騒がしくお調子者の俺様先輩。しかし、時に年齢以上に大人びた一面も見せる。
○他登場人物
狐邑祐一( コムラ ユウイチ )/ 高校三年
/ 狐邑家の守護者。狐の力を宿す。真弘とは幼馴染であり、守護五家とは違った絆を真弘と結んでいる。
春日珠紀( カスガ タマキ ) / 高校二年
/ 守護五家に守護される玉依の家系。当代玉依姫。
犬戒慎司( イヌカイ シンジ )/ 高校一年
/ 犬戒家の守護者。言霊を操れる。
○簡単な作品紹介
主人公の春日珠紀は、両親の海外転勤を機に、祖母が住む母の実家に引っ越してきた。だが、着いた村で珠紀は突如カミサマと呼ばれる奇妙な生き物達に襲われる。珠紀を救ったのは、不思議な能力を操る鬼崎拓磨という少年だった。祖母は彼女を村に呼んだ理由を打ち明ける。それは、先祖代々続く「玉依姫」の使命として「鬼斬丸」という刀の封印をすることだった。村に鬼斬丸の力を狙う謎の集団「ロゴス」が集まってくる中、玉依姫を守るべく「守護者」と呼ばれる少年達が現れる。戸惑いつつも彼らに支えられ、珠紀は玉依姫としての使命に目覚めていく――。
一瞬の夢、夕暮れの幻。 / 鬼×鴉
* * *
屋上へ続く重い扉を、難なく片手で押すとわずかに冷えた風が拓磨の頬を撫でた。
なんでこんな寒い中に屋上へ来なければならないんだ、と心の内で愚痴をこぼしつつ屋上に出た拓磨は己がこんな場所まで来る原因となった姿を探す。
あたりを一通り見渡すも姿はない。探し忘れていた場所があったことを思い出す。絶対的な確信を持って、その方向へ顔を上げた。
拓磨の読み通り、屋上の屋根の上にその姿はあった。片足を投げ出し、片足を左腕で抱え込んでいる姿。遠くを見つめている横顔は、簡単に表現しにくい儚さがあった。黄昏ているようにも、寂しそうにしているようにも見える。一瞬、声をかけることを忘れ見入っていた拓磨だったが本来の目的を思い出し、頭の中にあったものをかき消すかのようにかぶりを振った。
「またそこですか……あんたも物好きっすよね。余計に風が当たりやすいところにわざわざ居るなんて」
遠く離れた場所にいる人物に、この声を届けるためやや張り上げて言葉を投げかける。
口から飛び出すのは少し嫌味を含んだ言い方。ちょっと子供っぽいあの人はすぐに反応するだろうと目線を動かさずにいれば、拓磨の予想通りに顔がこっち向いた。不機嫌そうに顔をしかめているというおまけ付きで。
「一々うっせーぞ。拓磨」
「そんなんじゃ、風邪引きますよ。真弘先輩」
「この俺様がそう簡単に風邪ひいてたまるかよ」
減らず口を叩く真弘には先程の儚さなど欠片もなかった。だが、それでいいと拓磨は思う。あんな顔をされてしまえば、嫌でも距離を感じてしまう。大人と子供という越えられない年齢さを。
「つーか、なんでお前がここにいるんだよ。珠紀は?」
拓磨が思考に浸っている間に、真弘は立ち上がって屋上の屋根から飛び降りた。一般人だったら骨にひびぐらいは入りそうな高さを真弘は怯えもせずに自らの力を使って綺麗に着地する。流れるかのような仕草に一瞬言葉を失う拓磨。けれど、ずっと黙っているわけもいかず口を開いて質問に答える。
「珠紀は、慎司と一緒すよ。なんでも帰りに買い物に行くとかで」
「で、お前は?」
偉そうに胸の前で腕を組み自分を見つめる真弘。小さくせにと拓磨は思うも決してそれを口にはしない。後々面倒になることを経験済みだからだ。
また黙り込む拓磨に真弘は話の続きを催促するように、「で」と少し強調させて告げる。遠慮ないなとため息を付きつつ拓磨は話を再開させる。
「真弘先輩を呼びに。祐一先輩が用があるらしくって。図書室で待ってるらしいっすよ」
「祐一が? 珍しいこともあるもんだな」
「そーっすね」
「何か知ってるのか、お前」
「いーえ。俺はただ祐一先輩に頼まれただけなんで」
「……ふーん、そうか」
じっと拓磨を見つめる緑の瞳は何かを探るようにして一瞬細められる。しかし、事実拓磨は何も知らないため黙ってその視線を見つめ返した。
真弘が拓磨を見つめ続けて数秒。結果、何もわからなかったのか息を吐いて目線を元に戻した。どれだけ自分は信用されていないんだと、拓磨は小さく悪態をつく。
「何の用なんだあいつ。つか、それなら教室で言えよ……」
面倒くさそうな表情浮かべ、耐えずに幼馴染への愚痴をこぼし続ける真弘。ぼんやりとその姿を見つめていた拓磨だったが、何かに気づいたように目を僅かに開かせた。そのまま真弘の顔へ手を伸ばし、鼻をきゅと摘んだ。
「な、何すんだ」
「どれぐらい外にいたんですか。鼻。真っ赤ですよ」
鼻を摘まれたせいで、若干鼻がかった声になっている真弘の文句を聞き流し、拓磨は呆れたようにため息をつく。
「いくら俺たちが丈夫だからって……あ、ほら。手も冷たくなってるじゃねぇすか」
鼻から手を離した拓磨は次に、真弘の手を握る。拓磨の手より僅かに小さいそれは、氷のように冷たくなっていた。
「う、うっせーな。離せって!……たく、この心配性が」
真弘の小さい手をいとも簡単に覆ってしまった拓磨の手をさっと振り落とせば、再び握られないように真弘は両手を制服のズボンのポケットへと収めてしまう。
人がせっかく心配しているのに、そんなこと言うならば最初から心配かけさせるようなことをしないでくださいよと、拓磨は思うが敢えて口に出すことはなかった。一秒後に拳が飛んでくるだろうということを長年の付き合いから理解していたからだ。
真弘は、数秒拓磨の顔を見つめて背中を向ける。一直線に屋上の扉の方へ歩き出した。
「どこ行くんすか」
「図書室。祐一のいう用事ってもんが気になるしな」
「そーすか。んじゃ、俺がついて行っても?」
真弘は、ぴたりと足を止めた。数秒の沈黙の後返ってきたのは――。
「……勝手にしろ」
そっけない言葉。でもあの素直じゃない真弘先輩だから仕方がないかと知らずのうちに頬を緩めた拓磨は、「じゃあ勝手にさせてもらいます」と真弘の背中を追いかけた。
* * *
図書室の扉を開ける。変わらず静かな空間がそこにあった。窓から差し込む日の光によって橙色の世界へと変わった中に遠慮なく入り込んでいく真弘。続いて拓磨もその中へと足を踏み入れる。
「あれ、祐一先輩いないっすね」
拓磨に言付けを頼み、真弘を呼び出した祐一の姿は其処にはなかった。いつもいる奥の窓際の席は空いている。
帰ったのだろうか。でも、約束をないがしろにする人ではないはずだしと拓磨は祐一がいない理由を頭の中で巡らせるが真弘は特に驚いた様子もなく奥へと足を進める。
「まぁ、帰ってくるだろ。来なかったら来なかったで、帰ればいい」
真弘は足を止めれば、近くの椅子を引いて腰掛ける。その様子を拓磨はジッと見つめていた。
――拓磨は、知っていた。真弘が、そこが自分の場所だと言わんばかりに自然と座った席は、祐一がいつも居る場所の近くだということを。それは紛れもなく、真弘が何回もこの図書室に足を運び、図書室の住人とも言っていいほどこの場所を好んでいる祐一といつも共に過ごしているという証。本人がおらずとも見せつけられた絆の深さに拓磨は真弘の近くに行くことさえ躊躇って、入口の付近から動けずにいた。
「……随分、と……あっさりしてるんすね」
拓磨が、長い沈黙の後に告げたその一言は微かに声が掠れていた。何時になく動揺していることが見え見えだった。拓磨はそれを承知の上で返事を待つ。
「あいつはマイペースだからなぁ。いちいち気にしてたら身が持たねぇよ」
パイプ椅子の背もたれに腕を乗せて、窓の外をぼんやりと眺める真弘の横顔はどこか穏やかだ。意識せずにやっているのか、それとも――。
(……本当に、歳が離れてるってのは厄介だな……)
同じ村で過ごした幼馴染。しかし、歳が一つ違うだけでもこれだけの差が出るのかと拓磨は苦虫を潰したかのような表情を浮かべるが、悔しがっても仕方がないことなのだということも拓磨はきちんと理解していた。けど、もし、と考えてしまう思考は止められない。
もし、同い年だったら――
もっといろんなことを共有できたかもしれない。
もっと一緒にいることができたのかもしれない。
今よりもっと――自分のことを意識してもらえたかもしれない。
今だけ拓磨は、あのマイペースな先輩を羨ましく、そして妬ましく思えた。
「……どうした。さっきまであんなに元気だったくせに。体調でも悪いのか?」
扉の前で立ち尽くし、黙り込む拓磨の様子がおかしいことに気づいたのか真弘はようやく目線を向けてくる。拓磨は、向けられる眼差しから逃げるように顔を横に背けて小さく、「なんでもねぇっすよ」と答えた。
これではただの拗ねている子供ではないか。段々と自分自身にも嫌気が差してきた拓磨は耐え切れずに溜息をつく。
真弘は再び黙り込んで拓磨を見つめていたが、唐突に椅子から立ち上がる。乱暴に立ったせいか、静かな空間に椅子のがたん、という大きな音が響く。音に気づいて顔を上げた拓磨は、こっちに向かってくる真弘に目を丸くさせた。
「ここに来てから様子おかしいぞ。お前」
拓磨の傍までやってきた真弘は、下から拓磨を見上げる。自分の気持ちなど何も知らない無垢な翡翠の瞳。拓磨は横に目線をずらした。それでも真正面から感じる目線に拓磨はまた溜息をつきたくなる。
――いっそのこと白状してしまおうか。向けられる目線にそんな思いが湧き上がる。運がよければ意識してもらえるかも知れない。そんな思考の後、拓磨は口を開いた。
「……別に、大したことじゃねぇっすよ」
ひと呼吸置く。拓磨は僅かな可能性にかけて、紡ぎ出す声に小さな本音を乗せた。
――……ただ、祐一先輩が羨ましいと思っただけっス。
真弘は最初、ぽかんとした表情をしていた。拓磨は、それを横目に見る。反応からして自分が求めていた可能性はないのだと、と瞬時に判断すれば目線を横に流す。先ほどの誤魔化すための言葉を続けようとして――聞こえてきた忍び笑いに目を見開いた。
「なんだ。あの拓磨のくせに一人前にヤキモチかぁ?」
目線を戻せば真弘は掌で口元を抑えて、笑いをこらえていた。今度は拓磨が呆然とする番だった。やがて、沸々と怒りがこみ上げてくる。自分にしては告白とも言ってもいい言葉だったのに馬鹿にされるなんて。いくら己の好きな人だからといって許せはしない。
「……笑うのはあんまりじゃないっすか」
「まーまー、不貞腐れんなって」
真弘の言うとおり、拓磨は不貞腐れた子供のようにわかりやすく不機嫌さを表情に出していた
真弘は、ふいに緑の双眼を細めて頬を緩める。それは親が子を見るような、慈しむようなそんな顔。見たことのない表情に拓磨は、怒りさえも忘れて見入ってしまうと同時にこんな表情もできるのかと新たな真弘の一面を知る。
真弘は少し踵を上げて、腕を伸ばして拓磨の頭に触れる。そして何を思った混ぜ返すように髪を乱暴に撫で始めた。
「ちょ、何するんですか……!」
真弘の表情にすっかり油断していた拓磨は、髪を撫で続ける手の首を持ち、なんとかそれ以上髪が崩れるのを阻止する。だが、いつもなら飛んでくる怒号は今はなく、真弘は先程と同じように拓磨を見つめていた。まるで何かを待つように。
拓磨は、ごくりと喉を鳴らし。張り付く喉から言葉を紡ぐ。
「……本当にヤキモチだって言ったら、先輩は困ります……?」
拓磨は、抑えた真弘の手首を引いて体の距離を縮め、僅かに背中を曲げて顔の距離をつめた。すると、途端に丸まっていく緑の瞳に拓磨は困ったように笑った。
真弘は、それでも真っ直ぐに拓磨を見つめ、そして。
「…じゃ、もし、そのヤキモチが嬉しいと俺が思ってたらお前はどう思う?」
はっきりとしない遠まわしな答え。相手らしさを感じると共に言葉の裏に隠されたその気持ちに拓磨は、一瞬戸惑う。夢ではないのだろうか。すべて、夕暮れが見せる幻かも知れない。しかし、拓磨はそれでもいい、とも思っていた。一瞬の夢でも構いやしない。この瞬間が幸せならばそれで――。
「それは思ってもみませんけど、嬉しくてたまんないっすかね」
――満足だ。
拓磨は、ようやく表情に笑みを浮かべる。真弘は、嬉しそうな反応にふい、と顔を横に背けて「そーかよ」と素っ気無く返す。
照れてるんだろうなとその様子を微笑ましげに見つめたあと、空いている手を拓磨は真弘の頬に添える。
(文句言われたらその時だ。殴られるのも……まぁ、今回は目をつぶりましょーか)
真弘の顔をこちらに向かせ、この後の反応を色々と予想しながらも拓磨は顔を近づけて、小さな唇に口づけを落とした。
Fin.