短編小説
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- 1:untitled_23(4)
- 2:いつまでも、いっしょだよ……〜私たちはの約束は永遠…〜(59)
- 3:短編小説
- 4:男の子バレエ(14)
- 5: 色とりどりの日常の (3)
- 6:いじめの芽を摘んでくれた。(10)
- 7:無題(6)
- 8: 終日僕らは (11)
untitled_23(4)
どうやら近い未来に私のクローンが作られるらしい。
どうしてそれを知ったかというと、未来から来たという、私そっくり······というか完全に私な女の子が伝えてくれたからである。
そう、彼女こそが私のクローン······なのだという。
「······で、どうすれば良いの?」
「姐さんのクラスメイトに稲川ちゃんっていますよね」
「いるね」
「その子が犯人です」
犯人、という言い方は少し酷いんじゃないか、と思った。それにしても、稲川さんとは。
彼女は数学と理科に関しては全国でもトップクラスの成績を叩き出す真の天才だ。······でも天才は常人とは考えている事が違うというし、確かに他の子と比べたらごま塩程度に信憑性が高まる。
「そっか。······で、作られたクローンが······君なの?」
「そうです。口調変えてますけど······こうしたら。分からないよね?」
「私だ······」
私のクローンの口調に口調が変だったのは区別をつけやすくする為らしい。
「······で、本題ですが······これを聞いた姐さんはどうするつもりですか?」
「どうするって。どうすればいいの?」
「私が作られるのは、ええと、今年は2023年だから、だいたい8年後────」
私のクローンは突然述懐のような何かを始めた。彼女にとっては述懐なのだろうが、私にとっては予言である。
「稲川さんは某大学の若き教授······と言えば聞こえはいいですが、マッドサイエンティストになります。そこで私が作られた訳です」
「はぁ」
「で、17年くらいして私はここまで成長したので、姐さんにこれを伝えるためにタイムマシンに乗ってここに来たんですよ。タイムマシンが発明されたのは丁度その頃······今から25年後のことですね」
「······」
本当なのだろうか。あまりにも滔々と語るものだから、かえって怪しい。
······でも、これが本当だとしたら······私はどうすればいいのだろう?というか、クローンは、私にどうして欲しいのだろう?
その事を伝えると、彼女は少し呆れた様子をしてみせた。······やっぱり私じゃないような気がしてきた。私より感情豊かだし頭も回っている。
「いいですか。あなたは稲川さんに好かれてるんです。それも、随分と偏執的に······」
「······えっ?でも女の子······」
「だからこそでしょう。だから······あなたがそんな感じなので、叶わなかったからこそ······私が作られたんですよ」
「······」
頭が情報を処理することを辞めてしまった。私の頭は重力に抗ったり負けたりするだけの置物と化してしまう。
「で、······あ、······聞いてない······えっと······」
そんな呟きが聞こえてきたので、私は慌てて我を取り戻した。この反応からしてやっぱり私な気もする。
「ごめん、もう頭に入ってこない。······とりあえずついてきて。一旦帰って落ち着いてからでも······いいよね?」
それを聞いた私のクローンは黙って頷くのだった。
「まず、私が想定しているルートは2つ」
紅羽は指を二本立てた。
「1つ目は、姐さんが稲川さんとくっついて、私の未来における生成フラグを折る」
「······く、くっつく······」
「2つ目は、転校するか自分の身体を全力で守るかして、稲川さんにサンプルを回収されるのを防ぐ。これも私の生成フラグを折ることになりますね」
「ちょっと疑問があるんだけど」
思わず私は手を挙げていた。紅羽は教師にでもなったつもりなのか、謎のノリで私の質問に応じる。
「はい何でしょう紅葉さん」
「生成フラグを折ることは分かったけど······そうしたら紅羽はどうなるの?」
「あー、それですか。パラドックスの説によると、多分私は······どうなるんでしょう。都合のいい何かによって合理的な意味付けをされるんじゃないですかね」
曖昧である。しかも国語の評論文に出てきそうな表現方法を使わないで欲しい。······まあ、ドラえもんのセワシを思い浮かべればいいのだろうか。
「そっか······」
「でもクローンに関してはそれも適用されるかどうか。『最初からいなかったことにされる』か、本来私が生成されるはずの年に到達したあたりで『最初からいなかったことにされる』かもしれません。というかそれが濃厚です」
「······」
もはや黙るしかなかった。
私のクローンとはいえ、紅羽は生きているのである。そんな『生命』を、高確率で根本から消し去るような行為には、何となく抵抗があった。
「どうすればいいのかなぁ······」
「姐さんそればっかり言ってません······?」
「分からないんだよ。そもそも紅羽······消えるかもなんでしょ?大丈夫なの?」
「それは────」
私には紅羽がどこか適当に物事を進めているように見える。少し問い詰めてみたら、案の定目を泳がせて······しばらく黙られた。
「······だから、私は······どうすればいいか迷ってるんだよ。紅羽が私のクローンなら、······理解してくれるよね?」
自分でも何を言っているのか半ば不明瞭だったが、紅羽は私の言葉に対して頷いてくれた。
彼女からもう少し、未来で何があったのか聞いておこうと思う。
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https://ha10.net/test/read.cgi/novel/1672716380/l50
いつまでも、いっしょだよ……〜私たちはの約束は永遠…〜(59)
コメント待っていますのでぜひぜひ
ではっ
た
59 匿名希望:2021/07/10(土) 18:20久しぶりです。また更新したいと思います
短編小説
気が向いたのでなんとなく。脱スランプ。
乱入やアドバイスは基本的におっけーです。
一応注意書きはしますけど、百合とか薔薇とか含むかもなのでお気をつけください
『古里』
無人駅に降り立った。朝の匂いがしたのはほんの一瞬で、コンクリートで舗装された平らな道路と、赤青黄色の標識の方が強かった。
ガタンゴトンと去っていく電車を背に、髪がなびく。私は、佇むばかりだった。
――ただいま、とでも言っておこうか。
朝一番の電車で来たのだ。駅の構内に人はいない。もっとも、昼間に人が多いとも思えないのだが。
駅が出来たなんて言ったって、こんな質素なものじゃないか。鼻からフッと息が漏れた。新しいのに廃れて見える改札口を通り抜ける。
東京とは違う、タイヤ痕の少ない一本道、欠けていない白線、遠くに見える風車。
あぁ、風車といえば。遥か昔の記憶が引きずり出されて目を細めた。小さい頃は、こんな風に空を仰ぐと風車が見える野原で遊んでいたものだ。
見渡す限り緑色で、春はシロツメクサ、秋はコスモスが一面に広がる空間だった。
きれいな柄の蝶々を、走って追いかけた。四つ葉のクローバーを探した。タンポポの綿毛を吹き飛ばして遊んだ。シロツメクサで花冠を作った。アシナガバチからは全力で逃げたけど、ミツバチは近くで観察した。木陰に寝転んでお昼寝もした。秋には鮮やかな落ち葉をたくさん集めて、ままごとをした。ドングリも拾った。コスモスの花を摘んで、花占いをした。ダンゴムシをつついて丸めたこともある。
……一人の男の子と一緒に。こんなこと、一人でやるはずがないじゃないか。子どもが少ないド田舎とはいえ、ひとりぼっちで遊ぶなんてあり得ない。
――くんに見せたくて、必死に蝶々を追いかけた。
――くんにプレゼントしたくて、一日中四つ葉のクローバーを探した。
――くんと、どちらが遠くまで綿毛を飛ばせるか競争した。
アシナガバチが怖くて足がすくんだ私の手を引いてくれたのも――くんだし、ミツバチは怖くないと教えてくれたのも――くんだ。お昼寝する私を起こしてくれたのも、落ち葉でままごとをするときにお父さん役になってくれたのも、ドングリを拾って見せてくれたのも、ダンゴムシの丸め方を教えてくれたのも、全部――くんだ。
……「大きくなったら、僕のお嫁さんになってね」と渡してくれた花冠も、「――くんと結婚できる、できない」と言いながらやった花占いも、忘れていない。
でも、こんなものは所詮子供の遊びだ。今さら思い出して感慨深くなることなどない。
雑念を振り払うように頭を振って、今度こそ歩き出した。コツコツ、ヒールの音がやけに響く。
東京で出来た友達に勧められて、ネイルサロンに通い始めた。サークルの集まりのノリで髪も染めた。大学に入って最初に出来た彼氏とお揃いにしたくて開けたピアス。今では、スキンケアだって欠かさない。
「あー、日差し強。焼けるじゃん、サイアク」
明日、結婚式がある。彼が結婚する。
こんな陰気な町で挙式なんて、尊敬しちゃう。
私は、こんな遅れた田舎町なんて嫌いだ。重くため息をつく。
今にも白くなってしまいそうな水色の空に、目を逸らしたら消えてしまいそうな半月が浮かんでいた。空だけはきれいだったのに、今はそんなことないじゃないか。
無人駅が遠くなる。線路の隅に、たった一輪、桃色の花が咲いていた。
友人(はるかちゃん)とお題を交換して書いた短編。
「月」「花」「秋」「電車」
「好きな人の前で泣く」×「Just be friends」
※私が提示したシチュエーションに合いそうな音楽を提案してもらい、その曲の雰囲気を汲み取ってシチュエーションを書いた短文です。この音楽の二次創作ではありませんが、問題がありそうでしたらお伝えください。歌詞の引用などはないです。
あ、金魚泳いでる。「もう家に来ないでほしい」、そう彼女に言われたときに思ったことだ。
一週間前、彼女と一緒に行った夏祭り。金魚すくいで二匹の金魚を取って、それぞれ一匹ずつ飼うことにした。が、僕の水槽を泳いでいた一匹は、すぐに死んでしまった。
だから、僕の目を真っ直ぐ見つめてくる彼女の背景が赤色の尾びれだったとき、そんなことを思ってしまったのだ。あ、金魚泳いでる。
さて、僕とて「もう家に来ないでほしい」の意味が分からないほど鈍感ではない。二人きりで会う、この関係を終わりにしようということだろう。
「……聞いてる?」
静かに首を縦に振った。聞いてるよ。息を吸う度に、次は言葉を吐こうと思っているのに、掠れた空気が喉を通り抜けるだけなんだ。
それは、どういうこと? どうして? 口に出そうと思ったのに、喉から零れ落ちるのは意味のない母音ばかり。
僕は嫌だよ。意を決して大きな声を上げたつもりだったのに、言葉になりたかった二酸化炭素が唇から溢れ出て、彼女の瞳と赤色の尾びれが大きく滲んだ。
男の子バレエ(14)
僕は守山中学校の2年2組上杉ゆたか13歳。
新学期のクラス替えで仲良しの子と別々になってガッカリしたけど、最近新しいクラスで友達ができた。
その新しい友達のゆうきに学校の帰り道、いきなりバレエを習おうって誘われた!
「今日は親が出掛けてて夜まで僕一人なんだ」。
「そっか、じゃあ行くよ」と僕は返事をして、途中のコンビニでパンを買って食べてから、ゆうきの家に初めて遊びに行った。
一階のリビングに通されて待っていると、二階からシャツと黒タイツ姿のゆうきが戻って来た。
僕が「えっ?」と声を出すと、「ゆたかも着替えなよ。どうせ僕達二人しかいないんだし、タイツの方が楽だよ」。
「うん、わかった」と僕は言い、別の部屋でレッスン着のシャツと白いタイツに着替えた。
「ゴメン、鏡ある?」と声を掛けると、「廊下の奥にあるよ」。
僕が鏡の前でタイツを直していると、「やっぱ気になるよね、白タイは」。
「うん、僕もゆうきと同じ黒タイツを穿きたいよ」。
「でもゆたかはまだ小学生クラスも行くんだし、しばらく白だよ」、「うん、そうかもしんない…」。
その後二階のゆうきの部屋に行った。
部屋の中は学習机とベッドがあって、僕の部屋とよく似ていた。ベッドの上にゆうきと並んで座りお喋りする。
自分の白いタイツが恥ずかしくて、落ち着かない気持ちになる。ゆうきもベッドから立って黒タイツの前を触って、そわそわし始めている。僕もベッドから立って勃起したタイツの前をゆうきに見せた。
色とりどりの日常の (3)
・いろんな要素が入ってくると思うのでその都度注意喚起はします。
・でも一応閲覧気をつけてね。
「どうかその日まで」
※SF?です。
絶対的要塞と化したその奥に、人々が喉から手が出るほど欲しがる「それ」は静かに佇んでいた。
今年も春が来た。この時期になると、僕は二つのことを思い出す。一つは、僕がまだ歩くこともできず、意思や感情というものも存在しない程に幼い頃、博士と一緒に桜を見た時のことだ。
確かあの時僕はベビーカーなんかには乗れそうにもなかったからって車椅子に乗せられたんだっけ。車椅子も博士のお手製のものだったが、その時は電動車椅子なんてのもなく、わざわざ博士が僕を乗せた車椅子を押していた。
なぜ博士がそこまでして僕を連れて行きたかったのかはいまだに分からない。でも、あの時の博士の表情が穏やかだったことは覚えている。
もう一つは、僕が博士を車椅子に乗せて、押しながら桜を見たことだ。こちらの方が最近のことだからか、やけに鮮明に覚えている。頑なに電動車椅子に乗らなかったのはなんでだろう。それも僕にはわからない。
こう言ってはなんだが、僕は博士が大好きだ。だからこうやって今も博士と暮らしたこの屋敷を、博士が愛してくれた僕自身を守ろうとしている。
しかし、僕はまだ「未完成」なのだ。博士は僕の「人の気持ちを汲み取る」という感情の回路を完成させる前に亡くなってしまった。老衰だった。
涙こそ流れなかったが、僕はとにかく悲しかった。大切なものを失う苦しみを初めて知った。でも、博士が僕をどう思っていたかなんて分からない。
だって、まだ「未完成」だから。しかも、感情の回路が。とにかくあんなにも僕に愛をくれた博士の思いが分からないことが悔しかった。博士と同じだけの知識や頭脳はあるのに、感情の回路の一部が欠けているというだけでこんなにも何も分からないことが。
知識や頭脳はあるくせに人の気持ちがわからない、というのはさぞ悔しいことだったが、それは同時に「僕が人の気持ちを汲み取ることのできる唯一の希望」でもあった。良くも悪くも、思い出はどの年のどの日のことについても記録されている。なら、僕自身の手で博士の発明を完成させることができれば、どの年のどの日に、博士がどのように感じていたか、を感じることができるかもしれないのだ。
僕の手で僕自身を完成させる、それが僕の夢であり、博士への最初で最後の恩返しだ。何事にも遅いということはない。だからそれまで、この屋敷を、僕自身を人々から守らなければならないのだ。
>>2
ゆず(まつり)ちゃんとお題交換して書いたものです。
お題「春」「思い出」「博士」「夢」
いじめの芽を摘んでくれた。(10)
いじめの話を投稿します。
救ってくれた話です。
次の日。
僕はもう篭りたくなった。
1人で居たくなった。
でも,親に心配をかけるわけにはいかなかった。
もう,どうでも良くなった。
日に日に変な目で見られるようになる。
どうしようもない。
休み時間は机に臥しているだけだ。
1時間目から体育だった。
朝のホームルームが終わると,体操着に着替える。
着替えの時,僕の周りには女子はいなくなった。
パンツを見えてしまうのが嫌なのだろう。
でも,隣の席の女子だけは動かなかった。
そして,ズボンに手にかけた時,彼女は僕にこう声をかけた。
「パンツ見せて恥ずかしくないの。嫌でしょう。これを使って隠したら」
大きめのタオルだった。いや,いいよと僕がいうと,いいから,と言って,僕の前でタオルを広げた。
「こうやって隠してるから早く着替えな。時間になっちゃうよ」
僕は軽くありがとうと言って,急いでズボンを脱ぎ,体操着を履いた。
体育が終わった後も、同じようにしてくれた。
感謝ははっきりと伝えられていなかったけれど,やっと,味方がいるという感覚が芽生えた。
彼女に聞かれた。
「なんで体操着着てこないの?」
僕は答えられなかった。黙り込んだ。
「やっぱりあいつでしょう。小学校の頃もそうだったの。そのせいでやられた子が不登校になって転校しちゃって。その子はプールの着替えの時にタオルを取られて……。それ以上は言わないでおくわ。気にしないで。いつまでもキミが我慢する必要はないよ。いつでもわたしに相談しな」
本当に信じていいのか怪訝そうな顔つきをしてしまった。
でも,とりあえずありがとうとだけは言った。
無題(6)
・
何もないから始まりがあるはず >>2
・
・
愛されていないのはわかっていた
わたしが無理矢理引き留めて繋いでいただけ、今にも切れそうなこの関係を
君は最低だった。
いつだってわたしを見ようとしないしわたし以外を愛そうとする、けどそんな君がどうしようもなく好きだった
こんな言葉だけの関係持っても意味がないのはわかっていたのに、形だけでも君の一番になってみたかった。周りから羨望の眼差しをうけてみたかった
結局わたしのエゴの押し付けで君が迷惑しているのもわたしをとうの昔に捨てていることもわかっていた、知っていた、理解したくなかった!!
君がいなくなればわたしは壊れてしまうと思った、から、なんでも受けた
君の言うことすべてに首を振り、なんでも叶え、た
都合のいい女でしかなかった
けど、関係を終わらせたくなくてすがった
醜くて醜くて汚かった、わたしが
もう疲れても君に尽くすことが存在意義のような気がしてやめられなかった。まだ君を愛せていたんだと思う
わからなくなって、でも好きだと思い込んで
そして、そして、
終わった
・
「なんでさあ、ずっと見てるの」
唐突にかけられた声に僕は大袈裟に肩を震わせた。正直、心臓が飛び出たんじゃないかってくらい驚いた。
茜色染まる放課後の教室、なんてロマンチックなものではなく分厚い雲に空は覆われ薄暗くなんとなく不気味な雰囲気を放つ教室に一人でいたはず、なのに目の前には少しくせっけの長い髪を耳にかけながら僕の手元をのぞきこむ彼女の姿があった。
「へ、え、あの」
「佐藤くんっていつもわたしのこと見てるでしょ、なんで?あ、もしかしてブラ透けてたとか?そーいうの黙ってるのやめてよね!もう!」
「ち、違うよ!」
日誌を書くのに必死で彼女が目の前に立っていることに気づかないなんてなんて鈍感なんだ。それに、僕が彼女を見ている?そんなはずないのに。とんだ勘違いだ
「別に見てなんかいないよ…」
再び日誌に向き直り震える手でシャーペンを握り直すと彼女は変わらないトーンで口を開く。
「そーお?わたしが佐藤くん見てるときだいたい君もわたしのこと見てる気がしたんだけど、な」
勘違いかあ、なんてつぶやくと彼女はまたねと手を振って教室をあとにした。
「…え?」
・
飽きたからもういい
終日僕らは (11)
・何かが書きたくなった時とかに
・短編集 ジャンル様々
・綺麗な文章が書けるようになる為に
今日も夏だった。
蝉がうるさく鳴こうが麦わら帽子が風で靡こうが私は振り向かなかった。
夏が嫌いだった。
向日葵は今日も元気に伸びてこちらを見てる。いつか枯れるのに。
額に汗が滲み太陽からの視線が痛い。
ああ、明日も夏なんだろうな。
諦めるしか無かった。電車が通って風が吹けば白いお気に入りのワンピースが揺れた。
あの日見た波も白い雲も風も、簡単に忘れれるようなものじゃなかった。
「ポコポコッ」
夜中の一時、こんな時間にLINEしてくる人なんて君ぐらいしかいないだろう。
スマホ画面を見る。
“旅に出ようよ。”
ロック画面にはその一言だけが残されていた。
昔から君はこういう唐突な連絡を寄越す事が多かった。何の詳細も無く、ただしたいだけの欲求を私にぶつけるだけ。自由で自分の事だけしか考えられない君にしか出来ない事だった。
私は指紋認証でロックを解除しLINEを開く。
君とのトークをタップすれば以前の会話が繰り広げられ、君と海に行ったり山へ行ったり色んな事をした事がそこに記録としてあった。
旅ってなんだろう。抽象的なその要望は私には難しかった。
“旅ってどこへ?”
キーボードで打った後、送信を押して送った。
ドアが閉じたこの瞬間、ここは全てが抜け殻となった。
この家も、あのパーカーも、灰皿と煙草の空き箱、それと私の心。
ピーーーンと無音なはずなのに聞こえる音、いや無音だから聞こえるのか。
張り詰めた空気、彼を愛したあのダブルベッドも、このソファも
全部、私一人では大きすぎる。
彼の全てを愛していた。彼と過ごすあの日々が私の全てだった。
少し長い下睫毛に ほっぺのほくろ。唇を舐めるその癖にも飽きた日は無かった。
ここは彼の匂いが充満していて忘れれそうも無い。だからと言ってその匂いを忘れてしまうのも辛い。
私は彼の抜け殻に縋る女、そんなだけでも充分だと思えた。
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